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▽レス始

「幻想砕きの剣 10-6(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-08-30 23:40)
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16日目 正午 クレア引率チーム


「いやホントに助かった、もーしわけない」

「いや、流石に哀れになってたしな…」


 大河はアキラに頭を下げて感謝の意を示している。
 まだちょっと鳩尾付近が痛むが、お蔭で何とか呼吸を取り戻した。

 後ろでは人工呼吸のチャンスを潰された2人が頬を膨らませているが、流石に文句は言えない。
 アキラは透に向き直った。


「で、お前ら結局こんな所に何をしに来たんだ?
 ここら辺にゃ目ぼしい物は何もないぞ」


「…その前に、アキラ…お前、本当にフェタオのメンバーなのか?
 テロリストになっちまったのかよ?」


「…テロリストって人聞きの悪い…。
 クーウォンさんは間違った事はしてないぜ」


「それでもテロリ…いやすまん、言い過ぎた」


 アキラの顔に険を認めた透は、大人しく引き下がった。
 アキラがどう思っているのかはともかくとして、やはりテロリストではないのかと思っているのだが…クレアに釘を刺されていたし、久々に会った友人と揉めるのも気が進まない。
 どうしたものかと考える内に、クレアが透を押しのけてアキラの前に立った。
 大河は何かあった時にすぐ動けるように、トレイターをナックルに変えて懐に突っ込んでいた。


「おお?
 こんな所に来るもんじゃねーぞガキンチョ。
 アブネーから家に帰ってファミコンやってな」


「せめて×箱にせんかい。
 とにかく、ここにフェタオのアジトがある事は分かっておる。
 リーダーのクーウォンと、取引がしたい。
 連絡を付けてくれ」


「連絡をつけろったって…お前みたいなガキを相手にする訳がないだろ」


 まぁ普通はそうだ。
 フェタオに限らず、クレアのような少女がいきなり現れて話をしたいと言っても、普通は相手にされない。
 が、そこはやっぱりクレア。
 普通の少女ではなかった。


「ならば私ではなく、王宮から正式な使者を出すか?
 そんな事をすれば、まず間違いなくV・S・Sに発見されるぞ。
 何のために態々私が出向いたと思っている?」


「……?
 えらく口の回るガキだな…。
 王宮から使者を出すって…おい透、結局このガキは何なんだ?
 そういや、そっちのヤツも召喚器なんぞ持って…。
 まさか王宮のお偉いさんとか言わないよな、こんなガキ」


「……選定姫クレシーダ・バーンフリート、ご本人だ…」


「…………冗談だろ?」


「…それでこの2人は、救世主クラス。
 救世主候補に命令できるのは王族のみだって…それくらいは知ってるよな…」


「………マジ?」


「…ついでに言うと、“破滅”と遣りあう為に人類を纏めてるのもこのヒトだ」


「…こ、こんな子供が…」


 何やらショックを受けている。
 どうやら、クレシーダ・バーンフリートについて何かしらの妄想を持っていたらしい。
 もっとこう、ゴーマンでも有能、それこそ女王様っぽいオトナの女性。
 アヴァター全土の統治を一身に受けるクールビューティ。
 まぁ気持ちは分からないでもない。
 透だってクレシーダ・バーンフリートがこんな子供だと知った時には、それこそ錯乱してシュミクラムで暴走するくらいに混乱した。
 今でこそ、その非凡な能力を知っているが…パッと見た程度では、信じられないのも無理はない。

 虚空を見詰めてブツブツ言っているアキラに、クレアが一つ蹴りを入れた。


「いいから、さっさとクーウォンの所に案内しろ。
 大体の場所は見当がつくが、我々だけで行ったらカチコミだと思われるだろうが」


「い、いやたったの四人で入って行ってもそれは無いと思うが…。
 それより、フェタオのアジトはここには無いぞ?
 こんな所に居たら、それこそV・S・Sに見つかっちまうじゃねーか」


「惚けんでもいい。
 地下に居るのだろう?
 この王都には、余人が知らない施設が結構あってな。
 この地下にも、その一つがある…避難シェルターがあるのだ。
 確かこの辺りに入り口があった筈…」


「…そこまで知ってるのかよ…」


「アキラとやら、諦めろ。
 心配しなくても、敵対しに来たんじゃない。
 俺が保障する」


 アキラの肩を、ポンポンと叩く大河。
 いきなりトレイターでブン殴られそうになったアキラとしてはちょっと不安だが、実際敵対しに来たのではなさそうだ。
 周囲の見張りからも、目の前の四人以外の兵士の存在は認められない。

 しかし、仮にも全人類のトップをアジトに引き込んでいいものか。
 下手をすると、クレア誘拐の汚名を着せられかねない。

 悩むアキラに、クレアが手を差し出した。
 手にはバーンフリート王家の紋章が乗っている。


「悩むなら、クーウォンにこれを渡して判断を仰げ。
 そもそも、私が近日中に訪れる事は予測済みの筈だ」


「…ちょっと待ってろ」


 アキラはクレアから受け取った紋章を持って、近くの建物に姿を消した。
 恐らく、見張りの一人に連絡を頼んでいるのだろう。

 暫くすると、アキラは2人の男と共に建物から現れた。


「一応、クーウォンさんに聞いてみるから少し待ってくれ。
 監視させてもらうが…構わないよな?」


「ああ、出来るだけ早く頼む。
 …相馬、久々に会った友人なのだろう?
 積もる話があるならしていても構わんぞ」


 クレアはそれだけ言うと、大河の元に行ってしまった。
 大河はと言うと、ナナシと一緒に○×などやっている。
 クレアが混ざったため、棒倒しに変更されるようだ。


「…暢気な連中だな」


「…まぁな」


 透とアキラは、少々気まずい思いをしているようだ。
 アキラは敢えてそれを無視するように鼻を鳴らす。


「それにしても、お前が王宮に付いてるとはね…。
 ツキナから聞いた話じゃ、V・S・Sに就職したって聞いたが…大丈夫なのかよ?」


「…大丈夫じゃなかったから、王宮に居るんだよ…」


「何だそりゃ?
 …ツキナに何かあったのか!?」


「ああ…。
 命に別状は無いが、殆ど人形みたいになっちまってる。
 大河のお蔭で、回復の目処は立ってるんだが…」


「V・S・Sがやったのか…」


 アキラの顔に、明確な怒りが浮き出てくる。
 チャランポランで身勝手に見えるが、アキラは基本的に情が厚い。
 仲間、友人を傷つけられたら確実に怒り狂う。


「そう言うお前はどうなんだよ?
 どうして、その……フェタオに?」


「どうもこうもねーよ。
 とっ捕まって、なんか妙な施設に連れて行かれてな。
 どーもそこがV・S・Sの施設だったらしい。
 そこに居た時の記憶は、殆ど無いんだが…まぁ、ロクな事じゃないだろうな。
 で、どういう経緯か襲撃してきたフェタオのお蔭で、施設から逃げ出せたってワケさ。
 まぁ、一応顔見知りだろ?
 そこへ来てV・S・S憎しの念もあったからな、そのまま協力してるって寸法だ」


「まぁ…確かに、俺としてもV・S・Sは叩き潰してやりたいが…」


「…確かに武力に訴えてるが、フェタオはテロリストじゃねぇ。
 お前が思ってるような所じゃないんだよ。
 ……っと、そうそう。
 地下に行ったら、リャンにも顔を見せとけよ。
 結構心配してたからな」


「ああ、分かった」


 チャイナドレスで太股を剥き出しにしている少女の事を思い出す透。
 それに釣られて、あまり思い出したくない記憶も蘇えった。


「…なぁ…ゲンハ…の事だけどさ…」


「…あのイカレ野郎か…。
 事情を知った今となっちゃ、多少は同情の余地もあるけどよ…。
 もう死んじまってるしな」


 それも直接的な被害を受けてない故。
 かつての狂人は、自らその喉元に蛮刀を突き立てて命を絶った。
 しかも、透達の目の前で。
 その顔は、最後の最後まで狂喜に歪んだままだった。
 フェタオの作戦中だったのか、その時のゲンハは単独行動をしていた。
 その時にステッペン・ウルフと鉢合わせし、あわや戦闘となった所で急にゲンハが狂乱、そのまま自殺。
 透達は、唯一ゲンハの死に様を看取った人間なのである。


「事情?」


「ああ…。
 なんか脳の働きに細工をされてたらしい。
 よく分かんねぇが、ナントカ衝動が湧き上がってくるとかナントカ。
 それもV・S・Sの仕業だとさ」


 吐き捨てるアキラ。


「ま、色んなヤツがフェタオには居るけど…流石にああまでキレたヤツは居ないからよ。
 ………ああ、そうだ透。
 ちょっと聞きたいんだが、お前に妹って居ないか?」


「妹?
 いやそんなの居る筈…確かにガキの頃の記憶はないけど」


 唐突な話題転換に戸惑う透。
 しかし、妹なんぞ全く記憶に残ってない。


「いきなりどうした?
 妹属性にでも目覚めたか?
 まぁロリコンよりはマシだと思うが」


「殺されてーのかテメーは!?
 そうじゃなくて、こう…朧気にだがな、捕まってた時の記憶が残ってるんだが」


「ふんふん。 改造されて、自分にしか見えない妹が見えるようになったとか」


「ヤメロ、マジで怖い…リアリティーがあって。
 朦朧とした意識しか無かったんだが、何か誰かに話しかけられてたんだよ。
 ソイツのお蔭で、俺は意識を保っていられたんだ。
 確か…こう幼い感じで、髪型は…青いショートカットだったような…」


「誰かって?
 それが俺の妹?」


「分からないから聞いてるんだよ。
 それで……まぁ、幾つか断片的な会話の記憶があるんだが…。
 何で話しかけてくるんだって聞いたら、『お兄ちゃんのお友達だから』って言うんだよ」


「どうでもいいが、口調を変えるな。
 自分でも顔が青くなってるぞ」


「ああ、やっぱキショいな…。
 それで、俺の友達って言えるのは…お前と、ツキナ、それに…まぁ、バチェラもな。
 それから…ユーヤぐらいだし」


「…改めて考えると、寂しいな」


 胸の奥に走った痛みを隠して、二人は空を見上げる。
 交友範囲が狭い事だ。
 まぁ、義賊団なんてやってればそんな物か。


「で、バチェラの正体はさっぱり分からんが、ユーヤは身元がハッキリしてる。
 アイツは一人っ子だ。
 ツキナは女だから、お兄ちゃん扱いは除外。
 となると、一番怪しいのが…」


「俺…か。
 しかし、やっぱり心当たりはないぞ。
 ツキナの親父さんに引き取られる前の事は…分からんが」


「そうか…一言、礼を言っておこうかと思ったんだがな」


 アキラは、その少女に余程助けられたらしい。
 ひねくれ者だけに、感謝の意は中々外に出さない。


「…あれ?
 青い髪で、ショートカットで、幼い感じ…」


「どした? 心当たりでもあるのか?」


「いや、前にちょっとどっかで見たような……。
 ………駄目だ、思い出せん…」


「そうか…。
 ま、いいか。
 生きてりゃどっかで会えるだろ。
 …お、連絡役が戻ってきたな」


 アキラの視線の先では、やっぱりチンピラ風の男が歩いてきている。
 特に敵意は感じないから、多分面会は許可されたのだろう。

 透は立場上、クレアの側に居なければならない。
 立ち上がって歩き出そうとすると、アキラと目があった。


「まぁ、何だ…敵対しない事を祈ってるぜ」


「こっちもな」


 結局、面会の許可は至極あっさりと得られたらしい。
 『もう来たのか』と多少驚いていたようだが、それだけだった。

 現在、クレア達は人の住んでない一画を歩いている。
 クレアは周囲の風景を見て、眉をしかめていた。


「…やはり、まだまだ経済的な改善の余地があるな…」


「まぁ、そう言いなさんな姫さん。
 実際アンタはよくやってるって、クーウォンさんが言ってたぜ。
 平時であれば、こういう土地の無駄も改善してしまおうって」


 ヘラヘラ笑うアキラ。
 どうやらクレアが気に入ったらしい。


「明日辺りには、この辺を片付けるつもりだ。
 フェタオには悪いが、少々避難民の数が想定より多くてな。
 寝泊りできる場所を増やさねばならん」


「おいおい、それじゃ俺達はどうするんだよ」


「それはそれで大丈夫なんじゃねぇの?
 堂々としてれば、フェタオのメンバーだなんて分からないだろうしな。
 後は…精々出入り口を隠す程度で充分だって」


「大河、それが難しいって言ってんだよ…」


 軽口を叩きながらも、周囲の警戒は怠ってない。
 ナナシの報告によると、そこかしこに武装兵が動き回っているそうだ。
 まぁ、これは仕方あるまい。
 何だかんだ言っても、フェタオはテロリスト扱いされている。
 王宮がいきなり牙を剥かないという確証は何処にもない。


 歩いていると、唐突に道案内役が足を止めた。
 周囲に人が居ない事を確かめ、一室に入る。
 大河達も続いた。


「ここからシェルターに入るのか?
 よく見つけたものだな」


「あ、こっちにスイッチっぽいのがありますの。
 ポチっとしてもいいですの?」


「…本当に我々のアジトの事を知っているのか…」


 苦々しげな顔をする。
 クレアは愉快そうに唇を歪めた。
 ナナシはスイッチを見てウズウズしている。


「ここの地下にあるシェルターは、元々魔導兵器によるマナの搾取から逃れる為のシェルターだ。
 いざと言う時のため、当然出入り口は把握しているさ。
 まぁ、流石にフェタオの塒になっているとは予想外だったがな」


 同じシェルターなら、王都内にまだ幾つかあるぞ、と言い添える。


 などと言っている間に、隠し扉が開かれる。
 押したそうにしていたナナシに苦笑して、道案内役がOKを出したらしい。
 ゆっくりと床が開き、地下に続く階段が現れた。

 松明も使わず、真っ暗な中を降りていく。
 恐らく、襲撃を受けた際にここで奇襲をかける手筈になっているのだろう。
 しかし、今はナナシが居るので通じない。
 そのナナシからは、怪しい人物発見の報告は来なかった。


 そのまま5分ほど降りただろうか。
 何度か足を踏み外しかけたが、無事到着。


「さ、ここがフェタオの塒だぜ。
 いきなり大人数に囲まれるかもしれねぇが、一応大人しくしてくれよ?」


「妙な事をしようとしなけりゃな。
 フェタオが理性的なグループである事を期待するぜ」


「心配するな。
 ナーバスになってるヤツも居るが、イイヤツばっかりだよ」


 苦笑いしながら扉を開ける。
 意外と中は明るい。
 目が眩んで、視力が極端に低下した。

 その間も、大河は周囲の気配を探る。
 正面に2人。
 大河達を包囲するように、兵隊が配置してある。
 武装の程は…今は見えない。
 敵意は?
 …感じるが、暴発するほどではない。

 問題ない…と、思ったら。
 正面の一人がこちらに向かって駆け出した。
 強い気迫。


(攻撃か!?)


 咄嗟にトレイターを構え、突進してくる相手に備える。
 このタイミングなら、ナックルで確実に止められる筈。
 一歩踏み込んだ瞬間。


「待ちたまえ!」

「おっ!?」


 叩きつけられる怒声。
 ついバランスを崩して、大河は明後日の方向に拳を繰り出してしまった。
 そして何故か手から伝わってくる、柔らかい感触。
 多分人間の顔だ。

 そして。


「透ー!」

「げふぁ!?」


 何か飛び蹴りっぽいのが当たる音。
 が、大河はそれどころではなかった。
 トレイターの突進力を逃しきれず、ベクトルのままにグルグル回りながら突進してしまったのである。


「ちょ、ちょっと待ぬおぅ!?」


 そして何かを巻き込んで転倒、更に落下特有の浮遊感。
 きっかり一秒の後、大河は硬い何かに脳天から突き刺さった。
 その上に誰かが落ちてくる。
 多分、転倒に巻き込んだ人だ。


(な、なんでこーなんの…)


 心中で一言呟き、大河は脱力した。


 一方クレアとナナシはと言うと、急な展開に付いていけずに固まっていた。
 …ここで、何があったかスローモーションで、客観的に見てみよう。


 フェタオのアジトの扉を開き、入ってくるクレア達。
 正面には、メガネを掛けた大男と、小柄なチャイナドレスの少女。
 周囲には念の為に配置しておいた兵隊…クーウォン風に言うなら同志…達。

 目が眩んでいるクレア達の一人…相馬透と見た瞬間、チャイナドレスの少女が駆け出す。
 表情からすると、何やらご立腹らしい。
 その気迫に反応したのか、当真大河が召喚器を呼び出して撃退の構えを取る。
 チャイナドレスの少女は気付いてない。

 危険だと思ったクーウォンは、咄嗟に声を張り上げる。


「待ちたまえ!」

「おっ!?」


 それに反応したのか、一歩踏み出そうとしていた大河が踏みとどまろうとする。
 が、足元が見えなかったためか、バランスを崩して転倒。
 繰り出そうとしていた拳の勢いがそのままに、回転して何故かアキラの横っ面に直撃。
 アキラは悲鳴も上げずに仰向けに倒れた。

 と、ここでチャイナドレスの少女が跳躍。


「透ー!」

「げふぁ!?」


 相馬透の顔面に、スラっとした御美足が叩きつけられた。
 お手本にしたいくらいの飛び蹴りである。
 そして彼女が着地する前に。

 相変わらずベクトルに翻弄される大河は、ゴロゴロ明後日の方向に突っ込んでいく。
 その先には…メガネをかけた大男。


「ちょ、ちょっと待ぬおぅ!?」


 流石に予想外だったのか、避ける事も出来ず受け止める。
 だが思ったよりも勢いがついていたらしく、2人はそのままの勢いで倒れこむ。
 何故か後ろは段になっていた。
 しかも、結構高い。

 そのまま宙に飛び出した2人は、大河が下になって落下、そのまま脳天から地面に突き刺さった。
 さらに目を回した大男が、受身も取れずにその上に落下。


(な、なんでこーなんの…)


 ガクッ。

 そしてクレアが目を開いた時には、唖然とする周囲の兵士とナナシ、更に鼻血を噴いて倒れているアキラ、でもって自分達のすぐ隣で悶えている透に圧し掛かり、首をガクガク揺らしつつ何やら喚きたてているチャイナドレスの少女。
 トラブルメーカーの大河は居ない。


「…な、何がどーなってるのだ???」

「…こっちが聞きたい…」


 クレアのボヤきに、案内役のおにーさんがボヤいて答えた。


「こら透、とっとと起きて何とか言え!
 何だってV・S・S何かに就職した!?
 あそこは私達の敵だって知ってたでしょうが!
 顔が青くなってベロが出てても、私は誤魔化されないからな!
 起きろ、起きろおおぉぉ!」


 チャイナドレスの少女の叫びだけが、シェルター内に響いていた。


「いや申し訳ない…。
 私がリャンを抑えておかなかったばかりに…。
 申し送れたが、フェタオの代表、クーウォンだ」


「選定姫クレシーダ・バーンフリートだ。
 いや、こちらにも非がある…。
 このドアホウの行動を、計算に入れてなかった」


 アヴァター代表クレシーダ王女と、テロリスト代表クーウォンが頭を下げあっている。
 何か妙な風景だ。

 当の大河とリャンは、それぞれ正座で座らされている。
 何処から持ってきたのか、石の座布団まで。
 透やアキラはそれを苦笑いして見ていた。
 アキラ的には大笑いしてやりたいのだが、リャンの気に触れたら後で蹴りを食らうハメになる。
 それで喜ぶよーな性癖は、彼には無い。
 そしてナナシはその辺を散歩している。
 と言っても、目を離すと怖いので視界内に居るように厳命してあった。


「まぁ…何時までも頭を下げていても仕方ない。
 本題に入りたいと思うのだが」


「む、そうだな…。
 大河、あと30分そうしていろ」


「長いなオイ」


 既に足が痺れている。
 近くの子供が足を突付きに来る度に、大河は歯を剥き出しにして威嚇した。
 …すぐにまた近寄ってくるので、あまり意味が無い。


「…あの子供達は?」


「…V・S・S…あるいは謝華グループの施設で、実験台となっていた子供達だ。
 どうやら身寄りの無い孤児達を引き取るという名目で連れて行ったらしい。
 襲撃した際、放っておく訳にもいかず連れてきた」


「どこぞに預けても、再びV・S・Sの手が伸びるだけ…か。
 しかし、そうなると懐事情が厳しいだろう?」


「確かにな。
 だが当面は問題ない。
 V・S・Sの施設を襲撃した時に、ついでに研究費をパチって来ている。
 山賊まがいの方法だが、他にいい手がないのでな」


「敵の予算を削る事も出来て一石二鳥…と言いたいか」


 クレアはあまりいい顔をしなかったが、多分自分でもそうするだろう。
 それでもあまり長い期間は保たないだろうし、V・S・Sもバカではない。
 狙われているであろう場所には、集中的に戦力を結集して叩き潰しに来る筈。


「保たなくなる前に、V・S・Sを叩き潰せると思うか?」


「現状のままでは無理だな。
 そう判断したからこそ…交渉の余地があると判断したのだろう?」


「確かにな。
 …人払いを…と言いたい所だが、そういう雰囲気でも無いな。
 …まぁいい。
 単刀直入に言う。
 V・S・Sの内面の情報を幾つか持っている。
 我々はそれを提供し、同時に金銭的な援助を申し出る。
 その代わり…」


「我々に王宮の手足となれ、と言うのか?」


 クーウォンの目が鋭くなり、周囲もざわめいた。
 透やアキラも、すぐに動けるように体を緊張させている。
 大河とリャンは…足が麻痺って動けない。


「有体に言えばそうなる。
 だが、我々は命令をするつもりは無い。
 情報を提供するだけだ。
 後はV・S・S本社に殴りこみをかけるなり、謝華グループに直訴するなり勝手にするがいい。
 王宮は、保護下にある避難民達に影響が及ばない限りお前達の行動を制約しない」


「ほう、大きく出たものだ。
 確かに有り難い条件だ。
 だが都合が良過ぎる。
 察するに、それだけ危険な任務を押し付けるつもりと言う事か。
 我々がそう動かざるを得ないように誘導するなど、然程難しくもないだろう?」


「ああ、むしろ簡単だな。
 だがV・S・Sもその親玉の謝華グループも、お主達にとっては敵だろう。
 いずれは打倒するつもりなのだな?
 このまま戦っても、どの道打倒は不可能だ。
 ならば危険な任務を押し付けられる事になっても、支援の申し出を受けない手はあるまい」


 確かに、とクーウォンは心中で計算する。
 このまま戦っていても、物量に押し潰される。
 まだ相手が本腰を入れてないからいいものの、本気になって潰しに来たらフェタオは間違いなく壊滅する。
 本気にならない内に早期決着を付けたい所だが、それには圧倒的に攻撃力が足りてない。
 物理的にも、情報的にも。

 ここまで考え、クーウォンは意識を透に向けた。
 彼の事は知っている。
 恐らく、本人以上に。


(…主義には反するが…少々利用させてもらうか)


「申し出を受けたい所だが、それには一つ足りない物がある」


「それは何だ?」


「信用だ。 相馬君」


「え」


 いきなり話しかけられる透。
 緊張しながらも、交渉自体はクレアとクーウォンの間で進めるのだと思っていたため、自分にお呼びがかかるとは思ってなかったらしい。
 クーウォンは厳しい表情で透を睨み付けた。


「君とは友人でも仲間でも同志でもないが、我々は顔見知りと言える程度には君達と親交を持っている。
 そして我々が、V・S・Sと敵対している事も、君は知っていた筈だ。
 我々に義理立てしてV・S・Sに就職するなとは言わないが、事実として君は我々の敵の一員だ。
 その敵の一味を連れてきて、信用しろとは無理が無いかね?」


 そう来たか、とクレアは内心で舌打ちした。
 透がフェタオと顔見知りと聞いた時から、この展開は予想していたが…イレギュラーである事には違いない。
 周囲に目を走らせると、透に敵意の目を向ける者達。


(クーウォンの狙いは何だ?
 こちらに譲歩させるのが目的…ではないな。
 主導権を握る事?
 或いは、相馬から何かを聞きだしたいとか…)


 当の透は、反応に迷ったのか、クレアに視線を投げた。
 迂闊な事を話すと、クレアの不利に繋がりかねない。

 だが、ここで信用を失っては元も子もない。
 クレアは僅かに頷いた。


「…V・S・Sに就職したのは、そのまま刑務所に放り込まれるよりマシだと思ったからだ。
 アンタ達がV・S・Sの何を嫌って戦っているのかなんて、興味が無かったから知らなかったしな。
 …今となっては、何故V・S・Sを潰そうとしているのか、よく分かるよ。
 あの若作りの年増オバサンだろ?
 こう、体から加齢臭は出てないけど、雰囲気から加齢臭が漂ってる」


「…言いえて妙だな」


 人工的な美しさと言うか、見た目は美人だが何処と無くケバい。
 ちょっと鋭い者なら、なーんとなく実年齢が分かるV・S・Sのトップ、レイカ・タチバナ。
 要するにオバハンくさい。


「アイツのお蔭で、俺は幼馴染まで失う所だった。
 胸糞悪い洗脳とやらで、今やツキナは半分人形だ。
 今更V・S・Sを止めようにも、内情を知っている俺達を手放すとは思えない。
 仮に逃げられたとしても、追いかけてくるのが関の山だ。
 だったら、逆に叩き潰すしかないだろう」


「ほう? よく逃げられたものだな。
 あの雌狐が、洗脳の途中で手放すとは思えんが」


「謝華グループのお偉いさんが、直に来て俺達を王宮に派遣したんだよ。
 危うく俺まで洗脳される所だったぜ…。
 俺は洗脳されてやる気はないし、ツキナをV・S・Sに戻すなんて真っ平ゴメンだ。
 他に道はないんだよ」


 悔しげに口元を歪める透。
 自分の力でどうにか出来ないのが歯痒い。

 横からリャンが口を挟んだ。


「じゃあ、その幼馴染…ええと、ツキナだったわね。
 あの子はどうなってるの?
 ここには洗脳されかけた人達が沢山居て、リハビリもやってるんだけど…。
 洗脳が解けてなくて、レイカ・タチバナに命令されたら従ってしまうって事は?
 洗脳から脱出するのには、かなり時間がかかるわよ」


「それは…」


 これは透には抗弁の仕様が無い。
 実際、今のツキナは透にしか反応しないが、命令を受けたら、本人の意に反して動いてしまう可能性も大きい。
 洗脳の恐ろしさは、受けた者にしか理解できまい。

 と、ここで大河がクレアに視線を投げる。
 クレアは頷いた。


「それに関しては、多分問題ない。
 彼女の感情を戻す事は、2,3日あれば可能だ」


「何!?」


 大河から飛び出した、予想外の言葉。
 クーウォンにとっては、これほど重要な言葉もあるまい。


「詳しい事を話す気はないが、救世主クラスにそういう特技を持ってるヤツが居る。
 それで洗脳自体が解除されるかは…まぁ、かなり分の良い賭けだが分からない。
 見た所、あの洗脳は本人の心と思考力を磨り減らして、暗示を使って、扱いやすく平坦な心に加工するタイプだ。
 極端な話、激しい感情の昂ぶりによって暗示を掻き乱せば、その効力は著しく激減する」


「中々詳しいな。
 確かに、私が受けた洗脳もそのタイプだった。
 私の時は、技術が未完成だったので何とか逃れる事が出来たが…。
 しかし、その感情が磨り減って昂ぶる所の話ではない」


「ツキナちゃんに関しては、まだ感情が潰されてしまった訳じゃない。
 例えば…目の前で透が拷問にかけられてるとか、そういう状況なら自力で洗脳の殆どを無力化する可能性さえある。
 ………透、やってみるか?」


「遠慮しとく…」


 イヤそうな顔…当然だ。
 まぁ、ツキナの感情を戻す手が他に無いなら受け入れただろうが。


「少なくとも、平坦な心を徹底的に波立たせれば、それだけでも洗脳の殆どは解除される。
 殆ど感情が潰されてても、救世主クラスの一人ならそれを可能に出来る。
 方法については、企業秘密だ。
 知りたければ提案を受けるんだな」


 大河の冷徹とも言える言葉に、キツイ視線が降り注ぐ。
 だが、これ以上譲歩する気はないとばかりに大河はそっぽを向いてしまった。
 透が大河に囁く。


(えらく詳しいな?)


(洗脳への対抗策は幾つか知ってる。
 俺も色々とヤバイ橋を渡った事があるんでな…)


(まぁ、そのお蔭でツキナが治るっていうなら感謝感激だ)


 一方、クーウォンは葛藤を顔に浮かべている。
 王宮に利用されるようで気に入らないが、対価としてはこれ以上無い程の対価だ。
 特に、洗脳を手早く解除できる方法があるなら是非とも知りたい、手に入れたい。
 今リハビリをしている人達を立ち直らせる事ができれば、それだけでV・S・Sの内情を手に入れる事が出来る。
 だが、トカゲの尻尾のように切り捨てられては堪らない。
 今はV・S・Sという共通の敵が居ると言えども、結局フェタオは王宮から見ればテロリストだ。
 放置しておく訳が無い。
 しかしこのままでは二進も三進も行かないのも…。

 悩んでいると、リャンがクーウォンに話しかけた。


「クーウォン、私は信用してもいいと思う。
 透は…信用できる。
 洗脳も受けてないみたいだし、受けないと実際どうにもならないじゃないか」


「それは…そうだが」


「クーウォンさん、俺も同感です。
 コイツは仲間を裏切らない。
 それに、何か隠してる事があったら直ぐに顔に出ますし」


「ほっとけー」


 投げ遣りな透の突っ込みはスルーされた。 
 なおもクーウォンは考え込んでいたが、どの道アジトを王宮に知られていると言う事は、首根っこを抑えられているのと大差ない。
 受けざるを得ないのである。
 問題は、どこまで従順に従ってやるか、だ。


「…分かった、いいだろう。
 その提案、呑むとしよう。
 だが、必ずしも王宮の望むとおりに動くとは限らないぞ」


「構わん。
 敵対しないだけでも充分だ。
 ナナシ、会話は全て記録してあるな?」


「はいですの〜」


 子供達と戯れていたナナシが、笑顔で返事する。
 ギョっとする周囲の男達。
 クレシーダ・バーンフリートが連れてきたのだからただの子供ではないと思ったが、そのポヤポヤとした雰囲気に誤魔化されて、単なるマスコットだと思い込んでいたのだ。


「ぜ〜んぶ、この幻影石に収めてありますのよ。
 ナナシの脳にもデータベースを作って保存してあるから、ダビングも出来るですの」


「…脳に…データベース?
 クレシーダ王女、彼女は…?」


「マッドサイエンティストが造った、所謂ホムンクルスだ。
 脳がどうのと言うのは…私も知らん」


 ホムンクルス?
 ちょっと頭の弱い、普通の女の子にしか見えない。
 …あやうくロケットパンチや荷電粒子砲を叩き込まれる所だった、アキラ以外は。

 リャンが好奇心を露にしている。


「ほむんくるす…って、具体的にどう違うんだ?」


「こーゆー事ができますの」


 スポッ


「「「「おわああぁぁ!?」」」」


 アラレちゃん張りにの首外し。
 何の抵抗もなくボディとオサラバした首から上は、元気に笑っている。
 リャンも流石に顔が引き攣った。

 が、その頭に軽い衝撃。
 子供達が、ナナシの手から首を叩き落したのである。


「わー、すげー、ハイテクだー!」

「首の断面とかどうなってるんだろうな」

「わ、この頬っぺた凄く伸びるー!」

「意外と重い〜」


 そして集まってきた子供達の群の中に。
 あきゃ〜、とナナシの悲鳴が聞こえる。
 まぁ、気持ちは分からなくもない。

 和むな〜、とボンヤリ見ている大河達だが…。


「……。
 ………? …い、いかん!
 大河、早くナナシを救出しろ!」


「え?」


「忘れたのか!
 あの頭はルビナス作だぞ!?」


 凍りつく大河及び透。
 彼らの頭に、大爆発で吹っ飛ばされた王宮の中庭が映った。
 こんな所で爆発された日には、フェタオとの同盟がどうのと言う以前に生き埋めになってしまいかねない。


「ちょ、ちょっとガキども、ソイツを放せ!
 下手に突付くと死ぬぞマジで!」


「リャン、早く子供達を止めてくれ!
 アレは火薬庫で花火大会やってるような暴挙だぞ!」


「へ? 何を慌てて…」


 大河は強行突破を選択し、ワイワイやっている子供達を掻き分けて進む。
 強引に退かされて尻餅をついたりした子供も居るが、はっきり言って構っていられない。
 そもそも自業自得だ。

 子供達を突き飛ばされ、大河を取り押さえようとするフェタオのメンバー達。
 だが、それよりも早く。


「あれ、なんかコイツガタガタ震えてるよー」

「このクソガキどもがぁー!」


 魂の絶叫を上げながら、大河は子供達の上を跳び越してナナシの頭に飛びついた。
 そのまま子供達を飛び越え、壁を蹴ってもう一段ジャンプ。
 召喚器の力も使ってないのに、オリンピック級のジャンプ力だ。
 多分、生存本能とかの賜物である。

 そして、そのまま空中で大河に捕まれてブルブル震えるナナシの頭。
 心なしか、震えが強くなっているようだ。

 フェタオのメンバー達が、大河を捕獲しようとする前に…。


チュドン!
 ごごごごごごごごごご……

   「ヌおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!?!??!」


 ナナシの頭は、ロケットよろしく大河を連れたまま空中へと旅立った。
 流石に唖然としているクーウォン達。
 クレアと透は、思ったより大事にならずに済んだと溜息をついていた。

 ナナシの頭+大河は、シェルター内を縦横無尽に飛びまわっている。
 ゴツン、ゴツンと鈍い音がするが…大河なら、多分大丈夫だろう。


「…まぁ、なんだ。
 救世主クラスに下手なちょっかいを出したらこうなるから、あんまり刺激しないようにな。
 お互いの為に」


「…魂の底に刻んでおくよ…」


 ロケットナナシは、天井に深さ30センチほどの穴を開けてようやく停まった。
 当然大河も天井に上半身を減り込ませている。

 黙ってリャンが、子供達の頭を一発ずつ殴った。


 何とか大河とナナシを救出して、更に話を進めるクレアとクーウォン。
 ちなみに大河とナナシは、透がシュミクラムの標準装備を使って大河の近くに一発打ち込み、その振動で落下してきた。
 結構な高さから落下したが、タンコブで済んだらしい。

 クレアがクーウォンに話しているのは、恐らくレイミ・謝華の協力や、クローン培養施設、そして透から聞きだしたアレやコレやの事だろう。
 大河と透は、クレアの側に控えている。
 ナナシはと言うと、大河に凭れ掛ってオヤスミ中だ。
 どうやらロケットヘッドは、意外と体力を消耗するらしい。

 リャンはクーウォンから少し離れた所で、透を睨みつけている。
 どうやらV・S・Sに入社した事を、まだ根に持っているようだ。
 ふと口を開いた。


「なあ透、V・S・Sをやっつけたら、お前はどうするんだ」


「?どうするって…何がだ?」


「だから、お前は一応…その盗賊団みたいな事をしてただろう?
 それをV・S・Sが揉み消して、その代わりに入社した。
 でもそのV・S・Sが消えたら、今度こそ刑務所に入れられるんじゃないのか?」


「それは…まぁ、大丈夫だと思う。
 クレシーダ王女にも保護って事で約束してもらったし。
 …でも、確かに道が限られるんだよな…。
 多分、軍に残るんじゃないのか。
 シュミクラムの教官…みたいな扱いで」


「軍、か…それじゃ、私達と本当に敵になるんだな」


「…それは…」


 今は盟約があるとは言え、フェタオも本来なら取り締まるのが王宮の役目。
 大人しくしているなら構わないが、事によっては冗談抜きで殺し合うことになるかもしれない。
 それに思い当たって、透は口篭った。

 大河は助け舟を出さず、興味深そうに二人を見ている。


「いっその事、透もフェタオに入らないか?
 楽しいよ?」


「それも…ちょっと…。
 ツキナを放っておく訳にもいかないし、同僚や顔見知りと戦うかもしれないのは…同じだし」


「…まぁ、そうか…。
 それじゃ、透は私たちよりもツキナや軍の人達を取るんだな」


「い、イヤな言い方するなよ…。
 それなら、リャンこそどうするんだ?
 V・S・Sをどうにかしたら、フェタオの存在意義って無くなるんじゃないのか?」


「…それも…そうかも…」


「だったら、リャンこそ軍に来ればいいんじゃないのか?
 格闘技の教官とかやれるくらいに強いしさ。
 少なくとも収入は安定するぞ」


「そのココロは?」


「いや、優秀な人材を勧誘したらボーナスが…あ」


 直角チョップが透の脳天に決まった。
 透は口を挟んだ大河を恨めしく見る。


「まぁ、実際の所…クーウォン次第だね。
 まだ何かやるって言うなら、手伝おうと思う。
 …何、その顔?
 ひょっとして妬いてる?」


「何処をどう見ればそうなるんだか…。
 そうじゃなくて、クーウォンが何をやるかはともかくとして、今みたいに…武力集団とかやってたら、それこそ何時か捕まるぞ。
 それでも行くのか………って、大河…さっきから何をニヤニヤしてるんだよ?」


 透はニヤついている大河に目を向ける。
 リャンもそちらを見たが、有体に言って気味が悪い。
 大河は明らかに面白がっている表情で口を開いた。


「いやぁ、どーにも痴話喧嘩にしか聞こえなくってな。
 言うなれば、駆け落ちしようとしている彼氏と、一緒に居てくれと頼むファザコンの彼女…か?」


「「んなッ!?」」


 リャン、真っ赤になる。
 透、単純に驚く。


「な、何でそう見えるんだ…。
 俺はリャンの人生を心配してるだけだぞ。
 そりゃリャンの事はキライじゃないが」


「私だってそうだよ!
 と言うか、誰がファザコンだー!」


「おっとと」


 リャンのパンチが大河に迫る。
 かなり早くて強力な突きだが、ユカに比べれば児戯に等しい。
 本気ではなかった事も手伝って、大河はアッサリと避けてみせた。


「こ、この…!」


「落ち着けリャン。
 クーウォンが見てるぞ」


 追撃しようとするリャンを止める透。
 慌てて振り向くと、興味津々と言った表情のクーウォンとクレア。
 会議をしながらも、しっかり聞き取っていたらしい。

 落ち着き払って、メガネの位置を直すクーウォン。


「ふむ…。
 ようやくリャンにも春が来たかと思ったのだがね」


「いやいや、とっくに春は来ているだろう。
 ただ、相手の相馬は年がら年中頭の中が冬から秋なだけだ。
 ちなみに大河は夏だろうな」


「ならば私は梅雨かな…辛気臭いし。
 うむ、いいモノを見せてもらった。
 中々貴重な映像だったな」


「ク、クーウォン!」


 からかうクーウォンに、怒鳴るリャン。
 しかしクーウォンは全く気にせず、クレアに向き直った。


「有益な情報を戴き、感謝する。
 出来うる限り、そちらの要求にも応じるつもりだ。
 次に何処かへ襲撃をかけたら、手掛かりになりそうなモノを漁ってみよう」


「うむ、頼んだぞ。
 連絡をつける時には、渡した紋章を持って王宮まで来てくれ。
 分かっているとは思うが、それ以外に使うなよ」


 釘を刺して、クレアは立ち上がった。
 どうやらお帰りらしい。
 透も立ち上がり、大河は眠ったままのナナシを背負った。


「それでは、今日はここまでだ。
 丁重に送ってさしあげろ…なんか悪役みたいな台詞だが…。
 くれぐれも、危害を加えないようにな」


 道案内にアキラを指定し、クーウォンは作戦室に向かう。
 これからの計画を、大幅に練り直すのだ。

 リャンは少し迷うと、クレア達の見送りに向かった。


「…なぁ、透…。
 さっきの…勧誘の話、本気だからな?
 一応覚えておいてくれよ」


「…それを言ったら、俺も本気だ。
 何せボーナスが結構高額でな。
 当分ツキナを食わせていかなきゃならんだろうし…。
 切実なんだよ」


「…ま、考えておくよ」


 そして、王宮に無事帰ってきたクレア達。
 取り敢えず協力関係は得られたが、まだまだ問題は山積みだ。
 しかし、そっちは大河にも透にも手伝えない。


「なぁクレア、透達は…何時まで保護できる?」


「そうだな、少なくとも“破滅”が続いている間はな…。
 それが終われば、相馬達が王宮に出張している理由がなくなる。
 つまり、カタをつけるなら“破滅”を相手にしながら…と言う事になる」


「…申し訳ない…」


「あら、謝る事なんてないわよ〜」


「あっ、ダリア先生ですの」


 透が肩身が狭そうに呟くと、突然きょぬー…もといダリアの登場。
 透は突然登場した能天気規格外に、目を奪われ…もとい白黒させた。


「あ、ダリア先生。
 やっぱり居たんだ」


「当然よぉ、幾らなんでもテロリストのアジトにアナタ達だけで行かせる訳ないじゃない」


「ぜ、全然気付かなかった…。
 こんなに存在感に溢れてるのに…」


 溢れているのに、と言いつつ無意識に引き付けられる視線。
 まぁ、透も男だと言う事だ。


「これでも諜報員筆頭だからなぁ…。
 いや、本当にそう見えないのはよーく分かるが。
 …あれ?
 そっちのヒトは?」


 大河の目の先には、真面目そうなメガネの女性が何かの資料を持って立っていた。
 何やら緊張しているが、多分クレアの前だからだ。
 透は彼女に目をやると、あれ、という顔をした。


「ミノリ?
 何でこんな所に?」


「へ? あ、ああ、ちょっとその、いきなり部屋に飛び込んできたダリアさんに強引に連れてこられて…」


 ミノリ・セガワは慌てながら答えた。
 はじめまして、と大河とナナシに軽く頭を下げる。
 大河はその間にもミノリを観察している。

 誰かに似てると思ったら、ベリオに似ているのだ。
 こう、丸メガネとか真面目そうな雰囲気とか、あとシナリオが進むにつれて出番が少なくなる所とか。


(う〜ん…自分の容姿にコンプレックスを持ってるタイプだな。
 美人だが……残念な事に、こりゃ透に気があるみたいだ)


 大河でなくても、何となく察する事ができる程には態度に出ていた。
 それこそ、某女子中学生ならラブ臭を盛大に感知するくらいに。
 が、当の透は全く気付いていないようだ。


「連れてこられた…って、それじゃ渡したマニュアルは?」

「はい、それは全て目を通しました。
 幾つか点検をしておきたいので、後で少し付き合ってほしいのですが」

「ああ…でも、俺はツキナいでっ!?


 思わず透を蹴りつける大河。
 ツキナの側に居てやりたいという気持ちは分かるが、実際ミノリの頼みも切実な問題だ。
 どうやら彼女は、機構兵団の補給役を担うらしい。
 連絡の取り方とか、そういったモノを確実にチェックしておかねばならないだろう。

 ギロリと大河が透を睨み付けると、それだけで何が言いたいのか伝わった。
 お互いに気分が悪いと思っているが、こういう時には便利である。


「あ、あー、あんまり長い時間は取れないけど、後でな」


「あ…ごめんなさい、確か幼馴染の方が…」


「いや、それもあるけど…俺もシュミクラムの点検とかがあるし。
 一緒にやろう。
 サポーターとの連携も重要だしな」


「はい…どうせ、私なんて…」


 多少は持ち直したようだが、もうミノリは落ち込んでしまったようだ。
 気丈な女性ではあるだろうが、やはりコンプレックスを刺激されると弱い。
 …例えそれが、被害妄想に近くても。

 そんなミノリの背中を、ダリアがバンと叩いた。


「まぁまぁ、そう落ち込まないの。
 今度、意中のヒトの目を引き付ける方法とかを沢山教えてあげるからね♪
 期待してもイイわよ〜、諜報員直伝の技だからね」


「は、はぁ…でも、物騒な技…じゃないですよね?」


「あら、諜報員と言えば異性を誑し込む技術も必要なのよ。
 こう、色っぽい仕草とか、逆に保護欲をそそる格好とか、沢山あるんだから。
 なんなら一晩で別人みたいに仕立て上げてあげよっか?」


「……そ、それじゃあ、時間がある時にお願いします…」


(…大丈夫か? ダリアに任せて…)


 とても不安を感じるクレア。
 このまま放っておくと、それこそ洒落にならない知識を吹き込みかねない。
 話題転換の必要を感じた。


「ところでダリア、結局ミノリをどうして連れ出したのだ?
 察するに、我々がフェタオから帰還して、間もなくミノリの部屋に駆け込んだようだが」


「あ、そうでしたそうでした。
 ミノリちゃん、ルビナスちゃんが呼んでるのよ」


「え…ルビナスさんが?」


 ミノリの表情に怯えが走る。
 既にルビナスのマッドな性格は、王宮中に広まっているようだ。
 しかし、直に指名されている以上行かなければ後が怖い。


「…(うるうる)」


「……分かったよ…行けばいいんだろ、行けば…。
 大河、お前も当然来るよな?」


「まぁ、事がルビナスなら俺も関係者だしな…」


「ルビナスちゃんは、そんなに酷いヒトじゃないですの」


 チワワのよーな目で、助けを求めて透を見詰めるミノリ。
 切り捨てる事もできず、透はアッサリと陥落した。
 こうしてフラグは立っていくのである。


「それじゃ、ルビナスちゃんは作業室に居るから。
 私はもう行くわね〜♪」


「ああっ、冥福も祈らずに!?」


「ミノリ…ツッコミ所はそこか」


 これ幸いと、ダリアは離脱して行った。
 フェタオでの出来事を記録したり書類にしたりせねばならないので、一応仕事もある。
 …この場合の仕事とは、大儀名分と書く。


「…しかし、一体何事だろうな?
 ルビナスは…こう言っては何だけど、一度研究に没頭したら他の人間なんざ邪魔者としか見ないぞ?」


「それが…当真さんでもですか?」


「知らない邪魔者が、顔見知りの邪魔者になるぐらいだな。
 結構大きな差が出るけど…。
 こう言っちゃなんだけど、態々ミノリちゃんを呼ぶ理由が思い当たらない」


「…あの、ちゃん付けは止めてくれませんか?
 タンも様も呼び捨ても、できれば…。
 これでも二十歳は超えていますから…」


「へーい。
 むぅ、ミノリタンはいい語呂だと思うんだが」


「リポビタンみたいでイヤなんじゃないのか?」


「でも、ミノリちゃんの声でオペレートされたら24時間戦えますの。
 ねー、透ちゃん?」


「…そうなんですか?」


「え、お、俺!?」


 うろたえる透。
 それを見て笑う大河。
 どうも、人をからかう事にかけては大河に一日の長があるらしい。
 互いの考えが読めると言っても、それで経験の差を埋める事はできないようだ。


「まぁ、それはともかくとしてだ」


「私の声…」


「そっちは後で透とゆっくり語ってくれ。
 結局、ミノ…もといセガワさんが呼び出される心当たり、ある?」


「いえ、全く」


 良くも悪くも、彼女は模範的な軍人…なワケはない。
 その辺の学校で教師でもしているのが似合う、訓練を受けただけの一般人に近い。
 ルビナスが直接目を付けるだけのスキルも持ってないし、それだけの働きをした訳でもない。
 呼び出される理由など、それこそ実験材料として呼び出される以外に思いつかない。
 虚空を見詰めて念仏を唱えるのも、むべなるかな。


「むぅ、ルビナスちゃんは頭がよくて優しいですの。
 だから、そんなに警戒する事ないですの〜」


「だといいんだけどな…」


 結果的に巻き込まれる形となった透の愚痴。
 まぁ、彼とミノリだけ安全保障が無いのだから無理もない。
 大河は一応ルビナスの恋人だし、ナナシに至っては娘兼妹のようなものだ。


「うう…何とか逃げられないのでしょうか…」

「ムリですの」


 天真爛漫なナナシに、一言の元に否定された。
 ガクー、と落ち込む透とミノリ。
 2人の間に、何やらシンパシーが芽生えたかもしれない。


(…生きて帰れたら、ちょっとハメを外さないか?)

(そうですね…お酒はあまり強くありませんが、生きて帰れたら潰れるまで呑んでも許される気がします…)

(よし、そんじゃ奢るから行こう…生きて帰れたら、デートって事で)


「で、ででででーートですか!?
 ご、ご一緒します!」


「…ミノリちゃん、壊れたですの?」


 目と目で会話していた透とミノリ。
 そこで突然声を出せば、キレたようにしか見えない。
 ナナシから可哀想な視線を受けるミノリだった


「おい、そろそろ死刑室…もといルビナスの部屋だぞ。
 …何か笑い声が聞こえるが…」


「イケニエが来るのを待ってるのか…」


「だーかーらー、ルビナスちゃんは酷いヒトじゃないですの〜」


 プンプン怒るナナシ。
 だが、それは彼女だから言える台詞だろう。
 例え大河でも、一切の誤魔化し無しには同じ言葉は言えない。
 多分、ルビナスが直接言われたとしたら、半眼になって冷や汗を垂らしつつ目を逸らす。


「…そ、それじゃ行くぞ。
 覚悟はいいよな?」


「…よくはありませんが…もう、焦らさずズバっとお願いしますぅ…」


「徹底抗戦する覚悟は出来たぜ…」


「ナナシは何時でもいいですの」


 暢気でいいよな、オメーはよぅ。
 大河と透のみならず、ミノリにも同じ感想が過ぎった瞬間である。

 大河は覚悟を決めて、ドアのノブに手をかけた。
 チラリと目をやると、魔王に喧嘩でも売るのかと言いたくなる形相が2人。


「…ルビナスー、入るぞ〜」


「あ、ダーリン?
 空いてるわよー!
 …へー、それじゃこれって…」


『ウン、僕モ初メテ見タヨ』


「…? 誰か居るのか?」


 怪訝に思いつつも、大河は扉を開け放った。
 後ろでは、ナナシの後ろに隠れている透の後ろにミノリが隠れている。
 どうやら、ミノリのフラグはほぼ確定っぽい。


「お帰り、ダーリン、ナナシちゃん。
 あら、ミノリちゃんも来てくれたんだ。
 どうぞどうぞ、中に入って。
 相馬君もね」


「し、失礼します…」


 おっかな吃驚作業室に入るミノリ。
 取り敢えず、入室早々備え付けのガンで狙われる訳では無さそうだ。
 お気楽に入るナナシに続き、適当に席を見つけて座った。

 一方、透は目を丸くして周囲を見回している。


「透? どうした」


「い、いや、今知り合いの声が…バチェラ? バチェラか?」


『ヤア、久シブリダネ、透』


「ど、何処から…。
 ……まさか…シュミクラム…?」


『ソウダヨ、僕ハズット、シュミクラムヲ使ッテイタジャナイカ』


「あれはやっぱりシュミクラムだったのか…」


『マァ、シュミクラムヲ知ラナカッタンダカラ、他ノカラクリト思ウノモ無理ハナイヨネ。
 ソレヨリ透、大変ダネ。
 デモ、僕ヲ仲間外レニシナケレバ、別ノ結果モアッタノニ』


 透は唖然としている。
 それはそうだろう、V・S・Sから預けられた(拝借してきた)シュミクラムから、いきなり知人の声が飛び出しているのだ。
 大河とミノリは、状況が全く把握できない。
 ナナシに至っては、ルビナスにジャレついている。


「あー、透。
 出来ればそのバチェラさんとやらを紹介してほしいんだが」


「え? あ、ああ、そうだな。
 俺達がチームを組んで色々やってた時に、何が気に入ったのか仲間に入れてくれって言ってきたバチェラだ。
 年齢、性別、本名全て不明。
 確かなのは、シュミクラムを使う凄腕………って、何でお前がシュミクラムを持ってるんだ!?」


『アハハ、遅イヨ透。
 マァ、僕ニモ色々アルノサ。

 ソレヨリ、ソッチノ人ガオペレーター?』


「へっ!? あ、はい、ミノリ・セガワと言います!
 若輩者ですが、王宮の機構兵団のオペレータを勤めさせていだだきにゃ!?」


「まぁまぁ落ち着いて、舌を噛んでも仕方ないわよ」


 よっぽど痛かったのか、涙目になって口を抑えるミノリ。
 背中をルビナスが軽く叩いた。


「ところでルビナス、そのバチェラとやらは一体どうしたんだ?
 何処から通信を送ってるのか知らないが、何か用事があったんだろ?」


「ええ、シュミクラムの機能の事でちょっとね。
 相馬君、V・S・Sではシュミクラムはどういう使われ方をしてた?
 どうやって連絡を取っていたとか、そう言った方面で」 


「連絡…って、普通に矢文とか狼煙とか、伝令役が居ましたけど」


 ふむ、とルビナスは考え込んだ。
 バチェラが笑い声を上げる。


『アハハ、ヤッパリV・S・Sモ殆ドシュミクラムヲ使エナイミタイダネ!
 宝ノ持チ腐レダヨ!』


「そのようね。
 やっぱり、別の世界からシュミクラムを召喚したと見るべきか…。
 それも、あまり数は多くないわね」


「…どういう事ですの?」


 頭に?マークを浮かべる一同。
 大河だけは、シュミクラムの入出力端末らしき部分やアンテナをマジマジと見詰めている。


「…そうか、シュミクラムは遠距離での通信機能を持ってる訳だな。
 一体のみでは使えない機能…。
 V・S・Sがこの機能を解明してないのは、召喚したオリジナルのシュミクラムが一体くらいしか存在しないから。
 他のシュミクラムは、実験過程で出来たコピーってワケか」


『ソウダヨ、察シガイイネ。
 ツイデニ言ウト、僕ノシュミクラムガ、ソノオリジナルサ』


「マジか?」


『モチロン』


 驚く透、状況に付いていけないミノリ、ルビナスと大河は何やら議論している。
 バチェラの説明によると、バチェラが使っているシュミクラムは、元々V・S・Sにあった物らしい。
 それが数年前に混乱の中で流出し、目ざとくそれをバチェラが発見。
 色々試している内に、遠隔操作の機能を発見するに至った。
 そして、透達と接触する際にはシュミクラムを使っていたと言う訳だ。


「その混乱って?」


『サァネ。
 僕ニモヨク解カラナイ。
 タダ、V・S・Sニモ謝華グループニモ、盛大ナ損害ヲ出シタラシイヨ。
 ザマァミロ、ダヨネ』


 貴重な研究材料が流出するくらいだ。
 凄まじい混乱が巻き起こされたのだろう。
 一体何が起きたのか…。


『所デ透、アノリボンノ女ノ子ハ?
 彼女モ救世主候補カイ?』


「え? ああ、ナナシの事か。
 俺もよく知らないけど、まぁ頼りには……出来ない事もないかな。
 なんと言うか、能力云々以前に性格的に不安だけど」


『フゥン…透ハ、女ノ子ヤ子供ガ相手デモ馬鹿ニシナインダ?』


「…子供だろうが女性だろうが、怒らせると怖い人ってのは居るんだよ…。
 ……現に、ここに2人ほど」


 一人はルビナス。
 もう一人は……さっきから忘れられているミノリである。
 ども実験材料として呼び出された訳ではない、と安心したまではよかったが、会話に混ざれず微妙に寂しい思いをしていたようだ。
 内心では、『このままさっさと逃げないか?』という衝動と戦っていたが。


『ソウソウ、忘レテタヨ。
 彼女ニ用事ガアルンダ』


「…影の薄い私に、ですか」


「あー…拗ねるなって…。
 (ミノリに忘れるは禁句だな…)
 それで、用事って何の?」


『シュミクラムノ遠隔操作機能ト、通信機能ノ事ダヨ。
 オペレータナンデショ?
 使エレバ、情報ノ鮮度ガ保テルヨ』


 ミノリの目が真剣になった。
 詳しい機能は理解できなかったが、どうやら遠距離との通信を可能にする物らしい。
 確かに、これは戦いに参加する上で絶対的なアドバンテージを得る事ができる。


「その使い方を…教えてくれるのですか?」


『ウン。
 勿論タダジャナイヨ。
 僕モ機構兵団ニ入レテクレレバ教エル』


「…ウチの部隊に、ですか?」


 予想外だ。
 透としても、バチェラが組織に加入したがるとは思ってなかった。
 そこそこ付き合いの長い透だが、バチェラの性格は子供っぽい。
 軍規がどうのと言い聞かせた所で、聞くとも思えないほどに。


「いいのか、バチェラ?
 軍隊では好き勝手できないぞ」


『大丈夫ダヨ、実力デ黙ラセルカラ』


「いや、それが出来ないから…」


『最初ハネ、軍ナンテ真ッ平御免ダト思ッタヨ。
 デモ、ナナシチャンガ居ルカラ、チョット興味ガ沸イタンダ』


「ナナシに?
 惚れたのか?」


『違ウヨ』


 心なしか冷ややかな声。
 透は首を傾げる。
 バチェラが何を考えているのか、理解できない。
 本当に大丈夫かな、キレてテロとか仕掛けないよな、などと考えている。

 と、ルビナスが割り込んだ。


「あーちょっとお2人さん。
 お取り込みの最中、失礼しますけどね。
 バチェラちゃん、色々と相談があるから、居場所を教えてくれない?」


『…相談ガアルナラ、通信デ話セバイイジャナイカ』


「顔を見ながら話した方が効率的なの。
 シュミクラムの動力だって、無限じゃないんですからね。
 教えてくれないと、こっちから押しかけるわよ?」


『…ヤッテミナヨ。
 ジャア透、マタネ』


「あっ、おい!」


「あのっ、通信の使い方は!?」


 透とミノリの制止も聞かず、バチェラは通信を切ってしまった。
 ゴンゴンとシュミクラムを叩くが、反応する筈もない。


「…どうするんですか、ルビナスさん…」


「大丈夫よ。
 ナナシちゃん、逆探知は?」


「大体の位置は分かりましたの。
 やっぱりビリビリじゃなくて、“まな”で通信してるですの」


「そう、やっぱりね。
 原理自体は、ダーリンが言った通り…。
 それじゃ2人とも、準備して。
 あぁ、ついでに機構兵団にも召集をかけるわ。
 実戦テストも兼ねるからね」


 テキパキと指示を出すルビナス。
 ナナシと大河は、既に行動に移っていた。

 透とミノリは、状況がまだ掴めてない。


「あの…一体、何がどうなって…」


「だーかーらー、バチェラちゃんに会いに行くのよ。
 押しかけるって言ったでしょ?
 やってみなよ、って言ってたから、アポは取ったも同然よね?」


「で、大河…こりゃ何がどうなってるんだ?」


「そうですよ…。
 いきなりついて来いって言われても…」


「いや…俺の故郷には、遠距離通信の技術が確立されててさ。
 多分シュミクラムの通信も似たような原理だろうなーと…。
 逆探知の方法も一応知ってたから、教えてみたら…」


「マッドに余計な知識を吹き込むなよ!?」


「と、透さん声が大きい!」


 慌てて口を抑え、横目でルビナスを覗き見る。
 幸い、ルビナスはシュミクラムを弄るのに夢中で気付いていないようだ。
 ミノリと2人で、大きく胸を撫で下ろす。


「…あの、ひょっとして当真さんも遠距離通信の使い方を知っているんですか?」


「いや、知ってる事は知ってるけど…シュミクラムに使われてる技術は、俺が知ってる技術よりも数段進歩してる。
 基本的な使い方しか解からないな。
 設定がどうのと言われると、もうお手上げだ」


「そうですか…。
 それじゃ、結局バチェラさんに教えてもらうしかないんですね…」


「まぁ、バチェラの正体にも興味はあるしな。
 何せ、シュミクラムを使ってとは言えあのゲンハと互角以上に戦ってたからなぁ」


「ゲンハ…ですか?」


 透はしまった、と顔を歪めた。
 戦闘能力の高さを示すのについ口が滑ったが、正直あまり思い出したい人間ではない。
 その性格もそうだが、何より死に様が。
 元々おかしいヤツだったが、あの死に方は異常だ。


「まぁ、イカレたヤツだよ。
 もうとっくに死んじまったけど」


「………それ、どういう事…」


「え?」


 唐突に割り込む声。
 振り向くと、ショートカットの美人…アヤネ・シドーが立っていた。


「アヤネさん、ご苦労様で「どういう事なの!?」…!?」


「い、一体何事!?」


「ちょっ、アヤネどうした!」


 普段の冷静さをかなぐり捨て、透に掴み掛かるアヤネ。
 その勢いに押されて、大河もミノリも割り込めない。

 首を締め上げられ、透の顔色が徐々に悪くなる。
 女性とは言え、エースの称号を冠せられる程の力を持っているアヤネ。
 単純な握力で言っても、そこらの男よりずっと強い。
 あまつさえ、シュミクラムの標準装備で膂力が水増しされている。


「ゲンハが死んだって、それは確か!?
 いつ、何処で、どうして!?」


「………!!!!!(タップタップタップ)」


 アヤネの腕をギブアップとばかりに叩くが、アヤネは全く気付かない。
 透の顔は、既に黄土色になっている。
 そろそろ死にそうだ。


「ちょっとアヤネさん、死ぬ死ぬ死んじゃいます!
 透さんを放してください!」


「落ち着け、落ち着けって!」


「離せ!」


 ミノリと2人がかりでアヤネを引き離そうとするが、物凄い勢いで暴れている。
 膂力がどうのと言うより、もう迫力が違った。
 透はぶっ倒れたままだし、このまま離したらアヤネは透を勢いに任せて病院送りにしかねない。

 ミノリが突き飛ばされ、大河も一人では勢いを止められない。
 あーこりゃ透は死んだかな、と思ったその時だ。



「あーもぅうっさい!」

パシュ

「あくっ!?」


 ルビナスの怒声と共に、アヤネが崩れ落ちた。
 作業の邪魔になると判断し、急遽無力化したらしい。
 唐突に力を失ったアヤネに対応できず、大河もバランスを崩して倒れこんだ。


「だ、大丈夫ですか、2人とも?」


「…お、俺は平気…。
 でもアヤネさんは…あ、こりゃ麻酔だな」


「…ルビナスさん作の?」


 しばし沈黙。
 黙って大河は麻酔針を抜いて観察する。
 ルビナスの事だから、自分で作ったモノには何かしらマークを付けていると思うが…。


「あ、これはルビナス作じゃないわ」


「そ、そうですか…よかった…」


 透を介抱しながら、安堵の溜息をつくミノリ。
 だが、大河は大河で一筋の汗を流していた。


(…これ……フローリア学園の保健室にあった、カロリーヌと違うか…?
 よーく見たら、針に名前が刻んである…。
 ゼンジー先生の私物?
 ルビナスに贈り物なのか…?)


 …それはそれで、洒落にならない。




ちわっす、時守です。
来週にちょっと東京まで行く事になりました。
これが最後の就職活動!
…結果はどうあれね。

ちゅーか、もう一社に『そこで働きます』って言ったのに、いいのかなぁ…。
仮にこれで受かって乗り換えて、ウチの大学に求人来なくなったりしたら、俺のせいかも…。


それではレス返しです!
…丸一話使って、半日程度しか進んでないな…。
またストーリーを停滞させる悪い癖が出そうです。


1.パッサッジョ様
そうですね、死体が確認されてなければ復活するのがお約束ですからw
一応バチェラは登場しましたが、声だけです。
来週には顔も出すと思いますよ。

2.YY44様
確かにそいつぁ頂けねぇなぁ…。
しかし、透はともかくゲンハは嬉々として脱ぎそうな気がするのは何故でしょう?

確かにタイムリーと言えばタイムリーですね。
上手く彼らを描ききれるか自信がありませんが、何とかやってみます。
時守も久々にバルドをやったら、ヤケにハマッてしまってw
むぅ、どの武装を使うべきか…。
原作やってる人なら武装の名前である程度予想がつくでしょうが、未プレイの人にラインレーザーとパルスレーザーの違いを述べよとか言っても解からないですからね…。


3.アレス=アンバー様
ぬぅ、3だった場合、“破滅”の軍の内部にもしっと団が居ると言う事ですな?
しっとの心は父心、沸けば種族の垣根超え…でしょうか。
改造人間…改造人間か…。
…あれ?
いやでもそーすると、何故セルには…失礼、ちょっと予定に矛盾を見つけました。

磯辺餅?
ナナシがオヤツに持って来たに決まってるじゃないですかw


4.竜の抜け殻様
と言う訳で、隠し玉とは『ゲンハ死亡済み』でした。
流石に予想外だったと思うのですが、どうでしょう?

ゲンハにアフロ神…それイタダキ!


5.陣様
大河はどっちかと言うと、「死神様のお通りだぁ!」でしょう。

自縛装置は機構兵団が必死こいて取り外してもらいました。
ファンネルは収納容量の問題で延期。
DG細胞は……うん、機構兵団じゃ使いません。


6.根無し草様
アキラですか…原作じゃ何気にいい所持って行きましたしね…死んだけど。
しかし、幻想砕き内で活躍させるのは難しいかも…。
シュミクラムは王宮とV・S・Sしか持ってないし、そうなるとアキラの戦闘能力は人並み…。
ヘタな所に出したら瞬殺されます。

セルが何故連れ去られたかは、そうですね、バルド祭が終わった辺りで明らかになるかも。


7.カシス・ユウ・シンクレア様
まぁ、野郎だって百合モノが好きな人は沢山居ますからねぇ…。
自分と同じ性別の2人が絡み合うのに抵抗があっても、異性なら問題ないんじゃないでしょうか。
多分、他人事だからと割り切って、そこから坂道を転げ落ちるように…。

しかし、大河×透か…本気でサレナ(同人少女)辺りが創りかねん…。
イムとクレアを巻き添えにしてカンヅメ?

ナナシは完全にマスコット扱いですねw
まぁ、それ以外にはボケ役か不思議役しか振れる役割が無いのですが。


8.イスピン様
どっちかと言うとドリルプレッシャーですね。
むぅ…合体か…前からの企画はありましたが、さてどうしたものか…。
…やはり巨大化が先ですな。

あの時の女装モンスターはリリィ及び世界意思によって綺麗サッパリ消し飛んでますがw
…しかし、そうなると…アルディアさんがヤキモチとか妬くかもしれませんねぇ。

ウーマ…どうでしょ?


9.ナイトメア様
素晴らしい勢いの電波ですね、見習いたいくらいです。
時守は最近、中々電波様が降臨してくれなくて…フローリア学園時代の、ネタが湧き出るような勢いが懐かしいッス。

ネ、ネコミュリエルがどっか行ったー!?
確保!
確保だ保護だ、どっかのヘンなヤツに捕まる前に!
…プチエー○ウスならぬ、プチネコミュリエルとか作れないかなぁ…きっと受けると思うんですが。

ところで、スレイヴ・エンプレスと選定姫の一騎打ちは何処でやったのでしょうか?
まさか戦場のド真ん中で見られながら?
別の意味で伝説になりそうです…王宮の威厳が吹き飛ぶようなw

ルビナスはともかく、ナナシが女性版レザードに共感するでしょうか…?
やっさんダリアと本家ダリア…飲み代が経費で落ちるとしたら、王宮は確実に自己破産ですね、うん。
…にしても、超巨乳が2人か…ダリアが増えたのを嘆くべきか、乳が増えたのを喜ぶべきか…。

ああ、エス○レイヤー・ユカは再起不能ですね。
うん、逆らおうにも逆らえない。
でもドキドキは色んな意味で最高潮。
……ん?
…………使える…かも…。
場合によっては、このネタ使わせてもらうかもしれません!
許可をくださいますか!?
いや本当に、ヘタすると半年くらい先の事になりそうですが。

つか…セルー、君に何があったんだい?
どうでもいいですが、サタン大河と聞くと、某龍玉のサタンのようなアフロをした大河が思い浮かびます。
勿論ヒゲもついてます。

ベヒーモスはでっかい獣ですか。
ひょっとしたら、現在生きている生物に似たようなのが居ないだけかもしれませんが…。
やはり角は外せないかな…。
個人的には牛っぽいイメージなのですが。
巨大なち○ちち!?
そ、それは…いいネタだ!

まぁ、予定してるベヘモス代用品ですが…ある意味ではアレはとんでもなく巨大なナマモノ(?)にはなります。
まぁ、そこまで進化させるかどうかは別ですが。


10.神〔SIN〕様
松平のオッサン、今回ばかりはアンタに賛同する。
そりゃ確かにネギは嫌いじゃないが、あんだけ青い果実にチヤホヤされるのは見ていて腹が立つぞ。
それはもうマリアナ海溝より深い所から、フツフツと殺意が…。

大河がオトナだと思ったら、結局そう来るのねw
…いやまて、まさかNTRを企んでないか?
せめてのどかちゃんだけは残してやれよ、あの2人だけなら見ていて不快じゃないからw

…にしても、どうしてネギはスタップしようとするのに大河には敵愾心が向かないんだ?
…青か?
青い果実がカギなのか!?
まさか松平のオッサン、ゴリラ13、あんたらモノホン?
…まぁ大河がモノホンですが。
そしてボルト13はアルディアというロリ姫様がいますがw

あー、リリィリリィ、大河の言動は矛盾してないぞ。
何故なら大河は『面白そうだから』協力するのであって、『ネギがニクイから』協力してるんじゃないからねw

…あー、大河。
一応言っておくけど、『どうせこのかならアッサリ受け入れるから』とか言って、羽とかムキ出しにしてこのかの前に放り出さないように。
結果的にはOKでも、マジで嫌われそうだから。
そういう手もあるとは思うんだけどなー。

さて、次に登場するのは誰だろう?
楓…はデュエルのカエデと被るし、このか?
それともマナとかクーフェとか?
とりあえず刹那は…常識人として振り回されるか、非常識人に染まって暴れるか、さぁレッツシンキングターイム!

ところで、夫婦から始まって何処までイクつもりだ?
…ご主人様と愛奴?
例え本人が幸せでも、ファンの人達が許さんぞ。


11.舞ーエンジェル様
クーウォンとリャン、登場しました!
どーにもリャンのキャラが掴めない…ぶっちゃけ口調が…。
ツキナとかは簡単にイメージできるんですけどね…何故に?

むぅ、クーウォンとかの壊れは難しいなぁ…。
あの仏頂面をボケっとした気の抜けた顔にしてやりたいもんですが。

出生の秘密云々は…まぁ、秘密と言う事で。
この返答自体が回答のようなモノですが。

私の気持ちは…感謝6割迷惑2割、ヤケクソ自暴自棄出たトコ勝負予定は未定明日はどっちだ大作戦が7割の、計15割ですかねw


12.なな月様
任天堂から…?
後で見に行ってみます。

いやぁ、白の騎士になったら、ロベリアから案外重用されるかもしれませんよ?
セルも非常識に分類されますが、他の連中よりは仕事しそうだし。

あー、七星工業がありましたっけ。
うーん、ちょっと予定を変えてアレをソッチ方面にしようかな…。
でも、いくら七星工業と言ってもそこまで…。
…まぁ、時守自身が七星工業の事をあまり把握してないのですがw
実は存在しないとかナントカ。

当分はバルド祭りですね。
大河達が脇役になりそうな勢いです。

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