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▽レス始

「鬼畜世界の丁稚奉公!! 第一話(鬼畜王ランス+GS)」

shuttle (2006-10-03 01:34/2006-10-03 23:48)
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「へぇ、横島さん、随分と力持ちなんですねぇ」
(・・・見かけによらず)

余計な一言は胸中にしまいこんだ。

体格も立派で鎧を着た成人男性、80Kgは軽く超えているはずだった。
にもかかわらず、横島は背中の男、ランスを担いで、時に上り坂、時に下り坂の険しい山中を平然と歩いていた。

これが美少女ならスキップも可能だろう。
尤も重量80Kgを超える美少女など居るかどうか甚だ疑問ではある。

・・・フルプレートアーマー装備の女剣士ならあるいは・・・だが。


「あっはっは!荷物持ちなら慣れたものですから!」

命の恩人であり、マニアックとも言える忍者ルックな美少女の頼みであれば、横島の煩悩パワーは存分に発揮される。

自分の背負う男が何者であるかも知らず、横島忠夫は爽やかに笑うのであった。


〜鬼畜世界の丁稚奉公!!   第一話「かなみちゃん 受難の巻」〜


横島とかなみが山道を歩き始めて2時間ほど経った頃だろうか。
長い上り坂を登りきり、ちょっとした広場になっている場所でかなみは横島に小休止を提案した。

如何に元気そうに見えてもついさっきまで行き倒れになっていた人物にあまり無理をさせてはいけないと思ったからだ。

横島は二つ返事で承諾し、ランスを道端に下ろす。


「しかし・・・この人、よくこんな鼾かいて寝ていられますね・・・俺と同じ行き倒れだったんでしょ?」
年の頃20前後だろうか、ハンサムとも言える顔立ちだったが、今は大口を開けて寝ている。
美形を見かけると無条件に腹が立つ横島だったが、目の前で眠る男が晒している馬鹿顔相手にはあまり怒りが沸いてこない。

「あ〜、コイツはそういうヤツだから気にするだけ無駄よ」
聞けばかなみとこの男は知り合いらしい。

横島としては当然その関係が気になるのだが、尋ねた途端、かなみは急速に不快になる感情を隠そうともせず、


「・・・腐れ縁よ、私としては切りたくて切りたくてしょうがないんだけどね・・・・・・」

なんだか呪詛を呟くような様子にそれ以上深くは聞けなかった。
二度と問うまい、と決意するほどに。


「ところで・・・かなみさんって忍者っスよねぇ?それともこの世界ではその姿が流行とか?」
「この世界の情報」を得るためにも話題を変えようと横島は思った。

「横島さんの世界にも忍者がいるの?まぁ、その通りなんだけど・・・。ある国にワケあって仕えてるの。ここへ来たのも任務よ、詳しくは話せないけど」
流行云々はスルーされた。ちょっと悲しい。

「そりゃそうですよね、別に任務云々のところは聞くつもりはないっス」
興味がまったくないわけではないが、余計なことを詮索するのは不味いだろうと判断する。

「それじゃこの世界のこと、簡単でもいいから教えてくれませんか?街に行ったところで何の情報もなしじゃ動きようがないですし」

「ええ、いいわよ。まぁ、私もこの世界のこと、詳しく説明できる自信はないんだけどね」


かなみは簡潔にこの世界の人間社会について説明した。
この世界には人間が統治する国家が3つあること。
それぞれへルマン、ゼス、リーザスという名の国家は政治形態に多少の差はあれどどこも王制を敷いているということ。
そして大陸から離れた島国、JAPANのことを説明した。

「うーん、なんか聞けば聞くほど奇妙な繋がりを感じるところですねぇ・・・」
JAPANについて説明を受けた横島はそういって首をひねる。
この世界のJAPANとは、元の世界でいう日本の戦国時代のようなのだ。
勉強嫌いに加え、バイトでほとんど欠席続きだった横島でも知っている人物と同じ名前の人間が、このJAPANという国で群雄割拠に明け暮れているという。


「―――で、俺らの世界ってのは・・・」

今度はこちらの番、と自分の世界のことを語る横島。
やはり日本の事、特に戦国時代の歴史を知っている限り話すと今度はかなみが驚く番だった。

「出来ることなら案内してあげたいんだけどね・・・」
自分の立場を考えるとそれは不可能だった。


あとゴーストスイーパーという横島の職業は興味深かった。
悪霊や怪物を退治し、報酬を受け取っていたなら、この世界でいうギルドに属する冒険者のようなものだろう。
どこにでも居るような普通の少年に見えて、実はかなりの修羅場を潜っているのではないだろうか・・・。


それからしばらく、沈黙の時間が続いて・・・


先に異変に気付いたのは横島だった。

「かなみさん・・・」
常に軽い調子だった横島が急に声のトーンを下げたため、かなみもすぐに反応する。

「ええ、これは・・・」

肌が粟立つような悪寒に、ピリピリと舌がざらつくような感触。


察知したときには既に周囲の大気が帯電していた・・・。


――時間は少し遡る。


バラオ山脈上空。
一人の男が苛立たしげに顔を歪めて高速で飛翔していた。

「くそっ!ケイブリスめっ・・・!!」

この男、当然のことながら人間ではない。
魔人レイ。

雷を自在に操り、触れるもの全てを焼け焦がす力を持った、魔王の下僕たる24の魔人の一人。


現在、魔人たちは二つの派閥に分裂して争っていた。

ホーネット派、前代魔王ガイの娘にして魔人筆頭ホーネットを中心に、父親でもあるガイの遺言に従い異世界より連れてこられた人間の娘、来水美樹『リトルプリンセス』を当代魔王として擁立しようとする派閥。
ケイブリス派、未覚醒のまま逃げ出した当代魔王『リトルプリンセス』を排除し、新たなる魔王として君臨しようとする魔人四天王の一人ケイブリスを中心とした派閥。

この二つの派閥は現在半ば空席状態となってしまった魔王の座を争って、骨肉の争いを繰り広げていた。


そしてレイは己の属する派閥のリーダー、ケイブリスの命令で人間界に赴いていた。
その命令とは、未覚醒の魔王『リトルプリンセス』を捕獲し、魔人界に連れ帰ること。


彼にとって魔王の座が空席なのは別にどうでもよかった。

彼と同じ派閥の魔人とて積極的に魔王の座にこだわっているのはケイブリスと同じ四天王であるケッセルリンクくらいで、そのケッセルリンクも自分が魔王になろうとしているわけではない。

つまるところ、彼にとっては魔人の中心人物がホーネットであろうとケイブリスだろうとどうでもよかったのだ。


そんな彼がケイブリスの「命令」に従っているのはひとえに「人質」の存在だった。

魔人であるレイの、人間である恋人メアリー。
彼女の存在を知ったケイブリスがレイを脅したのだ。

―自分に従わなければ彼女を殺す。

と。

故に従う他なかった。

対抗したくてもケイブリスは強力な魔人、己の力では太刀打ちできない。

メアリーを連れて逃げることも考えたが、老い先短い彼女の身体を考えるとそれも叶わなかった。

さらに不治の病に罹った彼女を使徒にして生き長らえさせようとも考えた。

だが、彼女は人のままレイを愛し、人のまま死にたい、と語った。

「貴方を残して逝くことは心配だけど・・・、私がいなくなれば貴方は元の自由な貴方になれる」

それを聞いてレイは泣いた。
そしてか細い彼女の身体を抱きしめることすら出来ない我が身を呪った。

我が身を呪いながら、決意したのはただ一つ。

長く連れ添った恋人の余生を、せめて静かにすごして欲しい・・・、と。


そしてやってきた、人間界。
今までもこまめにメアリーの元へ訪ねていたため、見慣れた光景ではあるものの、任務として来た以上、今までとは違ういけ好かない監視の目もあった。

魔人四天王の一人カミーラにその使徒ラインコック、エンジェルナイトの魔人ラ・サイゼル。
どちらもレイにとってうっとおしくて仕方のない連中だった。

と、なればさっさと『リトルプリンセス』を捕獲して、他の魔人にはお帰り願いたいところだった。
それに自らが『リトルプリンセス』を捕獲すれば、二度とメアリーを脅しの材料に使わせないよう交渉できる。
ケイブリスの言など信用できるものではないが、奴が魔王になれば、わざわざ人間の老婆を脅しに使う必要などなくなるからだ。


今も胸中ではケイブリスに対して毒づきながらも、単身リトルプリンセス捜索へと赴いていたのだった。


そしてその帰り道、レイ達がアジトにしている元人間の別荘へと近づいたとき、彼は不意にある気配を捉えた。


―人間の魂のその奥に、魔の力を宿している魂の存在に


「これは・・・ビンゴかっ!?」

彼の知る中で人と魔の力が混在したままの存在など一人しかいない。
未覚醒の魔王『リトルプリンセス』


非常に微弱だが、確かに感じる。
その感じるままに、レイは速度を上げた。


「あれか・・・」
上空より見える3つの人影。
休息中なのか、二人は切り立った崖を背に座り、一人はその傍らで横たわっている。

「情報から察するにリトルプリンセスと共に行動しているという、小川健太郎に日光、か?」

とにかく確かめねばなるまい。

「ツイてるぜ・・・!」
本来ならすぐさまアジトへ戻り、他の魔人と共に強襲すべきだった。

魔人殺し『聖刀日光』にその契約者『小川健太郎』
この二人は魔人である彼と言えど、決して油断できる相手ではない。

しかし、彼の目的のためには単独でこの任務を達成することが望ましい。
口元に邪笑を浮かべ、早々に訪れたこのチャンスにレイは逸る気持ちを抑えようともしなかった。


だが、残念ながらその逸りは先ほどのよりもさらに大きい苛立ちに早変わりすることになる。


「おいおい、コイツはどういうこった?」
目の前に立つ男はいきなり空から降ってくるなり、苛立たしげに開口一番そう言った。

「どういうこと、とはいったいなんでせう・・・?」
男の形相にかなりビビリながら横島は聞き返した。

なにやらお怒りのご様子である。
握り締めた拳が一際大きく放電している。

どう見ても人間ではない。

(だって人間は生身で空を飛ばないし、放電もしない!)

・・・自分の霊能力を棚に上げて、胸中で悲鳴を上げる。
だが、念のため聞いておくことにした。

「かなみさん・・・」

「・・・ん、なに?」
彼女も目の前に突如現れた存在に恐怖しているのか、その身を震わせている。

横島は冷静に、心を落ち着けて問うた。


「この世界の人間の間では、ああやって自家発電しつつ空を飛び回る輩が跳梁跋扈するのが流行なんでしょうか?」


――ガクッ


こけた。レイもかなみも。


「アレが人間であるワケないでしょっ!!しかも同じボケをするか!!」
「ナニが自家発電だ、コルァ!!」

ツッコミどころは違うが二人同時に叫んだ。
かなみに至ってはダブルツッコミの高等テクまで見せる。

「あぁ!スンマセンスンマセン!!」

ペコペコ頭を下げ始める横島。
はっきりいってかなり情けない。


「くそっ、当たりかと思いきや、こんなアホなガキ共かよ、調子狂うぜ・・・!」

毒づく男に横島は恐る恐る尋ねる。

「あ、あの〜、誰かお探しなんでしょうか・・・?」

「お前らには関係ねぇよ・・・!」


「あ、そうですか!なら僕達はこれで失礼しますので、じゃあっ!!」
機を得たり、とばかり横島はシュタっと片手を上げて、もう片方の腕でかなみを小脇に抱え、未だこの騒ぎでも寝続けているランスを担ごうとし・・・


「・・・と、ちょっと待て小僧」
その言葉にピタリと止まる。

横島の脳裏に「横島は逃げ出した!しかし回り込まれてしまった!」のフレーズが浮かび上がる。

「・・・お前、何者だ?」

「な、何者とは・・・?あっしはただの丁稚小僧、ただの荷物持ちですよぅ・・・」

男は横島の言葉にフン、と鼻を鳴らす。
「とぼけなくていいさ、確かに普通の人間だ、一見な。だが、その魔力・・・いや、魔力じゃないな・・・見たこともない力だ。しかも変に混じってるから最初はアレかと勘違いしたがな」

『混じっている』という言葉が横島の胸に突き刺さる。
つまり目の前の男は横島が「普通」ではない、ということをはっきりと認識しているということ。

「・・・・・・」

別に絶対に隠さなければいけないことではない。
だが、ペラペラと言い触らすようなことでは決してない。
そして相手が例え誰であれ、軽々しく詮索されるなど決して許しはしない。


横島は小脇に抱えられたまま大人しくしていたかなみを静かに地面に下ろした。

「かなみさん、ランスさんを引きずってでもいいから離れてて下さい」
唐突に真剣な目でかなみに話しかける。

その変化に戸惑いながらかなみは叫んだ。
「そ、そんな、何をする気なの!?アイツ、多分だけど魔人よっ!もしそうなら普通の攻撃じゃ傷一つ付けられない!」

「ん〜、別に戦うつもりはないんだけどね・・・ってそれはアチラ次第か。とにかく、俺に用があるみたいだし」


未だその場を動かないかなみを視線でうながすと、ようやくかなみは横島の指示通りにランスを引きずって退避する。
そして十分な距離が取れたと確認すると、横島は男のほうへ踵を返す。


顔は俯きがちに、ボサボサの前髪が目元を隠している。
そこからは表情が読み取れない。


(傷一つ・・・か、半端な力じゃ無理ってことなんだろうか?確かに文珠を出し惜しみしてられるような奴じゃないっぽいな・・・)

「ほ〜、格好つけるじゃないかお前、気に入ったぜ。で、質問に答える気になったか?」

(相手は雷を操るのか?・・・あんな派手に放電しやがって何万ボルトあるんだ、ありゃあ・・・)

「おい・・・俺はあんまり気が長くないんだ。何なら力ずくで聞いたっていいんだぜ?」
手を軽く振り下ろした途端、電撃が横島の目の前に走る。
だが横島は微動だにしない。
元より威嚇のつもりなのだろう、当てる気もなく、威力も絞ったものだった。

(文珠のストックは5つ・・・ギリギリ足りる・・・)

そのまま意識を集中させ、すぐにでも手のひらに文珠を顕現させられるようにする。

「え〜っと・・・もう一度聞いていいっスか?誰の力が〜何ですって〜?」
そしてわざと挑発するように、ゆっくりと聞き返す。

(この場所も都合がいい・・・まさに地の利を得た・・・というやつだな)

「・・・!もういい、消えろ!」

いい加減我慢の限界だったのだろうか、降り立った時以上に不愉快そうに顔を歪め、大きく腕を振りかぶった。
全力というワケではないが、人間一人を焼け焦がせるには充分過ぎるほどの力を込めて雷を落とす!

―ドゴォゥ!!

それを横島は咄嗟に横跳びに避ける。
その場に文珠を一つ、気付かれないように落としながら。

「なっ!?」

「うそっ!?」

魔人レイとかなみ、両方から驚愕の声が聞こえる。

だが、こと避ける事に関しては人類最高とも言える反射神経を持つ横島。
如何に雷が速かろうが「腕を振りかぶる」というモーションを威嚇とはいえ既に見せた以上、タイミングを取るのは容易いこと。

もちろん、魔人レイが一切の油断無く、真っ向から全力で雷を落とした場合はこの限りではない。
相手が自分を格下に見ている、侮っている、その心理にこそ横島が付け入る隙があるのだ。

「やはりタダ者じゃないってわけかっ!丁度いい、イラついていたんだ、全力でいかせて貰うぜ!」

(わざわざ心理状態を口にする・・・やはり侮っている・・・かなみさんは魔人と言ってたっけ?魔族と変わらないな)

奴らは骨の髄から人間を甘く見ている。
その考えは判らないでもないが、戦いにおいては完全に間違っている。
美神流除霊術の前にはそのような心理など鴨が葱を背負って歩いてくるようなものだ。

――ドゴオォォォン!!!

辺りが真っ白な光に覆われ、凄まじい轟音と共に雷が落ちる・・・!!

横島の焼け焦げた姿どころか灰すら残らないだろう、とかなみは絶望的な気分になった。

しかし既に戦いの場では横島の切り札(その1)が完成していた。

落雷の瞬間、空中に放り投げられた文珠には<避>の文字、そして先ほど地面に落としていた文珠には<雷>の文字。

その瑠璃色の珠に込められた霊力が横島のイメージ通りに発現する。


やがて光が収まり、かなみは恐る恐ると目を開く。
そこには立つのは焼け焦げた横島でもなく、灰になった横島でもなく・・・。


五体満足で平然と笑っている横島だった。

「ふははははははっ!雷など効かん、効かんぞお!!ちょっと痺れるけどなぁ!!」

「な、なんだとおおお!?」
「う、うそっ・・・・・・!」

今度こそ二人は唖然とする。
如何なる魔法か、いや、横島には魔法を唱えた様子はなかった。

なら何故横島はあれほどの落雷を喰らって生きているのか。


もちろん横島は落雷に直撃していない。
横島の切り札の文珠<避>が、予め用意されていた<雷>との位置関係が地面と垂直になった時点で発現したのだ。
そして二つの文珠から互いに伸びた霊波が横島の意図したとおりに「針」となって即席の『<避><雷>針』を作り上げたのだ。

欲を言えば三文字制御で<避><雷><針>とするのが確実であったのだが、この土壇場で挑戦したことの無い三文字制御を試す気にはなれなかった。

魔人レイの全力の落雷を受け『避雷針』はその全体が帯電しているのか、ところどころスパークを起こしている。
すぐには効果が切れる様子は無かったが、それでもこれほどの負荷が掛かり続ければあっさりと崩壊するだろう。

(まったく・・・文珠2個使ってこれかよ・・・!馬鹿力なところまでそっくりとはな〜・・・)
余裕の笑みとは裏腹に、横島は内心、冷や汗をかいていた。


「くっ!」
レイは今一度落雷を落とす。

だが、横島は一歩もその場から動くことなく余裕綽々といった様子で立っている。

案の定、横島へ目掛けて放たれた落雷は、吸い寄せられるように『避雷針』に直撃する。

(ああ!なんちゅうことすんねん!さっさと次の行動に移れってばオイ!)

あくまで余裕の笑み、内心ではドキドキ。

そして横島のそんな内心の焦りなど判るはずもない魔人レイ。
ヘラヘラ笑っている横島を見て一気に逆上する。

落雷では埒が開かないと判断したのか、今度は身体全体を大きく放電させ、低く構えを取る。
「うぉおおおおおお!!」

単純にして圧倒的な破壊力。
雷を全身に纏い、己の身を一筋の雷光に変えて突撃する一撃必殺の技。

(まさか、こんなところであんなマヌケ顔に使う羽目になるとはな!)

「砕け散りやがれぇぇ!!」
おちょくられ続け、完全に頭に血が昇っているレイには横島が先ほどから起こしている不可思議な現象を冷静に分析する余裕はない。

故にレイの攻撃は横島にとってまさに想定どおり。

弾丸よりも速く進むレイは横島に直撃するまで残り2メートルという距離で強制的に停止させられた。

「な、なん・・・だとっ!?」

「・・・落雷が効かなければ直接突っ込んでくるだろうなぁ、とは予測したけど、ここまでハマるとなんか悪い気がしてくるなぁ・・・」

と、自分の足元より少し前に転がっているのは、切り札その2<縛>の文珠。
先ほどの全力落雷で周囲が真っ白になった隙に転がした文珠である。


「なんだコレは!?・・・くっ、動けねぇ!まさか魔人封印結界か!?」

「なんじゃそりゃ?こりゃお前をただ<縛>るだけのものだよ。理屈はいちいち説明せんけど」

横島は今度は懐から何か薄い文庫サイズの本を取り出す。

「じゃじゃーん!持ってて良かった漢字辞典(携帯サイズ)!いやぁ、美神さんの言いつけ守ってて良かったぜ」

そう、横島の最大の霊能であり切り札『文珠』
その効果を最大限に発揮するには、基礎的霊力の向上よりも、まず「漢字を知らなければ話にならない」ということだった。
確かに通常の除霊において、文珠に込める文字などそれほどバリエーションに富んでいる必要はない。
が、美神流除霊術の鉄則の一『自分の持つ手札を最大限に増やしそして活用せよ!』

と、まぁそういうワケで説明終わり。

パラパラとページを捲り、目当ての漢字を見つけ出す。
「ほほう、コレってこう書くのか・・・知らんかったなぁ」

パタン、と本を閉じ、再び懐にしまう。

残りの文珠2個を取り出し、先ほどの漢字と共にイメージを練り上げる。

全力であがき続ける魔人には<縛>の効果もそれほど長く続くわけではない。
文珠へ念を込めるのは手早く、しかし慎重に行う必要があった。

そしてイメージは完成する。

最後の切り札、文珠に込めた文字は<護><謨>(ゴム)

そして横島は即座に発動させた。

眩い光が2個の文珠から発せられ、その光が消える頃には魔人レイの姿はすっかり消え失せてしまっていた。

かわりに先ほどまでのレイの<縛>られていた場所に、霊波で創られた『巨大なゴムボール』が転がっていた・・・。

横島は文珠に「ゴムは絶縁体である」という横島の持つイメージを核に、霊波でゴムとまったく同じ性質をもつよう具現化、あとはレイを包み込める程度の大きさに調整し、出来上がったのは見事なゴム製のカラーボールというワケだった。
デザインについてはよりイメージを正確に再現できるよう、横島が子供の頃に野球で使っていたカラーボールが元である。
その絶縁性能は勿論のこと、弾力性もご自慢の一品である。


「さて・・・」
ニヤリと凄くイイ笑みを浮かべる横島。
見るものが見ればこう呟いただろう。

「美神令子にそっくりだ・・・」
と・・・。

そして目の前の出来事にまるで現実感がなく、怒涛の展開にもまったく付いていけないかなみ。
そしてゴムボールの中で絶叫する魔人レイ。横島には微かに聴こえる程度だが。
そしてこの期に及んでまだ寝ているランス。いい加減起きろよ。

「テレッテッテー、イッツアショーターイム!」

助走をつけ、両足に霊力を込めて渾身のドロップキックをゴムボール(魔人レイ)にぶちかます!!

「横島バーニングファイヤーメガキィーーーック!!!」
・・・相変わらずネーミングセンスは最悪だった。


強烈なドロップキックの衝撃に、丸いゴムボールはもの凄い勢いで転がっていく。

その先には・・・。


横島とかなみ(おまけでランス)が小一時間かけて登って来た坂があった・・・。
坂道へ転がっていくゴムボール(魔人レイ)は<縛>の効果も持続していたお陰で、当然重力に逆らうことは出来ず。
どんどん加速していくゴムボール(魔人レイ)。
どこまでも転がっていくゴムボール(魔人レイ)。


「ふはははははははは!!ざまぁみさらせいっ!!これぞ天の利・地の利・魔の利を活かした、名づけて『天地魔闘の戦術』じゃあぁ!!」

思いついた作戦がハマりにハマったお陰で気分最高潮の横島。
先ほどまでの冷や汗かきまくりのプレッシャーから解放されたせいで頭のネジが弾け飛んだのだろうか、諸手を挙げて小躍りしている。

かなみは全てが計算ずくだったのか、と思わされる横島の戦いに戦慄を通り越して恐怖すら抱きかねなかったのだが、はしゃぎ回っているその姿はどこから見てもただの馬鹿でマヌケで・・・。
正直、自分の知らない魔法だろうが、理解不能な異世界の力だろうが、どうでも良くなっていた。

そして不意に悟る。

そうだ、似ているのだ。
あの横島という少年は。
すぐ隣で未だに馬鹿顔を晒して寝ている男に。
誰にも真似できない手段と、とてつもない行動力で道を切り開いていく戦士、ランスに。

聞きたい事、問いただしたい事は山ほどあるが、とりあえず。


(マリス様に報告しないわけにはいかないなぁ・・・まず間違いなくリーザス城に連れて来い、って仰るわよね・・・)

「あーーっはっはっはっは!!」

横島の馬鹿笑いの中、かなみは深く深くため息をつくのだった。


余談ではあるが、哀れ魔人レイは10分以上転がり続けた挙句、崖に転落。
肉体の損傷こそまったくないものの、文珠の効果から解放された頃には三半規管と精神に修復不能なほどのダメージを与えられたようだ。
そして、すっかりトラウマに陥ってしまったレイは『転がる球体』を見るたびにあのときの恐怖を思い出し、部屋の隅でガタガタ震えるようになってしまいましたとさ。合掌。


第一話   完


―天界の最果て―

「キャハハハハハ!なにあのニンゲン!面白い!あーなっちゃぁ魔人も形無しだねぇ!」

「・・・・・・」

「アレ?プランナーは面白くなかった?」

「・・・・・・ふん、無様だな」

「ホントまったくだねぇ!けど無敵結界を持つ魔人をあんな風に撃退するとは。いやいや、プランナー、君の作ったおもちゃは欠陥品なんじゃないの?面白いからいいけどね!キャハハハハハ!!」

「・・・・・・」

「あらら、行っちゃった。うーん、でもホント面白いなぁ、このニンゲン。ここしばらくは大きな殺し合いもなくて退屈してたんだ。にゅーふぇいすには期待しちゃうもんだよ」


後書きのようなもの

鬼畜世界の丁稚奉公!!第一話「かなみちゃん 受難の巻」です。いきなりツッコミどころ満載の展開でした・・・。
連載ペースは以後、どの程度の早さになるかはまだ判りませんが、完結に向けて頑張りたいと思います。

しかし、対魔人レイ戦、既に書いた上で筆者が言うのも何ですが、無敵結界に<縛>って効くのでしょうか?(ヲイ
無敵結界の解釈、文珠の効果の性質次第だと思うのですが、とりあえず無理なく説得力を持たせる解説が作中で必須ですね。

「中盤のシリアスはどーした!?」「ふざけるな!魔人レイのレベル知ってんのか!?こんな弱いわけねぇ!!」という感想は大歓迎です。
大丈夫、彼の救済措置はあります、たぶんきっとめいびー。
ただ、GS世界、特に美神や横島の戦いの真髄は『どんなに相手が強くても搦め手で自分達のペースに引きずり込み、ギャグで叩きのめす』にあるので『いつまでも変わらない』横島君らしさを追求する拙作としては、これは譲れないところです。
それに鬼畜王ランスのゲーム中でも対魔人戦の醍醐味は、人類の英知と卑怯の限りを尽くし撃破していくことにあるので、旨くマッチングすると思うのですがいかがでしょうか?

あと予想通りというか、やはりルドラサウムと三超神の設定は物議を醸しました。
拙作は基本的に『アリスソフト及びそのスタッフ』が作中ないし、なんらかの媒体で発表した設定を採用して作り上げていきます。
『プランナータメ口疑惑』に関してはプロローグの感想で指摘された方もいますが、JAPANの香姫と共有した夢の世界で出てきます。
これだけでは三超神の誰か、とまでは判らないのですが、アリスソフトのHPの企画、ランス5Dのジョン○ル報道官に答えが出てます。
気になる方はそちらを参照してみるのもいいと思います。

最後の反省
『鬼畜王ランス』を知らない人には、なんの解説もなく名前だけ登場したキャラに対して「何じゃこれ?」と思われるでしょう。
謝る他ないです。ごめんなさい。

それでは次回、第二話「グレート・筆頭侍女!」をお楽しみに。

たくさんのご意見ご感想、ありがとうございました。以下返信いたします。

>スケベビッチ・オンナスキーさん
 今回でも邂逅してませんwランス君はいつ目が覚めるんでしょうか?

>shizukiさん
 カカカ、カミーラさんですか・・・。怠惰怠惰怠惰(ryを地で行く彼女は難攻不落の要塞とも言えます。いや、しかしランス困埜せた「ズキュ――ン!」事件が・・・。

>ウェストさん
 応援、感想はSS書きの華であります。よろしくお願いします。

>陣さん
 私も「真空ワカメ」さんの作品、大好きだったんですけど、久しく更新されていないのが残念です。あちらはホーネット陣営に横島君が行ってましたねぇ。あの設定は非常に魅力的です。

>meoさん
 確かに立場はルドラサウムの方が上、というかルドラサウムが自分の一部分を千切って捏ねて創ったのが三超神ですからね。ですが、プラちゃんはルドやんにタメ口なのです。親に逆らいたい年頃なのでしょうか?(違 
 他にはハーモニット(ハーたん)にローベン・パーン(ロー君)という兄弟がいますが、彼らもタメ口なのかは判りません。

>山の影さん
 文珠の使用にはただ単に文字を込めればいいと言うものではなく確固たるイメージが必要かと思われます。(文珠初登場時のワルキューレ大尉の御言葉+<援>のハズレ)
 魔王の血を<分><離>しようとしても、まず「魔王の血ってなに?」な横島君では不可能のはずです。そしてこれは言葉で理解できるものか、非常に難しい問題と言えます。でもGS原作の文珠って凄いですよね・・・<模>とか・・・。横島君自身も言ってたけど反則技です。アシュタロスをコピーできるならケイブリスだってコピーできそうだし・・・。

>アリさん
 怠惰怠惰怠惰怠惰・・・どうあがいてもカミーラ様はカミーラ様です。
 でも横島君のノリでカミーラ様に飛び掛ったら、まず間違いなく一撃で首を刎ね飛ばされると思うんですよね・・・。

>佳代さん
 プランナーは魔王、魔人etc...のシステムを作り上げたルドラサウム世界の管理人という位置づけなので、イレギュラーな存在にはやはり注目度が上がるのではないでしょうか。
 口調については後書きの通りです。
 成長限界ですか・・・考えてなかったwというかレベルアップもなしでいいような気がします。だってイレギュラーだしw
 あと横島君は魔人相手に独りでも戦えます!まぁ、内容は本作の有様ですがw

>七氏さん
 かなみちゃんの格好がどこから見ても忍者ルック、身のこなしを見ても素人ではない。そうなれば信じてもらう為とは言え、無意味に手の内を明かすようなことはしないと思います。
 確かに、現実世界に住む我々の前に「異世界からやってきた」と言う奴がいたら、頭がおかしい人、という判断は間違いないと思います。
 しかし神族や魔族、霊能力の存在するGS世界、剣と魔法、魔王に魔人、モンスターが跳梁跋扈するルドラサウム世界なら「異世界からやってきた」は『まだ』通用するのではないかな〜と思います。現に美樹ちゃんや健太郎くん、それに魔人メガラスも異世界人ですしね。
 結論:うーん、服装だけじゃダメだったか、やっぱりwww

>SSさん
 ごめんなさい、今回も外見描写は一切なしです、、、orz

>マステマさん
 頑張ります。
 しかしランスとのクロス作品のほとんどが完結していない、という話を聞くと、やはりあの糞クジラが如何に強敵か、といったところなのでしょうか?
 だって倒したら世界崩壊するんだもん、ずるいよwそして飽きても崩壊、フザケンナww

>kurageさん
 某西条氏に対する憎しみだけレベルでは追いつきそうもないですね・・・。
 同好の士か同属嫌悪か・・・まぁ、二人とも根っからの悪人ではないですからね。なんとか折り合いを付けて貰えると私も楽ですw

>さんせいさん
 期待が維持されるよう努力します。三超神云々についてはルドラサウムとプランナーの会話が香姫と夢を共有したときに出てきました。

>彩さん
 横島君って結構ハンサムだと思うんですよね、実は。ただ作中だとほとんどのコマで造形が崩れるほどのギャグ顔を晒しているのが問題だと思います。
 かなみちゃんはお人好しですからね・・・とあるエンドでの展開を見ても流されやすいタイプと伺えます。でもアレはランスが悪いのか・・・。
 ランスに対してはハーレムを知ったら藁人形どころか<不><能>の文珠を叩き込みかねませんねw

>天飛さん
 横島君が部隊の指揮をするにはかなりの時間をかけての勉強と訓練が必要でしょうね。才能はあると思いますが、基礎が足りなすぎです。
 ・・・アビァトール先生の個人授業ネタでもやりましょうかねぇw

>ZEROSさん
 ゴールは果てしなく遠いですが頑張りたいです。

>サムさん
 元の世界に<転><移>出来ない理由は今の横島君には解明できていません。美樹ちゃん達を戻せないのは「3E2」が「何処」なのかイメージできないのが問題になるでしょう。時間移動も二文字制御が限界では厳しいでしょうね、でも魔想さんは好きなので登場は勿論させます。

>1さん
 本当に<模>は反則です。ただ仮にカオスを<模>しても「対象の現在の状態をシミュレートする」だけではカオスを振るう力量を横島君が持たない限り意味がないかもしれません。日光においては契約の存在が枷になるでしょう。
 さっきから私は自分の首を絞めるような設定をどんどん作っているような気がします・・・。

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