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▽レス始

「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第二話後編(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-10-09 14:01)
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「ほら、リーザス城が見えてきたわよ」

手綱を操り『うし車』を停止させると、かなみは遠方に見える白を基調とした巨大な城を指差した。

今からおよそ480年前、GI(注:前代魔王ガイの時代を指す)534年、リーザスの建国王グロス・リーザスがこの地でヘルマン帝国からの独立を宣言して以来、幾度となく戦火に曝された地。
外敵に脅かされ、しかしその度にリーザス王国は総力を挙げて立ち向かい、一国家として独立を保ち続けた。

現在ではリーザス王国の平和と繁栄の象徴、大陸一美しいと言われる建造物、それがリーザス城であった。


「うーんうーん・・・乗り物コワイ乗り物コワイ・・・」

だが横島はそんなかなみの呼びかけも耳に入らないのか、荷台の隅で膝を抱えた体育座りでブツブツ呟いている。
その反対側にはとうとうリーザスに到着するまで高鼾で居眠り状態の男、ランス。

横島が舌を噛んでからは大人しくなったため、特に気にすることもなくうし車を走らせていたが、まさかこんな状態にまで陥っていたとは・・・。
その酷く極端でシュールな光景にさすがにかなみも悪いと思い・・・。

「・・・ねぇ、ひょっとして乗り物に凄く弱い体質とか?ごめん、途中から『静かになった』から『慣れちゃった』と思って」

口調は気遣ってるようなのだが、その言葉が随分と白々しく聞こえてしまうのは被害妄想だろうか・・・?

「ブツブツ・・・うそだぜったいうそだかなみちゃんはおれを亡き者にしよーって思ってたんだ。だいたい乗り物にはロクな記憶がないんだ。首都高を200kmオーバーで走る車から投げ捨てられるわ、F1マシンでトップスピードのまま壁に激突するわ、空飛ぶ箒に乗って音の壁にぶつかるわ、モーターボートから錨を巻きつけられて海に沈められるわ、ああぁぁ・・・そういえば月から地球へ帰るときの宇宙船から放り出されて生身で大気圏突破するわああああ!!」

揺れに揺れまくった『うし車』は横島の過去の惨劇を脳裏の奥から掘り起こしたのか、横島の精神は崩壊寸前である。

「・・・意味のさっぱり分からない言葉だらけだけど『うし車』の揺れなんて比較にならないくらい凄いコトなのは判る気がするわ・・・・・・」
眼の虚ろな横島が呟く言葉に対するかなみの戦慄は正しい。
横島以外の人類では間違いなく死亡するだけに尚更だ。
げに恐ろしきは『ギャグ体質』である。


「あぁぁっ!このガラスのように繊細な心(ハート)を打ち砕かれたボクを癒すためにもかなみちゃん!!とりあえずうつ伏せ膝枕でスーハーさせてくれぇぇ!!」

「何が『とりあえず』よっっ!!!」

――ドゴォッ!!

体育座りの状態からノーモーションで飛び掛ってくる横島を肘鉄で迎撃。
その的確なツッコミと鋭さは中々に見事。
ポイント評価で『0.5美神さん』をあげましょう。

『目安は1美神さん=横島さん30秒間の沈黙(轟沈)なのね〜』(某100個の感覚器官を持つ女神様、語る)

変な単位なんか考えてないで仕事しろ役立たず。

『ちなみに今までの最高記録は美神さん本人による『8,640美神さん』なのね〜』

丸三日かよ、つーか、やかましい、カエレ。

『ひどいのね〜』


―閑話休題


「・・・あ・・・アレ・・・・・・?」

しかも無意識にやったらしい。
無自覚に、しかし確実に『何か』に染まっていくかなみであった。


「・・・うーん、やっぱりいきなり『うつ伏せ膝枕』はマニアックすぎたか・・。もう少しフラグを立てて親密になってから要求するべきだった・・・・・・」

そしてポイント通りにきっちり15秒後に復活した横島は、懲りずに妄言を吐き続け、再びかなみに叩かれたそうな。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!  第二話「グレート・筆頭侍女!(後編)」〜


外敵からの侵入を防ぐ為に円周上に設けられた城壁、街道の繋がる先には絶えず人々の行き来を管理している正門があった。
かなみはうし車をいったん止めて詰め所の衛兵に話しかけると、既に連絡が行き渡っていたのか簡単に通行の許可が降りた。


「ここがリーザス王国の中心、王都リーザスよ。とても大きくて綺麗な街でしょ?大陸中でもこれほど立派に整備された都市といったら・・・後は魔法王国ゼスの首都ラグナロックアークくらいじゃないかしら」

市街地に入り、うし車の速度が普通に歩くのと同じくらいになったため、横島の精神もようやく安定する。

「はあ・・・城もでっかくて綺麗だし、立派なモノっスねぇ・・・」
真っ青だった横島の顔にも少し血の気が戻ってきたようだ。
かなみの座る御者台の傍に立ち、キョロキョロと視線をあちらこちらへと移して物珍しそうに周囲を見渡している。
その姿は田舎から出てきた御のぼりさんそのものであった。
かなみはそれを横目に見て、隣に居る自分が少し恥ずかしくなったが特に指摘するようなことはしなかった。

異世界と言っても、街の風景、人の営みに然したる違いはないようだ。
もちろん細かなところで様相は異なるが、理路整然とした石畳の道路、植え込まれた樹木や草花、道行く人々の服装など、横島の元いた世界と違いはそれほど感じられなかった。


つまり・・・。


「おおおおお!そっこの道行く美しいお嬢さん!!よければ私とお茶でもしま・・・ぶぎゃああ!かなみちゃん!苦無!クナイ刺さってる!!」

横島の行動も元いた世界と変わることがないのだった。
その後に必ず受ける制裁も。


「・・・あのねぇ、横島さん・・・?いい加減、私も貴方の行動パターンが『非常に不本意ながら!』読めてきたんだけど・・・」

後頭部から血をダラダラ流している横島に恐ろしく据わった目を向けて、

「いい?リア様はもちろん・・・マリス様にまで同じような無礼を働いたら・・・どうなるか覚悟はできてる?」

「ひぃっ!・・・って、別に俺、来いって命令されてるわけじゃないし・・・そもそも・・・」
確かに横島には何も無条件にかなみに着いてこなければならない理由は無い。

「はぁ・・・言い方は悪いけど、素直に従ったほうがいいと思うわよ?異世界からやってきて知り合いもなく一人ぼっち・・・それどころかロクな知識も情報もなく大陸を旅することになったら・・・いくら貴方が自分の腕に自信があるとはいえ、それじゃ元の世界に帰るどころか生き延びる事だって難しいわ。そうなるくらいだったらせっかく手にした縁を利用して帰る手がかりを少しでも得ようとするほうが得だと思うけど?」

心の底にある本音とは裏腹に、出てくる言葉は損得勘定に訴えかける半ば脅迫じみた台詞。

そして、実際かなみの言うことは至極尤もでもあるのだ。
あまりの正論に横島はうぐぅの音も出ない。

「うぐぅ・・・」
いや、それ男が言っても全然意味無いから。

(・・・私だってホントはこんなこと言いたくはないんだけど・・・ブツブツ)
いくらマリス様の命令とはいえ、これでは半分騙しているようなものだ。
(恨みますよ・・・マリス様・・・)

いつもの任務として冷酷に割り切れば罪悪感を感じなくて済むのに、今のかなみには何故かそれが出来なかった。


やがて城下町を通り抜け、後は城門までの坂道を登るあたりに差し掛かったところで・・・。

『ダァ――――リィ――――――ン!!!!!』

坂道の上から砂埃を巻き上げてこちらへ向かってくる遠目にも華やかなドレス姿の女性を先頭に、その後ろをナースキャップにナース服で揃えた一団が突撃してきた。

思わず腰を浮かしかける横島の首筋に苦無が当てられる。
眼が問いかけてくる・・・デッドorアライブ?

「あ・・・あいうぉんとぅあらいぶ・・・」

その返事に満足すると、苦無を懐にしまう。


『ダーリン』と叫びながらやってくる豪奢なドレス姿の女性、艶やかなロングヘアのかなりの美女である。
走り来るその姿は鬼気迫るものがあり、かなみ達の乗るうし車の荷台まであっと言う間にたどり着く。

「あああっ!ダーリンったらこんなにやつれ果てて・・・それになんて苦しそう・・・っ介護チーム!!」
高鼾で大口を開けて涎まで垂らしている男にどうしてそんな描写が出てくるのか分からないが、それが乙女ビジョンと言うものなのであろう。

パチンッと高らかに指を鳴らすや否や、背後に控えていたナースの女性達が一斉にランスをやたらと派手な担架に乗せあっという間に運んでいく。
「さぁ、貴女達!すぐに私の部屋にダーリンを連れて行くのよっ!」
「「「了解いたしました!!」」」

そして呆然とする横島を一度も視界に収めることもなく、来たときと同じ勢いのままに去っていく。


「・・・・・・かなみちゃん・・・ひょっとして今のあの女の人が・・・?」

「ええ・・・あのお方がリア・パラパラ・リーザス女王陛下よ・・・」

横島の察したとおり、かなみは肯定の返事とともに深く項垂れるのであった。


気を取り直して城門へと向かうとする横島とかなみ。
歩き始めたそのとき、かなみは城門で自分の良く知る友人がこちらの様子を伺っているのを見つけた。

「お〜い、かなみちゃ〜ん!」
こちらが気づいた様子に相手も気づいたのか、大きく手を振っている。

「メナド?」

やがて城門の側までたどり着くと、その少女がねぎらいの言葉をかけてきた。
「おかえり、かなみちゃん。大変だったみたいだね」

メナド、と呼ばれた女性・・・いやまだ少女と言ってもいい位の年頃で、赤を基調とした鎧を着ており、腰には剣を帯びている。
ボーイッシュな印象を与える短髪に、気安くかなみに話しかける口調とは逆に、佇まいや雰囲気は明らかに軍人の、それも相当な腕前であることが見て取れる。
それらが相まって、そのギャップに横島は面食らっている。

「ただいま、メナド。ええ、もうずいぶんと色々な目に遭ってね・・・あ、そうそう、こちらが・・・」

「横島忠夫様ですね。初めまして、ボク・・・いえ私はリーザス赤の軍副将メナド・シセイです。マリス様より案内役を仰せつかりました。どうぞこちらへ」

横島は知るはずも無いが、リーザス赤の軍とは大陸でも有数の突進力を誇り、常に先陣を駆け抜ける切り込み部隊。
まさに戦場において、敵を討ち倒すための真の実力が必要とされる部隊である。
そのような部隊をこの若年で率い、副将を務めるとは並大抵の実力ではないのだろう。

「あ、ああ。よろしくメナドさん」
しかし、横島にしては何とも薄い反応である。

かなみは少し疑問に思ったが、先ほどの自分の脅しが効いているのだろうと満足した。


(・・・城門を潜る前から、いや実際は街に入ったときからなんだろうが・・・視線を感じるな)

横島に対して向けられる監視の眼。
それを敏感に横島は感じ取っていた。

もちろん相手は相当の手錬、本来なら容易く監視対象に気づかれるなどありえないのだが、そこはそれ、横島も『覗き』のプロフェッショナル。
『あの』美神令子の『お宝』を覗くために身に付けた隠行スキルは並みのレベルではない。
それに比べれば今の監視の眼など稚戯同然、いやそれは言いすぎか。


(まぁ、当然か・・・かなみちゃんが『見たままを報告』したならこれほど怪しい人物もいない。その点は諦めるしかない・・・)

ただし自衛の手段は常に確保しておかねばなるまい。
意識の中でそっと文珠の個数を確かめる。
カミナリ男との戦闘でそれまでのストックを全て使い果たしたため、今、精製できるのはせいぜい2個。

(それにここへ来なきゃすぐに手詰まりだったのは眼に見えている。虎穴に入らずんば・・・毒を喰らわば・・・か)

包み隠さず全て、とはいかないが、自分の霊能力のことを説明しなくては『異世界から来た』とは信じることも無理だろうし、今後の協力を得られることも出来ないだろう。
さすがに『文珠』のことは黙っておくつもりだが、それもどこまで隠したままにできるか判らない。

この世界は元の世界と同じように人と人が共存して暮らし、国家を形成し、そして外敵から身を守っているようだ。
街の様子を見ても経済が発達し、人々の生活はそれぞれが己の役割を担って社会基盤を形成しているのが判る。
元の世界に帰るその日まで生きていくにはまず『金』そして『金』を得るには対価として『労働』をせねばならないだろう。
何の身寄りもコネもない以上、ここでなんらかの足がかりを作らねばまた行き倒れるのは必定であった。

と、まぁ、理路整然とこのように考えたわけではないが、横島とて確かに『馬鹿』だが頭は決して悪くない。
先ほどかなみにも言われたことだったが、何とか取り入って、とりあえず寝床の確保を、と胸中で思い浮かべているのであった。


そうこうしているうちに、本城とは異なる、敷地内でもかなり辺鄙な場所にある建物の扉の前に着いた。

「こちらです。どうぞお入りください」
メナドに促されかなみと共に屋内へと入る。
案内役のメナドは建物の中には入らず「それではこれで」と、敬礼をして去っていく。
後は屋敷内で控えている使用人が会見の部屋まで案内してくれるらしい。
横島は言われるままに使用人に付いていく。
かなみはその間、一言もしゃべらなかった。


「そうですか。ご苦労様でした」

メナドからの報告を受け、マリスは横島がリーザス城の離宮の一室に到着したことを知る。

「メナド殿、貴官の目から見て、横島忠夫なる人物はどのように映りましたか?どのようなものでも構いません、遠慮なく述べてください」

メナドは実質上のリーザス王国の宰相という立場であるマリスとは会話することはおろか、滅多に顔を合わせることすらない。
多分に緊張をしていたが、やがて自分が受けた印象や考えを述べるべく言葉を選んでいく。

「そう・・・ですね。横島様の身体つき、歩き方や他の動作を見ても、訓練を受けた武人とはかけ離れた、普通の一般人そのものでした。ただ・・・」
そこで少しの間躊躇するような素振りを見せたが、すぐに言葉を繋げる。

「ただ、言葉にし難いのですが・・・まるで隙だらけのはずなのに、あまりに自然体な姿が逆にまったく隙を伺わせない・・・例えば互いに剣を持って向かい合ったとして『私が打ち込む』イメージを作り上げても『相手に当たる』イメージに繋がらない・・・ような」

マリスはメナドのいかにも武人らしい意見に内心で苦笑する。

「・・・?それは逆に達人、という域に達しているということではないのですか?」
マリスにも多少の剣の心得はある。
メナドの言わんとしていることを理解しようと、そんな言葉が出てくる。

「いえ、違う・・・と思います。言葉では表現できません・・・。とにかくボク・・・いえ私の剣が横島様に届くイメージを練り上げることが出来ませんでした」

横島は確かに「ある一点」において達人の域と言っていい技術を持っている。
しかし、極めて常識的で優秀な武人であるメナドには横島が戦闘技能に長けているなど、その立ち振る舞いからはとても想像できない。
故に「非常識な横島の回避技能」というものがイメージできるはずもない。
しかしそれでいて尚『相手に当たらない』ということが判るだけでもメナドの能力の高さが窺える。


メナドの言葉に一番関心を持ったのは、ある意味当然ではあるがリック・アディスンだった。
彼女の剣の腕前はリックが一番良く知っているし、相手の技量を測る「眼」の確かさも知っている。
そのメナドが推し量れなかった、という人物に、それまで然したる興味も無くこの会見でもマリスの護衛以上のものは無かったが、俄然興味が沸いてきた。


「しかし・・・何故あのような、普通の少年相手にこれほどの警備・・・」

「メナド!」

上司であるリックが即座に割って入る。

「はっ・・・!申し訳ありませんでした!!」
メナドはすぐに己の過ちに気づき、直立不動の姿勢になった。

「構いません、メナド殿。楽にしてください。しかし・・・そうですか・・・」
胸中で己の横島忠夫なる人物像をメナドからの情報を加えることで修正していく。

「わかりました。これ以上待たせても失礼でしょうし・・・、リック将軍、カーチス殿、参りましょう。メナド殿は離宮周辺の兵の指揮に戻ってください」
「「「はっ」」」
3人の揃った返事に首肯で返すと、マリスは二人を連れ立って横島の待つ部屋へと移動した。


(う〜・・・落ち着かない・・・・・・)
深く沈んでいくソファに腰掛け、横島は動物園のクマよろしく落ち着かない様子でソワソワしていた。
あくまで美神のオマケとして上流階級のパーティや豪華客船のカジノに出入りしたことはあるが、自分自身が客人として招かれたことは無い。
加えてボロボロの自分の服装。
部屋の広さ、調度品の豪奢さ、部屋の隅で傅いているメイドさん(もちろんフリル付のエプロンドレス&カチューシャだっ!)全てが「落ち着かない」。


自分のすぐ後ろに立っているかなみも、服装に関しては自分と同様であったが、顔はすましたものだった。

「・・・かなみちゃん・・・・・・」
「なに?というか、今まで指摘しなかったけど、すっかり「ちゃん」呼ばわりで固定されたわね・・・」

「めっちゃ帰りたいんっスけど・・・!」

「今更何言ってんのよ・・・。だいたいどこに帰るつもりよ・・・」

ツッコミも板についてきたかなみである。御労しい・・・。
そして即座に切り返すかなみの言葉に横島の目から濁流のように涙が溢れてくる。

「おが――――ん!!」
緊張と絶望から逃避することも出来ず、横島は叫んだ。


―コンコン

ノックの音が部屋に響く。
傍で控えていたメイドさんが扉へと向かい、静かに開いた。

自然と横島はそちらへと顔を向け・・・。


「お待たせいたして申し訳ありません。私はリーザス王国、リア・パラパラ・リーザス女王陛下の側仕え、マリス・アマリリスと申します。こちらは・・・」
ふと我に返った頃にはマリスは自分の目の前に腰を掛けており、そのソファの後ろに赤い鎧にフルフェイスのヘルメットの大男と、やたらと対称的な随分と線の細い小柄な男が控えていた。
どうやら自己紹介をしていたようだが、横島の耳にはまるで届いていなかった。


―すっ

「・・・・・・」

横島が何やら動いた「ようだった」。
あまりに自然な、流れるようなその動きにその場にいた全員が横島が動いたことに気づいたのは彼自身の言葉の後だったからだ。


「・・・ずっと前から・・・愛してました・・・!」

横島とマリスが座っていたソファの間に設えたテーブルの上にいつの間にか正座の状態で座っている。
膝の上に置いてあったはずのマリスの両手が、横島の両手に胸の位置辺りで包まれていた。
キラリと白い歯が光りそうな笑み。そして突然の愛の告白。

その場にいる一人を除いて他の全員が硬直した。


それでも何とか我に返ったマリスがゆっくりと言葉をつなぐ。
まだ両手は握られたままで。

「・・・あの、私達は初対面ですが・・・・・・」

あのリーザス一の女傑、マリス・アマリリスが混乱している。
目の前の突拍子も無い出来事に。
ただ一人、冷静だったのは部屋の隅で控えているメイド、その名は加藤すずめ。
真実はまた違ったりするが、彼女もある意味プロフェッショナルだった。


「そんなことは関係ありません・・・!愛は・・・愛は時空をも超えるのです!マリスさん・・・ボクは・・・ボクはもう・・・っ!!」
いつかどこかの世界であった同じようなやり取り。

「だ・か・らっ!!それをやるなと言ったでしょうがっ!!!」

ようやくかなみ復活。
懐から出した鎖鎌を横島の首に巻きつけ、思いっきり引っ張り寄せた。

グキッと横島の首から聴こえてはいけない音が聴こえてくる。

「ぎゃあああ!かなみちゃん、首折れてる首折れてる!ああ堪忍!堪忍やぁ!緊張に耐えられそうも無かったところにごっつう美女が現れたんやぁ!これは男のサガなんやぁ・・・!!」

かなみのすっかり堂に入ったシバキを受けている横島をマリスは呆然と見ていた。
相手を油断させるための演技か?
と思わないわけではなかったが、すぐに打ち消した。
だって演技の為にイチイチ死ぬなんてありえない。

(・・・見当殿・・・何故だかすっかり性格が変わられたようだけど・・・・・・)
思考が逃避を開始したのか、目の前の「かなみの、かなみによる、かなみの(常識の)ための惨劇」を見ながらマリスは大幅にズレた感想を抱いていた。

血溜まりに沈んでいく横島を見ながら自分の警戒や準備が全て無駄だったことを悟ったのだった。
胸中で結界を張るのに掛かった費用及び二個小隊を動かすのに掛かった費用、機会損失が計算されていく。


そして本来、このような事態に即座に対処しなくてはならない護衛役、リック・アディスン将軍は・・・。

(・・・そ、そうだったのか。愛とは時空をも超えるもの・・・まして立場や身分の違いなど些細なこと・・・ならば自分は・・・!)

すっかり横島の妄言に感銘を受けていたという・・・。
ああ・・・『世界』に引き摺られていく人物がここにも・・・。

ちなみにカーチスはというと。

(うーん・・・少なくとも彼は『魔人』でも『使徒』でもない・・・。見る限り普通の人間・・・しかし少し異なる魔力を持っているのは確かのようですね)

意外や、ちゃんと魔法を用いて仕事をしていたのだった。そして自分が知りえた情報をマリスに念話で伝えたりもしていた。


鎖に縛られたままの横島が正座でソファの上に座っている。
あれほど血を流し、首の骨も折れていたように見えたはずなのにすっかり元通りの横島を見て、かなみ以外の全員は戦慄していた。
やはりコイツは『使徒』か?と疑ったりもしたが・・・。
あまり深く考えないほうがいい、マリスの脳裏に彼女にとってはあるまじき思考が浮かび上がっていた。


今、横島は自分がこの世界に現れたときのコト、三日三晩生死の境を彷徨ったコト、かなみに助けられたコトを自分の口から説明していた。
そしてマリスにとって最大の関心事、『魔人』と思しき男を撃退したという話に入る。

「――で、ここでこう、俺の渾身のキックが決まりカミナリ男を突き落としたんッス!」
幾分脚色が入っていたが、戦いの展開は報告書にあった通りだった。

「・・・横島様「忠夫でいいっス!」・・・貴方の能力はこの世界で言う魔法のようなものだと見受けられますが、実際に聞いた限りではかなり特殊です。『異世界』という貴方がそこから来たと仰る『世界』の魔法の力なのでしょうか?」
横島の希望は軽くスルー。

横島は内心、来たか・・・、と思ったが表情には出さずに。

「・・・ええ、そうです。この世界の魔法というものを『ちゃんと』見せられたわけではないですが、全然別物だと思います。俺の世界では『霊能力』と呼んでいます。人に害をなす悪霊や妖怪・・・それに魔族を斃すために、特殊な力を持った人達がいるんです」

横島は自覚こそないが、元の世界においてトップクラスの実力者である。

そして話の流れからいっても、隠し続けることに無理があったため、己の持つ『霊能力』を一部だけ披露する。
手のひらに発現する「サイキック・ソーサー」そして手の甲に「ハンズ・オブ・グローリー」
青白く発光する特殊なエネルギー体。
質量を伴わない力場が、呪文の詠唱も無く瞬時にソコに発現していた。

それを見たマリス、リック、カーチス、共に三者三様の驚きを見せる。

そしてマリスは横島の言葉にあった『ちゃんと』という言葉の含みにも気づいていた。
彼は気づいているのだ、自分にたとえ直接的な害は無くとも魔法を掛けられていたことを。
その上で臆面に出すことも無く平然としている。
しかも今見せた『霊能力』とやらも十分に驚嘆に値するが、報告書の中身から考えてもまだ他に『切り札』があるはずだ。
安易に全ての手の内を晒したりはしない用心深さも持ち合わせている。

この少年・・・見かけだけの人間ではない・・・。
マリスは決して自分自身が言葉を交わした人間を計り間違えたりしない。


「・・・マリス・・・様、俺は元の世界に帰らなくちゃならない。でもその方法がさっぱり判らない。図々しいことは百も承知です、力を貸していただけませんか?勿論、それなりの対価を俺自身の『霊能力』で支払います。この世界には『モンスター』という人に害を与える存在がいるそうですね、そういった類の退治ならそれなりにこなしてきました」

会話のペースを掴んだことを確信した横島はここぞとばかり自分の要求とそれに代わる対価の申し出をする。
美神流交渉術『会話の主導権を握り、己の要求を通せ』『交渉の基本はギブアンドテイク』

(・・・面白い)
この『リーザスの影の宰相』と謳われるマリス・アマリリスに対等の取引をもちかけるのか。
心の中でほくそ笑む。
俄然、手元において置きたくなった。
そこに生ずるリスクを差し引いたとしても。


「・・・横島様、それはリーザス王国に対して忠誠を誓う、そういうことになるのですが、その覚悟はおありですか?」

「いえ!マリス様ただ一人に忠誠を誓いますっ!丁稚とも犬とも呼んでください!!」


――だぁぁぁっ


一斉に周りの人間がコケる。

つくづくシリアスの続かない男である。


横島の世迷言に諦めてため息をつく。
「・・・判りました。では私、マリス・アマリリスが個人的に貴方を雇うことにいたしましょう。衣食住の保証、そして私自身が働きかけることの出来る力をもって貴方が元の世界へと帰られるよう、その日まで協力をいたしましょう」

「・・・なっ!マリス様!?」

あまりに唐突過ぎる、そして破格の扱いにかなみは悲鳴じみた声を上げる。
『マリス自身が働きかけることの出来る力』といえば『リーザス王国の力全て』と言っても過言ではない。
それほどに彼女の持つ権力、発言力、影響力はリーザス王国において絶大である。
同じくリックやカーチスも驚きのあまり声が出ない。

「待遇は・・・とりあえず私の秘書、ということにいたします。他にも給金を決めたりしなくてはいけませんね。細かいところは後日、改めてお話いたしましょう」

そういってマリスは部屋の隅に控えていたメイド、加藤すずめを呼びつけ、横島に宛がう部屋の手配等の指示をする。


そして横島は自分が想像していた以上の交渉の結果に喜んでいた、いや感動していた。

「こ、この俺にそこまでの待遇を!?これは先ほどの愛の告白に対する返事としかっ!!いっしょ〜着いていきますマリスさま〜っ!!」
横島よ、お前は元の世界に帰りたいんじゃなかったのか?


「リック殿」
パチンッと即座に指を鳴らすマリス。

リックは音も無く背中の魔法剣「バイロード」を抜き放ちマリスに飛びかかろうとしていた横島の首筋に突きつけた。
勿論寸止めのつもりであったが、ちょっと怒りパワーも篭っていたため首の薄皮一枚位は斬ろうとしていた。

が、それを横島はギリギリのところで完全に踏みとどまっていた。

「忘れていました、横島殿。今後、リア様や私にそのような『おふざけ』をした場合、その首と胴が即刻切り離されることを肝に銘じて置いてください」
にこりと顔は笑っているが、声はちっとも笑っていない。

「ひっ!アイサー!!サーイエッサ――!!」

直立不動に最敬礼で返事をする横島。
ごっつ怖かった。

「・・・・・・」
リックは若干の驚きと共にバイロードを納めた。


それでは、とマリスはリックとカーチスを伴って部屋を出て行った。
後に残されたのは横島とかなみとすずめ。

「・・・マリス様・・・どうして・・・」
その場に突っ伏して項垂れるかなみ
↓図に表すとこんな感じ。
orz

かなみ自身、リア直属の忍者と言えば聞こえはいいが、実質リアの意向を常に察するマリスの私兵みたいな存在である。
つまり横島は明日からでも自分の同僚、と言うことになるのだろう・・・。

「あぁ・・・うぅうう・・・」

不安に慄くかなみに対し、横島はキラッとムカツクばかりの笑顔を向けてサムズアップ。

「明日からよろしくな、かなみちゃん!」

「・・・しくしくしく」

かなみは泣いた。
そしてすずめはそんな二人を離れたところから冷めた目で見ているだけだった。


第二話   完


―マリス・アマリリス専用執務室―


翌日、マリスの執務室へと呼び出された横島は、床の上で痙攣を起こしていた。


原因はマリスが横島の待遇の一つとして、毎日支払われる日当についての話だった。


「・・・それでは一日あたりに横島殿に支払われる日当は・・・250GOLDという―」

―ガタッ!!

それまで椅子に座っていた横島が突如滑り落ちる。

「如何しました、横島殿?」

「あ、う、ええと・・・」

「ふむ、少なすぎでしょうか?」
口元に指を当てて少し上をにらむような仕草。
マリスには似つかわしくない仕草だったが妙に可愛らしい。

「では255GOLDではいかがでしょう?」

「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」

とうとう床の上で転がりまわる横島、そして案外セコイのですねマリス様。

過去のトラウマを引き摺り出された横島はもはや虫の息である。

返事が無い、ただのしかばねのようだ。

「・・・では日当255GOLDということで契約書を作りますか」
サラサラと羊皮紙の上にペンを走らせる。


横島とマリスの間に絶対的な主従関係が築かれた瞬間であった。


後書きのようなもの

うつ伏せ膝枕っていいですよね(時節の挨拶)

少し遅れてしまいましたがここに第二話「グレート・筆頭侍女!(後編)」をお届けいたします。
皆様が予想されていた横島とマリスのやりとりとはどのように異なるでしょうか?
多少、横島君が駆け引き上手に見えるかもしれませんが、彼とてあの横島大樹、百合子夫妻の一人息子。
美神流交渉術に意外な商才、数々の悪魔達とやり合って来た駆け引きを原作で見てますと、これぐらいはいけるかなぁ・・・と思う次第です。
尤も、結局は完全にマリス様の掌の上で遊ばれるようになるのでしょうがw

ちなみに1GOLD=100円程度の価値だそうです。つまり日当25,500円!現実世界の筆者よりずっと上ですよ!横島のクセに!!

ゲストにメナドやすずめが出てきました。
彼女らの今後の出番や如何に!?(無いかもしれんけどね・・・)

ランスが目覚める描写は第三話に回すことにしました。
理由は時給255円ネタを思いついたためですw

それでは次回、第三話「鬼畜王と!」をお楽しみに。


>shizukiさん
 リックには一目置かれるキッカケ程度なら生まれたかもしれません。

>ZEROSさん
 コーラを飲んだらげっぷが出るように、横島は美女が居れば必ず口説きます。そう、必ず!

>果物さん
 筆者は初回版持ってないです。羨ましい限りであります。

>神雷さん
 かなみちゃんの不幸は既に予定調和です。宇宙意思です。横島君と同僚になってしまいました・・・。

>黒覆面(赤)さん
 横島君につけられた値札は「(日当)255GOLD」ですw彼にとってしてみれば悪夢再来でしょうw

>nasさん
 横島君へのツッコミ役としての地位はもはや不動と言っても過言ではないでしょう。

>名称詐称主義さん
 さすがにリアにセクハラかましたら洒落にならない・・・ということで釘を刺させていただきましたwそれほど不自然でもないと思います。

>けるぴーさん
 彼の本質の片鱗に早くも気付いたのはやはりマリス様です。・・・まぁ、マリスはリア一筋ですからね・・・。次に横島君の本質に僅かなりとも触れるのはいったい誰になるので

しょうね。

>スケベビッチ・オンナスキーさん
 やはり『切り札』は隠してこそカッコいいと思いませんか?
 それに文珠にも弱点があることを考えると、安易に手の内全てを見せては身の危険にも繋がります。
 しかしマリス様には『切り札』の存在はお見通しのようで・・・。

>佳代さん
 恋人を失うことで得た魂が、異世界の強力な『魔人』を斃す『切り札』となった!!
 悲劇のヒーローとしては確かに相応しい力かもしれませんが・・・まぁ、横島だしwww実際どうなんでしょうね?

>naoさん
 膨大なSSの量に圧倒されました。
 情報ありがとうございます。時間のあるときにちょこちょこ拝見する予定です。
 撲殺〜ネタは筆者もお気に入りです。笑っていただけたのなら・・・
 「感謝の極み」


>Iwさん
 予想通り、傀儡一直線ですw
 魔王がいったいどんなキャラか・・・登場したときは驚くかも知れませんね・・・ニヤリ

>翔さん
 早くもかなみの背中に不幸の影が迫ってきていますが、どうしましょう?w

>夜須さん
 対等の立場に立てるか、と思いきや即座に精神的隷属状態ですw
 それほど「時給255円」は彼の精神にクルものがあるのでしょうw

>いじゅさん
 私としては、代わりにネタを考えてくれるんで有難い面もあるのですが(マテ
 ただGS風味な戦いの展開を予測されると、私が新しいネタを捻り出さねばならないのでキッツイですw
 でもまぁ、過度でなければ構わないのではないでしょうか?
 その上で規約に従ってレスを頂きたいと思います。
 たとえ管理人者様の判断でも、自分に送っていただいたレスが削除されるのは悲しいですから。

>拓也さん
 確かにランス君にはその傾向が強いですが、彼にもアレはアレで随分と横島寄りな面もあるのですよ?
 昨今の流行で言うツンデレみたいな・・・?

>ウェストさん
 すいません・・・ランス起きてません・・・orz
 しかし舞台装置は整いました!

>IZEAさん
 マリスもアレはアレで遊び心のある女傑ですからね。しかし随分と横島のことを評価したようです。

 大変重要なことです:ホ・ラガは穴を掘って埋められるのではなく、穴を掘って埋める側です(超マテ

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