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▽レス始

「これが私の生きる道!運命編11モスクワの悪夢編(後編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-07-30 02:35/2006-08-02 20:04)
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 「ただいま、お父さん。ヨップは元気にしてい
  るかしら?」

 「ああ。コーディネーターだから、回復が早い
  んだろうな。元気にしているよ」 

少女は、自分の村に戻ってから馬を馬小屋に入れ
、村長である自分の父に帰宅の報告をしてから寝
室に直行した。

 「ヨップ、初めて見る大型のモビルスーツを発
  見したよ」

 「不用意に偵察なんてするな。訓練も受けてい
  ないくせに」

実は、ロシア領内に潜入していたヨップ・フォン
・アラファスは、ガイを逃がした直後に協力を受
けていたオレンブルク基地を壊滅させられて、自
身も重傷を負って倒れて居たところを、この村の
村長の娘であるエカテリーナに助けられていた。
彼女は十八歳で、ブラウン色の髪がよく似合う美
少女であったが、自分達の先祖であるというコサ
ック騎兵にあこがれを抱いていて、馬を巧みに乗
りこなし、銃の腕前も一流であった。
もっとも、ヨップに言わせると、「オリンピック
では入賞するかも知れないが、実際に人を撃った
事はないからな」との事である。

 「私達はコサック騎兵の末裔だから、こういう
  のは得意分野なのよ」

 「旧ソ連時代に滅んだんだろう?」

 「政治体制とコサック騎兵は関係ない。コサッ
  ク騎兵は滅びないわよ」

 「女性はコサック騎兵になれるのか?」

 「女性差別は良くないわよ」

 「子供の癖に、口が減らないお嬢様だな」

 「何よ!その子供に助けられた癖に!」

 「そうだな。感謝していますよ。お嬢様」

 「本当かしら?」

 「お礼にその大型モビルスーツの情報を教えて
  あげよう。名前は(ダウンフォール)で核動
  力搭載機だそうな」

 「へえ。私には理解不能な恐ろしい話ね」

エカテリーナには、モビルスーツの事などはわか
らなかったが、大層な高性能機である事だけは理
解できた。

 「連中の唯一の核動力機である、あの化け物は
  実戦で十分に使える事だけは理解できたな。
  さて、バルトフェルト副総司令に文を送って
  やるか」

 「あれを準備するの?」

 「ああ。そうだ」

 「機密のためとはいえ、恥ずかしい文面よね」

負傷後、行方不明とされていたヨップであったが
、自身の無事をこの村の人間の協力で外部に伝え
、負傷中でベッドから出られない体を押して、諜
報活動を再開していた。
壊滅した情報部の追加の人材を密入国させ、この
村の人達のような、コサック騎兵の末裔達に情報
の収集を依頼していたのだ。
旧ソ連支配下での弾圧にも屈しなかった彼らは、
表面上はエミリア達に従いながら、様々な情報を
流していた。
まさか、エミリア達も、自分達のお膝元にザフト
軍情報部の人間が潜伏しているとは思わなかった
ようだ。
無論、彼らは強大なエミリア達の報復を恐れてい
たので、合法的に収集できる情報のみを集めてヨ
ップに渡し、彼はその情報の解析を行って、結果
をバルトフェルト副総司令宛に送っていた。
そして、その連絡方法はいかにもバルトフェルト
副総司令らしかった。

 「文の用意はできた?レーニンちゃんは今日も
  元気よ」

 「その名前、どうにかならないか?」

 「いいじゃないの。可愛いでしょ」

レーニンちゃんとは伝書鳩の事であり、村長の唯
一の趣味であるらしい。

 「まあ、良いか。これが文だ」

 「ええと、(愛しのエカテリーナ様。私は貴方
  の事を思うと夜も寝られません。あなたのそ
  の綺麗な髪に触れながらあなたを抱きしめた
  い・・・)うわーーー。恥ずかしい」

 「その文の暗号を解くと、ちゃんとした文章に
  なるんだよ。古典的な暗号解読方法ゆえにバ
  レ難いんだ」

 「内容もラブレターにしか見えないしね。しか
  し、私も罪な女よね」

 「世の中にエカテリーナと言う名の女は、多数
  存在する」

 「そうか・・・。そうよね・・・」

 「どうした?急に静かになって?」

 「あのさ。ヨップは戦争が終わったらどうする
  の?」

エカテリーナは、伝書鳩を部屋の窓から放つと、
ヨップに将来の事を尋ねてきた。

 「プラントに戻る事は確実だな。多分、ザフト
  軍も辞める事になると思う。命は助かったが
  、右腕と右足の麻痺が治らないからな。一般
  生活に支障はないが、軍人生活は不可能だ。
  割り増しの退役金と戦傷者手当てを貰って、
  一般の勤め人になると思う。仕事は友人に顔
  の広い男がいるから、彼に頼むとしようかな
  」

 「私が面倒を見てあげようか?普通の生活に慣
  れるには時間が掛かるんでしょう?」

 「それはそうなんだが、そうそうお前に迷惑は
  掛けれらないし、俺は一人でも大丈夫だ」

 「ご家族はいないの?」

 「家族は血のバレンタインで死んだ。父も母も
  妹もだ。それに、俺はこんな仕事をしている
  から独身だしな」

ヨップが自分は独身だと告げると、エカテリーナ
の顔に、わずかに喜びの表情が浮かんだような気
がする。

 「そうなんだ。それなら、私達地球の人間が憎
  くないの?」

 「そう思えれば楽なんだろうが、俺はこんな仕
  事を生業にしているからな。真の首謀者がわ
  かってしまうのだ。首謀者・実行犯で生き残
  ってる連中はあそこにいる。やつらは、負け
  組みに転落したので、指名手配を逃れてエミ
  リア達に合流しているんだ」

 「だから、こんなに重傷でも頑張っているんだ
  」

 「正確な情報がないと戦争はできない。甘い見
  通しが敗北を招く。地味な任務だが、必要な
  仕事なんだ」  

 「そうなんだ。じゃあ、戦後にプラントに連れ
  ていってよ。どんなところか興味があるし」

 「そうだな。部屋は空いているからゆっくりと
  すれば良いさ」

ヨップは世話になったお礼を兼ねて、彼女をプラ
ントに誘う事を軽く決めてしまったのだが、それ
は、彼の人生にとって、非常に重要な出来事を引
き起こしつつあった。

 「お父さぁーーーん!ヨップが、プラントに来
  いだってさ!」

 「本当か?」

エカテリーナが一階の父親に大声で報告すると、
彼は大喜びで二階に駆け上がってきた。
更に、十六歳になる弟までが一緒にあがってくる

 「ヨップさん。娘を嫁に貰ってくれるそうで」

 「はっ!?」

 「ヨップさん、勇気があるなーーー。この近隣
  の村で、姉さんと結婚しようとする男性なん
  て皆無ですよ。女だてらに馬に乗って銃を扱
  うから」

 「えっ!それはどういう・・・?」

 「とにかく、ヨップさんの傷がもう少し癒えた
  ら、婚礼の準備をしないとな。近隣の村に使
  いを出さないと」

 「あの・・・。事情が良く・・・」

 「いやあ、良かった。エカテリーナは、女だて
  らに誰よりも馬や銃が上手いから、コサック
  の末裔である近隣の村の男性が引いてしまっ
  て、結婚が危ぶまれていたんですよ。外国の
  方ならと思ったのですが、ビンゴでしたな」

 「あの・・・。彼女の意思を問うべきだと思い
  ます・・・」

ヨップは今までにない非常事態で我を失いかけて
いたが、そこは多数の修羅場を潜り抜けてきた経
験者であったので、冷静に反撃を試みる事にした

 「エカテリーナは嫌か?」

 「私は大歓迎よ。新婚生活が外国なんて最高よ
  ね」

 「お前、コサックの末裔なんだろう?いいのか
  ?宇宙に上がってしまって」

 「向こうでも馬に乗りたいし、子供にも乗馬を
  教えたいわね。別に、コサック騎兵は、ロシ
  アに定住しなければならない決まりはないし
  」

 「この家の跡取りは、カツコフですから問題は
  ありあせん」

唯一の逃げ道である家族の反対が一切なかったの
で、ヨップは途方に暮れてしまう。

 「ここで諜報活動を行うには、夫婦者の方が疑
  われないって」

 「確かにそうなんだが・・・」

 「私ってそんなに魅力がないのかな・・・?」

エカテリーナは、自信をなくしたのか酷く落ち込
んでしまったが、彼女は標準以上の美人だし、多
少勇ましいと言っても、それは一般人を対象とし
ての事だ。
諜報の世界でとんでもない女を多数見ているヨッ
プにとって、エカテリーナは多少お転婆な、可愛
い少女でしかなかった。 

 「お前は十分に可愛いから、心配するな」

 「ありがとう。ヨップ」

エカテリーナは嬉しかったのか、ヨップに抱きつ
いてきた。
彼女の標準以上の胸が、静養中の自分には辛く感
じる。

 「では、婚礼の準備を始めないと。母さんに料
  理の指揮を執らせないとな。参加人数は、三
  百人を超えそうだな」

 「僕は村のみんなに知らせてくるね」

 「任せたぞ」

 「あれ?もう決定ですか?でも、任務中なのに
  これはまずい・・・」

 「大丈夫よ。今まで通りに、バレないように普
  通に情報を流すからさ」

 「連中の目を欺くには、そこの生活に馴染む事
  です。さあ、早く傷を治して衣装合わせをし
  ましょう。婚礼は我らの伝統に基づいたもの
  になりますから」

既に、ヨップに選択肢は存在せず、二人が婚礼を
行う事は、決定事項であるようだ。 

 「そんな!バカなぁーーー!」

ヨップの叫び声はロシアの大地に鳴り響き、疑問
の声は無視されて、村では婚礼の準備が進むので
あった。 


 


  
(五月十七日、キエフの南五十キロの地域)

ロシア開放作戦「バルバロッサ」が発動されて二
週間の日が経ち、俺達はキエフまであと少しの地
点にまで侵攻していた。
二手に分かれた大西洋連邦軍の部隊は、レニング
ラードを落とし、スカンジナビア王国との補給路
を繋ぐ事に成功し、中央の部隊もビリニュス、オ
ルシャを無血占領して、モスクワ攻略の日も近い
と言われていた。
アスランの危惧した補給路への襲撃も思ったより
も低調で、大西洋連邦軍の将校達には「アスハ一
佐は臆病者だ。小賢しげに騒げは良いというもの
ではない」と息巻く者までいたほどだ。
だが、俺は心配でならなかった。
もし、ここまで俺達を引き込むのが作戦だったら
、大変な事になってしまうからだ。
そして、そのやばい作戦の兆候は頻繁に俺達を襲
撃していた。

 「ヨシヒロさん、また敵の襲撃です。機数は(
  クライシス)が五機です」

「ミネルバ」のブリーフィングルームで待機して
いたシンが、司令室で書類を整理していた俺に報
告を入れてきた。

 「迎撃しろ。今回の担当は誰だ?」

 「リーカさんです」

 「五機なら助けはいらないかな?」

 「念のために、ステラを待機させておきます」

 「そうだな。それでやってくれ」

 「了解です」

小規模の敵の襲撃が頻繁に起こっていたので、俺
はシン達に一般兵士の部下を付けて中隊をいくつ
か創設して、交代で対応に当たらせていた。
シン達は実戦に出てから半年を超えたので、そろ
そろ責任を負わせても良いと思ったのだ。
そんな理由で、俺はクルーゼ総司令に押し付けら
れた司令部の仕事を行いながら、シンをまとめ役
兼報告係にして、緊急時や定期的に俺に意見具申
を行うようにさせていた。
将来、指揮を執るシンに宿題を出していたのだ。

 「しかし、準備不足だよな。あの国力だから、
  表面上はボロが出ていないんだよな。俺達な
  ら大変な事になっていたぜ」

俺は何を言っても無駄だと思ったので、会議の時
に発言しなかったが、連中の作戦案はかなり希望
的観測に満ち溢れていた。
だが、それを俺が言っても「若造のコーディネー
ターが!」と思われて終わりだし、大西洋連邦軍
のハルバートン中将あたりが同じ事を言ったら、
更に聞く耳を持たないであろう。
派閥争いというものは、このようなものなのだ。
昔読んだ小説の中のお話と、全く同じような事に
なっていた。

それに、一口にロシアに侵攻すると言っても、そ
の苦労は並大抵の事ではなかった。
モビルスーツを陸路で移動させるために、多数の
大型特殊車両が有効であったが、その数は大西洋
連邦軍との取り合いで、大きく不足する事になっ
てしまった。
そこで、先遣隊に基地になりそうな平地を確保さ
せ、そこを中継点にしてモビルスーツを定期的に
整備しながら前進する作戦を採っていたのだ。
つまり、俺達の進撃路は点を繋いだものであって
、後方を遮断されたら大変な事になってしまうの
で、ダコスタ副司令をトップに各国の情報、工兵
、憲兵、軍医系の将校を中心に占領地対策班を発
足させ、後方地域への援助や土木関係の補修の手
伝い、医師団の派遣や、治安維持活動の手伝いな
どを行わせて、俺達が孤立しないように住民への
宣撫工作を欠かさずに行っていた。
それでも、俺達の所属する南方軍の進撃速度は、
他の二つの方面軍に比べたらはるかに遅く、その
事で不満を述べている指揮官も存在するようであ
った。
南方軍の総大将は、艦隊総司令の山口海将に代わ
り、クルーゼ総司令にバトンタッチしたのだが、
彼は「ギラ・ドーガ」隊の指揮が楽しいらしく、
俺達に仕事を割り振って、毎日元気に偵察や小競
り合いを行っていた。
そして、俺達を悩ませていたのは、補給と基地確
保速度の影響で、黒海沿岸から伸びに伸びていた
軍勢と、二十四時間ランダムに襲撃をかけてくる
ロシア連邦軍のモビルスーツ隊であった。

 「カザマ君、敵は全滅したわ」

五機のモビルスーツ隊は全滅して、その報告をリ
ーカさんが入れてくる。

 「ごくろうさまです。それで、どうですか?」

 「腕は良いわね。ロシア軍の正規パイロットみ
  たい。でも、五機やそこらで、何をしようと
  言うのかしら?数を揃えればここまで苦戦は
  ・・・」

 「(捨てかまり)かな?」

 「(捨てかまり)?」

 「関が原の合戦で島津義弘が取った策です。数
  人の兵士が槍を地面に立てて座り込み、鉄砲
  を構えて部将を狙い撃ちしてから、その場に
  踏みとどまって最後まで戦うんです。つまり
  、仲間を助けるために、自分を犠牲にしたん
  ですね」

 「彼らがそれをしているの?」

 「五機でも、隊列が長い我々の足は簡単に止め
  られてしまいます。しかも、こう頻繁だと精
  神的疲労も大きいので、進撃が鈍る事になり
  ます。明白な時間稼ぎですね」

 「恐ろしい事を考えるわね」

 「でも、この戦法で足止めをされているのは、
  俺達だけです。特に中央軍は、あと少しでモ
  スクワを占領するそうですよ。郊外に微弱な
  戦力が配置されていたそうですけど、簡単に
  撃破されたそうです」

 「あからさまに怪しいわね」

 「怪しいですけど、どうにもなりません」

このような抵抗を多数排除して、俺達南方軍は、
キエフの占領に成功したのだが、その翌日に衝撃
的な報告が舞い込むのであった。


(翌日午前十時、モスクワ市内中心部)

前日にモスクワを占領する事に成功した、中央軍
を指揮するインソガル大将の機嫌は上々であった

今までは、その用意した戦力に見合う印象的な戦
果をあげられずにいて、おいしいところをザフト
軍や他国に持っていかれる場面が多かったからだ

だが、それはあくまでもマスコミ受けや見た目の
印象だけで、大西洋方面の攻勢を一手に引き受け
、単独で二ヵ所からの上陸作戦を行うなど、戦力
に見合う活躍はしていたのだが、その後の補給路
の確保や治安の維持にもたついて、批判を浴びる
事が多かったからである。
世の中で、批判というものは一番偉い人達に向か
うものなので仕方がない事なのだ。
だが、ロシア共和国の首都を占領し、亡命してい
たり軟禁されていた、旧ロシア連邦共和国の政治
家を大統領府に入れ、正統なロシア共和国を復権
させる宣言を行っている自分達は、一番世間の注
目を集めているであろうと実感できた。

 「やはり、世界一の大国である、大西洋連邦の
  軍はこうあるべきだな」

 「閣下の仰る通りです」

インソガル大将は、接収したクレムリン宮殿を新
国連軍中央方面軍司令部に指定して、そこの総司
令室でロシア風の紅茶を楽しんでいた。
本当は、ヤンキーである自分はコーヒー派なのだ
が、たまには他所の国の飲み物も良いだろうとい
う考えであった。

 「ヨーロッパ開放作戦は、占領は容易であった
  が、その後は拙かったな」

 「そうですね。まさか、参謀達の考えが、あそ
  こまで現実と乖離していたとは」

 「だが、同じ考えを持つ同士達だ。だから、こ
  こまで尻を拭ってやったんだ。ハルバートン
  は優秀だが、考えが違うし使いにくい男だか
  らな」

 「閣下の大統領戦出馬には、役に立ちませんか
  ?」

 「あの役立たずの参謀達の方が、役に立つから
  尻を拭っているんだ。能力以上の地位を求め
  るから軍関係以外の事でも力を貸してくれる
  ものなのさ」

インソガル大将の夢は大統領になる事であった。
世界最強の大西洋連邦大統領は、世界をリードす
る立場になる。
それが彼の持論であり、それで世界は上手くいく
と考えていた。
数年前は、ユーラシア連合と東アジア共和国との
対立が激しかったが、今では、東アジア共和国は
滅亡し、ユーラシア連合も数十年はその地位を回
復できないであろう。
新たに台頭してきた極東連合は、その成立がまも
なく、まだ構成国間の連携が上手くいっていると
は言えなかった。
特に、軍事の分野では、自衛隊と呼ばれる、特殊
な考えの下の創設された軍隊のせいで軍の統合が
遅れ、成立過程は特殊ながら練度・戦力共に最高
なので、海外に展開されている極東連合の戦力の
過半は、自衛隊であるという皮肉な結果になって
いた。
だが、この状況に不満を抱いている他の構成国も
多かったので、この問題が解決するまでは、極東
連合が東アジア共和国並の影響力を発揮する事は
ないと思われる。
多分、数年で解決されてしまうであろうが、その
数年の優位は大西洋連邦にとってありがたいもの
であった。
次に、オーブとプラントは技術力・国力ともに一
流であったが、人口が少なく、共に新興国であっ
たので、その影響力は極東連合よりも下であった

将来は、世界をリードする大国になると予想でき
たのだが、現時点ではまだ大西洋連邦の一人勝ち
と言える状況であった。
つまり、三強の内の二国が脱落した今が、自分達
にとっての正念場であったのだ。
「ここでリーダーシップを取って、世界一の大国
の地位を自他共に認めさせる」これが、インソガ
ル大将の所属する大国派の目的であり、それを成
し遂げた時に、自分は派閥の支援を受けて、大統
領選挙に出馬する事が可能であると考えていた。

 「フランス、ドイツ、イタリア、スペインと、
  大国の解放に寄与したのは、黄色い猿と寄せ
  集めの集団と宇宙の化け物達だからな」

 「ええ、まったくです」

インソガル大将は、資料と共に送られてきたある
数冊の有名な雑誌をデスクの上に放り出した。
そこには、戦場カメラマンによる各国の戦場や、
首都解放の様子が特集されていたのだが、大西洋
連邦の部隊が目立っていたのは、オランダ、ベル
ギー、ポーランドの首都を開放した時の写真だけ
で、大半は観艦式終了後の様子から、朝鮮半島の
動乱や中国大陸の内戦、オーブでの海賊退治の様
子、スエズ運河開放作戦の様子、ジブラルタル基
地占領に活躍するザフト軍、極東連合軍、オーブ
軍の様子が写し出されていた。
そして、極めつけは、パリとベルリンの大統領府
にプラントの国旗を掲げる、黒い「ジン」と数機
の新型モビルスーツであった。
そして、この写真はほとんどの雑誌の表紙に使用
され、大きな反響を呼んでいるらしい。
「(黒い死神)電光石火の奇襲でパリを開放!」
と表紙に大きく掲載されていた。
つまり、これを送ってきた連中の意図は、いつま
でも出し抜かれていないで、もっと目立つ活躍を
しろという事らしい。
先月の末の作戦会議で、下らない戦況レポートが
発表されたが、雑誌社は派手な写真が撮れる戦場
で写真を撮り、それを掲載して販売するものだ。
何故なら、その方が大衆に受けるからであり、マ
スコミ連中は、自身の都合と会社の利益のために
動き、我が軍の意図などは気にしないからだ。

 「後ろからせっ突かれると頭にくるものだな。
  ちゃんと、モスクワを開放して目立っている
  のにまだ不満なのか?」

 「ウラル要塞を派手に落とせって事なんでしょ
  うね。他の国の連中を活躍させるなという事
  なのでしょう」

 「ついでに言うと、バジルール大佐達もだろう
  ?」

 「それは言わぬが花ですな」

インソガル大将はアメリカ大陸生まれで、旧アメ
リカ合衆国から国の中枢にいた純粋なWASPの
白人であった。
大西洋連邦は多民族国家であるが、支配階層は旧
アメリカ合衆国から固定されたままである。
民主主義や人種差別禁止をよく口にしていたが、
この国で大統領になれるのは白人だけであり、彼
らも古い家柄のロゴスに属するような方々の支援
を受けなければ、大統領選挙に出馬する事すら不
可能であった。
現に、大西洋連邦になってからも、有色人種の大
統領がこの国に誕生していない事が、この事実を
証明していた。
そんな事情で、インソガル大将は白人出身者とし
てこの戦乱で活躍し、チャンスを掴むべく努力を
していたのだ。
彼は有能であり、有色人種やコーディネーターに
偏見は持っていたが、それを公の席で口にしたり
態度に表すほど無能ではなかった。
だが、世界をリードするのは自分達の方が効率が
良いと思っていたし、大国派の派閥を利用して成
り上がらないと、大統領になれるかどうか怪しい
ものであったので、彼らに気を使った結果、この
ようなチグハグな動きになってしまうようだ。
本当は参謀を怒鳴りつけて、まともな作戦案を提
示させたいのだが、それもできず、できる限り自
分達で修正して実行するという、非効率な事を行
っていた。

 「戦闘がほとんどなかったのに、補給が厳しい
  な。占領地が点と線だから、警備を慎重にし
  ているせいで、届くのに時間が掛かり過ぎだ
  。思ったよりも、補給路への妨害や襲撃が少
  ないのが唯一の救いか」

 「これでも、南方軍の連中よりはマシだそうで
  す。向こうはモビルスーツを搭載する支援車
  両の不足に泣いていて、中継基地を占領し、
  住民への宣撫工作を行いながら、ゆっくりと
  前進しているそうです。更に、頻繁に敵の妨
  害工作を受けているとか」

 「それでも、キエフを占領する事に成功した。
  クルーゼ司令か、あなどれない男だな」

 「噂によると、彼は仕事を部下に割り振って自
  分は何もしていないそうですが・・・」

 「総司令だから、それで良いのだ。有能な部下
  に一番向いた仕事を割り振り、自分はフリー
  の立場にいて、手際が悪い部分に手を貸す。
  かなり、有能な男らしいな。クルーゼ総司令
  は」

世の中とは不思議なもので、ザフト軍の将兵にし
たら、ただ仕事をサボって部下に押し付けている
だけなのに、よその軍の人間から見ると、そのよ
うに思われているらしかった。

 「更に(砂漠の虎)が副総司令ですし、オーブ
  軍や極東連合軍にも、若くて優秀な将兵が多
  数います。特に、先の会議で疑問を呈したア
  スハ一佐は、モビルスーツのパイロットとし
  ても、指揮官としても優秀な男です。他の参
  謀連中は、若造扱いしていましたが、私はそ
  うは思えません」

彼らは、個人的には有色人種やコーディネーター
を毛嫌いしていたが、その事で相手の力量を見誤
ったりする事はなかった。
彼らがヨーロッパ派遣軍の司令官と参謀長である
事には、それなりの理由があったのだ。

 「そして、あの世代の連中を育て上げた(黒い
  死神)か。何の縁故もないのに、単身でプラ
  ントにあがり、出世してラクス・クラインを
  嫁にした男。この時代では、珍しいくらいの
  立身出世伝だな」

 「そうですね。大西洋連邦軍なら、いくら優秀
  でも大尉になれるかどうか?」

 「我が軍にいたら引き抜いたのにな。部下にし
  てみたい男だ」

 「彼は東洋人でコーディネーターですよ」

 「別に、部下として使う分には影響はない。た
  だ、娘に近づいたら許さないがな」

 「そうですか。ところで、補給の件ですが、い
  かが取り計らいましょうか?」

 「宇宙からの量を増やさせろ。ハルバートンを
  フル稼働でこき使えばいいんだ。マスコミの
  連中は補給部隊なんて気にしないし、要は戦
  場で目立てば良いのだ。マスコミの連中は、
  何かと言うと軍にケチをつける癖に、戦争と
  いうものがわかっていないからな。派手で残
  酷な写真が大好きで、戦火で破壊された家や
  家族を失った子供の写真を撮っただけで、(
  戦争の真実)とか抜かしている」

 「そうですね。その手の写真は大衆の反響が大
  きいですから」

 「我々と一緒だ。気にしないといけない事が多
  くて、無難な事しかしないのだ。本当のプロ
  のジャーナリストが減った証拠だな」

最近では、プロのジャーナリストが減り、スポン
サーなどに気を使わなければならない、サラリー
マンジャーナリストの割合が増えていて、一攫千
金を狙うハゲタカのような連中も増えていた。
彼らは売れる写真を撮り、それを各マスコミに売
りつけているのだ。
当然、刺激的な写真を撮ろうとする記者と、戦場
に行かずに、写真を見て記事を書いている彼らに
、戦場の真実なるものが理解できるわけでなく、 
彼らは自身の生活を守るために、長いものに巻か
れていた。
先の大戦前も、大手マスコミ社の連中は政府にお
もねり、地球連合政府の御用機関として動いてい
て、提灯記事を書いて、たまにバランスを取るた
めに、政府の批判記事を書くような事を行ってい
た。
誰も、アズラエル理事やブルーコスモス強硬派の
批判記事を書かなかったのだ。
当事は、彼らはロゴスと協調関係にあって、批判
はタブーとされたのだ。
それに、余計な事を書いて、彼らの命を受けた暴
漢に襲われたり殺されたりしたら、せっかくの一
流マスコミ社社員としての特権がなくなってしま
うので、そんな事は決してしなかった。
一部の小規模な会社やフリーのジャーナリストや
カメラマンが真実を記事に書いていたが、それは
多数の扇情的な記事に埋もれて、一部の物事を理
解している人間にしか伝わらなかった。
だが、戦後は一転してアズラエル理事の批判を開
始し、自分達が第四の権力として、彼らと戦って
いた事を強調して、自身の正当性をいいわけがま
しく主張していたのだ。
インソガル大将は、そんな連中の影響で「派手な
戦果をあげろ」という本国のバカ軍人達に飽き飽
きしていたが、彼らを全て上手く利用しての大統
領の椅子なので、仕方がないと思っていた。
コープマンはロゴスに取り入り、フレッシュさを
マスコミにアピールして、その椅子を掴んだのだ

あの無能な男にもそれが可能なのだから、自分に
できないはずはない。
そう思って、任務にまい進していた。

 「そう言えば、変わった男がいたな」

 「誰ですか?」

 「名前は忘れてしまったが、フリーの戦場カメ
  ラマンらしい。ノルマンディーから補給路伝
  いに、取材を重ねているようだな。御用記者
  達にはいない、昔堅気の優秀なフリーのジャ
  ーナリストのようだ」

 「そうなのですか?」

 「ああ、そうだ。我々の状態を正確に把握しよ
  うとしている、生意気な男だ」

最近は少なくなったのだが、昔の戦場ジャーナリ
ストが、内戦などを取材する時にチェックしてい
た事は、補給状態のチェックをする事であった。
いくら最新鋭兵器を多数装備していても、補給が
途切れれば、それはただのガラクタに代わってし
まい、補給がしっかりしている旧式兵器装備のゲ
リラに敗北する事が多々あったからだ。

 「(この方はそこまでわかっていて・・・。そ
  んなに、大統領の椅子とは、素晴らしいもの
  なのだろうか?)」

参謀長は、軍人として栄達できれば、それで良し
と考えていたので、インソガル大将の考えが良く
理解できなかったが、彼の心情は良く理解できた

彼は、自身の野望のために自分の考えを貫けなく
なっているらしい。
もし、彼がプラントやオーブの軍人なら、もう少
し自分の思い通りに動けたのであろう。
良くも悪くも大西洋連邦軍は古い組織なのだ。
新しい組織は、存続するために個人の力量に頼ら
ずに済むように努力し、古い組織は、個人の考え
が通りにくいので、すでにゆるやかな滅びに向か
っていて、その改革には恐ろしいほどの手間を必
要とする。
彼は自分がトップに立てば、ここ数年で多くの矛
盾を抱えるようになった、軍の改革が出来ると信
じているらしい。
だが、参謀長に言わせれば、オーブもプラントも
、個人の力量に頼ったかなり危うい組織であると
いう認識を持っていた。
プラント最高評議会議員のお気に入りの人材や、
その子息が、簡単に要職に就いてしまうのはどう
なのだろうか?と思っていたし、オーブも氏族出
身者というだけで、将軍になれてしまうのだ。
幸い、彼らが優秀であるために組織は上手くいっ
ているようだが、もし無能な人間がトップに立て
ば、大変な事になってしまうのだ。
大西洋連邦は大西洋連邦の、プラントはプラント
なりの問題を抱えつつ、この現状に対処している

今は上手くいっていても、将来は未知数である。
そんな事を考えていた参謀長に、衝撃的な報告が
入ってきた。

 「モスクワ郊外の警戒部隊から入電です!巨大
  なMAと、それを護衛するモビルスーツ部隊
  に襲撃されて、部隊は壊滅状態だそうです!
  連中はまっすくに市内の中心部を目指してい
  ます!目標は我々のようです!」

電文を持って入室してきた、情報将校の叫び声に
近い報告が室内に響き渡った。 


(同時刻、モスクワ市内の外円部)

 「(ウィンダム)隊、各個に迎撃せよ!」

突然、モスクワ南東郊外に現れた敵部隊の強襲で
、大西洋連邦軍は大きな混乱に見舞われていた。
警戒部隊をものの数分で撃破した彼らは、中心部
に向かって進撃を開始していて、邪魔をするもの
を分け隔てなく破壊していた。
それは、モビルスーツでも建造物でも市民でも、
一切の差別がなかった。
進路を塞ぐモビルスーツ隊にも、最短距離を進む
のに邪魔な建物にも、避難する市民ごと大量のビ
ームを浴びせかけていた。

 「何なんだ!あの連中は!市民も何もお構いな
  しなのか!」

 「とにかく、市民を非難させる時間を稼げ!」

各地から集まってきた「ウィンダム」隊が、順次
迎撃に向かうが、敵の強力な火力に次々と撃破さ
れていった。

 「あれは、確か(デストロイ)とかいう巨大な
  MAだったよな?」

 「そうだ。スエズでの戦いの報告書に記載され
  ていた。弱点は、後部だ!」

 「(ウィンダム)隊。後部を狙って攻撃を集中
  させろ!」

だが、彼らの命令はかなわず、「デストロイ」に
近づいた「ウィンダム」は、突如現れたハイドラ
グーンに次々に撃破されていった。

 「ハイドラグーンだと!どのモビルスーツに!
  」

襲撃部隊は、まるで楽しむかのように「ウィンダ
ム」隊と交戦している「ディスパイア」隊が二十
機あまりと、「デストロイ」が三機で、「デスト
ロイ」の後ろに、砲等がない巨大な戦車のような
MAが、ホバー推進でゆっくりと進撃してるのが
確認できた。
どうやら、こいつがハイドラグーンを搭載してい
るらしい。

 「あの戦車モドキを撃破しろ!」

だが、そのMAに集中したビーム砲は、機体の周
囲に発生した光波シールドによって簡単に撃破さ
れてしまう。

 「防御も完璧なのか!」

モスクワ東部防衛司令官が、指揮車両の中で冷静
に戦況を分析すると、「デストロイ」三機が容赦
なく前進し、弱点である後部を謎のMAが防衛し
ていた。
だが、周りに展開するモビルスーツ隊は、個々で
は驚異的な技量を発揮しているものの、チームワ
ークは最悪で、たまに勢い余って味方にも攻撃を
仕掛けたり、自爆特攻攻撃のような事を行い、「
ウィンダム」と一緒に爆発している機体すらあっ
た。

 「何という無茶な連中なんだ!あれは軍隊とは
  言えない連中だ!」

 「それだけ厄介な連中という事です。バジルー
  ル大佐の(アークエンジェル)に応援を頼み
  ました。二分、持たせてくれだそうです」

 「そうか。だが、それも無理だな」

東部防衛司令部のある、接収したビルの窓から外
を見ると、目前にビーム砲を発射寸前の「デスト
ロイ」が目視できた。

 「間に合わなかったな」

 「ですね」

司令部の軍人達がそこまで話したところで、「デ
ストロイ」のビームが、東部司令部の入ったビル
を完全に粉砕した。


 「それで、戦況はどうなのだ?」

 「東部司令官のハック少将とその幕僚は全滅で
  す。現在、連中を止める手段はありません」

インソガル大将は、参謀長に戦況の推移を尋ねる
が、状況は思わしくない様子であった。

 「しかし、どこから沸いたんだ?」

 「さあ?モスクワ以東の様子は、わからない事
  だらけですので」

 「とにかく、迎撃だ!フラガ中佐達は何をして
  いる?」

 「現場に到着して戦闘を行っていますが、数の
  差で劣勢を強いられています。ハイドラグー
  ン搭載機が四機のみでは、あの新しい化け物
  に対抗できないそうです」

詳しい戦況が知れるにつれ、新しい戦車モドキの
性能が徐々にわかってきた。
そのデカ物は、飛行もできず機動力も低いのだが
、本体に五十基近いハイドラグーンを装備してい
て、言わば、ハイドラグーンのプラットホームの
ようなMAであるらしい。

 「次々に考えてくれるよな。連中も」

 「フラガ中佐の(ウィンダムハイドラグーン搭
  載タイプ)のハイドラグーン搭載数が十二基
  で、残りの量産機三機が四基ずつの搭載です
  ので、苦戦中だそうです。既に、量産機は二
  機が撃破されてしまいました」

 「せっかく、空間認識能力の低いパイロットで
  も、操作可能なハイドラグーン搭載機を用意
  したのに、数が揃わねば戦力にならんではな
  いか!」

 「生産工場が月ですので、色々とありまして・
  ・・」

 「知っているが、他人に言われると腹が立つな
  」

 「すいません」

 「別に君のせいではないさ」

そう言ってから、インソガル大将が窓の外を見る
と、自分達に巨大な光が向かってきているのが確
認できた。
ビーム砲であると思われるが、その形が真円に近
い事から、それは自分達を直撃するのであろう。
だが、インソガル大将は、それが怖いとは思わず
、「自分が死んだら、誰が指揮を執るのであろう
?」などと、関係ない事を最後の瞬間まで考えて
いた。


(同時刻、「アークエンジェル」艦内)

 「中央軍総司令官のインソガル大将が戦死しま
  した。参謀長のスレーダー中将とその幕僚達
  も絶望的です」

チャンドラ中尉から総司令官戦死の報告をうけた
バジルール大佐の表情は、不機嫌そのものであっ
た。
「アークエンジェル」は、敵部隊との距離を取り
ながら砲撃を繰り返していたのだが、状況が思わ
しくないばかりか、流れ弾で指揮系統までが破壊
されてしまったのだ。

 「敵のビーム砲来ます!」

 「回避!」

バジルール大佐の命令で、副長兼総舵手のノイマ
ン少佐が舵を取り、その驚異的な技量でビーム砲
をかわすが、それだけでは、何の事態の解決にも
なっていなかった。

 「他の駐屯軍からの援軍は?」

 「他の襲撃部隊に備えて待機するだそうです!
  」

 「やっぱりそうか・・・」

バジルール大佐の機嫌は、更に低下してしまう。
インソガル大将は派閥は違ったが、それなりに公
私の区別を付けて行動してくれたのだが、他の地
区の司令部は、協調派と呼ばれている自分達を捨
て駒にする気のようだ。
現状を冷静に分析すると、あの部隊はあきらかに
特攻部隊であるので、自分の部隊を犠牲にしたく
ないのであろう。
我々が犠牲になって、動きを止めるなり鈍らせて
から動こうと考えているらしい。
実に腹の立つ連中である。
自分は、軍人家系の生まれでそれなりに気に掛け
て貰えると思っていたのだが、実はそうでもない
ようであった。

 「バジルール司令、フラガ中佐達を回収して撤
  退しますか?」

 「そうもいくまい。まだ、市民の避難が終わっ
  ていないそうだ。笑われてしまいそうだが、
  軍人の最も重要な任務は市民を守る事だと私
  は思っている。ここは、我々が盾にならない
  と」

操舵席にいるノイマン少佐が撤退を進言するが、
バジルール大佐はそれをきっぱりと否定した。

 「そうですか。最後までお供しますよ」

 「すまないな。ノイマン少佐」

プライベートでは付き合っている二人の雰囲気が
良くなりかけた時に、緊急でレーザー通信が入っ
てくる。

 「迎撃の指揮を執っているのはバジルール大佐
  なのか?」

 「ハルバートン中将ですか?」

以外にも、レーザー通信を入れてきたのは、ハル
バートン中将であった。
しかも、彼のいるところは地球軌道上であるらし
い。

 「そうだ。だが、急いでいるので正確な情報を
  頼む」

 「東部司令部の幕僚は全滅で、他の司令部の連
  中は傍観を決め込んでいますので、現状で指
  揮を執っているのは自分です。戦況は芳しく
  ありません。お預かりした新型モビルスーツ
  も二機を喪失してしまいました。申し訳あり
  ません」

 「別に、謝らなくても良い。追加を降下させる
  から、フラガ中佐に指揮を執らせてくれ。ザ
  フト軍の連中の二番煎じだが、すぐに降ろす
  から暫く耐えて欲しい」

 「了解しました」

 「聞いたか?援軍がくるそうだ。だから、もう
  暫く耐えて欲しい」

バジルール大佐は、自分にも気合を入れるために
、大声で命令を出すのであった。


(十数分前、地球軌道上第八艦隊旗艦「メラネオ
 ス」艦内)

ハルバートン中将が指揮下の第八艦隊を率いて、
地球軌道上にいたのは全くの偶然であった。
大国派と協調派、下らない派閥争いで無駄な対立
を続けている上層部の影響で、補給が細っている
ヨーロッパ派遣軍に補給を回すために、彼は独断
で物資を降ろすためにここにいた。
勿論、処罰されないように、色々と事前に動いて
はいたが。
そんな理由で、ハルバートン中将は地球軌道上に
いて、更に実戦に投入すべく「ウィンダムハイド
ラグーン搭載タイプ」の量産型二十四機をモスク
ワに下ろすべく、準備を整えている最中であった

 「それで、戦況どうなのだ?」

 「インソガル大将と連絡が取れないそうです」

 「戦死したかな?」

 「かも知れません」

 「ならば、幕僚も殲滅か?」

 「でしょうね」

「メラネオス」艦内で、ハルバートン中将と参謀
長のコープマン少将は、まるで長年連れ添った夫
婦のような短い会話を行っていた。
コンビを組んでから三年以上が過ぎ、既に腐れ縁
に近い関係なので、このような会話になってしま
うようだ。

 「新型大気圏降下装備の装着は完了したか?」

 「あと五分だそうです」

 「三分に縮めさせろ!」

 「しかし、バリュートシステムですか?あんな
  風船で大丈夫なのでしょうか?」

 「技術者達は太鼓判を押していたな」

 「私としては、ザフト軍の使っている(フライ
  ングアーマー)の方が良いと思うのですが・
  ・・」

 「あれは高いからな。それに、耐熱性は抜群だ
  そうだし、要は軌道計算を誤らなければ良い
  のだ」

 「そうですか。今準備が終わったそうです」

コープマン少将は、整備班から作業の終了報告を
受けた。
あとは発進して降下するだけだ。

 「そうか。バジルール大佐にレーザー通信を入
  れろ」

ハルバートン中将は救援を告げるべく、バジルー
ル大佐に連絡を取るのであった。


(同時刻、キエフ郊外の駐屯地)

前日にキエフを無事に占領した俺達は、接収した
ホテル内の会議室で今後の作戦を検討していたの
だが、その時に衝撃的な報告が舞い込んでいた。

 「モスクワが無差別攻撃を受けているのですか
  ・・・」

各国の司令官や参謀達が、会議室内で沈痛な表情
をしていたのは、現状で打てる手などありはしな
い事に全員が気がついていたからであった。

 「距離の問題で、今から行っても無駄でしょう
  ね」

 「おい!カザマ!よくもそんな薄情な事が言え
  るな!」

そろそろお腹が目立ち始めていたカガリが、俺に
食って掛かってきた。
カガリは感情的に、俺の発言が許せないらしい。

 「ですが、現状で回す戦力がありません。今に
  して思えば、我々に対する妨害が激しかった
  のは、この攻撃を意図していたのかも知れま
  せんね。我々のモビルスーツ隊は、多数の機
  体がメンテが必要な状態ですから」

俺達の南方軍は、二十四時間頻繁に敵の襲撃があ
ったので、モビルスーツが警戒のためにオーバー
ワーク状態であった。
なので、キエフ占領を機に、機体の本格的な整備
を行っていたので、稼動数は予想を遥かに下回っ
ていたのだ。
そして、俺はその事を公の席なので、カガリに丁
寧な口調で説明をした。

 「(ディスティニー)と(レジェンド)はどう
  なんだ?(スーパーフリーダム)と(ナイト
  ジャスティス)もだ!」

 「報告にあった敵戦力に対抗できるのは、この
  四機ですが、モスクワは遠すぎです。ついた
  頃には、エネルギーが危ない状態になってい
  るでしょう。しかも、向こうでエネルギーを
  補給する手段がありません」

 「(ミネルバ)は?」

 「いくら(ミネルバ)の足が速くても、あれと
  行動を共にしていたら間に合いませんし、モ
  ビルスーツを先行させると、先にエネルギー
  が尽きてしまいます。カガリ中将は、シン達
  に死ねと仰るので?」

 「何もそこまで言ってはいない!」

 「では、どうするおつもりですか?」

俺は可哀想だが、わざと意地悪な質問をカガリに
ぶつけてみた。
彼女は、オーブ軍を統べる立場にいるので、感情
的な発言をされると困ってしまうからだ。     

 「お前はどう思っているんだ!」

 「向こうに任せて、我々は防備を固めます。図
  に乗った敵が、同じような襲撃を掛けて来な
  いとも限りませんので」

 「薄情だな。お前は・・・」

 「ですが、我々に出来る事には限度があります
  。それに、大西洋連邦軍もやられっ放しとい
  う事はないと思います」

 「だが、モスクワの市民に罪は・・・」

 「ないですが、ノコノコ出て行って、キエフが
  襲撃されたらどうします?占領している手前
  、キエフの住民の安全は、我々が守らねばな
  らないのですよ」

 「だが・・・」

カガリが次に言う言葉に詰まっていると、新たな
報告があがってきた。

 「地球軌道上から、二十個以上の光点の降下を
  確認。目標はモスクワを思われます」

 「やはり、手を打ったか」

 「何でわかったんだ?」

 「大西洋連邦軍は大所帯です。色々と気にかけ
  ている方も、いらっしゃるという事ですよ」

俺の言葉に、各国の指揮官達が頷いた。

 「そうか・・・」

カガリは一応納得したようだが、まだ釈然としな
いものを感じているようであった。


(同時刻、フラガ中佐視点)

 「ちくしょう!こんな時に、何でレナ中佐達が
  いないんだよ!」

フラガ中佐は、「ウィンダム」に搭載されたハイ
ドラグーンを十二基全て展開しながら、敵と交戦
していたが、既に半数の部下が戦死しているとい
う状態であった。
現在、特殊対応部隊は「アークエンジェル」一隻
のみで、「ミカエル」とそのモビルスーツ隊を率
いているレナ中佐とジェーン少佐とエドワード中
佐は、北方軍に回されていたのだ。
これは、「ミカエル」に南アメリカ合衆国軍のパ
イロットが混じっている事が原因であると噂され
ていた。
つまり、外国の連中にモスクワ占領の手柄を渡す
事はないと考えたバカ者がいたらしいのだ。
おかげで、フラガ中佐は人生で最大のピンチを迎
える羽目になっていた。
例の戦車モドキの操作する多数のハイドラグーン
に追い込まれていたからだ。
よく見ると、自動操縦のようで多少動きが緩慢な
のだが、数が多いので苦戦を強いられていた。

 「フラガ中佐ぁーーー!」

 「ちっ!これでハイドラグーン部隊は俺だけか
  !」

フラガ中佐の下には、三機の「ウィンダムハイド
ラグーン搭載タイプ」の量産機が配備されていた
が、今最後の一機が撃破されてしまった。
現状では、退却がベストなのだが、そうもいかな
いようだ。 
そして、残りの通常型の「ウィンダム」部隊の損
害も半数を超え、壊滅の危機にあるようであった

 「せっかく、マリューに子供が出来たのに、こ
  こで戦死は勘弁して欲しいよな」

敵の残存戦力は、「ディスパイア」が十機あまり
と、「デストロイ」が二機と、例の大型戦車モド
キが一機であった。
「デストロイ」一機は、死に物狂いでハイドラグ
ーン部隊で撃破したのだが、そのせいで、二機の
味方が落とされてしまっていたので、もう二機を
落とすのは、至難の技であると思われた。

 「限界まで時間は稼いだ!退却を・・・」

フラガ中佐が、退却命令を出そうとした瞬間、上
空に多数に機影が見えてきた。
どうやら、宇宙から降下してきた部隊のようだ。

 「フラガ中佐、追加の(ウィンダムハイドラグ
  ーン搭載タイプ)部隊です。指揮を任せます
  」

上空で飛行している一機の「ウィンダム」から、
援軍に参上した旨の連絡が入ってきたので、全滅
を覚悟していた味方から歓声があがった。

 「ありがたい。全機、敵のハイドラグーンを叩
  き落せ、まずは丸裸にするんだ!」

 「「「「「了解!」」」」」

二十四機の「ウィンダム」が各四基のハイドラグ
ーンを操作して、例の戦車モドキが操作している
ハイドラグーンの撃破を開始した。
今までは数の優位で、自動操縦ゆえの鈍さを補っ
ていたのだが、現状では数で負けているので、次
々に操作可能なハイドラグーンの数が減少してい
った。

 「今だ!」

フラガ中佐は、六基にまで減少した自機のハイド
ラグーンを操作して、無意味に市街地に砲撃を続
けていた「デストロイ」一機を後方から蜂の巣に
した。
それと同時に、もう一機の「デストロイ」も撃破
され、更に残った「ディスパイア」隊も、一機ま
た一機と数を減らしていった。

 「残りはこの戦車モドキか・・・」

フラガ中佐達は、残った戦車モドキに攻撃を開始
したが、強力な光波シールドを展開されて、本体
にダメージが届かない。

 「いつまでも、あんな強力なシールドが張れる
  はずがない!攻撃を続行しろ!」

フラガ中佐の命令で攻撃は続行され、多数のビー
ムが敵の戦車モドキに浴びせられていた。
モスクワ東部を壊滅させ、二つの司令部を壊滅さ
せた部隊の最後の時は目前に迫っていた。


(同時刻、「マウス」コックピット内)

 「さて、あと何分もつのやら」

元々、「マウス」というMAは、決められた地点
をハイドラグーンで防衛するためのシステムで、
既に数機が量産されていて、ウラル要塞に配備さ
れていた。
ホバーで移動可能なのも、防衛地点が変更になっ
ても自機で対処するためであったからだ。
だが、現時点では、恐ろしい速度で残存エネルギ
ー量が減っていたので、既に移動は不可能であっ
た。

 「まあ、薬中の廃棄兵と実験機のガラクタで、
  二人の司令官を殺れたのだから上出来かな?
  インソガル大将も戦死したらしいしな。これ
  で、次の司令官が決まるまでは、時間を稼げ
  るだろう」

「ディスパイア」と「デストロイ」に乗せられて
いたパイロットは、能力を高めるために、薬物を
使用し過ぎて寿命が尽きかけていたり、狂人に近
い状態になっていて、ウラル要塞では使用できな
い連中であった。
廃物利用でこれだけの戦果を得たのであるのだか
ら、これで良しとせねばなるまいと彼は考えてい
たのだ。

 「そろそろエネルギーが尽きるか・・・。我が
  同士はこれで半数が散った。残りの兄弟達よ
  。先に地獄で待っているぞ!」

彼がそこまで口にした瞬間、コックピット内にビ
ームが流れ込んで彼を完全に焼き尽くした。


  


 「ふう。ようやく爆発したか」

フラガ中佐は安堵のため息をついていたが、モス
クワの現状を見る限り、この戦闘は自分達の敗北
であった。
二つの司令部が全滅し、最悪な事に新国連軍ヨー
ロッパ派遣軍最高司令官であるインソガル大将の
戦死で、全軍に動揺が広がっていたからだ。

 「フラガ中佐、我々は、これからどうなるので
  しょう?」

 「さあな。今は生き残れた幸福を噛み締めよう
  ぜ」

 「そうですね」

フラガ中佐は自分の部下にそう語ったが、彼自身
にも、これからどうなるのかはわからなかったの
だ。
今はただ、戦死しなかった喜びを、部下と共に味
わうのみであった。


(その日の夜、キエフ郊外の草原)

 「やれやれ、これからどうなる事やら」

俺は草原に寝転びながら、サクラとヨシヒサの写
真を眺めていた。
モスクワの戦況の報告は既に聞いていたので、こ
れ以上、事態は悪くならないと思ったので気にし
ない事にしたのだ。
たかが、三十機にも満たない敵の攻撃で、モスク
ワに駐屯していた中央軍の四分の一が壊滅して、
総司令が討たれてしまったが、あの戦力をもう一
度差し向ける余裕が敵にあるとは思えないし、差
し向けてきたら、こちらで撃破すれば良いのだ。
そうすれば、ウラル要塞の戦力が減って、かえっ
てこちらには好都合である。

 「あれ?カガリちゃんか?」

視線に誰かの足元が見えたので、見上げるとそこ
にはカガリがいた。

 「どうしたの?」

 「別に・・・」

 「俺に文句を言いに来たんじゃないの?」

 「言いたいが、お前の意見の方が正しかったか
  らな」

 「ああ。援軍の事?」

 「よくわかったな」

 「わかるはずないじゃん。勘だよ勘」

 「えっ、じゃあ、援軍が来なかったら!」

 「損害はもう少し増えただろうけど、大勢に影
  響はないと思うよ。唯一の問題は、次の総司
  令がすぐに決まるかどうかだよね」

 「冷たいんだな」

 「だから、以前から言ってるじゃん。俺達にで
  きる事は、南方軍の損害を少しでも減らして
  勝利する事だって。あんな何百キロも離れた
  連中の責任は持てないし、向こうも迷惑だっ
  て」

 「でも、何の罪もない市民が犠牲になったんだ
  ぞ!」

 「その責任は、中央軍の連中が取るべきだ。俺
  達は、中央軍の連中に(進撃速度が遅い)と
  文句を言われながらも、足元を固めながら進
  撃してきた。おかげで、補給路の襲撃等はほ
  とんどなかったし、前方に現れた連中も、俺
  達の足止めが目的だったらく、今では大人し
  いものだ。おかげで、被害もそんなに出てい
  ない。これは喜ぶべき事なんじゃないの?オ
  ーブのアスハ中将さん」

 「いや・・・。でも・・・」

 「南方の都市や町で、住民に大きな被害は出し
  た?」

 「いや。出していない」

 「じゃあ、上手くやっているからいいじゃない
  の。自分の管轄外の事を無駄に心配する上官
  なんて迷惑でしかないんだよ。カガリちゃん
  が無茶な命令を出して、アスランが無茶をし
  て戦死したら嫌でしょう?」

 「それは嫌だ。アスランには死んで欲しくない
  」

 「だから、カガリちゃんは第一にオーブ軍の事
  を考えれば良いんだよ。俺もザフト軍の事を
  第一に考えているし」

 「そんなものなのか?」

 「俺にできるのはそんな事くらいだね。自分の
  足元の確認ができてから、始めてよその事を
  考えないと」

 「そうか」

 「インソガル大将はそれができなかったから、
  戦死する羽目になったんだよ。自軍の派閥争
  いをよそに持ち込んだ罰だね。ザフト軍も穏
  健派と強硬派にわかれているけど、任務中に
  対立関係を表に出さないようにしているはず
  だ」

 「確かにそうだな」

 「規模が小さいから、割れると弱っちくなるん
  だよね。ザフト軍は」

 「それは、オーブ軍も同じだ」

 「なら、よその事なんぞ気にしなさるなって」

 「わかったよ」

俺達はそんな話をしながら、夜を過ごしたのだが
、翌日に衝撃的な新人事の情報が流れてきた。

 「新国連軍ヨーロッパ派遣軍総司令官にザフト
  軍のラウ・ル・クルーゼ司令を任命する。早
  急に幕僚等を選んでモスクワに着任する事」

この人事がどのような影響を及ぼすのか、それは
まだ誰にもわからなかった。


   

        あとがき

「出番が少ない人を出しておこう!」第二弾です
。 
しかし、SEEDってナチュラルとコーディネー
ターのカップルが皆無ですね。
普通、二者の融和を描く物語なら主要人物に一組
くらいそういう人がいても良いと思うんですけど
、キラとフレイはフレイが死んだし、ミリィとデ
ィアッカは消滅しているし、アスランとカガリは
メイリンが割り込んでいるしで、「何だかな?」
って感じです。
なので、この作品ではナチュラルとコーディネー
ターのカップルを出来るだけ増やしています。

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