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「これが私の生きる道!運命編12最終決戦前夜編(後編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-08-06 12:42/2006-08-09 21:01)
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(五月二十九日、ゴーリキー周辺)

思わぬ指揮官交代で、予定をオーバーした俺達で
あったが、作戦再開からわずか五日で、第一目標
であったゴーリキーとペンザを占領する事に成功
していた。
作戦は以前に説明した通りの方法で、南方軍が先
に前進し、敵が現れたら防御体制を整えて防御し
て、その隙に、北方軍の半数を加えて強化した中
央軍をゴーリキーに向けて前進させていた。
当然、敵はそれを防ぐべく、部隊を移動させるの
だが、今度は敵を防ぐ必要がなくなった南方軍が
、ペンザを目指して前進をするという、数の優位
を生かした戦法であった。

 「ゴーリキーの管理は自由ロシア共和国の連中
  に任せるんだ!我々は前進を再開する」

モスクワから最短距離でゴーリキーに侵攻してい
た俺達は、途中でロシア共和国軍の迎撃を受けて
いたが、作戦通りに防御主体の戦闘を行っている
と、すぐに引き上げてしまった。
多分、南方軍が再び進撃を再開したので、それに
対応しようとしているのであろう。
更に、ゴーリキーを抜いた俺達は、一週間後にカ
ザニ周辺で、再び同じ部隊の攻撃を受けていた。

 「シン、適当で良い。無駄に戦力を消耗するな
  」

 「了解です」

一週間前に出会った頃と比べて、ロシア軍は消耗
と損害を重ねているらしく、以前の覇気が全く感
じなかった。
多分、命令で北に南にと動いているので、損害を
回復する余裕や、満足に補給を受けている余裕が
ないのであろう。

 「本当に適当にやれよ。防御すればいいのだか
  ら」

「R−ジン」に搭乗して、戦場を見渡していた俺
は、シンに無用な追撃等を避けるように厳命して
いた。

 「敵の大将だ!」

 「あの(ジン)を討てば!」

その時、俺の姿を見つけたロシア連邦軍のパイロ
ット達が、俺を討つべく突撃を開始するが、すぐ
に「ギラ・ドーガ」隊に阻まれて、容赦なく討ち
取られていく。
本当ならば、ここまでは弱くない連中なのだが、
疲労感で余計な隙ができているようだ。

 「そろそろ、引き上げる・・・ん?」

 「カザマ!覚悟!」

「ギラ・ドーガ」隊の網を潜り抜けた一機の「デ
ィスパイア」という新型機が、俺に向かって突撃
をかけてきた。

 「新型機か。モスクワでの戦いの映像で見たぞ
  ・・・」

 「もう新型機ではない!我々の力を恐れるが良
  いさ!さあ、一騎討ちを受けるか?」

 「(ギラ・ドーガ)隊、討ち取れ!」

 「この卑怯者が!」

 「アホか!俺は、古代趣味に浸る余裕はないん
  だよ。さっさと死ね!」

敵のモビルスーツは、「ギラ・ドーガ」隊に後方
から攻撃を受けて、あっけなく撃墜されてしまっ
た。
多少は腕に自信があったようだが、敵を抜く事ば
かり考えていて、後方に目を向けなかった奴のミ
スに同情して、一騎討ちを受けるほど俺は甘くな
かった。
尚、あとで聞いた話だが、奴もエミリアチルドレ
ンの一人であったらしい。

 「よくやったな」

 「まあ、並みの強さでしたね」

 「だったら、抜かせるなよ」

 「厳しいご指摘で」

 「あいつ、自分一人が抜けるために、何機を犠
  牲にしたんだ?」

 「五機ほどですね。全機討ち取りましたけど」

 「ヨシヒロさん!何で!受けてあげなかったん
  ですか?」

俺と「ギラ・ドーガ」隊のパイロット達の会話を
邪魔するように、シンが少し怒りながら、一騎討
ちを受けなかった理由を問い正してきた。

 「なぜって、必要がないからだ」

 「ですが、戦士として・・・」

 「アホか!俺達は軍人なんだぞ!騎士道なんて
  クソ食らえだ!」

 「ですが・・・」

 「お前、最新鋭機に乗って活躍したら傲慢にな
  ったな」

 「そんな事は・・・」

俺は、シンこそが自分の跡を継げると思って、沢
山の事を教えてきた。
更に、ここ最近では、それなりの数のモビルスー
ツ隊の指揮までを任せていたのだが、彼は多少、
自分の腕や能力に自惚れているようであった。
最新鋭試作モビルスーツである「デスティニー」
を与えられ、前線突破に大活躍して、周りから大
きな評価を得るようになってきていたのが大きな
原因であるらしい。
最も、これは誰もが経験するできごとであり、ア
スラン達やキラを説教した事もあるのだが、ここ
で、修正を加えればすぐに元に戻るであろう。

 「一騎討ちを受けて、俺が万が一にも負けたら
  どうするんだ?」

 「ヨシヒロさんが負けるわけ・・・」

 「あるんだよ。俺よりも、凄腕の男が存在しな
  いなんて、思うこと自体が傲慢だ。それに、
  あの状況で一騎討ちを引き受けて、相手にそ
  の気がなかったらどうする?」

 「あなたを討ち取れば、戦況が変わるかも知れ
  ませんし・・・。だからこそ、奴は」

 「俺よりも、幕僚を全滅させた方が痛いはずだ
  。一騎討ちだからと言って、周りの連中が引
  いたあとに、(ジェーコフ)に特攻でも掛け
  られたらどうするんだ?」

 「・・・・・・・・」

俺の質問にシンは答えられずにいるようだ。

 「今度は、本国から参謀を呼ばないといけない
  から、更に時間が掛かる事になるんだ。戦争
  が一日早く終われば、それだけ死なずに済む
  人がいる。この戦争で、新国連はいまだに戦
  争とは認めていないが、騒乱が使っている戦
  費は膨大なもので、遂に他部門の予算の削減
  が始まるらしい。モビルスーツは一機五千万
  アースダラーは最低でもするし、その維持費
  も膨大だ。もし、五千万アースダラーがあっ
  たら、どれだけの人を救えるか。シン、上を
  目指すなら、そこのところを良く考えろよ。
  軍人は政治に口出しすべきじゃないが、理解
  はしろ。いいな?」

すでに、この戦争の理由は各国に知れ渡り、せっ
かく上向いていた経済も停滞状態であった。
なぜ、停滞状態なのかと言えば、凋落しているヨ
ーロッパを除き、戦乱が終結した地域で復興が始
まっていて、ロゴスの方から支援も行われている
からであった。
当然、彼らも、ただボランティアではなく、恩を
売って、新たな発注を得ようとしているに過ぎな
いのであるが。
地球各国では、宇宙に物資をあげたり降ろしたり
するギガフロートや、大型・小型のマスドライバ
ーの建造計画が各地で始まっており、新規のコロ
ニー計画と合わせて将来的に大きな産業の発展が
望めるからであった。

 「すいません。思い違いをしていました」

 「わかればいいさ。それに、俺も怒りに任せて
  、一騎討ちを受ける事が多いからな」

実際、俺も無用な決闘を数多く体験していた。
先の大戦初期の事は仕方がないにしても、ササキ
大尉の挑発に乗ったり、サトウ隊長の挑発に乗っ
たり、アヤの挑発に乗ったり、マーレに誘き出さ
れて決闘をする羽目になったり、敵の大型MAを
数機で撃破しようとしたり、思えば指揮官らしく
ない行動が多すぎて頭が痛くなってきた。

 「俺って、指揮官失格・・・・・・?」

 「どうしたんですか?ヨシヒロさん」

 「いや、色々と思い出して・・・」

俺が落ち込んでいる間に、ロシア軍は補給と整備
不足からくる戦力の低下を余儀なくされて、次々
に退却をしていったが、俺がそれを逃すはずもな
く、徹底的に追撃をかけてさせて、敵を討ち取っ
ていく。
この部隊が、ウラル要塞で果たす役割は知らなか
ったが、彼らを逃す手はないと思ったからだ。
何しろ、追撃戦は敵の戦力を減らす最大のチャン
スだからだ。

過去の戦訓から例をあげると、日本の戦国時代に
発生した長篠の合戦で、武田軍の戦死者の内、教
科書で習った鉄砲で撃たれて死んだ者は五百人あ
まりで、大半は敗走して追撃された時に、後から
斬られて、討ち取られていた事などがあげられる
であろう。
教科書に載っている三千丁の鉄砲で、騎馬隊を粉
砕したというのは嘘であり、実際はその半数程度
の鉄砲を順繰りに撃ち、織田・徳川軍の兵が用意
した防御柵で、武田軍を防ぎながら戦い、戦意を
失って退却を開始した所に追撃をかけて、完膚な
きまでに敵を討ち取ったのだ。
俺は、織田家は教科書のように鉄砲だけで勝った
のではなく、倍の兵士を整え、武田軍を防ぐ急ご
しらえの柵の構築に成功した、経済力とロジステ
ィックの勝利であると思っていた。
だが、織田・徳川軍も六千人を超える死者を出し
たので、倍の兵士と戦ってこれだけの敵を討ち取
れる武田家の兵士達は、やはり恐るべき敵であっ
たのだ。

そこで、今までは弱い敵を小出しにして、時間を
稼いでいたエミリア達も、そろそろ本腰をあげて
くるだろうと考えて、ロシアの広大な大地を使用
した機動戦法を行っていた。
数が揃えられる俺達織田軍としては、数の優位を
生かしてエミリア武田軍を翻弄し、弱って退却し
たところで追撃をかけて、戦果をあげる戦法を採
用したのである。
エミリア達は徐々に支配地域を狭めているが、そ
の戦力は侮りがたく、下手を打つと大変な事にな
るので、俺は織田信長が武田家に対して行った戦
法を参考にして対応していた。
どのような新兵器が現れても、戦いの基本は変わ
らないと、俺は信じていたからだ。

 「無理をする必要はないが、討ち取れるものは
  討ち取っておけ!だが、降伏した敵に攻撃を
  かけるな。窮鼠猫を噛ませると、あとが厄介
  になるぞ」

俺はどうせ降伏できないからと、敵に自暴自棄に
なられても困るので、途中で降伏したモビルスー
ツパイロットと兵士の収容を行いつつ、更に追撃
を加えて、その半数近くを討ち取る事に成功して
いた。
これで、残った敵は体勢を整えるために、ウラル
要塞に引き上げるであろう。
多分、最後の決戦の地であろうと思われるウラル
要塞で、どれほどの死闘が行われるのかは、まだ
誰にもわからなかった。


(六月十五日夜、ウファ南南東ウラル要塞近く)

 「ついに到着しましたね」

 「ああ。まったくだ」

ロシア軍の精鋭部隊を撃破して敗走させた俺達に
、立ち塞がってくる敵はほとんどなく、ウラル要
塞から程近いこの地点に到着するまでに、戦闘を
行った回数はごく僅かであった。
俺達は、カガリが率いる南方軍との合流を果たし
、視認可能な敵の要塞を攻略する作戦を練るべく
、各軍の首脳を集めて会議を行っていた。

 「基本案は、戦力を二手に分け、時間差を持っ
  て投入します。これで、敵の消耗を誘い、疲
  れたところを撃破するのです。敵の本拠地で
  あるウラル要塞の詳細については、かつて潜
  入工作を成功させた、中華連邦共和国軍のム
  ラクモ・ガイ少将に説明をお願いします」

 「中華連邦共和国軍親衛モビルスーツ師団長ム
  ラクモ・ガイ少将です」

 「あの(ピンクの死神)か」

 「モビルスーツのカラーリングはふざけている
  が、恐るべき実力の持ち主らしい」

 「ピンク趣味でラクス・クライン命らしいが、
  依頼達成率が○ルゴ13を超えて100%ら
  しいぞ」

 「しかも、今回は師団丸ごとピンク趣味か」

 「フェイズシフト装甲機の武装をピンクで統一
  するとは、恐るべき男なのか?バカなのか?
  」

 「(カザマとクソ嫁め!覚えてやがれよ!)」

ガイの登場と共に、会場の将官達から様々な誤解
を多く含んだ言動が聞こえてくるが、それを訂正
する時間は与えられていなかったので、彼は心の
中で例の夫婦を罵りながら、報告を開始した。 

 「ウラル要塞は、半径十キロに及ぶ山地をくり
  貫いて建設された、モビルスーツを数十機収
  納可能な格納庫数十箇所や、多数の対空火器
  、砲台、巨大MA。そして、山麓には地上戦
  艦数隻からなる艦隊などが配置されている、
  まさに鉄壁を誇る要塞です」

 「数十箇所?そんなに大量のモビルスーツを、
  連中は保持しているのか?」

 「いえ、敵のモビルスーツ保持数は、五百機が
  限度だと思われます。ただ、前線の施設に篭
  って、我々にある程度の損害を与えたら、そ
  の施設を放棄して後退し、次のポイントで迎
  撃をするという戦法を使ってくると思われま
  す。その他にも、多数の兵士達が通常の装備
  で抵抗をしてくると思いますので、まともに
  突っ込んだら、大きな損害を受ける事になる
  でしょう。何しろ、彼らにはあとがありませ
  んから」

ガイの衝撃的な報告に、会議に参加している全員
が黙り込んでしまった。
何故なら、彼らは追い込まれた手負いの獣と同じ
だとガイは言っているのだから。

 「離反工作は行わなかったのかね?」

中華連邦共和国軍最高司令長官の趙中将が、俺に
質問をしてきたが、いい加減に俺に質問をぶつけ
るのは、止めて欲しいと思ってしまう。
何しろ、俺はただの副総司令なのだから。
だが、肝心のクルーゼ総司令を見ると、彼は腕を
組んで何かを考え込んでいるようだ。

 「それは、あえて行いませんでした。ここで影
  響力を保持したまま降伏させて、公職に留ま
  らせると、新たな政情不安が発生してしまう
  可能性があるからです。もう、既に大きな戦 
  争になっているのですから、大きな膿はここ
  で全て出しておきます。ただ、戦闘中に指揮
  官を集中して倒して、一般兵士の降伏を誘う
  事はします」

 「なるほど了解した」

 「彼らは、自身の罪に気が付いているはずです
  。ここで死ぬか、戦争犯罪人を裁く裁判を受
  けて貰うかしか選ぶ道はありません」

俺はここで中途半端に戦争を終わらせて、次の騒
乱が早まるよりも、徹底的にやって次の騒乱が小
さく、遅くなる道を選ぶ事にした。
多分、前者の方が短期的な犠牲は少ないのであろ
うが、長期的に見たら後者の方が犠牲が少なくな
るような気がしたからだ。

 「その断固とした意思には感心するが、戦力比
  が三対一程度で、なるべく犠牲を少なくする
  勝利は掴めるのかね?私はそれが心配だ」

赤道連合軍のモビルスーツ隊指揮官が俺に疑問を
呈してくるが、その対策は既に考えていた。

 「宇宙から増援を降下させます。内容は、臨時
  編成のザフト軍特務艦隊、大西洋連邦軍第八
  艦隊、極東連合宇宙艦隊、オーブ軍宇宙艦隊
  が中心になっています。これで、戦力比は四
  対一です。ここで情けは無用です。降伏しな
  ければ、全滅させるのみで、犠牲もなるべく
  出さないようにします。エミリアは壊滅する
  要塞内で業火に焼かれるか、戦争犯罪人とし
  て処刑されるかのどちらかしか選べません」


こうして、俺の最終宣言と共に、最後の作戦会議
は終了して、俺達は最後の夜を迎えることになる
のであった。


(その日の夜、総旗艦「ジェーコフ」上甲板)
 
 「まあ、全軍の配置も終了したし、警備も万全
  なので奇襲もありえないだろう。明日で全て
  が終わるかな?」

既に、初夏を迎えつつあるロシアの大地は、暑く
はなく寒くもないといった感じで、とても過ごし
やすかった。
「ジェーコフ」という旧ソ連軍の将軍の名前を冠
した陸上戦艦の甲板で、俺が明日の戦いの事を考
えていると、クルーゼ司令が現れて俺に話しかけ
てくる。

 「カザマ君、何を黄昏ているのかね?」

 「クルーゼ司令、会議中に居眠りしないで下さ
  いよ・・・」

あの会議中、腕を組んで考え事をしていると思っ
ていたクルーゼ司令は、何と居眠りをしていたの
だ。
だが、幸いにもそれに気が付いたのは、俺とコー
ウェルだけであったので、大事には至らなかった
のであるが・・・。

 「結果良ければ全て良しだ」

他国の将官達はその事実に気が付いておらず、む
しろ、貫禄たっぷりに俺達の意見を熟考している
と思っていたらしい。
人間、知らない方が幸せという事は、本当にある
ものなのだ。

 「それに、最近、疲れていてな。司令官という
  ものは、寝不足になり易いものなのだ」

 「むしろ、寝不足なのは俺達なんですけど・・
  ・」

クルーゼ司令に押し付けられた仕事は、当然俺に
回ってくるので、俺達は忙しい日々を送っていた
のだ。
これで、プラント本国から来た参謀達がいなかっ
たら、とっくに俺は過労死していたであろう。

 「だが、明日は皆が出撃して、留守はバルトフ
  ェルト副総司令に勤めて貰う事になっている
  。あの男が一番腕がないからな。指揮官には
  うってつけの人物だ」

 「バルトフェルト司令は凄腕ですよ」

 「だが、私と君には勝てまい。彼は指揮官とし
  ての能力の方が高いのだ」

 「へえ。仲が悪いと思っていたのに、評価して
  いるんですね」

 「奴に仕事を振っておけば、楽ができるからな
  。ただ、それだけだ」

 「本当ですか?」

だが、クルーゼ司令は、その質問に答えてはくれ
なかった。

 「私も歳を取ったのだ。モビルスーツにも、あ
  と何年乗れるかわからない。昔はただの人殺
  しの道具だと思っていたが、こんなに楽しい
  乗り物はないと思っているのだよ」

 「だからって、俺達に仕事を押し付けないで下
  さいよ」

 「君は実に良くやってくれている。今後も私の
  補佐を勤めてくれるのであろう?」

 「いえ、この戦いの処理が終わったら教官に戻
  ります。それで、三十歳くらいまでには退役
  して、会社を興すつもりです」

 「何!聞いてないぞ!」

俺の返事を聞いたクルーゼ司令の顔に、驚愕の表
情が浮かんでくる。

 「みんなに言っていますよ。クルーゼ司令が聞
  いていないだけと違いますか?」

 「では、これからは誰に仕事を押し付ければい
  いのだ?」

クルーゼ司令の、一切の飾りなしの本音の一言が
俺を直撃した。
まさか、ここまでストレートに言うとは思わなか
ったが・・・。

 「知りませんよ。イザークとかディアッカとか
  シンとかレイと違いますか?」

 「その線で行くしかないか。本当は、君が抜け
  ると痛いのだが・・・」

その後、クルーゼ司令はブツブツと何かを呟きな
がら、艦内に戻ってしまう。

 「本当に何を考えているのか理解できないな・
  ・・。あの人ばかりは・・・」

俺がそんな事を考えていると、次にステラが現れ
る。
ここのところ、俺は忙しかったので、久しぶりに
会うような感じがするし、任務中は公私のケジメ
をつけていたので、命令しか下していないような
気がしたからだ。 

 「ヨシヒロ、お話しよう」

 「そうだな。久しぶりに兄妹水入らずでな」

俺とステラは、久しぶりに二人で並んで話を始め
る事にする。

 「シンとルナとは仲良くやってるか?」

 「うん。友達だもの」

 「そうか。いい男は見つかったか?」

 「ステラ、モテないから・・・。またフラレち
  ゃうから・・・」

 「また?シンだけだろう?」

 「ううん。昔も駄目だった」

 「昔?」

 「ヨシヒロと初めてあった時に・・・」

俺は深く考え込んでしまった。
確か、ステラを捕虜にしたというか、保護した時
にステラと一番仲が良かったのは、シホであった
はずだが、彼女は同性なので却下で、ニコルとラ
スティーも友達の域を出ていなかったはずだ。
次に、アスランは朴念仁でお互いの接触が少なか
ったし、ディアッカとイザークは問題外であった
はずだ。
果たして、彼女が好きだった男は誰なのであろう
か?

 「あのね。始めて会った時は、ただのお兄さん
  みたいに思っていたの。でも、その人に恋人
  がいるって知ったら、とても悲しかった。口
  では祝福していたけど、本当は悲しかった。
  私は子供だったから、どうしようもなかった
  の。でも、やっとあきらめて、本当のお兄さ
  んだと思えるようになって、シンも好きにな
  ったけど、シンにもフラレちゃった。ステラ
  、ハッキリしなかったから、失敗しちゃった
  んだ」

ステラは、当時の複雑な心境を話し始める。
実は、オーブのオノゴロ島決戦のあとに、シンに
付いてプラントにあがる決断をした理由は、俺に
もあったらしい。
当時のステラは、幼いながらもシンは同年代の初
めての友達として、俺に対しては兄でもあり、初
恋の感情を抱く大人の男性として意識していたよ
うだ。
当時、「ステラに恋愛感情はないさ」と発言して
いた俺は、大きな間違いを犯していたのだ。
そして、最終決戦時のあの事件でルナマリアに対
して、初めてヤキモチという感情を抱き、その後
、俺とシンとどっち付かずの中途半端な状態にな
り、完全に諦められたのは、俺とラクスの結婚式
の時であったらしい。
俺はこの話を聞いて、女心の複雑さに驚いてしま
う。

 「そうか。悪い事をしてしまったな」

 「ううん。私が無駄に迷っていただけだから。
  シンには気が付かれていたから、フラレたの
  かな?」

 「それはないだろう。あいつ、鈍いし」

例のシン争奪レースで、俺がステラに賭けなかっ
た理由は、戦場で培った本能で、それを微妙に感
じ取ったのかも知れない。
我ながら、恐るべき勘である。

 「たまたま星の巡りが悪かっただけだよ。ステ
  ラはいい女だから、必ず良い人が現れるさ」

 「ありがとう」

俺達がそんな会話をしてると、その雰囲気を台無
しにしてしまう男が現れた。

 「カザマ、聞いてくれよ。ザンギエフ達ときた
  らよ!」

 「あの濃いキャラ達がどうかしたか?」

 「彼女にメールを送るそうだ。全く、俺を差し
  置いて・・・」

 「お前、昔はモテてたじゃん。アカデミー時代
  、俺は羨ましかったんだぜ」

 「ここ数年、天中殺なんだよ」

ハイネは「ヴィーナス」に居辛くなって、ここに
避難してきたらしい。
多分、「ジェーコフ」の格納庫には、「ガブスレ
イ」が収納されているのであろう。

 「そこで、俺は大きな目標を掲げる事にしたん
  だ!」

 「どんな目標だ?」

 「ステラも気になる」

 「一年以内に結婚する事だ!」

 「無謀な目標だな」

 「無理・・・」

俺とステラは即座に無理と判断して、答えを口に
出してしまった。

 「毒舌兄妹め。だが、俺は必ず達成するぞ!」

 「どうやってだよ?相手もいない癖に!」

 「いるさ。目の前に極上な美少女が」

 「ステラ、嫌!」

 「うっ!いきなりフラれたぜ!」

俺が以前のように怒鳴る前に、ハイネはコンマ数
秒で玉砕してしまった。

 「ステラが良いなら俺も認めるけど、この状態
  ではな・・・。ハイネ、普通に口説けよ」

 「いや、なぜか恥ずかしくて普通に口説けない
  んだ」

 「お前らしくもない」

これまでのハイネは、スマートに女性を口説いて
いたのだが、今目の前にいる男は、それと同じ人
物とはとても思えなかった。

 「ステラ、映画が見たい」

 「えっ?」

 「プラントに戻ったら映画が見たい」

 「映画だな。チケットを取って正式に誘うから
  」

 「楽しみにしている」

 「良いですよね?お義兄さま」

 「何がお義兄様だ!映画に行くだけだろうが!
  本人がそう言っているんだから、俺は別に構
  わん。だが・・・」

 「だが?」

 「手を出すなよ!その時は、(R−ジン)のビ
  ームソードで切り裂くからな」

 「了解です。お義兄様。やったーーー!」

ハイネは、責任のある地位にいる軍人とは思えな
い、ハシャギようであった。

 「チケット取って必ず誘うからねーーー!」

ハイネは大声を出しながら、駆け足で自分の艦に
戻って行った。
どうやら、よっぽど嬉しかったようだ。

 「ステラ、本当に良いのか?」

 「うん。悪い人じゃないと思うから」

 「そうか。しかし、親父がまた荒れそうだな」

 「ステラは映画を見に行くだけ」

ここ数年で、ステラは随分と大人になっていた。
もうここまで来たら、俺が手を貸す必要はないの
かも知れない。
少し寂しい気もしたが、それは、いつか必ず訪れ
る日でもあったからだ。

 「変な事をしてきたら、射殺しても良いからさ
  」

 「遊びに行くのに銃は持っていけないから」

だが、当の俺自身は、まだ妹離れができていない
ようであった。 


 「何か、大きな声が聞こえるね」

 「ハイネさんだ。何を喜んでいるのかな?」

シンとルナマリアは、「ジェーコフ」の格納庫内
で、「ディスティニー」と「ナイトジャスティス
」の最終点検を行っていた。
そして、明日はいよいよ決戦の日なので、これを
終わらせたら、すぐに寝なければならないのだ。

 「あのさ。シンはこの戦いが終わったらどうす
  る?」

ルナマリアは「ナイトジャスティス」のコックピ
ット内で、最終チェックをしながら、シンにこれ
からの事を聞いていた。
ちなみに、シンは自分の分は終わったので、ルナ
マリアを手伝っていた。

 「そうだな。とりあえず、アスカ隊長を目指し
  て頑張るさ」

 「ヨシヒロさんの跡を継ぐの?」

 「自分の意思でだよ。これだけ悲惨な戦いのあ
  とに平和を守らなきゃ意味がないだろう?俺
  に何が出来るのかはわからないけど。それで
  、ルナはどうするの?」

 「私は副隊長兼(赤い戦乙女)を目指すわよ。
  せっかくの(ナイトジャスティス)だから」

 「そうなんだ」

 「そう。昨日もそうだったし、明日もこれから
  も、シンの背中は私が守るから。だから、あ
  まり無理をしないでね」

 「大丈夫だよ。俺もルナを守るから。お互いに
  守りあって生き抜くんだ。そして、アスカ隊
  隊長、シン・アスカと副隊長、ルナマリア・
  ホークで頑張ろうぜ」

 「うん。そうね」

二人はそこまで話してから、「ナイトジャスティ
ス」のコックピット内でキスを始めてしまった。

 「あの二人、恥ずかしい事してるな。あーあ。
  俺も遠距離恋愛じゃなければな・・・」

「ミネルバ」から一時的に移動して、モビルスー
ツの整備を行っていたヨウランは、一人ため息を
つくのであった。


 「ヴィーノ、ちょっといい?」

 「ああ。ひと段落ついたから」

一方、「ミネルバ」で整備をしていたヴィーノは
、メイリンに話し掛けられていた。
もはや、二人は公認のカップルらしく、その事に
驚く同僚達は皆無であった。

 「いよいよ、明日ね」

 「明日は忙しくなるぞ。絶えず、整備と補給を
  行わなければならないからさ。俺達は直接は
  戦っていないけど、向こうの整備兵達とは、
  間接的に戦闘を行っているのかも知れないな
  。負けると死が近づくのも一緒だし」

 「へえ、良い事言うわね。それ、エイブス班長
  の言葉?」

 「ちぇっ、バレてるのか」

 「甘いわよ。新人君」

 「自分だってそうじゃないか」

 「でも、嫌な部署よ。さっきまで話していた人
  との通信が途絶えると、その人は戦死した可
  能性が高いなんて・・・」

 「すまない」

 「いいの。でも、ヴィーノも嫌だよね。整備し
  たモビルスーツが帰ってこないと」

 「そうだな。お互いに嫌な部署だよな」

 「うん・・・」

 「でもさ!大丈夫だよ!みんな元気で帰ってく
  るって!」

 「そうだよね。シンもお姉ちゃんもレイもステ
  ラも大丈夫だよね」

 「ああ。大丈夫だって」 


 「うーん。若いっていいですね。エイブス班長
  」

 「盗み聞きか?」

 「まあ、いいじゃないですか。というか、班長
  もそうでしょう」  

 「確かに、若いって素晴らしいよな」

エイブス班長と年輩の副班長の会話の半分以上は
、「若いって素晴らしい」であった。

 「まあ、何にせよ、一機でも多く帰ってくる事
  を祈るのみだな」

 「そうですね」

エイブス班長と副班長は、そんな話をしながら、
他のモビルスーツの整備を指揮し始めるのであっ
た。


 

 「最近、目立ってないよな。明日は頑張るかな
  」

 「アーサー副司令、そういう問題ではないと思
  いますが・・・」

アーサーの決意は索敵担当仕官のバート・ハイム
に冷たくかわされ、「ミネルバ」の夜は過ぎてい
くのであった。


 

 「ごめんなさい。本当にごめんなさい。最近ス
  ランプで曲が完成しないんです」

レイは一人自室で、パソコンの画面に向かって謝
っていたが、その画面はただのメールの文面でし
かなく、なぜ彼がそこまで謝るのかは誰にも理解
できなかった。


(同時刻、「アマテラス」ブリッジ内)

カガリは就寝前に、自軍の作戦行動の内容を協議
すべく、主要メンバーでミーティングを行ってい
た。

 「うーん。この部隊はもう少し下げた方が良い
  と思う。これでは、十字砲火とモビルスーツ
  部隊の挟撃で、大きな損害を受けてしまう可
  能性が高い」

 「あれ?本当だ!この部隊は突出し過ぎだ!少
  し位置を下げさせろ」

ハミル准将の命令で、軍令がその部隊に向けて走
り出した。

 「よく気が付きましたね。カガリ様」

 「それなりの教育は受けている」

 「ですが、さすがです。私も気が付きませんで
  した」

実は、ハミル准将が気が付かないわけがないので
あるが、最近、少し元気がない事が多いカガリを
気遣って、わざとこんな事をしたのだ。

 「だが、私には人の上に立つ才能がないのかも
  知れない。つい感情的になって、無茶を言っ
  てしまうから」

 「ああ。それは大丈夫です。別に、トップが何
  でもできる必要はありません。その能力を持
  った人を上手く使えれば良いのです」

ハミル准将の言葉に、カガリは思わず納得してし
まった。
周りでは、彼は「昼行灯」などと称される男なの
で、無能なイメージが付き纏うのだが、実際には
、非常に優秀な男であったし、カガリにさりげな
く気を使うくらいの事はできる男であった。
彼としては、セヴァストポリに残ったトダカ少将
の代わりに、色々と動かねばならないのだ。
先の海賊騒動でアスハ家の派閥に入ったと、周り
からは思われていたので、それなりに頑張らない
とご飯が食べられなくなってしまう。
公務員なら安定しているであろうと思って、士官
学校に入ったハミル准将の考えは、この程度のも
のであったが・・・。

 「カザマ司令に、この前、説教された事ですか
  ?」

 「ああ。私はカザマに借りを作ってばかりだ」

 「彼は優しいですよね。他国の軍の事だし、優
  位に立ちたいでしょうから、普通は意見を却
  下されてそれで終わりですよ。あそこまで、
  詳しくは教えてはくれません。少なくとも、
  私ならそうです。それに、あとでフォローし
  てくれたのでしょう?」

 「その通りだ。私がカザマにできる事ってある
  のかな?オーブ軍に何回か誘ったけど来てく
  れないし、子供が生まれた今となっては、そ
  れも不可能に近いだろう」

 「そうですね。彼に恩を返すとするならば、な
  るべく世界を平和にしておく事ですかね。カ
  ガリ様が、政治家として頑張る領分ですね」

 「世界を平和にか?」

 「ええ。もし、オーブとプラントが戦争になっ
  たら、彼を討たねばならなくなるかも知れま
  せん。アスハ一佐は一番尊敬している教官を
  、ヤマト技術二佐は義理の兄になる人を、カ
  ザマ技術一佐は、自分の開発したモビルスー
  ツが息子を殺してしまう可能性があるのです
  。覚悟はしていると思いますが、こんな悲劇
  は、なかなかありませんよ」

 「私とお父様は、あの家族に貸しを作り過ぎて
  いるんだな」

 「そう気にしなくて良いと思いますよ。要は二
  国が、戦争にならなければ良いのです」

 「そうだな。私は政治についても勉強して、オ
  ーブを統べる立場にならないといけないんだ
  」

 「頑張って下さい。私も微力ながら力を貸しま
  すので」

 「ありがとう」

二人がそこまで話したところで、今度は、アスラ
ンがブリッジ内に入ってきた。

 「カガリ、明日は早いから早く寝てしまえ。お
  腹の子供の事もあるんだから」

 「わかってるよ。アスラン」

 「何を話していたんだ?」

 「もし、オーブとプラントが戦争になったらだ
  」

 「それは辛いな。正直、勝てる自信がない」

 「ヤマト技術二佐なら、カザマ司令を討てるか
  も知れない」

ハミル准将は、一つの可能性を口にした。

 「あいつにヨシさんは討てません。腕は良いで
  すが、性格的に無理ですから。今までの活躍
  は、顔を知らない他国の敵兵が相手であるが
  ゆえですから」

 「なるほどね」

 「それに、カガリが頑張って、お互いに討ち合
  う事がないようにしてくれますよ。俺はそれ
  を信じています。当然、助けもしますし」

 「アスラン・・・」

二人はお互いを見つめ合って、良い雰囲気になり
かけるが、一応は艦内なので、ハミル准将が話を
振ってごまかす事にした。

 「噂によりますと、カガリ様の婿の第一候補は
  カザマ司令だったとか?」

 「ああ。お父様はカザマを気に入ってるからな
  。ラクスがあそこまで積極的でなかったら、 
  ありえたかもな」

 「カガリ様はどう思っていたのですか?」

 「うーん。アスランがいなかったら、カザマを
  選んだだろうな」

 「正直、あの人に勝てる自信はありませんね」

アスランはカガリが答えた内容に嫉妬をしたり、
怒ったりしている様子がなかった。
 
 「見た目は普通の青年なんですけどね」

 「でも、彼がいたから、皆が仲良くなれました
  。俺は、始めはイザークもディアッカも好き
  ではなかったけれど、今では、親友と呼べる
  関係になれたのも彼のおかげです。それに、
  他の国の軍人達と仲良くなれるなんて、想像
  もできませんでした。彼は自然にやっている
  と思いますが、あれは彼の功績です」

 「そう言われるとそうだな」

 「糊みたいな人だね」

 「糊はすごい例えですね」

ハミル准将のおかしな例えに、アスランは少し驚
いてしまう。

 「おーい!アスラン!カガリ様に頼んでくれた
  か?」

 「忘れてた」

 「おいおい、まだ言ってないのかよ」

ハワード三佐、ホー三佐、アサギが次々とブリッ
ジに入ってきて、アスランに何かを聞いているよ
うだ。

 「私に何か用事か?」

 「あのですね。八月頃にみんなで海水浴にいく
  事を決めたんですけど、大所帯になるので、
  アスハ家のプライベートビーチを借りれない
  ものかと・・・」

 「ああ。良いよ」

 「やっぱり、カガリ様に聞いた方が早かったわ
  ね」

 「アスランは尻に敷かれているからな」

 「敷かれていませんよ!」

 「そうだ!私は妻として夫のアスランを立てて
  いる!」

 「始めて聞きました」

 「俺もだ」

 「私もです」

 「本当に失礼な部下達だな・・・」

オーブ軍将兵達の決戦前日の夜は、こうして更け
ていくのであった。  


(同時刻、「アークエンジェル」艦内)

 「向こうも、明日の決戦に備えて寝ているのか
  な?」

 「少なくとも、夜襲をかけてくる可能性は、ほ
  とんどありませんね」

 「それはこちらも想定済みだからな。向こうの
  損害の方が大きくなる可能性がある」

「アークエンジェル」艦内で、フラガ中佐、バジ
ルール大佐、レナ中佐、エドワード中佐、ジェー
ン少佐は、コーヒーを飲みながら話をしていた。

 「しかし、大西洋連邦軍は大損害だよな。将軍
  クラスを何人討ち取られたか」

 「挙句の果てに、総司令をよその軍から出す事
  になってしまったしな」

 「クルーゼはどうかと思うけど、カザマが取り
  仕切っているからな。作戦は恐ろしいほど堅
  実で、数の優位を最大限に発揮させている」

 「そうですね。とても、二十二歳の青年とは思
  えません」

 「コーディネーターは精神の成長が早いらしい
  から」

 「それにしても、恐るべき戦略眼です」

フラガ中佐とエドワード中佐とバジルール大佐が
会話をしていると、今まで黙っていたレナ中佐が
急に関係のない事を話始めた。

 「でも、既婚者だから。明日はどこかに良い男
  がいるといいわね」

 「レナ中佐、敵のパイロットの顔は確認できな
  いだろう」

 「しっ!」

エドワード中佐が正論を言ったので、ジェーン少
佐がすぐに止めに入った。

 「何でも、弟さんが結婚するらしいのよ。それ
  も、軍の基地の同僚と。だから、余計に焦っ
  ているらしいわ」

 「ジェーン、聞こえたわよ」

 「はははは・・・。ごめんなさい」

 「はあ。どこかに良い男はいないのかしらね?
  」

世界情勢がどうなろうと、レナ中佐の一番の関心
事は、自身の結婚の事であった。


(同時刻、ウラル要塞内のエミリアの個室)

 「夜明けと共に、総攻撃という事ね。いよいよ
  最後の時が近づいたわね」

エミリアの私室内では、わずか八人にまで減った
エミリアチルドレンの面々が集まって、最後のテ
ィータイムを楽しんでいた。

 「先に地獄で待っているあの子達のためにも、
  明日は派手にやらないと」

 「ですが、戦力比が三対一で、地球軌道上に大
  艦隊が観測されました。どうやら、相当数の
  モビルスーツ隊を降下させるようです」

軍の指揮権を掌握しているアラファスが、唯一に
して最大の懸念を口にした。

 「戦力比が四対一か五対一になるのね」

 「ええ。ですが、敵のエースクラスを抑えれば
  、クローンコーディネーター中隊とアル・ダ
  ・フラガクローンのハイドラグーン搭載機中
  隊が奮戦すると思われます」

 「でも、敵のエースは沢山いるわよ」

 「(フォールダウン)を前面に出して、クルー
  ゼとカザマを討ちます。あの二人が消えれば
  指揮に混乱を起こさせる事ができるので。今
  にして思えば、インソガル大将を討ったのは
  失敗でしたね。個人的な恨みは晴らせて良か
  ったですが、かえって、敵を強化してしまっ
  た可能性があるわけですから」

 「元々、勝ちは狙っていないから、個人的な怨
  念が最優先よ。インソガル大将も無念だった
  でしょうね」

 「あの人も、世渡りが上手でしたからね」

 「そう。昔はムルタに取り入っていたくせに、
  戦後はいち早く大国派に切り替えたわね。結
  局、大統領になるという夢は果たせずに死ん
  だけど」

 「当然の報いですね」

 「そういう事ね。じゃあ、難しい話はこれで終
  わり。もう、休みましょう。多分、最後の睡
  眠になるけれど」

エミリアがそう宣言すると、八人の若者達はある
ものは自室に、またあるものは自分の任務をこな
すために自分の部署に散っていった。

 「ふう。本当にこれで終わり。ムルタ、私は絶
  対に間違っているわね。本当なら、母親とし
  てミリアの事を第一に考えなければならない
  のに、私は女としての道を選んで、あの子も
  死ぬ事になるでしょう。せめて、罪深き女の
  最後を地獄で見守ってくれると嬉しいわ」

エミリアは、誰に聞かせるわけでもなく、自室内
でただ一人呟くのであった。


 

 「ふう。(フォールダウン)の整備は終わった
  わね。せめて、最後の棺桶は綺麗にしないと
  」

 「そうね」

ミリアとアヤは、アル・ダ・フラガクローン三十
名あまりに命令を出しながら、自分達も格納庫内
で最後の整備を行っていた。
明日は、この三十名のクローンが操縦する、ハイ
ドラグーン搭載機部隊で敵の前線を突破して、総
司令を討つ任務を授かっていた。
完全に片道キップの特攻任務だが、どうせ死ぬの
が早いか遅いかのだけの差あった。

 「成功率は47%と出ていたから、大丈夫よ」

 「本当に微妙な数字よね」

 「敵の攻勢が本格的になったら、例の秘密の地
  下通路から敵に近づくわ。第一目標はクルー
  ゼで、第二目標はカザマよ」

 「わかってるわ」

最近、アヤとミリアはほとんど会話をしていなか
った。
別に、仲が悪くなったわけではないが、特に話す
事もないと感じていたからだ。
そして、ミリアも母親であるエミリアとの会話を
避け、アヤと短い仕事上の会話を交わすのみであ
った。

 「ねえ。アヤ、今から抜けてもいいんだよ。デ
  ィアッカって、プラントの最高評議会議員の
  息子なんでしょう?匿って貰って、ほとぼり
  が冷めれば・・・」

 「ミリア!止めて!」

久しぶりの長い会話であったが、それをアヤは大
声で怒鳴って止めてしまう。

 「でも、好きなんでしょう?」

 「ええ、好きよ」

 「なら・・・」

 「だからこそ行けないの。私は彼を愛している
  からこそ、ここで死ななければならないの。
  今更、手遅れなのよ」

 「アヤ、私がお母様と話をしない理由がわかる
  ?」

 「酷い事をしているから?」

 「それもあるけど、優しさで皆を縛り付けてい
  るから・・・」

 「縛り付けて?」

 「お母様は優しい。多分、今でもそう。でも、
  その優しさを無意識に利用している。アヤ、
  お母様が始めに、あなたに抜けても良いと話
  していた事を覚えている?」

 「ええ」

 「多分、お母様は本当に抜けても構わないと思
  っていたけど、無意識にあなたが抜けるはず
  がないと計算していたと思う。お兄様達も同
  じ、本当に優しくしているけど、自分の優し
  さを裏切らないと心の奥底で思っている」

 「まさか、そんな・・・」

 「私は実の娘だからわかる。多分、みんなでア
  ズラエルの苗字を捨てて、宇宙で会社でも興
  していれば、みんなで幸せになれたと思うの
  に、お母様はそれをしなかった。一時的に逮
  捕はされても、大した罪にはならなかったと
  思うから、それからみんなで頑張れば良かっ
  たのに・・・。でも、お母様はそれができな
  かった。自分はあの実家に逃げた本妻と違っ
  て、アズラエルの家を捨てなかったと思いた
  かったのかも知れない。お母さんは一般家庭
  出身で、本妻になれなかった事がコンプレッ
  クスだったのかもしれない・・・」

 「ミリア・・・」

アヤは血を吐くように自身の考えを述べるミリア
を見つめていた。
「抜けないか?」という言葉に一瞬、心を魅かれ
てしまったが、やはり、自分はこの娘を見捨てる
事などできなかった。       

 「最後まで付き合うよ。それとも、最後に横に
  いるのが私じゃ不満?」

 「できればイケメンの男が良い」

 「贅沢言わないの!」

 「ありがとう、アヤ。でも、最後にキスくらい
  しとけば良かった。アヤは経験済みでしょう
  ?」

 「まあね」

 「その勝ち誇った顔がムカツク」

 「周りに男は一杯いるじゃない」

 「みんな同じ顔をしているクローン兵は嫌!」

 「でしょうね。じゃあ、私とする?」

 「私はノーマルなの!」

やっと二人の顔に笑顔が戻り、久しぶりに楽しそ
うに会話を続けるのであった。


(同時刻、地球軌道上「ボルテール」艦内)

 「フライングアーマーの準備、完了しました」

 「ご苦労。ユウキ総司令は何か言ってきたか?
  」

 「(作戦開始時刻まで暫しの休憩を)だそうで
  す」

ディアッカは、ユウキ総司令率いる、本国艦隊が
主力の特務艦隊の指揮下に入り、翌日の早朝にモ
ビルスーツ隊を降下させる事になっていた。
このアイデアは、クルーゼ司令からあがってきた
ものらしいが、ディアッカは事情を良く知ってい
たので、多分、これを考えたのは自分の教官殿で
あると推察していた。

 「(明日はいよいよ降下か。アヤ、この状況で
  は助けられる手段が存在しない。せめて、俺
  が自分で討つ事にする。覚悟してくれよ)」

そんな事を考えていると、近くを航行しているオ
ーブ軍宇宙艦隊旗艦「イズモ」から連絡が入って
きた。

 「確か、ディアッカ・エルスマンだったな。ク
  ルーゼの被害者の」

 「・・・・・・。はずれてませんが、何の用事
  でしょうか?ギナ少将」

 「実は部下達に説明して欲しいのだ。我も(ム
  ラサメゴールドフレーム)で降下しないと、
  損害が抑えられないと。私は最高司令官なの
  に、部下達が止めてしまうのだよ」

 「最高司令官が降下してしまって、誰が宇宙軍
  艦隊の指揮を執るんですか?」

 「・・・・・・・・・。誰だろうな?」

 「私は(ボルテール)の艦長に任せます。そも
  そも、この艦隊はユウキ総司令の指揮下にあ
  りますから。だから、私が降りても問題はな
  いのですよ」

 「代わってくれないか?」

 「何をです?」

 「艦隊の指揮をだ・・・」

 「無茶言わないで下さいよ」

 「最後の実戦のチャンスなのに!血沸き、肉踊
  る!大決戦への参加チャンスが!」

 「とにかく、無理ですから」

ディアッカは即座に通信を切ってしまった。

 「クルーゼ司令といい、ギナ少将といい、もう
  少し公私のケジメをつければ良いのに」

だが、多少は心も落ち着いたので、ディアッカも
静かに降下の時を待ち続けるのであった。


(同時刻、「はりま」艦内)

 「おーい、石原はいるか?」

 「何だよ?」

私室でマユラにメールを打っていた石原二佐は、
なぜか相羽三佐の訪問を受けていた。

 「大事な話があるんだよ」

 「どんな話だ?」

 「俺、結婚するんだ」

 「誰と?(制服倶楽部)の亜美ちゃんか?洋子
  ちゃんか?(自衛隊パブ)の奈美ちゃんか?
  それとも・・・」

 「何でキャバクラの姉ちゃんばかりなんだよ!
  」

 「だって、他に・・・。あっ!早乙女二尉ね」

 「お前、わざと言ってない?」

 「気のせいだって・・・」

 「俺もマユラにチクるぞ!(メイドキャバクラ
  )でのあの日の出来事を・・・」

 「相羽、俺達親友だよな」

 「祝儀はずめよ」

石原二佐も木石ではないので、過去にそれなりに
遊んでいるようであった。

 「それで、式はいつ行う?」

 「当然、戦争が終わってからだな。カザマ達の
  スケジュールも調べて呼ばなきゃいけないか
  ら」

 「だよな。まあ、とにかくおめでとう。しかし
  、よく決断したな」

 「逃げられなくなっちゃった」

 「・・・・・・・・・。ふーん。幸せにね」

相羽三佐には、まだ多少の未練が残っているよう
だが、石原二佐は純粋に二人の幸せを祈るのであ
った。


(同時刻、旧南方軍ザフト軍臨時司令部内部)

 「あーあ。モビルスーツに乗れないと、暇でし
  ょうがないよね」

 「そうでもありませんよ」

仮設司令部のあるテント内で、バルトフェルト副
総司令はため息をつきながら、書類に印鑑を押し
てサインをし、イザークは自分のノートパソコン
の画面を眺めながら、端末で何かを打ち込んでい
た。

 「何をしているんだ?イザーク」

 「母上にメールを送っています」

 「普通、婚約者が先だろうが・・・」

 「フレイに先に送った事がバレると、機嫌が悪
  くなるんですよ。だから、フレイ公認で先に
  母上に送っています」

 「将来の嫁・姑問題は深刻なんだね」

 「それを言わないで下さいよ」

 「ゴメン。ゴメン。それで、ハイネとリーカ君
  は?」

 「ハイネさんはナンパですかね?リーカさんは
  コーウェルさんのところだと思いますよ」

 「何か隙だらけだね。指揮官がみんな出払って
  いてさ」

 「俺達がいます」

 「まあ、そうなんだけどね。それで、ここで敵
  襲があったら、僕はモビルスーツに乗れるの
  かな?」

 「とりあえず、乗れますけど、そのあとは指揮
  に専念して貰いますよ」

 「はあ。クルーゼが羨ましいな。僕はクルーゼ
  になりたい」

 「あんな人は、二人もいりませんよ・・・」

これがイザークを含む、ザフト軍将兵の大半の意
見であった。


(六月十六日早朝、「ジェーコフ」艦内)

昨夜の内に全部隊の配置を済ませた新国連軍は、
半数のモビルスーツ隊を出撃させて待機させてい
た。
この後、総司令が訓示を行い、遂に総攻撃が始ま
るのだ。

 「新国連軍の諸君!遂に終点に到着だ。敵は世
  界各地でテロや内戦を引き起こした憎い奴ら
  で、まだ強大な戦力を保持している。だが、
  我々はそれを上回る戦力を要しているし、他
  に援軍もくる。だから、安心して戦って欲し
  い。普通に戦えば敵は必ず滅びるのだ。気負
  い過ぎる事なく、頑張って欲しい。では、戦
  闘開始!」

クルーゼ総司令の、やるきがあるのか?ないのか
?よくわからない訓辞のあとに、戦闘開始の合図
が出て、全軍の半数のモビルスーツ隊六百機が攻
撃を開始した。
基本戦略は、深入りせずに少しずつ戦力を削りな
がら敵を疲労させ、二次攻撃隊と宇宙から降下し
た部隊に止めを刺させる事であった。
こうして、最後の決戦が始まり、南ウラル山脈は
爆音と爆発に包まれた。
果たして、新国連軍は勝利を掴む事ができるのか

エミリア達はこのまま敗北してしまうのか?
それは、まだ誰にもわからなかった。


         あとがき

いよいよ最終決戦。
実は、結末をどうするか決めていません。
前作と同じで、書きながら決めると思います。

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