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「退屈シンドローム 第8話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2006-09-14 21:44)
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 SOS団、『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』がめでたいのかどうかは置いておくとして兎に角発足の運びとなってから、もうすぐ24時間が経過しようとしていた。

 無断欠席者は即刻死刑とはハルヒの弁だが、そんな風に釘を刺さずとも僕はこの部活動モドキをサボるつもりは現時点では毛頭無い。

 朝比奈みくる、未来人かもしれない二年生。

 仮に彼女が未来人であると仮定して話を進めるが、何故朝比奈先輩がこの時代、しかもこの学校にいるのかは解らないが別に大した疑問でもないと思うので取り敢えずそれは無視しておく。

 僕が問題とすべきなのは朝比奈先輩が「何故」此所に来たのかという事ではなく、「いつ」から来たのかという事だけだろう。

 僕の顔を見て怪しい程に動揺していたという事は、朝比奈先輩は僕の『経歴』を知っていると考えて良いと思う。という事は彼女は少なくとも22世紀以降の時代出身と推測出来る。しかしタイムマシンは今世紀前半に発明されたと以前誰かに聞いた事があるような気もしない訳でもないから彼女が比較的近未来から来たという可能性も捨て難い訳で、いやしかし……、

 ……ヤバい、行き詰まった思考が乗り上げた暗礁ごと渦潮に呑まれた挙げ句バミューダ・トライアングルに接触して沈んでしまった。今後は判断材料皆無な状態で無駄に頭を働かせるのはやめよう。

 兎に角朝比奈先輩が未来人だと仮定して話を締めるが、今後の僕の行動方針としては彼女と親睦を深めると見せかけて地味に探りを入れながらやっぱり親睦を深めるというのが妥当な所だろう。

 まぁ尤も、朝比奈先輩が実はちょっとイタい頭の人間で未来云々とは全く関係無いってオチも、考えられない事も無いんだけどね。

 そんな取り留めも無いような事を思考しながら岡部担任の連絡事項を適当に聴き流していた、帰りのホームルームでの事だった。

「放課後に生徒会室横の倉庫の掃除をする事になったから、今から言う生徒はやっておいてくれ」

 連絡事項の最後に何気なく付け加えられた岡部担任の一言に、クラス中からブーイングが上がった。そりゃそうだ、何故に授業から開放された刹那に不当な理由で校舎に拘束され、やりたくもない肉体労働を強制されなければならないというのか。

 この瞬間、1ー5は入学以来初めて心が一つになったと思う。このシンクロ率を保ったまま体育大会なり校内闘争なりに殴り込めば、恐らくぶっちぎりで北校の頂点に立てると思う。

 そんな牛魔王も裸足で逃げ出すような1-5全員の視線とプレッシャーを爽やかに無視して、岡部担任はクラス名簿という名の閻魔帳を開いた。この体育教師も中々のツワモノだと思う。

「まずは朝倉、次に阪中、」

 最初に朝倉の名前が挙がるのは、ある意味必然と言えるだろう。出席番号は最初だし、生徒会の末端でもある朝倉にとって雑用はある意味宿命みたいなものだ。

 二人目の哀れな生け贄に指名された阪中だが、彼女の方ははっきり言ってよく知らない。女子にしては多少背が高い事以外は、これと言って目立った点は見当たらない。選ばれたのは純粋に運が悪かっただけだろう。御愁傷様。

「ーーそして野比」

 ……そして何故に最後に僕の名が出る?

 僕の名前を最後に、岡部はクラス名簿を閉じた。どうやら指名は僕達三人だけらしい。

 その後は何の代わり映えもしないいつも通りの流れでホームルームは終わり、岡部は何事も無かったように教室を出て行った。

「良かったじゃねぇかよ、野比。羨ましいぜ」

 僕の肩を叩きながら、谷口がアホ面を浮かべて話し掛けてきた。谷口、それはもしかして皮肉で言ってるのかい? 僕としては君に代わってあげても一向に構わないんだけどね?

 ジト目を向ける僕に谷口は人差し指を立て、チッチッチッと舌を撃ちながら指を左右に振った。そのキザっぽい仕草が何となくムカつく。

「解ってねぇなぁ、野比は。朝倉は俺的美的ランクではAAランクプラス、誰もが認める完璧美人だ。阪中もランク付けしたらBはかたいね。このクラスにはAランク級の美人が二人もいるから大して目立ってねぇが、磨けば光るタマだぜあいつは」

 だから何さ。

「そんな女子二人と放課後の一時を過ごせるお前は幸せ者だって事だよ、例えそれが掃除であっても。全く、代わって欲しい位だぜ。寧ろ代われ」

「……前言撤回するよ、やっぱり代わってくれなくて良い」

 アホの相手をさせて二人に更なる負担を掛けてしまうのは忍びない。ここは大人しく犠牲になっておくとしよう、主に阪中と朝倉の精神的健康の為に。

「のび太、掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよね」

 ……ハルヒ。いや、最早何も言うまい。

 ところで、先程から「生徒会室横の倉庫」という岡部の言葉が何となく胸の奥に引っかかり、何か大切な事を忘れているような気配がしない訳でもないのだが、果たして僕は何を忘れているのだろうか。


 さて、岡部から指示のあった「生徒会室横の倉庫」に女子二人とやってきた僕であるが、引き戸を開けた先には魔境が拡がっていた。窓際に積まれたダンボール箱はその中身を盛大にぶち撒け、元は並べられていた筈のパイプ椅子はドミノ倒しの如く床の上に整然とひっくり返り、まるで嵐か何かに襲われでもしたかのような惨状を惜しげも無く晒している。

 その時になって、僕は胸の奥に引っかかっていた違和感の正体に思い至った。

 そう言えばハルヒの奴、昨日の備品物色の跡を放ったらかしたまま朝比奈先輩捕獲に乗り出したんだった。

 さり気なく隣の朝倉に視線を移してみれば、意外と言うべきか石化したように固まっていた。普段の雰囲気やら第一印象やらから考えれば「フリーズした」という表現の方が似合うような気もするが。どちらにしろ、完璧委員長朝倉涼子もやはり人間だったと言う当たり前の事が改めて証明されて、少しだけ淋しく思ってしまったのは何故なんだろうか。

 ちなみに阪中の方は、やはりと言うべきか朝倉同様に見事に固まっている。

「……取り敢えず、まずはコレを片付けましょうか」

 漸く意識がこちら側に戻ってきたらしい朝倉が僕と阪中を振り返り、引き戸の奥に家具がる魔境を指差しそう促す。その顔には最早お馴染みとも言える微笑みの仮面が貼付けられているが、微妙に引き攣っている目元や口の端を僕は見逃さなかった。

 その後、ひっくり返ったダンボール箱に中身を詰め戻してパイプ椅子を立て直すのに30分、そこから床に積もった埃を帚で掃き切るまでに更に30分の時間を要した。気がつけば窓際に苦労して積み上げたダンボール箱の隙間から良い感じに差し込んでいた夕焼けの光が、何となく霞んで見えたのは気のせいではないと思う。

 総てが終わり、僕は床に仰向けに転がり込んだ。用は済んだ訳だからこのままハルヒ達の顔でも視に行っても良かったのだが、如何せん身体が言う事を聞いてくれない。帚で埃を掃き取っただけで雑巾がけは一切していないからもしかしなくてもブレザーの背中が大変な事になっているだろうが、そんな些細な事はどうでも良い程に僕の肉体も精神も休息を欲していた。というか、寝たい。

 視界の隅で阪中が糸の切れた人形のように床に座り込む姿が目に留まる。流石にたった三人でこの倉庫教室を掃除するというのは些か酷だったらしい。

 一方の朝倉へと何気なく目を向けてみれば、こちらの方はまだまだ余力を残した様子でパイプ椅子に腰掛けていた。タフだ。


「ねぇ、野比君って涼宮さんと仲良いの?」

 まるで何となく思いついたような様子で何気なく、唐突に阪中がそんな事を訊いてきたのは、掃除が終わってからどれ位の時間が経ってからの事だろうか。さざ波のように這い寄る疲労感に身を任せ、怠惰に時間を浪費していた僕の意識は、その一言で急速に現実へと引き戻された。喩えるならば、劇場版になる度に何らかの動作不良を起こす某猫型タヌキの竹トンボ型未来道具が毎度の如く飛行中に電池切れを起こして、横方向の慣性を無視して垂直に自由落下する時のような位の勢いで。……今更だけど、よく生きてるな僕って。

 そんな事よりも、今は阪中の問いだ。何故今この場でハルヒの名前が出て来るのだろう。……もしかして、この倉庫の惨状がハルヒの仕業だとバレたのだろうか?

「昨日の放課後、野比君凉宮さんと二人で旧館から出て来てたでしょ?」

 重ねられた阪中の言葉に、内心僕は胸を撫で下ろした。取り敢えず、この重労働の元凶がバレた訳では無いらしい。

 ……そう言えば、確か阪中も入学当初のハルヒに話し掛けていたチャレンジャーの一人だったような気がしないでもない。個人的にどうでも良い事だったからすっかり忘れてたけど。

「あたしもちょっと興味あるな」

 朝倉も話に加わってきた。見上げると作り物にしか見えない笑顔を浮かべた完璧委員長が上下逆さに僕を見下ろしている。

「あたしが幾ら話し掛けても何も答えてくれない涼宮さんが、貴方とキョン君には普通に話してるんだもの。何かコツでもあるの?」

「キョンは兎も角、僕はただ因縁付けられてるだけだよ」

 僕は即答した。キョンの方は努力の勝利と言えるだろうけど、僕の方はそもそも人間扱いされていない。SOS団に僕を引き込んだ事だって、きっとアンノウンを手元に置いておきたいという理由できっと間違いは無いだろう。

「「SOS団?」」

 女子二人の首を傾げる気配が、頭の向こう側から感じられる。どうやら気付かない内に声に出していたらしい。

「ハルヒが昨日勝手に作った同好会だよ。活動内容とかは知らされてないし、そもそもそんなものをハルヒが考えてるかどうかすらも怪しいけど。ノリと勢いだけで作った感とかあったし」

 まぁ、大体の予想とかは出来ない事も無いんだけどね。大方宇宙人とかを見つけて遊びたいとか、きっとそんな所だろう。

「宇宙人って……」

 阪中が絶句しているのが何となく解る。きっとその脳内では、そろそろ伝説となりつつあるハルヒの衝撃の自己紹介が無限ループしながら駆け回っている事だろう。

 そして朝倉の方に目を向けてみれば……、

 次の瞬間、僕は思わず息を止めた。

 朝倉の顔には何の表情も浮かんでいない。絶えず顔面の表面を覆っていた微笑みは消え去り、無機質な瞳が冷たく僕を見下ろしていた。

 その人形めいた顔は、長門有希とよく似ていた。

「……朝倉。文芸部の長門有希って、知ってる?」

 気付いたら、僕はそんな問いを朝倉に投げ掛けていた。瞬間、朝倉の顔に再び作り物めいた笑顔が戻る。それはまるで剥がれてしまった仮面を、再び着け直したかのように。

「……いいえ、知らないわね。どうしてそんな事を訊くの?」

 いつものクラスメイトの顔で、いつものクラスメイトの声で、朝倉涼子が僕に問い返す。だけど何故だろうか、僕はまるで知らない誰かと問答しているような感覚に襲われていた。

「……いや。何となく……」

 言葉を濁し、僕は朝倉から目を逸らした。これ以上今の朝倉と目を合わせ会話する事に、僕は何故かどうしようもない恐怖を感じてしまった。その理由は僕にも解らない。ただこの感覚は、閉鎖空間で古泉一樹と出会った時に感じたものに、とてもよく似ていた。

 床から起き上がり、僕はブレザーの上着を脱いで背中の埃を払った。充分休憩は摂れたし、そろそろハルヒ達の所に顔を出さなければ本気で死刑にされかねない。

 ……というのは建前で、本当は一刻も早くこの居心地の悪い場所から逃げ出してしまいたいだけだった。これ以上ここにいたら、僕が『僕』で無くなってしまう。そんな脅迫めいた予感さえあった。

「それにしても、『ハルヒ』ねぇ……」

 引き戸の取っ手に手を掛けたその時、朝倉の何かを含んだような呟きが僕の耳を打った。

「……何さ?」

 振り返った僕の顔は、きっと物凄く剣呑そうな感じだったと自分でも思う。

「別に。でも、とても良い事だと思うわ」

 背中越しに聴こえる朝倉の声は、総ての意味でいつもの調子を取り戻していた。あの瞬間に僕が抱いた恐怖は、今の朝倉には感じられない。

「涼宮さん、変われるかしら?」

「……どうだろうね」

 何気なく投げ掛けられた朝倉の問いに、気が付けば僕は口を開いていた。

「ハルヒは自分が変わる事よりも、周りを変える事の方にだけ目を向けている。喩え宇宙人とか未来人とか超能力者とか異世界人とかがハルヒの隣を通り過ぎても、今のあいつはきっと気付かない。我観測す、故に世界在り、……なんてね。気付いて貰えない不思議は、きっと不思議でも何でもないんだよ」

 ーーだから何の意味も無い、今は未だ。

 最後の一言を呑み込んだ喉を小さく震わせ、僕は手を掛けたままの引き戸を大きく開け放った。夕焼けの茜色が、廊下の硝子窓を越えて視界の総てを覆い尽くす。

 そして僕が夕焼け色の廊下に身を投げ出そうとしたその時、

「ーーだったら、野比君が気付いてあげれば良いんじゃない?」

 そんな阪中の言葉が、僕の背中に降り掛かった。

「……え?」

 思わず振り返った僕に、阪中はまるで1+1が2になる事を改めて説明するような顔で、諭すように言葉を続ける。

「涼宮さんが目の前の不思議に気付かないんだったら、野比君が代わりに気付いてあげれば良いじゃない。それで素通りしようとする涼宮さんの袖を野比君が引っ張ってあげれば、涼宮さんもきっと気付けるよ」

 阪中は不意に口を閉ざし、頬に指を当てて何かを考え始めた。それはまるで今この会話を締め括る為に最も似合った言葉を、頭の中の引き出しをひっくり返しながら探しているかのように。

 数秒後、頬に当てた指をゆっくりと離しながら、阪中は朗らかな笑顔を浮かべてこう言った。

「つまり、野比君が、涼宮さんの『眼』になってあげれば良いんじゃないかな?」

 その瞬間、僕は一体どんな眼で阪中を見ていたのだろうか。

「……何で、僕が」

 それだけ呟き、僕は逃げるように廊下を駆け出した。

 僕がハルヒの『眼』になる? ……馬鹿げてる。

「何で僕が」

 僕は再び呟いた。心臓の鼓動がペースを上げているのは、今僕が全力で走っているからであるだけに決まっている。

「……馬鹿げてる」

 本当に馬鹿げている。何度も何度も出会いと別れを繰り返し、数える事も馬鹿らしい位に痛い目に遭って来た僕が、

 それも良いかもしれないって、少しだけでも愚かにも思ってしまったなんて。

 ……本当に、馬鹿げている。

 ーーでもやっぱり、それも良いかもしれないって、僕は思ってしまった。


 ● ● ●


 さて、陸上部並みではないかと自画自賛したくなる程のペースでの全力疾走の果てに漸くSOS団のアジトこと文芸部室に辿り着いた僕であるが、ドアを開けた先には魔界が拡がっていた。窓際ではパソコンやら何かの配線やらを手にした見慣れぬ男子生徒達が苦虫をダース単位で噛み潰したような顔で忙しそうに動き回り、それを満足そうな顔で見ながらハルヒが何やら仁王立ちしていて、長机では朝比奈先輩が突っ伏して泣いていて、キョンは部屋の隅で電柱のように突っ立っていて、最後に長門は人を撲殺できそうな分厚い本を読んでいる。

「……何、この地獄絵図?」

 というかハルヒ、僕がいない間に何をした?


ーーーあとがきーーー
 「退屈シンドローム」って、うる星やつらのサブタイだったと最近知ったグルミナです。『退屈シンドローム』第8話をお届けします。
 皆様長らくお待たせしました。今回は閑話的なオリジナル話だったのですが、これが中々上手く書けなくて難儀しました。一ヶ月程。特に阪中さんとか阪中さんとか阪中さんとか。

>HEY2さん
何ですかその素敵大長編はw すっごく観てみたいじゃないですかこんチクショウww
長門のコスはもう少しお待ち下さい。個人的にはゴスロリとか似合うと思いますが何か?

>rinさん
 ここののび太は3割位大長編モードですね。
 「のび太×みくる」になるかどうかは解りませんが、敵同士にはなって欲しくありませんね。

>龍牙さん
 襷ですが、次の話で再登場すると思います。ご期待下さい。
 のび太って改めて考えてみると、本当に暗殺者とかスパイとかに適してますね。変装の達人という公式設定も在りますし。
 まざそれはそれとして、このssでものび太にはちゃんと銃を握って貰います。

>佳代さん
 今回はハルヒとの関係について根掘り葉掘り訊かれてましたが、朝比奈先輩の関係も余裕があったら入れたいですね。
>個人的にはのび太×朝倉のほうがいいんですけども。
 同志よ!

>自己封さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 ってうをっ!禁断のキョン×のび太ルートですか!? 見たいような見たくないような……。
 どちらが眼鏡を取るのかは、朝倉戦前後までお待ち下さい。

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