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「創聖のアクエリオン〜ナイトメアクレスント〜(創聖のアクエリオン+EVA)」

トンプク (2006-08-30 11:48)
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<不動の書斎>

カッコォォォォォォォォ・・・・・・ン
鹿おどしの澄んだ音が、庭に鳴り響いた。
蝋燭の灯りがやけに明るい書斎で、不動は和紙を前に精神統一をしていた。
やがて、おもむろに筆を取り、大きな文字で【恋愛】と描いた・・・・・
『恋』の文字の上に、何気に『下』という文字が少し見えていた。


第二章・エレメントたち改め・・・・・これが私の生きる道!! 前編!!


<エレメントスクール>

キレイに整備された道が延びていた。
道路の舗装がほとんど傷んでいないのが、交通量が少ないためなのか、そもそも出入りする人間が少ないからなのか。おそらく、その両方だろう。
道端には民家もなく、高い山々に囲まれている。

「よし、それじゃ行きますか」

ディバックを背負った少年が立ち止まり、額に手でひさしを作って、行く手に視線を向ける。
彼の視線の先には、奇妙な形の山があった。
二つの切り立った岩山が寄り添うように並び、その狭間にある谷の壁面には、人工の建造部らしきものが、ちらほらと見えている。
岩山には谷にかかる橋を渡るのだが、その入り口には【この橋をわたるもの、全ての望みを捨てよ】と記されている。もっとも、そのことはほとんど知られていない。
少年はゴソゴソとポケットを探り、小さなカードを取り出した。

「問題なし、と」

ふ――、と大きく息を吐き、少年は走り出す・・・・・次の瞬間、自動車に轢かれかけたが。

―――キィィィィィィィッ!!キッ!!

かん高いブレーキ音が鳴り響いた。
道に飛び出した少年をよけて、小さな丸っこい自動車がよろよろと車線を外れる。もともと速度は出ていなかったのが幸いしてか、なんとか道から飛び出さず停止した。

――プスン・・・・・プスン・・・・ボンッ!!プシュゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・

急停止で故障でもしたのか、今にも止まりそうな音を立てて、リアボディから蒸気が噴出した。
フロントが扉のように開いて、少女が慌てたように飛び出してきた。

「やっちゃった!!ねぇ〜!!大丈夫!?」

が、少年は至って冷静に、左腕に嵌めたパームトップを起動させ、データベースを検索しだした。

「へぇ〜、珍しいなぁ」

自動車というには、かなり小さい。が、自動車としか形容できない。
音からすると、エンジンはニサイクル。ミニカーとも考えられるが、ナンバープレートは自動車としての扱いになっているから、通常の車両なのだろう。
バネ仕掛けのおもちゃのように飛び出してきた少女は、少年のところまで息せき切って走ってきた。

「ねぇ!!ケガしてない!?」

「ああ、大丈夫、大丈夫。ねぇ、あれってベンベ(BMW)のイセッタ三〇〇でしょ、ほらこれ」

少年は、端末の小さなポップアップディスプレイに映し出されている映像を、少女に見せた。

「うふふ、これはライセンス生産された方。あのコはISO社のオリジナルで、イセッタ二五〇」

「オリジナルかぁ、これって君の?」

少年は立ち上がると、もっと近くで見ようと歩き出した。

「うん、グランパの形見。この子は、もうすぐ七十歳」

フロントボディの近くまで来たとき、少女が落としたらしい小さなカードがあった。
慌てて拾おうとすると、少年が驚いたように声をかけた。

「え?君も・・・?僕も持ってるよ」

「え?あなたも、アクエリオンに?」

二人のエレメント候補生が、それぞれ、初めて自分以外のエレメントを見た瞬間だった。


大きな教室だ。
大学の講堂のような形状で、後ろの席の者も、教師やスクリーンを見るのに支障がないようになっている。
席自体の数はそう多くない。しかも、全て埋まっていない。
世界中から、才能や特殊能力を持つ少年少女を集めているとはいえ、実際に戦場にたって戦うことができる能力者は限られている。
堕天翅から世界を救うために選ばれた、勇者育成のためのスクール。一般的にはここは、そう認識されている場所だ。
教室にいるのは、旧アリシア王国王子にして、エレメントチャート首席のシリウス、その妹のシルヴィア、サン・ホセエリア出身のピエール、旧・中国系で拳法の使い手である麗花、そして、双子のテレパシスト、クロエとクルト。その他には、エレメント能力は認められたものの、まだ訓練中の【二軍メンバー】と呼ばれる数名だ。グレンはいまだに集中治療ポッドの中で、教室にはいない。
全員が十代中盤から後半といったところだが、本当のところは、はっきりとわかっていない。
大異変の後の世界では、出生記録や人種などの記録が混乱していて、年齢どころか誕生日さえ知らないことだってある。そのため、本来ならばミュータントとして恐れられるであろう彼らも、奇異とは受け取られていない。
そして、ソフィアの脇に、二人の人物――今朝の少年と少女が立っていた。
ソフィアに促されて、まず、少年が挨拶した。

「ネオアジア、第十七エリア出身、ジュン・リーです。よろしくお願いします」

やや緊張してメガネを直しながらだが、はっきりした声で自己紹介した。
続いて一歩出た少女は、肩をすぼめて、もじもじしている。
ちらっと視線をあげ、教室内の視線が自分に集中しているのに気づくと、みるみる顔が紅潮していく。
大勢の前で話すのに、明らかに慣れていないのだ。

「き・・・北ゲルマン防衛特区出身の・・・つぐみ・ローゼンマイヤーです」

――ピューッ!!

口笛の音が鳴り渡った。

「俺の名前はピエール、つぐみちゃん、スリーサイズは!?」

「「むっ!!」」

明らかにセクハラな発言に、双子が同時にピエールを睨む。

「え!?そ・・そんなことまで、答えなくちゃいけないんですか・・・・・・」

18禁チックになりそうな自己紹介を、ソフィアはいったん中断させた。
これ以上やらせておくと、別の二人の紹介ができなくなってしまう。

「ふふふ、二人はピエールの隣に座って」

「「え?」」

二人は顔を見合わせて苦笑いした。
さて次は誰が自己紹介するのか、という雰囲気になったとき、教室の扉がシューッと音をたてて開いた。
全員の視線が、そちらに集中する。
扉を開けて入ってきたのは、車椅子に座ったリーナだ。
なぜか、スナック菓子の袋を掲げるように持っている。

「そして、アークシティで発見された・・・・・・」

「すみませんソフィア。連れてくるのに手こずりました」

車椅子の背後から歩いて出てきたのは、アポロだった。
アポロは教室内を、じろじろと見回した。

「なんだよここは。皆、しけたツラしやがって、まるで豚箱じゃねぇか」

吐き捨てるような言葉に、シルヴィアは思わず立ち上がって叫んでいた。

「あんたこそなによっ!!私の大切な、初めての合体をめちゃくちゃにしたくせに!!」

それを聞いた二軍メンバーがざわめいた。

「ってことは、あいつがケルビム兵を一撃で倒した・・・・」

「――太陽の翼の生まれ変わり?」

「うそっ!!まだ、子供じゃない!!」

エレメント候補生とは言え、実際にベクターマシンを操る機会すらいまだに与えられていない彼らにとって、飛び入りでアクエリオンを動かしたアポロは、まさしく羨望の的だった。

「太陽の翼って?」

聞きなれない言葉を、つぐみが疑問に思った。

「それはですね、旧アリシア王国に伝わる【創聖の書】に記された伝説の勇者、アポロニアスの別名で、一万二千年前、セリアン姫やエレメント能力者とともにアクエリオンを操り、堕天翅族と戦ったとされています」

すらすらと喋りだしたジュンに、周囲が驚く。

「お前、何でそんなことを!?」

「機密ランク、トリプルエーのはずだが・・・・」

シリウスはもちろんのこと、ピエールでさえ素直に驚愕する。ディーバのセキュリティシステムは、エレメント候補生やアクエリオンなど様々な機密情報を守るために、世界最高峰のスーパーコンピューターが何台も設置されている。それを破ることができるということは、ハッカーとしては世界一ということになる。

「ディーバのネットウォールなんて、僕から見れば笊ですね。シリウスド・アリシア元王子?」

「なっ・・・!?」

シリウスの冷静な表情が、呆気にとられる。
メカに精通するつぐみも驚いていた。

「ハッキングしたの!?」

「逆探知されたのは、計算外でしたけどね」

つぐみの言葉に、ジュンは笑いながら頭を掻いた。

「あの巨人はどこだ!?」

アポロが会話を遮る。

「俺は早く、バロンたちを助けに行かなきゃならねぇ。だから、さっさとあの巨人に乗せろよ!!」

「あんた・・・まだ、懲りてないようねぇ!!」

シルヴィアは立ち上がると、リストバンドをした左手をアポロに向け、念動波を放つ。
が、アポロはすばやく跳躍して背後に回る。

「へっ!!そう何度も、同じ手にやられるアポロ様だと思うなよ!!

「ん!?おい、やばいぞ!!」

ピエールの視線の先には、カッターシャツを着た少年が立っていた。
避けられた念動波は少年に向かってまっすぐに飛んでいく。
シルヴィアの念力は手加減していても、大人数人を軽く吹っ飛ばす力がある。それを防御せずにまともに受ければどんなことになるか、言わなくても想像はつくだろう。

「あぶない!!」

「何、つっ立ってやがる!!早くよけろ!!」

麗花やピエールの叫びにも動じず、彼はズボンのポケットに両手を入れたまま、鼻歌を歌いながら歩いてくる。

――ギィィィィィィィィン!!

少年の眼前に、紅く輝く防壁があった。
念動波はいとも簡単に打ち消され、少年にはすこしもダメージがない。

「うそ・・・・」

その光景にシルヴィアはもちろんのこと、他のエレメント候補生たちも驚きを隠せない。
少し緊張感に満ちた空気を和らげたのは、その少年だった。

「歌はいいですね・・・・・歌はこころを癒してくれる、リリンが生み出した文化の極みです。そう感じませんか?」

澄んだ声だった。
この前はモニターごしにしか見なかったのでわからなかったが、こうして近くで見てみると、その中性的な美しさがさらに際立って見える。
黒曜石のような黒髪は束ねられていないので、今は踵まで下ろされている。印象的なのは、大きなピジョンブラッドをはめ込んだような紅い瞳だ。
カッターシャツは第二ボタンまで開かれ、胸元にある銀色のロザリオが輝いている。
どことなく麗花に似ているが、胸板や肩を見ると微妙だが男だとわかる。
ソフィアもしばらく動けなかったが、すぐに気がついて少年を紹介する。

「彼のことはこの前、司令室にいた生徒は知ってるわね?空から降ってきた、碇シンジ君よ」

シンジは周囲を見渡し、またゆっくりと階段を下りる。

「――麗花にそっくり・・・・不幸体質かしら?」

「でも、かわいいわぁ・・・・・」

「売れる・・・!!これは売れるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

女子数名の呟きに混じって、ジュンがデジカメを操作しているのは気のせいだと思いたい。
シンジはそのままつぐみの隣に立つと、自己紹介をした。

「え〜と・・・・碇シンジです。皆さん、よろしくお願いします」

ペコリとお辞儀する。
すると、すぐ横にアポロが来ていた。なぜか、シンジの髪のにおいを嗅いでいる。

「お前・・・・どこに住んでやがったんだ?」

「ん?アポロ、それはどういうこと?」

ソフィアが疑問を投げかける。

「においってのはよ、そいつがどんなところで、どんな生活をしてるか教えてくれる。だから、いつもどんな奴と会っているかもわかるんだけどな・・・・」

そこでいったん言葉を切ると、アポロはシンジを見た。

「でも、お前からは何のにおいもしなかった。自分以外、誰もいない世界にでも住んでたのか?」

「さあ、どうだろう・・・・・いつか、教えてあげるよ」

シンジの眼が、愁いをおびた光りを放った。
その表情がまたなんとも言えず美しく、俗っぽいことを言えば、新緑のサナトリウムで命を刻む薄幸の美少年といったところだろう。
その日の授業は、そのままお流れとなり、シミュレーションマシンでの擬似操作訓練は明後日に持ち越しになった。


翌日はエレメント候補生が待ちに待った、【自由授業】だった。特定の科目ではなく、自分たちが得意なことや好きなことを一日中やって、その成果をレポートなどで発表するというものだ。
ようするに、自分の得意や趣味を利用してアピールする時間だ。
ピエールはサッカーがあるし、シリウスや麗花には頭脳、シルヴィアには念力と様々な分野を駆使する。これで好成績を修めることによって、エレメントチャートのトップグループに入ることも夢でないのだから、皆、必死になって当然なのだ。
ちなみに、成績をつけるのは教師たちとエレメント候補生である。
他のエレメント候補生たちが頑張っているなか、アポロとシンジは考えていた。

『くそっ!!あの巨人に乗るには、成績がよくないとダメなのか!?バカ姫に負けるわけにはいかねぇし、シリウスは論外だ!!とにかく森へ行くんだ!!』

『どうしよう・・・・得意なことっていっても、家事全般とチェロぐらいものだし、っていうかシリウスさんもシルヴィアも元王家って!?料理や音楽に詳しそうじゃないか、イメージ的に!!』

案外まじめに考えるアポロと、いつになくテンパっているシンジであった。
やがて、アポロは森に行き、シンジはまだ悩みながら校舎へと入っていった。
さて、他のエレメントたちは何をしているのだろうか?
数名の行動をのぞいてみよう。

<図書室・シリウス&麗花>

二人は分厚い本を何冊も持ち出し、額を突き合わせながら、長い間議論していた。
この二人が一緒に勉強しているのは珍しいことではない。
が、問題なのはその研究対象に選ばれている人物だ。

「ふむ、この論理はじつに的を射ている。これにアポロの行動を当てはめると、人間がいかに欲望に弱いかということが理解できるだろう」

と、シリウスが言えば、麗花も反論する。

「そうね。でもこれよりは、こっちの方がわかりやすいと思うわ。ほら、この論理ならピエールの行動に当てはめて説明すれば、さらに理解が得られるはずよ」

「なるほど、確かにピエールの方が欲望に素直と言えるかもしれないな」

――『リビドー・欲望のメカニズム解明』・著者不明
この二人の研究には、基本的人権というものが少しばかり無視されているようだ。

<ジュン・自室>

ジュンはデスクのメインモニターを凝視しながら、せわしなくキーボードを打っていた。
さっき隠し撮りしたシンジの写真をデジタル処理にかける。
すると、どうだろう。シンジの中性的な顔がすこしずつ大人びていき、化粧されていく。気がついたときには、セクシーな女性に変身していた。

「・・・・問題ない。あとは彼の許可をとって、撮影に持ち込めば完璧だ」

肘をついて両手を組み、静かに呟くその姿から誰かを連想せずにはいられない。
メガネもモニターの光りを反射していて、それっぽいし。
そのモニターには、振袖姿のシンジとそれを模したであろうイメージフィギアが映っていた。

そう、彼の趣味はAKIBA系なのだ・・・・・
その暴走を止めることなど、誰にもできはしない・・・・・・


さて、その日の夕方、全員が昨日の講堂に集まっていた。
教師陣とリーナは後ろに座って、エレメントたちの発表を聞いている。
不動司令は興味がないと言って、先に自分の居住スペースに帰ってしまったらしい。
スクリーンには、クルトとクロエの研究内容が映し出されていた。

「――よって、この数式を展開するとエレメントの能力値の限界が算出でき、それがパワークリスタルによって増幅されるわけです」

「ふ〜ん、で?女の子のバストも増幅されるわけ?」

「「ピエール!!不謹慎!!」

真面目に話しているときにセクハラ発言、なんとも腹のたつ状況である。
ここまでの発表は、次のとおりである。

『欲望のコントロール』  麗花・シリウス共同レポート

『食えるもの』  アポロ研究レポート(今までに食べたものをまとめただけ)

『歯車のサイズとエンジンの機動力』  つぐみ研究レポート

『アクエリオンの合体とエレメント能力』  クロエ・クルト共同レポート

『西暦時代のワールドカップサッカーについて』  ピエール研究レポート

そして、いよいよジュンの出番がやってきた。
スクリーンの電源や照明がすべて落とされ、講堂が真っ暗になる。
そして、教壇がスポットライトに照らされジュンが現れた。

「どうも、皆さん・・・・皆さんには、変身願望というものがありますか?それは、小さいときに憧れのスターやヒーローになりきって遊ぶのと同じようなものです。コミケでよく見られるコスプレ、あれもその一種と考えて良いと思います」

「僕は今回、あえて自分の趣味の一端であるコスプレにスポットをあて、そこからある種の人間が持つ願望を特定することに成功したのです」

おごそかに話すジュンに、他の者たちはある種の恐怖を感じた。
まるで、誰かを誘っているようにエサをちらつかせ、飛びついたところでトラップを発動させるハンターのような雰囲気である。

「皆さん、この写真をごらんください。――この人を、仮に『散』(はらら)と呼びましょう」

スクリーンに映し出されたのは、『振袖姿の女性』だった。少しうつむき加減に首を傾け、誘惑するような瞳でカメラを見ている。
目線からして、背後から撮影したものだろう。白いうなじが艶かしい。
その美しさに、全員が魅せられている。

――ゴクッ・・・・

誰かが唾を飲み込んだ音が、静かな講堂にやけに大きく鳴り響いた。
そのとき、ジュンはその音がした先を指差して言った。

「――今、そこで誰かが反応しました。それは、その人が持つ特定の願望が刺激された証拠なのです!!その願望とはすなわち、年下恋愛嗜好――年上の女性が男の子の未熟な性の果実を奪い取らんとすること、つまりショタコンです!!」

――ガタッ!!ガタッガタッ!!

その禁断のキーワードに、誰かが激しく動揺したらしい。
全員の心に緊張の波紋が広がっていく。ショタコンとは一部の『腐女子』を指し示すことが多く、それは大抵の場合、年上の女性と男の子(もしくは、うぶな少年)のイヤ〜ンな関係を妄想させる。
つまり、この写真の人物は女装した男ということになる。

「ふん・・・俺には最初からわかっていたぜ。こいつが、いったい誰なのか・・・」

「・・・・・お前もか、アポロ。おそらく、この写真は本人に了承を得た上での撮影だろう。彼にそんな願望があるとは、到底考えにくい!!」

シリウスとアポロは、すでに謎の答えにたどり着いているようだ。
その言葉に、他のメンバーも反応する。

「おい!!それじゃなにか、この写真の奴はこうなることをわかっていながら撮影にOKしたってのか!?」

ピエールにシリウスが説明する。

「そうだ、彼はジュンの頼みを快く引き受けるほどの広い心の持ち主、それは逆から見ればお人好しか優柔不断とも取れる。最大の特徴は、あの首筋に光る鎖・・・・・ロザリオの鎖だ!!眼の良いアポロは、私よりも先に気がついていただろう」

言われて見れば、確かに着物の襟に隠れてよく見えないが、確かに細い鎖が光っている。
そこから、全員がある人物を導き出した。

「ここまで言えば、この人物の正体は明白・・・・今、この部屋にいないのは不動司令にジェローム副司令、そしてもう一人、そう・・・碇シンジだっ!!アリシアの名に賭けて!!」

どこぞの高校生探偵のような話し方に、全員がジュンを見た。
しかし、ジュンは少しも動揺した素振りはない。むしろ、まだ謎を解いていないというように不適な微笑を浮かべている。

「ふふ、さすがです。シリウスさんなら、答えにたどり着くと思っていましたよ・・・でも、正体を特定しただけではまだ完全正解とは言えません」

「ふっ・・・その年下恋愛嗜好の正体を探せというのだろう。アポロ!!」

「へっ・・・・ようやく俺の出番のようだな。さっき机にぶつけたような音がしたとき、そこから空気に流されて何かのにおいがした。一つは線香みてぇな甘ったるいにおい、もう一つはケガしたときに使う消毒水のにおいだ」

「線香・・・・それってたぶん、アロマセラピーよ。ん?!ちょっと待って、消毒水とアロマセラピー・・・そこまで言われたら犯人は・・・・イヤァァァァァァァァァァァァ!!」

アポロが何気なく話したヒントから、シルヴィアも犯人を特定してしまったようだ。
ピエールは力なく椅子に座り込み、

『俺はもう、女がわからなくなった・・・・』

と嘆いているし、麗花も、

『私は彼女にどう接すれば?不幸だわ・・・・』

とショックを受けている。

「ああ、普段から消毒水を使用してる人物、俺たちがよく眠れるようにアロマセラピーを使っている・・・・・ソフィア・ブラン!!ショタコンはあんただ!!」

――ゴォォォォォォォォォォォォォォォ!! ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

そんな効果音が、背後から鳴り響きそうな雰囲気だった。
だが、ソフィアは澄ました表情のままで言い返した。

「なかなか、おもしろい推理ね。でも、わたしもエレメントを預かる立場にいる者よ?そんなことを考えていると思う?」

「俺も最初はどうかと思ったよ・・・・でもな、ここに来る前にシンジと廊下で会ったとき、俺たちはあんたを疑いだしていたんだよ」

アポロは一瞬、話を中断した。

「シンジの肩から、あんたが普段つけてる香水のにおいがしたんだよ。たまたまついたにしちゃ強いニオイだし、しかもそれを消すように消毒水の強いニオイもしたんだ」

「で、でも!!ケガをしたのなら基地にある医療施設へ行くはずでしょ!!」

「指を軽く切ったくらいなら、あんたのところでカットバンでも貼ってもらえばいい。実際、あんたは他の奴らの手当てしてるからな・・・・それで、シンジを隠し撮りしてたジュンに協力してもらって、一芝居うったんだよ」

「ここに来る前に、あなたのパソコンをハッキングしました。シンジさんの写真集を製作中なのは、すでにばれているんですよ?」

ジュンが追い討ちをかけた。

ソフィアは力なく椅子に座り込み、机によりかかった。
アポロの後を、シリウスが続ける。

「これはあくまでも推測ですが、あなたは昨日、彼に一瞬で惚れこんでしまったのでしょう。無理もありません、『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』とは、まさに彼のためにあるような言葉です。そして、ディーバ内の監視カメラを使用して彼の映像を自分のパソコンに転送した。それを眺めているだけで、最初は満足していたが、一日たっただけですぐに欲求が満たしたくなってたまらなくなった」

「そこへ、シンジ自身があなたのところへやって来た。まさしく、鴨がネギと土鍋とコンロまで背負ってやって来たのです。夢のような出来事にあなたは神に感謝し、欲望に忠実なる獣になろうとした・・・・・しかし、すんでのところで理性を取り戻したあなたは誘惑に打ち勝った。そこで、犬がにおいをつけるように香水と消毒水を使用した。自分の者であると誇示するが如く・・・・」

沈痛な時間が場を支配する。そして、ソフィアはやおら立ち上がると話し出した。
しかも、泣きじゃくりながら!!

「だって!!だって!!彼ったら本当にかわいいのよ――!!昨日なんか今後の相談しにきて、『僕、これからどうなるんでしょう・・・』なんて、上目づかいに聞かれて思わず押し倒してしまおうかと考えてしまったわ!!」

そのまま泣き崩れたソフィアに、皆、何と言って声をかけたらいいのかわからなかった。
すると、黙っていたピエールが立ち上がった。

「ま・・・確かに、ありゃ女受けする顔だよなぁ。雰囲気的に慰めたいというか、いじめたいというか・・・・そういうのに負けちまう先生の気持ちもわからなくはない。まして、ジェローム副司令みたいなお堅いインテリは肌に合わないだろうし、不動司令はそういう関係とはちょっと程遠い・・・・そんな男どもに四六時中かこまれていちゃなぁ」

他のエレメントたちも同情して頷きあう。
さて、本来推理ドラマなら、ここで犯人は改心し全てが丸くおさまるところだ。
が、これはシリアスとギャグが混在する作品である。ここで簡単に幕引きがされるわけがない!!

「――そういえば、知ってましたか?彼に聞いたんですけど、一度も女子にモテたことがないそうなんです」

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」

「僕も冗談だと思ったんですが、本当らしいですよ。二人ぐらいつきあえそうになったそうですけど、一年も経たずに転校。バレンタインにチョコをもらったこともなければ、ラブレターさえ靴箱に入ってないって」

ジュンの衝撃的な暴露(?)に、全員がシーンとしてしまった。
このことがもしも事実だとすれば、大変貴重な存在がやってきたということになる。エレメント候補生は才能がないと見なされると故郷へ帰還するが、そうでないものはほとんどの時間をこの基地で過ごすことになる。
よって、それだけ出会いが少ないのだ。
しかし、今ここに!!純度100%の童貞・・・・もとい純情少年がいる!!
とソフィアがいそいそと、どこかへ行こうとしていた。

「ソフィア先生、どこへ行くんですか?」

麗花の呼び止める声に、ソフィアはピタッと反応した。いくらなんでも怪しすぎる。ここは勇気を出して彼女を引き止めるべきだ。

「腹痛がひどいから胃薬を取りにいくのよ。最近、頭痛も併発しているから○ファリンを飲んで優しさを補充しないと」

「優しさを補充したいのなら、私たちの授業に取り組んでください。自然に優しくなって病気も不幸も吹っ飛んで行きます」

「不幸を吹っ飛ばすには、シミュレーションをやりながら『孔子』の漢文でテンションを上げるといいのよ?」

「でたらめな理論で、勝手に難易度を上げないでください。テンション上げるときは、迷宮のプリズナーをイメージソングにスパロボ風にやるのが一番効果的です」

「防衛上の理由で『極秘ファイルーS』の閲覧が必要になったの。急がないと基地の存亡に関わるわ。この裏技を使用することによって、ディーバ基地は超重神ディヴァリオンへと変形するの」

裏技って!?  子供でも騙されねぇよ!!  隠しコスチュームでも使えるんですか?
約一名ほど間違ったことを喋っているが、エレメント全員が抗議の声を上げた。
麗花は暗黒のオーラを少しずつ放ちながら、言う。

「あなた教師でしょう?教師だったらエレメント候補生たちをよい方向へ導いてください」

「教師以前に、私は『女』でいたいのよ・・・・・あなただって興味はあるんでしょう?」

きょう・・・み?
紅麗花――元堕天翅ディアナの身体を、一筋の閃光が走った!!

「ふふふ、私がそんなことを・・・・やらいでかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!というわけであんたたち!!とっとと残りのレポート成績つけろやぁぁぁぁぁぁ!!」

と、ほんの一瞬で欲望に魂を売った麗花であった。


<アトランディア>


このはっちゃけた状況に、頭翅は激しく困惑していた。
傍にいる音翅も同様である。

「音翅、翅なしとはこんなことで一喜一憂する生き物なのか?」

「私に聞かれましても・・・・ただ、アルテミスのことが話題に上がっていることは確かです」

「・・・・・翼も楽しんでいるように見えるのだが?」

「頭翅様、間違ってもここでこのような恐ろしい会話はおやめください」

「君は私をそういうふうに見ていたのか?」

こちらにも不穏な空気が流れてきたので、そろそろお話を終了しよう。
さて、シンジは次回どうなってしまうのか!?
それは、皆様の想像におまかせする・・・・・・


【麗花】
幸せは儚く、不幸は続く・・・・でも、今回だけは違う!!私はこれを機会に新たなる道を切り開く!!

【シリウス】
いったい、どこへ向かうつもりだ!?次回、『雨、身体重ねるとき!!』

【麗花・ソフィア】
私とひとつにならない?それはとても気持ちのいいこと。

【シリウス】
誰が二人を止めてくれ――!!


どうも、結構早く続編を投稿できました。創作は初めてなので文章のいろいろなところに、他の作家の方々に似た文章がいくつかあります。
そういうのがいいのかどうかわからないので、ダメならば削除して新しく書き起こします。
ギャグを目指しましたが、ネタが濃くて受け入れてもらえるか心配です・・・・
さて、初めてのレス返しです。

【erer様】
始めまして、ありがとうございます。僕自身でも探したんですが、アクエリオンのSSって携帯でしか閲覧したことがありません。それだけに、今回はよく似た作品をクロスさせてみました。

【飛影様】
原作者様のようなアイディアはありませんが、僕なりに世界観を広げてみたいと思います。
応援よろしくお願いします。

【haru様】
ありがとうございます。シンジとエレメントたちの物語を、これからも楽しんでいただけると嬉しいです。

【カットマン様】
フォモの痴話ゲンカ>
それがいったいどう転ぶと、世界を巻き込んだ戦いに発展するのでしょうね?○―マン・○ォ―ズ的展開でもあったのか、頭翅とセリアンの激しい恋の火花が見えるようです。

次回は後編を書きます。内容としてはバトルと18禁を考えています。
これからも応援などよろしくお願いします!!

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