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「蟲と獣のコンチェルト第7話(まぶらほ+GB)」

ラッフィン (2006-10-23 00:08)
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「教授、見つかりましたよ」
「ほう・・・これが・・・」
「こっちには何かの碑文がありますね」
「よし、それも撮っておくように」
「わかりました」

古代エジプトの遺跡の中で発掘作業をしている調査団。目の前には一体のミイラが横たわっている。その周りでは数十人の人が碑文を写したり、ミイラを調べたりと忙しそうである。

「これは我々だけでは厳しいですね」
「そうだな・・・ここは先輩に協力を仰ぐとしようか。君、そのミイラからサンプルをとってくれ」
「はい!わかりました」
「君は日本に国際郵便の手配を」
「わかりました」

この調査団のリーダーらしき日本人の指示でさらに忙しそうに動きがはやくなる。

「教授、これはどうやら病気の治療法を記したもののようです」
「病気?となるとこのミイラは生前に病気にかかっていたということか?」
「おそらく・・・もっと詳しく解読してみないとわかりませんが」
「そうか。では、引き続き解読を頼む」
「わかりました」


第七話「病魔?覚醒?さぁ大変!」


和樹は最近の昼休み事情が変わった。というのも前までは極力一人で食べるようにしていた。中庭にある木の下で。食べ終わるとそのままそこで昼寝に移行し、午後の授業までぐっすりと眠るのだ。クラスにいると陰謀に巻き込まれるための防衛策である。他人を信用しないクラスなので陰謀は教室内でしか練られない。そのために中庭まで来ることはなく、安心して昼食を食べられるのだ。葵学園は魔術師養成のエリート校であるため、魔法回数一桁という他に類を見ない人物の和樹は、有名で「裏口で入ったのでは?」とか「先生に取り入ったのだ」などと心ない中傷文句を言う輩が多数存在している。なので、誰も近づくことはなかった。最近までは・・・。

「ほら、和樹君弁当食べよ」
「ちょ・・・ちょっと、まだ弁当出してないから」
「早く早く〜、昼休み終っちゃうわよ」

矢夜とケイが和樹の腕をひっぱりせかす。窓際の一番前の席には4つの机が合わさり一つの島を形成している。そこには一人の女生徒が座って待っていた。

「和樹君・・・二人に腕を引かれて・・・」
『あら?興奮しちゃったの?』
『もう、和樹君のえっちぃ・・・』
『ちがっ・・・』
『そんなこといってここは素直よね〜』
『一杯可愛がってあげるね♪』
『あああああああああああああ』

「きゃぁああああああ♪♪♪」

一人体をクネクネさせているのはB組が誇る爆裂妄想特急こと、最近和樹と行動を共にするようになった元泥棒『パインリーフ』の結城松葉嬢である。松葉が行動を共にした当初はケイ、矢夜連合VS松葉で氷河期に突入したが、今ではすっかり仲良くなっている。
そんな松葉は女二人に腕を引かれている男という図に妄想してしまったようだ。

「「戻ってきなさい!!」」
「ひゃ!ひゃいぃいい!!」

矢夜、ケイの二人が両側から大声で怒鳴りようやく妄想終了。ただ、松葉の耳に大きなダメージがあったらしく、耳を押さえて蹲ってしまっているのはご愛嬌である。

「さ、昼食にしましょ」
「あの・・・」
「「「「ん?」」」」

早速食べようとしたところ声をかけられとまる4人。振り向いた先にいたのは、片野坂雪江、柴崎怜子、杜崎沙弓の3人だった。別名、B組の常識人3人衆。

「私達もご一緒してよろしいでしょうか?」

3人が声をかけた理由は一緒に弁当を食べようということだった。前までは各人別々に和樹と同様一人で食べていたのだが、矢夜、ケイ、松葉の3人が和樹と食べるようになったので安心して食べれる場所が出来たので一緒しようと思ったらしい。ちなみに彼女達が一人で食べていたのは和樹と同様の理由からである。まとも系の彼女達にはB組の変態集団はキツいのだ。

「いいよ。一緒に食べよう」
「和樹君がそういうなら反対する理由はないわね」
「「うんうん」」

彼女達の気持ちがわかる和樹には断る理由がないので即OKを出す。こうなると反対は出来ない矢夜達3人も了承したので、雪江達はそれぞれ机を持ってきてくっつける。こうして一つの大きな島が出来た。

「そういえば、式森君っていつも購買のパンなの?」
「そうだね。購買のパンだったり、コンビニで買ってきた弁当だったりだよ」
「自分で作ったりとかは?」
「恥ずかしながら料理は苦手でね。サバイバル料理なら出来るんだけど」
「サバイバルって・・・」

よく見ると和樹以外はみんな弁当を持ってきている。そんなことに今更気付いた和樹は少し恥ずかしそうだ。この後意外な提案をされることになるが、意外に思ったのは和樹だけだった。

「じゃ、私が作ってきてあげようか?」

矢夜がそういったのだ。

「え?でも、悪いよ・・・」
「いいのいいの。二人分だからって変わらないよ。むしろ、量が増えて作るのが楽になるし」
「そう?じゃお願いしようかな」
「うん♪」

こうして矢夜は和樹の弁当作成権をゲットしたのだった。確かに一人分の弁当を作るよりは楽かもしれない。料理は人数が少なくても分量を考えなくてはならないために難しくなるのだ。本とかに載っているのもほとんどが4人前だったりするし。
が、矢夜の発言に黙ってみていられない人物がいる。

「「ちょっと待った!!私も和樹君の弁当を作りたい!!」」

無論、ケイと松葉である。和樹に惹かれている二人がこんなおいしいアピールチャンスを逃すはずがない。

「私が作るから大丈夫だよ〜」
「あなた朝弱くなかった?私は朝強いから代わるわよ」
「私は小さいころから弁当を作ってきたから慣れてるから代わるよ」
「「「む〜!!」」」

3人ともがそれぞれ自己主張して和樹の弁当作製権をかけて睨み合う。こういったことに経験が全くない和樹としてはただオロオロするばかりだ。

「モテますね、式森君」

片野坂のツッコミが印象的だった。
結局は3人でローテーションで作ってくることに決まった。


放課後になると、和樹は保健室に赴く(ケイ、矢夜、松葉もついてくるのはもはやデフォ)。奪還屋の仕事がないかを聞きにいくためだ。これも前までは養護教諭の紅尉晴明から聞かされていたのだが、今は紹介屋である晴明の妹の紫乃が教育実習生として葵学園にきているので直接教えてもらっている。

「「「「失礼します」」」」
「こんにちわ、和樹君」
「あれ?晴明先生はいないんですか?」
「兄なら所用で出かけています」
「そうですか」

兄である晴明はいないらしい。和樹は仕事はあるか?と尋ねたが今日はないらしいので、先日の件について話をすることにした。

「矢夜ちゃん、ケイさん、結城さん、話があるんだけど」
「「「何?」」」

和樹が真剣な顔で3人に話しかける。その内、ケイは大事な用件だと悟り顔を引き締めるが、残りの二人は別の想いに耽っていた。

「(和樹君の話ってもしかして・・・)」


『実は、僕・・・転校することになったんだ』
『『『ええ!!』』』
『仕事の都合でヨーロッパにね。で、事情があって滞在先も連絡先も教えることは出来ないんだ。だから、君達とは2度と会えないかも知れないんだ』
『『『そんな!!』』』
『急で勝手なのはわかってる。許してくれとは言わない。軽蔑してくれて構わない』

台詞がなんとなく故・駿司に似ているのは先日の事件に居合わせたせいであろう。和樹の言葉にケイと松葉は崩れ落ち泣いている。矢夜も今にも崩れ落ちそうで、膝をガクガクさせて涙を浮かべていた。

『い・・・つ、出発する・・・の?』

問いかけの言葉も涙まじりだが、言葉は和樹にしっかりと届いている。顔を曇らせた和樹は搾り出すように言う。

『明朝・・・』
『速すぎるよ!!』
『ごめん・・・』
『謝っても駄目だよ!』
『ごめん・・・』

ついに耐え切れず泣き出してしまう矢夜。そんな矢夜に、ケイに、松葉に対して「ごめん・・・」としか言えない和樹。

『じゃ、みんな元気でね・・・さようなら!』

一筋の涙を流して和樹は走り去っていった。

『和樹く〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!』

後に残されたのは泣き崩れる女の子3人だけであった。


「話ってもしかして・・・」


『僕は・・・君達を愛している。付き合ってくれないか?』
『『『え?』』』
『3人に告白するなんて優柔不断で節操なしと思うかもしれないけど、僕は本気なんだ。本気で君達のことを愛している。』
『『『・・・・』』』
『僕と付き合ってくれないかな?』

和樹の突然の告白に3人は呆然とするだけであったが、意味を理解すると嬉しさがこみ上げてくる。自分が好意を抱いている人からの告白だ。嬉しくないはずがない。自分一人だけではないが、同じ人物を好きになった者同士だから仲良くできるだろう。クラスメートであるし。が、嬉しさに浸っているわけにはいかない。まだ返事を返していないのだから。和樹は真剣に自分達を見つめていた。その凛々しい顔に見惚れそうになるも、3人は和樹に返答をする。

『『『よ・・・喜んで♪』』』
『ありがとう。幸せにするよ』

そういった和樹の歯がキラーンと光る。気のせいか何割か美化されているように感じる。台詞も普段なら絶対言わないような台詞だ。そして、何故か10年の月日が流れていた。松葉は子供を寝かしつけていると自分を呼んでいる和樹に気付く。

『松葉〜!』
『しぃ〜。今ちょうど寝付いたところなんだよ』
『ご、ごめん』

松葉はそっと立ち上がり口に人差し指をつけて和樹に静かにと言う。和樹は速攻で謝ると寝ている愛娘の顔を覗き込んだ。

『可愛い寝顔だね。松葉そっくりだ』
『もう、おだてたって何もでないよ?ところであなた。ケイと矢夜は?』
『子供達と買い物に行ってるよ、さっき出たばっかだからしばらくは帰ってこないね』
『そう。それじゃ、お茶にしましょ』

二人は部屋を出てリビングに、松葉が入れたお茶を飲んで雑談をする。大学を卒業してすぐに和樹は3人にプロポーズをし、3人は了承した。両親達は反対するかと思っていたが、予想外に賛同してくれたのでトントン拍子で結婚話が進んだのだ。身内だけの式をして、晴れて夫婦になった。その翌年にケイと矢夜は長男と長女を出産。松葉だけ出来なかった。一時期それで焦ったこともあったが、昨年待望の式森家次女を出産した。今は幸せを存分にかみ締めている。

『幸せね・・・』
『どうしたの?』
『なんでもないわ。幸せを感じていただけ』
『それはよかった。僕の誓いは護られてるってことだね。これからも幸せにするよ』
『うん♪』

そして、二人の唇が重なる。


「いやぁああああああああああああ」
「きゃぁああああああああああああ♪」

矢夜と松葉は同時に悲鳴をあげる。しかし、意味は全然違う悲鳴だ。矢夜涙を流し、松葉は頬を手で覆いクネクネと体をクネらせている。和樹とケイは何事か?とただただ唖然としていたが、原因が二人の妄想だとわかり顔を見合わせ溜め息を吐くのだった。

「気を取り直して、話なんだけど」
「「「うんうん」」」
「チームを組もう」
「「「チーム?」」」
「そう、ここにいる4人で奪還屋チームを作るんだよ。前から考えていたんだ。一人じゃ出来ない仕事もできるようになるからね。仕事に幅ができるでしょ?」

これは松葉の事情を隠すための建前であろうが、つまり一緒に仕事をしようということであり、この誘いを断るという選択肢をここにいるメンバーは知らない。全員即座に了承した。
こうして、無敵の奪還チーム【Get Backers】 が誕生したのだった。

「あら?話は終りました?」
「はい」
「なら、諏訪園さんと千野さん。今日の訓練を始めますよ」
「「はい。じゃ、和樹君またね」」
「うん、いってらっしゃい」

紫乃に連れられケイと矢夜は部屋を出る。和樹も用は済んだので松葉と一緒に帰ることにした。和樹と二人っきりで帰れる松葉は笑顔が隠せない。

「(和樹君と二人っきり♪)」

「(公園に寄り道しちゃって告白されちゃったりなんかしちゃったり♪)」

「(そのままキスなんて♪)」

「(え?え?そんなことまで!)」

「(そんな外でなんて♪)」

「(でも、和樹君が望むなら・・・・きゃ♪私ってばぁ♪)」

得意の妄想も絶好調だ。しかし、誤算があった。あまりに好調だったために帰宅途中ずっと妄想世界に入っていたために何も話をしないまま寮についてしまったのだ。松葉はこのときのことを、人生で一番後悔したと後に語った。
以前にとある事情で男子寮と女子寮がくっついてしまったために和樹と松葉は帰るところも一緒である。二人が玄関をくぐるとそこには夕菜がいた。

「あれ?夕菜、どうしたの?こんなところで?」
「あ、和樹さんと結城さん。おかえりなさい。私宛に荷物がきてたんで鳥に着たんですよ」
「そっか。で、それが荷物?」
「はい、これからあけようと思ってたんです。和樹さん達も一緒にどうですか?」
「いいの?じゃ、ご一緒するよ」
「私も」

和樹と松葉は夕菜の部屋に移動する。部屋につくと早速夕菜は荷物を開けた。

「小瓶ですか?」
「・・・これだけ?」
「みたいだね」

荷物はクッションの役目に藁があり、小瓶がびっしりと入れてある。他には何もない。手紙すらもである。

「小瓶ばかりどうするんだろ?」
「手紙くらいは入れてあってもいいのに」
「(カポン)・・・何も入ってないですし、どうしたら・・・くしゅん!」

小瓶を覗き込んでいた夕菜は可愛らしいくしゃみをする。このときは3人とも何も感じなかった。後にこのくしゃみは警報だったことを知ることとなる。
しばらく3人は談笑をしていて、松葉がふと時計を見ると声をあげる。

「あ、もうこんな時間!」
「あれ?じゃ、食堂に行こうか。夕食が食べられなくなるし」
「はい。行きましょうか」

―翌日、夕菜の部屋―

時間は早朝4時。夕菜は寝苦しくなり目が覚めてしまった。

「う〜、気持ち悪いです。くちゅん!!体もだるいし・・・頭も・・・でも、休んだら和樹さんと学校へいけないし・・・がんばらないと・・・」

夕菜は不調の体を無理やり起こし、顔を洗いに洗面所に。冷たい水で顔を洗うとすっきりしたように感じる。
いつもと同じで和樹達と一緒に登校する。だが、頭痛とけだるさで会話に集中ができない。そんな夕菜の様子に和樹達が気づく。

「夕菜。具合悪いみたいだけど、大丈夫?」
「え?そんなことないですよ?私は今日も元気一杯ですよ」
「そうかしら?私から見ても具合悪そうよ」
「うん、顔色も悪いし・・・」
「無理しないほうがいいわ」
「またまた〜、私は大丈・・・夫・・・」
ドサッ・・・

「「「「夕菜(さん)!!」」」」

気を失って倒れてしまった夕菜を和樹が抱き上げ、急いで葵学園の保健室へ連れて行く。保健室につくとすぐに紅尉は診察してくれた。が、紅尉から言われた夕菜の病名はものすごいものであった。

「「「「魔力が急激に減少する病気?」」」」

その場のみんなの声がハモる。

「そうだ。世界でも症例が少なくてな。明確な治療法が確立されていない」
「治療法が確立されていない!!」

さらにこの病気を治療することができないと発言されればパニックにもなるだろう。病気が治せないならこのまま死ぬのを待つしかないのだから。

「じゃ・・・夕菜は?」
「何もしなければ死ぬ。・・・が、私も医者のはしくれだ。ただ手をこまねいているだけで終れない。実は宮間教授から宮間君宛の荷物が間違って私のところにきていてな。失礼かと思ったが手紙が入っていたので読ませてもらった」
「手紙が何か?」
「その手紙には『エジプトで発見されたミイラの魂とそこで見つけた病気の治療法の碑石の写真を送る』とあったのだ」
「病気の治療法があったんですか!!」
「まだわからんよ。”らしき”だからな。現在、その碑石を解析しているということだが、もう結果は出ているだろうな。今から連絡してみよう」

そういうと紅尉は目を閉じて何事が呟き始める。念話の魔法を使って宮間教授と連絡をとりあっているのだろう。とそこで保健室の扉が開き誰かが入ってきた。

「夕菜ちゃんが倒れたんですって?」
「夕菜さんが倒れたというのは本当ですか?」

夕菜が倒れたと聞いて様子を見に来た玖里子と凛だった。
そんな二人に和樹はさきほど紅尉がしてくれた説明を二人に話す。その話を聞いた二人もさきほどの和樹達と同じような反応をした。
和樹達の話が終ったところで、紅尉のほうも話がついたらしい。

「どうだったんですか?」
「すぐに解析結果を送ってくれるそうだ」
「どれくらいでつきます?」
「バグダット経由で飛行魔法を使用して上海から飛行機だから、1.2日でつくだろう」
「そうですか・・・」
「とりあえず、夜はここに泊まっていいように許可をもらうが、今は授業に出なさい。い。今は容態は安定しているから心配はない。何かあったら連絡する」
「でも・・・いえ、わかりました。よろしくお願いします」

反論しようとしたが、自分に出来ることはないと思い直し言われたとおりに授業に出ることにした。ただ、夕菜のことが気になり授業の内容は全く入ってこなかったが、それはみんなも同じであったようだ。
昼休みに一緒に食べている杜崎さんら3人から夕菜のことを聞かれたが、病気が病気なのであまり詳しいことはいえなかった。

「先生・・・夕菜の様子はどうですか?」
「ああ、魔力は少し減少しているが今は安定期のようだから大丈夫だ」
「宮間教授からは?」
「まだ、届いていない」
「そうですか」

放課後になり、和樹達は保健室にきている。夕菜の容態が気になっていたからだ。今は落ち着いていて寝ているだけのようでホッする。しかし、治療法がないのでは現状は変わらずただ見守るだけしかできないのは歯がゆかった。

カチカチカチ・・・・

深夜2時過ぎ、ケイや矢夜、松葉、玖里子、凛は寝てしまっている。起きているのは紅尉と紫乃、和樹の3人。紅尉兄妹はともかく和樹はベットに入ったのだが(保健室なのでベットには困らなかった)眠れずにいたのだ。

「あら?和樹君、眠れないのですか?」
「はい・・・心配し過ぎで目が覚めちゃって」
「宮間君もそんなに思ってもらえて幸せだろう」
「そんなんじゃないですよ。奪還屋の性ですかね?」
「君は優しすぎる。いつか痛い目に合うぞ・・・」
「わかってますが、治しようが無いですよ」
「まぁ、それが和樹君の良さでもあるんですが・・・」

眠っている夕菜を見ながらの静かな会話。こうして会話していると何故だか不安が和らぎ落ち着ける。つくづくこの兄妹は不思議だと確認した和樹だった。
ちなみに、紅尉の『思われてる』発言に寝ているはずの乙女達の表情が嫉妬に歪んだのは秘密である。

カチカチ・・・

さらに時が進み5時になっても、3人は起きていた。と、そのとき。

コンコン・・・

保健室の窓がノックされる。その音を聞いた紅尉がガタっと音を立てて窓に駆け寄る。窓を開けると一人の男性が箱を紅尉に差出し去っていく。紅尉は『ご苦労』と一言労うと箱を開けた。
中に入っていたのは手紙である。

「・・・・式森君。すぐに治療を開始しよう」
「じゃ、それは!」
「そうだ。この奇病の治療法だ!」
「わかりました!」

早速取り掛かろうとしたところ、ベットからケイ達が飛び出してきた。

「「「「「「治療法がわかったの!」」」」」
「ああ、これから行うところだ」

紅尉は届いた手紙を軽く見せる。それを覗き込む乙女達。

「ヒエログリフね」
「読めますか?玖里子さん」
「多少は読めるわよ。ただ、これは私の生半可な知識じゃ無理ね」
「訳も一緒に入ってたから、読むぞ。これは式森君の協力が必要不可欠だ」

紅尉に言葉に力いっぱい頷く和樹、玖里子達も真剣に聞く。だが、微妙な言い回しが多く大半は関係ないことばかり。これを要約すると。

「これは王家にだけ伝わる秘術で、強大な力を持った呪術師が病気を引き出し打ちのめすらしい」
「つまり、物理的ではなく魔法でってことね」
「その通りだ。これによると呪術師の強大な魔力で病気を中和するのだそうだが」
「そんな簡単だったら治療法があってもいいと思うのですが?」

凛の疑問に紅尉は顔を曇らせて言う。

「このような記述は少数だが見つかっているのだよ。ただ明確な治療法として伝わらなかったのは、呪文がわからなかったのと、その病気を中和できるほどの魔力を持っている魔術師がいないことにある」
「それほど強力な魔力が必要なのですか!?」
「ああ、なにせこれを治療した呪術師は魔力を使いきり例外なく死んでいる」
「「「「「「!!」」」」」」

絶句する和樹達。それはそうだろう。治療法といっても必ず誰かが死ぬのだから。

「でも、そんな強力な魔力を持っている人なんて・・・」
「それがここにいるのだよ」

紅尉が和樹のほうを向く。すると視線が和樹に集まり玖里子、凛、松葉は驚愕の表情を浮かべる。一方、矢夜とケイはワイバーン事件のときに和樹の魔法の威力を見ているので然程驚きはしなかった。

「式森先輩が・・・?」
「嘘でしょ!」
「そうなの・・・?」
「で、式森君はどうする?」
「答えは決まってるでしょう。やりますよ、呪文を見せてください」

紅尉はわかっていたのか何も言わずに呪文とタイミングの書いてある紙を和樹に渡す。発音しずらい細かな呪文だが、言えなくはない。即席でも充分唱えられるものだった。

「本当ならこんなことはやらせたくはないんだが・・・」
「すいません。それでも僕はやりますよ」
「君に言ったところで聞きはしないだろう。もう諦めているよ」

諦めのため息を吐く紅尉。だが、諦められない人もいる。

「「和樹君・・・」」
「やるのね?」
「うん・・・夕菜を放っておくことは出来ないよ」
「でも、和樹君が死んじゃうよ!」
「大丈夫だよ。僕は死なないから」
「でも!!」
「大丈夫」

『大丈夫』の一言で矢夜達の言葉を封じてしまう。
矢夜、松葉、ケイ、玖里子、凛も何も言わない。もう何を言っても無駄だと悟る。それほどまでに和樹の意思は固いのだ。だから、彼女達は祈る。和樹の生還を。

「和樹君!!」
「ん?」
「死んじゃ駄目だからね!!」
「ああ、死なないよ」

そういい、和樹は夕菜の傍らに立ち、その手を掴む。とそのときだ。

「む!いかん!!誰か宮間君を抑えてくれ!!」

意識が無いはずの夕菜の体が突然暴れ出す。すぐに5人の少女達が抑え、紅尉が鎮静剤を打つと静かになった。魔力計を見ると急激に魔力が減っている。早急に事にあたらねばならなくなった。

「式森君、次に発作が起こったら危険だ」
「はい、早速やります!」

夕菜の手を両手で包み、呪文を唱え始める和樹。繋いだ手から白く発光し、やがて光が夕菜の中に吸い込まれるというところで和樹は何かに吹き飛ばされる。

「ぐあ!・・・なんだ?」
「何あれ?」
「化け物?」

夕菜の体から蟲に似た化け物が出現したのだ。その化け物は吹き飛び座り込んでいる和樹に向かっていく。両腕が刃物のように鋭くなっていて人間の首なんて簡単に跳ね飛ばせるようになっていた。腕を振り上げ和樹に向かって振り下ろされる。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

「襲え!砂蛇の如く(ナジャ・マ・イ・ハーヴ)」

化け物は横から迫って来た鞭によって保健室の窓を割り外へと吹き飛んでいく。
鞭の正体は松葉の楼蘭舞踏鞭である。

「和樹君、こいつは私に任せて。宮間さんを!」
「わかった!頼むね。松葉さん!」

どさくさにまぎれて和樹は松葉のことを初めて名前で呼ぶ。それに気付いた松葉は嬉しさに集中力がいつも以上に高まった。

「あんただけにイイ格好はさせないわよ!」
「こういう化け物を退治するのは私の一族の仕事だ」

遅れてきたのはケイと凛だ。ケイは魔法で援護、凛は剣鎧護法を刀に纏わせ楼蘭舞踏鞭を構えている松葉に並ぶ。3人は散開し、化け物に仕掛けて言った。

「楼蘭舞踏鞭!襲え!砂蛇の如く(ナジャ・マ・イ・ハーヴ)」
「はぁあああああ!!」
「くらいなさい!」

右、中、左から一斉攻撃。さすがに対処できずに直撃するも、化け物を倒すには至らない。というか、化け物は無傷であり攻撃が効いていないようだ。

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

ブオン!!

「ふん」
「おっと」
「きゃ」

化け物が腕を振るうも大振りなためにひどく避けやすくなんなく避ける3人。隙も大きく、何度も攻撃を当てることができる。が、ダメージを受けている様子は全く見られない。防御力は高いようである。
それから、10分間、攻撃を避けては当て避けては当てるという攻防を繰り返す3人。化け物にダメージらしきものは与えられずスタミナだけが奪われていく。

「はぁああああああああ!!」
ガキィイ!!

グオオオオオオオオオオオオオオオ!!

「「「きゃぁああああ」」」

化け物が凛の剣戟を腕で受け止め振り払う。その先には松葉とケイがいて二人を巻き込んで倒れてしまった。

「イタタタ・・・」
「すいません」
「あんなの反則だよぉ」

化け物の鉄壁さに3人は打開策を見出せずにいる。が、まだこっちにも奥の手があった。松葉は立ち上がる。

「眠りの嫡羅よ。今こそ全ての生きとし生ける者に死にも等しき安らぎを・・・」
ゴオオオオオオオオオオ!!!
「きゃあああ」

嫡羅が力を発揮する前に迫って来た化け物の攻撃を避けなければならず、集中した力は霧散してしまう。これで、切り札が封じられた。化け物はあきらかに松葉に集中し始めたのだから。
そんな中、ケイは悩んでいた。

「(松葉や凛が闘っているのに・・・私には魔法以外、戦闘手段がない。紫乃先生に教えてもらっているのはまだ実戦で使えるものじゃないし・・・どうしたらいいの?)」

ケイは劣等感に苛まれている。凛は魔法と剣術を融合して戦っている。松葉は鞭と魔法、それと先ほどの嫡羅。それに比べて自分は魔法以外に何もないと。
これから和樹と共に歩んでいくつもりなのにこんなんじゃいけない!そんな想いが強かった。そして、今この強い想いがケイの眠れる力を引き出す。

ドクン!

「何これ?体が熱くなって・・・力が・・・」

突然、体が熱くたぎり、力が漲ってくる。そして、ケイは唐突に理解した。
両手で印を組み。呪文を紡ぐ。

「目覚めの嫡羅よ。すべての閉ざされし力を白日の下に解き放て!」
フオオオン!
「こ・・・これは!」
「ケイ・・・あなた!」

ケイが嫡羅を使ったのだ。それも、『目覚めの冬木』の力を。それに驚く松葉と単純に力が漲っていることに驚く凛。だが、今は化け物をなんとかするほうが先である。3人の中には『これでいける!』という思いがあった。事実、その通りになる。

「風鳥院流絃術『功の巻』第弐拾七番の弐『降雨の槍』より、『時雨』――!!」

紫乃に伝授された古流術を使うケイ。

「楼蘭舞踏鞭・・・呑み込め 洪水の如く(カジャ・ノ・ア・マーヤ)!!」

楼蘭王国唯一無二の武芸を使う松葉。

「これで終わりだ!!」

剣鎧護法を使う凛の突きが化け物を貫く。化け物はそのまま霧散して消えた。
3人の勝利である。
一方、和樹のほうは。

「くそ・・・邪魔された!もう一回だ!!」

もう一度挑戦しようとする和樹の腕を夕菜の腕が掴む。

「夕菜!」
「和樹さん、魔法を使っちゃ駄目です。ただでさえ少ない魔法を私なんかのために!」
「放っておけないんだよ。それに死ぬわけじゃない。大丈夫だから」
「駄目です!!」

大丈夫と夕菜の手を両手で包む和樹。だが、夕菜はその手を振り払うかのように暴れ出す。

「いかん!魔力がまた急激に減り始めた!はやくしないと!!」
「玖里子さん、矢夜ちゃん。夕菜を抑えて!!」
「「わかったわ」」
「駄目です和樹さん!放してください!和樹さんが魔法を使っちゃう!!」

両足と左手を二人がかりで抑えられて身動きがとれなくなる夕菜。和樹は夕菜の右手を両手で包み再び集中する。その間も絶えず『駄目です!』と叫ぶ夕菜。それでも、和樹はとまらない!
そして、魔法が発動する。夕菜の体から光彩が夕菜の体を覆い体が浮く。夕菜の体から淡い光の玉が浮かび空中でくるくるとまわり、和樹に向かってとんでくる。

「いいとも。さあ、こい!」

その光の玉を両手を広げて歓迎する和樹。

「させない!」

それを矢夜が阻止するために前に立つ。

「今こそ受け入れよ!次なる生のための意味ある死を!!」

その光の玉に死の嫡羅を叩き込んだ。
嫡羅を叩き込まれた光の玉はそのまま光を失い消えた。

「先生!夕菜は!!」
「魔力の減少がとまった・・・どうやら治ったようだね」
「よかった〜・・・」

夕菜の完治を聞き安心して床にへたり込む和樹。そんな和樹に肩を貸す矢夜。

「お疲れ様、和樹君」
「矢夜ちゃんこそ。お疲れ様、さっきはありがとう」
「エヘヘ」

二人は夕菜のべっとぶ歩みよる。先ほどまで浮いていた夕菜は現在、ベットの上で上半身を起こし和樹を睨んでいた。そんな夕菜に和樹は苦笑して話しかける。

「夕菜・・・体はどう?」
「和樹さん・・・魔法使わないでって・・・・でも、私のために・・・う、うわああああああん!!和樹さあああああああああああああああああん!!」

魔法を使ったことに対する怒りと自分のために使ってくれた感謝と嬉しさ、それと申し訳なさが複雑に絡み合い、和樹に抱きついて泣いてしまう夕菜。
その隣では、今日は譲ってあげるわと矢夜、夕菜が治ってホッしている紅尉兄妹と玖里子。さらには、化け物を倒してきたが、中の雰囲気が雰囲気なので入るには入れない凛、ケイ、松葉がいた。

「和樹さあああああああああああああん」
「よかったね。夕菜」

泣きじゃくる夕菜の頭を優しい笑みを浮かべ撫で付ける和樹の顔は、やり遂げた充実感に溢れていた。


「和樹君はあの状態だから・・・変わりにこの私(わたくし)紅尉紫乃が・・・コホン」

「宮間さんの健康の奪還。成功ですわ」

「まいどあり・・・ですわ」


あとがき

やっと書けた〜!!ラッフィンです。

こ〜ん〜か〜い〜は〜シ〜リ〜ア〜ス〜で〜し〜た〜。
うん、シリアスだ。たぶん・・・

さて、みなさまお久しぶりです。覚えている方こんばんみw初めての方、よろしくね〜♪ってことで。
最近、大学のレポートで夜更かしが多く、寝不足気味なんです。おかげで執筆時間も少なくなってしまい、時間かかりました。しかも、なかなか話が纏まらず。少ない時間なのに何も書けずに終ってしまったことも・・・。うぅ・・・ごめんなさ〜い。
ふがいない自分が情けない・・・。

さて、次回もシリアスになりそうです。では、次回にお会いしましょうw

いい夢、見れたかよ?


レス返しです。

D,様

強い雄に惹かれる牝。自然界の摂理ですよw(マテ

>実はクラスメイトの誰かかと思ったのに・・・・
金に汚いクラスの奴らが雇うわけがないと思いますw


覇邪丸様

私の中では卍一族のお気に入り度はかなりの上位ですから。これからもたびたび出すかもしれませんw
なにせ、経営多角化してますからね〜♪


黒冬様

卍一族の見せ場はそのやられっぷりですよw

今回はどうでしょうか?新しいキャラは出てませんが・・・


秋桜様

え?もう一本?なんのことでせう?(笑)
ちゃんとやってますよ〜wただ、あっちもシリアスなんですよね・・・ここでいっちょラブコメやギャグを!!!と思ってるんですけど。話の構成上無理ということで気分は萌えあがりません・・・。

女難に苦しみ、強い女がまわりにいる。これが和樹クオリティなんですよw

PS、私は現在、女ッ気がまったくないので見てくれる女性が一人もいないんです。

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