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▽レス始

「これが私の生きる道!新外伝10企業戦士カザマ編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-10-21 20:59)
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(コズミック・イラ8X、某月某日、アフリカ大
 陸某地)

 「何か大変な事になったよね」

 「お前が、あっけなく捕まるからだ!」

 「ガイも、その数秒後に捕まったじゃない」

 「お前を見捨てて逃げた事が、お前の嫁にバレ
  たら大変な事になるからだ!」

私ヨシヒロ・カザマは数年前に会社を設立し、そ
の生き残りと規模拡大のために、軍人時代に培っ
た人脈を生かして、積極的に世界中の営業に回っ
ていた。
だが、アフリカ共同体のあるメーカーとの商談に
成功し、ホテルで気持ちよく眠っていたところを
、謎の集団に同行していたムラクモ・ガイ常務と
共に拉致されてしまったのだ。
そんなわけで、俺達はどこかの地下室のようなと
ころに閉じ込められていた。

 「目隠しされていたから、どこかわからないし
  ね」

 「俺は元プロの傭兵だ。自分の脈拍数をもとに
  大体の距離を計っている」

 「でも、その手を誤魔化すために、あちこちを
  ウロウロとされていたらアウトだね」

 「うっ!」

 「元傭兵か・・・。ここ数年で鈍ったのと違う
  ?」

 「お前なんて、賊が乱入してきた時も熟睡して
  いたじゃないか」

 「もう戦場から10年以上も離れているんだよ
  。当たり前じゃないか。漫画じゃあるまいし
  、常に鍛錬なんてしてないよ」

2人で不毛な会話を続けていると、賊のリーダー
と思われる人物が数人の手下を連れて登場する。

 「ヨシヒロ・カザマとムラクモ・ガイだな?」

 「わかっていて拉致したんだろう?」

 「さすがは歴戦のエースだな。この状況で驚き
  もしない」

 「それで、あんたの名前は?目的は?」

 「俺の名前は、バルロ・ベイ。アフリカ解放戦
  線(象の牙)のリーダーだ」

 「ガイ、聞いた事あるか?」

 「初耳だ。きっとマイナーな、一部のマニアに
  愛される組織なんだろうな」

 「お前らな・・・」

ガイの容赦のない一言で、バルロの額に青筋が入
る。

 「俺達はこの地域の独立を果たすべく、日々活
  動している者だ。地球連合から新国際連合に
  名前を変えても、この地域の現状は未だ変わ
  らずに、人々は苦しい生活を送っている。そ
  こで、我々は独自の経済政策を行うべく、ア
  フリカ共同体からの独立を果たすのだ!」

 「主義者か・・・」

この手の人達の共通事項らしく、バルロは聞いて
もいない演説を始める。
アフリカでは珍しくもない手合いなのだ。

 「アフリカ共同体から抜けたら、もっと経済が
  悪化するけどね。最貧国が豊かになるには、
  時間が掛かるんだよ」

 「うるせえ!俺はお前達の意見など聞いてはい
  ない!お前達は俺達に利用されていれば良い
  んだ!」

 「利用ね・・・」

 「アフリカ共同体の連中に、交渉をするだけ無
  駄だからな。そこで、お前の嫁のラクス・ク
  ラインに直接話を付ける事にした。そこが俺
  達の他の組織とは違うクールなところだ」

 「ラクスに?彼女は公職に付いていないけど」

 「あの女の影響力は、そんなものに左右されな
  い。世界の騒乱の影にラクス・クラインあり
  。これが裏の世界の常識だ」

時が経つに従い、ラクスの存在は一部の者には魔
王に等しい存在に見られているようだ。

 「無謀の一言だな」

 「ガイ、そう言うなよ。もしかしたら、いける
  かもよ」

 「そんなムシの良い話があってたまるか。あの
  女に関わって無事に済んだ奴が1人でもいる
  か?」

 「・・・・・・・・・。可愛い俺の妻なのに・
  ・・」

 「そう思っている奴は、世界中でお前だけだ」

 「とにかく、交渉が終わるまで大人しくしてい
  て貰うからな!」

 「あのさ」

 「何だ?」

 「ご飯ちょうだい」

 「お前は心臓に毛が生えているのか?まあ良い
  。ペタ!食事を持って来い!」

バルロの命令で、1人の少年が2人分の食事を持
って現れる。

 「飯をやってから監視していろ。絶対に逃がす
  んじゃないぞ」

 「わかりました」

 「さて、交渉に行くとするか」

バルロは部下達と共に、地下室をあとにする。

 「食事をどうぞ」

 「君は若いんだね。いくつなんだ?」

 「12歳です」

 「何でこんな組織に?」

 「食うためです。僕は9人兄弟の次男なんで、
  家族に迷惑をかけられないのです」

 「そうか。君は勤労少年なんだな」

 「俺は傭兵だったからな。世界中でこんな話は
  珍しくも無かった」

 「じゃあ、バルロの主張通りにした方が良いの
  かね?」

 「そんな事をしたら、この国はもっと貧しくな
  る。奴は革命が成功すれば、生活がすぐに良
  くなるような言い方をしていたが、そんな事
  をしても、独裁者を1人増やすだけだ。世界
  経済との流れも切れてしまうしな」

 「おお!ガイは博識だな」

 「現状は苦しくても、少しずつ前進するしかな
  いんだ」

 「珍しく良い事を言うな」

 「あのな!気を悪くするぞ!」

 「すまんすまん」

俺とガイの掛け合いをペタ少年は、驚きの表情で
見つけていた。

 「君に夢はあるのかな?」

 「宇宙でエンジニアになりたいです」

 「いいね。夢があって」

 「でも、学校にも碌に行けない僕が、そんな事
  は無理なんですけどね・・・」

 「その内に、絶対にチャンスは巡ってくるさ。
  だから、元気を出せよ」

 「はい」

その後、カザマ製作所社長ヨシヒロ・カザマがア
フリカで謎の組織に拉致されるというニュースが
世界中を駆け巡ったが、既に過去の人物であった
ので最初は大きな扱いにはならなかった。
そして、俺達はつまらない監禁生活をこの少年と
の会話に費やすのであった。


(半日後、クライン邸内通信室) 

 「以上の要求を出させて貰う。返答は三日以内
  だ!返事に送れた場合の2人の命の保障はで
  きない。わかったかな?ラクス・クライン殿
  」

「象の牙」のリーダーであるバルロは多少の知恵
が回ったので、表立っての交渉は無駄だと考えて
いた。
普通の国家が、テロリストの要求を受け入れるわ
けがない事を知っていたからだ。
そこで、今まで公職には就いた事はないが、世界
中に多大な影響力を持つラクス・クラインと裏取
引をする事を目論んで、直接通信を送っていた。

 「はい。三日後ですね。バルロさん」

 「そういう事だ」

バルロは、ラクスのにこやかな笑顔に一瞬たじろ
ぎながらも冷静に返事をする。
既に三十代半ばを超えたはずの彼女は、まだ二十
代半ばくらいにしか見えず、その美しさは以前の
ままであった。

 「とにかく、なるべく速い返答を期待する」

 「ではごきげんよう」

 「お母さん、父さんはまだ帰って来ないの?」

ラクスが通信を終えると、今年で5歳になる次女
のサツキが心配そうにラクスを見上げていた。
彼女は、サクラとヨシヒサよりも十年以上も後に
生まれた娘で、顔はラクスよりも叔母であるレイ
ナにそっくりで、黒い髪を肩まで伸ばしていた。

 「サツキ、お父さんは、ちょっとお仕事が増え
  てしまったそうです。でも、もう少しで戻っ
  てきますからね」

 「よかったーーー」

 「お母さんは、ちょっと大切な用事があります
  から、お祖父ちゃんと遊んでいて下さいね」

 「うん。わかった」

サツキが通信室を出ると、ラクスは様々な場所に
通信を始めるのであった。


(同時刻、ザフト軍本部国防委員長執務室)

ラクスが最初に通信を入れたのは、既にザフト軍
を退役して父親の地盤を継いで議員になっていた
、ディアッカ・エルスマンであった。
しかも、彼は運よく国防委員長職に就いていた。

 「ディアッカさん、ニュースはご覧になられま
  したか?」

 「ええ。大変な事になってしまいました」

 「それで、戦力を出して欲しいのですが」

 「強硬策ですか?」

 「私も責任のある者として、テロリストの要求
  に屈するわけにはまいりません」

 「わかりました。イザークと相談して、派遣部
  隊の選定を始めます。でもアフリカですから
  、既にバルトフェルト司令が動いていますよ
  」

イザークは、ザフト軍最高司令官に就任していて
、2人はコンビで活動する事が多かった。

 「すぐに降ろせる部隊となると、あの部隊です
  ね」

 「ええっ!確かにちょうど地球軌道上に、(ミ
  ネルバ)と(ヴィーナス)と(マーキュリー
  )がいますが、あの部隊を降ろすほどの敵で
  はありませんよ」

 「そうですか。ヨシヒサとサクラの初陣になる
  んですね」

 「あの・・・。聞いていますか?ラクス様」

先年に発足された各国の特殊対応部隊は、戦乱の
収束と軍縮の影響でその規模を縮小させていた。
既に世界各国がそれなりの質の軍備を整える事に
成功していたので、ここ数年で出番が極端に減っ
ていて、ザフト軍でも通常部隊の任務と兼任とい
う事で、先の3隻が地球軌道上で訓練を繰り返す
日々を送っていた。

 「アスカ司令に降下して貰いましょう」

ラクスは「ミネルバ」と「ヴィーナス」と「マー
キュリー」を指揮しているシン・アスカをアフリ
カに降ろす事を決定する。

 「バルトフェルト司令に任せれば良いと思いま
  すけど・・・」

 「誰にでも初陣の時はありますから」

 「あの艦を降ろすとですね・・・。経費がです
  ね・・・」

 「お願いいたします」

 「わかりました・・・」

ディアッカはラクスに逆らいきれずに、部隊の降
下を了承してしまうのであった。


 「イザーク、シンを地球に降ろすぞ」

国防委員長の執務室を出たディアッカは、隣の最
高司令官室に直行していた。

 「たかだか小規模テロ組織に大げさじゃないの
  か?バルトフェルト司令の情報によると、モ
  ビルスーツ五機、兵力三百名の小規模な組織
  だそうだ。彼らに任せれば良いだろう」

 「だがな・・・」

 「だが、何だ?」

 「ラクス様の顔を見たらな・・・」

 「いつものように、笑っていたんじゃないのか
  ?」

 「あの黒いオーラが噴出していた。俺には逆ら
  う度胸がない」

 「そうか。シンをすぐに送らないとな」

ディアッカの話を聞いて、イザークはすぐにその
考えを改める。

 「バカな連中だ。1人残らず全滅だな」

 「だろうな。シンに指令を出しておくぞ」

「君子危うきに近寄らず」2人はこの十数年で学
んだ一番大切な事を実行していた。


(同時刻、カザマ製作所本社)

 「メイリンさん、会社の方は大丈夫ですか?」

次にラクスが通信を入れたのは、カザマ製作所の
社長室であり、そこでは人事部長のメイリンと総
務部長の風花が各種の対応に追われていた。

 「ラクス様ですか。実務の方は大丈夫なんです
  けど、社員の動揺が予想以上で・・・」

 「あの・・・。ガイは大丈夫なのでしょうか?
  」

二人目の子供を妊娠中の風花が、心配そうにラク
スに尋ねてくる。 

 「大丈夫ですよ。必ず2人を無事に助けて、あ
  の組織は壊滅させますから」

 「ラクス様、前者はともかく後者は特に必要は
  ・・・」

 「メイリンさん、何か仰いましたか?」

 「いいえ。別に・・・」

 「では、会社の事はお任せしますので」

ラクスはそれだけを言うと、通信を切ってしまっ
た。


 「社長も常務も無事に帰ってくるみたいね」

 「むしろ、相手に同情しますね。ラクス様を敵
  に回すなんて・・・」

 「無謀よね。さて、ちゃんと仕事をしないと」

 「そうですね」

2人はすぐに会話を打ち切って仕事に没頭し始め
た。


ラクスが各地に通信を入れて根回しをしていると
、今度は他所から通信が入ってくる。

 「あら、アスランではありませんか」

 「私だけじゃなくて、カガリもキラもいますよ
  」

スクリーンには、アスランの他にキラとカガリも
映し出されていた。

 「ラクス、大変な事になってしまったな」

 「ここのところ出張が多くてなかなか会えない
  のに、とんでもない事をしてくれる方々です
  わ。少しおしおきをして差し上げないと」

 「そうだな・・・」

カガリは、ラクスの笑顔混じりの発言に恐怖する

ラクスのおしおきとは、イコール壊滅を意味した
からだ。

 「えらく用意が周到らしいじゃないですか。シ
  ン達を降ろすそうで」

 「情報が早いですわね」

 「ええ、まあ」

実はこの情報はイザークからアスランにリークさ
れていたのだが、それはすなわちイザークでは止
められないから、アスランが止めてくれという事
らしい。
だが、アスランもそんな事はごめんであった。

 「ラクス、情報によると敵の勢力は物凄く小さ
  いんだけど、本当にそんな事をして大丈夫な
  の?」

 「はい。父親の救出にヨシヒサとサクラが奮闘
  するのです。これは美しき親子愛ですわ」

 「ふーん。そうなんだ」

キラは瞬時に察した。
このイベントは、様々な目的のために計画されて
いるのだと。
第一に、自分の旦那を拉致して夫婦の時間を奪っ
た連中への懲罰であり、第二に、自分達の後継者
であるサクラとヨシヒサの存在を世間にアピール
するためであった。
そして第三に廃止論が検討されている特殊対応部
隊の存在をアピールしてその存続に力を貸し、ザ
フト軍への影響力を維持する事を兼ねているらし
い。
ディアッカとイザークは予算面から、反対的なニ
ュアンスを匂わせていたのだが、彼らの下にいる
現場の軍人からは、支持を得る事ができるであろ
う。
歌手を引退して二十年近く経ち、世間の第一線か
ら退いているように見えて、ラクスはその影響力
を維持し続けていた。

 「つまり、アフリカ共同体軍とザフト軍アフリ
  カ駐留軍と(ミネルバ)と(ヴィーナス)と
  (マーキュリー)がテロ組織を包囲するわけ
  ですね」

 「はい」

アスランは相手のテロ組織に同情してしまう。
たかだか数百人の組織を数万人の軍勢が取り囲む
のだ。
火力比を入れると、戦力比は余裕で100対1を
超えるであろう。

 「(敵に同情するよ)」

 「(相手が悪かったな)」

 「(あえて目標にしたのなら、敵は策に溺れた
  のか真性のマゾだな・・・)」

三人で失礼な事を考えていると、ラクスが話を続
ける。

 「では、私はこれで失礼いたしますわ。ところ
  で、アスラン・・・」

 「ラクス、何ですか?」

 「また一段と額が・・・・・・。失礼します」

ラクスはそこまで言うと、通信を切ってしまった

 「待て!俺の額がどうんなんだ!最後まで言っ
  てから切れ!」

 「今のアスランには、その話は禁句なのに・・
  ・」

 「アスラン、気にするなよ」

 「ちくしょう!自分はフサフサだからって!」

その後態度が豹変したアスランは、十分以上にわ
たって通信が切れたスクリーンに向かって叫び続
けていた。


(同時刻、地球軌道上「ミネルバ」艦内)

 「シン、エルスマン国防委員長から特文だって
  」

 「何だろうね?」

 「あのニュースの件じゃないかしら?」

 「ヨシヒロさんも、民間人になったら無用心だ
  よな」

シンは「ミネルバ」と「ヴィーナス」と「マーキ
ュリー」を指揮下において、地球軌道上で訓練を
繰り返していた。
この三隻は元々はバラバラに配置されていたのだ
が、経費と指揮官の削減という理由で一つの部隊
に纏められて、シンが司令としてこの部隊を指揮
していた。
もし、彼らが必要となれば必要な隻数をシンが判
断して地球に降下させていたのだ。
ところが、ここ数年は内乱や紛争自体の減少に加
えて、昔は何でも特殊対応部隊頼みであった国で
さえ独自の組織を結成するに至って、なかなか出
番が回って来ずに、訓練に没頭する日々を送って
いた。

 「やったーーー!ルナ、三隻とも降下だってさ
  。みんな大喜びするぞ」

 「本当に?凄いじゃないの!ヨシヒロさんを拉
  致した組織ってよっぽどの大組織なのね」

 「それはないと思います」

 「そうなの?サクラ」

「ミネルバ」のブリッジ内でモビルスーツ部隊の
管制を行っているサクラ・カザマが、2人話に入
ってくる。
彼女は今年の9月にアカデミーの管制科を主席で
卒業して、「ミネルバ」の管制官に着任していた

十六歳の彼女は、往年のラクス・クラインにソッ
クリで、更にスタイルを良くさせた外見を誇って
いた。

 「アフリカには、もうそれほどの規模の反政府
  組織は存在しません。雨後の筍のように小さ
  い組織なら数え切れないほどありますが」

 「でも、そんな小さな組織のために三隻も降ろ
  すのか。エルスマン国防委員長も、日頃は予
  算がどうとか五月蝿いのにな」

 「お母さんに押し切られたと思います。お父さ
  ん絡みだから、お母さんは暴走していると思
  いますし・・・」

 「それしか考えられないか」

 「どちらにしても、久しぶりのモビルスーツ戦
  だ。腕が鳴るよな」

 「シンはここで指揮を執っていなさい!部下の
  手柄を取ってどうするのよ。それに、そのお
  腹じゃねえ・・・・・・」

 「悪かったな!」

 「動かないのに食べ過ぎなのよ・・・・・・」

三十歳を超えたシンは、管理職になって動かなく
なったくせに、食事の量を変えていなかったので
、かなり体重を増加させていた。

 「そういうルナだって、皺が増えたぞ!」

 「何ですって!」

 「このデブシンが!」

 「ババルナが!」

 「私、ミユキさんに命令を伝えてきますね」

 「あの2人は駄目だから、頼むよサクラ」

 「いつもの事だからね」

他のブリッジ要員に頼まれたサクラは、夫婦喧嘩
をしている2人を放置してブリーフィングルーム
に向かうのであった。


 「君、新しい看護科の子?俺の名前はヨシヒサ
  ・カザマって言うんだ。今度お茶でも。いや
  、今お茶を・・・」

 「また下手なナンパ?」

 「大きなお世話だ!」

 「姉に向かって失礼よ」

 「わずか数十分の事だろうが!」

 「でも、私は姉なのよ」

サクラがブリーフィングルームに入ると、自分の
弟が下手なナンパをしている光景に出くわした。

 「サクラ、何の用事なの?」

ブリーフィングルーム内で、赤服を着たミユキ・
クルーゼがサクラに話しかけてくる。  
彼女は父親と同じように、アカデミーのパイロッ
ト科を赤服を着て卒業していた。
黒いショートカットとスレンダーなスタイルでザ
フト軍の男性兵士達に圧倒的な人気を誇りつつも
、「ミネルバ」のモビルスーツ部隊を統率してい
る十九歳の才媛であった。

 「ミユキさん、ディアッカ小父様からの特文で
  、アフリカに降下するそうです」

 「カザマの小父様を救出するのね」

 「ついでに、敵も全滅させるつもりらしいです
  けど」

 「ああ。あの虎の尾を踏んでしまったおバカさ
  ん達ね」

 「でも、久しぶりの、私達が着任してからは初
  の実戦ですよね」

 「そうね。ヨシヒサ君は、あまりそういう事が
  気にならないみたいだけど・・・」

 「今度、美味しいケーキ屋でデートでも・・・
  」

2人の傍で、ヨシヒサはまだナンパを続行してい
た。

 「あれでも、赤服なんですよね・・・」

ヨシヒサは、アカデミーのパイロット科を3位と
いう優秀な成績で卒業して赤服を着ていた。

 「腕は良いのよ。父親に似て」

 「お父さんって、凄かったらしいですね」

 「私のパパも逸話に事欠かないわ。グリアノス
  の小父様、パパ、カザマの小父様、アイマン
  司令、ヴェステンフルス司令は生きる伝説と
  いったところね」

 「家では、お母さんに頭が上がらないですけど
  」

 「私のパパもそうよ。ひょっとしたら、エース
  の条件って・・・」

 「まさか。じゃあ、確かに伝えましたからね」

 「降りる準備はしておくわよ」

 「そうなんだ。奇遇だな。今度家に遊びに行く
  よ」

サクラはブリーフィングルームをあとにするのだ
が、ヨシヒサはまだナンパを続けていた。

 「ヨシヒサ君、実戦よ」

 「了解です!」

 「あら、意外と切り替えが早いのね」

 「ナンパは、時間潰しであります!」

 「だったら、話しかけるな!」

ヨシヒサは、ナンパしていた女の子におもいっき
りビンタされる。

 「バカね・・・」

 「俺はミユキさんの愛があれば・・・・・」

 「私、年下は嫌」

 「そんな・・・・・・」

後年、カザマ製作所の2代目社長になるヨシヒサ
は、まだナンパ好きの普通の少年であった。


 「なぜこれだけの規模の部隊を降下させるので
  す?」

プラント最高評議会議長であるギルバート・デュ
ランダルは、通信機のスクリーン越しにラクス・
クラインと会話をしていた。
かなりの長期政権を維持し、それなりの権力を持
っている自分ではあったが、目の前の女性は下手
をすると自分を超える権力を持っているので、そ
の話の内容は慎重にならざるを得なかった。

 「私の大事な旦那様を救出するためですわ」

 「他には?」

 「サクラとヨシヒサの初陣には、ちょうどよろ
  しいかと」

 「・・・・・・。(それって、公私混同だよな
  )」

デュランダル議長はそう思ったのだが、それを口
に出していうほど彼は迂闊ではなかった。

 「それに、最近の軍の影響力の低下が著しい状
  況を少し改善したいのです。剣は切れてこそ
  の剣です。あまり錆びるに任せると、万が一
  の時に機能しません。私は過剰な軍備は嫌で
  すが、必要最低限の物は必要と考えます」

 「わかりました・・・」

 「では、よしなに」

ラクスはそこまで言うと、通信を切ってしまう。

 「とは言っても、やっぱり公私混同なのだろう
  な。追加予算の申請を出しておこうかな。い
  や、予備費で何とかなるかな?」

ラクスとの通信が切れたスクリーンの前で、デュ
ランダル議長は一人苦悩していた。


(3日後、「象の牙」のアジト内)

 「そこに、方程式を入力してから・・・」

 「なるほど。そうだったんですか」

「象の牙」に拉致されてから3日、俺は面倒を見
てくれているペタ少年に開いている時間に勉強を
教えていた。

 「お前、そんな事もできたんだな」

 「教官もやっていたからな。ところで、ガイは
  何をしていたんだ?」

 「この組織の規模と戦力の把握だ」

 「それで、いかほどなの?」

 「兵力は五百名を超えないな。モビルスーツも
  十機もない。あとは戦闘車両が二十台もあれ
  ば良いところかな?」

 「それで、分離独立か。チャレンジャーだなあ
  」

俺とガイが話をしていると、リーダーのバルロが
血相を変えて飛び込んでくる。

 「おい!お前の嫁は何を考えているんだ!」

 「どういう事?」

 「外を見てみやがれ!」

 「無理だよ。監禁されてるから」

 「とにかく、外を見てみろ!」

数人の部下に銃を突きつけられながら外の景色を
見ると、360度が軍勢で埋まっていた。
更に上空には、三隻の「ミネルバ」級戦艦が遊弋
している。

 「駄目じゃん」

 「お前の嫁は鬼か!」

 「俺を殺したら、みんな骨の欠片も残らないね
  」

俺の一言で、バルロを除く全員が怯えたような声
を出す。

 「そうだな。陽電子砲でこのアジトごと吹き飛
  ばされるな」

 「そもそも、アジトの場所が良くない。バルト
  フェルト司令に一発で見つかったんだろうな
  」

 「それに、モビルスーツを見ると型が古すぎる
  な。今時(ジン)はないだろう」

 「俺は好きなんだけどね」

 「好み以前の問題だ。せめて、(センプウ)く
  らい手に入れて欲しかった」

 「そこは、ほら。貧乏って嫌ねえって感じ?」

 「ある意味ビンテージ物という事かな?」

 「せっかく、初期型の完品なのに惜しいな・・
  ・」

 「お前ら、この状況を理解しているのか?」

 「俺は哀れな人質だから」

 「右に同じだな」

 「お前らな!」

 「リーダー、ラクス・クラインから通信が入っ
  ています」

 「すぐに出る!」

バルロは部下の報告を受けてから通信室に入って
行くのだが、なぜか俺達も部下と共に同室させら
れていた。

 「バルロさん、ごきげんよう」

 「お前は旦那の命が惜しくないのか!?」

 「一番大切な物と考えておりますわ。ですから
  、色々と活動させていただきました」

ラクスの合図でスクリーンが二分され、片側には
衛星放送の録画画面が映されていた。

 「あの伝説のアイドル歌手であるラクス・クラ
  インさんのご主人が凶悪なテロリストに拉致
  されたそうです」

 「何でもその組織は(象の牙)と呼ばれるグル
  ープで、数万人の兵力と数百機のモビルスー
  ツを有し、アフリカ共同体政府打倒を主張す
  る凶悪なテロ組織のようです。更にリーダー
  のバルロ・ベイは残忍な男で、目的のために 
  は女子供でも皆殺しが常識との事で、カザマ
  さんの安否が心配されます」

男女のアナウンサーが、冷静にニュース原稿を読
みニュースを伝える。

 「そこで、奥様のラクスさんに独占インタビュ
  ーをしました。それでは、プラントのハック
  さん」

 「はい。私はクライン邸の前に来ています。そ
  れでは、我々CNNの独占インタビューの映
  像をご覧ください」

アナウンサーはレポーターに映像を回すと、レポ
ーターはクライン邸の前で実況を始め、すぐに映
像が切り替わった。

 「ラクスさん、ご主人が大変な事になりました
  ね」

 「はい。私は無力な存在です。ただ、主人が無
  事に帰ってくる事を祈っています」

 「何でも、ザフト軍が出動したそうですが・・
  ・。更に息子さんと娘さんがメンバーに加わ
  っているとかで・・・」

 「はい。確かに主人の命は何よりも大切ですが
  、世界の平和には変えられません。子供達が
  責任を持って任務を行い、主人が無事に帰っ
  てくる事をただ祈るのみです」

そこで映像が再び切り替わり、2人のアナウンサ
ーが映し出された。

 「引退して平穏な日々を送るラクスさんが不憫
  でなりません。凶悪なテロリストが、早く逮
  捕される事を祈るのみです」

 「以上でニュースを終わります」

そこで映像が元に戻り、スクリーンには笑顔を浮
かべるラクスのみが映し出されていた。
そして隣を見ると、口を開けたまま呆然としたバ
ルロの様子が映し出されていた。

 「バルロ君、君意外と大物じゃないか」

 「そうか。他に支部が沢山あるんだな」

 「そんなわけがあるか!」

 「バルロさん、可哀想な私に愛する夫を返して
  ください」

 「この悪魔がーーー!」

バルロはラクスの情報操作によって、巨大なテロ
組織の親玉という事にされて、この大部隊派遣の
正当性を補完する存在にされていた。

 「返してくれないと、総攻撃が始まって、みな
  さん骨も残りませんわ。私は人が死ぬのが嫌
  です」

 「俺も好きなものか!」

 「部下のみなさん。お命はどうかお大事にして
  ください。投降すれば、罪が軽くなるように
  取り計らいますわ」

ラクスのその一言で、全員が競うようにアジトを
抜け出して外の部隊に白旗を揚げ始める。

 「そんな・・・・・・。俺の夢が・・・。独立
  の希望が・・・」

 「バルロ君、世の中ってこんなものだよ」

 「お前の最大の失敗は、あの女を敵に回した事
  だ」

 「ははは・・・・・・」

 「元気だしなよ。罪を償えば、もう一花くらい
  咲かせられるよ」

 「その時は、あの女に関わるのは止めておけよ
  」

 「そうします・・・」

そこまで話したところで急に通信室の天井が崩れ
、上から一機のモビルスーツが覗き込んでいた。

 「あれって、(R−ゲイツ)だよね」

 「まだ試作機しかなかったはずだが・・・」

 「カザマ君、君のピンチだというから駆けつけ
  てみたのだが、奴ら戦闘もしないで降伏して
  しまった。実に味気ない事だな」

 「クルーゼ司令、また試作機で遊んでいたんで
  すか。ジローに怒られますよ」

 「勝手にフル装備にして、バリュートを付けて
  降下したんだ。大激怒だろうな」

 「わかっていてやるんですね」

 「最近、こういうイベントはなかなかないから
  な」

クルーゼ司令は、ザフト軍最高司令官を一年ほど
勤めたあと、ジローのいる新型機の実験部隊に転
属していた。
表面的な役職は名誉的なものではあったが、それ
なりの物が与えられていて、彼は毎日楽しそうに
色々なモビルスーツに搭乗しているようだ。

 「パパ!何でパパがここにいるのよ!」

更に天井が少し崩れ、そこから「R−シグー)が
数機確認できた。
多分、聞こえてくる声からして、クルーゼ司令の
娘であるミユキちゃんが乗っているのであろう。
「R−シグー」は、「R−ジン」の後継機で「R
−ジン掘廚泙妊弌璽献腑鵑出たあとで、二年前
から切り替えが始まっていた。
ザフト軍では、過去のモビルスーツに外見を似せ
た「リファインシリーズ」を次々に出していく方
針のようだ。

 「助っ人だ!」

 「いらないわよ!それよりも、その(R−ゲイ
  ツ)は機密の塊なのよ!勝手に外部に持ち出
  すな!」

 「大丈夫だ。まだこの程度の性能では、実用化
  は不可能だ。だから、誰が見ても・・・」

 「そういう問題じゃないでしょう!」

親子喧嘩をしている2人を放置して、一機の「R
−シグー」が壁を壊して接近してくる。
どうやら、ヨシヒサが搭乗している機体のようだ

 「父さん、生きてる?」

 「元気だよ。別に面白い事もなかった」

 「残念だね。美女との出会いは?」

 「汗臭い野郎しかいないさ。テロ組織なんだか
  ら」

 「お色気たっぷりの女テロリストとかは?」

 「お前は、くだらないドラマの見過ぎなんだよ
  」

 「父さんほどじゃないんだけど・・・。サクラ
  も心配していたよ。早く帰ろうよ」

 「そうだな。ところで、バルロ君は降伏する?
  」

 「もうとっくに気絶しているぞ」

 「何だ、気の弱い男だな」

ガイの指摘で隣を見ると、「象の牙」のリーダー
であるバルロは、何かの限界を超えたようで既に
気絶していた。

 「あの女に関わったのが、お前の不幸の始まり
  だったな・・・」

ガイは誰にも聞こえないように1人で呟いていた


(三日後、ビクトリア宇宙港)

 「ペタ君、しっかり勉強してね」

 「あの・・・。僕はテロリストの一味なんです
  けど・・・」

 「君、ただの飯番だったから免罪ね。でもさす
  がに国内にいるのはまずいから、オーブでち
  ゃんと学校に通うんだよ」

 「ありがとうございます!」

 「無事に卒業したら連絡ちょうだいね。うちの
  会社に入って貰うから」

 「はい。頑張って勉強します」

結局「象の牙」は一戦も交えないままで降伏して
しまい、リーダーのバルロを含む全員があっけな
く逮捕されてしまった。
俺達は既に商談を終えていたので、この地を去っ
ても良かったのだが、新しい仕事を見つけた事と
、まだ12歳で飯番くらいしかしていなかったペ
タ少年の処遇の決めるために色々と飛び回ってい
たのだ。
ペタ少年はオーブで学校に通わせる事に決定し、
先に宇宙にあがる俺達とお別れをしていた。

 「ちゃんと、ケープタウンに飛んで飛行機に乗
  ってオーブの空港に行くんだよ。そこで、俺
  の母さんが待っているから」

 「僕のためにわざわざすいません」

 「なあに、これも何かの縁さ。ちゃんと勉強し
  て立派なエンジニアになって、うちの会社を
  儲けさせてくれよ」

 「はい!頑張ります」

 「それにしても、あいつらのモビルスーツは儲
  けだったな」

 「言えてる」

 「リーダー達のモビルスーツがですか?」

 「アフリカ共同体軍もあまりに型が古過ぎるか
  らって、捨て値でこちらに売ってくれんたん
  だ。でも、世の中にはビンテージ物が好きな
  御仁が沢山いてね。初期の部品比率が高かっ
  たから、高値で売れる事になった。これも、
  ペタ君の手柄かな?君の学費と生活費は、そ
  の利益から出ているんだよ」

 「初めて知りました」

 「生き馬の目を抜く、商売の世界って事でね」

その後、俺達は無事にプラントに帰国し、家族と
の再会を果たしたのであった。 


        あとがき

数時間で書いた短いものです。

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