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▽レス始

「.hack//G.S. レベル6(.hack+GS)」

脳味噌コネコネ (2006-09-17 00:33)
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空を藍色が覆う時刻に、彼女は目を覚ました。
髪の色が変わっているのも、感覚がより研ぎ澄まされているのも、彼女は気にしなかった。
天井へと向けている視線を落とせば、自分の手を握って寝ている少女が、彼女の目に写った。
知っている誰かだ。名前も、笑顔さえも思い出せないけれど、それだけは真実だと思えた。
何故なら彼女は、少女の寝顔に、安心していたから。いて当然だけど、いると安心できる、そんな気持ちだ。
そんな少女とまた出会えたのが嬉しかったけれど、何故だろうか、他の何かも感じていた。
だから彼女は、

「会いたい人……どこにいるんだろう?」

どこかにその、会いたい人がいると思い、信じた。
会いたい人の存在を感じている。それが誰なのか、思い出せないけれど、

笑顔だけは思い出せた。


物の配置などに気配りのない、あるものを並べてだけのような部屋で、目を開いた少年が一人。
窓から差し込むのは朝日といえど、その時が本当に朝だったというわけではない。

「パピ……リオ?」

目を見開いた蛍の視界に写ったのは、目に一杯の涙を溜め込んでいるような気がする少女の顔が、真っ直ぐに自分を見ている姿だ。
とても脆い意思と、とても強い意志の同居したような『雰囲気』に、蛍は口を閉ざした。
少女は何かを言おうとしている。それを少女が口にするまで、ゆっくりと待つことにしたのだ。

「ごめんなちゃい」

放たれた言葉は、蛍の欲しかった言葉とは違っていた。だから彼は、そのまま待ち続けた。
リアルでの時間がどうであろうと、彼は今此処にいる。当たり前の言葉が欲しかった。

「お……」

優しい表情で、優しい瞳で、ただ真っ直ぐ少女の目を見て待つ。
言ってもらえたら返答してあげよう。当たり前のような言葉に、大切な意味を込めて。
このときの蛍は、誰よりも優しくなれる気がしていた。
目の前にいる少女がまるで、自分の妹のように感じられたから、そう思ったのかもしれない。

「おはようございまちゅ。蛍」

蛍は、すごく嬉しかった。本当に本当に、すごく嬉しかった。
リアルなんて関係ない。自分のいる場所の朝は、今なのだから。

「おはよう、パピー」

双方とも、本当の名ではない。しかし、双方とも、それが本名だった。

「此処はどこなんだ?」
「オルカの家でちゅ。倒れた蛍を、ここまで背負ってくれてたみたいでちゅよ?」

蛍は恩人に感謝しながらも、むさい男に背負って運ばれ、むさい男の家のベッドで寝ていたことに悲しんだ。

「シーツが臭う……PCにも体臭とかあるんやなぁ」
「そうなんでちゅか?」

オルカの所有物であるベッドのシーツは、臭かった。

「うん。なんかよくわからんけど、感覚が体に行き渡ってるんだ。本当の体みたいに」

初めこの体で目覚めたときは、少し現実味のない、不思議な感覚だった。
しかし今は、自分の体のように感覚が研ぎ澄まされている。
服の質感、大きなかさぶたになった腕の傷、そんなことすらも、鮮明に感じることが出来ていた。
だから幸せな気持ちだった。何故なら、自分の中にいる大切な存在も、明確に感じ取ることが出来たから。

「だけど……俺……」
「どうしたんでちゅか?」

蛍の脳に焼き付けられた光景。腕輪から放たれた、自分が今此処にいる原因を作った閃光。
撃てば撃つほどに感覚が鋭いものへと変わった。今となっては、もう自分の体だとしか思えない。

「昼と夜の一瞬の隙間」

この場所に来て、まだ一度も見ていない。

「心一つで、救い、滅び、どちらにでもなる」

敵と同じ力でも、正しく使えばそれは正当な力……そういうことだったのだろう。

「女の子って、詩人だよな」

そういえば、白い少女に本を貰ったあの場所の空は、あの夕焼けに似ていた気がする。

「わたちは夜明けの空の方が好きでちゅよ」
「そういや、この世界で始めて起きたときに見た空は、いい夜明けだったなぁ」

パピーの言葉は、必死で姉に対抗しようとする、子供なりの儚い一手。
その心を罪悪感と恐怖が、容赦なく揺らし続けた。

光が強くて、何かとても強い力を感じてしまうのが朝日。
赤が強くて、何かとても儚い力を感じてしまうのが夕日。

「こんなこと言ったらルシオラに怒られるかも知れんけど、俺も、朝日の方が好きかもしんない」

朝日は、夜を越えて現れるその強い光によって生気を纏い、朝の始まりを告げる。
夕日は、昼を終えて現れるその紅い光によって生気を剥ぎ、夜の始まりを告げる。

「怒りまちぇんよ。ルシオラちゃんなら、絶対に」
「……そうだよな」

パピーの言葉の意味を、蛍は理解している。理由は簡単だ。

「はじめて一緒に見たんだ……朝日」

心の中に確かに佇む光。何故か今は、初めて目覚めたときよりも繋がりを強く感じられていた。
その理由がなんとなく、わかってしまった。きっと、あれが原因なのだと。

「だけど……俺……使ったんだよな」
「何をでちゅか?」

敵と同じ技。自分は自分にとって正しい方法で、敵は敵にとって正しい方法で、同じものを使った。

「スケィスの奴が使ったのと同じ技。美神さんはデータドレインって言ってた」
「!……それじゃあ、オルカが言ってた違法スキルって、データドレインのことだったんでちゅか?」

蛍には一つの選択肢しかない。頷くことだ。

「スケィスにやられたとき、心を取られるような力と一緒に、心を壊されるような力を感じたんだ」

蛍には、ゲームの『中』に来て妙なことを知ってしまった。

「頭が痛くて真っ白になって、何もかも壊されて消し去られそうで、すっごく怖かった」

感じてしまったのだ……この世界に現実よりも強い命の力を。

「そんな怖いことしたんだよな……俺。何回も、何回も」

泣き叫ぶモンスターの声を覚えている。飛び散っていくデータの破片に身を裂かれた少年の叫びも。
データドレインは禁断のスキルだ。それが、痛いほどに解る。
そのような方法を行使しなければいけないのも、わかっている。

「あの白い女の子が託してくれた力なんだ……これから、何度も使わないといけなくなる……」

何かを知っているあの少女の託した力が、不必要なものであるはずがない。
これから彼は、何度も、何度もあの悪夢のような技を行使しなければならない。

「悪霊とか、そういうのを倒すのは互いにとって救いになるからいいんだ。俺はGSだから。
 でも……心を壊してしまうような方法で、戦いたくない。心が無くなくなったりしたら、死ぬ事よりもずっと辛いじゃないか……」
「ヨコチマ! ゲームの中の存在に、心も命もありまちぇんよ!!」

そんなことで悲しんで欲しくない。そんなことで、心を汚して欲しくない。
純粋にただ相手を思っての怒声が、部屋の中に響き渡る。

「…………」

パピーの言うとおりであると信じたかった。
だけど、それで自分を正すだけでいいのか、良くわからなかった。
だからまずは、明確である事実に対して礼を言うことを、蛍は選んだ。

「ありがとな……本当に」
「…………」

責任を感じているのだろう。自分のために、本当に頑張ってくれている。
絶えず自分を支えようと努力していて、気遣いの一つ一つに丁寧な優しさをくれる。
どんなに感謝しても、感謝しきれないくれいに、自分は支えられていると、蛍には思えた。

「それでさ、一つ聞いていいか?」
「……何でちゅか?」

質問の内容が深刻なものであると、パピーはそう思った。
しかし、その予想は完璧に裏切られることになる。ある意味、深刻だと言えなくもないが。


「なんか無茶苦茶お腹空いてるんだけど、どうすりゃいんだ?」
「……え?」

蛍はデータの集合体である。決して物質ではない。
その体が栄養を求めるなど、有り得ない。そんな馬鹿なことがあるはずがない。

「それに喉も乾いてるし、トイレにも行きたい」

まるで本当に、朝起きた人間のようである。

「それは本当なんでちゅか?」

コクッと頷いた少年の姿に、パピリオは冷静さを取り戻す。
信じられない事実なんて、もう何度か見てきたはずだと自分を納得させて、パピリオは事実と向き合った。

「うーんと……そうでちゅねぇ……。プチグソのエサ……はダメでちゅし……」

一年前には堂々と腐った肉を渡していたパピリオであるが、今は間違ってもそんなことはしない。

「あ! そうでちゅ! 山吹色のお菓子をたくさん持ってまちた。あ……でも、アイテムなんてただの文字データでちゅし……」

たくさん所持したまま残っている山吹色のお菓子を出そうとしたパピーだが、いくらThe worldといえどそこまでは出来ない。
そもそもアイテムには、グラフィック自体存在しないのだ。

「あ……それなら、蛍が直接リュックから取り出したり出来ないでちゅか?」
「ん。やってみる」

蛍がベッドから立ち上がり、パピーの背後に回る。
小さなパピーによく合った、ミニサイズのリュックサック。前と、色が変わっている気がした。

「そういや、髪の色も少し変わってるよな……」
「そういえば言ってなかったでちゅね。蛍が寝てる間に、The worldがバージョンアップしたんでちゅよ。
 それで新職業の拳闘士が追加されまちたから、それでキャラを作ってみたんでちゅ。名前もパピィになってまちゅ」

現在レベル2である蛍と一緒に遊ぶなら、そのほうが面白いし、パーティを組めるチャンスも増えると思っての行動である。

「ていうか、そういえばパピィの方は倉庫から取ってきたアイテム以外持ってないんでちた」

山吹色のお菓子はパピーが所持したままである。

「パピーに変わってきまちゅから、待っててくだちゃい。ついでに食べれそうなもの倉庫から出してきまちゅ」

おおよそネットゲーム内での会話とは思えないが、その分蛍には、『自然』に生きている感覚が戻ってきていた。
彼は少しずつゲームの中のリアルに触れていき、そして、溶け込んでいく。
苦難が続いても、そこには確かに日常が存在することを、彼は知った。
ゲームが楽しいとか、そういうのではなくて、生きるのが楽しい。
そんな日常に吸い込まれていく彼は、結果的には幸せだったのかもしれない。


         .hack//G.S. Version1.00『ゲームの中のリアル』
                STAGE CLEAR


 To be Continue……


 あとがき
優しくかつ切ない雰囲気を大切にしようと思って書いていたら、異常に時間がかかってしまいました。
こんなに気を使って書いたのは本当に久しぶりです。
GS美神の続編であるというスタンスをとっている以上、このノリで話を進めていいのか不安になりますが、横島がゲームの中で生きている事を可能な限り自然な形で示したかったのでこんな感じになりました。
というか、ギャグを交えながら説明する話を書こうとしてたのに、まったく別のものが出来てますね。
蛍の体に関する詳しい説明は必要不可欠なので、次回に繰り越します。


 レス返しです

麒山悠青さん
冥子のその後は次回の頭に出てくるので、お楽しみにです。
少しだけ成長した冥子を描こうと思ってます。天然なのは変わりませんが、少し意思の強い人になってます。

寝羊さん
原作と違って敵意を持っていないバルムンク、未帰還者になっていないオルカ、そして黄昏の腕輪を持たないカイトの三人がどう動いてくれるかで、どんな風に原作から離れていくかが左右されます。
ウィルスバグからの攻撃や、ウィルスデータの破片をくらうといった事柄により、カイトとブラックローズにある特殊能力っぽいものが付く予定です。
もちろんカイトのカラーは……。

シャミさん
ミア復活イベントは僕も苦労しました。二回システムエラー発生で強制ゲームオーバーを体験し(二回目は14階まで降りてました)、やっとのことでクリアして、ムービーに涙ぐみました。
それと妖精のオーブ、僕もやりました。同じことやって少しガッカリしてる人が自分以外にいると思うと救われます。
カイトのカラーについては、データの破片アタックが解決してくださりますので、ご心配なく。

秋桜さん
侵食率に関しては、エヴァのシンクロ率を思い浮かべていただくとある程度の想像が付きます。
冥子の部屋は崩壊しておりません。スローペースながらも成長しているのです。詳しくは次回で。
流れた時間により、GSの面々は大なり小なり成長しております。いずれ雪之丞やらエミやらヒャクメやらGSの面々が出てくるので、彼彼女らがどう成長しているかにもご期待ください。

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