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▽レス始

「幻想砕きの剣 10-7(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-09-06 23:00/2006-09-14 01:36)
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16日目 午前 タイラー軍


 タイラー率いる軍は精鋭揃いだ。
 荒くれ者や根っからの軍人など、様々な人種が揃っているが、その全て…とは言わないまでも、殆どの人間が各々の能力をフルに使う事が出来る。
 連携も非常に上手いし、タイラーの指揮が無くても正面からのぶつかり合いなら、簡単には力負けしない。

 それに加えて、ホワイトカーパスから避難したドム軍の力添えもある。
 いかに“破滅”の魔物と言えど、数に任せて押し切るのは不可能に近い。

 だが、それでタイラー達が余裕を持って戦っているかと言うとそうでもない。
 小型の魔物一匹通さないよう、神経を張り巡らせているのだ。
 そもそも、魔物達は戦線でムリに戦わなくても、その隙間をすり抜ける事ができればいいのだ。
 一度戦線を通り抜け、人類領に入り込んでしまえば、後方には殆ど戦力が残ってない。
 いや残ってはいるが、編成が完全ではないから動けない。
 僅か数匹逃しただけで、どれだけの民間人が犠牲となるだろう。
 唯でさえ戦う力のない民衆が、通常の数倍の密度で暮らしているのである。
 ホワイトカーパスから避難民を受け入れたため、人口密度が膨れ上がっているのだ。


「ってなワケで、一匹も見逃すなよ!
 嬢ちゃん達も、頼りにしてるぜ!」


「任せるでござる!
 セル殿の弔い合戦、派手に暴れてくれる!」


「先制攻撃、行きます!」


「同じく!」


 カエデの気合に呼応するように、未亜とリリィが召喚器に呼びかける。
 応じて、召喚器はその身に強い光を宿らせた。


「ストレート・アロー!」


「パルス・インパルス!」


 一筋の閃光と、巨大な魔力塊が魔物の群に投げ込まれる。
 未亜の放った閃光は、ガードという言葉を無効化して風穴を開けてしまった。
 目を丸くするリリィ。


「未亜、アンタいつの間に…」


「いつの間に…と言われても、ホワイトカーパスじゃこんな破壊力は…」


 戸惑う未亜とリリィ。
 リリィの破壊力も決して負けてはいないが、先日までの未亜よりも大幅にパワーアップしている。
 ベリオが未亜のジャスティを覗き込んで、ぺたぺた触れる。


「確か、召喚器の力が強くなっていると言っていましたが…その為でしょうか?
 しかし、私達の召喚器は変化がありませんしね…」


 首を傾げながらも、魔物達を寄せ付けまいと遠距離攻撃の嵐。
 リリィの電撃、ベリオのレーザー、リコが呼び出す隕石の嵐、そして未亜の連射。
 接近戦が専門のカエデは、何処から取り出したのか宝禄火矢(手榴弾)を投げつけている。
 弾数は多く無さそうだが、結構な威力だ。
 …まさかとは思うが、ルビナス製か?

 首を傾げる未亜だが、ふと何かを思いついたのか顔が明るくなる。


「あ、ひょっとしてアレかな?」


「? 何でござるか?」


「リコちゃんに頼んで暗示をかけても「うわああぁぁぁ!?!?!?! ま、マスターそれは関係ありません!」…そうかな?」


「そうですとも、今は発動してないから絶対に関係ありません!」


「むぅ…リコちゃんがそう言うなら、そうなのかも…」


 突然のリコの絶叫。
 珍しい光景に、ベリオ達は目を丸くした。
 最近では叫ぶくらいは珍しくなくなったが、こうまで我を忘れるように叫んだのは初めて見た。


「リコ…何かあったの?」


「ありません。
 絶対に何もありません。
 世界の為にも私の為にも、無かった事にしなければならないんです。
 リリィさん、ベリオさん、カエデさん…身の毛も弥立つ恐怖に晒されたくなければ、これ以上疑問を持たない事です」


「は、はぁ…」


 訳が解からない。
 まだ納得してないのを見取ったのか、リコは早口に付け加える。


「元来、召喚器とは根源から力を汲み上げるための媒介としての役割を持ちます。
 召喚器それ自体にも相応の力はありますが、根源から汲み上げる力が多ければ多い程、その能力を増していくのです。
 恐らく、マスターは徐々にその機能を使いこなせるようになっているのでしょう。
 何が切欠だったのかは定かではありませんが、破壊力が増しているのはその為だと思われます」


「根源から?
 未亜殿、それっぽい感触は?」


「全然無いよ?
 確かに、ジャスティから流れ込む力が強くなってる感触はあるけど」


「だから、それが根源からの力だと思われます。
 召喚器越しなので、実感が沸かないのでしょう。
 自分でコントロールも出来ないようですし」


 何だか必死の形相だ。
 まるでそう思い込ませる事で、他の可能性を思いつくのを防ごうとしているようである。

 その隣で、リリィが炎を放ちながら難しい顔をしていた。


「でも、確か救世主の資格って、『召喚器の力を使いこなせる事』だったわよね?
 と言う事は、未亜にはその資格があって、私達には無いって事?
 大丈夫なの、こんな危険人物に救世主なんてやらせて」


「…酷い言われようだよー…。
 ………っとと、イケナイイケナイ、危うく発動する所だった…。
 我慢我慢…。
 で、リコちゃんどうなの?」


「…資格があるか無いかと言えば、現状では有りません」


「現状では…でござるか?」


「確かにマスターは、召喚器の力を使いこなしつつあります。
 ですが、それも100%ではないし、召喚器から根源の力を汲み上げる事が出来る…と言うのは、必要最低限の条件でしかありません。
 他にも救世主となるには、条件が必要…らしいのです」


 最後だけ言葉を濁すリコ。
 喋りすぎだ。
 大河と会ってから、どうも情報隠蔽のプロテクトが緩んでいるらしい。
 自分の存在意義を揺るがされているような気分だが…まぁ、別にいい。
 今の彼女にとって、存在意義は大河そのものだから。

 ベリオが怪訝な顔をした。


「…やけに詳しいですね?
 何処から知ったんですか、そんな事を…。
 多分、ミュリエル学園長でも知りませんよ、そんな事」


 いやぁ知ってる筈だけどなぁ、と言いそうになった未亜だが、グッと堪える。
 ミュリエルが1000年前の人間だと知っているのは、当人と大河、未亜、イムニティにリコ、それにクレアだけだ。
 救世主を産み出すのが役目であるフローリア学園学園長ミュリエル。
 彼女が救世主たる条件を知っているのなら、口頭だけでも伝える筈…。
 ベリオもリリィもカエデも、そう思っているのだ。


「まぁ、色々あるのです。
 情報源は明かせませんが、近い内に話す事になると思います。
 今はそれだけで勘弁…」


「…まぁ、確かに悠長に話している余裕も無いでござるしな。
 魔物達が間合いを詰めてきたでござる。
 拙者はそろそろ接近戦の用意をするでござるよ。
 各々方、兵の皆様も共に援護を頼むでござる!」


『『『『『『『『ヤー!』』』』』』』』


 周囲の兵士達の返答を背に、カエデは魔物達に突進して行った。


16日目 夕方 ルビナスチーム


「ここね!」


「って、えらく早いな」


「まぁ、シュミクラムの遠隔通信機能って言っても、そんなに広範囲に使える訳じゃないみたいだものね。
 逆探知無しでも、ある程度の絞込みは出来てたのよ」


「…ここにバチェラが?」


 ルビナスに連れられ、大河・ナナシ・透・ミノリ・アヤネ・洋介・カイラは王都の一画を訪れている。
 ここは倉庫区画で、他人はあまり入ってこない。
 確かにここなら、誰にも知られずに暮らす事も、シュミクラムの存在を隠す事も不可能ではないだろう。
 外に出るなら、搬入路でも使えばいい。


「それにしても、あのバチェラがねぇ…灯台下暗しってヤツだな」


「…と言うか、透がバチェラと知り合いだって事に驚いたわ、私は」


 口々に感想を述べるのは、透の同僚の洋介とカイラである。
 軍服ではないが、最低限の装備はしている。

 一方、ミノリとナナシは暗く沈んだアヤネを何とか宥めようとしていた。
 しかし、アヤネは壮絶な目で透を見詰めている。
 ルビナスが使った麻酔薬がまだ残っているのか、透に掴み掛かる元気はないようだ。
 だが、それでも鬼気迫る眼光は透の背筋に寒気を走らせるに充分だった。

 透としても、何時までもこんな目を向けられては敵わない。
 何とか宥めて、必要であればゲンハの事も話そうと思っているのだが…周囲で聞き耳を立てられそうだ。
 機構兵団は、スネに傷を持つ元盗賊やら何やらで構成されている。
 それだけに、迂闊に人の領域に踏み込む事は無いだろうが…。

 透はアヤネに締め上げられた首を摩る。
 大河もアヤネを抑えようとして、幾つかの打撃を貰っていた。


「イテテ…まだ首が絞まってるような気がするぜ…」


「とんでもない力だったな…。
 何か人外の血でも混じってるんじゃないのか?」


「いや、ちょっと調べたが100%人間らしい。
 まぁ、血が薄くなりすぎてるだけかもしれないけどな…。
 しかし…どうした物かな…」


「…そのゲンハってのは、どんなヤツだったんだ?
 あの執念、唯事じゃない…。
 どう考えてもロクな事じゃないな」


「…ゲンハの性格を考えれば…事情は大体予想が付く」


 透と出会う前から、ゲンハの行動は狂人染みていたらしい。
 殺戮を喜び、傷つける事に高揚を見出し、社会的な道徳を踏みにじる事を好んだ。
 リャンに言わせると、昔は多少気が荒いだけの普通の人間だったそうだ。
 それはそれで、透には想像がつかないが…。

 恐らく、アヤネがゲンハに執着する理由は復讐のためだろう。
 誰かを失ったのか、アヤネ本人が何かをされたのかは解からないが…。


「…同じ仇討ちを願う同類だ。
 協力してやらないのか?」


「大河…お前、時々性格とか趣味とか物凄く悪くなるな。
 そもそもゲンハはもう死んでるんだぞ。
 どうやって協力しろってんだよ…。
 迂闊に話してみろ、生きる気力を失うなんて事になりかねない」


「そうは言っても、もう知られちまっただろが」


 ああでもないこうでもない、と小声で話す大河と透。
 それに苛立ったのか、アヤネがナナシとミノリを押し退けて歩いてきた。
 気圧されされて、思わず一歩下がる。


「ブツブツ密談してないで…ゲンハがどうなったのか、教えなさい…!
 知っているんでしょう!?」


 フラフラ揺れながら、アヤネは透に迫る。
 が、やはりまだ麻酔が抜けきってない。
 バランスを崩し、倒れこむ。


「っとと…!」


 反射的に支える透。
 そして、次の瞬間アヤネの手が透の腕を掴む。
 透に寄りかかりながら、アヤネは至近距離から透を睨みつけた。


「うお…」

「話せ…!」


 アヤネのようなクールビューティが、至近距離から静かな怒りを叩きつけると、これはもう純粋に怖い。
 平時ならキスの一つもしたくなるだろうが、流石にそんな余裕は無かった。
 どうした物かと周囲を見回すが、今度は顔をガッチリ掴まれた。
 周囲はと言うと、ミノリはオロオロしているし、ナナシはルビナスに呼ばれて何かやっている。
 洋介とカイラは、我関せずの構えである。
 ここら辺は、同じ脛に傷を持つ人間としての配慮だろう。

 そして大河は手を顔の前でパタパタと振る。
 …こらアカン、との事である。

 正直気が進まないが、話さないとアヤネは鎮まりそうにない。


「…解かったよ、俺が知ってる限りの事でいいなら」


「………」


 アヤネは黙って手を放した。
 またバランスを崩しそうになって、透とミノリに支えられる。
 そのまま2人に支えられながら、アヤネは透を促した。


 透は語り始める。

 それは、1年と半年ほど前の事である。
 透達は、義賊団ステッペン・ウルフとして、今日も今日とて悪戯に励んでいた。
 一仕事終えた透達は、塒に帰る時に森の中を通る事にした。
 尾行されているとは思わないが、念の為である。

 その時だった。
 茂みがガサガサと蠢いたかと思うと、唐突にゲンハが現れた。
 正直、ヤバイと思った。
 ゲンハのムチャクチャな戦闘力はよく知っていたし、正直な話、勝ち目があるとすればバチェラのみ。
 そのバチェラは、何やら用事があると言って一足先に離脱している。
 ゲンハの性格から言って、透達を見逃すとも思えない。
 逃げるか、徹底抗戦するか。
 一瞬の迷い。

 だが、その迷いは無意味だった。
 ゲンハは普段からは全く想像もできない程に、怯えていたのである。


「…怯える? あの男が…?」


「ああ、何に怯えていたのかは未だに解からないし、知りたくもない。
 続きを話すぞ」


 そもそも、ゲンハは個人ではあまり行動しない。
 幾らなんでも、その程度の常識はあった。
 普段は取り巻きと共に行動している。
 だが、周囲に注意を払っても、全く人の気配は無い。
 一体どうなっているのか?

 そもそも、ゲンハはどういう理由か透達に気付いてすらいなかった。
 目の前にいると言うのに、まるで別の何かに視線や視界を埋め尽くされているかのように。
 何だかよく解からないが、とにかく気付かれる前に逃げよう…とした所で、いきなりゲンハが透達に気付く。
 よりにもよって…!と、そう思った。

 現に、ゲンハは透達を見て狂気…いや、狂喜と記すべきか…に顔を歪めた。
 獲物を見つけた、ハイエナのような笑みである。
 ヤケクソ半分で、覚悟を決める透達。

 だが、次の瞬間だ。
 ゲンハの表情が、いきなり凍りついた。
 そこからは、もうムチャクチャだった。
 透達の事などすっかり忘れてしまったかのように、ゲンハは恐怖に顔を引きつらせながら蛮刀を振り回す。
 何を狙っているのかすら理解できない、文字通り恐慌を起こして、手当たり次第に刀を振るうだけ。

 二転三転する状況に付いていけず、ボケっとしていた透達の前で。
 ついにゲンハは、その蛮刀を己の喉下に食い込ませた。
 正直な話、この辺りは透もよく覚えていない。
 ただ、色の無い水滴が自分の顔や服に飛び散った程度の記憶しか残ってなかった。
 後になって、水滴が赤い血だった事にようやく気付いたくらいである。

 ゲンハは、これ以上無いと言わんばかりの恐怖と、肉を切り裂く感触による喜悦を顔に張り付かせて息絶えていた。
 初めて人が死ぬのを、間近で見た。
 ツキナは放心状態で腰を抜かし、アキラやユーヤも何も話せない。
 透も、立っていたのか座り込んでいたのかすら覚えてなかった。


「…その後、いきなりクーウォンがやって来て…。
 俺達に2言3言質問して、ゲンハの死体を持ってどっかに行っちまった。
 リャンから聞いた話だと、燃やして灰を海に撒いたらしい。
 俺が知ってるのはそれだけだ」


「……………」


 話を聞いたアヤネは、感情や覇気が抜け落ちた表情で透を見詰めている。
 ミノリは暗い表情だ。
 まるで出来の悪い怪談である。


「……どうして…ゲンハは怯えていたの?」


「分からない…。
 クーウォンなら何か知ってるかもしれないけど、知りたいとは思わなかったしな。
 …………これで…いいか?」


「…………いいわけ…いいわけないじゃない!」


 呆然としていたアヤネが、透に詰め寄って胸倉を掴み上げる。
 ミノリが慌てて止めようとするが、大河が制止した。
 透を見る大河。
 言われなくても、と透は大河に視線を投げ返した。

 状況も忘れて、アヤネは叫ぶ。


「それじゃ私は何なのよ!?
 復讐のためにずっと追いかけてきて、手がかりがあったと思ったら死亡報告ですって!?
 何のためにここまで来たと…!
 しかも自殺で、何故狂ったのかも解からない!?
 こんな終わり方は無いわよ!
 どこまで…どこまで私たちの人生を狂わせれば…!」


 血を吐くようなアヤネの叫び。
 ここが何処だかも、彼女には関係ないのだろう。

 透にも、少しは解からないでもない。
 彼女に何があったのかは想像しかできないが、何かを奪われ、残った全てを注いできた復讐という目的。
 しかし、復讐を遂げる事はもう永遠にできない。
 ゲンハは誰にも手が出せない所に行っていた。
 ひたすらに突き進んでいた道が、いきなり土砂崩れで塞がれてしまった。
 もう、彼女には他の道など見えていない。

 透はアヤネが振るう手を受け止めながら、ぼんやりと思う。
 透も仇討ちを志し、それによって親友の死という現実、そしてそれを誘発したのが自分だと言う現実から目を背けようとした。
 だが、所詮それは誤魔化し。
 仇を討った時、あるいは諦めた時、恐らく透もアヤネのように自分の虚無を直視する事になるだろう。。
 先に道を全く見出せず、行く当てもない。


「…大河、ルビナスさん…」 


「分かってる。
 バチェラはこっちで探しておくから、気が済むまで泣かせてやれ。
 お前以外にはできそうにないからな」


「まぁ、バチェラちゃんとは何とか仲良くしてみるわ。
 後で合流してね。
 ほら皆、行くわよ」


 心配そうにしているナナシを引き摺って、ルビナス達は先にバチェラを探し始めた。
 ミノリは少々複雑そうな表情で、アヤネに声をかけようか迷っていたが、透に懇願するような目を向け、カイラ・洋介と共に周辺の捜索に当たる。
 そのカイラと洋介は、それぞれ透に一言だけ囁いて離れた。


「アヤネの事、頼んだぜ」

「男の見せ所よ。
 根性出すように」


 との事だ。
 言葉は軽いが、心配しているのが伝わってきた。

 大河とは、何も言葉を交わす必要はない。
 例によって、考えている事が直球ダイレクトに伝わるからだ。


(…胸とか当たってても、我慢しろよ今は)


(この状況で欲情できるかい。
 お前と一緒にするな)


 …似た者同士の二人である。

 透は結構強い力で叩かれながら、透はどうしたモノかな、と惚けていた。


大河組


「さって…どうしたものかな。
 ここんトコ、バルド組が目立ってばかりでデュエル組が脇役になってたからなぁ。
 まぁ、俺はホワイトカーパス編で出番がありまくったから埋め合わせとも言えるけど」(←電波)


「何とか挽回しないとね。(←電波)
 ナナシちゃん、もうちょっと詳しい位置は分かる?」


「ん〜、多分この区画にいると思うけど、それ以上は解からないですの。
 もうシュミクラムの通信も切ってるから、逆探知も…」


 人など居ない倉庫区画を見回りながら、大河達は先程のアヤネの姿を思い出す。
 細かい事情はともかくとして、彼女は少々危なっかしい。
 透に任せてきたものの、何かしら手を打っておく必要があった。


「アヤネさんて、機構兵団に配属される前はエースだったんですって。
 色々問題行動を取ってたけど、まぁ…」


「ぶっちゃけ、他の連中の素行の方が問題だったと」


「そうなのよね…」


 彼女は元はタイラー部隊だ。
 アンドレセンやクライバーン、さらにジェイソン(アニメ版に登場。例の仮面を被っている)と言う指折りの問題児がゾロゾロ。
 単独行動を取り捲るという、彼らの仕事をある意味邪魔している一面はあったものの、それ以上の戦果を出して黙らせる。
 そもそも、彼らにしてみれば『勝手に動いて死んだヤツは間抜け、生き延びてるなら相応の実力有り。邪魔しなければ問題ない』程度でしかない。


「その行動が、復讐心から来ていたものだとしたら…今の彼女は、戦闘意欲が急激に低下している。
 このまま戦場に出せば、文字通り死に急ぐか足手纏いにしかならないかもしれない…」


「だったら、このままオヤスミさせてあげればいいですの。
 のんびりしてれば、きっと生きる意欲も沸いてきますの。
 あ、でも死んだらゾンビにして生き返るってのもありですの?」


 それは生き返ってない気がする。
 まぁ、ルビナスと言えども死者を無闇に生き返らせる気はない。
 そもそもそうやって死んだとしたら、アヤネは復活を望まないだろう。

 とは言え、正直な話、彼女が戦力から抜けるというのは少々痛い。
 アヤネは機構兵団中では、唯一透と互角に戦える。
 カイラと洋介だけでは心許ないが、彼女が居れば戦力は跳ね上がるのだ。
 まぁ、それも単独行動してなければの話だが…。


「しかし、戦うために生きろってのもナンだな。
 生きるために戦うならいいが、それこそ狂戦士になっちまう」


「時々居るわよ、そういう人。
 それが何であれ、大切にしてきた目標がいきなり失われて、死に場所を求めて戦うようになったり…。
 正直、そうなってほしくないわね。
 …透ちゃんに口説いてもらうってのはどう?」


「多分無意識にやってるだろうな」


 大河と同じように。
 苦笑する大河を他所に、何やら考え込んでいたナナシが手を打ち合わせて顔を上げた。


「思いついたですの!」


「ん? どうしたの、ナナシちゃん」


「バチェラちゃんと会う方法を思いついたですのよ。
 か〜んたんな事ですの」


((またヘンな事だろうな…))


「ルビナスちゃん聞こえたですの〜!」


 思わずシンクロした大河とルビナスだが、ルビナスとナナシにはテレパシー機能が備わっている。
 本人達もすっかり忘れているが。


「ああ、御免御免。
 それで、どうするの?」


「まぁ、見てるといいですの」


 自信満々のナナシは、大河とルビナスに2,3歩先行する。
 胸を張り、大きく息を吸い込んだ。

 そして満面の笑みで、


「バ〜チェ〜ラ〜ちゃ〜〜ん、あ〜そ〜ぼ〜〜〜〜!」


  ガタガラドシャ


「…な、なるほど」


 思わず腰砕けになった大河達。
 恐らく、バチェラも脱力したのだろう。
 少し離れた所で、何かが倒れる音がした。

 まぁ、ナナシの事だから、本当に友人に声をかける気分でやったのだろうが…。
 意外と有効な手段だったらしい。


「と、とにかく行こうか。
 ナナシ、お手柄だぞ」


「褒められたですの〜♪」


 苦笑しながらも、大河達は音がした場所に向かった。
 逃げられる心配はあまり無い。
 バチェラがどんな人間かは分からないが、動き回れば気配で分かる。
 大河の気配探知能力、ルビナスとナナシのソナーから逃げるのは不可能に近い。


「しかし、バチェラってどんなヤツだろうな?」


「今までの法則から行くと、初っ端からイカレたアホか、一見まともに見えても私達と関わる内に加速度的に壊れていくかよね」


「ナナシはダーリンに壊されそうですの〜。
 ホムンクルスになっても体力負けするって、人としてどうですの?」


 大河は色情狂だから仕方ない。

 進む内に、3人の人影が現れた。
 ミノリ、洋介とカイラである。
 よっ、と手を挙げた。


「お先に失礼してます」


「アナタ達もさっきの音を聞いてきたの?」


「あ〜そ〜ぼ〜、は傑作だったぜ。
 腹抱えて笑っちまった」


 3人の前には、こじんまりとした倉庫がある。
 どうやら、主に携帯食を保管する場所のようだ。


「多分、バチェラはこの中だな。
 …ところで、透達は?」


「さっきちょっと見かけたけど、まだアヤネの癇癪は続いてたぜ。
 透の顔が微妙に変形してた。
 あれで結構力が強いからなー」


「筋肉の密度がかなり高いらしいのよね。
 アタシはオーガの血でも混じってるんじゃないかと密かに疑ってるんだけど」


「いえ、やはりプロテインを飲んでいるのが妥当じゃないですか?
 こう、全身に力を入れたらパンプアップするとか」


 本人が居ないと思って言いたい放題。
 まぁ、洋介とカイラなら居てもあまり気にしないかもしれないが。

 それはそれとして、洋介とカイラの表情は好奇心と緊張に彩られている。
 ミノリは単純に緊張していた。


「…そんなに凄いのか? バチェラって」


「私は…あんまり知りませんね。
 洋介さんは?」


「俺達みたいな…まぁ、元盗賊とかの間じゃ有名人だぜ。
 どんな厳重な警備を敷いても穴を見つけて入り込み、決して捕まる事はない…。
 謎の人形遣い、バチェラ。
 まさか人形ってのがシュミクラムの事とは思わなかったけどな…。
 しかも戦闘能力も高いし、何より性別・姿・年齢全て不詳と来たもんだ」


「私達だって、仕事の時には素性を隠してたけど…普通、自分の全ての情報を隠蔽するなんて出来ないわ。
 服で体型を隠しても、声色を変えても、仕草にどんなに気をつけても、どこかでボロが出る。
 ま、個人情報だけ保護できればあんまり問題ないから、そこまで力を入れないって事もあるけど。
 そんな訳で、完全に正体不明のバチェラは色々な意味で異端なのよ。
 ふふ…好奇心が、好奇心が疼くわ!」


 目が輝いていた。
 実験時のルビナス程ではないが、元盗賊だか何だかの血が騒いでいるらしい。
 懐からナイフを取り出し、警戒しながらもさっさと倉庫の中に入っていく。
 洋介が続き、ルビナスとナナシは肩を竦めて上を見た。
 こっちは洋介達に任せればいい。
 自分達は裏口に回ろう。
 2人の健脚を活かせば、簡単に裏口に回れる。


「ダーリン、こっちはお願いね」


「ああ、気をつけてな。
 聞いた通りの性格なら、何か仕掛けてあるだろうしな」


 下手をするとシュミクラムで襲ってくるかもしれない。
 まぁ、それなら暴れられない程度に叩きのめして人質ならぬ物質にするだけだ。
 倉庫の中は然程広くないし、いざとなったらその辺の壁に穴でも開けて逃げるだけ。


「それと、ミノリちゃんは戦闘要員じゃないから…一旦ここで待機。
 安全を確認したら呼ぶけど、何かあったら大声で知らせるのよ」


「はい! お気をつけて」


 それだけ指示を出すと、ナナシとルビナスは高くジャンプして倉庫の上に飛び乗る。
 そのまま裏側に向かって走っていった。


「…すごー…」

「まぁ、ボディがボディだしな。
 それじゃ、ちょっと行ってくる」

「はい。
 あの、できれば手荒な真似は避けてくださいね」


 適当に手を振って返事をし、大河は洋介とカイラを追って中に入った。


「…で、この有様ってワケ?」


「…ちゃんと生きてるわよね」


「早く助けてやれよ…」


「バタバタしてるから、まだ余裕はあるわね」


「でもコレ、ちょっと突付いたら土砂崩れを起こしそうですの」


「と、とにかく早く出してあげないと」


 口々に勝手な事を言う大河達。
 ミノリも倉庫内に入ってきている。
 その目の前には、何故か下半身が転がっていた。
 上半身は見えないが、別に泣き別れをしているのではない。
 苦しいのか、足をバタつかせている。

 明らかに未発達な、子供の体である。
 本当にこれがバチェラなのか?


「シュミクラム…は、動けないみたいね。
 遠隔操作って言っても、相応の準備がいる訳ね。
 さて…これ、どうやって退かしましょうか」


 目の前の下半身の上には、カロリーメイトだのカップラーメンだの、あとよく解からない食べ物の原料らしき物体が山積みになっている。
 と言うか、押し潰している。
 どうやらナナシの遊ぼう発言で脱力してバランスを崩し、その拍子に貨物の山を崩して押し潰されたようだ。
 量が多く、かなりの圧力がかかっている事だろう。
 これでは逃げる事もできない。


「これ以上沢山の物が圧し掛かると、ちょっと本気で危ないと思うんですけど…」


「…ま、さっさと引き抜いたらいいんじゃない?
 心配なら、周りの貨物だけ退かしておけばいいんだし。
 幸いシュミクラムの最低装備だけでも、そのくらいの腕力は引き出せるわよ」


「…ま、カイラさんの案が妥当よね。
 そんじゃバチェラちゃん、あと1分くらい我慢してね?」


「〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 何やら叫んでいる。
 何を言っているのか解からないが、まだ余裕がありそうだ。


「そんじゃ、俺と洋介、ナナシとルビナスは周囲の荷物を支えとくぞ。
 ミノリさんとカイラはバチェラを引き抜いてくれ」


「はいは〜い」


 4人が周りの荷物に群がって、転げ落ちないように手を沿える。
 それを確認してから、カイラとミノリはバチェラの片足を両手で持った。


「私、あんまり力は強くないんですけど…シュミクラムも着てないし」


「じゃ、行くわよ?
 ……しょ…っと……っしょ…と?
 あれ、ちょっと何かに引っ掛かってる」


「いいから引き抜いちまえって。
 俺と大河はともかく、女性陣に負担をかけさせるのも何だろ?」


「ナナシ達は、洋介ちゃんより力持ちですのよ?」


 カイラはふんっと鼻息を荒くし、改めてバチェラの足を抱える。
 バチェラは更に何かバタバタ暴れていたが、そもそも子供の体格だ。
 仮にも軍人のカイラの力には遠く及ばない。


「いよぃ…っしょ、もうちょっと!」


「〜〜〜〜!〜〜!!!!!」


 暴れているのは、ひょっとしたら本気で息が苦しくなってきたからだろうか?
 だとしたら、本気で早く引き抜かねば。
 最後の一踏ん張りと、カイラとミノリは全身に力を篭めた。


「すまん、遅れた!」


「………」


「え、透さん?」


 くるりと振り返ると、何気に顔が1.5倍くらいになっている透と、普段の覇気が全く見られないながらも、一応の落ち着きを取り戻しているアヤネが倉庫に駆け込んできていた。
 その時。


 ズルビリリリ!


「うっ、うわあぁぁぁ!!?」


「きゃあ!?」


「あ、すっぽ抜けた」


 押し潰されていたバチェラの体が、強引に引き抜かれた。
 だが、それは同時に絹を引き裂くような音も併発する。
 そして勢いあまってバランスを崩したミノリは、勢い余って透の近くまで後退りして尻餅をつく。

 で、肝心のバチェラだが。


「…ほえ?」


「…何?」


「うほっ、いい幼女…!?」


 両手をバンザイした状態で、強引に引き抜かれたバチェラ。
 小柄で活発そうな、だが何処か脆く引っ込み思案な印象を受ける顔。
 長い金色の髪の毛。
 取り敢えず外傷は無さそうだ。
 だが、服が何処かに引っ掛かっていたらしく、上半身はスッポンポンになっていた。
 しかも…微妙に胸が膨らんでいる。
 バチェラは顔を真っ赤にしているが、まだ腕は抜かれてないので隠す事もできない。
 透が呆然として呟く。


「……え? …あれ?
 ……バチェラ…?
 女…の…子?」


「み……み…見るなあああぁぁぁぁぁ!!!」


「! フラッシュグレネード!」


バカアアァァァ!


「「「「「ニャーーーーー!?」」」」」


 咄嗟にルビナスが内蔵していた閃光弾を爆発させる。
 間近で食らった大河達や、バチェラの正体にフリーズしていた透達は目を全開にしたまま光を直視してしまった。
 暫く目は使い物になりそうにない。
 いくら何でも過激すぎだ。

 しかも。

 ガラガラガラガラララガララ


「こ、今度は何ー!?」


 フラッシュグレネードの轟音と振動によって、周囲の荷物がドンドコ崩れ落ちてきた。
 いくらなんでも避けられない。
 咄嗟に大河、透、ルビナスが動く。

 ルビナスはバチェラを庇うように圧し掛かり、大河は洋介をカイラの上に蹴り飛ばしてナナシを庇う。
 透は半分虚脱状態のアヤネと近くに居たミノリを抱き寄せて、近くの大きな貨物の影に隠れた。

 暫く轟音が響き続ける。
 埃が舞い上がり、一寸先すら見えない。
 どうも掃除されてなかったようだ。
 だからバチェラが安心して住めたのだろうが…明らかに職務怠慢である。


 暫くすると、土砂崩れは止まって埃が舞い降りてくる。
 所々でケホケホと咳き込む声が聞こえた。
 どうやら全員無事らしい。

 ナナシの上でタンコブを幾つか作っている大河が、首を動かして周囲を見回した。


「おーい、全員無事か〜?
 番号〜!」


「1にナナシ〜ですの」

「2にルビナス〜」

「3・4がなくて、カイラと」

「洋介〜」

「5に相馬〜」

「6にセガワ〜、7に…」

「…シドー」

「ケホッ、ケホ……ば、バチェラだよ。
 シュミクラムも一応無事みたい」


 どうやら全員無事らしい。
 それぞれ体の上に乗っかっている食料その他諸々を押しのけて立ち上がる。
 大河と同じく、透の頭には二つほどタンコブが出来ていた。
 ついでに、洋介にはタンコブに加えて背中に大河の蹴りの後がついている。


「お〜、痛…。
 ルビナス、砂糖持ってないか?
 確かタンコブには砂糖をかけるといいんだよな」


「砂糖なんて使わなくても、ダーリンのタンコブなら私達がペロペロしてあげるけど?
 ええと、全員負傷者は無しね。
 バチェラちゃんも怪我はないみたいだし」


「あ、ありがと…」


 ルビナスの下から立ち上がった少女は、ルビナスが羽織っていた上着を被っている。
 どうやら元の上着は埋もれてしまったらしい。

 埃が収まるに連れ、大河達の視線はバチェラに集中した。
 戸惑いながらも、透が声をかける。


「え…ええと、お前…君が…バチェラ?」


「………そうだよ。
 直接会うのは初めてだね、透」


 虚勢を張っているのが見え見えながらも、バチェラは透を睨むように見る。
 だが、あまり迫力は無い。
 透が何か言うよりも先に、バチェラは畳み掛ける。


「ボクがこんな子供で女の子だって事に驚いた?
 でも実力と年齢は関係ないよ。
 現に、ナナシちゃんだってボクと同じくらいなのに立派な戦力として考えられてるじゃないか」


 立派かどうかは疑問の余地が残る。
 彼女がこう考えているのは、ナナシが救世主クラスだからである。
 アヴァター全土の希望の星、救世主クラスに居る以上、それ相応の実力を持っているのだ、と。
 そして、同じように自分の実力でも認められる事が出来る、と。

 この辺は、大河もルビナスも遠い目をしてノーコメントを貫いた。


「ま、まぁそりゃそうだけど…いくら何でも、その歳であれだけの実力があるなんて…」


 透の脳裏には、かつてゲンハと互角に戦ったバチェラの映像が浮かんでいる。
 シュミクラムを使って、直接的な被害を受けない状況から戦っていたとは言え…あの実力を考えると、相当な修羅場を潜り抜けた戦士だと思うのが自然である。
 カイラが無造作にバチェラに近付いた。


「何……むぎぅ!?」


「(むにむにびよーん)…ホンモノだわ。
 整形手術の痕跡も無いし」


 カイラは無造作にバチェラの顔を掴み、伸ばしたりぐにぐにしたりムニムニしたりと弄りまくる。
 バチェラは乱暴にカイラの手を弾く。
 キッとカイラを睨みつけて叫んだ。


「ボクは正真正銘の(PI−)才だっ!
 …あれ?
 今の消音は何?」


「…バチェラ、具体的な年齢はタブーだ。
 例えお前が13歳だろうが31歳だろうが、18歳以下の年齢を名乗っちゃいかん。
 詐称ならまだしも、本当の事は発言禁止だ。
 いいな?」


「よ、よく解からないけど…説得力がある…。
 え、えぇと…そうなの?」


「そうなの」


 一片の冗談も混じってない透の迫力に押されて、確認するようにルビナスに矛先を向ける。
 ルビナスも真剣な表情で頷いた。
 どういう訳か、戸惑いながらもバチェラは大人しく従ったようだ。

 とにもかくにも、何時までも倉庫にいるとちょっと危ないだろう。
 また崩落事故が起きないとも限らない。


「…とにかく場所を変えようぜ。
 透、バチェラのシュミクラムは動かせるか?」


「ああ、問題ない。
 バチェラ、悪いけど一緒に来てもらうぞ」


「…いいけど…まるで警察みたいな台詞だね」


「サービスとして手錠くらいなら使うぞ?」


 何処からともなく、大河は手錠を取り出した。
 バチェラは要らない、とあっさり首を振った。
 ちなみにこの手錠、何時ぞや王宮の隠し部屋でSMプレイに使った代物だったりする。
 何故持ってきているのかは聞くだけ無駄だ。
 ルビナスとナナシはイヤな記憶を思い出して、ちょっと遠い目をした。


「いいから外に出ませんか?
 ほらアヤネさん、しっかり立ってください」


「……」


 埃で曇ったメガネを吹くミノリと、後頭部を手で抑えて立ち上がるアヤネ。
 どうやら一つ直撃したらしい。
 ちょっとイライラしているようだ。


「それじゃー、みんなでご飯を食べに行くですの!
 親睦の第一歩ですの」


「…ま、基本よね。
 美味しい物に勝てる人なんて居ないもの」


 ナナシの発案にルビナスが乗る。
 確かに、もうすぐ夕食の時間だ。
 洋介とカイラ的には居酒屋にでも行って一杯やりたい所だが…流石にそれはイカンだろう。
 一応まだ職務時間だし、ナナシはどうだか知らないがバチェラは未成年だ。


「それじゃ、パフェでも食べに行く?」


「賛成ですの〜」


「…よく解からないけど、ボクもそれでいい」


「モチロンオッケーよ♪」


「…太らないようにしないと…」


「……甘いもの…キライじゃない」


 女性陣は粗方乗り気らしい。
 が、透は苦い顔をしていた。
 パフェを食べに行くと言う事は、取りも直さず自分達も付き合わねばならない訳で。
 そういう店に入るというのは、男としては多少躊躇いがある透であった。

 洋介はと言うと、こっちはあまり気にしてない。
 流石に女性との付き合いが広いだけある。
 透は一縷の望みを託して大河に視線をやった。


「…いい機会じゃないのか?
 店の事を覚えておいて、全快したツキナちゃんに奢ってやれよ」


 …どうにもならなかった。


「…これが…パフェ?」


「そうですよ。
 食べた事ないんですか?」


「…倉庫にあったカロリーメイトばかり食べてたから…」


 倉庫区画から出て、ルビナス率いる女性陣は近くにあったレストランに入っている。
 女性向けの店に行こうという意見が多発していたのだが、透が断固拒否する構えだったのでレストランと相成った。
 恨めしげな視線を受けていた透だが、ルビナスの実験台一回か、さもなくば奢りと言う事で妥協を得たのである。
 …透が後者を選んだのは言うまでもない。

 意外だったのは、アヤネがレストランの情報に詳しかった事だ。
 洋介やカイラも詳しいのだが、如何せん雰囲気重視の店ばかりである。
 バチェラは他人との付き合いの経験が殆ど無いらしく、ムードをどうこう言っても理解できまい。
 それなら、とにかく味がよくて量が多い、ファミレスに行こうと大河が言い出した。
 そうしたら、いきなりアヤネがあっちこっちのレストランの評判を暴露し始めたのである。
 …クールビューティの彼女も、食べるのは好きらしく、あっちこっちを食べ歩きした事があったそうだ。


 で、肝心のバチェラはと言うと…透とルビナスの挟まれて、注文したパフェをフォークで突付いている。
 ちなみに、座り方は

 透 バチェラ ルビナス 大河 ナナシ
    テーブル  テーブル
洋介 ミノリ カイラ アヤネ   のようになっていた。

 ミノリは子供その物の態度を示すバチェラに、随分と保護欲を刺激されたらしい。
 あれやこれやと世話を焼き、バチェラも悪い気はしてないようだ。

 それぞれ適当に頼んだ料理を突付きながらも、その視線はバチェラに向かっている。
 その視線を感じて、バチェラは居心地悪そうに身じろぎした。


「…食事中に申し訳ないけどな…お前、本当にバチェラか?」


「む…どういう意味だよ、透。
 あのシュミクラムはボクが操っていたんだって、ちゃんと証明して見せたじゃないか」


 唐突に投げつけられた質問に、バチェラは多少怒った表情を見せた。
 確かに、今更疑われるのは心外というものだろう。
 倉庫から出る際、バチェラはシュミクラムを動かして見せた。
 その操縦技術を見て、透は確かに彼女がバチェラだと太鼓判を押したのである。
 ちなみに、そのシュミクラムは倉庫でお留守番である。


「いや、だってなぁ…年齢云々はともかくとして、性格が…。
 俺の知ってるバチェラは、なんと言うか…子供特有の無邪気さとか残酷さがあって、何よりもあんまり聞き分けのいいヤツじゃなかったぞ?
 少なくとも、ルビナスさんに唯々諾々と従うような性格じゃなかった」


「…言ってくれるね…」


 バチェラは眼光を強めたが、今の彼女はただの子供。
 シュミクラムも無いし、あまり迫力は無い。
 だが、そんな事は構わずに怒りを撒き散らしそうな雰囲気があった。
 それを見て、やっぱりこの性格はバチェラだな、と思った透。


「バチェラちゃん、止めなさい」

「う…」

「そんな風にすぐ怒るから、子供だって言われるのよ?
 相馬さんも、悪気があって言ってるんじゃないから」

「うぐ…」

「…そうだな、俺も悪かった」


 ルビナスに諫められ、納得してないながらもバチェラは怒気を治めた。
 それを興味深そうに観察している大河。
 どうやら、バチェラはルビナスに何かしらの感情を抱いたらしい。
 苦手意識では無さそうだが…。


「…まぁ、改めて言うのもおかしいが…はじめまして、俺が相馬透だ」

「俺、当真大河」

「ルビナス・フローリアスよ」

(自己紹介を略)


「……」

「バチェラちゃん、黙ってないで本名本名」

「…ヒカル・アサクラ。
 でも、これは単なる戸籍の名前。
 …造られた戸籍だけどね」


 黙っていたバチェラ改めヒカルだが、不機嫌だった訳ではない。
 単に目の前のパフェに、意識の半分以上を奪われていただけだ。

 カイラはバチェラの様子に溜息をつく。


「どーも、私達を相手に話す気はあんまり無さそうね。
 透、ルビナス、あなた達に任せるわ」


「え、俺達?」


「そうだな。
 俺達はその間に腹ごしらえしてるからよ。
 何せお前の奢りだもんなぁ」


「ぐ…そ、そうだった…」


 予想外の大出費になりそうだ。
 大河が同情するような視線を送ったが、嬉しくもなんともない。
 手にメニューを持っている時点で、同情されても遣る瀬無さが募るだけだ。

 特にアヤネなど、メニューを見る目が訓練時以上に真剣だ。
 どうやらヤケ食いする覚悟らしい。
 彼女の場合事情が事情なので、止められない。

 透の財布は、スッカラカンになるのが決定されたようだ。
 もう開き直るしかない。
 こうなれば、精々ヒカルから色々と聞かせてもらうとしよう。
 溜息をついて、隣でメニューを覗き込みつつワイワイ騒いでいるタカリ虫達から意識を引き剥がした。


「…聞きたい事は多々あるが…バチェ…ヒカル、お前はこれからどうするんだ?」


「? どうするって?」


 首を傾げるヒカル。
 その頬にはクリームがいい塩梅に付着している。
 ちょっと妄想入りそうになった透だが、真面目なシーンなのでカットカットカット。


「だから、結局軍に入るのか?
 そうしたら、軍人用の寮とかに寝泊りする事になるぞ。
 軍に入らないにしても、これからどうやって暮らす気だ?
 また倉庫に戻るってのは無しだぞ」


「…なんで倉庫がダメなの?」


「見つかっちまったからな…。
 元々、あそこは関係者以外立ち入り禁止だ。
 王宮としては、あそこにホームレスとかが立ち入るのは歓迎できないらしい」


「色々と危険物も多いのよ」


 危険物と言われて、ヒカルは首を傾げた。
 あそこには、食べ物しか無かったが…。

 実を言うと、あの倉庫の一部はルビナスが私物化していたりする。(事実上公認)
 彼女が作ったナニカは、ちゃんとした場所に保管しておかねば何が起きるか分かったものではない。
 だから滅多に人が立ち入らず、仮に爆発などが起きてもすぐに封鎖できる場所が宛がわれたのだ。
 その近くでヒカルが暮らすなど…ルビナス的にもゾッとする。


「危険物じゃなくてもね、機密事項とかが時々転がってるのよ。
 もしそれを見ちゃったら、王宮の暗部が総出で牙を剥く可能性もある。
 いくらヒカルちゃんでも、逃げ切れないわよ」


 ムッとした表情のヒカル。
 自分の力を侮られたと思ったのだろう。


「逃げ切れるよ!
 今までだって、一度も捕まった事なんて無いんだから!」


「今まではヒカルの居場所を、誰も知らなかった。
 そして今は知っている。
 それでも同じ事が言えるか?」


 透の静かな声に、ヒカルはショックを受けて口篭った。


「俺は…ヒカルを売る気はない。
 義賊団は、仲間は裏切らない…。
 ルビナスさんも、ヒカルをどうこうしようって気は無いだろ。
 …ここに居るみんなも、口を紡ぐだろうな。
 でも、ちょっとでも情報が誰かに触れたら、確実にその居場所を割り出されるぞ。
 その辺は、俺達は身に沁みて分かってるだろ?
 何せ割り出す側の人間だったんだから」


「………」


 確かに。
 その気になれば、書類一枚からそれまでの人生を調べ上げるのも不可能ではない。
 現に、透達はそうやって警備の隙間を掻い潜ってきた。
 完全な隠蔽など、何処の誰にも望めない。


「…ボクに、王宮の保護下に入れっていうの…?」


「俺達はそうなってる。
 アキラは別の所に居るけどな。
 少なくとも、刑務所とかに放り込まれるよりマシだ」


 ヒカルは暫く考えていたが、ルビナスとナナシに目を向けた。


「……ボクが子供で女の子でも、軽蔑とか軽く見られたりしない?」


「機構兵団では、しない。
 ヒカル…バチェラの力は皆知っているし、女でも強いヤツは容赦なく強いから。
 他の所で、子供だって侮られても…実力を認めさせる事はできる」


「………それなら、入る。
 選択肢なんか、最初から無いんだしね」


 多少悔しそうだったが、ヒカルは結局頷いた。
 透は大きく溜息をついて、机の上につっぷした。
 何とか味方に引き込めた。
 取り敢えず、更正…というのもおかしいが、ヒカルの生活も保障できる。
 透にとっては、それが何よりの収穫だ。


「…それなら、尋問みたいになっちまうが…ヒカル、ルビナスさんにシュミクラムの事を色々教えてやってほしい」


「…ルビナスさんに?
 ………それは…いいけど、ルビナスさんなら…自分でどうにか出来るんじゃないの?」


 ヒカルがルビナスに目をやると、困った顔で頭を掻いている。
 実際、自分でどうにかする自信はあるのだろう。
 だが、それには少々時間が足りない。
 マニュアルが何処かに転がっているなら、そっちを参照した方がいいに決まっている。


「ムリに私一人でやってもね…。
 お願いだから、手伝ってくれない?
 子供でも自信はあるでしょう」


「あるよ!
 ……うん…ボクも、シュミクラムの使ってない機能には興味があったし…。
 後でシュミクラムを2体使って、色々試してみよう」


 目が輝いている。
 ヒカルにも技術的好奇心があるらしい。
 ルビナスとは、そこそこ気が合うかもしれない。


「それじゃ尋問の続きだけど…」


「…結局これって尋問なの?」


「対外的にはそーいう事にしときましょ。
 ヒカルちゃんは、一応身元不明の浮浪者って扱いにせざるを得ないから…」


「…それじゃ、俺が保護者になるってのは?」


「透が!?」


 唐突な申し出に、ヒカルは目を白黒させる。
 正直、保護者が出来ても何か変化があるとも思ってないのだが…。

 ルビナスは顎を摘んで考えた。


「そうね…軍に入るにしても、後ろ盾はあった方がいいもの。
 …でも、相馬君ってV・S・Sの出向社員なんだけどなぁ…」


「あ、そうか…」


 勢力図がややこしくなってくる。
 透とツキナは王宮に保護されているような物だが、あくまでV・S・Sの出向社員でしかない。
 軍に協力はしていても、結局は部外者なのである。
 その透が、バチェラという得体の知れない愉快犯の身元を保証したとて、どれ程の信頼を得る事ができる?

 ふと大河が嘴を突っ込んできた。
 何を食べているのか、口元に食べかすが多量に付着している。
 隣に積み上げられている皿の山を、根性で視界から排除する透だった。


「でもさ、それって見方を変えるとV・S・S内部の人間が、揉め事の種を持ってるって事になるよな?
 ここらでヒカル嬢に揉め事を起こしてもらって、そこからV・S・Sを追求するって手もあるぞ。
 シンプルに人質って手もあるが」


「うわ汚い」


 率直な感想を漏らすヒカルだが、これはルビナス・透ともに却下した。
 大河としても、あまり有効な手段とは思わない。
 透とツキナに責任を押し付けられ、切り捨てられるのがオチだ。
 まぁ、そうなったらそうなったでツキナと透は自由の身だが…今度は暗殺者が襲ってくる可能性が高くなる。
 自分達の犯罪の証拠を放置しておくほど間抜けではないだろう。


「…ボクは…透に保護されても、別にいいけど」


「じゃ決まりね。
 相馬君、後でクレアちゃんに話を通しておくから、諸々の手続きはそっちでやって頂戴。
 それじゃ、尋問はここまでって事で」


「…もういいのか?」


「個人的に聞きたい事があるなら、聞いてもいいわよ。
 ま、技術的な事やシュミクラムに関する事は、2人で色々実験しながら話すから…ね?」


「うん、それでいい」


「そうか…。
 じゃあ、俺はヒカルの……」


「お父さんだな!」


「お兄さんだッ!」


 イイ笑顔でスプーンを握り締める洋介に爪楊枝が飛んだ。
 サクサクサクっと、額・両目に2センチほど減り込む(危険なので真似しないでください)
 流血もせずに笑う洋介。
 どうやらコイツもセルと同類らしい。

 で、何故か透を冷たい目で見ているミノリとアヤネ。


「…ヘンタイ」

「…倒錯嗜好者」

「何故に!?」


 叫ぶ透と、二人そろってヒカルを指差すミノリとアヤネ。


「え…? お兄ちゃんって呼ぶの?」

「上目遣いで、ダボダボの服とか着てたら完璧だ」

「そうそう、オトコはみーんなそういうのに弱いんだから。
 何せ透なんて、自分からお兄ちゃん発言したもんね」

「これはどー考えても、ヒカルをマイシスターにしようと企んでいますなカイラさん?」

「やっぱり透もオトコですよ大河さん?
 何せこの前も、私が誘いをかけたら」

「え? 何? 誘いって何の?
 ひょっとして、アレ? アレなの?
 それでどうしたの!?
 フケツだよ透!」


「何を吹き込んでるんだお前らーーー!!」


「む〜、透ちゃん大声だすと他の人に迷惑ですの〜」


 目が笑っているカイラと大河、冷たい視線で笑わないミノリとアヤネ、まだ爪楊枝が突き刺さっている洋介。
 更に顔を真っ赤にしつつも興味津々なヒカルに、面白がって見物しているルビナス。
 そして。


「…頼むからもうその辺で勘弁してくださいナナシサン」


 食器の山を積み上げているナナシに、透は心底涙した。
 大河と違って苦労人である…。

 …その姿に同情したのか、バチェラはメニューに視線を注ぐも4つまでしか注文しなかった。
 結局食べきれず、その4つは透の腹の中に納まったが…。


「ははは、災難だったな透」

「うっせー、お前も元凶だろが」


 ヒカルを連れて王宮に帰還した大河達。
 スッカラカンになった透の財布に同情し、大河は夕食を奢っていた。
 実際、ツキナの食事代も透が出しているので結構洒落にならない。
 幸い、明後日にはV・S・Sからの給料が振り込まれるのでそれまでの辛抱だ。 
 王宮からの手当ても出るので、まぁ何とか食べて行けるだろう。

 ちなみに、当のツキナは透達が帰る前に食事して、医務室で夢の中だ。


「しかし…バチェラのイメージは、もっとこう…オタッキーな引き篭もりだと思ってたんだけどな」


「引き篭もりでオタクである事には違いないが、あんな美少女だなんてなぁ…」


「…手を出すなよ、一応俺の被保護者なんだ。
 二十歳まではそこそこ面倒を見てやらなけりゃ…」


「うーわ、ヒカル源氏を計画してるよコイツ」


「? ヒカルはともかく、源氏って何だ」


 それはともかく、透はヒカルを心配していた。
 ルビナスの実験台になるのではないか…と考えていたが、大河からその線は(まだ)心配ないと言われて一安心。
 が、それならそれでルビナスと一緒に悪乗りするのではないか?
 ヒカルの愉快犯的な性格と、ルビナスの暴走癖…結びついたらと思うと、夜も眠れない。
 こっちに関しては、大河も何も言えなかった。


「ん〜、まぁ…今のヒカルは大丈夫だと思うけどな」


「そうだな…どうもルビナスには素直に従うみたいだし。
 どーしたんだろな、アレ」


「…多分、倉庫でルビナスに助けられたのが利いてるんだろ。
 悪戯ばかりしてたけど、助けられた相手には必ず借りを返してたし…。
 そんなヤツだから、正体不明でもチームを組んでいられたんだ」


「ほーう」


 その点に関しては、透はあまり心配してないようである。
 …どちらかと言うと、ルビナスが余計な事を吹き込まないかの方がリアルに心配だ。


「あ、透さんと当真さん」

「ん? あ、ミノリとアヤネ」

「ご一緒してもよろしいですか?」

「どーぞどーぞ。
 透と2人で喰ってても面白くないですから」

「……」


 アヤネ、相変わらず無言。
 レストランで、透が泣くほどにナナシと共に食べまくったのだが、まだ腹には余裕があるらしい。
 下手をすると、リコの1/3くらいに胃袋が大きいのかもしれない。


「そう言えば当真さん、タケウチさんが探してたみたいですよ?
 もう寝ちゃってるみたいですけど」


「ユカが? 何かあったのかな…。
 まぁいいか、明日聞けば」


「ところでミノリ、シュミクラムの新機能について何か聞いてないか?」


「はい、一応の説明書を貰いました。
 明日にはルビナスさんから、全員に配られるそうです」


 つまり、基本的なシュミクラムの機能を全て一晩で解き明かすつもりなのだ。
 この辺の自信と実力は、疑う者はもう誰も居ない。

 透は何やら視線を感じる。
 目をやると、アヤネが透の顔をじっと見詰めていた。


「………」
「………」
「………」
「………」

「見詰め合ってないで何か喋れよ」


 妙な緊張を漂わせるアヤネと透。
 2人の世界に入られているようで、ミノリは少しイヤな気持ちになったが…そんな感情は、すぐに吹き飛んだ。
 なんと言うか、2人の世界ではあっても異界のよーな雰囲気だ。
 アヤネは表情が読めないし、透はどうしようもないので見詰め返すだけ。
 膠着状態が出来上がった。


「………」

「………えぇと…アヤネ、何か?」

「……顔」

「顔?」

「……腫れてる…」


 透の顔は、アヤネが叩きまくった後が残っている。
 王宮に返ってツキナの様子を見るついでに、回復魔法をかけてもらったのだが…意外とダメージは大きかったらしい。

 どうやら、アヤネは透に色々と感情を叩きつけたのを気にしているらしい。
 単なる八つ当たりだった事くらい、アヤネ本人にも分かっている。
 が、正面から謝るという行為に慣れてないのだろう。
 どうやら今までも、他人の事など気にしない…否、遠ざけていたようだから。


「心配しなくても、明日には治るって。
 それにしても、アヤネって結構力が強かったんだな。
 ミノリ、王宮の兵士ってみんなこの位強いのか?」


「へ? い、いえ、アヤネさんは別格です。
 確かに身体能力は高い方ですが、それは女性の範囲であって、男性も含めたら…。
 ……?
 あれ、結構強い方ですね?」


「この細腕にねぇ…」


 アヤネの気を紛らわそうと、透はミノリに話を振った。
 それに乗じたミノリだが、大河から見ればこれはちょっと失敗だ。
 謝ろうとしているのに、話を逸らしてどうするのか。

 透のスネに蹴りを入れて、例によって目と目で考えを伝えあう。


「それでシドー、透はちゃんと受け止めてくれたか?」

「!?」

「おお、赤くなった赤くなった。
 透も甲斐性とかあるんだな」

「そりゃまぁ、俺にだって男の意地ってのがあるからな。
 …ま、確かに2,3発洒落にならないのがあったな。
 咄嗟に避けたけど、後ろにあった壁がメキョっと」


「ご、ごめんなさい…昔から、感情が昂ぶると時々…」


 冗談めかした雰囲気に流されたのか、アヤネは自然と小さくなって頭を下げた。
 ミノリはちょっと目を大きくしている。


「ふぅん…ひょっとして、獣人の血でも混じってるんじゃないか?
 先祖返りとかな」

「私は生粋の人間…」


(……機構兵団は疑ってないんじゃなかったのか?)


 透の口から、ポロっと漏れた一言。
 探りを入れたのではなく、頭に浮かんだ可能性をポンと出しただけかもしれない…が。
 本人は意識してないかもしれないが、やはり復讐を捨てたのではないらしい。


(やれやれ、暴走しなけりゃいいけどな…)


17日 明朝 王宮


 翌日。
 王宮の正門の内側で、なんか目に炎を宿してガッチンガッチン拳を打ちつけ合わせるウェイトレスが一人。
 言わずもがな、ユカである。


「いよぉーっし、快調快調!
 全回復だよッ!」


「…昨日一日姿が見えないと思ったら、丸一日眠りこけてたのか…」


「へ? 昨日?
 ああ、そー言えば寝惚けて大河君を探してたよーな気がするけど、ご飯だけ食べて熟睡してたよ。
 お蔭で疲れも吹っ飛んだ。
 最前線で暴れてこなきゃね!」


 ホワイトカーパス逃避行の疲れは完全に癒えたらしい。
 シャドーボクシングの動きも、見事なくらいにキレが冴え渡っていた。


「それじゃ、汁婆が来たらすぐに行こう!
 早く行かなきゃ、それだけ沢山の将兵に負担がかかる!」


「…いいから落ち着け。
 今のユカはなんか異様にハイテンションだぞ」


「そうかな? …ところで、機構兵団はどうなったの?」


「今、ルビナスがマニュアルを配っておる。
 一通りの機能を確認し、調整したら前線に送る予定じゃ」


 2人の後ろから、大きな杖を抱えたアザリンが声をかけた。
 周囲に人が居ないので、大河は軽く頭を下げ、ユカは軽く手を挙げて挨拶する。
 頷いて挨拶に答え、アザリンは大欠伸をした。


「…眠そうだね、アザリン」


「まぁな。
 我がホワイトカーパスの民を避難させられたのは良いが、予定外のトラブルも多々頻発する。
 まぁ、この位なら予定の範囲内だがな…。
 それを解消するため、クレアと共に昨日の朝から延々と書類と格闘しておったのよ。
 ある程度は部下達にやらせているとは言え、何せ微妙な問題が多すぎてな…」


「お疲れ様です…」


「ちなみにクレアは既に爆睡中だ。
 朕は船の中で一眠りできたが、クレアはホワイトカーパスの避難が始まってからカケラも寝ておらんからな」


 大河に目をやって、『もう一杯あの神水をくれんかな』と考えたアザリンだが、すぐに首を振ってその考えを追い払う。
 まぁ、くれと言われても大河にはもう作る術はないのだが。

 見送りに出てきたアザリンは、ちょっと千鳥足になっている。
 この年齢の少女に、徹夜はちょっと辛かったようだ。


「何にせよ、戦局はお前達にかかっておる。
 …頼むぞ」


「「引き受けた!」」


 真剣な顔で望みを託すアザリンに、同じく真剣に引き受ける2人。
 頼もしげな視線を送り、アザリンは踵を返した。
 部屋に帰って眠るのだろう。

 と、足を止める。


「ああそうそう、イムニティは先日の夕方、既に発った。
 暫く帰ってこんとは思うが、何か大きな発見があったらそちらにも連絡をやるように伝えてある。
 ムリに呼び戻したりせんようにな」


「はいな」


「…イムニティ? 誰?」


 ユカは白の精霊には会っていない。
 基本的に、限られた人間以外には姿を見せないからだ。
 また新たな恋敵か、と大河をジト目で見る。

 伝えるだけ伝えたアザリンは、大欠伸をして杖に寄りかかりながら、えっちらおっちら王宮へ歩いていった。


 暫くすると、汁婆が大きく伸びをしながら現れた。
 降り注ぐ日差しが眩しいのか、腕で顔を庇う。


「よっ、汁婆。
 調子はどうだ?」


『ボチボチだな
 昨日は丸一日休ませてもらったし、あの仮面野郎に受けた傷も完治したぜ』


「仮面? …ま、そっちは一段落してから聞かせてもらおうか。
 それじゃあ汁婆、一丁前線まで頼むわ」


「大河君、後ろに乗る? 前に乗る?
 具体的に言うと、ボクを後ろからギューッとするかボクが後ろから抱きつくかって事だけど」


「ま、迷うなぁ…」


 汁婆はフン、と鼻を鳴らすと、大河の襟を掴んでさっさと自分の上に放ってしまった。
 続いてユカも放る。
 結局、大河が前でユカが後ろに相成った。


「それじゃ、レッツらゴー!」


「今前線で戦ってる救世主クラスの人達は?」


『現在帰還中だ
 俺達のルートとは、別の道を使ってるから多分会わないだろうな』


「そうか…残念。
 …流石にルートを変えろとは言えないしなぁ…」


「ボクもちょっとくらいは顔を合わせておきたいんだけどね。
 ま、それは後のお楽しみって事にしようよ。
 それじゃあ、改めて…しゅっぱーつ!」


 ユカの掛け声に応えて、汁婆は2人を乗せて駆け出した。
 …勢い余って、城門を一部ぶっ壊していったのは不可抗力だろうか。




ふ。ふ。ふふふははははははは大ミスしたー!
ああっ、金がもったいなーい!
某所の会社説明会が日程変更されていたのを知らずに、結構遠くまで行って来た時守です。
金額については聞かないで、切腹したくなるから…。

何はともあれ、バチェラ登場です。
微妙に小生意気なキャラなんですけど、それがイイんですねー。
生身で会って和解したら、とても素直な子なのですが。


それではレス返しです!


1.パッサッジョ様
無意識フラグ立ては、主人公の義務にして特権ですw
銀魂みたいなのは別として。

ええ、彼女の体を作るくらいなら朝飯前でしょ。
ただ、そこに至る経緯が厄介になりそうです。
しかし…ナナシ2号か…天然っぽい所はソックリですね。
ブラコン同士、未亜と気が合うかな…食われなきゃいいんだが(汗)


2.陣様
マッドの作品は便利です、何が出てきてもそこはかとなく説得力がありますから…。
そーゆー意味では、ルビナスもナナシも八面六臂の大活躍が出来ますなw

……ブラパピのパペット辺りに…付いてるかもなぁ…。


3.イスピン様
原作はその場で爆発してましたもんね。
…しかし、あれって火薬でしょうか?
ナナシは確か空高く吹き飛んでましたが、内側から爆裂してたら原型を保ってるはずないし…。
マッドのコトですから、「自爆装置はマッドのロマン!」と言いつつノリノリで付けたのかもw

はっはっは、世の中には接着剤に『灰色の草原に私を埋めないで』なんてニックネームまで付けるツワモノが居るのです。
医薬品(?)に名前が付いてる程度で今更なにをw

バルドをやるなら、陵辱シーンにご注意を。
結構ダメージ受けました。


4.カシス・ユウ・シンクレア様
始まりましたバルド祭り。
そろそろ本気で手に負えなくなってきてますが、祭りが終わるまではバルド組には主役を食う程に活動してもらいます。

サレナですか…一応今後の出番は考えているのですが、一年くらい先のコトに思えます。
卒業までには、最終決戦近くまで進めておきたい…。

最近思うのですが、コトの推移が物凄く複雑になりつつあるような気がします。
状況を把握してもらうためにも、一段落ついた辺りで年表とか作ったほうがいいかも…。
どうでしょう?(無謀)


5.竜の抜け殻様
そー言えば、リアルでゲンハが死んだ所は見た事が無かったような…。
まぁ、一応ゲンハにも重要と言えば重要な役が振られています。

バチェラの登場はどんなモンだったでしょう?
意外と動かしやすいキャラです。


6.アレス=アンバー様
アレが発動してたら、普通にフェタオのアジトは消し飛んでましたねぇ。
無知とは怖い…。

バルドはPS2版も出てますぜ。

注射器は…ぶっとい針だったのでは?
ほら、ヘタに刺したらでっかい穴が開きそうな…アヤネしっかりしろー!


7.YY44様
うーんパイルバンカーか…。
シュミクラムでの戦闘シーンは、かなり制限されそうです。
何故かって?
時守にはそこまで根性無いッス(涙)
機構兵団を一個として活動させる予定なので、個々の戦闘シーンはムズカシイ…。

ラインレーザーとパルスレーザー…。
掻き回すのは…何処を?
というか、魔物達を?
尻に向けて撃つ!?(下世話)

あー、パルスレーザーとパルス・ロアは全く別物ですね。
パルス・ロアは魔法で、パルス・レーザーは単なる武器、と。
どっちも強力ですが。

NA,NANDATTEEEEE!!!
ゲンハを自殺させる程の破壊力っすか。
……ゲンハの髪型を…どうにかして崩せば…?


8.UO様
実際時守も一杯一杯です。
どうしてゲームのヒロイン役が5、6人程度に抑えられてるのか、ようやく理解できました。
思えばユカが出てきた辺りが境界線だった…。
次の章に進む前に、何人か戦線離脱してもらうかも…。
だってこの後、破滅の将とか伏線を消化しなけりゃならんオリキャラとか、更に増えるんです(自業自得)
うーむ…いっそバルドキャラとかは外伝扱いにするべきか…。
アザリン様もあんまり出番作れないしな…


9.神〔SIN〕様
三途の川の水は、飲んだら現世の事を全部忘れちゃうんだぞー…ん?
あれはレテ河の方だっけか?

それはともかく、天然か?
天然なのか二人とも、それとも確信犯か!?
最初は確信犯で被りキャラを消そうとしているのかと思って読んでたのですが、途中で分からなくなりました。
確信犯より、こっちの方がマジで怖いッスw
それとカエデ、アンタは何処の仮面の魔獣だ?

しかし、大河は刹那・龍宮を相手にどれだけ戦えるでしょう?
噛み合わせ次第だとは思いますが…。
しかし、未亜の矢で慣れる…その辺に自分で疑問を感じない辺り、大河君はもう手遅れのようですねw

うむ、新八、確かにその通り。
だからどんどん侵食してくれ!

時にカエデ、お前が食ってるサソリは毒を持たないアメリカザリガニとかいうオチじゃないよね?


10.ナイトメア様
許可をありがとうございます!
さて、どうやって使ってくれよう…。

ナナシの頭爆発で、久々に救世主クラスらしいシーンを書けましたw
あー、そうかゾンビゲンハって手もあるのか…。

なるほど、それならネコミュリエルは誰の手にも負えませんね…。
きっと鉄砲の弾も平気で跳ね返すんだ…。

って、鬼畜王ネタ!?
…この流れで行くと、魔人を全員(ヤリ)倒した大河は、そのまま人類統一してデカ鯨に挑む事に…?
わーい、カエデが一杯だ〜♪
ううあああああボケだらけでツッコミの人数が足りねぇぇぇ!

わーぐ・リコ…何故だろう、無条件で物凄い癒されたような気がします…。
甘え上手なカミーラ・リリィ!?
究極!?
ちゅーか、M&Tはヤバいっす。
手が付けられまっしぇん!

…次は誰がミノさんの役をやるのでしょう…。
○時だよ、全員集合!(の瞬間に停電)


11.舞ーエンジェル様
バルドの主要キャラは、全員一度は登場してもらうつもりです。
勿論、ゲンハには重要な役割がありますよ。

桂みたいな…か。
……「ヅラではない。ロンゲだ」かな…?

正直、バルドキャラが最後まで登場させられるかは微妙です。
そろそろ処理能力を超えてきたんで…まぁ、透くらいは出てると思います。

アヤネと言えども、相手が相手ですからね…。
憐ちゅぁんは勿論幸せになってもらいましょう!


12.なな月様
確かに新しいですねw
銭の切れ目が命の切れ目か。
ゲームの中まで世知辛い世の中になったもんですなぁ…。
あんなのは関西商人にやらせましょw

確かに、ゲンハはある意味貴重な人材ですよね。
あー、あの狂気を描くのは難しいですが、さりとて描かなければ中途半端なゲンハしか出来ませんし…ジレンマです。

クーウォンはどう見ても苦労人の星の下に生まれてます。
結局世の中、常識人が損をする…かな。

口から小ナナシ?
ロケット砲なら出てきますよw
ただ、嘔吐するよーな感覚らしいので本人は使いたがりませんが。

バチェラタソ、登場!
意表をついて大人にしてやろーかと思いつきましたが、やっぱ彼女はロリですよね。

(株)機動建設っつーと、確か士翼号をくれた所ですよね?
OVERSの3つのゲートのやりとりが大好きでした。

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