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「これが私の生きる道!新外伝1 ある週末の出来事編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-08-26 09:36)
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(コズミック・イラ70、八月末日)

俺の名前は、ヨシヒロ・カザマ。
プラントが開発した、モビルスーツという機動兵
器のパイロットである。
出身地である地球の日本から、家族と別れて単身
プラントにあがった俺は、食いっぱぐれないよう
に、タダで様々な技術を学べる、軍の士官学校の
ような場所であるアカデミーに入学した。
そして、そこを優秀な成績で卒業したのだが、俺
が卒業した時期は、プラントが貿易の自由と独立
と求めて、地球連合と水面下での交渉を続けてい
て、その成果が思わしくなく、戦争の可能性につ
いて議論され始めた時期であった。
だが、俺は「そんなに、簡単に戦争になってたま
るか」と半分、楽観視しながら、職務経験を積む
ためと、奨学金を返さずに済む唯一の方法である
、ザフト軍への決められた期間の奉仕をしながら
、忙しい日々を過ごしていた。
俺が配属されたのは、首都の「アプリリウス」近
くにある軍事ステーション内の防衛基地であり、
そこで、新型兵器である、モビルスーツ「ジン」
の訓練と戦術マニュアルの作成を行っていた。
そしてその後、、軽い考えで軍に身を投じた俺は
、「血のバレンタイン」の後に開戦を迎え、プラ
ント独立のために、宇宙・地球と各地を奮戦して
生き残り、その技量と功績が上層部に認められて
、プラント最高評議会議員のご子息達の訓練を担
当すべく、再びアカデミーに教官として就任して
いた。

アカデミーでの訓練は順調で、生徒達とも良い関
係を築く事ができたのだが、俺にはもう一つ、人
生の大きな転機が訪れていた。
それは、生まれて始めて、恋人というものが出来
たという事であった。
俺は今までの人生で、女性に告白されたり、迫ら
れたりという事がなく、日本では、友達ですら一
人もいない人生を送っていた。
だが、プラントでは、ミゲルとハイネという親友
ができ、彼等とや、時には単独で、夜遊びやナン
パを繰り返し、それなりの戦果をあげるまでにな
っていた。
俺も普通の人間なので、女性にときめいたりする
事も多かったのだが、日本での他人に必要以上に
関わらないというか、必要な時にだけ利用されて
、周りの役に立っている事をアピールして迫害を
防ぐという生活を送っていたせいで、恋愛という
ものに、心の奥底で恐怖を抱いていたのかもしれ
ない。
なので、俺は相手に深く関わらないように、一夜
の関係のみを求める女性を、上手く探し出してナ
ンパをする事に精を出していた。

 「戦場で散る可能性があるのだから、せめて、
  今を楽しく生きる」

表面上は俺はそう公言して、アカデミーでの訓練
終了後に、教え子のアスラン達を連れて飲みに行
き、そこに良い女がいれば必ず口説き、それに成
功したらアスラン達を置いて店を出て、その日の
夜を楽しむという生活を繰り返していた。

 「ヨシさんは、特定の彼女を作らないのですか
  ?」

 「ここまで生き残れたのが奇跡だからな。俺は
  、一夜のアバンチュールを楽しむ女性の手伝
  いをするだけだ」

ニコルは、よく俺にこう質問していたのだが、俺
はいつもそのように答えていた。

 「好きなタイプは、どんな人ですか?」

 「スタイルが抜群で、綺麗な人だな」

 「看護科の女生徒が、ヨシさんの事が好きだそ
  うです」

 「公私のケジメは付けている。仕事関係の女性
  に手は出さない」

 「ラクス様のファンだそうですね?」

 「彼女の歌は好きだし、可愛いからな。だけど
  、アスランの婚約者だから関係ないな」 

教官に就任後、暫くは、ラスティー、イザーク、
ディアッカの質問にぶっきら棒に答えていた俺で
あったが、夏休みの一週間で、状況は劇的な変化
を迎えていた。
アスランに紹介された、ピンクの髪の歌姫に迫ら
れて関係を持ってしまったばかりでなく、彼女に
すっかり心を捉えられてしまったのだ。
こうして、俺はラクスと付き合う事になったので
あった。
勿論、アスランには非常に悪いと思っていたが・
・・。


 「ヨシさん、今日は飲みに行かないんですか?
  」

土曜日の午前の講義を終えて、官舎に帰ろうとし
た俺をラスティーが呼び止める。
どうやら、俺を誘って飲みに行き、ナンパの成功
率をあげたいらしい。
ラスティーやディアッカはともかく、あの真面目
なアスランやイザークも、だたの一人の男なので
、それなりに女性に興味があるのであろう。

 「色々と忙しいからな。もう、お前達の卒業ま
  で二週間なんだぞ。最終的な考査表を作成し
  て、実戦で運用する時の参考にしなければい
  けないんだ。何しろ、卒業後の上官は俺だか
  らな」 

 「卒業時の成績なら、決まっているんじゃない
  んですか?」

 「ああ、学校の成績はな。だが、実戦ともなれ
  ば話は別だ。一番の奴が一番活躍できる確率
  は高いが、それが大した数値でもないという
  のが戦場なんだ。俺が、様々な適正や才能や
  性格を独自に考査して実戦で運用するから、
  誰にも見せられないし、勤務時間外に作成し
  なければならないんだ。だから、俺は忙しい
  わけだ」

 「そうですか。残念ですね。ディアッカは(ヨ
  シさんがいると、ナンパの成功率が上昇する
  から、絶対に誘わないとな)とか言ってます
  よ」

 「他人に頼るのは良くないな。せっかく俺と違
  って、イケメンに生まれたんだから、それを
  生かすように伝えてくれ」

 「わかりました。でも、アスランは、いまだに
  初対面の女性と会話するとぎこちないし、イ
  ザークは変な趣味の話を始めるし、ニコルは
  敵だし、ディアッカもビックマウスなだけな
  んですよね・・・」

 「経験を積んでくれたまえ。じゃあな」

ラスティーと別れた俺は、たまたまそこしか空い
ていなかったという理由で割り振られた、3LD
Kの自室前に到着する。
そして、カードキーでドアのロックを解除しよう
とすると、中から一人の女性が飛び出してきた。

 「ヨシヒロ、お帰りなさい」

 「えっ!今週末もオフなの?」

 「はい!」

あの夏休みでの劇的な事件のあと、俺とラクスは
世間を欺きながら交際を続けていた。
と言っても、まだ二週間しか経っていないのだが
、ラクスは週末になると、俺の部屋に入り込んで
いて、掃除やら洗濯やら食事やらを用意してくれ
ていたのだ。
まるで、奥さんを貰ったような気分であった。

 「お昼の準備ができていますので」

 「ありがとう。ラクス」

 「さあ、入りましょう」

ラクスが来るかもしれないと、同僚の昼食の誘い
を断った自分の勘に感心しつつ、俺は部屋に入る
のであった。


 「今日は、(肉じゃが)を用意しましたわ」

 「良く知っていたね。ラクス」

 「お友達の方から、レシピを聞きました。彼女
  の母親は、日本の方ですので」

 「ふうん。そうなんだ」

あとで、その友達がシホである事を知るのだが、
俺は見た目は見事に仕上がっている「肉じゃが」
を口に運ぶ。

 「美味しい」

 「良かったですわ」

俺がプラントで一番我慢できなかった事は、食事
のレパートリーの貧弱さであった。
プラント理事国に食料の自給を禁止されていて、
高値で種類の少ない低品質の物を買わされ続けて
いたので、毎日同じような、栄養の計算だけは完
璧な、代わり映えのしない食事が出てくるのだ。
さすがに、俺はそれが我慢できなかったので、空
いた時間に、市内に出かけて俺と同じよう考えを
持つ店主が経営しているお店を探索していて、幾
つかの成果をあげる事に成功していた。
それでも、その手のお店は、食材の仕入れに苦慮
しているらしく、値段も高かったので、貧乏仕官
の俺が、毎日行けるような所でもなかった。

 「プラント理事国の大西洋連邦は、味覚の野蛮
  人であるアメリカ合衆国が前進だし、東アジ
  ア共和国は、自国の人を食わせるのに誠一杯
  で、どこからか適当に仕入れた物を高く売り
  つけてきたし、ユーラシア連合も、質も考え
  ずに安価に生産したか、アフリカや中東で買
  い叩いた食料を高く売りつけるのみだからな
  。だから、こういうものが食べられるのは嬉
  しいな」

 「喜んでもらえて良かったですわ」

 「人間の三大欲求の一つだからな。食事は」

 「あとの二つは何ですか?」

 「睡眠と・・・」

 「睡眠と?」

俺は無言でラクスにキスをしてから、彼女を抱き
かかえて寝室に向かうのであった。


 「うーん。このフォーメーションでは・・・」

約三時間後、俺はリビングの机の上にノートパソ
コンを置いて、自分視点でのアスラン達の能力査
定と、実戦時でのフォーメーションの研究を行っ
ていた。
そして、キッチンでは、ラクスが機嫌の良さそう
な声で歌を歌いながら、昼食後の洗い物をしてい
た。

 「ヨシヒロ、何をしているのですか?」

洗い物が終わったラクスが、エプロンを外しなが
ら、俺の隣に座って、パソコンの画面を覗き込ん
だ。

 「アスラン達の、俺から見た査定を行っている
  んだ」

 「この変な図形のようなものは何ですか?」

 「フォーメーションの研究だよ。陣形を選択し
  て、誰を隊長にして、誰を副隊長にしてと入
  力をすると、シミュレーションが出来るんだ
  」

 「凄いですわ。ヨシヒロがプログラミングをし
  たのですか?」

 「まさか。アカデミーのライブラリーから借り
  てきたんだよ。これは、程度の低いソフトで
  、一般のネットにも出回っているものだから
  」

パソコンの画面に、慎重に指揮を執り過ぎたのか
、アスランが隊長のモビルスーツ隊が、バラバラ
になって攻撃を受けるCGが映し出される。 

 「アスランは、指揮官に向かないのですか?」

 「いや、才能はあるよ。でも、初心者なんてこ
  んなものだから。俺もそうだったし」

続けて、パソコンの画面には「アスラン・ザラは
、突発的な事態の対応能力に少し欠ける部分があ
る」と表示される。

 「当たっていますわ」

 「ラクスもそう思う?」

 「はい。始めて婚約者として紹介された時に、
  アスランにとっては急な事だったらしく、会
  話が(始めまして。アスラン・ザラです)の
  一言だけでした」

 「ぷっ!昔から、顔見知りだったんでしょう?
  」

 「はい。ですが、いきなり婚約者だと言われて
  、動揺したようですわ」

 「(せっかくのあの容姿を使いこなせないとは
  、哀れな男だな。もっと場数を積めば、プレ
  イボーイになれるのに・・・)」 

 「何を考えているのですか?」

 「いや、大した事じゃないよ」

俺はラクスの勘のよさに驚きつつも、査定と解析
作業を終了させ、その後はアスランの様々な話を
ラクスから聞くのであった。


 「外でデートがしたいです」

その日の夜、夕食を終えた俺達がリビングのソフ
ァーで寛いでいると、ラクスが衝撃的なお願いを
俺にしてきた。

 「無理だな」

 「でも、せっかく付き合い始めたのに、外にお
  買い物にも行けないなんて・・・」

 「ラクスは目立つから。プラントにも、ピンク
  色の髪の女性はほとんどいないし、ラクスは
  有名人だからね。外出は諦めるしかないよ」

俺はラクスの肩に手を回しながら、彼女を慰める
のだが、彼女はその程度の事で諦める女ではなか
った。

 「つまり、私だとわからなければ良いのですね
  ?」

 「それは、そうなんだけど、そんな事ができる
  の?」

 「はい。大丈夫です。良い案が思い浮かびまし
  た」

 「良い案?どんな?」

 「明日の朝まで内緒です。さあ、明日に備えて
  早く休みましょう」

 「まだ、九時なんだけど・・・」

 「寝る前にする事がありますから」

そう言うと、ラクスは俺の手を引いて寝室に入っ
て行ったのであった。

  


翌日、俺は腰がだるいので、午前九時頃まで寝て
いたのだが、急にラクスに起こされてしまう。

 「ヨシヒロ、どうですか?」

 「どうですかって・・・。えっ!」

俺が眠い目を擦って、ラクスの声のする方を見る
と、そこには、見慣れない黒い髪の少女が立って
いた。

 「ええと、どちら様で?」

 「これなら完璧ですわね」

 「えっ!ラクスなの?」

 「はい」

長い黒く染めた髪を後で束ねてポニーテールにし
、目にもカラーコンタクトでも入れたのか、黒い
瞳のラクスが、嬉しそうに返事をする。
しかも、彼女は伊達眼鏡をかけていて、更に雰囲
気が変わっていた。

 「一瞬、誰かと思ったよ」

 「これで、誰にもわからないと思います」

 「見た目はね」

 「見た目はですか?」

 「その他の点については、レクチャーをしよう
  」

 「お願いします」

俺は、ここまで奮闘したラクスの意気込みに答え
るべく、更なる偽装工作をレクチャーするのであ
った。


俺の緊急講座を受けてあと、二人はアプリリウス
市内の中心部に出かけていた。
日曜日の市内は、戦争中とはいえ多くの人手で賑
わい、家族連れやカップルの姿も多く見られる。

 「みなさん、楽しそうですわね」

 「(みんな。楽しそうね)でしょう?」

 「はい。そうでしたわね」

 「(そうね)で十分だよ」

 「はい」

見た目は、大分変化したラクスであったが、コア
なマニアに気が付かれる可能性もあったので、俺
は中身についても臨時で講義していた。
特に、あの独特な言葉使いは、知り合いに会うと
バレてしまう可能性があるので、特に念入りに行
ったのだが、「三つ子の魂百まで」とは良く言っ
たもので、そう簡単に直るものでもないらしい。

 「さて、お昼でも食べに行きましょうかね」

 「はい。良いお店があるので、そこに行きまし
  ょう」

 「俺の払える範囲にしてくれと嬉しいな」

 「私のお勧めなので、私が払います」

俺とラクスは、中心部の高級ホテル内にある、フ
ランス料理のお店に到着した。
確かここは、セレブ御用達のお店で、俺の給料で
はどうにもならない高級店のはずだ。

 「いらっしゃいませ」

 「予約していたヨウコ・タナカです」

 「承っております。こちらへどうぞ」

このお店は、最低でも三日前に予約しないと入れ
なかったはずなので、俺はこの会話で、ラクスが
数日前から、この計画を立案していた事を瞬時に
理解した。

 「日本人の名前で予約を入れるとはね・・・」

 「黒い髪に黒い瞳。日本人っぽくありませんか
  ?」

 「まあ、そう見えなくもないか」

俺はメニューを眺めながら、ラクスの手際の良さ
に感心しつつも、逃れられない糸で絡み取られた
ような感覚に捕らわれていた。

 「コースは今日のお勧めで良いです。ワインは
  料理に合うものを」

 「かしこまりました」

 「ヨシヒロは、フランス料理に詳しそうですね
  。オーダーの仕方が手馴れているし」

 「いや、何も知らないから、お任せにしたんだ
  けど。アカデミーでは、テーブルマナーをや
  っただけだし」

 「そうは見えませんでしたわ」

その後、ワインと料理が到着したので、乾杯をし
てから食事を楽しむ事にしたのだが、ここで意外
な伏兵が現れた。

 「どうだい。良いお店だろう?」

 「本当ですね」

 「楽しみーーー」

 「奮発したんだぜ。なあ、イザーク」

 「ああ」

 「すまないね。こいつは無口なんだよ」

なぜか、ディアッカとイザークが、二人の若い女
性を連れて店内に入ってきたのだ。
これは、大変な事になってしまう可能性が高いと
、俺は危機感を募らせ始めていた。

 「あれ?ヨシさんじゃないですか。おっ、可愛
  い娘じゃないですか」

ディアッカは、俺の存在に気が付いて、挨拶にや
って来たのだが、俺の向かいの席に座っている女
性が、ラクスである事にまるで気が付いていない
ようだ。

 「俺の事よりも、自分の連れに集中しろよ」

ディアッカが、余計な事を話さない内に、早く会
話を終了させようとする。
目の前にいる女性はラクスなので、俺の過去の女
性遍歴などを、話させるわけにいかなかったから
だ。

 「ヨシさん、さすがですね」

 「(さすがとか言うな!)そういうディアッカ
  はどうなんだ?」

 「昨日、ナンパに成功しましてね。今日は、デ
  ートなんですよ。でも、なかなかヨシさんの
  様には行きませんね」」

 「(余計な事を話すな!)何の事かわからない
  な。ところで、イザークもナンパに成功した
  のか?」

あの、クソ真面目男に女性の連れがいる事も驚き
だが、ナンパで引っ掛けた可能性があるというの
は、もっと驚きであった。

 「いいえ。イザークは撃沈したので、彼女に友
  達を連れてきて貰ったんですよ」

 「それで、いきなりこのお店なの?」

 「彼女達が入ってみたいと言うんですよ。それ
  じゃあ」

ディアッカは、そう言って自分の席に戻ってしま
ったが、外から様子を見ると、ただたかられてい
るような感じがした。
意外と女性に不慣れなディアッカと、想像通りに
不慣れなイザークが、一生懸命にオーダーを取っ
ていたが、あの様子では食事が終わってから、「
ごちそうさま」の一言で、終了してしまうであろ
う。

 「駄目だな。あいつらは」

 「女性達の方が、上手そうですね」

 「ラクスもわかるのかい?」

 「はい。同じ女性ですから」

 「まあ、撃沈されるのも良い経験さ」

 「ところで、お聞きしたいのですが。ディアッ
  カ様が仰っていた、さすがと言うのは、どう
  いう事なのですか?」

 「えっとねえ・・・。(ディアッカの奴!)」

俺は食事が終了するまで、ラクスへの弁明に終始
するのであった。


 「沢山の人がいますね」

 「日曜だからね」

何とか弁明に成功した俺は、食後に市内のショッ
ピングモールに繰り出して、ウィンドウショッピ
ングを楽しんでいた。

 「私もこういう服を着た方が良いのでしょうか
  ?ヨシヒロはどう思います?」

ラクスは、店内に飾られている際どいミニスカー
トを指差しながら、俺に質問をしてくる。

 「個人的には嬉しいけど、ラクスがその格好を
  したらまずくない?」

 「そうですわね。では、これは、室内で着る事
  にしましょう」

 「(室内でって・・・。お嬢様ってのは変わっ
  てるな)」

それでも、ラクスのミニスカート姿を見たかった
俺は、その意見に賛同して、店員にサイズを合わ
せて貰っていた。

 「何か飲もうよ」

 「そうですわね」

 「あれ?ヨシさんじゃないですか」

洋品店を出たあとに、喫茶店で休憩でもしようと
思った俺達の背後から、聞きなれた声が聞こえて
くる。

 「おっ、ニコルじゃないか。ここで何をしてい
  るんだ?」

 「お気に入りの楽譜屋が、近くにあるんですよ
  」

私服姿が可愛らしくて、とてもパイロットには見
えないニコルが、紙袋を抱えながら俺の質問に答
えていた。

 「お前は健全だよな。ディアッカ達とは大違い
  だ」

 「そうでもないんですけどね。ヨシさんは、デ
  ートですか?」

 「そうだよ」

 「へえ、お綺麗な方ですね。始めまして、僕の
  名前はニコル・アマルフィーです。カザマさ
  んの教え子です。よろしくお願いします」

 「ヨウコ・タナカです。よろしく」

 「(ニコルって意外と如才ないよな。ちゃんと
  自己紹介して、お世辞まで言ってるし・・・
  )」

ニコルも目の前の女性の正体には、気が付いてい
ないようだが、綺麗な女性に対して、自分をアピ
ールする事だけは忘れていないようだ。

 「ニコル、俺達は喫茶店にでも行こうかと思っ
  ているんだが、お前も一緒にどうだ?」

 「いえ、お二人の邪魔はできませんよ。じゃあ
  、僕はこれで」

 「そうか。また明日な」

俺達は、去っていくニコルの背中を見送ってから
、自分達もその場を去るのであった。


 「でも、どこかで聞いた事がある声なんですよ
  ね。うーん、誰だったかな?」

二人と別れたあと、ニコルの頭に浮かんだ疑問は
、いつまでも晴れる事がなかった。


更に、俺達が街中を歩いていると、目の前に見慣
れた男その2が現れた。

 「ラスティー、何をしているんだ?」

 「えっ!ヨシさんですか!いえ、何でもないん
  です!」

 「何、慌ててるんだ?」

 「とにかく、何でもないんです!本当ですから
  ねーーー!」

ラスティーは、俺達を置いて猛スピードで走り去
ってしまう。 

 「何なんだ?」

 「さあ?」


 「ふう。まさか、ヨシさんに会ってしまうとう
  はな。しかも、また違う女性を連れているし
  ・・・。でも、お昼ってのは珍しいな」

 「ラスティー、急に走り去らないでよ!見つけ
  るのに苦労したわよ!」

 「悪い、シホ。でも、俺達が一緒にいるところ
  をヨシさんに見られたらまずいだろう?一応
  、俺達の事は、秘密って事になっているんだ
  から」

 「ヨシヒロさんがいたの?」

 「向こうに、黒髪の綺麗な女性と一緒にいるよ
  」

 「ちょっと、面白そうだから見てみよう(ラク
  スを放っておいて、よその女性とデートです
  か?情報を集めないと)」

シホが、慎重に二人のいる方向を探索し始めると
、確かに、黒髪の若い女性を連れた自分の教官が
、楽しそうに会話をしながら歩いているのを確認
できた。

 「あれ?でも、あの女性って・・・」

シホはデジャブを感じつつも、更に観察を続けて
いたが、その女性の横顔を確認した瞬間に、その
女性の正体を確信した。

 「(ラクス!まさか、変装までするとは・・・
  。外でデートをしたいとは言っていたけど・
  ・・)」

 「なあ、シホ。覗き見は良くないぜ」

急に走り出したシホに追いついたラスティーが、
シホの行動を注意し始める。 

 「そうね。もう、行きましょう」

 「えらく、素直に聞き入れて貰えたな」

 「私はいつも素直なのよ」

シホは自分の友人の恋人が、浮気をしていない事
が確認できたので、再び、自分達のデートに没頭
するのであった。


 「買い物・散歩・食事、今日はデートっぽかっ
  たでしょう?」

 「やっぱり、外で普通にデートをするのは良い
  事ですわ」

俺達は、とある喫茶店に入り、アイスコーヒーと
紅茶を注文して、今日のデートの総評を話してい
た。

 「予想外に多くの知り合いと会ったけど、誰も
  ラクスの正体に気が付かなかったし」 

 「ええ。そうですわね」

俺達がそんな話をしていると、店内に最後の刺客
が入ってきた。

 「あれ?ヨシさんですか?」

 「アスランか!(一番まずい奴が来た)」

スーツ姿のアスランが、喫茶店の店内で俺に話し
かけてくる。

 「ええ。ヨシさんはデートですか?羨ましいで
  すね」

 「まあな。ところで、アスランは一人で何をし
  ているんだ?」

 「父上が国防委員長の仕事で忙しいので、ザラ
  家の用事を休日にやらされているんですよ。
  それで、ようやくこの時間にやっと終わった
  ので、紅茶でも飲んでくつろごうかと思いま
  して」

 「なるほどね(よりにもよって、この店に入っ
  てくるか?)」

俺は、本日最大に危機に冷や汗が出てきたのだが
、アスランは、目の前の女性がラクスである事に
気が付かず、隣にいるラクスも涼しい表情で紅茶
を飲んでいた。
どうやら、見かけによらずに、ラクスの面の皮は
相当に厚いらしい。

 「たまには、ラクスをデートにでも誘いたかっ
  たのですが、俺は忙しいし、ラクスも今日は
  仕事みたいなんです」

 「ふうん。名家って大変なんだね(ラクス!平
  気で嘘をつくんじゃない!)」

俺は複雑な表情で、ラクスを横目で見つめるのだ
が、やはり、ラクスは平気な顔で紅茶を優雅に飲
んでいる。

 「近い内に、チャンスが訪れると思いますよ」

俺の心の声を知ってか知らずか、ラクスは知らん
顔をしてアスランを慰めるが、その正体に気が付
かないアスランにも、問題があるのでは?と俺は
思ってしまう。

 「ありがとうございます。ええと・・・」

 「ヨウコ・タナカです」

 「アスラン・ザラです。よろしくお願いします
  ヨウコさん」

 「こちらこそ、よろしくお願いします。それで
  、ラクスさんとは、どういう方なのですか?
  」

ラクスはこの状況を何かに利用しようとしている
らしく、アスランにラクスの事を詳しく聞き始め
る。

 「ピンク色の髪のとても可愛らしい女性ですが
  、少し変わっていますね」

 「変わっているのですか?」

 「ええ。普段は優しくて可愛らしいのですが、
  かなり天然が入っていまして、おかしな発言
  で周囲を煙に巻く事が多くて・・・」

 「まあ、楽しそうな方ですね」

 「でも、これから何十年と付き合うとなると大
  変ですよ。果たして、俺に抑え切れるのかど
  うか・・・」

 「アスランさんは、しっかりしていると思いま
  すが」

 「俺には、少し自信がありません。だいたい、
  ラクスは昔から・・・」

 「(アスラン!止めるんだ。その娘はラクスだ
  ぞ!)」


それからのアスランは、変装したラクスにラクス
への不満を語り続けていた。
俺が再び横からラクスの表情を見ると、こめかみ
の部分に青筋が入っていたので、後日に大変な事
になると思ったのだが、それを止める術を俺は持
ち合わせていなかった。
こうして、俺達の外でのデートは終了したのであ
った。


(翌日のお昼、アカデミーの食堂内)

 「よう。五人で昼飯か」

月曜日の正午、講義を終えた俺が昼飯を食おうと
食堂に入ると、中では先にアスラン達が昼飯を食
べていた。

 「ヨシさん、ここ空いてますよ」

 「ありがとう。それで、昨日は楽しかったか?
  」

 「俺はあのあとに撃沈されました。当然、イザ
  ークもです」

ディアッカ達は、予想通りに昼飯とデザートだけ
たかられて、見事にフラれてしまったらしい。

 「ディアッカが、無理矢理に誘うからだろうが
  !」

 「でも、イザークも最初に断らなかったじゃん
  」

 「あれは、断ると男女比に不釣合いが出ると思
  って、仕方がなく・・・」

 「はいはい。イザークの友情に感謝するさ」

 「ディアッカ!」

 「ラスティーはあそこで何をしていたんだ?」

 「えっ!待ち合わせをしていまして・・・」

 「ふうん。友達か何かか?」

 「ええ。男ですよ」

俺はラスティーの狼狽ぶりからして、女性との待
ち合わせだと思ったのだが、確証を掴むまでには
至らなかった。

 「ニコルは健全で良いよな」

 「ヨシさんは、いつも連れている女性が違いま
  すよね」

 「その件に関しては、ノーコメントだな」

 「その内、女性に刺されますよ」

 「結構、厳しい忠告をありがとうな」

最後に、アスランの様子を見ると、彼は少し嬉し
そうな表情で昼飯を食べている。
日頃は無表情な彼からしたら、少し驚きの出来事
だ。

 「アスラン、何か良い事でもあったのか?」

 「ええ、今日の夜にラクスと夕食を一緒にする
  事になりまして」 

 「そうか、良かったな」

 「何か、話があるそうです」

 「ふうん。何だろうね(アスランの冥福を祈る
  しかないな)」

翌日、アスランは、憔悴した表情で俺達の前に現
れ、理由を尋ねても口を閉ざしたままであった事
を明記しておく。


 「アスラン、実はさる筋からお聞きしたのです 
  が、私が天然で、付き合うと疲れると仰った
  そうで」

 「えっ!それをどこから?」


           あとがき

新外伝は、時期が適当に行ったり戻ったりします

次は、運命編終了直後の海でのバカンスか、エピ
ローグ直後の子供達とのお話を書こうと思ってい
ます。
多分、気が向いた方を先に書くと思いますが。

ちなみに、この話は過去の外伝1のレスにいくつ
かのアイデアを提示してくれた、クロさんのアイ
デアを参考にしています。
外伝のいくつかもそれを参考にしています。


 

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