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▽レス始

「これが私の生きる道!新外伝5「新星」攻略戦記編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-09-13 00:17/2006-09-13 09:30)
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(コズミック・イラ70、六月十八日、プラント
 本国軍本部国防委員長執務室内)

 「失礼します」

 「どうぞ」

プラント最高評議会の国防委員長であるパトリッ
ク・ザラは、一人の珍しい客を迎えていた。
普通は役職柄、男性の客が大多数であるのだが、
今日はピンク色の髪の十六歳の少女との面談が予
定されていたのだ。

 「お忙しいところ申し訳ありません」

 「何、アスランの婚約者という事は、将来の義
  娘なのだ。遠慮はいらないさ」

 「ありがとうございます」

 「それで、用件は?」

 「アスランは、大丈夫なのでしょうか?」

 「というと?」

 「アカデミーを半年で卒業して、戦争に行くな
  んて・・・」

普通は二年間行くアカデミーを、半年で卒業して
実戦に出るのだ。
心配になっても仕方がないのかな?
ザラ国防委員長は、そんな事を考えていた。

 「だが、時間がないからな。アスランは優秀だ
  から大丈夫だと思いたいし、他の生徒も条件
  は同じなのだ。不公平は良くない事だ」

 「そうですか・・・」

 「やはり、婚約者が心配かな?」

 「ええ。なので、一つご提案に伺いました」

 「提案かね?」

 「はい。アスラン達に最後の仕上げをして、戦
  場でも暫く面倒を見てくれる、優秀な軍人さ
  んを推薦したいと思います」

 「だが、ザフト軍は苦しい戦いをしている状態
  なのだ。前線の指揮官を引き抜くというのは
  ・・・」

 「彼は優秀ですが、いまだに一人で戦っていま
  す。彼を出世させて、アスラン達を指揮させ
  るのです。これなら、大した戦力の低下には
  なりませんわ」

 「優秀なのに、一人で戦っている?そんな事が
  ・・・」

 「この方ですわ」

ラクスは教官兼指揮官候補の男性の写真をデスク
にそっと置いた。

 「何々・・・。ヨシヒロ・カザマ。アカデミー
  を五位で卒業し、開戦以来、各地で転戦して
  大戦果を上げているか。しかも、(オペレー
  ションウルボロス)を阻止しに来た連合軍艦
  艇を、多数撃破してネビュラ勲章を授与か・
  ・・。しかし、何でこれほどの男が、1パイ
  ロットなんだ?」

ザラ国防委員長は深く考え込んでしまった。
国防委員長が、一軍人の去就に注目する事はほと
んどなかったので、現在の彼の様子を全く知らな
かったのだ。

 「確かに、ネビュラ勲章をあげた時の事は覚え
  ている。私は、隊長くらいにはなっていたと
  思っていた」

 「あら?パトリック小父様の差し金では、あり
  ませんのね」

 「どういう事かな?」

 「彼は地球育ちで、家族全員がナチュラルだそ
  うです。十五歳の時に単身プラントにあがっ
  てアカデミーに入学したとか。それを嫌う強
  硬派の方々が、ザラ国防委員長の意向を受け
  て飼い殺しにしていると、私は聞いておりま
  す」

 「何で、そんな無駄な事するのか・・・。一人
  でも優秀な軍人が欲しいこの時に・・・。私
  の意向を汲んでいるだと!連中にあとで問質
  してやる!」

ザラ国防委員長は激怒していたが、少女は顔色一
つ変えていなかった。

 「では、この方を教官として迎え入れましょう
  」

 「そうだな。その後、いきなり隊長はまずいか
  ら、クルーゼの下で副隊長にして力量を見る
  か」

 「それが、よろしいかと思います」

 「いや、でも助かったな。アスランの面倒を見
  させるのに最適な人材ではないか。これも、
  内助の功という事かな?」

 「そんな、大それた物ではありませんわ」

こうして、本人の預かり知らぬところで、新たな
人事が決定されるのであった。


(一週間後、L4宙域周辺、巡洋艦「ツイード」
 艦内)

 
 「(新星)の攻略に手こずっているのですか?
  」

 「そうだ。向こうもコーディネーターの傭兵を
  雇い始めてな。鹵獲した(ジン)を修理して
  使用しているそうだ」

この戦争は、コーディネーター主体であるプラン
トとナチュラル主体である地球連合との戦争であ
るが、プラントにもナチュラルがいるし、地球連
合にもコーディネーターは存在する。
そんなに簡単に分けられるものでもないのだ。

 「連中の腕はどうなんです?」

 「まあまあ。と言うのが実情だ。だが、ごく数
  人だが、凄腕の奴もいるし、一般のパイロッ
  トで撃破される連中も増えてきた。実戦の連
  日で腕が上がっているようだ」

 「それで、私の出番という事ですか」

 「ザラ国防委員長のご指名だ。君の同期の(黄
  昏の魔弾)も呼ばれたそうだ」

 「なるほど。そういう事ですか」

 「脅威の芽は速めに摘み取るに限る。そう考え
  たのだろうな。ザラ閣下は」

地球上の北アフリカで助っ人の任務を終えた俺は
、宇宙に上がってからすぐに出迎えのローラシア
級巡洋艦「ツイード」に便乗して、L4宙域にあ
る「新星」を目指していた。
そして、その航海の途中で、相棒である「ジン」
の修理と整備も平行して行われていた。

 「しかし、良くあんなジャジャ馬を乗りこなす
  な。私なら反吐を吐いているな」

 「慣れですよ」

 「慣れたいとも思わないな。まあ、ネビュラ勲
  章授与者の(黒い死神)ならあたりまえなの
  だが・・・。おっと、到着だそうだ」

「ツイード」の艦長と話をしている内に、目的地
に到着したらしい。

 「では、あとは(アフロディーテ)まで飛んで
  行きます。お世話になりました」

 「武運を祈っている。まだ、死ぬなよ」

 「死神は死にませんよ」

俺は最後にこう言い残して、「ツイード」をあと
にするのであった。

 「可哀想にな。優秀だし、いい奴なのに出世で
  きないなんて」

運んできた荷物がいなくなった「ツイード」の艦
橋で、ハルマン艦長が一人で呟いていると、副長
が話しに加わってくる。

 「でも、この任務が終わったら、本国に召還さ
  れるそうですよ」

 「本国にか?」

 「噂によると、ザラ閣下の引きで、あのお坊ち
  ゃん達の教官役らしいです」

 「ふーん、そうなのか。副長は詳しいな」

 「私はクライン派ですので」

 「俺もクライン派に入ろうかな。情報が早いと
  、生き残り易そうだし・・・」

 「それが良いですよ。今度の寄港時に、主だっ
  た方達を紹介しますね」

 「わかった。お願いしよう」

こうして、各地の戦線から優秀なベテランやエー
ス達が集められ、L4宙域で最後の死闘が始まろ
うとしていた。


(同時刻、「新星」内部の臨時司令部内)

元々、資源開発用の小惑星であった「新星」には
、多数の坑道が張り巡らされ、内部にはその空間
を利用した様々な施設が完備されていた。
東アジア共和国軍主体の地球連合軍は、ザフト軍
の侵攻を受けた時点で、これらの設備を接収して
、臨時の司令室や補給・修理設備やMAの格納庫
などを増設して防衛戦を行っていた。

 「ムラクモ・ガイです」

 「それだけかね?」

 「俺は傭兵だ。上官におべんちゃらを使う事ま
  では求められていない」

 「口を慎まないと、クビにするぞ!」

 「まあまあ。落ち着いて下さい。楊大将」

 「生意気な若造だ。栄えある東アジア共和国軍
  が、こんな傭兵を使うなんて・・・・・・」

 「モビルスーツを動かせる者がおりませんので
  、仕方がありません」

楊大将は、このところの防衛戦で成果を上げてい
る「伝説の傭兵」の顔を拝もうと呼んでみたのだ
が、そのあまりの無愛想さに腹を立ててしまった

だが、本当に無礼なのは、彼を命令一つで呼び寄
せて観察しようとする楊大将なのであろう。
劉中佐は、心の中でそんな事を考えていた。

 「鹵獲した(ジン)の解析は進んでいるのであ
  ろうな?」

 「はい。複製も出来ると思います。ですが、O
  Sがネックになっていて、大西洋連邦軍でも
  傭兵を雇っているようです」

 「仕方がないのか・・・」

楊大将は、臨時で派遣されたモビルスーツ参謀で
ある、劉中佐の言葉にがっくりと首を落としてい
た。
彼は中国人でない人間を信用しないのだが、傭兵
達は更にコーディネーターでもあるのだ。
信用など、出来るはずがなかった。

 「では失礼する」

伝説の傭兵と言われているムラクモ・ガイは司令
室から退出する。

 「本当に腹立たしい事だ。モビルスーツが我々
  ナチュラルにも使えるようになれば、あんな
  宇宙の化け物達に、大きな顔をさせないのに
  ・・・」

 「それも大事なのですが、モビルスーツの生産
  ラインを調える事の方も重要なのです」

 「日本と台湾と韓国に部品を作らせて、組み立
  てれは良い。部品を買い叩けば、コストも下
  がるだろう」

 「ええ。そうですね(あなたの懐に、その差額
  が入るんだろう?)」

劉中佐は、基本的に温和な人物であったし、上官
の受けも悪くなかったが、心の中はいつもこんな
感じであった。

 「でも、それも難しいかも知れません」

 「避難民の受け入れ拒否事件の事を言っている
  のかね?」

 「はい。それに、情報部の孫大尉が刺激的なレ
  ポートを上げてきていますよ」

 「読んだのかね?」

 「勿論、読みました。事実なら我が国は崩壊し
  ますね」

 「ふん!何のコネもない野心家の若造のでっち
  上げだ。日本と台湾が独立してプラントと同
  盟するだと?そのために、チベット・ウイグ
  ル・東北部の独立を支援しているだと?あり
  えない話だな。現に、政府内で信じている者
  は誰もいない。いいか!相手は宇宙の化け物
  達なんだぞ。そんな事をしたら、地球上の全
  ての国家を敵に回してしまう事になる」

だが、劉中佐は過去の歴史を思い出していた。
共産主義国家であるソ連に、なぜある中華民国主
席の長男である蒋経国が留学していたのか?
国共合作はなったのか?
たかだか、遺伝子をいじっただけ連中と同盟を組
む事に嫌悪感を抱くほど、日本と台湾の為政者達
はウブでもないだろう。
自分達の利益になると判断すれば、躊躇はしない
はずであるし、プラント理事国である自分達に、
反感を抱く国家は意外と多い。
だが、それを楊大将に言えば、自分は嫌われてし
まうであろう。
それだけなら良いが、左遷でもされたらたまらな
い。
自分は、このモビルスーツという兵器が大好きな
のだ。
これだけは、手放したくなかった。

 「ですが、日本と台湾に部品の製造をボイコッ
  トされたら、国内の企業でやるしかありませ
  ん。そうなると、精度の差がどうしても出て
  しまいます」

 「数を揃えれば良いさ。わが国では、それが可
  能だからな」

 「はあ(何で、こんな上官ばかりなんだろう?
  )」

このモビルスーツという兵器は、数を揃えれば良
いというものでもない。
モビルスーツ「ジン」の凄いところは、操縦して
いるコーディネーター兵士達の能力と相まって、
MAの二世代は先に進んでいる兵器であるという
事だ。
これに勝つには、パイロットの能力もさる事なが
ら、モビルスーツ自体の性能を上げなければなら
ない。
そして、それを円滑に動かすOSもだ。
だが、まだ自分には、何一つ揃っていなかった。

 「(ジン)に乗った傭兵が十八名と、MAが一
  五十六機ですか。あとは、戦艦三、MA空母
  二、巡洋艦八、駆逐艦一八、その他二十三と
  いう事で悪くはない戦力ですね」

 「だが、L4の他の宙域を放棄する過程で、そ
  の四倍の戦力が沈められるか、降伏して鹵獲
  されるか、月に逃げている。更にこの一ヶ月
  あまりの戦闘で、半数近くにまで減っている
  のだ。だが、数が半数になったおけげで補給
  と整備が迅速になり、戦闘効率は良くなって
  いる。皮肉な話ではあるがな」

 「月の戦力を呼び戻さないのですか?」

 「無理だ」

 「補給・修理施設が足りない・・・ですか?」

 「正解だ。今も相当に無茶をしている」

 「了解しました。出来る限りの事はします」

 「データ集めのみで良い。あの傭兵集団は使い
  捨てにする。連中は、我が国がモビルスーツ
  を運用するための捨て駒だ。だから、修理や
  整備よりデータ集めが君の主任務になる。奴
  らを臨時で雇って呼び寄せてから一ヶ月。数
  は減ったが、成果もそこそこ上げているよう
  だな」

 「了解です」

劉中佐は納得はしていなかったが、命令なので了
解の返事をする。

 「それで、大西洋連邦が、モビルスーツを開発
  しているそうだがどうなのだ?」

今度は逆に、劉中佐が楊大将に質問をされたので
、自分の知っている事を教える事にする。

 「詳細は不明ですが、(G)と呼ばれているそ
  うです」

 「(G)か。それだけではな・・・」

 「オーブが、開発に協力しているという噂があ
  りまして・・・」

 「噂か。事実なんだろうが・・・」

 「証拠はありません。証拠のない情報なんて噂
  の域を出ません。そして、日本と台湾にも開
  発の噂が立っています」

 「個人的には、こちらの方が脅威だな」

 「ええ。現時点での我が国との関係を考慮しま
  すと、敵になる可能性の方が高いですからね
  。自衛隊の艦隊に援軍を断られたそうで?」

 「ああ。海外への派兵は、憲法で禁止されてい
  るそうだ」

 「ギャグみたいな話ですね」

 「だが、事実だ」

劉中佐は更に考え込んでしまう。
目の前の楊大将は多少金に意地汚い部分があるが
、基本的には優秀な人物だ。
そうでなければ、大将閣下になどなれない。
だから、東アジア共和国を取り巻く環境に危惧を
抱いてはいるのだが、政府の要人に異議を唱える
ような事はしないし、いくら日本と台湾が反抗的
でも、中国が本気を出せば簡単に屈すると思って
いる節があった。

 「(中華思想か。この時代にこれほど罪な物も
  ないな)」

 「では、任務に戻ってくれたまえ」

 「了解です」

劉中佐が臨時司令室を出ると、一人の若い技術将
校が声をかけてきた。

 「劉中佐、楊大将は何と言っていました?」

 「朱技術少尉か。データ取りが優先だそうだ」

 「わかりました」

 「それで、(一号機)の状態はどうなんだ?」

 「ヨチヨチ歩きです」

 「うーん。やっぱりOSか・・・」

「一号機」とは、鹵獲した「ジン」をナチュラル
が操作できるように徹底した改良を加えている試
験機の事であった。

 「まだ、データ不足ですよ。それに人員も足り
  ません。呉技術少将の派閥に比べたら、うち
  はサークルのようなものですからね」

 「的確な一言だね」

優秀ではあるが、庶民出身で風貌も冴えない劉中
佐よりも、政府高官の縁戚で、顔も良く上層部へ
の受けが最高である呉技術少将では、与えられて
いる機材も人員も天地の差があったのだ。

 「それで、向こうはどうするって?」

 「二人乗りを提案しています」

 「二人乗りねえ・・・」

 「作業を手分け出来ますからね」

 「でも、スペースの関係で安全装置は少なくな
  るな。それに、二人の呼吸が合っていないと
  意味がない。最後に、せっかく短期間ながら
  も訓練したパイロットを、二人同時に殺すの
  か・・・」

 「戦死しても、呉技術少将は困りませんから」

 「だよな。しかし、嫌な時代になったものだね
  」

 「本当ですね。でも、我々は我々です。頑張り
  ましょうよ」

 「いい事言うね、朱技術少尉は。あとで何かを
  奢ってやろう」

 「ここでですか?」

 「本国に帰ってからにするか」

これが数年後に、英雄となる劉大統領の若き日の
姿であった。


(翌日、L4宙域、資源衛星「新星」周辺)

 「今日こそ落とすぞ!」

 「了解だ!」

 「(黄昏の魔弾)の力を思い知れ!」

始めは、L4宙域全域に多数の艦隊を展開してい
た、東アジア共和国軍主体の地球連合軍艦隊であ
ったが、度重なる敗戦とコロニーの放棄により、
三分の二の戦力が消え、残りの三分の一の戦力が
「新星」に退却して、最後の抵抗を試みていた。
そして、それを追撃するザフト軍であったが、戦
いは連日厳しくなり、この一週間ほどは毎日のよ
うに大規模・小規模問わずに様々な戦闘が繰り広
げられていた。

 「これで、三機目だ!」

 「俺も三機目」

 「俺は四機目だ!」

 「例の傭兵達は?」

 「まだ出て来ない!」

 「出し惜しみしやがって!後悔させてやるぜ!
  」

昨日までは、一般パイロット主体であったザフト
軍モビルスーツ隊であったが、この日からは、損
害を憂慮したザラ国防委員長の命令で、各地から
ベテランやエースと呼ばれる連中が多数集結して
いた。

 「お待たせ!(黒い死神)参上!」

 「カザマ!遅いぞ!」

 「整備に手間取ってさ。砂漠の砂がまだ残って
  いた。二日で動かなくなったからって、放置
  していた報いだな」

 「それで、地球では何に乗っていたんだ?」

 「(バクゥ)に乗ってた」

 「新型か。羨ましいな」

 「無駄口を叩くな!この雑魚共が!」

急に無線に嫌味な口調の声が入ってくる。

 「おや?戦果のために味方の犠牲も厭わない、
  マーレ隊長ではありませんか」

 「ふん!早く敵を撃破しないか!」

 「私は、あなたの指揮下に入っていません。だ
  から、命令を聞く謂れはありませんね」

 「ネビュラ勲章を貰ったくらいで、いい気にな
  りやがって!」

 「それに・・・」

 「何だ?」

 「私は、あなたが大嫌いですから」

 「覚えてやがれよ!」

ザフト軍のモビルスーツ隊の一部を指揮している
マーレ・ストロードが、捨て台詞を吐きながら前
線に向かっていく。

 「カザマ、勇気があるな」

 「俺は奴に捨て駒にされて殺されかけたからな
  。奴に表す敬意など一ミリも持ち合わせてい
  ない」

 「そうか・・・。お前も大変だな」

 「ミゲルも大変なんだろう?一般家庭出身でコ
  ネもないし」

 「それでも、副隊長にはなれた。でも、お前は
  いまだに助っ人で、部下すらいないじゃない
  か・・・」

ミゲルの言う通りで、開戦当初の部下達と別れた
俺は、単機で各地の戦場に助っ人して参加してい
たので、赤服を着ながらも部下すら持っていなか
ったのだ。
中には、俺を信頼してくれて部下を預けてくれる
指揮官もいたが、それは、あくまでも臨時の事で
あった。

 「それは、仕方がないさ」

 「お前が頑張っている事を、知らない奴はいな
  いのに・・・」

 「マーレを見ただろう。俺を嫌っていたり、ス
  パイ扱いしている奴も少数ながら存在するん
  だよ」

 「悲しい事だな」

 「さて、お仕事を再開するかな」

 「そうだな。戦果が少ない方が、多い方に奢る
  という事で」

 「了解だ」

 「では、戦闘開始!」

俺が単機で、ミゲルが部下を率いて「新星」に攻
撃をしかけると、防衛に回っている艦隊や、「新
星」自体に急遽設置された防衛火器が大量に発射
され、運の悪い「ジン」が数機爆発するが、大半
は俺達を近寄らせないようにする効果しか上がっ
ていなかった。

 「さて、前方にMA三機。一個小隊かな?」

俺は重突撃機銃を小刻みに発射して二機を撃破し
、残りの一機もすれ違い様に蹴りを入れ、側の大
きなデブリに叩き付けた。

 「まずは三機!」

続いて、対空火器をかわしながら、防衛ラインの
端にいた一隻の駆逐艦に接近を試みる。
すると、駆逐艦は狂ったように火器を発射してく
る。

 「可哀想にな。まだ、モビルスーツ仕様の火器
  の改修が完了していない艦なのか・・・。だ
  が!」

俺は、艦橋に重突撃機銃を発射して艦長以下の幹
部を殺傷し、動力部にも残弾全てを叩き込んでか
ら艦を離れる。

 「あれでは、生存者はいまい」

駆逐艦は、瞬時に艦内の酸素と弾薬と推進剤に誘
爆して、無残な残骸を晒す事になった。

 「さて、次に行くか」

俺は重突撃機銃の弾装を交換しながら、次の獲物
を求めて戦場を駆け巡る。
今日の俺は、まさしく死神であった。


(同時刻、「新星」内部の臨時司令室内)

 「何なんだ?この損害の多さは・・・」

楊大将は、目の前のスクリーンを眺めながら大き
く動揺していた。
ここ一月は防衛戦闘が主体であり、損害も予想範
囲内に収まっていたのだが、今日の数時間の戦闘
のみで、今までの数日分の損害を一度に受けてし
まっていたからだ。
このままでは、あと二日と持たない事は明白であ
った。

 「何が違うんだ?多少、モビルスーツが増えた
  だけだろうが!」

 「向こうは本格的にエースを投入してきました
  ね。機体の特徴を観察しますと、(ドクター
  )ことミハイル・コースト、(黄昏の魔弾)
  ことミゲル・アイマン、(ザフト軍の英雄)
  と呼ばれているグゥド・ヴェイアなど層々た
  る面々です。その他にも、多数のベテラン達
  が集まっています」

モビルスーツ隊の状況を報告しに来た劉中佐が、
半分仕方がないという表情で、戦況の報告を始め
る。
この司令部の参謀達は、あまりの損害の多さで言
葉も出ないらしかった。

 「それで、傭兵達だけで勝機はあるのか?」

 「多分、楊大将の仰る通りに、データのみを取
  って終了ですね。はっきり言って、訓練期間
  と密度が違い過ぎます。それに、不利なら逃
  げ出すのが傭兵というものです」

 「そうか。撤退も考えなければいけないか・・
  ・」

楊大将が、そう言っている目の前のスクリーンで
、巡洋艦隊旗艦「馬超」の火器に次々と「ジン」
の重突撃機銃の弾が命中して爆発し、最後に艦橋
部分と機関部に銃撃を食らって爆沈する様子が映
し出されていた。
そして、その巡洋艦を撃沈した「ジン」は、左肩
が赤で残りの部分が黒かった。

 「あれもザフト軍のエースだっよな・・・」

 「はい。(黒い死神)です。地球にいるという
  報告だったのに・・・。大ポカですね。情報
  部は」

 「明日までに撤退だ!今は時間を稼げ!」

楊大将は、自軍の不利を悟って撤退の準備を開始
するのであった。


 「いよいよ、お出ましか。腕はどうなのかな?
  」

多数のMAを落とし、艦船を撃沈したベテランパ
イロット達のモビルスーツ隊に、遂に傭兵達が操
縦するモビルスーツ隊が戦いを挑んでくる。

 「(ジン)対(ジン)だけど、訓練ではないか
  らな」

俺は一機の「ジン」と対峙して攻撃を仕掛けるが
、まだ凄腕とは言い難く、その動きはいまいちで
あった。
それでも、この一ヶ月でかなり腕を上げているよ
うで、新人を中心に二十二機の機体が落とされ、
向こうは十七機しか失っていないらしい。

 「うん?重突撃機銃ではないのか」

新人達が大きな損害を受けているもう一つの理由
は、彼らの特殊な武器にあった。
彼らは三十ミリガトリング砲と大容量の劣化ウラ
ン弾装を装備していて、周辺に多数の弾丸を連携
してばら撒いていたのだ。

 「確かに、新人や一般のパイロットでは回避が
  キツイな。艦船と違って、連中も同じスピー
  ドで動くからな。更に、技量差が出やすい格
  闘戦は避けるという作戦か。誰が命令を出し
  ているんだろう?」

濃密な弾幕をかわし、一機の「ジン」を重斬刀で
斬り捨てながらそんな事を考えていると、別の一
機の「ジン」が、ガトリング砲を乱射しながら接
近してくる。

 「何!単機か!」

俺が弾幕をかわしていると、ガトリング砲の弾が
切れたらしく、砲身を強制排除しながら、特別あ
しらえであると思われる刀を抜いて俺と一騎討ち
を開始する。

 「こいつ!強い!」

俺とまだ見ぬ敵のパイロットが操縦する「ジン」
の技量はほぼ互角であり、周りの味方が信じられ
ないという表情でその様子を伺っていた。

 「カザマ!」

 「ミゲル!こいつは俺が抑える。だから、残り
  の連中を一機でも!」

 「了解した」

 「・・・・・・」

 「残念だったな!数の差で俺達の勝利だ!」

 「・・・・・・」

敵の「ジン」のパイロットは何も語らないが、俺
が奴を抑えているので次第に一機、また一機と敵
の「ジン」は撃破され始める。

 「よーし!このまま!」

 「カザマ、撤退だそうだ」

 「もう、エネルギー切れか?」

 「今日は大戦果だそうな。このままやれば勝て
  るさ」

 「そうだな」

結局、敵の「ジン」より長時間動いていた俺達に
エネルギー切れが迫り、今日の戦闘は終了になっ
てしまうのであった。


 「敵のモビルスーツ部隊は半数になった。この
  まま押せば、勝利は確実であろう。今日は休
  んで明日に備えてくれ」

戦闘終了後に、L4攻略部隊司令官から「新星」
攻略部隊司令官に名前を変えた、バーネット司令
への戦闘報告を終えた俺達助っ人パイロット達は
、旗艦「アフロディーテ」の食堂内で寛いでいた

 「ミゲルは、自分の艦に戻らなくて良いのか?
  」

 「まだ、大丈夫だ。それよりも、ちゃんと奢れ
  よ」

 「はいはい。コーヒーで良いか?」

 「ケチくさい男だな」

 「本国に戻ったら飯を奢ってやるさ」

食堂内では、俺達と同じく各地から集まったパイ
ロット連中が司令への報告を終えて、コーヒータ
イムを楽しんでいるようだ。

 「おや?(黄昏の魔弾)と(黒い死神)ですか
  。仲良き事は美しい事ですねぇ」

 「(ドクター)、何か用事か?」

 「いえいえ。野蛮な死神さんが、誰と付き合っ
  ているのか気になっただけです。君はお友達
  がいなさそうですから」

 「お前ほどじゃないさ」

 「私は友達を選ぶタイプですので。それでは・
  ・・」

ミハイル・コーストは、足早に俺達の元を去って
行く。

 「何なんだ?奴は」

 「さあ?ちょっと前に共同作戦をした時に、作
  戦方針で揉めてからあんな感じだ。俺が野蛮
  だって、突っかかってくるんだ。俺が(何で
  も綺麗に事を進めようとし過ぎだ)って言っ
  たら、大分激怒したらしいよ。俺のいないと
  ころで」

 「ザフト軍って、歪んでるエースばかりだな」

 「俺は普通だぜ。出世できないだけで」

 「俺もだ」

 「お前が出世?二流コーディネーターが、何を
  抜かしてやがる!」

続いて、俺が嫌っている男ナンバー1であるマー
レ・ストロードが、俺に近づいてきて悪口を言い
始めた。

 「お前は地球連合の豚共と同じ、地球出身のゴ
  ミなんだ!栄光あるザフト軍に、置いて貰え
  るだけでもありがたく思うんだな!」

 「別にあなたに置いて貰ってはいないので、感
  謝の言葉は後で言います」 

 「ふん!いつか吼え面かかせてやる!」

マーレは捨て台詞を吐きながら、食堂をあとにす
る。

 「嫌われてるな」

 「仕方ないさ」

そんな話をミゲルとしていると、食堂の隅でヘッ
ドフォンをしてコーヒーを飲んでいる一人の若者
が見える。
どうやら、彼も俺達と同じ赤服であるらしい。

 「あれは誰だ?」

 「あんまり関わるな。あいつが(ザフト軍の英
  雄)だ」

 「若いんだな。俺は、もっとオッサンだと思っ
  ていた」

 「あいつのヘッドフォンを見たか?」

 「ああ。音楽を聴いているんだな」

 「ラクス様の曲を、ずっとエンドレスで聴いて
  いるんだ」

 「趣味なんだろう?」

 「違う!奴はああしてラクス様の音楽を聴いて
  いないと、味方すら殺すバーサーカーと化す
  んだ」

 「そんな、精神異常者を軍で使うなよ・・・・
  ・・」

 「俺も詳しい事情は知らないが、何かの実験の
  犠牲者らしい。だが、能力はあるので、総力
  戦が叫ばれるこの戦争だ。使える者は全て使
  うという事らしい」

 「俺は、別段驚かないけどね」

どこの国や組織にも、暗部は存在する。
プラントも大西洋連邦も、その点では変わらない
はずだ。

 「でも、良く情報を集めてくるよな。ミゲルは
  」

 「カザマもこの状態にしては、物事を良く知っ
  ている方だと思うぜ」

 「戦死したくないからな。俺は、会社を経営す
  るという夢があるんだ」

 「そうか」

 「お前はどうなんだ?」

 「司令官くらいにはなりたいよな。でも、無理
  かもな」

 「お前なら、大丈夫だろう?」

 「ありがとうな」

その後、俺とミゲルは久しぶりに長く話し込むの
であった。


 「うーん。(ジン)は十二機あるけど、パイロ
  ットが九人とはな・・・」

「新星」のモビルスーツ用の格納庫内で、劉中佐
と朱技術少尉は思案に耽っていた。

 「予備のガトリング砲が、三十八本も残ってい
  ます」

 「でも、ガトリング砲だけじゃあね」

 「トラップを仕掛けましょう。侵入予想地点に
  弾をばら撒くようにセットして、あとは運次
  第という事で」

 「そうするか。どうせ、持ち帰れないからな」

 「本当に撤退するんですか?」

 「援軍が見込めない。敵の戦力の質が急激に上
  昇した。そして、彼が抜ける・・・」

 「一番凄腕の傭兵なのに・・・」

 「契約期間が一ヶ月だそうだ。それが、明日の
  昼の十二時に切れる」

 「更新は?」

 「他の仕事があるから不可能だそうだ」

 「商売繁盛ですね」

 「(伝説の傭兵)だからな。連合軍・ザフト軍
  を問わず仕事を引き受け、成功率は100%
  だそうだ」

 「なるほど」

 「でも、十二時までは時間はある。それまでに
  、私のアイデアを実施して貰う事にする。時
  間内なら、彼も断るまい」

既に「新星」では、全軍撤退の準備が始まってい
て、明日が最後の決戦になる事は、疑いの余地が
なかった。 


 「カザマの野郎!生意気な!」

「アフロディーテ」の通路で、マーレは大声で怒
鳴りながら壁にパンチを繰り返していた。

 「(何とか、謀殺できないものかな?だが、戦
  場で奴を殺すにしても、俺と奴では、技量に
  それほど差はないしな)」

マーレは、自分の方が少し技量が上だと思ってい
たが、圧倒できるほどではないとも思っていた。 

 「(敵に圧倒的な技量を求めるのは不可能だ。
  何しろ、クズのナチュラルと薄汚い裏切り者
  の三流コーディネーター達だからな)」

マーレがそんな事を考えていると、前から一人の
若い男が歩いてくる。
彼は耳にヘッドフォンをしていた。

 「(そうか!奴に殺させれば良いんだ!奴なら
  、その功績と精神状態のせいで、罪に問われ
  ない事が確実なのだから)」

マーレはその狡猾な性格と頭脳で、一つの作戦を
考えたのだが、それがどのような結果を生むのか
は、誰にもわからなかった。


(翌日午前十時、「アフロディーテ」格納庫内)

 「これを自分にですか?」

 「そうなんだ。ラクス様の全曲集のディスクだ
  よ。君がラクス様の曲を聴いているという噂
  を聞いてね。同じファンとして仲良くしよう
  ではないか」

 「ありがとうございます」

通常時は善人であるヴェイアは、何の疑いもなく
マーレからディスクを貰って、それを交換する。
マーレは、いきなり殺されるではないかと、身構
えそうになってしまったが、十数秒くらいでは、
大丈夫なようであった。

 「俺は艦に戻るから」

 「ありがとうございます」

 「気にしないでくれ(ふふふ。今日は、モビル
  スーツ隊の指揮官と話をつけてあるから、カ
  ザマは奴と組むはずだ。そして、あのディス
  クの曲が一定時間流れると、プレイヤー本体
  を破壊する事になっている)」

マーレは、モビルスーツ部隊の指揮官が自分に近
い考えの人物である事を知っていたので、「危険
分子はまとめて前線で使い潰しましょう」と進言
して、二人をコンビにして前線に出す事に成功し
ていた。
そして、自室でラクス・クラインの曲の入ったデ
ィスクに細工をしたのも自分であった。
彼は、姑息な手段の常習犯であったので、このよ
うな事はお手のもであった。 

 「(カザマ、味方に殺されやがれ!それが、お
  前にお似合いの最後だ!)」

マーレは、赤い「ジン」の調整を行うヴェイアの
姿を背に、自分の母艦に帰艦するのであった。


 「攻撃開始!」

ザフト軍艦隊とモビルスーツ隊の「新星」に対す
る攻撃が始まり、敵・味方の多くの戦力が入り乱
れて戦っていた。

 「向こうも全力出撃か・・・」

ミゲルは、オレンジ色の「ジン」を操りながら、
部下達に攻撃を指示していた。

 「しかし、今日になってカザマの配置を変える
  とは・・・。何か裏があるのか?」

考え事をしながらも、二機のMAを一気に撃破し
たミゲルは「新星」に取り付くべく攻撃を続行し
ていた。

 「とりあえず、今は敵の撃破に全力を向ける!
  」

だが、ミゲルは、自分の親友に危機が迫っている
事を知らなかった。


 「本当に強いんだな。英雄と呼ばれるわけだ」

俺は、今日になって急にヴェイアとコンビを組む
ように言われたのだが、彼の戦闘能力は非常に卓
越していて、俺ですら足手まといになりそうな雰
囲気であった。
彼は目に入る敵全てを、効率的に短時間で次々と
撃破していった。

 「凄いな。俺の出番なしだな」

そう思った俺は、彼の援護に入って撃ち漏らした
敵の後始末を行っていた。

 「カザマさん、さすがですね」

 「君には勝てないよ」

 「そんな事はありませんよ」

始めは、嫌な奴だったらどうしようかと思ってい
たのだが、彼は常にイヤホンは付けているものの
、極めて普通の好青年であったので、俺は安心し
ていた。

 「カザマさんは、私と普通に接してくれますよ
  ね」

 「君は、嫌な人間ではないからね」

 「私はこの戦争では、兵器扱いでドサ周りです
  よ」

 「俺もそうだよ。生粋のプラント人ではないか
  ら、彼らの盾代わりだ」

 「辛くありませんか?」

 「不満を言えばキリがないさ。今更故郷にも戻
  れないし、よその国にも行けない。だが、俺
  を理解してくれる友人達がいる。だから、こ
  こにいるんだよ」

 「私には、そういう人がいません」

 「作れば良いさ。同じはみ出し者同士で仲良く
  やろうぜ」

 「ありがとう」

だが、この十数分後に、俺は大きなピンチに陥る
のであった。


 「さて、そろそろ時間だな」

契約期間終了まであと僅かではあったが、まだ一
時間ほどの残り時間があったので、俺は最後の指
令を受けていた。
先ほど、東アジア共和国軍の劉中佐と朱技術少尉
という二人の軍人が、俺の「ジン」に新しい装備
を付けたのだ。
パイロットのいない二機の「ジン」を大西洋連邦
軍の「メビウスゼロ」の「ガンバレル」と同じよ
うにワイヤーとケーブルで繋ぎ、俺の「ジン」の
両斜め後ろに位置するようにしたものだ。
つまり、「ガンバレル」の代わりを無人の「ジン
」が行うというシステムである。
装備されている量子通信システムは幼稚な物であ
ったが、俺の動きに合わせてスラスターを吹かし
、両手に装備されているガトリング砲の発射くら
いは可能であるようだ。
そして、この「ジン」には大量の爆薬が詰められ
ていて、切り離して爆弾の代わりにする事も可能
であった。
いかにも、戦場で急ごしらえをした適当な兵器で
あるが、それを使いこなすのもパイロットの腕次
第であろう。
俺は、この誰もいないデブリに身を潜め、「新星
」攻略部隊の旗艦である「アフロディーテ」の前
進を待っていた。
俺の任務は、「アフロディーテ」を沈める事か、
もしくは、行動不能にする事であった。
要は、東アジア共和国軍艦隊の撤退の時間を稼ぎ
、追撃を防ぐのが俺の任務なのだ。
俺はこの任務が終了次第、この宙域を離脱し新た
な仕事に就く。
この攻撃がこの宙域での最後の戦闘になるであろ
う。

 「予定通りだ。人形達よ元気に踊ってくれよ」

俺は愛機である通常の「ジン」に火を入れて、敵
の旗艦に突撃を開始した。


(同時刻、「アフロディーテ」艦内)

 「敵機接近!(ジン)三機です!」

 「なぜ、気が付かなかった?」

 「どうやら、直前まで動力を切っていたようで
  す」

 「ちっ!プロか」

自分達の進路を予想して、熱探知を避けるために
動力源を切ってデブリに待機する。
バーネット司令は、すぐに敵は心技共に優れた優
秀なパイロットである事に気が付く。

 「撃ち落せ!」

「アフロディーテ」以下、有効射程範囲内にある
全ての艦艇が攻撃を開始するが、敵が三機しかい
ないうえに、艦同士の距離が近すぎて、攻撃を躊
躇する艦が続出していた。

 「油断し過ぎだったか!」

 「後部に接近です!」

 「動力部を狙うのか・・・。阻止しろ!」

「アフロディーテ」後部のローラシア級巡洋艦が
、「ジン」に攻撃を加え、一機の破壊に成功する
が、その隣の「ジン」が動力部に向かって猛スピ
ードで突撃を開始した。

 「特攻か!」

ガイが突撃させた無人の「ジン」は、両腕のガト
リング砲を連射しながら、「アフロディーテ」の
後部スラスターに突撃する。
激突した「ジン」は爆薬が誘爆してスラスターを
破壊し、「アフロディーテ」艦内に大きな衝撃を
もたらした。
そして、ガイは激突直前に無人機のワイヤーを切
り離してその場を退避した。

 「被害は?」

 「スラスター大破!機関部被弾!誘爆を阻止す
  るために機関部停止と航行停止を進言します
  !」

 「仕方がない。機関部停止と航行停止。応急処
  置に入れ!」

 「了解です。ですが、これで追撃は・・・」

 「我々は追撃不能だ。護衛戦力と占領した(新
  星)の警備等を考えると、規模は半数以下に
  なるな。最後の最後でしくじるとは・・・」

結局、ガイが操縦していた「ジン」は大きな損害
を受ける事もなく離脱に成功し、彼は次の仕事に
行うために、仲間との合流を目指すのであった。


 「カザマさん、離れてください」

 「えっ?」

 「離れてください!」

 「どうしたんだ?」

 「プレイヤーが壊れました。ラクス様の曲がな
  いと私は・・・」

順調に進撃を続け、敵を撃破してきた俺達であっ
たが、急にヴェイアが苦しそうな声で、俺にこの
場を離れるように忠告する。

 「どういう事なんだ?」

 「このままでは・・・。あなたを・・・」

 「ヴェイア!」

だが、わずか一分あまりで彼の声が聞こえなくな
り、赤い「ジン」からは、かつて一度も感じた事
のないほどの殺気を感じ始める。

 「まさか!バーサーカーってか!おい!しっか
  りしろ!ヴェイア!」

だが、俺が躊躇した僅かな間に、彼の赤い「ジン
」が重突撃機銃を発射して、俺の「ジン」の右腕
を重突撃機銃ごと吹き飛ばした。

 「速い!」

俺は咄嗟に退避して次の攻撃に備えるが、彼の動
きは予想以上で、この戦えば、俺の死は確実なも
のになると思われた。

 「やってくれるよな!ヴェイア!目を覚ませ!
  」

だが、ヴェイアは一言も語らずに、俺への攻撃を
強化していく。

 「目を覚ませ!俺はお前を殺したくない!」

俺がいくら叫んでも彼の殺意に変化はなく、この
まま殺さねばならないかと思ったのだが、俺は自
分も携帯プレイヤーを持っている事を思い出した

 「待っていろ!ラクス様の曲を通信で送れば」

俺は自分のプレイヤーの音源を最大にしてコード
を繋ぎ、ラクス様の曲をヴェイアの「ジン」に向
けて送信した。
そして、危険を顧みずに彼に接近を試みる。

 「ヴェイア!目を覚ませ!」

 「カザ・・・マさん・・・」

 「そうだ!俺だ!」

次第にヴェイアの「ジン」から殺気が消えていき
、彼の正気になった声が聞こえてくる。

 「ヴェイア!大丈夫か?」

 「はい。何とか・・・」

 「母艦に帰るぞ!プレイヤーの修理をしないと
  」

 「はい」

だが、俺がヴェイアの「ジン」を連れて帰ろうと
したその瞬間、巡洋艦の砲撃の流れ弾がヴェイア
の「ジン」のコックピット周辺に直撃し、赤い「
ジン」は大爆発を起こした。

 「ヴェイア!」

錯乱状態からの回復途上であったヴェイアに流れ
弾をよける能力はなく、俺も流れ弾ではどうにも
ならなかった。
実戦に慣れ始めていた俺は、咄嗟に赤い「ジン」
との距離を取って、誘爆の被害を避ける行動に出
る。

 「嫌な習性だな。自分の事しか考えていない。
  でも、俺は生き残らなければならないんだ。
  勘弁してくれ」

俺は残骸になった赤い「ジン」に敬礼をすると、
近くにあった重突撃機銃を拾い、「新星」への接
近を試みるのであった。


 「全軍、退却だ!」

「新星」の臨時司令部を、奇跡的な速さで引き揚
げた楊大将は、戦艦「岳飛」に移乗して、撤退戦
の指揮を開始した。

 「例の作戦は、成功したのか?」

 「はい。(アフロディーテ)と相当数の艦艇が
  停止しています」

 「それで、傭兵達は?」

 「五人ほど生き残ったそうですが、全員逃げた
  そうです」

 「あんな傭兵達でも役に立ったか。それで、劉
  中佐達は?」

 「(一号機)と共に巡洋艦(張飛)に移乗して
  います」

 「リスクは分散するか・・・。そのままで撤退
  開始!」

 「了解です」

楊大将の命令で、「新星」を防衛していた艦艇が
集結し、その周りをMA隊が取り囲んだ。

 「人員の収容はどうなっている?」

 「養成困難なパイロット、整備士、技術将兵、
  艦船要員などを優先しています。残ったコロ
  ニーの治安維持用の兵士達は、我々の撤退後
  に降伏させます」

 「悲しい方程式だな」

 「ですが、我々は一年後には必ず・・・」

 「そうだな」

こうして、「新星」を防衛していた艦隊は、月を
目指して撤退を開始するのであった。


 「逃がすか!」

 「一隻でも多く沈めろ!」

旗艦「アフロディーテ」の予想外の損害により、
追撃艦隊の規模は縮小したが、ゼロではなく、多
くの「ジン」の部隊と共に追撃を開始していた。

 「ちくしょう!ヴェイアが、何をしたって言う
  んだ!」

俺はあの後に、「ジン」の腕の修理はしないまま
、よその艦で弾薬とバッテリーのみを補給し、敵
艦隊の追撃を単独で行っていた。
俺はやり場のない怒りの襲われていた。
短い付き合いであったが、ヴェイアは良い奴だっ
た。
不幸な境遇ではあったが、俺と同じく現状を打破
すべく、毎日を一生懸命に努力していたのだ。
それを流れ弾ながら、彼の命を奪った連中が許せ
なかった。

 「沈め!」

俺は拝借してきたバズーカ砲を駆逐艦の艦橋に叩
き込み、続いて機関部にも発射して爆沈させる。
続いて、MAにも連射して二機の撃破に成功して
いた。

 「続いて!」

俺は弾の切れたバズーカ砲を捨て、予備の重突撃
機銃に持ち替えてから、蝿のように襲ってくるM
Aを次々に撃破していく。
すると、撤退途中の艦隊に大きな変化が現れた。
戦艦ニ隻とMA隊が速度を落として殿に付き、残
りの艦艇を先に逃がし始めたのだ。

 「そうか。仲間を逃がすというのか。だがな!
  」

俺は旗艦と思われる戦艦向けて、突撃を開始する
のであった。


(同時刻、戦艦「岳飛」艦内)

 「どうだ?逃がせそうか?」

 「MA隊が決死の抵抗を行っていますので、七
  割は逃げられるかと」

 「そうか、上出来だな」

楊大将と参謀長が話していると、退却する艦隊に
追撃をかけようとした「ジン」部隊が、デブリに
仕掛けられたガトリング砲やミサイルのトラップ
で損傷したり、時には撃破されて追撃を中止する
光景がスクリーンに映し出される。

 「劉中佐はやるな」

 「ですね。これで、八割はいけます」

 「彼は、月に逃げられそうだな」

 「ええ」

 「それは良かった」

 「ですが、楊大将はこれで良かったのですか?
  」

 「私は大将なんだから、仕方がないだろう。責
  任という物があるから、役得という物もある
  んだよ」

 「そうですか」

 「それに、私がここで戦死しても、家族が困ら
  ないように蓄えはしてある。幸いにして、息
  子達は軍人ではないので、(部下を逃がすた
  めに名誉の戦死を遂げた楊大将)の息子とし
  て恩恵のみを受けられるんだよ。(父の跡を
  継いで頑張ります)とか言って軍人として無
  理をしないで済むんだ。どうだ、悪くないだ
  ろう?」

 「そうですね」

 「奮戦している各員に告ぐ!私が戦死したら、
  降伏するように以上だ!」

楊大将がそう宣言した十五分後、「岳飛」のブリ
ッジは一機の黒い「ジン」の重突撃機銃に破壊さ
れ、彼は壮絶な戦死を遂げるのであった。
そして、中破した戦艦「岳飛」と「宋江」は降伏
し、残存十一機にまで減っていたMA隊も降伏す
るのであった。
ちなみに、残りの東アジア共和国軍艦艇は、無事
に月への退却に成功し、戦力再建の要を残す事に
成功した事を記しておく。


(数時間後、巡洋艦「張飛」格納庫内)

劉中佐達がこの艦に積んだ物は、僅かな物であっ
た。
改良を続けている「一号機」とわずかな部品と武
器、そして、今までに集めた大量のデータのみで
あった。

 「楊大将は、思ったよりも立派な軍人でしたね
  」

 「賛同はするが、生き残ってくれれば、彼を後
  ろ盾にモビルスーツの開発を行えたのに・・
  ・」

 「残念でしたね」

楊大将は、実際にモビルスーツの脅威を体験した

彼が生き残ってくれていたら、自分達の大きな助
けになっていただろう。
だが、彼は自分達を逃がすために戦死してしまっ
たのだ。
これからも、非主流派の自分達は、少人数での研
究を行うしかないのだ。

 「それで、これからどうします?」

 「長い道にはなるが、本国に戻りモビルスーツ
  生産のための部品メーカーの選定と技術指導
  からスタートするよ。(ジン)を徹底的に研
  究させて、技術力をあげるところからスター
  トする。下らない、動くかどうかもわからな
  いレプリカは、呉技術少将に任せよう」

 「そうですね」

 「さあて、これから忙しくなるぞ!」

 「私も頑張りますよ!」

その後、予想に反して、劉中佐は呉技術少将の下
に配属され、モビルスーツ量産の裏方の仕事を堅
実にこなして実績を示し、一年後には、モビルス
ーツの専門家と目されるようになって、昇進を重
ねるようになるのであった。


 「ちっ!ヴェイアが戦死して、カザマが生き残
  ったか。しかし、本国に召還になるカザマに
  手は出せない。ここは、チャンスを待つしか
  ないな」

マーレが愛機である「ジン」の中で独り言を呟い
ていた頃、「新星」は降伏し、多数の艦艇が陸戦
隊員を降ろし、内部の調査と捕虜の輸送を行って
いた。
そして、この「新星」は、プラントの防衛ライン
に運ばれて要塞となる事が決っている。

 「ヴェイア、この(ジン)が、あと数ヶ月使え
  るかわからないけど、お前から遺品を貰うぜ
  」

俺は残骸の中から、左肩の部分を探して母艦に持
ち帰る事にした。
この作戦終了後に、本国への召還命令が出ていた
ので、部品の交換は本国でという事になるであろ
う。

 「葬式にも出ないとな。好きな花を聞いておけ
  ばよかった」

こうして、俺が助っ人して参加した「新星」攻略
作戦は終了し、俺は久しぶりに本国に召還される
のであった。


(一週間後、プラント首都アプリリウス近郊の墓
 地)

 「まさか、葬式すらないとはな」

俺がヴェイアの墓に花を添えてお祈りをするが、
多分そんな事をしているのは、俺だけであろう。
彼は生年月日が不明であるらしく、墓標には没年
しか書かれていなかったのだ。
そして、家族も親戚一人もいないらしい。
彼は、ザフト軍内部では話してはいけない秘密の
過去を有し、あまり人との付き合いもなかったよ
うだ。
彼には、数年前に中止になった戦闘用コーディネ
ーターの実験体であるという、本当なのかどうな
のか良くわからない噂があった。
だが、それを確認する術はないし、まだ実験が続
いていて彼と同じような人間が何人もいるのかも
しれない。
可哀想ではあるが、俺としては早く忘れてしまい
たい胸糞悪い出来事であった。

 「ヴェイア。お前、生まれてきて幸せだったの
  か?」

俺の問いに、墓標は答えてくれなかった。

 「俺が、アカデミーの教官だってさ。しかも、
  お坊ちゃま方の専属みたいなものらしい。運
  が開けてきたのか?破滅への序曲なのか?と
  にかく、頑張ってみるよ。またな、戦友」

俺は墓標に一瞥をくれてから、その場を立ち去っ
た。
明日は、彼らとの顔合わせなので、早く休む事に
したのだ。


 「お優しい方ですね」

 「ええ、そうですね。バルトフェルト司令も(
  戦っている時は、鬼神のように戦い容赦はし
  ない。でも、いつもは陽気で優しい男だ。僕
  に匹敵する良い男だよ)と仰っていました」

 「私、あの方が気に入りましたわ。アスランよ
  りも良い男だと思います」

 「そうですか?顔はアスランさんの方が・・・
  」

 「始めてニュース映像でお見かけして、一目で
  気に入りました。パトリック小父様に、教官
  として推薦した甲斐がありましたわ。早くお
  会いしたいですわ。そして、必ずものにしま
  す」

 「えっ!婚約者は、アスランさんでは?」

 「ダコスタさん、秘密は厳守でお願いします」

 「私だけですか?」

 「はい。秘密は、知る人が少ない方が漏れませ
  ん」

 「わかりました・・・。バルトフェルト司令に
  も秘密か・・・。大丈夫かな?」

 「さて、これから忙しくなりますわ」

俺が去った墓地の片隅で、フードを被ったピンク
色の髪の少女と、赤い短髪のお兄さんが会話をし
ている事に気が付いている人は、誰一人としてい
なかった。


           あとがき

たまには真面目話です。
ネタが尽きそうだな。どうしようかな?
  

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