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▽レス始

「お兄ちゃんと一緒♪ 第二話(機動戦士ガンダムSEED・Destiny+ネタバレにつき未記入)」

春の七草 (2006-10-21 20:56)
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一、

 「父さん、これはチャンスだ。チャンスだよ父さん!」

 妙に高揚した声と共に、モミアゲの目立つ紫髪の青年が乱入してくる。

 「何の話だ、馬鹿息子」

 セイラン家の執務室に、ノックも無しに入室する礼儀知らずなどそう多くはない。ましてや、自らを父と呼ぶナマモノなど一人しかいない。
 不機嫌な獣のように唸り声を上げ、セイラン家当主ウナト・エマ・セイランは、自らの息子を睥睨した。


 オーブ解放戦線終結、その二日後の話である。
 五大氏族の頭目が軒並み自爆し、自爆しなかったものは宇宙に上がっている時期だ。
本来ならば支配者たる五大氏族が責任を持って当たるべき敗戦処理。彼らが全うしなかったそれらの責務はすべて、五大氏族“予備”中最大の勢力をもつセイラン家。その当主の肩にずしりと乗ることとなっていた。

 わがまま好き勝手に振舞おうとする占領軍、大西洋連合軍を何とか押し止め。
 これ幸いとコーディネイター撲滅に乗り出す、ブルーコスモス・オーブ支部の連中を弾圧し。
 国家元首が(!)爆破した国有企業とマスドライバーを、使い物になるよう再建する。

 ウナト・エマ・セイランは、殺人的なスケジュールを必死になってこなしていた。
ここ数日の睡眠不足とストレスが、ただでさえ悪い彼の目つきを更に悪くしている。元々悪役面であった老人の顔は、もはや子供が泣き叫びそうな様相を呈していた。

 そんな時期に、健康そのものの顔色と声音を持ち、くるくると乱入してきたのがユウナ・ロマ・セイランであった。ウナトの鍛えられた忍耐心を持ってしても、こみ上げる理不尽な怒りは抑えきれない。

 このクソ忙しい時期に、一体目前の青瓢箪は何を言いに来たのか。下らんことなら直々に叩きのめしてくれる。
 能天気に血色の良い顔色で進入してきた自らの息子を、そんな意思を込めて射竦める。

 だが、普段ならばその視線だけで萎縮し、すごすごと帰っていくこの意気地のない男が、今日に限っては自信満々であった。
 常ならば締まりのない上に覇気もない間抜けた顔が、意思と気力に満ち満ちている。

 「はっはっは。父さん、あなたともあろうものが、このチャンスに気づかないのかい?」

 何のつもりか芝居がかった仕草で前髪を掻き揚げ、ばさりと手に持つ新聞を広げる。
 二日前の戦闘で大量に出た、難民の窮状が記事とされていた。

 「これが、なんだというのだ?」

 難民への救援物資の放出は既に行われている。恒久的な、例えば焼け出された家や店舗の再建補助金に関してはまだ予算が組まれていないが、数日中には形骸化した閣議を通ることになっている。
 それで十分というわけではない。恐らく、平和の中でぬくぬくと育ってきたオーブ国民達は、貧困と飢餓の中で喘ぐ羽目となるだろう。
だが、そこまでは知ったことではない。ウナト・エマ・セイランの目的はセイラン家の繁栄であり、自分かその息子がオーブで位人身を極めることである。彼が現状で行うべきと己に任じることはモルゲンレーテ、マスドライバーの再建であり、それらの行動からロゴスや大西洋連合などの影響力を極力取り除くことである。断じて、一文にもならない慈善事業、難民救済などではないのだ。

 「難民救済については既に武装解除した我が軍が行っている。長期的な援助についても近日中に予算が組まれる。まさか、その程度もやっていないと思ったのか?」

 だとしたら、この馬鹿息子め。物理的に部屋から放り出してくれよう。
 極悪人面と化したその面相を更に歪め、がたりと椅子から立ち上がる。
 もっとも、そんな夜中でなくとも子供が泣き出しそうな顔をした父親を見ても、ユウナは何ら動揺しなかった。大迎な仕草で天を仰ぎ、わざとらしく嘆いてみせる。

 「父さん。そうじゃない、そうじゃないんだ。国営企業とマスドライバーの再建ついでに利権を漁るのもいいけど、セイラン家が自らの利益のために為すべきはそれだけじゃないはずだ」
 「どういうことだ?」
 「決まってるさ、父さん。やるべきことは決まってる」


 「“慈善事業”だよ」


 総領の甚六を絵に描いたような顔をにやりと歪め、ユウナ・ロマ・セイランはそうのたまった。


 「お兄ちゃんと一緒♪/第二話(ガンダムSEED・Destiny二次創作)」


 「僕達セイラン家には、金はある。なんたって、財務の氏族だからね」
 「金だけ、だがな」

 唐突に話を変えた息子に、合いの手を入れる。
 ユウナ・ロマ・セイランの雰囲気が、数日前とはまるで違う。この、別人のように自信に満ちた放蕩息子が何を考えているのか。ウナトは聞くだけ聞いてみるかと判断した。

 「でも、権力がない」
 「その通りだ」

 セイラン家は五大氏族に入ってはいない。先日五大氏族が軒並み自爆したこともあり、これから食い込むことは可能だろう。だがその権限は、国有企業を爆破しても誰も文句を言わないほどの独裁者、アスハに匹敵するようなものとはなりはしない。現在の混乱をついて高い地位を得ることは可能だが、結局それは政治力学によるパワーゲームの末に得られるものであり、自由に使える権力とはなりえないのだ。

 「何故か。答えは簡単、人気がないからだ」
 「……せめて人望と言い換えろ、人望と」

 何故だか不思議と人望のあるアスハ家や、問答無用の支配者オーラを纏ったサハク家とは違い、セイラン家は所詮凡人の集団である。それに加えて、何か崇高な理想のために邁進しているわけでもない。彼らは良くも悪くも、普通の封建的支配者層に過ぎないのだ。国民の支持など、得られるわけもない。

 「人望ね。政治家としては人気と同義だと思うんだけど。まあ、いいや。
ともかく、金あっても権力がない僕らとしては、なんとしてでも権力が欲しい。
そして権力を得るには二つの要素が必要だ。つまるところ、支配者層におけるパワーゲームに打ち勝ち、何らかの肩書きを得ること。そしてもう一つは、国民の支持、人望を得ることだ」
「まあ、間違いではなかろう」

 国民や軍部の支持だけでは、国を思い通りに動かす権力など得られない。確かに失脚させられる可能性は低くなるが、それだけである。支配者層で立ち回る力がないのなら、お飾りに堕すのみだ。
 逆に支配者層におけるパワーゲームのみでも好きには動けない。あちらの意見を聞き、こちらの顔を立てながら動く羽目となる。支持基盤がないので、無茶が利かなくなるのだ。
 自ら好き勝手に国を動かそうとすれば、どうしてもその両方が必要となる。

 「パワーゲームに打ち勝ち、何らかの肩書き、地位を得ることは、父さんなら可能だろうね。五大氏族が軒並み自爆した以上、現在最も力を持った氏族は僕達なんだから。
でも、人望は父さんのやり方じゃあ、絶対に得られない」
 「ほう」

 やっと本題に入ったか。そう思い、表面上はなんでもない風を装って続きを促す。セイランの跡取りは、自らの父親が興味を持ったことに気づいたのだろうか。彼もまた、ウナトの反応など気にもしない風情で話を続ける。

 「今、国民は困っている。国を焼かれ、住処を追われ、大抵のものはそれによって職も失った。今彼らは、不安なんだ」

 軍による救済は十分なものとはなりえない。如何せん、国土のほぼ全てが戦場となったのだ。領土の狭い島国たるオーブである。MSに揚陸を許した時点で、国土の焦土化は決まったようなものだ。安全なはずの、難民船が配備された港までに攻撃が飛び火したことが、状況を端的に表している。
大西洋連合によって徹底的に痛めつけられた軍に、難民すべての面倒を見るような余裕があるはずもない。

 「そして今、彼らが不思議なことに常に支持しているアスハ家はまともに機能できない。当主は自爆したし、お姫様は宇宙に高飛びしたからね。
本来なら当主が死んだ時点で、お姫様が国民の精神的支柱になるのだろうけれど。残念ながら説明もなしに宇宙に行った上に音沙汰なしだ。
そこで、だ。セイラン家が独自に、私財を投じて……いいかい、父さん。私財を、だ……国民を保護するんだ」
 「なるほどな」

 ウナトにも、息子が何を目論んでいるのかは理解できた。悪くはない方法だ。

 「国土を焼かれた国民たちを救うべく、私財を投じる氏族。なるほど、確かに国家予算による救済とは別格だな。例え投じた私財が国家からの救援よりもはるかに少ない金額であっても、国民は感謝し、我々を支持するだろう。少なくとも、空の彼方で何をやっているのか分からないアスハ家やサハク家とは違い、目に見えるものだからな。問題は物理的なものではなく、精神的なものということか」
 「その通り」

 ユウナが首肯する。

 「彼ら国民からの支持があれば、僕達の権力基盤はより磐石になる。救済に使う私財は、どさくさに紛れて潰れた五大氏族の利権を奪えば十分補充できる。例え失敗しても、大きな損失とはなりえない」
 「ふむ、いいだろう」

 ウナト・エマ・セイランは頷いた。

 「国民への義援金に関しては、お前に任せよう。幾らかかっても構わん。好きにやれ」
 「うん、任されたよ、父さん」

 そう言って意気揚々と出て行く息子の姿を、ウナトは満足そうに見送る。
ただの放蕩息子と思っていたが、思っていたよりは物事を考えているらしい。セイランの後継者としては甚だ不安な男だったが、あの様子ならもう少し期待してみるのも悪くない。

 しかし、数日前とは随分雰囲気が違ったな―――――

 そうも思う。ウナト・エマ・セイランの息子はあそこまで覇気や気力、意志力といったものに満ちた存在ではなかったはずなのだが。

 まあ、男子三日会わざれば刮目して見よと言うしな―――――

 身近で起こった戦争があの馬鹿息子を変えたのだろう。ウナトはそう判断し、仕事に戻った。
 その顔を極悪人に変えていた疲労とストレスは、いつの間にか消えていた。


 「不思議だよなぁ。なんだか一昨日あたりから、随分頭がすっきりしているんだけど」

 父親の喜びなど露知らず、ユウナは一人呟く。
 オーブが戦場になっていたときは、シェルターの机の下でがたがた震えていた。ひどく怖くて、頭などさっぱり動かなかった。
 ところが、戦闘の終盤あたりになってから、急に頭がきちんと動くようになったのだ。まるで、虹色の波紋が頭から消え去ったかのように。

 「なんかあったかな、そのあたりに?」

 頭の中をひっくり返してみるが、思い当たることはない。突然机の下から這い出し、鼻水も乾かぬまま冷静に状況を知ろうとする自分を、周りの取り巻きが不思議そうに見ていたくらいだ。

 「まあ、いいか」

 考えても結論は出そうにない。そう判断したユウナは、あっさりとその疑問をゴミ箱に放り、任せられた仕事に意識を移した。

 「オーブが潰れれば、セイラン家も潰れる。一蓮托生なんだから、頑張らないと」

 そう気合を入れ、部下に連絡を入れていく。その姿は、つい先日まで放蕩三昧を繰り返す馬鹿息子であったとはとても思えない、堂に入ったものだった。
 まるで。


それこそが、本来の姿であるかのように。


二、
 「痛っ……」

 脳に直接錐でも差し込まれたかのような痛みを感じ、マユ・アスカは目を覚ました。
 ばさりと肩にかかる髪を五月蠅げに掻き上げ、未だ続く頭痛に顔をしかめながら起き上がる。

 以前とは違う長い髪。
 昨日は手入れを怠っているにも拘らず、まったく傷みが見当たらないそれを見て、“ほのか”は自分が未だマユ・アスカであることを自覚した。

 (寝て、起きたからって元に戻っていたりはしないわけね)

 “風待ほのか”は多少は抱いていた期待……目が覚めれば全てが夢であった可能性……を見事に裏切られたことに自嘲する。
苦々しい味を示したのは、自らの楽観的希望か。それともこの理不尽な現状か。人に問われれば、彼女は前者だと断言しただろう。無論、彼女は実際に後者をまったく抱かないような強さは持っていない。だが、それを他者にさらけ出す程には、彼女の意地は安くなかった。

 カーテンを開けてみれば、未だ暗いままだった。時計を見れば午前五時三十分。赤道直下のこの国では、日の出にはまだ一時間ほどある。
 横を見れば、未だ寝息を立てている少年がいた。来客用の丸椅子に腰掛け、少女のいるベッドにもたれかかるように眠っている。マユ・アスカの兄、シン・アスカだ。

 (難民用の一時的居住区もあるんだし、そっちで寝てればいいのに)

 マユは苦笑する。
彼が妹の隣にいて、できる事など何も無い。
保護者も無く、たった二人きりで子供が生きていかなければならない現状。そんな余裕の無い状況であるのだから、きちんとした場所で寝て、体力の回復効率を高めておく方が“正解”である。
だが昼間、彼女の治療のための手続きをすべく駆けずり回り、慣れない書類処理に疲労困憊しながらも平気な顔を見せていた少年に、少女はそう諭すことができなかった。

 「マユが心配だし、こっちで寝るよ」

 疲れていない風を装いそう主張する“お兄ちゃん”に、“風待ほのか”は暫しの逡巡の後、首肯を持って提案を受け入れた。
明らかにこちらを被保護者と見、負担を自分だけで背負う。そういったシンの態度は、彼女にとって不快なものだった。だが、幼いなりに必死に気を張り、稚拙ながらも妹を安心させようとする彼を見てまで、“風待ほのか”は彼の意思を翻させる気にはなれなかった。

 ま、あまり無理をするようだったら、その時は止めよう―――――

椅子に座り込むなり寝息を立て始めたシンを見ながら、昨晩の彼女はそう判断したのだった。


 「さて」

 マユ・アスカは低血圧などという属性は持ち合わせていないらしい。本来なら二度寝の誘惑に抗うかどうか悩むべき状況でありながら、シンを起こさないよう注意しながら、あっさりと彼女はベッドから降りた。“こちら側”に来たときはまともに歩くことさえできない彼女だったが、今ではそれらの怪我はほぼ完治している。

 (火傷は引きつる程度。打撲は大体治った。骨折は、全部完治。誤爆されてからたったの三日で……コズミック・イラ世界の医学って、どうなってるのよ)

 例えば骨折は、通常四〜十二週間をもって治癒する。マユ・アスカは幼い子供であるから、もう少し早く治るのだが。だとしても三日で治るのは、少なくとも“風待ほのか”の知る医療常識からすれば異常である。

 (まあ、どう考えても助からないようなシチュエーションでも、ほいほい人間が生き返る世界だしね。アスランとかメイリンとか。普通に考えると溺死してから数時間たってるはずなのに復活したし)

 そう考え、自らを納得させる。治療を担当した医師が彼女のレントゲン写真を見て、しきりに首を捻っていたことは考えないようにした。自分が異常であると考えるよりは、この時代の医療技術に驚嘆しておいた方が精神衛生上良いのは間違いないのだから。

 外に出ようとノブに手をかけ、ふと何かを忘れているような気がする。喉に小骨が刺さったかのような違和感。
 何だったかともう片方の手を顎にやろうとして、それがないことに気づく。

 「あ、義手か」

 昨日、取り付け手術を行ったのだ。局部麻酔のみの、実にあっさりとした接続部分の埋め込み。驚愕すべき技術の顕現たるそれが、オーブ国民としての保険で賄えると聞いてほっとした覚えがある。


 四肢がなくなったからといって、感覚までなくなってしまうわけではない。脳が失った四肢の感覚処理領域をきちんと削除する可能性は、随分と低いのだ。

 無くなったはずの拳が握られたままで、爪が掌に食い込んで痛い―――――

 そんなあるはずのない痛み……幻痛……を抱えてしまうこともままある。その痛みは一生続く可能性さえあるのだ。

 幸い、マユはそのような目に会うことはなかった。失った右手は自然に開かれたまま吹き飛ばされており、幻痛を伴うような損傷は、少なくともきちんと身体にくっついていた間には無かったらしい。

義手をはずしていてさえ、右腕が“ある”と認識してしまう―――――

その程度の障害しか、彼女には残らなかった。


 病室の棚に置いてあった右腕を取り出し、幾つかの機器が埋め込まれた切断面に取り付けた。ぱちりと火花が飛ぶような感覚。それだけであっさりと、接続機器を通して、義手はマユの身体の一部となった。
 ゆっくりと手を握り、また開く。レスポンスは、良いとはいえない。無意識に動かせるようなものではないし、何より意識してから動くまでに、明確にタイムラグがある。おまけに、サイズがやや大きい。
 人間の腕を高度に再現したものでありながら、接続面で明らかにサイズが違う。なまじ造り物と見えないだけに、その義手はひどく不気味に見えた。

 (ま、量産品なんだから仕方がないんだけど)

 医師によると、現時点できちんとしたオーダーメイドのものを作るのは得策でないとのこと。

 (そりゃそうよね。マユ・アスカは十三歳で成長期。今ぴったり大きさのものを作っても、下手すれば数週間でサイズが合わなくなるわけだし)

 身長の伸びが止まり、きちんと身体が完成してからでないと、外見上違和感の無い義手は取り付けられないということだ。

 (まあ、お金をためられるような状況になったら、もう少しマシな義手を購入することも考えなきゃね)

 年齢の割に小柄な彼女の腕に、成人女性の右腕がついているような状態である。性能云々以前に見た目からして、マユ・アスカはそれを受け入れがたかった。

 「お金がたまったら、か。遠い目標よね」

 一人呟く。
 義手は、高価である。接続側の神経系と義手の電子回路をつなぐ技術は、ひどく精妙なものなのだ。そのほかの部分も、精密機械でありながらある程度の耐久性を求められているため、維持費でさえ決して安くは無い。

 『だ、大丈夫。心配しなくても、それぐらいすぐ稼ぐから』

 値段表に記された零の多さに引きつりつつも、シンはそう無理矢理請合った。取り敢えず、それが自分に稼げる額か否かの判断はついているのだろう。そうでなければいつもの通り笑顔で頷いていただろうし。

 ふと、マユはシンへと振り返る。相変わらず彼は目を覚まさず、ベッドに突っ伏したままだ。伸ばされたままの右腕が、時折何かを探るように動く。妹の手でも、握ろうとしているのか。
 シンがそれを理解しているかどうかはさておいて。妹のことが心配だということと同時に、彼自身、一人孤独に寝るのは嫌だったのだろう。どんなに頼りになる風を装おうとも、彼は三日前に両親を失った、さして大人びてもいない少年に過ぎないのだから。
 その仕草にくすりと笑って、マユは自らの兄に歩み寄る。まだ眠っていることを確認してから、一人言葉を紡いだ。

 「あんたはよく頑張ってるよ。それに一応考えてもいる。出来るだけ助けるから、“原作”みたいなお馬鹿にはならないでね。頼りにしてるよ?“お兄ちゃん”」

 そのまま部屋を出ようとして。
少し思い直して、彼女はシンの毛布をかけなおした。眠る少年の顔はあどけなく、ひどく幼かった。

 「ま、被保護者であり続ける気も無いんだけど」

 マユ・アスカがどうであれ、“風待ほのか”は十八歳である。流石に年下の少年の保護下に入る気は無かった。


 今度こそ、部屋を出る。向かう先は、赤道連合の難民センターだ。
妹の治療にばかり目がいき、シンはこの先何処で暮らすのか。そのことについてさえ、すっかり考えるのを忘れている。

 (ともかく、地球にいちゃ危ないんだってことを“お兄ちゃん”に話さないとね)

 何処に行くべきか、それに必要な手続きは。そこに行く交通手段は。或いはそれに、幾らかかるのか。
 動けるようになった以上、行うべき行動は多々あるのだ。
 マユ・アスカは後ろ手に扉を閉じ、病室から外に出て行った。

 <続く>


<あとがき>
 こんばんは。春の七草です。お兄ちゃんと一緒♪/第二話、投稿させて頂きました。
 取り敢えず、セイランの人気取り、それからマユとシンの関係のお話です。何故かいまだに赤道連合にいる兄妹ですが。次回こそはプラントにいける……はずです。

 感想ありがとうございます。と、いうわけで、以下は“レス返し”です。

 ○かのん様
 出だしのアレは、後々明かされる、予定です。色々と怪しげな設定のある種&種運命ですが、その設定が生かされることはあんまりありません。大体の話、羽鯨はどうなったのでしょうか?或いはSEEDを持つものとは?
そこら辺について勝手に補完すると……あんな風になりました。
 期待を裏切らぬよう頑張ります。

 ○ゴンベエ様
 >ギャグじゃない憑依モノの主人公最強主義はオナニー作品に成り下がってしまう

 同感です。私も最強主義は好きではないので、そういった方向にならないよう留意したいと思います。
 なるべくシリアスな路線で行きたいなと考えていますが、ある程度はギャグがないと話が冷たくなるような気もします。色々考えつつ、頑張ろうと思います。

 ○レンジ様
 どうもです。期待に沿えるような面白いものを書けるよう精進していく所存です。出来るかどうかは別にして。
 マユがガンダムには……どうでしょう?取り敢えず、そこら辺はまだ悩んでいます。個人的には、ファンネル搭載機は嫌だなぁとか考えているのですが。

 ○X様
 ブラコン化……しそうですね。ただ、このお話では明らかにシンよりもマユの方がしっかりしていますから。マユのほうが熱を上げにくいという問題があるんですよね。
 因みに、私もキラよりシンのほうが好きです。彼はなんといっても、戦闘中に頭を使いますので(笑)。実生活であの十パーセントでも頭を使っていれば……(苦笑)。

 ○ATK51様
 >運命はともかく他のアニメには詳しそうで

 一応、後々やろうと思っていることに対する伏線です。今回は、特にアニメネタが無かったりするのですが。
 冒頭のアレは、気になっていた原作設定の補完のために書きました。後々、意味を持ってくる……筈です。
 原作のシンはあんまりな奴にされていたので……。あんな無体な暴走は、マユが物理的手段に訴えてでも止めると思います。

 ○九龍様
 どうもです。“欠損”と聞くと猟奇的十八禁小説を思い浮かべる末期的な作者です。いえ、別にそういうジャンルが好きなわけではないのですが(汗)。ともあれ、読者の皆様を驚かせられるような展開を示していきたいと思います。

 >ガミラスの反射衛星砲って……何でその歳でそんなモン知ってんのさ?(汗)

 ほんと、不思議ですよね(笑)
 きっと、あのTVバージョンのダイジェスト版みたいな映画を見たのでしょう。年齢的に不自然ですが、レンタルビデオ屋にあるので不可能ではないはずです(笑)。……女の子がそんなものを見るのかどうかは知りませんが(苦笑)。
 余談ですが、私もビデオ屋で借りてきた映画版しか知りません。


 “レス返し”は以上です。次回も、よろしくお願いします。

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