「や」
ギタラクルの素顔を見て、キルアは大量の脂汗を流して後ずさる。
「キルアの……兄貴……!?」
「あんま似てないわね」
チラッとカヲルはヒソカを見る。彼は笑みを浮かべており、カヲルは目を細めた。
「母さんと次男(ミルキ)を刺したんだって?」
「まぁね」
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな」
息子に、そんな目に遭わされ、泣くのも当然だとレオリオは頷く。
「感激してた。『あの子が立派に成長してくれてて嬉しい』ってさ」
が、余りにもぶっ飛んだギタラクルの言葉に、レオリオはズッコけた。
「『でも、やっぱりまだ外に出すのは心配だから』って。それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど……奇遇だね。まさか、キルがハンターになりたいと思ってたなんてね。実は俺も次の仕事の関係上、資格を取りたくてさ」
「別になりたかった訳じゃないよ。ただ、何となく受けてみただけさ」
「そうか、安心したよ。心置きなく忠告出来る。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」
ギタラクルの言葉に、アスカとレオリオは額に青筋を浮かべる。ギタラクルは更に続ける。
「お前は熱を持たない闇人形だ」
ピクッとレイが、その言葉に反応し、目を細めてキルアを見る。
「自身は何も欲しがらず、何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一、歓びを抱くのは、人の死に触れた時。お前は俺と親父に、そう育てられた。そんなお前が何を求めてハンターになると?」
「確かにハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。だけど、俺にだって欲しいものくらいある」
「ないね」
キルアの意見をギタラクルは、即座に否定する。が、キルアは更にギタラクルに噛み付いた。
「ある! 今、望んでる事だってある!」
「ふ〜ん。言ってごらん。何が望みか?」
そう問われると、キルアは顔を俯かせる? ギタラクルは「どうした?」とキルアに尋ねる。
「本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!!」
否定すると、キルアは声を震わせながら、ポツリと言った。
「ゴンと……友達になりたい」
その言葉に、レイはフッと小さく笑う。キルアは、顔を俯かせて自分の望んでいる事を兄に告げた。
「もう人殺しなんてウンザリだ。普通に……ゴンと友達になって、普通に遊びたい」
「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ」
しかし、ギタラクルはそれすらも即座に否定した。
「お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断出来ない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンが眩し過ぎて測り切れないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「違う……」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる」
ギタラクルの矢のように放たれる言葉に、キルアは拳を握り締めて震える。
「何故ならお前は根っからの人殺しだから」
そうギタラクルが言い切ると、不意にレオリオが一歩前に出る。が、他の立会人に止められた。
「先程も申し上げましたが……」
「ああ、分かってるよ。手は出さねぇ」
が、口は出すレオリオ。
「キルア!! お前の兄貴か何か知らねーが言わせて貰うぜ! そいつはバカ野郎でクソ野郎だ、聞く耳持つな! いつもの調子でさっさとぶっ飛ばして合格しちまえ!! ゴンと友達になりたいだと? 寝ぼけんな!! お前らとっくにダチ同士だろーがよ!!」
「え?」
「!」
レオリオの言葉にギタラクルは意外そうに、そしてキルアは目を見開く。
「少なくともゴンは、そう思ってる筈だぜ!」
「そうなの?」
「たりめーだ、バカ!!」
「そうか……まいったな。あっちは、もう友達のつもりなのか」
とても、まいったとは思えない様子のギタラクルは、ピン、と人差し指を立てて提案した。
「よし、ゴンを殺そう」
それにレオリオ、クラピカ、キルアは驚愕し、ヒソカは目を細める。アスカは舌打ちすると、小声で「カヲル……」と呟く。するとカヲルはフッと笑みを浮かべた。
「分かってる。一応、扉の外側に壁作っとくよ」
それにアスカは笑みを浮かべて頷いた。
「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」
ギタラクルは針を取り出し、ホールから出て行こうとする。
「彼は何処にいるの?」
「ちょ……待ってください! まだ試験は……あ」
彼を止めようとした立会人だったが、顔に針を打ち込まれる。すると、立会人の顔がビキビキと音を立てて変形する。
「あ……? アイハハ」
「何処?」
「とナリの控え室ニ」
「どうも」
「あ……ァあ」
顔が戻らず膝を突く立会人。ゴンを殺そうと、ホールから出ようとするギタラクル。が、扉の前に、レオリオ、クラピカ、ハンゾー、そして他の立会人が彼を外に出さないよう立ちはだかる。
「まいったなぁ……仕事の関係上、俺は資格が必要なんだけどな。此処で彼らを殺しちゃったら、俺が落ちて自動的にキルが合格しちゃうね。あ、いけない。それはゴンを殺っても一緒か……う〜ん」
彼らを相手にしてもゴンを殺せるような余裕の態度のギタラクル。彼は、少し考えると「そうだ!」と声を上げた。
「まず、合格してからゴンを殺そう! それなら仮に、此処の全員を殺しても俺の合格が取り消される事は無いよね?」
「うむ、ルール上は問題ない」
ギタラクルの質問にネテロは頷いた。
「聞いたかい、キル? 俺と戦って勝たないと、ゴンを助けられない。友達の為に俺と戦えるかい? 出来ないね。何故ならお前は友達なんかより、今この場で俺を倒せるか倒せないかの方が大事だから」
ギタラクルはキルアの方に向き直り、近づいて来る。それにキルアは恐怖で退いてしまう。
「そしてもうお前の中で答えは出ている。『俺の力では兄貴を倒せない』……『勝ち目のない敵とは戦うな』、俺が口を酸っぱくして教えたよね?」
手を広げてキルアに向かって伸ばし、ギタラクルが言う。逃げようと、足を後ろに引かせるキルアだったが、ギタラクルが「動くな」と止めた。
「少しでも動いたら戦い開始の合図とみなす。同じくお前と俺の体が触れた瞬間から戦い開始とする。止める方法は一つだけ。分かるな? だが、忘れるな。お前が俺と戦わなければ大事なゴンが死ぬ事になるよ」
キルアは動けなかった。ギタラクルの手から異様な感じた事の無い不気味なプレッシャーが発せられていたからだ。震える事しか出来ないキルア。その時、彼の後ろからレイが声をかけた。
「戦いなさい、キルア」
「レイ?」
意外な言葉を発するレイにアスカは眉を顰める。
「このまま、その男の言いなりになれば……貴方は本当に、兄の人形…………人形のまま一生を送るつもりなの……? そんな一生……自分を不幸にするだけ……」
その言葉にカヲルはフッと笑い、アスカはヤレヤレ、と嘆息し、レオリオ達の方に移動した。
「好きにしなさいキルア。どっちしろ、そいつにゴンは殺させない。アタシ達が殺してでも止めるわよ」
そしてギタラクルの手がキルアの額の直前にまで迫る。その際、キルアの頭の中で、ギタラクル、レオリオ、レイ、アスカの言葉が何度も何度も反復される。キルアは、ゆっくりと重い口を開いた。
「…………まいった。俺の負けだよ」
キルアの敗北宣言。レオリオとクラピカは驚愕し、レイは静かに目を閉じ、アスカは舌打ちした。ギタラクルは、それに対し、ポンと手を叩いて穏やかに言った。
「あ〜、よかった。これで戦闘解除だね。はっはっは、嘘だよキル。ゴンを殺すなんて嘘さ。お前をちょっと試してみたのだよ。でも、これでハッキリした」
ギタラクルはキルアの頭に手を置いて冷徹に言った。
「お前に友達を作る資格は無い。必要も無い。今まで通り親父や俺の言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期が来れば、俺が指示する。今は必要ない」
その後のキルアは、まるで抜け殻のように、レオリオやアスカ達が何を言っても反応しなかった。それが突然、レオリオとポドロの試合開始と同時に、キルアはポドロを殺害した。そして、委員会はキルアを不合格とした。
サトツから事の顛末を聞いて、ゴンは早足で講堂へ向かい、勢い良く扉を開いた。他の合格者や試験官達はゴンに注目するが、彼の視線はギタラクル一人にしか向けられていなかった。
ゴンはゆっくりとギタラクルの所までやって来ると、怒気を孕んだ口調で言った。
「キルアに謝れ」
「謝る? 何を?」
「そんな事も分からないの?」
「うん」
「お前に兄貴の資格ないよ」
「兄弟に資格がいるのかな?」
ギタラクルの返答に、ゴンは彼の腕を掴むと、思いっ切り引っ張り上げた。片腕で自分よりも大きなギタラクルを引っ張り上げた事に他の者は驚く。
床に無理やり立たされたギタラクルをゴンは睨み付ける。
「友達になるのにだって資格なんていらない!!」
ギリギリとギタラクルの腕を掴む力が強くなる。
「(こいつ……)」
「キルアの所へ行くんだ。もう謝らなくたって良いよ。案内してくれるだけでいい」
「そしてどうする?」
「キルアを連れ戻す」
「まるでキルが誘拐でもされた様な口ぶりだな。アイツは自分の足で此処を出て行ったんだよ」
「でも自分の意志じゃない。お前達に操られてるだから誘拐されたも同然だ!」
「丁度、その事で議論してた所じゃ、ゴン」
ゴンとギタラクルの問答に不意にネテロが口を挟んで来て、ゴンはキョトンとなる。
「クラピカとレオリオの両方から異議が唱えられてな。キルアの不合格は不当との申し立てを審議中なのじゃよ」
するとクラピカが立ち上がって、異論を述べる。
「キルアの様子は自称ギタラクルとの対戦中とその後において、明らかに不自然だった。対戦の際に何らかの暗示をかけられて、あのような行為に至ったものと考えられる」
通常、どんなに強力な催眠術でも殺人を強いるのは不可能。が、キルアの場合、殺しは日常生活に組み込まれ、倫理的抑制が働かなくても不思議ではないのがクラピカの異論だった。それに続いてレオリオが異論を述べる。
「問題なのは俺とポドロの対戦中に事が起きた点だ。状況を見れば、キルアが俺の合格を助けたようにも見える。ならば、不合格になるのはキルアじゃなくて俺の方だろ?」
「いずれにせよ、キルアは当時、自らの意志で行動できない状況にあった。よって彼の失格は妥当ではない」
「全て推測に過ぎんのぉ。証拠は何も無い」
2人の異論に対し、ネテロはそう答えた。
「明らかに殺人を指示するような言動があったわけでもない。それ以前にまず催眠をかけたとする根拠が乏しい」
その返答にクラピカは「確かに」と呟く。更にネテロは続ける。
「レオリオとポドロの対戦直後に事が起きたという点については問題は無いと思っておる。両氏の総合的な能力は、あの時点でほぼ互角。経験の差でポドロを上位に置いたがの。格闘能力のみを取れば、寧ろレオリオの方が有利とワシは見ておった」
敢えてキルアが手助けをするような場面ではない、とネテロはレオリオの意見も切り捨てる。それにレオリオはチッと舌打ちした。
すると今まで黙っていたポックルが不意に口を開いた。
「不自然な点なら他にもあるぜ。ヒソカと戦ってた時のアンタ達の様子だ」
ポックルはチラッとクラピカとレイを見る。
「一体、何を言われたんだ? お互い余力がある状態で、アンタ達に何事かを告げたヒソカの方が負けを宣言した。変だろ? 俺とハンゾー戦やポドロとヒソカ戦のように囁かれた方が負けを認めるのは分かる。何らかの圧力をかけられたんだろうとな」
が、クラピカとレイは逆だった。二人は何か取引をしたのではないか、とポックルが言う。
「『不自然』が理由で合否に異論があると言うなら、アンタ達の合格も相当不自然だぜ。後ろ暗いことがないなら、あの時、何を言われたか教えて貰おう」
「答える義理は無い」
「ノーコメント」
「責任はあるんじゃないのか?」
「単にヒソカが勝手に言って、勝手に負けを認めただけよ」
「確かに……もし私の合格が不自然なら、不戦勝での合格も自然とは言えないな」
その言葉に、ピクッとポックルが反応して立ち上がった。
「何だと?」
「おいおい、俺はさっさと講習だけ済ませて帰りてーんだがな」
何だか話が大分、ややこしくなってきてハンゾーが呆れた口調で言う。
「どうだって良いんだ、そんなこと」
が、ゴンはスッパリとクラピカ達の異論やポックルの意見を切り捨てた。
「人の合格にとやかく言うことなんて無い。自分の合格に不満なら満足できるまで精進すればいい」
サトツに言われた事を思い出し、ゴンは続ける。
「キルアならもう一度受験すれば、絶対合格できる。今回、落ちたことは残念だけど仕方ない。それより……」
ギタラクルの腕を掴む力が更に強くなる。
「もしも今まで望んでいないキルアに、無理やり人殺しさせていたのなら、お前を許さない」
「許さないか………で、どうする?」
「どうもしないさ。お前達からキルアを連れ戻して、もう会わせないようにするだけだ」
そうゴンが言うと、ギタラクルはスッとキルアの時のように掌をゴンにちかづける。それにキルアと同じ異様なプレッシャーを感じたゴンは、思わずギタラクルから距離を取った。
「さて諸君、よろしいかな」
そこへ、ネテロが言って来た。
「ゴンの言ったとおり、自分の『本当の合格』は自分自身で決めれば良い。また他人の合否を云々言っても我々は決定を覆すつもりはない。キルアの不合格は変わらんし、お主達の合格も変わらぬ」
「それでは説明会を再開します。まぁ、折角ですから、最初から説明しますね」
ネテロに代わってマーメンが講習を再開した。
「皆さんにお渡ししたこのカードがハンターライセンスです。意外と地味とお思いでしょうね。その通りです。カード自体は偽造防止の為のあらゆる最高技術が施されている以外は他のものと変わりありませんから。ただし、効力は絶大!!」
マーメンは、ライセンスの特権について大まかに説明した。
まず、民間人が入国禁止の国の約90%と立入禁止区域の75%まで入ることが可能になる。
公的施設の95%はタダで使用できる。
売るだけで7代遊んで過ごせるし、持っているだけでも一生何不自由なく暮らせると、言ったものだった。
「それだけに紛失・盗難には十分、気をつけてください。再発行は致しません」
統計的にハンターに合格した者の5人に一人が1年以内に何らかのカードを紛失しているそうだ。
「プロになられたあなた方の最初の試練は『カードを守ること』と言っていいでしょう!」
その後、協会の規約などと講習が続く。
「さて、以上で説明を終わります。後はあなた方次第です。試験を乗り越えた自身の力を信じて、夢に向かって前進してください。此処にいる10名を新しくハンターとして認定致します!」
講習を終えると、ゴンは早速ギタラクルに尋ねる。
「ギタラクル、キルアの行った場所を教えて貰う」
「やめた方が良いと思うよ」
「誰がやめるもんか」
ベ〜、っとゴンは舌を出す。
「キルアは俺の友達だ! 絶対に連れ戻す!」
「後ろの5人も同じかい?」
そうギタラクルに言われて振り返ると、レオリオ、クラピカ、アスカ、レイ、カヲルが立っていた。
「当然よ」
「ま、このまま放っておくのも後味悪いし」
「…………良いだろう。教えた所で、どうせ辿り着けないし」
6人の意気込みに何を言っても無駄だと悟ったギタラクルは、キルアの行った場所を教えた。
「キルは自宅に戻っている筈だ。ククルーマウンテン……この頂上に俺達一族の棲み家がある」
「さて、これでもう、この建物を出たら、諸君らはワシらと同じ!」
ネテロは、講習が終えると合格者達に最後の言葉を投げかける。
「ハンターとして仲間でもあるが、商売敵でもあるわけじゃ。ともあれ、次に会うまで、諸君らの息災を祈るとしよう。では、解散!」
そうして10人は、それぞれ講堂から出て行った。ゴン、レオリオ、クラピカ、アスカ、レイ、カヲルの6人の背中を見つめるギタラクルにヒソカが尋ねる。
「いいのかい? 殺し屋が自分のアジト教えちゃって?」
「うん。隠してないし、地元じゃ有名だしね。まぁ彼らも行ってみれば分かるよ。俺達と彼らじゃ、住む世界が違うって事がね」
ふと、ギタラクルはヒソカが自分の手首に注目しているの気付いた。
「これか。うん、折れてるよ」
ギタラクルの手首は真っ赤に腫れ上がっていた。どうやら、ゴンの馬鹿力で折れたようだ。ギタラクルはゴンを見て、小さく笑う。
「面白い素材だ。ヒソカが見守りたいって気持ちが良く分かるよ」
「だろ」
ギタラクルが、ゴンを殺すと言った時、実は誰よりも止めようとしたのはヒソカだった。もっとも、それに気付いていたのは、あのカヲルだけだろう。アスカはゴンを殺させないよう、レイはキルアに注目していた為、ヒソカの事に気付かなかったようだ。
「(それだけに俺から見れば危険人物なんだよな。出来れば今の内に……)」
殺しておこう、と考えるギタラクルだったが、ヒソカが自分を睨んでいるのに気付いた。
「ゴンは僕の獲物だ。手出ししたらタダじゃおかないよ」
「分かってるよ。短い付き合いだが、ヒソカの好みは把握した。で、ヒソカ。君はこれからどうするんだ?」
「ジッと待つよ。果実が美味しく実るまで」
楽しそうに言うヒソカに、ギタラクルは何も言わなかった。
一方、ゴン達は、これからキルアの所に行く事について話し合っていた。
「ククルーマウンテンか。聞いた事がねぇな。クラピカ、何処か分かるか?」
レオリオが尋ねるが、クラピカは何か考え事をしているようで返事をしなかった。
「おい、クラピカ!」
「ん? ああ、何だ?」
「山だよ。アイツが言ってたククルーマウンテン! 場所に心当たりは無いか?」
「いや、分からないな。だが、調べれば分かるだろう。後でめくってみよう」
「うむ」
めくる、という単語についてゴンが首を傾げる。と、そこへ「よぉ」とハンゾーが声をかけてきた。
「俺は国に戻る。長いようで短い間だったが楽しかったぜ。もし、俺の国に来る事があったら、言ってくれ。観光の穴場スポットに案内するぜ」
そう言い、ハンゾーは6人に『雲隠流上忍 半蔵』と書かれた名刺を渡す。それを見た6人の感想は、自己主張の強い忍者もいるんだな、だった。そしてハンゾーと別れると、今度はポックルが話し掛けてきた。
「さっきは感情的になってしまい、すまなかった」
「いや、私の方こそ非礼を詫びよう」
「御免なさい」
クラピカとレイに謝られて、ポックルは首を横に振った。
「いや、アンタ達が正しいからこそ俺もムキになったんだ。まさか、あんな不完全な形で合格するとは思ってもみなかったからな。そのわだかまりを、あの場でぶちまけたかったんだと思う。だが、もう吹っ切れた。せっかく受かったからには最大限利用する」
問題はこれから何を成すのか、だとポックルが言うとクラピカも笑って頷いた。
「俺は、これから世界を回って、様々な未確認生物を見つけ出す。いわゆる幻獣ハンターってやつだ。何か知りたい情報があったら一緒に探ってやるぜ。どうだい?」
「うん。ジンってハンターのこと知りたいんだ。どんな噂でも良い」
「ジン……か。写真とかあるかい?」
「うん」
頷き、ゴンはポックルに父親の写真を渡す。それをデータに入力すると、ポックルは他の者に尋ねる。
「アンタ達はあるか?」
「いや、特に無い」
「アタシ達も」
アッサリと答えるクラピカにレオリオは眉を顰めた。
「そうか。また何かあったら此処に連絡をくれ。ホームコードだから、そのつもりで」
そう言い、ポックルは一枚のメモを渡す。
「そうか。これは私のホームコードだ」
「これが俺の」
「はい、アタシのもあげる」
「…………私の」
「ホームコード交換で友情を深めるのもまた良いね」
クラピカ、レオリオ、アスカ、レイ、カヲルもそれぞれポックルにメモを渡す。ゴンは訳が分からず、頭に?を浮かべている。
「ゴンも教えてくれよ。でないと連絡が出来ない」
「いや、あの……ホームコードって何?」
ゴンの質問に、6人は唖然となるが、レオリオとクラピカは「そうか」と笑った。
「こいつ、ハンターの仕事も知らないで試験に来たんだった」
「ホームコードというのは、いわば留守番専用の電話の事だよ、ゴン君」
ハンターは、大体が四六時中、世界のどこかを飛び回っているので、情報収集の為、どうしてもメッセージ専用の電話が必要になる。そこに吹き込まれたメッセージは世界の何処からでも携帯電話から聞き出せる。
無論、盗聴される可能性を考え、大事な情報を直接吹き込むべきではない。あらかじめ暗号を決めて、情報交換は出来れば直に会って行うのが良い。
「じゃあ、さっき『めくる』って言ってたのは?」
「ああ、それは電脳ページのことだ」
「これは簡単に言えば電信の万能情報辞典というところか」
自分専用の電話回線と登録ナンバーコードを買って入力すれば、世界中のどこのパソコンからでも知りたい情報を取り出せるシステムである。勿論、表層的な情報が大部分で、デマも多いが、『事典よりも詳しく知りたい』ぐらいの内容は全てそれで知ることが出来る。
その電脳ページで何かを調べる事を俗に『めくる』という。
「ふ〜ん、そうか」
「ホームコードと携帯電話と電脳コード。こいつはハンターの電波系三種の神器だぜ。ゴンも揃えといた方が良いぜ」
「あっ。そうだ、ハンターカードでもめくれるんだった」
「そういえば、そんな事も言ってたわね」
「え!? 本当!?」
講習を全く聞いてなかったゴンは、驚きの表情になる。
「しかもハンターカードなら無料で電脳ページを使用できる。早速、使ってみるか?」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、やめとく! まだ使わないって決めたし」
使いたくてウズウズしてるが、意地張って使わないというゴンに、6人は苦笑する。
「ま、それじゃホームコードが出来たら連絡くれよ」
「うん、ありがとう」
「達者でな」
ポックルのホームコードのメモを受け取り、彼と別れる。
「良し、俺らも行くか」
「あ、ちょっと待って!」
「じゃあ、僕らは僕らで先に調べとくよ」
「ああ」
クラピカ達を置いて、アスカ、レイ、カヲルの3人はパソコンのある部屋に行く。
「ククルーマウンテンは3人が来たら調べるとして、まずはハンターの人名探しましょ」
アスカのライセンスを使って、電脳ネットを開き、ハンターの人名リストを出す。
「半年前、ヨハネによって壊滅した都市が一般人入国禁止だったからね〜」
そこで、ヨハネの中にハンターがいるかもしれない――無論、彼らなら一般人入国禁止の国も軽々入国する可能性もあるが――ので、ハンターライセンスを取得し、調べる事にした。
そして、リストの中にある人物の名前を見つける。
『シンジ・イカリ』
アスカはレイとカヲルを見て、2人が頷くとその名前をクリックした。3人はゴクッと唾を呑む。
『この人物の情報を見るには200億ジェニー必要です』
ズシャアアアアアア!!!
が、次に表示された画面に、3人は盛大にズッコけた。
「あ、あの馬鹿……いつの間に、こんなにガメつくなったのよ」
「イカリくん………金の亡者?」
「でも、そんな君が愛しい」
「「……………」」
カヲルの発言に、アスカとレイは彼に冷めた視線を向ける。
「お〜い」
と、そこへゴン達がやって来た。
「何調べてたんだ?」
「ちょっと私的な事よ。それよりククルーマウンテンのこと調べるんでしょ?」
ゴンが頷いたので、アスカはククルーマウンテンを入力する。
『ククルーマウンテン……パドキア共和国デントラ地区にある標高3722mの山』
「パドキア……知らねーな。何処の国だ?」
「世界地図で確認するわ。現在地と目的地、はと……」
世界地図を出すと、パドキア共和国は現在地から北東に位置する国だった。
「一般観光客もOKみたいね。飛行船で3日……出発はいつ?」
「「今日の内!」」
ゴンとレオリオが口を揃えて答える。アスカは頷いて、今日のチケットを予約した。
「アスカ、次はハンターのページでジンってとこ、めくってみてくれる?」
「分かったわ」
アスカは再びハンターのリストのページを出す。そして、ジンの項目に移動する際、カヲルがハッと目を見開いた。
「ジン……何人かいるわね。ファミリーネームは?」
「フリークスだよ。ジン・フリークス」
「これね」
名前があったので、そこをクリックして、めくってみるとアスカとクラピカは目を見開いた。
「駄目ね」
「え?」
『極秘指定人物』
画面には、そう表示されていた。
「どういう事だ、こいつは?」
「電脳ページ上での、この人物に関するあらゆる情報交換が禁止されてるわ。電脳ネットワークの極秘会員に登録されてるのよ」
「ちなみに、個人がこれに加入する為には、一国の大統領クラスの権力と莫大な金が必要だ」
アスカの説明をクラピカが引き継ぎ、ゴンとレオリオは冷や汗を浮かべる。
「ゴン、お前の親父は予想以上に、とんでもねー人物みてーだな」
「…………うん」
電脳ネットで調べるぐらいでは分からないが、一国の大統領クラスの権力と莫大な資金を持ってるだけの人物というのだけは分かり、ゴンはゾクッと体を震わせた。
「アスカ君、ちょっと上に戻ってみてくれるかい?」
「? どうしたの?」
「いいから」
妙に真剣な表情のカヲルに眉を顰めながらも、アスカは画面を上へスクロールする。
「ストップ」
そしてカヲルが停止をかけると、アスカとレイも目を見開いた。ゴン達は首を傾げるが、レイが彼女にしては珍しく声を震わせた。
「何で……この名前が……?」
「偶然か、もしくは運命の悪戯か……」
「でも……極秘指定人物よ。この名前が本人なら、十分、考えられるわね」
3人は冷や汗を垂らし、それでもアスカとカヲルは笑みを浮かべながらその名前を見た。
『ゲンドウ・ロクブンギ』
〜レス返し〜
ショッカーの手下様
好きなものは好き。それがカヲルです。ヒソカも両刀使いですからね〜。イルミとチルドレン絡みはありませんでしたが、キルアとレイは少し境遇が似てるのでその辺に触れました。
のほ様
はじめまして! 感想ありがとうございます!
すんません、4と5を間違って打ってしまいました。訂正しておきましたので誤字などがあれば、これからもお願いします。
髑髏の甲冑様
お笑い担当というか変人担当です。レイの『同性愛好家』は素です。そしてヒソカの考えも素です。
“黙示録”のモットーは『仕事はするけど普段は自分の好きにしたいんで邪魔するな』です。だから殆どが着信拒否してます。
マルクトがマトリエルなのは不正解です。まぁ能力も出ましたし、正体明かすとサンダルフォンです。サンダルフォンはセフィロトにおいて、『マルクト』というセフィラを司るので、そこから取りました。他は内緒です。
あ〜、黙示録のキャラは連載前から大まかな構図が出来上がってます。あでも1人目のオカマキャラは良いかもしれませんね。
あ、シンジは大人姿にはなれません。ある理由があるのですが、それが今のシンジに繋がる事になります。
アスカにとっちゃ地獄みたいなリスクですな。レイには覚悟にならないですが、女性特有の覚悟になりますね〜。
久我様
単にカヲルは節操ないだけです。変化系同士、しかも変人思考なので気は合うと思います。
はい、次回からゾルディック家ツアーです。アスカ達も当然参加。試しの門は念なしで単純な身体能力アップを目指しましょうか。
拓也様
まぁ人間として復活させてくれた事ですし。ちなみに捕食されたのってゼルエルです。
グリードアイランドは書くつもりです。ただ、黙示録を絡ませるかどうか、絡ませるならどういう風にするかを少し悩んでいます。
エセマスク様
喰われても不味くて吐き出されそうです。レアモノなのに……。
上記でも書きましたが、マルクトはサンダルフォンです。主な役割は、伝令や送迎などです。無論、戦っても強いです。
今回、シンジもハンターライセンスを持っている事が発覚しました。
そういえば、レイとカヲルは友達って友達、昔はいませんでしたね。けど、初めてのお友達の家が殺し屋とはこれ如何に。
では、ダークよっぴーに罵られながら次回を書いてます。