結果、ゴン、キルア、レイの3人で5つの商品を手に入れる事が出来た。ゼパイル、という人物に競り落とされたのは変な壷だけで、それ以外をオークションハウスに登録する事にした。
「申し訳ございませんが、当ハウスではオークションに出品するカタログを半年前には完成させております。今既に来年のカタログに載せる品物を検討している最中です」
が、オークションハウスの所員は、彼らの持込みを出来ない事を説明した。
「何故ならばカタログに掲載する品物をは、全て当ハウスが責任をもって、本物と断定し、鑑定書を付してある一品でありますゆえ、真贋の確認には、それだけの時間が必要なのでございます」
恐らくどのオークションハウスも大差はなく、今年の競売には間に合わないと言われた。
「う〜ん、でも何とか今回の……出来れば5日までには競りにかけたいんだけど」
「街の骨董商に買い取って貰うのが、一番確実で早道ですが」
「なるべく競売が良いんです」
「ふ〜む、そうですね……余りお勧めは出来ませんが、業者市に出展するという方法がありますよ」
業者市とは、その名の通り、競売品の仲介を生業としている専門家のみが集う競売市である。
参加するは鑑札と呼ばれる許可証のみであり、簡単に入手できる為、一般人が参加することも多い。
この市は、出展された現物のみを頼りに競りが行われる。そのため真贋を含めて、その品の善し悪しは全て参加者の“目”に委ねられる。そういった市の性質上、競売当日に持ち込まれる“飛び込み”の品が多く、贋作品が場を荒らすことは珍しくない。
仲介業者だけの市なので、通常のオークションよりも値は下がるが、所見の骨董屋よりは高く売れる。
「しかし、この市は海千山千の曲者が集うプロの戦さ場でございます。正真正銘の一級品が額面通り高く売れるとは限らないのが、この世界の怖い所でございます。優秀で良心的な商師のつてがないならば……」
値切られて骨董屋より安く買われるかもしれない、と言おうとした所員だったが、3人は既に出て行った。
「業者市か……プロが一杯参加するんだから本物だったら高く売れるよね!」
「うん、出来れば普通の競売に出したいけど仕方ねーだろ」
が、その前にコレがどれだけ価値あるのか知りたい、という事で3人は一応、骨董屋で見て貰う事にした。
「う〜む……これはお家にあったものかい?」
太った骨董屋の店主に、3人で落札した絵画、木像、アンティーク人形、水墨画、陶器を見せた。
「はい。両親が借金取りから逃げる為に蒸発したので、こうして弟達と一緒に蔵の中から売れそうなものを持って来ました」
「姉ちゃん、これ高く買ってくれるかな? たまにはパンの耳以外のもの食べたいよ」
「(何故、姉弟のフリなんか……)」
同情を買って1ジェニーでも多く買って貰えれば儲けもの、という事でレイとキルアは、憐れな姉弟の芝居を打っているが、生憎と、そういう芝居に向かないゴンは黙っている事にした。
「そうか〜……辛い目に遭ったんだね。安心しなよ。どれも素晴らしい品物だよ」
「本当ですか?」
「ああ、例えばコレ。ムカトリーニの50枚限定リトグラフ作者の直筆サイン入り。この人は、気に入った作品にしかサインをしないので有名なんだ。しかも番号が若い。う〜ん、サインも本物だと思うね」
そこからオーラが出ていたので買ったのだと3人は言わなかった。
「まぁ15万はするだろうね」
「「おぉ〜っ」」
「で、このアンティークド人形は素晴らしい。全て手造りで、本体の状態もいいし、箱と備品が無傷で残っているのが価値を上げるんだ。これも30万もするね」
「「うお〜!!」」
「この陶器も良いよ。青白磁と呼ばれてある国では宮廷でも重宝されたものだよ。80万ジェニーはするよ」
「「おおぉ〜っ!!」」
「こっちの水墨画は、ある島国でセッシュウ風と呼ばれるものだよ。まぁ35万ジェニーはするね」
「「ひぇ〜っ!」」
次々と高額な値段を言われてゴンとキルアは仰天する。
「これは……」
そして、店主は最後の木像を調べて言った。
「残念ながら大したものじゃないね」
「少しだけどオーラ出てたのにな」
「才能あったけど、有名じゃないって事かな」
小声で話すゴンとキルアに店主は説明する。が、レイだけは疑うように店主を見ている。
「まずね、箱と像の年代が明らかに違うんだ。箱は最近、作られたもの。恐らく像の持ち主が裸じゃ可哀想だからって作ったんだろうね。像自体も彫りが深くて統一性に欠けるし、何より作者の名前もない。多分、数百年前に誰かが戯れに作ったものだと思うよ。値段はおまけして1500ジェニーってとこかな」
「なーんだぁ」
残念そうな表情を浮かべるゴンとキルアだったが、店主は更に続ける。
「ただし、それは像としての値段ね」
「?」
「この木自体が知る人ぞ知る値打ちものなんだ。古くていい木は、今の彫り師にとってはお宝なんだよ」
「へ〜」
店主のその言葉に、ピクッとレイは眉を顰めた。
「これほどの古木なら10万で買ってくれる人を僕は知ってる」
「ホント?」
「恐らく市に出しても、この価値を知ってる人はプロでも少ないね。知ってても買ってくれる彫り師が知人にいないと売りさばけないしね。普通は二束三文のガラクタだよ」
「なるほど」
「そこで君達に相談だけど、もしこっちの4つを……」
「待って」
木像以外の4つを売ってくれ、と言おうとした店主をレイが止めた。
「その木像、二束三文というのは嘘ね」
「「え?」」
「な、何をいきなり……」
「既に荒く彫られてしまっている木像を10万も出して買う彫り師が本当にいるの? 彫刻に使える部分なんて、殆ど無い筈よ」
値打ちのある古木も、彫刻出来なければ意味がない。そうレイに問い詰められると、店主は動揺した。
「あ、いや、これは……」
「その木像を見た時の貴方の目……異様に輝いていたわ。何故?」
「そ、それは……」
「その嬢ちゃんの言う通りだ!!」
その時、店の入り口から怒声が響いた。3人は振り返ると、そこに風呂敷を持った男性が一人、立っていた。
「大した洞察力だな、嬢ちゃん。坊主ども、姉ちゃんに助けられたな」
男性は笑みを浮かべ、カウンターに歩み寄って来る。
「4つの品物の値段は妥当だが、木像に関しちゃ本当にデタラメだ。そんな木に10万の価値はねぇ。お前さんの本当の目的は、木像の中身だろ?」
そう言われ、店主はギクッとなって身を竦ませる。
「こりゃ木造蔵だ。300年くらい昔に金持ちの間で流行った税金逃れの隠し金庫だ。皮肉にも巧妙すぎて主人が突然死んだりすると、家族が知らずに処分しちまう」
男性は木像の上部に指を当てて説明する。
「素人目には絶対分からねぇ継ぎ目が此処にある。こりゃあ十中八九、作られてから開けられた事のねぇ代物だ。本物だったら、中に隠し財宝がギッシリ詰まってる筈だ。そいつが狙いだろう?」
「な、ぼ、僕はそんな……」
完全にうろたえる店主に、ゴンとキルア、レイは不思議そうに男性を見る。
「アンタ……誰?」
その質問に対し、男性は「ゼパイル」と名乗った。
「ありがとう、ゼパイルさん。もう少しで騙し取られるる所だった」
骨董屋から出て、ゴン達はゼパイルと歩いていた。
「礼にはおよばねーよ。ギブアンドテイクって事で」
「え?」
そう言い、ゼパイルは指を二本立てる。
「二割でいいよ。その木像が売れた時の俺の取り分」
「なっ……ぼったくる気かよ、オッサン!」
「人聞き悪いな。アドバイス料だろ、当然の」
「良いんじゃない、助けて貰ったわけだしさ」
報酬を取ろうとするゼパイルに、キルアは文句を言い、ゴンは逆に当然のように反応する。
「お前、聞き分け良過ぎ!! 俺達は1Jでも多く金集めなきゃいけねーんだぞ! 20%もやれないね! 精々、昼飯奢るくらいかな」
「そうか。なら、それで良いや」
「「え?」」
アッサリと了承したゼパイルにゴンとキルアは唖然となり、4人は近くの食堂へ行った。
目の前に並べられた大量の料理を、ゼパイルは凄まじい勢いで掻っ込んでいく。
「おばちゃん、シシカバブ一人前追加で!」
「あ、俺も食う! ゴンとレイは?」
「私は良いわ」
「じゃ、3人前追加で!」
レイはコーヒーだけで、ゴンとキルアも注文する。やがて、一段落すると、ゴンはゼパイルに言った。
「あのね、ゼパイルさん」
「ん?」
「やっぱり食事だけじゃ悪いから、手数料払うよ」
「まーた、コイツは」
あくまで手数料を払おうとするゴンにキルアは呆れ返る。
「あ、いいよメシだけで。オバチャン、トーフの味噌スープ1つ!」
「そーだよ、見ろよコイツ! 10人分は食ってんぞ! 俺、蟹炒飯追加!」
「キルアも相当食べてるわよ」
もうヤケクソ、という感じで、キルアも大量に食べる。
「でも、それじゃやっぱり……」
「いや、マジで良いって! その代わり1コ教えてくれよ」
「?」
「お前ら、その5つの品、どうやって目利きしたんだ?」
「メキキ……」
「って何?」
ゼパイルの質問に対し、首を傾げる3人に、思わず彼は噴き出した。
「マジか!? 目利きも知らねーで、どうやってそれ品定めしたんだよ!? まさかテキトーじゃねーだろ? あれだけの数の店の中から、どうやってその5つにしようって決めたんだ!?」
「いい? 本当のこと言って?」
「ま、金払うよか良いか」
「というか適当に誤魔化す方法が無いわ」
ゴンはゼパイルに、念の事を説明し、それを使って品物を買った事を説明した。
「う〜ん、なるほどな。それが本当なら、お前らが木造蔵を選びながら、その中身を知らなかったのも合点がいくし、他の値打ちもんには全然目が向かなかったのも頷ける」
「え? 他にも何かあったの?」
流行のブランド品や一昔前のテレカやトレカと言った、直接手で作ってはいいなもの、だとゼパイルは教えた。
「ん? で、お前ら何でそんな金が欲しいのよ?」
「借金残して両親が蒸発して……」
「借金ある貧乏姉弟が飯奢るか!」
「あ、やっぱバレた」
猫みたいな顔をして笑うキルア。
「でも聞きたい事って1コじゃなかったの?」
「まぁ良いじゃねぇか、教えろよ」
「じゃ、交換ね。それに答えたら俺達の質問に答えてよ」
キルアの提案に、ゼパイルは「ああ、良いぜ」と答えた。
「あるオークションで、ある品物を競り落としたいんだ。それで金がいる」
「ほう。どんなもんだ?」
「今度はこっちの番。この木像の中身、売ったらどのくらいになんの?」
「入ってるものによるが、悪くとも一億は下らねぇだろうな」
「いちお……」
この木像の中身が、ハンターライセンスを質屋に入れた値段より高い事にゴンは唖然となる。
「で? どんなものを競り落としてーんだ?」
「グリードアイランドってゲームソフト」
「ああ、あのバカ高いゲームか。そりゃあ難儀だな」
「さっきオッサンが手に入れた変な壺はいくらぐらいで売れるの?」
「ん? これか。こりゃあガラクタだ。タダ以下だな」
タダ以下、と言われ、ゴン達は不意打ちを食らったような表情になる。その間、ゼパイルは次の質問をした。
「何であんな高額なゲームが欲しいんだよ? 確か60億だろ? 当時の定価でよ」
「俺、自分の親父を探してるんだけど、そのゲームに何か手掛かりがありそうなんだ」
「ほぉ」
「何で、そっちの壺を選んだの?」
「あ?」
「売ったら1億するんでしょ、こっちの木像?」
ゼパイルは木像の値打ちを知っていた。そして、それをゴン達と競り合っていた。なのに、彼は一番高価な木像ではなく、ガラクタの壺を選んだのが気になった、とキルアが問う。するとゼパイルは「ん〜」と頭を掻き、照れ臭そうに答えた。
「この壺、実は俺が作ったんだよ」
「「え!?」」
「(ズズ)……コーヒーお替わり」
驚くゴン達を他所に、レイは一人マイペースにコーヒーを飲む。
「とはいえ俺のオリジナルじゃねぇ。贋作だ、いわゆるパチモンだよ」
煙草に火をつけ、ゼパイルは説明する。
「極貧時代にな、その日の飯代にも事欠いてちょくちょく作ってたんだ。目利きを始めて、金がそこそこ入るようになってからは、すっぱり手を引いたが、コリャそのやり始めの作品でな。今、見るとかなり出来損ないの恥ずかしい代物だ」
市に来ると、たまにそんな昔の贋作が売りに出されており、何をおいても買い戻すとゼパイルは答えた。
「なるほど。本物の壺ならいくらぐらいすんの?」
「俺の番。お前の親父って何してる奴なの?」
「プロのハンターなんだ」
「本物の壺ならいくらぐらいすんだよ?」
「本物でも4,5万そこそこだよ。当時贋作やりたての若造に、そんな高い仕事は回ってこねーさ。なるほど、プロハンターか……骨董の世界にも何人かいるが、皆イカれてるぜ。世界中飛び回ってなんぼの仕事だし、子供が探すのは無理なんじゃねーか?」
「大丈夫! 俺もプロハンターだもん」
「私も」
そうゴンとレイに言われ、ゼパイルは驚いたように2人を見る。
「さぁ、今度はそっちが聞く番だよ」
「ん? ああ……んじゃ、本当に最後の質問だ。俺に何か手伝える事はねーか?」
その質問に対し、3人は「え?」と声を上げた。煙草を灰皿に押し付け、ゼパイルは言った。
「オークションで儲けようと思ったら、どうしたって目利きが必要になる。逆に言えば、目利きさえ出来ればヨークシンならいくらでも稼ぐチャンスがあるって事だ。俺の手数料はお前らが決めてくれていい。どうだ?」
「………じゃ、俺達も最後の質問ね。どうして俺達のこと手伝おうと思ったの?」
「そりゃあ目利きが俺の仕事だからな。それを必要としてる人間に声をかけるのは当然だろ? ってのは建前で、正直、少し嬉しかったしな。こんな粗悪で不出来のガラクタでも、値をつけて貰えると嬉しいもんさ」
「ガラクタなんてこと無いよ!!」
ゼパイルの言葉に対し、ゴンは身を乗り出して反論した。
「その壺には確かにゼパイルさんの念が込められている! オーラって誰でも出せるものだけど、それを自在に操ろうと思ったら、大変なんだよ!! 物体にオーラをとどめる技は『纏』っていって、凄い集中力と長い修行が必要なんだよ!! どれだけの想いを込めて、この壺を作ったかはその事だけでも分かる! ゼパイルさんは念を知らずに、それが出来たんだ! 凄い才能だよ!」
ゼパイルを褒めちぎるゴンに、本人は最初、キョトンとなるが、すぐに笑みを浮かべて言った。
「俺の目に狂いはなさそうだ。目利き商売ってのは長くやってると人間を見るようになってくるんだ。物だけじゃなく、売る人間、買う人間をな。好きな骨董品を鑑定するよりも客観的に見える分、人間の評価は厳しいぜ。こいつになら売ってもいい、しつからは絶対買わんとかな。お前ら見てて、目利きとしての俺が囁くんだ。“こいつらと仕事がしたい”ってな。それが答えた。そっちの答えは?」
ゴン、キルア、レイは顔を見合わせて頷いた。
「お願いします!!」
「手数料は働きを見てからね」
その後、ゼパイルの借りている宿の部屋で木像を丁寧にノミで開くと、その中から輝かしい財宝が出て来た。
「「うおおおおおおおお!!!」」
宝石からはオーラが出ており、ゴンとキルアは大声を上げる。ゼパイルは宝石を手に取って、鑑定する。
「間違いない、本物だ。安く見積もっても全部で3億はするんじゃねーかな」
「「おお!!」」
「ただし業者市だと現金買いが基本だ。今日、飛び入りで品を出しても値がつかないだろ。出展料が無駄になるだけだ」
「じゃ、どうすんの?」
「まず下見市に出す」
下見市とは、 カタログの掲載に間に合わなかった品を披露する場で、そこで業者が目利きして、どのくらいの値で買うかを決めるのである。
コンベアに乗せられて、開けられた木像と宝石が出て来た。無論、他にも値札市で競り落とした品物もあったが、業者達の目は木造蔵へと向けられる。
「木造倉か!」
「こりゃあ凄い!!」
「継ぎ目に使われている接合剤も当時のものだな」
「二度漬けの痕跡もない」
「これだけの品だと相当な値になるな」
「そうかな?」
割と好評だった業者の反応だったが、不意にスキンヘッドの男性が言って来た。
「木造蔵が本物だからといって、中の宝が本物とは限らないぜ」
「(始まったか……)」
ゼパイルは男性を見て、表情を引き締めた。
「そりゃあ、そうだが」
「この宝石群は、どう見ても本物だよ」
宝石は当時の年代より、更に数百年古い貴重なものばかりで、ルーペで調べてもアンティークである事に間違いないと業者は言う。
「まだ全部を調べてみたわけじゃないだろ?」
「まぁそうだが……」
「仮に全部が本物の宝石だとしても、木造倉の年代と同じとは限らないぜ」
「ねぇ、あいつら何言ってんの?」
男性の言葉を聞いて、キルアがゼパイルに質問する。
「値を落としにかかってんだ。簡単に言えば、イチャもんつけてんだよ」
「止めなくて良いの?」
「これが下見市だからな。褒められたやり方じゃないが、安く買おうとするのは当然だ」
と、説明するが、男性が宝石を手に取って見出したので、ゼパイルは3人に言った。
「それよりも奴らの手元を注意して見ていろ。少しでも変な動作を見せたら、『何かお調べですか?』って、デカい声で聞け」
そこでゴンとキルアは、男性達の傍へ寄って注視する。
「嬢ちゃんはやらねぇのか?」
「…………別に注意して見なくても、いざ実行すれば、それ相応の報いを与えれば済む事」
2人のようにしないレイにゼパイルが尋ねると、非常に恐ろしい返答だったので、冷や汗を垂らした。
一方、男性は、ジッと自分達を見て来るゴン達に驚いた様子で尋ねる。
「これ、まさか坊主達の持ち込みか? 安心しなよ。すり替えたりしねーから。その為に出展品には全部、市の印の番札が付いてるんだからよ」
「番札が付いてるからって安心は出来ない。すり替えってのは、そんなもんだろ」
「…………アンタは?」
自分達が何もしない事を主張する男性だったが、そこへゼパイルが割って入る。
「その子達の雇われ客師だ。俺の目にかけて誓うぜ!! これは真品だ! 木造倉も当時のものだし、中の宝石もすべて本物だ!」
「公式の鑑定書はあるのかい?」
「…………いや」
「それじゃ話にならねーな。売人側の鑑定だけじゃ、信用しろって方が無理だ」
「何故、鑑定を申請しないんだ?」
その質問に対し、ゼパイルは足元を見られないよう、依頼主が今年中にまとまった金が必要で、今年のオークションに間に合わなかったからだと説明した。
「落札した後、その足で何処へでも鑑定の依頼をして貰って構わないぜ。もしも、その結果が偽物なら、全額返すって誓約書を書いても良い」
そこまで言うなら、やはり本物ではないかと業者達がザワつく。が、スキンヘッドの男性は不敵に笑った。
「大した自信だが、そんな約束しちまって良いのかい? 木造倉は目利き泣かせだぜ。“殺し技”の種類がハンパじゃないからな」
「殺し技?」
「贋作師がプロの鑑定師を騙す手口の事さ」
ゼパイルがそう教えると、男性は殺し技の事を説明し出す。
「例えば、さっき言ったように木像が本物であっても中身が、すり替えられている場合がある。この手口を“ヌキ”という。それに対し、木像も中身も全部偽物ってヤツが“ガン”。“ヌキ”にも色々あってな」
〜瓦討魑曲の宝と入れ替えておく。
∨槓を少しだけ残しておく。
8せる時には本物を見せ、売る直前に偽物とすり替える。
さ曲ではないが最近の安物とすり替えておく。
サ曲ではないが当時の安物とすり替えておく。
「大雑把に分けてもこれだけある。木像の真贋を見極めるのも、実は相当難しい。その木像も確かに木自体は300年以上経っているだろうが、それはあくまで素材の年代。その像が300年前に彫られたとは限らない! 素材の年代よりも、加工した年代の方が遥かに鑑定が難しいからな!」
男性の説明に、周囲が動揺し出す。
「『素材の年代は本物と同じでも彫ったのは最近』ってヤツは、“アトボリ”って手口の殺し技」
「ちょっと待てよ。これが“アトボリ”じゃないのは明白だ! 切断面に付着している接合剤は、明らかに当時のものだ。酸化による変色の度合いで分かる! 二度漬けの跡もないだろう?」
「そうかな? 余り知られていないが、当時の接合剤は加熱すると溶けて粘着性を取り戻す。これは鑑定の裏技として利用されるが、殺し技にも使われる」
「(こいつ、良く知ってやがる)」
ゼパイルは予想以上に相手の豊富な知識に、唇を噛み締める。
「当時の接合剤の上から新しい接合剤を塗り直すのは“ニドヅケ”。これはお粗末な素人の手口だ。プロは一度火で接合剤を熱して溶かしつけ直す! これなら一度も開けてない状態と見た目は同じになるからな。この手口を“ヤキヅケ”と言う!」
「そう言われると……これが“ヤキヅケ”してないって確証はなくなるな」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。そんな事ないぜ。“ヤキヅケ”を使えば、切断面に焦げ跡が出来る! もし焦げ跡がなくても、熱する事によって接合剤に微妙な色合いの変化が生まれる! この接合剤には、その変化が全く見られない! 本物だよ!」
「かすかな色合いの変化を見極めるのは肉眼が頼り! プロでも難しいとされてるぜ! アテには出来んな!」
「う〜ん、我々には判別つかないな」
「ワシなんて今の手口の半分も知らなかったよ」
「(マズいな……周りも迷い始めてる)」
ゼパイルは、相当、こちらが不利な状況に、静かに舌打ちした。
4人は外に出ると、公園のベンチに腰を下ろす。
「くそぉ、あいつら……わざとらしくデカい声で殺し技の講義しやがって!」
あれは、良い品物を法外に安く買い叩こうとする落とし専門の業者だな、とゼパイルは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべる。
「で? ちゃんと売れそうなの? あれさ」
「う〜ん、競売が始まってみないと分からないな。競りの順番とかも結構影響するし、ただ、さっきの下見でも何人かはかなり目の利きそうな業者がいたからな。その誰かが本番で食いついてくれれば、一気に場が盛り上がって、値が上がると思うぜ」
「ところでゼパイルさん」
「ん?」
「殺し技には、他にどんなのがあるの?」
ゴンのその言葉に、ゼパイルと炭酸ジュースを買って来たレイがピクッと反応する。
「ほう……興味あんのか?」
「うん! 何か手品の種明かしみたいで面白かったよ」
「(こいつ、そうか……何でこいつに興味を持ったかが自分でも良く分からなかったが、今、少し分かったぜ。こいつは善悪に頓着がない)」
ゴンはゼパイルが贋作をやっていたと告白した時も不良業者が木造倉に難癖をつけてる時でさえ、非難する気も、悪事へのちょっとした憧れも浮かばなかった。あるのはただ一つ。
「(単純な好奇心か)」
その結果、凄いと思ったものには善悪の区別なく賞賛し、心を開くのだとゼパイルは確信した。
「(つまりこいつは……危ういんだ。言うなれば、目利きが全く通用しない、五分の品、ってとこか)」
「どうしたの?」
「あ、いや……」
不思議そうに見て来るゴンに、ゼパイルはハッとなる。レイはそれを見て、小さく笑った。
「(羨ましいわね……こういう純粋な心は)」
「殺し技だったな。オーケイ、分かった。教えてやるよ」
4人は場所を移動し、ゼパイルはガシャポンを一つ買った。
「目利きが木造倉を鑑定する時のポイントは大きく3つ。逆に言えば、そこが殺し技の仕掛けどころでもあるわけだ。入れ物である木像、切り口の接合剤、中の財宝。この3つをあの手この手で細工して騙す。その中で、最も鑑定が難しいのが、入れ物である木像なんだ」
もともと財宝を隠すのが目的だから、像の造り自体は粗末なものが多い。つまり完成度での鑑定が不可能なのである。材木も重くて丈夫なものであれば、何でも使用された為、今でも入手可能な木が多いのだ。
「だから、こうして閉じられた状態で競売に出て来ると、鑑定の手がかりは殆どなくなる」
「そこで切り口を見るわけか」
「その通り」
カプセルの蓋を閉じて、ゼパイルは説明する。
「接合剤の部分は塗料と木屑で巧妙にカモフラージュされている。それを見つけ出し、接合剤の変色の度合いを調べる」
「それで酸化の度合いが300年の時の経過を示していたら本物って事か」
「ところが、そうは問屋がおろさねぇ」
「“ヤキヅケ”、ね」
「良く覚えてたな」
中身を抜かれ、“ヤキヅケ”をされると、熱による変色を見破るのはプロでもかなり難しいので厄介である。
「だから現在、木造倉の殺し技で一番見破りにくいのが、この手口だ。木像を一度開けて中身をすり替え“ヤキヅケ”でまた接着する」
「ふ〜ん」
「だが、余りにも数が増えると買う側も開いていない木造倉を警戒して買い控えるから、市場がどよみ始める。その機を狙って新たな手口が出て来るんだ」
それが“ヒラキ”と呼ばれる殺し技で、開けた本物の木像と既に安物の宝石とすり替えた中身を堂々と一緒に晒す手口である。
「人間の心理ってのは、本当に面白い。閉じた木像ばかり警戒していると、『開いている』というだけで優秀な目利きが、安物の財宝を目の前にして、コロッと騙される」
『偽物であれば、わざわざ開けた状態で見せるわけがない』、と頭のどこかでそう思い込んでしまっている、とゼパイルは言った。
「そして、その手口も使い古され、警戒され始めると、また大胆な殺し技が出て来る。どんな些細な“ヤキヅケ”も見落とさない優秀な目利きが狙われ、次々と騙された。どんな手口だと思う?」
「それは閉じた状態だったの?」
「ああ。騙された目利きは皆、『“ヤキヅケ”ではなく、これは一度も開けられていない』と確信して、それを買った。そして彼らの確信通り、木像は“ヤキヅケ”されてはいなかった」
「つまり一度も開けられてないってことだろ? どーやったんだ?」
「分かった! 隠し財宝自体が元々偽物だった!」
「ブー」
自信満々に答えるゴンは不正解。その横で、レイが何故か缶ジュースを凄い勢いで振っていた。ゴンとキルアは不思議そうに、彼女を見る。すると、レイはおもむろに、指で缶を突いた。
「「うわ!?」」
プシュー、とジュースが穴から噴き出し、2人は仰天する。が、キルアはそれでハッとなった。
「そーか! 別の所から宝を取り出したんだ!」
「ピンポ〜ン。嬢ちゃん、良く気づいたな」
「…………昔の経験よ」
「あん?」
「正規のルートが駄目なら、別の道から行く、単純よ」
穴から零れているジュースを飲みながら、レイが答えるとゴンとキルアは訳が分からない様子で首を傾げる。が、ゼパイルはニヤッと笑って、トリックの説明をする。
「“ヨコヌキ”と呼ばれる手口でな……切り口とは別に新たな穴を開け、財宝を取り出し、偽物と入れ替え、穴を塞ぐ。少し考えれば、子供でも分かるトリックで数多の熟練目利きが痛い目にあった。長年の経験が逆に災いしたわけだ。『切り口の接合剤が熱で変色していなければ中身は本物』という先入観。それが目を曇らせた」
ゼパイルの殺し技の講義を聴いて、ゴンは興奮気味にフゥ〜、と息を吐いた。
「凄い世界だね」
「そう。『どんな手口で騙されるか分からない』。目利きは常に頭の隅でそう考えている。だから非の無い完璧な品でも『逆に怪しい』と思っちまうし、ちょっとした揺さぶりでも、先刻のように全員に迷いが走る」
Prrrr!!
その時、ゴンの携帯が鳴った。
「もしもし? あ、レオリオ? ! クモと黙示録が!?」
「ああ、間違いなさそうだ」
パソコンの画面を見て、レオリオはゴンに連絡を取る。
「何しろ奴らが動いている映像も一緒に送られて来てるからな。情報提供者が撮影機能付きの携帯で画像とメールを同時に送信してるんだ。これからそいつに詳しい場所を聞く。ターゲットは2人だ!」
パソコンの画面には、一組の男女ペアが映っていた。
「行こう!」
「お、おい! 競売はどうする気だよ!?」
急に走り出すゴン、キルア、レイにゼパイルは驚いて叫ぶ。が、3人は振り返って言った。
「任せる!」
「なるべく高く売ってよ!」
「信用してる」
3人の言葉を聞いて、ゼパイルは呆気に取られるが、やがて笑みを浮かべ、手を高々と上げて叫んだ。
「よっしゃぁ!! 任しとけ!!」
「っしゃ! 俺も急いで合流……」
「アタシも行くわよ」
ゴンとキルア、レイに合流しようとレオリオが部屋から出ようとすると、アスカが扉の前で立っていた。白いTシャツの上に黒のベストを羽織り、明細柄の長ズボンを穿いて、黒のグローブをギュッと引っ張る。
「お、おい、大丈夫なのか?」
「あのね……ぶっちゃけるけど、アタシらの中で一番、戦闘力高いのアタシとレイよ? もしもの場合、少しでも連中に対抗出来る力があったら逃げる事が出来る可能性が上がるのよ?」
「いや、けどお前……」
「もう治ったわよ」
「…………本当か?」
微妙に汗を掻いているアスカを見て、レオリオが真剣な表情を問うと、彼女はニヤッと笑った。
「アタシはアスカ・ラングレーよ。痛いからって、引っ込んでるような女じゃないのよ」
その頃、リンゴーン空港ではミサトとリツコがある人物を待っていた。
「先輩!」
「来たわね」
ショートの髪にピンクのスーツを着た女性が走って来る。その後ろから長髪の青年と眼鏡をかけた青年も歩いて来る。
「やれやれ……こっちは休暇中だったのに。特別手当出るんでしょうね?」
「ええ、ミサトの給料から」
「リツコ〜〜〜!!!」
「マヤ、貴方達だけ?」
「いえ、後4,5人ほどエージェントが……」
「しょえええぇぇ〜〜〜〜!!!」
合計7,8人の社員の特別手当が自分の給料から引かれるので、ミサトは絶叫する。
「マヤ、ヒュウガくん、アオバくん。正直、戦闘ではあなた達に期待していないわ」
「分かってます。僕らは策敵とカツラギさん達が戦闘中に他の幻影旅団と黙示録の足止めですね」
「ええ。残りのエージェントは戦闘で私達のバックアップをして貰うわ。今、カジ君がヨークシンの西地区を探してるけど、広過ぎるわ。あなた達もすぐさま、北、東、南に分かれて幻影旅団か黙示録のリーダーを探して」
「「「了解」」」
マヤ・イブキ、マコト・ヒュウガ、シゲル・アオバの3人は頷くと、すぐさま駆け出して行った。リツコは一息つくと、落ち込んでいるミサトに話しかける。
「ちょっと、私達も行くわよ」
「うぅ〜……給料が……エビチュが……」
「…………」
無言でリツコは、妙な液体の入った試験管とフラスコを具現化する。それを見て、ミサトは目を見開くと、慌てて立ち上がった。
「さぁ! 行きましょう! 私達の任務はまだ終わってないのよ!」
「ええ、そうね。やっぱり最初から人海戦術すれば良かったわね」
「うぅ〜……だって、そうなるとボーナスが減るもん〜」
「貴女ね……」
愚図るミサトに呆れ果てながら、2人は空港から去って行った。
「リキ……」
マギは、冷たくなっているリキの頬に触れ、顔を俯かせる。黙示録が使っている部屋では、少年とマルクト以外の黙示録のメンバーと、クロロ、ノブナガ、マチ、フィンクス、パクノダ以外の幻影旅団のメンバーが揃っている。
彼らの目の前には、棺桶の中で静かに眠るリキの姿ある。ユーテラス達がマイサと戦った際、土が掘り返され、リキの遺体が出て来た。
「死因は、胴部貫通だね。火傷の跡も気になるけど……」
リキの死体を調べたシャルナークがそう言うと、フランクリンが言った。
「パクノダがいれば何か分かるかもしれねぇのにな」
「鎖野郎の手がかりにもなるかもしれないのにね」
シズクの言った鎖野郎、という言葉に、ピクッとウチルが反応する。
「鎖野郎?」
「旅団のウボォーギンってのを攫った奴の事だ」
ウチルがライテイに尋ねると、そのような答えが返って来た。彼女は眉を寄せると、不意にその場から去ろうとする。
「ウチル、どうしたの?」
「チト用事ヲ思イ出シチマッタ。チョックラ失礼スルゼ」
人形がそう答えると、ウチルは出て行った。その姿をヒソカが意味あり気な様子で見ている。
すると、その時、ライテイが顔を俯かせているマギの頭にポンと手を置いた。
「リキを殺した奴を許せないのも分かる……が、今は計画優先だ。いいな?」
「…………ああ、分かってんよ」
〜レス返し〜
デコイ様
マイサは割と良い味出してたので、再登場させたいと思いました。シンジが見たのはナーヴ組です。で、更に3人追加ですが、それ以外のエージェントはネルフの黒服程度の扱いと思って下さい。
エセマスク様
ある意味では最強の能力かもしれません、アイリスの能力は。
ユーテラスは操作系です。シュートが将棋の駒や携帯を右手に入れてるような感じです。
マルクトもマギも同じ施設の出身ですが、奔放な性格のマギと違い、マルクトは下の子達を良く面倒を見ていたので、かなり大人びてます。
マギはリキの遺体が発見されたと聞いて急ぎアジトに戻ったので、そんな悪戯とかしてる暇ありませんでした。
ゼパイル登場で一気に下見市終了です。レイとキルアの可哀想な貧乏姉弟は書いてて、何故かプッと思いました。
髑髏の甲冑様
紅麗より、どちらかというと、映画ゲド戦記のテルーのイメージです。ツン、な所とか。
マイサは操作系ですからね〜。リキの後釜は難しいです。
武器と彼女が認識すれば融合できますからね。ウボォーギンみたいな肉体が武器な人間となら融合出来るでしょう。
昔から理不尽なマギをフォローしてきたマルクトですから、自然と彼が年上っぽくなります。
ショッカーの手下様
マイサは新キャラじゃないですけど……シンジは外見は子供ですが、年齢はクロロと同じくらいですのでお酒飲めます。
流刑体S3号様
死人……出ると考えた方が良いでしょうね。
詳細はいえませんが、重要キャラも死ぬ事を考えた方が良いでしょう。