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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第八話 それぞれの実情 (SEED運命)」

ANDY (2006-08-13 22:28)
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 いつの世も、災厄と言う名の分岐点は唐突に訪れるものだ。

 また、災厄と言うものもいつも同じ姿をしているわけではない。

 予想も出来ない姿であったり、状況であったりするのだ。

 それに出くわした時、人はその本質を問いかけられる。

 それに応えることができるかどうか試せられるのだ。

 愚者か、賢者かを。

 だが、その問いかけに完全なる解は存在するかどうかは誰にもわからない。


「やれやれ。厄介なものが来たものだ」

 オーブの軍港の一つにある監視所の一室で、壮年のサングラスをかけた男が呆れた声音で呟いた。

「それはあちらも同じでしょうよ。あちらとしても、オーブに来るよりカーペンタリアの自陣に帰る方が精神的にどれだけ楽なのかは想像に難くないですからね」

 ウナト・エマ・セイランの呟きに、息子のユウナ・ロマ・セイランはおどけるようにそう答えた。

 実際、ミネルバから見ても現状の地球の情勢がわからない今、藪をつつくよりも安全な道を進みたいはずだろう。

 だが、わざわざ危険を冒してまでオーブに寄らなくてはならない理由がある。

 それは―

「やれやれ。代表の向こう見ずな行動の結果が、このような事態に結びつくとは」

「厄介ごとを持ち込むというそれは、アスハ家の伝統なのでは?」

「さよう。自身の思うままに動き、周りに災厄を振りまくのは先代のときからの慣わしでしょう」

「これこれ。どこに耳があるかわからんのだ。あまり口外されるな」

 自身と協力関係にある首長たちの言葉を諌めながら、まんざらでもない笑みをウナトは浮かべていた。

 そんな会話を尻目に、ユウナは静にオーブの軍湾に近づいてきているザフトの軍艦、ミネルバへと視線を向けていた。

 ミネルバを見つめるユウナの瞳には、理性的で先を見つめる、そんな輝きを宿していた。


「オーブ、か」

 ミネルバの通路の窓から近づいてくる陸地を見つめながら、シンは呟いた。

 自分にとって、全ての始まりの地を前にしても、これといった感慨が湧かなかった。

 ただ、オーブによる、と言う認識しかもてずにいた。

 埒の明かない思いを斬り捨て、シンは歩を進めた。

 行く先は、招かざる客が眠る場所であった。


「ご苦労様です」

 銃を携え警備に当たっている保安部員に挨拶を交わすと、シンは独房の中へと進んでいった。

 そして、一つの房の前に立つと中に向け声を放った。

「ご気分はいかがです?ミスターテロリスト」

 シンは独房の格子の向こうで横たわっている男にそう声をかけた。

「…………」

「だんまりかい。まあ、どうでもいいけど。アリア先生に聞きましたよ。体に異常はないそうで」

「………なぜだ」

「はい?」

「なぜ、私はここにいる」

 取り留めない内容の言葉を口にしているシンに、男、サトーは首だけを起こし鋭い眼差しで尋ねた。

「俺があんたを連れてきたから」

 その眼光をものともせずに、シンはあっけらかんと答えた。

「なぜだ?」

「なぜ?なぜって、あん時言っただろう。『あんたらが引き起こした世界がどんなものか見る、っていう義務』がある、ってな。その義務を全うさせるために俺はあんたを抱えて大気圏突入何ていうバカな行動を取ったんだ。ちゃんとその義務を全うしてくれよ」

「ふん!くだらん。そのようなことをする義理などないわ!」

 シンの言葉に、サトーは憎悪を込めた声音で拒絶するが、それをシンは肩をすくめて否定の言葉を放った。

「拒否権何ていう上等なものがあると思ってんの?あるわけないだろう。あんたは、ただ、バカみたいに静かにモニターから流れる音と映像を見て聞いてればいいんだよ。両手足が拘束されているあんたにそれを防ぐ手段はないだろうからな。ま、諦めてくれよ」

「く!」

「ああ。一つだけあったか」

 サトーの悔しさを滲ませるうめきを無視して、シンは気軽に、それこそ明日の天気を尋ねるかのように尋ねた。

「あんた、何も世界に訴えずにここで自決する?」

「………なんだと?」

 シンの発した言葉の真意がわからなかったのか、サトーは今までとは異なる声で尋ね返した。

「だから、ここで舌でも噛み切って死ぬ?って聞いてるんだよ。都合のいいことにあんたの口には枷が存在していないんだ。その気になれば舌を噛み切れるぞ。ま、その場合、あんたの死体がただプラントに送られて政治的交渉の道具として使用されるんだけどね。それとも、生きて一人でも多くの人間に自分たちの思いをぶつける?あんたはどっちを選ぶ?」

「…………卑怯な!」

 シンの言葉の意味を察したサトーは、憤りと憎悪の篭った声で噛み付いた。

 その言葉を聞いた後では、選択する余地など存在していないのだからだ。

「何をもって卑怯、って言うか知らんが、俺はただあんたに選択肢を提示しただけだ。選ぶのはあんただ。好きにすれば良いさ」

 視線だけでも人を殺せそうな目で睨んでくるサトーを軽くかわしながら、シンは踵を返して扉へと向かった。

「返事は飯を持ってくるときにでもしてくれ。ただ、個人的にはあんたには死んで欲しくない。あんたの持っている怒りは、多分誰もが持つことの出来る純粋な怒りだと思うから。だから、罵倒されようが、蔑まれようが、生きて訴えて欲しい。あんたらのどうしようもなかった怒りを、悲しみを、憤りを。そうすれば、もしかしたら奇跡が起きるかもしれないからさ」

 扉の一歩手前でシンは背中を向けながら自らの思いを口にした。

 その言葉を発しているシンの表情は、独房に拘束されているサトーには伺え知れなかった。だが、つい先ほどまで自分が持っていた印象とは異なる声音にサトーは軽く混乱しながら答えた。

「ふん。子供の理想論だ」

「ああ。理想だよ。でも、だから口にするんだろう。だって、皆理想どおりに世界が回れば良いって思っているんだから」

「ふん」

 シンの言葉をそう切って捨てるサトーの耳に、ドアの開閉の音が入ってきた。

 そして、自身の呼吸の音しかしない空間に残されたサトーは、一人虚空に向け問いかけるのだった。

「エヴァ、リノ、マーヤ。私は、どうするべきだったんだろうな」

 サトーの問いかけに答える存在はいなかった。

 だが、眠りにつこうとした瞬間、サトーの耳に聞こえた二度と聞けないはずの声は幻聴だったのだろうか。

(あなた―)

(お父さん―)

(パパ―)

 その日、サトーは全てを失ってから初めて安らかな眠りを手に入れることが出来た。


「あ〜、怖かった」

 独房からかなり離れた通路脇に蹲りながら、シンは重たい空気を吐きながら体を弛緩させていた。

 サトーとの会話の最中に向けられた殺気の篭った視線は、予想以上に自分の精神を疲弊させていたことにシンは驚いた。

―あれが、本当の兵士の眼力、か

 いつの間にか汗にぬれている掌を服の裾でぬぐいながら、シンはよく勝てたな、と思うのだった。

 あの思いがもし、もう少しだけ強かったら、今頃自分はここにはいなかっただろう、と思うと、今さらながら恐怖がシンを襲ってきた。

 震える手を押さえながら、シンは外の空気を吸うために甲板に足を向けた。

「君は―」

 甲板には先客がいた。

 その人物を見た瞬間、シンは胸中で問いかけを発した。

―おー、GOD。あんたは俺が嫌いか

 内心、自身の知る限りの罵詈雑言をどこかの存在に送りながら、シンは先に甲板にいた人物に声をかけた。

「どうも。アレックスさん」

「ああ。たしか、シン・アスカ、だったよな」

「ええ」

 一人黄昏ていた人物、アレックス・ディノ、本名アスラン・ザラはシンに声をかけてきた。

 それに答えた後に会話が続かず、言いようの無い沈黙が降りた。

 確認の声をかけた後に何も口にしないアレックスを尻目に、シンは甲板の淵に座り込み海風を浴びながらオーブの国土を見つめた。

「……君は、元オーブの国民、だったよな」

 潮風に当たっているシンの背後から、アレックスの確認するような声が掛かってきた。

 それに首をかしげながら、シンは肯定の返事を返した。

「ええ。そうですけど」

「………」

 また沈黙が訪れた。

(何が言いたいんだ?)

 沈黙の空気の中、シンはアレックスの真意が見えずに首を捻った。

「………君は、君は恨んでいるのか?」

「え?」

「いや。すまない。議長から君のご家族が二年前オーブで……」

 口ごもるアレックスを見ながら、シンはどう答えるべきなのか悩み、そして答えた。

「そう、ですね。多分、恨んでるんでしょうね」

「……そうか」

「恨んでるから、期待はしていないですよ」

「なに?」

「中立、と言う言葉に夢を見た結果があれだったんです。期待するのは無理なのでは?」

 シンの辛辣な言葉に、アレックスはどう応えればよいのかわからなかった。

 政治的な理由や、当時の世界情勢を交えて訴えればよいのかもしれない。

 だが、国家が国民を守りきることが出来なかったのは、覆しようのない事実なのだ。

 そのことを踏まえたうえで意見を言うには、あまりにも自分はオーブより過ぎる事実にアレックスは愕然とすると同時にある答えにたどり着いた。

(俺は、二年前オーブを守りきれなかった言い訳をする相手を捜し求めていたのか?!)

 当時最高峰のMSを駆りながら、地球軍の侵攻を抑え切れなかった事実。

 それはしょうがない、と思うと共に、守るべき民間人を守りきれなかった兵士の言葉か、と尋ねる自分がいることにアレックス、いや、アスランは気がついた。

 気がつくと同時に、アスランはどうすればよいのか、と言う答えが欲しくなった。

 だからだろうか。

 続けてシンから発せられた言葉に惹かれたのは。

「だから、もう一度期待させてくださいよ。俺がうらやむように、ね」

 そういうとシンは、アレックスの肩を叩きミネルバ内部へと入って行った。

 シンの背中を見送りながら、アレックスは何か答えを見つけたような気がした。

 そして、空を、その先にある場所に視線を向けるのだった。


「さて、これからどうなるのかしらね」

「どうなる、とは?」

 通路を歩きながら発せられたタリアの言葉に、アーサーはそう尋ね返した。

 その問いかけに、タリアは目的の場所までの残り距離を考えて手短に答えた。

「オーブに寄ることが果たして私たちにとって吉と出るか凶と出るか、よ」

「それは……明言できませんが、アスハ代表如何ではないでしょうか」

「そうですね。私たちはいわば『まな板の上の鯉』ですからね。地球側の感情如何によっては我々の命は風前の灯になります」

 暗に、地球側が反プラントの姿勢をとった場合、オーブが尖兵となると言い切るアリシアに苦笑しながら、タリアは否定の言葉を言えなかった。まさに二人の言うとおりだからだ。

「さて。その話はここまでにして、お姫様をお送りしましょう」

 そういうと、タリアはカガリたちが滞在していた部屋のドアのインターフォンを押した。


「お帰りなさいませ。代表」

 ミネルバから降り立ったカガリを迎えたのは、その一言だった。

「うむ。かような状況のときに国を離れていたことをここに詫びる」

「いえ。代表がご無事でなりよりです」

 カガリとそのような言葉を交わしたウナトは、すぐ傍に控えていたタリアに視線を向けた。

「ザフトの方ですな。このたびは、代表を無事に国まで送っていただいたこと感謝いたします」

「いえ。任務ですので」

「国としても、代表を送っていただいたお礼はさせていただきます。が、ご存知のように状況が状況ですので、満足なお礼が出来ないかもしれませんが、その辺はご容赦を」

「存じ上げております。お気になさらずに」

「では、後ほど係りのものを向かわせますので、そのものに必要な物資等をお伝えください」

「ご配慮、感謝いたします」

 ウナトとタリアの会話を横で聞いていたカガリに、突如かけられる声があった。

「カガリ」

「あ。ユウナ」

 ウナトの横に控えていた青年、ユウナは厳しい視線でカガリを見つめていた。

「体調の方はどうなのですか?」

「あ、ああ。大丈夫だぞ」

 ユウナの問いかけに、カガリはどこか気後れしながら、いや、後方にいるアレックスを気にしながら答えた。

「そうですか。では、お疲れのところ大変不躾ですが、会議の方に参加していただきたいのですが。大丈夫でしょうか」

「ああ。わかった」

「では。こちらに車を待たせてありますので」

 そういうと、ユウナはカガリの肩を押しながら移動を始めた。

「あ」

「ああ。そうそう。アレックス君。代表の護衛ご苦労だったね。代表が無事に帰国できたのも君の尽力のおかげだよ」

 何か言おうとしたカガリを遮り、ユウナは佇んでいたアレックスに労いの声をかけた。

「いえ」

「後ほど、君の働きに見合った賞与はあたえるから、まずは疲れた体を休めてくれ。報告は明日でかまわないから」

「……はい」

「では、代表」

 肩越しにアレックスにそう伝えるユウナを、カガリはなんともいいがたい表情で睨み、それでアレックスに気遣わしげな表情を送るも、結局何もいえずに結うな、そして他の重臣達に囲まれるようにしてその場を去るのだった。

 アレックス、いや、アスランのそのような扱いを見たミネルバ側の、タリアとアーサー、それにアリシアは最初驚愕したが、すぐに納得した。

 なぜなら、彼の政治家は彼をアレックスとして扱っていたのであり、アスランとして扱っていたのではないからだ。

 オーブで彼がアレックス・ディノである限り、あのような扱いこそが正常なのだろう。

 前大戦の英雄であるアスラン・ザラを名乗らない限り、重宝される理由がないのだから。

 だが、それにしても―

「なんだか、英雄と言う幻想を汚された気分ですね」

 アリシアのこぼしたその言葉が、その場にいた人間の思いであったと同時に、彼はこの国で一体何を求めているのだろうか、と言う疑問も持つのだった。

 その疑問には、誰も答えてはくれず、ただ海鳥の泣き声が響くのだった。


「ナギ様。例の艦はオーブに立ち寄ったとの情報が入りました」

「へ〜。オーブにね〜。何か立ち寄らないといけない事情でもあったのかな」

 自分に使える男の報告を聞きながら、ナギは読んでいた古ぼけた厚手の本を閉じた。

「ま、いいけどね。それと、ロゴスの面々の動きは?」

「はい。予想通り、月の基地で活発な動きがあります。先遣隊に例のモノが配備されているようです」

 そう答える男が差し出した資料には、あるマークがしるされている大量のモノが搬入されている写真が貼り付けてあった。

「ふ〜ん。核、ね〜。そう、何度も同じ手が通じるのかな」

 それを一瞥したナギは、肩透かしを食らった、と言う声音で渡された資料を放り投げた。

「と、いわれますと」

「なに。過去、プラントは二度核攻撃を受けているんだよ。ユニウス7、ボアズとそれぞれ要所といってもいいところにね。そんな痛手を受けているプラントが核に対して対抗策をとらずにこの二年を過ごしているとは思えないんだけどね〜」

 そう応えるナギの声は、どこか確信めいたものを宿していた。

「では、そのことを知らせましょうか?」

「いや、今回は静観しようか」

 男の声をそう切り捨てるナギの顔には、嘲笑の笑みが浮かんでいた。

「静観、ですか?」

「そ。これから始まる劇の開幕のベルの代わりに綺麗な花火を上げなくちゃいけないんだからね。そのためには、プラント、地球軍両方の協力が必要だよ。だから、今回は静観さ」

「ですが、プラント側は核に対しての確実な対抗手段を持っているのでしょうか」

「さ〜ね〜。でも、持ってなかったら、コーディネイター何ていうのはそれまでの存在だった、って納得すれば良いだけだし。ま、ボクは全然痛くもかゆくもないからね」

 そう答えるナギの表情には、実際、多くの命が消えるかもしれないということに対しての関心がないようであった。

「わかりました」

 それを見た男は、そう頷くと次の案件を報告するのだった。

「それと、例の作戦に投入する者達の構成は―」

「ああ、花火が綺麗に上がったら作戦開始でね。もちろん、『新鮮な海の幸』を持たせてね」

「は。そのように処理いたします」

 そう答えると男はナギの前から下がるのだった。

「さて。始まりの号砲は上がるのか、それとも終末の炎で終わるのか。世界はどっちを望んでいるのかな?」

 ナギはそう呟くと、改めて本を読み直すのだった。

 ナギの手にした本の表紙には、『僕は調整者 著:ジョージ・グレン』と書かれていた。

―後書き―
 日増しに増す暑さにやられているANDYです。
 夏ばてには気をつけてください。

 では、恒例のレス返しをといきたいのですが、今回は休ませていただきます。
 次回の時にまとめて返信したいと思います。
 では。

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