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「これが私の生きる道!運命編12最終決戦前夜編(前編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-08-06 12:37/2006-08-09 20:34)
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ラウ・ル・クルーゼ司令が、新国連軍ヨーロッパ
派遣軍総司令に任命されたという事実は、各方面
に衝撃をもって伝えていた。
普通、派遣されている軍の規模から言って、正統
ユーラシア連合軍は除いても、大西洋連邦か極東
連合軍の指揮官が任命されるものなのだが、イン
ソガル大将戦死後に開かれた、新国連の緊急総会
での話し合いで、クルーゼ司令にお鉢が回ってき
たらしい。
俺は最初、緊急総会に出席したデュランダル外交
委員長の差し金なのかと思ったのだが、詳しい事
情を聞く限りにおいては、そのような事もなかっ
たらしい。
つまり、クルーゼ司令は、正式な決議の元で総司
令に任命されたらしいのだ。

 「(モスクワに直行せよ!)ですか?」

 「らしいな。だが、向こうにはザフト軍が一兵
  もいないのだ。そんな状態で、指揮権を把握
  できるのであろうか?」

常人離れしていて、基本的には何事にも動じない
彼ではあったが、さすがに、この件では面食らっ
ているらしい。
その発言には、多少の動揺が感じられた。

 「とにかく、急いでモスクワに行かないと」

 「そうだな。幕僚を伴ってと命令されたのだが
  、どうしたものかな。選ぶのに時間はかけて
  いられないし・・・」

例の、特攻部隊襲撃後のモスクワは大混乱してい
て、いまだに統率が取れていない部隊も存在する
らしいとの、最新の報告もあったので、一秒でも
早く行かなくてはならないのであるが、クルーゼ
司令が身一つでモスクワに行っても、周りは全て
大西洋連邦軍の部隊であるので、それなりの準備
をしていかないと、更に混乱が広がる可能性もあ
ったのだ。

 「カザマ君はどう思う?」

 「インパクトのある連中を連れて、堂々とモス
  クワ入りします。まずは、連中の度肝を抜か
  ないと」

 「その意見を採用するか。東部駐留軍司令部と
  インソガル大将一人の戦死ならどうにかなっ
  たのだが、幕僚ごと全滅で、北・南・西・郊
  外基地の司令部と、後方で補給路の警備と占
  領地の治安維持を行っている、正統ユーラシ
  ア連合軍の間で揉め事が始まっているらしい
  からな。残っている大西洋連邦軍の指揮官は
  少将クラスばかりだし、正統ユーラシア連合
  軍の将軍に指揮を執らせるわけにも行かない
  が、大将や中将の自分達が、少将に命令され
  るのも辛いだろうしな」

統率者がいないゆえの悲しさで、現時点で中央軍
はまともに機能していないらしい。
少なくとも、北方軍や南方軍にまともな命令が一
切届いてない事からして、その混乱が深刻なもの
である事は事実のようであった。

 「北方軍から指揮官を出せば良いのに・・・」

 「まあ、普通ならそう考えるんだけど、北方軍
  は中央軍の三分の一の規模しかないからね。
  例え、指揮官といえど、引き抜く事が難しい
  んだよ」
  
俺達の話を聞いていたカガリが、珍しくまともな
意見を述べるのだが、それは不可能な相談であっ
た。
元々、エミリアが本拠地を構えているのが、南ウ
ラル山脈である影響で、ロシア共和国の戦力配置
が、モスクワのある中央から南方に集中していた
からだ。
北方軍の目的は、陸路が寸断されているスカンジ
ナビア共和国との交通を回復させる事と、レニン
グラード東方をけん制して、少しでも戦力を回さ
せるためであったのだが、エミリアはこの方面に
ほとんど戦力を配置していなかったし、これから
もその予定はないようであった。

 「最大の戦力を持っていながら、一番キツイと
  ころを俺達に押し付けて、主要都市開放の手
  柄を自分達で独占ですか。でも、エミリアは
  それを許さなかったようですね」

 「結構、きつい事を言うな。アスランは」

 「俺はちゃんと忠告したんですよ。この案では
  まずいと。もし、エミリアが戦力を手中させ
  て、中央軍を完全に撃破していたら、困った
  事になっていましたよ。あとは、戦力の薄い
  補給路が後方にあるのみですからね」

 「俺もそれは考えたけど、その可能性は薄いだ
  ろうな。もし、それだけの戦力をモスクワ近
  辺に揃えていたら、俺達の補給路は黒海方面
  なんだから、一気にウラル要塞を落とす事も
  可能なわけだし。ロシアの大地は広大だから
  、エミリア達も移動に時間がかかるわけだ」

 「なるほど。俺の考えが間違っていましたかね
  ?」

 「いや、そうとも言えない。俺はいまだに連中
  の目的が良く理解できない。もしかしたらと
  思っている事はあるし、それが事実なら大変
  な事なのだが・・・」
 
 「その目的って何ですか?」

 「一人でも多くの人を道連れに滅びる・・・」

 「まさか!そんな。映画や漫画じゃあるまいし
  」

 「アスランの言う通りだぞ」

 「ヨシさん。大げさですよ」

アスランとカガリと同じく同席していたイザーク
に窘められてしまうが、俺もその考えが空想であ
る事を祈らずにはいられない。 

 「それで、今後の体制をどうしたものかな」

 「そうだ!それが一番重要なんだ!」

 「ヨシさん、忘れていませんでしたか?」

 「イザーク、俺はそんなに間抜けじゃない。さ
  っそく、主要メンバーの招集と発表を行う」

 「えっ!もう考えていたんですか?」

 「考えていたさ!」

 「でも、それはクルーゼ司令の仕事では?」

 「アスラン、正論を吐いて楽しいか?」

 「いえ。言ってみただけです・・・」

俺はすぐに動揺から立ち直って、「ミネルバ」の
食堂内でお茶を啜っているクルーゼ司令の横で、
会議の招集を宣言するのであった。

 「あの・・・。総司令に任命されたのって、ク
  ルーゼ司令ですよね?」

 「キラ、空しくなるから指摘しないでくれ・・
  ・」

今まで大人しかったキラの一言で、俺のテンショ
ンは10ポイントのダメージを受けた。


  
 「では、モスクワ入りするメンバーを発表しま
  す」

俺はキエフ郊外の臨時司令部で、各国の司令官や
参謀達を集めて、モスクワ入りするメンバーの発
表を行う事にした。
本当は、発表するのはクルーゼ司令の仕事なのだ
が、それを気にすると負けだし、南方軍にいる指
揮官達もクルーゼ司令には慣れていたので、気に
する人は一人もいなかった。

 「まず、派遣戦力ですが、南方軍は厳しい現状
  を抱えているので、(ミネルバ)と(はりま
  )を基幹に、その二艦に積めるモビルスーツ
  と(ギラ・ドーガ)隊のみとします」

 「了解だ」

 「という事は、俺もモスクワ入りか?」

 「悪いね。石原首相閣下の威光を利用させて貰
  う」

 「本当に悪いと思っているか?」

 「思っているさ」

「はりま」艦長兼特殊対応部隊司令官の長谷川海
将補が了承し、モビルスーツ隊隊長の石原二佐も
しぶしぶ了承した。
彼としては、石原首相の息子である事を利用され
たくないのであろうが、ここは緊急事態として了
承して貰うしかなかったのだ。
 
 「極東連合軍の司令官は、河辺陸将だから残存
  兵力の指揮に問題はないですよね?」

 「ああ。問題はない」

 「それで、もう一つお願いがあるのですが」

 「何かね?」

 「このリストに載っている将校を貸して欲しい
  のです。あと、他の国の司令官方にもお願い
  します」

俺は河辺陸将と他国の司令官に、合計で七十人あ
まりの人員リストを差し出した。

 「作戦参謀、通信参謀、主計参謀、航空参謀に
  テロ対策の専門家まで・・・。司令部を一か
  ら作り直すのか」

 「インソガル大将は、派閥の顔色を伺う事を忘
  れない方でしたが、基本的に優秀で、司令部
  の人材には最大限の努力を払っていました。
  ですが、昨日の戦闘でみんな蒸発してしまっ
  たそうなので、我々だけで乗り込んで、現地
  で参謀を集めようにも、まともな人材が残っ
  ていないそうです。そこで、このリストのメ
  ンバーを(ミネルバ)と(はりま)に乗せて
  現地入りします。残りは、大西洋連邦軍の北
  方軍と後方の正統ユーラシア連合軍からかき
  集めます。まずは、頭を再構成しないと」

 「なるほど。了承した。他のみんなもそれで良
  いですな?」

河辺陸相の問い掛けに全員が大きく頷いた。
今までは、新国連軍を名乗っていながら、中央軍
には大西洋連邦軍しか配置されていないという理
由で、総司令部には一部の連絡将校を除いて、大
西洋連邦軍の将校しか配置されていなかったのだ
が、これでようやくまともな新国連軍を組織でき
るのだ。
反対する人間は皆無であろう。 

 「それで、南方軍の指揮は誰が執る?」

残留するバルトフェルト副総司令が、南方軍総司
令官の人事を質問してきた。
これは、クルーゼ司令が決めるべき職分であった
からだ。

 「クルーゼ司令・・・」

 「カザマ君が決めてくれ」

俺の願いはコンマ数秒で却下され、俺は後任司令
官の人事を決めるという難儀を背負い込んだ。 

 「河辺陸将にお願い・・・」

 「人材が払底しているので、自軍の事で精一杯
  だ」

三十人を超える、参謀をこなせる将校を差し出し
て貰い、無理強いはできないので、他の人に頼む
事にした。
 
 「では、ケニー中将・・・」

 「うちは参加戦力が少ないので、バランスが取
  れない」
 
 「スハルト中将・・・」

 「うちも戦力が少ないからな」

大洋州連合軍と赤道連合軍の司令官にも断られて
しまう。

 「ボース中将は?」

 「インド人は数字に強いという理由で、多数の
  主計将校を引き抜かれてしまったからな。う
  ちも人員不足だ」

 「ハルファ中将は?」

 「うちも戦力が小さいし、基本的に人手不足な
  事に変わりがないんだ。勘弁して欲しい」

 「うう。ケストル中将・・・」

 「君の父上にはお世話になっているが、無理な
  ものは無理だ」

西アジア共和国軍、イスラム連合軍、アフリカ共
同体軍司令官と立て続けに断られてしまって困っ
ていると、マリア少将が目を輝かせながら俺を見
つめていた。

 「(無理だろう。彼女は少将だし、モビルスー
  ツ部隊の指揮ならともかく・・・)」

俺がそんな事を考えていると、マリア少将の隣に
いたタナカ少佐が、俺と同じような表情をしてい
た。
やはり、長年連れそっていると、自分の上司の事
が良くわかるようであった。

 「バルトフェルト副総司令」

 「駄目だよ。クルーゼの次が僕では、世間的に
  バランスが取れないから。次の総司令は、他
  の国から出さないと」

ここ一番の大切なところで、バルトフェルト副総
司令に、常識的に断りを入れられてしまう。

 「補佐なら全力を持ってするから、他の人にし
  てくれないかい?」

 「他って、誰が残っているんですか?」

 「ほら、中将閣下で活きの良いのが残っている
  じゃないの」

 「もしかして・・・」

俺がテーブルの端のガカリを見ると、会議に参加
していた全員が彼女に視線を向けた。
だが、彼女はそんな視線にも気が付かずに大量の
朝飯を食べている。
最近、お腹が空くとかで、一日に五食の食事を食
らい、その量がハンパではない癖に、少しお腹が
出たくらいで全然太らないカガリが、俺には不思
議でたまらなかった。

 「何だ?誰にもやらないぞ。自分で頼んでくれ
  よ」

 「誰もそんな事は言ってませんよ」

 「じゃあ、何だ?」

 「南方軍の総司令をお願いしますね」

 「ああ。任せとけ」

良くわかっていないのか?
カガリはあっさりと了承する旨の返事をする。
 
 「あのさ。本当に大丈夫?」

俺は驚きのあまり、通常のタメ口モードになって
しまった。
 
 「大丈夫だ。バルトフェルト副総司令が助けて
  くれるそうだし、セヴァストポリからトダカ
  少将かハリル准将も呼び寄せる。それに、断
  った手前、他のみんなも手伝ってくれるんだ
  ろう?」

カガリの予想外の発言に全員が素直に頷いた。

 「じゃあ、人事はこれで決定だね。さて、早速
  出発しますか」

こうして、南方軍はカガリが指揮を執る事になり
、河辺陸将とバルトフェルト副総司令が、補佐に
入る事になって新体制がスタートし、俺達は安心
してモスクワに向かって出発したのであった。


 「モスクワまであと三十分です」

「ミネルバ」、「はりま」、「ギラ・ドーガ」隊
二十四機からなる臨時編成部隊は、最高速度でモ
スクワに向けて飛行を続けていた。
やはり、総司令の子飼いの部下が少ないと、モス
クワに駐留している大西洋連邦軍の司令官達に舐
められてしまうので、数はある程度でも質の方は
最大限に配慮していたのだ。
更に、「ミネルバ」の食堂内で緊急ミーティング
を開いて、到着直後に仕事が始められるようにす
る。

 「総司令部の(クレムリン)宮殿は使い物にな
  らないらしい。自由ロシア共和国政府を蔑ろ
  にして、そんな場所に総司令部を置くからだ
  。南部郊外の基地に、早急に移動して戦力を
  集中させる。新国連軍がまともに機能してい
  る事を内外にアピールするんだ」

 「それで、モスクワ市内はいかがなされますか
  ?」

赤道連合軍の出身の作戦参謀が、俺に質問をして
きた。
彼は若いながらも優秀な男なので、彼を主席作戦
参謀にしようかと考えていた。
今までなら、大国の軍人か総司令に任命された国
の軍人達で地位を独占するところなのだが、ザフ
ト軍の司令部というのは、他国の軍に比べると司
令部の人員構成が薄いらしく、急に巨大な総司令
部を編成して人員を抽出する事が極めて困難であ
った。
これは、コーディネーターゆえに、多数の人員は
必要ないと思っている、ザフト軍の最大の欠点か
も知れなかった。
ザフト軍は若い組織なので、組織運営を続けると
いう観点で、大きな欠点を抱えているのかも知れ
なかった。
これは、すぐにユウキ司令に上奏した方が良いだ
ろう。

 「住民への治療や、救出活動や警備を行ってい
  る人員を除いて、他は全部移動だ。そうでな
  くても、(買い物をして金を払わない)(ゲ
  リラと間違えて市民を射殺した)(非番の兵
  士が強盗に入った)など不祥事が満載なんだ
  。連中は、マスコミを規制して情報の漏洩を
  防いでいるが、そんな事をしてもエミリアに
  そこを突かれれば、俺達の優位は簡単に崩れ
  てしまう。だから、必要ない人員は、郊外の
  基地に移動して、正統ユーラシア連合軍や自
  由ロシア共和国政府に任せられる部分は、全
  部任せる事にする」

 「ですが、世界一位の経済大国である大西洋連
  邦軍の兵士が強盗ですか?」

アフリカ共同体軍やイスラム連合軍の仕官達には
、信じられない出来事であるらしい。

 「大西洋連邦は、旧アメリカ合衆国時代から移
  民で人口を増やしてきた国だ。先の大戦後の
  好景気で軍が人手不足になった時に、兵士が
  不足した事があって、それを解決するために
  、国籍を餌に他の途上国の移民志望者を兵士
  にしたって寸法なのさ。丁度、終戦直後にそ
  れを見越して兵隊を募集しているから、その
  連中が訓練を終了させて、歩兵や戦車兵など
  の比較的短期間に仕上がる兵科の兵士をやっ
  ているはずだ。無論、給料は安いし、訓練不
  足なので、モラルの面ではいまいちな事が多
  い。教育に金と時間がかかる、仕官やパイロ
  ットや将官や技能系の将校は、白人や生粋の
  大西洋連邦生まれの有色人種で、悪く言えば
  使い捨ての兵士は、途上国からの移民志願者
  の家族って事だな。彼らは、家族のために銃
  を取り命を張ってるわけだ。悪さをする連中
  もそこからの比率が高い」

 「何とも、厳しい現実ですね」

 「一定数の人間がいる以上、悪さをする兵士の
  比率は下げられても、ゼロにするのは不可能
  だ。だから、とっとと郊外に移動して中央軍
  を再編成する」

 「ですが、大多数を占める、大西洋連邦軍の司
  令官達が黙っていますかね?」

西アジア共和国軍の将校が懸念を口にした。
西アジア共和国軍の兵士や将校は、先の大戦では
、大西洋連邦軍と一緒に戦った経験があるので、
彼らについては、十分過ぎるほど良くわかってい
るようだ。

 「連中が優秀なら、クルーゼ司令にお鉢は回っ
  て来ないだろう?グズグズして混乱している
  バカは、ねじ伏せてでもいう事を聞かせる」

 「ねじ伏せてでもですか・・・」

 「モスクワ近郊に到着しました。敵の反応なし
  。事前通達の影響で、味方による妨害もあり
  ません」

索敵担当のバートが冷静に報告をするが、俺には
そうは思えなかった。

 「中心部のクレムリン宮殿跡地はどうだ?」

 「(アークエンジェル)とモビルスーツ隊三十
  機あまりの反応がありますが、これは司令部
  跡の護衛戦力では?」

 「やっぱりな。生意気にけん制してやがる。バ
  ジルール大佐も律儀なお人だな」

 「カザマ君、私は(スーパーフリーダム)で出
  撃するぞ」

 「新国連旗を忘れずに。精々派手に叩きのめし
  て下さい。これは訓練の一環ですので。メイ
  リン、(ギラ・ドーガ)隊に連絡だ。クルー
  ゼ司令を護衛しつつ、適当に可愛がってやれ
  と伝えろ。だが、怪我をさせてはいけないぞ
  。無用なしこりを残すからな」

 「了解です。(ギラ・ドーガ)隊訓練を開始し
  て下さい」

「フライングアーマー」に搭乗した「ギラ・ドー
ガ」隊のパイロット達が、先に出撃したクルーゼ
司令の後を追って、「クレムリン宮殿」跡に突撃
を開始した。

 「シン!(ディスティニー)のは発進準備は完
  了しているか?」

 「すぐに行けます!」

 「ルナ!いきなり(ナイトジャスティス)だが
  、大丈夫か?」

 「はい!教官が良いから大丈夫です」

 「コーウェル!(インパルス)は大丈夫か?」

 「俺をパイロットにするんじゃねえ!」
 
 「今回だけ頼むよ」

 「今回だけだぞ!」

 「私も今回だけですよ!」

 「(セイバー)の調子はどう?」
 
 「本当に、この人は・・・」

実は、「ミネルバ」所属であったイザークとリー
カさんを、南方軍の指揮官不足を防ぐために、モ
ビルスーツ隊指揮官として置いてきていたのだ。
なので、現時点で「ミネルバ」にいるパイロット
は、俺、クルーゼ司令、シン、レイ、ルナマリア
、ステラで、臨時でシホとコーウェルを登録だけ
していたが、コーウェルはその特技を生かして、
総司令部の事務方の仕事を任せるつもりであった
し、シホはこちらに連れてきた軍医と看護士の集
団のまとめ役として、モスクワ市内に降ろす予定
であったので、戦力として数えられるのは今回だ
けであった。
そして、モビルスーツも「セイバー」と「ナイト
ジャスティス」が、「ミネルバ」に搭載されてい
る「デュートリオンビーム」の使用を前提にして
いる機体であったので、イザークは副総司令任務
が忙しくなるバルトフェルト司令の「バイアラン
」に、リーカさんが三機ほど置いてきた「ギラ・
ドーガ」に乗り換えて部隊の指揮を執る事になっ
ていた。

 「シン!クルーゼ司令を訓練とは言え、落とさ
  せるなよ!連中がデカイ顔をすると、後の仕
  事がやり難くなる」

 「了解です!」

シンは「ディスティニー」に搭乗して、ルナマリ
ア達を率いて出撃した。
俺は今回の件を利用して、シンに指揮官としての
素養を身に付けさせる事にしたのだ。
どのみち、人手不足なのでシンを遊ばせておく余
裕はなかったのだが。

 「ルナ、(ナイトジャスティス)の調子はどう
  だ?」

 「いい感じよね。これで(赤い戦乙女)の伝説
  が始まるのよ!」

 「ルナマリア、何だ?それは?」

 「私の二つ名よ」

 「残念ながら、二つ名は他人が付けて呼ぶもの
  だ。自称ではない」

 「レイの意地悪・・・」

 「それに、(赤い狙撃手)がいるからダブるぞ
  」

 「そうね。彼女は有名人だし」

シンの教育のためと、出撃は今回だけという理由
で、コーウェルとシホはシンの指揮下に入って、
シンのお手並みを拝見する事にしたらしい。

 「私は負けません!彼女を超える赤のパイロッ
  トになります!」

 「おお!心意気や良し!」

 「頑張ってね」

 「頑張ります!」

 「前方に(ウィンダム)が三十機あまり見えま
  す。大半が噂の(ハイドラグーン搭載タイプ
  )の量産機のようです」

ルナマリアとコーウェルとシホが会話を続けてい
ると、レイが冷静な声で報告を入れてきた。

 「だそうだ。シン、どうするつもりだ?」

 「クルーゼ司令は、(エンデュミオンの鷹)と
  の一騎討ちを望むはずです。俺達はその妨害
  をする敵機の排除を行います」
 
 「上等だ。合格だな」

 「そうね。クルーゼ司令を止めるのは、不可能
  でしょうし」   

 「では、先輩方の賛同も得たので全機突撃だ!
  」

 「「「「「了解!」」」」」

こうして、フラガ中佐指揮の「ウィンダム」隊三
十機あまりと、クルーゼ司令指揮の「ギラ・ドー
ガ」隊主体のモビルスーツ隊は訓練形式ながら、
モスクワ市民や大西洋連邦軍兵士達が見守る中、
「クレムリン宮殿」上空で激突を開始するのであ
った。


(二時間前、クレムリン宮殿近くの臨時司令部内
 )

 「フラガ中佐、用事って何でしょうね?」

 「どうせ、下らない事だと思うよ」

例の悪夢の惨劇の翌日、壊滅した東部地域の住民
の救助と復興支援を行いながら、司令部の全滅し
た東部駐屯軍残存戦力の建て直しを行っていたバ
ジルール大佐とフラガ中佐は、突然、中央軍臨時
司令部の呼び出しを受けていた。
インソガル大将とその幕僚達が、クレムリン宮殿
ごと「デストロイ」のビーム砲で蒸発させられて
しまったので、とりあえず、近所のホテルを接収
し、指揮権の継承順位に従って、臨時司令部を発
足させたのだが、生き残っている将官達が、全員
少将であった事が混乱を大きくさせていた。
「何で同列の少将に従わなければならないんだ!
」口には出さないが、臨時司令官以外の全員の心
に中にその思いは存在し、それが、復興や部隊の
建て直しに関する部分で足を引っ張りあって、外
部からの批判を浴び始めていたのだ。
特に、危機感を感じた新国連の臨時総会で、クル
ーゼ司令が第二代の総司令に任命された事により
、彼らの混乱は更に増していた。
まさか、外様のザフト軍の司令官が、総司令にな
るとは思っていなかったからである。
そのような経緯で、バジルール大佐達が呼ばれた
可能性が高いようだが、彼女達も、具体的に何の
件で呼ばれたのかはわかっていなかった。

 「やあ。よく来てくれたね」

 「さあさあ。席に座って紅茶でも飲んでくれた
  まえ」

以前は、派閥の違いから、表に裏に嫌がらせを受
けたり嫌われていたのに、ここまで優しくされる
と何かの罠ではないかと、かえって不気味に感じ
てしまう。
臨時司令官であるターナー少将は、日頃は決して
見せない笑顔と猫撫で声で、バジルール大佐達を
歓迎していた。
バジルール大佐が隣のフラガ中佐を見ると、彼も
どうして良いのかわからない表情をしていた。

 「あの。ご用件を伺いたいのですが・・・」

 「ああ。そうだったね。しかし、昨日は君の部
  隊は大活躍だったな。同じ大西洋連邦軍とし
  て、鼻が高いよ」

 「モスクワ市民も、君達の活躍に感謝してると
  思うよ」

将官達は、今までの冷遇ぶりを忘れたのか?
バジルール大佐達を、手放しで褒め称えた。
人間とういのは、後ろめたかったり、大変な事を
頼みたい時に、急に優しくなるものなのだ。
多分、今日は後者の方で、自分達に何かをさせた
いのであろう。
自分達のいる場所は高級ホテルで、会議室の椅子
も紅茶も高級品のようだが、彼らのせいで、それ
がちっともありがたくなかった。
精神的に居心地が悪いので、椅子のすわり心地は
わからず、せっかくの紅茶の味と香りもわからな
かったのだ。
はっきり言って、早く抜け出したい気持ちでいっ
ぱいだったので、バジルール大佐は、単刀直入に
自分達の任務を尋ねる事にする。
嫌な連中だが、自分達は部下として指揮権に組み
込まれているので、拒否はできなかったからだ。
この瞬間は、自分が軍人である事を呪いたくなる
バジルール大佐であった。

 「あの、具体的に何をすればよろしいのですか
  ?自分は東部地区の復興と救助と、壊滅した
  東部駐屯軍の、再編成作業が残っていますの
  で」

 「いやはや、バジルール大佐は任務に熱心なん
  だな。感心してしまうよ」

 「本当ですな」

 「いや、全く」

彼らの口ぶりからして、どうやら相当に困難な任
務を仰せつかるらしい。
その事は、フラガ中佐も理解できたようで、彼も
不機嫌そうな表情をしていた。 

 「既に聞いているとは思うが、新国連軍ヨーロ
  ッパ方面軍の総司令人事の事だ」

 「クルーゼ司令ですよね?」

 「そうだ。そこで我々は色々と準備をせねばな
  らない」

 「準備ですか?」

 「そうだ。新国連は、世間体を気にしてクルー
  ゼ司令を総司令に任命したらしいが、それは
  間違いだと私達は思っている」

 「ですが、人事を覆す事はできませんよ」

 「表面上はな」

 「表面上はですか?」

 「神輿は軽い方が良い。確か、日本にはそんな
  諺があったはずだ」

 「さよう。ここは我々の力を見せ付けて、実質
  的なイニシアブチを奪うおうというわけだ」

 「それで、具体的に何をすればよろしいのです
  か?」

 「連中は足の速い(ミネルバ)と(はりま)で
  こちらに向かっているらしい。三十機ほどの
  モビルスーツ隊を伴っているらしいから、フ
  ラガ中佐達に、訓練形式で歓迎して欲しいの
  だよ」

 「我々が勝利すれば、モビルスーツ運用に絶対
  的な自信を持っている彼らの気迫を削げ、我
  々の優先権が認められ易くなるというわけだ
  」

 「ここで、彼らにデカイ顔をさせるわけにはい
  かないのだよ」

 「君も大西洋連邦軍の仕官なのだから、理解し
  ているとは思うが・・・」

 「父上の顔に泥を塗るつもりかな?」

バジルール大佐の機嫌は、昨日に続いて再び急降
下していった。
どうやら、こいつらは自分達を利用して、クルー
ゼ司令達の顔に泥を塗り、自己の権益と優先権を
守りたいらしい。
彼らにしたら、大西洋連邦軍以外の軍人が総司令
に任命されるなど、あってはならない事であるよ
うだ。

 「ですが、同数でザフト軍のモビルスーツ隊に
  勝てるとは思いません」

 「ハイドラグーン搭載機の量産に成功した、我
  々の勝利は固いさ」

バジルール大佐は、彼らの楽観論を聞いて頭が痛
くなってきた。
確か、「ウィンダム」のハイドラグーン搭載に一
番反対していたのは彼らで、配備数が中々増えな
かったのも、彼らの妨害のせいであったはずだ。
だが、そんな事実も彼らは都合良く忘れてしまえ
るらしい。
正直、その脳みそを取り替えて欲しいと思う、バ
ジルール大佐であった。

 「了解しました。早速準備に取り掛かります」

 「頼んだぞ」

 「期待しているよ」

ターナー少将達の期待の言葉を背に、バジルール
大佐とフラガ中佐は、急いで臨時司令部が置かれ
ている会議室を退出する。

 「バジルール大佐、ご機嫌斜めかい?」

 「フラガ中佐ほどではありませんよ」

早足で「アークエンジェル」に戻ろうとしていた
二人は、お互いの表情が不機嫌である事を指摘し
ながら、会話を続けている。
 
 「だよな。同数ではやつらに勝てないって。し
  かも、連中のモビルスーツは、新型機と高性
  能の試作機ばかりだぜ。俺達の事を、てぐす
  ね引いて待っているぜ。きっと」

 「エースクラスのパイロットも多数ですしね」

 「勝ちたかったら、三倍の数を用意させろ!そ
  れが可能だから、大西洋連邦は最強の国家な
  んだ!それを、同数で勝たなければ、意味が
  ないとか抜かしやがって!そんな事ができる
  わけがないだろうが!」

フラガ中佐の機嫌は更に悪化して、その声の端々
に怒鳴り声に近いものが混ざり始める。

 「ここ数年で、モビルスーツとOSの技術は飛
  躍的に進歩しました。パイロットの能力の差
  を、それで埋めたと勘違いしているのでしょ
  う」

 「連中も開発はしているし、優秀な技術者や科
  学者の集まりがプラントの起源だ。そんな事
  も忘れてしまったのか?あのバカ達は!」

 「ここで怒っても、仕方がないではありません
  か。急いで準備をしないと」

 「せめて、レナ中佐やエドワード中佐がいてく
  れれば・・・」

 「こちらに向かって来てはいるようですよ。ク
  ルーゼ総司令の命令で、新司令部の構成要員
  を乗せて急行しているそうです」

 「でも、間に合わないだろう?」

 「ええ。ですが、指揮権は向こうにあるのです
  から、訓練中止を命令してきて、戦闘訓練に
  ならないかも・・・」

 「それは無理だ」

 「どうしてです?」

 「クルーゼが、俺との対決を逃すはずはないか
  らだ」

フラガ中佐の言葉で、バジルール大佐は意識が遠
くなるような気がした。
 


 「やっぱり、大苦戦じゃないか!」

 「残念だったな。ムウよ!」

 「名前で呼ぶんじゃねえよ!俺は男に名前で呼
  ばれる趣味はない!」

 「一応、親愛を込めて名前で呼んだのだがな。
  私のライバル君」

クルムリン宮殿で始まった戦闘訓練は、ザフト軍
の一方的な展開になったいた。
いくらハイドラグーンを装備していても、パイロ
ットとしての完成度に劣る彼らは、ベテランの「
ギラ・ドーガ」部隊や、シン達の精鋭部隊に次々
と撃破されていったのだ。
肝心のフラガ中佐は、クルーゼ司令搭乗の「スー
パーフリーダム」との戦闘に集中していて、部下
を気に掛けている余裕は一ミリもなかった。

 「フラガ中佐、味方の残存数は五機のみです」

 「敵の損害は?」

 「十機ほどは落としたかと・・・」

 「圧倒的に不利じゃないか!」

フラガ中佐が怒鳴っている間に、報告を入れてき
た「ウィンダム」も討たれてしまい、状況は刻一
刻と悪くなっていくが、フラガ中佐にはそれを止
める手段を持ち合わせていなかった。


 

 「何でこんなに我が軍は弱いんだ!」

 「この様子は全軍の兵士が見ているし、モスク
  ワ市民達やジャーナリスト達にも目撃されて
  いるんだぞ!」

同じ頃、大西洋連邦軍の将軍達も、自軍の弱さに
頭を抱えていた。
これでは、優位に立つところか完全に風下に立た
ねばならないからだ。

 「やはり、(ミカエル)を北方軍に回したツケ
  が・・・」

 「今更、そんな事を言うな!お前は反対しなか
  っただろうが!」

 「向こうも精鋭部隊ですから。通常の部隊なら
  、フラガ中佐の部隊でも・・・」

 「そんな理由が、見物している市民達やマスコ
  ミ連中に通用するか!大西洋連邦軍はモスク
  ワでしくじったから、ザフト軍のクルーゼ司
  令に総司令を奪われたという噂を立てらねか
  ねんぞ!」

 「ですが、打てる手がありません」

 「これで、我々も終わりか・・・」

きつと、大西洋連邦本国は、自分達の失態を許さ
ないであろう。
協調派や大国派など関係なく、彼らは大西洋連邦
軍に恥をかかせたのだ。
フラガ中佐やバジルール大佐達は、得がたい人材
だし、トップではないので、お咎めはなしであろ
うが、自分達の代わりなどは何人も存在する。

 「フラガ中佐が降参したそうです。残存が彼一
  人では・・・」

 「これで、終わった・・・」

訓練とは言えど、ほぼ同数で戦ってこちらは全滅
で、向こうは三分の二が残っているのだ。
これがどういう事なのか、理解できないほど鈍い
軍人達は、さすがに存在しないようであった。
ターナー臨時司令官は、その残酷な現実にガック
リと肩を落とすのであった。


 「さて、最後の儀式を行いますか」

約三十機同士のモビルスーツ隊で模擬戦を行って
、向こうが全滅して、こちらの損害が十機であっ
た。
損害比率は三対一なので、そう悪くないと思われ
る。
しかも、俺は今回全く出撃していないのだ。
これは、シン達が成長した証拠であると言えよう

 「クルーゼ司令!新国連旗を掲げて下さい」

「スーパーフリーダム」に搭乗したクルーゼ司令
は、クレムリン宮殿の中央広場で、新国連旗を掲
げ、シン達や「ギラ・ドーガ」隊も構成国の国旗
を掲げて、俺の考えたパフォーマンスは終了した
のであった。
これは、強力な新体制のアピールと、各国との協
調をアピールするための、俺の下らないアイデア
ではあったが、騒ぎを聞きつけたマスコミの連中
が、写真を盛大に撮っているので、大きなインパ
クトがあったと言えるであろう。

 「まさか、俺達と同じ事を考えていたとはね」

模擬戦で敗北したフラガ中佐達は、「アークエン
ジェル」のブリッジでこの光景を目撃していた。
隣には、同じく呆れたような表情のバジルール大
佐の姿も見える。

 「クルーゼ司令の策ですかね?」

 「違うだろう。カザマの姿が見えない。奴が企
  んだくさいな」

 「そうですか・・・」

バジルール大佐には、アカンベーをしているカザ
マ司令の姿が容易に想像できた。
ヘリオポリス、カーペンタリア近海、硫黄島近海
、オノゴロ島近海、月〜プラント本国間と、考え
てみれば、自分はあの男に一度も勝った事がなか
ったのだ。

 「(ミネルバ)から通信です」

 「繋いでくれ」

バジルール大佐の命令で、チャンドラ中尉が通信
を繋いで、前面のスクリーンに転送した。

 「お久しぶりです。バジルール司令、フラガ中
  佐」

 「この前、会っただろうが」

 「ああ、そうでした。そうでした」

 「それで、用件は何でしょうか?カザマ副総司
  令」

 「(アークエンジェル)と(ミカエル)は、こ
  ちらの指揮下に入って貰いますよ。ただ、そ
  れだけですけど」

 「指揮権はそちらにあります。私としては異存
  はありません」

 「ご協力感謝します。それで、モスクワの様子
  は?」

 「東部地区は壊滅した。死傷者の正確な集計は
  まだ出ていないが、万を軽く超えるだろうな
  。何しろ、人口密集地に、ビームを容赦なく
  叩き込む敵だったからな」

フラガ中佐は、悔しそうな表情で昨日の状況を説
明する。

 「よく撃破できましたね」

 「ハルバートン中将からの援軍が間に合わなか
  ったら、俺も戦死者の方に入っていただろう
  な」

 「そうなったら、マリューさんが悲しみますよ
  」

 「だから、俺は死ねなかったんだよ」

 「そうですか。では、数時間後に会議を行いま
  す。正確な時間と場所はあとで伝えさせます
  ので、その時にお会いしましょう」

 「了解です」

 「わかった」

そこまで話すと、スクリーンの映像は途切れてし
まった。

 「しかし、二十二歳の青年が副総司令ですか・
  ・・」

 「クルーゼは部下に仕事を押し付けるという噂
  があるから、彼が実質的に取り仕切っている
  可能性があるな」

 「そんな事で大丈夫なのでしょうか?」

 「カザマは優秀だからな。かえって安心かもよ
  」

 「かもしれませんね」

後世の歴史家達に、「この時期に、世界の運命を
握っていたのは、仮面の男ではなくて、二十二歳
の青年であった」と語られる時間が、今始まった
のであった。
  
 


 

 「では、第一回の会議を開催します。まずは、 
  総司令官である、ラウ・ル・クルーゼ司令か
  らのお言葉からです」

お互いに何かを企んでいたようで、思わぬ集団訓
練をするはめになったザフト軍と大西洋連邦軍で
あったが、結果はザフト軍の圧勝であり、俺達は
それなりの敬意を持って、迎え入れられる事にな
ったようだ。
そんな理由で、俺達は早速モスクワ市内の臨時最
高司令部で第一回の会合を開く事になり、周辺で
補給路の警備を行っている、正統ユーラシア連合
軍の司令官達も呼んで、会議を開催していた。
ちなみに、俺達との訓練で敗北した、大西洋連邦
軍の将軍達も、不機嫌そうな表情で出席していた
事を付け加えておく。

 「総司令官のラウ・ル・クルーゼだ。よろしく
  頼む。細かい事はカザマ副総司令に聞いてく
  れ」

クルーゼ司令の挨拶の言葉は、それだけで終わっ
てしまった。
更に、詳しい事は俺に聞けという事は、俺が全て
をこなさなければならない事を指していたのだ。
正直、頭が痛くなってきた。

 「時間が惜しいので、基本案を発表します。基
  本的に指揮官の交代はありません。時間が一
  秒でも惜しいからです。モスクワは、市民の
  救助と治療を行う軍医と看護士と、ガレキの
  撤去を行う工兵と彼らを護衛する警備兵を除
  いて、すべて郊外のこの基地に移動です。ち
  なみに、彼らの管理と基地の整備と警備を、
  ターナー元臨時総司令に一任します」

 「えっ!自分がですか?」

てっきり更迭されると思っていた、ターナー少将
が、驚きの声で俺に聞き直してきた。
今までは、若造だの外様だの散々陰口を叩いてい
たであろうが、軍人という生き物は、上官に逆ら
えないというDNAを持っているようで、息子の
ような年齢の俺に、逆らわおうとも思わないらし
い。

 「大西洋連邦の本国が、何か言っていたようで
  すが、交代する時間も惜しいので、そのまま
  任務を続行してください。次に、北方軍です
  が、半数の戦力をアイゼンハワー中将に指揮
  させて、南下させる事にしました。レニング
  ラード以東の地域は、敵の脅威が薄いので防
  衛戦力だけ置いて放置します」

実は、大西洋連邦軍本部から「やり難いようなら
、ターナー少将達を更迭しようか?」という連絡
が入っていたのだが、俺はそれを断って彼らの続
投を決定していた。
彼らは、それほど無能な将軍達でもないし、俺達
のせいで更迭されたと思わせて、自分達の傷を小
さくしようとする、本国の大国派の連中の意図が
見え見えだったからだ。
そこで、彼らを最後まで使って手柄を立てさせて
凱旋させれば、いかに彼らでも大国派の長老達と
の仲はこじれるであろうし、ひょっとしたら、協
調派に走る可能性もなきにしもあらずなので、こ
のまま使う事にしたのだ。
大国派の連中は、下手をすると第二のブルーコス
モス強硬派になるかもしれないので、力を弱めら
れる時に弱めた方が良いと判断したのも、その理
由の一つであった。

 「他の御三方も、アイゼンハワー中将の指揮下
  に入って部隊を再編成して下さい。正統ユー
  ラシア連合軍も、モビルスーツ隊を中心に部
  隊を編成して、中央軍に合流して下さい。指
  揮官はお任せします。補給路の警備は、モビ
  ルスーツ隊がなくても出来るでしょうから、
  遊ばせている戦力がないようにして下さい」

 「「「了解です!」」」

 「わかった、急いでモビルスーツの編成を行う
  」

俺の案に、大西洋連邦軍の三人の少将と、正統ユ
ーラシア連合軍の将軍達が了承の返事をした。
前の三人は、クビの繋がった嬉しさから、正統ユ
ーラシア連合軍の将軍達は、前線での出番を与え
て貰った嬉しさから表情がほころんでいた。

 「次に、司令部の建て直しが急務です。総司令
  部を編成する将校がまだ足りません。リスト
  をお渡しするので、出頭させて下さい」

インソガル大将の幕僚で生き残っているのは、所
用で出かけていた数人のみであったので、俺は残
りの必要な人材を、大西洋連邦軍と正統ユーラシ
ア連合軍の将校からも出させる事にしたのだ。

 「了解しました・・・」

俺の言葉に、大西洋連邦軍の将兵と正統ユーラシ
ア連合軍の将兵は、意外そうな表情と安心したよ
うな表情が交じり合ったような顔をしていた。
どうやら、俺達が人事権を壟断して、ザフト軍の
将兵で司令部を編成すると思っていたらしい。
だが、そんな事をしてサボタージュでもされたら
命に関わる事なので、そんな事をするはずはなか
った。

 「次に、これからのスケジュールを発表します
  。一週間後にここを出て、ゴーリキー占領を
  目指して進軍します。そして、南方軍がブル
  ボルシスク高原のペンザを占領してから、共
  同歩調をとって順繰りに進撃を開始します。
  途中、北方軍の半数の戦力の合流もあるから
  それほど、苦にならないと思いますが。何か
  質問は?」

俺が周りを見渡すと、数人の若い将校が手をあげ
ていた。
基本的に質問は大歓迎である。
手をあげないという事は関心がないという事なの
で、これほど危険な事はなかったのだ。

 「えーと、大西洋連邦軍のノックス少佐だった
  かな?」

 「はい。そうです」

 「それで、質問は?」

 「一週間で出発とは、大変に威勢が良い事です
  が、補給の問題はどうするのですか?」

 「簡単な事です。補給の比率を宇宙を主に、河
  川路と陸路を従にします。エミリアは我々を
  、ナポレオンとヒトラーの二の舞にさせたい
  ようですが、あの時代には、宇宙コロニーや
  宇宙艦隊がありませんでしたからね。彼女達
  の宇宙空間での戦力はほとんど皆無で、海賊
  の一部を扇動しているに過ぎません。各軍の
  宇宙艦隊を動員して、断続的に補給物資を降
  下させます」

 「なるほど、そうでしたか。ところで、各国の
  軍本部はそれを了承しているのですか?」
  
 「これからですね。ザフト軍のユウキ司令とエ
  ザリア国防委員長は快諾されたので、艦隊が
  物資を持って本国を出ています。これからは
  、ローテーションを組んで、物資の補給を行
  うそうです」

 「極東連合軍も了承している。宇宙艦隊が準備
  を整えている。物資の準備にも抜かりはない
  」

 「オーブ軍も、アメノミハシラから物資を降ろ
  してくれるそうです」

次々に宇宙にコロニーや拠点を置いている国から
の了承が続き、質問をしたノックス少佐が困った
ような表情になっていた。
まさか、こんなに早く事が進んでいるとは思わな
かったからだ。
 
 「大西洋連邦軍も、月から第七・八艦隊を出し
  て貰おうと思います。バジルール大佐、ハル
  バートン中将に話をつけておいて下さい。正
  式な要請と必要な書類は、急いで用意します
  ので」

 「了解しました」

 「ノックス少佐、他に質問は?」

 「もう一つ、なぜ南方軍と隊列を揃えたのです
  か?」

萎縮するかと思ったが、彼は気丈にも二つ目の質
問をしてきた。

 「それは、昔の戦法を採用したからです。始め
  に、我々がゴーリキーを出発し、それに敵が
  食いついたら、南方軍をペンザから出発させ
  ます。敵が南方軍に対応するために、我々か
  ら転進すると、更に我々が前進し・・・。と
  いう具合に、それを繰り返して徐々に前進し
  ます。数の優位を生かした、王道の策ですね
  」

 「もし、敵が二つに分かれたら?」

 「その時は少数の無力な敵を粉砕します。ラン
  チェスターの法則くらい、敵は知っているで
  しょうから、ウラル要塞での決戦に備えて、
  戦力を温存するために撤退すると思いますが
  」

 「ご質問に答えていただいて、ありがとうござ
  いました」

その後、数人の将校の質問に答えてから、会議は
無事に終了したのであった。
  


 

 「クルーゼ総司令、どちらへ?」

 「(スーパーフリーダム)で訓練だ!」

俺達の着任の三日後、部隊の再編成と、さらなる
侵攻作戦の準備は順調に進んでいた。
多数の物資は、正統ユーラシア連合軍の必死の活
躍と、宇宙空間からの投下で、必要な量は十分に
集まっていたし、選抜した司令部要員達も、良く
働いてくれていた。   
そして、肝心のクルーゼ司令は、毎日モビルスー
ツで何時間も訓練をしていて、「あれだけの訓練
をしてから、総司令の仕事もこなすのか。噂以上
に優秀な人なんだな」という、俺的にはありえな
い噂を生む要因になっていた。

 「知らないって凄い事だよな」

 「ああ。あれはカモフラージュだそうな。何と
  いう都合の良い解釈なんだ!」

新国連軍ヨーロッパ方面軍旗艦「ジェーコフ」に
新設された、司令本部内の部屋でコーウェルと書
類を処理しながら、グチをこぼしていた。
「ジェーコフ」は、陸上戦艦と呼ばれている艦種
で、ザフト軍がアフリカに配置している「レセッ
プス」と同じような目的で建造された艦艇であっ
た。
何でも、エミリアが必要だと言って、ロシアで建
造されていたものらしいが、完成に間に合わずに
ドッグに放置されていて、ついでに爆破も間に合
わずに、新国連軍に接収されていたものであった

本当なら、賠償艦として他国に譲渡される予定で
あったのだが、どこの国からもいらないと言われ
てしまって、正統ユーラシア連合軍に返還されて
いたらしい。
だが、俺達が、総司令部を置く巨大な移動空間を
必要としているという噂を聞きつけて、急遽、こ
の船が供与されたのだ。
確かに、この船なら百人近い人員を乗せて会議や
作戦指揮を行えるスペースも確保しやすく、護衛
のモビルスーツ隊の搭載すら可能で、安全なこと
このうえなかった。

 「コーウェル、昨日何時間寝た?」

 「二時間だ」

 「俺は三十分だ。気を抜くと夢の世界に直行だ
  な」

 「お前、大丈夫か?」

 「仕方がないでしょうが、クルーゼ司令がアレ
  なんだから」

俺は、モスクワに向かう途上で、クルーゼ司令に
副総司令に就任するように説得され、「あとは任
せた」と言われて、ここ数日は実質的にこの大所
帯部隊の指揮を執っていた。
さすがに、儀礼的な行事などはサボれないが、他
は手の抜き放題らしく、大好きなモビルスーツ隊
の指揮を執っていているか、訓練のみを行ってい
るらしかった。
なぜ、「らしかった」なのかと言えば、俺は実際
に見ている余裕がなかったからである。

 「クルーゼ司令が、(健康の秘訣は十分な睡眠
  だ)と言っていたぞ」

 「非常に腹の立つ話だな」

ザフト軍のみならず、モビルスーツパイロットは
最低でも六時間の、できれば八時間の睡眠が義務
づけられていたが、俺とコーウェルはここ三日で
、六時間も寝ていない有様であった。
なので、俺もモビルスーツに搭乗しないで、書類
と格闘をする羽目になっていた。
モビルスーツの操縦は一瞬の油断が命取りになる
ので、俺も規則を守って搭乗を控えていたのだ。

 「モビルスーツに乗りたいな」

 「俺も乗りたくなってきた」

俺の「R−ジン」とコーウェルをパイロットに登
録した事がある「インパルス二号機」は、完全に
予備機扱いされて、「ミネルバ」の格納庫に置か
れている有様であった。

 「うう。新型機なのに、可哀想な(R−ジン)
  ・・・」

 「安心しろよ。今日の夕方には、俺のツテで頼
  んでいた、事務系の軍人達が到着するから」

 「本当に良かった。良かった」

そこまで話したところで、大量にあった書類が終
了して、俺達は数時間の睡眠を取れる事になって
いた。
あとは、他の連中がやってくれるそうである。
さすがに、内部にいる連中は、クルーゼ司令の仕
事ぶりに混乱して、俺達に同情の視線を送ってい
るようである。

 「俺は寝るけど、カザマはどうする?」

 「レーザー通信室に行く」

 「それもそうか。唯一の職権乱用だからな」

俺は、この艦に設置されているレーザー通信を使
って、ラクスと子供達に連絡を取る事にした。
地球降下から、今日までメールは送っていたのだ
が、顔を拝むのは久しぶりに事だったのだ。
本当は無理をすれば、通信はよそでも可能だった
のだが、他に遠慮している将兵の事を思うと、自
分だけがそんな事をするわけにいかないと思って
差し控えていたのだ。
だが、今回は頑張っている自分へのご褒美という
事で、通信を行う事にした。
恐ろしいまでの、自分流の判定ではあるが。

 


 「ラクス、サクラ、ヨシヒサ。元気だったかな
  ?」

 「はい。みんな元気ですわ」

 「ヨシヒサ、お父さんだよ」

 「まだ、わかりませんわよ」

俺が通信をクライン邸に繋ぐと、すぐにラクスが
返事を返してきた。
彼女は、いつも通りにヨシヒサを胸に抱いて、ニ
コニコしている。

 「サクラは?」

 「お義母様がミルクを飲ませていますわ」

 「早く、呼んでくれないかな?」

 「あらあら。妻である私よりも、サクラの方が
  大事なのですか?」

ラクスが少し怒ったふりをしながら、俺に文句を
言ってきた。

 「サクラはラクスに似て、美人さんになると思
  うから心配だよな」

 「父親というものは、複雑なのですね」

 「そう。複雑なんだよ」

そんな話をしている内に、母さんがサクラを抱い
てスクリーンに登場する。

 「サクラぁーーー!お父さんですよーーー!」

 「五月蝿いな、バカ息子が。サクラが目を覚ま
  すだろうが」

 「すいません」

ミルクを飲んだサクラは、すでにスヤスヤと寝息
を立てて寝ていて、俺には気が付いてくれないら
しい。

 「サクラ・・・」

 「こいつが、新国連軍の副総司令か。世も末だ
  ね」

 「自分で言うと納得するけど、他人に言われる
  と腹が立つ」

 「問題なくやっているらしいから、いいじゃな
  いの」

母さんの話によると、プラント国内では、俺達の
事が話題になっているらしい。
数年前まで、国家として認められていなかったプ
ラントの軍人が、新国連軍の最高司令官に任命さ
れたのだ。
「これを喜ばずに、何を喜べというのであろう?
」という世論が形成されているらしいが、多分、
後ろで糸を引いているのはラクス達であろう。
 
 「じゃあ、あとは夫婦で話しなさいな。ヨシヒ
  サもお昼寝をしないとね」

母さんは、使用人の女性と二人を抱きかかえて、
スクリーンから外れてしまった。

 「夫婦の会話ね。母さんは好きだよな。そのキ
  ーワード」

 「自分達は若い頃に、会話と理解が足りなかっ
  たばかりに、あなたをコーディネーターにし
  て、孤立させてしまったと言っていました。
  もっと、ちゃんと話し合って決めていたらと
  ・・・」

 「そうか。始めて聞いたな。でも、昔は恨んだ
  りもしたけど、今は全然気にしていないから
  な」

 「そうなのですか?」

 「俺がナチュラルだったら、ラクスと出会えな
  かったかも知れないしね。そうなると、当然
  ヨシヒサとサクラも生まれなかったわけだ。
  だから、俺はもう気にしていないさ」

 「ヨシヒロ」

 「だから、こんなクソみたいな戦争は、早く終
  わらせてプラントに帰るよ。俺の帰る家はそ
  こだけだから」
 
 「お帰りをお待ちしています」

俺とラクスは、スクリーンごしにキスをしてから
通信を終えるのであった。
  
 


 「カザマ、恥ずかしい事をしているな」

俺が通信室を出ると、そこにはフラガ中佐とバジ
ルール大佐がいて、バジルール大佐は顔を赤くし
ていた。

 「夫婦のひと時を覗かないでよ」

 「何が夫婦のひと時なんだか・・・」

 「自分も職権を乱用して、マリューさんに通信
  するんでしょう?」

 「あれ?バレてるよ」

 「捕まった時に、俺の悪行もバラさないで下さ
  いよ」

 「そんな理由で私を呼んだんですか?」

フラガ中佐と一緒にいるバジルール大佐は、何も
知らされていないようだ。 

 「俺はそんなヘマをしない。マリューも、バジ
  ルール大佐とお話がしたいと言っていたから
  呼んだだけだ」

 「それで、本音は?」

 「バジルール大佐が、ノイマン少佐とどこまで
  進んでいるか尋問を行うそうだ」

 「そんな話聞いていませんよ!ただ、自分は親
  友同士久しぶりに、話がしたいと聞いて・・
  ・」

 「親友だからこそ、恋愛話に花が咲くと言って
  いた」

 「本当に、あの人は・・・」

その後、二人は通信室に入り、俺も束の間の仮眠
を取って次の事態に備えるのであった。


        あとがき

また前・後編に分けます。  

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