<え〜、アスカ選手と戦ったサダソ選手ですが、全身複雑骨折の上に顔面は整形でも元に戻るか分からない、という情報が入って来てます。ってゆーか、死んでんじゃね?>
「やっぱり、やり過ぎじゃねーか」
「これに懲りて二度と悪さしないでしょ」
速攻、病院送りになったサダソの報告を聞いて、キルアが呆れた口調で言うが、当のアスカ本人は気にしてない様子でポップコーンを食べる。
<さぁ、そしてリング上ではレイ選手とリールベルト選手が対峙しています! レイ選手も200階クラス初試合! 果たして、ベテランのリールベルト選手にどのような戦いを見せるのか!?>
リングの上では、レイとリールベルトが対峙しており、歓声が轟いていた。
「………………」
「(この女、ヤベぇ)」
ただ静かにリールベルトを見つめるレイの瞳を見て、冷や汗を浮かべる。何の感情も映さず、ただ自分を見据えている。リールベルトは、締めてかからないとヤバいと確信した。
「始め!」
審判が試合開始の合図と同時に、レイはライターを取り出して火をつける。そして、火にソッと手を近づけると、凄まじい勢いで火柱が立ち上がった。それを思いっ切り振るうと、炎の帯がリールベルトに襲い掛かる。
「“爆発的推進力【オーラバースト】”!!」
が、リールベルトはオーラを放出して、ジェットのような勢いで逃げた。そして、停止すると背もたれに挿し込んでいる柄を手にして引っ張ると、2本の鞭が出て来た。
「“双頭の蛇【ツインスネイク】”!」
リールベルトは、2本の鞭を思いっ切り振り出した。
<出ました、“双頭の蛇による二重唱【ソング・オブ・ディフェンス】”! 凄まじいスピードでうねる2本の鞭は完璧に自身を守りつつ、攻撃の機を伺うかのように間合いを詰める!! さぁ、どうするレイ選手!?>
「ハッ! さっきの炎は凄かったが、この鞭から生み出される風なら、あの程度の炎は消してしまうぜ!」
そう言われ、レイは先程のようにライターの火を振るったが、風で火が消えた。
「これぐらいの風……意味が無い」
レイは新しいライターを取り出し、再び火をつける。その火で、円を描くように手を回すと、火が幾つもの球体となり、レイの周りに浮かぶ。
「“炎の弾幕【フレア・ガトリング】”」
レイが腕を振るうと、火の弾はリールベルトに向かって突っ込んで行った。火の弾は、鞭から起こされる風などモノともせず、直撃する。
「ぎゃあああああああ!!!」
ロールベルトは火で燃える体を転がり回り、悲鳴を上げる。やがて、火が消え、リールベルトは膝を突いて、ハァハァと激しく息を切らせる。すると、リングの四辺に炎が走り、リングを包み込んだ。
「な!?」
<な、何とレイ選手! リングを炎で包み込みました! これでは何が起こっているのか分かりません!>
審判も火のせいで、レイとリールベルトの様子が分からず、余りの熱気に目を閉じてしまう。
「くっ!(何処だ!? 何処から攻撃を仕掛けて……!)」
車椅子から落ちて立てず、リールベルトは鞭をギュッと握り締めてレイが何処から攻撃して来るのかを警戒する。
「苦しいっす……」
「!? お、お前は……!?」
が、その時、炎の中から声がしたので顔を上げるとリールベルトは驚愕する。そこには何故かズシの姿があり、自分に近づいて来た。
「苦しいっす……息が出来ないっす……助けて欲しいっす……」
「ひっ! く、来るな……!」
ズリズリと後ずさりながら助けを請うリールベルト。ズシはゆっくりと近づいて来て、リールベルトに触れようとする。
「ひ、ひぃ……!」
「何でこんな事をするんすかぁ……? 貴方も一緒に……」
すると、ズシの体が炎になり、リールベルトに襲い掛かった。
「ひ、ひいいいいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」
涙を浮かべて悲鳴を上げるリールベルトは、そのまま失神した。それと同時に炎が消え、リング上にはレイとリールベルトと審判しか立っていなかった。
「何ちゃって」
ライターの火を消して、ペロッと舌を出すレイ。審判は、失神しているリールベルトを見て、レイの勝利を宣言した。
<え〜、現在、カヲル選手とギド選手の試合が行われていますが……>
リング上で腕を組んで笑みを浮かべ、突っ立っているカヲルにギドの放った独楽が襲い掛かるが、全て彼に当たる前に弾かれていた。
カヲルの四方を囲むオーラの壁が、ギドの独楽を全て弾いているのだ。
「こちの攻撃は当たらぬか……だが、貴様の能力は、所詮防御一辺倒! 攻撃せねば勝利はあり得ん!」
「ま、壁のイメージって基本的に守りだよね……でも」
ヒュッとカヲルは手を振るうと、突然、ギドの独楽が上下にスパッと切断された。
「な……!?」
「断面を使えば壁も凶器になりうる……たとえば」
スッとカヲルが手を掲げると、彼のオーラが巨大な壁の形に変わる。そして、高くジャンプすると、オーラの壁をギドに向かって落とした。
「う、嘘……ぎゃあ!!」
壁の断面がギドの体に直撃し、彼を押し潰した。それは丁度、彼の義足の部分で、バッチリと折れている。
「ギド、戦闘続行不可能とみなし、勝者カヲル!!」
「スゲ〜な、3人とも。圧勝じゃん」
アスカ、レイ、カヲルの3人にゴンとキルアは帰り道に、素直に感心した様子で賛辞を送る。
「どうって事ないわよ、あんな奴ら」
サダソは入院、リールベルトは戦いに恐怖し、ギドは義足を折られた事で精神の支えも失った。3人は、もう戦えないだろう。
帰り道の途中、彼らの前でパチパチと拍手する人物が立っていた。その人物を見て、アスカ、レイ、カヲルは目を見開く。
「アンタ……アクア!?」
それはハンター試験で出会い、黙示録の一人であるアクアだった。咄嗟に身構えるアスカ達に対し、ゴンとキルアは、彼女が良くヒソカと試験で一緒にいた人物だった事を思い出す。
「素晴らしい戦いを見せて貰ったわ。ありがとう」
「何でアンタが此処にいんのよ!?」
「いえね、あなた達が此処にいるって聞いて暇潰しに見に来たの……で、面白い試合を見せてくれたご褒美」
ニコッと笑いかけ、アクアは携帯電話を取り出し、おもむろに何処かにかけた。そして、「はい」とアスカに投げ渡す。アスカは訝しげな表情を浮かべ、携帯を耳に当てる。
<アクア、どうしたんだい?>
「!?」
その声を聞いて、アスカは目を見開いて拳を強く握り締める。その反応を見て、レイとカヲルも電話の相手を察して驚愕する。
「…………アンタなの?」
<…………アスカ?>
電話の向こうで自分の名前が出て、アスカはギリッと唇を噛み締める。
<何で君がアクアの電話に…………>
「この馬鹿!! 今、何処で何してんのよ!?」
突然、怒鳴り声を上げるアスカにゴン、キルア、アクアは驚く。レイは無表情でアスカを見て、カヲルは苦笑いを浮かべた。
<はは……アスカ、久し……>
「久し振りなんて言わないわよ!! このままアンタのとこ行ってぶん殴ってやる!」
「ねぇ、アスカ、誰と話してるの?」
ゴンがふと尋ねると、アクアはニコッと笑って答えた。
「私達のボス……つまりは“黙示録”の首領」
それを聞いて、ゴンとキルアは、驚愕する。“黙示録”の首領といえば、アスカ、レイ、カヲルが探している人物で、3人の知り合いの筈だった。
「場所を教えなさい!!」
<ヤダ>
「アンタ、このアタシに逆らう気? いつから、そんなに偉くなったのよ!?」
何でA級首の“黙示録”の首領相手にあそこまで偉そうになれるのかゴンとキルアとアクアは不思議でならなかった。アクアの場合、ボロボロと涙流して泣き崩れるアスカの姿が見れると思ったが、逆に怒鳴るので拍子抜けした気分になった。
<アヤナミとカヲル君も一緒かい?>
「質問してんのはアタシよ! アンタに質問する権利は無い!!」
<んな理不尽な……ったく……アクアの悪戯好きにも困ったもんだな……>
「ブツブツ言ってないで、場所を教えなさいって言ってんでしょうが!!」
実は既にヨークシンにいるのだが、アクアは生温かい目でアスカを見て、笑いを堪える。
「今のアンタはアンタじゃない……アタシが直々にぶん殴って目ぇ覚まさせてやる!」
<…………出来るものならね>
「…………何ですって?」
急に静かになって返すアスカ。が、彼女の体からは怒鳴っていた時よりも、オーラが増しており、ゴンとキルアはゴクッと唾を呑む。
<アクアから聞いた君達の実力を僕なりに考えたけど…………君達では僕に勝つどころか、殴る事すら出来ない。君もアクアと戦って気付いてるだろ?>
そう言われ、アスカはハンター試験で二度、アクアと戦った時の事を思い出す。飛行船ではレイ、カヲルと三人がかり、そして4次試験ではタイマン。結果は、どちらも完敗だった。その時、ハッキリと自分と彼らの距離を感じてしまった。
<それに僕は、とっくの昔に目が覚めてる。たとえ殴られても今の生き方を変えるつもりは無い>
「っ! アンタねぇ……!」
アスカが何か言い返そうとした時、突然、レイが携帯を奪った。
「! レイ!?」
<アヤナミ?>
レイは、相手の声を聞いて一瞬、目を大きく見開いて唇を震わせるが、すぐにいつものように無表情で言った。
「貴方は…………あの日の悪夢を忘れたの?」
力によって人間が人間を襲い、殺し合う。全てを失い、全てが終わり、全てが始まった日の悪夢。
「あの時、カツラギ一尉は貴方を守って死んだ……なのに今は貴方が殺す側の人間に何で立っているの? 何の罪も無い人達を殺して何を得られるの?」
<………………僕は世界の真実を知った。強いて挙げるなら、それが理由だよ>
「それは……!?」
今度は、カヲルがレイから携帯を奪い、彼は笑みを浮かべたまま言った。
「久し振りだね」
<カヲル君……元気そうだね>
「まぁね。2人とは楽しい旅を続けているよ……僕は2人みたいに君が、何でこんな事をしているのか理由は知るつもりは無い。が、親友としてこれだけは言わせて貰うよ」
カヲルは笑みを消し、鋭い顔つきになる。それにゴンとキルアはビクッと身を竦ませた。
「君が穢れていく姿を見たくない。今の行為をやめるつもりが無いのなら……今度は僕が……君を殺す」
<………………ありがとう>
殺す、と言ったのに礼を言われ、カヲルはフッと笑う。
「本当、君は好意に値するね。好きって事……」
バッ!
「さ?」
言い切る前に再びアスカが携帯をぶん取って怒鳴った。
「実力差があろうと無かろうと、こっちとらアンタを探す事に今の人生注いでんだから覚悟しときなさいよ!!!」
<はいはい。了解しました…………アスカ>
「何よ?」
<元気そうで良かった>
その言葉にアスカは目を見開き、呆然となる。
<アヤナミとカヲル君にもそう伝えておいて……じゃ>
そう言われて相手が電話を切って来た。
「アスカ……彼、何て?」
「『元気そうで良かった』……って」
それを聞いて、レイは「そう」とだけ答えて胸の目でギュッと拳を握り、カヲルはフッと笑った。アクアは携帯を返して貰うと、ニコッと笑って踵を返す。
「ちょっと待ちなさい」
「ん?」
「アイツ……何でこんな事をしてるの?」
人の命を奪う事に対し、誰よりも深いトラウマになっている筈の彼が、とアスカが尋ねると、アクアは肩を竦めた。
「マスターが何でこんな事をするようになったかなんて私達は知らない。でも、私達はマスターを慕っている。昔のあなた達と同じようにね」
「ちょ……だ、誰があんな根性なしを!!」
顔を赤くして怒鳴るアスカに対し、レイはポッと頬を染めて視線を逸らす。カヲルはニコニコと笑っており、ゴンとキルアは不思議そうに3人を見ていた。
「ヨークシンで、また会いましょ。マスターをどうにか出来るかどうか……私達も楽しみだから……っと、そうそう」
そのまま去ろうとしたアクアだったが、ふと何か思い出したようで立ち止まった。
「ゴン君、ヒソカから伝言」
「ヒソカ?」
「『念を覚えて随分と経ったし、前の試合も負けたとはいえ君の短時間での成長を感じさせるには十分だった。もし、僕の念の正体を見破ったのなら、戦おう。日時は君の好きにすると良い』だってさ」
「ヒソカが……」
戦っても構わない、と言われ、ゴンはギュッと掌で拳を包む。
「私もヒソカほどじゃないけど、あなた達の成長は楽しみだわ。ヨークシンで、また会えると良いわね」
「べ! 絶対、ヤダ!」
舌を出して拒否するゴンに、アクアは楽しそうに笑う。
「ふふ……面白い子達」
ヒラヒラと手を振り、アクアは去って行った。
「マスター?」
マギは、優しい表情を浮かべて携帯を見つめる少年に眉を顰める。
「マギ」
「何?」
「しばらく一人にしといてくれる?」
「………………了解」
マギはコクッと頷き、ノートパソコンを閉じると去って行った。少年は、目を閉じると静かに口を開いた。
「マインド」
【何?】
すると少年の頭の中に返事が来た。
「僕が“黙示録”を創った経緯を知ってるのは、メンバーでは君だけ…………僕はあの時、この世界の真実を知った。それが間違ってると思うかい?」
【………………私には答えがたい質問だね】
「僕が間違ってるなら世界は僕の存在を許さない。逆に正しければ僕の望みは叶う……それだけだよ」
【その結果、かつて貴方を慕い、そして貴方が大切にしていた者達を殺す事になっても……?】
その質問に対し、少年は拳を握って目の前に突き出すと、彼の手の中に二叉に分かれた赤い槍が現れた。
「僕は“テレサ”への誓いを果たす。それがたとえ……あの3人を殺す事になろうとも、ね。知ってて君は僕に力を貸してくれるかい? マインド」
【御意のままに……マスター】
ピチョン、と水滴の落ちる音が、ただ静かに廃墟の中に響いた。
〜レス返し〜
希望様
ま、確かにボスキャラは反則みたいな強さでも不思議じゃないですしね。早くヨークシンに行って、シンジの能力をお披露目したいです。あ、ちなみに今回、ロンギヌスの槍っぽいのが出ましたけど、お遊びで能力は全く別物ですので。クロロの本や、パクノダの拳銃みたいなもんです。
流刑体S3号様
今回もカヲル君のダークサイド披露です。
まぁマギって名前ですからイロウルは簡単に想像できるでしょう。ちなみにマギが株やってるのは趣味で、財布役じゃないです。っていうか、子供に財布役やらせる組織って……。
個性強くて濃いキャラって何でか惹かれてしまうんですよね。確かに、あのロリコン若作りジジィも濃いキャラで私も好きです。
レンジ様
初めまして。感想ありがとうございます。
無論、シンジはボスなので“黙示録”の中では一番、腕が立ちます。体術もクロロに引けを取りません。“黙示録”のメンバーは、普段はシンジをからかったり貶してますが、シンジが真剣、いざとなれば彼の忠実な手足になります。圧倒的なカリスマ性で組織を纏めるクロロと違い、メンバーと同じような立ち位置で友人みたいな感覚で組織を纏めるのがシンジです。
なまけもの様
確かに自分で念魚を選べない、という点でカイトの能力に共通してますね。他にも幽遊白書を基にした能力などが出て来るのでお楽しみに。
実は元イロウルことマギは操作系ではありません。彼女の能力は“黙示録”の中でも最上位に位置するぐらい重要です。旅団で言うとパクノダみたいなものです。
サダソは辛うじて生きてますが、もう戦闘は無理です。
明様
初めまして、感想ありがとうございます。
確かにシンジの扱いは酷いですが、皆、彼を慕ってますよ。信頼は……されてるのかなぁ? ちょっと自信なかったりして……。
夢識様
かつて幽遊白書の蔵馬は『人質は無事だからこそ価値がある』と。
原作には無いサダソの戦闘がありましたが、アスカにボコボコにされました。リールベルトに対するレイも割とえげつないです。
電波系……ではないです。一応、常識ありますし。でも腹の中身は黒いですよ。
ショッカーの手下様
ちなみに“黙示録”の食事はシンジが作ってます。主夫生活がすっかり板に付いてるテロ組織のボス、それが彼です。
逆に強いサダソって想像できません。ハンターでも屈指のヘタレキャラですからな〜。モタリケ――G・Iのプレイヤー――といい勝負かも。
拓也様
無敵な能力は割と好評のようですが、いざそうなると制約を厳しくしないと。ボスキャラちっくな無敵能力のお披露目に乞う御期待。
FACE様
でも今回は割と口説き文句とか言いましたしね〜。尊敬はしていないけど、皆、シンジを慕ってます。シンジ自身、本当は尊敬されるより、そっちのほうが気が楽だと思ってます。それ以前に、“黙示録”のメンバーはシンジが徹底的にやられる事など想像もしてません。
エヴァの念能力のレベルはですね……G・Iをクリアしたゴン達ぐらいです。オーラの量だけじゃハンターの中堅クラスらしいですが、総合的な能力を見れば、まだ下の方だと思ったので。