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「これが私の生きる道!運命編11モスクワの悪夢編(前編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-07-30 02:32/2006-08-02 19:30)
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(四月十五日、ポーランド首都ワルシャワ近郊)

三月二十五日にパリを開放した俺達は、休む暇も
なく大西洋連邦軍と合流して、ドイツの首都であ
るベルリンを落とし、別働隊の山口海将指揮の極
東連合軍艦隊は、バルトフェルト副総司令指揮下
の部隊とオーブ軍を指揮下におき、トルコの中立
化と黒海への侵入の黙認を取り付けたので、ブル
ガリア、ルーマニアを開放してから、黒海に艦隊
を派遣して、ユーラシア連合軍黒海艦隊の殲滅作
戦を行っていた。
更に、大西洋連邦軍大西洋艦隊は、中立は保って
いたが、最近になって、ユーラシア連合軍に周囲
を封鎖されていたスカンジナビア王国の救援にも
成功していて、海上から物資の輸送路確保にも成
功していた。
これで残る地域は、ロシア共和国のみであったが
、開放された地域は、行政を司る官僚と司法組織
にほとんど被害はなかったのだが、軍人は精鋭部
隊がロシアに移動させられていたか、俺達との戦
いで消耗していてほとんど、組織としての体を成
していなかった。
更に、短期間での急激な軍拡の影響で、各国の国
庫と備蓄資源は底をついていて、多数の技術者や
科学者や熟練工員達が連行されてしまったらしく
、補給と戦力の回復に大きな支障をきたしていた

まさに、ガイの報告書の通りであり、ソフトバー
ジョンの焦土作戦とも言える。
こうして、ヨーロッパの大半が開放されたものの
、国庫が空っぽで財政的には困難な状況が続いて
いたし、いくら卑劣なクーデター政権とはいえど
、初期の頃には人気があり、急に締め付けが厳し
くなったのは、新国連軍とそれらの連中に操られ
ている正統ユーラシア連合政府のせいであるとい
う宣伝工作が功を成したらしく、軍人達は、自由
を勝ち取るためにロシアで敵を討つと意気込んで
いるらしい。
そして、市民達も積極的な協力者とも言えず、新
国連軍で必要な物資等は現地調達を図り、経済を
少しでも活性化させようと努力しているらしいが
、一部で意図的なサボタージュをされたり、モビ
ルスーツを使用しない小規模な爆弾等を使ったテ
ロが起こっていて、その取締りに労力を取られる
という事態になっていた。
勿論、軍人達には高額な報酬が支給されているら
しいので、そのために俺達と戦っている連中もい
るらしいのだが・・・・。

 「シン!前方に(クライシス)が三機見える。
  ルナやステラと共同で落とせ!時間を掛ける
  なよ!」

 「了解です!」

 「「了解!」」

開放した地域の運営を正統ユーラシア連合政府に
委譲してから、前進を続けていた俺たちは、ポー
ランドの首都ワルシャワ郊外で小規模な敵の抵抗
を受けていた。
あからさまな時間稼ぎではあるのだが、放置する
わけにもいかず、前線にいる俺達の部隊で対応す
る事になっていたのだ。

 「いい加減にしつこいんだよ!」

シンが「ディスティニー」のビームソードで「ク
ライシス」を真っ二つに切り裂き、ルナマリアと
ステラが、「インパルス」のビームライフルを発
射して、残り二機の「クライシス」を同時に撃破
する。
敵は相変わらずの技量の低さで、見ていて可哀想
になってくるほどだ。 

 「ヨシヒロさん、倒しましたよ」

 「そうか。憂慮すべき事態だな・・・」

 「どうしてですか?」

俺はある危機感を抱いていたのだが、シンはそれ
に気が付いていないようだ。
というか、他に何人の人が気が付いているのであ
ろうか。
非常に憂慮すべき事態である。

 「こいつらは、あきらかに使い捨ての駒だ。だ
  から、誰にでも簡単に撃破できる。だが、ロ
  シアの奥地で温存されている精鋭達が、新型
  機で手ぐすね引いて俺達を待っていると思う
  と、この状況はまずいんだ。みんな、すっか
  り油断してしまっている」

 「そう言われると、そうかも知れませんね」

 「更に、補給路の確保が出来ていないからな。
  海路は大丈夫だが陸路が駄目だ。小規模なテ
  ロの続発で輸送が遅れたりストップしてしま
  う事が問題なんだ」

新国連軍は、解放した地域の住民のイメージアッ
プを図るために、食料や消耗物資などを現地の企
業に発注して、経済の活性化を図るという古来か
らよく使われていた手段を行っていたのだが、輸
送時に小規模なテロが行われたりして、上手く言
っていないのが実情であるらしい。
最も、そちらはサブで海路を使った輸送路は確保
されているのだが、これからロシアを攻略すると
なると、陸路の確保が最重要になるので、放置す
るわけにもいかなかったのだ。

 「でも、バルトフェルト副総司令が、黒海のオ
  デッサとセヴァストポリとノヴォロシースク
  に攻撃を仕掛けているじゃないですか。後日
  開始されるモスクワ攻略作戦の枝作戦で、占
  領も行うようですし・・・」

 「港は確保しても、現地までの最終輸送は陸路
  だからな。ロシアの大地は広大だし、妨害も
  予想される。現状では、港湾施設の破壊は最
  小限にして黒海艦隊の撃破が最優先かな」

 「じゃあ、手詰まリじゃないですか」

 「テロやゲリラってやつは、発生するかも知れ
  ないという事だけで我々に手間を取らせるか
  らな。おかげで、四月下旬に行う予定だった
  、ウラル要塞攻略作戦は一ヶ月の延期だ。ど
  このバカが考えたスケジュールなのか知らな
  いが、占領後のヨーロッパ本土の治安維持を
  甘くみて、大失敗というわけだな。いくら自
  分達が正義の味方だと思っているからと言っ
  て、ヨーロッパ市民全員がそう思っていると
  は限らないんだ。エミリアを支持する者や、
  支持していなくてもユーラシア連合の講和条
  件を有利にするためにと、あえて俺達に攻撃
  を仕掛ける連中もいる。彼らは俺達の損害を
  増やせば、講和で優位に立てると信じている
  んだ。そして、それを利用して一ヶ月の時を
  稼いだエミリア達がどれだけ戦力を増すか、
  その影響がどう出るのか、全く持って不明だ
  」

ヨーロッパ開放作戦の立案を行ったのは、大西洋
連邦の参謀達なのだが、彼らは新大陸出身者らし
く、自分達は世界秩序を守る正義の軍隊というス
タンスで、占領地の軍人や正統ユーラシア連合政
府の政治家達と接して微妙な摩擦を招き、そこを
エミリア達に突かれているらしい。
歴史的に見て、ヨーロッパ人が世界を制していた
時期もあり、彼らにもプライドというものがある
ので、それを考慮して接すれば良いのに、それが
出来ない連中のようであった。
多分、アルスター外務長官ならばそれが可能なの
だが、彼は「クローンが欲しい」と発言するほど
忙しく、世界各国と宇宙と新国連本部を分単位で
移動しているらしい。
そして、この駄目な参謀達がでしゃばる理由の一
つに、大国派と協調派の勢力争いというものも関
係しているらしかった。
観艦式で現場の将官と多数失った大国派の連中が
、巻き返しを図るべく、ヨーロッパ開放作戦に口
を出しているようであった。
結果は、ご覧の通りに失敗であったが・・・。
次に、作戦が延びたもう一つの理由は、後方支援
体制の強化と、宇宙経由での輸送路の確保のため
であった。
陸路の警備体制の強化は行うが、100%完全に
襲撃を防ぐ事が出来るはずもないので、比較的安
全な宇宙から、物資を降ろしてしまおうという計
画なのだ。

 「確かに、ヨーロッパの大半は取り戻して、残
  りはロシアのみだ。だが、戦力を集中させて
  防御を固めている上に、世界中の戦力が一点
  に集中するとなると、補給路の妨害と強力な
  新兵器が損害を増やすかも知れない・・・。
  まあ、勝ちは確実なんだけどな」

 「厳しいですね」

 「前線で戦っている我々は命は張っているが、
  その手の苦労は少ないからな」

 「クルーゼ総司令の領分ですよね?」

 「あの人は例外だから・・・。というか、お前
  もあと数年すれば、考えなければならないん
  だぞ」

 「えっ!そうなんですか?」

 「俺と同じ歳くらいになれば、(ミネルバ)を
  指揮して戦うくらいの事をしなければならな
  いんだぞ。何しろお前は赤服だからな」  

 「俺が指揮官か・・・。アスカ司令って良い響
  きですね」

 「お前はのん気だな・・・。わかってるのか?
  物凄く大変な事なんだぞ」

 「わかってますよ」

 「本当かね?」

俺は口ではそう言っていたが、あまり心配はして
いなかった。
シンはバカだが、やる時はちゃんとやるし、苦手
な分野をフォローしてくれる友人達が多かったか
らだ。
意外と、人の上に立つのが向いているのかも知れ
なかった。

 「ヨシさん、ワルシャワ周辺の抵抗を鎮圧しま
  した。ワルシャワの大統領府に、フラガ中佐
  達が国旗を掲げたそうです」

「ナイトジャスティス」に搭乗して各部隊を率い
ていたイザークが、俺に報告を入れてきた。

 「ふーん。まあ、今回は譲ったからな。世界平
  和のために、首都を占領する部隊は交代制に
  してさ。今回は定期昇進をしたフラガ中佐へ
  の手土産かな。ああ、レナ中佐もそうだった
  っけ」

フラガ中佐とレナ中佐は、先の大戦時からの功績
や、本来訪れる予定であった定期昇進の影響で、
若くして中佐の地位に就く事になったようだ。
昔は戦闘機などのパイロットが、現在ではモビル
スーツのパイロットの昇進が早いのは世界の常識
である。
正直、戦死率が高いので、そうでなければやって
られない部分もあるのだが。

 「でも、ベルリンはヨシさん達が占領したじゃ
  ないですか」

 「あれは、みんながグズグズしているから、暇
  だった俺達が仕方なく占領したんだよ」

 「本当ですか?」

 「実は独断でやった。エザリア国防委員長への
  手土産だ。彼女は強硬派だが、現実的に動か
  なければならないからな。ザフト軍が戦果を
  積み重ねて、それがプラントで報道されれば
  、それが彼女の支持に繋がり政権基盤が強化
  される。強硬派も無茶な事が言えなくなるわ
  けだ。そして、世界秩序の安定にザフト軍が
  活躍しているという事実で連中のプライドを
  満足させれば、無用な摩擦も起こすまい。ま
  あ、プライドが高すぎても新たな問題が発生
  するけど、それは他人に任せるとするよ」

現実問題として、プラントは他国からの食料の輸
入がなければやっていけなかった。
現在、懸命に自給率の上昇を目指していたが、水
や穀物など、どうにもならない部分も多かったの
だ。
ゆえに、強硬派の不見識な行動と発言を押さえ込
むために、強行派内の派閥争いで現実派を有利に
するべく俺はベルリンで無理をしたのだ。
別にラクスから頼まれたわけではないが、夫婦な
ので何となく理解して、行動をしているつもりで
あった。

 「母上に気を使っていただいて、ありがとうご
  ざいます」

 「別に使っていないさ。今、プラントが割れる
  と大変な事になるからな。俺は愛国者なんだ
  よ。それよりも、クルーゼ司令は何をしてい
  るんだ?」

パリ攻略後に、「ミネルバ」に合流した俺達は、
ベルリン攻略でも活躍したが、その後クルーゼ司
令に「私が指揮を代わろう」と言われてしまい、
「ギラ・ドーガ」部隊を取り上げられてしまった
のだ。
クルーゼ司令は、総司令で人事権も持っていたの
で文句も言えず、俺は再び元の「ミネルバ」隊の
指揮に戻り、シン達と共に戦っていた。  

 「クルーゼ司令なら、(ギラ・ドーガ)の乗り
  心地を試していますよ。何でも、訓練と実戦
  ではモビルスーツの感じが変わるそうなので
  ・・・」

 「(スーパーフリーダム)は?」

 「(ギラ・ドーガ)のパイロットの一人と無理
  やり今回だけ交換したそうです。彼は慣れな
  い(スーパーフリーダム)に四苦八苦してい
  ました」

高性能だが操作性は最悪の「スーパーフリーダム
」を人に押し付け、クルーゼ司令は「ギラ・ドー
ガ」で敵を撃破しまくっていたらしいが、いくら
ベテランのパイロットでも、ハイドラグーンの操
作は困難なので、「スーパーフリーダム」はただ
の遠距離砲撃用のモビルスーツになっていたらし
い。

 「可哀想に。いきなり(スーパーフリーダム)
  なんて・・・」

それでも、いきなりで「スーパーフリーダム」を
そこそこ乗りこなすところが、特一大隊出身者の
凄いところであり、さすがであると言えた。

 「カザマ君、聞こえるかね?次は(R−ジン)
  に乗せてくれたまえ」

 「クルーゼ司令ですか?訓練で何回も乗ってい
  るじゃないですか」

 「実戦で乗りたいのだよ。代わりに、(スーパ
  ーフリーダム)に乗せてあげようではないか
  」

 「別に乗りたくないです。私はハイドラグーン
  を使えませんから」

 「残念ながら決定事項だ。何しろ、私は総司令
  だからな」

確かに総司令なのだが、仕事は分担制になってい
たし、俺が戻るや否や、いきなり「シン達は卒業
だ」と宣言して「ギラ・ドーガ」隊の指揮にのめ
り込んでいたのだ。
「ギラ・ドーガ」隊は、クルーゼ司令の新しい玩
具であるらしい。

 「俺が苦労して選抜して訓練したのに・・・」

 「ヨシさん。考えたら負けって、いつも言って
  いるじゃないですか」

 「それは、そうなんだけどさ・・・」

その一時間後、、ポーランド政府は降伏して外国
に亡命していた自由ポーランド政府の閣僚と政治
家が入れ代わって、ポーランド戦線は終了したの
であった。
ヨーロッパ各国は、1000年以上も各国が小競
り合いを続けていて、戦争による政変なども珍し
くもないので、そういう部分が非常にドライで感
心してしまった。
首脳部は、上にいればいるほど現実が見えてくる
ので、エミリアの命令に素直に従って時を稼ぎ、
開放されたら素直に身を引いてしまったのだ。
一部の国からは彼らの罪を問う声があがっていた
が、クデーターを起こしたのは、フランス系とロ
シア系の軍人達と政治家達であったので、彼らを
戦犯として裁く事は決まっていたが、他の国の軍
人や政治家達の罪は問わない事が決まっていた。
追いつめると、エミリア達に加担してしまうかも
知れないし、クーデター発生当事にエミリア達に
反抗されても助けにも行けなかったので、仕方が
ない部分もあったからだ。
これで、残りはロシア連邦共和国のみになり、戦
いは最終局面を迎えつつあった。


(同時刻、黒海セヴァストポリ沿岸海域)

極東連合軍護衛機動艦隊司令官と新国連軍太平洋
・地中海方面軍最高司令長官である山口海将は、
バルトフェルト副総司令やアスハ中将指揮下のオ
ーブ艦隊、赤道連合軍、大洋州連合軍、西アジア
共和国軍、イスラム連合軍、アフリカ共同体軍、
マダガスカル共和国軍と、多数の国と地域の軍を
指揮して、黒海沿岸の港湾と軍港と都市部を占領
し、ロシア本国への入り口と補給路を確保する作
戦を行っていた。
当然、これだけの国のモビルスーツ隊を乗せてい
る艦隊は、大西洋連邦軍艦隊を凌ぐ艦数であった
が、その40%近い艦数を、特に大型空母を揃え
ていたのは、旧東アジア共和国軍の艦艇を多数所
持していた中国であった。
中国は六隻もの大型空母を派遣して、自国にも二
隻の空母を残している大海洋王国であったが、先
の大戦で失った艦を建造し、モビルスーツを搭載
したところまでは良かったが、自衛隊に比べれば
、お寒くなるようなモビルスーツの性能とパイロ
ットの練度であり、やっと練度を上げてみれば、
内戦で多数のパイロットが引き抜かれて、空母は
置いてきた二隻を除いて空船という有様であった

そこで、黒海へのモビルスーツ輸送に転用する案
が採用され、艦の乗組員は中華連邦共和国軍が運
用し、モビルスーツ隊は各国の部隊が居候をする
という状態になっていた。
そして、この六隻の空母は中国に帰らない事にも
なっていた。
実は、終戦後の締結を目指して、更なる軍縮条約
が話し合われていたのだが、例え空船でも、中国
に八隻の空母を持たせると大変な事になってしま
うので、軍職条約の事前協議で認められた分二隻
を除いて、残りの六隻を空母の所有を認められな
がら、建造する予算のない他国へ格安で売却され
る事になっていたのだ。
東アジア製の艦艇は、大型で丈夫なのだが電子機
器や居住環境や乗り心地が最悪なので、その部分
を極東連合やオーブや大西洋連邦のメーカーが担
当して改造を施すようだ。
それでも、新規に建造するよりも格安であったの
で、引く手数多の状態であるらしい。

ちなみに、軍職条約について説明しておくと、宇
宙と地球上の戦力を国力(GNPとその地域の事
情を加味して)に基づいて算定して(艦艇とモビ
ルスーツがメイン)決定されていた。
水上用の大型空母を例に上げると、大西洋連邦が
六隻の保有が認められ、残りの過剰艦艇は、モス
ボール状態で保管される事が決まっていた。
次に、ユーラシア連合は、大西洋連邦の同数を主
張したが却下され四隻に留まっていたが、戦後に
ユーラシア連合が四隻もの大型空母を運用できる
のか疑問視されていた。
他に、極東連合は五隻の空母の所有を認められた
が日本近海に置いて良いのは、半数までというお
かしな条件が付いていた。
しかも、五隻の半数なので、二隻なのか?三隻な
のか?判断に迷うところである。
これは、「極東連合軍の空母を五隻としたわけで
、日本の空母を五隻と認めたわけではない」と発
言した中華連邦共和国軍からの提案と言われてい
た。
そして、韓国は極東連合の準加盟国である事を逆
手に取って、自国に一隻の空母の配備を勝ち取っ
ていたが、一隻の空母で常に日本近海に二隻の空
母を貼り付けている日本をどうこう出来るわけで
もなく、内戦で疲弊している自国民向けのアピー
ルが狙いと言われていた。
大型空母を維持するお金を、他の事に使えば良い
と思うのだが、他国の方針に口を挟むのも大人気
ないし、何かいちゃもんをつけられても困るので
、石原首相も放置しているらしかった。
そして、赤道連合・大洋州連合は一隻の空母枠を
中古品で補い、西アジア共和国も二隻の枠を大西
洋連邦からの中古品で補う事にして、かの国で生
産されていた大型商船やタンカー改造の改装空母
は、工作船や補給船に改造されてモビルスーツの
搭載能力をなくす事が決められていた。
先の大戦では、安いコストですぐに出来ると好評
価であった改装空母だが、艦載機よりも重いモビ
ルスーツの運用で痛みが速く、費用効率が良いと
は決して言えなくなってきたからだ。
そして、一番の問題は「タケミカヅチ級」二番艦
を就役させたばかりのオーブであったが、人工四
千万人あまりの島国に、大型空母は二隻も不要な
ので、困った事態になったのだが、思わぬ所から
救済の手が差し伸べられた。
一隻の空母枠を持っていたマダガスカル共和国か
ら、売却の打診があったからだ。
実は、プラントに依頼して建造させようと思って
いたのだが、プラントの技術者に空母の建造経験
者がほとんどおらず、かと言って、東アジア共和
国製の中古空母は嫌だという、マダガスカル共和
国軍の意向で、この売却話はトントン拍子に進ん
で、この戦乱終結後に「スサノオ」は、マダガス
カル共和国軍の所属になる事が決まっていた。
最後に、アフリカ共同体とイスラム連合も二隻ず
つの空母枠を貰って、同じく東アジア共和国製の
空母を購入し、南アメリカ合衆国とスカンジナビ
ア王国は、ユーラシア連合から賠償の一環として
供与される空母を運用する事になった。
そして、肝心のプラントは、宇宙用艦艇とモビル
スーツでは譲歩しなかったが、大型潜水艦さえあ
れば空母は不要だと考えていたので、潜水艦の艦
数を調整して空母を持つ事を主張しなかった。
将来的に、アフリカとカーペンタリアの戦力を削
減し、パナマも南アメリカ合衆国軍を主にして、
自分達の戦力を削減する方向で調整が進んでいた
からだ。
戦後、とりあえず、ユーラシア連合領の主要都市
やスエズ運河、ジブラルタル基地に多少の戦力を
配置する事が決まっていたのだが、正直、どの国
も費用がかさんで財政的に厳しくなってきたので
、その時期をなるべく短くしたいのが本音である
ようだ。
先の大戦の影響で建造計画が立てられ、戦後の停
戦と講和の発効後も、「完成していないので、戦
力ではない」と主張して、放置されてきた戦力は
、ここに完全に解体される事が決まった。
大西洋連邦、ユーラシア連合、東アジア共和国は
、この手の艦体を多数所持していて、これがエミ
リアに利用された苦い教訓を持っているので、こ
のような条約になったらしい。
モスボール状態に出来るのは、あくまでも運用さ
れていた、中古艦艇にのみ有効だったからである

なので、このような多数の艦艇の群れは、一生拝
めない可能性もあったのだ。

 「ダコスタ君、トダカ少将と山口海将は何と言
  っているかね?」

 「第四次までの攻撃でオデッサ、ヘルソン、ケ
  ルチ、マウリポリ、ノヴォロシースクに停泊
  していた艦艇は壊滅状態だそうです。ですが
  、肝心のセヴァストポリの要塞群と港湾への
  攻撃は抵抗が激しく、まだ機能を保っていま
  す。なので、第五次攻撃隊は、セヴァストポ
  リの壊滅を重点的に行うとの事です」 

その日の早朝に始まった黒海沿岸都市部に停泊し
ている艦艇の攻撃は、既に四次攻撃まで及んでい
た。
新国連艦隊は、荷揚げに使用する港湾施設の破壊
を最小限にして、上陸時に邪魔になりそうな地上
戦力と、対空火器をあげてくるであろう停泊中の
艦艇への攻撃を最優先し、その半数以上の破壊に
成功していた。

第一次攻撃隊、総隊長  デミテル・ホルスト(
            ザフト軍)
       副総隊長 マック・ハワード三佐
            (オーブ軍)
            イ・ソンユ少佐(大洋
            州連合軍) 

第二次攻撃隊 総隊長  アスラン・アスハ一佐
            (オーブ軍)
       副総隊長 坂井直行三佐(極東連
            合軍)
            ヌン・ソヌイ少佐(赤
            道連合軍)

第三次攻撃隊 総隊長  ラサム・フセイン中佐
            (イスラム連合軍)
       副総隊長 シン・マハル少佐(西
            アジア共和国軍)
            林 遷戎少佐(中華連
            邦共和国軍)

第四次攻撃隊 総隊長  西沢敏行二佐(極東連
            合軍)
       副総隊長 ヒルダ・ハーケン(ザ
            フト軍)
            ビアンゴ・バヌロイ少
            佐(アフリカ共同体軍
            ) 

上記のようなメンバーで攻撃隊が編成され、黒海
沿岸の都市は爆音と破壊音と火炎と煙に包まれ、
双方のモビルスーツ隊が火花を散らして戦ってい
た。
今までのヨーロッパ各国の都市とは違い、ロシア
軍は最重要地域である黒海沿岸に、多数の戦力を
配置していたが、ザフト軍の半数と大西洋連邦軍
を除く、ほとんどの戦力が終結していたので、彼
らに勝ちの目はほとんどないと思われた。
だが、それだけに彼らも必至で、両軍に多数の損
害を出す事になっていた。

 「第四次攻撃隊副総隊長から通信です」

 「回してくれ」

バルトフェルト司令が通信兵に命令を出すと、ザ
フト軍派遣艦隊総旗艦「セントヘレンズ」の艦橋
正面のスクリーンにヒルダ・ハーケンの姿が映し
出された。

 「やあ。状況はどんな感じなんだい?」

 「攻撃目標は粗方片付けたと言いたいところだ
  が、セヴァストポリの要塞が沈黙しないと、
  上陸作戦で多数の損害が出そうだね。第五次
  攻撃隊の主目的はここだって事はわかってい
  るんだろう?」

 「やはり、そこがネックになるか。では、第五
  次攻撃隊の目標は予定通りにそこだな。山口
  海将に意見を上げておこう」

バルトフェルト副総司令とヒルダが状況の確認を
していると、攻撃隊の指揮下に入らず、攻撃隊の
撃ち漏らしや凄腕の連中を専門に相手にしていた
ハイネ達からも連絡が入ってきた。

 「バルトフェルト副総司令、一応有名なエース
  格の連中を数人討ち取りましたよ」

 「へえ。大したものだねえ」

 「(クライシス)のカスタム機だったから、結
  構手ごわかったですよ。これが噂の新型機だ
  ったら、大変な事になりそうですね」

 「それは困ったね」

 「あんた司令官なんだろう?」

ハイネは、バルトフェルト副総司令の他人事のよ
うな発言に、思わずタメ口になってしまった。

 「だから、考えているんだけどね。僕はクルー
  ゼと違って、ちゃんと仕事はする男だから」

 「(あくまでも比較論なんですけどね。あと、
  任務に無用な遊びを入れるし・・・)」

 「(何で、こう立て続けに優秀ながら、アクの
  強い上官ばかりなんだろう?)」

ダコスタ副司令と、最近目立たない潜水艦隊司令
官のバルトス司令は心の中で本音を語りながら、
同時にため息をついていた。

 「それで、第五次の総隊長は誰なんだい?」

 「マダガスカル共和国軍のマリア少将です。直
  衛任務ばかりで退屈だから、代わって欲しい
  との事で・・・。向こうは将官で、名目上な
  がら、マダガスカル共和国軍最高司令官なの
  で断れませんでした・・・」

 「いいんじゃないの?僕も(バイアラン)で出
  るからさ。お相子だよ」

 「えっ!何でバルトフェルト司令が出撃なさる
  のですか?必要ありませんよ!」

 「戦果の確認だよ」

 「偵察をお命じになればよろしいかと」

 「自分の目で見るのが大切なんだよ」

 「本当はどう思っています?」

 「(バイアラン)の実戦テストかな?」

 「・・・・・・。いってらっしゃいませ」

ダコスタは、何を言っても無駄な事がわかってい
たので、半分諦めの口調でバルトフェルト司令を
送り出すのであった。

 「じゃあ、行って来るから。あとはバルトス司
  令とダコスタ君に任せるよ」」

 「(ふう。ようやく仕事を任されたか。この狭
  い潜水艦に指揮官は何人もいらないよな。ま
  あ、ザフト軍には大型水上艦がないから仕方
  がないんだけど)」

個性的な上官に挟まれ、出番が少ないバルトス司
令は、心の中で仕事が出来た喜びをかみ締めるの
であった。


 「うわーーー。花火みたぁーーーい」

第五次攻撃隊の総隊長に無理やり就任したマリア
は、タナカとリサを引き連れてセヴァストポリの
軍港と要塞の上空で指揮を執っていた。
三人の乗機はお馴染みの「リックディアス」であ
ったが、現地で細かな改良等は加えられていて、
一般兵士の機体と比べると、完全にカスタム化さ
れていた。 

 「多数の対空火器とビーム砲が花火ですか・・
  ・」 

 「あくまでも見た目の事よ。もう、タナカ君は
  真面目なんだから」

 「それで、総隊長殿はどう命令を出すの?副総
  隊長殿がお待ちかねだよ」

第五次攻撃隊副総隊長は、マリアのせいで総隊長
から降格した石原二佐と、本来の副総司令である
ハワード三佐であった。

 「もう一人のヨッちゃんとマーちゃんはどう思
  う?」

 「もう一人のヨッちゃんって私の事ですか?」

他国の将官ながら階級も歳も上なので、石原二佐
は丁寧な口調で質問をする。

 「一人目は、カザマ君の事よ」

 「あいつの名前はヨシヒロですものね」

 「そういう事。それで、どう思う?」

 「火器の配置が巧みで死角がありませんね。端
  から虱潰しにしていくしかないと思います」

 「もう一人のヨッちゃん、頭良いね」

 「ありがとうございます」

防衛大学を主席で卒業して、エリートである石原
二佐は、現日本国首相の息子である事も手伝って
、褒められる機会が多かったのだが、ちゃん付け
で名前を呼ばれて褒められた事は、ここ十数年で
初めての事であった。
しかも、悪い気がしない自分に、多少驚いていた
りもした。

 「マーちゃんはどう思う?」

 「えっ!マーちゃんって自分の事ですか?」

マック・ハワードなので、マーちゃんだと思われ
るのだが、そう呼ばれた事は初めてであったので
、多少動揺してしまったのだ。

 「えっと・・・。軍港は荷揚げ設備の保全を行
  わなければならないので、ピンポイント射撃
  能力に長けた部隊を回すのがベストかと思い
  ます」

 「ヨッちゃんの友達はお利口さんが多いわね。
  うん。感心感心」

 「ありがとうございます・・・」

 「それじゃあ、要塞の右側側面はもう一人のヨ
  ッちゃんの担当で左側はマーちゃんの担当ね
  。私は軍港を担当するから」

 「「了解です!」」

二人は、初めて相手にするタイプの上官に戸惑い
ながらも、命令通りに攻撃を開始した。

 「さて、私は軍港の攻撃を始めるとしますか」

マリアは、タナカ少佐とリサ少佐をお供にして、
部隊の先頭に立ち軍港に向けて攻撃を開始した。
通常の狙撃銃では威力が強すぎるので今回は通常
装備のクレイビームバズーカで目標を性格に狙撃
して破壊していく。
このクレイビームバズーカは、「ドム」のバズー
カの発展品で、通常の弾頭とビームの両方を撃て
る優れものであった。

 「リサちゃん、狙いが僅かに反れたよ。クレー
  ンを倒壊させちゃ駄目よ」

 「面目ない。でも、お嬢のように針の穴を通す
  ような射撃は出来ないわよ」

 「確かにそうですね」

 「タナカ君は結構上手じゃないの」

確かに、プロの軍人出身であるタナカ少佐の技量
は大したものであったし、苦手な事を探すのが難
しいくらいであった。

 「器用貧乏なんですよね」

 「いい旦那にはなれそうだけどね」

 「そうよね。この前、ヨッちゃんの赤ちゃんの
  写真を見せて貰ったけど可愛かったな。私も
  欲しいな」

 「えっ!」

急にそんな事を言われて動揺したのか、タナカ少
佐の狙撃は反れて、隣の弾薬倉庫らしきところを
直撃して、周りのクレーンを数機倒壊させた。

 「タナカく〜ん!」

 「すいません!」

 「お詫びに今日は私の部屋に来てね」

 「なっ!」

再び、タナカ少佐の狙撃は反れたが、今度は巧み
に隠蔽されていたビーム砲台を直撃して、その砲
台を使用不能にした。

 「タナカ君、今日お嬢の部屋に行くと、大当た
  りするかもよ」

 「わーい。楽しみだなーーー」

 「作戦中なんですよ。勘弁して下さいよ」

後ろを付いてくる部下達に、この会話は丸聞こえ
なのだが、彼らはまるで聞こえないかのように、
冷静に目標の破壊を行っているようだ。
だが、タナカ少佐自身は、針の筵に座っているよ
うな心境であった。

 「前方にモビルスーツ隊を発見!」

部下の一人から報告が入り、全員の緊張感が更に
増し始める。
あんな会話をしていても全員がプロなので、表情
を変えて敵モビルスーツ隊に注目していた。

 「(ハイペリオン)が三機に(クライシス)が
  二機か・・・。タナカ君とリサちゃんは、(
  クライシス)を落として。私は(ハイペリオ
  ン)を落とす。あとのみんなは所定の作業を
  続行する事!」

 「「「了解!」」」

 「お嬢、三機も大丈夫?」

 「大丈夫よ」

リサの心配をよそに、マリアは正確な射撃で一機
の「ハイペリオン」を瞬時に仕留めた。

 「あの(ハイペリオン)パイロットは未熟だっ
  たわね。次は!」

マリアは残り二機の「ハイペリオン」に射撃を集
中させるが、これは光波シールドで容易に防がれ
てしまった。

 「結構、腕は良いようね。では、格闘戦で行き
  ますか」

マリアは、クレイビームバズーカを捨ててから、
背中に装備しているビームブーメランを投げつけ
て気を引き、以前に使用していた「センプウカス
タム」に装備していた短めの二本の対艦刀を改良
したビームソードを引き抜き、二機の「ハイペリ
オン」に斬りかかった。

 「あら。浅かったわね」

マリアの予想以上に、敵パイロットの腕は良かっ
たらしく、一機の「ハイペリオン」は胴体を切り
払われて爆散したが、もう一機には見事にかわさ
れてしまった。

 「(赤い狙撃手)か・・・」

 「私って有名人?でも、サインをする余裕はな
  いのよ。ごめんね」

 「こんなふざけた女にミハイルとジリノフスキ
  ーが・・・。ふざけんなーーー!」

 「そうね。でも、世の中ってこんなものよ」

マリアは、日頃は見せない冷静な表情と声を発し
ながら、「ハイペリオン」との一騎討ちを開始し
た。
だが、腕の差は歴然であり、多数のフェイントに
付いていけない「ハイペリオン」のパイロットは
、マリアに後方に回り込まれ、コックピットの部
分に無慈悲に二本のビームソードを刺し込まれた

 「そんな・・・。見た目は重モビルスーツなの
  に・・・」

 「悪いわね。これでも修羅場は多数かい潜って
  いるのよ。腕の差ね」

 「やはり、我が国は・・・・・・」

ビームソードが敵パイロットの体を無慈悲に抉っ
ていたので、彼が口を利けたのはそこまでであっ
た。
マリアがビームソードを引き抜くと、「ハイペリ
ン」は落下して爆発する。
そして、タナカ少佐とリサ少佐も一機ずつの「ク
ライシス」を仕留めて戦闘は終了した。

 「あら方破壊して仕留めたようね」

 「そうね。あとは後方の上陸部隊に任せましょ
  うよ」

元々、第四次までの攻撃隊との戦闘で、敵モビル
スーツ隊の残存数は残り僅かだったので、マリア
達が五機のモビルスーツを撃破すると、戦闘は終
了しつつある状態であった。
石原二佐とハワード三佐も、要塞の重要施設と各
種防衛火器破壊に成功していて、要塞からは多数
の爆発と黒煙が上がっていた。

 「これで、今日はお仕事終了っと」

 「本当は色々あるんですけど・・・」

 「私はお飾りだから、そういう事はみんなに任
  せて今夜はお休みなの」

 「なのって・・・」

 「タナカ君、今夜は私の部屋に遊びに来てね」

 「わかりました」

タナカ少佐は、軍人として上官に逆らえないとい
う弱みと、惚れた弱みでマリアに逆らえないとい
う二つの理由で、今夜は素直に部屋に行く事を了
承するのであった。  


 「何か恥ずかしい会話をしているね」

バルトフェルト司令は、マリアの指揮を邪魔しな
いように、第三次攻撃隊と同調して動いていたハ
イネ達の補給を待って合流し、討ち漏らした敵モ
ビルスーツ隊の撃破に勤めていた。 

 「ハイネ。昔、彼女を口説いたんだって?」

 「過去の傷を抉らないで下さいよ」

 「ふーん。フラれたんだ」

 「我が司令ながら情けないよな。カザマ司令を
  見習えよ。あのラクス・クラインを嫁にした
  勇者をだ」

 「神は時に残酷ですから」

 「その髪型が良くないな」

 「体を鍛えろよ」

 「その内、良い人が見つかりますよ」

ハイネは、お馴染みの部下達に連中に色々と言わ
れていたが、それはいつもの事なので無視する事
にした。

 「話を変えるけど、(ガブスレイ)の乗り心地
  はどうだい?」

実は、ハイネは「グフカスタム」を天の声で手放
し、代わりにカザマ司令が乗っていた「ガブスレ
イ」と交換していたのだ。
噂では天の声の主は、ラクス・クラインらしいの
だが・・・。

 「カザマも、良くこんなじゃじゃ馬を乗りこな
  していたよな。まあ、カザマを上回る実力を
  備えた俺には簡単な事だったが」

 「最初の飛行で墜落しかけたじゃないか」

 「神の前で嘘はいけません」

 「コックピットを降りたあとの、あの髪型の乱
  れは感心できなかったな」

 「体を鍛えていれば、あんな事にはならなかっ
  たのに・・・」

 「でも、次からは見事に乗りこなしていました
  よね」

 「ザンギエフ以外は五月蝿いよ!ちょっとは上
  官を立てやがれ!」

ハイネはジャック達を怒鳴りつけるのだが、彼ら
はその程度で凹んだり、反省するような輩ではな
かった。 
色々と癖があるから、各部隊を転々としてハイネ
隊に回されたのだから。

 「それで、(バイアラン)の性能はどうなんで
  す?」

ハイネは即座に気持ちを切り替えて、バルトフェ
ルト司令に新型モビルスーツの乗り心地を尋ねる
事にする。

 「悪くないよ。でも、固定武装のビーム砲以外
  にビームサーベルしか使えないのが欠点だね
  。しかも、指が三本しかないからビームライ
  フルの引き金が引けなくて装備の追加も出来
  ないんだ。まあ、辛うじてビームサーベルは
  使えるし、装備もされているけどね。誰が開
  発したのかは知らないけど、量産機としての
  採用は不可能だったろうね」 

 「なるほど。そうなんですか」

「バイアラン」は、機体の性能を追求するあまり
、本来ならば、マニピュレーターで持つ武装まで
を廃し、両腕に内臓したビーム砲のみを固定武装
としていたので、火力不足という欠点を抱えてい
た。
あとはビームサーベルが二本装備されていたのだ
が、指が三本しかないので、これも使いにくい事
このうえなかったのだ。
だが、モビルスーツとしての機動性はかなりのも
のであったが。 

 「さて、そろそろ上陸開始かな?」

その後、丸一日をかけて黒海沿岸の都市部は占領
されて、新国連軍の対ロシア共和国侵攻用の基地
としての整備が開始された。
こうして、ロシア連邦共和国はわき腹を抉られて
滅亡へのカウントダウンを開始するのであった。


(四月二十五日、ポーランド首都ワルシャワ)

新国連軍の第一次目標の攻略が完了し、残るはロ
シア連邦本土のみという状況になったところで、
各国の軍司令官が集合して、次期作戦案の確認と
意見を発言できる場を設けた方が良いだろうとい
う意見があがり、ポーランドの首都であるワルシ
ャワで、大規模な作戦会議が行われる事になって
いた。
参加者は各国の司令官達と幕僚達で、俺もクルー
ゼ総司令に引きずれらて出席する羽目になってい
た。

 「私はいいですよ」

 「君も幹部なのだよ。忘れたのかね?」

そう言えば、自分も副総司令の一人ではあったの
だが、格では、バルトフェルト副総司令やバルト
ス司令の下に位置していたので、すっかりと忘れ
ていたのだ。

 「ですが、二十二歳の若造が出るのは良くない
  ですよ。各国の老将軍達の反感を買う恐れが
  あります」

 「私もまだ三十歳だから、連中に比べれば若造
  に属するし、プラントとザフト軍は若い組織
  だから仕方があるまい。それに、アスランは
  まだ十代だしアスハ中将も同い年だぞ。」

 「わかりましたよ。それで、他の出席者は?」

 「バルトス司令とアーサー副司令とコーウェル
  のみだ。我々には、多数の参謀や将軍は存在
  しないからな。員数合わせは、大西洋連邦軍
  と正統ユーラシア連合軍に任せようではない
  か」

 「バルトフェルト副総司令は欠席ですか?」

 「黒海沿岸の施設を壊し過ぎて、再建が急がし
  いそうだ」

 「わかりました」

俺はジジイと顔を合わせて、嬉しくなるような趣
味はないので、面倒臭そうに会場に入り、席に座
った。
案の上、会議場には多数のオッサンやジジイの将
軍が多数いて挨拶をかわしているようだ。
そして、場違いに若い俺を見ながら何かを話し合
っていた。

 「だから、嫌なんだよね」

 「それは同感だな」

 「俺もですよ」

 「何で僕が出席しなければならないのでしょう
  ・・・?」

俺とクルーゼ司令の後ろから、聞きなれた声が聞
こえたので振り返ると、そこにはアスランとキラ
がいたが、顔に「出席したくない」と書いてある
ような表情をしていた。

 「アスランはともかく、キラも出席なのか?」

 「カザマ技術一佐に押し付けられました。自分
  は正規の軍人じゃないから、作戦の事を聞か
  れてもわからないそうです。僕だってわから
  ないですけどね」

 「カガリちゃんは?」

 「あんなに元気なのに、悪阻だと言ってサボリ
  ました」

トップが会議をサボるなんて前代未聞なのだが、
多分、大勢に影響はないので黙っている事にした
。 

 「オーブ軍って大丈夫?」

 「さあ、大丈夫なんじゃないですか」

俺が心配になって会議場を見渡すと、オーブ軍の
佐官クラスの軍人が数人見えたが、将官と言えば
ハミル准将くらいで、オーブ軍も参加者が少ない
ようだ。
更に言えば、黒海方面で奮戦していた国の軍から
の出席者が少なかった。
陥落させた後の、基地・軍港等の整備と警備が忙
しいのであたりまえなのだが、俺には大西洋連邦
軍の連中が、それを狙っているようにしか思えな
かった。

 「極東連合軍も、加来海将補と佐官クラスのみ
  か・・・。石原二佐達も忙しいようだからな
  」

 「うちも、ハワード三佐とホー三佐とアサギは
  欠席ですよ。ここに集めて、万が一の事があ
  ったら大変ですから」

 「どうせ、出席しても召使扱いで気を悪くする
  だろうな」

三佐で少佐相当の男二人と、一尉で大尉相当のア
サギでは発言すらさせて貰えずに、下手をすると
雑用でもさせられかねなかったからだ。

 「よそも同じような感じだが、大西洋連邦軍の
  参加者は多いな。会議で主導権を取りたいの
  だろうな」

 「正統ユーラシア連合軍の連中は、大西洋連邦
  軍の意図に気が付いて参加者を増やしたか。
  だが、現時点では、戦力が少ないから発言権
  を持てるかどうか・・・」

正統ユーラシア連合軍は、スエズで降伏した戦力
や、ヨーロッパ開放作戦に伴って降伏したり、ロ
シアに行かなかった連中を集めて、どうにかそれ
なりの規模を保っていたが、数の多い新国連軍と
の戦闘で多数の死傷者を出していて、その練度は
戦前に比べるとに大幅に低下していた。
特に、モビルスーツパイロットの不足と練度の低
下は深刻で、戦後のユーラシア連合軍の凋落は必
至であるといえた。
何しろ、戦力を立て直す資金や資材がないのだか
ら。
新国連との取り決めで、第一に経済の復興を、第
二に損害を与えた他国への賠償を優先するとなっ
ていて、その返済期限などを巡って、水面下では
熾烈な交渉が繰り返されているようだ。

 「早く(タケミカヅチ)に帰りたいな・・・」

俺とクルーゼ総司令とアスランが会話を続けてい
る横で、キラは一人帰りたがっているようであっ
た。

 「お前も二佐なんだから、責任が伴うんだ。あ
  きらめろよ」

 「それはわかっているんですけど。ヨシヒロさ
  んがお子さんの映像を送るものだから、カザ
  マ技術一佐が、暇さえあればそれを眺めてい
  て仕事にならないんですよ。おかげで、僕は
  またオーバーワークなんです」

どうやら、親父は仕事をキラに押し付けて、サク
ラとヨシヒサの映像を一日中眺めているらしい。
実に困った親父である。
そして、それは仕事をちゃんとこなしてしまうキ
ラにも原因があった。
いくら親父でも、仕事が滞るようならサボったり
しないからだ。

 「よう!若者諸君!元気にしていたかな?」

俺達が会話を続けていると、更に聞きなれた声が
聞こえてきたのでそちらを振り向くと、フラガ中
佐とレナ中佐とエドワード中佐がそこに立ってい
た。

 「フラガ少佐とレナ少佐じゃなかった。中佐に
  昇進したんですよね。おめでとうございます
  」

 「別におめでたくないよ。おかげで、こんな暇
  な会議に出席しなきゃならないんだから」

 「そうね。新米中佐の私達なんて、末席で員数
  合わせが精々なのに」

 「南アメリカ合衆国軍は参加人数が少ないから
  、参加する俺の箔をつけるために、臨時で昇
  進させるそうだ。まあ、それだけで良しとす
  るかな」

エドワード中佐は、昇進できた事を素直に喜んで
いるようだ。
多分、彼の事だから給料と年金の額があがるのが
嬉しいのであろう。
結婚するとなると、色々と物入りで大変そうだ。

 「なるほどね。確かに、参加者は最低でも中佐
  みたいだね」

会場には、沢山の勲章をつけた中年や老人の将軍
や大佐・中佐達が多数いて、例外的にいる少佐や
尉官クラスの若い将校は、雑用のような仕事を仰
せつかって会場を走り回っていた。
その中で、平均年齢が低い俺達とオーブ組はかな
り浮いているようだ。 

 「少佐なら、現場の仕事が忙しいと言って断れ
  たのにな。ジェーン大尉も少佐に昇進したん
  だけど、(アークエンジェル)と(ミカエル
  )のモビルスーツ隊の指揮を任せて置いてき
  たんだ。あーーー、彼女が羨ましい」

 「フラガ中佐は、末席で寝ていればいいんでし
  ょうけど、俺達なんて、ザフト軍の代表だか
  ら発言を求められるんですよ。その方が辛い
  ですって」

 「言いたい放題言ってやれよ。どうせ、現場の
  苦労もわからない小悪党ばかりなんだから。
  前線に出ない癖に、自分達で主導権を握ろう
  と必死なんだぜ」

フラガ中佐の発言には、大分棘があるように思え
た。
いつの時代でも、現場と上層部の意見の相違とい
うものは存在するらしい。

 「フラガ中佐、聞こえてるわよ」

 「別に構わないさ。クビに出来るものならして
  みろってんだ」

 「随分、荒れてますね」

 「机上の空論でヨーロッパに上陸して、エミリ
  アにしてやられたからな。参謀なら、もう少
  し頭を使えってんだ!」

フラガ中佐達の話を総合すると、大西洋連邦本国
での軍内部に派閥構成に大きな変化がおこり、多
数の参謀が大国派という大西洋連邦至上主義の連
中に代わっていまい、彼らの見た目や印象重視の
作戦案が採用された結果が、ヨーロッパ本土の混
乱に繋がっているとの事であった。
見た目の軍備は十分過ぎるほど整えたのだが、テ
ロやゲリラ対策や占領地での軍政に不備があり、
補給路がたまに寸断される事態が発生し、大軍を
擁している大西洋連邦軍の上陸後の戦果はいまい
ちであった。
正直、小回りがきくバジルール大佐指揮下の特殊
対応部隊の活躍の方が目立っていたくらいだ。
だが、彼らにすればバジルール大佐達は、ジーク
マイヤー大将やハルバートン中将が属する協調派
の将校なので、危機感を抱き今回の会議の開催に
繋がったらしい。

 「というわけで、事態は多少は好転しているけ
  ど、何も解決していなとも言えるわ。今回の
  会議が実りのあるものである事を祈るしかな
  いわね」

 「なるほど。重要な事がわかりました」

 「何が重要なの?」

 「レナ中佐が、独身のまま中佐にまでなってし
  まった事です」

俺が軽いジョークを言った直後、会議場内にビン
タの音が響き渡った・・・。


 「痛いよーーー。本気でぶたれた。軽いジョー
  クだったのに」

 「あれは禁句だと思うのだが・・・」

俺はクルーゼ司令に注意されながら、椅子に座っ
て机の上に置かれた水を飲んでいたのだが、頬に
は真っ赤なモミジができていて、まだヒリヒリと
していた。
クルーゼ司令は、前回、余計な事を言って説教さ
れた過去の経験を生かして俺に注意を促している
ようだ。
そして、レナ少佐のビンタは、プロの軍人でもか
わせないほどの恐ろしいスピードのもので、俺は
思わず感心してしまった。
更に、その様子を見ていた他国の将官達の方が、
レナ少佐を畏敬の目で見ているように見える。

 「まずいわ・・・。(黒い死神)にビンタをし
  た噂が広がったら、ますます男が寄り付かな
  くなる・・・」

 「レナ中佐は美人なんだけどね。どうして、男
  運がないんだろうね」

 「大きなお世話よ」

 「ジェーンがいなければ口説いたんだけどね」

 「お前は黙れ!」

 「はい・・・」

以前に思わせぶりな口調で、レナ中佐を本気にし
かけたエドワード中佐は、レナ中佐に凄まれて借
りてきた猫のように大人しくなった。

 「そのたまに出る凄みが(乱れ桜)たる所以か
  ・・・」

レナ中佐は美人で日頃はハキハキしているが、た
まに色っぽいところを見せるので、数年前は若い
パイロット達に大人気であったし、教官を務めて
いた頃には、訓練生に本気で告白された事も何度
もあったのだが、何かの歯車が狂って、ここ二〜
三年ほどは男運に恵まれていなかった。 

 「良い男を捕虜にして拘束するんだけど、私が
  面倒を見ているうちに、二人の間に恋が始ま
  って・・・。なんていいわね」

 「何で、士官学校を優秀な成績で出ている癖に
  、計算が苦手なんだろうね。そんな出来事、
  漫画でもありえないよ・・・」

レナ中佐がありえない妄想にうつつを抜かしてい
る横で、フラガ中佐は盛大にため息をつくのであ
った。


 「あれ?ガイじゃないか」

もう数分で会議が始まろうかという時に、ガイが
旧東アジア共和国軍の軍服に身を包んで、数人の
佐官クラスの将校を引き連れて登場した。
以前に、彼に仕事を頼んだ事がある各国の将校か
ら驚きの声があがる。
中華連邦共和国の軍服は、東アジア共和国軍のお
下がりで、階級章や勲章のみ新調したようだ。
何でも、経済政策優先で軍事費を大幅に節約する
という噂であった。

 「カザマか・・・」

 「何してるんだ?」

 「仕事だ。中華連邦共和国軍親衛モビルスーツ
  師団長ムラクモ・ガイ少将だ」

 「出世したね」

 「あくまでも短期間だ。それと後ろにいるのは
  、少佐待遇で雇われたイライジャ・キールと
  、大佐待遇の情報将校として雇われたリード
  ・ウェラーだ」

 「よろしく」

 「また軍人に戻っちまったよ」

しかし、サーペント・テールの連中をまとめて雇
うなんて、中国は人材難なのだろうか?
しかも、これほどの大抜擢は、中国が乱世ゆえな
のだろう。

 「あれ?風花ちゃんはどうしたの?あと、お母
  さんがいるんでしょう?俺は会った事ないけ
  ど」

 「ロレッタと風花は、ジブラルタルで待機して
  いる。これから、ロシア領内は地獄になるん
  だ。女子供は連れていけない。占領した地域
  でも、いつゲリラが襲ってくるかわからない
  のだから・・・」

 「やはり、ここまで引きずり込んだのはエミリ
  アの策か」

 「ああ、そうだ。我々は補給路の確保に失敗し
  た地点で、ロシアの大地で屍を晒す事になる
  。奥に進んでいればいるほど生還率が低くな
  るんだ。まあ、補給が確保されていれば心配
  ないがな」

 「それを見極めるために、今回の会議は重要だ
  な」

 「そういう事だ」

そこまで話したところで会議が始まり、司会進行
役の若い少佐が、観艦式の事件から今までの戦況
の推移を説明し始めた。

 「我らは二個艦隊を壊滅させられながらも、戦
  死したノース中将の機転により核弾頭の破壊
  に成功し、反旗を翻したクーデター艦隊の殲
  滅に成功したのであります」

 「お前ら何もしてないじゃんか」

 「フラガ中佐達の救援を待っていただけだよな
  」

彼らは西洋人らしからぬ、はっきりとしない文法
で、自分達は新国連軍の一員で、敵は新国連軍構
成国の軍によって撃破されたのだから、一番戦力
を出したうえに、一番犠牲を出した我々の貢献度
は大きいと語っているようであった。

 「次に南米の治安混乱に陥れたゲリラ達の討伐
  に力を発揮し・・・」

次に、俺達の朝鮮半島と中国大陸での苦労を簡単
に説明して、自分達の南米での功績を大きく称え
ていた。
更に、イギリスの脱落に尽力した外務省の功績を
称え、ユーラシア連合クーデター政権軍指揮下の
大西洋艦隊を撃破し、ヨーロッパ各国を解放した
中心的存在であると自分達を褒め称える表現が出
るに及び、他国の指揮官達からシラケた表情が出
始めた。
現に、俺達も退屈でしょうがない。

 「報告は、客観的に簡潔にが基本なんですけど
  ね」

 「教えてあげたらどうだね?」

 「クルーゼ司令も口が悪いですね」

その後、「質問はありませんか?」と言われたの
だが、そんなものは誰にもなかったので、第二次
目標の説明が行われた。

 「一週間後に開始される第二次侵攻作戦は、(
  バルバロッサ)と命名されました。ワルシャ
  ワから大西洋連邦軍主体の軍勢が二派に分か
  れて、レニングラードとモスクワを陥落させ
  て、現地に自由ロシア連邦共和国を樹立させ
  ます。今まで、我々と共闘していた「ミネル
  バ」以下のザフト軍の方々は、黒海沿岸を確
  保している各国の軍勢と協力してキエフを落
  として下さい」

正面のスクリーンで、侵攻目標を説明し終わった
瞬間、各国の指揮官達からざわめきが起こり始め
た。
簡単に言うと、「目立つ目標は自分達で落とすか
ら、お前達は大人しく端っこを前進していろ!」
と言う事らしい。
そして、その傲慢な説明に、プライドの高い他国
の軍人達が腹が立て始めた。

 「クルーゼ司令」

 「何かな?」

 「楽で良かったですね」

 「ああ。そうだな」

それだけを話すと、俺達は腕を組んだまま目を閉
じてしまう。

 「おい!それで良いのか?」

中華連邦共和国軍人として出席していたガイは、
俺を揺り起こしながら声を荒げていた。

 「ガイ、現地の状況を見てきたんだろう?」

 「ああ」

 「あのザルのような作戦で、大丈夫だと思うか
  ?」

 「いや、連中は領内を自由に動けるからな。ス
  エズに出現した(デストロイ)や巨大MA部
  隊に奇襲でもされたら・・・」

 「そうだ。大きな損害を受ける。だから、俺達
  はまとまって粛々と前進するわけだ。欲を張
  っても、全てを手に入れられる保障はないし
  、俺達も損害を出したくないからな。連中が
  立候補したんだし、大損害を受けても自分達
  のせいだからな」 

 「それもそうか」

だが、収まりのつかない奴がいたようで、司会者
の説明が終わった瞬間に、手をあげた軍人がいた

何を隠そう、そいつは俺達の隣にいたアスラン・
アスハ(婿入りしたから)一佐その人であったの
だ。

 「質問があります。大西洋連邦軍は二手に分か
  れて、モスクワとレニングラードを目指すそ
  うですが、補給路の確保は大丈夫なのですか
  ?それと、現地で発生すると予想させるゲリ
  ラやテロ対策もです」

 「あーーー。アスハ一佐だったかな?その対策
  は完璧だよ。補給も不足分は宇宙から降ろし
  てもらうからな」

アスランの杞憂を一人の大国派と思われる将軍が
、「心配しすぎだ」と言わんばかりの態度で一蹴
する。
実は、プラント前国防委員長の息子で、アスハ家
に婿に入った彼を知らないはずがないのだが、十
代で大佐相当の地位に就き、エリート街道を進ん
でいるアスランを「親の七光り」扱いして軽蔑し
ているようなのだ。
確かに、それも外れてはいないが、えこ贔屓を一
切なしで、先の大戦で常に前線に立ち続けたアス
ランと、後方で適当な作戦を立てて、戦死の心配
もなかった彼らとを一緒にしたら、アスランが可
哀想だ。
彼は地位に伴う責任をちゃんと果たしていたのだ
から。

 「補給路の割り振りを見ますと、地上が主で宇
  宙が従となっているようですが、宇宙での海
  賊の暗躍もほとんどなくなったようなので、
  宇宙からの輸送を増やされてはいかがですか
  ?」

 「宇宙から水や食料の補給は無理だからな。出
  来ない事はないが、民生用が優先で量を集め
  られない可能性がある」

 「月の宇宙軍基地から、モビルスーツの部品な
  どを降ろされてはいかがですか?そうすれば
  、地上の補給路の負担も減りますし、敵の輸
  送路襲撃の成果を減らす事にもなります」

つまり、アスランは食料と水は集中して陸路から
補給し、その他のものを宇宙から降ろせと忠告し
ていたのだ。
もし、陸路が寸断されたら、緊急で食料と水を降
ろせば良いと思っているようだ。

 「アスハ少将、君はまだ若いな。作戦が直線的
  過ぎる」

 「はあ?」

アスランは意味がよくわからなかったようだが、
俺には「若造が!他国の事に口を出すんじゃねえ
!」と言っているように感じた。
つまり、宇宙にいるジークマイヤー大将とハルバ
ートン中将に借りを作りたくないのだ。
そうでなくとも、観艦式の惨劇のあとで、フラガ
中佐達に助けられた事を恥だと思っていたらしい
のだから。

 「とにかく、分担分の作戦は確実にこなすから
  、心配は無用という事だ。他に質問は?」

こうして、アスランの意見は退けられ、作戦会議
は彼らの思惑通りに進んだのだが、それが彼らの
幸せに繋がるのかは、現時点ではまだわからなっ
た。


(同時刻、ウラル要塞内エミリアの個室内)

 「そう。案の定、大西洋連邦軍は二つに割れた
  のね」

ワルシャワで行われていた作戦会議の内容は、エ
ミリア達に筒抜けであった。
ヨーロッパ各地に残留している諜報員が、反体制
派の連中と結託して監視を強化していたからであ
り、反体制派の連中は、襲撃をかけて彼らの抹殺
を提案したのだが、せっかく二つに割れているも
のを、「テロ行為を許すまじ!」という気持ちで
結託させてしまうのは良策とは言えないので、監
視のみに留めていたのだ。

 「本国の参謀連中とヨーロッパ派遣軍の総司令
  官であるインソガル大将の所属する大国派と
  、宇宙軍を統べるジークマイヤー大将とハル
  バートン中将の所属する協調派の下らない派
  閥争いか。バカみたいよね。ジークマイヤー
  大将は大人だから、宇宙から補給物資を降ろ
  す準備に余念がないけど、インソガル大将は
  、自前でどうにかしたいらしいわね。ヨーロ
  ッパでの警戒レベルが急激に上昇しているわ
  」

 「ですが、やり過ぎです。誤認逮捕なども多く
  、ヨーロッパ市民に反感を持たれています」

この個室内には、ミシェル、アラファス、ハウン
、クロカワがいて実質上の最高幹部会議とも言え
る顔ぶれであった。

 「ヨーロッパ市民達にしたら、新大陸の野蛮人
  でしょうからね。でも、バカな連中よね。勝
  てると思ったら下らない仲間割れなんて」

 「大国ゆえの傲慢ですね」

 「そこを突かれて、勝てる相手に負けたのです
  からね。プラントは技術・資源大国とはいえ
  人口比や国力ではるかに劣り、モビルスーツ
  とコーディネーターの質で戦争を戦っていま
  したからね。非プラント理事国の不満を放置
  して、対地球連合包囲網を形成されてしまっ
  た罪は大きいわね」

 「そうですね。普通に耐えて戦っていれば、勝
  てた戦争を落としてしまったのですから」

 「ムルタの行動は無駄や失敗も多かったけど、
  戦略的には正しかったわ。それを一方的に糾
  弾して罪を擦り付けるなんて・・・。大国派
  は、ムルタの考えをデットコピーしているだ
  け・・・」

 「そうですね。現状では、戦争で相手を従わせ
  る戦略はコストが掛かって愚かですから、国
  力と強大な軍隊で他国を威圧して、自国の権
  益を確保する考えですからね。月とプラント
  を制して、資源で各国を従わせるアズラエル
  理事の戦略の方が、正しかったのかも知れま
  せん。戦争だって、準備している国に資源を
  供給しなければ抑止力にもなりますし・・・
  」

 「それに、コーディネーターの殲滅も本心では
  考えていなかったわ。子供の頃に嫌な事があ
  ったらしいけど、隔離すれば良しと考えてい
  た。ブルーコスモスの盟主であったからこそ
  、組織内での権力の確保をするために、強硬
  派を気取っていただけに過ぎなかったのに・
  ・・。それを穏健派の連中は、ムルタに罪を
  押し付けて自身は穏健な環境団体に過ぎない
  と言って罪を逃れたわ。どうやら、大国派の
  連中に多数紛れ込んでいるらしいから、精々
  派手に殺してあげるわ。何の苦痛もない蒼き
  清浄なる世界に案内してあげる」

エミリアは、日頃見せない妖艶な笑みを浮かべな
がら、饒舌な口調で話を続ける。

 「その手駒となる新型モビルスーツの量産も進
  んでいます。予定よりも一ヶ月以上も時を稼
  げたので、数も揃いましたよ」

 「それは良かったわ。苦渋を飲んで大した抵抗
  もせずに撤退した甲斐があったわね」

 「ミリア様とアヤ様の(フォールダウン)と、
  ハイドラグーン搭載機部隊の訓練も予定通り
  だそうです」

 「それは良かったわ。では、今回は大西洋連邦
  軍に、煮え湯を飲ませてあげましょうか」

 「その作戦について説明します。まず、ロシア
  共和国軍主体の部隊が、黒海方面から進撃し
  てくる敵の足を止めます。そして、その間に
  モスクワを目指して侵攻してくる部隊に攻撃
  を仕掛けます。元々連携が取れていないうえ
  に、お互いに援軍を出す事も不可能ですから
  、大きな戦果をあげられるかと」

アラファスは、三手に分かれて侵攻してくる敵の
一手を壊滅させて、被害を大きくしようと目論ん
でいた。

 「でも、その戦力をウラル要塞の守備に回せば  
  、もっと多くの損害を与えられないかしら?
  」

 「この作戦で使う戦力は、片道キップの使い捨
  ての連中ばかりです。ここに配属させると、
  連携が困難になって、かえって成果をあげら
  れなくなる連中ばかりです」

 「どんな戦力を回すんだ?」

いまいち事情が飲み込めないミシェルがアラファ
スに説明を求める。

 「アズラエル財団とブルーコスモス強硬派と大
  西洋連邦軍の親アズラエル派の生み出した、
  人権無視の悪魔の人間兵器達の失敗作を投入
  する。こいつらは、精神的に不安定で指揮を
  受け付けない連中ばかりだからな。ここに配
  属して、同士討ちでもされたら大変だ」

 「随分と、色々いるのね」

 「ええ。アズラエル理事達は罪深い存在である
  ようです」

 「上に立つ人間は、誰も似たようなものよ。勝
  てば英雄。負ければ悪党。これが歴史の必然
  で、大西洋連邦の上層部にもこの事を知って
  いる人は大勢いるわ。でも、彼らは目を瞑っ
  て知らんぷりをしているだけ」

 「それで、彼らを何に乗せて特攻させるんだ?
  」

クロカワは、アラファスに使用戦力の質と量を尋
ねた。

 「(デストロイ)の改良機を三機用意した。あ
  とは(ディスパイア)部隊と(マウス)を使
  用する。あれも失敗作だし、十分にデータは
  取ったからな。ハウン、何か文句はあるか?
  」

 「いや、でも戦闘時のデータが欲しいな。あれ
  のハイドラグーンシステムを使って、ハイド
  ラグーンの自動操縦装置を開発しているから
  な」

 「了解だ」

 「では、作戦はそれで行くわよ。ふふふ。その
  時、モスクワは火の海になるのよ。覚悟して
  なさい」

エミリアは、再び妖艶な笑顔を浮かべたが、その
直後に、モビルスーツ格納庫の一つから緊急連絡
が入ってきた。

 「アラファス様、ここにいましたか。大変です
  。三人のパイロットが、モビルスーツを奪っ
  て逃走しました!」

 「ちっ!またか。ムラクモ・ガイといい、傭兵
  の連中は!」

 「アラファス、どうするの?」

 「例の新型モビルスーツで撃ち落します。二度
  と脱走者が出ないように、見せしめのためで
  す」

アラファスは一本の特別回線にインカムを繋いで
、新兵器のパイロットを呼び出した。

 「アラファスお兄様。呼んだ?」

 「ああ、脱走者だ。(ダウンフォール)の準備
  は出来ているのか?」

 「大丈夫、私もアヤも絶好調よ」 

 「では、頼んだぞ」

 「「了解!」」

そこまで話すと、アラファスは通信を切った。

 「あの娘達の準備は、終わったのかしら?」

 「あの二人は完璧に仕上がっていますよ。その
  成果をとくとご覧下さい」

アラファスが、モニターを外部カメラの映像に切
り替えると、一機の巨大なGに似たモビルスーツ
の緊急発進の光景が映し出された。

 「大きいわね。確か、(ダウンフォール)だっ
  たわよね?」

 「ええ。デカイ分、威力は折り紙つきですよ」

開発者であるハウンは、自慢げに新作モビルスー
ツの紹介を始めた。
今までは、アズラエル財団や、各国から盗んでき
た図面を元に改良機やカスタム機の開発をしたり
、量産指導などの仕事が多かったので、一人で設
計をした、「ダウンフォール」の完成が嬉しくて
たまらなかったらしい。

 「これが私の最初で最後の最高傑作です。この
  モビルスーツが撒き散らす災厄が、私の名前
  を歴史に残すでしょう」

これが、優秀な自動車関係の技術者であった父親
と、専業主婦であった母親に捧げる事のできる唯
一の事であった。
両親は優しかったと記憶しているし、二人が死ん
だのは交通事故が理由であったが、優秀な技術者
であった父の遺産は親戚に取り上げられ、自分は
孤児院に送られてしまった。
本当ならこんな事はありえないのだが、自分はハ
ーフコーディネーターであり、親戚はナチュラル
で親戚の弁護をしたのが、ブルーコスモスの考え
に賛同している弁護士であった事が、自分の運命
を大きく変えてしまったのだ。
本来ならば、エミリアを恨むべきなのだろうが、
エミリアは両親に劣らぬ愛情で自分を育ててくれ
たうえに、一人っ子であった自分に、ミリアのよ
うな妹ができた事も嬉しかった。
そして、彼は幼心に悟ってしまったのだ。
「力がなければ、自分の意見も通せない」と・・
・。
こうして、ハウンは自身を磨くべく勉学に励んだ
のだが、身体関係の能力は、あのクロカワよりも
マシというくらいであった。
正直、クロードやアラファスのように、軍事関係
では役に立たないと思われたのだが、技術者であ
る父の才能を受け継いだらしく、モビルスーツ関
連の技術開発に大きな才能を発揮して、四天王の
一人と目されるまでになっていた。
更に、このメンバーでクロカワの次に現実的であ
る自分がエミリアとの心中を覚悟したのは、珍し
く恩に報いようと考えていたのと、ミリアへの愛
情からであった。
彼は強力なモビルスーツを開発する事で、一秒で
も長くミリアが生き残る事を祈っていたのだ。

 「(生き残れよ。ミリア)」

ハウンは、ありえない願いを心に抱き続けるので
あった。


 「前方をいく(クライシス)三機、止まりなさ
  い!」

 「うるせえ!負け戦はご免なんだよ!俺達はこ
  こまでだ。モビルスーツは報酬として貰って
  やるよ!」

ミリアとアヤは、「ダウンフォール」の試運転を
兼ねて三機の脱走兵を追撃していたが、そのスピ
ードで目的は瞬時に果たされた。
「ダウンフォール」は、三十メートル近い大きさ
を誇る大型モビルスーツで、禁断の動力炉である
核動力を搭載していた。
本来ならば条約違反であるのだが、正式な国とし
て認められていない自分達が、そんなものを素直
に守る必要がなかったのだ。
そして、このモビルスーツは、もう一つ大きな特
徴を持っていた。 

 「アヤ!ハイドラグーンを準備して!」

 「任せてよ!」

「ダウンフォール」は二人乗りで、二十四基もの
ハイドラグーンを装備していていた。
一人がモビルスーツ本体の操縦に専念し、もう一
人がハイドラグーンの操作を行うので、その威力
は圧倒的であると言えた。

 「三機の敵に全部のハイドラグーンは無駄ね」

アヤは半数の十二基のハイドラグーンを展開して
、一機の敵に四基のハイドラグーンで攻撃を仕掛
けた。

 「何だ!ありえないところからビームが!」

 「避けられない!」

 「やっぱり、脱走なんて無理だったんだ!」

三機の「クライシス」のパイロット達は、その言
葉を最後に撃墜されて、辺りは再び静かになった

 「試験にもならなかったわね」

 「そうね。これならカザマも討てるわ!良かっ
  たわね。アヤ」

 「ええ。そうね・・・」

アヤは再び迷いの中にいた。
ジブラルタルでの敗北後に、クロードの仇も取る
と誓ったのだが、ウラル要塞に戻れば、狂気に満
ちたエミリアが、防衛体制と戦力の強化を図るべ
く、多数の科学者や技術者を連行してきていて、
脱走を試みる者を毎日のように処刑していた。
更に、脱走兵も見せしめとして、惨たらしく処刑
されていて、この基地では、一種の恐怖政治が行
われているようであった。
エミリアは、表面上は今までと変わりがなかった
が、アヤにはもうすでに別人のように見えていた

それは、ミリアも感じているようで、彼女は実の
娘なのに、用事がないと近づこうともしないまで
になっていた。
そして、兄達もエミリアのカリスマを守ろうと、
自身が悪役になる事が多く、特にアラファスが、
嫌われ役を買って出る事が多いように見えた。
勿論、普通にしていれば待遇も良かったので、フ
ランスやロシア出身で、戦犯として裁かれる事が
確定している連中や、ロシア連邦共和国の構成国
である貧しい共和国出身者の兵達は懸命に訓練に
参加してその技量をあげていた。
だが、良く考えてみると、自分達は貧しい彼らを
利用しているだけなのだ。
そして、決定的だったのが、昨日の定例会議の内
容であった。
ミシェルが持ち込んだ外部の情報の中に、生まれ
たばかりの子供を抱く、カザマの姿が写っていた
のだ。
エミリア達は、自分達と同様の殺人鬼に幸せにな
る資格はないと語っていたが、自分はその意見に
賛同できなかった。
確かに、カザマは兄を殺した憎い敵だ。
だが、彼は軍人として、戦場で敵を殺したに過ぎ
ない。
だが、自分達は自ら望んで世界の秩序を乱し、無
用な犠牲を積み重ねていたのだ。
アヤも最初はいく所もないし、仇を討てるので都
合が良いくらいに考えていたのだが、自分の幼稚
さに恐ろしくなってきていた。
それに、自分はそんなに兄を愛していたのであろ
うか?
三歳で、ほとんど記憶がない内に生き別れてしま
ったので、何となく優しかったという記憶のみで
、大きな確証が持てなくなってきていたのだ。
実は、自分はここにいる理由を作るために、あえ
て、彼を憎もうとしていたのではないのだろうか

勿論、エミリアには恩があるし、ミリアは大切な
唯一の親友だが、それだけでモビルスーツで人を
殺す事に、耐えられなくなってきている部分もあ
った。
入手した写真に写っていた、双子の赤ん坊を抱く
彼の表情は、「黒い死神」の異名をつけられてい
る人物とは、同人物には見えず、優しそうな若い
普通の父親に見えた。
自分が彼を殺すと、生まれたばかりの赤ん坊の父
親を奪い、自分のような人間を二人も作り出して
しまう。
いや、今までに何人ものそういう子供を作り出し
てきたのだが、自分の目で見なかったに過ぎない
のだ。

 「(私は地獄行きが決定ね。さて、私に引導を
  渡すのは誰なのかしら? ディアッカ。あな
  たかも知れないわね)」 

 「アヤ、帰ろうよ」

 「そうね。でも、嫌な任務ね。逃げ出すくらい
  なら志願しなければ良いのに」

 「ミシェルお兄様が景気の良い事を言っている
  けど、真実に気が付いた連中も多いという事
  よ」

ミシェルはここで損害を多数与えて、敵をロシア
の大地で壊滅させれば、ユーラシア連合領の最低
でも半分の支配権を貰えるので、その功績に寄与
した軍人達に相応の地位と恩賞を与える事を約束
し、空手形ながら地位や恩賞の額を提示までして
いたのだ。
勿論、エミリア達はウラル要塞で滅ぶ気なので、
約束を守るつもりはなかったのだが。

 「とにかく、帰りましょう」

 「そうね・・・」

二人の搭乗した「ダウンフォール」は、ウラル要
塞に向けて帰還を開始したが、その光景を真下の
山林から見つめていた少女がいた。
彼女はこの時代には珍しく、馬に乗って双眼鏡を
覗き込んでいる。

 「初めて見るモビルスーツね。ヨップに教えて
  あげるか」

少女は馬の腹を蹴って、自分の村に向けて疾走を
開始した。


         あとがき

書いていたら、容量を超えてしまったので二つに
分けます。              

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