インデックスに戻る(フレーム有り無し

「これが私の生きる道!運命編最終話 ウラル決戦編及びエピローグ編(前編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-08-16 15:18/2006-08-17 23:36)
BACK< >NEXT

(六月十六日早朝、ウラル要塞防衛線最南端)

 「みんな!気合入れていくよ!」

 「「「了解!」」」

クルーゼ総司令の合図で攻撃を開始した戦力は、
大西洋連邦軍の三分の二と、マダガスカル共和国
軍、アフリカ共同体軍、イスラム連合軍、赤道連
合軍などを含む全部で六百機あまりで、地上に展
開している新国連軍のモビルスーツ部隊の約半数
であった。

 「タナカ君、(ジェーコフ)からの情報をリン
  クして」

 「了解です」

今回の戦闘では、総旗艦「ジェーコフ」に全部隊
からの様々な情報が集まり、それを分析した結果
が、各国の指揮官クラスのモビルスーツのコンピ
ューターに転送され、指揮官はそれを元に指揮を
執る事になっていた。

 「敵の推定戦力は・・・。(クライシス)が百
  機あまりと、(ディスパイア)という事前の
  会議でレクチャーを受けた新型機が、百二十
  機あまりです」

 「残りのあれは?」

 「機種名不能!(アンノウン)と認識されまし
  た。数は八十機あまりです。引き続き、性能
  の把握と弱点の洗い出しに入ります」

 「間に合えば良いけどね」

今回は狙撃銃を持ってきたマリアは、タナカ少佐
とリサ少佐の護衛のもと、少し後方から狙いをつ
けて、敵のモビルスーツや砲台を次々に撃破して
いた。

 「今日は調子良いわね」

 「そうですか?」

 「タナカ君に昨日、可愛がられたから」

マリアの発言は、周辺の他のモビルスーツの通信
機にも入り、彼らは「あのマリア少将を落とした
男」が、搭乗している「リックディアス」に一斉
に視線を向けた。

 「マジで勘弁して下さい」

 「ごめんね」

 「いえ・・・」

タナカ少佐は、いつもこの「ごめんね」に誤魔化
されてしまって、本気でマリアを叱った事がなか
った。

 「お嬢!タナカ君!ちゃんと指揮を執って頂戴
  よ!」

 「リサちゃん。ごめーん!」

 「すいませんです」

リサ少佐の指摘で二人の惚気タイムは終了し、少
将という、モビルスーツ隊指揮官の中では最高位
を持つマリアは、テキパキと全軍に指示を出して
いった。
第一次攻撃隊は、前線の防御陣や砲台を破壊し、
そこを防御しているモビルスーツ隊を撃破して、
ジリジリと前進を続けいる。
そして、マリア少将が選抜した、各国の狙撃能力
に優れたパイロット達が少し後方に位置して、狙
撃銃で敵を落とせるだけ落としていた。

 「あのモビルスーツは何なのよ!」

 「(アンノウン)です」

 「そんな名前のわけがないでしょうが!」

自分の確実に命中すると思っていた射撃を、「ア
ンノウン」にさらりとかわされてしまったマリア
は、子供のような態度で文句を言っていた。

 「お嬢、落ち着きなよ」

 「落ち着いていられなーーーい!」

更に、敵の新型モビルスーツ隊はかなりの高性能
機のようで、こちらが一機を落とす間に、こちら
は二〜三機が落とされているようであった。

 「マリア少将、落ち付いて下さい」

 「大丈夫よ。わたしは落ち着いているわ」

タナカ少佐が心配になって、マリアに声をかけた
のだが、彼女は戦場だけで見せる、冷静な声と表
情を出していて、さきほどの慌てぶりは、完全な
芝居のようであった。 

 「タナカ君、損害比率は?」

 「1.5対1です」

 「そう。カザマ君の期待を裏切ってはいないわ
  ね」

 「1.7対1で上等と言われていましたからね
  」

 「とにかく、ゆっくりで構わないから、虱潰し
  に敵の防御力を削りなさい!敵の新型機には
  、最低でも二機で当たる事!この戦いは私達
  が決めるのよ!」

 「「「了解!」」」

マリア少将の命令に、攻撃隊に参加しているパイ
ロット達が、大声で答えてから綿密な攻撃が再開
され、戦いは更に激しさを増すのであった。


(三時間後、ウラル要塞中央司令室内)

 「各指揮官達に連絡。第二段階に移行する」

ウラル要塞内の最深部に設置されている、中央司
令室内の指揮官専用ブースで、アラファスが作戦
の第二段階への移行を宣言した。

 「各軍の指揮官から了解の返電が入りました」

 「ごくろう。損害を報告せよ」

 「モビルス−ツ隊の損害は、完全損壊が八十七
  機です」

 「敵は?」

 「百三十前後の敵機が使用不能と思われます」

 「予想通りの損害比率だな」

アラファスの横にいる参謀は、その他にも、要塞
基地区域の三割の面積が破壊されて占領された事
や、地上戦艦部隊は後退しつつも、全艦が無事で
ある事などを報告した。

 「ですが、新型機の(ジェガン)が、思ったほ
  どの活躍をしていないようです」

 「そんな事はないさ。選りすぐりのメンバーを
  、最新鋭機に乗せているだけあって、約二倍
  のスコア比を出している。この機体は大成功
  だな」

 「大西洋連邦軍から盗んだアイデアを、連行し
  てきた技術者や科学者の手で完成させた代物
  ですけどね」

 「自分達のアイデアで殺されるんだ。連中も可
  哀想にな」

実は、「ウィンダム」の後継機として、大西洋連
邦軍技術部第二課で研究されていた機体が、この
「ジェガン」であった。
「ジェガン」は、性能もさる事ながら、操作性、
整備性、拡張性なども十分に考慮された新型機で
あり、最低でも、五年は第一線で使用可能なモビ
ルスーツをコンセプトに開発されていたのだが、
「ウィンダム」を開発した第一課との競争に敗れ
て、お蔵入りになったものを、今は亡きクロード
の諜報機関が、金に困った課員から極秘に買い取
ったものであった。
ちなみに、第一課が勝利した機体名は「ガン・イ
ージー」と呼ばれていて、「ジェガン」と同じよ
うなコンセプトで開発中の機体であり、採用は七
年後を目処にしていて、繋ぎに「クライシス」の
改良機を配備する事が決まっていた。
さすがに、モビルスーツ開発の過度期は過ぎつつ
あって、各国のモビルスーツの開発速度は低下し
つつあるようであった。

 「連中も可哀想ですが、こちらも一日持ちませ
  んね。あの第二司令室のジジイ達が、大騒ぎ
  をしているそうです」

 「作戦内容は伝えたんだろう?」

 「ええ。最後の一手で逆転しますと」

アラファスは、エミリアとユーラシア連合クーデ
ター政権首班である、ペタン大統領からの指名を
受けて、この作戦における全軍の指揮を執ってい
たのだが、この事に不満を述べる年輩の軍人達や
政治家達が多くいたので、連中を第二司令室とい
う名の空き部屋に待機させていた。
だが、アラファスがわずか三時間で多くの損害を
出していたので、「やはり若造では・・・」と文
句を言い始めているらかった。

 「ここの指揮を任せる。すぐに戻る」

 「それは構わないのですが・・・」

 「エミリア様は、過去の地位や栄光に縋る年寄
  り達を許さない。この困難な戦況を覆す事に
  成功した暁には、若い諸君達を要職に就ける
  であろう。そして、あのジジイ達は自身の保
  身のために、君達に罪を擦り付けて裏切りを
  起こすつもりらしい」

 「なっ!本当ですか?」

元ロシア連邦軍中佐である主席参謀は、この反乱
を支持し続けていた彼らの裏切りが信じられない
らしく、驚きの声をあげる。

 「連中は、外部と密かに連絡を取っていた。ど
  うやら、我々と新型モビルスーツのデータを
  売って、自身の恩赦を勝ち取るつもりらしい
  」

 「許しがたい忘恩の徒ですね!」

若い参謀は憤っていたが、これはエミリアとアラ
ファスの嘘であった。
失脚したとはいえ、昔は政府や軍の要職に就いて
いた彼らが、その程度の事で恩赦を勝ち取れると
は思っていなかったし、ここで裏切る算段をして
も、エミリアに見つかって処刑されるだけだと考
えていたからだ。
なので、彼らはせめて自分達で指揮を執って敗北
するか、戦況を混乱状態にして、その隙に自分達
が逃亡するか、どさくさに紛れて個人単位で大西
洋連邦軍などに保護して貰って、罪の減免を要求
しようとは考えていた。
そして、その際に持って行くお土産は、戦後世界
を運営していくうえで重要な各種の様々な情報や
、ユーラシア連合政府や軍の秘密や、ここで研究
が進められていた、各種の研究データ等が考えら
ていた。

 「もう、あのジジイ達に遠慮する必要はないな
  。俺が先に滅ぼしてやるか。何もできない癖
  に、口ばかり出してきやがって!大体、奴ら
  は・・・・・・」

アラファスは、第二司令室まで続く廊下を早足で
歩きながら、彼らへの不満を述べ続けていたが、
入り口に到着すると、ドアの両脇に立っていた従
兵からサブマシンガンを受け取った。

 「失礼します。アラファスです」

これから起こる惨劇に心をワクワクさせながら、
アラファスが入室すると、中ではワインを飲みな
がら愚痴をこぼしている老人達が見える。

 「そもそも、私はこの作戦には反対だったのだ
  。せめて、海際で全力で敵を防いで、ヨーロ
  ッパ大陸を維持していれば・・・」

 「だが、宇宙からの戦力の降下が痛いぞ。我々
  には、宇宙艦隊が残っていないからな」

 「そもそも、最初の作戦がまずかった。観艦式
  に参加していた艦隊に奇襲などをかけさせる
  から・・・」

 「だが、あれがなければ時間が稼げなかったぞ
  」

 「海外に戦力を派遣し過ぎだったのだ。あの戦
  力があれば、ここまで苦戦は・・・」

 「そうだ!エミリアは作戦を誤った!彼女の責
  任を追及して、ここは我々が!」

 「そうだ!全軍の指揮を若造に任せるな!」

 「エミリアに指揮官の交代を進言するんだ!」

アラファスは、最後の一番大切なところで、重要
な地位から外されて、予備の司令室で酒を飲んで
愚痴をこぼす事しかできない老人達に多少の憐憫
さを覚えたが、ことがエミリア非難に及んだので
、彼は低い声で老人達に話しかけた。

 「どうやら、ご機嫌斜めのようですね」

 「アラファスか!」

 「何をしに来たんだ!」

 「そうだ!我々をこんな空き部屋に閉じ込めて
  !」

彼らは、表面上は強気であったが、つい先ほどま
で、エミリアとアラファスの批判をしていたので
、ばつの悪そうな表情をしていた。

 「海外への戦力の派遣があったからこそ、ここ
  までの数の新型モビルスーツと、練度を持っ
  たパイロット達を集められたのですがね。そ
  れに、実戦データがあってこその新型機でも
  あります」

 「だが、その倍の数の若い将来のある若者達を
  見殺しにした!」

 「そうだ!もう数ヶ月訓練すれば、戦力になっ
  たであろう、多数の兵士達を(明日のユーラ
  シア連合のため)と言って、足止めに利用し
  てな」

 「おやおや、今更奇麗事ですか?あの時に、あ
  なた達は反対しなかったでしょうが」

 「我々に権限がなかったからだ!」

 「会議には出ていましたよね?少なくとも、私
  はそう覚えています。それに、(意見はご自
  由にどうぞ)とエミリア様も仰っていました
  よね?」

 「あの場面で意見など言えるか!」

 「そうだ!お前達にしか決定権のない会議など
  不毛でしかないだろうが!」

 「それは違いますね。あなた達が無能だから、
  会議の雰囲気に引きずられただけですよ。本
  当に有能な方なら、自分の意見を言えたはず
  です。敵ではありますが、クルーゼやカザマ
  なら自分の意見を通したでしょう。なぜだか
  わかりますか?」

 「有能だからなんだろう?お前がそう言っただ
  ろうが!」

 「それもありますが、彼らは現在の地位と権力
  に固執していないからです。あなた達は反乱
  に参加していながら、まだ何かを守ろうとし
  ている。だから、上手くいかないんですよ。
  負け犬さん達」

 「その言葉を訂正しろ!」

 「言って良い事と悪い事があるぞ!」

 「そうだ!」

老人達は一斉に激怒して、アラファスに謝罪を求
めてくるが、彼はそれを完全に無視していた。

 「さて、この負け犬臭い空間を浄化するかな」

 「アラファス、何を言っている・・・?」

 「実はですね。あなた達が裏切りを狙っている
  という情報が流れてきましてね。あなた達が
  、我々を売って自身の安寧を図ろうとしてい
  るという。まあ、ありきたりな情報です」

 「ふざけるな!そんな事ができるわけがないだ
  ろうが!」

一人の初老の軍人が大声でその事実を否定したが
、残りの老人達は複雑な表情をしていた。
彼らは、情報を外部に流したりした事はないのだ
が、自分の身を守る事は考えていて、極秘裏に情
報等は集めていたので、完全にはシロとは言えな
い状態だったのだ。

 「暇なのを良い事に、負け犬らしく残飯を漁っ
  ていたらしいですね」

 「うぅ・・・・・」

普通なら、ここで全員が激怒しそうな発言なのだ
が、後ろめたい面があるのか?
彼らは大人しいままで、アラファスとの視線を逸
らしていた。
実は、アラファスは、彼らが情報を集めていた事
は知っていたが、特に非合法な手を使って集めた
わけでもなく、外に漏らしたわけでもないので、
本当は、彼らがシロである事を知っていた。

 「何か後ろめたい事でも?」

 「私はないぞ!」

先ほどの実直そうな軍人が即座に否定したが、残
りの老人達は下を向いたままであった。
彼らも、自分達が罪にならない事は理解していた
のだが、ここで余計な事を言って、スケープゴー
トにされるのも嫌なので、大人しくしていた方が
良いと判断したらしい。

 「やれやれ、潔白な事を証明できるのはあなた
  だけですか?」

 「私は軍人だ。軍人は上からの命令で動くもの
  だ」

 「わかりました。あなたには、中央正面ゲート
  の守備をお願いします」

 「心得た!」

彼は、一人意気込んで部屋を出て行ったが、アラ
ファスは彼を複雑な表情で見つめていた。
実は、准将である彼はクーデターへの賛同者では
なかった。
たまたま、上司が首謀者の一味であり、彼に参加
するように命令されていたので、クーデターに参
加したに過ぎないという、お堅い軍人らしい理由
でこの場所にいたのだ。
一度、「クーデター政権なのだから、参加しなく
ても良いのでは?」と尋ねた事があるのだが、彼
は「正統ユーラシア連合政府が、本当に正統な政
府という保障もない。外国の傀儡かも知れないか
らだ」と答えて、上からの命令に忠実に従ってい
た。
アラファスは、彼の判断基準がいまいち理解でき
なかったが、軍人としては使える男だったので、
そのまま使い続けていたのだ。

 「無罪なのは彼だけでしたね。それで、残りの
  あなた達なのですが、ここで、死刑判決を出
  しておきたいと思います。時間が差し迫って
  いる関係で、裁判をする時間がないのですよ
  」

 「我々が死刑だと!」

 「どういう事だ!」

 「奴だけ無罪とはどういう事だ!」

 「彼は、愚直に上からの命令に従う男ですから
  ね。ここで、裏切ると考える人は皆無でしょ
  う。それに、私の良心が少しだけ疼きまして
  ね。彼にしてあげられる事は、軍人らしく戦
  わせてあげる事なのかな?って考えたんです
  。でも、あなた達は後ろでギャーギャー騒ぐ
  だけですからね。ここで始末しても構わない
  でしょう」

 「待て!」

 「止めるんだ!」

老人達がアラファスを制止しようとした瞬間、彼
は後ろに隠していたサブマシンガンを連射して、
老人達を次々と蜂の巣にしていった。
老人達は武器を取り上げられていて、全くの丸腰
であったために、反撃ができなかった。

 「さて、一通り始末したかな?」

何回も弾装を変えながら、全ての弾を撃ち尽くし
たアラファスは、部屋の隅で奇跡的に無傷でいた
ペタン大統領を発見した。
彼はボケが進行し過ぎていて、表に出して発言さ
せる事も出来なかったので、彼らと一緒にここに
閉じ込められていたのだ。
ペタン大統領は、射殺されて血と脳漿が飛び散っ
ている射殺死体を気にもせずに、彼らが生前にワ
インのつまみに用意していたチーズを一人で食べ
続けていた。
当然、それらにも血が飛び散っているのだが、ペ
タン大統領は、それすらも気にならないようであ
った。

 「ペタン大統領」

 「おお。アンリーかね。よく来てくれたな」

 「ええ」

アラファスは、突然の彼の言葉に動揺を隠せなか
った。
アンリーとは彼の孫に当たる人物で、ウラル要塞
に逃げ込まずに、残った一族と共に、新国連の保
護下に入った人物だからである。
彼は、「祖父はボケていて、まともに政務など出
来るはずがない。我々と別れた時でも、一日二時
間もまともなら、調子が良いくらいだったのだか
ら」と証言して、世界中に波紋を呼んでいた。

 「お祖父さん。お迎えが来ます。先に行ってて
  下さい」

アラファスは、何を言っても無駄な事がわかって
いるので、自分の名前を訂正せずに、アンリーの
ままでペタン大統領との会話を始める。

 「そうなのかね?それで、アンリーはどうする
  のかね?」

 「すぐに追いつきますので、安心して下さい。
  別の人達が一緒に行きますから」

 「そうか。実は私は夢を見ていてな。ユーラシ
  ア連合の大統領になったんだよ。それで、色
  々と命令を出したんだよ」

 「それは凄いですね。でも、昔の中国のお話に
  あるではないですか。ある男が庭で蝶々が飛
  んでいる様子を見て、実は自分が蝶々で、今
  は夢を見ている状態なのかもしれない。とい
  うお話です。もしかしたら、本当の事かも知
  れませんよ」

 「そうかも知れないね。ところで、アンリーは
  、大統領になりたいと思った事はあるのかね
  ?」

 「そうですね。あまり興味がありません」

 「アンリーは、絵描きになりたかったからね」

 「ええ。でも、それで食うのは大変なんですよ
  」

 「そうかね。困った事があったら、私に言いな
  さい。多少の援助ならできるから」

 「ありがとうございます。さあ、行きましょう
  か?」

 「そうだな。アンリーの言う通りにしようかな
  」

アラファスは、ペタン大統領が哀れに思えてきた

クーデターを起こす前に、射殺した連中に「誰を
大統領にするべきか?」と尋ねると、一番人気が
あったのが、ペタン退役大将であったが、彼は二
十年も前に引退していた老将軍で、既にボケがか
なり進行していたのだ。
始め、アラファスは「止めた方が良い」と反対の
意見を述べ、クロード達もそれに賛成していたの
だが、連中が「操りやすい」という理由で、無理
矢理大統領に仕立て上げてしまったのだ。
そして、いざ大統領に就任してからは、彼らより
も大統領を上手く利用して、自分達の都合の良い
事だけを「イエス」と答えさせて、そうでない時
は、「ノー」と答えさせていた。
アラファスは、自分が極悪人である事を自覚して
いたが、それは自分で選んだ事であり、クーデタ
ーに参加した連中もそうであったので、邪魔にな
ったら始末する事に躊躇いはなかったのだが、ペ
タン大統領がこうして、奇跡的に弾が当たらずに
無傷でいるところを見ると、再び銃を発射して射
殺する事に躊躇いが出てしまっていたのだ。
そこで、アラファスは、独断で彼を脱出させよう
と決意したのであった。

 「若い科学者や技術者の方々とここを出て下さ
  い」

 「わかった。アンリーの言う通りにするよ」

ペタン大統領は、最後までアラファスを孫と間違
えながら、血まみれの第二司令室を退室して、強
制連行してきた科学者や技術者達と一緒にウラル
要塞を出ていったのであった。

 「自らの意思で残った者達は、ここで死を。違
  う者達は、家に帰って我々の極悪ぶりを世間
  に話せば良いさ。何しろ、我々は大極悪人だ
  からな」

ペタン大統領を送り出してから、第一司令室に向
かう廊下で、アラファスは一人呟くのであった。
その後、ペタン大統領は保護された新国連軍に逮
捕されて、後日に裁判を受ける予定であったのだ
が、完全にボケていたので、責任能力が無いと判
断されて免罪になり、余生をパリ郊外の特別養老
院で過ごす事になるのであった。


(三十分後、総旗艦「ジェーコフ」艦内)

 「何?ペタン大統領が脱出してきた?」

総旗艦「ジェーコフ」で全部隊の指揮を執ってい
た俺は、北方に配置しいている部隊から意外な報
告を受けていた。

 「ええ。それも、強制連行されていた科学者や
  技術者達とです。それともう一つ。彼は完全
  にボケていて、逮捕しても罪に問えるのかわ
  からないそうです」

 「そうか・・・」

俺は少し気が重くなってしまった。
あれだけ世界を混乱させた名目上のリーダーが、
まともな判断能力を保持していなかったと言うの
だ。
以前から噂になっていたし、俺達の保護下に入っ
た家族からの証言もあるので事実なのだろうが、
そんな年寄りのせいで何万人もの人が死んだの
に、罪に問えないと言うのだ。
これが茶番でなくて、何だと言うのであろう。

 「とにかく、身柄は確保したわけだな?」

 「はい。それと数千人の科学者や技術者達や熟
  練工員達もです」

 「わかった。北方からの攻撃を中止して、中央
  に割り振れ。そこが脱出路なんだろう?」

 「ですが、そこから攻勢を受けると・・・」

 「念のため、少数の対応部隊は置いておけ。ど
  うせ、あそこには正統ユーラシア連合軍の治
  安維持軍もいるんだ。脱出してきた人員の身
  元照会は、連中に任せておけば良い」

 「かしこまりました」

主席参謀のスハルト中佐は、その地点からの敵の
攻勢を心配していたが、俺は敵にそこまでの余裕
はないと思っていたし、無理にそこに部隊を置い
て、脱出してきた人員が戦闘に巻き込まれて死亡
したら、非難されるのが我々である事を知ってい
るので、その地点の防衛戦力を引き上げると予想
していたからだ。

 「敵の戦力が交代するようです!」

 「時間切れか。もう半数を出してくるだろうな
  。こちらも、第一次攻撃隊を下げて第二次攻
  撃隊を出せ。それと、配置の変更を頼む。北 
  方の戦力を薄くしてくれ」

 「了解しました」

俺の指示を受けて、スハルト中佐はテキパキと仕
事をこなしていく。
彼は、赤道連合軍最高司令官のスハルト中将の甥
であるが、戦闘機パイロット出身で、若いながら
も非常に優秀な軍人であった。
先の大戦では、戦闘機隊を率いてハイネ達と共同
作戦を取った経験もあるとの事なので、この新国
連軍の幕僚に最適だと思って、俺が強引に引き抜
いたのであった。
周りでは、「小国の若い軍人が、この栄誉ある新
国連軍の主席参謀なのか」と陰口を叩く者もいた
が、彼は期待を裏切らない仕事ぶりで俺を助けて
くれていた。
というか、そのセリフは本来クルーゼ総司令が言
う種類の発言なのだが、彼は早く「スーパーフリ
ーダム」で出撃したいようで、指揮官シートにソ
ワソワしながら座っていた。  

 「脱出する人員で、北からの攻勢を諦めさせて
  戦力を集中させますか。アラファスは策士で
  すな」

参謀長のカツコフ中将は、事前に聞いていた敵の
指揮官の名前を口に出して、彼を褒めていたのだ
が、それは多分、皮肉であろうと思われる。
彼はロシア系フランス軍の軍人で、卒なく補給路
の確保と輸送の成功を収めていたので、俺が引き
抜いた人物であった。
フランス系軍人は、今回の騒乱で身を小さくして
いるのが普通なのだが、彼だけは例外で、一人で
泰然としていたので使えると思ったのだ。
現に、彼はこの任務を難なくこなしてくれていて
、若い俺やクルーゼ司令に不足している、経験の
面で助けになってくれていた。

 「そうだな。狭まった地域に戦力が集中するか
  ら、損害率も上がるだろうな」

 「ええ。その損害ですが、全損及び修理不能機
  は百八十七機で、パイロットの戦死は百十五
  名になりました」

 「向こうは?」

 「百三十機ほどとの事です」

 「さっきよりは、損害比率が縮んだな」

 「ですね」

 「このまま、押していこう。敵はいつか限界を
  超えるはずだから、その時に壊滅させれば良
  い。今は、敵の戦意を削ぐ事に集中するんだ
  」

 「了解です」

俺の命令が全軍に発信され、各軍が第二次攻撃隊
のモビルスーツ部隊の編成と発進に入った。
第二次攻撃隊は、総計六百五十機あまりで、総隊
長はクルーゼ総司令その人であった。
普通、常識的に考えて、総司令が出撃するのはお
かしいのだが、実質的に俺が指揮を執っていて、
万が一、彼が戦死しても指揮に混乱をきたさない
点と、彼に何を言っても無駄だというバルトフェ
ルト副総司令の意見で、この案が認められてしま
っていたのだ。
そして、その他にもフラガ中佐、レナ中佐、エド
ワード中佐、ジェーン少佐、石原二佐、相羽三佐
、アスラン、ハワード三佐、ホー三佐、アサギ、
キラ、イザーク、リーカさんと数は第一次攻撃隊
とそれほど変わらないが、質の面では大攻勢をか
ける事になっていて、時間差で宇宙からの降下部
隊の増援も受ける事にもなっていた。

 「では、出撃するとしようか」

いつの間にか、パイロットスーツに着替えたクル
ーゼ総司令が、出撃する事を俺達に伝えてきた。

 「ちゃんと帰ってきて下さいよ」

 「例え部隊が全滅しても、私は生き残るつもり
  だ」

クルーゼ総司令の発言に皆がギョッとするが、確
かに全部隊が全滅しても、彼だけは生き残ってい
そうな気がするし、周りの司令部要員の全員が同
じ事を感じたようだ。

 「(ギラ・ドーガ)隊は置いていく。万が一の
  事があると困るからな」

 「では、シン達のみを連れていくのですか?」

 「イザークとハイネが戦力を少し貸してくれる
  そうだ。それに、ムウは私の命令で動かせる
  からな」

フラガ中佐をこき使える立場にいる、クルーゼ総
司令は嬉しそうだが、俺は彼に同情を禁じえなか
った。

 「では、行って来る」

 「行ってらっしゃい」

こうして、クルーゼ総司令は、「スーパーフリー
ダム」を単機で発進させて、前方にいるシン達と
の合流を目指すのであった。


クルーゼ総司令は、シン達を引き連れて前線に出
発し、その十分後に第二次攻撃隊の総攻撃が始ま
った。

 「宇宙からの増援は、どのタイミングで落とし
  ますか?」

 「とりあえず一時間半後だ。クルーゼ司令達が
  弱らせた敵を一気に粉砕して、本丸に突入す
  る」

 「了解しました。上の宇宙艦隊との情報リンク
  をオンにします。それと、修正を加えた降下
  地点の割り振りも転送いたします」

 「頼む。ところで、カツコフ参謀長。今回、私
  はモビルスーツに乗ることになると思うか?
  」

 「そうですね。多分、ないと思うのですが、何
  かが引っかかります」

 「何かが?」

 「ええ。クルーゼ総司令も何か思うところがあ
  って、(ギラ・ドーガ)隊を置いていったと
  思うのですが・・・」

 「なるほどね。それも一理あるかな。確かに、
  敵の戦力の算定には失敗しているからな。五
  百機とガイは言っていたけれど、実際はもう
  二百機ほど多いと思うし」

敵の第一波の防衛隊が引き上げたあとに、また三
百機ほどの防衛隊がすんなりと出てきたので、予
備が百機と見て、敵は七百機近くを配備したので
あろう。
この数は、大西洋連邦軍の任務艦隊(タクスフォ
ース)二個分の配備量で、エミリア達が、いかに
ユーラシア連合の資産と資源を食い尽くしている
かが容易に想像ができた。
多分、今頃正統ユーラシア連合政府の首脳は、改
めて顔を青くしているであろう。

 「とにかく、クルーゼ総司令達に任せるべきだ
  な」

 「そうですね」

俺は念のために、パイロットスーツに着替えてか
ら、指揮に専念する事にしたのだが、これが後に
旗艦を救う事になるとは、現時点では誰も考えて
いなかった。 


(同時刻、最前線、シン・アスカ視点)

 「おかしいぞ?敵が強すぎるぞ!」

 「第一次の攻撃隊と数はそれほど変わりがない
  のに、前線に出ている指揮官機の腕前が尋常
  ではない!」

敵の第二次防衛隊三百機は、新国連軍第二次攻撃
隊の異常な戦闘力に驚きを隠せないでいた。
先ほどは、互角に近い戦いができてたのに、今は
完全に押されてしまっていたからだ。

 「ヤンタン様はどこにいる?」

 「前方で(ディスティ二ー)というモビルスー
  ツと・・・」

彼がそう答えた直後に、モビルスーツ隊を指揮し
ていた、エミリアチルドレンの一人であるヤンタ
ン・ブノルは、「ディスティニー」のビームソー
ドで搭乗していた「ジェガン」共々上半身と下半
身を切り離されていた。

 「ヤンタン様!」

 「ちくしょう!最終防衛ライン前の(罠)まで
  引き上げるぞ!指揮官の戦死に伴い、私が指
  揮を執る!」

だが、そう宣言した彼も、「ナイトジャスティス
」のビームサーベルで斬り裂かれて、指揮を執っ
ていた時間が十秒にも満たなかったという、最悪
の結末を迎えていた。

 「そう予定通りにはいかないか。全軍、予定地
  点まで引いて体勢を立て直せ!第一次攻撃隊
  残存機の補給終了まで持ちこたえるんだ!」

 「隊長代理!アラファス様からの指令です。最
  終防衛ラインまでへの後退を許可するとの事
  です」

 「もうやってるよ!」

 「地上戦艦部隊はどうしますか?」

 「残存は?」

 「三隻です。(ダンケルク)(ティルピッツ)
  (ビスマルク)が健在だそうです」

始めは五隻いた陸上戦艦も、集中攻撃を受けて、
既に二隻が爆沈していた。
 
 「縁起でもない名前の奴ばかり生き残っている
  な。乗員を退避させて(針ネズミ)を作動さ
  せろ!タイミングを誤るなよ」

 「了解!指示を出します」

こうして、第二次防衛隊の隊長代理は、全軍に最
終防衛ラインまでの退却を命令して、自身も撤退
するのであった。


 「何だ?引き上げるのか?クルーゼ総司令、ど
  う思われるでありますか?」

相変わらず敬語がいまいちなシンが、不自然な言
葉使いで質問をするのだが、クルーゼ総司令はそ
んな事を気にする男ではなかった。 

 「体勢を立て直すためであろうな」

 「では、追撃を・・・」

 「待て、ここから離れるんだ!」

クルーゼ総司令がとっさに叫んだので、シン達が
無意識にその場所から離れると、乗員が退避して
無人になった地上戦艦から、針ねずみの様に多数
のビーム砲がせり出してきて、あたり構わずに連
続射撃を開始した。

 「うわーーー!」

 「隊長ぉーーー!」

突然のビーム砲の乱射に、合計で四十機近いモビ
ルスーツが巻き込まれて次々に爆発していき、そ
の苛烈な砲撃で、一時的にこの方面軍の進撃が完
全にストップしてしまう。

 「やっかいなものを残してくれたな」

 「クルーゼ総司令!どうしますか?」

 「私、シン、ルナマリアで一人一隻を始末する
  。レイは援護を頼む」

 「了解です!」

 「了解」

 「了解」

 「では、突撃だ!」

クルーゼ総司令の合図で、三人は突撃を開始する

地上戦艦は、完全に自動操縦になっていて、自分
達に狙いをつけてくる事はなかったが、満遍なく
配置されたビーム砲が、シャワーのように自分に
向かって降り注ぐ光景は、心臓に良くない事この
うえなかった。

 「ええぃ!」

シンは「ディスティニー」を曲芸のように操り、
多数のビーム砲をビームシールドで弾いたり、回
避しながら地上戦艦に接近していく。

 「一撃で仕留める!」

シンは「ディスティニー」のビームソードを構え
てから戦術コンピューターを開き、その弱点を検
索して、その動力炉に深々とビームソードを突き
刺した。

 「やったぞ!」

手ごたえを感じたシンが、ビームソードを敵戦艦
に残したまま、その場を退避すると、ビーム砲の
乱射が止まり、地上戦艦「ビスマルク」は爆発を
繰り返しながら崩壊していった。

 「まずは一隻!ルナは?」

シンが心配になって、ルナマリアの様子を探ると
、彼女は砲撃の薄い部分を掻い潜りながら接近し
、「ナイトジャスティス」の「ファントム01」
を発射して、「ティルピッツ」の動力炉に叩き込
んだ。

 「これで二隻目よ!」

 「やったな。ルナ!」

 「(赤い戦乙女)としては当然よ!」

 「浸透しそうにないな。その二つ名」

 「これから浸透するのよ!」

二人が話している横で、クルーゼ総司令が「ダン
ケルク」をハイドラグーンと背中の砲撃でしとめ
て、三隻の地上戦艦は大爆発を繰り返していた。

 「ラウ、やりましたね」

 「そうだな。だが、これからは進撃を慎重にし
  なければならない。前方で敵と戦っている時
  に、背後から罠に襲われてしまったら、全滅
  してしまう可能性があるからな」

 「少し慎重過ぎるのでは?」

 「せっかくの数の優位を、下らない奇策で失い
  たくない。時間がかかっても、損害を抑えら
  れれば良いのだ」

 「わかりました。私が各部隊の隊列を整えさせ
  ます。シンやルナマリアやラウは、少し休ん
  でいて下さい」

 「任せよう」

 「頼むな。レイ」

 「気が利くわね。(赤い戦乙女)に敬意を払っ
  てくれているの?」

 「ルナマリア、自称で二つ名を付けるのはよく
  ないぞ。現に誰もそう呼ばないではないか。
  きっと、皆がイメージと一致していないと思
  っているのだ」

 「じゃあ、何が良いの?」

 「(赤い殺人パテシエ)だ」

過去に数度、彼女の手作りお菓子の被害を蒙って
いるレイの、ささやかな反撃であった。

 「それは、仲間内でしか通用しないでしょうが
  !しかも、もう改善したわよ!」

 「そうか?この前のチョコレートケーキは酷か
  ったぞ」

自分を庇ってくれると思っていたシンも、この件
では自分も被害を受けていたので、助けてはくれ
ないようだ。
 
 「始めてだからしょうがないのよ!」

三人が不毛な会話を続けていると、クルーゼ総司
令が言いたい事があるらしくて、会話の輪に入っ
てくる。

 「ルナマリア君の二つ名か。では、(赤い大虎
  )でどうだ?」

 「クルーゼ司令、それって・・・」

 「この前、飲みに行った時に、(仮面を外せ!
  )と叫んでしつこかったではないか」

 「確かに、あれは大変だった。ルナが限界を超
  えて飲むから」

シンも酷い目にあったらしく、クルーゼ総司令の
意見に賛同しながら頷いた。

 「俺もホモ扱いされたな。(美男子なのに、彼
  女がいないのは男が好きだからなんでしょう
  ?)と」

 「あはは、そうだったっけ?」

 「俺、おんぶして、部屋まで運ぶ羽目になった
  んだけど・・・」

 「可愛い彼女をおんぶできて、光栄だったでし
  ょう?」

 「背中にゲロを吐かれなければね・・・」

 「それを公の場で公表するな!」

シンはルナマリアを背負って自室に戻る途中、彼
女にゲロを吐かれて、大変な事になった出来事を
語り始める。
この件は、ルナマリアにとっては一生封印したい
究極の失敗であった。

 「では、ルナマリア君の二つ名は(赤い大虎)
  で決定だな。みんな。次からはそう呼んであ
  げたまえ」

 「「「了解!」」」

 「よろしく。(赤い大虎)」

 「よろしくな」

クルーゼ総司令の決定で、無線を聞いていた各軍
の全パイロットが、ルナマリアを「赤い大虎」と
呼ぶことに決めて、次々にルナマリアに挨拶を入
れていった。

 「(砂漠の虎)よりも強そうで良いな」

 「クルーゼ総司令、(赤い大虎)は嫌です。助
  けて下さい」

 「さて、隊列も整ったし、前進を再開するかな
  」

 「二つ名はもういりませんから、その二つ名だ
  けは止めて下さい」

 「各軍、前進!途中の抵抗は、慎重に徹底的に
  排除せよ!」

ルナマリアの抗議は完全に無視されて、クルーゼ
総司令達は前進を再開する。

 「あのですね。本当にその二つ名は嫌ですから
  ね」

だが、ルナマリアの願いも空しく、彼女の二つ名
は「赤い大虎」で固定されて、各軍のモビルスー
ツ部隊関係者に広がっていくのであるが、実際に
ルナマリアを見て、「何であんな美少女が大虎な
んだ?」と首を傾げる者が多かったようだ。

 「その二つ名は、嫌ぁーーー!」

 「もう、ラウに何を言っても無駄だ。彼はそう
  いう男だから」

ルナマリアの心からの叫びに、レイは冷静にツッ
コミを入れるのであった。 


(二時間後、総旗艦「ジェーコフ」艦内)

 「状況を報告せよ!」

 「すでに、要塞重要部分の五十八%の占拠と破
  壊に成功しました。もう少しで最終防衛ライ
  ンに達します。南方軍のアスハ一佐とヤマト
  二佐とジュール隊長も、順調に進撃を重ねて
  います」

 「上出来だ。それで、損害の方は?」

 「敵が二百十機前後で、我々が三百十五機ほど
  だそうです。その内、パイロット戦死者は二
  百十一名です」

 「やはり、1対1.5の損害比率に変わりはな
  いか。三分の一のパイロットが、生き残って
  くれたのは嬉しい限りだが」

 「そうですね。パイロットは本当に貴重ですか
  ら。一人でも死なせたくありません」

戦闘機ながら、同じくパイロット出身のスハルト
中佐が、複雑な表情をしながら俺の意見に賛同す
る。

 「どうやら、今日中に終わりそうだな」

 「このまま行けばですが」

 「別に二日かかっても構わないけど。(ジェー
  コフ)以下全艦艇を前進させろ!それと、宇
  宙軍に連絡!遅れていた降下作戦をスタート
  させろ!要塞の真上に降下して砲撃で撃破さ
  れないように念を押しておけよ」

敵に予想以上に時間を稼がれてしまったが、俺の
指示で地球軌道上部隊に降下命令が下り、戦況は
クライマックスを迎えつつあった。


(同時刻、地球軌道上「メラネオス」艦内)

 「カザマ副総司令殿から、降下命令が下ったぞ
  !(ウィンダム)隊、(ウィンダムハイドラ
  グーン搭載タイプ)隊、降下用意!」

 「降下用意完了です。バリュートシステムは全
  機異常なしです」

 「他の軍の司令官達はどうなのだ?」

 「ザフト軍のユウキ総司令から、準備完了の連
  絡入りました」

 「極東連合軍の小沢海将から、準備完了の連絡
  です」

 「オーブ軍のロンド・ギナ・サハク少将から、
  準備が完了したとの事です」

 「よし!戦術コンピューターをリンクさせろ!
  敵の真上に降りてすぐに撃破されるなよ!全
  軍降下開始!」

第八艦隊司令ハルバートン中将の命令で、全軍の
モビルスーツ隊六百二十七機が、隊列を組んで順
番に降下を開始する。
降下部隊は、補給が完了した第一次攻撃隊と共同
して、一気に要塞を陥落させる事を目的としてい
て、ここまで頑張っていた第二次攻撃隊を補給の
ために下がらせる事も第二の目的にしていた。
数百機ものモビルスーツ隊が、光の尾を引きなが
ら降下していく光景は、これからは決して見る事
ができないであろう、壮大なものであった。

 「私は半分で良いと思ったのだがな。若いなが
  らも慎重な男だな。カザマ副総司令殿は」

ハルバートン中将は、最初はこの半分の規模の降
下作戦を立案したのだが、カザマ副総司令に却下
され、宇宙に配備されている世界各国のモビルス
ーツ隊の約半数が、この作戦で降下する事になっ
ていた。
とは言っても、地上にモビルスーツ隊を降下させ
る余裕のある国は、おなじみの四ヵ国だけであっ
たが。
そして、作戦終了後は、パイロット達のみが宇宙
にあがってきて、モビルスーツはこの騒乱で損害
を受けた地上軍のモビルスーツ隊に、補充として
回される事になっていた。
大西洋連邦軍にとっては、地上軍のモビルスーツ
隊の中の「ハイドラグーン搭載機」の配備率をあ
げて、数は変わらなくても質の向上を図る事がで
き、宇宙軍で不足したモビルスーツも、例の「ク
ライシス」の改良機の量産が月で開始されていた
ので、それを配備する事になっていた。

 「クルーゼ総司令があれですからね。慎重にな
  らざるを得ないのでは?」

参謀長のコープマン少将が、本当にありえそうな
理由を想像して語り始める。

 「昔は、単艦で世界中を回っていた男だから、
  もう少し大胆なのかと思ったが、意外と保守
  的な作戦を執る男らしい」

 「昔は何回も煮え湯を飲まされましたよね」

 「そうだな。(G)が奪取された時には、クル
  ーゼの下にいて色々と動いていたし、地球上
  での各地の戦線でも、何回も敗北をする羽目
  になったしな」

 「今回は、味方で良かったですね」

 「ああ。本当にそうだな」

二人がそんな話をしている内に、降下作戦は無事
に終了して、宇宙は再び静かになったと思われた
が・・・。

 「嫌だ!我も地球に降りて戦うのだ!最後の大
  規模な戦闘の機会を逃してなるものかーーー
  !」

 「ギナ様、落ち付いて下さい!宇宙軍の指揮官
  は、あなたなのですから!」

 「そうです!ここで、あなたが降りてしまった
  ら!」

いつのまに装着したのか?
大西洋連邦から権利を購入して、オーブ軍でも採
用されたバリュートを装着した「ムラサメゴール
ドフレーム」が、ギナ親衛隊の面々の「ムラサメ
カスタム」に押さえつけられている光景が目の前
に入ってくる。
実は、「ムラサメ」は単独でも大気圏に降下可能
なのだが、あくまでもカタログスペックであり、
本当に降下させると機体の傷みが早く、耐用年数
が落ちてしまうので、バリュート装着が義務付け
られていたのだ。

 「我も降りるのだ!」

 「ミナ様に怒られてしまいます!」

 「ミナよりも我が欲望の方が優先だ!」

 「本当にミナ様に言いますよ」

 「・・・・・・。さて、(アメノミハシラ)に
  帰るとしようかな」

親衛隊員の一言で、ギナはあっさりと引き上げを
了承し、「ムラサメゴールドフレーム」と「ムラ
サメカスタム」隊は、旗艦「イズモ」に帰艦して
いった。

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「あれは何なのかね?」

 「世界各国の軍で、問題を抱えていないところ
  は一つもないという事ですね」

 「みたいだな」

最後に、他国の軍の恥部を見たような気がしたが
、ハルバートン中将とコープマン少将は、無事に
降下作戦を終了させて、月へと帰還するのであっ
た。


(降下作戦開始十分前、デイアッカ視点)

今回の降下作戦で、ザフト軍部隊の指揮を任され
たディアッカは、「ケンプファー」の戦術コンピ
ューターをチェックしながら、降下作戦の準備に
余念がなかった。

 「(どのような結果になろうとも、俺がケリを
  つける!これは神様がくれた、最後のチャン
  スなんだ!)」

最近、笑顔が減ってきていて、部下達に恐れられ
つつあったディアッカであったが、特に、この時
の表情は、誰にも見せられないほどの凄みが出て
いた。

 「ディアッカ、落ち着いて指揮を執れよ。副隊
  長にベテランを二人も付けたから、何もしな
  くても良いけどな」

無線に、残存部隊の守備を担当する事になったミ
ゲルから連絡が入ってくる。
彼の搭乗している「ゲルググ」は、地上戦闘に不
向きであるうえに、プラント本国までの護衛を行
うモビルスーツ隊の指揮官がいなかったので、彼
が残存部隊を指揮する事になっていたのだ。

 「大丈夫ですよ。俺が最後のケリをつけますか
  ら」

 「そうか?あんまり気負うなよ」

 「では、そろそろ時間ですので」

ディアッカは降下開始地点に「ケンプファー」を
移動させてから、モビルスーツ隊の隊列を整えさ
せ、合図と共に降下を開始した。

 「やはり、(フライングアーマー)の方が安定
  感があるな」

 「ですが、コストの問題でザフト軍もバリュー
  トシステムを採用するそうです。特許料を払
  っても、はるかに割安らしいので」

降下中のデイアッカが、副隊長との会話を終わら
せて下を見ると、そこにはウラル山脈が見え、多
数の戦闘の光が見えてくる。

 「予想以上の大戦場ですね。早速、予定地点に
  ・・・」

副隊長が、部下達を降下予定地点に集合させよう
とした時に、総旗艦「ジェーコフ」から衝撃的な
報告が入ってきた。

 「降下したザフト軍部隊の半分を(ジェーコフ
  )に回して下さい。事は緊急を要します。戦
  術コンピューターに情報を送りますので、と
  にかく一秒でも早く到着して下さい」

 「何があったんだ?」

副隊長は、何が起こったのか理解できていなかっ
たが、ディアッカには一瞬で理解できたような気
がした。
多分、かなりの高確立で総旗艦に奇襲をかけられ
たのだ。
少数の精鋭部隊で、指揮官の抹殺を図る。
これが敵の常道で、この戦法のせいで何人もの指
揮官が戦死していたのに、自分の教官殿もこの宿
命から逃れられなかったらしい。
多分、注意はしていたのであろうが・・・。

 「俺が行く!残りの部隊の指揮を任せたぞ!」

 「了解です!」

そして、ディアッカはもう一つ確信していた。
この部隊を率いているのは、間違いなくアヤ達で
あろうと。

 「(ジェーコフ)のいる地点に急行する!半数
  は俺に付いて来い!」

ディアッカは「フライングアーマー」を最大速度
に加速させて、「ジェーコフ」に急行するのであ
った。


(降下作戦二十分前、ミリア、アヤ視点)

 「ミリア様、(ジェーコフ)が前進を開始しま
  した。もう少しで、ここの近くを通過します
  」

 「ここまで待った甲斐があったわね」

 「ええ。クルーゼは前線に出ているらしいです
  けど、カザマと幕僚達の抹殺に成功すれば、
  敵は大混乱に陥ります」

ここは、すでに破壊された地下格納庫の更に下に
設置された、特別仕様の格納庫であり、ウラル要
塞中心部と秘密通路で繋がっていて、モビルスー
ツの移動が可能であった。
何でも、要塞建設工事中に巨大な洞窟として発見
されたらしく、わずかな工事でここまで移動可能
な事が、ここに特別な格納庫が作られた最大の理
由であった。

 「我慢に我慢を重ねた甲斐があったわね。アヤ
  」

 「そうね。我々が前線に出ても数の優位に押さ
  れて消耗するだけだわ。ここで、奇襲をかけ
  て指揮官を抹殺できれば・・・」

二人は、最後の奇跡にかける事にした。
ここで、カザマを抹殺したところで、戦闘が終了
するのかは怪しかったが、敵を一旦引かせて交渉
に持ち込めば、生き残れる可能性がゼロではない
と周りに説明していたし、ここ数日でミリア達も
その可能性に縋ってみたくなったのだ。

 「それで、戦況の方は?」

 「敵の宇宙艦隊から、推定で六百機のモビルス
  ーツ隊が降下してくるそうです」

ミリアとアヤに付き従っている、クロードの部下
であった副官が、ミリアの疑問に答える。

 「要塞の防衛ラインの方は?」

 「大苦戦です。やはり、七百機のモビルスーツ
  隊では・・・」

最新の報告によると、味方は交代で整備と補給を
しながら、常に二百機程度の稼動数を維持して、
防衛拠点に篭って数の劣勢を補っているようだ。

 「でも、お互いに戦力予想に失敗して戦力比率
  が三対一以下で良かったわね」

 「でも、私たちの戦力の内、五十機はあるだけ
  マシなくらいの代物よ」

確かに、七百機の内五十機は、研究用の旧式機や
失敗作で稼動可能なものを、無理やり動かして使
っているような代物が多かった。

 「でも、足止めにはなる」

 「確かに、(ザムザザー)や(ゲルスゲー)は
  足止め程度にはなりますか」

 「そういう事よ。それで、敵の状況は?」

 「第一次攻撃隊と呼称する、敵のモビルスーツ
  隊が整備と補給を終えて、戻ってきたそうで
  す。これで、第二次攻撃隊は、補給と整備に
  引き上げる事でしょう」

 「それに、敵の降下か。よし!最適なタイミン
  グね。例の隠匿していた(マウス)一号〜八
  号を全部起動させなさい!敵の注目が前線に
  向いている隙に、奇襲を敢行して(ジェーコ
  フ)を撃沈するわよ!」

 「了解しました。(マウス)の起動セーフティ
  ーロックを解除!隠蔽用の偽装を全て外せ。
  次に、全モビルスーツ隊を起動!アル・ダ・
  フラガクローン搭載の(ディスパイアハイド
  ラグーン搭載型)三十機、クローンコーディ
  ネーター搭載の(ジェガン)二十機を全て発
  進させる。ミリア様とアヤ様の(フォールダ
  ウン)の準備は終わっているか?」

 「全機、異常なしです!」

副官は、ミリアに一任されていた、奇襲作戦と連
動している「マウス」を作動させると、次に全モ
ビルスーツ隊の発進準備を完了させた。
「マウス」は最終防衛ラインの少し後方の地中に
配備されていて、一機あたり一〇八基のハイドラ
グーンを起動させて、敵の足止めを行う事になっ
ていた。
このハイドラグーンは、モスクワでのデータを参
考に改良が加えられているうえに、アヤの戦闘パ
ターンの解析データも搭載されているので、無人
ながら、モスクワ時に勝る性能を発揮できるであ
ろうと予想されていた。
そして、自分も「ジェガン」に搭乗するので、合
計で五十二機の恐るべき破壊力を秘めたモビルス
ーツ隊が、一隻の陸上戦艦に特攻をかけるのだ。
この作戦が失敗する事はないと、副官は自信を持
っていた。

 「我々の出撃後、この格納庫は廃棄する。整備
  兵は要塞に引き上げて任務を続行せよ」

 「じゃあ、行くわよ!」

 「わかった。(ディアッカ、さようなら)」

こうして、完全に破壊してから通過したと思われ
ていた、秘密格納庫から五十二機の攻撃隊が発進
して、後方から「ジェーコフ」に迫るのであった


(同時刻、最終防衛ライン手前、クルーゼ視点)

 「あれは確か、モスクワで使用されていたもの
  だな」

 「そうですね」

クルーゼ総司令は、既に、第一次攻撃隊との合流
に成功していたので、自分達の部下である第二次
攻撃隊をほとんど引きあげさせていて、最後に、
自分達も引き上げようとしていた矢先に、大変な
ものを見つけてしまっていた。

 「異常な数のハイドラグーンだな。一定の範囲
  に近づくと攻撃するわけか・・・」

クルーゼ総司令の前方で二百基ほどのハイドラグ
ーンが乱舞していて、不用意に近づいた第一次攻
撃隊の「ウィンダム」を、蜂の巣にして撃破して
いた。

 「南ゲートを攻略中のアスハ一佐から報告です
  。最終ゲート前に、例のモスクワで使用され
  た(ハイドラグーン搭載MA)を四機確認し
  たそうです」

 「向こうも四機で合計八機か・・・。完全に足
  止めと時間稼ぎが目的だな」

確かに、クルーゼ総司令に言う通りに、このMA
は自動操縦で動いているらしく、一定範囲内に進
入しないと攻撃されなかったが、ここを突破しな
いと、敵基地の本丸に侵入する事は不可能であっ
た。

 「ムウ、もう引きあげてしまったのか?」

 「だから!俺を名前で呼ぶんじゃない!」

クルーゼ総司令の呼びかけに、同じく部下達を先
に後退させていたフラガ中佐が、少し怒鳴りなが
ら返事をする。
クルーゼ総司令は、フラガ中佐を名前で呼ぶ事を
止めないので、直ぐにこの会話のパターンになっ
てしまうのだ。

 「私は司令官だぞ。上官には敬意を払いたまえ
  」

 「その内、気が向いたらな」

だが、フラガ中佐も半分規格外の人間なので、ク
ルーゼ総司令の言葉を軽く返す事ぐらいは平気で
行っていた。

 「戦術コンピューターに例のMAを記載して番
  号を振った。私達が一番から、ムウ達は四番
  から撃破してくれ。以上だ」

 「簡単に言ってくれるぜ!」

 「ハイドラグーン搭載機をあんなに持っている
  ではないか」

 「ハイドラグーンにハイドラグーンじゃ効率が
  悪いんだよ」

 「そうかな?」

クルーゼ総司令が、「スーパーフリーダム」のハ
イドラグーンを全基起動させて、例の自動操縦の
ハイドラグーンとの撃ち合いを始めると、合計で
十基ほどの敵のハイドラグーンを落とす事に成功
したが、自分も三基ほどのハイドラグーンを喪失
してしまう。

 「ほらな。効率が悪いだろう」

 「だが、やらねばなるまい。射程の長い武器で
  、時間がかかっても薙ぎ払うしかない」

 「そうだな。普通のパイロット連中を突っ込ま
  せたら、どれほどの犠牲を出すか」

 「そういう事だ。シン、レイ、ルナマリア!全
  部叩き落すんだ!」

 「「「了解!」」」

 「聞いたか?補給前に最後の一働きだ。若者に
  負けるなよ!」

 「「「了解!」」」

クルーゼ総司令の命令で、シンは「ディスティニ
ー」の高エネルギー長距離ビーム砲で、レイは「
レジェンド」のハイドラグーンで、ルナマリアは
「ナイトジャスティス」のビームライフルを乱射
しながら、「ファントム01」を発射したのだが
・・・・・・。

 「あらら?(ファントム01)が・・・」

当然の事だが、複雑な動きができない「ファント
ム01」は、ハイドラグーンに蜂の巣にされて墜
落してしまう。

 「あーあ。ヴィーノに怒られるぞ」

 「ヨウランも怒るだろうな」

 「だって、(ナイトジャスティス)に長距離用
  の武器なんて、(ファントム01)くらいし
  かないし・・・」

 「どの道、こちらも補給に戻らないとな」

 「クルーゼ司令殿よ。こちらも、補給に戻らな
  いとヤバイぜ!」

部下である「ウィンダムハイドラグーン搭載タイ
プ」の部隊に敵のハイドラグーンを落とさせてい
た、フラガ中佐の報告を聞きながら、クルーゼ総
司令が周囲を見渡すと、敵のモビルスーツ部隊も
この時間を利用して、最後の補給に交代で入って
いるらしい。
敵のモビルスーツ隊はまばらにしか見えず、まだ
少ししか落とせていないハイドラグーンが、我が
物顔で飛び回っている。 

 「とにかく、一旦補給だ!残る連中には、無茶
  をさせないようにしないといけないな」

クルーゼ総司令が、細かな命令を出して補給に戻
ろうとした時に、「ジェーコフ」から衝撃的な報
告が入ってきた。

 「後方から、敵のモビルスーツ隊が接近中!機
  数は推定で五十機あまりです!」

 「何!後方だと!」

 「完全に破壊したと思われていた、地下格納庫 
  からだそうです!」

 「しまった!あの近辺には、七十機ほどのモビ
  ルスーツしか配備されていないし、そのほと
  んどが(ウィンダム)で、頼りになるのは(
  ギラ・ドーガ)隊くらいしかいないぞ!」

 「でも、良く(ギラ・ドーガ)隊を置いてきた
  な」

 「嫌な予感がしたからだ。だが、もう少し戦力
  を置いておくべきだった」

 「それは、確かに・・・っ!」

 「ムウ、どうした?・・・っ!」

二人は、昔にお互いの存在が近くにいた時に感じ
た、例の感覚を感知していた。
多分、先に補給に戻っているレイも何かを感じて
いるのであろう。
既に、自分達は数ヶ月も近くにい過ぎて感じなく
なっていたので、これは新しい敵が現れた合図な
のであろう。

 「この感触は、親父のクローンか?」

 「ほう。事情は察しているようだな」

 「嫌でも情報が入ってくるんだよ!あの他人を
  信じられない、傲慢な親父らしい滑稽な結末
  だな。死んでなお、遺伝子を利用されるなん
  てな」

フラガ中佐は、戦後に例のアル・ダ・フラガクロ
ーンの情報を入手していたので、特に動揺した様
子は見せていないが、機嫌の方は良くないようで
あった。

 「だが、戻ってる時間がないぞ!どうするんだ
  ?」

 「困ったな。あそこに回せる、間に合いそうな
  戦力が存在しない・・・」

フラガ中佐の疑問を聞きながら、クルーゼ総司令
は解決策を懸命に考えていた。 
今回の作戦での戦力配置を説明すると、前線に攻
撃隊に所属するモビルスーツ隊が配置されていて
、その少し後方に「ミネルバ」以下の特殊対応部
隊所属の飛行可能な艦艇が、細部への砲撃と、損
傷したモビルスーツの臨時修理を行うためと、ク
ルーゼ司令達を長時間前線に貼り付けるための、
補給ベースとして配置されていた。
そして、またその少し後方に、攻撃隊に補給と整
備を行い、制圧砲撃を行うための砲撃部隊と陸上
艦隊が配置されていて、最後に、一番後方に「ジ
ェーコフ」と護衛の陸上駆逐艦艦隊が配置されて
いた。
つまり、要塞への攻撃力を高めるために、自分達
の守りを手薄にしたツケが、ここに来て出ていた
のだ。

 「カザマらしくないミスだな!」

 「彼は優秀な軍人ではあるが、普通の人間だ。
  ミスくらいはするさ。それに、作戦を提示さ
  れた時に、奇襲の危険性を気にしていた参謀
  達が一人もいなかった。無論、君も私もだ」

 「それを言われると辛いぜ」

今まで、カザマ副総司令の作戦が完全に当たって
、大成功を収めていたので、彼に異論を述べる参
謀がいなくなってしまったのも、この奇襲を防げ
なかった原因の一つであろう。

 「仕方がない。前線は敵も補給と整備に入って
  いるし、邪魔な罠もあるから、ここで固定し
  てハイドラグーンの蝿共を落とさせるとして
  、補給中で間に合いそうな戦力は全て回すと
  するか」

 「それで、間に合うのか?」

 「(ジェーコフ)が沈んだ場合、アイゼンハワ
  ー中将座上の(テキサス)に司令部を移して
  指揮を継続させる。敵は我々が崩壊すると思
  っているらしいが、そうはいかない。要塞は
  、今日中に絶対に落とす!」

クルーゼ司令は、全軍に確固たる意思を示したあ
とに、次善の策ではあるが、対応策を命令してか
ら、自分達もモビルスーツの補給に向かうのであ
った。

 「追伸です。降下隊の一部の戦力を応援に回す
  そうです!」

降下開始まで、あと十分といったところなので、
その時間さえ守りきれば、「ジェーコフ」は確実
に助かるのであるが、その時間をカザマ副総司令
が稼げるのかはまだ未知数であった。

 「ディアッカか。ここに来て彼が舞台にあがる
  のか。果たして、どのような結末になるのか
  な?」

ディアッカと敵の女性パイロットとの関係を知っ
ているクルーゼ総司令は、自分では予測不能なこ
の事態の結末を、外から眺める事しかできない事
に、多少の苛立ちを覚えるのであった。


(降下部隊到着十分前、「ジェーコフ」格納庫内
 )

 「カツコフ中将、(ジェーコフ)を最高速度で
  前進させて、味方との合流を急がせてくれ」

 「了解です」

だが、護衛のモビルスーツ隊は、どんなに集めて
も百機が限界で、いくらその他に戦力があっても
、このモビルスーツ隊の特攻には役に立たない事
が容易に想像できた。
鈍重な陸上駆逐艦や戦闘ヘリや重砲では、荷が重
過ぎるからだ。

 「俺も出ます!(R−ジン)の用意を」

 「カザマ副総司令、口調が元に戻っています」

 「じゃなかった。用意しろ!」

実は、カツコフ中将が赴任してきた時に一番最初
に注意されたのが、言葉使いに関するものであっ
た。
「いくら、部下達が、自分の父親の年齢のような
人達ばかりでも、丁寧過ぎる言葉を使ってはいけ
ません。上官として毅然とした口調で命令して下
さい。そうしないと、部下達がかえって不安を感
じてしまいます。古臭いですが、軍人という生き
物はそういうものなのです」と言われてしまった
ので、普通に命令口調で話すようにしていたのだ
が、慣れないのですぐに元に戻ってしまうのだ。

 「格納庫のエイブス班長から報告です。(R−
  ジン)の特殊装備の装着が完了しました。い
  つでもいけるそうです」

 「では、行ってくる。俺が戦死したら、この場
  はカツコフ中将が指揮を執り、状況が落ち着
  いたら、クルーゼ総司令に指示を仰げ」

 「そんな事態はご免ですな。ですが、了解です
  」

 「では、行ってくる」

俺が駆け足で格納庫に降りると、そこには一人の
男が俺を待ち構えていた。

 「遅いぞ!護衛隊の全機が敵と交戦を開始した
  が、戦況は芳しくない。敵が強すぎるらしい
  」

 「(赤い書類職人)は、何に搭乗するつもりな
  んだ?」

 「勝手に渾名を付けるな!(ジオ)の調整が終
  わっているらしい。あれは飛行はできないが
  、両腕に巨大な光波シールドを張れるからな
  。俺は(ジェーコフ)をそれで守る事にする
  」

 「そうか。頼むぞ」

 「珍しく謙虚だな」

 「残り少ない同期だからな」

 「お前も死ねないんだぞ。子供が生まれたばか
  りなんだから」

 「わかってるさ」

 「じゃあ。またな」

 「またな」

俺は駆け足で「R−ジン」が置かれているハンガ
ーに到着して、コックピットに潜り込むと、エイ
ブス班長が俺に「R−ジン」の細かな整備状況を
説明してくれる。

 「カザマ副総司令、背中に(ジャッジメント)
  が装備していた陽電子・ビームリフレクター
  を装備しておきました。後方からのハイドラ
  グーン攻撃は、それで防いで下さい」

 「俺に操作できますかね?」

 「先の大戦では、空間認識能力が低いアスラン
  ・ザラがちゃんと使いこなしていましたよ。
  大丈夫です」

 「わかった。今までありがとう」

 「縁起でもない。ちゃんと戻ってきて下さいよ
  」

 「沢山壊すと怒る癖に」

 「それとこれは話が別ですね。では」

エイブス班長が「R−ジン」から離れたので、俺
は「R−ジン」を緊急で作動させて「ジェーコフ
」から出撃させる。

 「ヨシヒロ・カザマ、(R−ジン)行くぞ!」

俺が最大加速で「ジェーコフ」を発進すると、そ
れから直ぐに、コーウェルが「ジオ」を発進させ
て、「ジェーコフ」の守備に入った。

 「これで、多少は安心かな?」

「ジオ」は要塞攻略用のモビルスーツであったの
だが、調整が間に合わずに、格納庫の隅に放置さ
れていたものを(隅に置いても巨大であったが・
・・)エイブス班長が、ギリギリで調整を終わら
せたらしい。
当然、要塞を落とすためのモビルスーツなので、
三十メートル近い巨体に強力な火力と防御力を秘
めていて、飛行は不可能だが、多数の高出力スラ
スターを装備していて、その巨体に似合わない機
動力を持っていた。
だが、想像を絶する製造工程の複雑さと、高額な
コスト、数時間稼動させると整備に二日間はかか
るという、兵器にあるまじき弱点を抱えていたの
で、製造されたのはこれ一機だけという、典型的
な不採用機であった。

 「コーウェル、最後の守りを頼むぞ。よし!見
  えた」

「ジェーコフ」から本当に僅かな距離の地点で、
敵のモビルスーツ隊と艦隊防衛のモビルスーツ隊
が戦闘を行っていた。
敵は俺達を突破して「ジェーコフ」を撃沈しよう
としていて、俺達は、敵を一機も通させまいとし
ていたが、ジリジリと押されていて、このままで
は、すぐにも射程距離に入ってしまう事が予想で
きた。

 「護衛モビルスーツ隊!気合を入れろ!(黒い
  死神)が助っ人にきたぞ!」

俺は全軍に向けて名乗りをあげたあと、目の前に
いた(ディスパイア)にビームマシンガンを撃ち
ながら距離を詰めていく。
敵のパイロットは、ハイドラグーンを起動させて
後方から攻撃を仕掛けるが、それは後部に展開し
たリフレクターで弾かれた。

 「時間短縮に丁度良いな!」

狼狽しているように見える、正面の「ディスパイ
ア」のシールドを蹴り飛ばしてから、コックピッ
ト部分にビームマシンガンを叩き込むと、主を失
ったハイドラグーンも、力をなくして落下してい
った。

 「よし!一機目だ!」

それからは、味方機の後方から攻撃をしかけよう
としていたハイドラグーンを叩き落し、俺達が「
アンノウン」と呼んでいる、新型モビルスーツと
ビームソードで斬り結びながら戦況を押し返そう
としたのだが、俺一機で出来る事には限界があり
、次第に「ジェーコフ」が目視で確認できる位置
にまで、敵の侵攻を許してしまっていた。

 「まずいな」

俺は斬り結んでいた「アンノウン」に新型のシュ
ツルムファウストを撃ち込んで撃破してから、敵
の大将と思われる大型モビルスーツに接近して、
ビームマシンガンを発射する。

 「カザマか!邪魔をするな!」

ハイドラグーンで、一度に二〜三機の味方機を叩
き落していた敵の大型モビルスーツは、「R−ジ
ン」のビームマシンガンを簡単に回避してしまい
、更に、無線にアヤらしき声が入ってくる。

 「ヒステリー女め!ここでケリを付けてやる!
  」

 「うるさい!落ちろ!」

更に、ミリアと思われる声も入り、大型モビルス
ーツは、腹部に装備されている大型のスキュラを
俺に向けて発射してきた。

 「この乱戦でこんなものを使うのかよ!」

俺はギリギリで回避に成功したが、最低でも味方
が二機と、敵も一機のモビルスーツが射線に巻き
込まれて爆発する光景が確認できた。 

 「ちっ!外したか」

 「味方も巻き込むか?普通」

 「第二目標はあなたなのよ!大人しく死になさ
  い!」 

 「死んでたまるか!」

大型モビルスーツは、二十基以上は装備している
と思われる、ハイドラグーンを全基展開して、俺
を集中的に狙ってくる。
俺は後部の守りはリフレクターに任せて、前方と
側面からの攻撃を懸命にかわし続けた。

 「今までにない危機だ!コンマ一秒でも回避が
  遅れたら死ぬな!」

俺は今までに習得した、全ての技能と経験を駆使
して、この凄まじい攻撃をかわし続けていた。
たまに、この攻撃に巻き込まれた不幸な「ウィン
ダム」や「ギラ・ドーガ」が爆発していたが、俺
に彼らを気遣う余裕などなく、ただひたすら回避
を続けるのみであった。

 「カザマ司令!」

 「俺の事を気にするな!他の敵の攻撃が(ジェ
  ーコフ)に届いている。それを第一に防げ!
  」

俺が死闘を演じている間に戦線が移動していて、
敵モビルスーツ隊が「ジェーコフ」を攻撃してい
たのだが、それを「ジオ」に搭乗したコーウェル
が光波シールドで懸命に防ぎ、敵に向けて胸部の
連装ビーム砲を発射していた。

 「最後の最後で大活躍とは、パイロット冥利に
  尽きるってもんだな」

「ジェーコフ」は細かい損傷を増やしていったが
、致命傷には至らず、コーウェルは、司令部要員
が詰めている艦橋部分を中心に、防御を行ってい
た。
敵の残存数は二十機あまりに減っていたが、まだ
油断はできなかった。
こちらも、始めは七十機ほどを投入して、追加で
五十機ほどの増援を数機ずつ加えて、防御してい
たのだが、残存数は半数を切っている状態であり
、「ギラ・ドーガ」隊は、まだ十八機ほどが残存
していたが、損傷機の増大で戦闘後に廃棄される
機体が増えるであろうと予想されていた。
「ジェーコフ」への直撃を、自分の機体とシール
ドで引き受けて、損傷する機体が続出していて、
パイロットが負傷したり、稼動不能になって停止
する機体が続出していたのだ。
彼らは、新国連軍の総司令官と副総司令官に任命
された俺達と、プラントいう新国家の名誉のため
にわが身を犠牲にしていて、頭が下がる思いであ
った。
二十分ほどでこれほどの損害が出る戦いは、アカ
デミーの教本では、落第点なのだろうが、お互い
に損害を省みずに、場合によっては自爆までする
敵と対峙しているので、仕方がないのであろう。
それに、敵のハイドラグーンを二機で引き受け、
その隙に一機が本体を攻撃するという、無茶な戦
法も取っていたので、損害が五月雨式に増えてい
ったのだ。
現時点で大切なのは、「ジェーコフ」を沈めさせ
ない事で、効率よく戦う事ではなかったからだ。

 「俺の作戦ミスだ!お前達は、本拠地の奥で俺
  達を待ち構えていると思っていた」

 「甘いわね。窮鼠猫を噛むのよ!」

俺の「R−ジン」と敵の大型モビルスーツは、主
戦場から外れた地点で壮絶な決闘を続けていた。
「ジェーコフ」とその護衛戦力は、増援のモビル
スーツ隊と一秒でも早く合流するために移動して
いたし、敵のモビルスーツ隊もそれを追って移動
していたので、場所を移動せずに戦い続けている
俺達は、誰もいなくなった新しいモビルスーツ残
骸で埋まっている戦場で、二機のみで決闘を続け
ていた。

 「(この化け物を「ジェーコフ」に向かわせる
  わけには・・・。俺一機で気を引き続けるん
  だ)」

 「言ったでしょう!私達の目標はあなただと!
  クロードお兄様の仇よ!死になさい!」

大型モビルスーツとハイドラグーンの連携攻撃を
ギリギリでかわし続けていた俺だが、「R−ジン
」の計器には次々と赤いランプの点灯が増えてい
った。
直撃は少ないのだが、何十発と掠ったビームが、
各部の冷却装置や内部の機械にダメージを与え続
けているようだ。
だが、「R−ジン」はその損傷にもめげず、通常
時に近い稼動状態を維持していた。

 「(R−ジン)に感謝だな。さすがは俺の妻の
  用意した機体だ。駄目女のお前達とは大違い
  だ!」

 「惚気てる場合?あなたの死はすぐそこよ!」

 「そうでもないさ。(ジェーコフ)はギリギリ
  で救われたようだな」

 「何!」

ミリアとアヤが無線の声を拾うと、降下部隊から
の援軍が間に合ったらしく、多数のザフト軍のモ
ビルスーツ隊が、奇襲部隊を攻撃している様子が
、無線から聞こえてきた。
次第に増加するザフト軍のモビルスーツ隊に奇襲
部隊のモビルスーツ隊が討たれ、断末魔の声が入
ってきていたのだ。
既に、二十機を切っていた味方にこの増援は厳し
いらしく、次々に討ち取られていく様子が、無線
から聞こえてくる。

 「ミリア様!アヤ様!無念です・・・。クロー
  ド様の仇・・・を・・・」

 「そんな・・・」

 「残念だったな。俺か?(ジェーコフ)か?目
  標をちゃんと絞らなかった、お前達の作戦ミ
  スだ」

 「うるさい!ここに援軍が来るまでに、お前を
  殺せばいいのよ!」

 「死んで堪るか!俺には生きて帰る場所がある
  んだ!傲慢と言われようと、我侭と言われよ
  うと絶対に生きて帰る!」

 「大量殺人者が何を抜かす!」

 「俺はお前達のように、理由もなく人を殺した
  事はない!」

 「同じ事よ!」

 「そうかも知れない。殺された人間には、理由
  など、どうでも良いのかも知れない。だが、
  お前達が人を殺しても、その先に明確な未来
  が存在しているのか?お前達はこれからどう
  生きていく?ユーラシア連合クーデター政府
  の重鎮になるのか?アズラエル財団の三代目
  の当主か?それとも、別の何かなのか?」

俺は、以前から気になっていた疑問を二人にぶつ
けてみた。
彼女達は、何を目的に戦っているのであろう?
アヤは兄の復讐と言っていたが、本当にそれだけ
なのだろうか?
そして、ミリアは母親の言う事を聞いているだけ
なのだろうか?
クロードと言う男は、最近、俺達に討たれたはず
なので、その仇討ちは、初期の目的ではないはず
だ。
はっきり言って、俺にはその答えが見えて来なか
ったのだ。

 「それは・・・」

 「うるさい!お前は私の父親か!アヤ!一気に
  落とすわよ!こいつの時間稼ぎに乗る事はな
  いわ!」

 「わかったわ」

二人は再び連携して攻撃を再開するが、あきらか
に動揺しているらしく、その動きは鈍くなってい
た。

 「(このまま時間を稼げば大丈夫か?)」

俺がそう考えていた時に、予想外のアクシデント
が俺を襲った。
何と、背中のリフレクターを形成しているビット
が、オーバーヒートを起こして、リフレクターが
消えてしまったのだ。

 「バカな!限界はまだのはず!」

背中に殺気を感じた俺は、無意識に「R−ジン」
の姿勢を捻って緊急回避を行ったのだが、両足・
両腕にハイドラグーンのビームが直撃して粉砕さ
れ、背中のスラスターにもビームが被弾して推力
がゼロになってしまい、そのまま地面に落下して
しまった。

 「ごほっ!ごほっ!うっ・・・・・・・」

そのまま地面に叩きつけられた俺は、背中を強く
打ってしまい、受身を取る事にも失敗したので、
一時的に呼吸すら困難な状況になっていた。
意識も朦朧としていて、コックピット内の全ての
計器が警告を発しているように聞こえていたが、
体を動かす事ができずにいたのだ。

 「(多分、軽い打撲程度だが、まだ体が思うよ
  うに動かない。「R−ジン」も駄目だな。良
  く爆発しなかったものだ。だが、その奇跡も
  ここまでか・・・)」

正面のスクリーンが奇跡的に生きていて、そこに
は、例の大型モビルスーツが、大きく映し出され
ていた。

 「ごめんな。ラクス、ヨシヒサ、サクラ」

俺はコックピットに貼り付けてあった、サクラと
抱いた俺とヨシヒサを抱いたラクスの写真に向か
って手を伸ばしながら、ここにいない家族に謝り
続けるのであった。


          あとがき

長いので前後編に分けます。  

BACK< >NEXT
▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze