インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「.hack//Splash login_3(黄昏の腕輪伝説+.hackシリーズ)」

箱庭廻 (2006-10-17 02:08)
BACK< >NEXT


【Δ 萌え立つ 過越しの 碧野】


「にゅふふふふ……み〜た〜よ」

 目に残っているのは黄金色の輝き。

 それを起こしたのは紅の双剣士と小麦色の肌をした重剣士。

 間違いない。

 あれは【ドットハッカーズ】のキャラ。

 ボクは岩の陰に隠れながら、先ほどの光景を目撃していた。

 ――限定プレミアムキャラ。

 ――低レベルでありながら、超鎧将軍の攻撃を凌いだ双剣士。

 ――既存にない特殊スキルを秘めた腕輪。

(タウンからつけてきて大正解! レアの香りがプンプンするよ〜☆)

 聞こえないようパーティモードに設定した状態で、ボクはクスリと笑ってしまった。

「なぁ、レナ」

「なーに、シューゴ?」

(ん?)

「そろそろ戻らないか? なんかこのエリア変だし、また襲われたら死ぬし」

「そうだね。さっきオウルさんがゲートアウト出来たから、今度こそ……」

 ボクの見ている先で、レナと呼ばれた重剣士PCがスクリーンパネルを操作し、シューゴと呼ばれた双剣士PCと共にゲートアウトした。

 二人が光のリングに包まれて消失したのを確認すると、もう隠れる必要もなくなる。

「……レナに……シューゴね……」

 ボクは岩陰から出ると、先ほど盗み取ったスクリーンショットの画像を出現させる。

 それにはシューゴが先ほど使った特殊スキルのシーンと、超鎧将軍の足を“切り付ける”オウルと名乗った双剣士の姿がちゃんと写っている。

 他にも多数の横顔や後姿を取った画像を手に入れた。

 これだけあれば聞き込みにも不自由なく、見つけることが出来る。

「にゃっはー! 見てなよ〜! 愛と勇気のレア☆ハンター、ミレイユちゃんから逃げられるレアはないんだから!!」

 知り合いになろう。

 そして、仲間になる。

 そうすれば、夢のレアイベントがザックザック☆

 にゃははははははははははははははは。

「頑張るぞ〜!」

 えいえいおー!


【Δ 萌え立つ 過越しの 碧野】


 眼下に見覚えのある呪紋使いの姿を捉えながら、私は不可解になった事態に頭を悩ませていた。

「ふむ。妙なことになっているものだ……」

『低レベルエリアで出現するはずのない高レベルモンスターが出る』

 そんなバグ通報を受けて、駆け付けてみれば見覚えのある外装のPC二人と見慣れないPCの超鎧将軍とのバトル。

 いざとなれば駆けつけるつもりだったが、その必要もなく事態は収拾してしまった。

 それも“データ・ドレイン”で。

「あれは失われた我が友の――かつての【カイトの腕輪】のはず」

 姿は変わろうとも、その輝きを忘れるはずもない。

 かつては憎み。

 そして、助けられた“禁断の力”。

 だが、あれは……

「何故今更蘇らせるのだ……“アウラ”」

 理由が分からない。

 目的が分からない。

 それとも。

「再び訪れようとしているのか? 【黄昏】が」

 ならば放置することは出来ない。

 かつての無力さを嘆くこともなく、私はそれから護るための力を得た。

 このTHE WORLDの【管理者】として。

「悲劇は……繰り返させん!」

 ――連絡をしなくてはならない。

 上層部に。

 せめてもの警告を……


【.hack//Splash】
   login_3 夕暮れ竜の探索者たちへ


【Δ 隠されし 禁断の 聖域】


 きっとここから全てが始まったんだと思う。

 ブラックローズに初めて誘われたのもここだったし、バルムンクとも出会った初めての場所。

 そして、ここでボクは……“腕輪を手に入れた”。

「ふぅ……」

 懐かしい記憶が脳裏を過ぎる。

 思わずため息が漏れ出た。

「フフフ。ボウヤ、レディの前でため息とは感心しないわね」

 その声に、ボクは今ここで何をしているのかを思い出した。

 そして、慌てて目の前の女性に謝る。

 そうだ。忘れちゃいけない。

 目の前にいるPCが誰だってことを。

「ごめん、ヘルバ」

 ――ヘルバ。

 それは闇の女王の名。

 ザ・ワールドの世界観の元になっているWEB小説【黄昏の碑文】に出てくる闇の女王の名であり、目の前にいるヘルバはそれに基づいたデザイン、白いローブと目元を覆う仮面を着けた美しい女性型の外装をしているPCだ。

 そして、四年前に一緒に協力してくれた超一流の“ハッカー”だ。

「半年振りのログインでCG酔いでもしたのかしら?」

「違うよ。ちょっと久しぶりすぎて、思い出しちゃっただけ」

 黄昏の記憶。

 もう起こらない悲劇の記憶。

 忘れたくても忘れられない大切な記憶。

 それに酔いしれた。

「それでヘルバ。なんでボクを呼んだの? それもカイトじゃなくて、別のキャラを作ってこいだなんて……」

 セカンドキャラ、オウル。

 それを造るように命じた女性に、ボクは目を向けた。

「その理由の一端はもうあなたは知っているはずよ」

「知っている?」

「【.hackers公式限定エディションキャラクタープレゼント】……知っているわよね? そして、それの当選者たちも」

「うん」

 確かに知っている。

 その企画の存在を知った数ヶ月前は思わずデスクトップ上で驚いて、椅子から転げ落ちてしまったぐらいだ。

 そして、その当選者たちともついさっき出会った。

 内心隠していたけれど、何度ブラックローズと呼びかけたことか。

「ふざけた企画よ。例え有名になろうとも本来一般プレイヤーのデザインを懸賞品にするなんてありえない」

「え? でも実際にCC社からの懸賞品になってるんでしょ?」

「確かに。一応はそうなっているわね」

「……一応?」

「けれど、実際にはCC社の企画部は“そんなキャンペ―ン企画を提出した記録はない”という返答を出しているわ」

「なっ!?」

「正体不明のキャンペーン。これが呼び出した理由の一つ」

「一つ?」

 まだあるというの?

「五日前……CC社のデバック担当プレイヤーの一人が“プレイ中に意識不明に陥ったわ“」

「なっ!?」

「症状はほぼ四年前と同じ。この意味をあなたなら理解できるはずよ」

「そ、そんな!? モルガナ……いや、【禍々しき波】はもう斃したはず――」

「確かに。この世界におけるかつての“神”がもたらした【波】はあなたたちが打ち砕いた。全知全能なる相互作用する存在は彼女に移り、この世界は安定を取り戻した……」


「けれど」


 けれど?

「何故あの災厄を【禍々しき波】と形容したのかを考えたことはある?」

「? いや、ないけど……」

「もしこの世界が大きな海原と例えるのならば、あの【波】は生態系を変えるほどの大波だったと考えることが出来る。そして、考えてみなさい」

「!? まさか……」

 海に風が吹く限り。

「そう。 “波は何度でも打ち寄せる” 打ち砕かれようとも消えることはありえない、【黄昏】という名の嵐が訪れるたびに」

「禍々しき波が……蘇るというの?」

「そこまでは分からない。けれど、警戒することに損はないわ。そして、これがあなたを、カイトを呼ばなかった最後の理由」

 パチンとヘルバが指を鳴らした。

 そして、その指の上に現れたのは奇怪な物体。幾重にも鎖で縛られた……球体? とでも呼ぶべきだろうか。その表面には無数の棘が生え、真ん中には巨大な瞳が浮き出ていた。

 見たことのないモンスターだ。

「これはスパイロボットよ」

「スパイロボット?」

「そう。どこかのハッカーが作った拙い代物。でも、これで“ドットハッカーズは監視されているわ”」

 何度目の驚きだろう。

 ボクは驚きに目を見開き、ヘルバの顔と手の先に浮かぶスパイロボットに視線を向ける。

「今回の事件に絡んでいるのかどうかは不明だけど、この世界のチョッカイ出してる愚か者がいるようね。そして、ドットハッカーズの後ろに私のような技術者がいることも気付いている」

 パチン。

 再びヘルバの指がなり、その上に浮かんでいたスパイロボットが消失する。

「ロボットの機能としては単純だわ。ドットハッカーズのネームに該当するもの、そして“外装”が同一なものを判断理由として監視する。だから、むやみやたらにあなたの正体は知らせないほうがいいわ」

「だから、カイトは使っちゃいけないんだね……」

 スパイ。

 監視。

 身近にはない言葉。感じたこともない行為。

 れっきとした人の悪意を感じる。

「ええ。腕輪の力を持つものは“彼ら”にとっては最大の障害でしょうね。見つけ次第、排除に掛かるはず」

 え?

「……ちょっとまって」

 その言葉に、引っ掛かりを覚えた。

「それじゃあ、シューゴくんたちは……」

「当選者たちは否応無しに巻き込まれるでしょうね。腕輪を手に入れてしまったし」

「そんな! 彼らは何も知らないんだ!?」

 脳裏に仲のよさそうな二人の姿が思い出される。

 これからザ・ワールドに触れ合っていくであろう彼ら。きっとこれから色んな出会いがあるだろうし、仲間も増えるだろう。

 四年前のボクらのように、きっと素敵な出会いや体験をするだろう。

 なのに。

「一方的に巻き込まれるなんて許せるはずがない!」

「なら。あなたが守ってあげなさい」

「え?」

「今の初期装備のままじゃ戦えないでしょ? 私からのプレゼントよ。ビト」


「――はっ」


 ブゥウウウウンッ。

 その瞬間、誰もいなかったはずのヘルバの傍らに現れたのは黒衣の男。まるで映画の忍者のようにマントを翻して、空間から現れた。

「黒のビト……私のパートナーよ。今後から連絡する時には彼を通じて連絡するわ」

「カイト……いや、オウル殿。今後ともお見知りおきを」

「は、はい」

 ペコリと礼儀正しく頭を下げるビトと名乗ったPCに、ボクはそんな返事しか出来なかった。

「これを受け取りください」

 パチン。

 ビトと名乗った人は両手の指を鳴らし、その手に四対の武器を顕在化させた。

「これは……双剣?」

「双剣・炎皇、緑軍、雷帝、闇将です。レベルは低いですが、今のあなたのレベルならばこのぐらいの装備を持っていても不自然ではないでしょう」

「“あなたなら”これでΘサーバーぐらいまでなら対処出来るはずよ」

「あ、ありがとう」

 四つの双剣を受け取り、ボクはデータ化してメニューに収めた。

「そして、これを」

 そういってビトがボクに渡したのは精霊のオカリナだった。

「精霊のオカリナ? でも、これはもう持ってるけど」

「いえ、これは【精霊のオカリナB】。これを使えばダンジョンからバトル中でもルート・タウンに戻れます。管理者が使う転送スキルとほぼ同じものです」

「え? でも」

「あなたに意識不明になられては元も子もないわ。緊急時にはためらわずに使いなさい」

「……わかった。ありがとう」

 同じようにデータ化して収めておく。

「そして、これが闇の女王からの贈り物よ」

 そういって、ヘルバが不意に手を空に伸ばす。

 キィイィイン。

 まるでガラスを引っ掻くような音と共にヘルバの手の中に0と1で構成された――剣らしきものが現れる。

 ビュンとヘルバが手を振るうと、それは瞬く間に色付き、無骨な――真っ白い双剣となった。

「私が作った双剣。神剣・ノートゥングよ」

「ノートゥング?」

「ニーベルングの指輪における英雄ジークムントが振るった魔剣。意味は【神という権威に反抗する人間の愛】。あなたにはぴったりの剣ね」

「……バルムンクの方が喜ぶと思うよ」

 確かそっち関係の神話から名前を取ったって言ってたし。

「倒せない敵が現れた時に振るいなさい。それ以外は決して抜いてはいけないわ。精霊のオカリナBも同様にね」

「わかってる。チート(不正規)アイテムだとバレるとまずいからね」

 そう言って、ボクはヘルバからノートゥングを受け取った。

 腕輪の使えないボクには例えチートアイテムでも必要なもの。バルムンクが聞いたら怒るだろうけど、むやみやたらに使うつもりはない。

 どんな力であろうとも正しいことに使えば、それは救いの手助けになる。

 それをボクは四年前に知った。

「……あ。もうそろそろボクは落ちるよ」

 ディスプレイの外、チラリと見えた時間に約束の時が近いことを知る。

「わかったわ。何か分かったら、ビトと通じて知らせる。それまでは自由に行動なさい」

「わかった。ありがとう、ヘルバ」

 ボクは振り向くと、聖堂の外へ出ようと扉に歩き出した。

「そういえば、言い忘れてたわ」

 ん?

「なに?」

「あなた以外、数名ほど同じように情報とアイテムを与えたわ」

 え?

「【英弟】、【魔女】、【賢者】、【連星】の四人。知っての通り賢者はワイズマン。彼も含めた四人だけがあなたの正体を知っているわ」

「それって……ボクの知っている人?」

「一人は知っているわ。けれど、他は知らないでしょうね」

 誰だろう?

 一人は知っているっていうけど?

「……いい人?」

「一人困った子がいるわね。でも、あなたならなんとかするでしょ」

「無責任だなぁ」

「大人は無責任に育つのよ。頑張りなさい」

「わかった」

 聖堂の扉を開ける。

「じゃ、落ちるね」

「ええ。大変ね、受験生は」

「うん。お陰で一日一時間って約束なんだ。勉強はサボっちゃダメだしね」

「頑張りなさい」

「両方頑張るよ」

 苦笑して、ボクは手を振ってログアウトを選択した。


「あなたたちに夕暮れ竜の加護のあらんことを」


【LOG OUT】


【リアル】


 ……ディスプレイを外す。

「ふぅ」

 久しぶりのログインに、僕は額に汗を浮かべていた。

 トントントン。

 部屋のドアを叩く音。

「はい?」

「陸。約束の一時間だぞ」

 そして、入ってきたのは父さん。

 あいかわらず無愛想だけど、手には特製のクッキーを持ってきてくれている。

 うちの父さんは顔に似合わず菓子を作るのが得意。

「うん。もう止めたよ」

「……そうか。ならこれを食った後、頑張れよ」

「頑張るよ。受験生だしね」

 クッキーの入った皿を受けとると、父さんはそのまま部屋から出て行った。

 その背を見ながら、僕は受け取ったクッキーを一枚口に入れた。

「甘いなぁ」

 甘く味付けされたクッキー。

 それはザ・ワールドと現実世界の違いを教えてくれたような気がした。


あとがき

 今回はインターミッション的な話でした。
 これより物語は歩み始めます。
 オウルたちはかつての英雄でありTHE WORLDを愛するものとして調査を始めます。
 シューゴたちは未だに安寧としたTHE WORLDの手招きで世界に触れ合い始める。
 真実を知る者たち。
 真実を知らぬ者たち
 舞台は同じなれど心は違い、得るものも違う。

 今後はそのギャップと互いの違いを楽しんでいってもらいたいと思います。


あとがき 2

 カイトの正体ばらしに反響が返ってくることは予測していましたが、シューゴに関してのレスが一つもないとは思いませんでしたw ガンバレ若人! 英雄になれるその日まで!!


遂にレスが5つに達して、うれしいレス返し


>ロードス様
 そうです。カイトでしたw 第二話を書きながら、ニヤニヤと画面の前で笑っていたのは秘密w 
蒼天の活躍シーンを取ってしまう形になってしまいましたが、一番効果的な登場シーンというわけで涙を飲んでもらいました。
 とはいっても、ちゃんと出番は用意しているんですけどねw


>盗猫様.
受験に関してはこういう結果になってしまいました。きっとカイトは大切な人たちのためなら出し惜しみしない主義ですから、負担になってでもプレイすると思います。
なんだかんだいっても努力家でしょうし。


>S.G様
きっと本名でプレイする女性キャラはお姫様抱っこで攫われるに違いないw 描写しませんでしたが、まさしくあんな感じで掻っ攫って救出しました。
 ……どこの王子様だ。


ぶれいど様<
 もてもて……というか皆に好感を持たれると思います。
 とはいっても友愛や尊敬という意味で。
 ハーレムものなどはあまり好きではないので、この作品がハーレムものになることは絶対にありません(ラブコメや恋愛描写がないかというと違いますが)。
 オウルとのCP相手は3候補(+1)ほど考えていますが、皆様からの反応を見ながら決めていこうと思います。期待には相手の予想の斜め上で応える主義者ですw


SS様<
 我ながら出していいのかと作品の構想自体で悩んだ最終兵器を投下してしまいました。
 一日一時間の制約に縛られているため、オウルのレベルはシューゴたちは大差ない状態で進むと思います。
 いかに低いステータスを補うか。
 そのヒントはもう全て出しました。
 次の戦闘で披露出来ると思います。あっと驚くと思いますので、お楽しみに。
 なお、ZEROは読み終わり、複線を張りましたw(ニヤリ)

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze