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「霊能生徒 忠お!〜二学期〜(五時間目)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-08-27 23:36/2006-08-29 18:25)
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 雪と炎の記憶の中、あの人は僕の頭をなでて夜空に消えていった。
 そして今、あの人も僕の頭をなでて闇夜の中に消えていった。
 あの時と今では、取り巻く状況も、去っていった人もその立場も、何もかもが違う。
 だけど、たった一つだけ、僕が子供で、何も出来なかったということだけが同じ。
 それが酷く怖くて、惨めで、情けなくて―――それら全ての感情を払拭したかった。
 自分は何か出来るのだと、もう子供ではないと証明したかった。


「杖よ(メア・ウィルガ)!」


 ネギは走りながら呪文を唱え、手持ちの杖を媒体に思念を飛ばす。長い間連れ添った相棒である杖はそれを受け高速で飛来。ネギは走る速度をそのままに、併走する杖に飛び乗る。

「待てぇぇぇぇぇっ!」

 アスナと刹那を引き連れて、前方を走る誘拐犯へと加速する。
 意識の底から這い上がってくる記憶から、逃げるように加速する。


霊能生徒 忠お! 二学期 四時間目 〜ワンドの9の逆位置(隠れたことの表面化)(下)〜


 逃げたおサルは駅へと逃げ込んだ。一般人を巻き込む気かとネギ達はあせったが、駅舎の中は無人だった。

「ちょっとオカシイわよ。終電間際にしても、乗客も駅員も一人もいないわ」
「アレのせいです!」

 刹那が指し示したのは、柱に貼られた一枚の札。

「人払いの呪符です!普通の人は近づけません!」

 三人は自動改札を飛び越える。料金を払わないのは気が咎めたが、そんなことを言っている場合ではない。誘拐犯は今まさに発車しようとしている電車に飛び乗った。ネギ達もそれに続き、閉まるドアに体をねじ込ませるように車内へ転がり込む。

「ま、間に合った!」
「ネギ先生!前の車両に追い詰めますよ!」

 刹那の先導でネギ達は前の車両にいるおサルを追う。
 さすがにここまで追ってくるとは思ってなかったのか、おサルの気ぐるみは驚いたように振り向き、しかし慌てた様子はない。式神小猿に霊符を投げさせ呪文を唱える。

「お札さん、お札さん。ウチを逃がしておくれやす」

 言霊に応じるように大量の魔力の流れが生じ、続いて札から水が溢れ出す。それも消防車の放水を遥かに超える量と勢いで。車内はあっという間に水で満たされる。

「ガボガボ―――△◎※!」
「くっ…!」
「おぶ……!」

 一瞬にして大量の水を生み出すその技術に驚きながら、

―――『自分のストーリーを作ること』だ―――

しかしネギは何とか冷静さを保つ。こういうときこそ慌てないで、自分が勝つには何をしなくてはならないかを考える。
 水の中、ネギは既に先の車両に避難しているおサルの気ぐるみを来た女を見る。彼女は逃げようとせずこちらを見て笑っている。もしおサルの女が走行中の列車から降りる術があるならとっくに逃げているはずだ。しかしそのままということは、彼女も電車が次の駅に着くまで逃げられないということ。
 ならばまずは、自分が溺死しないように息ができるスペースを確保することが先だ。
 そのために手っ取り早いのは、水をどこかから排出すること。

(こういう時こそ―――)

 ネギは吐き出してしまいそうな空気を肺の中に留め、反射的にもがいてしまう手足を止め、目をつぶる。

「ネギだぼばぼばぁっ!?」

 動きを止めたネギを見て、アスナが悲鳴のような声を上げた。それに答えられないことをすまなく思いながらも、ネギは精神を研ぎ澄ます。

(魔法の射手(サギタ・マギカ)!光の5矢(セリエス・ルーキス)!)

 ネギの目、呪文の詠唱もなく五本の光の矢が生まれた。
 無詠唱呪文。
 エヴァンジェリン戦の前、その存在を横島に伝えると、絶対に役立つから使えるようにと練習させられた。結局、エヴァンジェリン戦には間に合わなかったが、その後も練習を続け、今では発動まで時間と集中が必要なもののこうして使えるようになった。
 放たれた光の矢は、扉を拉げさせて前の車両へと弾き飛ばす。そしてそこに出来た穴に向けて車内を満たしていた水が殺到する。

「あ〜れ〜」

 妙に間抜けた声を上げて、扉ともども流されるおサル。ネギ達はそれを聞きながら、頭上に出来た空間に浮上し、新鮮な空気にありついた。

「っぷは!大丈夫ですか、アスナさん」
「ケホッ…!…や、やるじゃない、ネギ!」
「今のうちに、急いで木乃香お嬢様を!」

 息を継いだ刹那はすぐに前の車両へ泳いでいこうとする。だが、前の車両へたどり着く前に、列車は減速して次の駅に到着した。
 自動ドアが開かれ、出口を得た水が溢れ出す。その流れに巻き込まれ、三人は同じ出入り口から流れ出た。

「うわぁぁぁっ!」
「あ〜れれ〜〜」

 ホームに放り出されたように転がり出る三人。その耳に聞こえてきた緊張感が薄い悲鳴の方向を見ると、同じようにサルの気ぐるみも車内から水と一緒に押し出され、ホームに両手を着いていた。木乃香は小猿の式神が支えていて無事だった。
 だがその安堵も束の間、おサルはすぐに立ち上がり、木乃香を拾い上げて駆け出した。

「あ、待て!」

 そしてネギ達も、その後に続いて駆け出した。


 おサルの追撃をしながら、刹那のネギへの評価は大幅に変わっていった。

「風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)!
剣を執る戦友(コントゥベルナーリア・グラディアーリア)!捕まえて(アゲ・カピアント)!」

  駅構内のショッピングセンター。狭い空間に入る直前、ネギは風精の分身をいくつか作った。それを見て、刹那は舌打ちをする。狭い空間で無闇に人手を増やすのは、自身の動きを阻害するだけだ。刹那はネギに止めさせるために声をかけようとする。

 ボンッ!

 だがその抗議は、前方から突然に響いた破裂音で押しとどめられた。
 見れば分身の一体が形を崩しながら風へと戻っていく途中だった。

「わ、罠!?」
「やっぱり!」

 驚いた刹那と同時に、ネギは得心の声を上げた。そしてそのことが、刹那に新たな驚きを与える。
 確かに少し考えれば分かることだ。この駅にも人払いの呪符は張られていたし、おサルがわざわざ出口へ行くには遠回りになる、しかも道筋や逃げ場が限定されるようなショッピングセンターに入っていくのだから、罠があると考えるのは当然だった。
 だが、木乃香が既にさらわれているという逼迫した状況下では、なかなかそこまで気は回らない。現にもし刹那一人なら、先ほどの罠に引っかかっていただろう。

(この子は……!)

 僅か十歳でこれだけの多彩な魔法と大きな魔力、そして状況判断力。末恐ろしいとはまさにネギのためにあるものだと、刹那は思う。

(いや、それだけじゃない…)

 だが、同時に底知れぬ危うさも感じていた。それは普段とのギャップだ。昼間のイヤガラセに対しては全くの無力な子供であったのに、今のような戦闘状況では一人の戦士として通用する。単なる得意不得意を超えた、奇形的なまでの歪な成長。
 ネギにこんな変化を及ぼしたのは、エヴァンジェリンとの戦いの経験か、もしくは麻帆良に来る前の何らかの出来事か、あるいは横島の影響か…。

「そういえばネギ先生!横島さんは!?」

 刹那は現状と関係ない方向に陥りかけていた思考を、慌てて現状に即したものに変える。

「ダメです!横島さんは横島さん個人を狙っている敵と戦ってます。それに、さっきの電車で携帯が―――」

 そこまで言ったところで、再び目の前で分身が爆発した。どうやら罠の正体は、天井から紐でつるした、触れると爆発する呪符らしい。
 ネギはそこで言葉を区切って、再び呪文詠唱。減った分の精霊を補充する。

「―――携帯が水に濡れて使えません!
 それに、ここは僕達で何とかできるはずです!」

ネギが口にしたのは、何の根拠もない言葉だった。だがこのような状況において、例えそれが虚勢であっても、言葉に込められた意気はそのまま力になる。

「そうよ!木乃香を取り返して、あのおサルをギタギタにしてやるわ!」

 答えたのは刹那の隣を走るアスナ。刹那も無言で頷いて、陳列棚の向こうに見える二頭身の姿を追いかけた。


 ついに追跡劇は終わりを迎えた。
 ショッピングモールから地下にもぐり、そして外へと続く大きな階段。そこでサル女は待ち構えていた。

「フフ…よーここまで追ってこれましたな…」
「おサルが脱げた!」

 アスナが叫んだとおり、誘拐犯はおサルの気ぐるみを脱ぎ捨てていた。その着ぐるみの中身に、ネギには見覚えがあった。

「ああっ!?さっきホテルの入り口でぶつかった人!」
「っていうか新幹線にもいたじゃねぇか!」

 カモとネギが言うとおり、気ぐるみから出てきた女性は、サービス業の従業員風のエプロン姿だった。黒いロングヘアですらりとした体形の美人だが、そのメガネの奥で光る、睨むように吊り上がった目が、近寄り難い印象を作っていた。

「おや、覚えていらはりましたか。これはおーきに
 ウチは関西呪術協会の呪符使い、天ヶ崎千草と申します。よろしゅう」
「くっ!ふざけやがって!やい、いい加減木乃香の嬢ちゃんを返しやがれ!」
「それはこちらの台詞どす。えーかげん諦めて帰りい。子供は寝る時間やで」
(刹那さん、あの人…)
(ええ、ここで決着をつけるつもりですね)

 カモと誘拐犯――千草が話している間に、ネギと刹那は周囲の様子を探っていた。
 千草がここで立ち止まったのは、おそらくこの先に人払いの呪符がないからだろう。千草が逃げ回った先には、必ず人払いの呪符が仕掛けられていた。どうやら千草も魔法のことを世間に曝したくないという点では一緒らしい。ならば人払いの呪符がないこの先まで、魔法を使った追跡劇をやるつもりはない。だからここで決着をつけておきたいはずだ。
 しかも、こういった時のことを考えて何か罠をしかけているかもしれない。
 そう思って魔力を探るが、しかしこの階段にはそんな気配は何も感じない。

(罠じゃないのかな?)
「ほな、ウチも忙しいし、この辺にしてもらいまひょか?
 ―――三枚目のお札ちゃん、いかせてもらいますえ」

 千草の意図が読めないうちに、千草は新たな呪符を手にする。

「…っく、させるか!」
「あっ、刹那さん!」

 ネギの制止を振り切り、刹那は飛び出した。
 罠の不安はまだあるが、もしあの呪符が電車で使われたのと同じレベルの術ならば、場合によっては追跡が不能となり、完全に千草を見失ってしまう危険性がある。
 発動前に呪符を潰せば…!
 だが、刹那の動きより千草の術の構成速度が速い。札まで残りもう数歩という距離で、千草の術が完成した。投げられた呪符を中心に魔力が渦巻き――

「喰らいなはれ!
 三枚符術!京都大文字焼き!」

 言霊に従い、魔力は現象を引き起こす。刹那の目の前に巨大な火柱が上がった。その業火は上からは『大』の字に見える。

「うわっ…!」

 刹那は瞬時の判断で足を止め、直撃を避けた。だがその熱波に押されてたたらを踏む。だが、後ろに倒れかけたその体を支えるものがいた。
 アスナだった。

「ネギ!」
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 アスナが振り向きもせず呼んだ声に、ネギは呪文で応える。

「吹け(フレット) 一陣の風(ウネ・ウェンテ)
風花(フランス) 風塵乱舞(サルタティオ・ブルウェレア)!」

 唱え呼び出したのは暴風だった。
 一陣のそれは、壁のようにネギ達に立ちふさがっていた炎を吹き消す。

「な、なんやぁ…っ!」

 煙と風の向こうから、千草のうろたえた声が聞こえる。こんなあっさりと、あの術が吹き消されたのが予想外だったのだろう。

((チャンス…!))

 ネギとアスナは同時に思う。
 相手が驚いた時やうろたえた時――精神の均衡が崩れた時こそ、流れを引き寄せるチャンスだ。
 合図もなく、二人は同時に動く。

「アベアット!」
「契約執行(シス・メア・パルス) 180秒間(ペルケントウム・オクトーギンタ・セクンダース)! ネギの従者(ミニストラ・ネギィ)神楽坂明日菜(カグラザカ・アスナ)!」

 呪文が終わると同時に、ネギは杖に跨り直進。アスナはその後ろに飛び乗る。

「逃がしませんよ!」
「桜咲さん、行くよ!」

 アスナが飛び乗ると同時に、ネギは水に濡れたどてらをはためかせて、地面を這うように加速した。

「は、はいっ!」

 アスナの掛け声に、少し送れて返事を返し、刹那もまた駆け出す。その時には、既にネギ達と千草の間の距離は半分にまで詰まっていた。
 そのことに、千草は初めて焦りを表情に浮かべた。

「え、猿鬼!」

 千草が呼ぶと、後ろに脱ぎ捨てられていた気ぐるみが、まるで中に誰かがいるように飛び起きた。

「ウキーッ!」

 式神、猿鬼。天ヶ崎千草の善鬼だ。
 その大きさや、体形のバランス悪さに似合わぬ運動能力で、猿鬼はネギ達の進路に割って入る。さすがに着ぐるみが動くとは思っていなかったネギとアスナだったが…

「僕が目を…!」
「OK!」

 もともと何らかの反撃や防御策は来ると予想は出来たのだろう。
 交わす言葉は一言で十分。
 猿鬼と衝突する直前、アスナはネギの杖を足場にして右に、ネギはその反動を利用して左に曲がる。

「ムキャ?」

 二つに分かれた目標のどちらを追うか迷い、猿鬼は動きを止める。その隙を突くように、ネギは呪文の発動キーを唱える。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
「熊鬼!」

 だが呪文が出来上がる前に、千草はもう一つの式神を呼んだ。
 護鬼、熊鬼。
 風呂場で刹那の前に立ちふさがった熊の着ぐるみだった。名に冠した護の文字に恥じぬ防御力を持っている。不安定な姿勢から放つ魔法では倒せないだろう。
千草はネギの魔法を見届ける前に片割れ――素人中学生を見る。彼女は着地してこちらに駆け出したところだ。

(貰ろうた!)

 千草は、先ほどのショッピングモールで罠として使った、爆破の術を仕込んだ札を構える。だがいざ投げつけようとしたその時、視界の隅、自分の頭上に何か不審な影を見た。
 伏兵かとも思い見上げると、それは一枚の布―――どてらだった。
 どこからこんなものがと訝しがる間に背後、熊鬼のさらに向こうから呪文が聞こえた。

「風花 武装解除(フランス・エクサルマティオー)!」

 それは東洋魔術師である千草も知っている有名な非殺傷系の戦闘魔法、武装解除。蝶ネクタイ以外は全裸(という表現もおかしいが)の熊鬼には、もっとも無意味なはずの魔法。
 なぜそんな魔法をという問いが、千草の頭の中で明確な言葉になるより先に、答えが示された。
 ネギの魔法は千草でも熊鬼でもなく、千草の頭上のどてらに直撃した。
 そして、それを千草が目撃した次の瞬間、視界が花吹雪に覆われた。


「煙幕!?」

 猿鬼の振り下ろすようなパンチを夕凪で受け流しながら、刹那はようやくネギ達の意図に気付いた。
 ネギとアスナが猿鬼を前に二手に分かれる直前。ネギは左に曲がると同時に、浴衣の上に羽織っていたどてらを脱いで上に放り投げていた。そして直後、武装解除の呪文でそのどてらを直撃し、花びらに変えた。しかもアレンジを加えた魔法だったらしく、生じた花びらは通常より遥かに多く、千草の視界を覆い隠した。
 そして、千草の視界が花で埋め尽くされた隙を突いて、アスナは叫ぶ。

「木乃香を返せぇぇぇぇっ!」
「くっ!そ、そこやっ!」

 千草は勘と聴覚を頼りに呪符を投げるが、当たらずに階段の一部を削っただけ。
 足元近くで石が砕けた音を聞きながらも、アスナは怯まず加速する。

(表の世界で生きてきたとは思えない胆力…!)

 アスナは千草を迂回するように階段を上り、千草より数段高い位置にきたところで真横に跳躍。千草の真後ろから、ハリセン――ハマノツルギを振りかぶり…
 だがアスナの頭上、刹那は白刃の閃きを見た。


「神楽坂さん!」
「!?」


 アスナが頭上から来る何かに気付いたのは、刹那の声を聞いたその瞬間だった。
 反射神経に頼った動きで、アスナはハマノツルギを横ではなく頭上に向けて振る。

 ガキンッ!

 ハマノツルギは紙のような素材で出来ているはずなのに、鳴ったのは金属同士のせめぎあう音だった。
 無理な体勢で振ったことと、ハマノツルギから受けた重さで、アスナは姿勢を崩す。

「うわっと…!」
「あ〜〜〜れ〜〜〜」

 だがその反動を空中で受けた相手も、やはり姿勢を崩したらしい。
 アスナが階段を転げ落ちながらもしっかり受身を取れたのに対して、襲撃者はボテという音を立てて墜落し、ごろごろと転がる。

「いたた…な、何?」
「どうも〜。神鳴流です〜。おはつに〜」
「し、神鳴流って…!」

 さっき聞いたばかりの流派―――魔を討つための戦闘集団とかいうものの名前に、アスナは顔色を変えて乱入者のほうを向き

「………え、あ、アンタがそのナントカ流とかいう…」
「ナントカやなくて神鳴流です〜。私は月詠いいます〜。よろしゅう」

 おっとりとした動作で頭を下げるのは、メガネをかけた、自分と同い年くらいの小柄な少女だった。着ている服は白を基調にした、フリルの多用されたワンピース。両手に大小二刀が握られているところだけが、唯一剣士らしい部分だった。

「こんなのが神鳴流とは…時代も変わったな…」

 猿鬼と戦いながら、刹那が年寄り臭いことを言うのが、アスナにも聞こえた。おそらくそれは月詠にも聞こえたことだろうが、しかし彼女自身は気にした様子もない。

「見たところあなたは素人さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気でいかせてもらいますわー」
「え。ちょ、ちょっと待ってよ!」

 やりあうつもりらしい月詠にアスナは戸惑う。月詠の外見は自分と同じかそれより年下。そんな相手に暴力を振るうのはためらわれる。それに…

「そ、その持ってるのって本物の剣でしょ!そんなの使ったら怪我じゃすまないじゃない!」
「はい〜?」

 アスナの言葉に、月詠は目を丸くして首をかしげる。

「何を言いはるんです〜?
 命のやり取りなんですから当然ですやろ〜」
「え…」

 何を言っているのか?命のやり取りって…。
 理解の不能に停止しかける意識が、不意に今までの追跡の過程を思い出させる。
 電車の大水。ショッピングモールの罠。そしてさっきの炎。
 それらを自分達は無事に乗り越えることが出来たが、だがそのどれもが、一つ間違えれば怪我ではすまないもので…
 下手をすれば、死んでしまって…

「ではひとつ、お手柔らかに…」
「ちょっ…」

 アスナは何か言おうとして、しかし言葉はまとまらない。そして月詠は、言葉をまとめるだけの時間を与えなかった。


「か、神楽坂さん!?」

 猿鬼の肩越しに見える、月詠とアスナの戦いは、完全に月詠が押していた。月詠の二刀流から繰り出される連撃は速く、アスナはついていけない。

(いや、それだけじゃない)

 月詠と戦い始める直前から、アスナの調子はおかしかった。今まで完全に振り切っられれいた動作が、どれもこれも中途半端なところでとまっている。
このままではすぐに仕留められてしまう…!

「邪魔だ!」

 刹那は目の前の猿鬼に、唐竹に夕凪を振り下ろす。

「ウキャ!」

 猿鬼は当然のように、それを白羽取りするが、刹那はとまらない。
 身を縮めると、猿に押さえられた部分を支点に猿鬼の懐にもぐりこみ、柄頭を胴体に叩き込む。

「せやっ!」
「ムキキャ!?」

 猿が体を浮かばせたところで、刹那は自由になった夕凪を、サルの胴体に向けて振りぬいた。

「斬魔剣!」
「ム゛ギッ!?」

 断ち割られた猿鬼は水に溶かした絵の具のように、大気に消えていく。
 だが、その消滅を見届けることなく、刹那はアスナと月詠の戦闘へと向けて駆け出した。


「た、たぁぁぁっ!」

 ようやくアスナがつかんだ反撃の機会だったが、しかし振り下ろしたハマノツルギは、その動きに精細を欠いていた。

「やぁー」

 月詠はハマノツルギの軌跡を読みきり紙一重、帽子を跳ね飛ばさせるだけでかわし、さらに振り下ろされたハマノツルギを、左の小太刀で上から押さえつける。

「貰いましたー」

 笑顔で言う月詠は既に右手の刀を引き、力を込めていた。次の呼吸でアスナにとどめの一撃を叩きつけるために。

「…っ!?」

 アスナは息を呑み、思わず目をつぶる。その肩が、後ろから引っ張られた。

「ざーんがーんけーん」
「雷鳴剣!」

 下から振り上げる月詠の攻撃に、真上から迎撃の一撃が降った。
 刹那だった。
 両刀に込められていた気は、正面衝突により虚空に弾けて爆発する。その隙に、刹那はアスナを抱えて跳躍して、階段の下まで退く。

「あーん、もう少しやったのに〜」

 月詠はその場にとどまり追撃はせず、しかし構えは解かない。

「くっ…神楽坂さん、大丈夫ですか?」
「…っ」

 それを見据えながら、刹那はアスナに声だけで尋ねる。しかし、帰ってきたのは言葉ではなく、小さな震えだった。それを感じ、刹那は初めてアスナを見る。

「ホントに…殺すつもりなんだ…」

 アスナは、震えていた。アスナが見ているのは自分の浴衣の袖だった。袖の布は月詠との戦闘で、半ばまで切り裂かれていた。あと少し行っていたら小太刀は腕まで達して、アスナに裂傷を刻んでいたはずだ。

(まさかこの人は…!)

 アスナの血の気のうせた顔を見て、刹那は自分の勘違いに気付いた。
 ネギとの見事な連携も――
 先ほどの千草の攻撃でアスナが怯まなかったことも――
 アスナがそれらを行えたのは、命をやり取りするということへの、死の恐怖に打ち勝っていたからなんかではない。ただ、その実感がなかっただけ。

(迂闊だった…!)

 自分は何度か、アスナさんは一般人だから、と言っておきながら、しかしどこかでアスナをこちら側の人間並みに頼っていた。
 いくらエヴァとの戦いをネギと共に体験していたとしても、まだ彼女は一般人なのだ。

「うわぁっ!」

 刹那が歯噛みしている間に、状況はさらに悪化した。
 階段の上ではネギが熊鬼と、そして額に2という文字が書かれた猿鬼の二匹に追い回されていた。助けに行こうかと動こうとするが、月詠の牽制のために動けない。
 どう動こうかと迷っているうちに、猿鬼の尻尾が、熊鬼の爪をぎりぎりに回避したネギの頭を直撃した。

「―――っ!?」

 ネギは声を上げることも出来ずに、階段の下へと叩き落される。

「ネギ!?」

 それを見たアスナは、ネギの落下地点へと駆け、寸でのところでネギをキャッチする。
 動けるだけ月詠から刹那が助けたときよりましだったが、それでもアスナの顔は青いままだった。

「ネギ、大丈夫なの!?ネギ!?」

 涙目で呼びかけるアスナだが、ネギは答えを返さない。

(まさか、死…!)
「う、うう…」

 最悪の想像をしかけるアスナだったが、ネギの呼吸があることに気付き、少し落ち着きを取り戻す。しかしうめき声を上げるだけで、ネギは起きる気配はない。完全に気絶しているようだった。

「ホーホホホホ!
 ほな、仕上げといきまひょか」

 千草がいうと、小猿たちが一枚の粘土板を持ってきた。千草はそれに手のひらを置く。
 次の瞬間、ネギたちを取り囲むように、何枚かの土の壁が、石造りの階段を突き破って生えてきた。

「なっ!?」
「きゃ、何よ、これ!?」
「ふふふっ、土角結界いいます。足元をご覧なはれ」

 言われて刹那とアスナは自分の足元を見る。そして息を呑んだ。自分たちの足が、土に変わり始めていた。そして、その侵食は上のほうへと移ってきている。

「ひっ…!」

 その光景に息を呑むアスナ。しかし刹那はそれ以上に驚いたことがあった。

「これは…霊力を利用しているだと!?」
「ようお分かりですなぁ。そうどす。ちょいとツテがありましてなぁ。異能に頼るのは由緒正しい呪符使いとしては癪やけど」

 千草の肯定に、刹那は不審を得る。東西和解反対とはつまり孤立主義。となれば当然、西洋魔術師と同じく余所者である霊能力者の力を、千草が借りるとは思えない。まして関西における霊能の蔑称である異能という言葉を使っているならなおさらだ。
 だが、その詮索をしている暇はない。侵食は既に太腿まで及んでいる。

「斬鉄閃!」

 周りに立つ土の壁を壊せば術も崩壊するだろうと、刹那は夕凪で螺旋状の気を放つ。だが壁の直前で、放たれた気は透明な壁で遮られる。
 脱出防止のための、内向きの結界だ。

「…!」
「無駄や無駄。さあ、あきらめて新しい観光名所にでもなりなはれ!」
「こ、木乃香をどうするつもりなのよ!」

 千草の勝ち誇った言葉に、アスナの中の負けん気が刺激され、少しだけ恐怖から時はなられる。千草は木乃香を担ぎなおすと顎に手をやり、楽しげに言う。

「そやなー。まずは『アレ』の復活を手伝ってもらった後、呪薬と呪符でも使こうて口を利けへんようにして。上手いことウチらの言うコト聞く操り人形にするのがえーな。クックック…」
「なっ…!?何ですって!?」
「貴様ぁっ!」

 千草の言う『アレ』とは何か分からない。だが木乃香をそんな目に合わすわけにはいかない。刹那もアスナも何とかしようと身をよじるが、既に足は完全に動かない。

「ウチの勝ちやな。やっぱり西洋魔術師も、異能者も相手やない。
 あの横島とか言う小娘も、跡形もなく消し飛んどるはずや」
「よ、横島さんが!?」

 その言葉に、アスナの目の前が絶望で暗くなる。
 別行動している横島は最後の希望だった。それがやられてしまったのならこのままでは本当に木乃香が連れ去られて…!

「ほななー、ケツの青いクソガキども。おシーリぺんぺーん♪」
「くっ、お嬢様!このちゃん!」
「木乃香!木乃香ぁぁぁぁぁっ!」

 肩に担いだ木乃香の尻を叩いて挑発する千草。しかし刹那もアスナも、叫ぶ以外何も出来ない。

「ホーホホホホホ!」

 ネギ達が完全に石に変わってしまうのを見届けるつもりか、千草は三人を見下ろして高笑いをして…


「気分いいとこ悪いが、返してもらうぜ」


 千草の運がよかったのは、その時転んだことだった。

「へっ?」

 すぐ背後で言われた言葉に驚き、階段を踏み外して転んだ。そのことが、彼女の首を切り落とそうとした閃きを、ただ数本の髪の毛を持っていくだけのものにする。
 だが、その拍子に木乃香を取り落としてしまう。

「し、しもた!」

 慌てて小猿に拾わせようとするが、だがその小猿たちより早く、木乃香の体を掻っ攫った腕がある。それは真っ黒な袖と手袋に覆われた腕。その腕は片手で木乃香を抱えると、跳躍した。
 そこで初めて、千草は腕の主の全容を見た。
 該当に照らされたその姿は、黒いマントの下に赤い装甲が施された、やはり黒の服を着た少女。

『横島さん!』

 刹那とアスナの声で、千草はその人影の名前を思い出した。
 それは、自分の雇った烏族が罠にはめて殺しているはずの異能者。人界最強の道化師と呼ばれる者の血族

「横島…忠緒!?」


 横島は右手で木乃香を小脇に抱え、左手には何かを持っていた。
 自由になるのは右手の手首から先だけ。それで十分。
 まずは手のひらに文珠を呼び出し、手首のスナップだけで投げる。その次に、タロットを取り出す。

「双児!歳星に力与え戦輪を成せ!」

 使ったのは木星を示す『運命の輪』と双子座を示す『恋人』。木星――木行は八卦において巽と震――風と雷を示す。
 言霊と霊力に応じて作られた風雷の戦輪の数は八つ。千草と月詠に一つずつ。熊鬼と猿鬼に三つずつ飛んでいく。

「っと!」
「てや」

 千草は呪符で、月詠は小太刀の一振りで防ぐが、式神二体は防ぎきれずに紙に戻り、その紙も、地面につく前に燃え尽きた。
 それと同時に、横島の投げた文珠が土角結界の真上で発動した。

《解》

 霊力による冷光が消えると、アスナたちの腰まで来ていた石化が解けた。まるで表面にコーティングされたチョコが剥げるかのように、アスナと刹那は自由を取り戻す。
 その直後、二人の少し前に、横島が着地した。
 そして横島は、まるで場にそぐわない笑顔でこう言った。

「よう、アスナちゃん、刹那ちゃん。無事そうだな。ネギは大丈夫なのか?」
「ぶ、無事でも大丈夫でもないわよぉ…
あ、あのね!ネギが頭を殴られて気絶してて、息はちゃんとしてるんだけど…!」
「大丈夫だ。霊的な攻撃じゃなくて即死じゃなければ、大体文珠で何とかできる」
「よ、よかった…」

 横島の気楽な様子に、アスナは脱力感と安堵感を得た。まるで保護者に出会えた迷子のような心境だ。
 良かった。これで何とかなる。

「よ、横島さん…?」

 胸をなでおろしたアスナは、横で刹那がかすれた声を出したのを聞いた。

「どうしたのよ、桜咲さん?」

 首を傾げて言うアスナだったが、しかし刹那はそれに答えず横島を、性格には横島の左手が持っているものを指差す。

「それは、何ですか?」

 刹那の指先にしたがって、アスナは横島の手にあるそれを見て――

 見た瞬間は、それが何か分からなかった。

 一抱え程度のその塊は、そこらかしこから赤い雫を垂れ流し、地面に同じ色のスポットを作っている。
 それを見てから初めて、アスナは異臭に気付いた。
 生臭さと似た、しかし料理などで感じるそれとはどこか違う、嗅いだことのない異臭。

 ナンナンダロウ、コレハ?

 硬直化した意識の中、しかし頭のどこかが、その塊の正体を叫んでいた。
 それは…生き物―――生き物の一部だった。

「こ、殺して…くれ…」
『―――ッ!?』

 鳥の頭を持った生物の胴体部分。その肉片と呼んでも差し支えのないような生物の残骸が、意味の取れる言葉を放った。それを聞き、刹那とアスナは無言の悲鳴を上げる。
 刹那は横島が持っているそれの正体を知っているがゆえ、アスナ以上に衝撃を受けていた。
 烏族だ。自分の同族とも言える鳥と人の特徴を兼ね備えた人外の存在。
 だが、それが烏族だと分かるのは、かろうじて残っている兜に包まれた顔があったからだ。それ以外の器官―――手も、足も、翼さえも、その肉片からは欠如していた。その胴体すらも無傷ではない。骨盤もすでに取り去れ、胸から僅かに内臓がぶら下がっている状態だ。
 いくら烏族が超常の生物とはいっても、このような状態で生きているわけがない。既に死んでいるべきだ。
 その死んでいるはずの烏族を持っている当人は、しかし何でもないような口調を崩さない。

「ん?ああ。こいつにちょっと聞きたいことがあったから死なないように文珠で、な」
「う、嘘、だって…ねぇ…」

 アスナは会わない歯の根で言葉を作ろうとする。だが、もはや自分ですら何を言っているのかも分かっていない。
 何が『嘘』なのか、何が、『だって』なのか。
 分からない。ただ目の前の事実を否定したいという、心の動きのなせる業だった。
 そんなアスナの様子を見て、横島は少しいぶかしんだ後、はっとした表情を作る。

「…悪い」

 横島は呟いて視線を逸らし、木乃香をそっと地面に下ろした。

「おい。お前の依頼主はこの女で間違いないか?」
「ああ…そうだ…」

 かすれた、意思の薄弱な声が、左手の烏族から聞こえる。
 横島はそうか、と頷くと

「んじゃ、約束だからな」

 そう言って、烏族の文珠を解除した。それだけで、すぐに烏族は灰になって消える。そのあっけない死に様が、かえってアスナに恐怖感を与えた。そしてそれは、修羅場に慣れているはずの刹那も同じだった。
 自分達が、今、死と隣り合わせの場所にいる。その実感が、いよいよアスナ達にのしかかってきた。
 だがそんな彼女達と対照的に、月詠は平然としていた。

「わざわざ生かして痛めつけるなんて、悪趣味ですなー」
「人聞きの悪いこと言うなや。この方法が一番情報の取り落としがないから仕方なくやってんだ。でなきゃ野郎なんて痛めつけるかよ。ま、女を痛めつける趣味もねーけど」

 心外だという風に答える横島。
 二人の、まるで小物の趣味でも語り合うかのような口調が、アスナの中の違和感を増す。

「アホな…あの罠から逃れれた言うんか!?」
「まあ、実は見たことあるからな。それに言ったろ、またお会いしましょうってな」

 おどけた口調の後に横島はさて、と前置きをして、声のトーンを下げた。

「手を引け」

 一言だけで、場の空気が変わり、横島からのプレッシャーがます。それは、守られる立場である、アスナ達にも感じられた。

「な、何をいいますん?退けといわれてはいそーですかと…」
「言ったはずだぜ。調子に乗りすぎると、見逃せねぇぞともな。
 今回はちょっと調子に乗りすぎだ。綺麗なお姉さんが好きな俺としてはこのまま帰ってもらいたい。そっちの将来性に期待できそうなメガネの可愛い子もさ」
「可愛いだなんて照れますえー」
「黙りい!異能の分際で呪符使いに勝てると思おてるんか!?」

 両手を頬に手を当てて身をよじる月詠と、呪符を構える千草。
 それを見て、横島は首を横に振る。

「勝てる勝てない以前に、お姉さん。メドーサに唆されたんだろ?」
「…誰のことや?」
「とぼけても無駄だぜ。俺に仕掛けてくれた火角結界も、さっきの土角結界も、以前見たことがある。俺の情報もアイツからだろ?
 止めておけよ。メドーサの奴はアンタのことをせいぜい駒程度にしか考えてない。利用されるのが落ちだぜ」

 横島は言うと、右手に栄光の手、左手に文珠を作る。

「木乃香ちゃんや親書の件から手を引いて、メドーサのことを教えてくれないか?
 そうしたら、アンタがしたことに対して俺達から関西呪術協会の長に口を利いてやってもいい」
「横島さん!?」

 千草が木乃香にしようとしていたことが許せない刹那が、後ろで抗議の声を上げる。だが、横島は肩越しに一瞥しただけで取り合うつもりはない。
 だが、取り合うつもりがないのは千草の方も同じだった。

「ハン!いい気になるんやないで!すぐに奪い返したる!
 月詠はん!」
「はいーv」

 答えた月詠は重心を沈め、駆け出しの準備をする。
 それに反応して刹那も夕凪に手を添えるが、その視界を横島が半歩ほど動いて背中で塞ぐ。

「刹那ちゃんはネギ達のことを頼む」
「…分かりました」

 有無を言わさぬ横島の言葉に、刹那は頷いて一歩下がる。

「おや?神鳴流のセンパイは戦わんですかー?
 まー、それならそれでええですけど。横島はんもおもしろそうやし」
「おいおい…ひょっとして君って、バトルジャンキーってやつか?」

 月詠の声や表情に見える歓喜の色が、とある友人のそれと重なって、横島は苦笑いを浮かべる。月詠はその横島の評価に不満を示した。

「ちゃいますよー。そんな見境なく戦うように言わんどいてーな。
ウチはただ強い女の子が好きなだけですー」
「女の子同士かよ。不毛だなぁ」
「アンタがそれを言うか!?」

 月詠の後ろで、ついさっき横島にナンパされていた千草が突っ込みを入れる。
 横島は言われて自分が現在女の子であることを思い出し、自嘲をうかべた。

「ま、そりゃそうかもな。
 さてと、それじゃあ最後通告だ。
 この件から手を引け。関西呪術協会の長には便宜を図ってやる。嫌なら、殺しはしないが、少なくとも、もう二度と戦えないくらいの傷は負わせる。
 どうする?」
「異能が偉そうに!」

 千草が、拒絶の言葉と一緒に投げつけてきた呪符が、開始の合図だった。


「サイキックソーサ!」

 横島の投げた霊波の盾が、千草との中間地点で呪符と激突し、両方が爆発四散する。
 霊力と魔力の爆炎をすり抜けるように、白い姿が駆け抜ける。

「たぁーーー」

 鋭さに欠ける気合だが、しかし斬撃の鋭さは本物だ。一瞬といっていい時間で、月詠は横島を攻撃範囲に捉える。

「とぉ」

 一刀目、長い刀での横凪を、横島は上半身を逸らすことで避け

「たぁ」

 しかし二撃目、逆手に持った小太刀の突き出しはよけられない。

(これで終わりとは拍子抜けですー)

 失望と、そして次の獲物である刹那との戦いへの夢想が月詠の意識に上る。だが、それは横島の胸に突き刺した、小太刀から返ってきた感触に邪魔された。

「なぁっ?」

 まるで空気を刺したような、無感触という感触だった。驚きと不信をもって横島を見ると、止めを刺したはずの横島は、まるで陽炎のように掻き消えるところだった。
 幻影、あるいは分身。
 仕掛けに気づいた月詠は、己の周囲全てに認識を向ける。
 右か、左か、後ろか、真上か…?
 だが答えはどれでもなかった。
 陽炎の揺らぎの隣、月詠の視界の端に黒い影が現れた。

「前…」

 横島が消えたのは偽の横島が立っていた場所の一歩分隣だった。
 《幻》が、横島の使った文珠。自分の映像を自分のすぐ隣に作り、自分自身はその幻影の効果範囲に隠れて姿を消す。
 間合いを取ろうとする月詠だったが、後ろへの跳躍は左手を捕まれて止められる。ならば、と右手の小太刀で斬りつけようとするが…

「悪いな」

 だがそれより早く、衝撃が来た。

「くあぁぁっっ!!!」

 自分のものとは思えないほどに、鋭く大きな悲鳴。バランスを崩し階段を転がりながら、月詠は二つのことに気付いた。
 一つは、自分が感じた衝撃は物理的なものでなく、感覚の許容範囲を超えた痛みだったということ。そしてもう一つは、自分の腕が、肩から先がないということ。

 月詠の左手は刀を持ったまま、横島に引きちぎられていた。


「―――っ!?」

 アスナは、声にならない悲鳴を上げた。
 横島が月詠という剣士の腕を引きちぎったのを見てしまった。
 厳密にはほとんどを霊波刀で切り落とし、引きちぎったのは最後の皮だけだった。だがそれでも、目の前の事実は変わらない。
 横島が、自分と同い年くらいの少女の腕を切り落とした。
 夢だと思いたい。悪夢だと思いたい。現に意識は、熱に浮かされたよう。
 だが、月詠が上げた悲鳴を聞いた聴覚が、血の臭いを嗅ぎ付ける嗅覚が、街頭の下で繰り広げられた惨劇を目撃した視覚が、それらが全て現実だとアスナに告げる。

 横島が、人を傷つけた。

 足元が崩れていくような衝撃を受けながら、アスナはネギを抱く腕に力を込めた。


「ああ。やっぱ女の子に手を上げるのは後味が悪いな」

 横島は言いながらも、しかし動きは止めなかった。
 月詠の左腕を持ったまま、足裏にサイキックソーサを展開。
 サイキックブースト。
 瞬動に匹敵する加速で横島は一気に階段を駆け上る。

「ひっ!」

 高速で流れる視界の中で、横島は千草が震える手で呪符を構えたのを見た。
 その色を失った顔を見て、横島は気付く。
 ああ、この人は裏の世界とやらではビギナーだ、と。
 呪符に魔力が込められるより先に、横島は持ってきた月詠の腕を投げつけた。

「きぁゃっ!」

 投げつけられた、まだ暖かい人体の一部に、千草は腰を抜かして術の構成を解いてしまう。

「やっぱり、こういうの慣れてないんだな」

 横島は呟いて、もう一度サイキックブーストを展開。

「裏の荒事とか言ってる割に、腕の一本や二本で術を中止するなんて…」

 二つ目のブーストで丁度、尻餅をついた千草の前に立つ。

「こんな三流相手に…」

 ずれたメガネの奥、恐怖で引きつった表情を何の感慨もなく見つめながら、横島は栄光の手を振り上げ…

「協力しないといけないとは、ずいぶん大変だな。


 メドーサ!

 叫び、横島は真横の虚空に霊波刀を振るい…


 金属同士の重い衝突音が、無人の駅に響き渡った。


 次の惨劇を恐れて目とを閉じたアスナだったが、しかし聞こえてきたのは悲鳴ではなく、金属同士のぶつかり合った音だった。
 顔を上げてみると、誘拐犯の前に立つ横島は、振り上げた光で出来た剣で、槍を受け止めていた。
 槍。唐突に現れた二股の槍は、まるで虚空を突き破るかのように、空中から生えていた。

「へぇ…分かってたのかい?」

 女の―――毒花の蜜のような甘く、しかし致命的な毒を含んだ声が響く。それと同時に、やりの周囲の空間が裂けた。

「な…!?」

 幻想的、というにはあまりに苛烈な光景のあと、横島のすぐ隣に女が現れた。その女の腕は、横島が受け止めた二股の槍を持っている。
 女は美しかった。銀の髪に白い肌。女性として完成形とも言えるほどの豊かな肢体。だが、そこには美しさより淫卑さ、淫卑さよりも邪悪さが思われた。

 冒涜的で、挑発的で、そして邪悪な、人にあらざる美。

「悪魔…それもかなり上位の…」

 突然のことに呆然とするアスナの耳に、刹那のかすれた呟きが聞こえてきた。


「よう、久しぶりじゃねぇか。すこし老けたか?」
「成長したと言いなよ。アンタの好みはこのくらいだろ?」

 まるで、久しく会わなかった友人との再会のような言葉。だが、二つの言葉がぶつかる間では両者の得物が力を競い合い、微妙な均衡の上で噛み合っている。
 その均衡を打ち破ったのは、横島だった。栄光の手を傾けて槍をはじき、横島はサイキックブーストで後ろに跳ぶ。次の瞬間、横島の胴体があった場所を、光の束が貫通する。霊波砲だ。

「ひわわっ!?」

 足元に着弾した千草が、尻を地面につけたまま後ずさるが、横島はそんなことを気にしている暇はない。
 空中でもう一つサイキックブーストを出して姿勢を制御しながら、霊波砲が撃たれたほうを見て叫ぶ。

「デミアン!?」
「はーはっはっはっ!久しぶりだな、横島ぁっ!」

 子供の姿に、しかしあまりに歪んだ身をその顔に浮かべて、デミアンは叫ぶ。その下半身は、既に浮腫の塊のようになっていた。さらにその背後には

「って、ハエキングもか!?」
「ベルゼブルだっ!?」

 巨大な腹を持つ醜悪な外見の魔族が叫び、それに応じるように無数の羽音が横島に殺到する。ベルゼブルクローンだ。

「にゃろ…!」

 空中の横島はサイキックソーサを斜め下、ネギ達のいる方向に展開。
 刀を構えた刹那の前に、墜落するような勢いで降り立ち…

「火の素を持ちし四宮よ!螢惑に力与え火柱を成せ!」

 四枚の星座のカードと火星を示す塔のカード。
 計五枚のタロットによって作られた火焔は、千草の術を遥かに凌駕した。階段両脇の壁で切り取られた夜空と、そこに飛翔していたクローンたちを焼き尽くす。

「へぇ…しばらく会わない間に、ずいぶんと面白い術を身に着けたじゃないかい?」
「時給を上げるためにがんばったんだよ」

 しかしそれだけの技を見ても、メドーサはひるんだ様子がない(デミアンは時給という単語で何か発作のような震えを見せたが、後ろにいたベルゼブルに諭されて、深呼吸をして落ち着いた)。
 横島は、改めてメドーサの姿を見た。以前、コスモプロセッサの事件で会ったときのメドーサは自分と同い年ぐらいの外見だった。しかし今は二十代半ばほど――初めて出会った頃と横島の体を利用して復活した後の中間、といった風な外見をしている。大分、本来の力を取り戻したとことなのかもしれない。

「乳がでかくなったこと以外、いいこと無しだな」
「結局それかい。相変わらずふざけた奴だよ」

 呆れたような口調で言うが、その目は油断がなく、されとて必要以上の緊張はない。
 油断がない理由は、かつて幾度となく煮え湯を飲まされた経験からだろう。そして必要以上の緊張がない――余裕があるその理由は…

「ずいぶんと団体さんなんだな。京都に慰安旅行か?」
「ああ。ちょいと気に入らない奴を袋叩きにしようって趣旨のね」

 言葉を交わす間にも、横島は自分達の周囲――自分達の死角になるところも含めて、たくさんの強大な魔力――ネギ達魔法使いの使う魔力ではなく、魔族の使う魔力、いわゆる霊魔力が出現してきたのを感じていた。

「何か覚えのない気配も感じるんだが…」
「そりゃそうさね。少なくとも半分は、アンタを倒して箔をつけようって考えている奴らさ。『人界最強の道化師』の妹にして、文珠使いであるアンタをね」
「……そういうことかよ」

 言われて、横島は大体の事情を飲み込んだ。
 おそらくメドーサが集めたこれらの戦力のほとんどは、横島が《人界最強の道化師》本人であるとは知らされていない。自慢ではないが、自分の名前は神魔の間では鬼門とされている。それを知って挑んでくる奴は多くないはずだ。

(ま、俺も自分がそうだってばらしたくないから丁度いいな)

 アスナに知られたくないというのもあるが、それ以上におそらく現状を覗いているだろう、他の魔法使いにも知られたくない。どうやら《人界最強の道化師》とは、魔法界ではあまり、というかかなり悪いイメージを持たれているらしい。ここで自分の正体をばらそうものなら、自分を送り込んできたオカルトGメン――美神美智恵にどんな迷惑を与えることになるか、そしてそれが美神令子を経由して、どれほど増幅されて自分に降りかかるか分からない。

「メ、メドーサはん!た、助かりましたえ。おおきに〜」
「ハン。アンタにはまだやってもらいたいことがあるからね」

 メドーサにすがりつくように言う千草に、メドーサは不機嫌そうに言う。
 一方、千草は万の援軍を得たように、気勢付く。

「さあ!今がチャンスですえ!ここであの女をいてかまして木乃香お嬢様を奪いなはれ!」
「さ、させるか!」

 叫んだのは刹那だった。夕凪を抜き放ち横島の隣に立つ。しかしその心は、ほとんど絶望していた。
 周囲から感じる気配もさることながら、特に目の前の三体――メドーサ、デミアン、ベルゼブルから感じる気配は、それぞれが停電の夜のときのエヴァンジェリンに匹敵していた。
 横島が一対一ですら、苦戦するであろう相手に、神鳴流とはいえ見習いに過ぎない自分がどれだけ通用するかは、心もとない限りだ。

(しかし、やらねばならない!)

 自分の後ろには木乃香がいる。そして木乃香を取り戻すために力を貸してくれたネギやアスナがいる。自分が彼らを守らなくては!最悪、あの醜い姿を晒すことになっても…!

(落ち着け、刹那ちゃん。大丈夫だ)
(…横島さん?)

 横島は刹那にだけ聞こえるように言って、右手で刹那を制する。
 刹那は根拠を問う視線を横島に向けるが、横島の目はメドーサ達を見つめるだけ。

「へぇ、来るつもりか?言っておくが俺には奥の手がまだまだたくさんあるぞ。千手堂の観音様状態だ」
「はんっ!張ったりはよしな。アンタの状況は全部調べがついてるさ。
 ―――だが、今日のところは顔見せだけだ」
「なっ、なんでや!?」

 メドーサの発言に千草が噛み付いた。

「今の状態なら、あのクソガキ共を袋叩きに…!「黙りな!」あひぃっ!」

 メドーサの一喝に、千草は身をすくませる。

「ん?俺を見逃していいのか?そいつが言うとおり千載一遇のチャンスだぜ?」
「フン。確かに『今の状態のまま』のアンタを倒すだけならね。だが……
 ――――ちっ、もう来たか」

 メドーサがいい、刹那もすぐに気付いた。それはサイレン、それもパトカーのサイレンの音だった。
 千草もそれを聞きつけ、すぐに顔色を変えた。

「け、警察かいな!?」
「正確にはオカルトGメンだけどな」
「…っ、横島忠緒…!」

 千草は、ようやくメドーサがなぜ退くように言ったのかを理解する。
 今回の木乃香誘拐は、千草単独で行ったものではない。千草の後ろには彼女を支援する東西和解反対派がいるのだ。彼らの支援があるからこそ、千草も駅を丸ごと一つ無人化するような魔法を使用できるのだ。そうでなくては(技術的な問題以前に、政治的な問題で)こんな大々的なことはできない。
 だが、もしここでメドーサと千草が繋がっているのがばれたらどうなるか?
 この東西和解問題――関西呪術協会による関西のオカルト界独占問題については、日本政府上層部でも、『西』の和解反対派の支援を受けた政治家とそれ以外――『西』の和解賛成派や、オカルトGメンやGS協会の支援を受けた政治家同士で、ちょっとした政争の様を呈している。メドーサ達は世界的に手配された魔族だ。メドーサと千草が繋がっているのがオカルトGメンにばれた場合、その情報はそちらから政府に行き和解反対派に不利に働く。ただでさえアシュタロスの事件以来、政府は魔族アレルギーなのだ。
 そうなった場合、自分達は反対派から切り捨てられるだろう。魔族と結託したのは、一部の独断であるという言い訳のために。
 それだけは、避けなくてはならない。

「ほら。さっさと退くよ。なに、まだチャンスはいくらでもあるさ。
 じゃあね、横島。せいぜい首を洗って待ってるんだね」

 メドーサは唇を笑みの形に歪めてから、出てきたときと同じような唐突さで虚空に消えた。それに習うように、デミアンもベルゼブルも、周囲に現れていた他の気配達も次々と去っていく。

「ううぅっ…!」

 やがて気配がほとんどなくなった頃、千草も歯噛みしながら新しく猿鬼を呼び出した。そして小猿たちに月詠の千切られた腕を運ばせ、肩を押さえている月詠本人は猿鬼で抱える。

「お、おぼえてなはれ〜!」

 そういう捨て台詞を残して、猿鬼は跳びあがり、ビルの向こうに消えていった。
 後には、破壊されつくした階段と、横島達が残るだけ。

「た、助かったんですか?」
「そういうことだ」

 所在なさげに構えた夕凪の切っ先を下ろす刹那。彼女の呟きに、横島は答えてため息をついた。
 そこに、ようやくパトカーが駆けつけてきた。そして車の扉が開かれた音と、二人分の声が聞こえてきた。


「オカルトGメンだ!横島君、生きているかい?」
「横島さん、大丈夫ですか!?」


 アスナは急に静かになった光景を呆然と眺めていた。二転三転した状況に、もう心の反応する部分が疲れきっているという感じだった。

「遅いぞ西条、ピート!」

 階段を駆け下りてくる二人の男に、横島は腕を振って答える。
 降りてきたのは一人は二十歳ほどの外見の、白人の青年と、そして黒いロンゲの30歳ほどの東洋人だ。アスナとしては、もう少し渋みが欲しいところだと思う。
 こんな状況でも、そんなことを考える自分に少し呆れる。

「これでも急いできたのだけどね。
 突然の電話に応じたというのに、感謝するという気持ちがないのかい、君は」
「ん。そうだな、確かに感謝してるぜ。なんつったてサイレンの音を訊いただけでメドーサ達が逃げてったもんな。すごいな、パトカー!すごいな、国家権力!」
「……なんだが僕達個人には全く感謝していないようだね」
「ま、まあまあ、西条さん。剣をしまって…」

 挑発する横島と細身の西洋剣を引き抜こうとする男――西条の間に、金髪の青年――ピート割って入る。

「ふう、まあいいだろう。それはそうと、そちらの小さなレディは?」
「ロリコンか貴様?」
「濡れ衣はやめたまえ。魔法関係の人かな?」

 横島と刹那、両者に対して見事に口調と表情を使い分けて、西条は刹那に尋ねる。

「あ、はい。桜咲刹那といいます。助けていただき本当に…」
「いやいや、僕達は何もしてないよ」
「全くだぜ、刹那ちゃん。感謝ならパトカーと国家権力に…」
「君はいい加減にしたまえ!」
「のへぇあっ!?」

 西条は本当に剣を抜き、横島はそれをコミカルな動きで回避する。

「て、テメェ!本気で狙っていたろう!?」
「まさか。例え横島君とはいえ、レディに向かってそんな手荒なことはしないさ。
 それはそうと、もう一人のレディとそちらの少年は?」
「ああ、アスナちゃんとネギだ。
 立てるか?」

 横島は言いながらアスナのほうに歩み寄り、左手を差し伸べる。

「あ、ありがとう」

 アスナはそう言って横島の手を取ろうとして…


―――「くあぁぁっっ!!!」―――


「――ィャッ!」

 それは意図していない動きだった。
 あの時確かに聞こえた月詠の叫び。横島の手を見たとき、それを思い出し、同時にその叫びを上げさせたのは―――月詠の腕を奪ったのは、まさに今差し出されている手だということを思い出してしまった。
 だから、アスナは無意識のうちに、その手を払ってしまった。

「―――あっ!そ、その、ゴメン!あの…」

 慌てて言いつくろうとするアスナ。だが横島の手を払ったことは事実で、横島のことを怖い、気持ち悪いと思っていしまったのも真実で、横島が月詠の腕を切り落としたことも…

「――うぷっ」

 急に吐き気がこみ上げてきた。
 胃液の逆流は、胃から食道を焼き尽くすような痛みを引き起こす。しかしアスナはそれを何とか堪えようと蹲り…

《快》

 その胸元に、そっと押し付けられたものがあった。
 文珠だった。快いの文字を込められた文珠は、言葉の通りアスナを苛んでいた悪心を払拭する。

「ごめんな」

 俯いていたアスナに横島の声がかけられる。謝罪と感謝の言葉を返そうと、慌ててアスナは顔を上げたが、しかし横島はすでに振り向き、背中しか見れなかった。
 横島はピートのところに歩いてゆくと、いくつか文珠を差し出しながら言った

「ピート。二人のことを頼む。特にネギ、子供のほうは頭を強く殴られたらしい。必要ならこいつを使ってくれ。俺は西条とまだ敵がいないか見回ってくる」
「横島さん…」
「…頼む」
「――――分かりました」

 少しの逡巡を見せた後、ピートは頷いて文珠を受け取る。そして西条をつれたって、階段を上っていき、やがて姿が見えなくなった。
 そのさっていく姿を見ながら、アスナは何もできなかった。
 ゴメンということも。
 ありがとうということも。

「えっと、アスナさん、でよろしいですよね?大丈夫ですか?」
「…あ、はい」
「すみませんが、ネギ君を診せてください。今、文珠で治療しますから」

 ピートという青年が気絶したネギを階段の比較的平らなところに横たえて、文珠をかざす。その光景を上の空で見ながら、アスナはまだ一月もたっていない過去の事を思い出していた。


―――戦うって言うのは、相手を害する――傷つけたり大切なものを――仲間や恋人、夢や命なんかを奪いあうってことだ。勝ち負けはともかく、とても簡単な手段だ。特に殺しちまうのは、後始末は面倒くさいが当座の問題を片付けるには一番解かり易い方法だ。
 だが、それをお前達が選ぶかどうかは、その責任を取るお前達自身の自由だ。―――


「私、何も分かってなかったんだ…」

 本当に戦うとはどういうことか?
 自分は何も分かってなかった。

 街頭の灯りの下、アスナは膝を抱えた。


つづく

 ギャグがここまでない忠お!ってどうよ、と不安になってる詞連です。というか前回の黒横島の賛否両論でかなり気弱になってます。
 今回もバイオレンス。しかも若干ダーク。まあ、若干なので指定を入れなくてもいいかなとか思ってるわけですがどうでしょう?
 さて、前回に引き続き今回も非難の雨あられでしょうか?

まずはそのレス返しから。
なお、削除されてしまった方々は詳しい内容を覚えていないのでレスできません。ご了承ください。特に蓮葉零士氏は二度も書いていただいたのに…。あなたの考察は楽しく読ませていただきましたよ。


>タイプ0氏
 はじめまして詞連です。
 これからもがんばります。横島の闇については結構深いです。書く時はダーク指定かも。ギャグは今回のほうがかなり薄味です。ごめんなさい。
 訂正ありがとうございます。

>レンジ氏
 魅力的といってもらえれば幸いです。

>仙敷氏
 安っぽいですか。
 確かに他の文殊云々もかんがえたのですが、そうなると月詠イベントやそれに続くアスナイベントが。それに、そっちの方だと『ネギとアスナの原作にない成長』という部分がなくなるし…というわけでこっちにしました。

>kamui08氏
 お初になります。詞連と申します。
 ダはつけるべきかどうか悩みましたが付けませんでした。
 ネギについてこないようにというのは、単純に足手まといの可能性と、この件は本当にネギと無関係だと思ったからです。

>黒炎氏
 演出過剰ですか…ううむ。
 少しネタばれになりますがここでの横島像は『壊れてなお、正しく踊る道化人形』というものでして、はい。
 自然さは急務ですね。少し意識して、二つの面の接着剤的な行動を盛り込んでみましたが…だめでしょうか?

D,氏
 まあ、瀬流彦先生とかもそうでしたし、しずな先生は微妙。新田先生は一般っぽいですが。
 男、というよりトラウマ払拭がポイントだったりします。
 魂を引きずり出す…それもありでしたか。

>わーくん氏
 びっくりしていただけたようで、ありがとうございます。
 美しい女性に胸をときめかせるのは思春期初期の少年としては当然です。そのときめきの土台は嘘と残酷な真実でできているのですが…。
誤字指摘ありがとうございます。次回もがんばります

>スケベビッチ氏
 一応横島オリジナル物語、道化師時代は横島残酷物語そのものです。
 誤字指摘ありがとうございます。助っ人予想は大当たり。けれでお商品は出ません。
 最近エヴァちゃんが可愛すぎるというのは、書いてて自分でも思うところ。そろそろかっこいいエヴァちゃんでも書かなくては…。
 無理せずがんばります。

>TA phoenix氏
 ギャップの修正はやはり急務ですね。まあ、このギャップ自体は横島君の過去話の伏線になっていたりするんですが…正直、伏線ようのギャップを通り越して違和感になってしまうとは…。やはり実力不足ですね。精進します。
 個人的解釈は良い線いってます。

>ナナナ氏
 タイミング、というより前後のつながりが駄目でしたか。
 もっと直前あたりに伏線を入れておくべきでしたね。まあ、この話自体が横島残酷化の序曲でしたので…。

>ダンダダン氏
 確かに原作ではありえませんが、一応原作終了後三年なので、横島君にもいろいろあったということでひとつお願いします。
 性格を変える必要は、この物語の骨子である『ネギ達の成長』という要素の実現のために必要だと思ってやりました。まあ、本当は横島を全く変えずにそれができればよかったのですが。TSについては半分ギャグです。あと、副担任系は食傷気味かなというのと、横島をセミ最強系にするためです。

>okasi氏
 毎度楽しみにしていただいているそうでありがとうございます。
 表記不足…ですか。ううむ…今まで急ぎすぎていたのかもしれませんね。気をつけます。
 横島がどうしてこうなったかは…断片的な描写はあるかもしれませんが、完全描写の予定は未定です。だって道化師時代のことがばれたら、必然的に横島が男だってばれて、ネギをいじれなく、ゴホンっ…ネギが自殺しちゃうでしょう?

>鉄拳28号氏
 毎度、誤字指摘ありがとうございます。
 私は直接ヤフーで『忠お!』と入れて入りました。
 道化師時代は、とりあえずネギに横島の正体を知らせるのと同時になると思うので、まだ結構後です。次回あたり、断片的に語らせる予定はありますが。

>きき氏
 弁護ありがとうございます。これからもがんばります。

>けけ氏
 一応、自分の中に横島像というのはあるのですが、やはりキャラが不安定ですか?
 一応今回の乖離具合が、現在の横島を如実表していると思います。
 敵をいたぶる理由も、今回説明したとおり、凝った文殊より古来からの方法が確実だからという理由です。

>暇学生氏
 今回はギャグがほとんどなし。ごめんなさい。
 前回一番得をしたのはエヴァでした。
 メド様はこのようなタイミングで登場。ううむ、勝手した千草に甘すぎかな?

>流河氏
 最近は、冗談抜きでパソコンがしゃべる時代です。まったく夢があるのやらないのやら…。
 今回も横島の想像がしにくい回です。つーかいっそ、ネギと絡んでいるときは美少女。それ以外は男がまほらの制服を着ているとでも想像していただいて結構です。書くとき私はそうしてます。
 電撃は結構好きな詞連でした

>ヘルマスター氏
 バイオレンス忠ちゃんを気に入っていただけた要で何よりです、ちなみに斬ったのは千草さんの足ではなく、月詠ちゃんの腕でした。ネタばれになりますが、彼女は戦線を離れませんから大丈夫です。
 Gメン予想は大当たり。けれど商品は出せません。ごめんなさい。

>神[SIN]氏
 千草の扱いはこうなりました。ネタばれですが月詠ちゃんは戦線離脱しません。というかパワーアップして帰ってくる予定だったりします。
 なおコレを知った面々は
 エヴァ茶々…あまり変わらない。むしろエヴァは当然と頷く。
 ネギ…父の勇姿(?)である程度免疫があるので、悩んでも結構すぐに受け入れる。
 カモ…また人界最強の道化師云々で的外れなことを言いまくる。 
 アスナ…こうなった
 刹那&龍宮…あまり変化はないが、とりあえず、もう「大丈夫かこの人」という感想はいだかなくなる。
 といったところでしょうか?

>舞ーエンジェル氏
 刹那フラグが一歩遠のいた気がしてならないword leaderです。
 横島の過去は…いろいろありました。vs千草にはもろ参戦です。
 次回もがんばります。


 終了。
 さて、次回の更新ですが、私事で1、2週間ほど休む予定です。どうぞ気長にお待ちください。では…。

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