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▽レス始

「ジャンクライフ−第二部−6−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-09-26 19:25/2006-09-28 09:14)
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「最近は、めぐちゃんも落ち着いてて安心するわねぇ」
「そうですね。ご飯もちゃんと食べているようですし、いい傾向です」
「彼のおかげかしら」
「そうでしょう。彼も彼で、問題がありましたけど、それがまたいい方向に働いたんでしょう」
「毒を持って毒を制すという奴かしら」

少年が、その会話を聞いたのは、久しぶりに病院を訪れたときの事だった。
馴染みの看護士に顔を見せようと、ナースセンターに差し掛かったときに、その会話は聞こえてきた。
そして、その内容に少年は胸騒ぎを覚えた。知らす知らずの内に、お見舞いの品である花束を握る手に力がこもる。

「あ、浩樹君じゃないですかぁ〜。お久しぶりですぅ!!」

その声に、少年、浩樹はビクリと身を震わせて反応し、そして声のしたほうへと視線を向けた。
美人であった。ニコニコと優しい笑顔を浮かべて、桑田 理奈が笑顔で立っていた。

「お久しぶりです桑田さん」
「はい。お久しぶりです。久々ですねぇ、めぐちゃんのお見舞いですかぁ」
「はい。そうです」

そう答えながらも、浩樹は自分の胸が僅かに軋みを上げるのを感じた。

「最近はめぐちゃんも元気になってですね、これも樫崎君のおかげです」
「樫崎?」
「はい。樫崎 優。めぐちゃんの元気の源ですよぉ。そして、私にとっても……」

きゃー、それ以上は私の口からは言えませんぅとくねくねと身悶えする理奈を前に、浩樹はいよいよもって胸の痛みが増してくるのを感じた。
そんな、まさか、そんなことは。不安が脳裏に広がり、次の瞬間には大地を蹴っていた。
理奈の驚いた声も耳には届かず、浩樹は彼にとっての唯一つの意味ある病室を目指した。


ジャンクライフ−ローゼンメイデン−


優にとって、物事にはあらゆる側面から見たときにおいて、あらゆる意味がそこに生じるのは当たり前の事であった。
優の視点から、水銀燈を見た時、それは当然のことながら愛しいものとして映る。
だがしかし、その水銀燈が彼の中において敵という場所にカテゴリーされると、それは倒すべきものとして認識も受ける。
彼にとっての、戦うための理由とはその程度のものだ。どれほどその対象が愛しくても、それが敵になれば彼は何の躊躇もなくそれを葬る。
そして、その後で悲しむのだ。第三者からして見れば、それはあまりにも身勝手なコトだと非難しよう。
だが、優の中ではそれで筋が通っている。死体はもはや敵ではない、ならば、彼にとってそれはただの愛すべき存在でしかないのだから。

「この、馬鹿。羽に触るなぁ!」
「優、いい加減にしないと私も我慢できないわよ」

そこは、めぐの病室であった。その場に居るのは、病室の主であるめぐと彼女のドールの水銀燈、そして優と蒼星石。
考えても見て欲しい。めぐが、水銀燈という珍しいものを入手して優に報告しないという事態がありえるだろうか、いやありえない。
彼女は、優がお見舞いに来る日の前日に、彼に面白いものが見れるわよと、動く人形が手に入ったと告げている。
そして、それの名は水銀燈だと優に告げたのである。

「すまん。久しぶりのものでな」

そう言って、優は腕の中の水銀燈の頭を軽くなで、親しいものしか分からないぐらいに少し微笑んで見せると、水銀燈を解放した。
撫でられた感触に少しだけ、ぼーとした水銀燈だが、すぐに我にかえると警戒するように優から距離をとった。
その様子に、めぐは少し呆れを含ませた笑みを浮かべる。

「驚いたわ。優と水銀燈が知り合いだったなんて」
「私は、そんな奴は知らないわ」

めぐと水銀燈の反応に、優は無言で水銀燈を指差した。

「お前は俺の妻だった」

時が、凍った。水銀燈は、驚きの為か、それともまた別の何かか言葉を失い、めぐはその笑みを深くした。
先ほどから一言も喋らない蒼星石は、無言で優の服の裾を握り締めた。

「なん、ですって?」

普通の人であるならば、冗談を言うなと流すだろう。普通の人が言った言葉ならば、病院に行けと告げるだろう。
しかし、それを聞いたのは、非日常に足を踏み入れかけているめぐと、そういう発言をしても疑われない優である。
めぐは、疑うことなく優の言葉を信じ、そして水銀燈に視線を向けた。

「へぇ。そうなんだ」
「し、知らないわよそんなことをぉ! ふざけた事を言わないで頂戴!!」

その反応に優はふむと満足したように頷くと、おもむろに携帯電話を取り出し、操作する。
そして、目当てのものがあったのか、無言で画面を水銀燈とめぐに見せた。
そこには、猫耳をつけた水銀燈が頬を真っ赤に染めて、涙目で映っていた。
ピッ、ピッ、と優は携帯を操作し、パジャマ水銀燈、エプロン水銀燈などを映し出す。

「な、なぁ、なによそれはぁ!」
「お前が俺のドールであったときに撮ったものだ」

そう言うと、優は携帯をポケットの中にしまう。

「知らない」
「……」
「知らない。知らないわ。そんなもの」

水銀燈は、その顔に嫌悪感を浮かべ、そしてその写真に写るものを否定する。
なぜならそれは、水銀燈には認められないものであるからだ。最初の写真はまだいい。いつも見ている己の顔だ。
だがしかし、後の二枚の写真は認められない。幸せそうに笑っている自分の顔など認められるわけがない。
自分がそれを浮かべるのは、自分がそれを感じるのは

――――お父様の場所に辿り着いたときのみ
――――本当に?

「知らない。そんなもの、私は知らないぃ!」
「そうだな」

水銀燈の言葉に、優はなんの躊躇もなく頷くと、傍らにいる蒼星石を抱き上げる。

「人格を築き上げるのは、その人格が経験してきたものだ。俺が愛しているのは、俺との日々を経験した水銀燈だ。お前ではない。」

だから安心するといい、と優は断定するように告げた。
そして、水銀燈もそれに対して、当たり前だとかえせばそれですむ。
そうだ。当然のことではないか。知らない自分など、今ここに居る自分には関係のないことだ。
なのに、なぜ、胸が痛む。

「ということは、優。優が好きなのは、私とその貴方の腕の中のお人形さんだけという事?」
「ああ」

ぴしり、と水銀燈の心に皹が入る。前回の戦闘のときも感じた感覚。
知らない感情があふれ出してきて、自分を乗っ取っていく。

「なにが、なによぉ。これはぁ」

抑えきれない感情が暴れまわる。知らない過去、分からない感情、温かくて、悔しくて、涙が出そうになる。
気に入らない。蒼星石がそこにいるのが気に入らない。めぐが、哀れむように自分を見ているのが気に入らない。
そして、なにが気に入らないか分からない自分が、とても、それこそ本当に、気に入らない。

「優のぉ、馬鹿ぁ」

―――――――どうして気づいてくれないの? どうしてそんなことをするの?
       大好きといってくれた。いつだって分かってくれた。なのに、なのにどうして―――――――

水銀燈は、もはや己の中の感情に耐え切れなくなり、窓から逃げるように外へと飛び出した。
それを止めるものはいない。
いや、正確に言えば、止める時間などなかった。静止の言葉を吐こうとあけた口を閉じ、蒼星石は己の主を見上げる。
いつもと変わらない無表情。

「まるで、少し前の私みたいね」

めぐは、水銀燈が出て行ったことなどなんでもないように笑うと、優にそう問いかけた。

「自分の価値がわからなかった私。自分の価値が信じられなかった私。自分でも分からない焦燥感と諦めだけが、私の中で渦巻いていて、それをどうしたらいいかわからない。そんな、感じ」
「……あれは、俺の水銀燈ではない」

その声は、どこか怒りさえ含んだ声であった。
優は、腕の中の蒼星石をめぐのいるベッドに下ろすと、二人に背を向けた。
そのまま、何もいう事もなく、優は無言で病室を出る。
後に残されためぐは、困惑した顔で自分を見上げる蒼星石に微笑んで見せた。

「怒っている優なんて初めてみたわ。貴方は」
「僕も、はじめてです」

そう言って、蒼星石は自分の言葉に驚きを覚えた。
考えてみればそうである。優は、いつだって不敵に笑っているし、どんな状況であっても冷静さを失わない。
いや、冷静さで怒りを押し殺しているのだろう。しかし、今回のような怒りの感情の発露は初めてだ。

「きっと、私の事でも、そして貴方の事でも、彼はああやって怒るでしょうね」
「そうですね。優さんは、極端ですから」

きっと、それが彼にとってさほど重要ではない相手だったのならば、怒る以前に、何の感情も彼は浮かべないだろう。
明確な線引き。極端なまでのそれは、その内側に入ったものに優越感を抱かせると同時に、だれがその内側にいるのかを際立たせる。

「それにしても、安心したわ。彼の中にいるモノの中で、人間なのが私だけで」
「えっ」
「人間として彼を愛す、その領域を汚すものはいない。そして、新たに作らせはしない」
「どういうことですか?」
「貴方は、子供が生める? 彼と外を堂々と歩ける? できないでしょう。私には、それができる」

蒼星石とめぐの視線が絡んだ。冷たいなにかが走り抜ける。二人は、示し合わせたように笑顔を浮かべて見せた。

「僕は、ずっと一緒にいられますから」
「そう? 限りがあるから物事は美しいと思うけど?」

二人は同時に理解していた。自分達は、互いに相容れない存在だと。
互いに嫉妬し、憎む時がやがて来るだろう。漫画や、小説のような展開にはならない。
本気で好きだから、そこに妥協などはない。
響き渡るのは不協和音。かみ合わない歯車が、無理やり互いをかみ合わせる。いつか、壊れる日がやってくるのを知りながら。
今はただ、安寧なる平和の日々を。


浩樹が、彼女とであったのは五年前のことだ。祖母が、この病院に入院し、それのお見舞いに来た日の出来事。
旺盛な好奇心と、無尽蔵の行動力があった彼は、祖母の見舞いが終わった後、病院の中を探検していた。
一つ一つの病室を覗き込み、そこにいる知らない人たちを眺めながら、彼は進んで行った。
かくして、彼は、天使と出会う。
艶やかな黒髪に、真っ白な肌、彼が今までであったことがないほどの美貌。
恋に落ちた。
男女間のことに関して、さほど興味もなかった年頃である。
浩樹は気軽に少女に話しかけ、そして二人の仲は急速に仲良くなっていった。
治らない病気。少女の寂しげな警告。その二人を受けながら、浩樹はそれを理解していなかった。
刻々と迫る死へのカウントダウン。浩樹は当然のことながらそれを恐れ、悲しみ、そして取り返しのつかない事をした。
少女が危篤状態に入った。浩樹は時が来たのだと思った。信じるのではなく、諦めてしまった。
泣いた。どうしようもないほど泣いた。そして、その悲しみに妥協点を見つけたとき、少女は持ち直した。
それが終わり。浩樹は彼女の両親と同様に、悲しみの落とし所を見失ってしまった。
自然と病院から足が遠のき、祖母が退院すると同時に、その足は違う場所へと向けられた。
時々思い出したように、少女のところに向かうが、回をおうごとに少女から笑顔は消えた。

「っ、は」

息が切れる。
それでも、自分だけが彼女の中に居続けるだろうと、身勝手な安心感を抱いていた。
なぜなら、彼女はずっと病室から動けないのだから。出会うのはせいぜい、看護士ぐらいなものだ。
それに、自分と同じ年頃のものが出会おうとも、もはや閉ざされてしまった扉の内側には入れない。
そして自分は、その内側に入る鍵を持っていると思っていた。

「は、はぁー、はぁー」

ネームプレートを確認し、そこに書かれている柿崎 めぐという名前に笑みを浮かべる。
そして、中に入ろうとして、扉が勝手に開くのを感じた。
無意識の内に浩樹は後ずさる。
そこにいたのは、彼の知らない少年だった。
少年は、優は、浩樹に一瞥をくれると、すぐに視線を逸らす。
優の後ろで病室の扉が閉まり、優は浩樹などいないかのようにそこを通り過ぎようとする。
その手を掴んだのが自分の意思か、それともまた別の何かかは浩樹には分からなかった。

「き、君は誰だ?」
「俺に答える義務があると思うか?」

ガキン、とどこかで歯車がかみ合った。


あとがき
皆さん、お久しぶりです。スキルです。
長い間ご無沙汰しておりました。本日、ローゼン七巻発売という事で、ジャンクはそれを読んでから投稿しようと思ってました。
しかし、金がなく、買えませんでした。だから、まぁいいや、と書きあがってきたコレを投稿します。
六巻で、めぐサイドに動きがあったので、どうなっているのやらんとドキドキです。
とりあえず、今回はオリキャラ登場+シュ・ラーバ銀様記憶なしバージョンでお届けしました。
そういえば、ローゼンの第三期(?)の製作が決定しましたね。表紙が銀様だから、きっと銀様が主人公なのでしょう(ぇ
今から放映日が楽しみです。しかし、早く放映してくれないとジャンクは独自路線に移行して、始まる前に終わってしまうかもという罠。
皆さんもハラハラドキドキしながらお待ちください。

Ps 今回は、ちとオリ展開も入れたことで、疲れてますので、レス返しはお休みさせていただきます。
  皆、本編短いのにごめんなぁ。次回はかならずレス返しするから、今回は拗ね銀様に出会えたという事でおおめに見てくだせぇ。
  じゃない、見てください。では、また次回に。

+ミーハーさんへ、 前回の俺のコメントを気にしておられるようなので説明します。
前回の俺のコメントですが、ただ俺が貴方に対してツンデレっただけなので気にしないで下さい(ぇ
          いろいろなネタをくれてありがとうなんて思ってないんだからっξ゜゜)ξ

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