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▽レス始

「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第十一話 迫る選択の時  前編 (SEED運命)」

ANDY (2006-09-26 19:44/2006-10-15 04:56)
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 『事実』と『真実』
 えてしてこの二つは同一のものだと思われがちだが、実際には異なる。
 なぜならば、『真実』と言うものは人の数だけ存在し、『事実』はそれだけであるからだ。
 だからこそ、人は与えられた『真実』に対して鋭い視線を持たなくてはならない。
 その裏に潜む闇を読み取らなくては、その闇がいつ自身を、世界を犯すかわからないのだから。


 アプリリウスを始めとするプラント全域に、プラント側の視点での地球軍との戦闘の緊急放送が伝えられていた。
『この核攻撃に対してプラント最高評議会は、コーディネイターの基本的生存権に対する権利の侵害と見なし―』
 その放送を見ていた民衆は、驚き、そして怒りが胸に湧くのを感じた。
 その怒りは、大きなうねりを上げ、世界を焼こうと成長をはじめていた。
 それを止める術はあるのだろうか。

 プラントが事実を放送していると同時刻、カガリは驚愕しながら、行政府でモニターに映し出される地球軍視点の事実の緊急放送を目にしていた。
『昨夜行われた地球連合軍によるプラントへの攻撃は、ザフト軍の激しい抵抗に遭い双方に甚大な被害が出た模様です。現在軌道上において、両軍睨み合いの状態が続いており、この事態を受けたオーブ政府は―』
「あぁ……」
 その放送を聴き、カガリはこれからのオーブの立場ではなく、今プラントにいるであろう想い人の安否を気にするのだった。
「アスラン……」

 同じニュースを、オーブに在中中のシン達は、それぞれがミネルバの艦橋と休憩室でそのニュースを聞いていた。
「……うそ、だろ」
「また、核攻撃かよ……」
 誰かがそう洩らした言葉を聞き、シンは強く拳を握り締めた。
 それは、何に対しての憤りなのだろうか。
 シン自身にもわからないそれは、ただただ、シンの精神を焦がし、焦らすのだった。


 デュランダルと面会を果たしたアレックスは、本人からある事実を告げられ驚愕した。
「核攻撃を!?」
 アレックスは、デュランダルから極秘に聞かされたその内容に絶句した。
「ああ」
 重々しく頷き、肯定の意を示すデュランダルにアレックスは言葉を失ってしまった。
「そんな……まさか!」
 アレックスの、信じられないと言うかの様子にデュランダルは冷厳とした態度でそれを斬り捨てた。
「と言いたいところだがね、私も。だが事実は事実だ……」
 そう答えるとデュランダルは、自分のデスクを操作した。
 それと共に、壁に格納されたモニターが動き始めた。
「これは、何の手も加えていない映像だよ」
 そう答えるデュランダルの声を聞き流しながら、アレックスはモニターに映る核攻撃部隊のウィンダムが背負う武装に目が吸い寄せられた。
 その武装に刻まれたマークは、まさに悪魔の炎を表すそれが刻印されていた。
 そして、放たれるミサイル。
 それを止めようとする防衛部隊。
 そして、放たれる虎の子の一撃。
「これは……」
 それを見たアレックスは言葉が出なかった。
「驚くほどのことではないさ。我々は、ユニウス7、ボアズ、と二度も核攻撃をされ、未遂だったとはいえプラント本国へも核ミサイルを放たれた過去があるのだよ。その教訓を生かして、核攻撃への対策を採っておくのは至極当たり前ではないかね」
 まあ、それでも虎の子の一撃であることに変わりはないのだがね、と答えるデュランダルの言葉を聞き、アレックスは目の前の男と初めてあったときのカガリとの会話を思い出していた。
『強すぎる力は、また争いを呼ぶ!』
『争いがなくならぬから、力が必要なのです』
 あの時の議長の姿勢が正しかった、と言うことが今回の件で証明されてしまった。
 もし、カガリが言うような事を議長が行っていたら、今頃プラントはこの世から消えてなくなっていただろう。
 そう想像すると、背中に嫌な汗が流れるのをアレックスは抑えることができずにいた。
 愕然としているアレックスを無視するかのように、モニターの内容が現在プラントに流れている緊急報道に切り替わった。
『繰り返しお伝えします。昨日午後、大西洋連邦をはじめとする地球連合各国は我等プラントに対し、宣戦を布告し、それと同時に攻撃を行いました。しかし防衛にあたったザフト軍はデュランダル最高評議会議長指揮の下、これを撃破。現在地球軍は月基地へと撤退し攻撃は停止していますが、情勢は未だ緊迫した空気を孕んでいます―』
 アレックスはプラントに流れている緊急報道を聞いているのだが、その内容を理解することができなかった。
 いや、理解するだけの余裕がないといったほうがよいだろう。
 あまりにも最悪な事態が立て続けに起こっていることに、アレックスの情報処理能力が追いつかないのだ。
 そんなアレックスを横目に、デュランダルは執務室の椅子に腰掛けると、アレックスが一応の落ち着きを見せたのを見計らって声をかけた。
「君もかけたまえ。アレックス君」
 アレックスは、デュランダルに名前を呼ばれて振りかえった。
 それと同時に、デュランダルはアレックスを落ち着かせる様に声をかけた。その声音は、静かで、それでいて力強く、不思議な魅力を持っていた。
「ひとまずは終わったことだ。落ち着いて」
 その言葉を聞き、アレックスはもう一度モニターの方を向くと歯噛みをしながらデュランダルと向かい合う位置に腰を下ろした。
 アレックスが腰をかけるのとほぼ同じくして、デュランダルは話しを切り出した。
「しかし……想定していたとはいえ、やはりショックなものだよ。こうまで強引に開戦され、いきなり核まで撃たれるとはね……」
 落ち着いた声音で、それでもどこか疲れを滲ませながらそう呟くデュランダルに、アレックスはかける言葉がなかった。
「ユニウス7落下の傷も未だ癒えていないというこの状況で開戦するということ自体、常軌を逸しているというのに。その上これでは……これはもうまともな戦争ですらない。いや、戦争などと言う常識の言葉すら使うことを憚れる事態だよ」
 そのデュランダルの言葉に、アレックスは深く頷いた。
「はい」
 今回の地球軍の行動は、あまりにも常軌を逸したものであることは疑いようがなかった。
 その頷きを見てデュランダルは話を続ける。
「連合は一旦軍を引きはしたが、これで終わりにするとは思えんしね」
 デュランダルは、今後の連合の行動を予測した上でプラント側の内情もアレックスに教えた。
「逆に今度はこちらが大騒ぎだ。まあ、いきなり核を撃たれたのだからね。しかたがない、といえばしかたがないのだが」
 そう言い、深く息を吐くデュランダルを見ながら、アレックスは『血のヴァレンタイン』で破壊されたユニウス7を思い出した。
「問題はこれからだよ」
 そのデュランダルの言葉に、アレックスはこれからどうするのかを訊ねた。
「プラントは……この攻撃、宣戦布告を受けて……今後どうしていくおつもりなのでしょうか?」
 その問いかけに、デュランダルはその内心を現すように深々と溜息を吐いた。


 その頃、市民たちは戦闘に関する警報等が一切出ていなかった事に混乱が起き始めていた。
 その中には、評議会への不信感も表れていた。
 更には、戦争を望む声までも出始めていたが、反対に戦争を望まぬ声もあった。
 市民の中には、この混乱を乗り越えるにはもう戦争を起こすしかないとの考えまで出始めていた。
 それに反対する声も出ていたが、開戦を望む声は少しずつ高まり、戦闘を望まぬ意見を持っていた者も守るためには仕方がないと開戦の声に同調し始めていた。

 デュランダルは、アレックスの問いかけに冷静に答えた。
「我々がこれに報復で応じれば、世界はまた泥沼の戦場となりかねない」
 その言葉に、アレックスは2年前の戦争の事を思い出していた。
「解っているさ。無論、私だってそんなことにはしたくない」
 その言葉に、アレックスは安堵する。
「だが、事態を隠しておけるはずもなく、一部とは言えもう知ってしまった市民は皆怒りに燃えて叫ぶだろう。許せない、と」
 その言葉に、アレックスは体の芯が冷え、顔を硬くした。
「それをどうしろという。今また先の大戦のように進もうとする針を、どうすれば止められるというのだね?既に再び我々は撃たれてしまったのだぞ、核を」
 アレックスは、終戦間近に行われたボアズ戦から始まった連合の核攻撃を思い出し、深く考え込むとデュランダルに願い出た。
「しかし……でもそれでも、どうか議長!怒りと憎しみだけでただ討ち合ってしまったら駄目なんです!」
 その言葉を聞いた瞬間、デュランダルが硬い眼差しでアレックスを見るが、アレックスは2年前の戦闘でキラと戦ったときの事を思い出していたため気づかなかった。
「これで討ち合ってしまったら、世界はまたあんな何も得るもののない戦うばかりのものになってしまう……。どうか……それだけは!」
 胸のうちに溜まっていた思いを全て吐き出したかのようなアレックスを、いたわるようにデュランダルは声をかける。だが、以前その眼差しには厳しい光が宿っていた。
「アレックス君……」
 何かを確かめるようにそう呼びかけたデュランダルに対して、アレックスは二度と公の場で使うつもりの無かった本当の名前を名乗った。
「俺は……俺は、アスラン・ザラです!」
 そのアレックス、いや、アスランの様子を見て、デュランダルは改めて向き直った。
「二年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です!」
 アスランは2年前に自分が犯していた過ちを思い浮かべながら、心の奥底に閉じ込めていた闇を吐き出すかのように言葉を紡いだ。
「父の言葉が正しいと信じ、戦場を駈け、敵の命を奪い、友と殺し合い、間違いと気付いても何一つ止められず、全てを失って……なのに父の言葉がまたこんな!」
 そのアスランをなだめようと、デュランダルが声をかける。
「アスラン……」
 だが、興奮しているためだろうか、アスランの言葉は止まらない。
「もう絶対に繰り返してはいけないんだ!あんな……!」
 袋小路に陥りそうになるアスランの意識に、デュランダルが叱咤するが如くアスランの名前を呼んだ。
「アスラン!」
 その呼びかけに、アスランは弾かれるように正気を取り戻した。
 デュランダルは、椅子から立ち上がり少し歩くとアスランに声をかけた。
「ユニウス7の犯人達のことは聞いている。シンの方からね……」
 デュランダルは、シンが戦闘後に提出した報告書を既に呼んでいた為に、テロリストが言っていたことを既に知っていた。
 アスランは、そのことで罪悪感に責められ身を震わす。その上でアスランを諭すようにデュランダルは声をかけた。
「私の軽率な判断で、君を辛い目に遭わせてしまったね」
 その言葉を、アスランは俯きながら否定した。
「いえ違います。俺はむしろ知って良かった。でなければ俺はまた、何も知らないまま……」
 アスランの言葉を、デュランダルは首を振りながら否定した。
「いや、そうじゃない。アスラン」
 そのデュランダルの言葉を、アスランはどういう事かと言う眼差しで見つめた。
「君が彼等のことを気に病む必要はない」
 その言葉に、アスランは驚愕すると共に憤りを感じたが、デュランダルは言葉を続けた。
「君が、父親であるザラ議長のことをどうしても否定的に考えてしまうのは、仕方のないことなのかもしれない。……だが、ザラ議長とてはじめからああいう方だったわけではないだろう?」
 言い聞かせるように尋ねるそれに、アスランは口篭ってしまった。
「いえそれは……」
 デュランダルは話を続けた。
「彼は確かに少しやり方を間違えてしまったかもしれない。だが、それもみな元はといえばプラントを、我々を守り、より良い世界を創ろうとしてのことだろう。想いがあっても結果として間違ってしまう人は沢山居る。またその発せられた言葉がそれを聞く人にそのまま届くともかぎらない。受け取る側もまた自分なりに勝手に受け取るものだからね」
 アスランは、デュランダルが自分を慰めようとしているのに気がつき、自分にその資格が無いと思いそれを退けようとした。
「議長!」
 デュランダルは、穏やかに、かつ、冷静に言葉を続ける。
「ユニウス7の犯人達は、行き場のない自分達の想いを正当化するためだけに、ザラ議長の言葉を利用しただけだ」
 アスランは、その言葉に思わず目を見開いた。
「自分達は間違っていない。何故ならザラ議長もそう言っていただろう、とね」
 そしてデュランダルの言葉にアスランは聞き入っていた。
「だから君までそんなものに振り回されてしまってはいけない。彼等は彼等。ザラ議長はザラ議長。そして君は君だ。例え誰の息子であったとしても、そんなことを負い目に思ってはいけない。君自身にそんなものは何もないのだ」
 そのデュランダルの言葉に、アスランは見失いかけていた自分を取り戻したかのように思えた。
「議長……」
 そして、椅子から立ち上がったアスランに、デュランダルは近づくと自分の考えを告げた。
「今こうして、再び起きかねない戦火を止めたいと、そう思いここに来てくれたのが、君だ。ならばそれだけでいい。一人で背負い込むのはやめなさい」
 その言葉に、アスランはうなだれた。
「だが、嬉しいことだよ、アスラン」
 心を沈ませていたアスランは、その言葉に驚いた。
「こうして君が来てくれた、というのがね」
「ぁ……」
 アスランは口篭りながら俯いた。
 そのアスランに、デュランダルは声をかけた。
「一人一人のそう言う気持ちが必ずや世界を救う。夢想家と思われるかもしれないが、私はそう信じているよ」
 その言葉に、アスランは頷いた。
「はい」
 アスランが頷いた上で、デュランダルは今成すべき事を告げる。
「だから、その為にも。我々は今を踏み堪えなければな」


 市民たちは、もう、ほぼ開戦の考えに固まり、デュランダルの政策に反感の声を上げ始めていた。もう、彼らの耳には、デュランダルの声は届いてはいなかった。
 そのとき、全ての街頭モニターにハロのCGが映し出されると、アスランが先ほど会ったラクスが映し出された。
『皆さん』
 その呼びかけに、市民たちやアスランが驚きモニターに気を向けた。
『わたくしは、ラクス・クラインです』
 そう言ったラクスを、アスランは驚きをあらわにして見つめた。
 その中でラクスは、プラントに生きる全員に声をかけた。
『皆さん、どうかお気持ちを沈めて、わたくしの話を聞いて下さい』
 その言葉を聞くと、市民たちは毒気を抜かれたかの様におとなしくなり始めた。その様子は、ある種異様なものであった。
『この度のユニウス7の事、また、そこから派生した昨日の地球連合からの宣戦布告、攻撃。実に悲しい出来事です。再び突然に核を撃たれ、驚き憤る気持ちはわたくしも皆さんと同じです!ですが、どうか皆さん!今はお気持ちを沈めて下さい。怒りに駆られ、想いを叫べば、それはまた新たなる戦いを呼ぶものとなります』
 このラクスの言葉から、これが偽者のラクスだと気がついたアスランは、どういうことかと鋭い視線をデュランダルに向けた。
 アスランの視線を受け、デュランダルは苦笑いを浮かべるのだった。
 その間も、偽のラクスは民衆への呼びかけを続けていた。
『最高評議会は最悪の事態を避けるべく、今も懸命な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今またより良き道を模索しようとしている皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長をどうか信じて、今は落ち着いて下さい』
 そう言うと、モニターの中のラクスは歌い始める。
 モニターの中のラクスを見つめているアスランに、デュランダルは不意に口を開く。
「情けない男だ、と笑ってくれて構わんよ」
 モニターを見ていたアスランが、デュランダルの方に顔を向ける。
「君には無論、判るだろう?」
 そう言われたアスランは、先ほど偽のラクスと会った時の事を思い出した。
『「おひさしぶりですわ」。そして、「初めまして」アスラン』
 アスランに対して、デュランダルは事実を打ち明けた。
「我ながら小賢しいことだと情けなくもなるよ。……だが、仕方ない。彼女の力は大きいのだ。二年経った今でも私のなどより、遥かにね」
 そのことを示すかのように、モニターに映っていた交戦派の掲げるプラカードが一枚、また一枚と瞬く間に消えていっていた。
 それはまるで、鎮痛剤として劇薬や麻薬を使用したかのようだった。
 そしてデュランダルの説明は続く。
「馬鹿なことを、と思うがね。だが今、私には、プラントには彼女の力が必要なのだよ」
 そう言うと、デュランダルはアスランの方に向き直った。
「前大戦が終結してから二年、それだけの年月が経っているというのに、未だに彼女の人気は衰えない。それどころか、逆に人気は不動のものへと昇華し始めているのだよ」
 デュランダルのその言葉を証明するかのような先ほどの光景を脳裏に描きながら、アスランは言葉に耳を傾けた。
「一体、彼女の何がそれほどまで人を惹き付けるのかな?」
「………それは………」
 その問いかけに、アスランは答えることが出来なかった。
「市民の間では、私が議長席に座していることを快く思っていない方々もおられるようでね」
「え?」
 なんと無しに呟かれたその言葉に、アスランは信じられなかった。
 今自分の目の前にいる人物の為政者としての政策は、誇ることはあっても批判する部分はないはずなのだから。
 そんな気持ちが表情に出ているのか、デュランダルは苦笑を浮かべながら答えた。
「いや。それは厳然とした事実なのだよ。その人たちは私よりも、ラクス・クラインがこの席にいるべきだ、と思っているようでね」
「………は?!」
 あまりの言葉にアスランは、普段口にしないであろう気の抜けた声を上げてしまった。
 だが、それは仕方がないことであった。
 確かに、彼女にはカリスマと言うものはあるのは事実だが、カリスマ=政治家としての能力、という図式は成立しないのだ。
 もし、そのようなモノが成立してしまうのならば、CE以前の世界で既に政治学などと言う分野が消えているはずだろう。
 カガリの傍でその仕事を見ていたが、カリスマ性一つで乗り切れるなど甘い考えが存在しないのが政治なのだ。
 その辺が、プラントの、コーディネイターである市民は理解していない、と言うのだろうか。
「………それは、市民の真意ではないのではないでしょうか」
 アスランのその言葉に、デュランダルは苦笑しながら応えた。
「君はもうその答えを見ただろう?先ほどの、ラクス・クラインの言葉に耳を貸す民衆を。評議会の正式発表に耳を貸さず、アイドルの言葉に耳を貸す姿をね」
 どこか、皮肉めいたその言葉に返す術をアスランは持っていなかった。
 評議会の放送を聞き流し、抗戦の意思を掲げていた民衆が、アイドルの言葉でその意思を引き下げる現場を見た後では、何も言うべき言葉が思い浮かばなかった。
「だからこそ、彼女の力が必要なのだが………彼女は今、プラントにいない」
 その言葉で、オーブに自分の親友と共に過ごしているかつての婚約者をアスランは脳裏に思い浮かべた。
「ならば、どうすればよい?」
「………そのための、偽者、ですか」
 どこか憮然とした気持ちでそう答えるアスランに、デュランダルは首を振りながら答えた。 
「偽者とは酷いな。せめて、影武者とでも言ってあげてくれないかね?」
「意味は変わらないと思いますが?」
「ああ。なるほど。君は、ラクス・クラインになる、と言うことの弊害を理解していないのだね」
「……?」
「まあ、それはおいおい君自身で気づくだろう。さて、先ほどの問いかけの答えだが、いないのならば、帰ってきてもらえるように逃げ道を塞げばよいのだよ」
「逃げ道を塞ぐ?それはどういう意味ですか?」
「言葉通りだよ。二年前の大戦の英雄である彼女の雲隠れを容認できる期間は過ぎてしまったのだよ」
「雲隠れ?!議長!!それはどういう意味ですか!!」
「アスラン。君は、君自身、君達自身が二年前取った行動が今でも正しかったと胸を張っていえるのかね?」
「二年前の行動、ですか?それは、私達が第三勢力として戦争に介入したことでしょうか」
「いや。それもあるが、その後のことを私は取り上げているのだよ」
「その後の、こと?」
「なぜ、二年前、アスラン・ザラとラクス・クラインは何も言わずにプラントから消えたのかね?」
 その問いかけは、あまりにも鋭利だった。
 容赦なくアスランの心に突き刺さる問いかけを、デュランダルは真剣な光を宿した視線を向けたまま重ねて尋ねた。
「前議長のカナーバーの介入かね?それとも、オーブの姫君かね?」
「……それは」
 その問いかけにどう答えればよいか迷うアスランの態度から、何かを読み取ったのかデュランダルの言葉は続く。
「………どうやら、君達は、自分たちの立場を中途半端に理解していた子供だったようだね」
「子供、ですか?」
 初めて突きつけられたその言葉に、アスランは首をかしげた。
 そのような意見を今まで聴いたことがなかったし、誰もそのように自分たちを評する者達はいなかったのだから。
「そう。子供だよ。君達の一念発起してのあの英雄的行為を起こしたはよいが、その後、君たちは何かしたかね?」
「その後……」
「混乱のプラント内で何かしたかね?地球で、オーブで何かしたかね?具体的に聞くと、ユニウス条約が締結するまで君たちは何かしていたかね?その間でも世界では、南アメリカの独立運動など、多くの動きがあった。それらに君たちは何か関与したかね?それらが起こる前に何か世界に影響を与えるようなことをしたかね?この場合の影響は、世界、ひいては人類すべてが少しでも幸せ、と言うものを感じることをさすのだがね」
 その問いかけに答えることはできなかった。
 戦争が終わった直後、自分たちはあまりにも傷つきすぎていた。
 特に、自分の親友であるキラの心は壊れる寸前であったし、共に親を失っていた自分とラクス、カガリの三人も世界に目を向ける余裕などはそのときにはなかった。
 だから、誘われるままマルキオ導師の下で休息を享受していた。
 世界から逃れるように、隠者のように。
「………いえ。俺たちは、そのときは何も………」
 搾り出すように答えるアスランの言葉に、頷きデュランダルは口を再びあける。
「そう。君たちは、何もしなかった。それが、いけなかったのだよ」
「?」
「君達の不在が、君達の存在をより幻想めいたものにしてしまった」
「?どういう、意味ですか?」
「エターナル、アークエンジェル、クサナギ。この三隻をなんと呼ばれているか、君は知っているかな?」
 突如振られた問いかけを訝しげに思いながら、自分たちの呼称を知らないのは事実なのでアスランは正直に答えた。
「いえ」
「『歌姫の騎士団』だそうだよ」
「………なんですか。そのあまりにもな呼び名は」
 告げられた言葉に、理解できないと言う風に渋面を作るアスランを、面白いものを見たと言う雰囲気でデュランダルは言葉を続けた。
「さあ?誰が言い始めたかは知らないが、そのように呼ばれているのは事実なのだよ」
「はぁ。ですが、騎士団、ですか……」
「それだけ、君達に理想を、それこそ幻想と混同するような憧れを持っているのだろう」
「!」
 その言葉で、アスランは先ほど告げられた言葉を理解した。
 ただでさえ、ラクスはプラントの歌姫として崇められていたのに、それが戦争を終結させたということまで付属してしまっては、民衆が彼女に聖女や、女神のような幻想を抱いてしまっても仕方がないのではないだろうか。
「………そんな」
 自分のたどり着いた考えを否定してもらいたい、そう思いデュランダルを見るが、彼の表情には先ほどまで浮かんでいた笑みはなく、全てを見通すような真摯な輝きがそこにあった。
 ああ、そうなのか。俺たちは、夢を見せてしまったままにしてしまったのか。
「……俺たちは、どうすればよかったのでしょうか」
 まるで教会の懺悔室で罪を告白する子羊のように、アスランはデュランダルに尋ねた。
「そうだね。皆の目を覚ませるために、大々的に各種メディアを通して自分たちの価値を放棄する、と宣言するべきだったのだろうね」
「……価値、ですか?」
「そう。パトリック・ザラの息子としての価値。シーゲル・クラインの娘としての価値。その他もろもろ。君達には上げればキリがないような肩書きがあった。そのどれ一つをとっても並々の努力云々では手にはいらないものばかりだった。そして、君達のお父上方の影響力もだ。その言葉はあまりにも強烈な力を持ち、その考えはあまりにも心地よく、我々の胸に残っている。わかるだろう?評議会内部でもクライン派、ザラ派などと言う派閥が今なおあるのだから。そのような君達が、自分の価値を、父親の言葉を否定していたら、世界はどうなっていただろうね」
「………」
 もし、二年前、自身と父の言葉を否定していたら。
 もしかしたら、アレックス・ディノなどと言う名前を使わずに過ごせていたかもしれない。
 もしかしたら、ユニウス7は落とされなかったかもしれない。
 もしかしたら、ラクスの偽者を議長は用意しなくてもよかったかもしれない。
 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたらもしかしたらもしかしたら………
「アスラン?」
「?!」
 自分の考えに埋没していたアスランは、呼びかけの弾かれるように顔を上げた。
「大丈夫かね?顔色が余りよくないようだが」
「いえ。大丈夫、です」
「ふむ」
 渇く喉を唾を飲み込むことで何とか声帯を整えながらそう答える自分を、科学者のような目で観察するようにこちらを見るデュランダルの視線に居心地悪さを感じてしまった。
 突如訪れた静寂。
 数分ほどどちらも言葉を発しないでいると、突如ドアが開く音が響いた。
「あら?もしかして、お邪魔してしまいましたか?」
 ドアの向こうから、少し困惑した笑みを見せながらそういう少女の姿は、かつての婚約者と瓜二つであった。
「……ラ、クス……」
「いや。ちょうど話が止まってしまったところでね。君が加わってくれるとうれしいのだがね」
 かすれるようにそう呟くアスランの声に被さるように、デュランダルの声は歌姫を招き入れるように呼びかけた。
「まあ。そうでしたの。あら?お二方とも、お飲み物がありませんわね」
 少女はそういうと、慣れた手つきで近くの内線を手に取り、二・三何か告げるとこちらにやってきた。
「どうでした?先ほどの内容は」
「ああ。なかなかのものだったよ。アスランと二人、感心して拝見させてもらったよ」
「まあ。うれしい」
 そう朗らかに笑う少女の姿は、まさに二年前の自分の婚約者に似ているが、今の親友の恋人の彼女とは似ていない、とアスランは実物を前にしてそう思った。
「………議長」
 目の前の少女について詳しく聞こうとしたそのとき、三人分の飲み物が部屋に届いた。
 それを置ききるまで三人は黙り、沈黙に身を委ねた。
「さて。何か聞きたいことがあるかね?」
 届いた紅茶を一口飲んだデュランダルは、アスランへとそう水を向けた。
「はい。彼女は………」
 目の前にいるラクスを真似ている少女へと視線を向けながらそう尋ねるアスランに、目の前のラクスは笑みを浮かべ答えた。
「初めまして、アスラン・ザラ。わたしはミーア・キャンベル。ラクス様の代役を勤めているの」
「代役?」
 少女、ミーアの言葉に、アスランは眉根を寄せてそう聞いた。
 代役とは一体どういうことなのだろうか。
「ええ。ラクス様は、プラントにとって必要とされているの。でも、今ラクス様はプラントにいないから、その間にラクス様の代役をしているの」
「なぜ、そんな必要が?」
「?アスランも見たでしょう?ラクス様の言葉がどれだけ力があるのか」
 ミーアの言葉に一瞬言葉に詰まるが、それでも絞り出すようにアスランは呟いた。
「………あれは、ラクスの言葉じゃない。君の、議長の言葉だ」
「それを気づいた人が一体どれだけいるの?」
「?!」
 ミーアのその言葉に、アスランは驚いた。
「なにを………」
「どれだけの人が、私が代役だと気づいていたと思っているの?誰も気づいていないわ。いえ、ラクス様と連絡が取れる人がいるのならば気づいているかもしれない。でも、だったら逆に聞くわ。アスラン。あの場で『平和の歌姫』の言葉がなかったらプラントはどうなっていたと思う?」
 そう尋ねられて瞬間、アスランは目の前の少女が本物のラクスのように思えた。
 そして、つい先ほど見た映像を思い出した。
 怒りに我を忘れた民衆を。血のヴァレンタインの時の民衆と同じ姿だったそれを。
「多分、プラント中の意識が地球軍に対しての憎悪一色になって、また戦争になっていたんじゃないかしら。アスランは、私がラクス様の代役をしないで、民衆の意思を尊重すべきだった、とでもいうの?」
「そうじゃない!なにか、何か他にも手があったはずだ!」
「どんな?最高評議会の通達も無視していたのよ。そんな民衆に『平和の歌姫』ラクス様の言葉以外に何か手があったの?あったなら教えて」
「!それは………」
 真摯な瞳でそう尋ねるミーアに、アスランは自分がただ感情的に、ラクスを汚されたと思ったために目の前の彼女を否定したいと思っている自分に気づき何も口にすることが出来なかった。
「二人とも、落ち着きなさい」
 お互いに興奮している二人の耳に、落ち着いた理性的な声が届いた。
「「議長」」
 ミーアとアスランは、声を揃えこの場の最年長者に目を向けた。
「アスラン、君の憤りも理解できる。だが、彼女の言うとおり、あの手段はベストではないがベターな手だったのは認めてくれないかね。先ほども述べたが、私よりも、ラクス・クラインの言葉の方が力を持っているのは事実なのだよ。これは、偏に私の力が足りないためだ。それにミーア。もう少し心に余裕を持たせなさい。初めての大舞台をやり終えたからといって、自制心を見失うようでは大成できないからね」
 アスランはその言葉に、何か否定したいと言う感情が湧くのだが、理性が割り切れとそれを抑える矛盾に歯噛みをしながら俯いた。
 ミーアも、議長に指摘された点を直すように、紅茶を一口飲んで落ち着こうとした。
「やれやれ。議論を交わすのはかまわないが、そのように感情的になってしまっては纏まるものも纏まらない。感情は興奮してもかまわないが、表面的には常に冷静であるように振舞うようにすべきだね」
「「はい」」
 デュランダルの指摘に、二人はどこかバツの悪い表情を浮かべながらそう頷いたのだった。
「さて。もう少し二人と話をしていたいのだがね、私もそろそろ次の会議が差し迫っているのでね」
 そういい立ち上がるデュランダルの言葉を待っていたのか、机に置かれていた電話が自分の存在を誇示するように音を鳴らし始めた。
「二人とはまた話をしたいものだね。ああ、それとアスラン」
「はい」
「すまないが、プラントと地球軍の今の状況から、君のオーブへの連絡、またオーブへの航路は当分の間封鎖せざるを得ないのだよ」
「それは……いえ、状況を考えればそれもいたし方がないかと」
「そう言って貰えると助かる」
 核攻撃を地球軍から受けたばかりのプラントが、地球の、例え中立と言う立場を取っているとはいえ地球にある一国家との連絡を早々容認することは出来ないし、仮に連絡をしてしまってはスパイ行為と勘繰られ、アスラン自身とオーブへといらぬ嫌疑が掛かるのは明らかであり、また、プラント発のシャトルが、たとえオーブ籍のものであったとしても、プラントから発進したという理由で撃墜されない、と言う保証が残念ながらない現状では、それらの問題が回復、または改善されるまでプラントに足止めされるのは仕方がないことだ、と理解してアスランは滞在の了承を伝えた。
「君の滞在先だが、あとで誰かに送らせよう」
「あ、いえ。そこまでしていただかなくても……」
「なに。アレックスならともかく、アスランである君にならそこそこの便宜を図って上げられるからね」
 デュランダルの行為に断りを入れようとしたアスランの耳に、無意識のうちに忘れていた事実が飛び込んできた。
 そうだ。自分はつい先ほどアレックス・ディノを否定して、アスラン・ザラに戻ったというのに、なぜオーブ大使館に滞在しようと考えたのだ。
 自身の決意の甘さに歯噛みしながら、アスランはデュランダルの申し出を受け入れることにした。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ああ。わかったよ。それとアスラン」
「はい」
「もし気が向いたのならば、ご両親に会いに行くといい。連絡をくれれば護衛をつけるのでね」
「……あ、はい」
「では、失礼するよ」
 そういうとデュランダルは優雅に、まるで舞台俳優のように部屋から出て行った。
「では、アスラン。わたしも失礼しますわ」
「あ、ああ」
「では、また夕食の時に」
「あ、ああ……え?」
 聞き逃せない言葉にアスランガ気づいた時には、もうミーアも消えており、一人ぽつんと部屋に残されてしまった。
「………なんなんだ」
 一人その待遇に首を捻るアスランが、部屋から出たのは十分後連絡係の兵士が来た後であった。


「さてさて。これはまずいことになったな」
「そうですね」
 モニターから流れる地球各地の被害映像や、どこかで開かれているコーディネイター廃絶集会の映像を眺めながら、二人の男はそれぞれ重い息をついていた。
「ユウナ。カガリ様のご様子は?」
「父さんの想像通りだよ。アスハ邸の草からの報告では、情緒不安定でかなり神経質になってるようだよ」
「ふ。その原因は一体何なのだか」
 そう吐き捨てるように言う父であるウナト・エマの言葉を聞きながら、ユウナはモニターから流れる映像の中身を見た。
 それらはいかにコーディネイターが残虐で、非道で、非人間的であるか、と言うものを訴えこちらに刷り込む内容であった。
 それらの映像を見れば、裏でかのキ印集団が暗躍しているのが見て取れた。
「やれやれ。どうしてそこまで頑張るんだか……」
 ユウナからしてみれば、ブルーコスモスの場違いなほどの精力的な活動が信じられなかった。
 モニターから流れる映像は事実であり、そこには救助を、それこそ医薬品や毛布、食料や水を望んでいる人間がいるのだ。確実に。なのに、なぜそれらの人たちに救援物資を送ろう、と言う訴えを一切せずに、コーディネイター排泄を声高に訴えるのだろうか。
 コーディネイター一人を殺すことに回す金があるのならば、それで自分たちが言うナチュラル十人を救って見せろ、とユウナは声をすっぱくさせて言いたかった。
 だが、所詮オーブの一官僚である自分が訴えたところでその現状が覆されるものではない、とわかっているユウナは、その事実を甘んじて受け入れるしかなかったのだった。
「さて、ユウナよ。わかっていると思うが、世論がこのような動きになった、いや、させられてしまった以上、オーブの取る道はもはや限られてしまった」
「ああ。わかるよ。もはやこのような流れになってしまった以上、いかにその流れを乗り切るか、と言う考えで当たらないとね」
 二人はこれからのオーブを思い、これからどのように立ち回るべきかを考えていた。
 二人の脳裏にある考えは、オーブを二年前のように焼かせてはならない、と言う思いであった。
 二人の記憶には、二年前の焼け野原になった愛する国の無残な姿、肉の焼ける匂い、泣き喚く子供の声、響く怨嗟の叫びが残っていた。
 あれこそまさに地獄。その思いが、二人を縛り、突き動かしていた。
 いや、その思いは二人だけではない。
 新・五大氏族と呼ばれている、終戦まで国を運営させていたものたち全てがその思いを胸に抱いているのだ。
 だからこそ、国を、民を守るためならばどのような手段をもとろう、と考えていた。
 それがたとえ、オーブの理念であっても。
「………やはり、ここは大西洋連合との同盟しかないか?」
「そうだね。どちらかと言うとプラントのほうがいいんだけどね。でも、それだと有事の際にはね」
「うむ。いくらカーペンタリアが近いとはいえ、物量で言えば地球軍のほうが有利だからな」
「そう。それに、プラントと比べて地球軍のほうがオーブに近すぎる。救援が来る前にオーブはまた焼かれてしまうよ」
 ユウナの言うとおり、かつて自国を焼いた大西洋連合との同盟は避けたいのだが、オーブ自身が国を守るにはその力が足りず、かといってプラントに同盟を持ちかけたとしてもプランと本国との距離はあまりにも離れすぎていた。
 仮にプラントと同盟を結んだとしても、有事の際に救援が来る前にオーブは地球軍に蹂躙されてしまうだろう。
 また、ニュースではいっていないが、二人は地球軍が核を使ったと睨んでいた。
 前大戦で躊躇いもなくプラントへと核攻撃を敢行した地球軍が、今回の戦闘では使用しなかった、と思う方が可笑しいのであり、地球軍は勝つためなら、自分たちの得となるためならばユニウス条約などすぐに破るに違いないと読んでいた。
 だからこそ、大西洋連合と同盟を結ぶしかないのだ。
 もし、同盟を結ばなかったら、コーディネイターを受け入れている、と言う理由だけで核攻撃を食らう可能性がゼロではないのだから。
 それに、同盟は早いうちにこちらから持ちかけた方がよい。
 もし期限ギリギリまで粘るものならば、どのような無理難題を吹っかけられるものかわかったものではない。
 こちらから進むことで、少しでも有利に、不利を一つでも減らさなくてはならないのだから。
 そう考える二人の脳裏に、理念を守ろうと躍起になり、感情だけで現状を認識しようとしない若き指導者の顔が浮かんだ。
「代表は、お気に召さないだろうな」
「というか、これを聞いた瞬間机を思いっきり叩きつけて『ダメだダメだダメだ!!』とか騒ぐんじゃないかな」
「やれやれ。このような情勢でなければよい指導者になれるかもしれないのだが」
「彼女は、あまりにも高潔すぎるからね。その純白の思いを汚されるのは許容できないんでしょ」
「政治の世界など、淘汰、妥協、従順、などで構成されているのにな」
「まだまだ子供なんだよ。だからこそ、ああも恥ずかしげもなく理念を、理想を口に出来るんだよ」
「そうだな」
「そういう純粋さは、好感が持てるけどね」
「好感か。好意ではないのか?」
「少なくとももう五年は育ってからじゃないとそういう対象には見れないよ」
 苦笑しながらそう答える息子に、そうか、と静かに呟き返すとウナトは専用の秘匿回線を開き、自分側の人間へと根回しを始める準備を行った。
「さて。僕も行動を起こすよ」
「ああ。それと、ミネルバだが」
「ん?ああ、そういえばあれがあったんだったね」
「ああ。ミネルバだが、どうする?地球軍への土産として差し出すか?」
 もし差し出すとすれば、敵側の最新鋭艦だ。それ相応の評価を地球軍から得られ、同盟関係で優位に立てるかもしれない。
「ん〜。魅力的だけど、少しでもルートは残しておきたいからね」
「では?」
「こっそりと情報を流して出て行ってもらおうか」
「ふむ」
「オーブにいる連合のスパイからの報告も向こうに届いているだろうしね。宇宙が落ち着いたらオーブに在中している戦艦を討ちに来るかもしれないからね。その流れ弾が本土にダース単位で飛んできたらそれこそ目も当てられない。だから、そうなる可能性のあるものは少しでも早く摘み取らないとね」
「そうだな」
「ま、表向きには、地球を救ってくれた恩人への義理、と言う名目で情報を流そう。そうすれば、プラント側の心象もそう悪くないだろうからね」
「では、そのようにしてくれ」
「了解」
 そういうと、ユウナは部屋から出て行った。
 出て行った息子の後姿を眺めながら、ウナトはこれから訪れるであろう激務に顔を顰め、最近めっきりとさびしくなった場所を憂いながら(うむ。あとでいつものをもう五ダースほど追加注文するか)と、思うのであった。


(……疲れた)
 提供してもらったホテルのベッドに横たわりながら、アスランは自身の今の思いを胸のうちで呟いた。
 今日一日の体験は、自分の脳の情報処理能力のギリギリ許容内であったがそれでも渡された情報があまりにも多すぎた。
(………カガリは、怒るだろうな………)
 アレックスからアスランに無断で戻った事を知れば、カガリは感情的になって叫び、下手をすれば切れのよいストレートでも放ってくるかもしれない。
 そんなことを想像しながら、それでもアスランは自分の選択は間違っていない、と思っていた。
 アレックスでは出来なかったことが、アスランならば出来るかもしれないのだ。
 議長との会談でも触れたように、いまだに父親であるパトリックの影響力はバカに出来ないものがある。
 そんな父の息子、と言う立場を上手く利用すれば、これ以上の強硬派の暴走を足止めすることが出来るのでは、とアスランは夢想していた。
―俺は、力を手に入れたんだ、な―
 あれだけ否定していた父の名を借りることに抵抗を若干感じるが、それでも世界のためを思えば小さなことだ、と割り切ることが出来た。
 これからの世界情勢を立て直すために、そして地球との友好な関係を築くためには、やはりザラの名は必要だろう。
 そう思いを馳せていると、ふいに訪問者を告げるベルがなった。
 議長の使いだろうか、と思いながら開けたドアの向こうには、かつての婚約者に似せられた少女がたっていた。
「ミ…ラクス」
「こんばんは。アスラン。お食事にお誘いに来ましたの」
 そう屈託なく告げる彼女に、どうやって断ろうか、と悩むアスランの耳に彼女は静かに告げた。
「お互いの立場を理解しあいましょう。そうすれば、わたしもアスランを不快にさせないように気をつけることが出来るから」
 その言葉を聞き、アスランは彼女との食事を了承するのだった。


―中書き―
 お久しぶりです、ANDYです。
 もう秋の気配がしていますね。
 最近頭痛もちになってしまい、憂鬱な日々です。
 ああ、いたいいたい。

 では、恒例のレス返しを

>戒様
 感想ありがとうございます。
 キーファですが、上手く表現できていなかったのですがパイロット兼技術者と言う側面を持たしています。
 アカデミー編でも触れたとおりに、彼女はMS作成に関心を持っているので、それがどのようなものかを自分の体で体験しながら色々な案を頭の中でまとめているところです。
 怪しげな細菌兵器ですが、そんなのばら撒いたら話が終わってしまうので禁止ですw
 今回のミーアはどうだったでしょうか。
 原作よりは少し新の通っている彼女が、これからの激動の時代をどう生きていくのかご期待ください。
 これからも応援お願いいたします。

>鏡様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 『パンツァーウィザード』の設定ですが、M1999GX 高エネルギー長射程ビーム砲はウィザードのバックパックに直結しており、肩に担ぐように展開する仕組みになっております。
 また11連ミサイルポッドは、シールドの代わりに肩部分に装備されております。
 表現が正確ではなかったようで、大変申し訳ありませんでした。
 これからも応援お願いいたします。

>飛昇様
 感想ありがとうございます。
 ごついMSが好きなので、パンツァーを登場させてみました。
 種世界では早々見られない機体だとおもいます。
 これからも応援お願いいたします。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 ミーアですが、原作よりは少し聡い子として描いていきたいと思います。
 これからも応援お願いいたします。

>Quin様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 ご指摘の点ですが、兵器などに対して外付けの燃料タンクなどは増槽と称する、とありますので間違っていません。
 シンの中の人は、もう少ししたら味が出る、と思いますのでもうしばらくご辛抱をw
 これからも応援お願いいたします。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 今回のビックリドッキリメカwですが、プラントのユニウス条約下での考えでは、限られたMS数の中でどのような条件でも活動できる機体を、と言うコンセプトの下にできたのがウィザードシステムとシルエットシステムでしょう。そんな考えの中で、より高性能なものを、と考えていた結果が今回の三人の凶悪な装備に成ってしまったのですw
 今回の兵装各種は、後々のあれらの機体に流用されていくものです。いくつお分かりになられましたかな?
 これからも応援お願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア様
 感想ありがとうございます。
 三人はこれからも色々な試験機を運用していく予定です。
 アスランは今回このような結果になりました。
 これから彼はどのような未来を見つめ歩んでいくのでしょうかね?
 これからも応援お願いいたします。

>ABCマント様
 感想ありがとうございます。
 あ〜、少し影響されてるかもしれませんね。台詞は。
 ですが、下地は過去の話でも触れているのでモンダイナイデスヨ?
 これからも応援お願いいたします。

>ATK51様
 感想ありがとうございます。
 戦争は双方に正義が存在していますからね。これがテロリスト相手ならば別なのですが、国と国の戦いですからね。
 シンですが、今回も台詞なしですねw
 まあ、彼は早々イニシアチブを取れる立場ではないのですから仕方がないかもしれません。なにより、人一人で世界が簡単に動くはずがないんですからこれはこれで正しいと思います(歌姫の場合は、まあ、少し異常だと思います)
 アスランはこれからどのような道を歩んでいくんでしょうかね。
 これからも応援お願いいたします。

 九月に入ってから、偉大な声優、役者さんが相次いでお亡くなりになっています。
 寂しいことですね。
 さて、今月のGAですが、アストレイ。ちょっと待ってくれw
 なんですか、あの展開は。
 あ〜、テレビとの整合性が絶対着かないでしょう。
 というか、なぜノワールをそうも使いたがる?
 下級氏族って何?
 色々と突っ込んでしまいました。
 マーシャン関係はちょっと絡めづらいかもしれません。
 では、また次回。

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