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▽レス始

「霊能生徒 忠お!〜二学期〜(十時間目)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-10-08 22:49/2006-10-11 01:35)
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「僕って、ダメだな…」

 アスナと刹那の気配がふすまの向こうに消えた後、ネギは呟いた。そのネガティブ全開の言葉に横島は頭を抱える。

「アスナちゃんの問題で、なんでお前まで悩むんだよ?」
「だってアスナさんを巻き込んだのは僕なんですよ!
 ……やっぱり僕、アスナさんに言ってきます」

 駆け出そうとするネギの服をつかんで、横島は止めた。

「待て!何を言うつもりだ?」
「ですから、もうアスナさんは戦わなくていいと…」
「アホか!」
「うわっ!?」

 横島はネギの足を払って投げ飛ばす。ネギは宙で回ると敷かれた布団の上に投げ飛ばされた。

「な、何を…」
「何をじゃねえよこの馬鹿が」

 起き上がろうとするネギだったが、横島がその上に覆いかぶさる。
 至近距離で突きつけられた横島の視線に、ネギは言葉を止める。

「お前さ、何でもかんでも自分で背負うな。
 踏み込んできたのはアスナちゃんだろ?」
「けど切欠を作ったのは…」
「その切欠に乗ってきたのはアスナちゃん自身だろうが」
「ですがアスナさんは戦うのをやめたがってるじゃないですか!」

 起き上がれないと観念したのかと抵抗を止めたネギだったが、それでも不満そうに叫び、それに対抗して横島も声を荒げる。

「やめたがってるんじゃない!迷ってるんだよ!
 本当にやめたいと思ってんなら自分で言う。そういう子だろ?」
「それは…」

 アスナの意志の強さ、我の強さはネギも身に染みてい知っている。だが…

「けど、危険なめには遭わないほうがいいに決まってるでしょ」
「それを決めるのはお前じゃなくてアスナちゃんだ。
 人の意思や決意を他人が訳知り顔に勝手に決めるな。それは思いやりじゃなくて思い上がりだ」
「……っ」

 横島の言葉に、ネギは反論が思いつかなかった。
 もちろん、感情的な反発は胸の奥に沸きあがったが、非理論的なそれは言葉の形にまとまらず、口に出すことができなかった。

「じゃあ……僕はどうすればいいんですか?」

 結局出て来たのは反論にしては弱い問いかけだった。ネギがアスナに対して余計なことを言わないと確信した横島は、肩の力を抜く。

「そうだなぁ……ま、アスナちゃんの選択を尊重するってことぐらいか?
 少なくとも俺の時はなんだかんだ言ってそうしてもらったし」
「横島さんの…時?」
「ああ、GS免許を取るときな」

 GS免許取得試験の二次トーナメント。ピートを破った雪之丞と当たった時、美神は散々止めたが、最後には自分の意思を尊重してくれた。

「とにかく、お前にできることは何もない。だから悩むな。な?」

 納得できないところもあったが、大体において横島の言っていることが正しいと思った。

「……はい」

 少し迷ってから、ネギは返事をした。
 ネギは頷いて…

 たゆん

…自分に押し付けられたそれを見て、硬直した。押し付けられたそれとは90センチ近い横島の胸だった。


霊能生徒 忠お! 二学期 十時間目 〜ソードのナイトの逆位置(暴走)〜


 おっぱい。それは母性の象徴であり、男のロマンの具象。
自分のワイシャツと横島の浴衣越しに伝わってくる弾力に、ネギは自分が横島に組み敷かれている―――押し倒されているということを自覚する。

「ひゃあっ!?よ、よけて下さいぃっ!」
「お、おう、悪い」

 真っ赤に染まった必死の表情を浮かべるネギに、横島は疑問を感じながらも慌ててどける。だが、それかいけなかった。ネギを押さえつけるために動き回ったことにより、すっかり乱れていた浴衣の襟が……

 はらり

 肩から滑り落ちた浴衣の襟。蛍光灯の灯りの下に横島の、何もつけていない上半身が晒された。

「おっと」
「うわぁっ!」

 横島はさしてあわてた様子もなく立ち上がって浴衣を着なおし、ネギは面白いほど慌てた様子で眼を瞑って後ろを向いて正座する。
そんなネギの耳に横島が帯を解く音が届き、振り向いたときに瞑ったままのまぶたの裏には、つい数秒に目撃した映像が投影される。

『うふふ…ネ・ギ♪』(補正効果+200パーセント)

(うううっ!アスナさんが悩んでいるのにこんな想像……僕はなんて不潔で不埒な奴んだぁっ!)
「ネギ。もう着直したぞ」

 柱や壁に頭を連打しかねないほどに苦悩するネギに、浴衣を着なおした横島が声をかける。落ち込みながらネギは振り向くと、そこには浴衣を着なおした横島がいた。

「ったく、カマトトぶりやがって。普段から委員長やらアスナちゃんやらのお宝映像を見ているくせに」
「そ、そんなこと……」

 反論しようとするが、それは途中で止まってしまう。
 なぜなら、例えば浴衣の襟元から覗く鎖骨のくぼみが――
 浴衣の布で包まれた曲線が―――
 裾から覗く白いふくらはぎが…

『うふふ…ね〜ぎ☆』(補正効果+300パーセント)

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
僕って奴は!僕って奴は!僕って奴はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 頭を抱えたネギは畳の上を転げ周る。その原因が分からない無自覚美少女横島は、それを見て顔を引きつらせる。

「投げ飛ばした時、変な場所でも打ったのか?」
「うわぁぁぁぁぁっ!僕、先生失格だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ならばショック療法を、と横島は拳を握りなおした。


「あ、あれ?僕は一体…アタタ、なんかこぶができているような……」
「さあな。正直な話、どうしてこうなったのか俺にも良くわからん」

 数分後、頭にでかいこぶをこさえたネギに、横島が明後日のほうを向きながらそういった。

「とにかく、ちゃっちゃと見回りして寝るぞ。飛べるお前が外、俺は館内だ」
「はい。では早速、刹那さんに貰ったこれを使いましょう」

 そう言って取り出したのは、去り際に刹那が渡してきた、身代わりの髪型を取り出した。

(これに自分の本名を筆で書くと、良いらしいですが…こういうのは西洋魔術にはないなぁ…)

 感心しながらネギは一緒に渡された筆を執って名前を書く。

「ネ…ギ…っと」

 慣れない筆に戸惑いながらも、ネギはまずファーストネームを書き終えようとして、しかし、その耳元で声がした。

「へぇ、結構上手いじゃねえか」
「うわっ!」

 驚くネギ。その瞬間、『ギ』の文字を書いていた筆先があらぬ方向に飛んでしまう。

『ネ

「あぅっ、失敗しちゃった」
「あ、すまん」

 落胆するネギと、流石に自分のせいだと理解した横島は素直に謝った。

「いえ、まだあるからいいんですけど…なんでそんなところに?」

 ネギは自分の背後から、肩越しに覗き込んできた横島に問う。

「ああ。ちょっとその式神に興味があってな。霊能にも似たようなのでケント紙式神ってのがあるけど、名前を書いた本人に化ける、ってのはないからさ。
 見てたいんだけど、いいか?」
「はい、かまいませんよ」

 ネギは頷き、失敗した型紙を丸めてゴミ箱に放り込み、次の紙を手に取った。

「今度こそ…!」

 意気込んでネギは筆を走らせる。まずはネギというファーストネームを書き上げ、そのまま苗字のスプリングフィールドと書き上げようとして

 むにゅ

 書き上げる直前、横島の胸がネギの背中に押し付けられた。横島が少し身を乗り出したからだが、理由など押し付けられたネギには関係ない。

「うひゃっ!?」
「どうした?」
「い、いえ!なんでも!?」

 反射的に応えるネギ。だがその間にも横島の丘陵はネギの背中に押し付けられたまま。しかも横島の存在をもろに意識してしまったことで、今まで気にも留めていなかった横島の息遣いや体温、そして匂いがネギを蝕む。

(しゅ、集中……集中しなきゃ!?)

 ネギは雑念を払うように首を振り再び書き上げ始めるが、しかし筆は止まらず…

『ネギ・ヌプソングフィーノレド
「…誰だよ、これ?」
「さ、さあ…」

 赤い顔で上の空のままに応えるネギ。そうしている間にもネギの背中には横島の胸が押し付けられ、背中の神経がその感触を脳にズビズバ伝達し、ネギの顔に血が集まる。
 いけない。このままでは非常に不味い。

「あ、あの、横島さん。ご覧になるのでしたらその、できれば後ろからはやめてくれませんか?」
「?分かった」

 どうしてかは分からなかった横島だが、そう言うならとネギの斜め前に座りなおす。
 それにより、ネギは落ち着きを取り戻……せなかった。
 原因は横島の体勢のせいだ。正座して、腕を組んだのだ。それがもしも男のままの横島だったらなんでもなかったかもしれないが、しかし今の横島には、その年齢に不相応までの大きさの胸があった。それが両の二の腕に挟まれ、より一層に強調されている。
 だっちゅーの、だ。
 かつて巨乳で売っていた芸人の、唯一といっていいネタが再現されていた。

(はっ!?)

 その旨に注目している自分に気付いたネギは、慌てて自分の視線を横島の一部から無理やりにずらす。
 いけない!いけないことだ!生徒である女の人のむ、む、む、む、む、胸に注目するなんて紳士のすることじゃない!そもそも先生と生徒がそんな関係になっちゃいけないってお姉ちゃんも言っていたじゃないか!大体お昼にのどかさんから告白されたばかりだというのに他の女の人に注目するなんてなんて不誠実なんだ!

「…おい、やっぱり打ち所が悪かったんじゃ…」
「ひ、いえ!なんでもありましぇん!大丈夫でしゅ!」
「そ、そうか?」

 語尾からして既に大丈夫じゃない様子のネギ。それは横島も理解していたが、しかしそこは横島。よもや原因が自分だとは夢にも思わない。
 その一方で、ネギは目を閉じて気持ちを落ち着ける。
 まずは気持ちを落ち着けたい。そのためにも一人で見回りに行かなくては。ならばまずは身代わりの式神を作らなくてはならないわけで……!

(煩悩を払うんだ!
日本には『心頭滅却すれば火もまた涼しい』っていう諺があるじゃないか!)

 ちなみにそれを残した人物は火事で焼け死んだ。それを知らないネギはその言葉を信じながら、悲壮ともいえる覚悟で筆を握った。


「ふっ…燃え尽きましたよ、真っ白に」
「名前を書くだけで何をそんなに消耗してるんだ?」

 数分後、消耗の一番の原因である人物が、真っ白に燃え尽きた子供先生に呆れた表情を向けていた。その背後には、丸められた書き損じの髪型が詰まったゴミ箱がある。書き損じ回数はおよそ十回。

「お、お札さん、お札さん。僕の代わりになってください」

 ネギが型紙にそう言うと、型紙は突然光を放った。カメラのフラッシュのような閃光が収まると、そこには僅かな煙とネギにそっくりな人影が立っていた。

「で、できたぁ…」
「はぁ…見事なもんだ」

 横島も思わず感嘆を漏らす。いささか会話の受け答えには不安が残るが、しかし外見は完全にネギだった。多少なりとも話せる分、ひょっとしたら十二神将のマコラよりも、替え玉としては優秀かも知れない。

「…じゃあパトロール行ってきます…」
「おい、大丈夫なのか?」
「は、はは…大丈夫ですよ。それに、少し独りになって頭を冷やしたいですし…」

 力なく笑いながらネギは窓枠を乗り越え、落ちた。

 べちゃ

「ネギ!?」

 ここは三階
 流石に驚いた横島は、窓から身を乗り出して、ネギの姿を探す。ネギは丁度窓からもれる光の中にいてすぐに発見できた。ネギはどうやら出血もなく無事のようで、立ち上がってからよたよたと闇の中に消えていった。

「アスナちゃんより奴のほうが心配だぞ、俺は…」

 ため息混じりに呟いてから、横島は残された式神に目を向ける。

「ネギです」
「あ、ああ。そっか、命令してなかったな。
 お前はネギが帰ってくるまで代わりにこの部屋で寝てろ」
「ネギです」

 偽ネギは頷くと、布団の中に入ると仰向けのまま寝始めた。
 それを確認した横島は、自分も仕事に移ることにした。

「さて、行くとしますか」

 ハンガーにかけておいた腕章を手にとると、横島は電気を消して部屋を出て行く。
残るは命令を受けて布団に収まった式神だけ。だが、そんな暗闇の中に突然と光源と動きが現れた。
 それは書き損じの型紙が放り込まれたゴミ箱だった。まるで切れかけの電球のように淡く明滅し、ゴミ箱ががたがたと震える。その明滅と振動はだんだんと激しくなり―――
 ふっと、急に止まった。
 数泊の沈黙の後…

 ズモモモモモッ!

「ホギです」
「ぬぎです」
「ネもです」
「ネギ・ヌプソングフィーノレドです」

 まるでお湯を入れたまま放置したカップメンのように、偽ネギ達がゴミ箱から這い出してきた。

「ネもです」
「ヤギです」
「ネギ・ヌプリングフィールドです」
 


「おっ!横島が部屋を出ました!」

 スタジオに改造されたトイレで、朝倉がモニターに写った横島を見て叫ぶ。ちなみにこれらの映像は、館内の監視カメラから無理やり映像を引っ張ってきたものである。流石の横島といえども、まさか監視カメラの向こうに知り合いがいるなど思いもよらず、特に警戒した様子もない。

「何気に今回のイベントの一番のキーとも言える横島!
 彼女がどういう動きをするかで今後の展開も大きく変わるでしょう!選手と同様に横島の動きも追跡します!」

 朝倉がナレーションを流すと同時に、全体マップに横島を示す光点が付け加えられた。
 なお、今回は画面分割式ではなく、一チャンネルにつき各班と全体マップの計7チャンネル放送だ。ちなみに解説は全チャンネル共通。
 朝倉はマイクをオフにすると、心底楽しげな笑みを浮かべて画面を眺める。その横ではカモが難しい顔をしていた。

「どうしたのよ、カモっち?
 万事順調だって言うのに」
「どうにかして横島の姐さんにも仮契約してもらえないかなって思ってよ…」
「アンタ、まだそんなこと言ってるの?無理無理、横島は絶対にネギ君とキスしないね」
「いや!そーとも限らねえじゃねぇさ!現に横島の姐さんは何だかんだ言って兄貴の世話を焼きまくってるじゃねえか!?それに―――」

 と、つばを飛ばしながらネギ横説を主張するカモだが、朝倉は右から左へ聞き流す。

(だって横島って本当は男だしね)

 究極かつ絶対的な根拠を、胸中で呟く朝倉。横島が実は男だということは、カモにも内緒にしている。こういう取引は信用第一なのだから。

(それに、カモっちにそれを教えちゃえば、それをネタにして横島に何を要求するか分かったもんじゃないしね)

 自分のことを棚にあげて朝倉は思い、それと同時に全員の位置を示すマップで、二つの点が近づきつつあるのに気付く。

「!?カモっち!」
「分かってるぜ、姐さん!」

 議論はこれまでとカモも自分のデスクに戻り朝倉はマイクの電源を入れる。

「現在、2班、3班、4班が急速に接近中、早くも大乱戦の予感だよ!」


 出会いはまさに唐突だった。

「…ん?」
「え」
「あっ…」
「っ!」

 三階階段の踊り場前で三班と四班が、まさにばったりという感じで出くわした。唐突の後に生まれた一瞬の静寂の後…

(いいんちょっ!)
(まき絵さん!勝負ですわ!)

 静寂を破る初動はあやかとまき絵によって成された。両者は互いに互いの顔をめがけて枕を振る。

ボッ

「も゛っ!」
「ぷっ!?」

 結果は相打ちだった。互いの枕が互いの顔を直撃。その衝撃にまき絵はふらふらと後ずさる。その横を裕奈がすり抜けて前に出た。

「でかした、まき絵!」

 狙うのは、もちろんまき絵と同様に怯んだあやか。
止めを刺すなら今!
 燃え盛る闘争本能のままに枕を振りかぶる。だがそれを、冷静な一撃が阻止した。

(ガキの遊びにムキになんなよ)

 冷めた千雨が突き出した足に躓いて裕奈は転倒。枕は蹲るあやかの頭上を通り過ぎただけで。

(あたたたっ!?)

 たたらを踏む裕奈。その視界の端に動くものがあった。
 とっさにそちらのほうを向いて、その物体の正体を見た。
 古菲だった。
 階段の上から、両手と片足の親指の間に枕を挟んだ古菲が跳躍した。

「チャイナピロートリプルアタッーーーーク!」

 古菲は両手と足の枕を投擲。三つの枕はそれぞれ狙い違わず、あやか、裕奈、そして千雨を直撃する。

「ぐぐ…や、やりましたわね…」
「おのれぇぇぇっ!」
「にょほほ♪」

 震えながら立ち上がるあやかと裕奈。古菲は余裕の表情で、バウンドし落ちてくる枕をキャッチしようとして、しかし取りそこなった。
 落ちてきた枕が、急に空中で静止したのだ。しかし異常はそれにとどまらず、床に落ちた枕までもが、まるで見えない手によって持ち上げられたかのように宙に浮かぶ。
 やがて浮かんだ枕たちは、その怪奇現象を呆然と見上げる6人の顔面に

「え、えぇぇぇいっ!」

 気の抜ける掛け声と共に叩きつけられた。

「うわっぷ!」
「ぐへっ…な、何が!?」

 とっさにガードして直撃を避けた裕奈は、周囲を見渡す。
 そして先ほどの攻撃をした者の存在はすぐに見つかった。

「さよちゃん!?」
「えへへっ!やりましたよ、茶々丸さん!」
「お見事です。効果的なダメージを与えられたと推測されます」

 少し離れたところに、6班代表の二人が立っていた。

「ポ、ポルターガイストとはやりますわね!」
「反撃でござるよ!」

 意外な強敵の出現で、あやか達の間に共闘の不文律が生じる。

「一斉掃射ですわ!」
「おぉ〜っ!」

 あやかの号令に応じて、2班と4班のメンバーが手持ちの枕を投げる。

「ひゃっ!?」

 高速で移動しているものにはポルターガイストが効かないのか、さよは悲鳴を上げる。だが枕がさよに到達する前に、枕を片手に立ちふさがった。

(目標数4…速度、質量…運動エネルギー算出、空気抵抗算出、はねかえり係数算出…)

 茶々丸のセンサーが飛来する枕の情報を収集し、電脳が解析し回答を導き出す。費やされた時間はまさに一瞬。

(―――計算完了、いけます!)

 茶々丸は確信すると、手にした枕を投げた。
 茶々丸の投げた枕は、あやか達の投げた枕の一群と正面からぶつかりあう。茶々丸が投げた枕は先頭を飛んできた枕に激突。さらにその枕は他の枕とぶつかり合い

ぼフボぼふんっ!

「ば、馬鹿な!」
「おおっ!?全弾撃墜アルか!?」
「BMD!?」

 動揺し動きを止めるあやか達だったが、状況の方は止まらない。

「今です、相坂さん」
「は、はい!
 はぁぁぁぁぁっ!」

 さよはまるで格闘漫画のように謎のオーラを纏う。

「けるべれいど・ばすたぁ!」

 一体どこから仕入れたのか、マイナーなネタを叫ぶさよ。それに応じて、撃墜された枕たちが浮かび上がり、あやか達に向けて殺到する。
 大層な名前だが、実のところなんてことのないポルターガイスト現象だった。だが攻撃を受ける者としてはたまらない。

「べほっ!?」
「あたたっ!」

 最前列にいた馬鹿レンジャーコンビは避けきったが、その背後にいたまき絵と裕奈は直撃を食らった。

「千雨さん!援護を…!」

そんな二人の影に隠れてちゃっかり難を逃れたあやかは枕を拾いながら、自分の相方に叫ぶが返事がない。どうしたのかと振り向くあやかだが、

「って、いない!?」
「こうなったら接近戦で勝負アル!」
「あいあい〜」
「まき絵!私たちも続くよ!」
「おー!」

 千雨の姿がなくなっていることに気付き驚くあやかを尻目に、ロングレンジではカウンターを食らうだけと悟った2班は突撃を敢行する。それにダメージから復帰した4班も続く。
 状況は、枕を使った直接攻撃による乱戦となった。
 一方、あやかはなぜ千雨がいなくなったかを考え

「まさかっ…!?」

そしてその理由に心当り、顔色を変えてこう叫んだ。

「まさか抜け駆けしてネギ先生のくちびるを奪うつもりですわねっ!?
 裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおぉぉぉぉぉぉっ!


「なわきゃねーだろ。あ〜、マジで付き合ってらんねー」

 激戦地から少し離れたトイレの前で、千雨はメガネを確認していた。幸いレンズに傷もなく、フレームも曲がっていない。

「私はさっさとずらからせて貰うよ。ホームページの更新もあるしな」

 千雨はそう言い残して部屋に向けて歩き出そうとして…

 ぎいぃっ

 まさのその時、トイレの扉が軋みを挙げて開き、千雨は体を硬直させる。

(やべっ!?)

 よく考えれば、あそこまで騒がしくして誰も来ないなど都合がよすぎる。瀬流彦やしずな辺りなら言い逃れできるかもしれないが、新田なら完全にアウトだ。
 恐る恐る振り向く千雨。だがそこにいたのは、予想外の人物だった。

「長谷川。お前が出歩いてるってのは意外だな」
「よ、横島か…」

 とりあえず新田でなかったことに安堵するが、すぐにその油断を振り払う。ふざけた話だがこの非常識女は風紀委員、つまりは新田側の人間だ。
 どう言い訳しようかと、即座に脳みそをフル回転させる千雨だったがそれは徒労に終わった。

「さっさと帰れよ。新田先生に見つかったらマジで正座させられるぞ」
「見逃すのか?」
「ああ。それとも正座したいのか?」
「そんなわけないだろ」

 答えながら千雨は内心でため息をついた。このクイーンオブ変り者のことだ。下手をすれば「げぇっははひょはへははははははっ!」とか笑いながら出歩いた者を取り締まる、という展開があるかもと危惧していたのだ。

(いや、流石にそれはないか…)

 改めて考えると流石にぶっ飛びすぎの思考だったと気付き、千雨は妄想を振り払い、現実を再評価する。どうやら自分は、アタリを引いたらしい。

「つか、何かあったのか?向こうでもなんか騒がしいし、友達がいなそうなお前が出歩くなんて」
「(友達いないは余計だ!)――別に出歩きたくてであるいたわけじゃねーよ。馬鹿共が妙なゲーム始めやがってそれに巻き込まれたんだよ」
「妙なゲーム?」
「ああ。ネギ先生とラブラブキッス大作戦とか言ってね。
 私はもういく。じゃあな」

 少し自分の地が出かけていたことを自覚した千雨は、これ以上ボロが出ないうちにと強引に会話を打ち切り立ち去ろうとして

「ちょっと待て」

 しかし、それよりさらに強引に、横島が千雨を押し留めた。
 長谷川の両肩に手をやって、壁に押し付ける。
 流石に少し痛みを感じた千雨は、何をするのかと文句を言おうとしたがそれは、横島の声で封殺された。

「その話、少し詳しく聞かせろや?」

 無機質な声。大きくはないが、絶対的なほどの圧力を持った声だった。
 色に例えれば、黒。燃え盛る憤怒の赤、冷徹な憎悪の青、濁りきった嫉妬の黄。それらが極限まで濃縮され、そして混ぜ合わされた果てに生まれた混沌の黒。
 その時、千雨は悟った。
 引き当てたのは、新田を上回る大はずれだったのだ、と。


「コラ!お前ら、何をしている!?」

 新田が横島と千雨を見つけたのは、あやか達が戦っているところに向かう最中だった。


 見回りをしていた新田は、悲鳴と笑いがミックスされた声と、クッションのような柔らかいものを叩き合う音を聞きつけた。

「また3Aだな!」

 理屈抜きで決め付ける新田。偏見とは言うべきではない。今までの3Aの所業を考えればそれで普通であり、現にその想像は正しかった。

「全く、今日という今日は絶対に許さん!」

 そう意気込んだ新田は足を速めて、声のする方へと向かっていたまさにその途中で、新田は横島と千雨を見つけたのだ。


「げっ!新田!……先生」
「まったく、お前ら今何時だと…!「新田先生」

 叩きつけようとしたお説教は、しかし横島が漏らした声に込められたプレッシャーで押しとどめられた。

「な、何かね?」

 その声から透かし見える『何か』に、人の話を遮るという失礼をとがめることも忘れて新田は問い返した。
 横島はうつむいた表情のまま手を、千雨の肩から放す。

「こいつ、出歩いていたので補導しました。ロビーで正座させといてください」
「なっ!み、見逃すっていってたじゃねぇか!?」
「気が変わったんだよ、事情を理解してな」

 話すことはもうないと横島は、横島の豹変に驚いている新田に千雨を突き出す。

「じゃあ、新田先生。俺は向こうで騒いでいた奴らをとっ捕まえて来ますんで…」
「ま、待ちたまえ!私も一緒に行こう!」

 有無を言わさぬその口調に頷きかけた新田だが、慌てて言う。だがそれは新田の教師としてのプライドが言わせたものではない。
予感がしたのだ。このまま横島を――今の横島を行かせてはならないと。
 だが横島は、まるでその予感が杞憂であるかとでも言うほどの静かさで首を横に振る。

「いや、新田先生は場所の確保をお願いします。後12人分、ね。
 ん?ってことは、長谷川を合わせれば13人。死刑台の階段の数と同じっすね?はははははは!」

 何が面白いのか、狂ったように笑う横島。
 だがその笑いは、不意に止まった。
 不気味な静寂のその後に………横島は呟いた。

「狩る」

 次の瞬間には、横島は新田と千雨の視界から消えていた。それと同時に…


「うわっ!よ、横島ぁっ!?」

 新田が向かっていたはずのところから、裕奈の悲鳴がした。


「コラ!お前ら、何をしている!?」

 横島と千雨に向けられた新田の声は、あやか達にも届いていた。

(今の声は!?)
(やばい鬼の新田だ!?)
(逃げますわよ、皆さん!)
(逃走経路はこちらが最善です)

 戦いを止め、それぞれが駆け出す。裕奈もそれに習って駆け出そうとするが…

「おっ先〜!アルよ!」
「あいあい」

 古菲と楓だ。駆け出そうとする裕奈の背中を、跳び箱を飛ぶような感じで二人は超えていく。その衝撃で裕奈は転倒。

「ああっ!明石さんがっ!?」
「ダメです、相坂さん。戦場とは常に無情なものなのです」

 先に駆け出したまき絵は気付かず走り去り、助けに入ろうとしたさよも相方の茶々丸に止められて、後ろ髪を引かれながらも逃げていった。

「あいたた…この…っ!?」

 ダメージから復活した裕奈は、改めて自分も駆け出そうとするが、急に体が持ち上げられて失敗した。

「くっくっく…二匹目だ」
「うわっ!よ、横島ぁっ!?」

 裕奈を持ち上げたのは横島だった。横島は裕奈の帯を背中側でつかみ、片手で彼女をぶら下げていた。その膂力は驚嘆に値するものだが、生憎いまはそんな暇は裕奈になかった。

「はっ!離して!早くしないと新田が…!」
「新田先生は来ないぞ?代わりに俺が来た」
「……そ、それって…」

 つまり、横島が新田サイド――教員サイドに付いたということであり、その横島につかまったということは…

「あ〜あ。正座か…。OK、もう抵抗しないから下ろしてくれない?」

 ため息混じりに言う裕奈だが、横島は従わず裕奈をより高く、自分と顔の位置が同じくらいの高さになるように持ち上げた。

「わたたっ!?」
「その前に、ちょっと愚痴に付き合ってもらうぜ?」

 裕奈が文句を言う前に、横島が言う。言われた裕奈は横島の目を見て、言葉を失った。
 憎悪があった。
 憤怒があった。
 嫉妬があった。
 横島の目には、ありとあらゆる負の感情が渦巻いていた。

「なぁ…裕奈?
 世の中ってどうしてこう不公平なんだろうなぁ?」
「えっ?ふ、不公平?」
「例えばよぉ、俺は今まで五桁以上のナンパをしてきて、いままで一度も成功してないんだわ。ナンパの果てにキスに至ったことだって当然ゼロだ」
「そ、それは横島が同性に声をかけるからじゃ…」
「だがよ、世の中にはどういうわけか、黙ってても女の子が寄っていく奴がいるんだよなぁ…。だまってでもキスを女の子からねだってもらえる奴がいるんだよなぁ……。
 ……ネギとか、ネギとか、ネギとか、ネギとかネギとかネギとか!
ネギとかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
「ひぃっ!?」

 そして今宵初めて、横島は咆哮した。
 破滅的な憤怒のままに、絶対的な憎悪のままに、究極的な嫉妬のままに!

「神は死んだ!だから俺が代行する!俺がテメェらの陰謀を徹底的に阻止してやる!
 ちびっ子共も!馬鹿レンジャーも!前髪本屋も!金髪委員長も!ロボも!幽霊も!
 全員!一人残らず!余すとこなくとっ捕まえてくれる!そして―――!」

 横島は視線をめぐらせ、監視カメラを見つけると、満面の狂笑を浮かべて言い放った。


『あ・さ・く・ら・さ・い・ご・は・お・ま・え・だ』


「ひぃぃぃっ!」
「ほ、本気だ!横島の姐さんは本気だぁっ!」

 仮設スタジオで、朝倉とカモは抱き合って震えていた。
 音声はなかったが、その唇がなんという言葉をつむいだのかは一目瞭然だった。

 ――朝倉、最後はお前だ――

「に、逃げるんだ!ブンヤの姐さん!地の果てまで!」
「わ、解った!すぐ撤収――」

 撤収しよう、と言いかけて、朝倉は動きを止めた。

「ど、どうしたんだよ!早くしねーと「ダメよ」…はっ?」

 短く言い放ってから朝倉は再び椅子に座り直した。

「カモっち、ナレーション入れるよ!早く準備!」
「ば、馬鹿いってんじゃねーよ!そんな暇ねーだろ!早く逃げようぜ!」
「カモっち…」

 食券の入った風呂敷ずつ見の上で訴えるカモに、朝倉は迷いのない瞳を向ける。

「確かに…このままじゃあのスーパー横島にとっつかまって、朝まで正座かもしれない。
 けれどね、私は記者なのよ!真実を報道する義務があるのよ!
 例え命に代えても、ここで逃げるわけには行かないのよ!」
「あ、姐さん…!俺が…俺が間違ってたぜ!」

 カモは背負っていた風呂敷包みを下ろすと、自分のデスクに飛んで行く。

「こうなりゃ地獄までお供するぜ!姐さん!」
「ありがとう!カモっち!」
「へへっ…気にすんなよ!

 互いに笑顔を交わす朝倉とカモ。それは利害関係しかなかった一人と一匹の間に、種族を超えた確固とした絆が生じた瞬間だった。

「本番5秒前!…4!………3………(2………1………Q〜!)」


『なんという波瀾!あの横島が新田サイドに回りました!これは新田を越える最大の障壁といえるでしょう!
 そしてその横島の登場により長谷川、明石の両名が犠牲に!3班、4班はオッズ大幅ダウン!
 だれがこんな展開を予想したでしょうか!?
 なお現時点より、トトカルチョに横島完全防衛枠を設定します!参加したい方は朝倉までご連絡ください!』


 朝倉とカモが無駄な友情を育んでいるころ、各班部屋では横島の参戦によって様々な物議が醸されていた。


「よ、横島枠だって!どうするクギミン!?」
「クギミン言うな。ちょっとここは解らないねぇ」
「っていうか、何で横島さんが…」


 もしもこの放送が音声付なら問題がなかったが…


「どないしてやと思う、ハルナ?」
「ふっ…決まってるでしょ!ラブよ、ラブ!」


 流石の朝倉もそこまでの準備はできておらず…


「えっと…つまりどういうこと?」
「愛…というより嫉妬といったほうが正しいネ」
「横島さんが、参加者のうちの誰かが好きで、その人がネギ先生とキスするのが気に入らないということですか?」
――けど、それには矛盾がありますよ―――


 当然視聴者は、状況から横島の動機を類推するほかない。


「参加者のうちの誰かを止めたいのなら、その一人だけを止めればいいはずだ」
「ほなら、横島さんがキスして欲しくない人って…」
「ひょっとして…ネギ先生?」


 それゆえに彼女達の議論は―――


「けど、それなら横島さんはなんでネギ君とラブラブだっていうとあんなに否定するのかな?」
「うふふ……それはホラ、いわゆるアレよ。忠緒さんは今流行りの…」


ツンデレ(よ!)(だ)(って奴よ!)(って奴ね!)(なのよ♪)(なんやなぁ〜)(だったんだぁ)


 ――とんでもない結論に到達してしまった。


 その瞬間を以って、3年A組において『横島忠緒はツンデレである』ということが、公式設定となった。

「ば、馬鹿な…横島が…稚児趣味?そんな…ナンパはカモフラージュだったのか?だが…では、私はどうしたら…!」
「……(横島も応援してやろうと横島の顔が書かれた鉢巻を締めるザジ)」


「?」
「どうしました、神楽坂さん?」
「ちょっと旅館の中が騒がしいような気がして…」
「言われてみれば確かに果てしなく鬱屈してどす黒い、しかし捨て置いてもさほど害にならないような悪意は感じられますが…横島さん達からも連絡はありませんし…」
「そう……よね」

 アスナの呟きで、また会話がなくなった。

 実のところ、先ほど交わした言葉がネギの部屋から出て最初の会話だった。二人の間には、微妙な居心地の悪さが横たわっていた。だが先ほどの話題でそれが少しだけ薄れた。それを感じた刹那は、意を決して口を開く。

『あ、あの』

 だが不運なことに、それはアスナも同じだった。再び生まれる気まずい沈黙。だが、その沈黙は先ほどまでのそれに比べて、少し方向性が違う気まずさであり、破りやすいものだった。

「えっと…私から、よろしいでしょうか?」
「う、うん。どうぞ」
「はい。その……先ほどはスミマセンでした」
「え?」
「ネギ先生の部屋で…その…失礼なことを…」
「あっ、ああ。アレなら別に気にしてないわよ。本当の…ことだし」

 刹那の謝罪にアスナは少し肩を落とし、力のあまり篭らない笑顔を作る。

「それに……はっきり言ってくれて、少しスッキリしたし…」
「はぁ…」

 辞令というにしては嘘が感じられないアスナの言葉に刹那は意外さと、少々の尊敬を覚える。自分に向けられた厳しい言葉を受け入れるのは、難しいことなのだ。
それをできるアスナが木乃香の友人であることに、刹那は安堵を覚えて表情を和らげる。

「それで神楽坂さんは何を?」
「あ、えっとね…その…桜咲さんのことについて質問なんだけど?」
「私…ですか?」
「うん。刹那さんの信念って何なのかなって?」
「信念?」

 言われて、刹那は少し考える。
 自分の信念。それはお嬢様を、木乃香を守ることだ。他の何を犠牲にしても木乃香を守り通すこと。

(だが……)

 何かが違う。そんな気がしてきた。確かに刹那にとって木乃香を守ることは当然だが、しかし今の自分がしていることは、何か違う気がする。
 理由は、ピートに言われた言葉だ。

 ――愛の反対は憎悪ではない。無関心である――

 辞書的な意味は理解している、と思う。だがそれと今の自分との関係がわからない。ただその言葉が耳からはなれず、どうしても心のどこかに引っかかっている。何かが…。
 思考に沈む刹那。それを見たアスナは自分の質問が、かなり抽象的だったことに気付いた。

「あ、ゴメン!いきなり信念って言われてもわかんないわよね…えっと、つまり…」
「いえ、おっしゃりたいことは解りますよ。
 以前言いましたように、私の信念はお嬢様をお守りすることです。そしてそれが…私の戦う理由です」
「……そっか」
「神楽坂さんは、どうしてネギ先生と契約を?」

 以前から聞きたかったことを、刹那は尋ねた。
 刹那がネギとアスナの契約を知ったのは、あの大停電の夜だった。だからそれ以前の、ネギとアスナが仮契約をした理由は全く知らないのだ。問われたアスナは、少し顔を引きつらせてから言いにくそうな表情をする。

「あ、いえ!別にいいにくい事でしたら…」
「あー、そうじゃなくて…その…刹那さんみたいな立派な理由じゃなくて…」

 聞いてはならないことを聞いてしまったのではと慌てる刹那に、アスナは苦笑いをする。

「その…あのエロオコジョに挑発されてなのよね…」
「―――はっ?」
「だから仮契約を頼まれて断ろうとしたんだけど、そしたらあのエロガモが、お子様だからキスが無理なんだろって挑発してきてね。それで勢いて………ごめん」
「謝るようなことでは…ですが…その…こ、個性的な経緯ですね」
「…フォローしてるの?それ?」
「……すみません」

 謝りながらも、刹那は信じられないという気持ちで一杯だった。
 魔法使いと、それも真祖の吸血鬼と戦おうとする魔法使いと仮契約したその理由が、キスのことでからかわれたから。一切れのパンを盗んだ罪で19年間投獄されるより遥かに不条理な話だと思った。

「まあ…ネギを放っておけなかった、って言うのもあるにはあるけど、桜咲さんが木乃香のことを大切に思うほどでもないんだよね…。
 中途半端って言われても仕方ないよ」
「―――そんなことはないですよ。誰かを守りたいという気持ちに大小はないと思います」
「そう…かな?」
「ええ」

 頷きながらも、刹那は自分がそんなことを言っていることに驚きを隠せなかった。
 少し前までの自分なら、こんな気遣いの言葉をかけることはなかったろう。

(どうしたんだろう、私は…)

 自分の変化に刹那は自覚し、そして戸惑い、理由を思索する。
 そして、その原因はすぐに見当たった。

(横島さん…か)

 あの人が来てから、歯車が動き出した。
 出会いは、あまり善い物とはいえなかったが、しかしそれがなければピートの話を聞くことも、今こうしてアスナと話すこともなかったろう。これらから生じる結果の善悪はわからない。だが少なくとも、何もないよりはきっといいに違いない。

(そう、前向きに考えることができるようになっただけでも、横島さんに会えてよかったかも知れない…)
「あの…桜咲さん?」
「えっ、なんでしょうか神楽坂さん?」
「何かさ、あの…私のこと、アスナでいいよ?
 私の苗字って言いにくいだろうし…」

 アスナは少し言いよどんでから、それにと前置きをしてこう付け加えた。

「私達、友達でしょ?」
「――えっ?」

 友達。その言葉に、刹那の心臓は恐怖とも歓喜とも付かない感情によって締め上げられた。

――愛されているということですよ?――

 リフレインされる、ピートの言葉。だが……

(それは、私が半妖だと知らないから…)

 当然のことだ。自分は隠しているし、秘密の共有者である横島は喋っていないのだから。そして、もし知っていたならアスナもそんなことは言わないのだろうから。
 しかし―――それでもその言葉は温かい。

 向けられた言葉に戸惑う刹那に、アスナはすこし不安げな表情で聞いてきた。

「ひょっとして…イヤ、だった?」
「!?め、滅相もない!そう呼ばせていただきますカグ……アスナさん。
 その、ですから私も、刹那で結構ですよ?」
「うん。改めてよろしくね、刹那さん」

ほっとした表情で微笑むアスナ。それを向けられた刹那は心に暖かさと、そして痛みを覚えた。その微笑に対して、自分は正体を隠すという嘘を吐いている。そのことに対する痛みだった。


 家々の灯りの一つ一つが夜景という一つの単位として認識されるほどの遥か上空、影が二つ下界を見下ろしていた。
 一つは、メドーサだった。

「フン、微弱な結界を警報代わりに、かい。
 下らないことをしてくれるじゃないか?」

メドーサは忌々しげに言う。だが、もう一つの影は余裕の態度で言う。

「かまわん。所詮は今生の術者の術。気付かれずに解くなどたやすいこと…」
「そうだったね…」

 もう一人の影は、烏帽子姿の男だった。その男の言葉に、メドーサは口元を綻ばせる。

「けど、だからって調子に乗って出過ぎないでおくれよ。相手が相手だからね」
「心得ておるわ。今宵は少し様子を見るだけ。だが、その方法はこちらに任せてもらうぞ。その結果、ひょんなことから目的が達せられることもあるやもしれんしな」
「ふふっ…期待してるよ」


つづく


あとがき

 ついつい描写が増えすぎて、なかなかストーリーが進まず悶えている詞連です。つか執筆時間が捻出できない…。
 実はこのエピソード、前半は前の話、後半は次の話につける予定でしたが、こうなりました。ううむ…このままでは原作に引き離されるばかり…がんばらねば。

 さて、ここでクイズ!
 今回さよちゃんが使ったマイナーなネタの原典は何でしょう?
 正解者先着一名様に、リクエスト権を進呈します。
 ××のこんな話を見たい、という旨を解答と共にレスに記入してください。修学旅行編が終わった後に書かせていただきます。ただし、本編と関わりがあまりにも深すぎる展開は流石に無理な場合がありますのでご了承ください。

では、レス返しを。


>ロードス氏
 文珠を使わなかったのは作中でも説明しましたが、文珠で忘れさせたとしても手元の資料から再び同じ結論に達する可能性が高いからです。
 またアスナの問題に朝倉はあまり関わらないかと。というのも、アスナが前線でがつがつ戦うのに対して朝倉は後方で解説する、というのがパターンですから。まあ学園祭あたりでは色々フォローしますが。…そこまでたどり着ければ、ですが(笑)

>はてな?氏
 いや、流石に知り合いの女の子にそこまで出来るほど狂犬化はしてません。まあ、状況によっては出来るかもしれませんが…。

>盗猫氏
 ばれました。タマモは躊躇しましたよ?点六つ分は。
 茶々丸の参加は、まあアニメ第一期では大丈夫っぽかったですし、そもそも茶々丸はカード大量ゲット作戦には気付いてませんし。
 それはそうと、あなたの名前はどう読むのでしょうか?

>bayazit氏
 カモは何も考えとりません。ただ長瀬や龍宮、古菲あたりが契約してくれれば儲けもんかな、程度の考えです。

>kibayashi氏
 まあ、そこはイメージしだいということで。

>kurage氏
 冷静に考えれば現在の横島はマジで社会的に抹殺される一歩手前です。
 とりあえず今のところイベントの進行に変化なし。ですが次回は大波乱の予定です。

>D,氏
 作中でちょろっと語りましたが、霊能と魔法は見る人が見れば一目で全く別物と解ります。見鬼君を使っても一発です。また例えその場に霊能力者がいなくても朝倉達にばれたらそれが噂になり、やがてホンモノの霊能力者がやってたときばれてしまいます。
 ゆえに、魔法使いにとって「これは霊能です!」というのは証拠が残らず、かつもう二度とその場に現れないという場合に使える最後の手段です。
 ネギが事実を知ったら……まあ、どうなるでしょう、本当に。

>ひろ氏
 流石に自分のくだらないミスをフォローするのにシリアスかつ過激に行くのは両親がとがめるのでしょう。
 横島の絡みは、まあこんな風に。カモは何とか従者にしたがってますが、朝倉は横島の本来の性別を知っているだけに諦めてます。
 西条とピートは次回でます。では来週もがんばります。

>鉄拳28号氏
 誤字指摘ありがとうございます。
 今回も少しだけアスナと刹那の悩み相談&思索。そして参戦させたら意外に強かった茶々さよでした。馬鹿共も無駄に輝いております。
 横島は自分の秘密は絶対に隠し通したいと思ってます。ただしギャグverでの真剣さでですが。普段はまるでダメ。それが非常時男の宿命です。なお『忠夫』の交友関係を喋ったのは、その時点ではまさか『忠夫』の知り合いと朝倉たちが会うことはないだろうと思っていたからです。
 それから朝倉は後方で隠れている予定ですから、それほどそこらへんの葛藤はアスナの担当なのであまりクローズアップする予定はありません。
 では次回もがんばります。

>戦闘員A氏
 文珠のフォローありがとうございます¥。
 まあ、朝倉が味方になったことは横島にとってもよいことでしょう。

>のえ氏
 誤字指摘、ありがとうございます。
 美神さんに知れたら…お揚げが何日抜きでしょうか?

>流河氏
 どんなに値段が上がっても福沢諭吉を超えれない。それが横島。
 ネギはドキドキを超越してバクバクでした。

>みょー氏
 誤字指摘、ありがとうございます。
 分身は出ました。しかも原作よりもちょっと多目。
 アスナちゃんは某三番目が見習って欲しいほどさっぱりした性格なので書いていて楽です。文珠のフォロー、ありがとうございます。

>ハイント氏
 核は怖いです。文珠はイメージしだいなので、もしも核融合するの原子をリアルに出来る人が使えば、それこそ国が滅びます。
 タマモと朝倉の軽さは仕方ないです。だって少なくとも朝倉は、よもやそれほどの大ピンチになっているとは思ってませんから。
 感想、ありがとうございます。

>MAHO氏
 すみません、ネギがアスナを思いやるシーンは不発ということで…。思ってはいても実際に慰めるにはネギはお子様過ぎました。まあ、またの機会をお待ちください。
 のどかちゃんは私も応援してます。ガンバレ本屋!

>瞬身氏
 感想ありがとうございます。
 伏線のぼやかしすぎについてのご指摘は大変ためになりました。なるほど、確かにこの文章ではそれ以外の要素が全く伝わってませんね…。もう少し伝わる表現を考えていこうと思います。
 アホガモは状況を甘く見ています。数を増やせば大丈夫、という魔法に対する過信と、もしも戦力にならないカードが出ても、黙ってれば平気だろうという考えです。
 悩めるアスナと、騒ぐアホ共。そこにさらにメドーサ達の影を投入。プレッシャーに負けないようにしっかりと収拾しようと思います。
 ご指摘、本当にありがとうございました。

>いしゅたる氏
 初めまして。
 お褒めに預かり嬉しい限りです。横島らしいといわれるのが何より嬉しいです。原作にプラスした設定が多いため、横島らしさが削れている自覚がありますので…本当にありがとうございます。
 ヘルシングは読んでなかったのでネットで表紙を検索。
 ……確かに、すげぇ合っているです。
 カモの所業はしっかり釘さす予定ですのでご心配なく。

>23氏
はじめましてー。
 横島らしいといってもらえるとうれしいです
 タロットも気に入っていただけたようで嬉しいです。

>七位氏
 まあ、原作でも黙っていたので厳密には引きずり込んだわけではありませんが、それでも騙しはよくないと私は思います。
 まあ、横島も無理な引きずり込みには反対でしょうね。まあほいほいそんな世界に入っていくのは作風でしょう。そのあたりを現実にはありえないほどディープに書く人もいれば赤松先生のようにさらっと流す人もいる、という風なもんです。

>あき氏
 押さない?…どれどれ………
 ……………
 ぶはっ!?

 というわけで誤字指摘ありがとうございます。
 あ、危ういですね。確かに不味い誤字でした。私も噴きましたとも。つーか自分でもおもわず「……ひょっとして『幼い』となおすより『押しちゃいけない』とかに直した方が…」と悩んだのは秘密です。
 これからもがんばります。

>キリエ氏
 今回はギャグがほとんど、シリアスがチビットでした。
 つか、ネギ君壊れた。

>神〔SIN〕氏
 全ての謎は続きをお待ちください。とりあえず、メド様はまた何か企んでいらっしゃるようです。

>舞ーエンジェル氏
 まあ、少しはアイツもネギ君のことだって考えてますよ、多分。
 それに、おそらくカモは血なまぐさい光景にだってそれなりになれているかと思います。だって元は野生動物ですし。
 ちなみにメド様とエヴァちゃんの実力は、条件次第です。月の満ち欠けとかにエヴァちゃんは大きく影響されますし。
 とりあえず、満月の夜ならエヴァちゃんが圧倒。昼間ならメド様が一枚上、といったところです。
 なおブラドー伯爵とピートについては、あれは一種の決闘だったからピートが互角に戦えました。でなければブラドー伯爵があのシーンで、バンパイアミストを使わなかった理由が説明つきません。……あの技が椎名先生の後付設定だったという説は無視です。


 レス返し終了。
 さて、次回はついにキス争奪戦も終了。
 アスナちゃんの悩みも決着させるつもりです。
 なお、メド様と一緒にいらっしゃった方のことは、勘の良い人なら気付かれるかと思いますが、解らない人は解らないと思いますので、どうか秘密という方向でよろしくお願いします。
 では…

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