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「幻想砕きの剣 10-5(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-08-23 23:45)
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15日 王宮 草木も眠る丑三つ時


「なるほど…こっちはこっちで急展開してたんだな」

「事件は現場でだけ起きてるんじゃない、って事ね」

「揉め事はマスターの特権じゃないわよ」


 会議室でも起きる時は容赦なく起きる。
 王宮だって例外ではない。

 思い返せば色々あった。
 ロベリア襲撃を筆頭に、ルビナスの記憶復活、ルビナス主演のベリオ達の逃走劇、アルディアの失踪、ミュリエルの自白(犯人扱い)、イムニティが持って来た数々の情報、ダウニーの夜逃げ(誇張)。
 話し終わるのに、予想外に時間がかかってしまった。
 ちなみにまだ大河にくっ付いている3人娘。
 流石の大河も動きたくなってきた。
 そしてイムニティは呆れている…頭を撫でられながらでは、同じ穴のムジナだと思うが。


「それじゃ、こっちの事だがな…」


 こちら側では報告するべき事はあまり無い。
 精々正体不明の敵が居るらしい、と言う事くらいだ。
 それも大河が直に遭遇したのではなく、ユカと汁婆からの伝聞のみ。
 港町では“破滅”の民らしき工作員が居たらしいが、相対したのはダリア。


「要するに、詳しい話はドム将軍辺りから聞けと言いたいのだな?」

「アザリン様でも可。
 将軍ほど軍略には通じてないけど、アザリン様も一通りの事は把握してる筈だ。
 …あ、いや待て。
 忘れる所だったが、妙なモノを見つけた」

「?」

「ホワイトカーパスの森の中の事なんだけどな…」


 見つけた本人もすっかり忘れていたが、ジャククトに導かれて妙な木を発見した。
 幻術に包まれていたその木には、地下への通路が隠されている。


「その木の場所は?
 誰か調査しなかったのか?」

「木の場所は後で地図に描く。
 調査は…その時俺に伝令しにきた兵士の人達に任せた。
 深入りしないように言っておいたが…。
 それから見てない…。
 ドム将軍に聞いてみてくれ」


 と言いつつ、後悔している大河。
 調査などどうでもいいから、直ぐに離れろと言うべきだった。
 影が差した大河の顔を見上げて、ナナシが手を動かす。
 いい子いい子、と慰めるように大河の頭を撫でた。

 クレアは報告を聞き、考え込んでいる。


「…その木の事を、もっと詳しく聞かせてくれ」

「ああ。
 まず内側の材質だが…明らかにアヴァターの標準的な技術で作れる代物じゃない。
 一種のオーバーテクノロジー…詳しい材質に関しては、俺もわからん。
 鉄じゃなかったし…何かの合金だと思うんだが」

「ガンダニウムか?」


「だったらいいな。
 ……ルビナス?
 一応言っておくけど、当分調査には向かえんぞ。
 何せホワイトカーパスは…な」


 ルビナスはちょっと考えていたが、誤魔化すように笑った。


「流石の私も、そこまで無謀じゃないわよ。
 それに、どう考えてもマトモな施設じゃなさそうだし…。 
 ………ん?
 施設…?」

「…まさか」


 ルビナスとクレアは顔を見合わせる。
 クローン培養施設。
 謝華グループが奪われ、探している施設。
 王宮以上の情報網を持つ謝華グループが探しても見つからないのだから、それこそ人が全く踏み入らない秘境に隠されているか、さもなくば隔絶した技量による隠蔽が為されている事は想像に難くない。
 まさかと言う思いが脳裏を過ぎる。
 しかし、いくら何でも都合が良過ぎないか?

 自分達も、邪魔をするミランダ・謝華を排除するために奪われた施設を探し回っている。
 探し始めて、まだ数日。
 こんなタイムリーな事があるだろうか?
 偶然にしては出来すぎている。


「大河、その施設はどうやって見つけたのだ?
 お前は幻術破りの術は持ってなかったと思うが…」

「全く無い訳じゃないが…あんな見事な結界を破る方法は無いな。
 発見したのは偶然じゃない。
 いや、近くまで行ったのは偶然なんだが…。
 …………ま、いいか。
 ジャククト、近くに居たら姿を見せてくれ」


 虚空に向かって呼びかけ、手を翳す。
 怪訝な表情の四人の目に、青い光が写った。


「こ、これは!?」


 中でもイムニティの驚愕はとても激しい。
 自分ほどではないが、世界に対する権限を持った存在。
 一種の神。
 そのものではない、成れの果てではあるが…大河の手の周りに集まっていた。
 あり得ない、とイムニティは思う。
 神と呼ばれるだけの権限を持っている者は、死んだら転生せずに復活する。
 そして復活するとしたら、即座に、完全に元通りの状態になって復活する。
 そうでなければ、死んだ…つまり空位になった権限の持ち主の座に、即座に他の誰かが据え付けられ、元の権限の持ち主は消えて無くなる…或いは全く違う存在に再構成される。
 イムニティの目の前の青い光は、その法則を逸脱していた。

 生前程ではないだろうが、世界に対する権限を持っている。
 だが、この神は明らかに一度死んだ。
 寿命なのか討たれたのかは分からないが、復活しなかった以上その時点で消える筈である。
 このような姿で蘇えるなど在り得ない。

 イムニティの驚愕を他所に、クレア達は興味深げに見守っている。
 ナナシが一言呟いた。


「…チェレンコフ光?」

「ヤメレ」


 無表情のまま、クレアが拳骨。
 大河はそー言えばそう見えるなー、とイヤな思いをしつつも話を続けた。


「俺の昔の友人だ。
 どうやら、コイツが俺をアヴァターに呼んだらしい。
 あんまり詳しい事は聞き出せないが、コイツには魔力とかの力を阻害する能力がある。
 学園の地下でイムニティの封印を壊したのも、多分コイツだ」

「そ、そう…感謝するわ…」


 呆然とするイムニティに、応じるように一際強く輝いた。
 ナナシは手を伸ばして光を捕まえようとしているが、触れてもすり抜けてしまう。


「多分、死んだ瞬間に俺達の部隊に引っ張り込まれたんだろうが…」

「ん? 何か言ったか?」

「いや。
 とにかく、コイツが俺を導いた。
 いきなり出てきて俺を誘導して、その先に件の木があったって事だ。
 これでもコイツ、ホワイトカーパスの守り神でな。
 コイツが探し当てたって事は、何かしら重要な意味を持つんだろうが…」

「神の導き、か…」


 大河が腕を振ると、青い光は消えていった。

 胡散臭い。
 胡散臭いが、大河の場合それがあってもあまり違和感はない。
 何時どうやって知り合ったのかとか色々と疑問は残るが、全ては後だ。
 霊験あらたかと言うかなんと言うか。
 仮にクローン培養施設でないにしても、この施設に何らかの意味がありそうだ。


「イムニティ、行けるか?」

「………条件付で…多分。
 得体の知れない強敵とやらに当たれば…ちょっとキツイわね。
 ミランダ・謝華並みの手練がそうそう居るとは思えないけど」

「と言うか、ミランダ・謝華って企業の社長か何かだろ?
 そんなに強いのか?」

「護身術が高じて…なんて範囲じゃないわ。
 メチャ強いわよ」


 一撃入れられた脇腹を苦々しげに抑えるイムニティ。
 思い返すとまだ痛む気がする。
 自分の女を傷つけられたと心の中のメモ帳に楷書体で刻み込み、大河はふと思い出した。


「そう言えば、透の事だけど」

「透? 相馬透の事? レイミ・謝華から送られてきた」

「そう、その透。
 実際の所、どうなってんだ?」

「どう…と言われてもな。
 何が聞きたいんだ?」

「ん〜…取り敢えず、これからの扱いを」

「暫くは王宮で待機になるな。
 あの…シュミクラムとやらは、単機での戦闘継続時間が非常に短い。
 補給手を初めとし、相応のチームを作らねば宝の持ち腐れになるだろう。
 現在、シュミクラムの分析はルビナスが進めているが…」

「大体終わってるわよ。
 ちょっと面白い機能もあるけど、そっちもほぼ把握したわ。
 今はマニュアル作成に着手してるから、それが終わり次第試作品を製造する手筈」


 えらく早い。
 透とツキナがここに送られてきて、精々2,3日しか経ってないと思うが。


「使えるヤツが居るのか?」

「相馬ほどの力は無いがな。
 まぁ、そこはルビナスの科学力で補ってもらうとしよう…博打だが」

「クレアちゃん、それって一般にはイケニエって言いますの」


 ナナシの発言を華麗にスルー。
 ルビナスは頬を膨らませているが、自爆装置をつけようとしていた身としては何も言えない。
 付けるのは常識だと言い切りたいが、他人様が使う装備に勝手に自爆装置をつけて開き直るのは、いくらなんでもアレである。


「洗脳されかけてたのを連れ出されたって聞いたが」

「その辺の事は、ヤギザワが調べておる。
 …にしても、よく知っているな?
 本人から聞いたのか?
 そうそう自分の都合を他人に話すようには見えんが」

「まぁ、その通りだな。
 しかし…なーんかアイツと俺って、距離の取り方が…。
 『ここが境界線』って所から、無意識に一歩踏み込んじまうんだよ」

「……ホモネタ?」

「ルビナス…そんなにケツを掘られたいか?」

「カエデちゃんを見てたら興味が沸いたから、そっちも使えるようにしてあるわよ」

「ほーほー、後でしっかり試してやるぜ。 で?」 

「…酷いものだ。
 透と共に来た女は、意思を殆ど破壊されている。
 リハビリをさせてはいるが、どれだけ時間がかかるか…」

「体にも細かい傷跡が沢山あったですの。
 サディストな未亜ちゃんの方が、傷跡を残さないだけ幾らかマシですのよ。
 未亜ちゃん、怖くて痛いコトしててもナナシ達に傷を残した事は無いですの…。
 真性のクレアちゃんとイムちゃんは別にして」

「未亜ちゃんは、叩いたら終わった後に丁寧に舐めてくれるしね。
 治療としてはあんまり効果的じゃないけど」

「…そりゃ酷いな…」


 そうなる原因となってしまった透の心境はいかばかりか。
 今はヤギザワとやらと話してるのだろうが、それが終わったら直ぐにツキナの元に向かうだろう。
 後で顔を出しておくか、と決めた。


「透から有効な証言は得られるかな?」

「決定打になるかどうかは別としてな。
 ツキナが復活すれば、より有効な発言が取れるのだが…」

「出来るわよ」

「何?」


 ムスっとしていたイムニティが口を開いた。
 視線が集まる。
 何が出来るというのだ?


「だから、あのツキナって女の復活。
 普通なら時間をかけてリハビリしないといけないけど、意思を戻すだけなら出来るわ。
 そこからトラウマを振り切るのにどれだけ時間がかかるかは、あの女次第。
 その辺は相馬透に任せるのが妥当よね」

「…どうやって?」


 イムニティは不機嫌に鼻を鳴らす。
 怒っている。
 大河にはイムニティの怒りが見て取れた。
 人間の汚い所業に、少し前までの怒りが蘇えっているのだろう。
 こういう連中が居るから、自分達は新しい世界を望んだのだ。
 現世に楽しみを見出してはいるが、イムニティは『より良い世界を』と言う願望を忘れてはいない。
 今はクレアやアザリン、大河達の可能性に賭けているだけであり、彼らが消えれば、また次の世界を望むだろう。
 最近では、その考え方も少し変わり、『自分達が人の世界に介入し、出来る事をやってからでもいいのではないか?』と思っている。

 それはともかく、どうもイムニティの怒りはそれだけでは無いらしい。


「私は出来ないけどね。
 リコなら出来るわ」

「リコが?
 イムニティに出来る事はリコにも出来るし、その逆も然りだろ?
 どうしてイムニティには出来ないんだ?」

「単なる属性の話よ。
 みんなして忘れてるみたいだし、私も忘れがちだけど…。
 私は理性を司る白の精霊で、リコは感情の力を司る赤の精霊。
 燃料に使ってるエネルギーが違うのよ。
 あのツキナって女、赤の力が削ぎ落とされまくってるわ。
 でも、感情を失くしてるわけじゃない。
 リコから赤の力を流し込めば、取り敢えず感情は戻るわよ」

「一時的なものか?」

「流し込んだ力による感情はね。
 感情っていうのは、一瞬一瞬のモノじゃないわ。
 次の一瞬の感情に影響を与える、連続したモノ。
 感情が感情を産む連鎖。
 切欠さえあれば、後は自分で赤の力を生産するようになる。
 まぁ、あんまり力を流し込みすぎると怒りっぽくなったり泣き上戸になったりするけど、その辺は諦めるしかないわね。
 放っておけば落ち着くわ」


 ふむ、とクレアは考え込む。
 副作用は無いのかと確認を取って、その路線で行こうと決断を下した。
 イムニティはリコの力を借りねばならないのが気に入らないようだが、仕方ないと割り切った。

 そうと決まれば、透に知らせない手はない。
 ツキナが元に戻ると知れば喜ぶだろう。


「それじゃ、そろそろ腹も減ってきたし…今日は一端解散と言う事で」

「む…まぁ、仕方ないか…」

「ダーリン寂しいですの〜、もっと構って構って〜」

「ナナシちゃん、我侭言わないの。 添い寝くらいなら何も言わないから」

「どうでもいいけど、頭を撫でられ続けると生え際が後退しそうな気がするわ」


 不満そうなクレア達に苦笑して、大河は立ち上がった。
 ブツブツ言いつつも、彼女達もそれぞれ仕事を残しているのだ。
 大河にかまけてすっかり忘れていたが、“破滅”とドンパチやってる状況で仕事を溜めるのはヤバすぎる。


「あ、忘れてたけど…ダーリン?
 あっちで浮気してなかったか、未亜ちゃん達が揃ったらじっくり聞かせてもらうからね?」

「…オボエトキマスー」


 大河は並行移動して立ち去った。


「あ、大河君」

「おぅ、ユカ。
 眠れないのか?」

「疲れてるんだけどね。
 王宮を見るのも初めてだし、それにあんなに広い部屋だと落ち着かなくて」


 大河は透に朗報を伝えてやろうと思っていたのだが…よくよく考えると、彼が何処にいるのか分からない。
 そもそも起きているのだろうか?
 取り敢えずフラフラ歩き回っていたのだが…。
 どういう通路を通ったのか、中庭に出た。

 ロベリア襲撃の痕跡が色濃く残り、適当な後始末しかされていない。
 ユカは大河から目を逸らし、中庭に目を向けた。


「凄い破壊後だよね…。
 これ、ルビナスさんがやったんだっけ?」

「仕込んだのはルビナスだけど、発動させたのはナナシらしい。
 …ところで、仲良くやれそうか?」

「う〜ん………まぁ、ちょっとゴタゴタするかもしれないけど…。
 一点を除けばね」


 一点とは、言うまでもなく大河の事だ。
 容姿端麗なルビナスとナナシの姿を見て、ユカはちょっと怯んでいた。
 本当に大河を奪えるのか?


「まぁ、面白い人達なのは否定しないけど…」

「面白いで済むと肯定できる?」

「無理っぽい…。
 明らかにキャラが濃いもん。
 自己紹介して、大河君が王宮に来てるって言ったら物凄い勢いで走っていったよ。
 ほら、あそこの壁に穴が開いてるでしょ。
 壁を突き破って走っていったの」


 流石はお二人さん、ホムンクルスパワーは伊達じゃない。
 苦笑いする大河。
 これ以上王宮にダメージ与えてどーすんだ。


「そう言えば、もうお話終わったの?
 報告とか以外にも、何か色々と…こう、難しい話があるんじゃ…」

「今日はオシマイ。
 ルビナス達も、もう仕事に戻ってる筈だぞ。
 ああ、でももうすぐメシの時間だしな」

「ボク、礼儀作法とか得意じゃないんだけど…」

「多分、犬食いしてもクレアはあんまり気にしない。
 俺だって面倒な事は気にしないからな…。
 ところで、透を見なかったか?」

「相馬君なら、医務室に行くって言ってたよ。
 誰かのお見舞いみたい」

「そうか…」


 多分、幼馴染のツキナの見舞いだろう。
 ツキナの様態がどうなっているのかは分からないが、イムニティは直接ツキナを見ているようだ。
 その上でああ言ったのだから、多分大丈夫なのだろう。


「ちょっと用事があるから、行ってくる」

「そう? じゃ、ボクはルビナスさん達に…。
 何処で何してるか分かる?」

「多分、作業室でシュミクラムを弄ってると思う。
 作業室は…そこの地図で確認してくれ。
 じゃ、また後でな」

「うん、ルビナスさん達も一緒にご飯食べよーか。
 話しっぱなしだったんだから、まだだよね?」

「おー」


 大河はユカから離れて歩き出す。
 ユカは地図に見入っているが…王宮は結構複雑だ。
 迷子になるかもしれない。


 ところで、大河が医務室に向かう途中に変わった光景を目にした。
 汁婆だが…周囲に白衣の集団が群がっている。
 汁婆は珍しく慌てていると言うか、勢いに押されているようだ。


『手当てなんぞ要らんッつっとろーが!』

「何を言う!
 君のような珍しい生き物、絶滅危惧種に指定してもいいほどだぞ!?
 万全の管理を敷き、万が一に備えるべきだ!」

『管理されるなんぞ真っ平ゴメンだ!』

「管理はしなくても、手当てはすべきだ!
 さぁ大人しく麻酔を受けて大人しく眠るのだ!」

『テメーのは手当てじゃなくて解剖か手術にしか見えん!』

「それが我々の治療なのだ!
 我らマッドサイエンティスト候補者チーム、見た目は怪しくても能力は抜群!
 治療を受ければ、明朝には骨の髄まで健康になれる!」

『ツバでも付けとけば怪我なぞ治るわ!』

「むっ、唾だと!?
 皆のもの、サンプルを確保せよ!
 彼の唾液には、傷を治す成分があるらしいぞ!?」

『そーゆー意味じゃねーッ!』


 …どうやら白衣の集団は、UMAを標本にしたがっているらしい。
 確かに…汁婆の体は、医学的な見地から見れば珍しいを通り越して奇跡の賜物かもしれない。
 興味が沸くのも無理はない。
 汁婆も、彼らの勢いに抗しきれていない。
 まぁ、本気でバラされそうになったら蹴りが飛ぶだろう。
 放っておいても多分大丈夫だ。


「…先を急ごう」


 汁婆を見捨てて、医務室に向かう大河。
 何気なく角を曲がり…慌てて身を隠した。


「透…? って事は、あれがツキナちゃんか」


 医務室の外で、どういう訳か透は椅子に座っていた。
 そして、その膝の上に頭を乗せて横たわっている少女が一人。
 後姿からして美人なのだが…大河は、その雰囲気にデジャヴを感じた。
 咄嗟にヤバイ、と思ったのである。
 ヘタに触れると、ロクな事になりそうにない。

 ツキナの顔が見えない。
 透にしがみ付くようにして、ツキナは全く動かなかった。
 気付かれないように少しだけ顔を出して、二人を観察する。

 透はツキナほどの美少女(予測)に抱きつかれているというのに、沈鬱な表情のままだ。
 動かないツキナの頭に手を乗せ、同じく全く動かない。
 ツキナがこうなったのは自分のせいだ、と思っているのだろう。


 大河はもう少しツキナを観察する。
 …やはり、覚えがある雰囲気だ。
 正直、あまり思い出したくない。
 自分の殻に閉じこもり、外界の全てを拒絶するような、あの雰囲気。
 そのくせ何かに必死でしがみ付き、失う事を恐れている。


「…あの時の未亜にソックリじゃないか…」


 今は『そんな事は起きなかった』事になっているが、大河の記憶の中にだけは確実に存在する。
 世界と大河を拒絶しながらも、離れようとすると急に泣き出した未亜。
 彼女の記憶には、全く残ってないだろう。
 今ではすっかり立ち直る…いや、この言い方もおかしい…が、忘れられるものでもない。

 いずれにせよ、今は話しかけない方がよさそうだ。
 大河は廊下に座り込み、壁に背中を預けて持久戦の構えに入る。
 未亜がツキナとある意味似たような状況だっただけに、透が他人とは思えない。
 何故廊下で膝枕(しかも男)なんぞしているのかは知らないが、あまり長い時間でも無いだろう。
 廊下では誰が通りかかるか分からず、ツキナに余計な刺激を与えてしまいかねない。
 多分、医務室の中で何かをしているのだろう。


「…とは言え…ああやってるとイチャついてるみたいで、多少腹が立つな」


 自分も同じ事を、複数の相手とやってるだろーが。
 まぁ、ムカツクと言ってもそれ以上の行動に出られないし。
 大河は観察を止め、後頭部を壁に付けて目を閉じた。


 暫くすると、医務室の方から足音が近付いてくる。
 大河は目を開けた。
 この足音は、透の足音だ。
 気配を探ると、ツキナはどうやら医務室の中に入ったらしい。
 立ち上がり、固まった体を解す。


「…よ、透」

「大河か。
 待たせちまったな」

「何だよ、気付いてたのか…」

「俺達を見て、ちょっと腹を立てたのも気付いたぞ。
 本気でお前の行動パターンが読める…気味が悪いぜ」

「お互い様だ」


 歩いてきた透は、待っていた大河に驚きもせずに応じる。
 透は足を止めず、大河も透に続く。


「で、どうして廊下なんぞであんな事をしてたんだ?」

「…ツキナがな、医務室に反応した。
 トラウマの一部になってやがる…。
 だから別の部屋に移そうって事になったんだけど、何故か医者が模様替えをするって言い出した」

「…何故に?」

「どーも殺風景な部屋に嫌気が差してたらしい。
 渡りに船だったみたいだぞ。
 まぁ、ツキナを別の部屋に移したいが…何かあった時に、すぐに治療や診察が出来るってのは大きいからな」


 ついでに言うと、麻酔もある。
 あんまり使いたくないが。


「…見舞いに来てくれって話だったが…ありゃ、下手に触れない方がよさそうだな。
 自閉症みたいになってるだろ?」

「…ああ、よく分かるな」

「似たようなのを見た事があるんでな。
 多分、今の彼女が受け入れるのはお前くらいだぞ。
 医者は拒絶されなかったのか?」

「無理に触れようとしなければ、何とか大丈夫だ。
 それでも、俺だけが近くに居る方が安定しやすい…。
 だから晩飯…というか夜食を取りに行ってるって訳だ。
 医者が食えっつーても、ロクに食べなかったらしい」

「医務室でメシ食ってどーすんだよ…」


 ゼンジー先生だったら何を言うだろうか。
 患者が寝泊りする病室ならともかく、注射器やら何やらがある医務室で雑菌を撒き散らしてどーする。
 透はちょっと頭を掻いたが、何も言わなかった。

 大河はそろそろ本題に入る事にする。
 多分盛大に反応するだろうから、胸倉を掴まれるくらいは覚悟した方がいいだろう。


「ところで、透。
 重要な話がある」

「?」

「ツキナちゃんの感情を、取り戻せるかもぐえっ!?「本当か!?」ま、マジだ!
 ちょっと手を離せって!」

「あ、ああ、悪い…」


 万力のような力で締め上げられた。
 予想以上の反応である。
 手を離した透だが、「今すぐ話せ」と焦れているのはすぐに分かる。 
 目付きが尋常ではない。
 ここで妙な冗談を言ったら、それこそシュミクラムで全力射撃を食らうだろう。


「細かい理屈は省くけど、救世主クラスの一人にそう言う力を持ってるのが居る。
 リコ・リスっていう幼女だ」

「ソイツは何処に!?」

「最前線。
 明日か明後日には王宮に来るから、その時に…」

「…確かなんだな?
 副作用は?」

「暫く感情的になりやすくなるそうだ。
 他には特に無い」

「…そうか…」


 透の表情が歪む。
 やはり、ツキナの感情が抜け落ちた姿を見るのは心が痛んだのだろう。
 脱力して、その場に座り込んでしまった。


「おいおい…立てよ、メシを取りに行かなきゃならんのだろ」

「そういやそうだった…。
 は、はは…一気に力が抜けちまったぜ…。
 ツキナのリハビリに、それこそ百年がかりでも付き合うつもりだったから…」


 大河に支えられ、フラフラしながらも立ち上がる。
 それでも膝が笑っている。


「リハビリが必要ない訳じゃないだろ。
 まぁ…やっぱり、記憶が無くなる訳じゃないし。
 トラウマを乗り越えるには、結構時間がかかると思う」

「いいさ、何年でも付き合ってやるよ。
 …でっかい借りが出来ちまったなぁ…」

「ま、今度一杯奢ってくれよ。
 何なら救世主クラス全員にでもいいぞ。
 何ならセルとか汁婆とかユカとか、俺の友人総出でな。
 ツキナちゃんが全快してからでもいいけど」

「ああ、財布が空になるまで付き合ってやるぜ」


 この発言を、後に後悔する事になるのは言うまでもない。
 その最大の理由が、ツキナを回復させてくれた幼女にあるのも言うまでもない。
 自分で言った手前、撤回する事も出来ずに涙を呑んで見守り続け、結局ツキナに借金して頭が上がらなくなったりするのだが…まぁ、それも幸せなのだろう。


「さて、そんじゃ行こうか。
 ユカも食堂で待ってるし…。
 透は一緒には食べられないな」

「悪いな。
 時間がある時は、極力ツキナと一緒に居てやりたいんだ。
 …昼間はシュミクラムの訓練で忙しいしな…」

「ああ、そう言えばそうだよな。
 確か、王家が持ってるシュミクラムの完成度は、お前のシュミクラムに比べてずっと低いって聞いたが…。
 ひょっとして、お前が教官役をやってるとか?」

「ああ、そうは言っても人に教えるやり方なんて知らないからな。
 幾つか問題点を指摘したり、質問に答えるとか相談を受ける程度さ。
 明日辺り、見に来てみるか?」

「お、興味あるぜ。
 飛び交う銃弾、炸裂するミサイル、唸りを上げるモーター!」

「いや、訓練なんだから実弾は使わないって…。
 結構コストがかかるんだぞ。 
 それに、現状では動き方と性能のテストを一緒にやってるからな。
 時速何キロで走って何処で止まれとか、ジャンプして滑空しろとかその程度さ」


 この調子では、王宮のシュミクラム達は中々戦場に出れそうにはない。
 まぁ、本人達がどう考えているのかは知らないが…。

 そうこう言っている間に、食堂に着いた。
 王宮では、厨房の利用者は時間を問わずやって来る。
 文官の仕事が多い時など、それこそ夜中に食事をするハメになるのも珍しくないのだ。

 例によってユカがウェイトレスをやっているんじゃないかと思った大河だが、ユカはルビナス・ナナシと共にシチューを突付きながら喋っていた。
 ルビナスが気付いて、大河に手を振る。
 ルビナスとナナシは、一瞬だが大河と透を見て驚いた顔をした。


「それじゃ、俺はツキナの所に行くから」

「おーおー、仲がよろしいこって」

「そんなんじゃねーよ」


 苦笑いする透だが、大河は半ば本気である。
 ついでに、ツキナに多少同情していた。
 洗脳によって赤の力、感情が削ぎ落とされても、ツキナは透の事だけは忘れず、先程見たように彼を慕い続けている。
 とりもなおさず、それは透に向けて強い感情を持っていたと言う事であり、ツキナの様子を見ればそれが恋慕の情である事は予想がつく。
 が、当の透は全く気付いてないようだ。
 鈍い人間は周囲から見ているとイライラすると言うが、その典型と言えよう。
 大河も微妙に人の事は言えない。

 自分の夕食を確保し、大河はルビナス達の隣に座った。


「やれやれ、朴念仁に惚れると苦労するんだなぁ」

「甲斐性が在りすぎるヒトに惚れても苦労するわよ」


 ルビナスがジト目で棒読みする。
 ユカは大河を責めるような目で見ているが…何を吹き込まれたのだろうか?
 この場合、誇張せずに真実だけを言うのが最も効果的だろうから…大体の予想はつくが。

 ナナシは透の姿を見送り、首を傾げた。


「今のがツキナちゃんの好きな人ですの?
 何だか、ダーリンに似てるですの〜」

「そうか? ユカ?」

「…ボクも似てると思ったよ。
 でも、相馬君の方がずっと誠実だよね」

「こ、言葉に2メートルくらいのトゲトゲがあります…」


 ついでに言うと、脇腹にフォークが触れていたり。


「正直、私も似てると思うわ。
 ファーストインプレッションだけじゃなくて、もっと、こう…雰囲気が。
 外見は…似てると言うほど、似てないわね。
 顔のラインとかは…確かに似てるけど」


 そうかなぁ、と首を傾げる大河。
 幾ら透が他人に思えず、踏み込むのに余り躊躇いがないと言っても、男の顔なぞマジマジと見るような大河ではない。


「ところでユカ、ルビナス達に聞きたい事があっただろ?
 もう聞いたのか?」

「ああ、どうして大河君が浮気するのを容認してるかって事?
 聞いたけど…やっぱり、ねぇ…」

「まぁ、そう簡単に納得できないわよね」

「ナナシはみんな一緒がいいですの〜!」


 …ナナシはそれだけの理由で公認していても、あまりおかしくない。
 ルビナスは腕を組んでいる。
 何を言ったのか知らないが、ルビナス自身もその返答に満足している訳ではないらしい。
 当然、それではユカも納得できる筈がない。


「逆に大河君に聞くけどさ。
 大河君は、複数の人と付き合ってる事についてどう思ってるの?
 こう、申し訳なさとか、そう言うのは…」


 ユカに問われて、改めて考え込む大河。
 正直な話、多少の迷いが無い訳ではなかった。
 自分を振り返り、時々思う。
 自分は単に好きな…つまり興味を持った女性を、コレクションのように扱っているのではないか、と。
 全員を好きなのは本当だし、愛情を持っていると確信している。
 欲望の対象としてしか見ていない、と言う事は絶対に無い。
 しかし、そういう欲望の対象である事も間違いない訳で。


「まぁ、男ってバカな生き物だしさ…。
 女性とは別の意味で独占欲とか強いし。
 正直、みんなには悪いなって思う事もあるよ。
 甘えてるって思うし…。
 …何か一つを選べば、他の全てが遠くなる…俺はそれが耐えられない。
 生物としちゃ出来損ないなのかもな。
 いや、ヘンな意味じゃなくて」

「…一つを選べば、他の全てが遠くなるっていうのは分かるわよ。
 でも、生きるって事はそう言う事よ。
 世界の全ての中から、一つを選ぶ事。
 それ以外の可能性を、全て遠ざける事。
 それが辛いのは分かる…でも、ダーリンは出来損ないなんかじゃないわ。
 ダーリンだって、私達の事以外ではちゃんと選択してるもの」

「…だけど、大河君は選ばなかった」

「違うわ。
 同じように、一つの可能性を選んだ。
 私達全てと共にあると言う可能性をね。
 優柔不断であるのは否定しない。
 …でもね、それはユカちゃんが思ってるようなことじゃないわ。
 一歩間違えれば、とてもとても辛い事になってしまう」


 ルビナスの言う事が、ユカにはあまり分からなかった。
 あまり頭が良くないのは自覚している。
 可能性がどうのと言われた所で、自分に分かりやすい言葉に置き換えないと、仮初にでも理解できない。
 それに、一人を選ばなかった事には変わりないのではないか?
 大体、ユカから見ればハーレムなど、男性特有の破廉恥な妄想にしか見えない。
 一体何が辛いと?


「…まぁ、確かに女ばかりの救世主クラスに男が一人だけ居ても、別の意味で居心地が悪いが」

「大河君、心にも無い事を」

「いや、時々デパートの女性用下着売り場に放り込まれたような錯覚を覚えるぞ」

「ダーリン、多分それって違うと思うですの」

「そだな。
 …ユカ、ルビナスが言ってるのはとても簡単な事だ。
 それこそ、どんなオバカさんでも何時かは理解できる…いや、せずには居られない」

「…ボクにも理解できる?」

「納得するかは別にしてな。
 …簡単な理屈さ。
 俺は一人を選ぶ事が出来ない、しない。
 全てを欲している。
 みんなを愛している。
 それはダメだと言われても、不可能でない限り、いや不可能でも諦められない。
 可能性が、どんなに微小でも在ると思える間は。
 諦められないから…失う事ができない。
 思い、願い、欲望は消えない。
 だから…他の何かを選ぶ事も、得る事も出来ない。
 以上」

「……それって…亡者になりかねない…」


 軽い口調で、しかし淡々と話す大河と、唖然としているユカ。
 もしも大河が誰かを失えば、取り戻すため、その面影を求めて、何処までも進み、落ちてしまいかねない。
 どっかの髭グラサン司令のようになる可能性すらあった。
 死と言う決別すら否定して、この世の全てを巻き込んででも。
 厄介な事に、大河にはそれをやるだけの行動力が備わっている。
 例え途中で力尽きるとしても、彼は止まらないだろう。
 大河が大河で居られるのは、全員が揃っている「今」だけ。
 過去が思い出に変わらず、喪失を得る事が出来ず、ただ彷徨う。

 青い顔をするユカの肩をルビナスが軽く叩いた。


「ま、そう言う事ね。
 流石に寿命とかで死んだなら、そうはならないと思うけど…。
 ダーリンはちゃんと繋ぎとめておかないと、何をやらかすか心配で心配で…。
 そういう所も可愛いんだけどね♪」

「…言われて嬉しいかは、微妙な表現だなぁ…」


 大河は溜息をついて、フォークで刺した肉を口に入れる。
 美味い料理だったが、今の大河には少々味気なく思えた。


15日目 夜中 前線・駐屯地 未亜チーム


「…うそ…」

「…すまん、俺達がもっと上手く戦っていれば…」


 未亜達救世主チームは、夕食の席で一堂に会していた。
 今日の戦闘も終わり、風呂に入りたいなと思いつつも、各々適当に休んでいる。
 用意した夕食は、リコ8・他全員2の割合でカケラも残さず食いつくされて、もう何も残ってない。
 ちなみに、救世主クラスのお嬢さん達と一緒に夕食を…と考えた兵士達は沢山居たのだが、女性特有の超早口おしゃべり…男から見ると、本当に何を言ってるのか分からない…に気圧されされたらしく、途中で引き返して行った。
 …兵士が近付いて来る度に、リコが「分け前は渡しません」とばかりに殺気が篭った視線をぶつけていたのは、多分関係ない。

 それはともかく、夕食が終わり、それぞれ寛いでいる時の事だ。
 見覚えのある数人の傭兵が、「少し話が…」と語りかけてきたのだ。
 警戒するリリィ達。
 戦場では、気が昂ぶって暴走する兵士や傭兵は決して珍しくない。
 ここの兵士達はしっかり統率が取れているが、無防備で居る気分にもなれなかった。

 傭兵達はそれを見ても特に気分を害さなかったが、少々暗く沈んだようにも見えた。
 そこでカエデが気付いたが、彼らはフローリア学園から派遣された傭兵科生徒達だった。
 一体何事なのか?

 生徒達を見る内に、未亜はベリオは気付いた。


「あれ、セル君は居ないんですか?」

「!!」


 何気ない一言に、動揺する兵士達。
 それを見て、未亜達の心中に不安が広がり始めた。
 前線帰りの兵士達がこんな表情をする理由は多くあるが、もっとも可能性が高いのは。


「……セルビウムは…どうしたの…?」

「……多分…死んだ…」


 絶句。
 リコの手から、まだ握り締めていたスプーンが落ちた。

 予測は出来る事だった。
 セルに限らず、誰がこうなってもおかしくない。
 戦場とはそう言う所だ。
 死神は獲物を選り好みしない。

 動揺が激しい未亜が叫ぶ。
 全員の心境を代弁していた。


「ど、どうして!?
 何で不死身と噂されるセル君が!?」

「……俺達…足止めとして、殿を務めてたんだ…。
 でも、ドジって囲まれちまって…。
 これまでかって思ったら、魔物達が話しかけてきて…」

「…魔物が?
 それで、どうなったのでござる?」


 カエデも未亜程ではないが、動揺している。
 生き死にが日常だった彼女の世界では、上忍や下忍がいきなり居なくなるのは日常茶飯事だった。
 だが、やはり慣れない。
 アヴァターに来てから、彼女は少し緩くなったのかもしれない。


「なんかセルを指名して、『お前がついてくるなら、他の連中には手を出さない』とか言い出して…。
 結局、セルはそれに答えて行っちまった。
 止めようとしたのも居たし、生贄になってくれって目で懇願したヤツも居た…。
 でも…アイツは、『どの道このままじゃ全員死ぬから』って…」


 慙愧の念が篭った独白。
 傭兵科生徒達の手は、血が滲むほど握り締められていた。
 良くも悪くも、彼らはまだ割り切れていない。
 単純な数字で見れば、一人の犠牲で何人ものルーキーの命が助かったのだから、まだマシな方だろう。
 だが未だに学生気分が抜けきらない彼らは、セルの犠牲によって命拾いした事に悔いを感じているのだ。


「…どうしてセルさんを指名したのです…?」

「何も分からない…。
 ただ、俺達が所属していたシア・ハス隊は、ずっと魔物達に狙われていた。
 どうやら、セルが目的だったらしい…」

「セルビウムを…。
 …でも、どうして…」


 救世主クラスと親しいと言うだけで、セルには大した軍事的価値は無い。
 特別な機密を知っている訳でもないし、大河達の情報も他人より少し多い程度しか持ってない。
 態々集中して捕らえる意味があるとは思えなかった。

 魔物達の目的はともかくとして、救世主クラスが受けた衝撃は強い。
 誰も彼も、やりきれない顔をしていた。

 と、そこへ近付く足音。


「…言われちゃったか…」

「え? …あ、タイラー将軍」

「「「「「
    い゛い゛っ!?
           」」」」」


 突然の登場に動揺する。
 そりゃそうだろう、アヴァター内で唯一ドムと並び称されるタイラー将軍が、いきなり声をかけてくれば普通は驚く。
 いつもの士官用軍服を緩く着こなし、伏せ目がちのまま暗がりから現れた。


「僕が直接言わなきゃ、って思ってたんだけどね…」

「い、いえ、将軍の手を煩わせる訳には…」


 右往左往するルーキー達。
 タイラーは少し笑う。
 いつものヒトを安心させる笑みだが、やはり少し暗い。
 いや、そう感じるのは見る方の心境のためだろうか。


「セルビウム君の事は、シア・ハスから話に聞いたくらいだけど…。
 ……陳腐な台詞だけど、彼の分まで生き延びてくれ…」


「「「「
   はいっ!
         」」」」


 混乱しつつも、一糸乱れず応じる。
 セルの死…何故セルが連れて行かれたのか分からないが、生きている目はまず無い…は、ルーキー達に何かを目覚めさせたのかもしれない。
 目に炎が滾っている。

 未亜達も、泣きそうな顔だが、それ以上に闘志が沸き返りつつあった。
 明日はセルの弔い合戦になるだろう。
 大河はセルの死を知っているのか?
 気にはなったが、当の大河は王宮だ。
 少なくとも、こちらに来た時には知る事になるだろう。
 怒りのあまり、暴走しなければいいのだが…。


「それじゃ、僕は仕事があるから。
 明日に備えて、ゆっくり休んでいてくれ」


 タイラーはちょっと左右に乱れる歩調で、未亜達の元を去った。
 正直、深刻に悲しんでいる様子は見られないが…兵を指揮する者とは、大体そんなものだろう。
 立場が上に行くほど、末端の兵の命は抽象的になる。
 そうでなくては、プレッシャーに押し潰されてしまう。
 むしろセルの個人名を覚えて未亜達に話しに来た時点で、格別の扱いと言ってもいい。


「…負けられない理由が増えたな。
 救世主クラスの皆さん、足を引っ張る事になるかもしれないが…。
 よろしく頼む」

「アテにしてます。
 …さぁ、そろそろ眠りましょう。
 消灯時間を越えていますよ」

「…寮長、学園の寮の消灯時間を学園外で守る事もないでしょ…」


 最近自分でも忘れがちだったが、委員長的性質は健在のベリオだった。
 多分、ここ2週間程は大河とヤるために夜更かしする事もなく、早寝早起きを地で行っていたからだろう。
 …一晩だけ、カエデと一緒に深夜まで起きていたが…誰にも秘密である。


 16日目 午前  王宮 ルビナス


 ルビナスは手元の資料を見ながら、シュミクラムを弄っている。
 既に透が持って来たシュミクラムの分析は終了し、そこから考え出した改良版を作成中だ。
 作業を行なっている部屋の一方はガラス張りになっていて、少し遠くの平原がよく見える。
 その平原では、幾つかの人影が走ったり飛んだりを繰り返していた。
 透を中心とした、機構兵団の訓練である。
 その光景を見ながら、ルビナスは色々と機能や出力の調整を行なっているのだ。


「しかし…これ、やっぱりアヴァター産じゃないわね。
 何処かの世界から召喚されたのね…。
 ………イムニティ、ちょっといい?」


 ルビナスが虚空に向かって呼びかけると、暫しの時を置いてイムニティが空間転移で現れた。
 あからさまに面倒臭そうな表情をしている。


「何よ? 私、マスターが見つけた施設に潜入する準備で忙しいんだけど」

「ああ、そりゃゴメンね。
 このシュミクラムの技術、何処の世界の技術か分からないかしら?」

「さあね。
 アヴァター産じゃないのは私も賛成だけど、それ以上の事は分からないわ。
 召喚した陣を見つけられれば別だけどね」

「…やっぱり、V・S・Sにあるのかしら…」

「そうだとしても、優先順位はこっちが先よ。
 もういい?」

「ええ、ゴメンね邪魔しちゃって」


 イムニティはまた瞬間移動で消え去った。
 ルビナスは改めて書類に目を落とす。
 どうも、シュミクラムの能力は全て開放されているのではないらしい。
 幾つか、シュミクラム単体では機能しないと思われる装置が付けられていた。


「…装置の用途は、ある程度予想がつく。
 上手く再現できれば、結構な戦力になるわね…。
 全体のバランスで見ると及第点って所だけど、細かい技術は私以上ね…。
 ふ…ふふふ…楽しいわぁ♪」


 泥な目つき…もとい、マッドな目つきで、ルビナスはドライバーやら何やらをワキワキさせる。
 専門は薬物の類だが、錬金術は総合学問だ。
 工学や哲学、神学もその範疇に含まれる。
 機械弄りも大好きなルビナスだった。


「ええと、この出力先を見るに、恐らく人間の脳か神経とダイレクトに直結させるのね。
 そうすると、こっちのは送信のためのアンテナ。
 …でも、おかしいわね…だとすると、全体的なバランスが取れない…。
 ………あ、そっか。
 何か特殊な力場内での作業が前提とされてるのね。
 どんな力場かは、シュミクラムの重心やバランスから逆算すれば予測できるわ。
 私一人じゃキツいわね…ナナシちゃーん、お脳を借りるわよ〜♪
 こういう時、ホムンクルスのボディは便利だわ〜♪」


 今頃大河と一緒にシュミクラムの見物に行っているだろうナナシ。
 勝手に脳味噌の容量を拝借して、ルビナスは作業を続けながらも計算を始めた。
 言ってみれば、分割思考がデフォルトで出来るように設定されてある脳みそだ。
 小一時間もあれば、大体の計算は完了するだろう。


「力場に関しては、魔力を使って条件を整えればいいわね。
 電気の代わりに、高密度圧縮した魔力を付加させれば稼働時間も跳ね上がるわ。
 問題は使い手と直結する入出力端末だけど、多分専用の処理が必要になる…。
 とは言え、こっちはそう簡単には…神経や脳は下手に弄ると危険だもんね。
 となると、コードの途中に補助用のインターフェイスを取り付けて…」


 アイデア湧き出るが如し。
 羨ましい限りである。
 こうして、王宮の機構兵団が使うシュミクラムは完成度を増していくのである。
 まールビナスの事だから、一週間もあれば完成させてしまうだろう。
 完成しても、当分使用するのは機構兵団くらいだろうが…。


 で、その機構兵団はと言うと。


「洋平、スラスターの噴射が不安定になってるぞー!
 出力の大きさよりも、バランスを重視してくれ。
 高速で移動する時は、最初の一発だけでかい噴射をして、後は姿勢制御に回した方が効率がいい」

「へーい」

「あははー、注意されてやんのー♪
 カワイイ子が見に来てるのに、かっこわるー♪」

「でもあの子、当真大河に惚れてるもんなぁ」

「……」


 4体のシュミクラムが、三次元的な動きで平野を駆け回っていた。
 透以外はまだぎこちない所があるが、それでも使用して数日でここまで扱えるのは驚異的である。

 少し離れた所で、大河とナナシが見物していた。


「…セルが好きそうだよなぁ、こういうの…」

「でも、セル君は空中よりも地上の方が好きですの。
 前にレビテーションで空を飛ばせてもらった事があるけど、足元に何もないと落ち着かないって言ってましたの」

「まぁ、そうかもな。
 でもロケットパンチとか付けたら、あいつ大喜びして機構兵団に志願するぞ。
 …そう言えば、あったよな?
 ナナシとルビナスにも」


 戦うシーンが無いからすっかり忘れていたが、ナナシもルビナスも隠し武器が満載の体だ。
 暴発するんじゃないかと思うと、夜も眠れないくらいに。


 大河はシュミクラムの動きを観察してみる。
 あの機動は意外と厄介だ。
 空中を飛び回りながら攻撃されると、正直反撃するのは難しい。
 シュミクラムの火力は、先日の戦で目にしている。
 あの連続的な砲撃をどうやって掻い潜り、射程範囲に収めるか。
 それが勝負の分かれ目だ。

 透の練度は頭一つ飛びぬけているが、もう一人肩を並べる者が居た。


「あのシュミクラムは…確か、アヤネ・シドーさんだっけか?
 クールビューティって感じだよな」

「むー、ダーリンあんまり女の人に興味を示さないでほしいですの〜」

「いやそー言うんじゃないんだが…まぁ、日頃の行いが悪いからな…。
 ……あのヒト、普通の人間か?」

「? どーゆー意味ですの?
 ナナシ達と同じ、ホムンクルスとか?」

「いや…どうもな、高速移動に慣れてる気配が見受けられるんだよ。
 こう、動体視力が高いみたいだし、それにターンのタイミングとか慣性の打ち消し方とかを見てると…。
 …後で透に聞いてみるかな」

「あんまり他人のプライバシーに踏み込むのは関心しねぇぞ?」

「「!?」」


 唐突にかけられる声。
 慌てて振り向くと、煙草を咥えた中年が立っていた。
 気配どころか、足音すら聞こえなかった。


「あ、アンタは?」

「やれやれ、最近のガキは礼儀がなってねーな。
 まぁいい。
 俺はアイツらの隊長のヤギザワってもんだ」

「救世主クラスの当真大河です」

「同じくナナシですの」

「どーも。
 ところで、お前さん達に招集がかかってるぞ。
 クレシーダ王女が、何かヤバイ橋を渡るみたいだ」

「マジすか…何処に行けば?」

「裏門に来いだとさ。
 ウチの相馬も何故かお呼びがかかってる。
 一緒に行ってやってくれ」

「色々お仕事が増えてるそうで、大変ですの〜」

「なぁに、こないだまで上司やってたデブジジィの元で働くより、よっぽど張り合いがあるさぁ。
 面倒臭いがね」


 ヤギザワはそう言って、透に向かって声を張り上げた。
 シュミクラムを使って高速移動を繰り返しているので、追いつくのはちょっと無理っぽい。

 ヤギザワを後ろから観察する大河。
 くたびれた中年親父に見えるが、体は鍛え抜かれている。
 制服の上からでもそれが分かった。
 相当な修羅場を潜っているようだ。


「ダーリン、クレアちゃん危ない事をするんですの?」

「らしいな。
 ま、大丈夫だろう。
 俺達も一緒に行くんだから。
 いざとなったら、クレアを頼むぞ。
 ナナシは最終兵器だからな」

「えへへ〜、ダーリンに頼られてるですの〜」


 別に嘘ではない。
 最後まで極力使わないから、最終兵器だ。
 ナナシがどれくらい戦えるかは、ルビナスの科学力に期待するしかない。
 闘技場でダウニーを相手にフリーズした記憶は、まだ新しい。


 透は訓練を中止し、訓練用のメニューだけ与えるとシュミクラムを外し、大河の元に走ってきた。
 シュミクラムは数段階分の装甲に別れ、外壁、内壁、武器、標準装備とそれぞれ分かれている。
 これをどういう組み合わせで装着するかは、使用者次第だ。

 標準装備は、一見すると普通の服と変わりない。
 特殊な繊維で作られていて、一つ二つ隠し武器がある程度である。
 透は標準装備だけ残していた。
 ヤバイ橋を渡ると聞いて、最低限の備えはしておきたいのだろう。


「待たせた。
 セガワにもマニュアルを届けるように頼んであるし…忘れてる事は無いな。
 それじゃ、行くか」

「よろしくですの〜」


 裏門に向かって駆け足。
 平原から王宮へ向かうなら、裏門を通るのが一番手っ取り早い。
 要するに、寄り道せずに帰れば待ち合わせ場所に到着するのだ。


「あ、そう言えば透。
 アヤネさんの事について、ちょっと聞きたいんだけど」

「ん? ああ、ありゃ強いな。
 シュミクラムの操作の飲み込みも早いけど、基本的な反射神経が段違いだ」

「あ、お前もそう思ったか。
 どう見ても、高速の移動に慣れてるだろ。
 普段から人間離れした機動を繰り返してないと」

「そうだな…。
 でも、仇じゃなさそうだ」

「いや、そーゆー意味で言ったんじゃないんだが」

「ああ、人間離れと言えば、とんでもない素早さを持ったヤツを一人知ってる。
 それこそ獣染みてた…結構前に死んじまったけどな」

「…友人か?」

「いや、気分の悪い敵…でも無いか。
 妙に突っかかってくるヤツだったけど、敵視してた訳じゃないし。
 …ワケが分からない死に方だったよ。
 元々イカレたヤツだったが、狂乱した挙句、おれたちの目の前で喚きながら、自分で自分の喉を掻き切って…。
 俺達が義賊団を止めようと思った切欠もその辺だ」

「ふぅん…ところで、その義賊団って何て名前だったんだ?」

「草原の狼…ステッペン・ウルフ」

「格好いいですの〜!
 ダーリンダーリン、救世主クラスも何か名前をつけるですのよ!」


 はしゃぐナナシだが、救世主クラスの誰かに命名させるとロクな事になりそうにない。
 自己顕示欲が強かったり悪乗りしたり天然だったりするヤツばっかりだからだ。
 まぁ、それは今後やってもらうとして。


「お、クレアだ。
 …他には誰も来てないみたいだな?」

「そうだな。
 一人くらいは護衛とか諜報員とかを連れて行くのかと思ってたが…」


 クレアは王宮の裏門によりかかり、厳しい顔で空を見上げている。
 何を考えているのかは分からない。
 彼女がここまで緊張した表情をする以上、並大抵の事ではなさそうだ。


「ナナシ、一番乗りですの!」

「2番手、当真大河」

「機構兵団相馬透、到着しました。
 …くそ、シュミクラムの標準装備を付けてなけりゃもうちょっと早く走れるのに…」

「遅いぞ…。
 まぁいい、では行くぞ。
 行き先は道中で説明する」


 クレアは難しい顔を崩さず、先頭に立って歩き出した。
 大河達は顔を見合わせたが、まぁ行くと言うなら仕方ない。
 大河と透でクレアを挟むようにして歩く。
 ナナシは大河の隣をちょこちょこ歩いていた。


「…相馬透、お前は今の状態でどれくらい戦える?」

「現状でですか?
 …直接戦闘の経験はあまりありませんが、敵を霍乱するには充分な装備です。
 ですが、決定打には欠ける…と思います」

「そうか。
 なら、有事の際にはお前は私の護衛を頼む。
 大河、お前は突撃部隊だ。
 アザリンから、お前の力は聞いている…やりすぎるなよ?」

「分かってるって…ナナシはどうする?」

「ダーリンと一緒がいいですのぉ〜!」

「分かった分かった、好きにするがいい。
 ただ、戦闘にならない限りは私の側に居るのだぞ」

「は〜い」


 かなり不安だ。
 それはそれとして、クレア達は王宮から離れ、王都の外れに向かっている。
 貧民街とは言わないが、割と貧しい人々が暮らす地域である。
 貧しいと言っても、餓死する人間が居るほどでは無い。
 精々贅沢が出来ない程度、だ。
 だがやはり治安はよくない。


「それで、結局何処に…行くんですか?」

「相馬、無理に敬語を使わずともよい。
 一昨日の事だ。
 我々の息がかかった某新聞社に、このような記事が載った」


 クレアは懐から紙切れを取り出す。
 どうやら新聞の切れ端らしい。
 ナナシが興味を持ち、受け取って音読する。


「えーと、『この人味方 by未亜』…なんですの、これ?」

「すまん、間違えた。
 …ルビナスが写真を処分しておいてよかった…あんな恐ろしい物、見る必要は無いし…。
 ええと、こっちだ」

「…『クラウン氏が、空を飛ぶ剣を探しています。
 見つけた方には報奨金が支払われ、もし剣の方から飛び込んでくれば報奨金は全て寄付金に。
 剣は獲物を探しており、クラウン氏は剣が探している獲物を持っているものの、手放したいと願っているようです。
 報奨金を狙うなら、剣が自らクラウン氏へ向かう前に探し出しましょう』…お空を飛ぶ剣?
 凄いですの!」


 何だこりゃ、と思う大河。
 透は呆れるよりも先に分析している。


「クラウン…王冠か。
 つまり、空飛ぶ剣とやらに用事があるんだな…。
 察するに、取引材料があるからコンタクトを取りたいって事か?」

「その通りだ。
 ついでに相手も当ててみろ」

「王宮の取引相手って言われてもな」


 透は想像が追いついてないらしい。
 王宮の取引先と言われてすぐに思い浮かぶのは、やはり謝華グループのような大企業だろう。
 今は謝華グループと取引など考えられないだろうが…。


「何も企業のみが取引相手ではないぞ。
 王宮の血で血を洗う歴史を舐めるでない。
 ここ100年ほど平穏だったが、“破滅”が起こらない時期では、俗物なら誰もが王になりたがる。
 表面上は平穏でも、水面下では武装集団や暗殺者達とも手を結んだ者も居るのだよ。
 正直気は進まんが…そうも言っていられんのでな」

「正気か?
 テロリストを相手に譲歩したら、何処までも付け込んでくるぞ」

「譲歩ではない。
 互いを利用するだけだ。
 それで“破滅”を打ち払えるなら、悪魔とでも手を組もう。
 どうせ私は…」


 そこまで言って、クレアは言葉を呑んだ。
 『どうせ私は、世界よりも大河を選んだのだから』。
 その時点で王女失格。
 だが自分がどうにか出来るのであれば、それこそ悪魔にでも魂を売る。


「テロリスト…テロリスト?
 空を飛ぶ剣…刀。
 まさか…フェタオか!?」

「当たりだ。
 あそこはV・S・Sのやっている事に批判的でな。
 リーダーも頭が切れる。
 上手くすれば、協力関係を得られるはずだ」

「それで俺を…?」

「? どういう意味だ?」


 フェタオの協力を求めるのに、どうして 透が出てくるのか?
 確かに、透はV・S・Sの内情を幾らかでも知っている。
 だが、その程度の情報はフェタオでも得ているだろう。
 得ているからこそ、V・S・Sを批判しているのだから。


「透、何だか知らないが言っちまえよ。
 この際だし、黙ってても話が拗れるだけだぜ。
 お前さん、フェタオと何か関係があると見たが?」

「…関係って程じゃないんだが…あそこのリーダーとは、何度か顔を合わせてるんだよ」

「…どう言う事だ?」


 透は複雑そうな顔をしている。
 ナナシが不思議そうな顔で見上げていた。


「俺が義賊団をやってた頃に、フェタオとは鉢合わせする事が何度かあったんだ。
 その時のフェタオは、大抵何かしらの活動を終わらせて撤退する途中だった。
 まぁ、活動前でなくて幸運だったんだろうな。
 もしそうだったら、問答無用で拘束されたり殺されたりしてたかも…」

「それで義賊団を止めようとは思わなかったのか?
 呆れた愚か者め」

「…反論の仕様もない…」


 呆れた顔のクレアを、大河が嗜めた。
 透は首にかけられたネックレスを握り締めている。
 失った親友の事を思い出したのだろう。
 自分達が引き際を見極められず、無謀に巻き込んだから死んだ親友を。


「それで、どうなったんですの?」

「ん? あ、ああ…。
 ええと、何処まで話したっけな…。
 そうそう、何度も鉢合わせしてる内に、顔を覚えられてさ…。
 何でか知らないけど、クーウォンと顔見知りになっちまった。
 あと、リャンとか」

「クーウォンと!?」


 何だそりゃー、と言わんばかりのクレア。
 幾らなんでも出来すぎだろう。


「だから、てっきり俺を交渉役に出す気かと…」

「いくら顔見知りとは言え、そんな重要な役目をお前のよーな青二才に任せるかい。
 才気に走り、暴走して話をややこしくするのが目に見えとる」


 ぐうの音も出ない。
 透自身、交渉のイロハも知らないのだから言い返せない。


「ま、大丈夫だろ。
 顔見知りだってんなら、いきなり斬られたりする事は無いって。
 むしろ仲間に誘われるんじゃないのか?」

「止めてくれって。
 いくら知り合いとは言え、俺はテロリストの仲間になんかなる気はないぜ。
 それに事実上、今は王宮に保護されている身だしな…」


 肩を竦める透に、クレアが厳しい目を向けた。


「相馬。
 お前が言う事も分からんでもないが、今から交渉に行くのだぞ。
 相手を初っ端からテロリストとして扱えば、話が拗れる。
 もう少し婉曲な表現を使え」

「あ…はい…」


 思い出せば、それでフェタオのリャンと揉めた事があった。
 そう言えば、クーウォンに顔を覚えられたのもその時だった気がする。


「さて、この辺りに案内役が居る筈だが」

「そもそもどうやって連絡を付けたんだ?
 あの新聞記事に飛びついてきたのか」

「いや、こっちで勝手に探し当てた。
 だから報奨金は寄付金になる。
 まぁ、何処に寄付するって軍事予算に寄付する事になるがな…」

「マッチポンプみたいですの」


ナナシの言い様に苦笑して、クレアは周囲を見回す。


「情報では、この辺に見張り役が多数居るらしい。
 そいつらをとっ捕まえて、クーウォンに連絡を付けさせるぞ」

「それ案内役って言わないよ…」

「言っても無駄だ、透」


 テロリスト扱いするなと言いつつ、クレアは思いっきり強引に行く気のようだ。
 ナナシと大河に、周囲の気配を探らせる。
 透も辺りを見回すが、彼はシュミクラムの才能を除けば一般人だ。
 気配を読むという器用な芸当は出来ない。


「…どうだ?」

「…視線が3組…いや、4組。
 大体の方角は分かるが、詳しい位置までは…ナナシ、あっちだ」

「ハイですの。
 うぃ〜んうぃ〜ん…」


 自分で効果音を演出しながら、ナナシのウサミミ…もといリボンが直立し、ぐねぐね回る。
 なんかヤな光景だ。
 多分超音波でも出してるんだろう。
 嘗ては防腐剤が入っていた筈だが、ニューボディになって不要になったため別の機能を付けたらしい。


「…あの建物の2階と、屋根の上と、その二つ隣の煙突がある家ですの。
 ナイフを持ってるみたいですの〜」

「…便利だなぁ…まるでシュミクラムだ…」


 驚いている透だが、この程度で一々驚いていてはルビナス達とは渡り合えない。
 早急に慣れる事をオススメする。


「…あら?
 お一人様、こっちに近寄ってくるですの」

「…カツアゲにでも来たか?」


 治安がいいとは言いかねる街の一角で、身形のいい子供が2人に、然程強そうでもない男が2人。
 数で圧してしまえば、どうとでも出来る。
 が、ここの連中は普通ではなかった。
 取り敢えず半殺しで、いや喋れる程度に手加減して、つまりそれ以外はいいんだな、と少々物騒な会話を交わす3人。
 こっそり得物を手にしていた。

 が、近寄ってきたのはチンピラ風の男が一人だけ。
 いい度胸だからボコる程度で止めてやろう、と結論が纏まった時。


「よう、元気か透」

「え? …あ、アキラ!?」

「知り合いか?」

「ステッペン・ウルフのメンバーだよ!」


 近付いてきたのは、細身の体に反社会的な目付き、バンダナを巻いたガラの悪い男。
 かつて透とチームを組んでいたアキラだった。


「と言う事は、ボコっちゃいかんのか?」

「いいワケねーだろ!」

「おお、やれるモンならやってみろや」

「じゃ遠慮なく」

「いやそっちの嬢ちゃんは…って、何じゃそのドタマから突き出す機械機械してるのとか今にも火を噴きそうなガタガタ揺れる腕は!?」

「勿論苛電流子砲とロケットパンチに決まってますの。
 殿方はロケットパンチが大好きですのよ?」

「いやそりゃ俺だって好きだけど食らうのが好きって訳じゃなくてだなぁ!?」

「回転してドリルにもなりますの」

「……く、喰らってもいいかなぁ…」

「正気に戻れアキラ!
 この子の攻撃力は洒落にならんぞ!
 アヴァター一のマッドが何を仕込んだか予想もできねー!」

「そうだナナシ、元々俺が相手なんだからな。
 ほれ、こっち向いて得物構えろ」

「お、おお、そりゃそうだった。
 そんじゃ、お望み通りボコって「トレイター!」…って、召喚器ィ!?
 まさか、噂の史上初男性救世主候補か!?」

「さぁ試合開始だ!
 制限時間は無制限、勝敗はボコった方ではなくより多くの笑いを取った方の勝ち。
 これなら公平な勝負だな?
 なお、種目はドツキ漫才で。
 勿論俺はトレイターを使わせてもらうが。
 ほれ、ハリセントレイター!」

「アヴァターの希望の力を漫才に使う気かテメーは!?
 おい透、一体何なんだコイツらはよぉ!?」

「王宮在住の、株式会社トラブルメーカーズだよ!
 つか、交渉に来たんだろうが仕事しろ仕事!
 と言うか、俺のダチにいきなり喧嘩を売らんでくれ!」

「売ってない。
 押し付けてる。
 さぁ、さっさとネタを繰り出せ!
 さもなきゃ塒に案内しろや!」

「な、お前らまさかフェタオに襲撃をかけて…オイ透!?」

「塒がフェタオって…あ、アキラお前何を…!?」


 話が加速度的にややこしくなる。
 もう暫く放っておくのもいいかな、と思うクレアだった。
 周囲の視線も、警戒すべき敵ではなくアホを見る目になっている。

 結局、この漫才は飽きたクレアが各々の口に磯辺餅(出所はナナシ)を叩き込んだ事で終結した。
 窒息死しかけていたが、そこら辺も問題ない。
 透とアキラは喉元とか鳩尾とかをブン殴って吐き出させ、大河は直接口から口で吸い出そうと言う話になり、クレアとナナシが役を譲らず、チアノーゼが出始めた所で同情したアキラが鳩尾にエルボードロップを叩き込んで蘇生させた。

 まぁ、笑いは取れているのではないのかな。




ソニックライダーズに嵌っている時守です。
むぅ、ストーリーがショボい…。

ああ、どうしようどうしよう。
もーすぐ某ゲーム社の2次募集の締め切りなんですが、前に行って落ちて…むぅ、未練よのぅ。
ま、ものはついでだし受けてみよう…東京遠いけど。

それではレス返しです!


1.くろこげ様
実行しますッ!!


2.パッサッジョ様
そうですねー、高圧的なスキルなら大抵のものは身につけられそうですw
魔物達との友情物語、上手く書けていれば幸いです。
再登場ですか…やるならクライマックスに近いシーンですね。


3.アレス=アンバー様
軍曹モード…Sより凄いかもしれませんが、Sの方が被害が大きいでしょう。
言うなれば軍曹モードは人災で、Sは天災?

炸裂した魔力塊は、ホワイトカーパス周辺を一気に吹き飛ばしました。
アザリン様が見たらショックで昏倒しそうな事態に陥っています。
…どうしよう。


4.竜の抜け殻様
内定おめでとうございます!
初めて内定を貰った時は心底ホッとしますよね…。

主役達に同レベルの敵、ならばDS原作のハーレムルート&クレア様ルートもそうでしたね。
しかし…今の“破滅”の将は、ヘタレの集まりだしなぁ…(汗)
ゲンハは…隠し玉…かなぁ…?
悪い意味で期待を裏切るよーな気がします。


5.イスピン様
よーしよし、軍曹モードは問題なし、と…。
部下を痛めつけるのは訓練によるものだから問題なし、ですかね。
…軍曹モードのままSモードが作動するような事態は避けないと…。

大河と透の関係、ズバリその通りだったりします…あぁ、ネタバレた…。

…考えてみれば、確かにレベリオンの5,6発は軽く撃てますな…。
もうホワイトカーパスには敵しか居ないから、ガンガン叩き込んでも問題ないか…。


6.なまけもの様
時守も最初はSモードで敵を調教させようかと考えたのですが…それではロベリアのお株が取られてしまうのでw
まぁ、本人にしてみれば、「そんな部下達は熨斗つけてくれてやるからマトモな部下をくれッ!」ってなモンでしょうが。

軍曹…軍曹…鬼軍曹…と言えば…時守的には、某塾の鬼髭が思い浮かびます。
軍曹みたいな人ですがヘタレで、かと思えば妙な所で根性がある…うん、いいキャラだ。

もう魔力塊は出てこないでしょうから、神水も作れませんね…。
大幅なパワーダウンです。


7.陣様
軍曹モードは普通に受け入れていただけるようで、ホッとしています。
やっぱりマオ姐さんですか?

物凄い火柱程度で済めば御の字ですねぇ。
何せアシュ(壊)の魔力塊ですし…。
どっちかと言うと、単純な破壊力よりも戯けた事になった場合の方が怖いですw


8.カシス・ユウ・シンクレア様
あの四人…と言うと…ダリアは勘定外ですかw

未亜がユカに無反応というのが、前回の一番の爆弾でしたかねぇ。
いくらリコの暗示で抑えられてるとは言え、全く反応しないなんて…。

ドム将軍なら、あれくらいの活入れはやりそうですね。
ただ彼の場合は、無闇に汚い言葉を使わず、その迫力で圧倒してそうです。

はっはっは、対未亜同盟はきっと瞬殺はされませんよ。
活かさず殺さずがオシオキの基本ですw。


9.YY44様
ええ、やっとこさホワイトカーパス編が終了し、ホッとしています。
これからはバルド編かな…。

おお、つまりアレですな?
空中元素固定装…ゲフンゲフン。
どっかのお尻の小さな女の子?


10.ナイトメア様
ぶっちゃけ、ゲンハがバルドヒロインをどうこうしようと言うのは難しいですねぇ。
陵辱モノって、強かに酔っ払ってないと私は書けませんし。
ちなみにネコ親娘の時は、翌日二日酔いになりました。

ちっ、ちよちちの試作実験体でネコミュリエルが出来るのか!
ああっ、でもロケット風なら何となく納得できるような!
…そー言えば、アルクがネコの着ぐるみを着て志貴に猟銃で追われるシーンがあったなぁ。

スレイヴ・エンプレス…順当に考えれば、まだ登場してないあの方ですが…。
拷問器具か…出来るならもっとマヌケなヤツにしたいんですけどw

女性版レザード…男性版にも増して、痛いストーカーだ…。
ユカがエス○レイヤー!?
…はなぢでた…。

つーか、これはアレですか、丸ごと文字通りハメ倒せって事ですかい?

時守も『今からバルドは無理でしょう…』と思ったのですが、案外何とかなるもので…。
合わない辻褄は、強引に屁理屈でどうにかします。
それが実行力の秘訣でしょうかw
まぁ、リアルじゃヘタレなので、せめて文章くらいは…。

AC未亜…ただ一人天使のような心を持ったが故に…哀れな…。


11.神〔SIN〕様
か、神の器まで…。
…よし、ゼ○ギアスを持ってこい!
あれは神を滅ぼすモノのヨリシロだから、何とか対抗できるだろ。

あー、考えてみればルビナス反則ですね。
だってロボット対決なのにサイボーグ出してるし。
酔った勢いながらも、手術をミスらないその手腕は確かと評するべきか…。

…ところで、変身解けた時の服は…どうなってんでしょ?
場合によっては茶々丸に、衛星からの砲撃を命じなければなりませぬが。

…しかし、超のあのニコニコした顔でルビナスと渡り合うとは……むぅ、なんちゅーか世も末ですな。
ロベリア・全蔵・ナナシ(敢えて神〔SIN〕とは言いますまい)の願いが、物凄く心臓に来ました。
いやホントに。
鬼気迫ると言うか、全身全霊をかけて願っているのが本気で伝わってきますw
これが文才の差というものか…。

…しかし…きっとこのマッド達、懲りてねーだろうな…。


12.舞ーエンジェル様
いや立ち絵はムリっす、せめて顔文字に…ってそれもムリやんw
透VSゲンハは、一応考えています。
ですが、ゲンハの扱いは微妙にややこしいので…。

リヴァイアサンは出さなきゃなぁ…憐を語るのに外せませんし、色々と便利な敵なので。
橘怜香の扱いは、完璧に脇役になりそうです。
だって彼女、前線には出てこないし…クレア達と陰謀合戦やらせると、それこそ何時までも終わらなくなりそうです。

リヴァイアサンはバルド。
ならベヒーモスは……やっぱ幻獣?
いやしかし、ベヒーモスと言えば死に際のメテオだしなぁ…。
…よし、アレをベヒーモスの代わりにしよう(企)

ユカのエッチシーンですか?
バルドキャラの参戦で、ただでさえ遠いのが更に遠くなりましたよ。
…バルドキャラ参戦の最大の切欠は、舞ーエンジェルさんなんですよねぇ…。


13.なな月様
大丈夫ですかねぇ、NT…と言ってる直前に復活したようで、一安心です。。

しかし大河と透って、似てないようで似てますよね。
主にその性癖がw
透は何気に鬼畜だし…だって道具に露出にSMモノに、さらに妹にまでw

バルド世界でのハーレムですか…まともにやってちゃ無理っぽいですねぇ。
何が無理って、常識人が多いw
はっちゃける人が居ない…。

時守も戦争とは多数の意志と意思のぶつかり合いだと聞いた事がありますが、大人数を描くのは難しいんですよね…。
まぁ、この場合は敵方の思惑とかを書かなくていい分楽なんですけど。

はっはっは、魔神の垢だから恐ろしいんじゃないんです。
真に恐ろしいのは、『アシュ様が好意でくれた』からなのですよw

いいネコですねぇ…ウチの犬にも見習わせたいです。

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