19日 ドム軍
“破滅”との戦争の最前線。
だが、そこで戦っている兵士や魔物の数は随分と減っていた。
魔物達は討ち取られたからだが、兵士達は違う。
タイラー率いる軍が、戦線をホワイトカーパス隊に預けて一端下がったのである。
これについては、兵士達の間では反応は様々だ。
タイラー軍など居なくても自分達だけで充分、と言う者。
逃げ出したと罵る者。
何故下がったのか考える者。
我関せずを貫く者。
タイラー隊に出来た友人を心配する者。
何れにせよ、ホワイトカーパス軍だけでも、充分に戦線を支えていると言えた。
そして、今日も今日とて大河チームは大暴れしていた。
密集している敵が少なくなったので撃端数は落ちているとは言え、その威力は相変わらずだ。
軽々と敵を蹴散らし、兵士達の戦意を高めるのに一役買っている。
しかし、魔物達は後から後から沸いてくる。
ドムは負ける気はしないが、鬱陶しいと思う気持ちを捨てきれない。
「問題は…後詰めの敵がどれだけ居るのか、だな。
この場に居る敵のみを蹴散らすは容易いが、元を断たねばどうにもならぬ…。
とは言え、もう無限召喚陣を使える程にマナが溢れいてる土地は無いと思うが…?」
ドムは首を傾げる。
バルサロームに言って調査をさせたが、やはり無限召喚陣を使えるようなマナが肥沃な土地は既に無い。
いやあるにはあるが、ホワイトカーパスには無い。
無限召喚陣は粗方叩き潰したし、どうやって魔物を補充しているのやら。
押し寄せる魔物の数以上に敵を撃破しているので、この辺りの魔物が居なくなるのは時間の問題だ。
が、全滅させるのもそれはそれで良くない。
このままでは敵わないと悟られ、後方に篭って兵力を充実させられたら厄介な事になる。
少数ずつ出てくる敵を、致命的にならない程度に撃破するのが最も有効な方法だった。
その辺りの匙加減を、ドムは実に上手く行なっている。
最も、内心では一気に叩き潰せない事に苛立っているが。
さて、そのドム軍だが…ドム自身は、今回は直接の戦闘には関わっていない。
それが必要な程の相手は出てきてないし、戦場全体の状況を把握して最も効率的な指示を出すのは、バルサロームだけでは少々辛い。
普通の用兵ならばともかく、戦況は徐々に入り乱れてきている。
まぁ、それもドムの計略の内で、あまりにも華麗に叩き潰したら相手に勝機がないと悟られてしまう。
「イムニティ殿は、向こうに潜入しているのだったな…。
敵が何処から魔物を補充しているのか、調査を頼んでみるか」
大河に言えば、連絡をつける事は可能だろう。
それはともかく、そろそろ王宮から援軍…機構兵団が到着する頃である。
相馬透とは、ホワイトカーパスから撤退する際に顔を合わせている。
その武装…シュミクラムの欠点も、大体把握していた。
ルビナスから簡易の仕様書が送られてくるから、それを見てある程度補正すれば、充分戦闘投入は可能だろう。
まぁ、現状のままでも充分ではあるのだが…どうも、彼の胸騒ぎは消えようとしない。
益々強くなる一方である。
何度地図を見渡しても、戦場の空気を肌で感じてみても、その胸騒ぎの正体は知れない。
得体知れないプレッシャーが、何処からともなく感じられるだけである。
「ドム将軍!」
「どうした、バルサローム」
「機構兵団、王宮からただいま到着しました!」
「そうか。
早速で悪いが、戦場に向かってもらうとしよう。
ルビナス殿からの仕様書は?」
「これです」
渡されたのは、一枚の書類。
実はこれ、ミノリが要約したものである。
例によってルビナスが悦って、彼女から渡された仕様書は分厚いモノに仕上がっていた。
忙しいドム将軍にこんな代物を読ませる訳にもいかず、王宮から戦場に来るまでに新しい書類を作ってしまった。
あまり難しい仕事ではなかったようだ。
殆どは専門的な技術の解説であって、余人には解からない言葉ばかりだった。
それを省くだけでも、1割程度の厚さになる。
そしてヒカルと透の意見を参考にして、大きく変化した点だけを纏めたら、分厚かった書類がたった一枚になってしまった。
ルビナスにデスクワークはやらせない方がいい、と記憶した機構兵団である。
ドムは一通り目を通し、頭の中で戦力値を幾らか補正する。
とは言え、実際に戦わせてみない事には、どの程度の無茶をさせていいのか判断が付き辛い。
新しい試みというのは、得てして挫折しやすかったり予想外の因子によってトラブルが起きるものだ。
まずは、適当な部隊と組ませてみねばなるまい。
仕様書によれば、機動力については大河達にも付いていける、との事。
ホワイトカーパスで見た透の移動速度を考えれば、あながち誇張とも言い難いが…。
「…ククナン・デロヴァの部隊と組ませる」
「あの漢ですか。
確か、ドム将軍の武術の師…」
「あの漢ならば、シュミクラムの長所も短所も検出できよう。
武術のみならず、俺の心の師でもあるからな。
それに、評価も辛口だし…」
新製品の実験には、それくらいが丁度いい。
ドム自身、稽古をつけてもらっている時には相当厳しくしごかれたクチだ。
ククナン・デロヴァの部隊は、戦場の奥まった所で戦っている。
そこに行くまでも、結構な危険が伴うが…それで問題が出るようなら、どの道使い物にならない。
「このオペレーターとやらは、何処で仕事をするのだ?」
「この天幕の中でいいでしょう。
それでも充分通信は届くそうです。
他に丁度いい場所もない以上、仕方ありませんな」
特に弊害も無いことだし、ドムもオペレーターの仕事と技量に興味がある。
確かに信頼性の低い新技術だが、上手く使えるようなら戦術に劇的な革新が訪れる。
早馬を飛ばす必要もなくなるし、新鮮な情報がリアルタイムで入ってくる。
軍人として、大いに興味をそそられる技術だ。
そんな訳で、ミノリはアヴァターの誇る名将が興味深く見守る中、初めての実戦を行なう事となったのである。
メチャクチャ緊張し、混乱したのは言うまでも無い。
オペレーターとして使い物にならないくらいに混乱したミノリだったが、そこは透が上手く対応した。
生きて帰ったら、(ルビナスの実験台にされなかった祝杯も兼ねて)デートに行こう、と誘いをかけたのである。
しかも、その後の事とか、あまつさえ新婚がどうのと何気にデンジャーな冗談も混ぜて。
混乱が更に深くなったが、透が冗談だと言うと、混乱の変わりに怒りが湧き上がった。
お蔭でオペレートは上手く行くようになったのだが、ミノリのご機嫌を取るためにまたしても透は財布に膨大な負担がかかる事になったそうだ。
追記すると、その会話を聞いていたヒカルが透に冷たい視線を送るようになり、ヒカルのご機嫌を取るためにまたしても透は財布に(以下略)。
更に追記すると、アヤネも何だかイライラしていて、アヤネのご機嫌を取るために(中略)になったそうだ。
更に更に追記すると、カイラと洋介が「ツキナにチクる」と言い始め、口止め料として(全部略)。
結局透の財布は空になりツキナに借金し、大河に奢られながら泣く泣く愚痴を溢していたそうな。
時間は飛んで、夜。
機構兵団チームは全員無事で初戦を乗り切り、ミノリと協力してそれぞれのシュミクラムに不具合がないかチェックしている。
それを興味深げに見ている、大河、ユカ、汁婆。
幾つかの故障があったものの、透達でも充分対処可能なものだった。
「で、結局どんな按配なんだ?」
「いやぁ、ルビナスさんの技術って凄いわ。
一昨日までのシュミクラムが、骨董品に思えるぐらいだ。
今度デートに誘うかなぁ」
「ルビナスが俺以外とデートするとしたら、まず間違いなく実験台を捕獲しようと企んでいるぞ…。
現に未亜が一回拉致られたしな」
その後、893・Sモードで逆襲したのは言うまでもない。
あの時の激戦はフローリア学園の生徒の大半に精神的な傷を植え付け、大河達も忘れようと誓い合った。
要らん事を思い出して落ち込む大河は、青い顔をする洋介に視線を送った。
「んで、成果は?」
「バ〜ッチリよぉ。
弾切れの心配は無いしミノリは上手く誘導してくれるし、上にも好印象なんじゃない?」
「ほーう、そりゃ「大河君はこっちを見ちゃダメ!」……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あらぁ、私は別にいいわよ?」
「秘儀、透視「するなー!」うがああぁぁ、目が!目がぁぁぁ!」
「ムスカかお前は」
何故か下着を半分以上露出しているカイラ。
そっちに目をやろうとした大河の目を、ユカが塞ぐ…と言うか握りつぶそうとする。
透が呆れた顔で見守っていた。
アヤネは興味無しと言わんばかりに、さっさと睡眠体勢に入ってしまった。
昼間は自殺願望でもあるのかと思わんばかりの激しい戦闘を行なっていたから、無理もないだろう。
復讐と言う存在理由を失った彼女の心の穴は、まだ塞がっていないようだ。
ヒカルは一日中戦って流石に疲れたのか、うつらうつらと船を漕いでいる。
半眼になった表情にちょっと萌えた透だった。
汁婆はと言うと、興味が失せたのか何処からともなく取り出してきた酒を呑んでいる。
…大河の目の辺りから血が流れているような気がするが、きっと些細な事だ。
どうせギャグだし。
「ま、バッチリって言っても、大河達程じゃないけどな」
「確かに…。
透さんから聞いていましたが、まさか一遍の誇張も無いどころか、まだ控え目に言っていたなんて…」
ミノリが唸るように3人を見詰める。
こうして見ていると、汁婆はともかくとして一騎当千万夫不当の強者には見えない。
ユカはその名が鳴り響いているからまだ解からないでもないが、召喚器と言うのはそれほどまでに凄まじいのか。
実際は、召喚器も無しに大河・汁婆と張合うほどの戦果を挙げるユカの方こそ異常なのだが…。
何だか目が光を失っているっぽい大河は、ユカから開放された頭を傾げる。
例え見えずとも、視線がカイラの方に行っているのが彼らしい。
「シュミクラムだって、負けず劣らず凄いじゃないか。
増してルビナスの作成だぞ。
どんな秘密機能が隠されているか…」
「その分、信頼性が極端に低いけどな…」
反論できない。
それはともかく、大河はトレイターを呼び出した。
機構兵団の目が集まる。
トレイターは大剣ではなく、普遍的な剣の形をしていた。
「へぇ、これが召喚器…間近で見るのは初めてだな」
「触ってみてもいいですか?」
「別にいいよ」
「なんでお前が返事するんだ、透?」
「え? あ、そう言えばそうだな…。
なぁ大河、触っただけで消し飛ぶとか拒絶されるとか…そう言う事は無いよな?」
「別に無いな。
触ってもいいぞ」
カイラと洋介が、差し出されたトレイターを受け取る。
使い手以外が持っても、特に問題は無いようだ。
まぁ、使い手の意に沿わない使い方をしようとしたら反逆するくらいはやるかもしれないが。
カイラと洋介の後ろから、透とミノリが覗き込んだ。
「ふぅん…こうして持ってると、普通の剣と大差ないわね。
どうやってあんな破壊力を出してるの?」
「ああ、トレイターの波長と、俺の波長を合わせてだな…。
まぁ細かい理屈は省くが、要するに合体攻撃をバンバン撃ってるんだよ」
「おいおい、合体攻撃はエネルギー使用量が多いんじゃないか?」
「その辺も問題ない。
まぁ、実際は…こうやってるワケだが」
大河はトレイターを受け取り、同期連携を開始する。
今この状態で他人が刀身に触れても、特に問題は無い。
この状態のトレイターは大河が「その相手を傷つけよう」と思わない限り、単なる鉄の塊と大差なかった。
「こうやってる…と言われても、さっぱり分からんぞ」
「私達、魔力視なんか出来ませんし…」
「うーん…大河君、触れてもらえば分かるんじゃない?
ボクには大河君とトレイターを行き来する力の流れ、大体の軌道が見えるけど」
ここからこう通ってこうね、とトレイターを指先でなぞるユカ。
そう言われても、機構兵団にはサッパリ解からない。
ユカが感じているのは氣の通り道のようなものだし、ある意味魔力の動きよりも分かりづらい。
「ふぅん…こんな風に流れてるのか」
「と、透さん危ないですって」
何気なくトレイターに触れる透。
ミノリが止めようとするが、どうにも透と大河の間では遠慮とか気遣いとかが薄くなる。
透の指先が、トレイターの表面を撫でた。
その瞬間、体に異様な感覚が走る。
透の中に、何かが入り込んでくる。
だが知らない存在ではない。
これは“自分”だ。
トレイターを握っている右手は、相変わらず巨大な質量を持っているとは思えない程に軽い。
しかし戦いの意思を表した瞬間、トレイターは暴虐なまでの破壊力を発揮するのだ。
大河が使っているシュミクラムとは違い、意思によって発現される破壊力。
まる透のカケラの精神が、現世にそのまま降臨したかのようである。
大河の手はトレイターをつかんだまま、大河の指は、力無くトレイターの表面を辿っている。
さっきまではサッパリ分からなかったが、透にはユカが言う力の流れが指先から感じられた。
透/大河は、その刀身に写っている自分の顔を覗き込む。
まるで血の汚れが見られない。
トレイターを召喚する際か送り返す時に、血の汚れだけ残して移動しているのだろうか。
手入れも不要で、便利な一品だと思う。
しかも、基本的に形が自由自在ならば刃毀れの心配も無いだろう。
その刃毀れが補われた形に変化させればいいだけなのだから。
とは言え、ずっとトレイターを振るって戦っていた大河/透も、そこまで上手くトレイターを変化させられるかは自信がない。
特に最近、大剣ばかりで他の形に変化させてなかったし。
目を上げると、茫洋とした表情で自分を見る大河・ジブン・透が見えた。
………おや?
ところで、自分は当真透だったか?
それとも、相馬大河だっただろうか?
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
◆◆◆FLIP * FLOP◆◆◆
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「うおあ!?」
「あ、うああ!?」
「「「「!?」」」」
突然弾かれたようにトレイターを放り出す大河と透。
いきなりの奇声に、周囲の目が集まった。
眠っていたアヤネも、寝ぼけ眼で起き上がる。
放り出されたトレイターが宙を舞い、汁婆に向かって落下した。
酒を飲みながら、無造作に蹴り飛ばして弾く汁婆。
再びトレイターは宙を舞った。
一拍置いて、ドスゥゥゥン、と落下した音がする。
ミノリとユカの血の気が引いた。
落下したのは、ヒカルが眠っているすぐ側だった。
「ひ、ヒカルちゃん!?」
「大丈夫、怪我をしてる気配はないよ!
と、とにかく探して!」
慌ててトレイターの落下地点に向かう二人。
幸いな事に、トレイターはヒカルの上に乗ってはいたが、ヒカル本人に怪我は無かった。
大河の意思が通ってなかったため、少々重いだけの鉄の塊でしかなかったようだ。
…ただ、ヒカルがちょっと地面に減り込んでいたが。
「ヒカルは無事?」
「え、えぇ…。
骨に異常も見られないわ。
…透さん、当真さん…一体どうしたんです?」
アヤネの機嫌が悪そうな目が、元凶らしき2人に向けられる。
どうやら彼女は低血圧らしい。
それはともかく、大声を上げた二人は、顔を蒼白に染めて倒れている。
両方とも息が乱れ、汗だくで水を被ったような有様だ。
大河は偶然後ろに居た汁婆に寄りかかり、いきなり激突されて酒を溢した汁婆は機嫌が悪そうだ。
透は仰向けに倒れ、首だけ起こして大河を見ている。
互いに目に浮かぶのは、例えようもない恐怖を目の当たりにしたかの如き混乱。
2人の間に、何があったのか?
解からないながらも、カイラと洋介が介抱に向かう。
相変わらず下着を出したままのカイラに目を向ける余裕すらない大河。
しかし、それでも透よりは動揺が少なかったようだ。
何度も唾を飲み込み、必死で息を整える。
カイラの手が、大河の額に添えられる。
熱を測っているようだ。
能天気な彼女も、2人の表情から慌てているのか、真剣な表情だ。
「……っ、は、はぁ、はぁ、っ……っく、は……。
お、おまえ…はぁ、はぅ……同一、存…在…か…?」
「は、はっ、は、はっ、ひ、ふぐ……ど、どう…なん…だ、って…?」
透も洋介に抱え起こされている。
どうやら体に力が入らないらしい。
腰ぐらいは抜けているかもしれなかった。
「…なんなの?」
起き上がったアヤネが、周囲を見回して?マークを浮かべている。
ミノリとユカは、ヒカルをもう一度寝かせつけた。
余程疲れたのだろう、ヒカルは全く目を覚まさない。
…いきなりトレイターの下敷きになったから、気絶しただけかもしれないが。
『…同一存在? なんだそりゃ?
一体何をやってんだ、お前ら』
「お、俺の、俺が……大河と、混ざる…。
俺が、消える……!?」
汁婆の疑問に、呻き声のように透が答えた。
意味不明である。
「…いいから、2人は休んでよ。
もうシュミクラムの整備も終わってるんだよね?」
「ああ、後はミノリが幾つかデータを取るだけだ。
まぁ、ミノリは透と一緒にやりたかったかもしれないけどな」
「べ、別にそんな事は…。
とにかく、2人とも汗を拭いて休んでください。
そのまま眠ったら、風邪を引きますよ」
「そうだね。
えーと、タオルは…あったあった。
…で、大河君はボクが拭くとして…相馬君は、誰が?」
「私がやるわ。
戦闘では何度か助けられたもの」
唐突に割り込んでくるアヤネ。
が、ミノリはそれにムカッと来た。
別に自分が拭きたい理由があるのではないが…。
「いえ、私が拭きますから、アヤネさんは早く休んでいてください。
お疲れでしょう?
明日からもキツイですよ」
「…隊員同士のコミュニケーションを改善しようとしているの」
「…洋介さんとの関係は改善されないんですか?」
…何やら火花が散りつつある。
ユカは大河を連れて、さっさと退避。
野営地で割り当てられたテントに引っ込んでしまった。
『下』まで拭かねばならない事に気がついているのだろうか?
大河は先程の体験が余程堪えたらしく、意識を保つので精一杯。
そしてテントの中には、ユカ以外に誰も居ないし、誰も来ない。
…さぁ、彼女はどうする?
それはともかく、透を巡る女の戦い。
徐々にエスカレートしつつある。
両者供に、あからさまな好意を抱いている訳ではない。
ミノリは透が好みのタイプであり、変な所で連帯感やら友情やらを育んだだけで、透に惚れ込んでいるとは言い難い。
アヤネにとって透は、正直言って複雑な感情を持つ相手である。
自分の人生を賭けた復讐という目的を、突然現れて不条理に終わらせてしまった。
無論、それは透が悪いのではない。
だが、ずっと追い続けていた標的を横取りされたような感情は抑えきれない。
そういった感情、様々な怒りや憎しみ、悲嘆を透の前で爆発させてしまった。
それを透は、押されつつも受け止めた。
ある意味、透はアヤネにとっては最も心を許せる存在なのかもしれない。
その後、復讐の火は消えたものの、心にポッカリ穴が開いているような心境だった。
今日、死に急ぐような戦い方をしていたのはその為である。
だが、透はアヤネをしっかりとフォローして、アヤネを助け続けた。
疎ましくもあるが、嬉しくもある。
徐々に、透がアヤネの心の穴を埋めつつあるのだ。
が、それもまだまだ…。
そんな訳で、明確な好意を抱いてはいない女性二人が、どちらが透の汗を拭くかで至近距離で睨みあっているのである。
ここまで来ると最早意地。
タオルが両方から引っ張られ、あと一寸で引き千切れそうだ。
それでも千切れてないのは、ここでタオルを破いてしまえば全てオジャンになるからだ。
その辺の力加減を、実に精密にこなしている…綱引きならぬタオル引きをしながら。
そして、それをボケっと見ているカイラ。
「…意外…と言えば意外よねぇ…。
ミノリみたいな大人しい娘や、アヤネみたいな感情を押さえ込んでいる娘ほど、暴発したら激しいけど…。
ミノリがアヤネとガチで張り合うなんて…。
いやぁ、女は怖いわ…私も女だけど、こうして情念ってのを見るとねぇ…」
と言いつつも、その手の中には何処から出したのか幻影石が。
もし後で再生したら、きっと心霊写真張りにバックに『何か』が写っていることだろう。
「ま、ミノリがオンナになった記念と言う事で…」
まだオボコだが、彼女もしっかりオンナではある。
特に怖い部分が。
ちなみに、透はさっさと洋介がテントに引き込んで、持っていたタオルで汗を拭いている。
男の体なんか拭いてもあまり面白くないが、そーも言っていられない。
で、一方…。
半分眠っている大河。
と…。
「……わ、結構鍛えてる…。
大河君って、召喚器無しでも意外と…。
…………そ、そ、そそ、それゆぉおるぃ、そぉれよぉりぃ……。
さ、さいごの…いちまい…。
こ、こここここも…ふかなきゃややや」
…………そーっと…。
「………こ、これが…おとこのひと…」
「…?」
「……!!!?
な、なんでおおきくなるの!?」
疲れているからだ、多分。
一応言っておくが、ユカは妙な所を触ったりしてない。
恥じらいながらも興味津々で、メルトダウンしつつマジマジと見詰めているだけだ。
「は、はうううぅぅぅ……」
結局ユカは、全身をリンゴよりも赤く染めながら、大河の全身の汗を拭き取った。
拭くだけ拭いて、何も着せずに寝袋の中に大河を放り込んだユカを、誰が責められよう?
まぁ、後で汁婆がちゃんと服を着せたが。
「……こ、こ、こ…これ、くらい…だった、かな? かなかな?」
後に、ユカが指で何かの大きさを再現しようとしていたのが目撃されたが…それはまた別の話。
20日 戦場 大河チーム・機構兵団
『で、結局なんだったんだ、あれは?』
「…透と俺が、シンクロした…。
で、その透は?」
『もうすぐ来るぜ』
一夜明け、戦闘開始まで待機している大河達。
大河は既に昨晩の衝撃から回復したらしく、いつも通りである。
この周辺の魔物は、ほぼ総統してある。
そこそこの数の魔物達が出張ってくるまで、大河チームはオヤスミだ。
一方機構兵団は、その機動力とリーチ・火力に目を付けられ、今日は一日ドンパチやる事になっていた。
初っ端から出撃する訳ではないので、まだ話す時間はある。
「あ、大河君おはよう」
「おはよ…どうしたんだユカ?
何だか目とか顔が赤いぞ」
「んー、ちょっと寝辛かったんだよね。
熱帯夜だったし」
「ああ、確かに…」
本当に寝不足らしく、ユカはボーっとしている。
リアクションが普段よりもワンテンポ遅い。
戦闘になると、これは致命的だろう。
「ま、出撃するまでゆっくり昼寝しててくれよ…。
……?
どうした、俺の顔に何かついているのか?」
「い、いや別に………こ、このくらい…」
「?」
顔を赤くして、何やら人差し指と親指で何かの大きさを再現しているユカ。
何事かと思ったが、ユカはさっさとテントに潜り込んでしまった。
一応言っておくが、ユカはRに指定されるような行為はしていない。
していないから、悶々として眠れなかった。
ガチャン、と金属音。
大河が振り返ると、シュミクラムに身を包んだ機構兵団が勢揃いしていた。
…カイラはまだ寝たりないのか、うつらうつらしている。
「おはよーさん。
おお、こうして見ると壮観だなぁ。
ロマンだね、ロマン。
ロケットパンチにドリルに自爆装置…」
「おはよさーん。
ルビナスさんの事だから、他にとんでもない破壊兵器を作ってそうだよ…」
ボヤく洋介。
その隣で、透が複雑そうな表情をしていた。
昨日の事が気になるのだろう。
どうでもいいが、ミノリとアヤネが洋介を恨めしそうに見ていた。
それをヒカルが首を傾げて見ている。
ちなみにヒカルだけはシュミクラムを遠隔操作するので、接続用の器具を持ってバチェラの隣に立っていた。
「ねぇ、昨日…何かあったの?」
「え? あ、そう…ね…。
あの、透さん、当真さん、昨日のあれは何だったんですか?」
「…尋常な事じゃなかった…」
心配しているミノリと、問い詰めているらしきアヤネ。
透と大河は顔を見合わせ、どうするべきか少々悩む。
が、大河があっさりと決断。
話した所で、特に問題はない。
透はイマイチ事情を把握してないし、理解しているらしき大河から事情を聞きたい。
「うん…まぁ…一言で言って、俺と透が限りなく同一人物に近い他人だったんだよ」
「「「「「?」」」」」
「同一人物…?
いくらお互い考えが読めるからって、そりゃ無いんじゃないのか?」
「? 透、読める…ってどう言う事?」
「まぁ、最後まで聞いてくれって。
さて、どう話すべきか…」
腕を組んで考え込む大河。
正確に言うと、『どう話すべきか』ではなく『どこまで話すべきか』になる。
大河の持っている世界観は、アヴァターで一般に言われている世界観とはかなり違う。
アヴァターの世界観は、“ここ”こそが根の世界で、全ての世界の根源である、というのが一般的だ。
しかし、大河はアヴァターから派生したのではない世界を幾つも知っている。
この辺の差を、どう埋めるべきか。
別に話してしまっても構わないのだが、そこまで話すと話が大きくなりすぎるし…。
「…んー、例えば、だ。
アヴァターから派生した世界ってのは、一つじゃないよな」
「ああ、そうだな。 そう言われている。
実際の所は…俺達はあんまりよくわからないけど」
「ん。
で、この派生した世界だが…当然複数存在する。
例えばA、Bをその世界だとしよう。
この2つの世界は、よーく似ている世界だ。
歴史の流れ、暮らしている人々、法則、些細な違いはあるけど大体同じだ。
ここまで問題がある人は?」
誰も手を挙げない。
「結構。
で、Aの世界に居る人は、Bの世界にも同じように居る可能性が非常に大きい。
性別が違ったり積んできた経験が違ったりするけど、根っ子の部分…魂がソックリなんだ。
同じ環境に置いたら、殆ど同じ育ち方をするだろうってくらいにな。
それが同一存在」
『…昨日、うわ言みたいにそんな単語を言ってたな』
「ああ。
つまり…俺と透は、その同一存在って事だよ、兄弟」
「…どっちが兄だ?」
「……多分、俺」
その理由はともかくとして、透は妙に納得していた。
道理で大河との距離を測りづらいわけだ。
ある意味、鏡に向かって踏み込み、話しかけているようなものである。
自分が踏み込めば、それと全く同じタイミングで相手も踏み込んでくる。
しかも、お互い何も意識せずに。
ついでに言うと、相手が自分でもあるので、遠慮が無くなる。
色々と心当たりがあるのだ。
一方、納得してないのが周囲の皆様である。
透と大河では、性格的に差があり過ぎないか?
真面目で律儀な透と、楽観的で女好き・基本的に身勝手な大河。
「それじゃ、昨日のあれは…」
「俺とトレイターが同調している時に、同じ魂を持った3人目の俺が接触したからだろうな。
俺、トレイター、透の意識が混ざり合って、それで誰が誰だか解からない事態に…。
しかし、あの…フリップフロップってのは何だったんだ?」
「それは俺も…。
心当たりは無いのか?」
「今まであんな文字が出てきた事は無かったぞ。
透こそ無いのか?」
二人そろって首を捻る。
ところで、汁婆達は…。
『多分根っ子が同一人物ってのは本当だ
言われて見れば、匂いが異常に似てやがる』
「ふーん、そうなんだ…。
でも、えらく性格が違うわねぇ」
「いや、多分欲望を抑えずに育ったのが当真で、抑えて育ったのが透だ。
と言う事は、もしも透が欲望のままに行動したら…」
「…当真大河は、下は13歳、上は三十路まで手を出す幅広い鬼畜って噂…」
「透が当真さんと同じ性癖とかを持ってるとしたら…?」
「そ、そんな! 透さんはそんな人じゃありません!
…と、思う…思い…ます…けど…」
「いやいや、ムッツリスケベとオープンスケベの違いじゃないの?
透だって男だし、そういう欲望は日々募りに募って…」
「う、うぅ…そう言えば、ダリアさんもそんな事を教えてくれたような…」
「透…フケツだよ…」
「……外道は…斬る…。
透、復讐という原動力を失った私と一緒に逝って…」
『うおっ、無理心中を画策している!』
「おいそこ、何を言ってるんだーーー!?」
透の魂の叫びが響き渡った。
その後、八つ当たりとばかりに魔物達を薙ぎ倒す透の姿が見られたという。
昼。
太陽が容赦なく降り注いでる。
だが遠方に黒い雲が見えた。
午後からは一雨くるかもしれない。
…シュミクラムは防水処理をされているのだろうか?
汁婆は何やら屈伸している。
そろそろ出撃の時間が迫っていた。
少しずつ魔物達は増え始め、結構な数が戦場に現れている。
まぁ、それも一網打尽に出来る程度の数に抑えられているのだが。
大河とユカも、2人で体を引っ張り合って筋肉を解している。
ユカはまだ少々大河を意識しているが、精神は既に戦闘に向けて集中力を高めつつある。
明日になったら、他の救世主候補達も王宮から出てくる。
多分、大河もそちらに編成されるだろう。
その時にユカはどうなるのか…。
同じ組に編成されるかと言われると、ちょっと考えにくい。
戦力が必要以上に集中するからだ。
ひょっとしたら、コンビ…というかトリオを組んで戦うのは今日が最後かもしれない。
折角息が合っているのに、と思うと哀しいものがある。
「…ねぇ、大河君。
明日からの事なんだけどさ…」
「ん?」
「ひょっとしたら、別々のチームになるかもしれないんだよね?」
「…ああ、そういやそうだな。
多分…汁婆とユカはチームのままだろうけど」
大河もユカが何を考えているのか分かったのか、少し残念そうな顔をする。
大河としても、ユカほど息の合った相棒とは組んだ事がない。
強いているなら、同一存在たる相馬透くらいだが…野郎と息が合うより、美人で強い相棒と息が合う方が嬉しいに決まっている。
救世主クラスとは、結構付き合いが長い。
勿論彼女達とのコンビネーションは、ユカ以上の完成度を保ってる。
伊達に裸の付き合いを続けていない。
が、単純に産まれ持った相性という点で言えば、ユカは大きなアドバンテージを持っていた。
彼女とのコンビが解消されてしまうのは、大河としても残念で仕方がない。
「ま、アレだね…。
戦場で偶然会ったりしたら、また助けてあげるよ」
「ユカこそ、俺に助けられて感謝のキスでも送ってくれよ」
「じゃ、今から前借って事で……? …はぅ!?」
軽口に軽口で返し、さらに自爆するユカ。
何気なく言っただけで、免疫ができたのではないらしい。
ボッと赤くなるユカ。
大河はこーゆーユカを見るのが楽しくて萌えて堪らないらしい。
柔軟をしながらジタバタ悶えるユカを、無表情に、だが明らかに萌えているのが分かる表情で見詰める大河。
と、その時。
大河の背後から近付く人影。
殺気は感じない。
多分兵士の一人だろう。
実際、その辺の兵士と大差なかった。
図体は大きかったしベテランの風格を備えてはいたが、それは問題ない。
問題は。
「…あの、その鼻メガネは何ですか?」
「…成り行きだ」
兵士はフルアーマーに加えて、何故か鼻メガネをかけていた。
ドリ○ターズの例の音楽が、何処からともなく聞こえてきそうである。
ユカも汁婆も、奇妙な物体を見る視線を送っていた。
それより、大河には彼の声に聞き覚えがある。
何処で聞いたのだったか?
「…すまないが当真君、少しいいかね?」
「……この声、口調…アンタひょっとして…」
「シッ。 突然ですまないが、危害を加えに来たのではない。
透君に、話しておかねばならない事があるのだ」
「…クーウォン…こんな所で何を…いや、それより鼻メガネ取らんかい」
「む…いや、これは保護している子供達がだな…」
キャラが崩される危険性を感じたのか、小声でしどろもどろに言い訳する。
鼻メガネを外して何時ものメガネに変えようとしたのだが、兜の中で引っ掛かっているのか鼻メガネを外せない。
…と言うか、鼻メガネなんぞ付けてたら普通に目立つと思うのだが…何をやってるのだろうか。
フンッ、と鼻メガネを破壊して強引に外す。
破片が刺さったのか、ちょっと血がダラダラ。
拭おうにも、手も篭手に覆われていて、硬い鉄が顔に当たって普通に痛い。
汁婆が無言でハンカチを差し出した。
「あ、すまん…。
感謝する、種族も知らぬ人よ…。
それはともかく、透君は何処に?」
流石はフェタオの頭領、UMAを見ても動じない。
まだ血がダクダク流れているが。
問われた大河は、少し目を細めた。
ユカは状況が把握できてない。
どうも大河の友人のようだが…仲が悪いのか?
「そう言われてもな…。
一応立場ってモノがあるだろ?
教えられると思うか?
そもそも何の用だよ」
「透君の過去の事について、少しな。
正直、あまり時間が無い。
頼む、教えてくれ。
それがダメなら、伝言を頼みたい」
「…まぁ、それくらいならいいけどよ」
単純な伝言くらいなら構うまい。
そもそも、協力体制にあるとは言えテロリストのトップがここに居るのだ。
とッ捕まえるか通報するのが、軍人としてあるべきだろう。
軍人ではない大河だが、破壊活動をされる前にクーウォンを抑えるべきであるというのは変わりない。
まぁ、クーウォン自身はそんな事はしないだろうが…根拠も無い信頼など、身近な人間にしか通用しないのだ。
「それで、何と?」
「そうだな…。
『君の失われた過去の事について、重要な話がある。
私と、レイカ・タチバナと、幾人かの夢想家が幕を開け、今尚続く悪夢の物語。
君は、その全てを知らなければならない。
止められるのは、君しか居ないのだから』」
「…それだけか?」
「いや…話を聞いてくれるならば、この場所に来てくれ、と。
幾人連れて来ようが構わない。
ただ、話を聞いてくれるならばな。
それと…ドム将軍と、タイラー将軍に伝えてくれ。
『彼女はすぐ側に来ている。
刺激しなければ、何もしない。
相馬透を、彼女に近づけるな』。
匿名の情報では受け入れられんだろうが、何とか伝えてくれ」
「彼女…?」
訝しげな表情をする大河。
メガネを掛けなおしたクーウォンは、踵を返して歩いていった。
これ以上は話せないのか。
…実際の所、クーウォンは自分の身勝手さに憤慨していた。
如何に自分の罪を面前に押し出すにしても、今更出し惜しみをしてどうする?
相馬透個人の事に関しては本人にのみ話すにしても、『彼女』の事まで出し惜しみしてどうする。
今の『彼女』は、放っておけば人類軍に多大な損害を与え、世界を“破滅”に導くだろう。
例え本人が、そんな事を考えていないにしても。
クーウォンには、多少だが己の姿に酔う性質がある。
別に珍しいモノではなく、何かを決めた、覚悟した人間に出やすい傾向だ。
だが、生憎とそれを止められる人間は居なかった。
クーウォンは一介の兵士に化けていたし、それを見破れそうな人物はここには居ない。
「…夜まで待つか」
兵士の格好のまま、クーウォンは透を呼び出した場所まで歩いていく。
透が来るまで、只管待つこととなるだろう。
だが、それまでに考える事は色々ある。
どうやって話すか、どこから話すか。
嘘だと一笑に伏せるか。 信じられたとしても恨まれるだろう。
だが、その怒りや憎しみは…受けて当然のモノだ。
例え殺されようとも…いや、まだ死ぬ訳にはいかない。
過去の清算は、まだ終わっていないのだから。
レイカ・タチバナ。
彼女の暴走を止めるまで、死ぬ訳にはいかない。
一方、機構兵団チーム。
ミノリのナビゲートは、予想以上に上手く働いている。
ドムに見学されているとあって少々パニックしたが、それを超えればどうという事はなかった。
所謂死の8分、というヤツか。
しかし、問題も多少は存在する。
やはり何だかんだ言っても、ナビゲーターもパイロットも付け焼刃の技術しか持ってない。
所々でぎこちない動作が出る。
それを補っているのが、ベテランのヒカルや透、そして一般兵の皆様である。
タイラー軍が下がり、救世主候補達も温存されている状況にあって、一際強力な異色の兵団。
怪しまれたり不審の視線を向けられる事もあったが、全体の評価はかなり良かった。
戦力もそうだが、シュミクラムの猛烈な火力に感動した者も多数。
特にガドリングガンのガガガガ、という轟音に痺れたそうな。
それぞれの役割はと言うと、洋介は専ら空中から迫るガーゴイルやガーディアンをミサイルで狙い撃ちにし、カイラは意外な事に敵の行動を先読みして、経路を潰すようにして機雷を仕掛けていた。
彼女の事だから、戦闘も冗談半分にこなしそう…と言うより、雰囲気がダリアに似ている。
まぁ、酸いも甘いも噛み分けた彼女らしいと言えなくもない。
透以上のベテランであるヒカルことバチェラは、意外と苦戦していた。
彼女は集団戦の経験が、あまり無いのである。
ステッペン・ウルフでチームを組んではいたが、それでも精々一桁だけのチーム。
それ以外の時は、常に自分一人で行動していた。
一言で言って、連携が苦手なのである。
時々間違って味方を打ちそうになったり、広範囲の攻撃に巻き込んでしまう事がある。
彼女が使っているのはオートで動くファンネルのような武器だから尚更だ。
本人に言わせると、「今までと違って敵味方を判別しないといけないから面倒」との事。
これからの課題であろう。
透は普段通りのスタイルを貫いている。
必要とあれば連携も取る、逆に一人で充分と判断すれば大胆に切り込む。
だが、必ず抜け道…或いは突破口は確保しておく。
普段と違うのは、機構兵団チームがヘマをした時にすぐ動けるよう、彼らからあまり離れようとしない所だけだ。
もう一日ほど戦いが続けば機構兵団も慣れるだろうから、もう少し離れても大丈夫だろう。
問題はアヤネだった。
元々彼女の戦い方は、敵の攻撃を避け、或いは受け止めつつ強引に接近して、細腕からは想像もできないような腕っ節で猛ラッシュ、反撃の隙を与えずに殲滅…。
しかし、これは集団戦、乱戦では危険である。
ラッシュをかけると言う事は、取りも直さず目前の一人にのみ注意が向かうと言う事。
周囲に対する警戒が疎かになってしまうのである。
アヤネは、ゲンハが死んだと知るまでその復讐心を絶やさないよう、他人との接触を極力断っていた。
戦闘時も同じで、ただ只管に自分一人で戦い続ける事で、憎悪を燃焼させつづけていたのである。
ゲンハの死を知ったからと言って、そういう戦い方がすぐに変化する訳ではない。
気を付けてはいるのだが、復讐という生きる目的を見失った今、ふと気付けば敵の真っ只中…と言う事が何度もあった。
無意識の内に、自分の終わり、死に場所を探しているのかもしれない。
そんなアヤネを強引に引き戻すのが、フォロー役の透である。
今も、ゴーレムを接近戦用のビームサーベルで切り刻むアヤネの背後を護っている。
自暴自棄になりかけている彼女の世話は、透にとってはえらく大変である。
しかし、もう知らないと放り出す事はできなかった。
仲間だし、何より…他人事とは思えなかったからだ。
透の胸の内に、復讐の炎はまだ燻っている。
大分治まり、消えかけてはいるが…その炎は、確かにあったのだ。
どうでもいいが、炎天下である。
普通の兵士達にとっても暑いが、機構兵団チームにとっては更に暑かった。
何せシュミクラム自体、火薬やらマナやらのエネルギーを使って活動するので、そこかしこが熱を持つのである。
冷却機能もある事はあるが、一瞬で冷やすような事をすれば、シュミクラムの装甲が罅割れてしまいかねない。
ゆっくり冷やすしかない…が、冷やす暇もなく魔物達は襲ってくる。
これでも大分少ない方だ、と透が告げると、カイラと洋介は驚いていた。
まぁ、ホワイトカーパスで見たのは、特大規模の魔物の群だったし、比較対照が悪いだろう。
カイラが空中に機雷を仕掛けた時、シュミクラムの通信機能が作動した。
オペレーターのミノリからの通信である。
『聞こえますか?
ミノリです。
偵察をお願いしたいのですが』
「偵察?」
ヒカルが聞き返す。
戦況は優勢だ。
ここで機構兵団が何人か抜けても、然程劣勢にはならない。
通信機能がある以上、機構兵団が偵察に行くのはそれほどおかしくはないが…。
「了解〜。
で、誰が行く?
アタシが行ってもいいけど、機雷で敵進路を潰した方がいいと思うな」
「俺は…ちょっと止めておいた方がよさそうだな。
さっきから足回りがおかしいんだ」
「ゴメン、それボクが巻き込んだ。
…単独行動はボクの専門だし、ボクが行こうか?」
『いえ、ヒカルさんはそのまま戦線を維持してください。
後方をファンネルで撹乱するのが、予想以上に効いています」
どうでもいいが、バチェラの自律系武器はファンネルで定着してしまったらしい。
いくら自律型の武器と言っても、一応の行動プログラムはある。
バチェラからある程度離れるとエネルギー供給がアッと言うまに尽きてしまうし、そもそもバチェラのガードを目的とした武器なので、一定距離以上は離れるように設計されてなかった。
ここでバチェラが戦線を離れれば、背後から敵を強襲するファンネルも消えてしまう。
それは少々痛かった。
黙っていたアヤネが口を挟む。
「…私が行くわ。
偵察目標は何処?」
『今地図を転送します。
マーカーで表されているのがそうです。
…透さん、申し訳ありませんけど、アヤネさんに同行してもらえませんか?」
「…何故?
偵察なのだから、あまり戦力は必要ないと思うけど」
アヤネの疑問に、透も頷いた。
返ってきたミノリの声も、少々困惑している。
『よく分かりませんけど、ドム将軍が何故かそうしろ、と…』
首を傾げる。
ドムの有能さは、この場に居る全員が知っている。
彼が無駄な事をするとも思えない。
何かしら、思惑があるのだろうが…。
「ま、理由はどうあれ、ドム将軍が直々にそう言うんじゃな…。
アヤネ、よろしく頼むわ」
「…背中は任せたからね」
「おー、アヤネが透を頼ってるよ…」
余計な事を呟いた洋介に、妙なプレッシャーがかかる。
洋介はさっさと魔物に向き直った。
とは言え、これはちょっとした進歩だ。
死に急ぐアヤネを助けている透だが、最初からアテにしているのは初めてだ。
少しは彼女の心の穴も塞がったのかもしれない。
『それでは、透さんにもマップを転送します。
まずは西側にある岩を迂回して、敵の少ないルートを進みましょう。
細かい指示が必要な時は、いつでも連絡をください』
「了解。
透、先に行くわ」
「だから一人で先走るなって…」
先に走り出したアヤネを追って、透は土産に波動胞を2発敵陣に叩き込んでから追いかけた。
偵察に向かった先は、どうと言う事もない平原だった。
敵もいなければ、虫も動物も見えない。
ついでに言うと、この近辺に隠れられる場所はない。
ルビナス製のセンサーで探知しても、全く反応は無し。
透は首を傾げた。
「…こんな所に偵察なんて…ドム将軍は、何を考えてるんだ?」
「…………」
話しかけても、アヤネは妙に強張った顔で答えない。
何か居るのか、と警戒する透。
「…アヤネ?」
「…いえ…ここには…居ない」
「? ここには?」
聞き返し、透は気付いた。
アヤネは震えていた。
シュミクラムに包まれているので体の震えには気付きにくいが、声が揺れている。
よく見ると、アヤネはビッショリと脂汗を掻いていた。
「あ、アヤネ!?
まさかどこか怪我…」
「いえ、大した怪我はしてないわ。
そうじゃなくて…何なの、この物凄い圧迫感と敵意…!」
アヤネがグラリと揺れた。
慌てて支える透。
その時、透の第六感にピンと来る。
「アヤネ…圧迫感って、それは単に腹が出たか胸が大きくなったぐぼぉぉぉッ!?」
透はアヤネの手から突き出た杭…パイルバンカー(弱)をブチ込まれて吹っ飛んだ。
「…命が惜しければ、シュミクラムを着ている時にくだらない冗談は止めるのね」
「き、肝に銘じる。
…むぅ、どうも大河が混じったままのような気がするぜ…」
「多分、それは元々のアナタの素質」
「ウソだ!」
思わず絶叫。
クスッとアヤネは微笑んだ。
が、残念な事に装甲に覆われて表情が見えない。
微笑はすぐに消え去り、また圧迫感にアヤネの顔が歪む。
ここに居てはいけない。
…私達を、見ている…!?
「…透、すぐに戻るわよ」
「え? あぁ、それはいいが…何をそんなに焦ってるんだ?
いや、俺も妙な圧迫感をさっきから感じてる。
しかし、それ程切迫してるようには…」
「…昔からこうだったのよ。
とんでもない物が近くに居たり、大きな災害起こる時には、必ずこんな感覚を感じる。
聞いた話によると、私は動物の因子が他人より強くて、それが野生の直感を蘇らせているって…」
「…動物の…因子?」
大河の脳裏に浮かぶ、親友の仇。
だがすぐに頭を振って追い払った。
アヤネは違う。
彼女は無抵抗の相手を無差別に殺すようなマネはしない。
…彼女の身体能力は、獣人の物ではないのか…?
そもそも、彼女は意外とウソが付けない性格だ。
ユーヤを殺したとすれば、彼女は必ず何らかの動揺を見せる。
それが隊の仲間から出た話であれば、尚更だ。
…その時の記憶が無いのだとすれば…?
「…うるさい、うるさい…。
アヤネ、早く行こう」
「? ええ、そうね」
今すぐここを立ち去りたい、と全身で主張しているアヤネ。
もし彼女にシッポでもあれば、確実に縮こまっている事だろう。
…個人的には白ウサギがいい。
バーニアを噴射させて、2人は走り出した。
「しかし、結局敵は居なかったな。
何かが居たにしても」
「…あれだけの圧迫感…。
もし敵だとすれば、確実に切り札でしょうね。
戦って勝てるか…」
黙る二人。
そのまま走り続け、崖の上まで差し掛かった。
ここを飛び越えれば、大幅なショートカットになる。
来る時もここを軽く飛んで飛び越したのだ。
生身では無理だが、その辺はシュミクラムの性能故である。
「アヤネ、先に飛ぶぞ」
「ええ。
…それじゃ、続いて私も」
透は崖を軽く飛び越え、周辺に敵が居ないか目を配っている。
そして、アヤネも跳ぶ。
特に失敗する理由はない。
しかし。
“ ”
「!?」
アヤネの意識に叩きつけられる、猛烈な波動。
それを受けて、アヤネは跳躍中に意識を失った。
最後に、落ちていくアヤネに向かって飛び込む透の姿が見えた。
それは突然の事だった。
透は崖を跳び越し、周囲を警戒しながらアヤネが来るのを待っていた。
別段難しい事でも、時間がかかる事でもない。
アヤネもすぐに崖を飛び越えようとし、そのまま着地する…筈だった。
周囲を警戒していた透が、何気なくアヤネを振り返る。
一瞬、何が起きているのか分からなかった。
ブースターの火が途切れている。
何故?
アヤネがバランスを崩し、崖に消える。
何故?
考える暇もなく、透はシュミクラムのブースターを一瞬だけ全開にして吹かし、崖に飛んだ。
しかし一瞬の戸惑いによって出来たタイムラグは、予想外に大きい。
アヤネは頭を下にして、透の3メートル下を自由落下していた。
目は少しだけ開いているが、どうも気を失っているらしい。
手を伸ばすが、アヤネの足にも届かない。
再びブースターを吹かし、下に向かって加速。
透は既に、周囲の事など目に入ってない。
地面に激突するまで、あとどれだけ余裕があるだろうか。
気にしている暇すらない。
必死で手を伸ばし、何とかアヤネの足を掴んだ。
そのまま体を回転させ、またブースターを吹かして落下の勢いを削ぐ…瞬間に。
ガシャアアァ!!
「!?」
透は巨大な質量に叩きつけられた。
地面に激突したのである。
最後の一瞬でブースターを吹かしたためか、ほんの少しだけ落下速度が減衰されていた。
それでも全身を容赦なく痛めつける、強烈な衝撃。
シュミクラムが罅割れ、バラバラになるのが伝わってきた。
ぶれる視界の中に、アヤネが写る。
よく解からないが、頭部から落下したのではないらしい。
正確には解からないが、どうやら背中から落ちたようだ。
シュミクラムには使用者の保護機能も付けられているから、致命傷にはなってないだろう。
…とは言え、透のシュミクラムにも保護昨日は付けられているのだが、それが作動してすらこの衝撃。
致命傷ではなくても、行動不能になっている可能性は充分にある。
ついでに言うと、放っておけば出血多量で死ぬ可能性も高い。
「………!!」
息が出来ない。
毒付く事すら出来なかった。
横隔膜に入っていた空気は、全て叩き出されたようだ。
さらに追い討ちをかけるかのように、透とアヤネは斜面を転がり落ちる。
2度3度、地面に叩きつけられ、ようやく2人は止まった。
アヤネは透から、少し離れた場所に転がっている。
意識は戻ってないようだ。
両者そろって、骨折は確実にしているだろう。
完治まで、どれだけ時間がかかるだろうか?
いや、それよりも生き延びる事が先決だ。
しかし、自分もアヤネも動けまい。
シュミクラムの通信機能が生きている事を祈るしかない。
まぁ、つい先程までは定時連絡を繰り返していたのだし、ミノリが異常に気付いてくれれば…。
痛みに苛まれながらも、透は意外と冷静だった。
不意に咳き込む透。
口の中を、血の味が満たす。
ゆっくり首を捻って、横向きになる。
口を開いて、中に溜まった血を吐き出した。
早くどうにかしなければ。
気絶しているアヤネなど、血で気道が塞がれているかもしれない。
透は必死で体を動かそうとするが、体は痛みを訴えるばかりで反応してくれない。
運動中枢に、何か障害でも出たのだろうか?
「……ッガ、グォ…」
言葉も出せない。
薄れ掛ける意識を、体の痛みが強引に引き摺り戻す。
意識を失えばもう二度と起きられる気がしなくて、それがありがたかった。
「ア゛……ヤ゛ネ゛…」
呼びかける事くらいしか、出来る事がない。
這ってでも近付こうとした時だ。
透の視界に、妙なモノが移った。
アヤネの腕が、ビクビクと痙攣している。
まるで陸に跳ね上げられたマグロのようだ。
断末魔の痙攣ではない。
明らかに、アヤネに何か強烈な変化が起こっている。
何が、と思う透の前で、アヤネの姿が徐々に変わっていく。
痙攣しているアヤネの爪が伸びる。
明らかに人間とは違う、肉食獣の鋭さだ。
頭部パーツが吹き飛んで露になっているアヤネの頭から、二等辺三角形が二つ飛び出した。
アヤネの苦悶に歪む顔が、少しずつ変形する。
小さかった口が引き裂かれるように広がり、前へ前へと伸びる。
シュミクラムがギチギチ揺れる。
内側からの圧力で、壊れかけたボディが崩壊しかけているのだ。
アヤネの体が、二回り以上巨大化していた。
そして、その全ての変化と並行して、全身にゆっくりと毛が生え始めていた。
黄色、白、黒。
(……獣人…虎…の、獣人…)
呆然としている透。
動けない彼の前に、親友の命を奪った、追い続けてきた獣人が現れた。
アヤネ…獣人の傷は、殆ど癒えたらしい。
どうやら変身のプロセスで、強力な回復力が働くようだ。
アヤネの命の心配は、まぁ無くなったと思っていいだろう。
しかし、透の方は複数の意味でそれ所ではなかった。
信頼していた仲間が、追い求めてきた仇。
おそらく、本当にアヤネは知らなかったのだろう。
獣人変化は、彼女が死の危険に瀕するほどの負傷を受けた時、本能がその力を呼び覚ますのだ。
思えば、ユーヤを殺した時も、その毛皮は大量の血を浴びていた。
てっきり返り血だとばかり思っていたのだが、自分の血だったのだろうか。
それも問題だが、より厄介なのは、アヤネに理性の光が見られないと言う事だ。
ユーヤを殺した記憶がないように、彼女の理性の全ては消え失せ、生存本能、或いは外敵を排除する本能のみが暴走しているのだ。
非常に危険である。
今の透は、アヤネに目を付けられたら抗う術などない。
アヤネは傷の癒えた体で立ち上がり、周囲を睥睨している。
獲物を探しているようにも見えたし、怯えているようにも見えた。
2,3度体をブルブルさせて、体に纏わりついていたシュミクラムの残骸を振り払う。
残っているのは、最低限の装備だけだ。
それも体が大きくなった為窮屈そうだが、アヤネは気にしていないようだ。
縦に裂けた瞳孔が、透を捉える。
(ぐ…万事休す…か…?)
救援がくるとしても、まだまだ先だろう。
このままでは、透はアヤネの手にかかって死んでしまう。
そして記憶がないアヤネは、透を手にかけたのが自分だと言う事も知らずに悲嘆にくれるだろう。
ひょっとしたら、透を食い殺した魔物を復讐の対象として定めるかもしれない。
(ふざけるな…ッ!)
そんなのはゴメンだ。
アヤネに自分の命を背負わせるのも、こんな所で死ぬのも。
だが、透の体は動いてくれない。
(くそっ、イチかバチか…。
大河、届いてくれ…!)
来い
ありったけの精神力で、己が写し身…同一存在に呼びかける。
透と大河の間でなら、何かしらの反応が見られる筈だ。
この状況で助けを求められるのは、業腹ながら大河だけだ。
声が出せないし体も動かせないのだから、遠隔通信機能を作動させる事すらできない。
だが、この状況で仮に届いたとしても、アヤネの爪が透を切り裂く方がどう考えても早かった。
血の匂いを嗅ぎつけたのか、アヤネの目が透を捉える。
ユラリユラリと左右に揺れながら、距離を詰める。
動きがぎこちないのは、突然変化した体に戸惑っているからだろうか。
ゆっくりと距離が縮む。
歯軋りも出来ず、透はここまでかと腹を括った。
獣人にも色々居て、人間のような知能を持つ者も居れば、それこそ本能のみに従う獣も居る。
自分の意思で獣化をコントロールできない人間は、大抵の場合後者である。
生来の本能をずっと押さえつけていた反動だろう。
普段は見られない残虐性やら補色の本能やらが強く出る。
(く、喰われる…!)
冗談ではない。
エロい意味で喰われるならまだ救いがあるが、文字通りグチャグチャバリバリなら相手がアヤネのような美人でも嬉しくない。
…体を食いちぎられたら、アドレナリンやらの感情分泌のため痛みではなく恍惚を感じると言うが…あまり救いにはならなかった。
獣の匂いを発散させるようになったアヤネが、血塗れで倒れている透の上に圧し掛かる。
透は、『あ、肉球あるんだ…』とどうでもいい事にまで気付く。
漂ってくる獣の匂い。
しかし、普通よりもずっと薄い為か、透には一種の香水のように感じられた。
(ああ、似合うといえば似合うよなぁ…アヤネって、特別な香水とか付けないタイプだもんな。
精々汗の匂いを誤魔化すぐらいって感じがする…。
飾り立てずに、素の状態が一番美人に見える…。
あ、ひょっとしてこれも獣人だからか?
動物が自分から装飾を付ける事もないだろーし…いや、別にアヤネがケダモノだと言ってるんじゃなくて。
自分を誤魔化さずにあるがままに…いや、思いっきり誤魔化してたな。
あー、しかしどうするかなぁ…。
ヒカルに会いに行って倉庫で泣かれた時に、場の雰囲気に釣られてユーヤの仇の事を漏らしちまったし…。
アヤネが自分の体質に気付いたら、それこそ自殺しかねん…。
誰かに監視を頼んでおかなきゃな。
…ってか、さっきから頬を往復してる柔らかくてヌメヌメしたのは何だ?
そー言えばまだ喰われてないな。
俺ってそんなにマズそうなのだろーか)
美味そうでもあまり嬉しくはないだろう。
透は何時の間にか閉じていた目を、根性で開けた。
ドアップで獣の顔。
心臓に悪い。
ただでさえ止まりそうな心臓が、本気で停止しかけた。
それはともかく。
ペロリ ペロリ
(……舌?)
透に圧し掛かったアヤネは、食いつかずに透の体を流れる血を舐めていた。
戸惑う透。
これは治療なのだろうか?
それとも、単にバクッと食べる前に血を舐め取るだけ?
獣人にとって血は好物らしいが…。
とにもかくにも、今すぐ喰われるのではないらしい。
このまま時間を稼いでいれば(何もしてないが)、大河か誰かが助けに来てくれるかもしれない。
(……このまま舐め続けてくれよ…)
ヨダレで顔がベタベタになるが、これはアヤネだと思って耐える。
と言うか、色々と複雑な気分である。
治療しているのか喰おうとしているのか。
アヤネのような美人に顔を舐められると言うのは微妙に如何わしい行為だが、今は獣だ。
興奮するべきかしないべきか…したら獣姦が趣味というレッテルを貼られてしまいそうな気がするが。
(……?
お、おいアヤネ?
ま、まてちょっと待て、そこまで舐めるのか!?)
アヤネの舌は徐々に移動する。
血で濡れていた頬を経由して額へ…この辺までは許容範囲だ。
が、確かに血で濡れているが、耳とか首筋とか唇とか、文字通り嘗め回すよーに舌を這わせるのはどうでしょう?
アヤネの舌は普段より長くなっていて、ザラザラしている。
唾液が潤滑液となって、まるで愛撫されているような感覚である。
(ちょ、おいアヤネー!?
なんか発情してないかお前!?
そーいや動物って死にそうになったら、子孫を残すために発情状態になるって…。
いやでも俺はともかくアヤネが死にそうなんじゃないし!
うわ耳の穴入って来たくすぐったいこしょばゆいもどかしい、ああ産毛が!
産毛とかが!
って、今度は口の中かーーー!!)
力が入らず半開きになっている透の唇に、長い舌が差し込まれた。
…やっぱり発情しておられるっぽい。
(犯されるー!?)
取り敢えず命の危険は無いっぽいが、貞操の危機を迎えている透だった。
一方その頃…。
『どうした大河?』
「いや…なんか透のヤツが、犯されかけてるよーなオイシイ目にあってるよーな、それでいて人間の尊厳を微妙に損なってるような…。
まぁいいか。
とにかく汁婆、急いでくれ。
細かい場所までは分からないから、直線で行くしかない」
『任せとけ
二足歩行が得意な俺なら、他の馬と違って走り方に融通が利く
どんな所だって走れるゼ』
(こんな時になんだが、何故かミュリエルに襲われた時の事を思い出したんだが…。
ホワイ?
…欲求不満かしら?
思えば2週間以上、ナニしてないもんなぁ…)
大河は己が同一存在の危機を、しっかり感知していたよーだ。
アヤネとの行為に入る前に、彼らが間に合うかは神のみぞ知る…。
卒論も個人的には完成に近づいて、一息ついている時守です。
まぁ、これから纏めて、先生に見てもらわないといけないのですが。
まぁ、何とかなるでしょう。
前に組んだゲームのプログラムを見直してみましたが、これがまた酷い酷い…。
改めてやり直して、自分がどんなに阿呆だったか身に染みました。
こりゃー、某社の就職試験も落ちる筈だ…。
それではレス返しです!
1.ショウゴ様
はじめまして!
ご愛読ありがとうございます。
有名所のキャラは一応出揃いましたから、次に出るとしたらオリキャラでしょうか。
クロスオーバーのコツですか?
うーん、時守の主観ですが…キャラの原作らしさを失わせない事でしょうか?
壊しまくってる時守が言う台詞じゃないですがw
後は設定の矛盾を作らない(見えない)ようにするとか…。
ちなみに、いくらクロスさせているからと言っても、全員集合とかは頻繁にやらない方がいいです。
人数が多すぎて、キャラを喋らせるだけでも一苦労ですから…これ、現在進行形で経験中。
2.あるふぁ様
素晴らしい素晴らしい!
…すいません、ちょっと雰囲気を読まない軟体生物に憑依されました…人生踏み外したような気がします。
今週は何やらゆっくり眠れ…てますが、遅寝遅起きです。
プログラミングの勉強をしていて、ふと気付けば夜三時。
体は自愛してるつもりですが、確実に目だけは自愛してませんw
3.神竜王様
実際、大河のリビドーをどう解放するかは本気で難題です。
上手く加減してやらないと、戦争の真っ最中なのに全員行動不能って事に…。
軒並み腹下死…男として最高の名誉のような、逆に最悪なような…。
実際腹下死させたら、もう女の子を抱く気になれなくなるでしょうねぇ…。
やたら長い幻想砕き、読み終えたでしょうか?
何か気付いた事とかあったら、是非教えてください。
途中から設定がこんがらがってるんで、洒落にならない矛盾とかあるかも…。
4.アレス=アンバー様
透の不幸は、何と言うか本家主人公の大河の不幸が、もう一人の主人公に流れていったって感じですw
まぁ、限りなく人災な訳ですがw
未亜のSモードは、溜まるまでに上手く発散させてあげればいいのですよ。
発動する前に、大河に散々責められて気分がよくなってれば、あんまりハードなプレイにはならない…かも…。
5.イスピン様
オーガに『魚を食えッ!』なんて言われた日にゃ、DHAを摂って頭脳戦に強くなれとでも解釈するしかないじゃないですかw
そうですねぇ、発動したら素の状態でチェーンソー並みの破壊力を出しそうです。
お持ち帰りされた日にゃ、もう念仏唱えても成仏できまい…。
強い弱いはともかくとして、チェーンソー無しでやったら、DUELの神よりSAGAの神の方が100倍強いと思われます。
実際、正面から戦って一度も勝った事が無い…。
どんだけHPがあるんだ、アレは…。
ムドウよりも、時守はシェザルが鬱陶しかったですね。
ベリオの戦闘スタイルは、あんまり攻撃的じゃありませんし…。
覚醒未亜は、それこそ白の主の面目躍如ですね。
…でも、未亜ルートの攻撃力はもっと凄かったなぁ…ガルガンチュワ内部でブッ放たれても、丸ごと吹き飛ぶだけですが。
久々に本来のノリに戻れた気がします。
…復調できるのは何時かなぁ…。
6.陣様
理不尽…理不尽ですねぇ…。
発動理由も、その効果も…。
……対象?
…………すいません、実を言うと名前持ちの人間です。
まだ登場してないし、登場したといしても名前だけですが。
>自爆装置
こ…怖い言い方しますねぇ…。
ミノリは思い詰めるとトコトン行ってしまいそうですし…(汗)
最悪、ライバルを排除する痛い女になってしまう可能性も…?
7.竜の抜け殻様
バルド祭りが終わったら、透達の出番は激減すると思いますが…それでもちょくちょく登場させるつもりです。
勿論、登場した場合は八割方修羅場も伴っていますがw
リヴァイアサンに関しては、正直強引な展開になると思います。
自分で読んでみて、幾らなんでも…と思った所がちらほら…。
8.カシス・ユウ・シンクレア様
今となっては、大河が救世主クラスを覗いた所で、あんなに怒られないでしょうしねぇ…。
まぁ、トイレの中とか覗こうとしたなら別ですが。
セル君がMIAですからね…こう言うカメラ小僧的な役割を、最も自然に振れるのが彼女でした。
リャンは子供ですよ?
少なくとも透より年下、多分ヒカルと同年代です。
9.YY44様
>ベオウルフ
即座に『円卓の騎士』と答えてしまった私って一体…。
しかも調べてみたら、ベオウルフ(ベーオウルフ?)は円卓の騎士じゃなくて、ゲルマンの英雄叙事詩の方だった…。
うんうん、そうですよね。
ロリは別に悪い事じゃありません、そこに偏見やら劣情やらが絡むから話がややこしくなるのです。
それにロリと定義するのに、年齢と外見のどちらを優先しているのかで話が変わってくると思いますし…。
幼くても立派なレディ、という紳士的発言もあるじゃないですか!
まぁ、言葉の意味なんて変わっていくモノですし、ロリコンは現在、『幼い女性に反応する性癖全般』を指しているのでは?
10.堕天使様
まさかとは思いましたが…本気で光栄です!
インデックスの二次創作ですか…。
……まさか、インデックスはネクロノミコン(アル・アジフの方)を読んで記憶しているとか?
週一回くらいのペースで、そちらのHPに遊びに行かせていただきます。
中間発表ですか、そちらは大変ですね…。
こっちは三流ヘボ大学生なので、気楽なものです。
バルド祭りの間は、事実上透が主人公ですね。
ストーリーの主軸が彼の方に移ってて、大河にはあんまり重要な役割が振られてないんです。
むしろ、手術やらシュミクラムの改造やらをするルビナスの方がよほど…便利ですからね、彼女って…。
これだけのメンツが揃えば、複数の意味で“破滅”相手も余裕です。
むぅ、何か不利な条件を揃えねば…。
11.ナイトメア様
迷わず逝ってほしいですね、いやマジで。
考えてみれば、バルドの原作には浄土に似たような場所が…。
しかし、透に熱血シーンか…やはりバトルでしょうか?
ええ、きっとリャンには余計な何かが付加される筈です。
逃げてぇぇぇーーー!!
…と言うか、リャンの場合はインストールされた何かを、そのまま覚えている事が可能なんですよね…。
何というか、一気にスキルが増えそう…。
なお、鬼畜王の創作は、某HPにある『皆中伝』という創作です。
ちょっとSSとは違いますが……って、これひょっとして、規定の『他のホームページの言及』に引っ掛かるでしょうか?
今度はトランクから何が出てくるんだぁッ!?
って、ああ…やはり其処に居たか、セル…否、今はこう呼ぼう、セルシウス…と。
クローンの方の名前かもしれないが、その姿になってしまった以上、元の名で呼ばれるのはとてつもない苦痛であろう…(涙)
あ、結局未亜も参加したんですね。
きっとドラゴン・リリィもしっかり躾けた事でしょう。
…わーぐ・リコ、それは食べているのか?
舐めてないか!?
ナニを舐めてるんだああぁぁぁ!?
12.神〔SIN〕様
なんちゅーか、堕落したね無道サン!
ああ、昔は極悪人だったのに、今では妙に常識人になっちゃって…。
社会的にはこっちの方がいいけど、アクが抜けちゃったら大河達に抵抗するなんて無謀もいい所じゃないか。
あー、インペルダウンに逝くなら、ボンちゃんによろしく言っておいてくれい!
男の道を逸れるとも
女の道を逸れるとも
踏み外せぬは人の道ッ!
あれで本気でボンちゃんに惚れ込みました。
それにしても、取材の為だけにこの二人を外に出すとは…カエデとベリオが遭遇したら血を見るぞ?
しかしインペルダウンから、どうやって脱獄したんだ!?
ルフィ達でさえ散々梃子摺る、あの場所を通らなきゃならんのでは…。
そして無道、君の刑期は一体何年?
やった事を考えると、それこそ三度生まれ変わっても出て来れないと思うが…。
桂と違って、動揺を隠さないアンタがステキ。
しかし…エリザベスがウロウロしていても、麻帆良じゃ全く違和感が無いですな。
脱獄、轢き逃げ、公務執行妨害、あとスピード違反に事故…。
これだけで懲役何年だろう…。
美味しい所だけもって行く大河に一言。
それがヒーローだ!
13.舞ーエンジェル様
本当ならバルド編を挟まず、“破滅”と真っ向勝負の予定だったのですけどね…。
まぁ、やっちゃったんだから仕方ないですw
ロベリアですか、確かに…。
しかも敵だったルビナスやリコに手篭めにされてるんですから、これはもう色々な意味でダメダメです。
タイムマシン?
何かインスピレーションを与えれば、それこそ頼みもしないオプションまで付けて作ってくれるでしょう。
RYO−2…ああ、あの眉毛が繫がるウイルスですか。
幸いだったのは、病原菌の発祥元と推測されるあの人程の勢いが伝染しなかった事ですね。
時に一人で天災すら巻き起こすあの人の勢い…それがあんなに沢山の人々に伝染した日には…“破滅”だああぁぁぁ!
…改めて見直してみたんだけど、憐って意外とナイスバディだなぁ…。
14.なな月様
時守も先日、再インストールしたばっかりです…。
幸いデータは無事でしたが…うう、今の内にバックアップ取らなきゃ…。
やはり本編をやってない人には、話の大筋は予測しづらいですか…。
あのデカブツの名前を聞いたら、普通はシーサーペントみたいな姿を想像するでしょうし…。
速度が落ちないガドリングですか?
なんて便利な!
まあ、時守は強力な一発系の武器の方が好みでしたが…。
同じ調教でも、双方のラヴが無ければ洗脳と同じなんでしょうねぇ。
と言うか、リビドーはともかく、ツキナが受けた洗脳にエロはありましたね。
…あのオバハン、ムカツク…。
陵辱はあったでしょ!
ただし随分前の話ですがw