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▽レス始

「これが私の生きる道!運命編最終話 ウラル決戦編及びエピローグ編(後編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-08-16 15:22/2006-08-18 00:57)
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 「アヤ、遂にやったわよ!これで、止めを刺す
  だけね。本当は、私が止めを刺したんだけど
  、アヤに譲るわ」

今までに、何回も煮え湯を飲まされてきた敵のエ
ースの動きを封じる事に成功したミリアは、嬉し
そうな声で、アヤに止めを刺す権利を譲ると宣言
した。
 
 「ええ・・・」

 「さあ、早く!」

だが、再びアヤは、大きな迷いの中にいた。
本当ならば、カザマは既に死んでいたはずなのだ
が、自分が無意識に機体本体への直撃コースを外
していたのだ。
そして、なぜこんな事をしてしまったのかは、自
分でもよくわからなかった。

 「さあ、急いで」

 「ええ・・・」

再び、アヤが十八基にまで減らされたハイドラグ
ーンを起動させようとすると、カザマのものと思
われる声が入ってきた。

 「俺は・・・帰る・・・。ラクス・・・、ヨシ
  ヒサ・・・、サクラ・・・」

 「ふん!何千人も孤児や未亡人を作り出した男
  が、勝手な事を言ってるんじゃないわよ!」

 「ねえ。ミリア、無理に倒さなくてもあとで捕
  虜にすれば・・・」

 「捕虜?私たちが?どうやって?」

 「敵の旗艦を撃破してからでも・・・」

 「あのね。もう味方は全滅したのよ。この(フ
  ォールダウン)一機で攻撃をしかけても勝ち
  の目はないの。ここでこいつを殺せば、敵の
  混乱が誘えるのよ。さあ、早く!」

 「でも・・・・・・」

 「アヤは優しいわね。わかったわ。私がやるわ
  」

ミリアは、「フォールダウン」が装備している大
型ビームライフルの照準を「R−ジン」のコック
ピットに合わせると、すぐに引き金を引いた。

 「さようなら。敵のエースさん」

 「やめろーーー!」

 「えっ!」

 「誰?」

「R−ジン」のコックピットに直撃すると思われ
たビームは、突然、「フライングアーマ」に乗っ
て現れた、ダークグレーのモビルスーツの光波シ
ールドによって弾かれてしまう。

 「アヤ!これ以上罪を重ねるなら、俺がお前を
  討つ!」

 「ディアッカ!」

 「ちっ!ここにきて一番最悪な奴が!」

 「ううっ・・・。ディアッカか・・・」

多少、意識がハッキリとしてきたので、モニター
を覗き込むと、「フライングアーマー」に乗った
「ケンプファー」の姿が確認できた。

 「大丈夫ですか?ヨシさん」

 「何とかな・・・。おかげで命拾いしたぜ」

 「これで借りが一つですよ。あとで何か奢って
  下さいね」

 「わかった。期待していろよ」

次第に、意識がハッキリとしてきたのだが、体が
まだ本調子ではなかったので、少しずつ体を動か
しながら「R−ジン」の様子を探ったのだが、ど
うやら、この機体は、修理不能機と呼ばれる事に
なってしまいそうであった。

 「短い間だったけど、本当にありがとう。お前
  は必ず回収してやるからな」

俺は、ひしゃげたハッチを緊急爆破スイッチで吹
き飛ばし、今までの戦闘データをディスクにコピ
ーしてから、ポケットに入れて地上に降りた。
まだ背中が痛かったが、大きな怪我はしていない
ようで、普通に歩く事ができた。

 「ディアッカは大丈夫なのかな?」

俺が上空を見上げると、「フライングアーマー」
に乗ったディアッカの「ケンプファー」と敵の大
型モビルスーツの戦闘が確認でき、戦況はディア
ッカが押しているようであった。

 「何で、ディアッカが有利なんだ?」

パイロットの腕も、機体の性能も俺とそれほど差
はないはずなのに、ディアッカには攻撃が全く当
たらず、逆に大型モビルスーツの右足が消失して
いて、ハイドラグーンは半数ほどににまで減って
いた。

 「そうか。ディアッカは討てないのか。哀れな
  女だな・・・。となれば!」

俺が、使用可能なモビルスーツがある事を期待し
て戦場を見渡すと、比較的原型を留めている「ア
ンノウン」と俺達が呼んでいるモビルスーツを一
機発見した。

 「さて、中はどうなっている?」

外部の開閉ハッチを発見したので、ハッチを開け
て銃を構えながら、コックピットの内部を観察す
ると、中にいる若い兵士は口から血を流して死ん
でいた。
どうやら、運悪く舌を噛んでしまったらしい。
彼は、俺とは逆でツキがなかったようだ。

 「悪いが借りるぜ」

俺はその死体を地面に降ろしてから、コックピッ
トシートに座って計器をチェックする。
すると、大した損傷もなく、特に問題なく動くよ
うであった。

 「正式名称は(ジェガン)か。操作方法にそれ
  ほどの差はないな。見た目は量産機っぽいけ
  ど、性能もなかなかのものだな」

備え付けの電子マニュアルを参照しながら、再起
動をかけると、「ジェガン」は特に問題なく動い
てくれる。

 「こいつが、倍も用意されていたらやばかった
  な。こいつは素人でも、かなりスムーズに操
  作できるようだな」

計器のチェックを終え、散乱していた他の機体の
ビームライフルを持つと、コネクターが共通規格
らしく、特に問題なく使える事が判明する。

 「本当に、倍も量産されてなくて良かったな。
  さて、このままやられっ放しというのもプラ
  イドが許さないのでね」

俺は「ジェガン」のスラスターを最大出力で吹か
してから、「フォールダウン」に向けて突撃を開
始するのであった。


(その五分前、ディアッカ視点)

 「アヤ!本当に止めるんだ!」

 「うるさい!アヤを惑わすな!」

二機のモビルスーツは、全力で死闘を繰り広げて
いたが、戦況は完全にディアッカが有利であった

アヤは「ケンプファー」を討つべく、ハイドラグ
ーンを展開するのだが、その動きは信じられない
くらいに低調で、敵を討つ事が不可能である事が
、容易に想像できるくらいであった。

 「アヤ!ちゃんとやりなさいよ!」

 「やってるわよ!」

アヤがミリアに対して、珍しく怒鳴り声をあげた
ので、彼女の方を見ると、アヤは涙を流しながら
ハイドラグーンの操作を行っていた。

 「ちゃんと、やってるんだから・・・」

 「アヤ・・・・・・」

だが、動きが鈍いハイドラグーンは、ディアッカ
の絶好の餌食で、両腕にビームマシンガンを装備
した「ケンプファー」に次々に落とされていき、
ミリアの注意がアヤに向いた隙に、右足を砕かれ
てしまう。

 「おのれ!ちょこまかと!」

ミリアがディアッカに激怒した瞬間、「フォール
ダウン」に向かって、「フライングアーマー」が
突進してくる。

 「今度こそ!落とす!」

 「待って、それを攻撃しては!」

アヤは今までの失態を挽回すべく、「フライング
アーマー」に、残ったハイドラグーンの攻撃を集
中させるのだが、それはディアッカの罠であった

事前に爆薬を詰め込んでいた「フライングアーマ
ー」がハイドラグーンのビームで引火して「フォ
ールダウン」の目前で大爆発を起こしたのだ。

 「やった!大成功だ!」

 「きゃーーー!」

 「ディアッカ・エルスマン!あんたはーーー!
  」

「フォールダウン」は、フェイズシフト装甲機で
はあったが、強力な爆風と衝撃で、間接を含む各
部が大きく損傷して、コッピット内に警報が鳴り
響き、このモビルスーツの最大の売りであるハイ
ドラグーンも、爆風に巻き込まれて使用不能にな
ってしまった。
そして、更に・・・。

 「何?敵か!」

突然、下方からビームが飛んできて、「フォール
ダウン」の両腕を吹き飛ばしてしまう。

 「下から?センサーは故障したの?」

ミリアが下方部のモニターを確認すると、下から
高速で「ジェガン」が上昇してくる。
どうやら、自分達を撃ったのはあの「ジェガン」
のようだ。

 「味方機がどうして・・・」

 「残念だったな。俺が廃物利用をさせて貰った
  」

 「カザマか!アヤがあの時に討たないから」

 「おいおい。人に責任を転嫁するなよ。さあ、
  これで逆転だ。このまま戦うか?降伏するか
  ?」

 「ふざけるんじゃないわよ!」

ミリアは、「フォールダウン」に残された胸部の
大型スキュラとラインメタル社製二十ミリ機銃を
発射するが、機銃はさきほどの爆発で金属片が詰
まっていたらしく、砲身が爆発して使用不能にな
り、大型スキュラも各部の損傷で、飛行制御が誠
一杯の状況では、二機の敵に簡単にかわされたう
えに、「ジェガン」のビームサーベルで発射口を
斬り裂かれて使用不能にされてしまった。

 「何でひと思いに討たない!嬲り殺しにするつ
  もり?」

 「いや、俺はディアッカに借りがあるからな。
  最後は、彼に任せる事にしたんだ。ディアッ
  カ、後悔のないようにするんだぞ」

 「ありがとうございます。でも、どうして?」

 「こんなに時間が経っているのに、援軍が来な
  い事がおかしい。何かを細工したな?」

 「ええ。自分が責任を持ってヨシさんを連れて
  帰るので、作戦を続行するように進言しまし
  た」

 「よく認められたな」

 「クルーゼ総司令が、許可を下さいました」

 「たまには良い事をするんだな。あの人も」

 「ですね」

二人の会話を聞きながら、ミリアが戦況の確認を
すると、既に、味方は崩壊の危機に面していた。
総旗艦が奇襲を受けたという事実は、全軍を激怒
させ、各部隊が投入可能な全ての戦力を投入して
いたので、戦力比率が、防御不能な数値にまで開
いて、味方戦力が爆発的に数を減らしていたのだ

時間稼ぎに利用した「マウス」も、無人の自動操
縦兵器である悲しさで、時間稼ぎにしかならずに
、戦っている味方に補給時間を少し与えたぐらい
でしかなかったようだ。

 「これで、終わりね。ねえ、アヤ」

 「ごめんね。ディアッカ。私、あなたに合わせ
  る顔がない・・・。早く殺して・・・。でも
  、会いたい。会いたいよ・・・」

 「アヤ、あなた・・・」

ミリアは驚きを隠せないでいた。
始めて会った頃のアヤは、僅か三歳の子供であっ
たが、その頃から、彼女は一回も泣いた事がなか
った。
両親に売られた事も自覚していたのに、彼女は悲
しいとか、両親に会いたいという言葉を一言も口
にせず、常に冷静沈着で、同い年ながら、姉のよ
うな雰囲気を持っていたあのアヤが、今は子供の
ように泣いていたのだ。

 「アヤ、ディアッカに会いたい?」

 「ぐすっ、でも・・・」

 「あなたの希望を聞いてみたいだけよ。さあ、
  どうなの?」

 「会いたい・・・」

 「そう。じゃあ、サヨナラね」

 「えっ、どういう事?」

突然、冷たい口調になったミリアは、持っていた
銃をアヤに向かって構え、コックピットシートか
ら立ち上がるように促した。

 「ねえ、ミリアどういう事?」

 「あなたは用済みって事よ。(フォールダウン
  )のハイドラグーンは使用不能になった。だ
  から、それを操作するあなたはいらないの。
  この(フォールダウン)は私のモビルスーツ
  なの。だから、今すぐ降りなさい」

 「そんな・・・。私は・・・」

 「その口の利き方は何?私はあなたのご主人様
  なのよ!口の利き方に気をつけなさい!」

 「ミリア、突然どうしたのよ?」

 「ご主人様から使えない使用人に命令よ!心し
  て聞きなさい!この(フォールダウン)は大
  きな損傷を受けたわ。だから、飛行能力を維
  持するために、無駄な荷物は降ろす事にする
  。そこで、もう使えないあなたが降りるのよ
  !わかった?」

 「私が降りたところで、そんなに変わらないで
  しょう?それに、まだ墜落するほどの損傷は
  ・・・」

 「使用人が口答えをするな!早く降りなさい!
  さもないと!」

ミリアはアヤのコックピットシートに威嚇の銃弾
を撃ち込み、シートには穴が開いた。
どうやら、彼女は本気で自分を降ろそうとしてい
るらしいとアヤは思い始める。

 「降りれば良いのね?」

 「降りればよろしいのでしょうか?でしょう!
  」

ミリアは「フォールダウン」のコックピットハッ
チを開けて、アヤを入り口に立たせる。

 「(さあ、ディアッカ!男なら決断しなさい!
  アヤをこのまま墜落死させるのか?抱きしめ
  るのか?そして、サヨナラね。アヤ)」

ミリアは冷静な表情を崩さないようにしながら、
アヤとの最後の時間を、心に刻みつけるのであっ
た。


 「さて、どうしたものかな」

自分の教官に、「自由に後悔のないようにやれ」
と言われたのは良かったのだが、ディアッカがい
くら無線で呼びかけても、向こうは無線のスイッ
チを切ってしまっているらしく、全く反応がなか
ったので困っていたのだ。

 「ハッチをビームサーベルで焼き切るか?」

数分の時が経ち、ディアッカが強硬手段を実行し
ようとした時に、「ダウンフォール」のコックピ
ットハッチが開き、そこに一人の女性らしき姿が
見えた。

 「アヤか?」

危険だとは思いつつも、ディアッカも「ケンプフ
ァー」を「フォールダウン」に近づけてから、コ
ックピットハッチを開いて、自分の身を前に出し
た。

 「ディアッカ!」

 「アヤ!どういう事なんだ?」

自分の近くにいるのは、確実にアヤなのだが、何
か様子がおかしいので、彼女を引き寄せる事を躊
躇っていると、後から若い女性の声が聞こえてき
た。

 「ディアッカ・エルスマンね?」

 「そうだ。いったいどういう事なんだ?」

 「損傷の大きい、(フォールダウン)の浮力を
  維持するために、邪魔な荷物を廃棄するのよ
  。せっかく、拾ってやったのに最後まで役立
  たずな女だったわ。本当に大損害よ!」

 「お前・・・」

 「どうするの?私は本当に捨てるわよ。ここか
  ら落ちたら即死よね」

ディアッカは、今度は躊躇う事なく、アヤの手を
引いて自分の方に抱き寄せた。
彼女は世界に比類なきテロリストの一味で、彼女
を庇う事は、自分と家族がプラントでの地位と権
力を失う事になり、プラントに住めなくなる可能
性もあったのだが、もうそんな事は気にならなか
った。
例え、世界をあてもなく彷徨う事になろうとも、
アヤさえいてくれれば良い。
そう考えて、ディアッカは力強くアヤを引き寄せ
た。

 「久しぶりだな。少し痩せたか?」

 「いきなり何を言ってるのよ」

 「多少、乱暴な手を使ったが、お前を殺すつも
  りはなかった。戦闘力を削げれば良いと思っ
  て・・・」

 「そんな事はもういいよ」

 「俺は、本当はお前を殺そうと思っていたんだ
  。せめて、自分の手でと。でも、やっぱりで
  きなかったよ」

ディアッカは直前まで、迷いの中にいた。
アヤを殺すべきなのか?無理にでも助けるべきな
のか?と。
だから、降下作戦に志願したし、「ケンプファー
」を乗りこなして、彼女を討てるようにと訓練を
重ねもした。
だが、直前になって戦闘力をのみを削いでアヤを
捕らえられればと考えて、無理に「フライングア
ーマー」に爆薬を詰めて貰ったりもしたのだ。
彼女達の乗機は、最低でもフェイズシフト装甲機
だろうから、致命傷にはならないと考えて。

 「ディアッカは悪くない。私はあなたに愛され
  る資格が・・・」

 「そんな事を気にするな!二度と言うな!俺に
  黙って付いて来い!以上だ」

 「ディアッカ・・・」

 「はいはい。今時、再放送のメロドラマでもや
  らない臭い芝居をありがとう。じゃあ、私は
  これで失礼するわ。あんた達のせいで、とん
  だ道草を食ってしまったわ」

ミリアは、表面的には険しい表情で二人を見届け
てから、わざと憎まれ口を叩きながらこの場を去
る事を二人に告げる。

 「ミリア、どこに行くのよ?」

 「他人のあなたが口を出す事じゃないわね」

 「そんな・・・・・・」

 「じゃあね。役立たずさん」

ミリアは最後まで、憎まれ口を叩いていたが、「
フォールダウン」のコックピットハッチを閉める
瞬間に、ミリアの最後の一言がアヤの耳に入って
くる。

 「さようなら、私のたった一人の親友」

 「ミリア!」

アヤは、急いでミリアに声をかけたのだが、コッ
クピットハッチが閉じる音に、かき消されてしま
うのであった。


 「さて、終わったらしいな」

俺は、新国連軍副総司令としては、かなり問題の
ある行動をしていると自覚しつつ、この光景を外
側から眺めていたのだが、ミリアが大型モビルス
ーツの中に引っ込んでしまったので、「ジェガン
」に搭載されている、ワイヤー型の秘匿通信装置
を発射して彼女の真意を問う事にした。

 「どういう事なんだ?」

 「カザマね。見ての通りよ。我が家の犠牲者を
  救済しただけ。子供の頃から迷惑を掛けっぱ
  なしだったから、最後くらいはね」

 「そうか」

 「あの娘には、幸せになって欲しいから。私の
  ただ一人の親友だから。そこで、あなたにお
  願いがある。正直、頼めた義理じゃないんだ
  けど」

 「本当にそうだな」

 「うるさい男ね。実は、あの娘の事をお願いし
  たいの」

 「おいおい。俺は新国連軍の司令官だぜ。不正
  はご法度だ」

新国連軍の司令官が犯罪者を匿って、それが世間
に公表でもされたら、とんでもない事になってし
まうのに、彼女はそれを頼むと言ってきているの
だ。

 「そこを曲げて頼むわ。それに、良案もあるし
  」

 「それは何だ?」

 「この(フォールダウン)は、テロリストの一
  味である、ミリア・アズラエルとアヤ・ササ
  キを乗せたまま木っ端微塵に吹き飛ぶのよ。
  二人は死亡して骨も残らなかった。こういう
  シナリオよ」

 「お前、まさか・・・」

俺は、ミリアの覚悟を瞬時に理解した。
彼女は、自分がこの大型モビルスーツと共に自爆
する事で、アヤを公式には死亡した事にすると言
っているのだ。 

 「お前は本当にそれで良いのか?同じ手を使え
  ばお前も・・・」

 「それはできないわ。アヤは私達に近い人物で
  はあったけれど、罪状から言えば小物だし、
  顔を知らない人も多い。でも、私はお母様の
  娘だから・・・。それに、私はお母様に死ん
  で抗議をする!なぜこんな事になったのか?
  他に道はなかったのか?そして・・・、私は
  お母様の一番ではなかったのかと・・・」

確かに、彼女の言う通りであった。
もし、エミリアにとって、ミリアが一番大切だっ
たのなら、絶対にこんな無茶はしなかったはずな
のだ。
そして、彼女が母親に従ったのは、その愛情を失
いたくなかったがゆえの事だったのであろう。
そう考えると、沢山の仲間を殺してきた憎い敵で
はあるが、この娘がとても哀れに思えてくる。

 「わかった。妻に頼んでみる」

 「そうね。あなたの百倍は当てになりそうね」

 「それが、人にものを頼む時の態度か?」

 「ごめん。ごめん」

こうして、普通に話すと明るい娘なのに、いった
い、何の歯車が狂ってしまったのであろうか?
俺は、そんな事を考えずにはいられなかった。

 「お母様は私よりも、死んだパパとアズラエル
  の家を取った。だから、私はこの二つに殉じ
  て死ぬわ。カザマ、もしお母様と話す事があ
  ったら伝えて。(私はあなたのために死にま
  した)と」 

 「わかった」

 「じゃあ、名残惜しいけど時間がないから。初
  めて話したけど、あなた、意外と良い男だっ
  たわね」

 「俺はジェントルマンだからな。女性には優し
  いんだ」

 「やっぱり、女たらしっぽいから止めた。じゃ
  あね」

 「ああ。さよならだ」

そこまで話したところで、俺が秘匿通信用のワイ
ヤーを引き抜くと、「ダウンフォール」は北に向
かって飛んで行った。
多分、誰にも迷惑をかけないところで、自爆する
つもりなのだろう。

 「ヨシさん、彼女は?」

 「多分、自爆すると思う」

 「そんな!何で止めないのよ!」

今まで大人しかったアヤが、ミリアが自爆すると
聞いて、それを止めなかった俺に抗議の声をあげ
る。

 「うるさい!彼女はお前の幸せを願って、お前
  の罪を全て背負って、この世から消滅する決
  意をしたんだぞ!それを止められるものか」

 「そんな・・・。どうして?ミリア・・・」

 「色々と事情があるようだが、それはお前にも
  話せない」

三人が「ダウンフォール」の飛んで行った方向を
見ると、空に新しい飛行機雲ができていた。
多分、あれがミリアなのであろう。

 「だが、核動力機の爆発は勘弁して欲しいな」

 「この地域では、まだNジャマーが多数埋まっ
  ていて、(フォールダウン)には、Nジャマ
  ーキャンセラーが装備されているわ。多分、
  それを切ってから自爆すると思う。(フォー
  ルダウン)は最新鋭機だから、機密保持のた
  めに多数の爆薬がしかけられている。もし、
  本当に自爆すれば、パイロットは骨も残らな
  い。特にコックピット部分は、機密の塊だか
  ら・・・。本当は、私も一緒に死ぬ予定だっ
  たのに・・・ううっ、ミリア・・・」

そこまで話すと、アヤは再び泣き崩れてしまい、
俺とディアッカはミリアが飛んで行った空を眺め
ながら、彼女の魂に安らぎが訪れる事を、願わず
にはいられなかった。


 「これで、心残りはないわね。アヤ、幸せにね
  」

「フォールダウン」で最後の飛行を開始したミリ
アは、残り二分を切った自爆装置のタイマーを眺
めながら、自分の人生を振り返っていた。

 「うーん。せめて、彼氏くらいは欲しかったわ
  ね。でも、もう無理よね。あの世でクロード
  お兄様にでも頼んでみるか」

再びタイマーを見ると、一分を切ったので、Nジ
ャマーキャンセラーのスイッチを切って、予備の
充電用バッテリーのスイッチを入れる。
これで、最後の時まで問題なく飛行できるはずだ

そして、ミリアが眼下を見ると、そこは無人の山
地で、誰にも迷惑をかける事もないだろう。

 「お母様、先に娘が死んだからって親不幸だと
  は思わないでね。私はあなたの希望通りに死
  んであげるんだから・・・。私は決してあな
  たを許さない!」

ミリアが大声で叫んだ瞬間、「フォールダウン」
の各部は大きな爆発に包まれ、爆風がミリアの体
を焼き尽す。
そして、ミリアは意識が消える瞬間に、長くて短
い夢を見ていた。
月に移住して、小さな会社をみんなで設立した夢
だ。
エミリアが社長で、自分が見習い専務で、秘書の
アヤに「次期経営者としての自覚がない」と説教
され、二十人の兄達が、自分の得意分野の部署に
就いて毎日を楽しく過ごすという、非常に幼稚な
夢ではあったが、これが彼女が望んでいたものだ
ったのだ。
だが、そんな長くて短い夢は終了し、ミリアの意
識は永遠に消滅したのであった。


 「ううっ、ミリア・・・。ミリアぁーーー!」

突然、北の空に大きな爆音が響き、俺達はミリア
が死亡した事を知った。
アヤは親友の死に大声をあげて泣いていて、ディ
アッカが必死に慰めているようであった。
そんな時、総旗艦である「ジェーコフ」から通信
が入ってくる。

 「カザマ副総司令、ご無事ですか?」

 「ああ。(R−ジン)はご無事じゃないけど、
  敵の新型モビルスーツを拾った」

 「そうですか。それで、敵の大型モビルスーツ
  ですが・・・」

 「あの巨大な爆音を聞いただろう?大きな損傷
  を受けたらしく、北の方向に逃亡して自爆し
  たようだな。あれには、二人のパイロットが
  搭乗していて、一人は、エミリアの娘だった
  らしい」

 「敵の爆発は、こちらでも確認しています」

 「そうか。なら、そういう事だ」

 「了解しました」

カツコフ中将は、俺への追求をあっさりとやめて
、次の話題に入った。

 「それで、これからどうしますか?」

 「(ミネルバ)で、予備のモビルスーツに乗り
  換えて前線に出る。もう、掃討戦だけなんだ
  ろう?」

 「その通りです」

 「では、あとは任せる」

 「わかりました」

そこまで話すと、俺は無線を切ってディアッカに
「ミネルバ」に向かう事を提案する。

 「(ミネルバ)にですか?」

 「これで、お前の戦闘任務は終了だ。降下部隊
  の連中には、負傷したと伝えておく。(ミネ
  ルバ)の空き部屋にアヤを匿って、プラント
  本国に到着するまで、外に一歩も出すな。世
  話は全てお前がするんだ。艦の連中には、緘
  口令を出しておく」

 「それはありがたいのですが、(ジェーコフ)
  の連中には、勘付かれていますよね?」

ディアッカが一番の懸念を口にした。
確かに、「ジェーコフ」には、最新鋭の索敵・探
査・通信機器が多数装備され、多くの情報仕官が
詰めているので、俺達の行動を怪しいと思ってい
るだろう。
十分近くも、敵味方の三機のモビルスーツが集ま
って何かをしていたのだ。
多分、Nジャマーの影響で会話は聞かれていない
だろうが、疑惑を抱かせるのに、十分な証拠は集
まっていると思われる。 
現に、先ほどのカツコフ中将が、言葉の端々に疑
問の感情を浮かべていたところからして、それは
確実なのであろう。

 「そうだな。ディアッカの言う通りだな。だが
  、カツコフ参謀長は大丈夫だ。彼は俺に取引
  を提案してきてるからな。俺が受け入れれば
  、正統ユーラシア連合の将兵は沈黙を守るさ
  」

 「どうしてですか?」

 「この戦闘後の、エミリアに付いて戦っていた
  兵士達の処遇だ。地位の高い連中や、エミリ
  アの考えに共鳴して、積極的に動いていた連
  中の罪は絶対に裁かれなければならないが、
  兵・下士官・下級将校で、純粋に上官の命令
  に従って戦っていた連中の免罪をカツコフ中
  将が打診してきている。現実問題として、彼
  らには罪はないし、彼らをユーラシア連合軍
  に復帰させないと、戦後の組織が立ち行かな
  くなる可能性があるからな。だから、俺とク
  ルーゼ総司令がその案に反対しなければ、カ
  ツコフ中将とユーラシア連合軍の連中は、口
  を噤むのさ」

 「反対しなければですか?」

 「たかが、小娘一人の身柄だ。その位で良い。
  変に譲歩すると、図に乗る可能性があるし、
  俺達の協力がその程度なら、カツコフ中将も
  俺達がした事を大体は理解するだろう。彼も
  相当な狸だからな」

 「それで、他の軍の連中はどうするんですか?
  」

 「それは、ラクスに頼むしかないな。要は大西
  洋連邦の口を塞げば良いんだ。エミリアやア
  ズラエル財団関係の事で何かを掴んでいると
  は思うから、それをネタに取引するしかない
  な。ああ、極東連合もか。あそこも最近は、
  世界中で活発に動いているから、エミリア達
  と関係のあった企業や政治家がいたかもしれ
  ない。他の国もそうかな?だから、それをネ
  タに取引するさ。デュランダル外交委員長も
  、ラクスに頼まれれば、断るような事はしな
  いだろうし」

 「オーブはどうするんですか?」

 「あそこは、ユウナの件があるから、絶対に何
  も言ってこない」

 「納得しました」

 「ねえ。どうして、私を助けるの?私はあなた
  を殺そうとしたのよ」

時間が経って落ち着いたのか、アヤは俺に正直な
疑問をぶつけてくる。

 「だが、お前が俺を殺す事に躊躇わなかったか
  ら、確実に俺は死んでいたさ。更に、ディア
  ッカには命を救われたからな。これで、貸し
  借りなしだ。それに・・・・・・」

 「それに?」

 「ミリアに頼まれたからな。憎い敵ではあった
  が、彼女は自分の事は顧みずに、純粋にお前
  の事を頼んで死んでいった。そんな、あの娘
  の願いは断れないさ。何しろ、俺はジェント
  ルマンだからな。あーあ。だから、俺は軍人
  に向いてないんだよな。早く退役して、会社
  を興さないとな」

 「ええっ!退役してしまうんですか?」

 「前に話しただろうが!暫くは教官を務めるが
  、三十歳までには、絶対に退役するんだ。あ
  との事はお前達でやれ」

 「本当に欲がないですね」

 「あるさ。だから、企業経営で一財産築いて、
  コレクションを充実させるんだよ。ほら、哀
  れな(R−ジン)を回収して(ミネルバ)に
  行くぞ!」

 「了解です」

その後、俺達は「ジェガン」に白旗を括り付けて
から、「ケンプファー」と一緒に損傷した「R−
ジン」を抱えて、「ミネルバ」に帰艦するのであ
った。


(三十分後、「ミネルバ」艦内)

「ミネルバ」への移動途中、俺は前線の細かい戦
況報告を聞いていた。
まず、中央の最終防衛ラインだが、補給を終えた
クルーゼ総司令やシン達と、フラガ中佐率いる「
ウィンダムハイドラグーン搭載タイプ」中隊と、
試作兵器である、大型ビーム拡散銃を装備したレ
ナ中佐の「ウィンダム特火タイプ」によって、「
マウス」のハイドラグーンが全て落とされ、「マ
ウス」本体も、「ディスティニー」のビームソー
ドとエドワード中佐の「センプウソードスペシャ
ル」のビームランスに貫かれて、あっけない最後
を遂げたらしい。
そして、南方軍の方も「暁」に搭乗しているキラ
がハイドラグーンのビームを跳ね返しながら、次
々に落としていき、ハイネも例の濃いメンバーを
引き連れて、大活躍をしたようだ。
ハイネは一番に突撃していき、ジャックがありっ
たけのビームナイフを投げ、ジーナス兄弟が驚異
的な連携を見せ、ザンギエフとコンガは、両腕に
構えたシールドで効率よくビームを防ぎながら、
見事な連携プレイで見ハイドラグーンを落とした
ようだ。
そして、マリア少将もその驚異的な射撃術で次々
にハイドラグーンを狙撃していた。
副官のタナカ少佐が「どうやって当てているんで
すか?」と尋ねたところ、「少し先の動きを予想
してそこにビームを撃ち込むのよ」と答えたらし
いが、そんな事ができる人は極少数なので、彼女
は間違いなく射撃の天才なのだろう。 
「マウス」本体も、アスランやハワード三佐やホ
ー三佐に次々に破壊されて、遂にウラル要塞の防
衛ラインは突破され、あとは数が圧倒的に優勢な
我が軍の殲滅戦に移行しているらしい。
現時点で、要塞の八割の部分が破壊・占拠され、
敵のモビルスーツ隊も、最後まで持ち場を守って
戦死する者、力尽きて降伏する者、逃亡を図って
撃破される者、途中であきらめて降伏する者など
、五月雨式に戦力を減少させていた。
だが、エミリアが立て篭もっていると思われる最
重要区画では、彼女の子飼いの部下達が、最後の
抵抗を行っているらしく、味方に多数の損害を出
しているようであった。

「ミネルバ」に到着した俺は、「ジェガン」と「
ケンプファー」と「R−ジン」を格納庫に置き、
ディアッカ達を空いている士官用の個室に閉じ込
めてから、アーサーさんに「ここで見た事は他言
無用。外部に漏らしたら独房入りにする」と厳命
した。
それから、格納庫に降りてきた俺は、近くにいた
ヨウランに使用可能なモビルスーツの有無を尋ね
る。

 「予備のモビルスーツはあるか?」

 「(インパルス二号機)ならすぐに行けます」

 「(インパルス)だけなのか?(セイバー)は
  どうしたんだ?」

 「ルナが、(ナイトジャスティス)の(ファン
  トム01)を全て壊してしまったので、今は
  ルナが使ってます」

 「あとでお仕置きだな」

 「本当ですよ!あとで、エイブス班長に説教を
  して貰わないと」

 「わかった。最後は、かっこ良く(インパルス
  )で合体するさ」

 「お気を付けて」

俺は急いで「コアスプレンダー」に搭乗して、メ
イリンと通信を繋いだ。

 「久しぶりだな。メイリン」

 「ヨシヒロさん!じゃなかった、カザマ司令!
  」

 「それじゃあ、発進準備の方をお願いね。(フ
  ォースインパルス)で行くから」

 「了解しました。(インパルス)発進スタンバ
  イ。モジュールはフォースを選択、シルエッ
  トハンガーは一号を開放します。プラットホ
  ームのセットを完了。中央カタパルトオンラ
  イン。機密シャッターを閉鎖します。(コア
  スプレンダー)全システムオンライン。発進
  シーケンスを開始します。ハッチ開放、射出
  システムのエンゲージを確認」

俺はメイリンのテキパキとした声を聞きながら、
最後の出撃になるであろうと思われる、自分の軍
人としての人生を振りかっていた。
正確には、訓練等での射出は、これからも経験す
るのであろうが、実戦での出撃は多分、これが最
後になるであろうから。

 「(コアスプレンダー)発進どうぞ!」

 「ヨシヒロ・カザマ、(コアスプレンダー)行
  くぞ!」

俺の合図で「コアスプレンダー」は発進して、何
百回も経験した強烈なGが俺の体を締め付ける。

 「続いて、(フォースシルエット)射出!」

 「(チェストフライヤー)射出!」

 「(レッグフライヤー)射出!」

立て続けに三つのシルエットが、メイリンの指示
で射出され、俺は素早く合体してから戦場を目指
して飛行を続けるのであった。


(三十分後、南ウラル要塞、最重要区画)

その場所は、多数の山が連なる南ウラル山脈の中
心部に存在していた。
各山をくり貫いて、設置されている施設には必ず
地下通路が存在し、その全ての通路がこの中心部
に繋がっていて、エミリアの個室もここにあった
のだ。
だが、エミリアはその通路を全て爆破して、最重
要区画への歩兵の進入を防ぎ、子飼いの精鋭部隊
で最後の絶望的な抵抗を試みていた。
既に、五十機ほどにまで減ったモビルスーツ隊で
はあったが、その技量は驚異的で、一度に百機程
度の戦力しか展開できない新国連軍は、ここにき
て、更に大きな犠牲を出しているようであった。

 「(フォールダウン)のシグナルは完全にロス
  トしたのね?」

 「はい。もう一時間も前にですが・・・」

 「そう。あの娘達は先に逝ったのね」

 「あとは、我々だけですか?」

 「そうね。ここには小型のサイクロプスが仕掛
  けてあるから、この部屋にいれば綺麗さっぱ
  り消滅できるわ。そのあとに、仕掛けてある
  爆薬が着火すれば、この山は完全に吹き飛ぶ
  。死体は何も残らないはずよ」

 「でも、南ウラル要塞を全て吹き飛ばしたかっ
  たですね」

 「アキラ、そんな昔のアニメような事はできな
  いのよ。クルーゼ達の迎撃準備に忙しかった
  から、そんな余裕はなかったの。この山一つ
  で精一杯よ」

 「アキラ、お前は、本当に軍事関係に疎いな」

 「悪かったな。ハウンとミシェルは、その軍事
  知識を生かして、最後の迎撃に参加したらど
  うだ?アラファスは頑張っているぞ」

 「俺は技術者だからな」

 「俺は宣伝関係だからな」

 「「だから、モビルスーツには乗れません!」
  」

 「「「ははははは」」」

もう滅亡がすぐそこにまで迫っているのに、三人
はそんな事を気にもしないで一斉に笑い出した。

 「あら、楽しそうね」

 「ええ、楽しいですね」

 「最後は楽しく死にましょうよ」

 「言えてますね」

だが、外の戦況は加速度的に悪化していった。
確かに、新国連軍は一度に百機の投入が精一杯だ
ったが、ローテーションを組んで、続々とエース
クラスのパイロットを参戦させていたので、疲労
度が限界にきた味方が、次々に撃破され始めたの
だ。

 「もう、終わりね。アラファスはどこ?」

 「あそこです」

ミシェルが指差したスクリーンには、アラファス
が搭乗している「ジェガン」が、「ディスティニ
ー」に押されている様子が映し出されていた。

 「あの子が死んだら、自爆スイッチを入れて。
  時間は十五分でいいわ」

 「了解しました」

ミシェルは冷静に返事をしてから別室に向かい、
残りの三人は、静かに目を瞑って、最後の時を待
ち続けるのであった。


 「何でお前達はこんな事をーーー!」

 「それを聞かれても困るんだよな」

アラファスは、「ジェガン」に搭乗して「ディス
ティニー」と戦っていたが、次第にその技量差に
押され始めていた。
自分は、指揮官としての才能はともかく、モビル
スーツの操縦技能では、目の前の少年には勝てな
いようだ。

 「わからないだと!そんな理由で何人死んだと
  思ってるんだ!」  

 「別に、知っている人でもないから気にならな
  いな。君もそうだろう?」

 「ふざけるな!」

 「若いね。シン・アスカ君。君は人生に絶望し
  た事があるかい?」

 「えっ!」

 「ないだろうな。でも、俺は何回もあったんだ
  よ。だから、この世に未練なんてないんだよ
  。いや、唯一あったんだけど、それも、もう
  なくなってしまった。だから、早く私を討ち
  たまえ」

アラファスの唯一の未練とは、ミリアの事であっ
たが、もう彼女がこの世にいない事はわかりきっ
ていたので、彼に未練など存在しなかった。

 「投降しろ!裁判を受けて罪を償え!」

 「そんな無駄な事はしないさ。昔、誰かが言っ
  てたよね。(真相を裁判で解明して、再発防
  止に役立てる)とかさ。あんな無駄な事はな
  いのに」

 「どういう事だ?」

 「人の心には、多様性と大きなブレが存在する
  。逮捕して時間が経ったあとに、その時の心
  境を聞いても、本人にもわからない事が多い
  のさ。それを周りで勝手に予想しても、犯罪
  の再発になんて役に立つわけがない。俺を捕
  らえて、公判で理由を問われても、俺はよく
  わからないと答えるか、適当な事を話すだろ
  うな。何しろ、なんでこんな事をしたのか、
  自分でもよくわからないんだから」

 「そんな・・・・・・」

 「さて、お話はこれで終わりだ。最後に純粋で
  まっすぐな君と話せて楽しかったよ。君は俺
  の轍を踏むんじゃないぞ。では!」

アラファスは「ジェガン」のビームサーベルを抜
いて、「ディスティニー」に特攻をかけてきた。
既に、周囲には味方のモビルスーツは存在せずに
、全てが残骸になっているか、投降してしまって
いたので、要塞周辺には、新国連軍のモビルスー
ツ隊しか存在していなかったのだ。

 「何で?そこまでわかっていながら!」

シンは「ディスティニー」のビームソードを構え
、「ジェガン」の攻撃を受けようとする。

 「かわすまでもないのか」

シンは、「ジェガン」の渾身の斬撃をギリギリで
かわしてから、右腕ごとビームサーベルを切り落
とした。

 「まだまだ!」

アラファスは、「ジェガン」の左手のシールドを
捨てて、もう一本のビームサーベルを掴もうとし
たが、シンはその前に、ビームソードで「ジェガ
ン」を串刺しにする。

 「さすがだな。ザフト軍のエース君。出来損な
  いのハーフコーディネーターとは才能が違う
  のか・・・」

アラファスは、爆発寸前の機体から脱出する気も
ないようで、シンに賞賛の言葉を送っていたのだ
が、急にその口調が変化する。

 「俺はコウモリ野郎じゃねえ!ぶっ殺してやる
  ぞ!」

 「ええっ!どういう事だ?」

シンが驚いて、「ジェガン」に突き刺していたビ
ームソードを引き抜くと、機体は落下して地面で
大爆発を起こした。

 「彼は何を言いたかったんだろう?」

シンはその場に一人佇んで、彼の最後の言葉の意
味を考え続けるのであった。


 「アラファスが討たれましたね」

 「そうね。これで、あなた達三人だけなのね」

 「そうです。選りすぐりの三人ですよ」

 「モビルスーツに乗れない三人でもあるな」

 「それを言うなよ」

アラファスが討たれる場面を確認したエミリア、
クロカワ、ハウンの三人は、楽しそうに会話をし
ていたが、防衛戦力の要である彼の死で、本当に
最後の時が訪れた事を確信していた。

 「あの子は、まだ闇を抱えていたのね」

エミリアは、アラファスの最後の断末魔の叫びを
聞いて、彼の生い立ちを思い出していた。
彼は、ハーフコーディネーターである自分を呪っ
ていた。
彼が子供の頃に住んでいた地域は、比較的多くの
コーディネーターが住んでいて、世間の迫害を避
けるように固まって生きていたのだが、彼はそこ
でも、孤立した生活を送っていたのだ。
コーディネーターの子供の集団には、「お前はナ
チュラルの血が入っている」と言われて仲間に入
れて貰えず、ナチュラルの子供の集団には、「お
前はコーディネーターの血が入っている」と言わ
れて仲間外れにされていたのだ。
そして、そんなある日の事、彼の人生を大きく変
える事件が起こった。
ナチュラルの子供の一人が親に聞かせて貰った昔
話を引用して、アラファスをバカにしたのだ。

 「お前はコウモリだ。動物でも鳥でもない。コ
  ウモリは、暗闇で大人しくしてやがれ!」

この言葉に激怒した彼は、発作的に地面に置いて
あった石で、その子供を殴り殺してしまったのだ

年齢の関係で、刑事事件にはならなかったが、両
親は殺された子供の遺族に、多額の賠償金を請求
されて破産して離婚し、アラファス自身も両親に
捨てられて、孤児院に送られる羽目になった。

 「別に、好きでハーフコーディネーターに生ま
  れてきたわけじゃない」

これがアラファスの口癖で、エミリアに引き取ら
れてからは、同じハーフコーディネーターの仲間
に囲まれて明るくなったのだが、彼の心の闇を完
全に振り払うまでには至らなかったらしい。

 「あの子は全ての人間を憎んでいたのね。だか
  ら、沢山の人を殺す私の計画にいち早く賛同
  した」

 「我々は、どいつもこいつも心が病んでますか
  らね」

 「自分で言うなよ」

 「事実だろうが」

三人でアラファスの話をしていると、別室で自爆
装置のセットを行っていたミシェルが戻ってきた

 「エミリア様、十五分後にセットしておきまし
  た」

 「ご苦労様」

 「あと十五分、何をしますか?」

 「あら、面白いものが来たわね」

 「面白いものですか?」

三人が、エミリアが見つめているスクリーンを見
ると、そこには、単機でこの基地に接近してくる
「インパルス」の姿が見える。

 「ただの(インパルス)にしか見えませんが」

 「状況から見て、指揮官機よ。カザマだったら
  面白いわね」

 「あのお邪魔男がですか?」

 「最後の十五分くらいつき合わせても良いじゃ
  ない。あのモビルスーツに回線を繋げる?」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 「じゃあ、お願いするわ」

エミリアはハウンに「インパルス」との回線の接
続を指示するのであった。


  


 「おい!何でこんなに静かなんだ?」

俺は戦場に到着したのだが、そこには敵は一機も
存在せずに、山の要塞も砲撃一つして来なかった

下を見ると多数の残骸が散乱していて、味方の兵
士が、敵味方を問わずに負傷者を収容し、要塞か
らも投降サインである白旗を掲げた兵士達が、続
々と下山してきていた。

 「よう。副総司令殿が何の用事だ?」

ここのモビルスーツ部隊の指揮を頼んでいた石原
二佐が、「インパルス」に搭乗しているのが、俺
だという事に気が付いて話しかけてくる。

 「戦況の確認だ」

 「ご覧の通りだ。もう、戦闘はないだろうな」

 「突入はしないのか?」

 「本当に良いのか?」

 「最後に自爆ってパターンかな?」

 「その可能性が高いから、(ミネルバ)以下の
  艦艇に砲撃をさせようかと思っているんだ」

 「それがベターかな?」

俺と石原二佐が、これからの方針を相談している
と、「インパルス」の通信回線に誰かからの通信
が入ってきた。

 「あれ?アーサーさんかな?」

俺が映像をオンにすると、そこには見た事がある
おばさんが映っていた。 

 「えーと、どちら様で?」

 「失礼な人ね。あなた達の最大の敵よ」

 「悪の首領エミリア・アズラエルか」

 「まあ、そんなところね」

 「それで、何の用事だ?命乞いか?」

 「違うわ。あなたと少しお話がしたかっただけ
  」

 「そうか。おい!石原二佐、全軍をあの山から
  撤収させろ!時間がないぞ!」

 「了解だ!」

俺は咄嗟に、目前の危機を予想して全軍に撤収命
令を出した。
敵の首領が時間稼ぎをするという事は、何かを企
んでいる可能性が高く、既に、機動戦力を持って
いない彼女達が取り得る手段は、自爆くらいしか
ないと思ったからだ。

 「あら、気が付いたのね。でも、要塞全体が吹
  き飛ぶかも知れないわよ」

 「本当にそんな無駄な事をしていたら、あんた
  達の死期はもっと早かったはずだ」

 「可愛げがないのね。何でもお見通しで」

 「そうでもないさ。結構、予想は外している。
  現に、今日もあんたの娘に殺されかけたし」

 「でも、あなたがそこにいると言う事は、ミリ
  アが死んだのね。あなたが殺したの?」

 「間接的に言えばそうかな?でも、直接的には
  、自爆が原因だった」

 「そうなの」

 「その娘からの伝言だ。(私はあなたのために
  死にました)だそうだ」

 「最後にキツイ一言ね」

 「生きている娘よりも、死んだ男にこだわって
  いた母親を見捨てずに、家出もしないで、あ
  んたの言う事を聞いて死んだんだ。良い娘じ
  ゃないか」

 「あなたの言う通りね。でも、私は母親よりも
  女を優先させたかった。ただ、それだけなの
  よ。別に、その事をどう非難されようと構わ
  ないわ。それに、あなたの妻のラクス・クラ
  インも私と同類の女よ。私は同じ女だからわ
  かる。だから、あなたが惨たらしい死を迎え
  でもしたら、彼女も狂うわよ。確実にね」

 「ご忠告耳に刻んでおきましょう。さて、脱出
  するとしますか」

 「まだ、残り五分よ。二分で安全圏に行けるの
  に」

 「残念だけど、敵の言う事なんて信じないのさ
  。俺は小心者だからな」

 「可愛いくないわね。数十年後に地獄で会いま
  しょう」

 「嫌だね。俺は天国に行きたいね」

 「無理よ。じゃあね」

エミリアはそれだけ言うと、通信を切ってしまっ
たので、俺は最高速度で、その場を脱出するので
あった。


 「ミシェル、ハウン、アキラ。彼をどう思う?
  」

 「掴み所のない男ですね」

 「面白い男ですね」

 「よくわからない男です」

 「でも、最後の十五分は退屈しなかったでしょ
  う?」

 「それは言えてますね。でも、あと二分ありま
  すよ」

 「そうなんだけど、もう終わりにしましょう。
  ミシェル、これを使って」

ミリアは、自分が持っていた銃をミシェルに手渡
した。

 「やっぱり、生きたままサイクロプスで焼かれ
  るのは勘弁して欲しいから、その銃で私を撃
  ってくれないかしら?」

 「俺もそれが良いな」

 「俺もだ」

 「どうして、私なんですか?」

 「あなたが、一番若いから。年齢の順にやって
  頂戴」

 「それで、俺は自分で頭を撃ち抜くのですか?
  」

 「ごめんなさいね。年齢順よ」

 「しくじるなよ」

 「じゃあ、お先に」

 「わかりました」

ミシェルが覚悟を決めて、銃弾を三発発射したあ
とに、最後に自分の額に銃口を押し付けて引き金
を引く。
そして、その一分後に小型のサイクロプスが作動
して、室内の死体を破裂させ、各所にしかけられ
ていた爆薬が爆発して、エミリア達の最後の砦を
爆炎と爆風で吹き飛ばしたのであった。


 「これで、終わりかな?」

俺が安全圏に脱出した二分半後に、エミリア達の
立て篭もっていた要塞が爆発して、山の各所から
火柱と爆音があがっていた。
幸いにして、歩兵部隊の到着が遅れていた事と、
早めの退避命令によって、大きな損害を受けずに
済んだが、あの要塞内に何人の人間が残っていた
のかは、全く不明であった。

 「悪は滅びるってやつかな?」

 「終わりはしたが、何一つ、実りのない戦いだ
  ったな」

いつの間にか隣にいた石原二佐が、この戦いの総
評を述べるが、確かに彼の言う通りであった。

 「それで、その他の施設の様子はどうだ?」

 「完全に吹き飛んだのは、エミリア達がいたあ
  の奥の部分だけで、残りは俺達が破壊した部
  分だけの損傷だ。でも、ユーラシア連合の連
  中は、この要塞を再利用するのかな?」

 「無理だろうな。維持する予算でモビルスーツ
  が何機配備できるか。エミリア達のように、
  時代遅れの要塞になんて頼ると、次に滅ぶの
  はユーラシア連合の連中だぜ。ウラル山脈の
  奥に引っ込んでも、ヨーロッパ大陸が守れな
  ければ、意味がないんだから」

 「それは言えてるな」

この総力戦の時代に、戦力の一つである経済力と
生産力を守れない国は滅びて当然なのに、こんな
奥地に引っ込んで、何が出来るのだというのが、
俺の考えであった。

 「それで、今日中に終わりそうかな?」

 「それは大丈夫だろう。エミリアの死亡は、あ
  れを見れば疑いがないわけだし、いまだに抵
  抗しているのは、本当に一部の連中だけだ。
  今日中に投降するか、倒されるかするさ」

 「まあ、この広さだから、多少の逃亡者は仕方
  がないか」

 「それは後日に処理する案件だな。さて、明日
  から戦後処理が忙しくなるぞ。どうせ、クル
  ーゼ総司令は何もやってくれないからな」

 「全要塞の調査、報告書の作成、逃亡者の探索
  、残骸の回収、死体の回収、負傷者の手当て
  、捕虜の移送、情報の収集、集めた部隊を帰
  還させたり、この地帯の軍政の準備と、考え
  ただけでも恐ろしくなるな」

 「それを全部手配するのは俺なんだよ!」

 「うわーーー。可哀想に」

 「当然、石原二佐にも割り当てがあるからな!
  」

 「お前、鬼だな」

 「石原二佐だけじゃない!全員に何かを割り振
  ってやる!」

 「仕方がないか。全部、お前がやってたら過労
  死するだろうからな。さて、相羽と相談して
  任務を分けるとするかな」

 「俺も一旦、(ミネルバ)帰ろうかな」

 「それじゃあ、また明日」

 「明日な」

俺と石原二佐は、その場で別れて、それぞれの母
艦に帰艦するのであった。
六月十六日午後五時十二分、南ウラル要塞の陥落
と、エミリア・アズラエルの死亡のニュースが全
世界に流れて、この長かった戦争は、終わりを告
げるのであった。
新国連軍の損害は、モビルスーツが四百八十六機
とパイロットが三百九十八名で、その他の死者が
三千四百五十八名であり、ユーラシア連合クーデ
ター軍ウラル要塞守備隊の損害は、推定でモビル
スーツが五百十六機で、投降したモビルスーツが
百七十八機。
その他には、戦死者が一万五千人あまりと推定さ
れる。
結局、この戦乱は世界中で四万人を超える犠牲者
を出したのであるが、各国の様々な事情により、
歴史書にも新国連の公式記録にも、ユーラシア連
合と東アジア共和国の内乱として認定され、エミ
リア・アズラエルは、史上最悪のテロリストとし
て、歴史にその名を刻むのであった。


(一ヵ月後、南ウラル山脈の奥地)

あの決戦から、一ヶ月の時が流れた。
俺は、新国連軍からの命令で、新国連軍ヨーロッ
パ派遣軍副総司令から、新国連軍臨時ヨーロッパ
駐留軍副総司令に肩書きを変えて、南ウラル山脈
の要塞跡で、戦後処理に全精力を傾けていた。
当然、総司令はクルーゼ司令なのだが、彼は「ス
ーパーフリーダム」でザフト軍の若いパイロット
達に毎日訓練を施す事しかせず、その負担は俺に
ストレートに圧し掛かっていたが、既に、俺達の
管轄下にある地域は、ジブラルタル基地とヨーロ
ッパ内の一部の基地とこのウラル要塞跡だけで、
その他の地域は、正統の頭文字が取れたユーラシ
ア連合政府と軍に主権が返還されていたので、決
戦直後ほどの忙しさではなくなっていた。
それと、ジブラルタル基地はバルトフェルト副総
司令に、その他の基地もアスランや石原二佐やバ
ジルール大佐達に割り振っていたので、それほど
大変でもなくなっていたのだ。

このウラル山脈での俺達の仕事は、僅かながら発
生した、逃亡者の捕縛と武器の拡散を防ぐための
探査任務であり、網の目のように張り巡らされた
通路と、多数存在している秘密の部屋を探索して
、危険なものを回収するという、半分ジャンク屋
のような仕事を主に行っていた。
そして、今日は久しぶりのお休みを取って、ある
場所に出かける事になっていたのだ。

 「ガイ、場所はここで良いんだよな」

 「そうだな。報告書によれば、この上空はずだ
  。って、おい!何で俺が付き合わされている
  んだ?」

 「だって、暇でしょう?中華連邦軍少将閣下の
  お仕事も終わった事だし」

 「その後、有無を言わさずに俺を雇いやがって
  !しかも、トレジャーハンターのような仕事
  ばかりじゃないか!」

 「風花ちゃんは、一発で了承してくれたけど」

 「ううう。俺の立場って・・・」

ウラル要塞決戦時では、中華連邦軍のモビルスー
ツ師団を率いて、「ピンク師団」ここにありと、
戦果が少ない割には、存在感は示したガイであっ
たが、戦闘終了後に、師団は帰国の途につき、契
約が切れて暇そうだったガイを、俺が臨時で雇い
入れたのだ。
ガイはこの要塞に潜入していたので、探索に便利
だろうと考えて、マネージャーのような仕事をし
ている風花ちゃんに依頼を出したら、あっさりと
受け入れて貰えたので、ガイは毎日モグラのよう
に要塞内を探索したり、案内を行っていた。

 「あの・・・。どうして、俺が付き合わされて
  いるんですか?」

意外なメンバーその二のイザークが、ガイと同じ
ような表情をしながら、俺に質問をしてくる。
彼は、先の決戦ではリーカさんと共に、多数のザ
フト軍モビルスーツ隊の指揮を任されていたのだ
が、俺はイザークに一つの宿題を出していた。
それは、敵の撃破をなるべく自分で行わないよう
にして、指揮のみに専念するというものであった

イザークは、「バイアラン」で大暴れをしたかっ
たようだが、彼は将来のザフト軍の最高司令官候
補だったので、少し後方から、冷静に指揮を執る
ように厳命したのだ。

 「いつまでも、前線で敵を撃破する事に拘るな
  。お前は少し遠くから戦況を見渡すんだ。味
  方がピンチになったら、余程の事がない限り
  、自分が行かないで部下に行かせろ。指揮官
  の仕事とは、本来そういうものだ。まあ、実
  は俺も出来ていないけどな」

俺は彼をそう諭して、最後の決戦に臨ませたのだ
が、イザークは「ユニウスセブン」の戦闘で何か
を感じていたらしく、キラ達のように最前線にあ
まり出ないで、リーカさんを上手く使って、冷静
に指揮を執る事に専念してくれたようで、結果と
して、ザフト軍モビルスーツ隊の損害を減らす事
に成功したようであった。
イザークがそこまで自覚してくれたのなら、俺は
安心して、第一線から身を引く事が出来るという
ものであった。

 「イザークは冷たいよな。ディアッカは親友な
  んだろう?普通は何もいわずに付き合うよな
  」

 「ディアッカだけなら問題はありませんけど、
  この女は何なのですか?」

 「女?そんな者はいない。(ミネルバ)で時折
  、目撃される女性は幽霊だ。そして、今ディ
  アッカの隣にいる女も幽霊なんだろうな」

 「そういう事だから気にするな。イザーク」

 「ディアッカ!貴様ぁーーー!」

イザークが激怒して、ディアッカを怒鳴りつける
と、隣でディアッカと手を繋いでいたアヤは、怯
えながらディアッカの肩にしがみ付いた。

 「可哀想な事をするなよ。幽霊が怖がっている
  だろうが」

 「こいつがそんなタマか!いい加減に、正体を
  現しやがれ!」

 「オカッパ、うるさい!」

 「何だとーーー!」 

実は、今日の外出の目的は、ミリアを乗せた「フ
ォールダウン」が自爆した場所で、彼女の遺品を
探す事であった。
自爆した場所は上空なのだが、その下を探せば何
かが見つかるかも知れないと、アヤが懇願したの
で、急遽、休暇を取って探索を行う事にしたのだ

この一ヶ月、事情が事情だけに、アヤは室内に閉
じ篭っていたので、ストレス発散のために、外出
させる事にしたのだ。

 「ヨシさん、こいつ可愛くないですよ!」

 「それは、多分イザークがそう思っているだけ
  だから」

 「何で、ヨシさんはこいつを庇うんだ・・・」

実は、ディアッカを負傷中という事にして「ミネ
ルバ」に閉じ込めていたので、イザークにだけは
真相を話していたのだが、彼が見舞いと称して、
「ミネルバ」を訪れた時に、アヤと大喧嘩をして
しまったのだ。
どうも、この二人は相性がよろしくなかったらし
く、艦内に響いた声の処理をどうしたものかと、
俺は無駄に悩んでしまったりもしたのだが、アー
サーさんには、「喧嘩をして死んだカップルの霊
」という事にしておいて下さいと説明して、強引
に事を収めていた。

 「さて、ここら辺に何かがあるといいな」

 「そうね」

 「ヨシさん、細かい部品が沢山ありますね」

 「大きい物は、回収されてしまったからな」

この場所には既に、俺達が回収班を差し向けてい
て、「フォールダウン」の残った部品は全て回収
されていたのだが、重要部分は全て吹き飛んでい
て、あの大型モビルスーツの全容はいまいち良く
わかっていなかった。
アヤもスペックや機能くらいは知っていたのだが
、技術的な部分までは手が回らなかったようだ。

 「どうだ?部品くらいしかないかな?」

 「ええと・・・」

 「アヤ、素手で触るな。核爆発はしていないが
  、放射性物質が飛び散っているから」

 「ディアッカ!俺には忠告はなしなのか!」

地面に落ちていた部分を、素手で拾おうとしたア
ヤにディアッカが注意をしていたが、同じく部品
を拾っていたイザークを制止する者は、一人もい
なかった。

 「大丈夫だろう。自然界の1.5倍というとこ
  ろかな。あのおまじないが多少は効いている
  らしい」

俺は放射能測定装置の数値を見ながら、そんなに
気にする事はないと、みんなに教えてあげた。

 「おなじないですか?」

 「放射能除去剤」

 「そんな物が本当にあるのか?」

 「いや、昨日雨が降ったからさ」

 「お前はアホか!」

 「依頼人に対して、無礼な口を利く傭兵だな」

その後、俺達は一生懸命に辺りを捜索したのだが
、細かな部品くらいしか見つからずに、それで手
を打とうかとアヤに相談しようとした時に、アヤ
は木の枝にかかっていた、一本の金色のチェーン
を発見した。

 「これは・・・」

 「普通の十八金のチェーンのネックレスかな?
  熱で溶けてしまっているけど」

 「ミリアが付けていた物だ。ミリア、私を待っ
  ててくれたんだ・・・」

 「よかったな。アヤ」

 「うん」

アヤは枝からネックレスを外すと、それを両方の
掌でいとおしそうに包み込んだ。

 「一ヶ月も待たせてごめんね。さあ、一緒に帰
  ろう。ミリア」

 「そうだな。明日の準備もあるし、帰るとする
  かな」

実は、一昨日にラクスからメールが入ってきてい
て、アヤの受け入れ準備が極秘裏に完了したので
、明日にジブラルタルからプラントに上げてくれ
と連絡が入っていたのだ。
結局、アヤ・ササキは公式に死亡した事にして、
アヤが世界を回っている時に使用していた、アヤ
・キノシタの偽装戸籍を利用して、世間の目を眩
ます事にしたようだ。
実は、この一ヶ月は、世界中の諜報関係者と政治
家達が大忙しで、デュランダル外交委員長も「過
労死しそうだ」とボヤくほどであったらしい。
世間では、エミリア狩りという過激な運動が発生
していて、彼女やその側近と仲が良かったり、過
去に関係があったり、彼女達が必要な物資や資材
や兵器を手に入れるために設立していた、海外の
ダミー企業と取引があった政治家や官僚や企業家
が、分別なく叩かれるという出来事が発生してい
た。
正直に言うと、エミリアはアズラエル財団の金庫
番を勤めていた女なので、業界通ならば知ってい
る人が多く、全てを遡って犯人を探していると、
世界の経済が立ち行かなくなる事態になりかねな
かったのだ。
そこで、各国の政府とロゴスの面々で、落としど
ころを上手く探って、罪に問う人間と、問わない
人間の篩い分けの作業が行われていたようなのだ

その席で、アヤの事を追求されるのかと思ったの
だが、俺が保護したのがアヤだという証拠を期間
内に掴み切れなかったうえに、エミリアと関係し
ていた企業や政治家達が多かった大西洋連邦が、
各国の追及を弱めるために、あまり強硬な態度を
取らなかった事が、俺達に優位に働いてくれたと
、後にラクスが説明してくれた。

 「そんなわけだから、暫くは大人しくしていろ
  よ。しかし、政治家ってのは嫌だねえ。俺は
  絶対になりたくないね」

 「奇麗事では済まない世界ですからね」

 「大きくて古い組織ほど、叩くと埃が出るんだ 
  よ。歴史がそれを証明している」

 「まあ、そのおかげでアヤが助かるんですから
  。俺は特に文句はありませんね」

 「ディアッカは調子が良いよな。でも、ラステ
  ィーが言ってましたよ。観艦式前に、自分の
  会社がエミリアが設立していたダミー企業に
  、レアメタルを販売していたのが確認された
  そうです。ちなみに、そのレアメタルを精製
  したのは、楠木重工だそうですが」

 「そのメールは俺も貰った。ラスティーは謝っ
  ていたけど、世界中で活動している企業の宿
  命だよな。そういう事は。今の時代に、民生
  品と軍用品の明確な差は少ないしね」

遺品探しの帰り道に、話すような話題ではないよ
うな気がしたが、俺達は迎えの輸送ヘリの中でそ
のような話をしながら帰路についたのであった。

 「あっそうだ。一つ聞きたい事があったんだ
  」

「ミネルバ」の近くに着陸した、輸送ヘリから降
りて、艦内に入った瞬間に、ガイが俺に疑問を投
げかけてきた。

 「伝説の傭兵でもわからない事があるのか?」

 「茶化すな。本人を目の前に言うのは何だが、
  どうしてこの女を助けたんだ?お前には、一
  銭の得にもならないばかりか、逆に大損をし
  ているように思えるが・・・」

 「全てが感情的なものから来ているが、大きく
  分けて三つあるな」

 「ほう。三つもあるのか」

 「第一に、これは話した事があるが、死に行く
  ミリアの願いを断れなかったというものだ」

 「なるほど」

 「第二に、妹の前で悪いが、ササキ大尉は最悪
  な奴だった。だが、俺が殺してしまった事に
  変わりはない。だから、せめてもの罪滅ぼし
  なのかもな」

 「それは、理解できるかな」

 「最後に一番重要な理由がある」

 「ほう、それは何だ?」

 「俺が基本的に妹属性であるという事だ。ステ
  ラの時もそうだったし、アヤの時もそうだっ
  たんだろうな」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 [・・・・・・・・・」

俺は自信を持って答えたのだが、なぜか四人は黙
り込んでしまう。

 「ガイ、どうしたの?」

 「一瞬でも、感動した自分を責めていたんだ。
  俺は(グフ)の整備に行く」 

 「イザーク」

 「さて、シン達はどこにいるのかな?」

 「ディアッカ、アヤ」

 「アヤ、明日の準備をしないとな」

 「そうね。ディアッカ、部屋に戻ろう」

 「あれ?俺、何か変な事を言った?ねえ、誰か
  教えてよ!」

四人は煙のように素早く消えてしまい、俺の大き
な疑問に答えてくれる人間は、一人もいなかった


 「ヨシさんは、たまに大バカ発言をするからな
  。本当に困ってしまうよ」

 「でも、本当に面白い人ね。あれが、(黒い死
  神)だなんて驚きだわ」

おバカ発言をする上官から、逃げ出してきたディ
アッカとアヤは、自室の中で明日の出発の準備を
していた。

 「明日はいよいよプラントか」

 「ずっと部屋の中って事はないさ。何しろ、ク
  ライン邸の敷地は広いからな」

結局、アヤの身柄は、引き受けると言ったラクス
が自宅で匿う事にしたらしく、アヤはクライン邸
で居候をする事が決まっていた。

 「ディアッカはどうするの?」

 「暫く本国勤務だから、週末に会いに行くよ」

 「良かった。必ず会いに来てね」

 「毎週行くさ。いや、平日の夜も行こうかな?
  」

 「あんまり無理をしないでね」

 「わかってるって」

アヤが数少ない私物を、バッグに詰め込もうとし
た時、彼女の視線上に、自己主張をするかのよう
に、照明でキラキラと光るネックレスが入ってく
る。

 「(ミリア、私は今幸せよ。あなたが私に新し
  い人生をくれたから。私は取り返しのつかな
  い事をしてしまったかも知れないけれど、あ
  なたの分も誠一杯生きるわ。だから、安心し
  て休んでね)」


翌日、アヤとディアッカは極秘裏にプラントに向
けて飛び立って行った。
俺には、まだ任務が残っているが、もう少しで家
族の元に帰れるだろう。
そして、その任務の完了を持って、俺は第一線か
ら身を引いて教官に戻るつもりであった。
俺は特に何も考えずに軍人になり、「黒い死神」
と呼ばれるまでになったが、これでようやく「死
神」の呪縛から逃れる事ができるのだ。
あとは、イザークやディアッカやシン達が、俺の
代わりに頑張ってくれる事を期待して、俺は戦場
という舞台をそっと降りるのであった。


          エピローグ

(コズミック・イラ77、7月下旬の日曜日、ク
 ライン邸内)

あの悲惨な騒乱から三年の時が流れた。
あれからの俺は、新国連軍臨時ヨーロッパ駐留軍
副総司令の任を全うしたあとに、プラントに帰国
して、そのまま教官の任務に就く事になった。
実は、上層部は、俺を本国艦隊の副司令に任命し
て、クルーゼ司令のお守りをさせたかったらしい
のだが、俺が丁重に断ってしまったので、代わり
にその任に就いたのはアデス副司令とミゲルであ
った。
二人は、日々胃の粘膜の心配をしながら、任務に
励んでいらしい。

そして、ハイネは「ミネルバ」に旗艦を移して、
新生ヴェステンフルス隊を結成して、特殊対応部
隊の先任司令として、世界中を回っているのだが
、新しく副司令兼モビルスーツ隊隊長に任命され
たのはステラであった。
ハイネは大喜びをしているのだが、ステラには、
特に様子が変わった所もなく、たまに帰って来た
時に、「上手く行ってるのか?」と尋ねても、「
うん」としか答えてくれないので、いまいち二人
の関係がよくわからなかった。

イザークとディアッカは、「マーキュリー」と「
ヴィーナス」を旗艦に置いて、ハイネと同じく世
界中を回っているらしいが、イザークの副司令に
はザンギエフが、ディアッカの副司令にはジャッ
クが任命されていた。
ザフト軍上層部は、遂に、あの濃いメンバーの解
体を決意したようであるが、ザンギエフは常識人
で新兵の面倒見も良いので、イザークとは上手く
やっていたし、ディアッカは、基本的には誰とで
も上手くやれるタイプの人間なので、大きな問題
は起きていないようだ。
私生活では、イザークはフレイと結婚していて、
子供も生まれていたが、エザリア国防委員長とは
嫁姑の争いが勃発していて、イザークは板ばさみ
になる事が多くなっていた。

シホはあの騒乱の後に、ザフト軍を退役して普通
の勤務医になってしまい、去年にラスティーと結
婚式を挙げていた。
子供はまだらしいが、特に焦っている様子もない
ようだ。

コーウェルは、ザフト軍への出向期間を無事に終
え、財務省の係長に出世したらしい。
俺には、財務省の係長がどの位偉いのかが、良く
わからないので、適当におめでとうと言っておく
事にした。
ちなみに、リーカさんとは去年結婚して、彼女自
身は、今妊娠中であった。
ジローは、相変わらずの試作機と新型機の実験部
隊勤務で、スズキ教育部長は、アカデミーの校長
に就任していたが、教育部長と校長のどちらが偉
いのかは、よくわからなかった。

シンはイザークの跡を継いで、「ボルテール」と
「ルソー」を指揮下におく、アスカ隊隊長に就任
していて、副隊長にはルナマリアが就任していた
が、そこには、あのジーナス兄弟も配属されてい
た。
ちなみに、レイも一隊を率いていたが、その下に
は、あのコンガが副隊長として、配属されている
そうだ。

クルーゼ司令は、本国艦隊司令官を続けていたが
、相変わらずのモビルスーツバカで、毎日新兵を
相手に訓練を行っていて、他の仕事をしないでア
デス副司令とミゲルを困らせているらしい。
グリアノス隊長は、本国艦隊のモビルスーツ隊指
揮官と「ゴンドワナ」のモビルスーツ隊の指揮官
を続けていて、クルーゼ司令とガチンコの決闘を
毎日のように行っていた。

そして、プラント最高評議会では、政権交代が行
われていた。
遂に、エザリア議長が退任して平の議員に戻り、
デュランダル外交委員長が議長に就任したのだ。
プラントの政界では、穏健派主流の状態が続いて
いて、デュランダル政権も長期政権になる事が予
想されていた。

バルトフェルト司令とダコスタ副司令は、ビクト
リア基地に戻って、アフリカ駐留軍司令官の任務
に戻っていて、バルトフェルト司令はアイシャさ
んとの間に子供が生まれていて、ダコスタ副司令
も、現地の女性と結婚して子供が生まれていた。
二人はこのまま、現地で骨を埋める決意をしたら
しく、ザフト軍上層部も司令官の交代を考えてい
ないようだ。

ユリカとエミは、義成兄さんと義則とマリューさ
んと共にプラント支社勤務を続けていて、ユリカ
と義成兄さんは二年半前に、エミと義則は一年半
前に結婚していて、子供も生まれていた。
マリューさんも産休を終えて、部長職に復帰して
いて、面倒な仕事は全て、義成兄さんと義則に割
り振る生活を送っているようだ。

次に、オーブ組の様子だが、オーブの代表首長は
ミナ様になり、カガリは国防大臣として、アスラ
ンは少将に昇進して、カガリの補佐と子育てに追
われる日々を送っていた。

キラは、技術部の一佐に昇進していたが、親父に
仕事を押し付けられる日常に、変化はないようで
あった。
モルゲンレーテ社の社長になった親父は、サクラ
とヨシヒサに会う時間を作るために、キラに仕事
を押し付ける事に躊躇いがないようで、家に帰っ
てもレイナが生んだ孫がいるので、「俺は早く引
退して、孫と遊ぶ日々を送るんだ!」と周りに公
言しているらしい。  

ニコルは、音楽家として世界中を回る生活を送っ
ていて、カナも正式なマネージャーとして彼に付
いて回る生活を送っていたが、今は妊娠中なので
、一時的に実家で家族と生活をしていた。

ハワード三佐とホー三佐は、二佐に昇進して、モ
ビルスーツ部隊の指揮官兼参謀として忙しい日々
を送っていて、アサギはハワード二佐と結婚して
専業主婦になっていた。
それと、ホー二佐が結婚をしたらしいのだが、詳
細は俺達にも不明であった。
何でも、相手は「昔の師匠の娘」らしいのだが、
誰もその正体を確認していなかったのだ。

ギナ少将は、中将に昇進して宇宙軍を統括してい
たが、彼は相変わらず、親衛隊の面々に面倒を見
て貰っているようで、ミナ様の頭痛の種は消えて
いないようだ。

石原二佐は、三宅坂に戻されて退屈な中央勤務に
戻り、結婚した相羽二佐は、テストパイロット部
隊の責任者に就任して、毎日のように真田技術一
佐が開発したり改良した、モビルスーツの試験を
行っているそうだ。

フラガ中佐は大佐に昇進して、バジルール准将の
指揮する「アークエンジェル」と「ミカエル」の
モビルスーツ部隊隊長兼参謀長という変則的な地
位に就任していた。
ちなみに、「アークエンジェル」の艦長は、あの
ノイマン中佐である。

レナ中佐は、月に新たに設立された、士官学校の
教官に就任したらしいのだが、彼女が結婚したと
いう話は、未だに聞こえて来なかった。

エドワード中佐とジェーン少佐は、結婚した後に
、本当に軍を退役してしまって、エドワード中佐
の故郷で農園を経営していた。
今は、それほどの規模ではないらしいが、その内
に大規模農園にすると意気込んでいるようだ。

以上で、俺と関わりがあった個性的な面々の、近
況報告は終わるが、ここに出なかった人々の近況
報告は後日に行う事にしようと思う。


 「サクラ、ヨシヒサ。どこにお出かけするんだ
  い?」

 「うーんとねえ。お父さんとお出かけするの」

 「するの」

 「お父さんとかい?」

 「お母さんも一緒」

 「一緒」

俺の子供であるサクラとヨシヒサは、もう三歳に
なっていた。
サクラは女の子なので、かなりお喋りなのだが、
ヨシヒサは男の子なので、まだ口数が少なかった
。  

 「婿殿、どこに出かけるのかな?」

 「病院ですよ」

 「病院?」

 「ええ。シホが勤務している病院ですよ。まあ
  、経営者がシホのお祖父さんだから、実質的
  には彼女が院長なんですけど。ディアッカに
  子供が生まれたから、お見舞いに行くんです
  よ」

 「そう言えば、昨日そんな話を聞いたような」

 「そんな訳で、四人で出かけてきますね」

 「ああ。行ってらっしゃい。だが、その前に、
  手紙が婿殿に届いているぞ」

 「今時、手紙ですか?」 

俺は、お義父さんから受け取った封筒の封を切っ
て、中身を取り出すと、そこから一枚の手紙と写
真が中から出てくる。

 「何々・・・。結婚しました。レナ・モーデル
  ?」

 「ヨシヒロ、レナ中佐の事では?」

ラクスに指摘されて、初めてレナ中佐からの手紙
である事に気が付き、同封されていた写真を見る
と、そこにはウェディングドレスを着て、勝ち誇
った表情をしたレナ中佐と、優男風の気の弱そう
な年下っぽい、青年が一緒に写っていた。 

 「彼が哀れな子羊って事?」

 「ヨシヒロ、失礼ですよ。えーと、部下の方ら
  しいですね」

ラクスは手紙を読みながら、相手の男性の情報を
拾っていた。

 「本当だ。昔の教え子で大尉さんなのか。恩師
  と再会してしまったのが、彼の不幸の始まり
  か・・・」

 「ヨシヒロ」

 「ははは。冗談だって」

 「お父さん。今日はどこにお出かけするの?」

 「するの?」

俺とラクスがレナ中佐の写真を眺めていると、足
元に寄ってきたサクラとヨシヒサが、どこに出か
けるのかを聞いてくる。

 「赤ちゃんを見に行くんだよ」

 「誰の?」

 「誰の?」

 「アヤお姉ちゃんのだよ」

 「アヤお姉ちゃんの赤ちゃん早く見たい!」

 「見たい!」

プラントにあがったアヤは、約二年ほどクライン
邸で居候を続けていて、サクラとヨシヒサの面倒
を良く見ていたので、二人の子供達は、アヤに良
くなついていた。 

 「それじゃあ、行きますか」

俺達四人は車に乗って、市内の中心部にある病院
に到着した。
受付で部屋の場所を聞いて、ドアの前に到着する
と、意外な人物が俺を待ち構えていた。

 「あれ?ガイと風花ちゃんか」

 「こんにちは。カザマさん」

 「何だ、カザマか」

 「失礼な男だな。それで、何をしに来たんだ?
  」

 「楠木重工プラント支社のバカ共は、遅れるそ
  うだ。全く、俺達を呼び寄せておきながら常
  識のない・・・」

 「特にあの二人に常識を期待するなよ」

 「その意見には、全面的に賛成だ」

ガイは一年ほど前までは、傭兵を続けていたのだ
が、今ではラクスの口利きで、楠木重工プラント
支社で営業課長として働いていた。
ラクスは、俺が会社を興した時に、ガイをメンバ
ーに加える事を画策していて、そのための会社経
験を積ませる事を目的に、あの最悪な会社にガイ
を放り込んだようだ。

 「風花ちゃん、綺麗になったね」

 「ありがとうございます」

 「五年後は十六歳だから、ラクスが結婚した歳
  と同じだね」

 「はい」

 「おい!カザマ!」

 「君、彼女いるの?」

 「うううっ、いない・・・」

 「じゃあ、赤ちゃんを見るとしましょうか」

 [カザマの野郎!覚えてろよ!」

俺達は、一人怒っているガイを放置してアヤがい
る病室に入室する。

 「やあ、元気だった?」

 「こんにちは」

 「アヤお姉ちゃん。こんにちは」

 「こんにちは」

 「あら、サクラちゃんとヨシヒサ君も来てくれ
  たの」

 「赤ちゃん見せて」

 「見せて」 

病室には、ベッドの上で上半身を起こしているア
ヤと、嬉しそうな顔で赤ん坊を見つめているディ
アッカの姿が見える。

 「ヨシさん、早いですね。一番ですよ」

 「まあな。ところで、ディアッカは休みが取れ
  たんだな」

 「副司令が優秀ですから」

 「ジャックは、優秀ではあるんだよな」

 「ええ」

究極のナイフマニアであるジャックは、趣味はあ
れだが、赤服で優秀である事には違いはなかった
のだ。

 「それで、赤ん坊は?」

 「この子ですよ。可愛いでしょう」

俺はサクラとヨシヒサを、ベビーベッドの高さま
で持ち上げてあげながら、スヤスヤと眠っている
赤ん坊を眺め始める。

 「赤ちゃん寝てるね」

 「寝てるね」

 「赤ちゃんは寝るのが仕事だから」

 「ふーん。羨ましいね」

 「しいね」

 「本当、羨ましいよな。代わって欲しいくらい
  だ」

 「カザマ、お前は相変わらず、駄目な大人だな
  」

 「ガイほどじゃないよ」

 「ほっとけ!」

 「ディアッカ、女の子か?」

 「はい」

 「髪は金髪なんだな。でも、似てるな」

 「ヨシさんもそう思います?」

 「カザマさんもそう思いますか?」

アヤは、俺の事をカザマさんと呼ぶようになって
いた。
別に、名前で呼んでも良いと思うのだが、名前で
呼ぶと、ラクスに悪いと思っている節があるよう
なのだ。

 「何となくだけど、雰囲気が似てる。俺は写真
  でしか顔を見た事がないけれど。それで、名
  前は決めた?」 

 「はい。決めました」

 「何て名前にしたの?」

 「ミリアにしました」

 「俺の周りには、ロマンチストが多いな」

 「カザマ、その名前はまずくないか?」

 「どうしてだ?ガイ。ミリアなんて名前の女は
  、世界中に何万人もいるだろう」

 「それは、そうなんだが・・・」

 「それなら、良いじゃないか。でも、何でミリ
  アにしたんだ?」

 「あの娘は、恋も知らずに若くして死んでしま
  ったから。でも、今度こそ幸せになれますよ
  うにって、そう思ったからです。ミリア、あ
  なたには、私の一番大切な友達の名前をあげ
  る。だから、今度こそは誰よりも幸せになっ
  てね」

アヤはベビーベッドで眠る自分の娘に優しく語り
かけ、俺達はそれを見守り続けるのであった。


          おわり


          あとがき

ようやく終わらせる事ができました。
今まで、レスを書き込みや、誤字・脱字の訂正を
してくれた皆様(特に、なまけもの様にはお世話
になりました)への感謝の言葉をもって、あとが
きとさせていただきます。
これからは、外伝をちまちまと書くと思いますの
で、これからもよろしくお願いします。      

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