インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「これが私の生きる道!新外伝7黒い死神奮戦す!編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-09-18 14:05/2006-09-19 20:33)
BACK< >NEXT

(コズミック・イラ70二月二十五日、「世界樹
 」周辺宙域)

世界は、歴史上で何回目かの世界規模の戦争に巻
き込まれていた。
今回の戦争の理由は、遺伝子を調整した人間であ
るコーディネーターと、何も遺伝子をいじってい
ないナチュラルの、利害関係の拗れが原因であっ
た。
その能力の高さと、一部の能力を過信した傲慢な
人達のせいによって発生した迫害によって、多く
のコーディネーターが、プラント理事国である三
ヵ国に宇宙に追いやられ、そこで様々な研究や資
源の生産を行っていた。
そこに送られた過程はともかく、プラントを安住
の地と定めたコーディネーター達であったが、プ
ラント理事国には、「自分達が資金を出したのだ
から、言う事を聞いて当たり前。プラントの建設
資金と利益を回収するまでは・・・」という感情
があり、プラントには、「そろそろ独立させて好
きにやらせてくれ」という感情があった。
そして、両者の話し合いは平行線に終わり、ブル
ーコスモス強硬派という過激なコーディネーター
排除論者に組した軍人の暴走により、両者の戦争
は始まったのであった。

 「まずは、月のプトレマイオス基地から、プラ
  ント本国を目指した地球連合軍艦隊とザフト
  軍艦隊が激突して、これはザフト軍の圧倒的
  勝利に終わった」

 「次にザフト軍が、この(世界樹)の攻略を目
  指して、部隊を派遣したが、地球連合軍も急
  遽艦隊を派遣し、戦線は膠着状態という事で
  すな」

 「そして、俺達が急遽派遣される事になった。
  俺達は、助っ人三人衆というわけだ」

「世界樹」攻防戦が始まって五日が過ぎたが、戦
況に大きな変化は見られなかった。
先の艦隊決戦での大敗北で、大した援軍は出さな
いであろうという、ザフト軍上層部の予測を大き
く裏切り、元々の防衛戦力と応援の二個艦隊が防
衛に徹して、なかなか隙を見出せなかったのだ。
敵が攻撃をしてくれば撃破は容易いのだが、貝の
ように閉じこもっていてはどうにもならない。
だが、ザフト軍上層部は、新しい作戦を立案した
らしく、その機材と援軍のモビルスーツ隊を運ぶ
艦隊が編成され、その艦に俺達が援軍として乗り
込んでいるのであった。

 「しかしまあ。(メテオストライカー)で(世
  界樹)を砕くですか。何とも雑な作戦ですね
  」

 「本当だな。そんなに、デブリを増やしてどう
  するんだろうな」

俺の小隊の二番機と三番機を勤めている「おっさ
ん」ことタロー・スズキと「ジロー」ことジロー
・スズキが、便乗しているローラシア級巡洋艦「
ハンニバル」のブリーフィングルームで、上層部
批判とも取られかねない発言をしていた。

 「計算では、デブリ帯の一部となって地球を回
  るようになるそうな。本当だといいけどね・
  ・・」

俺は家族がオーブに住んでいるので、心配ではあ
ったのだが、もし破片が地球に落下しても、大気
圏で燃え尽きるという、上の説明を信じるしかな
かったのだ。
それに、俺はザフト軍の軍人なので、軍の命令に
は逆らえなかった。

 「はん!地球の薄汚いナチュラル達が、何人死
  のうと知った事か!カザマ!この作戦では俺
  が隊長なんだ!足を引っ張るんじゃねえぞ!
  」

 「承知しております。マーレ隊長」

 「相変わらずのマニュアル回答だな。生意気で
  ムカつく奴だ!」

マーレはそれだけを言うと、ブリーフィングルー
ムを出てしまった。

 「嫌味な隊長だな。赤服のエリートさんは」

 「俺も赤服だけど」

 「カザマは赤服だけど、変わっているからな」

 「それ、褒めてるの?(おっさん)」

 「褒めてるさ。奴はプラント出身の純粋なコー
  ディネーター以外は、人と認めていないから
  な。俺も途中で移住した口だから、嫌われて
  いるんだ」

 「俺もそうだな。子供の頃に、両親と移住して
  来たから」

 「俺なんて、プラントにまだ五年と住んでいな
  いぜ」

 「だから、嫌われているんだよ。隊長殿、気を
  付けてくれよ。奴は俺達を犠牲にして生き残
  る事に、何の罪悪感も持っていないからな」

 「わかった。気を付けるよ」

俺は年長者である、「おっさん」の助言を受け入
れてマーレの行動に気を付ける事にする。
俺達の任務は、「世界樹」に「メテオストライカ
ー」を取り付けるために、その地点の防衛部隊の
排除と味方の護衛であり、その隊長には、アカデ
ミーの卒業年次が二期上で、赤服を着るエリート
であるマーレ・ストロードが任命されていた。
だが、「ハンニバル」の艦内で話せば話すほど、
奴は俺が嫌いで、俺も奴が嫌いという事が判明し
て、チームワークもへったくれもない状態であっ
た。

 「奴も任務中は、私情を捨ててくれると良いん
  だけど・・・」
 
 「それは無理だ」

 「だろうね」

 「隊長、そろそろ時間だぜ」

 「本当だ。さて、様子見に出かけますか」

「世界樹」の周辺宙域に到着した俺達は、マーレ
の命令によって強行偵察任務を行う事になってい
た。
「メテオストライカー」を準備するまでに、大ま
かな様子を探るためで、これにはマーレも珍しく
出撃するらしい。
俺は奴の性格からして、部下に任せてしまうと思
ったのだ。

 「遅いぞ!」

 「時間通りですよ」

 「軍人は十分前が基本だ!」

 「だから、十分前です」

 「俺よりも遅いと、話にならないんだよ!」

 「これからは気を付けます」

先に格納庫内にいたマーレに嫌味を言われつつも
、俺達は愛機である「ジン」を機動させて「世界
樹」に向かうのであった。

 
 


 「何という防衛網なんだ!」

 「防御に特化しているな」

 「これで、(メテオストライカー)が設置でき
  るのか?」

俺達は「世界樹」の様子を見て、その防御力の高
さに圧倒されてしまった。
地球連合軍は艦隊を「世界樹」にギリギリまで近
づけて配置し、「世界樹」本体に設置されている
防衛火器と連携して鉄壁の防御力を誇っていた。
どうやら、まともに戦ったら負けると理解して、
防御一辺倒の体勢を取っているらしい。

 「これでは、(メテオストライカー)を打ち込
  めませんよ。どうしますか?マーレ隊長殿」

 「うるさい!お前に言われないでもわかってい
  る!(メテオストライカー)は五本も打てば
  良いのだ。その地点の抵抗のみを排除する」

 「それしかありませんね」

 「お前が先鋒だ!」

 「そうですか。了解です(俺を殺したいのかな
  ?素直に死んでやらないけど)」

 「活躍を期待している(とっとと戦死しやがれ
  !)」

こうして、それぞれの思惑の元、「世界樹」攻防
戦が始まったのであった。


 「マーレ隊、全機発進だ!」

 「了解!」

マーレは、「ハンニバル」と隊を組んでいる「カ
エサル」のモビルスーツ隊と合わせて、十二機の
「ジン」を率いて「世界樹」に向かっていた。
俺達は、「世界樹」の真上の脳天にあたる部分に
「メテオブレーカー」を打ち込む部隊の援護を仰
せつかっており、その他にも、予備も含めて七箇
所に「メテオブレーカー」を打ち込むため、多く
の味方とそれを阻止する敵との激戦が予想されて
いた。 

 「よりにもよって、一番防御が厳しい場所なん
  だな」

 「それを成し遂げてこそ、我々は評価される。
  先陣はお前だ!(とっとと、戦死しやがれ!
  適当に骨が拾ってやるさ!俺は優しいからな
  )」

 「了解です(後から撃たれないかな?)」

お互いに信頼度はゼロであったが、一応は上官で
あるので、俺は「おっさん」と「ジロー」を引き
連れて先陣を切る事にする。

 「つき合わせて悪いな」

 「どうせ、俺達ごと始末するつもりなのさ。奴
  は、ザラ国防委員長の派閥に属しているから
  な。多少の無茶は、大丈夫だと思っているん
  だ」

 「なるほどね」

三機の「ジン」はシャワーのような弾幕を巧みに
かわしながら、一番外側にいる駆逐艦に狙いを絞
る。
 
 「あれを殺るぞ!」

 「了解だ!」

 「了解!」

三機の「ジン」は一機ずつに別れてから、担当し
た部分の火器を潰していき、最後に俺が艦橋を、
「ジロー」が機関部を重突撃機銃を発射して撃沈
する。

 「まずは一隻だな」

 「(ジロー)譲ってやったぞ」

 「サンクス。次は(おっさん)だな」

俺達は生き残るために、連携を中心とした訓練を
重ねていて、このくらい事は余裕で行えたのだ。

 「さて、目標には事欠かないからな。次に行く
  ぞ!」

俺達は、更に奥に進撃するのであった。


 「カザマさん、凄いですね」

 「あのくらいは、俺にでも出来る!」

カザマを先行させたマーレは不機嫌であった。
見下していて、運で赤服を着ていると思っていた
カザマが、戦死もせずに大活躍をしていたからだ

更に、自分の部下達が彼を褒めるに至って、マー
レの機嫌は急降下していく。

 「我々も行くぞ!(ちくしょう!奴ばかり活躍
  させてなるものか!)」

 「カザマさんに続くぞ!」

 「おーーー!」

性格はアレだが、マーレは優秀なパイロットであ
り指揮官であるので、彼は残りの「ジン」隊を率
いて、カザマ小隊が開けた穴を広げにかかるので
あった。


 
 「穴は開け終わったのか?」

 「大体は終了したそうです」

合計八箇所の「メテオストライカー」設置部隊の
侵入路の確保は、二時間ほどで終了していた。 
「世界樹」を防衛する地球連合軍艦隊は、先に「
世界樹」を攻撃していたザフト軍艦隊と応援艦隊
の波状攻撃を受けていて、開いた穴を埋める余裕
がなかったのだ。
それでも、防御に徹している地球連合軍の決死の
抵抗により、ザフト軍は先の艦隊決戦の倍近い損
害を受けていた。
数の少ないザフト軍にとって、これは無視できな
い損害であった。
 
 「思ったよりも損害が多いな」

 「そうですね。我々は常に少数ですから、これ
  は由々しき事態です」

「世界樹」攻略部隊の一艦隊を率いているクルー
ゼ隊長は、自分が指揮する部隊の旗艦である、ロ
ーラシア級巡洋艦「ウインド」のブリッジでアデ
ス艦長と戦況について語り合っていた。

 「だが、攻撃の手を緩めるとせっかく開けた穴
  を埋められてしまうからな」

 「攻撃を続行するしかありませんね」
 
 「一つだけ手がある」

 「何ですか?」

 「私が出撃する事だ」

 「却下です」

 「返事が速いな」

 「クルーゼ隊長は、艦隊指揮をしてください。
  あなた一人が出撃したところで、そう変わり
  ませんので・・・」
 
 「そう捨てたものではないぞ。なぜなら、私は
  今回の作戦でネビュラ勲章を貰う事になって
  いる!」
 
 「・・・・・・・・・」

クルーゼ隊長の不思議発言で、アデス艦長が驚い
ている間に、彼はブリッジから消えて「ジン」で
出撃してしまう。

 「この隊の指揮は、誰が執るんだ?」

 「アデス艦長と違いますか?」

 「上官運がないのかな?私は?」

 「さあ?」

アデス艦長の問いに答えてくれる人はいなかった
が、クルーゼ司令は、「ジン」で出撃後に六隻の
戦艦と三十七機のMAを落とし、その功績によっ
て、ネビュラ勲章を授与されるのであった。


 「うん?あれは・・・」

「ジン」で出撃したクルーゼ隊長は、近くの敵を
落としながら、「世界樹」にかなりの距離まで接
近していた。

 「クルーゼ隊長!危ないですよ!」

 「私に構わないでくれ。面白いものを見つけた
  のだ」

クルーゼ隊長の部下達は、あまりの防御火力の密
度に足を止められていたが、本人は全くそれを気
にしていない様子であった。
そして、「世界樹」の上方で驚異的な連携をしな
がら戦果を拡大している、三機の「ジン」を発見
する。

 「素晴らしい連携だな。阿吽の呼吸でピラニア
  のように敵艦を落とすか」

三機の「ジン」は、一隻の戦艦の火器を三方向か
ら潰しながら、次第にその戦闘力を奪っていく。
そして、その中の一機の「ジン」が、敵艦のブリ
ッジに重突撃機銃を乱射し、他の二機が止めに機
関部に銃撃を加えるという、セオリー通りの光景
が展開されていた。

 「なるほど、頭を潰すわけか。有効な手だな」

三機の「ジン」が撃沈した戦艦は、応援部隊であ
る第三艦隊旗艦「トクガワ・イエヤス」であり、
その撃沈で、周りの艦艇群に大きな動揺が広がっ
ている様子であった。

 「さて、私も戦果を広げるとするかな」

既に「メテオストライカー」部隊は、「世界樹」
の近くに接近しており、それが稼動する事は、こ
の小惑星の崩壊を意味していた。
本来ならば、占領後に防衛拠点として使用する予
定であった「世界樹」は、敵戦力の算定を誤り、
思わぬ苦戦をした事と、月への進撃路の確保を急
ぐザフト軍上層部の意向により、完全に破壊され
る事になるのであった。


(一時間後、地球連合軍第八艦隊旗艦「メラネオ
 ス」艦内)

 「それで、戦況はどうなっている?」

大西洋連邦軍内で、知将との呼び声の高いハルバ
ートン准将は、参謀長であるコープマン大佐に戦
況の確認を行っていた。

 「敵は(世界樹)に取り付きつつあります。で
  すが、何をしているのでしょうか?」

 「止められないのか?」

 「(ジン)のせいでMA隊が壊滅状態です。既
  に、七割の機体が落とされています」

 「モビルスーツか・・・。あれほど忠告したの
  に・・・」

 「ですが、我々にはあの兵器は使えませんよ。
  それは鹵獲した(ジン)で確認済みです。そ
  れよりも、MAや対空火器を増設した艦船の
  量産を・・・・・・」

 「それでは、我々に勝利はない!」

コープマン大佐は優秀な軍人ではあったが、自分
達がモビルスーツを開発して配備するという考え
を持っていなかった。
それは、開戦当初の艦隊決戦で奇跡的に鹵獲され
た「ジン」を解析した結果、自分達ナチュラルで
は使いこなせないという報告を信じていたからで
あった。
それならば、自分達の生産力を生かして、通常兵
器の改良機を多数量産して数で圧倒する。
大半の軍人と軍上層部の考えは、その方向で纏ま
っていたのだ。

 「だが、それでは多くの若者が死んでしまう。
  高性能のモビルスーツとOSを開発して、そ
  れを配備すれば・・・」

 「それが完成するまでに、何年かかります?(
  ジン)と同じような機体を作っても、のらく
  ら動いていたのでは、MAよりも多くの戦死
  者が出るでしょう。それでは、同じように沢
  山の軍人が戦死します。ならば、数の有利を
  生かした方が・・・」

艦隊司令と参謀長の意見は平行線を辿り、その間
にも多くの戦死者が発生する。
ここは、現実世界にある残酷な戦場そのものであ
った。

 「ザフト軍の連中が、何かを設置しています!
  」

索敵担当仕官の報告で、ノイズ混じりのスクリー
ンを見ると、三機の「ジン」が「世界樹」に取り
付いて何かを設置していた。

 「あれは何でしょうか?」

 「(メテオストライカー)だ・・・」

 「(メテオストライカー)ですか?」

 「ザフト軍の連中は、(世界樹)を砕くつもり
  だ!全軍退避しろ!」

ハルバートン准将の悲鳴のような命令により、地
球連合軍艦隊は大きな混乱の渦に巻き込まれるの
であった。


 「さて、そろそろ砕けるぞ。距離を置け!」

俺達は敵軍への攻撃を止めて、「世界樹」からか
なりの距離を取って待機していた。
そろそろ「世界樹」は砕け、防衛拠点を失った地
球連合軍の退却が始まるであろう。
敵は守るべき「世界樹」を失い、敵艦隊も多数発
生する破片の影響で、戦いどころではなくなるの
だ。
そこで、俺達は敵の追撃を行い、戦果を拡大する
事が求められていた。

 「ふふふ。ナチュラルの豚共め!容赦はしない
  からな」

 「変態のサディストだな・・・」

 「何か言ったか?カザマ!」

 「いいえ、何も」

俺達が交代で補給と簡単な整備を受けている内に
「世界樹」は崩壊を始め、多くの敵艦艇が、懸命
に脱出を試みようとしていた。

 「戦果を拡大するぞ!」

 「了解です!」

二機の損害を受けて、十機にまで減っていたマー
レ隊長の部隊は、敗走する地球連合艦隊に追撃を
かけるのであった。


 「前方にMAが四機だ!フォーメーションで行
  くぞ!」

 「了解!」

 「了解!」

俺達は、砕かれたデブリの影響で機動力が大幅に
落ちているMA部隊を次々に撃破しながら、本命
の艦艇を探していた。

 「前方に巡洋艦だ!落とすぞ!」

俺達は巡洋艦の火器を次々に沈黙させ、俺がブリ
ッジを撃ち抜こうとした瞬間に、巡洋艦から白旗
が揚がる。

 「こちらは、巡洋艦(トパーズ)だ。降伏する
  ・・・」

 「機関部を停止しろ!火器の近くに人を置くな
  !少しでもおかしな素振りを見せたら撃沈す
  る!」

 「その火器が、もうないのだ・・・」

巡洋艦の艦長と思われる人物の力のない声を聞き
ながら艦の様子を見ると、破壊された砲塔や火器
の誘爆を防ぐために、何人かの人員が作業をして
いる様子が見える。
どうやら、この艦に反撃能力は残されていないよ
うだ。
 
 「了解した。降伏を受諾する」

 「カザマ!甘いぞ!敵は皆殺しだ!」

突然、マーレの乗った「ジン」が部下と共に現れ
、彼は重突撃機銃を巡洋艦の艦橋に向けた。

 「俺の部下を殺した報いだ!降伏など認めん!
  死にやがれ!」

だが、それを見逃せなかった俺は、咄嗟にマーレ
に銃口を向けた。

 「どういうつもりだ?」

 「上官の軍律違反を止めています。ここでやめ
  れば、告発はしませんが、降伏した敵を討つ
  となると、しかるべき場所であなたを告発し
  なければなりません」

 「俺に逆らうのか?」

 「逆らってはいませんよ。軍律違反で罪に問わ
  れようとしている、上官をお助けしているの
  です」

 「ふん!俺が誰の派閥に属していると思う?こ
  の程度の事は、簡単にもみ消せるんだよ!」

 「本当に、ザラ国防委員長に報告しても宜しい
  ので?」

俺はザラ国防委員長の能力は認めていたが、人格
面については不明だったので、彼の名前を出す事
は一種の賭けであった。

 「ふん、偽善者め!興が削がれた。追撃を再開
  するぞ!(覚えてやがれよ!)」

マーレは追撃を再開するために、自分の部下を引
き連れてその場を立ち去ってしまう。
  
 「見たな。戦場の兵士は殺気立っている。余計
  な事をしないで、白旗をあげて待機するよう
  に」

 「貴官の善意に感謝する」

 「俺は、戦争のルールを守っただけだ。では!
  」

俺は再び二人を引き連れて、追撃を再開する。

 「カザマ、お前のした事は正しいが・・・」

 「これで、あいつの部下でなくなるなら大歓迎
  だ」

 「そうだな。後からズドンという可能性も増し
  てきたからな。しかも、奴にはそれを揉み消
  せるコネが存在するんだ」

 「ザラ国防委員長のか?」

 「いや、彼は強硬派だが、ああいう手合いは許
  せない口だ。だが、わざわざ一兵士の事を気
  遣う余裕はないし、軍上層部には、マーレを
  お気に入りの連中が何人かいるからな」

 「謀殺か、前線で使い潰すかのどちらかだな」

 「まあ、そんなところだ」

 「すまないね。巻き込んでしまって」

 「いいさ。俺も奴が嫌いだし。この先何年も、
  奴におべんちゃらを使うくらいなら、嫌われ
  ていた方が良い」

 「それに、軍にはクライン派というものもある
  。それを利用して、生き残りを図るという手
  もあるさ」

 「なるほどね」

俺は「おっさん」と「ジロー」の説明に感心する

その後、俺達は多くの敵を撃破したり、降伏をさ
せて多くの戦果をあげたのだが、その戦果はマー
レによって過小に報告され、勲章などは一切貰え
なかった。
だが、この戦いの後で彼の部下でなくなった事だ
けは、唯一嬉しい出来事であった。


  

 
(同時刻、第八艦隊旗艦「メラネオス」艦内)

 「コープマン参謀長!モールス信号でも、手旗
  信号でも、発光信号でも何でも構わない!あ
  りとあらゆる手段を使って残存艦艇を集結さ
  せろ!」

 「了解しました」

砕け散って飛び交うデブリによって視界がふさが
れ、Nジャマーの影響で通信もままならない状態
の地球連合軍艦隊は、ザフト軍のモビルスーツ隊
によって次々に各個撃破されていったが、第八艦
隊司令官であるハルバートン准将は懸命に体制の
立て直しを行い、デブリのない外円部に残存勢力
を集結させる事に、ある程度成功していた。

 「まさか、ここまでやるとはな・・・」

 「大半はデブリ帯の一部になるでしょう。それ
  に、重力に引かれた破片もほとんどが大気圏
  で燃え尽きると思います」

 「そして我々は、月へのザフト軍の侵攻を許す
  わけだな」

 「月が落ちるとは思えませんが・・・」

 「だが、安全圏であった月が、臨戦態勢に入る
  のだ。これは、大きな影響が出るぞ」

 「そうですね。我々が不利な事ばかりです」

二人がこれからの戦況に頭を悩ませていると、「
メラネオス」の無線にノイズ混じりの声が入って
くる。

 「第三艦隊MA空母(サラトガ)所属、MA隊
  第二中隊長コテツ・ササキ中尉です。母艦の
  沈没とエネルギー切れ寸前の状況により、部
  下共々路頭に迷っています。ご指示を」

 「(ワスプ)への着艦を許可する」

 「了解です」

ササキ中尉と名乗った青年仕官は、生き残った部
下を統率しながら「ワスプ」へと飛んで行く。

 「大したものだな。他の隊は壊滅状態なのに、
  半数近くも部下を生き残らせている」

 「そうですね。(ワスプ)なんて収容スペース
  に事欠きませんからね」

 「MA隊の損害率が七割か・・・。これは、責
  任問題になりそうだな」

 「責任なら、戦死した方々が取りますよ。我々
  を処分して、誰がザフト軍と戦うのですか?
  」

 「なるほどな。確かにそうだな」

開戦以来、大量の艦艇の喪失と、多くの司令官、
艦長、士官の戦死により、既にこれらの人材の不
足が予想されていたので、前線に出る自分達がク
ビになる事はないと、コープマン大佐は考えてい
た。

 「さて、そろそろ引き揚げるとするか・・・」

 「ほぼ半数ですか。大きな損害ですね・・・」

 「まだ増える可能性がある!全艦、全ての火器
  を発射用意!」

ハルバートン准将が一斉射撃を命じると、自分達
を目指して、デブリの中から二十機あまりの「ジ
ン」の部隊がこちらに迫ってくる。

 「追撃隊・・・。(ジン)ですね」

 「当てようと思うなよ!発射できる全ての火器
  を三斉射だ!」

 「発射用意!」

 「撃てぃ!」

ハルバートン准将が、「ジン」部隊がいる方向に
全艦艇の火器の射撃を集中させると、不意をつか
れた五機の「ジン」が爆発する。

 「よし、全軍撤退だ!MA隊は、(ジン)部隊
  の足を止めるように」

 「ですが、それでは・・・」

 「そうだ。MA隊は壊滅するだろうな。それで
  も私には、この艦隊を月に連れて帰る義務が
  ある!」

 「了解しました」

ハルバートン准将は、艦隊の撤退を成功させるた
めに、非情な決断をするのであった。


 「せっかく、生き残ったのに!」

 「マオ准尉、これは命令だ。仕方がない・・・
  」

 「ですが・・・」

 「俺も悔しいさ。でも、所詮俺達は有色人種な
  んだよ・・・」

ササキ中尉率いる第二MA中隊の面々は、アジア
系の大西洋連邦人が大半を占めていた。
ハルバートン准将は、全てのMA隊に阻止命令を
出していたので、差別をしているつもりはなかっ
たのだが、その当事者であるササキ中尉自身は、
そう思ってはいなかった。 

 「グエン少尉が戦死しました」

 「キム准尉もです」

 「オオカワ准尉が戦死!」

艦隊を逃すために「ジン」部隊を阻止しているM
A隊は、次々に落とされていき、自分達の命も、
もはやこれまでと思った瞬間、急に「ジン」部隊
が引き揚げていく。

 「どうしたんだ?」

 「エネルギー切れのようです」

 「そうか・・・」

だが、不意の集中砲撃によって仲間を失った「ジ
ン」部隊の攻撃はすさまじく、更に半数以上のM
A隊が撃破されて、多くの仲間が戦死していた。

 「生き残りは名前を言え」

 「ミヤモト少尉です」

 「グレイシー准尉です」

 「ファン准尉です」

 「スンミン准尉です」

 「三十六機の中隊が、俺を含めて五機のみか・
  ・・。さあ、引き揚げるぞ!」

 「「「「了解!」」」」

 「(白人共め!ハルバートンめ!この恨みは決
  して忘れないぞ!必ずお前よりも上の地位に
  就いて、お前達を破滅させてやる!だが、こ
  んなMAではそれも適わない。俺にもモビル
  スーツさえあれば!)」

ササキ中尉は、後にチームを組む四人の部下達と
共に、「ワスプ」に帰艦する事に成功するのだが
、彼の心の中には、どす黒い怨念が涌き始めてい
た。
こうして、「世界樹」攻防戦は幕を閉じ、地球連
合軍はほぼ半数の戦力を、ザフト軍も二十%の戦
力を失ったのであった。


数日後、「世界樹」の攻略というか破壊が完了し
、マーレは「ハンニバル」の自室の中で、子飼い
の部下と相談をしていた。

 「マーレ隊長、カザマをどうしますか?」

 「さすがに、戦果を過小報告したのはまずかっ
  たらしい。そこで、パーソナルカラーを認め
  る事にした」

カザマが、大活躍したところを多くの味方将兵に
目撃されていたらしく、「何も恩賞がないのは、
まずいのでないか?」という意見が周りから出て
いたのだ。
そこで、マーレは自分への批判を避けるために、
カザマにパーソナルカラーを認めさせるように上
に働きかけていた。
 
 「目立たせて戦死させるのですか?」

 「そうだ。そして、激戦地に派遣されるように
  手配する。いくら奴の運が良くても、確実に
  戦死するような戦場をだ」

 「確実に戦死する場所ですか・・・」

 「(オペレーションウロボロス)なる作戦を聞
  いた事があるか?」
  
 「はい。噂くらいなら」

 「噂では、連合に核を使わせないために、Nジ
  ャマーを地球上に散布するそうだ」

 「初耳です」

マーレは強硬派に属するザフト軍幹部と仲が良か
ったので、このような情報も早く入手出来た。

 「そうか。だが、Nジャマーは地球上に何万基
  も降下させなければならない。そして、そん
  な大規模な作戦は、確実に地球連合軍に察知
  されて、阻止部隊が派遣される」

 「つまり、そこでカザマに戦死して貰うと?」

 「そういう事だ。俺が手を下すまでもない!奴
  はナチュラルの豚共に殺されるのだ!ざまあ
  みろ!」

 「(だが、カザマの腕はマーレ隊長よりも上だ
  。本当に彼が、都合良く戦死するのだろうか
  ?」

マーレは部下の心配をよそに、いつまでもカザマ
の事を罵倒し続けるのであった。


(三月二十八日、デブリ帯内、ローラシア巡洋艦
 「フユツキ」艦内)

「世界樹」攻略を完了させた俺達は、最初の所属
先である「フユツキ」に移動になり、そこで残敵
掃討の任に就いていた。
地球連合軍は、二回の決戦で大きな損害を出して
いたが、まだ我々を圧倒する数の戦力を持ってお
り、俺達は小規模の艦隊に分かれて、各地で残存
している敵部隊の掃討を行っていた。
だが、昨日になって急に新しい作戦に参加するよ
うにと暗号が届いていたのだ。

 「(オペレーションウロボロス)か。俺達は、
  ここでこのまま待機で、実行部隊を待つわけ
  だ」

 「どんな作戦なんです?それって」

 「バルトフェルトが、アフリカに軍事顧問団と
  して降下しただろう。地球上に軍事拠点を築
  き、赤道上に点在する宇宙港を占領し、同盟
  国との関係を強化して、上手く勝ち逃げをし
  ようという作戦だな。まず、その初手として
  Nジャマーを大量にばら撒くわけだ」

 「世界中が大混乱ですね」

 「仕方があるまい。再びの核攻撃は容認できな
  い」

Nジャマーが世界各地にばら撒かれれば、世界中
の原子炉が止まり、無線通信等も阻害される。
世界中でエネルギーが不足して、餓死者も出るで
あろう。

 「何ともやり切れない話ですね」

 「家族はオーブだったか?」

 「はい」
 
 「なら大丈夫だ。オーブには実験用の原子炉く
  らいしか存在していない」

オーブは島国であり国土も狭いので、メルトダウ
ンを起こすと国民に逃げ道が存在しない原子炉は
設置されておらず、地熱、潮流、風力、太陽光発
電が主流であった。
そして、日本も核アレルギーが存在する影響で、
上記の発電方法の技術が進むと、多くの原子炉が
撤去されていた。

 「大きな被害を受ける国は、プラント理事国の
  三ヶ国だ。途上国にも、多くの原子炉を使用
  している国は存在しない」

 「そして、同盟国にはプラントから技術援助が
  行くわけだ」

 「そういう事」

 「さて、難しい政治の話は政治家に任せて、俺
  達は軍人として動きましょうよ」

 「そうだな。(黒い死神)に期待するとするか
  」

 「何です?それ?」
 
 「お前、パーソナルカラーを貰っただろう。こ
  の前、敵の兵士が無線で叫んでいたのを傍受
  したんだよ。(黒い死神が来る!)ってな」

そして、俺にも一つの変化があった。
それは、いきなりパーソナルカラーを認められた
事であった。
「世界樹」攻略戦では、何も恩賞が貰えなかった
俺ではあったが、敵の第三艦隊艦隊旗艦を見事に
沈めたところを多くの将兵に目撃されていて、戦
意向上の意味を込めて許可されたようだ。

 「でも、目立って早く死ねって事ですよね?」

 「捻くれてるな。お前」

 「ええ(どうせ、マーレの差し金だろう。パー
  ソナルカラーなんて、狙って下さいと同義語
  だからな)」

俺とオキタ艦長の話は終わり、「フユツキ」は目
標地点に向けて移動を開始するのであった。


(三日前、オーブ首長国連合首都オロファト)

 「場所はここで良かったと思うが・・・」

カナーバ外交委員長の指示で世界中を移動してい
るデュランダル外交官は、約束の時間に約束の場
所に到着していた。
 
 「ここは・・・?」

 「牛丼屋です。日本に本社があって、オーブに
  も何店舗か出店しています」

 「あなたは?」

 「大洋州連合の外交官です。ペンネームはベン
  です」

 「ギルバート・デュランダルです」

 「知ってますよ」

店内には、一人の四十歳前後の男性が席に座って
いて、自分にこのお店の説明をしながら、自己紹
介をした。
 
 「我々だけですか?」

 「いいえ。周りを御覧なさい」

ギルバート外交官が周りを見渡すと、いつの間に
か数人の男性が席に座っていた。

 「日本国外務省一等書記官の重光です」

 「台湾外交部の張です」

 「赤道連合外務省一等書記官のサムリンです」

 「イスラム連合のハマルです」

 「アフリカ共同体のチャドです」

席に座っていた男達は自己紹介を終え、それぞれ
に牛丼を注文し始める。

 「ハマルさんは、牛丼は大丈夫なのですか?」

 「イスラム教徒が駄目なのは、豚肉ですので」

 「なるほど。私はツユダクで」

デュランダル外交官があっけに取られている間に
、彼らは次々と牛丼を注文する。

 「デュランダル外交官は、お嫌いですかな?」

 「・・・・・・・。いいえ。初めてですので」

 「では普通で良いですな」

重光一等書記官が代わりに牛丼を注文してくれた
ので、わずか一分ほどで全員に丼が行き渡った。

 「それで、話し合いの方はどうなっているので
  すか?」

 「条件は前と変わりませんよ。でも・・・」

 「でも?」

 「みなさんが牛丼を食べてみたいと仰ったので
  、このお店に集合したわけです」

 「重光一等書記官!」

 「若いですね。デュランダル外交官は。羨まし
  いですが、もう少し落ち着かれた方が良いで
  すよ」

 「・・・・・・」

この中で一番若いデュランダル外交官は、老練な
重光一等書記官に、簡単にやり込められてしまう

 「それともう一つ。あの年輩の店員さんは、オ
  ーブの外務省職員です。一応中立国なので、
  牛丼を出しながら話を聞いているだけです」

 「私の記憶が確かなら、日本はプラントの敵国
  だったと思いますが・・・」

 「厳しいですな。デュランダル外交官は」

重光一等書記官は、デュランダル外交官の皮肉に
苦笑いする。

 「まあ。それは置いておいて、本題に入りまし
  ょう」 

 「(オペレーションウロボロス)ですよね」

 「そうです。Nジャマー散布後の行動の確認で
  す」

Nジャマー散布の一番の目的は、核攻撃の阻止に
あるが、二番目の目的は、プラント理事国の生産
力を縮小させる事にあった。
上記の三ヶ国は、化石資源が枯渇した現在では、
原子力を主なエネルギー源としていたので、それ
を抑える事は、敵の継戦能力を奪う事に繋がるの
だが、Nジャマーの影響は地球全域に及び、プラ
ントの同盟国にまで被害を与えてしまうであろう

そこで、その対策と損害の埋め合わせをする手段
の確認を行う事にしたのだ。

 「太陽光発電、地熱発電、潮流発電、風力発電
  のプラントと有線通信設備の援助をオーブの
  商社経由で行うという事ですよね?」

 「そうです。そして、その商品はプラント製と
  日本製と台湾製ですけど」

これらの商品はオーブの商社に輸出され、オーブ
製の商品としてプラント同盟国に輸出される事に
なっていた。

 「手間を考えると、直接輸出したい気分ですけ
  ど・・・」

 「そして、大西洋連邦軍に輸送船を撃沈されま
  すか?」

 「我々は東アジア共和国の構成国なんですけど
  ね。そう思いませんか?張さん」

 「今更、それも通用しないでしょうね。大西洋
  連邦は、中国に問いただしているそうですよ
  。(日本と台湾は何をしているんだ?)と、
  こうして悪巧みをしていますけど」

 「悪巧みですか。確かに、四月一日に発生する
  悲劇の対策を練って、事前に準備をしていま
  すからね」

 「ですが、大西洋連邦もとっくに気が付いてい
  ますよ。月から艦隊が発進したそうです。多
  分、(オペレーションウロボロス)の阻止が
  目的ですね」

 「今回は敵が攻勢に出るので、撃退が楽ですね
  。(世界樹)のようにはならないと思います
  よ」

 「今度デブリを増やすなら、速めに相談してく
  ださいよ」

 「それは言えてますな」

 「以後、気を付けますので」

デュランダル外交官は、素直に謝っておく事にす
る。

 「さて、話は終わった事ですし、牛丼でも食す
  るとしますか」

 「それもそうですね」

こうして秘密裏に集まった外交官達は、牛丼を食
べる作業に没頭するのであった。


(四月一日、地球軌道上「オペレーションウロボ
 ロス」実行宙域)

「オペレーションウロボロス」の第一段階である
、Nジャマー散布作戦を行う工作艦隊とその護衛
艦隊は、地球連合軍二個艦隊の突撃を受けて、大
混乱に陥っていた。
まさか二回も敗北した地球連合軍が、犠牲も省み
ずに突撃をかけて来るとは、予想していなかった
のだ。

 「オキタ艦長、まずくないですか?」

俺は相変わらずの助っ人家業を続けていたので、
例の二人を連れて、「フユツキ」の護衛を行いな
がら戦場を眺めていた。
混乱しているためか、追加の命令一つないので「
フユツキ」の護衛を続けていると、Nジャマーを
散布する工作艦が爆沈する様子が見える。

 「まずいな。七割を落とせれば成功なんだけど
  、あと四隻で七割を切ってしまうな」

オキタ艦長は、二隻目の工作艦が爆沈する様子を
見ながら、危機感を募らせていた。

 「でも、命令がありませんね」

 「待て!ちっ!運悪く敵の砲撃が、モビルスー
  ツ隊の隊長を戦死させたそうだ」

敵の戦艦の砲撃が、偶然にも護衛艦隊の「ジン」
部隊の指揮機を粉砕し、指揮順位が曖昧な我が軍
を大混乱に陥れていた。

 「次席指揮官は?」

 「五人ほどいて、それぞれに命令している」

 「アホか!」

 「カザマ、お前が収拾させろよ!」

 「無理だって!」

 「お前!赤服なんだろう?」

 「だけど、俺はこの小隊の指揮官に過ぎない。
  誰の差し金かは知らないけどね」

俺は過去の二戦で、かなりの戦果をあげているに
も関わらず、いまだにこの助っ人小隊の隊長でし
かなかった。
現に、「フユツキ」のもう一つの「ジン」小隊の
隊長が、俺の上官という事になっていて、俺は彼
に「フユツキ」の護衛を仰せつかっていたのだ。

 「ちっ!能力のある奴を何でちゃんと使わない
  んだ!わかった!俺が責任を取る!お前が好
  きにやれ!」

 「でもさ・・・」

 「いいからやれ!このままだと、作戦は失敗だ
  ぞ!」

 「わかりました」

俺は命令違反で軍法会議にかけられる事を覚悟し
ながら、独自の行動に出る事にするのであった。

 


 「敵の侵攻を阻止しろ!」

 「回り込んで敵艦を沈めるんだ!」

 「俺の援護に入るんだよ!」

「ジン」部隊の部隊長の戦死により、数人の隊長
がそれぞれに命令を出し始め、護衛艦隊は大混乱
に陥っていた。
モビルスーツ隊が混乱しているので、純粋な艦隊
戦では、数の少ないザフト軍が不利に陥っていた
のだ。
更に、MA空母からMA隊が出撃して戦況はます
ます不利になっていく。

 「ザフト軍モビルスーツ隊!俺に注目しろ!」

俺は敵の砲撃の一番激しい場所で、全モビルスー
ツに無線を入れる。

 「あれは・・・?」

 「(黒い死神)だ・・・」

 「(黒い死神)?」

 「敵を容赦なく狩るところから、その渾名が付
  いたらしい。先の掃討作戦で、この近辺にい
  た地球連合軍部隊のかなりの艦艇とMAが奴
  に倒されたそうだ」

「世界樹」攻防戦に参加していたパイロットが、
畏敬の念を込めて、他の仲間に説明をする。

 「彼が指揮を執るのか?」

 「ヘンデル!シモンヌ!部下を引き連れてMA
  隊を駆逐せよ!」

 「「了解!」」

 「マクスウェル!ランディー!それぞれに左右
  から敵艦艇を撃破しろ!いいか!全機、味方
  艦隊の射線上から退避するんだ!味方の艦隊
  にちゃんと砲撃をさせろ!」

俺は事前に聞いていたモビルスーツ隊の指揮官に
矢継ぎばやに指示を出しながら、敵の攻撃をかわ
し、工作艦を沈めに来たMAを次々に撃破してい
く。
俺は別に指揮官でも何でもないのだが、味方全体
が混乱していた事と、俺が赤服を着ていた事、そ
して、「黒い死神」の名前が浸透しつつあった事
が原因で、全員が素直に命令に従っていた。

 「カザマ!残りの味方はどうするんだ?」

 「味方艦の射線に巻き込まれないように、上下
  から攻撃をかけさせる!(おっさん)と(ジ
  ロー)が半数ずつ連れて行け!」

 「おいおい。俺は緑服だぜ!」

 「俺もだ」

 「関係ないさ。非常時だし、二人にはその能力
  がある。違うか?」

二人は緑服ではあるが、その能力と才能を十分に
持っていると俺は思っていた。

 「やってみるよ」

 「そうだな。それで、カザマはどうするんだ?
  」

 「全体の様子を眺めながら、なるべく多くの敵
  を落とす!」

俺は部下達に命令を出した後、単機で敵艦隊に突
撃をかけるのであった。


(十分後、地球連合軍第二艦隊旗艦「ブラッドレ
 ー」艦内)

ザフト軍の「オペレーションウロボロス」実行艦
隊を攻撃している地球連合軍艦隊には、二つの艦
隊が存在していた。
だが、地球連合軍は開戦以来の大敗北で、多くの
艦隊司令官と艦艇を喪失していて、この作戦に派
遣出来たのは、無傷の第二艦隊と壊滅した三つの
艦隊の寄せ集めて数を揃えた、もう一つの名前だ
けの艦隊だけであった。
実は月の地球連合軍宇宙軍本部では、第五・第六
艦隊でプラント本国を一気に落として戦争を早期
終結させる案が浮上していたので、これ以上の戦
力が割けなかったのだ。
それでも、第二艦隊司令官であるフーバー少将は
、犠牲を省みずに突撃をする事によって、ザフト
軍艦隊に大混乱を起こさせる事に成功していた。
ところが、それも長くは続かず、混乱から回復し
たザフト軍の反撃が始まって、その進撃速度が徐
々に遅くなっていった。
 
 「だから言ったんだ!何がプラント本国を直接
  突くだ!そんな戦力があるなら、こちらに回
  せば良かったんだ!」

 「それは正論ですが、こちらはザフト軍艦隊の
  倍の戦力を持っています。それに、向こうは
  工作艦を守らなければならないのです。今回
  の作戦は、Nジャマーの散布を防げれば良い
  のですから、この戦力で十分と思ったのでし
  ょう」

 「あれが、地球に落ちる事の意味を理解してい
  るのかな?上層部の連中は・・・」

 「私からは何とも・・・」

フーバー少将とフンボルト参謀長が話をしている
間に、戦況は次第に地球連合軍の不利に傾いてい
く。

 「戦艦(ミネソタ)撃沈!マイル准将戦死です
  !」

 「巡洋艦(ミネアポリス)撃沈!巡洋艦隊司令
  モーリー准将戦死!」

 「巡洋艦(グアム)撃沈!駆逐艦隊司令ボーク
  大佐戦死です!」

今までは、少し不利な程度だった戦況が、加速度
的に悪化していき、管制官の悲鳴のような報告が
続く。

 「どういう事なんだ?」

 「どうやら、体勢を立て直されてしまったよう
  です。特に混乱してバラバラに戦っていた、
  (ジン)部隊の連携が復活しています。これ
  により、MA部隊と前方の部隊が大苦戦をし
  ているようです」

 「ならば、我々も前進だ!」

 「危険です!」
  
 「Nジャマーの散布は、絶対に阻止するんだ!
  あれが地球に撒かれたら、多くの犠牲が出る
  ぞ!それも、一般市民にだ!俺は命をかけて
  アレを止める!」

 「わかりました。小官もお供します」

 「聞いたな?損害の大きい前方部隊を下がらせ
  ろ!俺達が前に出るぞ!」

こうして、第二艦隊司令官であるフーバー少将の
決断により、戦いはクライマックスに向かうので
あった。


 「カザマ隊長!どうやら、後方部隊が前に出る
  ようです」

 「ならば、今度はそれを撃破しろ!後退する部
  隊は、無視して構わない」 

 「ですが、あなたの流儀に反しませんか?」

 「俺達の目的は、(オペレーションウロボロス
  )の支援任務だ。後退する敵は、工作艦から
  距離を置くので砲撃は出来ない。ならば、新
  たに前に出てくる敵を倒すべきだ」

 「納得しました」

 「ならば、それを遠慮なく撃滅せよ」

 「「「了解!」」」

俺は戦場を駆け巡り、「ジン」部隊に指示を出し
ながら何隻かの艦艇と二十機を越えるMAを撃破
していた。
中には、指揮官が座乗していた艦艇もあったので
、それなりのダメージを与えたであろう。
現に戦況は、味方が敵を押し戻す状況になってお
り、先ほどの混乱からは、完全に脱したようであ
った。
そして、今度は敵の大将が直接前線に出て戦うつ
もりらしい。
敵の士気が回復していく様子が確認できた。

 「防衛網を突き破れ!一艦でも多く工作艦の射
  程距離に入るんだ!」

 「敵の前進を許すな!(モクラ叩き)の要領だ
  !前に出た敵を集中して撃破しろ!」

地球連合軍艦隊は、Nジャマーの散布を阻止すべ
く、ザフト軍艦隊は、Nジャマーの散布を成功さ
せるべく、再び大規模な艦隊戦が勃発する。

 「力押しか!敵の司令官は死を賭してでも、N
  ジャマーの散布を防ぎたいらしいな」

だが、始めは士気の高さと数の勢いで再び優勢に
立った地球連合軍艦隊も、護衛のMA隊が「ジン
」部隊に壊滅させられると、再び苦戦に転じてい
た。

 「駄目です!艦隊の損害率が、三十%を超えま
  した」

 「MA隊は?」

 「八割が戦闘不能です」

 「敵は?」

 「二割も落としていません・・・」

 「そうか。あと数キロが遠いな。一度は達しつ
  つあったのだが・・・」

 「ザフト軍の工作艦は、十五隻が健在です」

 「五隻沈めただけか。では、地球は・・・」

 「はい。防げませんでした」

二人の目前で、Nジャマーの散布を終えた工作艦
が、後退していく様子が見える。

 「敵は、我が艦隊の半数なんだがな・・・」

その半数の戦力を、やっとの思いでかき集めたザ
フト軍と、二兎を追ったために、艦隊を割って自
滅しつつある自分達。
あれだけの敗北を重ねても、まだ数の優位に胡坐
をかいている地球連合軍上層部に対して、フーバ
ー少将は怒りすら沸いて来なかった。

 「モビルスーツです。あの新兵器が、戦争を大
  きく変えました」

 「それとNジャマーもな。嫌な時代になったな
  」

 「既にこの場にいても無意味です。撤退を進言
  します」

 「俺もそれが良いと思う。だが、俺達は無理だ
  な」

 「ですね」

二人が正面に視界を送ると、「ブラッドレー」の
正面で、黒い「ジン」が重突撃機銃を構えていた

 「(黒い死神)・・・」

フーバー少将が全てを語りきらない内に、「ブラ
ッドレー」のブリッジは完全に破壊され、彼の意
識は永遠に消滅したのであった。


 「ちくしょう!カザマの野郎!」

「オペレーションウロボロス」は見事に成功を収
め、翌日に行われた、カーペンタリア降下作戦も
成功を収めたので、ザフト軍は祝勝ムードにわい
ていた。
だが、数少ない例外として、マーレは怒りに身を
任せて室内の壁を殴りつけていた。

 「クルーゼ隊長と遜色のない戦果ですね。これ
  では、カザマを出世させるしか・・・」

 「いや!奴に指揮権はなかったんだ!独断専行
  を罪に問えれば・・・」

 「(どうして、この人はこんなにカザマに拘る
  んだろう?)ですが、彼はその能力を示しま
  したよ」

 「あいつは、スパイの可能性がある!」

 「はあ・・・」

 「そうだ!その戦果を認めて、ネビュラ勲章を
  渡せば良いんだ。だが、奴が指揮権の序列を
  破って、独断専行をしたのも事実だ。そこで
  、出世はさせずに前線で戦死させる。奴は死
  んで英雄になるんだ!」

 「なるほど」

なぜマーレがここまでの力を持っているのかとい
えば、彼は強硬派に属する軍人や議員と懇意にし
ていて、次世代のザフト軍幹部として、期待され
ているからであった。
 
 「俺は絶対に奴を認めない!奴は使い潰して戦
  死させる。これがプラントのためなんだ!(
  やはり、あの二人の部下は邪魔だな。適当に
  栄転させて、カザマを孤立させれば・・・。
  さて、色々と動かなければ)」

マーレの部下は、彼の執念に首を傾げながら、指
示された仕事をするために、部屋を退室するので
あった。


 


(四月二十五日、ヤキン・ドゥーエ要塞格納庫内
 )

 「転勤だってさ」

 「俺もだ」

「オペレーションウロボロス」に参加した後の俺
達に、特に大きな状況の変化はなかった。
俺はその功績によってネビュラ勲章を貰ったのだ
が、一パイロットである俺と、勲章をくれたザラ
国防委員長の間でフレンドリーな会話があるわけ
でもなく、儀礼的な会話を二言・三言交しただけ
であった。
そして、その後も助っ人稼業は続き、一週間ほど
前に、このヤキン・ドゥーエ資源衛星で、プラン
ト本国侵攻を目指していた地球連合軍艦隊を迎撃
して、それを退ける事に成功していた。
だが、その後の俺は更に不利な立場に追い込まれ
る事になった。 

 「二人ともか・・・。それで、どこに配属され
  るんだ?」

地球連合軍艦隊を退けた後、この資源衛星は防衛
要塞に改良される事が決り、衛星内は建設工事並
みの喧騒に包まれていた。 

 「俺は、(カエサル)のモビルスーツ隊の隊長
  だ」

 「おめでとう。(ジロー)」

 「素直に喜べないけどな」

 「出世した事を素直に喜べよ。それで、(おっ
  さん)は?」

 「アカデミーの教官だってさ。俺を年寄り扱い
  しやがって!」

 「(おっさん)は家族がいるんだから、戦死な
  んて出来ないんだぜ。ちゃんと引き受けろよ
  」

 「だがな。これは、明らかにおかしい人事だ」

 「表向きは、モビルスーツ部隊を拡充するため
  に、ベテランを隊長に引き揚げる処置だ。そ
  して、(おっさん)は、パイロットを大量養
  成するために、教官を増員するというところ
  かな?」

 「表向きはな。なら、なぜカザマは別命あるま
  で待機なんだ?能力もある!手柄も立ててい
  る!同期のミゲル・アイマンとハイネ・ヴェ
  ステンフルスは、ちゃんと出世している!何
  でこんな無茶が通るんだ!」

 「落ち着けよ(おっさん)。自分の事じゃない
  んだぜ。実は、人事部に知り合いがいてな。
  それとなく情報を集めたんだよ。それによる
  と、俺は家族がナチュラルで、しかも地球に
  住んでいるから、スパイの可能性が捨てきれ
  ないそうだ。更に裏切る可能性も高いと。だ
  から、俺はこのままだそうだ」
 
 「そんなバカな・・・。でもお前は強いよな。
  俺なら確実に辞めてるぜ」

 「このまま逃げるのもどうかと思ってさ。それ
  に、大半の兵士達は普通に接してくれている
  し、友達も何人かは出来た。日本に比べれば
  、結構楽しい日々を送っている」

 「そうか・・・」

 「(おっさん)、(ジロー)。今までありがと
  うな。俺はしぶとく生き残ってやるから安心
  してくれよ」

 「生き残れよ」

 「ここで戦死したら、大バカだぜ」

 「わかってるよ。じゃあな!」

俺は二人と握手を交してから、ヤキン・ドゥーエ
要塞を、愛機の「ジン」と共に後にするのであっ
た。
そして、その三日後に命令が下され、俺は単身で
地球に降りる事になった。 

俺のこれからの運命は、まだ誰にもわからない・
・・。 


         あとがき

真面目三部作がこれで終わりです。
なぜこれを書こうと思ったのかといえば、自分の
作品の最初の部分を確認すると内容が薄かったか
らです。  

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze