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「これが私の生きる道!新外伝6灼熱の北アフリカ戦線編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-09-15 18:16/2006-09-16 08:55)
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(コズミック・イラ70、五月上旬、マルサマト
 ルー市内中心部)

この日のザフト軍の若き指揮官であるアンドリュ
ー・バルトフェルト隊長は、表向きは休暇を楽し
む事になっていた。
だが、この方面のザフト軍を指揮する彼が、本当
に休暇を取るわけもなく、本当の目的は、同じク
ライン派に属するカナーバ外交委員長の指示で、
イスラム連合の議長であるフセイン議長とアフリ
カ共同体臨時大統領であるリン・ダーウェンと会
談の席を持つ事にあった。
バルトフェルト隊長は、事前に指定されたマルサ
マトルーにある寂れた食堂に到着し、食堂内でボ
ディーチェックを済ませてから、奥の予約席に向
かう。

 「こんなにボロい食堂を、予約する人がいるの
  かね?」

 「我々のように、公の場で会談できない人向け
  だ。意外と需要がある」

 「なるほど。えーと・・・。フセイン議長閣下
  で?」

 「そうだ。そして、隣にいるのがダーウェン臨
  時大統領だ」

 「臨時ですか?」

 「そうだ。選挙はまだ行われていないからな」

イスラム連合とアフリカ共同体。
この二つの国家は、プラントのみが承認していて
、まだ国家とは呼べないかもしれない、地球連合
に敵対する国家である。
アフリカ共同体は、自治権もあり貧弱ながら警察
力と軍事力も持つ、一応は独立国家と呼ばれるも
のであったが、旧世紀から続く、ユーラシア連合
と大西洋連邦による経済力による支配に大きな不
満を持ち続けていて、この地域に多数の武装ゲリ
ラ勢力を生む要因になっていた。
臨時大統領であるダーウェンは、政治家ではない
が独自の力で鉱山を多数経営して富を築き、それ
を地元に還元して、住民に絶大なる支持を受けて
いた。
そして、他の地域からも様々な武装勢力同士の紛
争の調停や、土地の争い、新規の鉱山開発などの
仲介を引き受けている内に、北アフリカ地域を束
ねる代表者のような地位に就くように要請されて
しまい、選挙を行っていないので、臨時大統領の
肩書きで活動しているのであった。
当然そんな事を勝手にしていれば、大西洋連邦や
ユーラシア連合の傀儡とまで呼ばれている南アフ
リカ統一機構の反感を買うのが当たり前なので、
彼らのご注進により、ユーラシア連合の治安維持
軍の駐留を招いてしまい、危機感を覚えたダーウ
ィン臨時大統領が、プラントに対して援助を要請
したのであった。
開戦後、プラントはアフリカ大陸からの水と食料
の安定供給を目論んでいたので、双方の利益が一
致し、プラントは水と食料を売ってくれれば、ア
フリカ共同体の独立と武器等の輸出を認めるとい
う条件を提示した。
ところが、アフリカ共同体は、更なる条件を出し
てきた。
アフリカ共同体が、アフリカ大陸を統一し自己で
防衛可能になるまでの軍事条約の締結と、その手
助けを求めてきたのだ。
こうして、マスドライバーのあるビクトリアの占
領と共同駐留を条件に加え、二ヵ国は強固な同盟
を締結したのであった。
そして、それにもう一国が加わった。
イスラム連合である。
その国というか組織も、ユーラシア連合に組み込
まれている中東地域の独立を求めて戦い続けてい
る組織であり、プラントはユーラシア連合軍の補
給路の遮断を行う見返りに、武器の援助と独立の
承認をしたのであった。
そして本日、始めて三者の間で話し合いがもたれ
ていた。

 「若いな。バルトフェルト隊長は」

 「ええ。ですが、カナーバ外交委員長をここで
  会談させられるほど、まだ状況は改善してい
  ませんので」

バルトフェルト隊長は、自分がこの席にいる理由
を簡潔に説明する。

 「それもそうか。妙齢の女性には辛いものがあ
  るかもな。私も常に暗殺の恐怖に駆られてい
  る」

 「私もだ。地球連合軍の諜報部、大西洋連邦と
  ユーラシア連合の連中も独自に動いている。
  そして、ブルーコスモスの連中もだ」

地球連合軍にテロリスト扱いされている二人は、
常に謀殺の危機があるので、その席にカナーバ外
交委員長を参加させるわけにいかなかったのだ。

 「そうですね。我々がここに駐留してから、何
  人の不審者を射殺したか」

 「数え切れんな」

 「ですな」

 「それで、北アフリカの状況はどうなんです?
  」

バルトフェルト隊長は、確認するつもりでダーウ
ェン臨時大統領に現在の状況を尋ねる。
もし、本当にバルトフェルト隊長が知らなかった
ら、大変な事であるからだ。

 「大分駆除はしたよ。治安維持駐留軍を名乗る
  治安破壊者共を」

アフリカ共同体軍は、開戦直後に降下してきたザ
フト軍軍事顧問団と協力して、北アフリカに駐留
していたユーラシア連合の治安維持駐留軍の排除
と武装解除をほぼ終了させていたが、その事に激
怒したユーラシア連合は、海路や中東経由で多数
の戦車部隊が主力の援軍を送り込んで来ていた。

 「なるほど。それは結構です」

 「我々も、中東で補給部隊への襲撃と物資の強
  奪を行っている。連中も大分苦しいはずだ」

三者が現状の確認を行っているが、基本的な作戦
案に変化はなかった。
まず、中東地域でイスラム連合の独立を支援して
、その見返りにアフリカへの補給路を絶たせる。
次に、アフリカ共同体に北アフリカの地域の完全
掌握を行わせて、ザフト軍のビクトリア宇宙港の
占領作戦を支援させる。
最後に、地中海にザフト軍潜水艦隊と水中モビル
スーツ部隊を侵入させて制海権を確保し、ジブラ
ルタル基地の占領と強化を行う。
これだけやって、始めて自分達に勝利の目が見え
てくるのだ。
勿論、一つでも失敗すれば、数の少ない自分達は
アフリカ大陸から叩き出される運命になるであろ
う。

 「それで、ユーラシア連合軍の大部隊は、カイ
  ロ近郊から動かないのですか?」

 「大部隊ゆえに補給が苦しいらしい。我々の作
  戦が成功しているのだ」

北アフリカに侵攻したユーラシア連合軍は、大軍
ゆえにゲリラ戦法を取るアフリカ共同体軍とザフ
ト軍軍事顧問団に苦戦し、敵地ゆえに補給等でも
苦戦したので、エジプトに一時撤退する事態にな
っていた。
ザフト軍とアフリカ共同体軍は、初期の頃は戦力
が少なかったので、敵軍の消耗のみを目標にゲリ
ラ的な作戦を行っていたのだ。
別にユーラシア連合軍がどこの都市を奪還しよう
と、彼らに好意的な住民などはほとんど存在いな
いので、戦力を消耗するのみであったのだ。
そして、撤退したエジプトも安息の地とは言えず
、後方の中東地域でのイスラム連合軍の抵抗運動
とゲリラ活動に悩まされ、補給物資が不足するよ
うになっていた。
さすがに、植民地支配に長けた欧米諸国が主体に
なっているユーラシア連合なので、危機的状況と
いう事もなかったのだが、アフリカの大地に侵攻
する物資を集める事が出来ずに、双方の軍勢が睨
み合いという状況が続いていた。
バルトフェルト隊長は、軍事顧問団の長から少し
ずつ援軍を追加して、現在では、ザフト軍アフリ
カ方面軍軍団長という地位に就いていたのだ。

 「では、後は地中海の制海権の問題ですな」

 「それについては、あと三日ほどで決戦が行わ
  れるものと思います」

 「それで、勝機は?」

 「なければ、お二方と会談していませんよ」

そして、最大の補給路である地中海も安全とは言
い難かった。
ザフト軍は、「水中用ジン」や「グーン」の試作
機と潜水艦を組み合わせて初期的な通商破壊作戦
を開始しており、それなりの成果をあげていたの
だ。
通商破壊とは、別に無理に船を沈める事だけでは
ない。
「いつザフト軍が襲ってくるか?」これだけで、
輸送船は船団を組む手間を食い、護衛戦力の準備
に手間を食い、手間を食った分は輸送効率の低下
となって現れる。
この作戦を指示しているバルトフェルト隊長は、
まさに名将と呼ぶに相応しい人物であった。
二人の初老の政治家達が、プラントの代表者が若
造である事に腹を立てないのは、彼の実績を認め
ているからであった。

 「では、マイノリティーの勝利のために」

 「白人達に吼え面をかかせるために」

 「白人達の搾取からの独立のために」

三人の男達は、ミネラルウォーターで乾杯をして
から、それぞれの帰路に就くのであった。


(五月十八日、マルサマトルー近郊の臨時格納庫
 内)

 「俺の(ジン)の調子はどう?」

 「駄目です。部品がありませんから。それに、
  (バクゥ)を貰ったから良いじゃありません
  か」

 「俺は新品のモビルスーツがあるからと言って
  、古女房を捨てたりしない。俺は義理堅いん
  だ!」

 「苦労人ですね。言葉使いが年寄りくさいです
  よ」

 「ほっとけ!」

軍本部の命令で地球に降りた俺は、動かなくなっ
た愛機の代わりに新しいモビルスーツを寄こせと
、バルトフェルト隊長に文句を言いに行き、新型
四足歩行モビルスーツである「バクゥ」を貰って
訓練にいそしんでいた。
だが、前の愛機である「ジン」も忘れられなかっ
たので、整備兵を突付いて修理を懇願していたの
だ。

 「この(ジン)は、このままここで待機です。
  砂漠戦仕様に改良する部品も時間もありませ
  んので」

 「残念だなぁ」

 「それより、(バクゥ)の調整と簡単な整備を
  お願いしますよ。時間も人手も危機的なんで
  すから」

 「ああ。アレキサンドリア近郊で決戦だっけ?
  」

 「そうですよ。うちの隊長がロンメルになるか
  、モントゴメリーになるかという瀬戸際なん
  ですよ」

 「でも、敵は補給路が厳しいんだろう?なら、
  もっと待った方が・・・」

 「南アフリカ統一機構軍が、北上の準備をして
  いるそうです」

整備兵によると、大西洋連邦の支援を受けた南ア
フリカ統一機構軍が我々を粉砕すべく、北上を開
始してるらしい。

 「忙しい事だな」

 「それよりも、調整!整備!」

 「わかったよ」

俺は隣の格納庫に行き、新しい相棒である「バク
ゥ」の整備を始める。
こいつの売りは、戦車を翻弄する圧倒的な機動性
であり、きっと多くの戦車を葬ってくれるであろ
う。

 「なかなか罪深くなったな。俺も」

 「何が罪深いんだい?」

 「バルトフェルト隊長!」

コックピット内で調整を行っていた俺が後を見る
と、そこに、この部隊の隊長であるバルトフェル
ト隊長がいた。

 「いえね。人を殺す家業にも、慣れてきたなと
  思いまして」

 「嫌かい?」

 「嫌ですけど仕事ですからね。せいぜい早く終
  わらせるように努力して、後で子供でも作っ
  て減った分の回復に努めたいと思います」

 「君は面白いねーーー。ダコスタ君の百倍は面
  白い。彼は優秀だし、いい奴なんだけど面白
  みに欠けるからね」

 「そうですかね?」

 「それに、優秀でもある。ご両親は君に期待し
  たんだろうね」

 「いえ、遺伝病の予防だったそうです。医者の
  嘘だったらしいですけど」

俺は、自分の生い立ちをバルトフェルト隊長に話
し始める。

 「なるほどねえ」

 「何をどう騙されたのか知りませんけど、能力
  面の調整に大金をかけたそうですよ。そんな
  事が、本当に出来るのかどうかは知りません
  けど・・・」

 「出来るさ。プラントでは、資産家の子息はほ
  ぼ例外なく優秀だ。これも、コーディネート
  によるものなのさ。お金持ちは、大金をかけ
  て子供をコーディネートする。だから、優秀
  で社会的地位の高い職業に就く。これが、プ
  ラントの現実だ」

 「みたいですね」

 「そして、その報いとして出生率の低下に見舞
  われている。だから、婚姻統制を行っている
  」

 「そうですか。でも、私には関係ありません。
  私と結婚するプラント出身の女性など存在し
  ませんから。それに、いつ戦死するかもわか
  らない身でもあります」

 「殺した分を、自分の子供で償うのではないの
  かい?」

 「あくまでも願望ですよ。現実的に結婚なんて
  無理ですから」 

俺は一人で生きていく。
友達は大切だが、よそ者の俺と結婚するプラント
出身の女性など皆無であろうし、ナチュラルには
もっと存在しないであろう。
だから、結婚はかなわないであろう夢でしかない
のだ。

 「僕は婚姻統制に逆らっている。彼女とは遺伝
  子が適合していないから本当は結婚が不可能
  なんだ。でも、僕は彼女と結婚するさ」

 「そうですか」

バルトフェルト隊長は、隣に副官として黒い髪の
美女を連れていたが、彼女とバルトフェルト隊長
が恋人同士である事は、誰もが知っている事実で
あった。

 「遺伝子が適合しないからと言って、子供が出
  来る可能性がゼロとも言えまい。だから、僕
  は好きな女性と結婚するさ」

 「私はどうしましょうかね?」

 「好きにすれば良いさ」

 「好きにします」

 「でも・・・・・・」

 「でも?」

 「君のアカデミー時代の素行は、褒められたも
  のではないね。噂が色々と流れてきているよ
  」

 「はははは。整備に没頭します」

 「了解!期待しているよ」

俺は、バルトフェルト隊長との会話を打ち切り、
「バクゥ」の整備に没頭するのであった。


(五日後、アレキサンドリア西方五十キロの地点
 )

 「攻撃開始!」

アフリカ共同体軍とバルトフェルト隊長指揮下の
ザフト軍アフリカ方面軍は、マルサマトルー東方
二十キロの地点で、ユーラシア連合軍部隊との交
戦を開始した。
これは、一昨日に発生した潜水母艦艦隊と新型水
中用モビルスーツ「グーン」を主力とした、ザフ
ト軍艦隊とユーラシア連合軍地中海艦隊との艦隊
決戦が、ザフト軍の勝利で終わった事を受けての
事であった。

 「スエズから連中を叩き出すぞ!これは、前哨
  戦だ。短時間で終了させるように」

 「「「了解!」」」

バルトフェルト隊長指揮下のザフト軍は、「ジン
」を砂漠戦仕様に改良した「デザートジン」と「
バクゥ」、そして配備されたばかりの空中用モビ
ルスーツ「ディン」数機を主力に、攻撃ヘリや鹵
獲した戦車や装甲車で武装し、アフリカ共同体も
多数の鹵獲機材で武装していた。

 「あの戦車は、どこの戦車だい?」

バルトフェルト隊長は、副隊長のダコスタにアフ
リカ共同体軍が使用している戦車や装甲車の出元
を尋ねる。

 「えっ?鹵獲車両ですよ」

 「違う!それじゃない。もう半分の見慣れない
  戦車や装甲車の事だ。それに、アフリカ共同
  体の連中は随分と良い装備を使っているな」

 「ああ、オーブと日本からの輸入品だそうです
  」

 「輸入品ねえ」

アフリカ共同体は、多数の武器弾薬、周辺装備、
銃・弾薬、車両等をオーブから輸入していた。
オーブは、これらの物資を衣服と金属部品と車だ
と言って、平気な顔で輸出していたのだ。
そして、日本もオーブ経由でこれらの物資を日本
産の衣服と食料としてアフリカ共同体に輸出して
いた。
途中でオーブ産にはなっているが、誰が見ても日
本の輸出品なのは公然の秘密であった。

 「でも、連合に恨まれそうだね」

 「恨まれはしますが、連合も様々な物をオーブ
  から輸入していますからね。誰もオーブの国
  旗を掲げた船は攻撃できません。お互い様と
  いう事です」

 「それで、日本はどうなんだ?」

 「あの国は、政治体制が開戦の二年ほど前に変
  化しましたからね。噂によると、プラントと
  の同盟を狙っているとか・・・」

 「国力の差から見ても、無謀な賭けだと思うけ
  ど・・・」

 「ですが、我々にとってはありがたいですよ。
  この秘密の申し出で、カナーバ外交委員長が
  、この戦争の意味あいをプラント理事国家の
  横暴を阻止する戦いと位置づけて、抑圧され
  ている地域の独立を支援するという方向に持
  っていくそうです」

 「それで、自分達も独立してしまうか。敵の敵
  は味方。簡単な理屈だね」

 「それで、日本の援助の第一弾があれです。一
  世代前の五二式戦車と五三式装甲車、五一式
  自走砲、五四式攻撃ヘリ、五十二式垂直上昇
  戦闘機と色々ありまして、全部屑鉄の名目で
  輸出されています」

 「でも、古い装備だね」

 「電子機器が時代遅れなだけです。Nジャマー
  の影響下ですので、簡単な改良で十分に使え
  ます。それに、メイドイン・ジャパンの神話
  は現在も健在のようですよ」

 「物持ちの良い事で・・・」

 「モスボール状態で保管していたそうです。ち
  なみに、イスラム連合軍にも輸出されている
  そうです。名目は中古車だったかな?」

 「いやはや、何とも凄い事で。でも、プラント
  だけでは、とてもここまでは援助出来なかっ
  たからね。ありがたい事だよ」

 「そうですね」

そこまで話したところで、有線通信に一人の若い
男の声が入ってくる。

 「出ますよ。バルトフェルト隊長」

 「ああ。でも、なるべく降伏させる方針でお願
  いするよ」

 「鹵獲した武器で、アフリカ共同体軍を強化す
  るためですか?」

 「正解だ。君は本当に優秀だね」

 「褒めても何も出ませんよ」

 「じゃあ、お願いするよ」

 「了解です」

簡単な返事のあとに通信は切れ、「バクゥ」の部
隊がユーラシア連合軍の後方を遮断すべく、移動
を開始する。

 「僕が何もしなくて良いから楽だね」

 「カザマ君がちゃんとやっているのですから、
  隊長は指揮を執ってください」

 「つれないな。ダコスタ君」

 「アンディー、私コーヒーが飲みたい」

 「わかったよ。すぐに淹れるから」

 「隊長!」

 「まだ、戦況は動かないよ。君も少し落ち着き
  たまえ」

 「はあ・・・・・・」

ユーラシア連合軍の先鋒隊との交戦は、こうして
始まったのだが、バルトフェルト隊長は、優雅に
コーヒーを淹れる作業に没頭してしまうのであっ
た。


 「回り込め!(バクゥ)ならそれが可能だ!」

 「「「了解です!」」」

俺は自分も含めて九機の「バクゥ」を引き連れて
、ユーラシア連合軍の後方に回る作戦を実行して
いた。
敵は我々の侵攻方向に、コンバットボックスを多
数設置していたので、通常の部隊をそのまま突撃
させるわけにはいかなかったのだ。

 「本隊は?」

 「敵を引き付けています」

 「了解だ。さて、敵のケツを突付いてやるぞ!
  」

 「下品ですね。カザマ隊長は」

 「俺は、一般家庭出身のお坊ちゃんなんだけど
  ね」

 「本当ですか?」

 「本当だよ。それで、到着まであと何分だ?」

 「二分です」

 「ここで、無駄な損害を出すなよ。目標は司令
  部だ。邪魔する奴は全て粉砕しろ!」

 「「「了解です!」」」

こうして、俺は砂漠での戦闘を開始するのであっ
た。


 「あの戦車隊は前に出過ぎだよ。下がるように
  言ってくれ」

 「伝えます」

 「自走砲部隊に弾を節約するように言ってくれ
  。途切れないように撃つ事が重要で、むやみ
  に撃てば良いというものでもない」

 「了解です」

バルトフェルト隊長の本隊とアフリカ共同体軍は
、遠距離からの砲撃と攻撃のみを行い、無駄な消
耗を避けていた。
「デザートジン」が移動しながら、105ミリ迫
撃砲で敵陣地を砲撃し、僅かに三機だけ配備され
ていた「ディン」が、攻撃ヘリ部隊や垂直戦闘機
部隊と共同して、敵のコンバットボックスに攻撃
を加えながら、向こうの戦闘ヘリや戦闘機を落と
す。
戦いは均衡しながらも、損害率ではザフト軍有利
に進んでいた。

 「カザマ君は?」

 「予定ではあと十五秒です」

ダコスタ副隊長が、腕時計を見ながら答える。

 「速いね」

 「(バクゥ)ですから」

 「なるほど」

そこまで話したところで、敵の部隊に動揺が広が
り、後方から爆炎と煙があがっていた。

 「成功したようだね」

 「はい」

 「では、突撃の開始だ!ジワジワと圧力を加え
  て行け!」

 「了解です!」

こうして、戦況の変化により、バルトフェルト隊
の総攻撃が開始されるのであった。


 「司令部だ!可哀想だが、指揮官を殺せ!」

 「了解!」

俺達は敵部隊の後方に回り、防御が手薄な地点か
らの奇襲に成功していた。
敵は、数の少ない俺達が部隊を割るとは考えてい
なかったらしく、俺達の奇襲攻撃は「寝耳に水」
であったようだ。

 「全部、破壊するな!侵攻方向の敵だけ排除し
  ろ!」

俺は「バクゥ」に装備された450ミリ二連装レ
ールガンを前方に連射しながら、戦車や装甲車な
どを排除していく。
そして他の八機の部下達も、背中に装備したレー
ルガンと400ミリ十三連装ミサイルポッドで、
次々に抵抗を排除していった。
「バクゥ」は二つの装備の内、どちらかを選択し
て背中に装備可能であり、俺を含む三機がレール
ガンを、残りの六機がミサイルポッドを装備して
いた。

 「司令部だ!情報通りだな」

俺達が進路上の敵を撃破しながら前進していると
、事前に情報を聞いていた、司令部の置かれてい
るテントを発見した。

 「悪いけど死んでくれ!」

俺は、外に出て慌てふためいている司令官らしき
人物をテントごとレールガンで吹き飛ばした。
強力なレールガンなので、死体は跡形も残らなか
ったであろう。

 「司令官のリシェル少将と幕僚の抹殺に成功!
  あとは、本隊の侵攻を援護する!」

その後、俺達は主だった敵の戦力を破壊してまわ
り、後方からの攻撃に無防備であったコンバット
ボックスに穴を開けて、
味方の侵入ルートの確保に成功していた。
その後は、司令部を失って混乱した敵の撃破と追
撃を行い、多数の戦果と捕虜と武器と物資の確保
に成功したのであった。


 「いやあ、良くやってくれたね。(バクゥ)が
  始めてだったのに損害もなしか。感心するよ
  」

 「ですが、喜んでばかりもいられません。敵の
  本隊は、今日の連中が偵察部隊に見えるほど
  の規模というではありませんか」

 「そうなんだけどね。決戦は数日後だから、今
  は気楽に楽しんでくれよ」

 「わかりました。でも、酒はないんですね?」

 「ないんだよ。イスラム教徒もいるから、気を
  使っているんだ」

 「では、食う方に回ります」

 「そうしてくれ。(バクゥ)の整備は整備兵に
  任せてくれ。今日の英雄のために気合を入れ
  てやるそうだ」

 「それは良かった」

今日の戦闘に勝利したザフト軍とアフリカ共同体
軍は、戦場跡で使える兵器や物資の回収を行いな
がら、この場所に防衛陣地の設置を行っていた。
どうやら、今日の勝利が敵の怒りを誘ったようで
、大戦車部隊を含む敵本隊の進撃が開始されたよ
うなのだ。
ユーラシア連合軍は、北アフリカで最大規模を誇
るというか、唯一の敵部隊である我々を撃破すれ
ば、失った地域の回復も容易いと考えて、進撃を
開始したらしい。
更に言うと、補給が苦しいので、最大戦力を有し
ている今の内に、勝負をつけておきたいという事
情もあるようだ。

 「カザマ隊長!こっちですよ!」

 「隊長!飯ですよ!」

 「あーーー、腹減った」

俺は「バクゥ」隊の面々に呼ばれたので、焚き火
を囲いながら夕食を取る事にする。

 「今日の夕食はケバブか」

 「ソースは何にします?」

 「うーん。チリソースかな?」

俺がそう答えるとパイロット達は、周りを慎重に
見渡した。

 「どうしたの?」

 「バルトフェルト隊長の前で、チリソースは禁
  句です」

 「どうして?」

 「隊長はヨーグルトソースが正道で、チリソー
  スは邪道だと信じていますので」

 「別に何ソースでも良いと思うけど・・・」

俺はケバブにチリソースをかけながら、それにか
ぶりついた。
やはり、ピリ辛のソースの味と羊の肉は良く合う
と思う。

 「やっぱ、現地の食材は美味しいよな」

 「我々は独立を支援する味方ですからね。だか
  ら、物資が入りやすいそうです」

 「そして、ユーラシア連合軍は補給に苦しむか
  ・・・」

 「これで勝利できれば、北アフリカを勢力圏に
  加える事が出来ますし、ジブラルタル基地の
  占領と強化が完了すれば、地中海は我々の海
  です。そうすれば、戦力を蓄える時間が稼げ
  てアフリカ大陸の南下も可能です」

 「詳しいね」

 「バルトフェルト隊長の受け売りですよ」

 「でも、南アフリカ統一機構軍も北上している
  のだろう?」

 「戦力も練度も、ユーラシア連合軍よりはるか
  に下です。次の決戦に勝てれば、敵の北上を
  防ぐ事くらいは十分に可能です」

 「なるほどね」

俺はケバブを食べながら、彼らと様々な話しをし
た。
戦争の事、プラントの事、家族の事など。
そして、俺も自分の事を彼らに話す。

 「それで、カザマ隊長は部隊を率いていないの
  ですか。変だとは思っていたんです。ネビュ
  ラ勲章を貰っても1パイロットだなんて。(
  黒い死神)の二つ名は有名ですからね」

 「自分では実感がわかないな。俺は戦場で敵を
  殺す事しかしていないし」

 「でも、指揮は上手でしたよ。バルトフェルト
  隊長とそう変わらなかったです」

 「ありがとう」

 「多分、この戦いが終わったら、バルトフェル
  ト隊長があなたを引き抜くと思いますよ。隊
  長はあなたを物凄く評価していますから」

 「そうかなぁ?俺もここが結構気に入っている
  から、それもありだよな」

 「我々も大歓迎です。ダコスタ副隊長は良い人
  なんですが、やはり、パイロットの気持ちは
  、パイロットにしかわからない部分もありま
  して・・・」

 「そうだな。まあ、期待しないで新しい人事を
  待つとするさ」

俺達はそんな話しをしながら、夜は過ごすであっ
た。


(同時刻、カイロ近郊、ユーラシア連合軍戦車軍
 団司令部)

 「君がシュバリエ大尉かね?」

 「はい。モーガン・シュバリエ大尉であります
  」

北アフリカに駐留するユーラシア連合軍の中で戦
車師団を率いているクリスティー中将は、戦車部
隊で卓越した指揮を執る指揮官として有名だった
、モーガン・シュバリエ大尉を呼び出していた。

 「数日後には、ザフト軍と交戦する事になって
  いるが、何か意見はあるかね?」

 「敵の新型モビルスーツが脅威です。あの機動
  性と火力はあなどれません」

 「確かにそうだな。それで、大尉はどうすれば
  良いと考える?」

 「逆に言えば、あれさえ倒せば我々が数の上で
  有利です。敵は(ジン)を砂漠戦仕様にして
  使っていますが、機動性はいまいちなので、
  あの新型さえ倒せば・・・」

 「なら任せよう。我々は本隊と共に敵の三倍の
  戦力で敵の陣地に攻撃を仕掛ける。すると、
  敵は補給路の遮断を狙って例の部隊を出撃さ
  せるであろう。そこを君が指揮する戦車部隊
  で待ち伏せて撃破する。これで、どうだね?
  」

 「お任せいただけるので?」

 「大尉、我々は戦車部隊の指揮官だ。ここで戦
  車の力を見せておかないと、モビルスーツな
  どというゲテモノに取って代わられる可能性
  があるのだ。お互いのために頑張ろうではな
  いか」

 「はあ・・・」

モーガン大尉は、年齢のわりに柔軟な思考を持っ
ているので、クリスティー中将ほど戦車という兵
器に拘ってはいなかった。
新しい兵器が強いのなら、それに変更すれば良い

そういう思考の持ち主であった。
だが、それは自分が大尉という地位にいるからで
あろうとも考えていた。
クリスティー中将は、ユーラシア連合軍内で戦車
閥の有力なシンパとして活動していた。
彼には多数の仲間と上司と部下達がいて、戦車部
隊の将校の利益を守っていたのだ。
多分、それはあまり良い事ではないのであろうが
、自分がクリスティー中将と同じ立場にいたら、
彼と違う行動が取れるという確信を持てるほど、
自分が善人でもないと思っていた。

 「確かに、宇宙や水中でのモビルスーツの有用
  性は認めよう。だが、地上には重力がある。
  だからこそ、戦車という兵器の有用性は不変
  のものであるのだ。シュバリエ大尉!頑張っ
  てくれたまえ!」

 「了解です」

モーガン大尉は、短く返事をすると、司令部を後
にするのであった。


 「そんなわけで、俺達が何とかしなければなら
  ない」

モーガン大尉は、自分の指揮する部隊に戻り、部
下達に説明を始める。

 「それで、具体的にはどうしますか?」

 「敵の新型モビルスーツ部隊の動きを察知して
  、戦車砲のクロスファイア地点に誘導する」

 「それで上手く行きますか?」

 「幸いにして、戦車隊を沢山預かっているから
  な。いくつもクロスファイア地点を作って、
  何回もそこに誘い込むんだ。一回であのモビ
  ルスーツ部隊を全滅させられるとは俺も思っ
  ていない」

 「そこで、大尉の特殊な能力が役に立つと」

 「そうだな。敵の動きを素早く察知して指示を
  出す事にする。可哀想だが、これでザフト軍
  の連中もチェックメイトだな」

モーガン大尉は、周辺の地図を広げて、部下達に
大まかな指示を始めるのであった。


(二日後、ザフト軍・アフリカ共同体軍防衛陣地
 周辺)

 「攻撃開始!」

ユーラシア連合軍最高司令官アーベスト大将の号
令で、ユーラシア連合軍の大部隊が攻撃を開始し
た。
ザフト軍とアフリカ共同体軍は先日に落とした防
衛陣地を修復して防衛についていたので、双方で
決死の攻防が行われる。

 「いやはや、敵は大部隊だね」

 「感心している場合ですか!」

 「ダコスタ君、落ち着きたまえ」

 「落ち着いていられませよ!」

 「だが、もう少し引き付けてからだ。それから
  、(バクゥ)の部隊で敵の後方を遮断する」

 「ですが、敵が同じ手に二度も引っかかります
  か?」

 「だから、僕が後から予備の(バクゥ)隊を出
  撃させてその罠を噛み砕く。さすれば、敵は
  退却するわけだ」

 「それからは、カイロを目指して一直線ですか
  」

 「そういう事だ」

 「アンディー、コーヒーを淹れたわよ」

 「ありがとう。たまには、アイシャの淹れたコ
  ーヒーも良いよね」

 「はあ・・・・・・」

ダコスタ副隊長は、自分の上司のお気楽さに少し
呆れてしまっていた。


 「では、今日も張り切って行きましょう!」

 「「「了解!」」」

俺は先日と同じ面子を率いて、ユーラシア連合軍
に突撃を開始した。

 「目標は指揮官、通信部隊、物資の集積所だ。
  一気に駆け抜けるぞ!」

九機の「バクゥ」の部隊は、風のように敵陣をつ
き抜け、目標の設備を破壊して回っていた。
敵の主力部隊は、こちらの陣地を落とすべく前線
に移動していて、抵抗は非常に微弱であった。

 「何かおかしいな?」

 「どうかしましたか?」

 「敵の抵抗が微弱過ぎる。敵は、我々の五倍以
  上の戦力を有していたはずだ」

 「みんな前線に出ているのと違いますか?」

 「だといいのだが・・・」

 「カザマ隊長!敵の戦車隊に包囲されました!
  」

 「なるほど、そういう事か・・・」

俺達は餌である物資集積所に釣られて、見事に敵
の罠に嵌ってしまったのであった。


 「同士討ちは避けろ。狙う機体を見極めて一機
  ずつ確実に撃破せよ」

少し離れた砂山の上で、モーガン大尉は戦車隊に
細かい指示を出しながら、敵の新型モビルスーツ
部隊に攻撃を続けていた。

 「どこに逃げても戦車隊のクロスファイアポイ
  ントだ。これで終わりだな」

それでも、敵の新型モビルスーツは、四足歩行と
いう特徴を生かして、戦車隊の砲撃を巧みにかわ
しながら反撃を開始して、既にかなりの戦車が撃
破されていた。

 「モビルスーツとは、恐ろしい兵器だな」

だが、多数に囲まれての戦闘である。
二機の「バクゥ」が、少しスピードを落とした瞬
間に、戦車砲の直撃を食らって転倒し、そこを多
数の砲撃で止めを刺されて爆発する光景がモーガ
ン大尉の目に入ってくる。

 「このままやれば勝てるな。更に包囲網を縮め
  ろ!」

だが、戦況はモーガン大尉が予想していなかった
二つの要因によって再び変化するのであった。


 「レスルー少佐、モーガン大尉から包囲網を縮
  めるようにとの連絡が入りました」

 「ふん!大尉の癖に偉そうに!俺達はこのまま
  で良い。あの二機のモビルスーツに攻撃を続
  行するんだ!」

 「ですが・・・」

 「奴に正式な指揮権はない!あくまでも要請と
  お願いでしかないのだ。だから、軍令違反に
  は当たらない。だから、安心して砲撃を集中
  しろ!」

 「了解です!」

モーガン大尉の部隊指揮は、一つの大きな欠点を
抱えていた。
それは、モーガン大尉がこの部隊の最上位者でな
かった事である。
彼はクルスティー中将の引きで、この臨時戦車師
団の指揮を任されていたが、中隊や大隊の指揮官
には少佐や中佐が沢山いたので、あくまでもクリ
スティー中将の要請で、モーガン大尉の指揮に従
って欲しいという形になっていた。
本当は、戦時昇進でもさせるべきだったのだが、
兵からの叩き上げで将校になったモーガン大尉を
、少佐や中佐にするのはいかがなものかという反
対意見のせいで、その点が有耶無耶になっていた
のだ。
始めは、圧倒的な力を持つモビルスーツという兵
器に萎縮して、素直に命令を聞いていた指揮官達
も、二機の「バクゥ」が立て続けに爆発する光景
を目撃して、変な自信を持ってしまったようだ。
そして彼らは、自分達も手柄を立てるべく、連携
を無視して、それぞれが見極めた目標に向かって
攻撃を開始した

 「まさか、味方に裏切られるとはな・・・」

 「大尉・・・」

 「命令を遵守する部隊のみで、包囲網を縮めろ
  」

 「了解です・・・」

 「だが、これで全滅させるのは難しくなった。
  何でこうなるのかな?」

だが、モーガン大尉の悲劇はこれだけに終わらな
かった。

 「大尉!新手のモビルスーツ隊です!」

 「機種は?数は?」

 「四足の新型です!数は六機です!」

 「終わったな・・・・・・。だが、撤退はでき
  まい。とにかく、包囲した連中を一機でも多
  く倒す!」

モーガン大尉は、自分の戦死を覚悟しながら命令
を出し続けるのであった。


 「あれ?包囲網が弱まったな?」

俺は二人の部下を失い、自分達にも死の恐怖が迫
っていたのだが、急に敵の攻撃が弱くなった事に
気が付いた。

 「カザマ隊長、いったん!」

 「戦車隊を突っ切るぞ!」

七機になった「バクゥ」隊は、敵の包囲網が弱く
なった部分に突撃して、邪魔する戦車隊をなぎ払
いながら脱出を試みる。
だが、更に殿を務めていた一機の「バクゥ」が爆
散してしまう。

 「お前達は先に行け!俺が殿を務める!」

俺は部下達の搭乗する「バクゥ」を先行させ、自
分達を狙っている敵をレールガンで砲撃する。

 「カザマ隊長!危険です!」

 「行け!俺はバルトフェルト隊長からお前達を
  預かっているんだ!だから、一人でも多く無
  事に帰す義務がある。それに、俺の代わりな
  んていくらでもいるさ・・・」

 「カザマ隊長・・・」

 「そこまで悲観しなくても良いと思うけど」

 「えっ!バルトフェルト隊長!」

 「援軍に参上だ!厳しいところを任せて悪かっ
  たね」

急に敵の砲撃が止まり、その方向から新手の六機
の「バクゥ」が現れる。
どうやら、バルトフェルト隊長が指揮を執ってい
るようだ。

 「いいえ、三機も(バクゥ)を失ってしまって
  ・・・」

 「そのくらいは想定内だね。さて、敵の戦車隊
  を粉砕して、早く本隊に襲い掛かろうよ」

 「了解です!」

 「そうそう。君は元気な方が面白い!」

こうして、数の増えた「バクゥ」隊によって、戦
車隊は壊滅の危機を迎えるのであった。


 「駄目か・・・・・・」

モーガン大尉は、必至に部隊の建て直しをしてい
たが、敵に新手が加わったために、自分の子飼い
の部下達にまで被害が出始めていたので、状況は
思わしくなかった。

 「モーガン大尉・・・」

 「クリスティー中将に撤退を進言する」

 「ですが・・・・・・」

 「俺一人の首で済むなら安いものさ」

戦況は絶望的になっていた。
敵のモビルスーツの数は増え、命令を聞かなかっ
た部隊のせいでクロスファイア作戦は失敗に終わ
り、混乱した戦車隊は、蟻の群れのように蹴散ら
されいた。

 「最初に命令を無視したレスルー少佐が戦死し
  たそうです。残った部下達は大混乱していま
  す」

その後も、多くの指揮官達の戦死の報告が舞い込
み、モーガン大尉はその処理に忙殺される。

 「とにかく、カイロに向けて撤退だ!敵は本隊
  が目的だろうから我々を深追いするまい」

 「ですが・・・。それでは、あなたが・・・」

 「仕方がない。兵士の命には代えられない」

 「了解です」

こうして、モーガン大尉は残存していた部隊を率
いて撤退を開始した。
だが、足の遅い戦車部隊を引き連れての撤退は、
彼に更なる試練を課すのであった。


 「損害多数で撤退ですか・・・」

 「戦車を輸送するトランスポーターは本隊にあ
  るから、撤退は苦難を極めるだろうね。更に
  僕達がそれを逃す必要はない」

 「でも、今は・・・」

 「本隊だね」

俺とバルトフェルト隊長は、十二機の「バクゥ」
の部隊を率いて敵の本隊に突撃し、前後の敵に挟
まれた本隊は多くの戦力と兵士と指揮官を失い、
ある部隊は降伏し、残りの部隊は敗走するのであ
った。
こうして、北アフリカをめぐる決戦は、ザフト軍
とアフリカ共同体軍の勝利に終わるのであった。


(五月二十五日、カイロ西方五十キロの地点)

 「撃破しろ!」

 「「「了解!」」」

あの決戦から一週間、再び勝利する事に成功した
俺達は、捕虜と遺棄された兵器の回収を行いなが
ら、カイロに向けて進撃していた。
そして、俺は「バクゥ」部隊の指揮を任され続け
ていたので、ユーラシア連合軍の補給施設を確保
しながら、驚異的な速さで進撃を続けていた。
ユーラシア連合軍は、大部隊ゆえに進路上に補給
のための施設を 多く設置していたので、俺達は
「バクゥ」で先行してその施設の攻撃と接収を行
っていた。
こうする事により、遅れて到着した敗走部隊の降
伏が誘え、無駄な戦力の消耗どころか、鹵獲兵器
でこちらの戦力の増強を図れるという一石二鳥の
戦法であった。
ここは、北アフリカの砂漠地帯なので、補給が受
けられないという事は死を意味していた。
人間は水がないと生きていけず、かさ張る水は補
給所にある。
そして、その補給所は俺達が占拠している。
普通の精神をしていれば、大抵は簡単に降伏して
くれたのだ。

 「しかし、捕虜の移送が面倒くさいですね」

 「だが、殺すわけにもいかない。俺達は文明人
  だからな。戦争にもルールがあるんだよ」

 「それで、こいつらはどこに行くんです?」

 「ダーウェン臨時大統領が、経営する鉱山だっ
  て」

 「しっかりしてますね。大統領閣下は」

 「採掘をしていれば、衣食住を保障されて給料
  も貰えるんだ。それに、俺達に管理する能力
  はないからな」

 「それも、そうですね」

 「さて、前進を再開するか」

 「(バクゥ)もフル稼働ですね」

 「俺達もだけど・・・」

俺達は再び前進を再開し、一週間後に本隊の到着
を待ってからカイロに入城するのであった。


(同時刻、カイロ市内、モーガン大尉視点)

 「何とか生き残り、捕虜にもならなかったか・ 
  ・・」

結局、モーガン大尉は部下達と共に足の遅い戦車
を捨てて、後方から追いかけてきたトラックに便
乗してカイロ市内にまで逃げ込む事に成功してい
た。
そして、カイロ市内では、ユーラシア連合軍の撤
退準備が進んでいて、大半の戦力がポートサイド
で最後の抵抗を行う事になったいたが、装備の大
半を失ってしまった彼らがどこまで持ちこたえる
事が出来るのかは不明であった。

 「そして、俺は本国に召還か・・・・・・」

 「そんなバカな!モーガン大尉は、一人でも多
  くの兵士を助けようと・・・」

クリスティー中将指揮下の戦車軍団は、多くの戦
死者と捕虜を出して壊滅状態であったが、唯一無
事にカイロに到着した参謀の一人が、モーガン大
尉の独断専行を告発したので、彼は軍本部で査問
にかけられる事になっていたのだ。

 「仕方がないさ。軍隊とはそういうところだ。
  それでも、ポートサイドで無駄な抵抗をしな
  いで済むだけマシなのかもしれない・・・」

 「それもそうですね。では、私はポートサイド
  で最後の抵抗を行います。大尉もどうかご壮
  健で」

 「死ぬくらいなら降伏しろよ」

 「わかってますよ。じゃあ」

モーガン大尉は、自分を本国に移送する輸送機を
待ちながら、部下達と別れを告げた。
その後、モーガン大尉の査問は、証拠不十分でお
咎めなしとなったのだが、その席でモビルスーツ
の開発と配備を進言したために上層部に煙たがら
れ、月に飛ばされてしまう。
だが、新天地である月で大活躍をして、「月下の
狂犬」と恐れられるようになるのは、また別の話
である。 


(六月二日、カイロ市内中心部)

 「へえ、ここがカイロなのか。ザフト軍の軍人
  になって唯一の利点だよね。無料で海外旅行
  が出来る」

カイロに入場したザフト軍とアフリカ共同体軍は
、イスラム連合軍の兵士達と市民に熱烈な歓迎を
受けていた。 
そして、俺も市内の中心部に「バクゥ」を置いて
雄大な景色を眺めていたのだ。

 「歴史を感じるねえ」

 「はい!そのまま。そのまま」

 「何なんです?」

急に数人の男性達が、下から声をかけてくる。

 「ザフト軍に許可を貰った報道班です。プラン
  ト本国で放送する映像を撮っています」

 「それで、俺なの?」

 「はい。新型モビルスーツと赤服の指揮官です
  から、絵になりますよ」

 「ふーん。お好きにどうぞ」

俺は彼らに向かって敬礼をしてから、カイロ周辺
の景色をいつまでも見つめ続けるのであった。


(二週間後、ビクトリア宇宙港近辺)

 「追撃しろ!逃がすくらいなら撃破するんだ!
  」

カイロ攻略から二週間、俺達は「バクゥ」の部隊
を引き連れて北アフリカ各地を転戦していた。
スエズ運河を死守すべく、ポートサイドに篭城し
たユーラシア連合軍の事をイスラム連合軍とアフ
リカ共同体軍とザフト軍の一部の部隊に任せ、俺
達は各地で抵抗するユーラシア連合軍の小部隊の
鎮圧に走り回っていた。
そして、俺達の部隊の活躍に隠れて、バルトフェ
ルト隊長がビクトリア宇宙港の攻略を目論んでい
た。
少数精鋭のモビルスーツ部隊と特殊部隊を、密か
にビクトリア宇宙港の周囲に配置して、大気圏上
からの降下部隊と共同して占領を行うという作戦
だ。
この作戦は見事に成功し、二日前にビクトリア宇
宙港はザフト軍の占領下になっていた。
そして、先の北アフリカ戦線での功績と合わせて
、バルトフェルト隊長は周囲から「砂漠の虎」と
呼ばれるようになっていた。

 「南アフリカ統一機構軍と合流させるな!」

俺は「バクゥ」のレールガンを発射しながら、ビ
クトリア宇宙港陥落後に、南アフリカ統一機構軍
との合流を目指して敗走を続けている、地球連合
軍の追撃を行っていた。

 「無意味な抵抗をするな!」

俺はバズーカ砲を構えた兵士を乗せたジープを踏
み潰しながら、レールガンで戦車や装甲車を次々
に破壊していく。

 「これは虐殺だよな」

 「ですが、降伏しません」

 「なら、虐殺を続けるか」

俺は特別に頭部に設置して貰った二十ミリ機関砲
で、トラックやジープを破壊しながら、更に進撃
を続ける。
下を見ると、腕や足を失って泣き叫んでいる兵士
や、機関砲でバラバラにされて肉片になってしま
った兵士や、「バクゥ」に踏み潰されて煎餅のよ
うになってしまった兵士など、昔に小説で読んだ
事のある残酷な光景が広がっていた。
俺はこみ上げてくるものを我慢しながら、攻撃を
続行する。

 「カザマ隊長・・・。何もここまで・・・」

 「だが、連中が退却に成功すれば、また武器を
  取って俺達の仲間を殺すだろう。可哀想だが
  、投降するまでは徹底的にやれ!もう、俺は
  部下を失いたくない・・・」

 「隊長・・・」

新型モビルスーツ「バクゥ」は高い評価を受け、
次々に量産機が補充されてきたが、俺はすでに七
人の部下を失っていた。
昨日まで陽気に話し、同じ飯を食っていた部下が
突然いなくなる。
そんな嫌な思いをするなら、悪魔と言われようが
死神と言われようが、敵は徹底的に粉砕する。
これが俺の考えであった。

 「敵の司令官が、降伏を打診してきています!
  」

 「後続部隊に任せろ!俺達は更に前進だ!」

 「了解!」

こうして、俺達の活躍により、多くの地球連合軍
部隊が壊滅するか降伏をし、五日後に行われた南
アフリカ統一機構軍との戦闘で敵の北上を阻止し
て、かなりの損害を与える事に成功するのであっ
た。


(翌日、ビクトリア宇宙港、マスドライバー発射
 場)

 「お世話になりました」

 「残念だね。僕は君を引き抜きたかったのだが
  ・・・」

 「ザラ国防委員長の直々の指名ですからね」

 「何をさせるんでしょうか?」

 「さあ?噂によると、(新星)で大苦戦という
  か、無駄に時間を使っているからその辺の事
  かな?」

南アフリカ統一機構軍の北上を阻止したバルトフ
ェルト隊長は、アフリカにおける第一次作戦の終
結を宣言した。
戦力を蓄えるために、防衛主体の体制にして南ア
フリカ統一機構軍の北上を阻止する事のみに専念
する事や、占領した北アフリカ地域の防衛体制や
アフリカ共同体との共闘体制の強化、イスラム連
合軍との連携の強化、南アフリカ統一機構から寝
返りをしそうな軍人や政治家のピックアップとそ
の接触など、戦闘がなくても多くの仕事が待って
いたのだ。

 「君がダコスタ君と軍の事をやってくれれば、
  僕は安心して政治向きの仕事が出来るのに・
  ・・」

 「死神は、戦場でしか役に立ちませんよ」

 「そんな事はないのに」

 「そうですよ。きっと私に全部押し付けて、一
  人で遊ぶつもりなんだ」

 「言うようになったね。ダコスタ君」

 「付き合いも長くなりましたので」

 「おっと、もう時間ですね」

 「(黒い死神)は、愛機と共に宇宙にご帰還か
  ・・・」

いつの間にかビクトリアに輸送されていた愛機と
共に、俺はバルトフェルト隊長とダコスタ副隊長
の見送りを受けて、宇宙に帰還するのであった。


         おまけ

 「宇宙、カーペンタリア、北アフリカ、ジブラ
  ルタル。戦火は広がるばかりですね」

プラントで国民的人気を誇る歌手であるラクス・
クラインは、久しぶりのオフを自宅の自室で過ご
していた。
だが、自室でテレビをつけると戦争の映像ばかり
が流れ、近所では、ちらほらと戦死した兵士の葬
儀が行われていた。

 「北アフリカで(砂漠の虎)が大活躍ですか。
  バルトフェルト隊長も大変ですわね」

ラクスは、バルトフェルト隊長の事を考えていた

彼は軍人としては優秀だが、それほど好戦的な性
格をしているわけではない。
きっと、そんな二つ名を付けられても嬉しくはな
いであろう。

 「いつになったら、戦争は終わるのでしょうか
  ?アスランが戦場に出る前に終わって欲しい
  のですが・・・」

ラクスが婚約者の青年の心配をしていると、テレ
ビはカイロ占領の様子を映し出す。

 「あら?あの方は?」

テレビの画面に、カイロに入城するザフト軍とア
フリカ共同体軍の兵士を歓迎する住民の様子が映
し出された直後、「バクゥ」の頭部に乗ってカイ
ロ近郊の様子を嬉しそう眺める、一人のパイロッ
トの様子が映し出される。

 「彼こそは、ネビュラ勲章を授与され、(黒い
  死神)と呼ばれてるヨシヒロ・カザマです。
  彼はバルトフェルト隊長の下で大活躍をし・
  ・・」

ナレーターの説明を聞きながら、ラクスは彼の姿
から視線を逸らせずにいた。
ラクスもクライン議長の娘なので、「黒い死神」
の噂を聞いた事はあったのだが、印象としてはあ
まり良いものを持っていなかった。
彼は、戦闘中は一切の躊躇もなく確実な方法で敵
を倒し、多くの人を殺している。
その様子が、まるで人の魂を刈る死神のようであ
るという事から、地球連合軍にその二つ名で呼ば
れ、それがザフト軍にも広がっていた。
彼は、チャンスがあれば、敵の司令中枢を躊躇な
く破壊し、敗走する敵の追撃も戦果を広げるチャ
ンスだと言って積極的に行うらしい。
そんな噂を聞いていたので、どんなに冷たい人な
のかと思っていたのだが、映像に映る彼は、子供
のような綺麗な目でカイロ周辺の様子を眺めてい
たのだ。

 「(とても綺麗な目をしていて、およそ軍人に
  は見えないのに、戦果は一流ですか。とても
  面白い方ですわ。興味がわいてきました。さ
  っそく、調べなければ)」

こうして、一人の少女の目に一人の若い軍人が目
に止まり、彼の人生が大きくかわるのであった。


         あとがき

真面目もの第二段です。

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