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▽レス始

「宇宙への道第2話(宇宙のステルヴィア)」

ヨシ (2006-10-09 19:40/2006-11-21 19:27)
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(9月末日、1−Bの教室内)

「ステルヴィア」に無事に入学し、学園生活にも慣れて来た頃、俺達に立ち塞がる新たな敵が現れた。

「ここまでが中間考査の範囲だ。60点以下は追試だからな。ちゃんと勉強しておくように」

プログラミングの教師である、白銀迅雷の容赦のないセリフが1−Bの生徒達に突き刺さり、迅雷先生の退場と共に、クラスのほぼ全員が、疲労感で机に突っ伏した。

「迅雷の奴ぅーーー!こんな難しいプログラムが理解できるわけが無いじゃない」

「迅雷先生は鬼だ!」

「孝一郎の言う通りよ!」

俺とアリサが大声で不満の声をあげていると、ジョジョ・大・ピエールも集まってくる。

「あーあ。プログラミングは駄目なんだよな。ところで、お嬢は大丈夫なの?」

「私は何とかね」

「入学成績3位の天才に追試は無縁か・・・」

「孝一郎君も7位だって聞いたわよ」

「えっ!そうだったの?あんた、意外と成績が良いのね」

「意外って・・・。俺は1年ズルをしているからな」

「でも、柔道の練習もしていたんでしょう?」

「まあね」

「あーあ。孝一郎とお嬢は天才で、晶とピエールも成績は良い。大と光太も普通と来たもんだ。バカ仲間は、ジョジョくらいか」

「アリサ、バカは酷くないか?」

アリサの発言を聞いたジョジョは、即座に反論する。

「だって、事実じゃないの」

「お前も、バカだろうが!」

「うーん。否定はしないわね」

ジョジョとアリサは、どちらもあまり成績が芳しくなかった。
ただアリサは手先が器用で、整備関連の教科の成績は優秀であったが。

「そして、意外と成績が良いのが・・・・・・」

「しーぽんか・・・・・・」

俺達がしーぽんに注目すると、彼女は一心不乱に何かをプログラミングしていた。

「しーぽんって、プログラミング早いね」

「そだね」

「しーぽん、可愛い」

「そだね」

「しーぽん、天才!」

「そだね」

「今日のランチと午後のおやつは、しーぽんの奢りで」

「やだよ」

「聞こえていたか」

「しーぽん、何を一生懸命にやっているの?」

「今日の課題のグレートミッションのシミュレーションだよ」

「あれが理解できるの?」

「あのプログラムに改良を加えて、もっと詳くしていたの」

俺達がしーぽんのディスプレイを覗き込むと、迅雷先生の物よりも、複雑で正確なプログラムのモデルが表示されていた。

「あのプログラムに変数を足して、もっと複雑にしてみたの」

「うっ!プログラミングの神が光臨している!」

「孝一郎君は、大げさだな」

「本当だ!すごい」

「天才だ!」

「太刀打ちできない・・・」

いつの間にか、ピエール・ジョジョ・大が後ろからディスプレイを覗き込んでいて、感心したような表情をしていた。

「この際、しーぽんに勉強を習うか・・・」

「それが得策かな」

本人の意思も聞かないまま、男性陣が勉強会の相談を始める。

「こら!ちゃんと、しーぽんに許可を取りなさい!」

「しーぽん。勉強教えて」

「「「教えてください!」」」

「孝一郎君には、いつもお世話になっているから良いよ」

「(俺、何かお世話したかな?)」

「聞いた?あんた達はオマケなんだから、ジュースとお菓子担当ね」

「場所はどうする?」
  
「孝一郎の部屋で良いだろう?」

「無理だ!」

「何で?」
 
「追加の荷物で部屋が埋まって使えない。片付けるのに半月はかかりそうだ」

「何でそんなに荷物があるんだ?」

「父さんと母さんが、貰った賞品を送って寄越したからだ。正直あまりの量に、寝る場所の確保が大変なんだよ」

「オリンピックって、商品が出るの?」

「オリンピック自体には商品はないけど、日本柔道連盟や日本オリンピック協会のスポンサーだの、奇特な金持ちだの、市民だの、会社だのから大量に色々な物を貰ったんだ」

「羨ましいな・・・」

この時代のオリンピックは、国家間の争いが無くなった影響で以前にも増して盛り上がっていて、各惑星圏を含む太陽系中で、一番権威のあるスポーツ大会になったいた。
ちなみに2番目に人気があるのがワールドカップで、3番目がファウンデーションの合同体育祭である。 
そんなわけで、俺は自分でも覚えきれないほどの大量の商品やら賞金を貰っていたのだ。

「そんなに羨ましいのなら、好きな物をあげるから少し協力してくれ」

「「「「「お任せあれ!」」」」」

「みんな現金な性格をしてるよな」

「無料に勝るものなし!」

「アリサの言う通り!」

「それで、肝心の勉強はどこでする?」

「しーぽんの部屋で良いと思うけど・・・」

「えっ!私の部屋で?」

「どうせ、男の部屋なんて汚いし臭いから」

「ジョジョは、エッチな本を隠さないといけないしな」

「この裏切り者が・・・・・・」

「じゃあ、そういう事で」

そんなわけで、しーぽんは自室に掃除に戻り、残りの連中は俺の部屋に直行するのであった。


「うわぁーーー。すげえ!」

「大量に積んであるね」

「父さんと母さんに全部あげたんだけど、やっぱり、お前の物だからって押し付けられた」

「これだけあると、ありがたみが薄れるわね」

「これでも、(ステルヴィア)で使えそうな物を厳選したらしい。日本の俺の部屋や物置にも大量にあるそうだ」

元々2人部屋で広いはずの俺の部屋は大量の賞品で埋め尽くされて、ほとんど床が見えない状態になっていた。

「オリンピックの商業主義も極まれりね」

「あれ?しーぽんは?」

「部屋の掃除だってさ」

「アリサは手伝わないの?」

「私は良品をゲットすべく、ここに待機しているのよ」

「この悪女め・・・」

「しーぽんの分も確保するのよ!」

「何か持って行ってあげるか」

「お嬢と栢山さんは?」

「試験が終わって落ち着いたら、好きな物を選ぶってさ」

「女性って、しっかりしているよな」

「女の子は色々と大変なのよ。それよりも、あとでお嬢や晶と2人っきりになったからって、エッチな事をしちゃ駄目よ」

「俺って信用度ゼロ?」

「しかし、何でもあるんだな」

「○ラえも○みたいだ・・・」

「本当に貰って良いの?」

「一応は、俺に確認を取ってくれ」

「「「「「了解!」」」」」

「なあ、これは良いのか?」

ジョジョが持って来た物は、デジタルカメラとデジタルビデオカメラであった。

「いいよ」

「本当に良いのか?最新機種だし、値段も結構するだろう」

「でも、5台以上持っているから」

「はあ?」

「大きい家電メーカーは、全部スポンサーだったからさ。各社の最新機種が揃っているんだよ」

「金メダルを取るって凄いのね」

「これでも少ない方らしい。柔道はマイナーな競技だからな。マラソンや陸上競技や水泳のメダリストの中には、別荘や重力船を貰う人もいるそうだ」 

「だから、遺伝子ドーピングをする人がいるのか・・・・・・」

「それに、日本は世界一の経済大国だからね。企業の数も多いわけだ」

先の「ファーストウェーブ」で、一番被害が少なかった国は日本であった。
ちょうど裏側にいる時に、「ファーストウェーブ」が到来したからだ。
そして、その後の日本は、経済面で世界の復興を支援し、壊滅的な被害を受けた地域への移住なども積極的に行って、その影響力を増大させていた。
現に「ステルヴィア」の校長は日本人であるし、職員や幹部や生徒も日本人の比率が高かった。
教官の白銀迅雷や生徒の栢山晶・小田原大・藤沢やよいは、外国に移住した日本人の子孫で、日本本土に住む日本人の数は1億人程度であったが、その3倍以上の日本人が太陽系中に散らばって生活をしていた。 


「ねえ、あの米俵は何?」

「米だよ。農協から貰ったんだ」

確か「ファーストウェーブ」後に発生した飢饉の影響で、増産に増産を重ねて大量に備蓄米が余っている農協から、消費拡大キャンペーンの一環で貰った賞品であったはずだ。

「食べないの?」

「60kg×6俵で360kgだからな。食いきれないさ」

「勿体ないね」

「大、欲しいか?」

「僕としては、うどんが欲しいんだけど・・・」

「四国のうどんメーカーから貰った乾麺が、キッチンにあるよ」

「ありがとう」

「そんな物で良いの?」

「僕の大好物だから」


「孝一郎、この大量の服や靴は?」

「全部もらい物だよ。ここのメーカーの服が好きで、練習が終わったら良く着ていたんだけど、それがテレビに映っていたんだって」

「それだけで、こんなに貰えるのか?」
 
「みたいだね」

「貰って良いのか?」
 
「クローゼットに入りきらないから、こんなにいらないんだよ。ピエールなら、サイズはそんなに変わらないだろう?」

「そうだな。ありがたく頂戴するよ」


「光太も遠慮するなよ」

「じゃあ、この携帯プレイヤーを貰おうかな。僕のは古くなってきたから」

「それも何台もあるから好きなのを選びな」

「しかし、本当に凄いんだね」

「これで(ステルヴィア)の試験に落ちていて、日本に居残る羽目になったらと思うとぞっとするぜ」

「ここなら、関係者以外立ち入り禁止だからね」

現在の「ステルヴィア」は、「グレートミッション」の準備が最終段階に移行しつつある状態なので、関係者以外の出入りがかなり厳重になっていた。
特にマスコミ関係者は、情報漏えいの危険があったので、ほとんど出入りができない状態になっていたのだ。

「本当、普通の生活って楽しいよな」


「じゃあ、俺達は買い物をしてから、しーぽん の部屋に行くから」

「よろしくね」

三十分ほどで光太達男性陣は俺の部屋を去り、残りはアリサだけになっていた。

「アリサは何を選んでいるの?」

「生活用品よ。あとで買い揃えようと思ったんだけど、ちょうど良かったわ」

アリサは、食器や調理器具や掃除用品などの生活雑貨を探し出して集めていた。

「意外とささやかなんだな」

「しーぽんも私も、お小遣いの節約になって一石二鳥なのよ。それよりも、孝一郎は料理とかはしないの?」

「お湯を沸かしてカップ麺に注ぐか、電子レンジでチンが良いところだね」

「男って駄目駄目ね」
 
「大きなお世話だ。だから、キッチンの食材も貰っていけば?俺は料理なんてしないし。でも何で母さんは、こんな物を送って寄越したんだ?俺が料理できない事を知っているくせに・・・」

「1人暮らしになるから必然的に覚えると思ったのか、彼女ができて作ってくれると思ったかのどちらかなんじゃないの?」

「的確な回答に感謝します」

「孝一郎は結構モテるのよ。私達4人が毎日普通に話しているのを、羨ましいと思っている娘も多いし」

「それは初耳だ。でも、期間限定なんじゃないの?」

「そうかもしれないけどね。でも、私もしーぽんに孝一郎のオリンピックの時の映像を見せて貰ったけど、普通に格好良かったわよ」

「お褒めに預かり光栄です」

「さて、そろそろ部屋に戻って勉強を始めますか」

「そうだな。荷物も大分減って、床が見える面積も増えたし」

「一緒に行きますか。荷物も多い事だし」

「アリサさんは、私に荷物持ちをしろと仰るので?」

「正解!」

「お任せあれ」

「何が、お任せあれよ」

「アリサは一応は女で、俺は一応は男だからさ」

「一応は、余計だっての」

俺が勉強するための道具を素早く準備していると、机の上に見慣れないケースが置かれていた。
どうやら、色々な物がなくなった影響で、奥から出てきた物らしい。

「これ何だろう?」

「何が?」

「これだよ」

俺は無造作にアリサにケースを放り投げた。

「もっと大切に扱いなさいよ!うわぁーーー。綺麗」

ケースを開けたアリサがうっとりとした表情で中身を眺めていたので、俺も横から覗き込んでみる。

「ペンダントか。これ何の宝石なの?」

「孝一郎は、何も知らないのね。ブルーサファイアよ。色具合も良いし、透明度も高いから、結構なお値打ち物よ」

そういえば理由は不明であったが、宝飾メーカーもスポンサー企業に入っていて、「お母さんにどうぞ」という事で貰ったような記憶があった。
 
「そうなんだ。でも、良く知ってるね」
 
「アリサちゃんは、乙女ですから」

「女って生き物は、宝石が好きなんだね」

「程度の差はあるけどね」

「アリサも、宝石は好き?」

「そりゃあ、乙女ですから」

「じゃあ、あげるよ」

「えっ?」

「だから、あげるって。プレゼントする」

「こんな高い物を貰えないって!」

「いいから。あげるって」

「でも・・・・・・」

「俺が持っていてもしょうがないもの。乙女度がマイナスの俺よりも、アリサが持ってた方が良いって」

「でも・・・・・・」

アリサは珍しく困ったような顔をしながら、俺の顔を見つめている。

「もし貰わないと、明日から俺がそれを付けて教室に乱入するけど」

「それは気持ち悪いわね」

「だから、素直に貰えば良いんだよ」

「わかった。孝一郎、ありがとうね」

「宝石は、女性が持っていた方が良い」

「本当にありがとうね」

「では、お勉強のためにお部屋に戻りますか」

俺達は大量の荷物を抱えながら、じーぽんとアリサの部屋に向かうのであった。


「うううううっ。アリサと孝一郎君が遅い!」

2人が部屋を出たちょうどその時、片瀬志麻は物凄く不機嫌であった。
無事に掃除を終わらせて、買い物を済ませた4人も合流していたのだが、肝心のアリサと孝一郎がまだ到着していなかったのだ。

「アリサ、随分と欲張っていたからね」

「じゃあ、まだ2人で部屋に残っているのかな?」

「ジョジョのバカたれが!」

ピエールが取り返しのつかない発言をしたジョジョに悪態をつくが、しーぽんの機嫌は更に悪化していく。

「もう!早く勉強を始めないと間に合わないのに・・・・・・」

「ただいま!しーぽん!」

「遅いよぉーーー!アリサぁ!」
 
「悪い悪い。生活用品を大量にゲットしたから、お小遣いの節約になるわよぉーーー」

「本当?」

お小遣いの節約という言葉で、少しだけしーぽんの機嫌が良くなっていく。

「孝一郎が使わないって言うから、大量に貰ったのよ」

「そして、俺に荷物持ちまでさせる酷い女なんだよ。アリサは」

「可愛い乙女のお役に立てたのだから、ありがたく思いなさい」

「へいへい。そういう事にしておきますよ。はい、しーぽんにプレゼント」

俺は持って来た大きなヌイグルミをしーぽんに手渡す。

「わあ、ありがとう」

「「「(やれやれ、しーぽんの機嫌が直って良かった)」」」

「それじゃあ、勉強を始めますか」

俺達はやっと勉強を始める事にしたのであった。


「いえーーーい!みんな、ノッてるかーーーい!?」

「いえーーーい!」

「いえーーーい!」

「ノリノリでーーーす!」

初めは真面目に勉強をしていた俺達であったが、ジョジョが、巨大なウサ子のヌイグルミの耳がはみ出していたクローゼットを開けてしまい、中から大量の玩具が出てきてしまった事により、俺と光太としーぽんを除く全員が遊び始めてしまったのだ。

「俺は知らないからな」

「勉強前のくつろぎのひと時だよ」

「それは、俺の部屋で済ませただろうが」

「固い事は言いっこ無しよ」

「仕方がない。脱落者は置いて行くか。しーぽん、説明をお願い」

俺と光太がディスプレイを覗き込むと、しーぽんの解説が始まったが、その内容は迅雷先生の何倍もわかりやすかった。
 
「しーぽんは、教えるのが上手いね」

「先生向きかもね」

「いやーーー。それほどでも。あっ、そうだ!もっと詳しく出来るんだよ」

「そう。もっと詳しく」

「どうやって?」

「(ステルヴィア)のメインサーバーに直接アクセスして、そのデータをそのまま使うの」

しーぽんは、携帯端末でアクセスしたメインサーバーのデータをノートパソコンに転送し始める。
 
「それって、不法アクセスでは?」

「大丈夫だよ。学園長のパスワードを使ってアクセスしてるから」

「光太、どう思う?」
 
「うーん・・・・・・」

「ほら、これで完成」

「確かに、精密なシミュレーションだな・・・」

「そうだね」

「何をしているの?」

俺と光太がディスプレイの画像を感心しながら眺めていると、大がこちらに身を乗り出してきた。

「大、見ろよ。綺麗なシミュレーションだろう?」

「本当だ。凄いね」

俺達勉強組は静かにディスプレイを眺め、アリサ達は音楽を鳴らして大騒ぎをしているという状況になっていた。

「でも、あんまり五月蝿いと苦情が・・・・・ ・」

「うるせぇんだよ!」

「ほらな。苦情が・・・・・・」

俺の心配は的中し、ドアを蹴り破るような勢いで部屋に入ってきた晶の雄叫びが部屋の中に轟いたのだが、アリサ達はまだそれに気がついていないようであった。
 
「うるせぇ!って言ってんだろ!」

「栢山晶さん、ご入場です」

「苦情ならあの3人に言って」

「団体責任だ!」

「栢山さんはキツイなーーー」

「きゃあーーー!」

「どうしたの?しーぽん」

急にしーぽんが悲鳴をあげたので、全員の視線が彼女に向いた。

「(ステルヴィア)のメインサーバーのデータを書き換えちゃった・・・・・・」

「何ぃ!」

「一番悪いのは誰かな?」

「大ちゃん、キーボードから手を離して」

しーぽんのパソコンのキーボードの上に、大の手が乗っていた。
どうやら、驚いたショックで手を乗せて余計なキーを押してしまったようだ。
 
「えっ?僕のせい?」

「みたいだな・・・・・・」

「しーぽん、すぐに直して!」

それでも、彼女のプログラミングの腕は天才的で、僅か数分でデータの修正に成功する。
 
「プログラムは直せるけど、メインサーバーのアクセスログは消せないよ」

「もし不法アクセスが見つかれば・・・・・・」

「退学かな?」

「他人事のように抜かすな!」

アリサは諸悪の根源である大に蹴りを入れ始め、ピエールとジョジョがそれを懸命に止めている。

「じゃあ、私はこれで」

「「「「「「逃げるな!」」」」」」

次に、俺達が2番目に悪いと勝手に思っている晶が逃亡を図ろうとしたので、それを全員が止める。 

「こうなれば、メインサーバーで直接操作を行うしか・・・」

「それしか無いのなら、実行あるのみだ!」

「悩んでも仕方が無い!全員で出発よ!」

「「「「「「「おーーー!」」」」」」」

こうして、俺達はメインサーバーを目指して出発するのであった。


「何で私まで・・・・・・」

「栢山さんにも多少の責任があるから」

「あんた達が、五月蝿いからでしょう!」

「まあまあ、落ち着いてよ」

総勢8人の男女は、「ステルヴィア」のメンサーバーを目指して夜の市街地を歩いていた。

「でもさ。もう少し人通りの少ないルートは、なかったわけ?」

「ジョジョは気安く言ってくれるけど、このルートがベストなんだよ」

大が携帯端末を覗き込みながら、このルートの正当性を主張する。 

「それで、市街地を抜けたら次はどうするんだ?」

「横穴があって、それを登るみたいだ」

「それはわかったけど、何か俺達って浮いてるよね」

夜の繁華街に15〜16歳の少年少女の集団がいるのだ。
日本なら、補導されても文句は言えない状況であった。

「とにかく、何か言われない内に・・・・・・」

「君達はここで何をしているんだ?」

大の先導で横穴に続く裏道に入ると、そこには見回りの警備員が俺達を待ち構えていた。

「ははは。えーと」

「予科生が、こんな時間にここをうろつくのは感心しないな」

「人と待ち合わせをしていまして・・・・・・」

「誰とだね?」

「本科生の友達でして・・・・・・」

「名前は?」

俺はとっさに嘘を付いたのだが、警備員には疑われているらしく、次々に細かい質問をされていく。

「ええと・・・・・・」

「やあ、君達」

「(ビック4)のケント・オースチンか」

「すいません。実は彼らは僕の友人で、迎えに来て貰ったんですよ」

「そうなのか。それなら良いんだ」

オースチン先輩の説明で警備員は納得したらしく、あっけなくその場を立ち去ってしまった。

「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」

「どういたしまして。でも、遊ぶ時はもっと要領良くした方が良いよ」

「すいません。ご迷惑をおかけして」

「厚木君も、夜遊びなんてするんだね」

「私も1人の人間ですから」

「それもそうだね」

「本当にありがとうございました。それでは、失礼します」

俺達はオースチン先輩にお礼を述べてから、横穴に向けて歩き出した。

「しかし、ケント先輩って話がわかるよな」

「悔しいが認めよう。僕はライバルに出会った」

「よく言うよ・・・・・・」

ピエールのキザなセリフに、アリサが呆れたような表情をしている。
 
「でもさ。孝一郎はケント先輩と壁を作っているよね。最低限の礼儀は守っているけど、あまり関わり合いになりたくないように見える」

「私もそう感じた」

俺は、アリサと栢山さんに鋭い指摘を受けてしまう。

「オースチン先輩の兄貴とは因縁があるんだ。彼自身は悪い人ではないと思うが、兄や一族の意向に逆らえないで、俺に危害を加える可能性がある。ただそれだけだ」

「ああ。あの無差別級の決勝でバックドロップで倒した金髪ゴリラが、ケント先輩のお兄さんなんだよね」

俺はバックドロップでは無くて裏投げだと言いたかったのだが、アリサが柔道の技を知っているはずもないので、諦める事にする。
 
「全然似ていないお兄さんだよね」

しーぽんの指摘に全員が一斉に頷いた。

「ムカつく奴だったけどね」

「恨まれてるの?」

「あそこの一族は次期後継者を巡って、水面下で争いが起こっているからな。(ステルヴィア)で名をあげて優位に立っている弟に焦っていた兄のグレッグ・オースチンは、金メダルを取ってこの争いに勝利したかったらしい」

「それを、孝一郎に邪魔されたわけだ」

「でも、ケント先輩は実家を継ぐつもりはないらしいよ」

「何で大がそんな事を知っているんだ?」

「内緒」

「なら、お兄さんも安心なんじゃないの?」
 
「あそこまで財団の規模が大きいと、周りの人間が勝手に心配して無駄に行動するんだよ。それを考えると、俺が(ステルヴィア)に来たのも運命だったのかな?」

「ここなら、あの金髪ゴリラの嫌がらせも届かないから?」

「唯一の懸案事項は、ケント先輩だけどね」

「ケント先輩が?」

「まあ、色々と考えるとね」

「お話はここまでにして、横穴に向かうとしますか」

ピエールの言葉で、全員が歩調を速めるのであった。


「下が見えない・・・・・・」

「大!本当にこのルートしか無いのかよ!」

「怖いよぉーーー」

「しーぽん!下を見るな!」

俺達は大の情報を元に、巨大な竪穴を作業用の梯子を使って上に登っていた。

「どうやら、中心部の竪穴らしいな」

「それで、どのくらい登れば良いのよ?」

「もう少しで横の通路に出るから」

「本当かよ・・・・・・」

「大丈夫だって」

この状況でも大は落ち着いたままであり、俺は「大って実は大物なのでは?」と思ってしまう。

「あれ?」

「どうしたの?孝一郎」

「何か音が聞こえない?」

「風の音の事?」

「危ない!伏せろ!」

突然大きな声が聞こえたので全員が伏せると、上から大量のゴミが落下してくる。
どうやら、ここはダストシュートも兼ねているようだ。

「助かったぁーーー」

「今の声は誰だ?」

俺達が声のした方を見ると、そこには顔半分をアンダーマスクで覆った、ロープにぶら下がった1人の男がいた。

「笙人先輩ですか?」

「ああ。それで、君達はここで何をしているんだ?」

「サーバールームに用事がありまして・・・」
 
「ならば、付いて来るが良い」

俺達は笙人先輩の誘導で、近くの非常通路に移動する。

「サーバールームなら、こんな危険なルートを使わなくても到着するが」

「あっ!本当だ!」

「「この!スカタンが!」」

今更になってその事に気が付いた大に、アリサと晶がチョップを入れる。

「ところで、先輩はここで何をしていたんですか?」

「修行だ。では、私はこれで」

笙人先輩は、一瞬にして姿を消してしまった。

「忍者だ・・・」

しーぽんの言葉に全員が無言で頷いた。


「次は外に出るのか・・・・・・」

今度は大丈夫だという大の誘導で、俺達は船外作業用の宇宙服に身を包んで「ステルヴィア」の外面に立っていた。

「大、本当にこの道で良いのか?」

「うん。一番他の人に見つかり難い通路なんだよ」

「まあ、行くしかないんだけどね・・・」

「この先にあるハッチに到着すれば」

「おい、誰かがいるぞ」

「本当だ・・・・・・」

大の誘導で目的地に向かっていると、前方に人の姿が確認できた。
その人は、座禅を組みながら瞑想をしているようだ。

「孝一郎、あの人を知っているかい?」

ピエールが俺に質問をしてくる。

「ああ、ナジマ先輩だよ」

「(ビック4)のか?」

「そうだ。歓迎パーティーでダンスを踊った事があるから、顔見知りではある」

「これで立て続けに3人目か・・・」

「どうしようか?」

ナジマ先輩は瞑想に夢中のようで、俺達の存在に気が付いていないようだ。

「俺が聞いてみるか・・・」

「孝一郎君、お願い」

責任を感じているのか口数が少ないしーぽんに頼まれたので、俺はナジマ先輩に話しかける事にする。

「あのーーー。少しよろしいでしょうか?」

「あら。厚木君なの?」

「ええ、そうです。ナジマ先輩は、ここで何をしているのですか?」

「地球光浴よ」
 
「地球光浴ですか?」

「そうよ。母なる星の恵みをこの身に受けているの」

「なるほど。実は大切な用事がありまして、後ろを通ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構わなくてよ」

「では、失礼させていただきます」

許可が出たので、俺はみんなを呼び寄せてから先に進む。

「ありがとうございました」

しーぽんは最後尾でナジマ先輩に頭を下げてから、俺に追いついて来る。

「私達、あそこから来たんだよね」

「そうだな。改めて見ると綺麗なものだな」

「孝一郎!しーぽん!早く行くわよ」

「へいへい」


その後、俺達はコントロールパネルが設置された巨大な扉の前に到着する。

「セキュリティーが強力そうだな・・・」
 
「もう外しちゃった」

コントロールパネルの横に携帯端末のコードを繋げて何かの作業をしていたしーぽんが、あっけらかんとした表情で答える。

「パスワードは?」

「それも、もう突破したから」

「ハッカーしーぽんか・・・」

しーぽんが調べたパスワードを入力すると扉は開き、前にはメインサーバーの端末が見える。

「急いでやってくれ!」」

「任せてよ!」

しーぽんは驚異的な速さでキーボードを叩き始め、もう少しで目的は達成されると思ったのだが・・・・・・。

「ちょっと!あなた達、何をしているの!?」

後ろから大きな声が響き、全員が後ろを振り返ると町田先輩とお嬢の姿が確認できた。
2人は、船外作業用の宇宙服の格好のままで、ヘルメットを小脇に抱えていた。

「これには深い理由がありまして・・・・・・」

「まさか破壊工作?」

「それは、大げさではないかと・・・・・・」

「厚木君まで何をしているのよ!」

町田先輩の怒声がサーバー室に響き渡り、その瞬間にメインサーバーのセキュリティシステムが、激しく警報を鳴らし始める。

「えっ!どういう事?」

「ごめん。また僕みたい・・・・・・」

大の手が再び入力用のキーボードを押していて、正面の画面には意味不明の文字が次々と流れ始めていた。

「作戦失敗か・・・」

「何か大変な事になりそうな予感・・・・・・」

「しーぽん、それ予感じゃないから」

「退学だぁーーー。逮捕だぁーーー」

俺が全てを諦めた横で、しーぽんが泣きべそをかきながら嘆きの声をあげていた。


「誰が、お前達みたいな危険人物どもを退学なんぞにするか!精々厳しく鍛えてやるから覚悟するんだな!」

その後の俺達は教官室に連行され、レイラ先生によって長時間の説教と耐G訓練機による罰を受けていた。

「ひえーーーーーー!」

「止めてくれぇーーーーーー!」
 
「勘弁してくださぁーーーーーーい!」

8人の男女は、4人ずつに分かれて2台のマシンで最高速度で振り回されていた。

「吐きそう・・・・・・」

俺は女性陣の方のマシーンに放り込まれていたが、あまりに過酷なGのために、その事を羨ましがる男性陣は皆無であった。

「そういえば、テスト対策ってどうなっているんだろう?」

「ごめんなさぁーーーい!」

俺の疑問に答えられそうな人は皆無であり、俺の隣ではしーぽんの絶叫が響き渡っていた。


「いやはや、昨日は驚いたね」

「まさか、メインサーバーに予科生が侵入するとは・・・」

あの事件の翌日、「ビック4」の面々は緊急会議を開いていた。

「あの子達、そんな事をしていたのね」

「僕もそこまでは予想できなかったな」

「あなた達が、疑いもしないで通してしまうから!」

「つい面白そうだったのでな」

「笙人まで!」

「ビック4」の中で一番の常識人である町田初佳が他の3人に文句を言っているが、それを気にする者は皆無であった。

「ケント、お兄様は大喜びなのではなくて?」

「どういう事だい?ナジィ」

「今回の件は大不祥事で、メインサーバーに進入した予科生の中には厚木孝一郎もいたわ。彼を退学に出来るチャンスなのではなくて?」

「そんな事はしないさ」

「どうして?」

「厳重さでは地球圏一と言われた、(ステルヴィア)のメインサーバーのセキュリティーが、予科生ごときに破られてしまったんだよ。こんな重要な秘密を、部外者である兄貴には話せないさ」

「なるほど。そういう事にするのね」

「だから!僕は、彼を陥れるつもりなんてないんだよ!」

「それはどうかしら?」

「ナジィ、僕をからかって楽しんでいないか?」

「そんな事はないわよ」 

「それと、笙人のその格好は何だ?」

「これは甚平という昔の日本の服だ。寝巻き代わりに使用している」

「ビック4」の集まりが夜であった影響で、笙人は甚平姿で集合していた。

「そんな物を持っていたんだな」
 
「今日の放課後に厚木から貰ったんだ。お世話になったお礼だそうだ。自分は既に持っていて、余っているから使ってくださいとの事でな。その他にも、浴衣と作務衣も貰ったぞ」

「僕は何も貰っていないな・・・」

「私も最新機種の電子ブックを貰ったわ。シェイクスピア全集が入っていたから重宝しているわ」

「そんな・・・。ナジィまで・・・」

「初佳はどうなの?」

「昨日迷惑をかけたお詫びとかで、お米や味噌やうどんやそばを貰ったわよ。彼、意外と気が利くわね」

「何で僕だけ?」

「彼、あなたを避けているのね・・・」

「事情が事情だけに仕方がないだろう」

「ケントは実家がお金持ちなんだから、いくらでも買えるでしょう」

「僕と彼の間に、信頼関係が築かれるのはいつなのだろうか・・・?」

ケント・オースチンの苦悩の日々は始まったばかりであった。
 


         あとがき

実はカップリングをまだ決めていません。
PS2のゲームみたいに、お嬢スパイラルになったりして・・・。

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