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「これが私の生きる道!新外伝3復活の黒い死神編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-09-06 21:43/2006-09-07 00:11)
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(コズミック・イラ77、十月中旬の夕方、月面
 プトレマイオス基地の某会議室内)

ここは、大西洋連邦の宇宙における最大の基地で
ある。
先のプラントとの戦争後に、裏面のアルザッヘル
の基地を拡張する案が浮上していたのだが、軍縮
に伴う予算の縮小と、現時点では、それほどプラ
ントが危険ではないと判断した政府の意向で、そ
の拡張は中止され、その予算は通常部隊と整備と
予備仕官制度の拡充に使われる事が決まっていた

なので、この基地の重要性は変わらないままで、
ジークマイヤー大将をトップとする、宇宙軍総司
令部兼月面方面軍の司令部が置かれ、新たに再編
成された大西洋連邦軍宇宙軍第一・第二艦隊の本
拠地にもなっていた。

 「さて、来月初旬には、例の合同軍事演習(リ
  ムパック77)が開催されるわけだが、常に
  集団模擬戦の順位が三位という、不本意な成
  績である事への対策を立てようと思う」

会議室内には、ジークマイヤー大将、ハルバート
ン中将、コープマン少将、バジルール准将、フラ
ガ大佐を始めとする、宇宙軍の司令官達や参謀達
が終結しており、神妙な面持ちで司会進行役のハ
ルバートン中将の話を聞いていた。 

 「全艦艇を使用した艦隊演習に、内容を変更さ
  れてはいかがでしょうか?それならば、勝利
  も可能かと・・・」

 「だが、この方法を最初に提案したのは我々だ
  し、勝てないからと言って方法を変えたので
  は、我が軍の恥の上塗りになるぞ。それに、
  勝てたとて数が多いからだと言われればそれ
  までだ。実戦ならそれで良いのだろうが、こ
  れは演習だからな」

一人の若い参謀が、演習内容の変更を提案するが
、それはハルバートン中将に一蹴されてしまう。

 「同数の艦艇とモビルスーツを出して、集団演
  習を行わせる。モビルスーツ運用にも慣れ、
  人材の懐も広がりつつある我々に有利だと思
  ったのにな」

 「第一回も第二回も、一位がザフト軍で第二位
  がオーブ軍か。今回もそうなるのかな?」

 「いえ、今回は極東連合軍も巻き返しを図るそ
  うですので、下手をすると、四位に転落とい
  う可能性も・・・。元々、僅差での勝利でし
  たからね」

 「そうなれば、私は左遷だろうな」

ハルバートン中将は、別の参謀と話をしながら危
機感を募らせていた。
もし、このような状況が続けば、モビルスーツ部
隊責任者である、自分の責任問題に発展してしま
う可能性があるからだ。
それほど権力に未練があるわけではないが、左遷
は過去のトラウマがあるので、勘弁して欲しいと
ころであった。

 「それで、演習部隊の主力である、バジルール
  准将はどう思うかね?」

「アークエンジェル」艦長ノイマン中佐と結婚は
していたが、任務中は夫婦別姓を貫くバジルール
准将にジークマイヤー大将が質問をする。

 「特殊対応部隊は、常によその部隊に目を向け
  て、優秀なパイロットの引抜きを続けている
  のですが、それは毎年の事なので、効果があ
  がっているのかどうか・・・」

 「フラガ大佐はどう思う?」

 「そうですね。こちらで出来る事は全てやって
  これですからね。あとは、向こうの出方次第
  かなと思います」

 「ザフト軍はクルーゼ司令、グリアノス司令、
  ジュール司令、エルスマン司令、アスカ隊長
  、デュランダル隊長と反則のようなチームを
  組むからな。他に、ヴェステンフルス司令と
  アイマン司令もいるし」

 「オーブ軍もアスハ准将、ヤマト技術一佐、ハ
  ワード二佐、ホー二佐の四天王が健在だし、
  サハク中将の親衛隊も手ごわいからな。それ
  に、チームワークの点から言えば、ザフト軍
  よりも上だからな」

 「極東連合軍は、石原一佐と相羽二佐を演習に
  参加させるらしい。どうやら、本気で一位を
  狙っているようだな。それに、チームワーク
  で言えば、本当はあそこが世界一なのだから
  」

複数の軍人達が順に意見を述べていくが、その度
に、全員の気分が沈んでいく。
だが、昔と違って負けても戦死しない分だけ、ま
だ気が楽であったが。

 「そこで、モビルスーツ部隊の教官を務めてい
  るレナ中佐を引き抜きます!旦那が(ミカエ
  ル)で指揮を執っているので、やる気を出す
  でしょう」

 「そうだな。許可を与えよう。だが、彼女を嫁
  にするモーデル大尉の懐の広さというか、勇
  気の大きさというか、とにかく、感心するな
  」

 「本当ですよね」

 「確かに・・・」

その後、本番までに出来る限りの対策を取るとい
う、いつもと同じような最終提案を採択して会議
は終了したが、全員の記憶に、「レナ中佐を嫁に
貰った勇者モーデル大尉」の記憶が鮮明に残った
のであった。 


(十月末日のある月曜日、アカデミーの校舎内)

 「では、今日はここまでだ。今日の失敗を明日
  に生かしてくれよ。では、解散!」

俺の掛け声で、パイロット専攻科の少年・少女達
はそれぞれに教室を出て行く。
エミリア達との戦いから三年、俺は再び教官に戻
っていた。
今回はさすがに、アカデミーの校長になったスズ
キ部長の命令で、モビルスーツ専攻科の主任教官
という管理職に就かされていたが、仕事はそれほ
ど忙しくもなく、週末には家族と出かけたりする
事が出来るようになっていた。
そして、生徒達との関係も昔とは違って、多少距
離を置くようになっていた。
俺も二十五歳になったし、向こうは十歳も下なの
で、多少のジェネレーションギャップを感じるし
、俺は既に「黒い死神」として生きる伝説になっ
ている節があるらしく、生徒達が多少遠慮してい
るようでもあったのだ。

 「カザマ。今夜、一杯やらんか?」

アカデミーの廊下を歩いていると、スズキ校長が
俺に話しかけてくる。
どうやら、俺を飲みに誘いたいようだ。

 「今日は駄目です。サクラとヨシヒサが待って
  ますから」

 「最近、付き合いが悪いな」

 「最近、飲みに行く事が多いですね」

 「娘達が相手にしてくれないんだ・・・。お前
  の十年後の姿だ」

 「うっ!サクラとヨシヒサは違う!」

 「俺もそう思っていたよ・・・」

 「俺は違いますからねーーー!」

俺はスズキ校長を振り切って、帰路に就くのであ
った。


 「ただいま。サクラ、ヨシヒサ」

 「お父さん、おかえりなさい」

 「おかえりなさい」

俺が車を飛ばしてクライン邸に帰ると、玄関で二
人の子供達が待ち構えていた。

 「お父さん。抱っこ」

 「抱っこ」

 「ああ。いいよ」

俺は片手ずつで二人を抱きかかえながら(こうい
う時、コーディネーターは有利だ)食堂に向かっ
て歩いていく。

 「二人とも、大きくなったな」

 「お父さん。あのね・・・」

 「あのね・・・」

俺が二人の話を聞きながら、更に奥に歩いて行く
と、奥からラクスが出てきて俺を出迎える。

 「ヨシヒロ、おかえりなさい」

 「ただいま。ラクス。今日も二人は元気だね」

 「ええ。元気過ぎるくらいですわ。お食事の用
  意が出来ていますわ」

 「ありがとう。でも、その前に風呂だな」

 「用意できています」

 「では、入るとしますか」


入浴後、俺は家族と食事をしながら、子供達の話
を聞いていた。

 「うんとね。昨日、ミユキちゃんが、遊園地に
  行ったんだって」

 「誰と?」

 「(仮面のオジちゃん)とだって」

このところ、昼間はクライン邸に俺の友人・知人
達の子供が集まって、サクラ達と遊んでいるよう
なのだが、クルーゼ司令はなぜか「仮面のオジち
ゃん」と呼ばれる事が多かった。

 「あの仮面のままで遊園地か・・・。ヒーロー
  ショーの悪役と間違われそうだな」

 「ヒーローショーとは何なのですか?」

 「日本でよくやってるやつさ。ほら、サクラ達
  に見せたあの五人組の映像だよ」

 「ああ。あの派手な方々が、悪人を倒す作品で
  すね」

 「あれのショーを、日本ではよくやっているん
  だよ」

 「五人がかりで一人の敵を倒して、正義なので
  しょうか?」

 「手段は選ばずって事かな?それに、その前に
  戦闘員が沢山いるじゃない」

 「日本って、不思議な国ですわね」

俺とラクスが変な会話を続けていると、サクラと
ヨシヒサが俺にお願い事をしてくる。

 「お父さん、遊園地に連れてって」

 「連れてって」

 「今度の週末になら大丈夫だな。ああ、いいよ
  」

 「やったーーー」

 「お父さん、約束だよ」

 「約束」

 「ああ。約束だ」

だが、俺は翌日に、地獄の底に叩き落される事に
なるのであった。


 「おはようございます」

 「人事部長が、すぐに出頭しろだってさ」

翌日、俺がアカデミーに出勤すると、スズキ校長
から軍本部への出頭を早急に命じられた。  

 「何で?」

 「さあ?」

不思議に思いながらも、急いで出頭すると、例の
ハゲ親父が俺を待ち構えていた。
付き合いは長いが、この親父に呼ばれるとロクな
事がないので、いまだに名前をよく覚えていなか
ったのだ。

 「ご用件は何でしょうか?」

 「来週中旬に行われる(リムパック77)の件
  だ」

 「もう、明日には出発じゃないですか」

 「それが、緊急事態が発生してな・・・」

 「緊急事態と私にどのような関係が?」

 「実は、クルーゼ司令が緊急入院してな。君に
  演習部隊の指揮官を務めて貰えないかと・・
  ・」

 「はっ?クルーゼ司令が入院ですか?大怪我で
  もしたんですか?」

 「いいや。オタフク風邪だ」

 「何でそんな病気に掛かるんです?」

基本的にコーディネーターは病気になり難いし、
俺自身がそんな病気になった経験がなかったので
、少し驚いてしまう。

 「それが、新種の進化した病原菌らしく、コー
  ディネーターにも大流行していてな。娘さん
  のやつが感染したらしい」

 「でもオタフク風邪ごときで・・・」

 「宇宙空間の軍艦は、密閉空間だからな。連れ
  ては行けないさ」

 「それは理解できますが、なぜに私なのです?
  私はもう実戦部隊には・・・」

 「すまないと思っているが、あの面子を率いる
  のに、並みの司令官では言う事を聞いてくれ
  ないからな。それで、三年連続の一位を逃し
  たら、私は左遷されてしまうよ」

 「本音をありがとうございます」

 「私ももう少しで退役だし、孫もいるし察して
  くれないか」

 「わかりました」

そこまで、本音を言われてしまうと、俺は断りを
入れる事ができなくなっていた。


 「というわけでさ。来週の週末にしてくれない
  かな?」

今日は、明日の出発に備えて休んで良しと言われ
たので、俺は急いで帰宅して明日の準備を始める
と共に、週末の遊園地の予定を、来週に代えてく
れるようにサクラとヨシヒサに頼んでいた。

 「やだ!お父さんと約束したもん!」

 「したもん!」

 「それがさ、急にお仕事が入ってさ・・・」

 「今度の日曜日って約束したもん!」

 「したもん!」

 「だから、来週にね・・・」

俺は懸命に二人を説得していたが、二人は今週末
の日曜日に出かける事に拘っていた。

 「今度の日曜日は、本当に駄目なんだよ。ごめ
  んね」

 「お父さんなんて大嫌い!」

 「大嫌い!」

 「がはっ!」

サクラとヨシヒサの大嫌い発言で、俺は心に十億
飛んで八百七十五ポイントのダメージを食らった


 

 「ラクスぅーーー!聞いてくれよーーー!サク
  ラとヨシヒサが、俺を嫌いだって言うんだよ
  ぉーーー!」

昼下がりの妻の部屋で、私、ヨシヒロ・カザマ(
二十五歳)は、ラクスの膝に縋って真剣に泣いて
いた。

 「仕事だから、仕方がないではありませんか。
  あの子達も、もう少しすればわかってくれま
  すよ」

 「それじゃあ、遅いんだよぉーーー!」

 「次の週に連れて行くと、約束したのでしょう
  ?」

 「したけど、聞き入れて貰えなかったんだよぉ
  ーーー!」

 「あの子達にとっては、場所よりも今度の日曜
  日の方が重要なのですね」

 「それは不可能じゃないかぁーーー!くそぉー
  ーー!クルーゼ司令のバカ野郎ぉーーー!日
  頃は、殺しても死なない癖にぃーーー!」

 「病気だから、仕方がないではありませんか」

俺がラクスの膝の上で泣き続けていると、急に一
つのアイデアが浮かんできた。

 「ラクス。さっき、日にちが重要だって言って
  たよな」

 「あの子達は、お父さんとお出かけをしたいだ
  けなのです」 

 「という事は・・・・・・」

 「何か、良からぬ事をお考えですか?」

 「考えてる。こうなれば、責任はクルーゼ司令
  に取って貰うか」

俺は、久しぶりに悪魔のような微笑を浮かべるの
であった。


 「じゃあ、行ってくるよ。帰りは来週末になる
  だろうね」

 「お早いお帰りをお待ちしております」

 「お母さん、行ってきます」

 「行ってきます」

 「お母さんが何日もいないけど、大丈夫かな?
  」

 「うん。お父さんがいるもん」

 「大丈夫」

翌日の早朝、俺は久しぶりに教官の制服から白の
指揮官服に袖を通し荷物を持っていたが、その隣
には二人の子供達が、昔、お祝いで貰ったディフ
ォルメされたザフト軍の軍服に袖を通していた。
ちなみに、ヨシヒサは白の指揮官服で、サクラは
カナに貰ったピンクのミニスカートの付いた赤服
を着ている。

 「お父さん。どこに行くの?」

 「うーん。月とプラントの間くらいかな?」

 「宇宙だ!」

 「凄ーーーい!」

 「それで、ヨシヒサにお願いがあるんだよ」

 「なあに?」

 「暫く、(クルーゼ司令ゴッコ)をやって欲し
  いんだ」

 「クルーゼ司令?」

 「ミユキちゃんのお父さんだよ」

 「(仮面のおじちゃん)だね」

 「そうそう。だから、昨日髪を染めただろう」

俺は昨日の夜に、ヨシヒサの髪を黒から金髪に染
めていた。

 「そして、この仮面だ」

 「これで、(仮面のおじちゃん)だね」

 「お父さん、私は?」

 「サクラは、お父さんの隣でお手伝いを頼むね
  」

 「うん。わかった」

こうして、ラクスも黙認したザフト軍史上最大の
いたずらが始まろうとしていた。


 「クルーゼ司令はお休みで、カザマ君が代理か
  。なぜか心がホッとするな」

 「(黒い死神)の復活は良い事ですよ」

 「今回だけだけどな」

 「人気絶頂で引退したアイドルみたいですね」

今回の「リムパック77」に参加する、ザフト軍
艦隊の総司令官はユウキ総司令であったが、例の
集団模擬戦闘に参加する戦力の臨時司令官は、病
気入院中のクルーゼ司令に代わり、俺が勤める事
になっていた。
ちなみに、模擬戦を行う艦隊の旗艦は「ミネルバ
」であり、艦長兼副司令格のアーサーさんと、同
じく副司令格のアデス副司令が艦橋に詰めていた

 「でも、クルーゼ司令が、間に合うという噂が
  あるんですよ」

 「伝染病だからな。本人が良くても、それは駄
  目だろう」

 「じゃあ、どこからそんな話が・・・」

 「みんな、久しぶり!」

 「カザマ君!」

 「カザマ司令、久しぶりだな」

 「いやあ、今そこでクルーゼ司令にお会いして
  」

 「それは良かったって・・・。えっ!」

俺達が突然入ってきたので、最初は再会を喜んで
いただけなのだが、瞬時に俺の横に立っている、
二人の子供の存在に気が付いたようだ。

 「カザマ君、この子達は・・・?」

 「はい。ご挨拶」

 「こんにちは。ラウ・ル・クルーゼです。歳は
  ・・・」

 「三十!」

 「三歳です」

 「カザマ君、本気かね?」

 「クルーゼ司令は、直前で病気が治りましたが
  、モビルスーツでの出撃は困難です。そこで
  、私が現場に出ます」

白い指揮官服の子供服バージョンに身を包み、髪
を金髪に染め、仮面を付けたヨシヒサが挨拶をす
る中、俺はあくまでもクルーゼ司令の下につく事
を宣言する。

 「なぜに、こんなまわりくどい事を・・・?」

 「私に指揮官が代わってから、一位を逃したな
  んて言われたくないからです。あくまでも、
  責任はクルーゼ司令に取って貰います。ちな
  みに、軍本部も了承済みです」

俺は、任務を引き受ける代わりに一つの条件を呑
ませていた。
それは、あくまでも模擬戦部隊の司令官はクルー
ゼ司令であり、俺は助っ人に過ぎないという条件
であった。

 「ちなみに、この娘は副官扱いでお願いします
  」

 「こんにちは。サクラ・カザマです」

 「はい。こんにちは」

管制官を務めているメイリンが、すぐに現実を受
け入れてサクラとヨシヒサに挨拶をしていたが、
アーサーさんとアデス副司令は、唖然としている
様子であった。

 「この子達も、許可が出ているのかね?」

 「いいえ。知らないと思いますよ」

 「なら、なぜ・・・」

 「週末に遊園地に出かける約束を破ってしまっ
  たからです。なので、責任はクルーゼ司令に
  取って貰います」

俺は、「クルーゼ司令は、演習に参加している事
にします」というハッタリの許可を取ってはいた
が、二人の子供達をを軍艦に乗せている事などは
、一言も話していなかった。

 「本当にそれで行くのかね・・・?」

 「勿論です。さあ、クルーゼ司令。出発ですよ
  !」

 「うーんとねえ。全艦隊はっちん」

 「発進ですよ、クルーゼ司令。ほら、司令官の
  命令が出ましたよ」

 「カザマ君、本当に知らないからな」

 「責任は、クルーゼ司令が取ります」

 「そう考えると、気が楽だね」

アーサーさんは、あくまでものん気であったが、
アデス副司令は気が気でないようだ。

 「お父さん、喉が渇いた」

 「そうだね。食堂でジュースでも飲もうか?」

 「僕も行く!」

 「アデス副司令、あとの事は頼みましたよ」

俺は艦隊の出発後、二人を連れて食堂に向かうの
であった。

 「まあ。あの子の方が、マシかも知れないけど
  な・・・」

空席の司令官用のシートを眺めながら、アデス副
司令がボヤくが、それは誰の耳にも届かなかった


(同時刻、某病院の隔離病棟内の一室)

 「こんな事をしている場合ではない!早く、行
  かないと出発の時刻に・・・」

伝染病患者として隔離病棟に入院しているクルー
ゼ司令は、急いで部屋を出ようとするが、それを
ミサオさんとミユキちゃんに止められていた。

 「駄目!一度もかかった事がない人に、伝染す
  る可能性が高いからこの部屋から出るの禁止
  !しかも、政府の命令だから」

コロニーという密閉空間の中で、伝染病が流行る
と大変な事になってしまうので、これは仕方がな
い事であった。
それに、病気に掛かり難いコーディネーターでも
、進化の速いウィルスや病原菌に簡単に感染して
しまう事もあったからだ。
抵抗力が高いので、ナチュラルよりは感染率が低
かったが、0%というわけでもなかったのだ。

 「パパ、寝てないと駄目だよ」

 「ミユキ、パパは一年に一度の大切なお仕事が
  待っているんだよ。行かせてくれないかな?
  」

 「来年があるじゃない」

 「一年も待てないんだ。ああ、ムウとの決着が
  ・・・。ギナのバカ野郎との決着が・・・。
  最高のコーディネーター、キラ・ヤマトとの
  決着が・・・。その他、数多のエース達との
  戦いが・・・。これだけを楽しみにザフト軍
  にいるのに・・・」

 「相変わらず歪んでいるわね。相手が可哀想よ
  ・・・」

 「軍人さんって、大変なのね」

だが、クルーゼ司令は、公式には「リムパック7
7」に参加している事になっており、その事を本
人が知ったのは退院後の事であった。


 「クルーゼ司令、何を飲みますか?」

 「オレンジジュース」

 「サクラは?」

 「ピーチジュース」

二人の注文を受け、俺がトレイにジュースを載せ
ていると、休憩中の女性兵士達が、二人に話しか
けていた。

 「クルーゼ君はいくつなの?」

 「うーんとねえ。三歳だけど、今は三十三歳」

 「「「可愛いぃーーー!」」」

若い女性兵士達に交代で抱っこされているヨシヒ
サは、無邪気に彼女達の胸に飛び込んでいて、正
直代わって欲しいくらいであった。

 「サクラちゃんは髪が綺麗ね。お母さんと同じ
  色なんだ」

 「はい」

 「この服はお母さんが用意したのかな?」

 「はい。昔、お祝いに貰ったの」

 「女の子だから、しっかりしてるわね」

 「お父さんとお母さんは仲良しさんなの?」

 「いつも一緒に寝てる」

 「こらーーー!子供に夫婦の事を聞くんじゃな
  い!」

 「「「お久しぶりです。カザマ司令」」」

看護科、調理科、主計科などの、昔一緒に戦った
事のある女性兵士達が、俺に挨拶をしてくる。

 「カザマ司令、久しぶりですね」

 「びっくりしましたよ。ヨシヒサ君とサクラち
  ゃんがいるから」

 「あっ、メイリンお姉ちゃんとヴィーノお兄ち
  ゃんだ」

 「こんにちは。お兄ちゃんお姉ちゃん」

 「「こんにちは」」

更に、休憩時間になったメイリンとヴィーノが俺
達に話しかけてきた。

 「しかし、とんでもない事をしますね」

 「俺はザフト軍での経歴が、半分終わっている
  男だからな」

 「そんな事はないと思うんですけど」

 「あと五年だ。そこまで奉公したら会社を興す
  。目標は楠木重工とマッケンジー財団を子会
  社化する事だな」

 「無茶を言いますね・・・」

 「冗談だよ。生活できればそれでいいさ」

 「クルーゼ君、チョコレート食べる?」

 「うん」

 「クッキー食べる?」

 「うん」

 「こんな可愛いクルーゼ司令なら大歓迎よね」

 「オジちゃん。ありがとう」

 「どういたしまして」

自称クルーゼ司令は、女性兵士達にお菓子を貰っ
ていて、サクラも厳つい顔の料理長にホットケー
キを焼いて貰っていた。

 「まあ、一週間後のお楽しみって事でね」

こうして、ユウキ総司令指揮の「リムパック77
」参加艦隊は、予定宙域までの航行を続けるので
あった。


(同時刻、演習予定宙域近辺)

大西洋連邦軍は自軍の勝利のために、早めに宙域
に到着して訓練を続けていた。
別に、早くきて練習してはいけないと、ルールに
書いてあるわけでもないので、フラガ大佐の意見
を取り入れて、早めに練習を行っていたのだ。

 「モーデル大尉は相変わらずだな!」

「アークエンジェル」旗艦の部隊と「ミカエル」
旗艦の部隊が紅白戦を行っていて、前者のモビル
スーツ隊の指揮をフラガ大佐が、後者の指揮をレ
ナ中佐とモーデル大尉が執っていた。
フラガ大佐は「クライシス」の改良機である、「
ピースメーカー」を操って、「ミカエル」のモビ
ルスーツ部隊を統括しているモーデル大尉に攻撃
を仕掛けていた。
「ピースメーカー」は、「クライシス改」では名
前がまずいという意見で付けられた名前であった
が、昔、ジブリールが、実験部隊の兵士達と新型
モビルスーツを運用していた船も「ピースメーカ
ー」であった事から、反対意見も多かったのだが
、名前がネタ切れに近いという理由で、それは強
引に押さえつけられたようだ。
彼は自分も部下達もフラガ大佐に近寄らせず、そ
の攻撃を柳のようにかわし続けて、フラガ大佐達
と「アークエンジェル」との距離を離していった

 「フラガ大佐!戻ってください!(アークエン
  ジェル)がレナ中佐達に攻撃を受けています
  !」

 「何てこったい!わかってて、この結果か!」

 「モーデル大尉だけなら、母艦に攻撃はされな
  かったのですが、レナ中佐と組んでいますか
  らね。やってくれますよ」

 「一旦、引き揚げだ!」

だが、フラガ大佐達が引き揚げようとすると、今
度は後ろからちょっかいを出してきて、引き揚げ
るのも困難な状況になってしまう。

 「ちょこまかと、しつこいな!今度こそ撃破を
  !」

再び、フラガ大佐がモーデル隊を標的にすると、
彼らは距離を置いて、こちらの攻撃をのらりくら
りとかわしてしまう。

 「ちくしょうが!」

フラガ大佐は、「ピースメーカーβハイドラグー
ン仕様供廚謀觝椶気譴討い襦⊇銃鶸陲離魯ぅ疋
グーンで攻撃を仕掛けるが、モーデル大尉の部下
達の一部にも、ハイドラグーン搭載タイプが存在
していたので、彼らが三機ほどでフラガ大佐のハ
イドラグーンの動きをけん制していた。

 「昔ほど高性能の武器でもなくなったな!ハイ
  ドラグーンは!」

ビームライフルで一機の敵機を落としながら、フ
ラガ大佐が昔を懐かしんでいた。
量子通信システムの改良が進み、空間認識能力の
低いパイロットでもハイドラグーンを使用できる
ようになった結果、各軍のモビルスーツ部隊の一
定数に、この装備を付けた機体が配備され、遠距
離から一方的に敵を減らす事が不可能になってい
た。
更に、ビーム刃を展開させて自動操縦で敵のハイ
ドラグーンを落とす対ハイドラグーン兵器や、広
範囲にビーム粒子弾を飛ばす拡散ビーム砲など、
矛と盾の進歩は依然として止まっていなかった。

 「フラガ大佐、(アークエンジェル)撃沈です
  」

 「やられたな!」

 「手強かったですね」

 「まんまと乗せられてしまったな。モーデル大
  尉が主力を引き付け、その間にレナ中佐が旗
  艦を落とすか。こちらの攻撃は、守勢一本で
  防ぐという事だな」

 「モーデル大尉は、意外とやりますね」

 「攻撃は苦手だけど、守備や撤退は得意で部下
  の統率が上手いか。あまり評価はされないタ
  イプのパイロットだが、侮れない男だよな」

 「それに、レナ中佐を嫁に貰うんですから、あ
  る意味最強の男ですね」

 「それは言えているな」

 「聞こえたわよ!フラガ大佐」

 「あれ?聞こえてた?」

演習が終わり、バジルール准将の命令で各部隊が
集結しつつある状況で、フラガ大佐の発言がレナ
中佐に拾われてしまったようだ。 

 「まあ、どうでも良い事だけど」

 「どうしたんだ?えらく優しいな」

 「私は昔から優しいのよ」

 「新婚さんだからな」

 「それもあるから、三十%増しで優しいわよ」

 「でも、結婚したなら式に呼んでくれよ」

 「ごめんね。二人だけで式を挙げたから。この
  演習が終わったらパーティーを開くから、そ
  の時にお祝いを持ってきてね」

 「何か調子狂いますね」

 「そうだな・・・」

部下の的確な指摘に、フラガ大佐も賛同するので
あった。


(十一月初旬、「リムパック77」開催前日)

 「各国の軍の面子がかかっている、重要な(リ
  ムパック77)を前日に控えている事を再確
  認し、各員が奮闘する事を大いに期待したと
  思う。それでは、最大の山場であり、三年連
  続一位がかかっている集団模擬戦に参加する
  各部隊を代表して、カザマ司令官補佐にお言
  葉を貰いたいと思う」

「リムパック77」の前日、予定邂逅宙域の近く
でザフト軍の参加将兵の主だった者達が、総旗艦
「フューチャー」で最後の打ち合わせを行ってい
たのだが、クルーゼ司令はいる事にはなっていて
も、実際には存在しないし、ジョークでゴッコを
やらせている、ヨシヒサを出させるわけにはいか
ないので、俺が司令官補佐という変則的な立場で
参加していた。


 「今回も最強のメンバーを集めています。敵が
  よほどの強化を行わない限りは、勝利は可能
  だと思います。最強の敵は、油断という自分
  達の中に存在するものだけです」

俺の非常に抽象的ながらも、薀蓄を含んだ発言に
ユウキ総司令は、感心したような表情をしていた
が、シン、ルナマリア、レイ、ハイネ、ステラ、
ミゲル、イザーク、ディアッカは、何とも言えな
い表情で俺を見つめていた。
この五日間、訓練の過程でヨシヒサとサクラの事
が彼らに知られていたので、ユウキ総司令に漏れ
ていないのか、心配であるようなのだ。
ちなみに、グリアノス司令は歴戦の勇士なので、
涼しい顔をしている。

 「そうか。さすがは、カザマ司令というところ
  かな。それで、一つ聞きたい事があるのだが
  ・・・」

今までは、俺の言葉を普通に聞いていたユウキ総
司令が、急に神妙な面持ちになって俺に質問をし
てくる。

 「何でしょう?」

 「実は、(ミネルバ)に子供が乗っているとい
  う噂があるのだが・・・」

 「悪質なデマですね」

俺は、「ミネルバ」に来たシン達に内緒にしてお
くように頼んでいたが、元々期待していなったの
で、既にバレている事を前提にして、シラを通す
事にしていた。
航行中の軍艦は娯楽に欠けるので、この手の内緒
話はすぐに広がってしまうからだ。

 「クルーゼ司令を名乗っていて、小さい子供に
  見えるそうなのだが・・・」

 「病気でやつれて、少し小さく見えるのでしょ
  う」

クルーゼ司令がここにいない事は周知の事実だが
、その事を公言する事は出来ないので、このよう
な白々しい言い訳を言っているのだ。   

 「もう一人いて、ピンクの髪で赤服とミニスカ
  ート姿らしいのだが・・・」

 「うちの艦に報告に来た、ルナマリアを見間違
  えたのでは?」

 「その君の言うルナマリア君も、小さかったそ
  うなのだが・・・」

 「着痩せするのですよ」

 「そうか、気のせいなのか・・・」

ユウキ総司令のその一言で、この件に対する黙認
が決定したので、事情を知る全員が安堵の表情を
浮かべていた。


 「ただ今戻りました。クルーゼ司令」

 「うん。ごくろうさん」

 「ごくろうさん」

会議を終えて「ミネルバ」に戻ると、ヨシヒサと
サクラは司令官室でぬり絵に勤しんでいて、机の
上には、ヨシヒサは女性兵士達に、サクラはオジ
さんの兵士達に貰ったジュースやお菓子が沢山置
かれていた。

 「へえ。凄い人気だな」

 「おい!カザマ!ヒヤヒヤさせるんじゃねえよ
  !」

 「心臓が止まるかと思ったぞ!」

急に司令官室のドアが開き、中にミゲルとハイネ
が入ってくる。

 「演習部隊の司令官殿の部屋に入るのに、ノッ
  クなしってのは・・・」

 「アホか!いつまで、その猿芝居をやっている
  んだよ!」

 「俺達を共犯者にしやがって!」

 「お父さん、ミゲルのオジちゃんと、ハイネの
  オジちゃんは何を怒っているの?」

ヨシヒサはマイペースなので、二人の怒鳴り声も
気にしないで、塗り終わったぬり絵を眺めながら
、貰ったお菓子を食べていたが、サクラは二人が
何を怒っているのかを俺に聞いてくる。

 「さあ?お父さんにも、わからないや」

 「ふーん」

 「俺、まだ独身なのに、オジさんなのか・・・
  」

 「二十五歳で既にオジさんか・・・。確かに、
  子供はいるけどさ・・・」

ハイネとミゲルはさっきまでの勢いを喪失して、
がっくりとうな垂れてしまっている。

 「ヨシヒロさん、ユウキ総司令が黙認しました
  ね」

 「ここで抜けられると困るからでしょう?」

更に、「ボルテール」からシンとルナマリアが駆
けつけてきて、部屋に入ってくる。

 「クルーゼがいた事にした方が、向こうに警戒
  心を抱かせるからな。出撃しなければ、(い
  つ出てくるのだろう?)と疑心暗鬼を抱かせ
  る事が出来るわけだし」

 「なるほど。そういう事ですか」

 「ヨシさん、勘弁してくださいよ」

 「おっ!二人とも良い子にしてたか?」

 「二人とも元気?」

続いて、グリアノス司令、レイ、イザーク、ディ
アッカ、ステラが入室してくる。

 「グリアノスのオジちゃん、こんにちは」

 「こんにちは」

 「はい。こんにちは」

 「オジちゃんで構わないのですか?」

 「仕方がないだろう。現実問題としてオジさん
  なんだから」

 「悟りきってますね」

ミゲルは、オジちゃんと呼ばれてもショックを受
けていないグリアノス司令に感心していた。

 「ステラお姉ちゃんだーーー」

 「お姉ちゃんだ」

二人は、若いステラを叔母さんとは呼ばずに、お
姉ちゃんと呼んでいて、特にヨシヒサはステラが
お気に入りの様子であった。
彼はステラに抱っこされて、幸せそうな笑みを浮
かべながらその豊かな胸に顔を埋めていた。

 「「(うーん。羨ましい。三歳児に戻りたい)
  」」

悲しい事に、俺とハイネの心の声が一致する中、
シン、レイはお兄ちゃんで、ルナマリア、ステラ
がお姉ちゃんと呼ばれているのに対し、イザーク
とディアッカは、オジちゃんと呼ばれて大きなシ
ョックを受けていた。

 「そんな・・・。俺はまだ二十三歳なのに・・
  ・」

 「グゥレイトな衝撃だぜ・・・」

 「二十歳以上は、オジちゃんなんだろう」

 「ヨシさんは、どうなんです?」

 「お父さんが、オジちゃん呼ばわりされたらシ
  ョックだろうが」

 「そういうものなのですか?」

 「そういうものなんだよ」

 「こんな状態で勝利できるのだろうか・・・?
  」

レイの疑問に答えてくれる人は、誰一人として存
在しなかった。


(「リムパック77」当日、実施宙域内)

遂に、今年度の新国連軍参加国合同軍事演習「リ
ムパック77」が開催された。
この演習は、各国の宇宙軍が日頃の訓練の成果を
見せると共に、エミリア達のような不穏な反体制
勢力を威圧する事を目的に開催されていて、各国
の艦隊毎に、艦隊機動やモビルスーツ隊の編隊飛
行などが行われ、最後の締めとして、集団模擬戦
闘演習が開催される事となっていた。


 「これって、トーナメント形式なんだ」

 「カザマ君、何も知らないんだね」

 「教官でしたから」

 「ザフト軍、大西洋連邦軍、オーブ軍、極東連
  合軍、中華連邦共和国軍、ユーラシア連合軍
  、スカンジナビア王国軍、赤道連合・大洋州
  連合共同軍、アフリカ共同体・イスラム連合
  共同軍の九ヵ国軍が参加するわけだ」

 「南アメリカ合衆国軍は?」

 「あそこは、宇宙軍を作る余裕なんてないから
  な」

 「赤道連合と大洋州連合は合同で、アフリカ共
  同体とイスラム連合も合同軍で参加か」

 「まだ、コロニー計画が始動したばかりで、宇
  宙軍が貧弱だからな。一国じゃ参加できない
  けど、参加はしたい。そこで、共同軍を作っ
  たというわけだ」

 「ユーラシア連合軍と中華連邦軍は、成績がい
  まいちみたいですね」

 「あの内乱の影響をいまだに引きずっているか
  らな。特に、中華連邦共和国軍は、L4宙域
  に放置されていたコロニー数基を修理して、
  移民を開始したばかりにしか過ぎないからな
  。モビルスーツも、近衛師団の連中をこの時
  期だけ宇宙にあげているそうだ。当然、宇宙
  に慣れていないから弱いわけだ」

 「なるほど」

中華連邦共和国では、いまだに内戦が続いていて
、北部の三軍閥の睨み合いが続いていた。
ここ一年ほどは、戦闘はほとんど起こっていない
そうだが、国境沿いでの睨み合いは続いていて、
劉大統領もその対応に苦慮しているようであった

連中に対応する兵力を常に展開させておくだけで
、多額の軍事予算が消えてしまうからだ。
その厳しい予算の中で、演習に参加できるだけの
戦力を宇宙にあげているのだ。
その懐は、相当に厳しいはずである。

 「演習に参加しなければ良いのに」

 「中国人はプライドが高いからな。参加出来な
  いイコール二流国に転落だと思っているんだ
  ろうさ」

 「劉大統領は合理主義者だから、本当は参加し
  たくないと思っていますよ。でも、国の意思
  ってものもありますからね」

 「私は軍人で良かったよ」

 「本当ですね」

 「まったく、その通りですね」

こうして、今年度の集団模擬線が開始されるので
あった。


 「まさか!(黒い死神)が復活するとは・・・
  」

トーナメントの最初の組み合わせにより、ザフト
軍は赤道連合・大洋州連合共同軍との模擬戦を開
始していたが、開始後、一時間もしないうちに赤
道連合・大洋州連合軍は危機に陥っていた。

 「クルーゼはどうした?」

 「旗艦(ミネルバ)にいるそうです」

 「自分が出るまでもないのか・・・」

先の大戦時にザフト軍に鹵獲されて供与されたネ
ルソン級戦艦「スカルノ」を旗艦とし、エミリア
の事件の時に、新国連軍ヨーロッパ派遣軍主席参
謀を勤めていた、スハルト大佐が指揮する部隊は
全滅の危機を迎えていた。
彼は優秀な男なので、ありとあらえる対策を取っ
ていたのだが、敵の攻勢がそれを上回っていたよ
うだ。

 「左肩だけ赤い黒い(R−ジン供法ΑΑΑカ
  ザマ副総司令、聞いてませんよ」

スハルト大佐がそう呟いた瞬間、一機の「R−ジ
ン供廚、「スカルノ」の艦橋にビームライフル
を向けて、模擬戦は終了するのであった。


 「まずは一勝だな」

 「腕は落ちていないようだな」

「ミネルバ」の格納庫で自分の「R−ジン供廚
眺めていると、同じく「R−ジン供廚ら降りて
きたグリアノス司令が話しかけてくる。

 「(ボルテール)に戻らなくて良いのですか?
  」

 「あそこはシンの坊主が隊長だからな。俺がい
  るとやり難いだろう。それに、演習に(ゴン
  ドワナ)が参加していない以上、俺はどこに
  行ってもお客様なわけだ」

毎年「リムパック」演習が近づくと、グリアノス
司令は無任所司令として、ザフト軍の勝利のため
に、好き勝手に色々な艦を移動する事が恒例にな
っていた。

 「よその結果は、どうなんでしょうね?」

 「今回はトーナメント運が良かったらしくて、
  準決勝は中華連邦共和国軍だってさ」

中華連邦共和国軍は、ユーラシア連合軍を僅差で
下していて、初めての準決勝進出を果たしたらし
い。

 「油断は禁物ですけどね」

 「まあ、そうんなんだろうけどな」

 「お父さん、格好良かったよ」

 「お父さん、凄い!」

 「ありがとうな。二人とも」

 「俺も、息子に見せてあげたいよな」

俺達は次の対決に備えて、暫しの休憩に入るので
あった。


 「ぬは!キラの奴!反則的に強すぎだ!」

 「相羽、いきなりやられてるんじゃねえよ!」

ザフト軍とは反対側のブロックで、オーブ軍と極
東連合軍がいきなり対戦するという事態になって
いたが、特攻をかける「暁改」に立ち向かった相
羽二佐の「ハヤテ供廚、わずか数分で撃破され
るというアクシデントに見舞われていた。

 「ジェーコフ一佐、増援をくれ」

 「そんな物ねえよ!相羽のバカは後で始末書だ
  !遠巻きに取り巻いて正面から戦うなとあれ
  だけ釘を刺したのに!」

樺太防衛戦で降伏し、極東連合軍に編入されたジ
ェーコフ少佐は、ユーラシアでの内乱では、日本
の地上基地勤務であったが、その優秀さと、意外
と日本人に馴染みやすいという長所で順調に出世
していて、この演習部隊の参謀長を務めていた。

 「石原一佐、元気してたか?」

 「ホー二佐か・・・・・・」

 「我が拳の餌食となれ!」

 「どちくしょう!」

こうして、二人の凄腕指揮官を抑えられてしまっ
た極東連合軍は、またオーブ軍に敗北してしまう
のであった。

 「オーブ軍が決勝まで行けば、敗者復活戦があ
  るから三位が狙えるぞ」

 「変なルールだよな」

 「オリンピックの柔道みたいだ」

だが、石原一佐と相羽二佐の願いは叶えられる事
は今年度はなかった。


 「相変わらず、ピンクのモビルスーツか。恥ず
  かしい連中だよな」

準決勝第一試合が始まり、俺はザフト軍を率いて
中華連邦共和軍との戦闘を開始していた。

 「二対一に持ち込んで、どんどん落とせよ!」

 「「「了解です!」」」

俺の指示でザフト軍がどんどん優勢になっていく
が、急に無線にシンの声が入ってくる。

 「すいません。やられてしまいました」

 「はっ?」

 「俺もです」

 「ディアッカもか?」

俺は驚いてしまった。
確かに、整備と補給に手間のかかる「ディスティ
ニー」と「ケンプファー」から「R−ジン供廚
乗り換えたとはいえ、シンやディアッカを落とせ
る男が、世界中にそう多くいるとは思えなかった
からだ。

 「ふふふ。久しぶりだな。カザマ」

 「えーと、誰?」

 「ふざけるな!俺だ!最高の傭兵ムラクモ・ガ
  イだよ!」

 「営業課長、何をしているんだい?」 

 「これも、販路拡大のためだ。ここで、お前を
  倒せば更に・・・」

 「そんな理由で俺を討つのかい!」

 「たかが模擬戦だ!悪く思うなよ」

ガイは予想通りに、ピンク色の「グフ」を操りな
がら、俺に戦いを挑んでくる。

 「受けてやるさ!グリアノス司令!あとは頼み
  ます」

 「任せろよ。本当は俺が戦ってみたいんだけど
  ・・・」

 「ガイの目的は俺ですからね」

 「言えてる」

俺はグリアノス司令と短い通信を交わした後、ガ
イの搭乗している「グフ」と戦闘を開始した。

 「相変わらず恥ずかしい色のモビルスーツだな
  。笑わせて油断させているのか?」

 「誰のせいだと思っているんだ!俺のクールな
  傭兵だった過去を返しやがれ!」

 「もう関係ないじゃないか」

 「俺をサラリーマンにしたのは、お前の嫁だろ
  うが!」

 「良い事だと思うよ。風花ちゃんを悲しませな
  いためにも」

 「そういう事を言ってるんじゃねえ!」

俺とガイが、ハイレベルな戦いをしている間に、
ガイの「グフ」の通信機に部下からの連絡が入っ
てくる。

 「ガイ少将、旗艦(朱元璋)が撃沈です」

 「しまったぁーーー!」

 「ほら、俺だけに集中し過ぎるから」

 「こうなれば!お前だけは倒す!」

 「えっ!ちょっと!」

その後、エネルギー切れ寸前まで一騎討ちをして
いた俺達は、またお互いのコックピットをビーム
サーベルで突き合うという、いつもと変わらない
結末を迎えるのであった。


 「お父さん、ガイのオジちゃん強いね」

 「ああ。無駄に強いんだ」

 「でも、今はサラリーマンなんだろう?」

 「ええ。そうですよ」

決勝進出が決まり、食堂で子供達とグリアノス司
令で昼食を取っていると、部下のパイロットが駆
け込んでくる。

 「決勝の相手が決まりました!」

 「どうせ、オーブ軍だろう。俺がキラを抑える
  から、グリアノス司令がアスランを・・・」

 「違います!相手は大西洋連邦軍です!」

 「はっ?アスラン達が負けたのか?同じ戦力で
  ?」

 「俺もどういう事か事情が知りたいな」

詳しい状況を部下に聞くと、部下の統率が巧みな
男が一人存在していて、アスラン達とギナ中将達
は、バラバラにされて防御一辺倒の体勢を敵に取
られてしまい、その隙に少数ながらも、精鋭部隊
を率いるレナ中佐の部隊に「アマテラス」を落と
されてしまったようだ。

 「侮りがたい敵だな」

 「その指揮官の名前は?」

 「フレデリック・モーデル大尉。(乱れ桜)の
  旦那です」

 「その一点で侮り難しだな」

 「本当ですね」

 「確かにそうだな・・・」

 「勇気あるよな」

 「俺にはとても真似できん」

 「さすがに、こればっかりはな・・・」

いつの間にか現れていた、ハイネ、ミゲル、シン
、レイ、イザーク、ディアッカが未知の敵である
モーデル大尉に対する畏敬の念を深めていた。


 「はっくしょい!」

 「どうかしましたか?レナ中佐」

 「二人きりの時は、名前だけで呼んで」

 「そうだったね。レナ」

 「それで良し」

モビルスーツの整備を終え、ミーティングも終了
させたレナ中佐とモーデル大尉は、「ミカエル」
の自室内で束の間の休憩時間を楽しんでいた。

 「でも、キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。恐る
  べき腕前のパイロット達だね」

 「あなたは押さえ込んだじゃないの」

 「かなりの部下を犠牲にしたし、まともに戦わ
  なかっただけだよ。正面に出たら、瞬殺され
  てしまうからね」

 「だって、カザマ君がもう勝てないって言うの
  よ。私達では、どうにもならないわ」

 「そのカザマ司令が出てくるんだろう?決勝で
  は」 

 「そうよ。彼が一番の難敵だわ。彼はあなたと
  同じ戦法が取れるし、個人的な技量も優れて
  いるから・・・」

 「そいつは困ったね。でも、手がないわけでも
  ない」

 「どういう手なの?」 

 「クルーゼ司令が(ミネルバ)にいると言うが
  、それは嘘だな。実際には、カザマ司令が代
  理で戦っているのだろう。そこで、フラガ
  大佐にお願いして、彼と戦って貰う事にする
  。残りの連中の対策は既に立てているから」

 「本当は、あなたが全ての指揮を執ればいいの
  に・・・。フラガ大佐がそれでも構わないっ
  て・・・」

 「軍は階級が全て。それに、僕は一度も敵機を
  落とした事がないし、レナ教官殿には、駄目
  生徒だと思われていたし」

レナ中佐が教官をしていた頃に、始めて出会った
モーデル大尉は、不思議な生徒であった。
運動神経も反射神経も一流で、モビルスーツの操
作にも直ぐに慣れたのだが、敵を攻撃する事が苦
手で、攻勢に出ると訓練でもすぐに落とされてし
まうのだ。
その癖、味方の攻撃と守備のフォローやフォーメ
ーションを組んだりする事が上手だったので、訓
練終了後は、凄腕の隊長が指揮する小隊の二番機
として各地を転戦していた。
戦果は未確認のモビルスーツが一機のみだが、列
機を落とさせた事がなく、自分も碌に損傷した事
もない。
それが、フレデリック・モーデル大尉であった。
そして、中隊以上の指揮を執らせると、損害率が
少なくて、技量の高い部下に戦果を上げやすくさ
せる男として有名で、それを買われて、月の訓練
施設に副教官長として就任して、レナ中佐と再会
を果たしたのであった。

 「でも、これで優勝すれば、あなたの出世にも
  繋がるわ。だから、頑張りましょう」

 「これで負けても二位だから、結構評価される
  と思うよ」

 「あなたは、欲がないのね。そういうところが
  好きだけど」

 「対戦は楽しみにしているんだ。どこを見渡し
  てもエースばかりの軍なんてそうそうないし
  」

 「言えてるわね」

 「さて、仕事の話は終わりで、結婚披露パーテ
  ィーの会場はどこにしたものかと・・・」

これが後に、大西洋連邦軍宇宙軍総司令官に就任
する、モーデル大将の若き日の姿であった。


 「戦闘開始!」

午後になり、ザフト軍と大西洋連邦軍の決勝戦が
開始された。
その前に、三位決定戦が行われており、三位がオ
ーブ軍で四位は中華連邦共和国軍という意外な結
果に終わっていた。
これは、営業活動の一環として、臨時に少将とし
て編入されていたガイの活躍が大きいと思われ、
彼は大量の注文と臨時ボーナスを手にしたものと
思われた。

 「グリアノス司令!(ミネルバ)を死守して下
  さい。絶対に(乱れ桜)が出てきますよ」

 「だろうな。それで、旦那の対策はどうするん
  だ?」

 「オーブ軍とは、エースの駒数が違いますから
  ね。飽和させてやるんですよ!」

 「それが出来ると良いがな!」

 「フラガ大佐か!」

 「俺が一機でお前を抑える!それが作戦なのさ
  」

 「ペラペラと喋ってしまって大丈夫なのかい?
  」

 「大丈夫さ」

 「(駄目だ!俺では時間内に倒せない!だが、
  これも想定済みだ)」

俺とフラガ大佐は、数年ぶりに一騎討ちを開始す
るのであった。


 「カザマ司令は、フラガ大佐が抑えているし、
  シン・アスカ、(赤い大虎)、レイ・デュラ
  ンダル、ステラ・カザマ、(黄昏の魔弾)、
  (オレンジハイネ)、イザーク・ジュール、
  ディアッカ・エルスマンも上手くバラバラに
  出来た。だけど、少しでも指示を間違えたら
  、瞬時に壊滅してしまうな。気を付けないと
  」

モーデル大尉は、自身の頭をフル回転させて味方
への指示を細かく送っていたが、やはり、予想以
上のエースの多さに、自分の周りには、二機の護
衛の「ピースメーカー」があるのみであった。

 「ですが、クルーゼの出撃は確認できていませ
  ん。奴が一番危険です」

 「大丈夫だ。奴は出て来ない・・・」

 「大変です!クルーゼの乗機である、(R−ジ
  ンレジェンド)が(ミネルバ)から発進中で
  す。こちらの旗艦である(アークエンジェル
  )を目指しています」

ちなみに、「R−ジンレジェンド」とは、「R−
ジン」の後部に「レジェンド」の背中の部分を移
植しただけの代物であり、一号機をクルーゼ司令
が、二号機をレイが使用していた。

 「そんなバカな!」

 「事実です」

 「仕方がない。各部隊から少数ずつ戦力を抜い
  て・・・」

 「それは支えきれません!」

 「短時間でクルーゼ司令を・・・」

 「無理です!」

 「とにかく、対応させるんだ!そうしないと、
  (アークエンジェル)が落とされるぞ!」

予想外のクルーゼ司令の登場に、モーデル大尉は
、珍しく動揺していた。


 「(R−ジンレジェンド)を発見!ですが・・
  ・」

十五機ほどの「ピースメーカ」が、「R−ジンレ
ジェンド」を発見するが、その姿に全員が首を傾
げてしまった。
何しろ、飛ぶのがやっとの状態らしく、フラフラ
と飛行していたからだ。

 「どういう事だ?」

 「病気だったと聞いている。だからだろう。こ
  のチャンスを逃すな!」

 「「「了解!」」」

隊長の指示で全機が一斉にビームライフルで射撃
すると、「R−ジンレジェンド」はあっけなく落
ちてしまう。

 「何でこんなに弱いんだ?」

 「さあ?」

「ピースメーカー」隊のパイロット達が、再度首
を傾げていると、無線にこんな声が入ってくる。

 「カザマ君、やっぱり駄目だったよ。数年ぶり
  にモビルスーツに乗ったけど、どうにもなら
  ないね。これは」

 「OSを書き換えたんですけどね」

 「それでも、飛ばすのがやっとだね」

 「そうですか」

 「ちくしょう!騙された!」

 「モーデル大尉から連絡です。全軍が崩壊の危
  機にあるそうです」

 「やっぱりそうか!我々は、クルーゼの影にし
  てやられたのか!」

均衡状態のところから、少数でも戦力を引き抜い
た影響はすぐに現れ、大西洋連邦軍のモビルスー
ツ隊の損害が徐々に増えていき、足止め状態を抜
け出して、「アークエンジェル」に向かう敵の数
は増えていった。


 「カザマ、卑怯だぞ!」

 「あれは元々登録されているモビルスーツだか
  ら、ルール違反じゃないよ。いままでは一機
  少ない戦力で戦っていたんだよ」

 「そんな細かい数を数えるかーーー!」


 「お嬢さん、なかなかやるじゃないか」

 「あなたこそね」

 「でも、まだ俺には勝てない!」

「ミネルバ」に少数の部隊で攻撃をしかけたレナ
中佐の部隊は、グリアノス司令の直衛部隊に足を
止められたうえに、急激にその数を減らしつつあ
った。

 「さあ。あとはお嬢さん一人だ」

 「さすがは、(戦う類人猿)グリアノス・エデ
  ィン」

 「それを誰に聞いた?」

 「カザマ君よ」

 「あとでぶっ殺す!」

 「あらら」

そして、その数分後に、レナ中佐も討たれてしま
うのであった。


 「最初は結構良かったんだけどな・・・」

モーデル大尉は、残った戦力を懸命に再配置して
「アークエンジェル」を守っていたが、それは臨
終の時間を延ばしているのに過ぎなかった。

 「実戦なら上手く撤退するんだけど、これは模
  擬戦だからね」

更に、モビルスーツ隊の数が減っていくなか、遂
に「アークエンジェル」がレイ・デュランダルの
「R−ジンレジェンド二号機」に討たれたという
報告が入ってくる。

 「負けちゃったけど、来年があるからいいか」

それでも、去年より順位をあげる事に成功したの
で、モーデル大尉はご機嫌であった。


 「三年連続一位か。良かった良かった」

「ミネルバ」艦内でこの模擬戦の総括を行ってい
ると、イザークがこんな事を言い始める。

 「でも、クルーゼ司令の功績になりますね。今
  回の事は」

 「でも、俺が頑張って・・・」

 「形式上でも、クルーゼ司令が指揮を執ってい
  た事になっていますから・・・」

 「そう言えばそうだ・・・」

俺は万が一の事を考えて保険をかけていたのだが
、それが裏目に出てしまう結果になってしまった

やはり、クルーゼ司令の強運は相変わらずのよう
だ。

 「素直に司令官になれば良かったのに」

 「負けでもしたら嫌だったからさ」

少しガッカリしながら、イザーク達の話を聞いて
いると、遠くからゴリラの雄たけびが聞こえてき
た。

 「おい!カザマ!誰が類人猿だって?」

 「あれ?何の事かな?」

 「(乱れ桜)から聞いたぞ!」

 「俺だって証拠はありますか?」

 「念のためにみんなに聞いてみたら、全員がお
  前が広げていると言っていたぞ!」

 「おかしいな?俺を陥れる陰謀ですよ。それは
  」

 「言い訳はゆっくりと聞いてやる。とにかく、
  俺の部屋に来るんだな」

 「ちょっと待って・・・」

 「待てないな!」

 「助けてくれーーー!」

俺は、グリアノス司令に自室に引きずり込まれて
しまうのであった。


 「何ですか?この書類の量は・・・?」

 「俺も一応司令だからさ。色々あるんだよ。そ
  れに、みんなから集めてきてさ」

 「何でそんな事を?」

 「俺は類人猿だから、頼みを断る知能がなくて
  な。それに、処理する知能もないからカザマ
  に任せようと思って」

 「そうきましたか・・・」

 「頼んだぞ」

 「とほほ・・・・・・」

こうして、「リムパック77」は無事に終了し、
ザフト軍は集団模擬戦で三年連続一位を取得する
のであったが、この記録は七年後にクルーゼ司令
が、脱腸になって入院した事が原因になって破ら
れてしまうのであった。
ちなみに、この頃には俺はザフト軍にいなかった
ので、代わりを頼まれる事がなかったのであった


(同時刻、大西洋連邦軍参加艦隊旗艦「メラネオ
 ス」艦内)

 「モーデル大尉、いや少佐よくやってくれたな
  」

集団模擬戦の成績が、万年三位から二位に上がっ
てハルバートン中将はご機嫌であった。
そして、その功労者であるモーデル大尉は、ハル
バートン中将の権限で少佐に昇進する事が決まっ
ていた。

 「(ミカエル)のモビルスーツ隊の事は引き続
  き頼むが、フラガ大佐の補佐に入ってくれ」

 「了解しました」

 「彼は個人的な技量が優れすぎていて、部隊を
  統率する時にムラが出る事がある。頭では自
  分の部下がどの位の事が出来るのかを理解し
  ているが、体では理解していない部分がある
  からな。勿論、彼は優秀な指揮官ではあるの
  で、君が補佐をして欲しいのだ。バジルール
  准将が、君を直前で引き抜いて正解だったと
  喜んでいたぞ」

 「ありがとうございます」

 「では、暫しの休息を」

 「失礼します」

モーデル少佐が司令室を辞すると、外ではレナ中
佐が待ち構えていた。

 「あなた、どうだったの?」

 「少佐に昇進した」

 「よかったわね。今度のパーティーは、昇進祝
  いも兼ねて行いましょうよ」

 「でも、カザマ司令には、負けてしまったね。
  三歳も年下なのに大した男だな」

 「あなたも中々のものだと思うけど」

 「ガチガチのセオリー通りの戦法を使うと思っ
  たら、急にあのような奇策も使う。正直恐る
  べき男だ。レナが惚れていただけの事はある
  な」

 「まあね。でも、今は旦那様の方が良いわ。あ
  なたの方がイケメンでもあるし。それにね、
  あなたの戦法で正解なのよ。大西洋連邦軍は
  数を揃えられるから、あなたの戦法で戦えば
  負けはしないわ。今日は同数だったから、戦
  力の配置が大変だったんでしょう」 

 「そうだね。でも、来年こそはと思う事にする
  さ。現にオーブ軍は倒せたわけだから。実戦
  ではどうなるかわからないけど」

 「じゃあ。(ミカエル)に帰りましょう」

 「そうだね。メイリア中佐」

 「モーデル中佐よ。夫婦別姓は使わないから」

 「でしたでした」

二人は仲良く腕を組みながら、「ミカエル」に帰
艦するのであった。


(数日後、クライン邸内)

 「サクラ、ヨシヒサ楽しかったですか?」

 「うん。沢山のお船とロボットさんがいたの」

 「お姉さんがお菓子をくれた」

 「良かったですわね」

クライン邸に帰宅後、サクラとヨシヒサはラクス
と楽しそうに話していた。

 「ヨシヒサ、メールを送っているのですか?」

 「うん。お姉さんがアドレスをくれた」

ヨシヒサは十数人の女性軍人達からメールのアド
レスを教えて貰ったようで、その返信に大忙しの
ようだ。
そして、サクラは数日前の出来事を思い出しなが
ら、絵日記を書いているようだ。

 「お父さんは、どうでしたか?」

 「うんとねえ。格好良かった。ビューンと飛ん
  でた」

 「黒いロボットさんだった」

 「来週は遊園地に行かないとね」

 「やったーーー!遊園地だ」

 「やったーーー!」

俺の遊園地に行くと言う言葉で、二人は大喜びを
している。
やはり、子供は演習よりも遊園地であろう。 

 「ヨシヒサ、誰にアドレスを貰ったんだ?」

俺が、ヨシヒサが親父から貰った携帯端末を覗き
込むと、そこには、かなり軍内で人気のある綺麗
なお姉さん達の名前が記載されていた。

 「ヨシヒサ、あとで俺にも教えてくれないかな
  ?」

俺は、小声でヨシヒサにお願いするのであったが
・・・。

 「ヨシヒロ、浮気は駄目ですよ」

 「ははは。すいませんでした」

こうして、俺は二人の子供達に嫌われずに済んだ
のであった。


         おまけ


 「一年に一度の楽しみが・・・」

 「来年まで我慢しなさいよ」

 「そうよ。パパ」

 「そうは言うがな。ミユキよ」

クルーゼ司令は、妻と五歳の娘に諭されて大人し
くなってしまったが、まだ完全に諦めがつかない
ようであった。

 「でも、あなたは公式には参加しているそうよ
  」

 「それが、納得いなかいような・・・」

 「良い部下じゃないの。カザマ君は」

 「たかるのを止めようかな」

 「それは駄目。うちの家計がそれを許さないわ
  」

 「ミサオが怪しい研究を止めれば、それで良い
  ような・・・」

 「医者兼科学者魂が疼き出してね。夢は特許王
  よ」

子育てが一段落して、ミサオは研究を独自に再開
したのだが、その勘は鈍りまくっていて、失敗作
のオンパレードであった。

 「大丈夫よ。(失敗は成功の母)って昔から言
  うじゃない。特許を取ってお金が入ったら、
  カザマ君に奢ってあげましょうね」

 「(無理だと思うのだが・・・・・・)」

 「(うちの両親って、どうしてこうなのかしら
  ?)」

だが、それを口に出さないまでにクルーゼ司令は
大人になっていたし、ミユキは五歳にしてかなり
の部分を悟っている様子であった。


         おまけ2

 「ガイ君、こんなに凄い量の注文をどうやって
  取ってきたの?」

 「ふっ、俺の実力を持ってすればな」

楠木重工プラント支社の支社長室でユリカに呼び
出されたガイは、自慢気に彼女の質問に答えるの
であった。

 「でもね。期限が短すぎよ。生産量がギリギリ
  だし、これからも注文は入るのよ」

 「勇み足でしたわね」

副支社長のエミにも同様の指摘をされてしまう。

 「何ぃーーー!」

 「でも、間に合わないわけじゃないし」

 「これで三か月分のノルマは達成しているわけ
  ですから」

 「「ガイ君は、責任を取って工場勤務ね」」

 「がはっ!」

 「上手く期限に間に合ったら、特別ボーナスを
  出すからさ」

 「頑張ってくださいね」

こうして、ムラクモ・ガイ営業課長は、工場に助
っ人に回された。


 「兄ちゃん、力もあるし器用だな。製造部に来
  ないか?」

 「そうそう。給料はこっちの方が良いぜ。何せ
  重労働だからな」

 「考えておきます・・・・・・」

工場に助っ人で入ったガイは、新たな才能を発揮
しつつあった。


 


        あとがき

次はどうしようかな?
 

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