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▽レス始

「WILD JOKER 巻16(GS+Fate)」

樹海 (2006-10-18 13:38/2006-10-18 13:41)
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横島は衛宮邸の屋根で何時もの如く見張りをしていた。そこに先程までの衛宮士郎を責めた激しさはない。
 「いるんだろ?」
 横島がそちらを見ずに声をかけると、ふわりと飛び上がるようにしてセイバーが姿を見せた。というか、実際地上から飛び上がってきたのだろう。この辺り英霊の身体能力という奴のデタラメさを感じる。
 「ヨコシマ」
 「おう」
 「……貴方も英雄だったんですね」
 ちょっと言いたい事が即座に出ず代わりに出たのはそんな言葉だった。
 「…まあ、世間一般ではそう呼ばれてたみたいだな」
 前のギルガメッシュの時は互いの愚痴合戦みたいな状態だったから、彼の生前の不満とかなら聞けたが何故英雄と化したのかは、正確にはどのような事をしたが故に英雄となったのかが分からなかった。反英雄とか抑止の守護者というあり方もある事だし。

 まあ、お陰で彼の生前の環境がとんでもない事はよく分かっていた。とはいえ、横島が話していない事もある。
 例えば、正直横島は美智恵も令子も同じ穴の狢だと思っているが、ひのめにそんな話聞かせたくはないから話してはいない。
 まあ、美智恵は一見すると令子よりはるかに人格者に思えるが、家族が関わると途端に卑劣な人間になるのだ。アシュタロス戦役で一番簡単な方法は美神令子を殺害する事だったが、横島をスパイとして大々的に放送したりまとめて殺しかけたりはし、或いは美神令子を徹底的に倒れるまで鍛えはしたが、彼女を即殺そうと動きはしなかった。
 美神令子が彼女より人格的にどうよ?と思えるのは彼女らが普段重きを置いているのが『金銭欲』か『家族愛』かなだけ。美智恵にとっての『あらゆる手段を取る』時の犠牲となるのはあくまで『家族以外の人間』なのである

 閑話休題。
 「まあ、んな事言いに来たんじゃないだろ?」
 その言葉に一瞬躊躇ってからセイバーは言った。
 「何故あのような事を?」
 セイバーの声に咎める響きはない。実際彼女はラインを通じて衛宮士郎の心の動きを一番知っていた。何より彼は一般の感覚では善人と呼べる人間なのかもしれないが、今この状況では不安な所も多かった。ひのめが聞いているかもしれないから口には出さないが、イリヤスフィールと殺し合いに突入しながら、ひのめと友達になった彼女の誘いにあっさり乗ったのも彼だ。少しは疑う事を覚えてくれないかとも思ってしまう。
 「ん〜……」
 セイバーの問いかけに横島は少し言い方に悩んだ様子で考え込んだ後、こう答えた。
 「やっぱあいつが脆いからかな」


 WILD JOKER 巻16


 「脆い、ですか?」
 「ああ」
 セイバーの言葉に頷きながら横島は思いを馳せる。彼の脳裏に浮かぶのは嘗て友人と呼んだ仲間達の事。
 仲間内で誰よりも強大な力を持ちながら自身に自信が持てず己の血を否定していたハーフヴァンパイアがいた。魔族すら騙す程の優れた感応力を持ちながら気弱な張子の虎がいた。そういう意味では目つきの悪い小柄な、己をライバルと呼んでいた男は分かり易かった。ただひたすらに強く、あの強く単純な思いこそが魔装術より何より彼が強かった最大の理由だと思う。
 「これが試合ならもっと時間かけてあいつにしっかりと自分の理想への認識持たせてやりてー所なんだが」
 実際、自分を省みればそんな立派な人間ではなかったと思う。実際自分は美神令子への覗きとかかけたりしてはいたが、本当の恋愛なんぞ知らなかったのだと思う。そして知った時は失う痛みとイコールで、己の馬鹿さ加減に頭に来た。そんな自分に比べれば衛宮士郎の理想の方がまだ世の為人の為になるだけマシだろう。だが。
 「だけどな……」
 ゆっくりと噛み締めるように続ける。
 「だけどこれは…聖杯『戦争』なんだ」
 そう、戦争にルールはない。そこにあるのは試合が勝敗なのに対し、戦争は生死を賭ける。そんな世界だ。試合なら負けても余程運が悪くない限り死ぬ事はない。試合に負けても何度もやり直せるし、危なくなればレフェリーが試合を止める。
 戦争にそんな事はない。危なくなってもそれを止めれる立場の人間なぞいない。戦争では死はそこらに転がっている。
 「確固たる自分って奴を持たない奴はどこかで苦しむ」
 衛宮士郎が聖杯戦争に参加しなかったらどうだったろう?
 或いは弁護士、警官、裁判官、検事。そうした彼なりに正義を追求出来る仕事なりについていたかもしれない。その中で理想と現実に悩み、自分なりの道を見つける事も出来たかもしれない。けれど、今悠長に彼に自覚させ悩む時間を与えてはやれない。
 「シロウはこの後どうなると思いますか?」
 セイバーの問いかけに横島は空を見上げつつ言った。
 「剣の焼入れをやった時の結末なんて決まってる。より強靭になるか、なまくらのままか、或いは」
 一瞬区切って続けた。
 「或いは折れ砕けるかだ」
 一瞬セイバーも沈黙した。
 「……それでも必要な事と?」
 「ああ。別にあいつがどういう結論だそうが構わん。借り物でも立派な理想だから目指すってんならそれでも構わんし、砕けた中から拾い上げて新たな形にしてもいい。全く別の目的を見つけたって構わんが……」
 そこで横島は一度言葉を切ると続けた。
 「だが、今のままじゃ駄目だ。俺に言われた位で揺らぐような理想じゃあ何時かは迷いを生む時が来る。そしてそれが戦場ならそいつは簡単に失う事へと繋がっちまう」
 セイバーに視線を向け、横島は言う。
 「セイバー、いやアーサー王なら分かるんじゃないか?……失ってから悔いても遅いって」
 それにセイバーは答えなかった。


 翌朝。
 「それじゃ行って来るわね」
 お留守番を引き受けたイリヤに挨拶をするのは遠坂凛だ。藤村大河と間桐桜は衛宮士郎の様子を気にしつつも、仕事と部活の為に一足先に出た。凛とイリヤが体調などではない、ただ単に落ち込むような事があっただけだ、今はそっとしておいてやって欲しい。そう告げた事で今の所は何も言っていない。
 そう、衛宮士郎の様子は酷かった。寝ていない、そう一目で分かるぐらいで、憔悴している。
 これまでは正義の味方を素直に目指してきた。だが、その過ちを指摘された時、彼にはその指摘を破るだけの根拠がなかった。それでも一晩考えたが、遂にそれを破れなかったのだ。
 『苦しい時の神頼み』という言葉がある。 
 誰だって自分ではどうにもならない、なりそうにない苦しい時は無神論者でも神に祈る事もある。正義の味方も同じ事。幸せに平凡に暮らしている人はそんなものを必要としない。正義とは相対的なものであり、正義があればそこには悪がある。悪が表に出るならば、すなわちそこには苦痛がある。
 そして、苦しむ人を救ったからとて悪は救われない。生活苦でこれ以上は無理と銀行強盗を行った人間を打ち倒したとする。確かに真っ当に働いていた銀行の人や客らは感謝するだろう。だが、その強盗とて好きでやったのではないなら、その結果病気の家族が亡くなったとしたら。矢張り全ては救えない。
 横島はあれ以来霊体のまま姿を現さない。

 凛には横島が傍にいる事は感じられる。
 実の所何故あんな事を言ったのか問い詰めたい所だが、横島からは応答がない。実際必要な事だったのかもしれないし、何かが彼の譲れない部分に触れたのかもしれない。
 正直、学校に行くのもどうかと思うのだが、日常生活を経験させる事で少しでも立ち直るきっかけになれば、とも思ったのだ。
 もっとも……。
 学校に着いて早々に、予想以上に完成に近づいた結界に気を持っていかれてしまったのだが。

 そして昼。とりあえず士郎を誘って屋上でも行こうかと思う。春とかならにぎわう屋上もこの寒空では閑散としている。密談を行うには持ってこいだ。とりあえず結界を何とかしなくてはならない。まあ、そういう危機が目の前に迫ってれば士郎の性格からして動こうとはする可能性が高いし、きっかけの一つ位になるのではとも思うのだが。もっともその考えは。
 「やあ、遠坂。少し話しがあるんだがいいかな?」
 「慎二」
 間桐慎二、彼の登場によって早々に潰える事になってしまったが。

 「で、何用かしら」
 屋上。上がるつもりではあったが、本来の予定とは違う形で上がる形になってしまった。
 「遠坂、お前聖杯戦争に参加してるんだろ」
 あっさりと神秘に関わる事柄を漏らす慎二。防音や人払いの結界すら張っていないのに何をやっているのだこの馬鹿は!と内心思う。
 「何の事かしら」
 「ふ、ふん、僕は知ってるんだからな」
 にっこりと笑顔で知らん振りをする。その様子にちょっと鼻白みつつもそう告げた慎二を見やる。
 まあ、考えてみれば遠坂、間桐、アインツベルンの三家が聖杯戦争を設定するのに関わった事はすぐ分かる。魔術回路を失い、魔術師としての地位を失った間桐はともかく、れっきとした魔術師を擁する遠坂家が聖杯戦争に参加していないと考えるのは無理があるだろう。そういう意味では衛宮士郎やバゼットなどのように外から来た、或いはイレギュラーな魔術師の方がマスターとしてばれる可能性が低い分有利とも言える。まあ、裏を返せば地の利があるという事でもあるのだが。
 「で、本当に何の用かしら」
 「なに、簡単な事さ、遠坂」
 ふふん、とむやみやたらと偉そうな様子で彼は。
 「僕と手を「お断りよ」か」
 当然のように言葉を遮るようにして断られた。

 絶句。
 まさかまともに話も聞かずに断られるとは思っていなかったのだろう。もっとも凛にしてみれば、別に当然の事だ。こと戦力だけを考えてみても士郎がいれば今や完全に魔力の通ったセイバーがいるし、イリヤスフィール&バーサーカーも当面は味方でいてくれるだろう。敢えてこの状況を崩して、自分の感情まで押し殺して慎二と手を組むメリットは全くない。
 「……遠坂」
 憎悪の篭った声で慎二がうめき声を上げる。そこへ凛は決定的な一言を投げかけた。
 「大体、ライダーの本当のマスターは桜でしょう。サーヴァントに魔力供給が不可能なのに威張らないで欲しいわ」
 こういうのを虎の威を借る狐って言うのよね、と続けてやる。
 その言葉に慎二の顔色はめまぐるしく変わる。赤から蒼へ、蒼から再び赤へ。その心の移りようが遠坂凛には読める、というか実に読みやすい。
 「それじゃ御機嫌よう」
 あっさりと告げて慎二に背を向ける。ただしあくまで素振りだけ。横島からはラインを通じて警告を受けている。
 『ライダーが傍にあり』、と。
 慎二は大した事はない。魔術師でない人間は銃器を持たねば所詮接近戦しか方法がないし、間桐慎二がそんな自分が傷つく危険のあるような事をするとは思えない。
 問題はサーヴァントだが、霊体化している以上、まずは実体化させねばならない。ならばこちらが対処する余裕はある。
 「遠坂ッ!」
 予測済。故に即座に振り向く。そこにはライダーが実体化していた。既に待機していた横島もライダーが実体化を開始すると同時に実体化を開始し、遠坂凛の目の前には横島の背中がある。
 「あーやっぱりライダーのマスターだったのね」
 『凛さん、あいつの持ってる本…』
 うんうんと頷いている凛に横島が声をかける。ただし、慎二に聞こえないようラインを通じてだが。まあ、べらべらと喋って手の内を明かすような横島ではない。何せ、こっちの方面の師匠はあの美神令子なのだからして。なのに、女性の事に関してはつい口が滑るのはお約束か。
 『あれにライダーからのラインが繋がって、更に伸びてますね』
 成る程、あれが間桐の裏技か。おそらくは桜から譲渡させた令呪をああいう形でまとめたのだろう。

 「……何故桜がマスターだと思った」
 睨み合いに移行し、さあ戦闘かと思いきや慎二が呻くような声で問いかけてきた。
 「簡単よ。魔術師でもない貴方にサーヴァントをあっさり譲った以上、その人間も間桐の関係者と見ていいわ。けれど、間桐の魔術師は二人。桜と臓硯。けど…」
 「けど?」
 「あの妖怪じじいにライダーみたいな美女が呼び出せる訳ないじゃない」
 場に沈黙が漂った。
 「………成る程、納得だ」
 「「納得するんかい(したんですか)!?」」
 思わず同感の意を表した慎二に突っ込むサーヴァント二体だった。

 「さて、納得した所で……やれ、ライダー!」
 ちょっと脱力しかけたが、その後に起きた事は到底そんな事を言っていられるような状況ではなくなった。即座に周囲に真紅の壁が立ち上がったのだ。空間そのものが赤く染まる。
 「なっ……!」
 魔術は隠蔽されるもの。真っ当な魔術師ならばこんな昼日中ド派手に展開される結界なぞ予想していなかった事もあるが、まだ完成には至っていないと判断していたのもあった。
 実の所、完成していない、という一点に置いて凛の推測は正しい。
ブラッドフォート・アンドロメダ 
『他者封印:鮮血神殿』
 ライダーの宝具の一つであるこの結界は設置に時間がかかる上、派手だ。これを見れば他のサーヴァントにもここで何が起こっているかなど一目瞭然だろう。
 「はは、どうだ?不完全とはいえ、ライダーが精気を吸収するには十分だ」
 「正気なの、あんた!」
 「ああ、僕は十分に正気さ。ライダーの奴前はそこの奴に追い払われたそうだけど、これなら他のサーヴァントも圧倒出来るだろ」
 どうやら慎二の奴はただ単にライダーの力の上昇だけを目的にこれを発動させたらしい。こんな奴を魔術の近くに置いといたらえらい事になりかねん、とこれが判明した時点で協会から刺客を差し向けられかけないというのによく平気でいられる。知らぬが仏とはよく言ったものだと思う。
 「横島、ライダーは任せたわよ!」
 そう叫ぶと遠坂凛は間桐慎二に向かって駆け出した。

 「行かせません」
 仮初とはいえ、慎二は自らのマスター。遠坂凛を遮ろうとして。
 「わりいけど、それはこっちの台詞なんだよな〜」
 のんきな声が自らの傍で聞こえたと感じたのと同時に身体は反射的に後方へ飛び退っていた。
 「ありゃ。惜しい」
 空を掴んだ手。その手がある位置は本来なら……。
 「何のつもりですか」
 「決まってるじゃないか」
 胸部だったと思うのだが。心臓でも狙ってきたのだろうか。さしものサーヴァントとはいえ、同じサーヴァントに首を飛ばされるなり心臓を貫かれるなりすれば死というかこの分身の消滅は免れない。もっとも。
 「あ・し・ど・め♪」
 にやりと笑った横島の顔とわきわきと動く手はどう見てもそうは見えなかったのだが。

 「あの馬鹿……」
 呟きつつも遠坂凛は疾走をやめない。とりあえず目的が果たされている状態ならそれでいい。折檻は後でも出来る。今はとにかく慎二の奴をぶちのめすのが先決だ。
 「え、ええ?」
 間桐慎二がマスターとしての心構えをしていなかった事がよく分かる。彼は遠坂凛の接近に対してうろたえている。おそらく彼の頭の中で聖杯戦争はサーヴァント同士が対決し、自分は安全な後方であれこれ命令してるだけの……所謂カードゲームでの対戦とかそういうイメージしか持っていなかったのだろう。
 だが聖杯戦争は違う。サーヴァントは強力だ。だが、サーヴァントに比べそのマスターである魔術師は如何に優れた魔術を持とうが脆弱なのは変わらない。故に聖杯戦争の勝利の方法としてマスターを狙うのは鉄則だ。事実、彼女は知らない事だが、前回の聖杯戦争において衛宮切嗣は徹底してその戦法を踏襲し、最後の最後まで勝ち抜いた。
 確かに間桐慎二は弓道部の副部長を務めている。運動神経自体は決して悪くはないのだろう。
 だが、それは戦闘の為のそれではない。あくまでスポーツとしての枠組みの中での動きだ。
 「はッ!!」
 魔術で身体能力を強化し、一気に距離を詰める。そこで慌てて間桐慎二が反応しようとするがもう遅い。腰を落とし、しっかりと脚を踏みしめ、引いた腕を腰の回転に合わせて突き出す。
 ズン!
 「がふっ!?」
 まともに腹に掌底が入った。凛自身快心と思える一撃だ。この一撃で慎二は吹き飛ばされ、転倒した。それでも本を手放さなかったのは凄いと言えるだろう。
 慎二自身にしてみれば当然の事。彼は魔術師の家に生まれたが、間桐はこの地に根を降ろして以来次第に衰退し、その魔術回路は減少の一途を辿った。名門故に他からの血統を入れるにも抵抗を感じ、慌てて考慮した時には既にいずこからも衰退した彼らに血を入れたいと願う者はいなかった。
 そして遂に慎二の代に至り、完全に魔術回路は消滅した。故にこの地に根を降ろして以来の付き合いのあった遠坂の今代に姉妹がいるのを機に妹の側を養女として貰い受けた。直系故に誇りを持っていた慎二は妹として彼なりに可愛がって接してきたつもりだったが……それが全て茶番だったと、表向きは魔術師としての知識を蓄えた書斎への出入りを彼は自由に許されているからとて、所詮魔術回路のない彼は後継ではないのだと、間桐の家にとって不要なのは自らなのだと、妹もそれを知りつつ黙っていたのだと……全てがひっくり返され、故に憎悪へと変じて妄執となった『魔術師』というあり方。
 それが適ったと思えたのが聖杯戦争。
 故に彼にとって口ではどうこう言おうともライダーへの令呪とも言える偽臣の書は自らが魔術師であるとの思いを抱かせる繋がり、もっともそんな事を考慮する必要は敵対者にはない。
 そのまま距離を詰めた凛の蹴りの一撃が慎二の意識を刈り取った。最後に慎二が思ったのは。
 『遠坂………黒いスカートに白は映えるぞ』だった。

 横島VSライダー、ライダー自身には前回の戦いから僅かながら苦手意識があったのだが、先手はそれでもライダーが取った。騎乗兵は防御に向いたユニットではない。弓兵が本来そうであるように攻勢にこそ本領を発揮するユニットと言える。というか殆どの連中がそうだろうが、それは今代のライダーも同じ事。故に釘剣とでも言うのだろうか、鎖のついた短剣が蛇の如き動きで横島に迫る。
 だが、横島とて伊達に英霊をやってない。相手が高機動型というのは前の出会いで想定している。即座に栄光の手を座布団状にして受け取め、更に大きな鉤爪形態にして釘剣の片方を握りこむ。
 が、ライダーもさるもの。無理に引っ張ろうとせず、鎖を横島にそのまま絡めようとする。
 「おわっ!?」
 慌てて握ってた鉤剣を手放し離脱。『縛られる趣味はないんやけどなあ』と軽口を叩いちゃいるが、現実にんな事になったら滅多刺しにされかねない。
 続いては逆に横島が仕掛ける。
 「サイキックソーサー!」
 霊気の盾。それをぶん投げ、ライダーを追尾。邪魔と迎撃しようとしたその瞬間に。
 「遠隔サイキック猫だましっ!」
 爆発させ、まばゆい輝きをぶちまける。ライダーは目隠しをしているから効果がどの程度あるか疑問だったが、案外効果はあった様子なので、あれでちゃんと視界は確保出来ているのだろう。真名は分からないがあんなものを伊達でつけているとは思えないからおそらくは強力な魔眼の類。もっとも果たして魔力供給が出来ない慎二を経由している状態でどの程度の力が使えるものか。強力であればある程大量の魔力を消費するから、或いは使えないかもしれない。
 『ま、だからってそう考えるのは早計だけどな』
 使えないと思っているよりは、使えるけど今の所使ってないだけと考えておいた方が万が一の時の傷が少ない。常に最悪を想定し、最悪に対処出来るようにしておけば大抵の事はどうにかなる。
 とりあえず、こんな悠長な事を考えているのは、閃光で多少は目が眩んだのだろうが、目くらましと見るやライダーが一気に跳び退って距離をあけたからだ。仮のマスターである慎二からはむしろ遠ざかってしまうが、それは正解。そうしなければ一気に横島の間合いに飛び込まれていただろう。
 横島自身猫だましと共に距離を詰めたが、相手はランサーと共にサーヴァント中最速の一騎を争うライダー。クラス:ジョーカーたる横島のそれでは追いつけない。
 今回横島は文珠を使うつもりはない。
 栄光の手とサイキックソーサー。この二つは彼のいってみれば基本武装だ。ライダー自身がまだ本来の能力を発揮出来ないとしたらこちらの手も隠しておきたいというのが本音だ。
 『もっとも、本当のマスターが桜ちゃんだっていうならライダーと戦うのはこれが最後かもしれんなあ』
 なら少しぐらい戦いを楽しんでもいいか。
 嘗てお互いの腕を磨きあったバトルジャンキーのような思考を抱えつつ。戦闘を開始しようとして。
 「ライダー!結界を解除しなさい!」
 気絶した間桐慎二から書を奪い取った凛からの声が戦闘の終結を示した。

 その後は割りと早かった。
 元々彼女自身はこの結界は乗り気ではなかったという。と言っても別段倫理感とかではなく、彼女の本当のマスターがいる状態で発動なぞさせたくなかったというのが本音みたいだが、幾ら桜が本当のマスターだろうと察しても彼女自身からばらしたりはしない。故に声がかかるなり即座に結界を停止……のみならず結界そのものを消去してしまった。これでは再構築は甚だ困難だろう。こんな事をするマスターが誰か思いっきりばれた事もあるし。
 偽臣の書を持っていれば彼女らにもライダーを従わせられる可能性はあったが……。
 「ライダー、貴方本来のマスターの元に戻りたい?」
 「ええ」
 「……貴方のマスターとしての資格をこんな相手に譲り渡した相手でも?」
 「ええ」
 ちょっと意地悪い質問もしてみたが、澱みなく躊躇なく答える。そこには怨みなどはない。かといって別に淡々とした強さというか魔力を求めるだけ、という訳でもない。仮面の下から覗くのは確かな親愛の情。
 「分かったわ。なら本は燃やして構わないのね?」
 「ええ、お願いします」
 彼女自身では自身への令呪でもある本を燃やす事は出来ないのだという。故に凛が魔術で炎をつけるといともあっさりと本は燃え、消滅していった。それと共にライダー自身の姿も薄れ、消えていく。おそらくマスター本人の元へと戻っていったのだろう。
 「さて、後残る問題は…」
 ちらり、と倒れた慎二に目をやる。さて、どうするべきか、マスターとしての資格は失ったが、桜にもう一度本を作らせるという手もあるだろう。令呪の使用回数は三回あるのだし、一回をこれに使ったとしてももう一回は残る。如何に今桜が衛宮邸に泊まっているとしても学校に来れば慎二と顔を会わせる機会ぐらいいくらでもある。
 が、それを考える必要はなかった。

 「!?凛さん!!」
 周囲に新たな結界の展開を感知。もっとも危険なものではない。ただ単に人間の認識を甘くさせ神秘を隠す為のもの、ただしこれだけのものを現世の人間が行おうとすればどれ程の力が必要となるのか。魔力の流れではなく力自体に即座に横島が動く。凛も強大な魔力の動きを感知して慌てて反応しようとする。だが、それは。
 ぼっ、と。
 いともあっさりと直撃した魔力の炎によって慎二は燃え尽きた。
 「……え?」
 先程まで身体が転がっていた場所には何もない。衣類の燃えカスどころか灰すらも。そこに間桐慎二という人間がいた痕跡なぞ何も残ってはいない。それを為したのは。
 「……きゃ、キャスター?」
 空中に浮かぶ紫のローブを纏う女だった。


 同時刻。
 赤い光に覆われた学校内で、衛宮士郎は目前で倒れたクラスメート達の姿にとりあえず迷いを振り払い、助けようとする。だが、即座にそれは魔術によるものだと気付く。自身では為しようがない。その悔しさに唇を噛み締めつつも遠坂凛の姿を探すも、その姿は教室にはない。目立つ彼女の事、普段ならばそこらにいる適当な相手に聞けばどっちに行ったかくらいは分かるが、今は起きている者の姿はない。
 駆け回って、この結界を発動させているサーヴァントなりマスターなり、或いは凛か横島を探して走り回る中、唐突に結界は消えた。
 倒れた人間も中には肌が崩れかけている者もいるが、命に別状ある様子はない。それに安心しつつも、何も出来なかったという事に悔しさを感じる。応急処置をしようにも単純な怪我ではない魔術による攻撃の治療は自分には出来ない。
 「俺には……何も出来ないのかよ」
 「ああ、お前には誰も救う事など出来はしない」
 だけど、自分の呟きに答える声があるとは思わなかった。我に返ってみれば学園を新たな結界が包んでいるのが分かる。霧がかかったよな朧なもの、苦しむものはいない。故に先程のものと違うのは分かったのだが……。そんな事より。
 「久しいな。まだのうのうと生きていたか」
 嘗て校庭で横島と戦っていた、そして学校と家の二度に渡り自分を殺そうとした赤い男、すなわち聖杯戦争のサーヴァントの一体、アーチャーがそこにいた。


『後書きっぽい何か』
あーまた突っ込まれそうな事書いたなあ、と最初の美智恵論に関して
……別段嫌いじゃないんですけどね。誰しも譲れないものってある訳だし、その大事なものを護る為なら如何なるものを犠牲にしても、って思い自体は…。ただまあ、あの戦いの折の美智恵の行動とか見る限り『普段美神令子に横島の事あーだこーだ言ってる割にはあんた何したよ?』って思ってしまって…。


なんというか
議論しやすいというか前回はレスが実に多かった……。
えー続きはこうなりました。
別段横島は士郎を壊す気はありません。前回書いた思い自体は本当ですが、全て否定する気はありませぬ。
まあ、今回のがフォローっぽいものになってしまったのは否定しませぬが…

今回ライダーとの戦闘はあまり派手なものではありませんが、これはライダーの戦いの場が今回ではない為です
本来のマスターの元に戻り、これからが彼女の戦いも本番です
慎二の処遇に関しては悩みました。ホロウ アタラクシアでの慎二を見る限り『成る程、彼は本来決して悪人ではなかったんだな』と思わせる顔も見せてくれましたから……
でも……学園であんなものを発動させれば、今の相手を酷く大事に思っているキャスターが黙って見ている筈もないと思うのですよね
相手を殺そうとするなら殺される覚悟を持て、って所でしょうか

さて、恒例のレス返しを
>ツバメさん
そうですね、彼にもきちんと道を見出してもらうつもりです
人生なんて茨の道の連続ですが、惰性でゆくよりは道を見つけた方がいいに決まってます

>アレクサエルさん
>報復の対象
そうですね
それを避けようとするなら、彼らを自分から離すしかありません。その先は孤独の中一人戦い続ける道です
その結末はあの赤い騎士なのでしょう

>盗猫さん
むむ、甘いですか…そいつは私の筆力不足ですねー…
頑張って続き書いていくのでよろしくお願いします

>SSさん
>ホントの悪人なんて〜
そうであって欲しいですよね…
昨今を見ると倫理感が崩壊してるように見えてくる現実ですが…

>ながれさん
何時も感想ありがとうございます
横島自身への見かたは一部変わり、けれど彼自身の漂わせる雰囲気が彼をただの英雄として尊敬を受ける立場にはしないでしょう
横島は重さと軽さを同時に持てる男だと思っております
元々GS美神自体が、完成してしまっている美神令子ではなく横島の成長の物語な面もありますからねえ…

>かのんさん
名優チャーリー・チャップリンの映画『殺人狂時代』での台詞ですね
喜劇王の名を持つ彼ですが、この作品はシリアスな作品でした
…が、彼はこの作品の後、マッカーシズム、所謂赤狩りの対象とされ間もなくアメリカを追放されます。重い世界の重い時代だったのですねえ…。

>Sidukuさん
ヨコシマン?うーむここに登録されてた二次作品以外、本編では韋駄天に乗り移られてのこっぱずかしい姿だったし…?
ちなみに、敵を一人云々は分からないです…なんだろ?

>弟子二十一号
ありがとうございます
横島やセイバーに多少は導かせるつもりですが、何とか士郎には自分で立ち上がらせたいものです

>ZEROSさん
英雄ってのはある意味ゴミ箱にも似ていると思います
平時(普段)は不要で、緊急時(いらない時)には必要
士郎の理想自体はFateをやってる中、疑問に感じた点だったのでそれなりの結論を出してみたいものです

>キョウさん
シリアスな横島の姿も多く出てくると思います
むしろギャグをどういれてくかが難しいですね……Fate世界では
完結までまだかかりますが、頑張ってくつもりです

>Zainさん
乱暴すぎるくらいでいいのです
その方が問題点になる部分を明らかにするのには向いていますから
目指し続ける意志を持つなら、それでもいい。ただ、それならその理想を揺らぐ事のないよう鋼鉄で覆ってみろって事です

>済貴さん
んー細かくは書ききれないでいるのでその辺りでの突っ込みかあ…
まあ、美智恵に関しては私の感じてるのはあんなもんです
議論に関しては、別段普段はかけちゃいません。だって彼らはそれで死に至るような展開にはなりにくいですから
失う前に自分の足元を見直させる為、そう思って下さい

>gunrunさん
テーマ自体は重いかな
実際、突き詰めていけば答えの出ない問題でしょうからね…

>ジンさん
問題点を明らかにする為に敢えて乱暴な言い方をしていると考えていただければ幸いです

>クラフトさん
>現実主義者
んーアーチャーは完全にそうでしょうけれど……今の士郎はどうですかね?

>睦月屋さん
むむむ、分かりにくいですか……
改善は図ってみますが、うーむ…

>丸猫さん
あの時は愚痴が主体で、彼が何をして英雄となったかは話しておりませぬ
だから皆時給が250円だの給与がアップして5円+だのといったとんでもない話とかは知ってますが、逆に言えばそんな話を知ってただけにギャップを凄く感じてました

>ロロットさん
んー原作自体はちゃんとやりました
まあ、色々な形があるとは思います
九を助ける為に一を犠牲にする道を選んだ切嗣、困ってる人を救う為なら自らの身をも投げ出す士郎。ただ、歪みがあるのは確かだと思いますのでそれを何とかしたかったのですが…

>箸置き筆置きさん
そりゃそうです
矢張りアーチャーは士郎によって説得して欲しいというか彼ら自身に決着をつけさせたい
今回から彼にも登場してもらいますが、あくまで士郎がアーチャーと関わる以上必須の確固たる意志を固める為の下準備と思ってくだされ

>ドンタコスさん
む?
私もFateは好きなんですが……横島とアーチャーはあまり関わらせる気はありません
せいぜい単純に刃を交わすだけです
だって……既に死んでる男に、生きてきた中で信念を築いた相手に何を言う事もないですし

>HAPPYEND至上主義者さん
えーまあ、そういう事もあるって事でw

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