「“導く薬指の鎖【ダウジングチェーン】”!!」
クラピカは、薬指の鎖を振るって弾丸を受け止め、剣を振るって来た黒装束の敵の攻撃を避け、階段の上に移動する。そこへ、更に2人の黒装束が襲い掛かって来たが、咄嗟にシャンデリアの上に避難した。
クラピカはチラッと11人の黒装束を見る。下では、銃3人に剣6人、そして上に今でも自分を狙っている剣が2人。
「(ふむ……)」
カヲルは四方をオーラの壁で囲まれている自分に対し、無意味な攻撃をしてくる黒装束の敵を見て、ソファから立ち上がると、オーラの壁を消す。そして、襲い掛かって来た黒装束の敵に肘鉄を放つ。
「(そういう事か……と、なると)」
チラッと周囲を見回し、シャンデリアの上のクラピカを見る。クラピカはコクッと頷くと、シャンデリアから飛び降り、カヲルも拳銃を出し、同じ参加者である短髪の男に、クラピカはナイフを、カヲルは拳銃を突きつけた。
「奴らを止めろ。3秒待つ」
「1,2……」
「OK! 分かったよ」
男は頷くと、突然、黒装束の連中が空気が抜けたように萎んだ。
「やっぱり念かい。殴った感触で分かったけど、今のは人の形をしたオーラの塊だったよ」
「何故、分かった?」
「常に人のそばにいて上手くカモフラージュしていたが、よく観察していると分かる。お前だけが攻撃を受けていない事がな」
「オーラの壁で守られている僕やシャンデリアに移動したクラピカに対し、無意味な行動を取っている事から、敵は人間ではなく念で創られた人型のオーラだと分かったのさ」
クラピカの説明にカヲルが付け加える。
「恐らくこう命じられたのだろう。“一番近い敵を攻撃しろ”」
単純な命令しか与えられず、その攻撃技術も未熟だが、人間大のオーラの塊を11体も遠距離操作で動かすパワーを持つのは、十中八九、放出系に属する能力者だと2人は推理した。
「ま、駆使するオーラの大きさから考えて、操作可能な限界距離は数メートルだろうね」
「つまり能力者は、この部屋の中にいると考えられる」
2人の推理を聞いて、髭面の男性――バショウは感心したように口笛を吹いた。
「うむ、正解だ。俺はシャッチモーノ・トチーノ。俺も一応、ハンターだ。館の主人に雇われている。いわば君達の先輩だ。分かったら、その物騒なのを収めてくれねーか?」
男性――トチーノに言われ、クラピカとカヲルはナイフと銃を離す。
「まぁ悪く思わないでくれ。俺もボスに命令されてやったんだ。“殺すつもりで試せ”ってな。こんなに早くバレるとは思わなかったぜ。ま、君達6人の力なら、館から脱出できるだろ。頑張りな」
両手を挙げ、トチーノはソファに座って言った。その言葉に他の面子は眉を顰める。トチーノを除き、此処にいるのは7人。が、彼は6人と言った。それはつまり、この中に、もう一人、彼と同じ『潜入者』が混じっている事を暗示していた。
が、もしかしたら、それは嘘で7人の間に不信感を持たせ、館から脱出させないようにしているかもしれない。7人は自然と互いを警戒するようになる。
「フ……恐らくは撹乱のつもりで言ったのだろうが、失言だったな。私が他に『潜入者』がいるかどうかを調べよう」
そこへ、クラピカが薬指の鎖を垂らし、一人ずつ鎖をその前に持って行った。そして、ある人物の前で鎖が揺れた。
「いたな。お前が『潜入者』だ」
「!?」
そう言い、クラピカが指差した人物は褐色肌に黒髪を束ねた男性だった。
「な……馬鹿か。何を根拠に言ってるんだ? ただ鎖が揺れただけじゃないか!!」
「ダウジングってやつだね」
「はっ! だから、それがどうしたんだ!? 何の証拠にもならんぞ!」
「いいえ、恐らく当たってるわ。貴方、指差された時、心臓が凄い音で鳴ったもの。もし、濡れ衣ならジワジワと心臓の音が早く大きくなるのよ。誤解による不安と興奮でね。でも、貴方、始めが一番大きくて、どんどん音色が静かに落ち着いていった。典型的な“嘘つき”な旋律なのよ。貴方達、2人とも」
頭頂部の禿げた背の低い女性が指揮者のように指を振りながら言うと、バショウが指を鳴らした。
「決まりだな。2人とも、お前だと確信している。残った7人の内、2人がな」
「待て待て待て!! ありえない事じゃないだろ!? 本当は7人の内、『参加者』が5人で、『潜入者』が2人かもしれないだろ!?」
「ま、確かに考えられない事じゃないね。クラピカと彼女が『潜入者』で、貴方を陥れる可能性もある。ま、クラピカと知り合いの僕も『潜入者』の可能性があり、『潜入者』は3人、と考える事も出来る」
「けっ! それじゃあ時間の無駄だ! 此処でウダウダしてたって、結論なんか出やしないぜ!」
「しょうがねぇ。俺が結論出してやる」
すると、いきなりバショウが紙と筆を取り出し、何かを書いた。
『俺様が 殴ったモノは みな燃える 芭蕉』
と、紙には書かれていた。
「“流離(さすらい)の大俳人【グレートハイカー】”!!」
その紙を握り締めながら、椅子を思いっ切り殴ると、椅子は炎に包まれた。
「くそったれ、燃えがイマイチ……駄作だぜ」
椅子は完全に燃え尽きたが、バショウは気に入ってないようで、紙を握り潰した。
「ちなみに、こいつは俳句というもので、俺の祖国が誇る文学だ。俺が詠み記した句は実現する。説明終わり。此処からが本番だ」
バショウは新しい紙に、サラっと筆を流して新しい俳句を詠んで皆に見せた。
『我が問いに 空人言が 焼かれ死ぬ 芭蕉』
「嘘つきは焦熱地獄に落ちるわよ、と読み返しても良し。問うぜ」
バショウは先程のクラピカのように俳句を突きつけて一人一人質問する。
「アンタは『潜入者』か?」
「違う」
「違うわ」
「違うわよ」
「無論、違う」
「…………」(フルフル)
5人は否定し、何も起こらずトチーノに質問する。
「アンタは『潜入者』か?」
「そうだ」
そして最後、顔を俯かせている褐色肌の男性に対し、質問する。
「心して答えた方が身のためだ。お前は『潜入者』か? さぁ、返答を!!」
「…………ふ〜、答えはイエスだ」
男性は大きく息を吐くと、両手を挙げ、ソファに座った。
「お見事。ご褒美に教えてやるよ。俺はスクワラ。正式なライセンスを持ってないが、操作系に属する能力を持っている。既に『ある命令』を念じてある」
その言葉に、ピクッと今まで黙っていた少女――ウチルが眉を吊り上げた。
「『何』に『どんな』命令をしたの?」
「は! それを教えたら採用試験になんねーだろが、馬鹿が! 拷問されても言わないぜ」
そう褐色肌の男性――スクワラが言うが、ふと後ろから肩を叩かれて振り返る。
「“180分の恋奴隷【インスタントラヴァー】”!!!」
すると、いきなり髪を束ねた女性――ヴェーゼによって、スクワラは唇を奪われる。それに皆は驚いた顔になった。
「アタシも操作系の能力者。アタシに唇を奪われた者をアタシの下僕に変える!!」
唇を舐めながらヴェーゼは、スクワラの頭を踏みつけた。
「ホラホラホラホラホラホラホラ!!」
「ああっ、あ〜! もっとお踏み下さいませ!!」
スクワラは両手を床について恍惚の表情を浮かべる。
「フフフフフフフ、なんて恥ずかしいカッコなのかしら!? 撮ってるよ、ほらほら!」
「ああっ、ああっ」
ヴェーゼも興奮した様子でスクワラの痴態をビデオで撮っている。
「さぁ、『何』に『どんな』念を込めたか言って御覧!? 言わなきゃ踏むのをやめるわよ!!」
「ああ〜〜〜!! 言います! 私めは、卑しい卑しい犬使い! 館の中には、私が念で命令した様々な犬が放たれており、例えばマルチーズに馴れ馴れしく近づこうとすると、横からセントバーナードがブルドックと共に……」
「何て……」
「おっかねぇ能力だ」
「素敵な能力だね」
「「「「え?」」」」
他の面子は、スクワラの姿を見て、ヴェーゼの能力に恐怖した。その後のカヲルの発言には耳を疑ったが。
その時、何処からか『クゥ〜ン』と犬の叫び声が響いた。皆、何事かと部屋の入り口を見ると、壊れた扉の向こうからウチルが抱き締めていた人形が入って来た。
「犬ドモナラ、俺ッチガ片付ケテヤッタゼ」
「人形が勝手に……嬢ちゃんの能力か?」
ウチルはコクッと頷く。
「安心シヤガレ。俺ッチハ、心優シイカラ犬ハ殺シチャイネェヨ。マ、目ェ回シテルガナ」
そう言い、人形はウチルの胸に飛び込んで、再び抱き締められる。
「コレガうちるノ能力、“人形の狂騒劇【ダミーパペット】”ダ! 出血大さーびすデ御披露目シテヤッタゼ!」
グッと親指を立てるウチルに、クラピカは、つい苦笑してしまった。
結果、クラピカ、カヲル、バショウ、センリツ、ヴェーゼ、ウチルの6人は、館から脱出する事が出来た。
吹雪の吹き荒ぶ大地の中、アスカはフードとマントを羽織って歩いていた。目指す先には、1年前、黙示録によって壊滅させられた大都市、アーネストシティがあった。
アーネストシティは北半球でも、有数の人口70万人の住む大都市だったが、1年前、黙示録により地図から、その名が消されてしまった。
「酷いわね……」
街は完全に廃墟と化しており、所々、ボロを着た人達が、一斗缶などで暖を取っている。それも、老人や子供ばっかりで若い人々は、街を捨てたか殺されたのだろう。
「アンタ、旅の人か?」
ふと、瓦礫に腰掛けて風呂敷を広げ缶詰めなどを売ってる老人に話しかけられ、アスカはそちらを向く。
「悪い事は言わん。此処から立ち去りなさい…………赤い悪魔が来る」
「赤い悪魔?」
「赤い衣に身を包み、赤い二叉の槍を持つ悪魔じゃ………僅か10数名の部下を従え、この街を破壊しおった」
「赤い二叉の……槍」
ズキ、とアスカは突如、自分の左眼が痛み出し、思わず押さえた。すると、手の隙間からポタポタ、と血が滴り落ちる。
「(アイツ……)」
アスカはギリッと身が引き裂かれそうな感覚に襲われるが、唇を噛み締めて必死に耐えた。その時、クイクイ、とマントが引っ張られたので下を見ると、小さな女の子がいた。
女の子も服がボロボロでロクなものも食べていないのだろう、かなり痩せこけている。その女の子が、アスカに絆創膏を伸ばして来た。どうやら、アスカの顔から血が流れているのを見て、気になったようだ。
アスカは苦笑いを浮かべ、「ありがとう」と絆創膏を受け取る。そして、ポケットからスティックチョコを取り出し、女の子に上げた。
女の子はパァッと表情を明るくすると、ペコッと頭を下げて走って行った。アスカも笑って手を振ると、女の子に背を向ける。次の瞬間、ズン、と重い音が響いた。
アスカは目を見開いて振り返ると、先程の女の子が地面に倒れていた。胸には大きな穴が空いており、血の海を作っている。ピクピクと手は小刻みに震えている。
急いでアスカは女の子の下へ駆け寄り、体を抱え起こすが、既に冷たくなっている。
「あ、あ……」
すると、老人が怯えた様子で瓦礫の上の方を見ている。アスカもそちらを見ると、驚愕した。
「アクア!!」
「……………」
瓦礫の上にはアクアが立っており、怯える老人に向かって手を伸ばす。次の瞬間、老人の頭に穴が空いて力無く地面に倒れた。
「アクアァァァァァァ!!!!!!!!!」
アスカは咆哮し、マントを投げ捨て、瓦礫の上のアクアに向かって突っ込んで行き、アクアと腕をぶつけ合う。
「アスカ、こんな所で何してるの?」
「何で殺した!?」
「何って…………後始末よ」
「後始末?」
パァンとアスカの腕を振り払い、アクアは説明する。
「私達は色んな都市を破壊するけど、どうしても生き残りっていうのは出てしまうでしょ? だから、こうやって時折、生き残りの後始末とかしてんの」
さも公園のゴミを捨ててるかのような軽い口調で言うアクアに、アスカは怒りの篭った目で睨み付ける。
「これも………アイツの指示な訳?」
「当然でしょ。さっきの子や老人だって、もうこの寒い土地で生きていく力は殆ど残ってない。結構、多いのよ。殺された方がいい人間、死んだ方が幸せな人間、ってね」
「あんた達がそうしてるんでしょうが!」
「否定はしないわ。で? どうする?」
「決まってる!」
そう怒鳴ると、アスカの体から凄まじいオーラが発せられる。それを見て、アクアも笑みを浮かべて不気味なオーラを発した。
「アンタは、この場でアタシが倒す!」
「出来るかしら?」
挑発的な笑みを浮かべるアクアに向かって、アスカは突っ込んで行った。
〜レス返し〜
拓也様
カヲルが間違った性教育を教えてるのも問題あると思います。
ウチルが黙示録……ま、バレバレですか。
シンジの過去はヨークシンに入ったら明らかにするつもりです。
レンジ様
具現化系と変化系は、隣り合うので相性が良いんでしょうか? 知識などの面ではアスカが一番、頭いいですが、柔軟性や洞察力はカヲルが一番です。
FACE様
ある意味、大人の会話なアクアとヒソカです。
あ、大丈夫です。私も善人なゲンドウなんて信じられませんから。でもまぁ、一応、ネルフの総司令だったので、極秘指定人物に登録してても違和感は感じないと思って、登場させたんですけどね。
髑髏の甲冑様
いや、描写的にスッポンポンより、寧ろ前を少し隠してタオルの端から少し乳房が見える方が色っぽいと思っただけです。ちなみにタオルで前を隠してたのは、アスカが風呂入る時にそうするからです。
そういやG・Iには面白いカードがありましたね。それで色々楽しめる要素が増えそうです。
ウチルの容姿は、確かに安樹が元ネタですが、腹話術なので、その点は赤ずきんチャチャのセラヴィーで、ウチルの性格自体はギャラクシーエンジェルのヴァニラです。早い話、普段から人形抱き締めてるキャラのミックスです。
黙示録にもおじ様風なキャラはいます。でも旅団もオッサンぽいノブナガも登場時は、ギリギリ20代だった気が……。
う〜ん、カヲルやアスカが我愛羅やCP9の真似ですか……どうでしょう? 面白そうではありますが。
ショッカーの手下様
羞恥心がゼロだから、レイらしいんです。
惨殺ショーはありませんでしたが、犬はボコボコにしました。ウチルじゃなく、人形が。
次回、アスカvsアクアです。
流刑体S3号様
カヲルは頭切れますよ。クラピカに匹敵するぐらいです。主人公3人組では、一応、頭脳労働の役割ですから。
ウチルは操作系です。詳しい能力説明は、後ほど。
ちなみにウチルとは『雨に散る』と書きます。あ〜、もうバレバレ。