人気の無い荒野。そこでクラピカはウボォーギンを鎖で捕らえていた。そして、その様子をカヲルは崖の上から見ていた。
「緋の眼が発言した時のみ、特質系に変わる……」
緋の眼が発動し、黒のコンタクトを外したクラピカを見て、ウボォーギンはハッとなった。
「その目……思い出したぜ! キレると目が赤くなる奴ら! どっか奥地でコソコソ暮らしてた……団長がいたく気に入ってたぜ! ありゃあ大仕事だった。あいつ等、強かったな……その生き残りか! 燃えてきたぜ……テメーの恨みと俺の怪力! どっちの方が強ぇか、勝負!!」
「…………外道め。お前の頭はそれだけか。お前如きに、この鎖は切れん」
「どうかな? 分からんぜ」
不敵に笑い、ウボォーギンは鎖を引き千切ろうと気合を入れる。
「うぎぎぎぎぁぎぐ……ぬぅがあああああああああぁぁああ!!!」
必死になって叫ぶウボォーギンだが、鎖はビクともしない。
「くそぉぉおおお!! 千切れねぇ!! テメー、一体……」
「特質系の私の能力……『どの系統の力も100%引き出せる』……“絶対時間【エンペラータイム】”!」
特質系のクラピカの能力に対し、ウボォーギンは驚愕する。
「全ての系統の力を100%引き出せる……だと!?」
「その通り」
クラピカは頷くと、左手の袖を破る。クラピカの左腕は、ウボォーギンの全開の“超破壊拳【ビッグバンインパクト】”を喰らってしまい、完全に骨折している。その腕に、クラピカは親指の鎖を当てる。
「折れた腕も……“癒す親指の鎖【ホーリーチェーン】”!!」
自己治癒力を強化し、強化系の治癒回復力並のスピードで回復する。
「完治」
バキバキに折った筈の骨が、あっという間に治り、ウボォーギンは、クラピカが自分の攻撃に耐える強化系並の防御力や、自分の怪力を上回る念を具現化した鎖に込めている理由が分かった。
「最初の相手にお前を選んだのには、幾つか理由がある。お前がマフィアと陰獣との戦闘時、お前の仲間は全く加勢する様子を見せなかった。これは、お前が単独で戦う事を好み、且つ戦闘に関して多大な信頼を得ている証拠」
バズーカに素手で立ち向かい、己の肉体のみで敵を薙ぎ倒す、自らの攻撃力、防御力に絶対的な自信を持っている強化系能力者というのは、自分にとって、最初に戦わなければならない相手の必須条件だとクラピカは言う。
「何故なら、その結果によって私の“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”が、旅団全員に通用するかどうか分かるからだ。“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”は、捕えた旅団を強制的に“絶”の状態にする! その上で肉体の自由を奪う!!」
それを聞いて、ウボォーギンは自分のオーラが全く出せない事に合点がいき、苦渋の表情を浮かべる。
「オーラが全く出ない状態、“絶”……つまりこの鎖に捕えられた者は肉体の力のみで鎖を断ち切らねばならない。旅団の中で最も腕力のあるお前が鎖を切れなければ、他の団員にも“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”は切れない道理!!」
「(強制的な“絶”……確かにコレはヤバい!!)」
オーラは念能力のエネルギー源でガソリンみたいなものである。それを封じられたら、能力そのものが出せなくなってしまう。
「(念能力を封じる能力……こいつ!! 考えてやがる!!)」
ウボォーギンが、そう考えている間に、クラピカは彼の目前に詰め寄り、思いっ切り脇腹を殴る。
「ぐ……ほっ!!」
「生身のお前と強化した私の拳とでは、やや私の攻撃力の方が勝っているようだ。これは貴重な情報だな……捕えてしまいさえすれば、旅団全員、素手で倒せることが分かった。お前が知っている事全て話して貰うぞ」
そう言い、クラピカは更にウボォーギンの体を殴る。口から血を噴き出すウボォーギン。
「仲間の居場所は?」
「殺せ」
ボギィッ!!
「ぐ……ぎ」
「他にどんな能力者がいる?」
「…………殺せ」
答えようとしないウボォーギンに対し、クラピカは殴り続ける。が、一向にウボォーギンの態度は変わらない。それを見下ろしていたカヲルは目を細め、クラピカを見つめる。
「…………実に不快だ。手に残る感触、耳障りな音、血のニオイ……全てが神経に障る。何故、貴様は何も考えず!! 何も感じずに、こんなマネが出来るんだ!? 答えろ!!」
「……殺せ」
尚も態度を変えないウボォーギンに、クラピカは小指の鎖を放つ。すると、その鎖はウボォーギンの左胸を貫通し、心臓に絡まる。
「最後のチャンスだ。貴様の心臓に戒めの楔を差し込んだ。私が定めた法を破れば、即座に鎖が発動し、貴様の心臓を握り潰す!!」
“律する小指の鎖【ジャッジメントチェーン】”……それは、クラピカの心臓にも刺し込まれており、旅団以外にも“束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】”を使うと、彼の心臓を握り潰すよう、プログラムされている。
「定められた法とは『私の質問に偽り無く答える』こと! それさえ守れば、もう少し生かしておいても良い。他の仲間は何処にいる?」
その質問に対し、ウボォーギンはニヤッと笑う。
「くたばれ、馬鹿が」
すると、心臓を鎖が握り潰し、ウボォーギンは大量の血を吐き出して倒れた。ウボォーギンを縛っていた鎖を解き、クラピカはヨロめくと膝をつき、顔を手で覆い、ガタガタと震える。
「嬉しくないのかい?」
「!?」
そこへ、突然、尋ねかけられ、クラピカが顔を上げると、カヲルが笑みを浮かべて立っていた。
「カヲル、何故此処に?」
「いやいや。復讐の相手の一人を倒した君が、どんな風に喜ぶのか見たくてね」
その言葉に、クラピカは唇を噛み締めると立ち上がって、背中を向ける。
「おや? 嬉しくないのかい? 仇を討ったんだろう?」
クラピカは振り返ると、怒りに任せてカヲルの胸倉を掴み、睨んで来る。が、カヲルは動じず、笑みを浮かべたまま言った。
「復讐を果たして心の底から喜べるのは、赤の他人を殺す事に何の戸惑いも無い人間だけだ。君は、そこまで冷酷になれない」
「く……!」
クラピカは反論しようとしたが、突然、目の前が歪み、カヲルに向かって倒れ掛かった。カヲルは彼を受け止めると、ヤレヤレ、と肩を竦め、ウボォーギンの遺体を見つめる。そして、ウボォーギンの死体を埋めると、センリツに連絡した。
「あ、センリツ?」
<カヲル!? また急に抜け出して、何処に行ってるの!? クラピカから部屋から出ないよう言われてるでしょ!?>
「そのクラピカの所だよ」
<! クラピカは無事なの!?>
「ああ。今から連れて帰る」
<良かった……ボスの父親は天候の関係で、到着は深夜になるそうよ>
「分かった」
頷いてカヲルは電話を切ると、クラピカを背負って歩き出す。ふと赤く輝く夜空に浮かぶ月を見上げ、不敵に笑う。
「残るのが虚しさと血に塗れた手だと分かっていても、尚、復讐を望むか……人間は、本当に面白いね」
「どういう事? 急に信号が途切れた……」
車の中で、ミサトはリキに仕込んだ発信機の信号が途切れたので眉を顰める。
「カジ君?」
ふと、急にイヤホンを外したカジに2人が不思議そうな目で見ると、彼は首を横に振った。
「死んだ」
「え?」
「彼女は死んだよ」
「はぁ!?」
カジのその言葉に、ミサトは身を乗り出し、彼の胸倉を掴んで問いただしてくる。
「ちょっとカジ! 死んだって、どういう事よ!?」
「お、俺に振るな! 最後の方はノイズで聞き取れなかったけど……殺したのはアスカだかレイだか、そんな名前の女だ」
「アスカ? レイ? 誰よ、ソレ?」
「俺が知るか」
が、黙示録の一人を倒したのだから、かなりの使い手と考えるべきだとリツコは冷静に言う。
「(しかし、この2人……カツラギの事を知ってるようだが……ちょっと、ついでに探り入れるか)」
黙示録の事も気になるが、会話に出て来たアスカ、レイと言う女も気になるので、個人的に調べてみようと思うカジ。その時、突然、リツコが携帯を取り出した。
「リツコ、どうしたの?」
「発信機が壊れた以上、自力で見つけるのは困難よ」
「って、アンタまさか……」
「あ、もしもし社長ですか……ええ、ちょっとミサトの計画が相変わらずで、失敗したので、ええ……出来ればもう少し……はい、ミサトの給料から差し引いて構いませんので」
「しょええええええええええええ!!? リ、リツコ、ちょっと待って〜〜〜〜〜!!!!!!!」
止めようとリツコに飛び掛るミサトだったが、電話は切られてしまった。
「絶対! 絶対! ずぅぇ〜ったい行く〜〜〜!!!!」
ジタバタと暴れるマギを、後ろからマルクトが羽交い絞めにして引き止める。
「やめとけ! 単独行動禁止だ!」
「放せ、クソマル!! リキ、助けに行くんじゃぁ〜!!!」
「クソ……!?」
酷い言われようだが、マルクトは決してマギを放そうとしない。2人のやり取りを見て、嘆息しながらもライテイが宥める。
「マギ、落ち着け。リキは簡単にやられる奴じゃない。それは俺達も良く知ってるだろう?」
「だからってフロッピーが壊れたら念が使えねぇんだ! 念が使えなかったら、並の念使いと戦ってもヤベぇんだぞ!!」
「けど場所も分からねぇのに、どうやって行くんだよ!?」
「そこはテメーの蟲使ってだよ!」
「今、お前を止めてるの誰か分かって言ってんのか!?」
「じゃかぁしい!! ちったぁ年上の言う事聞けや!!」
2人の言い合いを聞いて、ウィップが扇で口元を隠しながら、隣で微笑んで立っているユーテラスに尋ねる。
「何? マギの方が年上だったの?」
「みたいね〜。見えないけど……」
「マギ」
その時、静かに、それでいて凛と少年の声が響く。すると、今まで暴れていたマギもピタッと止まり、全員が少年に注目する。少年は、普段は見せない、鋭く冷たい眼光でマギを見ると、彼女は冷や汗を浮かべて硬直する。
「僕らは何だい?」
「…………黙示録」
「そう、僕らは人の命を奪うテロリストだ……そして僕らは命を奪われても何も文句は言えない。分かってるね?」
「…………ああ」
「仮にリキがやれらたとしても……それは常に起こり得ると予想していた事だ。取り乱す事自体、間違っている」
淡々とした口調で少年に言われ、マギはコクッと頷く。マルクトも、もう暴れないだろうと思い、腕を放した。
「取り乱すのはアタシが悪かった。けど、アタシ達は人間だ! リキを探しに行きたいって気持ちは間違っちゃいねぇ!」
「そうだね。でもリキは戻ると言った。なら、僕らは待つしかない」
「う……」
「けどリキが戻って来なかった時の事を考えないと……マルクト」
少年は、顎に指を添えるとマルクトの方を見る。
「ん?」
「1日半かければ、どれくらいのが出来る?」
「コンディションや環境にもよりますけど……今ならそれなりに使えるのなら」
「良し、マルクトは早速、準備にかかれ」
「了解」
頷くと、マルクトはそこから去って行く。
「イスラーム、ユーテラス、ウィップ、ウチルはマルクトの邪魔が入らないよう護衛、シフ、アクア、ライテイ、ミスト、スカイは計画のポイントを調査及び下準備」
それぞれ指示を下された者は、皆、頷くとゾロゾロと出て行った。残ったマインド、レイン、マギは少年に尋ねる。
「マスター、私達は?」
「君達は……リキを探して来なよ」
その言葉に驚く3人だったが、少年が微笑みかけると、マギはパァッと表情を明るくする。
「了解!!」
ギュッと拳を握り締め、マギはレインとマインドの手を引くと、飛び出して行った。一人、残った少年は、フゥと息を吐いて目を閉じる。
「驚いたな……普段のお前からは想像も付かない指揮ぶりだ」
「クロロ」
そこへ、クロロがやって来て、意外そうな発言をする。少年は表情を顰め、不満そうに言った。
「何か?」
「こっちもウボォーが戻らない。鎖の使い手らしい」
「鎖……具現化系か操作系だね。純粋な強化系がやられるなら、その二系統だし」
「ああ」
「やられたと思う?」
「恐らく……お前の方は?」
「…………恐らく」
2人ともやられた、もしくは死んでいる可能性が高いと感じる少年とクロロ。
「「計画変更、だな」」
〜レス返し〜
デコイ様
シンジは、アスカ達がやったのは知りませんが、リキの死に対しては随分と淡白でした。ま、彼が死に対し淡白なのは、いずれ分かります。
ま、ミサトの考案した計画ですので、破綻するぐらいはリツコの計算通り。彼女は次なる手を打ちます。
サポート系キャラの戦闘力ですか……まず考えて、旅団でもパクノダやコルトピみたいな戦闘向きな能力じゃなくても、普通に戦えばそこらの念能力者より遥かに強いと思います。基礎能力や戦闘技術が半端じゃないですから。なので、サポート系の能力者の戦闘能力もかなりのものです。で、シンジが一番の使い手で、それ以下ですが、単純に戦闘能力を見れば強いのはリキです。で、マルクトもある意味、最強といえる能力を持ってます。後、ライテイもいずれ明らかにしますが、かなり強力です。
ミサトの戦闘能力は、ゲンスルーより少し弱いぐらいです。ゲンスルーが旅団と比べて、どれだけの実力か分からないですが、ミサトが隙を作り、カジがサポートして、リツコが念能力を封じる薬を打つ、と言うのが理想です。その為にはまず、シンジ、クロロの能力を見て、なおかつ1時間以内に作る必要があります。
レンジ様
はい、フロッピーが壊れなければ勝ってたのはリキです。
髑髏の甲冑様
カヲルもクラピカを見張っていたので、連絡は取れませんでした。
はい、アスカの治癒能力は次回辺りに詳細を書きます。で、2人の連携技は、サンジの“悪魔風脚【ディアブルジャンブ】”を見て、被ったとマジで思いました。
暴れるマギでしたが、シンジの言葉で落ち着きます。普段、沢山の人を殺している彼らは、いつ殺されても文句は言えない、構わない、という理念で動いています。なので、マギのように暴れる方がおかしいんです。
ショッカーの手下様
リキを殺したのが、2人だと知っても、シンジは平然としてそうです。黙示録も欠員補充はあります。それは後々。
流刑体S3号様
っていうか、陰獣の念のレベルが分からないです。ナックルやシュートより強いのかどうかすら。正味、アッサリと旅団にやられたので、今のアスカ達は陰獣より強いと思ったんですが……。
拓也様
ちなみにレイはハンター試験でも一人、殺ってます。アスカ達も人殺しに慣れてはいる訳じゃないですが、殺すつもりでやらなきゃ殺される、ぐらいの感覚で戦ってます。
シンジの能力は完璧に決まりましたので、やはりカヲル化は無理っぽいです。
クリス様
初めまして、お答えします。
はい、確かに当初、シンジは神といえるぐらいの力を持ってましたが、長い眠りにより、今はその力を失い、普通の人間と同じです。そして、それが今のシンジの行動理念にも少し関わっていると言えます。
レギオン様
初めまして、感想どうもです。
リキの死は、何だか反響が大きいです。かなり好かれていたようなので、作者としても嬉しい限りです。
復活は……無いですね。
鳴海様
そうですね。シンジの真意は不明ですが、黙示録のメンバーは3人に対し、色々、独自の感情があるようです。
そうですね。リキの目的はミサト達ですし、彼女はアスカ達から情報を聞く為、殺すつもりは無いようで、逆にアスカ達は本気でいかないと殺されるだろうと考えた結果です。手加減したリキと本気のアスカ達の結果でした。
逆です。シンジはリキが『帰る』と言ったので、帰るのを信じて待ってました。それが彼女に対する最大限の信頼だと思います。リキも、それは理解していますし、死んでも、その覚悟を持って戦ってますから。
kaka-様
訂正しておきました。すいません。
夢識様
私もお気に入りのキャラを殺すのは忍びないですが、ポックルをあんな風に殺す原作の雰囲気を壊さないようにするには、仕方ないです。
エセマスク様
リキの最期は、間違いなくアスカ、レイに敵意を向けていました。家族を壊させはしない、という意味で、2人に襲い掛かろうとしたんでしょう。
カジが特に2人に興味を持ち、調べようとします。これで、本格的にアスカ達とナーヴ3人組の繋がりが出来ました。
あ、そうですね。口喧嘩ならマギの独壇場ですわ。