インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「退屈シンドローム 第15話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2006-10-18 20:55/2006-10-18 21:00)
BACK< >NEXT

 休日に二度寝もせずに朝早くから出かけるなど、休日に対する冒涜だ。

 とか思って二度寝したら、うっかり寝過ごして駅前までダッシュで向かう羽目に現在進行形で陥ってしまった僕は真性のアホだと我ながら思う。

 北口駅はこの市内の中心部に位置する私鉄のターミナルジャンクションという事もあって、休みになると暇な若者達でごった返す。その殆どは市内からもっと大きな都市部に出て行くお出かけ組で、駅周辺には大きなデパート以外に遊ぶ所など無い。轟音を立てながら走り去る列車を見送る度に、あの車両の一つ一つの中に毎回色々な人生がお中元のギフトセットの如く詰め込まれているんだろうなぁと考えさせられる。そしてその一人一人分の人生もまた、似通ってはいても全く同じものは一つも存在しないのだから奥が深い。

 階段を二段飛ばしで駆け下りて北側の改札出口に僕が到着したのが九時十五分。当たり前だが既に全員が雁首を揃えていた。

「遅い! 極刑!!」

 顔を合わせるやハルヒが怒号した。

「一番最後に来ただけじゃなく、よりにもよって遅刻するなんて! あんた、まさか寝坊したんじゃないでしょうね?」

「ちゃんと起きはしたよ。もう一度寝ただけで」

 場を和ませようと屁理屈を言ってみたら、問答無用で殴られた。暴力はいけない事だと思います。

「あんたの処遇は後で考えるとして、罰として取り敢えず全員にお茶をおごりなさい。それと今思いついたんだけど、今度から遅刻の有無に拘らず一番最後に来た奴は罰金ね。勿論遅刻した奴は追加でペナルティが課される事になるから、全員肝に銘じておきなさい」

 一発殴ってスッキリしたのか、ハルヒは晴れやかな笑顔でそう宣言した。ロゴTシャツとニー丈デニムスカート姿というカジュアルな格好で両手に腰を当てているハルヒは、教室で仏頂面している時に比べれば遥かに取っ付き易い雰囲気だった。その付加効果か、僕はハルヒの思いついた新しいルールに別にこれといった不満や反感も思いつかず、今回の出費も自業自得という事ですんなりと納得出来た。

 そう言う訳で、取り敢えず今日の予定を決めましょうと言うハルヒの言葉に従い僕達は近くの喫茶店へと場所を移したのだった。

 ちなみに他の面子の今日の私服だが、朝比奈先輩は白いノースリーブワンピースに水色のカーディガンを羽織り、髪は後ろでバレッタで纏めている。その姿はいいとこの小さいお嬢さんが背伸びして大人っぽい格好をしているようで、微笑ましいと思うと同時に年齢を誤魔化してもバレそうにないから羨ましいと本気で思った。間違っても高校生には見えない。

 キョンは黒のTシャツの上にグレーのジャケット、下はジーンズとスニーカーという出立ち。いかにも外行き用の服を適当に選んで着て来たという感じの服装だが、キョンはファッションにはあまり頓着しない性分なのだろうか。

 古泉はピンクのワイシャツにブラウンのジャケットスーツ、臙脂色のネクタイまで締めているというカッチリしたスタイルでキョンの横に並んでいる。見ているこっちが疲れてくる程に隙の無い格好だが、それを普通に着こなす古泉は徒者ではないと改めて思う。

 最後に殿を務めるように一同の最後尾を無言で歩く長門だが、何故かいつものセーラー服姿だった。一応部活の集まりだからと言う理由で敢えて着て来たのか、それとも他の服を保っていないのか。微妙に気になるが失礼だから聞くのはやめておく事にする。

 え、僕? 黄色いジャケットにジーンズを合わせた、まぁ大して味気も面白みも無い格好だけど何か?

 ロータリーの面した喫茶店の奥まった席を二つ分独占して、僕達は腰を下ろした。注文を取りに来たウェイターに各々オーダーを言うものの、長門だけが中々決まらない。メニューをためつすがめつしながら、一見ただのカップ麺にしか見えない未来製新感覚バーチャルゲームなら一カップ丸々遊べる位の時間を掛けて、

「アプリコット」

 と告げる。そんなに真剣に悩むような品揃えでもないだろうに。


 ハルヒの提案はこうだった。

 これから二人ずつの三ペアに分かれて市内をうろつく。不思議な現象を発見したら携帯電話で連絡を取り合いつつ状況を継続する。後に落ち合って反省点と今後に向けての展望を語り合う。

 まぁ、それが妥当な所だろうね。

「という訳で、全員ケータイを出しなさい」

 と言うハルヒの号令の下で、僕達は注文した飲み物が来るまでの待ち時間にそれぞれの携帯電話に全員分の番号の登録を済ませる事になった。一々番号を教え合わずに携帯電話本体を回し合って直接自分の番号を登録すると言うやり方を思いついたのはハルヒだが、これは中々合理的な手段だと僕も思う。自分の番号ならば誰でも覚えてるだろうからね。ハルヒは文明の利器の使い方をよく心得てると思うよ。

「ラメ入りのメタリックブルー? ……あんたって意外と趣味悪いのね」

 僕の携帯電話を手に取った瞬間、ハルヒは呆れたように苦言を漏らした。煩いな、青いのがそれしか無かったんだよ。

「あの、キョンくん。何か電話帳が真っ白になっちゃったんですけど……?」

「……はい? ちょっと見せて下さい、朝比奈さん。って本当に全部消えてるぞ!?」

「はぅぅ、キョンくんごめんなさい……」

「あ、いえ悪いのは朝比奈さんではなく寧ろ簡単にデータが消えてしまった俺のケータイの方がいけないんです」

 ……何やらキョン達の方では地獄絵図が展開されているが、飛び火されたくないから取り敢えず無視しておく事にする。人生とは非情なものなのさ。

 そんな感じで和気藹々と電話番号の交換を行なっていた僕達だった訳だが、当初名案と思われていたハルヒ発案の流れ作業が機種の違いという壁にぶつかってしまい、作業は意外にも難航していた。基本的な操作は同じなのだが、メーカーの違いによる細かな部分に差異があって思うように操れない。操作方法くらい統一規格にして欲しいとこの時程思った事は無いね。結局全員分の飲み物が揃っても未だ作業は終わらず、全員が入力を終わった時には僕の指先は疲労困憊だった。

 余談だが朝比奈先輩のミスによるキョンの登録番号消失事件だが、長門がデータをサルベージした事によって何とか事無きを得たらしい。流石自称人型パソコン、機械の扱いはお手の物と言う事か。

「じゃあクジ引きね」

 五人分の携帯電話を弄った疲れなど微塵も見せない様子でハルヒは卓上の容器から持参爪楊枝を六本取り出し、持参したらしい三色ボールペンで二本ずつ色を変えながら印をつけて握り込んだ。頭が飛び出た爪楊枝を僕達に引かせる。

 結果としてはキョンと朝比奈先輩が黒い印、古泉と長門は赤い印、そして僕は無印で、ハルヒの手の中に残った爪楊枝にも印は無い。見事に男女に分かれたな。

「ふむ、この組み合わせね……」

 ハルヒは厳かな顔で全員の顔を見回し、

「全員解ってるとは思うけど、デートじゃないんだから真面目にやりなさいよ。特にキョン、良い?」

 と、朝比奈先輩とペアになったからか顔がにやついているキョンを指差しながら念を押した。

「具体的に何を探せば良いんでしょうか?」

 能天気な顔で古泉が尋ねた。その横では長門が機械的にカップを口に運んでいる。

 ハルヒは音を立てながらアイスコーヒーの最後の一滴を飲み干して、耳にかかる髪を鬱陶しそうに払った。

「兎に角不思議なもの、疑問に思える事、謎っぽい人間。そうね、時空が歪んでる場所とか、地球人のフリしたエイリアンとか、」

 後者の場合気付かないフリをして何気なさを装いながらゆっくりと戦略的撤退を図り、前者の場合は有無を言わずダッシュで逃げる事を推奨するね。

「ーーこいつみたいなのを発見出来たら上出来ね」

 そう言って最後にハルヒが指差したのは、もう良い加減慣れてきたが僕だった。もう何も言うまい、

「成る程、要するに宇宙人とか未来人とか超能力者本人や、彼等が地上に残した痕跡等を探せば良いのですね。良く解りました」

 僕みたいな奴の件は取り敢えず無視して、古泉は愉快そうな顔で頷いた。その如才の無い爽やかスマイルの裏では、きっと腹を抱えて笑っているに違いない。宇宙人、未来人、超能力者。その総てが今この場に揃っているのだから。古泉がそこまで知っているかどうかは解らないけど、少なくとも古泉自身が紛れも無い超能力者なのだから。僕にはどうでも良い事だけど。

「そう! 古泉くん、あんた見所ある奴だわね。その通りよ。キョンも少しは彼の物分かりの良さを見習いなさい」

 向日葵のような笑顔を浮かべて言うハルヒに、キョンは恨めしそうな視線を古泉に向ける。八つ当たりは格好悪いぞ。

「ではそろそろ出発しましょ」

 そう言うなりハルヒは僕の手に勘定書を握らせ、大股で店を出て行った。頼んだアイスコーヒー、僕まだ飲み終わってないんだけどなぁ。


 ● ● ●


「マジ、デートじゃないのよ。遊んでたら後で殺すわよ」

 もう一度念を押すハルヒの言葉を合図に、僕達の不思議探索は始まった。駅を中心にしてキョンと朝比奈先輩は東、僕とハルヒは西、長門と古泉は南を探索する事になっている。さて、どうしたものだろうか。

「それで、どうするの?」

 一応今回の探索の主役と言うか元凶に訊いてみる。

「うーん、正直言ってあたし西側来るの初めてなのよね。中学が東だったからこっちまで来る理由も無かったし」

 ハルヒにしては珍しい事この上無いに、何やら自信の無さそうな答えが返ってきた。市内の中心部に来て校区やら活動範囲やらなど関係無いような気がしないでもないが。

「そうだ、あんたって確か西中学出身だったわよね? 探索のルートはあんたに任せるわ。この辺り一帯はあんたの領分でしょ」

 君はもしかして僕が市内の四分の一を完璧に把握しているとでも思っているのか。確かに僕は西中学出身だけど、この辺りは思い切り校区外だ。

 などと言ってやりたい所だったけど、言っても無駄に殴られて終わるだけのような気がしたからやめておいた。それに校区外とは言っても、やれと言われて出来ない事も無い位には地形を把握しているつもりだしね。

「了解したよ。団長様の仰せのままに、ってね」

 取り敢えずそう言ってはみたものの、この状況を客観的に見ればふりだしに戻ってしまったも同然だ。さて、どうしたものだろうか。

 キャラにもなく真面目に悩む僕の脳裏に、ふと一つの情景が過ぎ去った。街の外れにひっそりと佇む、主のいない小さな教会……。高校生の男女が昼間から好き好んで赴くような場所ではないけど、其所ならばハルヒも納得してくれるかもしれない。遠いけど。

「行きたい所があるんだ。少し遠いけど、良いかな?」

 取り敢えずハルヒに確認を取る。勝手に歩き出して後で怒鳴られるのは嫌だからね。

「遠いってどれ位よ?」

「んー、歩いて一時間位?」

「はぁ?」

 流石のハルヒもこれには呆れたらしく、色々と言いたそうな眼で真直ぐに僕を睨みつけてくる。だけどここで退く訳にはいかない。あの場所以外に、僕はハルヒの満足してくれそうな場所を知らないから。

「……それで、それだけ時間を掛けて行くだけの価値はある訳?」

 ギロリと言う擬音が似合いそうな眼光で僕を睨んだままハルヒが尋ねる。久し振りに寿命が縮みそうになった。

「それは解らないけど、でも僕の取って置きの場所」

「……ふーん」

 僕の返答に生返事を返しながら、ハルヒは思案するフリをして実は碌でも無い何かを考えていそうな顔で暫く黙り込み、そしてニヤリと笑って、

「まぁ良いわ。ルートはあんたに任せるって言った事だし、あんたも漸くSOS団員としての自覚が出てきたみたいだしね。でもつまらない場所だったらタダじゃ済まさないからね、覚悟しておきなさい」

 そんな如何にもハルヒらしい科白をのたまった。この暴君め。

「それで、具体的には何所に行く訳」

 物騒な笑顔で尋ねるハルヒに、僕も同じような顔で答えてやる事にする。

「商店街経由、幽霊教会行き」

 住宅街の外れには、寂れた廃教会がひっそりと建っている。通称幽霊教会として有名なその場所は、その名の通り幽霊の目撃情報があったり無かったりと近隣の小中学生の間では有名であり、夏になると肝試しの舞台としてそれなりに需要がある。

 それだけでもハルヒの喜びそうな場所であるが、それ以上に幽霊教会は僕にとっての特別な場所だった。

 幽霊教会は三年前、今以上に馬鹿だった僕が、馬鹿としか言い様の無いような事を企てた場所。変な高校生に出会った場所。その前後に、僕が不思議と呼べるような現象に遭遇した場所。尤も、それはハルヒに言わせれば「普通の不思議」の域を出ていない程度のものかもしれないけど。

 そして幽霊教会は、僕が僕として僕となった「始まり」の場所……。


ーーーあとがきーーー
 前回思い切り規約違反をやらかしてしまい、注意書きはよく読もうと改めて学習したグルミナです。『退屈シンドローム』第15話をお届けします。
 今回は不思議探索導入編と言う事で、文章量はいつもより少し短めです。その代わりに次回の不思議探索ハルヒと一緒編はいつもよりも少し長めになると思うので期待して待っていて下さい。

 前回当方の規約違反の巻き添えで一部の方の感想レスが削除されてしまいました(泣)ので、生き残っている方の分だけ返信を返させて頂きます。
 Meoさん、鬼の刀さん、不破蒼真さん、MEsさん、人種差別万歳さん、クロベエさん、akiさん、HEY2さん、ミッテさん、ウッドビレッジさん、レスをくれてありがとうございます。返信を返せなくて申し訳ありません。

>kouさん
 誤字指摘ありがとうございます。
 朝比奈先輩は自爆あってこその朝比奈先輩ですよ。自爆とドジっ娘属性の無い朝比奈先輩など餡の入っていないドラ焼きも同然です。(力説
 のび太が名を残す可能性ですが、物凄く強引な理由です。詳しくは朝比奈先輩の再自爆までお待ち下さい。
 不思議探索はいきなりハルヒとペアになりました。この二人がセットになって何も起きない筈がありません。さて読者諸君、腹筋の調子は万全か?(ヲイ
 青ダヌキの持って来たアルバムですけど、当方も捏造ではないかと思っています。というか、このssでは嘘という設定にしようかと思っています。その描写をするかどうかは微妙ですが。

>アレクサエルさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 朝倉と戦うのが「どの」二人を言っているのかは解りませんが、一応「どちらも」と答えておきましょうか。(ニヤソ

>クロさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 朝比奈先輩の未来道具の使用ですか。それはちょっと難しいでしょうね。ただでさえ長門や朝倉といった「ほぼ何でもアリ」な方々がいますし、未来道具はのび太の切り札といった位置づけにしたいので。
 ただ、朝比奈先輩は朝比奈先輩なりの能力を持っていますので、それを活用して原作とは少し違った活躍をさせたいと思っています。

>砂糖菓子さん
 あののび太が教科書に載る。確かに皮肉のようにも思えますね。
 エージェントデャこのss一番の謎であり鍵です。
 ガッコー仮面登場は、申し訳ありませんが多分ありえないでしょうね。だってマスクがダサいから。(ヲイ

>佳代さん
 そう言えばツチノコの発見者ってジャイアンでしたよね。のび太の功績もそっち系統にしようかとか悩みましたよ。イエティと握手した男とか。(笑

>J.B.ヴァーデルさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太達の時間のループというのは考えていませんね。パパの疎開云々の設定は丸投げです。

>かのんさん
 はじめまして、でしたっけ?
 朝比奈先輩の上の人がのび太ですか。さてさて、どうでしょうね。

>akiさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 akiさんの仮説ですが、ネタバレしたくないのでコメントできません。申し訳ありません。ただ、凄く鋭いです。

>蒼夜さん
 お久しぶりです。
 朝比奈先輩と自爆は切っても切り離せない赤い糸で繋がっているんですよ。
 朝倉戦はもう少し先です。結末も含めてお待ち下さい。

>seremuさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 「過去の修正」は結構やっていると思いますよ、のび太達は。鉄人兵団の時然り、ノア計画の時然り。ただ、そういう意味で載っている訳ではありません。朝比奈先輩は某タヌキの事は知りませんから。

>龍牙さん
 朝比奈先輩のドジっ娘属性はデフォ装備ですよ。自爆属性も。
 キョンは、これからです、これからなんですよ。きっと。
 朝倉戦はもう少し後ですね。戦闘シーンだけは平行してちょこちょこ書いているのですが、どう転ぶかはまだ解りません。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze