アスカの蹴りをアクアは全て紙一重で避ける。
「無駄よ、無駄。貴女の能力は、確かに当たれば強いけど、その分、脚にオーラが集中してる」
つまり、常にオーラを纏っておけば脚にさえ注意を払っておけば良い。素手でオーラを纏った体に攻撃しても意味はないのだ。が、次の瞬間、ゴキッと鈍い音がした。アクアは、一瞬、何が起こったか理解出来なかったが、アスカの拳が自分の脇腹にめり込んでいるのに気付いた。
「チッ!」
舌打ちし、アスカと距離を取って瓦礫の上に着地し、脇腹を押さえると、肋骨が何本か折れてるようだった。
「いつ、誰が“硬”使ってるって言ったのよ?」
そう言われ、アクアはアスカを見ると、彼女のオーラは大部分が脚に集中しているが、少しだが右拳にも集中されていた。
「(脚部80%、右拳20%ってところか……油断したわ)」
てっきりアスカは能力を使っていると思ったが、まさか、右拳のオーラを“隠”で消し、見える脚部のオーラだけに自分の意識を集中させていた。
「(こりゃ距離取って戦った方が無難かしらね)」
スッとアクアは手を広げる。次の瞬間、ズドン、と衝撃音が鳴ってアスカは弧を描いて宙に吹っ飛んだ。が、彼女はクルッと空中で反転し、着地した。それに目を見開くアクア。アスカは、額から血が流れ、両腕の袖がボロボロになっている。どうやら、咄嗟にガードしたようだ。
「伊達に何度もアンタの能力を見て来たわけじゃないわよ。アンタの能力……オーラをパイルみたいに打ち出してるって種は、とっくに気付いてるわよ」
「………………ふ〜ん」
アクアは目を細めると、掌を横に向けて広げると、瓦礫が粉々に砕けた。
「一応、私の“打ち出す神速の鉄槌【シャインパイル】”を見破れるぐらいにはなったか」
ニヤッとアクアは冷笑を浮かべる。それと同時に、彼女のオーラが不気味さを増す。それは、ヒソカに匹敵するぐらい不気味だった。
「ヒソカ、天空闘技場でゴン君に言ってたわね……強化系と変化系は、性格が正反対だから相性が良いって。私もそう思うわ……」
次の瞬間、アクアの姿が消えた。咄嗟に振り返ろうとしたアスカだったが、既にアクアが背後に付いており、スッと後ろから抱き付いて、首筋に顔を埋めて来た。
「マスターの頼みで、あなた達3人を調べにハンター試験に参加したけど……3人の中で、私は一番、貴女に惹かれたわ。ただ、真っ直ぐにマスターを求める姿……とても可愛かった」
「ひっ!」
いきなり首筋をペロッと舐められ、アスカは身震いした。
「だから……壊したいと思ったの」
「こ……の!!」
無理やりアクアを振り払うアスカ。クスクス、と楽しそうに笑うアクアを、思いっ切り睨み付ける。
「大切なものが壊れる時に心を穿つ虚無感……それが堪らなく愛しいの」
「アタシはアンタのものになんかならないわよ!」
アスカは叫ぶと、掌を広げる。すると、オーラの球体が掌から飛び出した。そして、残るオーラが全てアスカの脚へと集中する。
「“紅球波【マグナム】”!!」
そして、そのオーラの球体を思いっ切り蹴ると、アクアに向かって飛んで行く。が、アクアは掌をオーラの球体に向けると、彼女の掌からパイル状のオーラが放たれ、球体を貫き、彼女の体を吹き飛ばした。
「きゃあ!」
アスカは派手に吹っ飛び、瓦礫に体をぶつける。
「ぐ……」
「私の能力を見抜いた事は褒めてあげる。でも、見抜いただけで貴女には何も出来ない」
瓦礫に掴まり、立ち上がりかけるアスカにアクアは冷たい視線を向ける。
「貴女と私の距離は確かに縮まっている……でも、まだそれだけの実力差があるの。理解した?」
「……………」
「それでもマスターを求めるの? 無理ね。私以外の奴に殺されるのがオチよ……だから」
「!」
アクアは一瞬でアスカとの間合いを詰めると、彼女の顔を掴み、地面に叩きつける。地面は派手に亀裂が走り、血が噴き出した。
「私のものにならないなら……私が此処で殺すのが愛、かしら?」
「ぷ……あはははは!!」
不意にアスカが笑い出した。アクアは驚いた表情になると、アスカは彼女の腕を掴み、動けなくするとそのまま足を振り上げ、背中を蹴った。
「かっ……!」
ビキビキ、と背中に衝撃が走る。咄嗟に超高速で背中にオーラを集中させてダメージを軽減させたが、かなりのダメージが来た。
アスカは、再びアクアと距離を取ると、額から流れ出ている血を拭い、コキコキ、と首を鳴らす。
「あ〜……何か昔、似たような台詞吐いた馬鹿がいたような気がするわ。『アンタが全部、アタシのモノにならないなら、アタシ何もいらない』だっけ? その結果がコレ? っざけんじゃないわよ!!」
脚部に凄まじいほどのオーラが集中するアスカ。怒りにより、増幅されているオーラの凄まじさに、アクアは冷や汗を浮かべる。
「目ぇ覚めたら体中包帯だらけだわ、あの馬鹿はいないわ、っていうかアタシ以外誰もいないわ、アテもなくブラついてたら、いきなりレイとカヲルに無理やり眠らされるわ、起きたら起きたであの馬鹿を探す旅に出るわ、挙句の果てにテロになってて、変な奴ら相手にしなくちゃいけない? 何処まで人に迷惑かけりゃ気が済むのよ〜〜〜!!!!!!!」
咆哮と共に、アスカの蹴りが炸裂する。紙一重でアクアは避けるが、瓦礫が粉塵になるまで砕けた。その威力に、アクアは唖然となる。そして、アスカは鋭い眼光のまま、アクアに向かって蹴りの乱舞を放つ。
「ちょ、ちょっと待………!」
「アイツには、死ぬほどカリがあるんだから! それを全部、返して貰うまで逃がしゃしないわよ!!」
「だからって何で私にキレるわけ!?」
「アンタにはカリがある! アタシは誰かにカリ作るなんて真っ平ゴメンなのよ!」
「この!」
アクアは手を広げ、アスカに向かってパイルを放つ。が、アスカは足を振り上げ、アクアの攻撃を打ち消した。
「!?」
「どんなに速くてもパイルなら直線的! アンタの手の方向を見りゃ打ち消せるわよ!!」
「(すっご〜い、この娘。あっという間に私の能力を理解してる)」
アクアは、自分の能力が破られたというのに、逆に嬉しそうな表情を浮かべる。そして、アスカの自分を見据える迷いの無い真っ直ぐな目を見て、ゾクゾク、と自分の感情が昂ぶってるのを感じた。
「(あぁ、ヒソカじゃないけど、彼の気持ちが良く分かるわ。やっぱり、誇り高く、真っ直ぐで純粋なモノを壊す快感は堪らない…………アスカ、やっぱり貴女は私のモノにしたい……)」
時間をかけ、ゆっくりと……と、アクアは感傷に浸っていると、アスカの蹴りが鳩尾に決まった。
「ぐ……!」
「貰ったぁ!!!」
一発決まり、アスカの脚部のオーラが更に増大する。ダメージで怯むアクアに向かって更に蹴りを放つ。顔面を守ろうと、アクアは腕で防ぐが、ガードの上からでもダメージはあり、アスカのオーラは大きくなるばかりだ。アクアは、反撃にオーラのパイルを放とうとするが、アスカの姿が消えた。アスカは、両手を地面について、大きく回転して蹴りを放つ。
「くぅっ!」
その蹴りの連打を防ぎながらも、アスカの増大するオーラを防ぎ切れず、腕が真っ赤に腫れ上がる。
「これで……トドメ!!」
最後に強力な一撃をお見舞いしようとするアスカ。その瞬間、アクアの目がカッと見開かれる。
「「!?」」
が、その時、一条の閃光が2人の間に割って入った。アスカとアクアは、後ろに跳んで避けると、閃光は地面に巨大な穴を空ける。アスカとアクアは瓦礫の上を見ると、そこには、2人の人物が立っていた。
「ライテイ、マルクト……」
「(敵……!)」
そこには、マルクトともう一人、黒のレザージャケットにジーンズを穿いた短い青髪の男性が立っていた。鋭い赤い瞳を持ち、大柄な人物だ。
「そこまでにしとけや、アクア。そのお嬢ちゃんの実力は十分分かっただろ?」
「(っていうか、それ以上、やらせると本気で嬲り殺しにしそうだしな)」
男性――ライテイは笑みを浮かべて言うと、その横でマルクトが冷や汗を浮かべている。
「この街の生き残りは俺らで始末しといた。足止めも、その辺で大丈夫だろ?」
「(足止め!?)」
言われて、アスカはハッとなる。ふと周囲を見ると、自分達以外の市街が炎に包まれている事に気が付いた。そして、足止めと聞いて愕然となった。
「アクア……」
「ま、そういう訳」
アクアは、ニコッと笑いかけ,判颪れたプレートを見せた。アスカは驚愕し、ポケットを漁るが、いつの間にかプレートが抜き取られていた。
「一応、本気出してあげたわよ。カリを返せて貴女も満足でしょ?」
「ふざけんじゃないわよ! アクア、アンタ……」
怒鳴るアスカをスルーし、アクアはライテイとマルクトの元へ移動する。そして、マルクトが卵を掌に具現化し、それが割れて幼虫が生まれ、繭を作り巨大な蟲になった。それに驚愕するアスカ。マルクト、アクア、ライテイはその蟲の背に乗って飛び立つ。
「待ちなさい!!」
「アスカ、今日は凄く楽しかった。私も何度か冷や冷やしたわ…………そして確信した。マスターに貴女を殺させはしない。私が貴女の体も心も誇りも全部全部、壊して私のモノにしてあげる。その時まで、もっと強くなってね」
妖艶な笑みを浮かべて言うアクアに、マルクトとライテイは小声で話す。
「こいつ、こんな趣味あったのか?」
「いや、俺的には女同士大歓迎なんだけどな」
ゴツン!!×2
が、アクアには聞こえてたのか、彼女の拳骨が下り、2人は頭を抱えて蹲った。アクアは、アスカに微笑んで手を振り、そのまま3人は空の彼方に飛び去って行った。残されたアスカは、燃え盛る市街地を見て、唇を噛み締めると強く拳を握り締めた。
「ん……」
レイが目を覚ますと、既に夜になっており、いつの間にかシーツをかけられており隣には恐らくミトが寝るのであろう布団が敷いてあった。レイは、起き上がり廊下に出るとリビングに明かりが点いていた。ゴンとミトの話し声が聞こえて来たので、レイは邪魔しないよう部屋に戻ろうとすると、彼らの会話がハッキリと聞こえた。
「ミトさん、もっと聞かせてよ! ジンが小さかった時の話!」
「(ジン?)」
確か、それってゴンの父親の名前だったような気がしたが、何で名前で呼ぶのか理解出来なかったが、その声は何処か嬉しそうだ。レイはフッと笑みを浮かべ、その場から立ち去る。
「(父親……彼の父親と全く同じ名前の人がこの世界にいる……偶然か……宿命か……分からない)」
因果、という言葉を頭の中で呟き、レイはふと『ゲンドウ・ロクブンギ』の名前を思い出す。
「(そうね……私達がこの時代に目覚めたのは偶然ではなく……宿命。だとすれば、司令と同じ名前、姿の人がいてもおかしくない、か……けれど、何故? 何故、此処まで……)」
“母”という遥か昔に与えられた自らの運命を破棄した今、この世界で、輪廻が廻っているのか自分に知る由はない。一体、何の因縁があるのだろうか、レイには分からなかった。
翌朝、ゴンは昨夜、ミトに渡された鉄の箱をレイとキルアに見せた。それは、彼の父、ジン・フリークスがミトに『ゴンがハンターになったら渡してくれ』と頼まれたものだそうだ。
「なるほど……んで、これが、その箱な……あれ? これ、どうやって開けるんだ?」
箱を見ていたキルアは、その箱に蓋などが一切無いのに気が付いた。
「うん、色々試したんだけど、どうしても開かないんだよ」
「ちょっと力入れて良いか?」
「良いよ。俺もやったから」
「んが!!」
キルアは気合を入れ、力任せに箱を開けようとする。が、箱はビクともしない。
「駄目だな。普通の箱じゃねーよ。ただの鉄箱だったら、溶接されてたってねじ開けられるのに」
「うん」
「貸して」
今度はレイが箱を受け取る。が、ゴンもキルアも力尽くで開けようとしても彼女では無理だろうと思っていた。が、レイは力を入れようとせず、ジッと鉄箱を見つめる。
「ハンターになったら渡す……つまりハンターになる前に無くて、ハンターになって得たもの……」
彼女のオーラが鉄箱を包み込み、ゴンとキルアはハッとなる。
「「念!!」」
すると、箱は内側から飛び散り、幾枚もの鉄板の中から更に別の箱が出て来た。
「箱の中に……また箱が?」
「なるほど…………」
レイは飛び散った鉄板を拾って、その内側をゴンとキルアに見せた。それには、奇妙な紋様が描かれていた。
「これって……」
「そうだ! ウイングさんがくれた誓いの糸に同じようなのが描いてあった!」
アレも確か念を使うと切れる仕掛けになってたから、同じ仕掛けのようだと3人は考える。
「ゴン、その箱は開きそうか?」
「え〜と、あ! もしかして此処にカードを差し込むのかも」
今度の箱には、カードの差込口があり、ゴンはそこにライセンスを挿した。すると、箱はカチッと音を立てて開き、その中には指輪とカセットテープとROMカードがあった。
指輪を取って見ると、その裏には先程、鉄板に描かれたのと同じ模様があったので、ゴン達は迂闊に嵌めないようにした。
「とりあえずテープだけでも聞いてみる?」
「そだな。あ、ダビングの準備もな」
「え?」
「念の為さ」
ダビングの準備をしてテープをデッキに入れて再生する。
<よぉ、ゴン。やっぱり、お前もハンターになっちまったか>
するとある男性の声がした。3人は、それがゴンの父、ジン・フリークスだと確信し、耳を傾ける。
<それで一つ、聞きたい事がある。お前、俺に会いたいか? 会う気があるなら、このまま聞いてくれ。もし、その気が無いなら、停止ボタンを押せば良い>
当然、ゴンは彼を探している。此処で停止ボタンを押す筈が無い。
<“イエス”って事か。それじゃ、もう一度聞くぜ。覚悟はあるか? ハンターって奴は手前勝手なもんだ。自分が欲しいものの為に他のものを捨てていく。『出来れば会いたい』って程度の気持ちならここでテープを切っといた方が良い。一分やろう>
そして、再びジンは沈黙する。
「どうする? って決まってるか」
一応、キルアは聞いてみるがゴンに停止ボタンを押すつもりは無い。
<フー……そんなに会いたいか。俺はお前に会いたくない>
いきなり『会いたくない』と言われ、ゴン達は唖然となる。
<正直なとこ、どのツラ下げて会えばいいのかわからねーしな。何しろ、俺は俺の為、親である事を放り出した人間だ。ロクなもんじゃねー。俺がコレを吹き込んでから、お前が聞く事になる日まで最低でも10年以上の時を経ているだろう。だが、その間、絶対に変わらないものがある。俺が俺である事だ>
最初の方は何処か自嘲的だった雰囲気に対し、最後の言葉は自信に満ちて、力強く聞こえた気がした。
<だから、お前が聞いてる今も何処かで馬鹿やってる。それでも会いたきゃ探してくれ。だが、さっきも言ったが俺はお前とは会いたくねぇ。近付くのが分かったら、トンズラかますぜ。捕まえてみろよ、お前もハンターなんだろ?>
これはジンからの試験だ。かつてゴンが出会ったカイトのように彼を探す事が試験。合格するのにどれだけ時間がかかるか分からない。相手は何しろ伝説的なハンターだ。そう簡単に捕まえられる訳が無い。が、ゴンの表情は何処か嬉しそうだ。
「ふふん、お前の親父も一筋縄じゃ、いきそーもねーな」
「うん」
キルアも笑みを浮かべ、停止ボタンを押そうとするとゴンが止めた。
「あ、待って」
「?」
「ジンは、まだそこにいる」
まだテープは終わっていない。ゴンの言葉にキルアも停止ボタンに伸ばしていた指を引っ込めた。
<…………あ〜、一つ言い忘れてたぜ。お前の母親についてだ>
「!?」
<知りたければ、このまま聞いてくれ。別にいいなら―――>
黙ってゴンは、停止ボタンを押した。
「良いの?」
「うん」
「でも、もしかしたら何か手がかりがあるかも知れないぜ?」
「ないよ、多分。勘だけど……それに、俺の母親はミトさんだよ」
その言葉に、レイはフッと笑う。ゴンは、ご飯食べようと部屋から出ようとすると、ふとカチッという音がした。すると、デッキのテープが巻き戻しを勝手に始めた。
「止めたテープが勝手に……」
3人は“凝”を使い、デッキを見ると目を見開いた。
「デッキにオーラが!?」
「念! 念でテープを巻き戻してる!」
「まさか、今!? 何処かで!?」
「違うわ。10年以上前に込めたのよ……『停止ボタンを押したら巻き戻すように』って」
同じ操作系の能力なら、それぐらいは容易い、とレイが言う。やがて巻き戻しが終わり、今度は違うボタンが押される。
「今度は録音!?」
「そーか! 消す気だ、自分の音声を!」
「駄目だ! 止められない!」
慌てて停止ボタンを押すが、録音は止まらない。コードも抜いたが、それでも録音は止まらないので、キルアはデッキを持ち上げる。
「悪いな、ゴン!」
「え!?」
「壊すぜ!!」
キルアは、思いっ切りデッキを殴る。が、録音は止まらず、何度もデッキを踏みつける。
「駄目ね。念でガードされてるわ」
今のゴンやキルアでは、どうしようもないとレイは悟った。レイの場合、オーラを拳に集中させれば壊せるかもしれないが、それではテープごと破壊してしまいそうなのでやめておいた。
結局、録音によりジンの声は完全に上書きされていた。ダビングテープも同様だった。
「駄目だ。ダビング用のテープもやられてる」
「何で此処までする必要あったのかな?」
「手がかりを残したくなかったって事だろな。音声からだけでも相当のデータが得られるから」
身長や体重、性別、年齢、顔の造形に持病、そして心理状態などが読み取る事が出来る。背景の雑音から場所も特定出来る。
「でも、もっと警戒したのは別の事だぜ」
「?」
「念能力だよ」
機械より遥かに優秀な解析が可能な念能力者がいてもおかしくはない。声を聞いただけで、相手の全てが分かる能力とかも考えられる、とキルアは説明した。
「手強いな」
「ん」
「後2つか……」
彼らは、テープは諦め、箱に残っている指輪とROMカードを見る。
「指輪はともかく、問題はこのROMカードだな」
「通常規格より小さいね」
「コレ専用のハードがあるのかしら?」
「え?」
不思議そうに通常よりも小さいROMカードを見て言うゴンとレイにキルアが意外そうな顔で見る。
「知らねーの? ジョイステ?」
「ジョイ……」
「ステ?」
「これ、ゲーム機専用のROMカードだよ。ジョイステーションっての」
キルアは、パソコンを使い“トイ・ランド”という所にアクセスする。
「“トイ・ランド”にアクセスして、希望商品とこちらの住所を入力すれば、最寄の店を幾つかデータ付きで紹介してくれる。例えば『なるべく安値で買いたい』って条件を入れれば、その要求通りの店を探してくれるわけ」
「ふ〜ん」
そうして、キルアはジョイステーションとROMカードを即日配達希望で入力した。
「お、あった、ラッキー」
「でもさ、ゲームソフトが無いと、このカードと本体だけじゃゲームは出来ないんでしょ?」
「そうね。タイトルとか書いてないのに、どんなゲームか分からないわ」
「お前ら、本当にゲームやった事ないんだな」
天然記念物が2人も目の前にいる気分になるキルアだった。
瓦礫の上で腰掛けていた少年は、ずっと目を閉じていたが、ふと足音が聞こえたので目を開ける。すると、黒いコートを着た十字架の刺青を額にしたオールバックの男性がやって来た。
「クロロ、何か用?」
「そっちはどれだけ集まったか気になってな」
クロロと呼ばれた男性がそう言うと、少年はニコッと笑う。
「そっちは?」
「0」
「1、もしくは2」
2人揃って沈黙が流れる。かなり痛い空気が漂うが、やがてクロロは、フゥと息を吐くと、体からオーラを発して少年に尋ねる。
「暇だし、少々、手合わせするか?」
「…………面白いかもね」
少年も笑みを浮かべ、オーラを発する。2人のオーラが廃墟の中の空気を更に重くしていく。が、少年はふとある事に気付くと、オーラを収める。
「マギ」
いつの間にかクロロの後ろにマギが立っており、ノートパソコンを脇に抱え、睨むようにクロロを見上げていた。
「マスター傷付けたら殺す」
彼らを押しのけ、オーラを発するマギに、クロロはフッと笑い、オーラを鎮めて彼女の頭に手を置いた。
「むぐ!」
「こいつが、黙示録の一人か?」
「ん。マギって言う。可愛いでしょ?」
「…………お前、ロリコンの気があったのか?」
「本気で戦って上げても良いんだよ?」
軽蔑してくるような目で見てくるクロロに青筋を浮かべる少年。
「冗談だ。まぁ戦いたくない、と言えば嘘だが聞きたい事がある」
「ん、分かった。マギ、もう離れて良いよ」
そう言われ、マギは離れて、その場から去る。
「で? 話って?」
「此処での活動についてだ」
「?」
「お前達が暴れてる間に、俺達は地下競売のお宝を全部頂く。これが今回の俺達の目的だ」
「何か問題ある?」
意外そうな顔をする少年。クロロは少年の隣に腰掛けると、割れた窓から差し込む陽光を見つめる。
「お前は何故そこまで壊す事に拘る?」
「ん?」
「徹底的に破壊し、そこに存在した物の痕跡を尽く消し去ろうとする。一体、何の為に?」
「…………僕が君に『何で盗む?』って聞いたら答えてくれるかい?」
質問するクロロに質問で返す少年。その質問に対し、クロロは沈黙する。
「僕は壊し、君は盗む。それで良いと思うけど? 僕らが互いに知っている事は。それ以上は互いに決して踏み込まない」
「…………そうだな」
そう言われ、クロロは納得したような笑みを浮かべ、立ち上がる。
「悪かった。つまらない質問だった」
「クロロ」
去ろうとしたクロロをふと少年が引き止めた。
「厳密に言うと僕は壊したいんじゃない……消したいんだよ」
「…………それは、俺も含めて、か?」
「さぁね」
決して否定しない少年に、クロロは特に何も言わず、去っていった。
「あと一ヶ月……か」
後書き
ようやくアクアの正式な能力が出ましたので、詳細を。
能力名:“打ち出す神速の鉄槌【シャインパイル】”
効果:オーラの性質をパイル(杭打ち機)に変える。
アクアの意志によって、打撃ハンマー型や貫通型など形状を変える事が出来る。
スピードは凄まじく速い。
発動条件:掌を対象に向け、オーラを集中させる。
制約・リスク:直線的にしか放てない。
射程距離は最大5m。
パイルを打ち出している間、動けない。
ただでさえ見切るのが難しいスピードなのに“隠”と併用すれば、更に見切る事が難しくなります。
ちなみに今回、アスカの使った“紅球波【マグナム】”は、幽遊白書の仙水の技である烈蹴紅球波です。その派生ネタとして“紫炎弾【ショットガン】”という分散型があります。元ネタは同じです。名前も。
〜レス返し〜
ショッカーの手下様
カヲルとウチルが、今後、クラピカにどんな影響を与えるかお楽しみに。
アクアは、話が進む度に悪女っぽくなってます。
髑髏の甲冑様
それこそがチラリズム効果です!!!!!!!!! 思春期に入ろうとしている年頃に、少々、刺激がキツいかもしれませんね。
ウチルの場合は、普段人形持ってますし、喋らないので携帯とか持ってません。ちなみにバルディエルは『霰』を司ります。雨冠に散るです。
あ〜……鋼の錬金術師の案、被っちゃいました。
今回、アスカは放出系の技を出しまし、アクアの能力も発覚です。満足いきましたか?
流刑体S3号様
人形は腹話術です。決して自分が喋らないという制約で、人形を自由自在に動かすのがウチルの能力です。皆さん、“雨”でマトリエルと判断した人が多かったようです。
なまけもの様
今回、シンジが言うように、彼の目的は『壊す』事です。そして、何で彼が、そんな考えを持つようになったのかを知ってるのは、本人以外ではマインドだけです。
ま、理由も聞く人が人によっては、つまらないとか安っぽいと取られるかもしれませんが。
藤竜様
あ、そういう理由じゃないです。まぁ、ある意味、外道ですけど。
幻影旅団は『盗み』を生業としてるので、対人やそれを補佐する能力が多いですが、黙示録は『破壊』を主としてるので、メンバーの能力も対人ではなく、施設破壊などが多いです。シフの能力も、ビルの四方に水溜りを作れば、水の中にビルを包み込む事だって可能です。
ちなみにシンジ一人でやってません。巨大な都市は仲間引き連れて行ってます。それに、写真とか撮られてるので、結構、日数がかかってます。ヨークシンでも半月はかかると見てます。
そういえば、異世界で使徒擬人化、更にシンジが敵って作品は見ませんね。これからも頑張ります。
夢識様
雨ではなく、雨に散るで、『霰』と考えれますよ?
あ〜、そうですね。ネギまのチャチャゼロも結構、意識してます。
カヲルはシンジ限定でMですが、それ以外は、どちらかと言うとSですから。女王様気質のヴェーゼとは気が合うんでしょう。