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▽レス始

「.hack//G.S. レベル4(.hack+GS)」

脳味噌コネコネ (2006-09-09 06:17/2006-09-09 09:00)
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彼が目を覚ましたのは、ゲーム内では日の出、リアルでは夕焼けを迎えた時刻だった。
まだ回りきらない思考の中、朦朧とした意識の中で空を見る。
いつも彼が見ていた空よりも、少し赤が強いそれは、汚れぬ思い出の中で見たそれとは違っていた。
でも、彼に不快感などなかった。

「えぇ朝やなぁぁ……」

なんとなく発した言葉は、少し高めの涼しげな声色で彩られる。

「……!?」

そう、涼しげな声色だ。
とっくの昔に声変わりを終えている十八歳の彼には到底出せない、高い音。
例えるならば、アニメで男キャラの声を担当する女性声優のそれである。

「ちがう! これは俺の声とちがう!!」

起きて早々パニックに陥った少年に怪奇の目を向ける者多数。
それらを見た彼は、自分の見ている光景がつい最近見たものと同じであることを理解した。
彼こと蛍は、叫んでしまった自分を恥じつつ、奇跡的かもしれな速さで覚醒しきった脳を巡らせ始めた。
久々に大きな仕事が入ったと美神に知らされ、その中核を担う役割を任せられたこと。
成功報酬三十億の千分の一、三百万を自分にくれると聞いて、狂喜乱舞し挙句の果てにボコボコにされたこと。
仕事内容が最近恐ろしい人気を誇っているネットゲーム『The world』に関したものだと教えられたこと。
自分が内部を調べろと言われ、行動するのに最も適した設定の施されたらしいPC、蛍を使うことになったこと。
有名プレイヤーであるパピリオに協力を願ったところ、快く了解してくれてちょっと和んだこと。
ゲーム初プレイで、問題の核心に迫る事柄に遭遇したこと。

「んでスケィスの奴に妙な技食らって、魂吸い取られて……」

今の自分の立場を理解させる事実を思い出した蛍の表情が、苦笑いに変わる。
周りを見渡せば、鎧やローブを来たPC達と、現実でないことを示すカラフルな町並み。
視線を落としてみれば、藍色の手袋をはめた自分の手と、茶色い革靴を履いた自分の足が目に写る。

「ゲームに取り込まれちまったんだな……俺」

驚愕し叫び声をあげるかと思われた彼は、妙に冷静だ。
その理由は起きたときから、驚愕とは別の温かいものを感じていたことにある。

「どうにかするよう、頑張らないと……」

これ以上ないくらいに穏やかな表情の蛍が、それに似合った声で言った。

「ルシオラが、見てるもんな……」

その穏やかな微笑を、気持ちを、大切な存在と共用している気がして、彼は幸せだった。


.hack//G.S. Version1.00『ゲームの中のリアル』
              GAME START


「……プロテクトっすか?」
『ええ』

Δサーバーのルートタウン、マク・アヌ内の人気が少ない箇所に立ち、蛍は話をしていた。
相手は管理者側からダイレクトに喋りかけている、GS美神令子。

『横島君があの本を受け取ったときから、横島君には恐ろしく強固なプロテクトがかけられたみたいなのよ。
 そのせいでスケィス戦の時も、書き換えるはずだった横島君のステータスは変わらないかったし、何より、
 スケィスのあのスキル……仮にデータドレインと呼ばしてもらうけど、
 データドレインによって魂を吸い取られた横島君は本来、スケィスに取り込まれるか、
 それともゲーム内を放浪するかどうかのはずだったわ。それが、そうはならなかった。どうしてかわかる?』

対象のステータスを書き換える禁断のスキル『データドレイン』には、間違いなく霊的な威力も備わっていた。
霊感のある人物なら間違いなく、そのダメージも受けることになる。
それによって体から魂を放され、吸収されかけた。
何故普通のPCでしかない蛍に吸着したのか、考えられる要素はひとつしかない。

「それってもしかして、プロテクトの中に納まったっつうことですか?」
『正解よ、横島君。そこで問題なのが、プロテクトがただのデータでなく、結界に近いものだったこと』
「……どうして俺の魂はプロテクトを抜けられたんすか?」

システム管理者さえアクセスできず、結界としての能力さえ持つプロテクトを、そう簡単に魂が貫けるはずがない。

『偶然……としか言いようがないわね。何故だか横島君の魂が、プロテクトの波長と上手く噛み合ったのよ。
 現実的に言えば、信じられないことよ。何か他の要因も絡んでるのかもしれないけど、
 ほとんど形跡が残ってないから、憶測にも限界があるわ。』
「形跡がないって、どういうことですか?」
『あなたとパピリオが強制的に転送されたフィールド、あなた達がいなくなった途端にロストしちゃったのよ。
 経歴もほとんど消されてるし、有力な情報は無いに等しいわね』

何にしても、明確な答えが判明していない。
この事件が恐ろしく難解なものであることを、蛍は理解させられた。

「そういや俺たち……どうして助かったんすか?」
『……横島君、あなた、伝説の天才ハッカーって通り名、聞いたことある?』

蛍は首を振った。ネット関係に詳しい者なら知っている者もいるだろうが、横島はそうでない。

『私もよくは知らないんだけど、そう呼ばれているハッカーが、The worldのプレイヤーに存在するらしいのよ。
 ヘルバっていう名前で登録してるみたいだけど、本人の手でほとんどのデータが抹消されてるせいで、
 誰も居場所を知らないわ。それでそのヘルバが横島君を強制的に、
 システム管理者さえ存在を突き止めていない特殊なエリアに転送したみたいなの。
 パピリオはそこには転送されずに、マク・アヌに送られたみたいなんだけど、その理由は定かじゃないわ。
 ただ一つ確かなのは、ヘルバが横島君を何らかの要因で必要としていること。
 それもおそらく、あなたが手に入れたアイテム、黄昏の書に関係しているということよ。
 横島君は知らないだろうけど、黄昏の書なんてアイテム、データベースにだって記されていないの。
 そんなアイテムが存在している時点で、このゲーム、ただのゲームじゃない。
 この仕事、予想を遥かに上回る規模だと見て間違いないわ。
 美神除霊事務所開業以来の大仕事、絶対に解決するわよ。ていうかしないとアンタ戻れないし、わかったわね?』
「はい。頑張らせてもらいまっす!」

美神にしては珍しい、横島を頼りにしている姿勢に、蛍のやる気は高まった。
始まって以来どころが、一つの事務所のみで引き受ける依頼としては最大級の規模だ。
長い戦いの始まり。笑みも、悲しみも、全てが此処にある。
別れも、出会いも、再会も、全て少年の運命を彩る世界となるだろう。


「そういや美神さん、パピリオの奴、どうしてるんすか?」
『……横島君のことに責任感じてるみたいで、帰ってきてからずっと、寝ないで情報を集めてたそうよ。
 今は小竜姫が止めて寝かしてるから、気にしないことね。それより自分の心配をしたほうがいいわよ、横島君』
「どういうことすか?」

パピリオのことも気になった蛍だが、含みのある美神の言葉に、嫌な予感しか浮かばなかったので聞いてみた。

『あなたその状態で探索を続けて、またデータドレインみたいな霊的ダメージを受けたら、どうなるかわかってるの?』

蛍の頬に、冷や汗が流れた。
肉体と違ってデータで構成されている体は、霊的ダメージに対する鎧となってはくれない。
データドレインがプロテクトの影響を受けていないという事実が存在している以上、盾なんてない。
するとそれは全て、魂へのダメージに変わる。即死は免れない。

『だからせめてレベルだけでも上げれるように、狩りの手助けを呼んであるわ』
「手助けって……誰が来るんです?」
『冥子よ。PC名も同じで、キャラデザインもそっくりだから見間違わないわ。
 回復スキルと補助スキルを専門にするタイプらしいから、狩りはグンと楽になるわね』

冥子という名に一瞬嬉しさと恐怖を感じた蛍であったが、ゲームであることを思い出して、ほっとしながらも悲しくなった。
そう。この世界は、彼にとっては現実である。しかし、周りにとってはやはりゲームなのだ。
蛍と他のプレイヤーの間には、消して越えられない壁がある。境界がある。
間違いなく、彼はゲームの中に現実の感覚を感じていた。
汚れない空気も、流れる川の音も、地面に立っている感触も、全て本物に違いない。
心をゲームの内部に置いて遊ぶ者たちとは、比べようもない差があった。


マク・アヌ   カオスゲート周辺


蛍は待っていた。あと五分ほどで冥子がアクセスする時間だ。
現実では到底見られない通行人の姿を見ていれば、それほど暇とも感じなかった。
その姿は通行人から見れば少々不信点が多かったものの、問題には誰も気付かなかった。
蛍はPCに出来るはずのない行動を行っている。それも見た目で判断できるレベルだ。
まず、声を出してもいないのに口が動いている。
様々な動作が行えるネットゲームではあるが、口を自由に動かすなどということは出来ない。
とはいえ通行人から見れば、不信ではあるが、ただ聞こえないだけのトラブルかなんかだろうという考えで納得できた。
いちいち一人のPCを気にするようなプレイヤーはあまりいない。
ましてやそれが大人気のネットゲームであるならば、尚更だった。
しかし、蛍は違っていた。何故なら彼は生きている。
だから、不信な行動をする者には自然に目を取られていた。
そう、桃色の髪に茶色く焼けた肌を持つ、やたら露出度の高い服装の少女の奇妙な行動に、目を取られていた。
表示されるそのPCの名はブラックローズ。
彼女はその両手で大きな大剣を持ち、カオスゲートの周りを回っていた。
ゲーム未帰還者と、未帰還者を身内に持つ少女の出会い。
それは彼がこの場所で経験する出会いの中でも、もしかしたら一番不思議で、一番普通だったのかもしれない。
そう……この先にある出会いは全て、到底ゲームなどとは思えない運命的すぎたものだ。
決して導かれたわけではない。多くは彼の選択によるもの。決して、誰しも導かれてなどいなかった。


 あとがき
だいぶ更新が遅れてしまいました。それなのに短いです。
時間がある日とない日で差が激しい生活を送っているので、平日なんかはなかなか更新できないです。

第四話目で、ついにブラックローズ登場となりました。
次回では原作テイストをぶち壊すような会話になればよいなぁと思っております。
それとですが、気が向いたときにでもパロディモードなんかを書いてみようと思っています。ギャグに徹するのも息抜きにはよいと思うので、お楽しみにです。

それとカイトのカラーですが、赤が良いという人が多いので『ある手段』を用いて赤にしようと思います。これまた予想を裏切るような感じになれば嬉しいですね。

レス返しです

麒山悠青さん
予想の裏切りは先の展開を気にならせるのに効果的だと思っているので、この後も何度かあんなことがあると思います。
会話などは出来る限り雰囲気を良くして、戦闘などは可能な限り熱く、そしてストーリーは意外な展開を見せていく、をコンセプトに書いています。

シャミさん
何故ルシオラが復活したのかにはいろいろと理由がありますが、それがが証明されるのはだいぶ先になると思います。間違いなく、感染拡大のシナリオ終了までに語られることはありません。
アウラに関しては、データドレインするかしないか迷っている最中です。別にしてもしなくてもさほど問題ないので、話をより面白くする方向で検討してみます。

シヴァやんさん
霊能力はある条件を満たすことで使用可能になります。
通常の状態では蛍の体がデータでしかないため、霊力を操ることが出来ません。
ちなみに文殊を使用するには相当危険な代償を払う必要があります。
ゲームキャラとの肉指定はほぼ有り得ません。それどころが下ネタなんて原作よりも遥かに少ないと思うので、ALL全年齢対象です。というかそれしか書けません。

わんこさん
意外性の高いシナリオで、夢中でじっくり読んでしまうようなものを目指しております。
僕は自分の書きたい物を書くことよりも、読者が楽しいものを書くほうを優先するタイプなので、これからも応援よろしくお願いします。

耶麻さん
はじめまして、脳味噌コネコネです。
複雑な設定の組み込まれた.hackをどう調理するか、どこをGSと絡ませるかが完成度を高めるための肝なので、何十にも試行錯誤を重ねていこうと思います。
ご都合主義と王道的な展開は極力使わない方向で行き、自然な雰囲気の強い新生.hackを目指しております。
それと誤字の指摘、ありがとうございました。

秋桜さん
完全にデータのみで形成されている司とは、けっこう異なる点が多いです。
それは主にこの『ゲームの中のリアル』編において説明していくつもりです。
僕はルシオラよりもパピリオが好きな奴なので、いちいち出番がなくなるような目にあわせるはずがありません。決定事項です(笑)
それどころが今回の一件でさらにパピリオの出番が増します。

寝羊さん
はじめましてです。
本当に嬉しいご感想をいただいたのに、更新が遅れてしまって申し訳ありません。
僕も.hack自体はだいぶ前にプレイしております。
なので第一弾のストーリーなんかはだいぶ忘れてます。コンプリートした映像データとメールを使って話の道筋を立てているので、より原作を離れていく可能性が高まっております。
気になったことへの回答をさせていただきますと、
〃屬涼罎砲魯襯轡ラもいます。
∈8絅僖團螢がよりゲームに没頭していきます。
J玄譴呂△訃魴錣鯔たすことにより使用可能になります。しかし、非常に危険度が高い条件です。
ではでは、これからもよろしくお願いします。

神雷さん
ものすごくだなんて言われたら頑張らないわけにはいきませんね。
未帰還者状態のおかげでGSらしいネタも使用可能になり、.hackキャラとの出会いのバリエーションは増しております。
三人にこだわるのは、The worldのパーティ人数制限が三人までだからです。
パーティを組まずに多人数で入ることは出来ますが、サブイベントなどにも多人数で参加したりするのはおかしいですから、あるとしても重要なイベント絡みでだと思います。
雑魚を仲間達が駆除→蛍含めた三人パーティーでボス残滅の流れがあるかもしれません。


次回は、出来れば明日にでも更新するつもりです。

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