<皆様、大変、長らくお待たせしました! 今日の試合の大一番! 休みがちな奇術師ヒソカと先日、カストロ選手を見事打ち倒し、一躍有名人となったシフ選手の試合が今、始まります!!>
テレビの中で対峙するヒソカとシフを、キルア、アスカ、レイ、カヲルの4人で見ていた。片や悪魔の強さを誇るヒソカ、そして、そのヒソカに唯一対抗出来ると思われたカストロを圧倒したシフ。2人の試合が早くも実現し、チケットはあっという間に売り切れた。アスカ達がダフ屋へ行っても、既にチケットは無かった。
「どっちが勝つと思う?」
「う〜ん……微妙だねぇ〜。どっちも飛びぬけて強いし」
「念能力を考えるなら、ヒソカのは不明だけど、シフのは明らかに殺傷目的で作られてる」
念で具現化した水の中へと閉じ込め、身動きの取れない所へ念魚に襲わせる。かなり、えげつない能力だ。
「…………始まったわ」
「始め!!」
審判の合図と同時に、ヒソカはトランプを一枚指で挟んでシフに向かって突っ込んで行く。シフの頚動脈を切り裂こうとするが、シフはヒソカの振るって来た腕を掴み、肘鉄を放とうとするが、ヒソカはもう片方の手で受け止める。2人は同時に足を振り上げて交錯させると、頭突きを放ち合い、額をぶつけたまま睨み合う。
同時に離れて距離を取ると、ヒソカは大量のトランプを投げて来た。シフは、それら全てを紙一重で避けると、その間に間合いを詰めて来たヒソカに顔面を一発殴られる。吹っ飛ぶシフは空中で反転してリングを蹴り、お返しにヒソカの顔面に肘鉄を喰らわせた。
ヒソカは踏ん張ってリングの端で止まり、シフも体勢を崩さずに着地する。
「え……あ……?」
審判も今までの攻防に追いつけず、キョロキョロと2人を窺っていた。
<な……い、今、何が起こったのでしょう!? 目まぐるしい攻防に実況を挟む事も出来ませんでした!!>
実況が驚きの声を上げると、大歓声が轟いた。が、ヒソカとシフは、そんな歓声を気にせず、互いを見合う。
「やるねぇ……流石は“黙示録”の一人、と言った所かい?」
「おや? 気付いておられたのですか?」
ヒソカの言葉に対し、特に驚いた様子を見せないシフ。ヒソカは笑みを浮かべ、トランプを取り出し、シャッフルする。
「うん。君の事はアクアから聞いていたからね。“黙示録”の中の男ではマシな部類に入るってね」
「ああ、なるほど。アクアさんですか……ハンター試験では彼女がお世話になったようで」
「いえいえ」
ペコッと頭を下げて礼を言うシフに、ヒソカも社交的に返す。
<シフ選手、いきなりヒソカ選手に頭を下げましたが一体、何の話をしてるのでしょうか?>
観客達は、2人の奇妙な行動に眉を顰める。
「ま、そちらも流石は“クモ”の一人、とお返しさせて頂きましょう」
が、不意に出たシフの言葉にヒソカはピクッと反応する。
「そっちもアクアからの情報かい?」
「いえ、マルクトという子ですが、彼自身はアクアさんから聞いたようです」
どうやら色々と言い振り回しているらしいアクアに、ヒソカとシフは苦笑する。
「「くくく………ははは…………あはははははははは!!!!」」
急に笑い出した2人に、観客たちがザワザワと何事かと思い出す。
「良いね、良いねぇ。君、面白いよ。僕が勝ったら、“黙示録”の首領の事を聞かせてくれるかい?」
「マスターが狙いですか? 貴方のような危険人物に興味を持たれるとは、非常にマスターが心配です。負ける訳にはいきませんね」
そのマスターからの電話は着信拒否してるくせに、妙に忠誠心の厚いシフ。彼は、そう言うと、ペットボトルを手の中に出した。
「水の牢の中に相手を閉じ込める……君の能力だったね。そっちが能力を使うなら……僕も使わなくちゃねぇ」
すると、ヒソカの体から不気味なオーラが放たれる。そのオーラを真っ向から浴びながら、シフは笑みを浮かべると、ヒソカに向かって駆け出した。
<おぉっと! 今まで受身だったシフ選手が初めて攻勢に出ました!>
「くっくっく……」
向かって来るシフに対し、ヒソカはトランプを投げるが、シフは簡単に避ける。
「!?」
が、次の瞬間、避けた筈のトランプが戻って来て、シフの腕を切り裂いた。
「っ!」
傷は深そうで、シフは表情を歪めるが、水滴を落とし、パチン、と指を鳴らす。すると、水はヒソカの左腕に絡まり、左腕を閉じ込めた。そして、ナイフを取り出し、自分の手を切って傷をつけると、その傷を水に添えた。
すると、傷口から流れ出た血が魚の形となった。その念魚は、鮎ぐらいの大きさだったが、ヒレの部分がカッターのように鋭かった。
「ム、運が無いですね、ヒソカ。その念魚はタチ悪いですよ」
念魚は狭い水の中を駆け、ヒソカの左腕をバッサリと切り落とした。プカプカと水の中に左腕が浮かび、ヒソカは右手にオーラを込めて水を殴るとパァンと水の牢は弾け飛んだ。水の牢が消えると、念魚も消えた。ヒソカは左腕を拾うと、綺麗に落とされた傷口を見る。
「ふ〜ん……オーラを込めた攻撃には弱いんだ」
「ええ。手元から離れたら強度はガタ落ちです」
まぁ水だから強度もクソも無いのだが、と笑いながら言うシフ。
「しかし、貴方の能力、いまいち分かりませんね。投げたトランプが戻って来たのは磁石か何かでしょうか?」
トランプを糸で括っている様子は無いとシフは、床に落ちているトランプを見て目を細める。
「特に変わった様子はないですね……」
「そりゃそうだよ。僕は奇術師だから、種は簡単に明かしちゃ駄目」
ポリポリと、左手で肩を掻きながら言うヒソカ。シフは、ジッとヒソカを見ると、彼は左腕を切り落とされたというのに、偉く余裕だった。
「でもまぁ……左腕落とされて、ちょっと痛いからお返ししちゃおうかな」
「!?」
そう言って、ヒソカが左手を引っ張ると、シフは彼に向かって突っ込む。
「(これは!?)」
そして、シフの顔面にヒソカの右のストレートがカウンターで入った。リングを激しく転げ回るシフ。
「クリーンヒット&ダウン!!」
クリーンヒットとダウンを取られ、シフは顎に見事に決まっており、足をフラつかせながら立ち上がる。
「何が簡単に手を明かしたら駄目……ですか」
「奇術師は人を騙す事を生業にしているからね」
ニヤニヤと笑うヒソカ。シフは、フッと笑うとブンブンと頭を振る。
「ふ〜む……なるほど。貴方の能力、分かりましたよ」
「分かったからどうする?」
「う〜ん……此処で我々が本気出したら、審判の方は判定出来ないでしょうね」
シフは少し考え、「となると……」と呟いてチラッと審判を見る。
「審判さん」
「ん?」
「ギブアップです」
「…………は?」
「じゃ、そういう事で」
ニコッと笑い、呆然となる審判に手を振って、シフはリングから降りて行った。
<え、え〜っと……これは、シフ選手の試合放棄でしょうか……っていうか、これではシフ選手は200階クラス落ちになります……>
実況も余りに突然の事で呆然となってしまっている。残されたヒソカは、折角、盛り上がって来たのに、と残念そうに呟きながらリングから降りて行った。勝手に試合を終わらされた2人に対し、会場はシーンと静まり返ってしまった。
「一体、何なんだ?」
「う〜ん……あのまま戦い続けてたら本気出して天空闘技場レベルを遥かに超えてしまうからね〜」
その内、勝負ではなく殺し合いになる可能性が高い。無論、天空闘技場で試合中に対戦相手が死んでも罪にはならないが、それはヒソカとシフ、両方が望むべきではないと判断したのだろう。
「なぁ、ヒソカってどんな方法でトランプ戻したり、シフを自分の方に引き寄せたりしたんだ?」
「ん〜……ウイングさんに教えて貰えば良いと思うけど、教えたげる。カヲルが分かり易いわね」
コクッとカヲルは頷くと、掌を広げる。すると、カヲルのオーラが動き、壁のようになったので、キルアは驚く。
「僕は自分のオーラの性質を壁に変える。これは“発”の一種だ……そして」
カヲルが目を閉じると、オーラの壁が薄っすらと消えて行った。
「これは“絶”を応用してオーラを見えにくくする技術さ。ヒソカは、これを使って自分のオーラを見えにくくしてたのさ」
「じゃあ、どうやって戦えば良いの?」
「それを知るには、まず“練”を覚えないといけないわ」
今まで黙って話に参加せず、本だけを読んでいたレイがそう言って来た。
「焦らず、まずは“練”を覚えなさい。それにゴンも一緒に修行したいんでしょう?」
「まぁね」
少し恥ずかしそうに頷くキルアに、アスカとカヲルはフッと笑い、レイも小さく笑みを浮かべた。
そして2ヶ月が経ち、ゴンの謹慎期間が解けた。ウイングの部屋にゴン、キルア、ズシ、そして見学にアスカ、レイ、カヲルの3人が集まっていた。
「さて、今日から2人ともズシと共に修行をする事になります。ゴン君、この2ヶ月、良く約束を守りましたね」
「誓いの糸のお陰です。実は何度も誘惑に負けそうになったんだけど、この糸を見つめてると少し心が落ち着いて来るんです」
「そういう念を込めておきましたから」
「え!? ホント?」
「いや、嘘ですけどね」
ニコッと笑って言うウイングに、ゴンは、こういう人だったかと少し疑問に思う。
「でもさ、何で約束を守ったかどうか分かんの? もしかしたらコイツ、こっそりズルしてるかもしれないじゃん」
が、キルアが意見して来て、ゴンはムカッとなる。
「誓いの糸が切れてないからですよ。ゴン君、久々ですが“纏”をやってみてくれませんか」
「良いの?」
「ええ」
ウイングに言われ、ゴンは本当に久し振りに“纏”をするのでドキドキする。そして目を閉じると、ゴンの体をオーラが覆う。が、それは今までのものとは違い、何処か洗練されていた。
「ズシ、どう思う?」
「す、凄いっす! 全身のオーラが淀みなく流れているっす! 静かでなだらかで、それでいて凄く力強いっす!」
アスカ達も、“纏”で此処まで力強いオーラを出せるゴンに素直に感服した。
「出来た! 良かった! 忘れてたら、どうしようかと思った!」
「泳ぎ方や自転車の乗り方と同じく、一度覚えたらまず忘れませんよ。勿論、高度に使いこなすためには努力を怠ってはいけませんがね」
「でも前より凄く自然に出来たよ!」
全く“纏”の練習をしていないのに、と不思議に思うゴン。
「君が毎日、“点”を続けた成果です。さ、左手を見てみなさい」
「え? あ!」
言われて、左手を見ると、小指に巻いてあった糸が切れた。風呂場で洗っても切れなかった糸が、簡単に切れていたので驚くゴンとキルア。
「君が約束を破って念を使ったら切れるよう結んであったのです。私の念でね」
そんな事も出来るのかと「ほ〜」と驚きを声にあげるゴンとキルア。
「ねぇ、ウイングさん。ヒソカとシフの試合、見た?」
「ええ、見ました」
「カヲルから聞いたんだけど、ヒソカって“絶”を応用してオーラを見えにくくしたんでしょ? ヒソカの能力が、どんなのか分からないし、俺達にもシフとかカストロみたいに念でモノを作れたりするの?」
「う〜ん、難しい質問だね。一つずつ答えていこうか」
そう言い、ウイングはヒソカとシフの試合を録画したビデオを取り出した。ビデオを再生し、ヒソカが突っ込んでくるシフに向かってトランプを投げる所で止めた。
「どうかな?」
「駄目だ。やっぱカヲルと同じで何も見えねーや」
「これが“絶”を応用した高等技術、“隠”です。これを見破るには、“練”でオーラを目に集中させる“凝”が最も有効です」
以前、ゴンがギド戦でやったように目を閉じて神経を研ぎ澄まして察知する方法もあるが、それでは命がいくらあっても足りない。
「まず、第1の質問。ヒソカはどんな能力か? その答えは自分達で見つけなさい。君達2人の課題は、“練”を習得し、“隠”を見破る事です」
「2人?」
「あの……師範代。じゃ、自分はどうしたら?」
ズシは自分が何をすれば良いのか言われず尋ねた。
「ズシ、君はもう“凝”が出来る筈です」
その言葉にゴン達だけでなく、ズシ本人も驚いた。
「!? 自分……が?」
「2人の前で“練”を見せてあげなさい」
そう言われ、ズシは腰を落とし、左腕をダランと下げた構えを取り、呼吸を整える。そして、カッと目を開くと同時にオーラを爆発的に放出させた。
大きさ自体はゴンと変わらないが、力強さなどはズシの方が上だった。
「カヲル君、お願いします」
「ハイハイ。ズシ君、今から僕は幾つか壁を作る。それを見破ってくれたまえ」
「ハ、ハイっす」
そう言い、カヲルは掌を広げた。
「そのオーラを全て目に集中!」
「押忍!」
ウイングに言われ、ズシはオーラを目に集中させ、“凝”を行う。
「さぁ、僕の壁は幾つかな?」
カヲルに問われ、ズシは部屋を見渡す。すると、アスカ、レイ、ゴン、キルア、ウイング、そしてカヲル本人の前にオーラの壁が見えた。
「む、6つっす」
「ブ〜、残念」
間違っていたので、ズシは一気に力が抜けて大きく息を吐いた。
「はぁっ! はぁっ! ほ、本当に見えたっす!」
「現在は持てる力を全て“凝”に注いでますが、これでは実戦では何の役にも立ちません。“凝”は未知の相手と戦う時の常套手段です。相手の能力を知ろうとせずに戦っていては常勝は望めません」
そう言い、ウイングはビデオを消した。
「分かりましたね? まずは“練”の習得! そして応用技の“凝”を覚える! その事に関しては3人にお任せして構いませんか?」
チラッとウイングが尋ねて来るとアスカがグッと親指を立てて頷いた。
「そして第2の質問。カストロやシフのように、自分達も念でモノを作れるか? 答えはYesでありNoでもあります」
同じ念使いであれば、決して同じ能力を覚えられない事は無い。が、それは可能性が0ではない話である。
念能力は、その人の個性に大きく影響する。一人一人好きな事や得て不得手があるように、念にもそれはある。
「もし、真剣に念を極めたいなら、誰かの能力を真似するよりも、まず自分の資質に合った能力を身に付ける事です」
「「「押忍!!」」」
ウイングの言葉に、3人は力強く頷いた。
とりあえず今日はゴン達と別れ、明日から本格的に“練”の修行をしようと約束し、アスカ、レイ、カヲルは部屋に戻るエレベーターに乗っていた。
「自分に合った能力……ね」
クチャクチャとガムを噛みながら、アスカが呟く。不意にアスカはガムを取り出して、ブゥンと振るった。
「強化系のアタシでも実際のガムを強化すれば、ヒソカと似たような能力は使えるけど……アタシ向きじゃないわね」
「アスカ……」
「あ」
アスカは自分で強化したガムが、ベチャアとレイの顔にへばり付いているのに気付いて表情を苦くする。
「行儀が悪い上に汚い……」
「う……何かレイに常識で説教されると腹立つわね」
「はっはっは。君達に常識なんて言葉は似合わないさ」
「格好つけて言っても、アタシゃ怒るわよ? 後、一番常識の無いアンタにだけは言われたくない!!」
「そうね」
「キツいね〜、君達」
こういう時は意気投合しちゃって、何だか寂しさを覚えるカヲル。その時、ピクッと3人はある気配を感じ取った。
「これは……」
そして、エレベーターを降りると、そこには新人をカモにする3人組が立っていた。
〜レス返し〜
こるべんと様
黙示録のメンバーは、元使徒の能力か使徒の姿を元にした能力者です。ガギエルとかサンダルフォンみたいにアニメで大した特殊能力を見せていない使徒なんかは後者です。
マルクトはサンダルフォンです。“黙示録”の面子の名前は、
アクアは水を司るサキエルの『水』=アクア。
イスラームは使徒の中で唯一、イスラム教の天使であるイスラフェル。
マルクトはサンダルフォンで、司っているセフィロトの名前。
マインドは精神=mind、で精神攻撃をしたアラエル。
シフはshifで、fish=魚のアナグラムで即ちガギエル、など一応、使徒関連の名前です。
流刑体S3号様
で、今回はシフとヒソカの勝負。案外、呆気なくシフがギブアップし、これまた呆気なく天空闘技場から去って行きました。少なくともヒソカとシフが本気で戦えば、フェイタンとザザンのように、カルトでも追いきれない速さで戦うと思います。
念虫……よりも念蟲でしょうか? 字的には、こっちの方が格好いいような気がします。
ショッカーの手下様
ま、サルモネラ食中毒じゃないだけマシって事で。ちなみに私も卵かけご飯食べて、腹下した事があります。以来、生卵は受け付けません。
今回、ヒソカは腕バッサリといきましたが、マチ姐の出番はありませんでした。
なまけもの様
“密室遊魚【インドアフィッシュ】”よりは使い勝手が良いと思います。屋外(一部除く)でも使えますし。
“憎悪の猛魚【ブラッドフィッシュ】”ですが、アレは傷口から念魚が出てくるというイメージなので、打撲や内臓損傷といったものでは作れません。
ゼルエルのリキですが、ウボォーとライバル的な関係にしたいです。どっちが最強の強化系とかって。
まぁ、マトリエルにラミエルやレリエルは予想付きますね。後、シャムシエルですが、まぁ強化系でしょうか。ちなみにアクアは変化系ですよ。
イロウルの能力は考えてあります。割と重要な能力です。
サハクィエル、バルディエル、アルサミエルですが、バルディエルとアルサミエルの能力は、結局、相手に取り付くという点で同じなので、ちょっと悩んでたりします。まぁ殆ど解消しましたけど。