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▽レス始

「.hack//G.S. レベル5(.hack+GS)」

脳味噌コネコネ (2006-09-12 21:11/2006-09-16 20:32)
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「何?」

桃色の髪の少女から蛍に向けて発せられたのは、明らかに不機嫌そうな声だ。

「あ……ごめん。謝るよ」

見物していたことが相手に不快感を与えていたのに気付いた蛍が謝る。
見た目対象年齢以下の女性に対して見せる、彼のわりとさわやかな一面だ。

「ふぅん……これからはちゃんと注意しなさい。人をジロジロ見るのはマナー違反。ゲームでもリアルでも一緒だよ? わかった?」
「まぁ……そりゃそうだわな。ほんとにごめんね。PCの外見って目新しくて、目が取られちゃったんだ」

正直に『怪しい行動をとる少女に目が取られた』とは言わないところ、かなり余裕があるようだ。
とんでもない環境化に置かれた彼であるが、普段もけっこうとんでもないため、だいぶ免疫が付いたように思える。

「あんた初心者ね、絶対そう。そうでしょ?」
「うん。昨日始めたばっかりっす」

蛍と相対する少女、ブラックローズの口調からは、不機嫌さが消えていた。
変わりに顔を出しているのは、面倒見の良い姉の一面だ。
しかし、蛍は気付いている。ブラックローズという名のPCを操っているのは、初心者であると。
ずっとPCの歩みを眺めていれば、歩き方のぎこちなさや、右左を伺っている動作で、初心者だと見極めることくらいは出来た。

「えっとぉ……横島君はどこかしら〜?」

二人が会話を続ける中に、蛍にとっては聞き覚えのある間延びした声が響いた。
PC名ではなく本名を言っているあたり、彼の待っていた人物と見て間違いない。

「冥子さん、こっちっすよ!」

美神に聞いたとおり、本人そっくりの姿を持つPC『メイコ』に、蛍は声を張り上げて言う。
知り合いの、年上の、しかも美少女に会えたことが、彼のボルテージを上昇させていた。
声を聞いたメイコは少し顔を綻ばせ、駆け足で蛍に近づいてきた。

「この人、あんたの知り合い?」
「はじめまして〜。メイコって言うのよ〜」

頭上に名前が表示されている時点で紹介する必要はないのだが、律儀にも名の名乗るメイコに、ブラックローズは笑った。
やたら間延びしたその口調は、聞いた事のないブラックローズにとって可愛らしく写ったのだ。

「あたしはブラックローズ。よろしく」
「メンバーアドレス交換しましょ〜〜」

出会っていきなりアドレス交換を頼むのは、マナー違反以外の何でもない。
しかし、友達が欲しいという汚れのない思いと表情に、面倒見の良いお姉さんは快く了解した。

「メイコさん! どうぞ僕のメンバーアドレスをお受け取りください!! ついでにこの溢れんばかりの愛も!」

そんな中、雰囲気の良さを一気にぶち壊す馬鹿が動いた。
システムを超越した速度でメイコの目の前に移動し、持ち前の煩悩を発揮している。
いきなり抱きつかないところが、心の片隅に残っている『恐怖』をまざまざと表している。
先程とは明らかに異なるその姿に、ブラックローズは三歩後ろにさがった。

「……ていうか、アドレスの交換なんてどうやるんだ?」

今の蛍には、コントローラ等というものはない。
全て自分の感覚で動き、現実としてこのゲームを捉えていた。

「いくら初心者でも、説明書くらい読んでるんでしょ? 友達アイコンをクリックして、次にアドレス交換をクリックよ」
「それはわかってるんだけど……」

やり方を知らないのだろうと解釈したブラックローズが説明するが、それには何の意味もない。
何故なら、蛍の視界にはアイコンやらメニュー画面やらという便利なものが見えていないのだ。
ゲーム画面を見ているのではなく、『現実』の風景を見ているのだから当然である。
さらに都合が悪いことに、蛍の事情はトップシークレットに分類されていた。
極秘依頼という形で受けている以上、それは当然である。しかし、この状況でそれは非常に困る話だ。

「そうだ! 冥子さんからやってくれればいいんじゃないすか!」

蛍からは無理でも、冥子からならば可能であることを、蛍は思い出した。

「それが〜……さっきからやってるんだけど〜、横島君を選んだらエラーがでちゃうの〜」
「へ?」

ここに来てさらなる問題の発生に、蛍の思考は一瞬ストップした。

「あ、ホントだ。あたしもエラーになった」

そこへ追い討ちが入る。
それから数秒ほどの沈黙が続くが、蛍は明確な答えが出せなかった。


Δ隠されし 禁断の 聖域


蛍の前に建つのは、他のエリアとは根本から異なった建物。
あの後、ブラックローズに誘われた蛍とメイコは、The worldに存在する特殊エリアの一つ『隠されし 禁断の 聖域』に来ていた。
とはいっても三人とも、此処が特殊エリアであることなど知らないが……。

「無限に近いくらいのエリアがあるのに、こんなに細かい造りなんやなぁ……」

Δ隠されし 禁断の 聖域は、ゲーム内で最も特殊なエリアの一つである。
とはいっても、何のためにあるのか、それを知るものなどほとんどいない。
謎を解いたように見えて、まだ何も、解かれてなどいないのだから。

「でも、どこにもダンジョンがないわぁ〜」

ついでに、マップも表示されていない。

「入るわよ」

険しい表情で歩き出したブラックローズの後に、蛍とメイコが続いて歩く。
空も海も何もかもが、終わらない何かを唄っていた。
蛍は、二人とパーティーを組むことすら出来なかった……。


建物内部   アウラの教会


「本当にゲームの中……なんだよなぁ」
「ん? それって、違わない?」

蛍にとってのThe worldと、ブラックローズにとってのゲーム、同じ意見を持つことはできない。

「……そりゃ、そうだよな」

何に対して言った言葉なのか、それは本人にしかわからない。
だけど、それは決して長く続くものではない。きっと、誰かが理解してくれるだろう。

!?

突然唸り声のようなものが響き渡り、三人は足を止め、周りを見渡した。
蛍の前方から、魔方陣なしで現れる異形の魔物。
The worldの最弱モンスターの一種、ゴブリンである。

「何!? 何なの!?」
「妖怪はいややぁ!!!」

突然の出現に恐怖するブラックローズと馬鹿の声が、空しく響く。

「横島君、がんばって〜」
「任せてくださいメイコさん。奴はこの俺が成敗して見せます!!」

しかしメイコの言葉で、馬鹿は走り出した。
馬鹿の刃がゴブリンの腹を斬り、次に左腕を切り落とす。
対してゴブリンから繰り出された一撃は、馬鹿の剣に弾かれた。
だがよく見れば、弾ききれずに手首を少し斬られている。ダメージ表示があるから後ろの二人には丸わかりだ。

「痛みはないんだな……流石ゲーム」

三度目の斬撃でゴブリンを倒した後の馬鹿の呟きに、ブラックローズは疑問を浮かべた。

「あ……あれは……あの白い女の子!?」

教会の奥で、鎖に縛られるようにして佇む、白い少女の像に蛍は驚き、走りだす。

「あの子の像があるってことは……ここも結構やばいんかなぁ……」

なんとも格好の悪い男である。少しでもやる気を持っているのが救いだ。
ひそかにブラックローズは蛍を、『わけのわからない奴』に定義した。
いろいろな意味で、的のど真ん中を射ている。

「つうか、何であの子の像があるんだ?」
「知ってるの? この……なんか切ない像の人」

白い髪の少女の噂は確認されているが、広まってはいないし、顔をはっきりと覚えている者は居ない。
だから、知らなくて当然である。

「うん。まぁ、いろいろあってさ」
「ふぅん」

二人の会話が続く中、目新しそうに室内を見回る天然娘は、ミスをおかしていた。
すぐに自然回復する程度のダメージしか受けていない蛍の回復を行っていない。
パーティーさえ組めていれば気付いたであろう。
蛍のHPは、先程からまったく回復していなかった。

「やっぱあんた、わけわかんない」
「へ?」

普段こそわかり易い性格をしている彼だが、たまたま少女は、そうでない彼を見てしまった。

「涼しげな奴かと思ったら、馬鹿だし、臆病だし、何故か妙に儚げオーラ出してるし、ホント意味わかんない」

涼しげなのは声と容姿のせいだろう。
ブラックローズの中で蛍は、自分より年下だと決定付けられていた。

「そういやさ、私が初心者だってこと、気付いてるよね?」

蛍は無言で頷いた。声が出せるような気持ちではなかった。

「それでも一緒に来てくれて、あんたも、わりといい奴なのかもね」

『も』とは、メイコをいい奴だと思っている証拠だった。
それが何故か、蛍には嬉しかった。

「お前たち! ここで何をしている!」

声に驚き、三人は入り口の方を向いた。
大きな扉が強く押し開かれる音と共に、三人のPCが入ってくる。
先頭には白い翼を生やす、白い髪の男。
続いて茶色い髪と何かの模様のようなものが描かれた顔を持つ男。
そして二人の後ろには、緑色の少しぶかぶかな服を着た、青い髪の少年がいる。
その内の二名が超のつく有名人であることに、三人はまったく気付かなかった。

「此処は危険だ。早く帰った方がいい」
「……やっぱり危険なんだ……此処」

三人のPCの名は、バルムンク、オルカ、カイト。
内二人は、蒼海のオルカ、蒼天のバルムンクの二つ名を持つ、トップクラスの上級プレーヤーである。

「ごめんな、カイト」
「ううん。いいよ、別に」

帰った方がいい、という会話から、えらく脱線した内容だ。
事情のわからない三人には理解不能である。

そんな中、メイコの近くの空間が大きくゆがんだ。
そして現れたのは、大型の巨人系モンスター、サイクロプス。
エリアレベル6のダンジョンには、出てくるはずのない強敵である。
次の瞬間、メイコの姿が消え去った。ただゲームを離脱しただけであるが。

「な!? もしや、ウィルスの影響か!?」
「それは違うやろうなぁ」

蛍の言葉は的確である。
突然現れた巨大な敵に驚いたであろうメイコが取る行動を、彼は良く理解している。
だが、そんなことがわかるはずもないバルムンクが、高く跳躍した。
白く煌く刀身が、サイクロプスの体を大きくえぐる。
しかし、まったくのけぞらない。HP表示を見れば、原因は簡単にわかる。

「オルカ! やはりこいつも」
「ああ。間違いなくウィルスバグだ」

サイクロプスの纏う、緑色のデータの破片が、それを証拠付けている。

「何なのよアイツ……気色悪い」
「あいつも、ウィルスバグなんか?」

蛍はウィルスバグの存在を知っている。その馬鹿げたステータスを、理解している。

「奴はウィルスに汚染され、ステータスを書き換えられている。あいつのHPは……無限だ!」
「こいつが……」

ブラックローズの呟きが、蛍には聞こえていた。
BGMが聞こえない彼には、通常のプレイヤーよりも、声がよく聞こえたのだ。

「こいつのせいで……殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

激しい怒気を込めた声でサイクロイプスに接近するブラックローズの言葉の意味は、なんとなくでしかわからなかったが。

「無理だ! こいつに構うな、死ぬぞ! チッ」

止める声など聞こえていないブラックローズにバルムンクは舌打ちし、後を追う。

「お前は下がっていろ」

オルカがカイトを制し、走り出す。
フィアナの末裔の名を持つバルムンクとオルカは、非常に強い。しかし、それでも敵わない相手である。
それでも助けなければいけないのは、ウィルスバグの攻撃が非常に危険であるからだった。

「喰らえぇぇぇぇぇ!!!」

ブラックローズが叫びと共に、その両手に持つ大剣を振り下ろす。
しかし、効くはずなどない。相手のHPは無限なのだ!
反撃の、巨大な腕による拳骨が、少女に迫った。

「クソッ!」
「キャッ」

ギリギリのタイミングで、バルムンクの腕がブラックローズを押す。
ブラックローズにサイクロプスの攻撃は当たらなかったが、バルムンクの頭上には有り得ないダメージが表示されていた。
9999。システム上、ゲーム最大ダメージである。
途端上がる断末魔。バルムンクのものだ。
死んでゴースト状態になることもなく、バルムンクの体は、何かがはじけるように消え去った。

「バルムンク!! そんな……攻撃力まで書き換えられているのか……?」
「そうだ! 美神さぁぁぁん!!」

美神の助けを呼ぶため蛍が叫ぶが、返事はない。
回線は、完全に遮断されていた。三人がこのエリアに入ったその時から。
一撃を逃れたブラックローズに、右腕の一撃が迫る。
もはや逃れる術はなかった。咄嗟のガードが出来るほどに彼女は経験をつんでいない。
表示されるダメージは、やはり9999。

「ブラックローズ!!」

叫んだ蛍の体に、異変が起き始めていた。
体に走る謎の痺れに、蛍は息を呑む。
彼の視界の中に、白い少女に貰ったアイテム、黄昏の書が現れた。
それに驚く間もなく走る、より強烈な痺れに、蛍は身をのけぞりつつも、手に吸い付くような本を投げた。
しかし本は途中で止まり、宙に浮かんだまま、風が吹いたようにページがめくれていく。
ページが一つめくれるごとに、データの欠片のようなものが、蛍の中に入っていった。
いつの間にか周りは、白いデータが埋める空間に変わっている。
蛍の頬に、謎の文様が刻まれ、そこから何かが広がっていく。
頭全体がその埋め尽くされた後、何かは、突然破裂音と共に消え去った。
残されたのは、黄色い文様を刻まれた頬と、色素を完全に抜き取られた純白の髪。
あのアウラと、まったく同じ色をしていた。
蛍の腕が脈動する。音が耳に聞こえるほどに、強く。
そして腕は強い光を発し、青い大きな輪と、緑色の小さな輪によって構成された、巨大な腕輪が生まれた。
その腕輪に導かれるように突き出された腕の向く先は、あのサイクロプス。
この腕輪を見たことがあった蛍には、何が起こるのかを即座に理解した。
そして、強い力がとてつもなく危険なものであったことも、彼は理解した。
腕輪から打ち出される何本もの光が、サイクロプスを貫き、飛び散るデータの破片を吸収する。
それが体内に入ったとき蛍は、強い嘔吐感と共に、先程ゴブリンに斬られた腕が微かに痛むのを感じた。

それで、終わると思っていた。

止まらずに打ち出される、二度目のデータドレイン。
データの破片が体内に吸収されると、腕の痛みが少し増した。
三発目のデータドレインでも、少し増した。
続いて打ち出される、四発目、五発目を終えた時には、痛みに顔が引きつり、斬られた箇所から、血が流れた。
ポタポタと流れ落ちる血の音が、データドレインの回数を重ねるごとに大きくなっていく。
データの破片は、砕け散ってそこら中にばら撒かれるようになった。
迫る破片を剣で砕いたオルカ。そして、

「アアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」

迫る破片に体を貫かれ消え去ったカイト。
見えてはいたけれど、そんなことを気にしてられなかった。
そして、九発目のデータドレインが打ち出される。
サイクロプスは、小さな雑魚モンスターに変わり、データの破片がまた、返ってきた。
それが吸収されたときの気持ち悪さは、段違いだ。生き地獄に等しい。
そして彼は悟った。十発目は、決して放ってはいけないと。

結果、データドレインは止まった。
蛍の体が、薄く広がった血の上に倒れ、その服が赤く染められていく。

「これは……こんなのは……ゲームなんかじゃない」

一人佇むオルカ。

「こんなThe worldが……あっていいはずがない」

彼は、しばらくその場で、立ち尽くしていた。


 あとがき
第三話以上の強烈な展開にしてみましたが、いかがだったでしょうか?
蛍の体の恐ろしいシステムを紹介するためにどうしても侵食率を上昇させる必要があったので、いっそのこと思いっきり暴走させようと考えておりました。
オルカ以外全員の安否が謎ですが、意識不明者になったりはしないのでご安心を。
カイトがどうなったかはおそらくほとんどの人が予想できると思いますので、ここでは語りません。
ちなみに侵食率とは、ゲーム版.hackの鍵となるスキル『データドレイン』を使用すると上昇する、危険なパラメータです。
このお話の中では非常に重要な要素となるので、しっかりと頭に焼き付けて置いてください。
ちなみに今の蛍の侵食率は90%です。100%になると起こる事象の恐ろしさは原作でも、この小説内でも恐ろしいです。


レス返しです

麒山悠青さん
冥子にウィルスバグクラッシャーを食らわせると『とんでもないこと』になりそうなので、やられる前に退場していただきました。
ここはGS原作の『肝心なときに戦線離脱』を継承したものです。
ギャグのような方向に話を流すように見せかけて、思わず声が出なくなるような展開に持ってくるのが作戦です。
成功したかどうかは二の次で、とにかく試してみたかった手なので使ってみました。

秋桜さん
文殊は通常の状態では出せないのですが、今回の話で文殊の生成方法に感ずかれる方がいそうで、少しドキドキしております。
霊能力によって切り抜けるシーンはこれから多々あると思いますが、理不尽な展開もたくさんあります。何せ主人公が彼なのですから。
冥子ですが、ゲーム内ぷっつんをしてしまうと間違いなくギャグ方向に崩れるので、今回はおあずけです。いつかやります。
そしてブラックローズは対象外認定です。プレイヤーは高校一年生ですが、PCのモデル的にはカイトと同い年くらいに見えたので(僕が)、という理由です。

寝羊さん
冥子の大活躍(???)はおあずけとしましたが、それ以上の驚きを感じてもらえたのではないかなぁと期待しております。
美神とのラインは肝心な時によく切れます。この部分に関しては、原作の設定に大きな+αを混ぜてあります。
僕が二次創作を書くと、話が進むごとに原作を離れていくことがよくあるので、けっこうオリジナルが混ざると思います。ですが、オリキャラとかはほとんど出てきません。
パロディの展開は忘れたくても忘れられないインパクトがあったので、僕もけっこう覚えています。


次回は、蛍の体に関することをギャグを織り交ぜながら説明するお話になると思います。確実ではありません。

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