インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「WILD JOKER 巻15(GS+Fate)」

樹海 (2006-10-09 19:52)
BACK< >NEXT

 聖剣エクスカリバーの鞘。
 遥か遠き幻想郷、伝説の妖精境アヴァロンの名を冠されたこの鞘にはアーサー王が湖の貴婦人からエクスカリバーを受け取り帰還した際に魔術師マーリンが『剣と鞘といずれが大切か』と問いかけ、『剣』と答えたアーサー王に対して鞘をなくさぬよう忠告したとの逸話が残る。剣に劣らぬ幻想であり、しかし盗まれ失われた。


 WILD JOKER巻15


 衛宮邸の居間は静まり返っていた。まあ、平然と茶をすするイリヤとか変わらない者もいたが。ちなみに横島はレーヴァテインの伝承とか使いこなそうと調べた際、他の有名どころの聖剣魔剣の類の知識も一応抑えておいたから、鞘の伝説に関しても知っていた。まあ、エクスカリバーなんていう数ある聖剣魔剣霊剣の中でもトップクラスに有名な剣の事だし。
 「………エクスカリバーの鞘?」
 呆然と呟いたのはセイバーだ。それはそうだろう、失われたと思ったそれと長き月日を経て再会するとは思わなかったのだろう。
 「そんなものが……俺の中に?」
 「おそらく間違いないと思うわ。それなら召喚儀式さえ行われれば自動的にセイバーを呼び出せると言っても過言じゃないし。前回の聖杯戦争で確たるラインも結ばれてるだろうしね」
 イリヤがそう俺の呟きに答えるのを呆然と聞いていた。

 何故そんなものが俺の中にあるのか考えてみる。
 『親父にイリヤの実家が前回の聖杯戦争の際触媒として与えた……』
 聖杯戦争において、本来触媒なしでサーヴァントの召喚を行う事自体が珍しいのだ。聖杯戦争が行われる事自体は既に周知の事実なのだから、大抵の家は事前の準備を怠らない。魔術協会からの派遣者ならば協会からでも実家からでも触媒となる物品の一つや二つ調達するのは容易だ。はっきり言って、今回の凛のようなケースの方がレアケースなのだ、ましてや士郎自身の場合は何をいわんや。
 『とすると……』
 鞘の伝承を考えれば、どこで自分に埋め込まれたかは即座に想像出来る。切嗣が治癒の魔術に長けた魔術師でない事ぐらいは既に知っている。ならば、あの初めての出会いの時、あの時自分はおそらくまだ息はあったものの、そのままでは助からないような重傷を負っていたのだろう。
 別に不思議な事ではない。
 当時の士郎の家の近辺は特に被害が酷かった、おそらくは災害現場の中心に近かったのだろう。生存者は士郎ただ一人であったという。だからこそ士郎の生き方が歪になったとも言えるが、実際は自分も本来は助からなかったのだろう。それを救ったのはおそらくアーサー王という本来の持ち主であるサーヴァントが召喚されていたが故に活性化していた聖剣の鞘。伝説によるとこの鞘を持つ限り血を流す事がなくなるという。魔法使いであったであろうマーリンが告げた聖剣以上に大切な宝具。

 「……そちらにセイバーのラインが繋がってしまってるのね…」
 だから衛宮君からは魔力がセイバーに供給されていない。
 「まあ、実の所、セイバーへ衛宮君が魔力供給出来るようにする簡単な方法あるんだけど」
 「あるのですか!」
 「本当か、遠坂!」
 セイバーと俺、二人して何で言ってくれなかったんだ、と言いかけて……いかん、あの笑顔はあかいあくまだ。あ、横島の奴すかさず退避してやがる。
 「簡単よ、幸い衛宮君とセイバーってカラダは男と女だし、やっちゃえばラインは通るわよ」
 ……一瞬何を言われたのか分からなかった。
 「「な、なななななななななな」」
 いかん、二人して何も言えん。横島の奴は……俺に吼えかけて、『違う、俺はロリやないんやあ』とか言って転げまわっている。イリヤの方は魔術師だからなのか……それがどうしたの?って顔だ。成る程、そういうラインの結び方ってあるんだ……じゃなくって!
 「まあ、今はそんなに一秒を争う程じゃないしね。もっと穏やかな方法を取りましょう」
 あくまが笑顔で続けた言葉に、がっくりと脱力した。

 「で、ラインを繋ぐ方法なんだけど」
 真剣な表情になって遠坂が言う。
 「衛宮君が聖剣の鞘をしっかりと認識出来ればラインは繋がると思うのよ。後はそこに魔力が流してやればいい筈よ。で、その認識する為の方法として、衛宮君のちょっと変わった魔術を使ってみようと思うの」
 そう、どうも俺の投影魔術は通常のものとは変わっているらしい。グラディエーション・エアと呼ばれる高等魔術、かてて加えてそれが延々残り魔力まで帯びる。とはいえ、問題は。
 「遠坂、俺そう言われても聖剣の鞘なんて分からないぞ…」
 そう、聖剣の鞘なんて簡単に言われても、そんなもん簡単にイメージ出来る訳がない。幾ら俺の中にあると言っても完全な形ではない欠片らしい。まあ、そりゃ当然だろう。鞘がそのまんま俺の中にあったら怖い。とはいえ、既にこの問いは遠坂の想定の内だったらしい。
 「ええ、だからセイバーという本来の持ち主から衛宮君にイメージを伝えてもらおうと思うの。……セイバーが魔力を送って活性化させれば衛宮君の内にあるものだし、自然と出来るかと思ったんだけど、そもそも魔力が送れない状態だからそれも出来ないし」
 その言葉に今度はセイバーが困った顔になる。そんなスキル俺にもセイバーにもないぞ。
 「ああ、その手助けは横島にさせるから。出来るわよね?」
 遠坂ににっこりと微笑まれた横島は『イエス・マム!』と見事な敬礼で応えた。……おお、海軍式。

 で、横島が用意してくれたのが。
 『共』『感』
 そう刻まれた文字を浮かび上がらせた二つの小さな…ビー玉程度の玉。これこそが横島の宝具の一つなのだという。生み出した宝玉に文字を込める事により癒し、空を飛び、束縛し、果ては時を遡る事すら可能とするという。もっとも今はそこまでは無理だそうだが。そしてそれが輝き−−−。
 俺はセイバーの姿を見る。
 手を伸ばす、それは自然とそこにあった。そうか、これが黄金の剣、これがアーサー王が騎士道に反する戦いの折に折れた選定の剣。そしてこれが、それ故に湖の貴婦人より送られた聖なる剣。星が鍛えし神造兵装。それを包む伝説に冠たる妖精郷の名を冠する剣すら霞ませる、そして俺の内にあるもの……。
 感じる。
 ただ、俺は自分が感じるままに魔術の行程を開始する。その脳裏には引き金のイメージ。次から次へと27の撃鉄が降り。

創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし―――
ここに幻想を結び、形と為す

 そして俺が目を開けた時、俺の手の内には鞘があった。あまりにあっさりと出来た為に却って俺の方が不安になった位だ。その位この鞘は俺にとって自然に投影出来ていた。後で考えてみれば当然かもしれない。それは俺の一部なのだから……。
 その俺の投影品にセイバーがそっと触れる。
 そう、彼女にとっては既に失われた鞘。所詮投影による模造品過ぎないそれではあるが、彼女にそのまま手渡す。そして、セイバーは静かに鞘を見詰めた後。
 その手に黄金の剣を現した。
 そう、あれこそが。エクスカリバー。インビジブル・エアという仮初の鞘を外された真の姿。
 ゆっくりとその刀身が鞘へと沈んでゆく。そう、ようやく……聖なる剣はその本来のあるべき位置へと納まったのだ。

 その様子を静かに見詰めていると、横島が声を掛けてくる。
 「で、魔力供給は大丈夫なのか?」
 そうだった。そもそもその為にこんな事をしていたのだった。すっかりあの幻想に捕らわれて忘れていたようだ。意識を向けるとラインがはっきり分かる。そこに昨晩の作業で安定した回路から発生する魔力を流し込むイメージ……。
 流れていく。セイバーへと魔力がしかと流れていくのを感じる。俺の魔力だから決して量が多い訳ではないが、これならばセイバーも大分楽になるはずだ。
 「どう、セイバー?」
 「はい、決して多量という訳ではありませんが、安定して魔力供給が為されているのが感じられます。これならば私の宝具も扱う事が出来るでしょう、まあ連発という訳にはいきませんが」
 ええ、これなら、そして先程の感触、あの魔力の通る複製品は……おそらく。自らの切り札の一つを再び手に入れた。しかし、その事を話すではなく、セイバーは真剣な表情で自らの状態のみを告げた。


 ひとまず一番の大事が済んでほっとした雰囲気が流れた。桜はまだ帰って来ていない。ここまで随分と時間が過ぎたようだが、授業終了次第直帰した凛に対して、部活なぞしていれば数時間程度の遅れは常だ。別に不思議でもあるまい。
 そんな中、その話題が出たのはほんの軽い気持ちだった。
 「それじゃリンは聖杯に望む事ってないの?」
 「ええ、欲しいものがあるなら自力で掴んでみせるわ」
 イリヤの問いに遠坂が自信を込めて答える。ふと聖杯を手に入れた暁には何を望むのか、という話になったのだ。まあ、中には答えたくない者もいたが、そういう者に強制的に聞くような真似はしていない。かなり深刻そうな様子だったし。
 ちなみに横島の希望は誰も聞いてない。だって、簡単に予想がつくから。
 そのせいでいじいじと部屋の隅でのの字を書いていた横島がこっちに声をかけてきた。ちなみに俺も聖杯に望むものは特にないと答えている。
 「ところでお前、聖杯に望む事ないって言ってたよな?なんか望みとか夢とかないのか?例えば可愛い彼女が…ってお前いるやん…」
 「いや、彼女って誰がさ。そりゃいればいいけど」
 そりゃいればいいけどさ。俺がそう言うと全員から呆れたような目で見られた。……何か間違った事言ったんだろうか?
 「まあ、そうだな。なりたいものは…正義の味方、かな」
 「正義の味方あ?」
 遠坂から呆れたような声で言われた。まあ、言われるとは思ったが。折角なので、親父の事を話してみる事にする……ここにはイリヤがいる。本当の切嗣の娘である彼女には親父の話を伝えるべきだろう。

 「そうだったんだ……」
 成る程、と納得したような顔の一同。士郎も頷きかけて……ふと険しい表情で睨んでいる者が一人いる事に気付いた。
 「……横島、どうしたんだ?」
 「……お前そんなに騒乱と生贄が欲しいのかよ」
 横島の冷たい声に場が凍りついた。


 「……どういう意味だ」
 衛宮が厳しい声で言ってくるが、横島は内心腹を立てていた。凛がイリヤが、いやひのめでさえ一体どうしたのかと驚いてみつめてくるが、止まれない。
 「なあ、衛宮。正義の味方が必要な状況って何だと思う?」 
 「何だよ、急に」
 何を言い出したのか、それが分からない様子の衛宮だが、ここははっきりさせねばならない。何故なら……。
 「それはな、悪がいる時、或いは災害や事件が起きている時だ」
 淡々と横島は告げた。
 「正義の味方がいる時には対極存在としての悪がいて、それに苦しめられる人がいる」
 「或いは災害で多数の犠牲者が出て助けを求めているのかもしれない。そうした苦しんでいる人がいない限り正義の味方は必要ない」
 「正義の味方を目指すという事は、すなわち事件や災害、苦しむ人々を求めるって事だ」
 居間はしん、と静まり返っていたが、横島は容赦しない。
 彼の脳裏に浮かぶのは一体の魔族だ。
 そう、悪でいる事に耐え切れず、しかしその枠から抜け出せない故に枠を形作る世界そのものを破壊するか、或いは己の死を望んだ彼。何が正義だ、悪が皆好き好んで悪になったと思っているのか?自分ではどうにもならない何かによって悪に落ち、しかもそこから逃れられない苦しみを知っているのか?常に正義によって打ち倒されねばならない悪、誰かを苦しめねばならない悪に耐え切れない、けれどそこから逃れられない、それをどれだけ知るというのだ?
 「大体、お前の正義って何だよ。正義なんて立つ立場で幾らでも変わるぜ」
 横島の言葉にそれでも衛宮士郎は答える。横島の言葉を肯定する事はすなわち自らが誤っていたという事でもある。少なくとも士郎は自分が間違っていたと思ってはいない。その理想も。
 「決まってる弱い者を護る事、困っている人を救う事だ」
 だが、その答えは横島の想定内。
 「ほう、それじゃ俺が経験した事実から質問させてもらうが」
 だから、冷徹な口調を崩さぬまま告げた。

 「そうだな、ごく善良なある女性の体を乗っ取ろうとする悪霊が群為して襲ってきたとする」
 「ああ」
 頷いたのを確認して告げる。
 「その女性は乗っ取られたら自分が死ぬから逃げた。けれど、それを追った悪霊達の為に何百何千人という被害が出た。もちろん悪霊を撃退する為に大勢が戦ったけれど悪霊の数は対処出来る数の百倍以上いた……さあ、お前はどうする?」
 「……当然悪霊を」
 「お前が撃退出来る数なんて幾ついると思ってる?その時、その場所には優れた魔術師が大勢いたがそれでも対処しきれない数がいたんだ。無論俺もいたけど無理だったし、むしろ最前線で食い止めようとした魔術師の中にも大勢の被害者が出たくらいだ。お前が加わった所で何人も救えない内に救出対象が増えるのがオチだ」
 そう、それは事実。まだ復活した後、記憶を失っていたおキヌが嘗て悪霊の群とのチェイスをする羽目に陥った時のもう一つの現実。見知らぬ大勢よりおキヌの方が大事だった。だが、あの時あれだけの悪霊が襲い掛かってきて何も被害が出ないなどあるはずがない。この数百数千という数ですら、大勢のGSが奮闘したが故の数字で大分マシな方なのだ。
 「その場合、その女性一人を殺して身体も封印する、のが正しい手段でしょうね」
 その言葉を魔術師としての考えでまとめあげた遠坂凛が言う。イリヤもまた頷いている。彼らは普段は優しい一個の人間だ。だが、同時に必要ならば冷徹な魔術師としての思考が可能だ、そう育てられそう育ってきた。
 「遠坂!」
 「なら、貴方はその時どうするつもり?その女性一人殺せば大勢を助けられる。一人の命と数千の命、どっちを重視するかなんて自明の理だわ」
 そう、ただの感情論では意味がない。士郎は必死に答えを求め……己の内に答えが存在していない事に気付く。善良な女性を助けたい、だが己にその術はなくそれは優れた魔術師が束になっても不可能であった事、とすれば自分が魔術師として成長したとしてもおそらくは対処しきれない状況。すなわちその女性が生きている限り例え自分がその場に送られたとしてそれ以外に事態を変える必要はないという事。

 苦悩する衛宮に続けて横島は告げる。
 「それじゃも一つ問おう。ある大妖怪が転生した人がいた。もし、記憶や力が戻ったら大変な事になると赤子の内に殺した」
 「けれど、その大妖怪がやったとされた事の大部分は実は当時の権力者とかが妖怪に押し付けた方が楽だから、愛する人の、そいつが権力者だったから、邪魔に思って濡れ衣押し付けて殺した挙句自分達の悪行や自然災害の責任まで押し付けただけだったと判明した。さあ、この場合誰が正しい?」
 「それは妖怪の方が」
 「今は妖怪の方が正しいように見えるかもしれん、けれど嘗て殺された事で人間を恨んでるかもしれんから、今度こそ大妖怪にふさわしい力を奮っての仕返し将来大災害を招くかもしれんぞ?」
 タマモが復活した時の事だ。為政者連中のした事は実の所、横島自身には不快そのものの話だが、正しい。そう人間の社会は常にそうやってきた。あいつらは俺を攻撃してくるかもしれない、だから先に叩く。そうやって人類の社会は続いてきた。
 「さあ、どう答える?言っておくが、感情的な答えは認めねえぞ。きっちり解決策を出してもらおうか」

 「……………」
 俺はどちらにも答えられなかった。全てを救う、そう答えるのは簡単だ。だが、おそらくそう答えるならば俺は『どうやって』という命題に答えなければならない。ただ単に理想を告げるだけではどうにもならない。それは横島にきっちり念を押されてしまった。だけど何か言わねばならない。詰まりながら、何とか言葉を探して……。
 「……なら横島は何で英霊になんかなったんだよ」
 出てきたのはそんな言葉でしかなかった。

 「どういう意味だ?」
 「英霊は人類を護る存在なんだろう?ならそれは正義の味方って事じゃないのか。それに英霊になるのって人類の英雄って呼ばれる存在の事ならそれは正義の味方じゃないのか?」
 その士郎の言葉にセイバーがそっと目を伏せる。だが、それに気付く余裕もなかった。
 「それとも横島は英雄じゃないってのか?」

 くだらない。考えて出てきた言葉がそれか、と思ってそれでも必死に自身を護ろうとして言った言葉なのだろうと思う。実際自分がそれまでの概念を否定されるような事を言われればそうすぐには言葉は出てこないだろう。 
 「大した事じゃない。単に魔神倒して世界救ったから祭り上げられただけだよ」
 へ?という顔になる一同。まさかこの横島がそんな立派な理由から英雄になった存在だとは悪いとは思いつつ思わなかったのだ。
 「横島、その魔神って名前あったの?」
 凛が問いかける。横島の実力を考えるとマイナーな英霊ではないと思いつつも、案外地方限定のマイナーな英雄って事も捨て切れなかったのだ。いや、横島がどう見ても日本人っぽいし。日本の英霊なら地方限定でもそれなりの実力を持っているという事も……。だが。
 「アシュタロス、アスタロト、恐怖公、ソロモン72魔神の一柱、好きなので呼べばいいさ」
 横島の挙げた名は恐ろしくメジャーな名前だった。はっきし言って超々大物だ。そんなのが世界を滅ぼそうとしてそれを倒せば、そりゃ確かに英雄にもなるだろう。だが、果たしてそんな事を為せた英雄なぞいただろうか?セイバーすら驚愕して横島を見詰めている。伝説に冠たる名を残すアーサー王さえそんな相手を倒した事はない。真正の魔神とはそれ程に強大な存在なのだ。
 凛はそれを聞いて考えこんだ。そんな相手を倒した存在ならば知らない訳がない。忘れら去られた英雄という事も考えられるが、どうにもふに落ちない。とすると……。
 『未来、いえ……平行世界の英雄?』
 数多の平行世界を渡り行く第二魔法の使い手、宝石翁ゼルレッチを祖に持つ遠坂の魔術師の当主は正解に辿り着きつつあった。 

 その一方でそこまで考えずに素直に褒める者もいる。
 「そうなのか?すごいじゃないか!」
 それこそ英雄ではないか。世界を救ったのならばきっと大勢の人を救えたのだろう。だが、横島の答えはそれを否定するものだった。
 「別に凄い事でも正しい事でもねえよ」
 「正義の味方とか英雄なんていねえ。ただ単に殺した相手が悪役なのか、或いは勝った方がそういう歴史を残すか、大量虐殺に成功したかどうかだけだ」

 その言葉をセイバーは噛み締めていた。
 同じ英霊。故に横島の悲哀が伝わってくる。そう、自分は果たして英雄と呼べる存在だっただろうか?私はそう思えない。私は精一杯やってきたと思う。だが、最後は配下の騎士達に離反され、我が息子とされるモードレットを殺し、殺されるという結末を得た。騎士たるにふさわしくない戦をし、選定の剣は故に折れ砕けた。国に滅ぼされた王は果たして英雄なのだろうか?
 その前で横島は告げる。

 「つけたかなかろうが何だろうが救いたい順位をつけろ。でないと誰も救えねえぞ」
 だが、それは衛宮士郎という歪んだ正義の味方には認められない言葉。順位なんかつけられる訳がない、だがセイバーには共感出来る言葉。それが衛宮切嗣が辿り着いた答えの一つ。
 「でも……横島は世界を救ったんだろ!」
 それでも叫んだ士郎に、横島が告げたのは。
 「ああ。自分の命をくれてやってもいいってくらいお互い本気で惚れた女と引き換えにな」
 そんな一言だった。
 「え?」
 「アシュタロスに最後の選択を求められたのさ。世界か、彼女か。自らにつくならば彼女を生き返らせよう、ってな。ただし、それを選べば世界は滅ぶっと」
 口調は軽い、だがそれに込められた思いは重い。
 「悪魔は嘘はつかない。本当だったんだろうさ。そしてその選択であいつが喜ばないと思ったから俺は世界を取った。だけどーーー」
 僅かな、本当に僅かな時間で決意せざるをえなかった事。果たしてそれは正しかったのか。美神令子はあの時、『これでハッピーエンドって事にしないか』と告げた。だが、その苦悩は伝わってきた。横島にその選択をさせざるをえなかった。だから、それを少しでも軽く出来ないかと、そう願っての言葉だったのは分かっている。どこかで区切りをつけ、前に進まねばならない。生きている限り。

 チャイムの音が響く。
 はっと我に返って一同が見やれば、もう予想外に時間が過ぎていた。続けて玄関を開ける音がしている所を見ると桜が帰ってきたのだろう。一つ舌打ちして横島は立ち上がった。
 「話過ぎたな……だけど、何が大切か、何を護りたいのか、それははっきりさせろ衛宮士郎。例え、自分を捨てて誰かを救っても今度は家族としてか恋人としてかは置いとくとしてお前を愛してくれている人が苦しむ。例え全てを救ったとしてもお前に倒された悪人は救われない。その家族はお前を恨むかもしれない。全てを救うなんて傲慢だし、不可能だ」
 それだけ告げて、横島は姿を消した。おそらく霊体になったのだろう。何時の間にかひのめも姿を消している。
 重い空気は桜が居間に戻ってきても晴れる事はなかった。

 その夜。
 某寺某山門前。
「待ちたまえ、ここから先はサーヴァントを通す訳にはいかんのでな」
 赤い男の前に一人の侍が立ちはだかる。だが、赤い男は戦意を表そうとしない。
 「取引がしたい」
 赤い弓兵は僅かな笑みを浮かべ、日本最高の剣豪の一人に数えられる男に告げた。
 「貴公のマスターに私のマスターになってもらいたい。こちらの条件は一人のマスターを私の手で殺させてもらう事だ」


『後書きっぽい何か』
えーまず宣言
『こんなの横島じゃない』という批判は受け付けません

今回シリアスに出させてもらいましたが、要は衛宮士郎の正義の味方願望破壊の為というのが大きいです。あれがあると正直話が進めにくい。自らの命より他を優先、女の子だからセイバーより自分が戦おうとする。それで自分が倒れればセイバーも消えるというのに…。
どっかで破壊しなければならんのですが、さる事情から赤い人はなかなか出てこれんので、横島に語ってもらいました。つかあの面子の中では彼ぐらいしかいなかったので。
凛には平行世界移動魔法を目指す者として横島の正体に感づき出すきっかけにさせてもらいました。

次回は聖杯戦争らしく展開予定です
ではレスをば。

>ながれさん
いつもありがとうございます
そう言って頂ける言葉が次を書こうという意欲に繋がっています

>斉貴さん
文珠に関しては前回の幕間をご覧下さい
今回少しFateの面子を動かそうとしてみました。まあ、筆力不足で動かしきれたかどうか疑問ですが……。
それとレーヴァテインを防御に、という件ですが
これは、最初から攻撃を捨てて受け流す事に専念していた、という意味です
剣での打ち合わせでも最初から攻撃を捨てて護りに入った相手を倒すのは難しい、そういう意味です

>怪人69号さん
頑張ります
本当にそういって頂けると嬉しいです

>野良猫さん
はい、次回から聖杯戦争らしくなってくると思います
スキルの数についてはまあ、一応理由をつけてはいるんですが……気になるようでしたら、元の世界のスキルとこの世界のスキルが重複している、もしくはジョーカーというクラス特性とでも考えておいて頂ければ…

>HAPPYEND至上主義者さん
レーヴァテインの威力上昇に関してはその通りです
何分世界を焼き尽くした剣ですから、下手したら10年前の災厄以上の災厄を撒き散らしてしまう事になりかねません
威力に関しては互角というより最初から受け流す事に専念して、それでも洩れてきたのは護の文珠で何とか防いだって感じです
セラとリズに手を出さないのは理由としては矢張り、ひのめの友達であるイリヤ付のメイドにんな事する訳にはって事があります。片方は固そうだし、下手に手を出してひのめとの付き合いに反対されるのを無意識の内に恐れたって所です

>水玉模様さん
この世界ではそういうもんだと思って下さい

>匿名さん
だから現在のレーヴァテインはEX宝具ではないと…

>ZEROSさん
まあ、Fate自体が非常に人気のある作品ですので、あまり気にせずいくしかないかなあ、とは思っております
まあ、そうは言っても矢張りへこみますが……
更新速度は……あー…こればかりは仕事しながら合間を縫ってなものでどうにも…

>コングさん
ありがとうございます
基本的に私は他のクロスオーバー作品も楽しいならいいじゃないか、とは思ってるんですが……なかなか
自分のも批判が出ない位楽しいものに出来ればいいんですが…

>玉響さん
うーん、今日で三日目だったか
確かに案外使ってましたね
ただ、まあ、その辺りは……

後、ヘラクレスが反応できなかったのはセイバーに意識が向いていたのと、横島の攻撃を避けて隙をつくる程の事ではないと思っていた為です

>クラフトさん
作戦ですか……
自分で戦場を設定出来ない上、情報を事前に収集出来ない偶発戦闘が多いので正直作戦で、というのはキャスターとかそういう場固定の相手じゃないと難しいかと
細かな作戦とか吹き飛ばすぐらいの力を持ってる連中同士だし、咄嗟に作れる程度のトラップじゃ無視して突っ込んできそうだしなあ…

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI