「貴方」
「へ? 俺?」
レイはライダースーツを着た青年に話しかける。そして、ハンターライセンスと小切手を見せた。
「私はハンターよ。今、逃走中の凶悪犯を追ってるの。悪いけど、このバイク、この金額で買い取らせて貰うわ」
「え? ちょ、ちょっと!」
言うや否や、レイはオートバイに乗り、走り去って行った。青年は唖然となり、彼女から渡された小切手を見る。
「えっと……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……ひゃくまん……」
ピシィッ!!
中古で買ったオートバイが100倍以上の値段で買い取られ、青年は真っ白に固まってしまった。
バイクを突っ走らせるレイは、視界に蟲の大群を捉えると、ライターを取り出し、火をつけた。
「ったく! 市街地走ってんのに、まだあの蟲追って来んの!?」
「街に入ったのが仇になったな。これじゃあ銃を撃つ訳にもいかないな」
このままでは、あの追跡してくる蟲だけはなく、黙示録の追手にも追いつかれる、とミサトは唇を噛み締めた。その時、リツコはサイドミラーを見て、眉を顰めた。
「蟲の後ろから何か追って来てるわ」
ミラーには猛スピードで迫って来るバイクのライトが見えた。
「! 黙示録!?」
リツコは窓から顔を出し、後方を振り返り目を細める。すると少女が一人、バイクに乗って自分達を追っていた。
「女の子? こっちに向かってるわ」
「黙示録の一人?」
「分からないわ」
「黙示録なら、捕獲しとく?」
銃を強く握り締めるミサトに、カジが首を横に振った。
「いや、情報を聞き出すなら一人で十分だ。逆に2人も捕まえると、連携されて逃げられる可能性がある」
「分かったわ、何とか振り切って……」
ゴォッ!!
その時、後方が突如、明るくなった。3人は何事かと思い、蟲の大群が炎に包まれていた。そして、その後ろからライターを手にした少女が、バイクに乗って現れる。
「!?」
蟲を焼き払ったレイは、後部座席で振り返っている金髪の女性とその横に座っている白髪の女性を見て、目を見開いた。
「(アカギ……博士……)」
驚愕するレイだったが、その時、助手席からミサトが身を乗り出して来た。
「助けてくれてあんがと〜」
「(カツラギ一尉……やっぱり……)」
「でも、これ以上の面倒ごとは、ちょ〜っち勘弁して欲しいの。ゴメンね〜」
かつてのような人懐っこい微笑を浮かべ、ミサトは銃口を向けて来た。そして、弾丸を一発撃つが、レイはバイクを傾けさせ、避けようとするが、突然、弾丸が破裂し、強烈な光が発する。
「(くっ!)」
思わず目を閉じてしまったレイはバイクから転倒し、路上に放り出される。車は、そのまま走り去って行った。
「お、おい君。大丈夫……?」
倒れているレイに向かって、声をかける人物がいたが、彼女はすぐさま何事もなかったかのように起き上がったのでビクッと驚いた。
「あの市街地で拳銃ぶっ放す大胆さに、性格の悪さ、後、ちっとも悪そうにしてないのに謝る辺り………昔と同じね」
かなり酷い悪口を言っているが、レイは小さく微笑み、ポンポンと服の汚れを叩き落とした。
「私は変わったのに……あの人は全然、変わってない………少し……寂しい」
そう思ってしまう事自体が、自分が相当変わっているのだと確信するレイ。
「味方だったら良かったけど……敵だったらやり難いわね」
同じ性格だったら、つい昔の彼女らと重ねてしまい、戦い難くなる。レイは、バイクを起こすと再び追跡を始めた。出来れば敵でない事を祈りながら。
ノストラード組の所有するビルで、ウボォーギンはベッドの上で体中をワイヤーなどで固定され、ダルツォネを始めたとした組員に取り囲まれていた。
「おい、起きろ!」
ダルツォルネの怒鳴る声が聞こえ、ウボォーギンは目を覚ました。
「これから、何をされるか分かるな? 盗んだ競売品を何処へやった?」
刃に不思議な文字の描かれた刀を持ち、ダルツォルネに問いかけられる。が、ウボォーギンは周囲を見回して、質問し返した。
「今、何時だ? 俺はどのくらい寝てた?」
が、ダルツォルネは質問に答えず、ウボォーギンの目の前に刀を突きつける。
「立場が分かってない様だな。質問は、この俺がするんだ。テメーが喋って良いのは、この俺の質問に答える時だけだ」
「…………やってみな。この俺に傷一つでも付けられたら、望みどおり答えてやるぜ」
挑戦的なウボォーギンに対し、ダルツォルネは刀を引っ込める。
「こいつらの報告で、テメーには銃もバズーカも効かねーって事は聞いている。だから、少し別の方法でやらせて貰う」
「ほう?」
そう言い、ダルツォルネはウボォーギンの頭の方へと回り込み、刀の切っ先を彼の左肩に付いている、傷口へと向ける。
「この刀は相当な業物でな。俺の念を増幅してくれる。謂わば、俺にとっての切り札みたいなもんだ。ハンデを貰うようで悪いが、陰獣相手に派手に立ち回ったそうだからな」
すると、彼の刀がオーラを纏い、強化される。恐らく岩ぐらいなら簡単に切り裂くぐらいの力はあるだろう。
「ぬあああああああああ!!!!!」
掛け声を上げ、ダルツォルネはウボォーギンの肩の傷口に刀を突き刺す。
「腱のほつれ! 此処を足がかりにする!」
強く刀を刺し、捻ってテコのようにそのまま肩を切り裂こうとするが、ウボォーギンの体を切り裂けない。
「(何という精神力……)」
傷口に刀を突き刺され、更にそのまま切り裂かれようとしているのに、顔色一つ変えないウボォーギンに、クラピカは冷や汗を浮かべる。
「(こいつの頑強な肉体を支えているのは、体に纏っているオーラではない。どんな状況にあっても揺らぎはしない不動の精神力! それによって作られるオーラ!!)」
正に百戦錬磨と呼ぶに相応しい男だった。その間、ウボォーギンは今の状況を冷静に分析していた。
「(体は……駄目だ。回復に相当時間がかかりそうだ。夕飯を食ったのが8時頃。腹具合から見て、12時前後か)」
そして、ウボォーギンは唯一動く頭を動かし、ダルツォルネを見る。
「業物だか何だか知らねぇが、ナマクラだな、その刀。さっきから5ミリと進んじゃいねぇ。時間の無駄だ。だが、着眼点は悪くねぇ。たった5ミリでも傷は傷、質問には答えてやる……その代わり、取引しねぇか? 命は助けてやるから、今すぐコレ外せ」
「何だとぉ?」
ウボォーギンが突然、取引を持ち掛けてきたので、一同は眉を顰める。
「俺達が欲しいのは地下の競売品だけだ。お前らは、その在り処を知らねーようだから、用はねぇ」
「! ちょっと待って! あんた達が盗ったんじゃないの!?」
「既に金庫は空だった。陰獣って奴が先に持ち去ってたんだ。オメーら末端にゃ話が通ってなかったみたいだな」
「本当なの、それ?」
ギプスを巻いたヴェーゼが一歩前に出てウボォーギンを見下ろして問う。
「何なら全てアタシが白状させようか?」
ガシッとウボォーギンの頭を掴み、ヴェーゼは唇を近づけようとしたが、そこでカヲルが肩を掴んで止めた。
「やめたまえ。噛み殺される」
「え?」
「…………惜しいな」
ニヤッとウボォーギンは笑みを浮かべ、歯を見せる。陰獣の一人が噛み殺されたのを見ていたカヲルは、毒で動けないと知っていても、顔を近づけるのは危険だと、すぐに察知した。
「お前か……壁使いの兄ちゃん」
「君達が警備と客……そして僕らの仲間を殺したのは既に知っている。それよりもウチル……人形使いの彼女はどうした? もう殺したのか?」
僅かに殺気を孕ませるカヲルに、周囲が悪寒を感じる。普段、温厚で殺気や怒気など微塵も感じさせない彼が、此処まで感情を露にしているのは、クラピカでさえ見た事ないので驚いている。
「ああ……あの小娘か。お前ら、どうやら知らないようだな」
「何?」
「アイツは黙示録の一人だ。仲間が迎えに来て、戦いは中断した」
「「「「「「「!?」」」」」」」
その発言に、皆が驚愕し、絶句した。
「……………」
「おはよ、ウチル」
ウチルは目を覚ますと、優しい微笑を浮かべている少年がいた。頭の後ろに柔らかい感触があり、それが少年の膝枕だと分かると、頬を赤くし、微笑んで体を起こした。
「オウ、ますたー! 久シ振リジャネェカ!」
「うん。偶然、ヨークシンで仕事してたんだね、ウチル」
「アア! ますたー達ハ、何シテンダ!?」
「ん〜……今回は幻影旅団と一緒に仕事してる……」
「ちきしょ〜〜!! ウー坊の野郎、人の背中で涎垂らしやがって〜!!」
説明しようとした少年だったが、ふと部屋の隅っこでタライでゴシゴシとシャツを洗っているスカイが目に留まった。少年は苦笑いを浮かべ、ウチルの頭を撫でる。
「ウチル、後でスカイに謝っときなよ」
「分カッタヨ。ソレヨリ、めんばー少ナクネェ?」
周囲を見回し、メンバーが少ないのに気付いたので尋ねる。
「えっと……リキが連れて行かれたんで、レイン、マルクト、ミストが追ってるんだ。で、マギもチェスで負けたから気分転換に出て行って、アクアは暇なんで散歩だって」
「オ〜、全員集合カ。ナ、ますたーハ、何モシネェノカ?」
「ふっふっふ。真打は最後のおいしいトコで登場するのさ」
「ヒュ〜、惚レ直シチマウゼ」
イヤ〜、と少年は頬を赤くして照れた。
スクワラが、ヨロヨロと後ろに後ずさり、戸棚に腰を打ちつける。
「ウチルが……黙示録?」
「ああ、そうだ。今頃、一緒に行動してんじゃねぇか」
「…………嘘は言ってないわ」
センリツがウボォーギンの心音を聞いて、今の話が嘘でないと分かり、カヲルは冷たい表情を浮かべ、彼を見下ろす。
「勘違いは誰にでもあるさ。俺達は、まだ何も盗っちゃいねーんだ。だから、こいつを外して『その後の事』も見て見ぬフリをしてくれよ。そうすれば命だけは助けてやる」
「なるほど……じゃあ最後の質問だ。ウチルが黙示録でなければ、君は女子供でも平気で殺すのかい?」
「降りかかる火の粉は払う。当然だろ?」
その返答に、クラピカの瞳がカッと見開かれ、拳を振り下ろすがカヲルに腕を掴まれて止められた。
「カヲル……!」
カヲルの不思議な真紅の瞳で見つめられ、クラピカはギリッと唇を噛み締めると、ウボォーギンに向かって叫ぶような声で言った。
「貴様らの……勝手な都合で、どれだけの命を奪ったんだ!?」
「よせ、クラピカ」
興奮気味のクラピカを後ろからバショウが押さえ、ダルツォルネが言った。
「競売品が無事なら、こいつはもう役済みだ。このままコミュニティーに引き渡す。俺達の目的は、ボスの護衛とボスの望むものを手に入れる事だ。復讐は、その後だ」
「取引は不成立って事だな」
「取引など初めからしていない。どっかの筋肉バカが好き勝手にほざいていただけだ」
そう言い、ダルツォルネは部屋から出て行った。
「ん……」
「やっと、起きたかしら」
リキが目を覚ますと、彼女は椅子に座らされ、鎖で簀巻きにされ、首には鉄製の首輪を巻かれ、天井に鎖で繋がれていた。
部屋はホテルの一室のようで、目の前にはミサト、リツコ、カジの3人がいる。
「(この鎖……念で強化されてる。ちょっとやそっとじゃ抜け出せない、か……)マインド、聞こえるか、マインド」
「無駄よ」
小声でマインドと連絡を取ろうとするリキだったが、ふとリツコがそう言って来たので顔を上げる。すると、彼女の手にはマインドが具現化した羽があった。
「この羽が何のか分からないけど、これはどの鳥の羽でもない。強化系の貴女が持っているのは明らかに不自然。貴女の仲間の能力で常に携帯しているのを見ると、仲間との通信手段か転移先の標識代わりと考えられる」
そう言うと、リツコは羽を握り潰し、リキは舌打ちした。
「さて、アジトの場所を教えてくれたのは感謝だけど、まだ聞きたい事があるんだけど」
「何だ?」
「あなた達のリーダーの詳細……特に念能力を教えて欲しいの」
知っているなら幻影旅団のリーダーも、と付け加えるミサト。その問いかけに対し、リキはククク、と笑う。
「マスターの詳細か……残念だが、私もマスターの詳しい事は知らない。一体、何があり、どうして黙示録を作り出したのか、その経緯、素性から私は知らない」
「知らないって……そんな奴にあなた達は付いて行ってるの!?」
「私も……マスターに無理やり誘われた訳じゃない……」
リキは静かに目を閉じ、何かを思い出すかのように目を閉じた。
物心ついた時、リキの両親は事あるごとに喧嘩をしていた。元々、互いが好き合って結婚していた訳ではないらしい。親同士の会社の経営が何たらで、互いに結婚を考えていた恋人がいたのに無理やり引き裂かれた。
一日の初め、リキはお金を貰う。1000ジェニー。コレで一日を過ごす。父親は仕事ばかりで家に興味はない。母親は他所の男と何処かへ行ってる。また、父親も他所の女がいるのだろう。両親は、互いにそれを承知している。リキには一切、愛情など向けられなかった。
スクールに通い始めた頃、一度も親の手作り弁当や、参観日などに来て貰った事の無い彼女に対し、数人の男子が『親なし』や『捨て子』という中傷を浴びせた。
それが初めて殺した相手だった。
「きゃああああああああああ!!!!!」
教室に備え付けてあるカッターナイフを掴み、男子の頚動脈を切り裂いた。簡単に頚動脈は切り裂かれ、血が噴出して男子は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
当然、リキは警察に連れて行かれたが、そこで彼女は警官の度肝を抜く台詞を放った。
「どうして? お父さんとお母さんは、毎日、血流してるよ?」
殴り合いに発展するのも珍しくない喧嘩という名の殺し合いをする両親の姿を見て来たリキにとって、他人を傷付ける事は悪い事など思わなかった。
リキが院に入れられると聞かされた時の両親の最初の言葉は『いつ出て来ますか?』だった。警官には、娘を心配している親の言葉だと思ったのだが違う。両親は、なるべく長く院にいて欲しいと心から望んでいるのだ。
リキは確信する。『自分に居場所は無い』、のだと。
院に入り、長い年月が過ぎた。15歳の頃、彼女は酷い高熱に魘された。原因不明の高熱に医者も匙を投げた。やがて彼女の右手の甲に、ある紋章が浮かび上がる。漆黒の翼の間に将犬箸いΕ淵鵐弌次
それ以来、彼女は今まで見えなかった筈の体から流れ出ている不思議な『何か』が見えるようになった。
程なくして彼女は院を出る。だが、家に帰るとそこに両親の姿は無く、別の家族が住んでいた。窓から覗くと、幸せな家族風景がそこにあった。両親に囲まれ、ペットと遊ぶ子供。ごく平凡な、それでいて幸せな風景。リキは、何故か胸が痛くなった。それが羨望や嫉妬から来る憎しみの感情だと分かると、彼女の中で何かがキレ、ドクン、と胸が激しく高鳴る。
「待った」
「!?」
その時、誰かに肩に手を置かれた。リキは驚いて振り返る。そこには、マントとフードを羽織った黒髪の少年が、同じ格好をした水色の髪の少女と共に立っていた。
「まだ壊すには早過ぎる……おいで」
優しい口調で少年は手を差し伸べる。リキは戸惑いながらも、その少年の微笑みから目を逸らせなかった。そして思う。初めてだ、と。誰かにこうして笑いかけて貰えたのは初めてだった。
「この人は私達のマスター……分かるでしょ、貴女にも?」
少年の傍らに立つ少女が不敵な笑みを浮かべ、胸に拳を当てた。
「魂が……ザワつくでしょ?」
「たま……しい……」
「君が此処を壊したいと思っても、力が無い。君は誰よりも強い力を持っている……おいで、君に力と居場所を与えてあげるよ」
居場所、と聞いてリキの目が見開かれる。少年は微笑を崩さない。リキは震えながら、恐る恐る、差し伸べられた手を取った。その手はとても温かかった。
少年達にリキは、夕陽によって赤く染まった湖へと連れて来られた。湖畔では、数名の男女が立っていた。皆、年若くリキ達と年齢は変わらない。
「ライテイ、ユーテラス、シフ、マインド……そしてアクア。皆、君と同じだよ」
「おな……じ……?」
「そう。君は、かつて使徒ゼルエルと呼ばれた最強の存在。そして、此処の皆も使徒の魂が目覚めた者ばかりだよ」
「使徒……」
「そして僕らは黙示録……世界に破壊による終末を与える。その為に力を貸して欲しい……君の」
5名の男女を背に、少年が再び手を差し伸べる。リキは、再び手を伸ばそうとしたが、不意にその手を止めた。
「む……?」
目を開けると、暗い部屋に自分が拘束されていた。
「寝てたか……懐かしい夢だ」
すると、扉が開き、ミサトが入って来た。
「あら、起きた?」
「わざわざ我が起きるのを待ってたのか?」
「まぁねん。にしてもリツコに眠らされた後で、良く寝てれるわね」
ま、30分ほどだけど、とミサトは言って近くの椅子に腰を下ろす。
「てっきり拷問やキツい尋問でもされると思ったのだがな」
「私らはマフィアじゃないのよ。悪人の権利ぐらい守るわよ」
だから黙秘権を行使するなら遠慮なくどうぞ、と笑顔を浮かべるミサト。リキは、その笑顔を見て、目を見開いた。先程、夢で出て来た少年の笑顔とミサトの笑顔が重なった。そこで彼女は、ふとミサトの首に提げられているロザリオが目に留まった。
「そのロザリオ……」
「ああ、これ? 昔、旅行先で買ったんだけど、何故か気に入って手放せなくなったの」
「マスターと……同じ」
「あ、やっぱり? あなた達のリーダーの写真見たけど、同じのしてるわね。偶然ってあるのね〜」
「…………そうだな」
ミサトは笑顔を浮かべたまま、持っていた缶ビールを飲み始める。
「ぷは〜!! 1日って、コレの為に生きてるようなものよね〜! 貴女も飲む?」
「この状況で、どう飲めと?」
鎖で雁字搦めにされていると言うのに、リキは恨めしそうにミサトを見る。その時、バン、と扉が勢い良く開かれ、リツコが入って来た。
「あ、出来たの?」
「ええ。何とか」
フッとリツコは何やら怪しい笑みを浮かべ、注射器を取り出す。そして、唐突にリキの首に刺した。
「また睡眠薬か?」
「いいえ。私が具現化した特殊な薬よ…………貴女のオーラを封じさせて貰うわ」
「な!?」
そう言われると、突如、リキの普段から纏っていたオーラが消えて行く。
「これが私の能力……“学者の極み【ライフドクター】”。安心しなさい。オーラは、1週間もすれば元に戻るわ」
「く……!」
「私としては、拷問してでも情報を吐かせたいんだけど、ミサトが頑なに反対するから……念だけは封じさせて貰うわ」
悪く思わないでね、とリツコは言うと、ミサトと共に部屋から出て行った。
その頃、ノストラード組のビルでは、ダルツォルネがウボォーギンを引き取りに来たマフィアンコミュニティーの者を地下2階に通した。
「殺してないだろうな?」
「ああ。注射器が体に通らねぇから、ガスで体を痺れさせてる」
「……………馬子にも衣装だな」
コミュニティーの者を見て、ウボォーギンがそう言うとダルツォルネは眉を顰める。
「あん………!?」
次の瞬間、後ろにいた男が彼の体を手刀で貫いた。
「耳を疑ったぞ。お前が攫われたと聞いたときはな」
「ふん」
手をハンカチで拭きながら、男――フィンクスが言うと、他のコミュニティーも付け髭やらサングラスを外す。コミュニティーは旅団のメンバーと入れ替わっており、ノブナガ、シャルナーク、マチ、シズクが変装していた。
「ウボォーの体の自由を奪っている毒を吸い出せ」
シズクの掃除機でウボォーギンは体から毒を吸い出され、拘束具をモノともせず起き上がると、大きく息を吸い込み、他の旅団員は耳を塞ぐ。
「くそオオオオオオーーーーーーっ!!!!!!!」
怒りの雄叫びを放つウボォーギンは、両拳を握り締め、怒りに震える。
「あの鎖使い……! 必ず借りは返すぜ!! 仲間諸共、ぶち殺さなきゃ気が済まねぇ!!」
そう言い、ベッドから降りると、背後から声がかかる。
「ま、待て……!」
振り返ると、フィンクスに貫かれたダルツォルネが刀を支えにして立って、ウボォーギンを睨み付ける。
「このまま……すんなりとは行かせねぇ……(せめて1分……いや、30秒で良い……足止め出来れば)」
そうすればボスも仲間も逃げられる、とダルツォルネは瀕死の身で刀を構える。そして、ウボォーギンは、ゆっくりと振り返った。
「む……」
念を封じられ、ただ目を閉じて瞑想していたリキは、ふと影から手が伸びているのに気付いた。すると、影の中から、レイン、ミスト、そしてマギが出て来た。
「ミスト、マギ。お前達まで来たのか……」
「アタシは暇だから合流しただけだ。にしてもマインドからお前の羽の反応が無いって聞いた時は、ちょっとビビッたよ」
レインはリキの鎖を解き、持って来た斬馬刀を渡す。斬馬刀を2つに割って分割すると、リキはマギに言った。
「マギ、丁度良かった。我は今、敵の能力で念を封じられている」
「あいよ、任しときな」
そう言われ、マギは頷くとノートパソコンを開き、コードの先に付いている針をリキの腕に刺す。すると、画面に凄まじいスピードで数式が表示されていく。
「(対象者にかけられてる念を数式化して、ウイルスのプログラムに置き換える……念の系統、特性判明、ワクチンプログラムダウンロード……)っしゃ、完成!」
エンターキーを押すと、ノートパソコンからフロッピーディスクが出て来た。
「ほれ、コレでアンタにかけられてる念は解除されたよ。このフロッピーは持ってろ。分かってると思うけど、それ壊れたら、また念が封じられるからな」
「分かっている」
マギからフロッピーを受け取り、リキは頷く。
「さて、帰んぞ。マルクトの野郎が屋上で待ってる」
「いや……悪いが我は戻らぬ」
「あん?」
突然のリキの発言に、マギは眉を顰めた。
ドガァッ!!
ウボォーギンは扉を蹴破り、叫ぶ。
「何処だ!?」
クラピカの仲間を探しに来たが、既に蛻の殻だった。
「ウボォーが大きい声出すから」
「逃げられたね」
「もう、戻るぜ。目的は達したし」
「陰獣は始末したし、お宝も手に入ったしね」
そう団員に言われるが、ウボォーギンは唇を噛み締めて振り返った。
「駄目だ、団長に伝えてくれ」
「俺は鎖野郎とケリをつけるまでは戻れねぇと」
「我は彼奴らを倒し、自らの汚名を晴らすまでは戻れぬ」
〜後書き〜
能力名:“不確定要素な弾丸【ロシアンルーレット】”
効果:弾丸を装填し、ルーレットが行われてから撃つ。
弾丸の装填数が多ければ多いほど、威力は増すが、逆に少なければ威力は弱い。
発動条件:オーラを込めた弾丸を、愛用の拳銃に装填する。
制約・リスク:何の弾丸が出るか分からない。
一度、装填した弾丸は絶対に撃たないと、新しく装填出来ない。
ミサト・カツラギの能力で、放出系。弾丸は閃光弾、オーラで繋がっている杭(刺さっても痛みは無い捕獲用)、爆発する弾丸、凍らせる弾丸、ドリル状の貫通弾の6種類。
ミサトは、放出系の性格……短気で大雑把、だけど面倒見が良い兄貴(姉御)肌。かなり当てはまると思い、即、放出系で決めました。それにミサトの武器といえば拳銃で、行き当たりばったり的な能力も彼女らしいと、此処まですんなりと系統と能力の決まったエヴァキャラは初めてです。
能力名:“学者の極み【ライフドクター】”
効果:自身のオーラで作り出した薬を、具現化した注射器で打つ。また、市販の薬を注射器で打てば、通常より強い効果を得られる。
発動条件:特に無し
制約・リスク:各能力によって様々だが、共通として、調合の割合は少しでも間違えれば、効果は格段に薄まってしまう。
能力名:“封印の薬【ノンエフェクトドラッグ】”
効果:“学者の極み【ライフドクター】”の能力の一つ。
相手の念を封じる。
発動条件:相手に薬を注入する。
制約・リスク:相手の念能力をこの目で見なくてはいけない。
その後、1時間以内にオーラで薬を精製する。
リツコ・アカギの能力で、具現化系。薬は彼女によって様々な効果なものを精製できる。反則的な部分もあるが、調合の割合はかなりデリケートで、彼女クラスの知識や技術、経験が無いと、まず無理。
リツコの本業は科学者なので、最初は機械的な能力にしようと思ったのですが、サポート役にしたかったので、医学的な能力にしました。通常の薬で効果倍増なので、睡眠薬や自白剤、毒薬なども効果倍増です。更に筋肉増強剤なんか使えば……。
余談ですが、今回、見て分かるようにダルツォルネがアニメ基準です。アニメの彼は好きでした。早いもので40話にまでなりました。
〜レス返し〜
なまけもの様
博打的な作戦ばかり立てていたミサトには、ピッタリな能力です。オーラのロープ付きの杭は、狙って撃ちました。シリンダーに、その弾しか入れなければ、それしか撃てませんので。ただし、威力は弱いです。
アクアは、黙示録にとってはヒソカ的なキャラですからね。
そういえば、エヴァのSSの擬人化使徒は、大抵がシンジに忠誠誓ってますね。でも、私の話は、使徒の魂が“ある理由”により目覚めた、というものですので、シンジに絶対的な忠誠って訳じゃないんですよね。リキの場合、黙示録を“家族”のように考えています。憧れだった家族を崩壊させる者には、容赦しません。
レインとミストも、リキのように辛い過去があり、そこから黙示録に入りました。
マルクト→マギ→シンジが一番近いかもしれませんが、マルクトはマギを放っておけない妹と考えてますし、マギもシンジに対して好意より兄と思って懐いてるので、恋愛感情としては微妙です。
でも、マギは確実にシンジ優先で、マギがそうしているならマルクトもシンジの命令に関しては優先です。後、ミストやウチルも何気にシンジ1番派です。他は不明。アクアもある意味、シンジ1番なんですけどね。
流刑体S3号様
と、思いつつ独断、というか決着をつける気満々です。リキからしてみれば、黙示録は家族、その家長であるシンジを捕まえようとするミサト達は許せない、です。
そうですね。ミストの仮面で顔を隠している理由が、今の2人の関係に深く関わっていました。
シンジは、今では黙示録が一番居心地のいい場所だと感じています。多分、黙示録内でも衝突があると思います。
特に今回、過去の語りが出たリキは物凄く危険です。
マギの声は、エレメンタルジェレイドのシスカを思ってくれたら良いかも。
エセマスク様
ウィップの声は、クレヨンしんちゃんの映画『暗黒タマタマ大追跡』のオカマキャラの一人を思い浮かべてくれたら良いです。イスラームの台詞ですが、偶然です。イスラームの声は、レスで声優がいるとすれば、と言われてから考えましたので。
ミサトの能力は割りと好評なようで嬉しいです。イメージにも合ってますし。
リツコの能力は神経質な具現化系ならではの能力です。
黙示録も段々とキャラが立ってきたので書いてて楽しいです。
鳴海様
初めまして、感想ありがとうございます。
ミサトの能力は、バリバリ彼女向きな能力で、成功かなと思います。
確かにサキエルはゼルエルと比べたら、脆弱なイメージがありますが、直接的な戦闘能力を持ってる数少ない使徒だと私は思ってます。サキエル、シャムシエル、ラミエル、マトリエル、サハクィエル、ゼルエル……この6体しか、直接的な攻撃方法ないですから。ガチの勝負ならサキエルは使徒の中でも強い部類かも、と思います。
夢識様
黙示録のヒソカのポジションがアクアですので。
はい、黙示録は使徒の魂が覚醒した人間です。なので『前世で自分は使徒だったかな〜』という何となく、という感覚しかありません。なので、死ねば別の人間に死ぬ可能性もありです。
ショッカーの手下様
泥棒ではなく、ハンターの権利と金で買い取りました。
壊したいほど愛しいではなく、愛しいので壊したいアクアさんです。
ミサトといえばビールというように、リツコといえばマッドです。
髑髏の甲冑様
戦闘では確かにミサトの能力はリスクになりますが、戦闘向きな弾丸は2分の1の確立で引き当てれます。
ミストはツンデレ。つよきすキャラなら、なごみんが近いですが、レインとミストは、もののけ姫のアシタカとサンをイメージしました。
今回も黙示録チームは平和です。ウィップは何処へ行ったのか私も考えてません。ウィップとユーテラスは、あんなんですが意外とマヴ(親友)だったりします。
黙示録が設立されたのは、9〜10年ぐらい前です。マギとマルクトは2,3年前、レインとミストは5,6年前に入りました。
そうですね。イスラームの仕込み刀は、ヒステリオをイメージしたので構いません。
リキは拷問まではされませんでした。ミサトの性格なら、拷問とか嫌いそうなので。