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「狩人の世界に現れし福音者達  第12話(エヴァ+HUNTER×HUNTER)」

ルイス (2006-07-26 22:39/2006-07-27 11:40)
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 残り時間60時間を切った。タイマーを見ながらレオリオは苛立って、体を小刻みに震わせている。

「あのさ……もしかしてアイツ」

 その時、キルアが倒れているマジタニを見て呟いた。

「アイツ、もう死んでるんじゃないの?」

 その言葉に六人の顔付きが変わり、レオリオが立ち上がった。

「死んでる? う〜ん、くそ! 薄暗くて此処からじゃ良く分からねーな! おい! そいつの生死を確認させて貰おうか! 目を覚ますどころか、とっくに死んでるかもしれねーからな!」

「さっきも言ったでしょ。彼は気絶してるだけよ」

「あれから何時間経ったと思ってんだよ!? とても、お前の言葉だけじゃ信用できねーな!!」

「それじゃ、賭けましょうか?」

「!?」

 試練官のその言葉にレオリオは眉を顰める。

「彼が『生きてる』か『死んでる』か。賭けをしましょ」

「賭け!? 一体、何を賭けるってんだ!?」

「『時間』よ。賭けで勝負、時間がチップ代わり」

 彼女の名はレルート。希少生物売買と賭博法違反等により、懲役112年の囚人である。つまり、賭けに関しては彼女の方が何枚も上手である。

「モニターを見て」

 彼女がそう言うと、モニターに50という数字が二つ映る。

「使える時間は50時間ずつ。ただし10時間単位でしか使えない。どちらかの時間が0になるまで賭けを続ける。賭けの問題は交互に出題する事」

 つまり、もしレオリオが負ければ、タワー攻略の時間が50時間、短くなり、試練官側が負けたら相手の懲役が50年延びる、という訳だ。

「この勝負を受けるなら、彼の生死を確認させてあげるわよ」

「イカれた女だぜ。テメェの刑期をチップ代わりにするとはな」

「慎重に考えろよレオリオ。もし、この勝負に負けたら、いきなりタワー脱出の残り時間が9時間ほどに減るんだぞ」

 クラピカがそう忠告するが、レオリオはケッと吐き捨てた。

「テメーに言われたくねーな! 元はと言えば、お前がトドメを刺さないから悪いんじゃねぇか!」

 その発言にクラピカはムッとなり、ソッポを向いた。

「分かった。ならばもう何も言うまい」

「も〜。仲間割れはよそうよ」

「ゴン、やめておきなさい」

「レイ?」

 2人を宥めるゴンをレイが止めた。彼女はフゥと溜息を吐いてズバリ言った。

「プライドが大事とかでチームメイトに迷惑かけたり、頭に血が昇って怒鳴るだけの人に何を言っても無駄よ」

 辛らつなレイの言葉は、クラピカとレオリオの胸にグサッと突き刺さった。レオリオは表情を引き攣らせながらも相手に向き直る。

「よ、よ〜し! 勝負を受けるぜ!」

「OK。最初はアタシの出題だから、どちらの何時間賭けるかは、貴方が決めて良いわよ」

「……………生きてる方に10時間」

「アンタ……散々、死んでるって言ってたのに」

 生きてる方に賭けるレオリオに、アスカが呆れた口調で言った。

「……慎重ね」

「当然だろ」

 これで仮に外れたとしても、マジタニが死んでたらクラピカの勝利が確定する。もし、死んでるに賭けて気絶してるだけなら踏んだり蹴ったりである。

「それじゃ、確認して貰いましょう。橋をかけて貰えますか?」

<了解>

 すると闘技場に橋がかかり、レオリオとレルートがマジタニの生死を確認する。レオリオはマジタニの体を引っ繰り返すと、首に指を当てて脈を確認する。すると、ドクンドクンと脈打っている。

「ね、気絶してるだけでしょ?」

 これでレオリオのチップは60に、相手のチップは40になる。

「よし!! まずはレオリオがリードだ!!」

「まずいわね〜」

「え?」

「あの不細工、ひょっとしたらずっと目覚めないかも」

 死んでるよりも、生きてて起きている方が相手にしてみれば好都合だ。もし、このままずっと起きなければクラピカの勝負はつかず、相手は72年分の恩赦を受けられる、とアスカは説明した。

「さぁ、次はアンタの番よ。賭けの内容を決めて頂戴」

「…………こいつが本当に気絶してるかどうか賭けようぜ」

「!(おい、どうすりゃ良いんだ!?)」

 レオリオの賭けの内容に、気絶しているフリをしていたマジタニが焦った。

「(こんなのメモには無かったぜ!)」

 実はマジタニ、レルートが近づいて来た時、一枚のメモを渡された。内容は『気絶したフリを続けろ。このメモは口の中に隠せ』、というものだった。マジタニは、それはこうして気絶しているフリを続けていれば、72年分の刑期が短くなると悟り、狸寝入りを決め込んだのだ。

「(どっちだ!? このまま起きなくて良いんだな!?)」

「…………良いわよ。本当に気絶してる方に20時間賭けるわ」

「(OK! 分かったぜ。俺はこのまま気絶したフリを続けるぜ)」

 マジタニは、そのまま狸寝入りを続行する。

「でも、どうやって確かめるつもり?」

「簡単さ」

 レルートの質問に、レオリオはマジタニを担いで答える。そして、闘技場の端に移動し、マジタニの足を踏みつけ、喉を掴んで固定する。

「こいつを此処から突き落とす」

「!?」

「本当に気絶しているならこのままスンナリ落ちて死ぬ筈だ」

「気は確かなの? まだ、彼は前の勝負がついていないよ。そんな方法は認められないわ」

「安心しろよ。もし、こいつが落ちて死ねば、クラピカとの勝負はこっち側の反則負けって事で、トータルそっちの2勝だ。それで文句無いだろ?」

「…………そうね、ないわ」

 レルートが頷くと、マジタニはマジでビビる。

「(何だとぉ〜!! ふざけんじゃねぇぜ!! 一体、俺の命を何だと思ってやがんだ!?)」

「その代わり変更するわ。彼が目覚める方に40時間賭ける事にするわ」

 レルートが賭けを変更して来たので、レオリオはニヤッと笑みを浮かべる。

「ふん、女狐が。ようやくシッポ出しやがったな。それじゃ放すぜ」

 そう言い、首を掴んでいる手を放そうとしたレオリオだったが、その瞬間、マジタニが声を上げた。

「わっ、待て放すな〜!! 起きてる! 起きてるよ!」

 叫びながらマジタニは逃げ出す。

「イカれてるぜ、お前ら! 付き合ってられねー! 俺の負けで結構だ! 恩赦なんてクソくらえだ! 刑務所の方がよっぽど安全だぜ、全く!」

 とっとと逃げ出すマジタニを見て、レルートがレオリオに尋ねた。

「分かったのね。アイツが起きてた事」

「お互い様だろ。これでも医者志望なんでな。気絶してるかどうかなんて眼球運動をちょいと調べりゃ、すぐに分かる」

 掲示板の数字が80と20に変わる。

「これでそっちはチップ20」

「だが、勝負自体は3勝1敗で、こっちがリーチだ。さぁ、次はそっちが親だ! 何を賭ける?」

 そうレオリオが問うと、レルートはフードと手錠を外す。すると、髪を両側で縛った釣り目の勝気な女性の姿が露になる。

「そうね、それじゃ……アタシが男か女か賭けて貰うわ」

「何!? そいつは構わねーが……俺が外れた場合、どうやって確かめさせる気だ?」

「貴方の気の済むまで調べて良いわよ。アタシの体をね」

 それを聞いて、アスカ、クラピカ、キルアの3人が表情を引き攣らせる。

「レオリオの奴、男に賭けるな」

「うん」

「間違いないわ」

「え?」

 トンパも呆れており、レイはひたすら冷たい視線を送っている。ゴンだけは分からない様子だった。

「よし……男に10時間!!」

「やはりか」

「あのスケベオヤジ……」

「男ってのは、どうしてこう……」

「え? 何で分かったの?」

 レオリオは薄ら笑いを浮かべる。

「(これなら仮に外れても思う存分、調べる事が出来る! 当たっても外れても俺にはおいしい選択! っていうか外れろ!!)さぁ、答えは!?」

「残念ね。アタシは女よ」

「マ、マジか!?」

「確かめてみる?」

「も、も、も、勿論だ!!」

「ねぇ! 何で分かったの……うわ!?」

 レオリオが、ゆっくりとレルートに手を伸ばすと、何で彼が男に賭けるか未だ分からないゴンの両目をトンパが後ろから塞いで来た。


 しばらくお待ちください。


「外れて悔いなし!!」

 至福に満ち足りた表情で叫ぶレオリオ。チームメイトはもはや呆れ返っている。

「………彼もこんな気持ちだったのかしら……」

「は? 何ですって?」

 ふとレイがレオリオの様子を見て呟くと、アスカがピクッと反応した。

「私の胸を掴んでくれた時も喜んでくれたのかしら……」

 ポッと頬を染めて胸を腕で隠すレイ。クラピカ、キルア、トンパは突然の爆弾発言に唖然となっている。

「ちょっと待ちなさいよ、コラ。アンタ、あの馬鹿に胸掴まれたの?」

「ええ……押し倒されて」

「あ〜んですってぇ〜!?」

「思えばあの時から……この熱い想いは始まっていたのかもしれない」

「嘘つけぇ! どうせ事故に決まってんでしょうが! それならアタシなんて、アイツにチェロ聴かせて貰ったり……キ、キスだってした事あるんだから!!」

 真っ赤になってレイに対抗するアスカ。クラピカ、キルア、トンパは、この2人にそこまでさせる程の強者がいるのか、どんな人物なのか想像して冷や汗を垂らす。

 レイは無表情ながらも異様なプレッシャーを放ち、同じくプレッシャーを放っているアスカと睨み合う。

「アスカ……断っておくけど、私の方が付き合いが長いわ……」

「だから何よ? アタシなんか一つ屋根の下で暮らしてたのよ」

「私は彼を守ろうと自爆した事がある。とっとと精神汚染喰らった誰かと違うわ」

「アタシはアイツと最後まで生き残った人間よ!?」

「拒絶しただけでしょう。今になって何で探してるのやら」

「そういうアンタだって最後は化け物じみてアイツに最後の最後に拒絶されたでしょうが」

 もはや何を言い争っているのか分からない。それでもバチバチと火花を散らすアスカとレイ。

「ゴ、ゴン。2人を説得出来ないか? わ、私にはとても……」

「ゴメン、無理。俺も怖い」

「俺パス」

「女の戦いに口出しするとロクなことねぇぞ」

 男連中は既に彼女らに関わろうと思っていなかった。何か今、下手な事を言うと、殺されそうだった。

「しっかし、レオリオの野郎、このままじゃ負けるな」

 火花散らす乙女2人を放っておいて、トンパが闘技場の方を向き直って言った。

「え? 何で?」

「敵はレオリオの勝負傾向を完全に読んでいるぜ。あいつにゃ丸っきり博打の才能がねーってことだ。レオリオは外れても、なるべくダメージを受けないように賭けている。賭け事では負けた時の事を考えてる奴は、いつまでも勝てねーもんなのさ」

 それはレルートも実感していた。レオリオの賭け方には怖さが無い。賭けても10時間。自分のように多くのチップを賭けようとしない。賭け事にはハッタリも大事なのだが、レオリオにそれは無かった。

「さぁ、次は貴方が出題する番よ」

「う〜む(残りのチップは10時間だけ。もう負けられねーが、確実に勝てる問題なんて、すぐには浮かばねーし……くそっ! こうなりゃ運任せだ!)」

 レオリオは決心すると、グッと握り拳を突き出した。

「よし!! ジャンケンでどっちが勝つか賭けようぜ!!」

「いいわよ。アタシが勝つ方に80時間賭けるわ」

「なっ!?」

 躊躇しないレルートにレオリオは驚愕する。

「(こいつ、そんなにジャンケンに自信があんのかよ!?)」

「(―――って、顔してるわね。別に無いわよ、自信なんて)ジャンケン!!」

 ジャンケンとは運の要素もあるが、確率と心理の勝負でもある。単に確率だけを見れば負ける確率は3分の1、つまり3分の2は勝ちかあいこ。普通にすれば七割近く負けない、という事だ。そこへ統計と人間心理が付け加えられると、人が最も最初に出し易いのはチョキである。

「ポン!!」

 レオリオ:グー

 レルート:グー

「ふ〜」

 つまりグーさえ出しておけば、勝ちかあいこの確立が少しだけ高くなる。

「(次は何だ? グーが来たから次は裏をかいて……いや、更にその裏をかいて、いや待てよ。更に裏の裏……)」

 迷ったり自信の無い者は、心理的に安定を求め、前と同じ手を出すか、自信回復しようと前より強い手を出そうとする。

「(つまりこの場合、相手が出し易いのはグーかパー。故にパーを出しておけば負けはない!)」

「あいこで……しょ!!」

 レオリオ:グー

 レルート:パー

「オ〜ホホホホホ!! ジャンケン勝負決着〜!」

 レオリオのチップが切れ、レルートは軽やかな足取りで戻って行く。レオリオは悔しそうに唇を噛み締めた。

「これで3勝2敗か」

「しかも賭けに負けた分の時間、50時間を支払わなくてはならない」

 現在、残り時間は59時間45分。7人に残された時間は実質的に10時間を切っている事になる。

「すまねぇ〜。博打の自信はあったんだが」

「あのザマでか?」

 悔しがって戻って来るレオリオにトンパが言うと、何も言い返せずレオリオは引き下がった。

「しゃあない。アタシで決めてやるわ」

「あん? アスカ、お前、顔の傷増えてねーか?」

「レイと引っ掻き合ったりしてたからな」

 何故か顔の傷が増えているアスカにレオリオが尋ねると、クラピカが笑顔を引き攣らせて言った。見るとレイの顔にも引っ掻き傷がある。

「このムシャクシャはあいつ等で払わせて貰うわ」

 ゴキゴキと指を鳴らして闘技場へと渡るアスカ。試練官側も一人、闘技場に出て来た。すると、試練官の手錠が外れ、フードを脱ぐ。

 出て来たのは大柄な長い黒髪の男性だった。かなり筋肉質で先程のマジタニより大きい。

「コ……ロ……ス」

「あん?」

「オンナ……コロス!」

「!?」

 試練官は叫ぶや否や拳を振り下ろし、地面を砕く。アスカは咄嗟に後ろに跳んで避けた。

「ちょっとぉ! まだ何の勝負するか決めてないじゃない!」

<彼の名はレーナー>

 ふとスピーカーから声がした。

<幼少時代から母親に虐待を受けていたせいで15〜30の女性を強姦して殺した。懲役245年の大物だ>

「なるほど」

 小石が掠めて頬から滲み出る血を指でペロッと舐めると、目の前の男を睨み付ける。どうやら相当、歪んだ性格になってるようで頭が少しイッっちゃってるらしい。

「じゃ、勝負はデスマッチなわけ?」

「アゥ〜……コロス!」

「Ja(ヤー)、と取るわよ」

 ニヤッと笑い、アスカは身構える。

「おい、アスカ! 無茶すんなよ! お前、そんなの相手にしたら18禁な展開に……いや、それはそれでOK……」

「やかましいっ!!」

 先程から男の欲望に忠実なレオリオに向かってアスカが怒鳴ると、背後からレーナーが拳を振るってきた。

 ドゴッ!!

 彼の丸太ほどある腕から放たれたパンチは、アスカの背中に直撃し、彼女は闘技場の端まで吹き飛ばされる。

「アスカ!」

「おい! マジで死ぬぞ! ギブアップしろ!」

「相手がギブアップして聞くタマかよ」

 ゴンとレオリオが声を上げるが、キルアが冷静に言う。確かに相手は人間の言葉を理解しているかどうかすら怪しい。レーナーは、アスカの頭を掴むと持ち上げ、何度も腹を殴る。

「か……!」

「ママ! ママ! ママぁーーーーーーっ!!!!!!」

「こ……の! マザコン野郎!!!」

 アスカは頭を掴まれているレーナーの腕を掴むと、そのまま顔面を蹴る。その勢いでレーナーの腕から解放されると、アスカはコキコキと首を鳴らす。

「ったく……アタシはね〜、アンタみたいないい歳こいて親離れ出来ない奴が大嫌いなのよ!!」

「同族嫌悪……」(ぼそっ)

「うっさいわよ、レイ!!」

 余計な事を呟くレイに、アスカが怒鳴った。

「お、おいアスカ。お前、あんなに殴られたのに何ともないのか?」

「ああ、こんなのヘッチャラ……」

 ゴキャッ!!

 ヒラヒラとレオリオに向かって手を振るアスカの頬にめり込む。

「アスカ!」

「大丈夫……」

 思わず釣竿を構えるゴンだったが、レイが止めた。頬に拳のめり込んでいるアスカは、ギロッとレーナーを睨み付ける。

「ママ……ママぁーーーー!!」

 叫び、レーナーは再び拳を振り落ろすが、バシィッとアスカに片手で受け止められた。

「乙女を良くもまぁ殴ってくれたわね、この木偶の坊っ」

 ドゴォッ!!!!

 アスカの放った拳はレーナーの鳩尾に決まり、彼は鳩尾を押さえて蹲る。が、アスカは更に彼の頬に往復ビンタをかますと、右拳を強く握り締める。

「そんなに母親に会いたいんだったらね〜……地獄で会って来なさい!!!」

 ゴシャッ!!

 そして、思いっ切り拳を振り上げると、レーナーは派手にぶっ飛び、壁に叩き付けられる。ピクピクと小刻みに震えていたが、やがて動かなくなった。

「はい、これで4勝目。此処は通過ね」

 ゴシゴシ、と額から流れている血を拭いながらアスカは戻って来る。

「っしゃあ!! 良くやったぁ!! これで4勝だ!」

 バンバン、とレオリオがアスカの背中を叩く。ゴン、クラピカも彼女を賞賛するが、突然、キルアが声を上げた。

「ちょっと待てよ。俺、まだ何もしてないんだけど?」

「あぁん? もう必要ねぇだろ? 4勝したんだしよ」

「けど条件は『4勝以上』だから、別に5勝でも良いんだろ? それにさ……」

 チラッとキルアが試練官側の残る人物を見る。

「ねぇ、俺まだ何もしてないから相手してくんない?」

 そうキルアが言うと、試練官の手錠が外れ、フードを脱ぐ。フードの下は、髭を生やした男だった。その男を見て、レオリオはハッとなり、ゴンも寒気がした。

「キルア、やめとけ……アイツとは戦うな」

 そう言ったレオリオの表情で恐怖で汗だくになっていた。

 ザバン市犯罪史上最悪の大量殺人犯……解体(バラシ)屋ジョネス。彼に狙われた人間に関連は無く、老若男女見境無く殺された。少なくとも彼によって、146人が無惨な肉塊へと変えられた。

 被害者の体は、ある者は幾つもの肉片に千切られ、またある者は部分的に持っていかれ、残された体は放置された。

 死体には共通点があった。それは、全ての死体は必ず50以上の部品(パーツ)に分けられていた。そして、その作業は全て素手で行われていた。

 ジョネスが逮捕された時、彼は何の抵抗もしなかった。が、彼をパトカーに乗せた警察官は、エンジンキーを回す時にある事に気付いた。それは、いつの間にか自分の腕の一部が引き千切られていた事だった。

 彼の得意技は素早く素手で肉を毟り取る事だ。それを可能にしているのが、異様なまでの指の力だ。

 結果、ジョネスは968年という桁違いの服役を課せられた。

「久々にシャバの肉が掴めるぜ」

 嬉しそうにジョネスは、石の壁を素手で掴んで粉塵にする。

「あんな異常殺人鬼の相手をする事はねぇ。此処は通過したんだ。余計な事は……」

 レオリオの忠告を聞かず、キルアは闘技場に向かう。

「おい、キルア!!」

 が、キルアは問題なさそうに手を挙げて制した。闘技場でキルアとジョネスが対峙する。

「勝負の方法は?」

「勝負? 勘違いするな……これから行われるのは一方的な惨殺さ。試験も恩赦も俺には興味が無い。肉を掴みたい……それだけだ。お前は、ただ泣き叫んでいれば良い」

「うん。じゃあ死んだ方が負けでいいね?」

「ああ、いいだろう。お前が―――」

 次の瞬間、キルアはジョネスの背後に移動していた。彼の手には静かに脈打つ“何か”がある。ジョネスは自分のシャツの胸の部分に血が滲んでいるのを見て、キルアの方を振り返る。

 そして、彼の手の中にあるものが、自分の心臓だと気付いて大量の冷や汗を垂らした。

「か、返……」

 ジョネスが取り返そうと手を伸ばすが、キルアは冷笑を浮かべ、心臓を握り潰した。余りに一瞬の出来事に、皆、言葉を失い戦慄する。唯一、アスカとレイだけが冷静だった。

「凄いわね……」

「ええ……基礎能力なら私達より上ね」

 が、2人の頬にも冷や汗が流れていた。

「はい、これで5勝2敗だね」

「ああ……文句なしに君達の勝ちだ」

 キルアが言うと、ベンドットが答える。

「此処を通り過ぎると小さな部屋がある。そこで負け分の時間、50時間を過ごして頂こう」

「そうか。ところでオッサン、何もしてないから物足りないだろ? 俺と遊ばない?」

「…………やめておく」

 今の戦いでキルアの底知れない実力を感じたベンドットは素直に引き下がった。

「アイツ……一体、何者なんだ?」

 一方、ゴン達もキルアの恐ろしさに唾を呑んだ。

「あ、そっか。レオリオ達は知らないんだね」

 ゴンは、キルアの素性を話す。

「暗殺一家のエリート!?」

 キルアの家系は、家族全員が殺し屋という特殊な家庭で、彼自身、幼い頃から暗殺者としての訓練を受けて来たらしい。普段の陽気な子供の姿からは想像も付かないので、驚きを隠せない。

 やがて、7人は橋を渡って鉄格子が開いたので先へと進んで行く。少しすると、ベンドットに指定された部屋があり、その中に入る。

<この部屋で50時間過ごして貰えば、自動的にドアが開くので待っていたまえ>

 部屋には食料や本などが置いてあり、皆、思い思いに過ごす。その時、ふとクラピカがキルアに尋ねた。

「キルア、さっきの技はどうやったんだ?」

「技って程のもんじゃないよ。ただ抜き取っただけだよ。ただし……ちょっと自分の肉体を操作して、盗み易くしたけどね」

 そう言い、キルアが手を出すと、ビキビキと音を立てて指と爪が少し伸びて獣のようになる。

「殺人鬼なんていっても結局アマチュアじゃん。俺、一応元プロだし。親父はもっと上手く盗む。抜き取る時、相手の傷口から血が出ないからね」

 そう自慢げに言うキルアに、恐怖しながらもレオリオが言った。

「フン、頼もしい限りだぜ」

「(味方の内は……な)」

 クラピカの考えるように、敵に回すとこれほどの恐ろしい強敵がヒソカ以外にいたとは予想外だった。そして、それはキルア同様、試練官を死に至らしめたアスカとレイも同じようなものだと彼は思うのだった。


「ハァ……ハァ……」

 カヲルは大きく息を切らし、立ち止まっていた。彼の後ろには矢やら槍やら落とし穴……様々な罠の跡がある。カヲルはフゥと呼吸を整えて壁に手を添えると、カチッと音がした。

「嫌な予感がするねぇ……虫の知らせってヤツさ」

 気取ってみるが、彼の頬には冷や汗が流れている。すると、ドドドドド、という音が後方から液体が流れて来た。矢や槍がジュッと溶けるのを見て、カヲルは目を見開く。

「酸!? 本気かい」

 苦笑いを浮かべ、カヲルは手を広げて逃げると酸の勢いがピタッと止まる。が、しばらく走っていると再び酸は勢い良くカヲルを追いかけて来る。

「く……間に合え!」

 目の前に扉があったのでカヲルは勢い良く蹴っ飛ばす。すると、そこには他の受験生達が集まり、出て来た自分に注目して来た。出て来た扉は閉まり、酸を防いだ。

「どうやらゴールに着いたみたいだねぇ〜……流石の僕も疲れたよ」

 30時間近く、ずっと罠にかかりながら走りっ放しだったので、最初に言われたように休む暇さえなかった。カヲルはドサッと座り込むと、キョロキョロと周囲を見回す。チラホラ、と受験生が何人かチラホラといるが――ヒソカやアクアもいる――レイやアスカの姿は見えなかった。

「(僕より苦労するルートがあるのかな……まぁ良いや。彼女達なら大丈夫だろう)」

 とりあえず今は睡眠しようと、寝息を立て始めるカヲルだった。


 7人が部屋に入れられて50時間が経過した。

「よし、急ごうぜ」

 残り時間は既に9時間40分程度。急がないと間に合わない。4人は、走っていると、二つに分かれた階段の前に辿り着いた。

『どちらに行く? ○→登る ×→降りる』

 ―――――30分経過―――――

「ハァ……ハァ……」

 7人は、元の闘技場に戻って来ていた。

「30分走って逆戻りかよ……」

「だから素直に降りる階段を選べば良かったんだよ」

 息一つ乱していないキルアが辛辣に言う。

「だから素直に降りる階段を選べば良かったんだよ」

「っせーな!! テメーも納得済みで決めた事だろうが!!」

 その後、7人は幾度となく多数決を迫られた。電流クイズ、○×迷路、地雷つき双六等々……自分達が現在、何階まで降りて来たのかも分からぬまま、残り時間はとうとう60分を切った。

 7人の服はボロボロになっており、ゴン、キルア、アスカ、レイも息を切らしている。7人は、扉の前に来た。

「急……ごうぜ。残り時間が少ね〜」

『扉を ○→開ける ×→開けない』

「くそ!! 開けるに決まってるじゃねーかよ!!」

 レオリオが怒鳴りながらも4人はボタンを押す。

『○6 ×1』

 表示された人数に、レオリオがキレて、トンパに掴みかかる。

「いい加減にしろよテメー!! テメーの嫌がらせには心底ウンザリしてんだ、こっちはよ!!」

「ちょっと待てよ。俺は○を押したぜ」

「嘘つきやがれ!!」

「レオリオごめん!」

 トンパに突っかかるレオリオにゴンが謝って来た。

「俺が間違って押しちゃったんだよ」

「…………チッ! 何だ、そうかよ」

 レオリオは舌打ちし、トンパから手を離す。

「待てよ」

 が、そこでトンパがレオリオを止めた。

「キッチリ謝って貰おうか。今のは納得出来ないからな」

「元々テメーが、さっきから疑われるようなマネして来たからだろ? 別に謝る義理はねーな」

「まるで俺だけが足を引っ張ってるみたいな口利くじゃねーか」

「何?」

「誰のせいで50時間も足止めさせられたと思ってんだ? 致命的なミスしたのはお前さんの方だぜ!」

「よせ!」

 クラピカが止めるが、レオリオは「あ?」とトンパに詰め寄る。レオリオはナイフを出し、トンパも構える。

「ったく……賭けに負けて50時間無駄にしたレオリオにも責任の一端はあるし、新人潰す欲求を優先して疑われるようなマネをするトンパにも悪い所があるでしょうが。今更、んな事でいちいち揉めてんじゃないわよ!」

 アスカが怒鳴って壁を殴ると、ボゴォッと音を立てて壁に穴が空く。レオリオとトンパは顔を真っ青にしてアスカを見る。

「無様ね」

「アホらし。俺らは先に行くぜ〜」

 レイとキルアは、扉を開けて先に部屋に入った。

「! 見ろよ、皆。どうやら出口は近いぜ」

 キルアのその言葉に、他のメンバーは慌てて扉を潜る。そこには二つの扉があり、その上には彫像がある。扉は彫像の開いた腕の下にあり、真ん中の掲示板に問いかけがある。

『最後の別れ道 此処が多数決の道、最後の分岐点です。心の準備はいいですか? ○→はい ×→いいえ』

「準備? OKに決まってるぜ」

『○6 ×1』

「!」

「よせ! 詮索している暇は無い!」

 レオリオが再びトンパに突っかかろうとしたが、クラピカに咎められた。すると、石像から声が響く。

『それでは扉を選んで下さい。道は2つ……7人で行けるが長く困難な道。4人しか行けないが短く簡単な道。ちなみに長く困難な道は、どんなに早くても攻略に45時間はかかります。短く簡単な道は、およそ3分ほどでゴールに着きます』

 最後の問いかけに、7人の表情が強張る。

『長く困難な道なら○ 短く簡単な道なら×を押してください。×の場合、壁に設置された手錠に3人が繋がれた時点で扉が開きます』

 この部屋には、様々な武器と3人を拘束する手錠がある。

『この3人は時間切れまで此処を動けません』

 そこで声は途切れた。皆、沈黙していたが最初にレオリオが口を開いた。

「さて、先に言っておくぜ。俺は×を押す。そして、此処に残される側になる気もねぇ。どんな方法であろうと、4人の中に残るつもりだ」

 意外に人情に厚いレオリオが真っ先にそう言ったのだ。彼自身、心苦しいのだろう。現に彼は7人には、このタワーを共に潜り抜けて来た為に奇妙な仲間意識――トンパは別だが――が生まれていた。

「試験官も準備がいいこったぜ。古今東西、ありとあらゆる武器を揃えてくれてやがる。戦ってでも残る4人枠を決めろって事か」

「俺は○を押すよ。やっぱり折角、此処まで来たんだから7人で通過したい」

 レオリオに対し、ゴンが○を押すと宣言した。

「ゴン……」

「イチかバチかの可能性でも、俺はそっちに賭けたい」

「おいおい」

 が、そこでキルアが反発して来た。

「イチかバチかもクソもさ、残り時間は1時間も無いんだぜ。短い道を選ぶしかないよ。後は、どうやって4人を決めるか。勿論、俺は4人の中に入るつもりだし……誰も降りる気が無いなら、戦うしかないね」

「アタシはゴンに賛成かな……このまま3人を犠牲にしたら、後味悪いし……」

「私も…………まだ可能性はゼロじゃない……」

「アスカ、レイ……」

 自分に賛同してくれるアスカとレイにゴンは目を光らせた。7人の間に奇妙な空気が流れる。


 一方、塔の一階では第3次試験通過者が22名、集まっていた。すると、ある扉が開き、血まみれの受験生がフラつきながら出て来た。

「フ、フフフ……間に合った……ぜ」

 笑っていたが、受験生は倒れる。そこへアモリ三兄弟が寄って行った。

「死んでるぜ」

「馬鹿な奴だぜ。死んで合格よりも、生きて再挑戦すれば良いのによ」

 再び別の扉が開き、受験生が一人出て来た。

<残り1分です!>

「(アスカ……レイ……)」

 未だに姿を現さない2人に流石のカヲルの表情にも焦りが見え始めている。その時、別の扉が音を立てて開いた。

「ケツいて〜」

「短くて簡単な道が滑り台になってるとは思わなかった」

 出て来たのは、ゴン、キルア、クラピカ、アスカの4人だった。

「(4人……か)」

「(レイは?)」

「(まさか、こんな所で……)」

 ヒソカ、カヲル、アクアは人数が足りないので眉を顰める。

<残り30秒です>

「ギリギリだったね」

「まったくだ……アスカに感謝だな」

「やれやれ、アスカ様々だな」

 そこで更に扉からレオリオ、トンパ、レイの三人が出て来た。

「だが、こうやって7人揃ってタワーを攻略出来た。まったく、あの場面でよく思いついたな」

 そう言い、皆がゴンに注目する。ゴンは、あの状況である方法を思いついたのだった。

「“長く困難な道”の方から入って壁を壊し、“短く簡単な道”の方へ出る。確かにこれなら7人で時間内に脱出出来る」

「えへへ。アスカが壁壊したの見て、ひょっとしたらって思ったんだ」

「いよ! 馬鹿力!!」

「誰が馬鹿力よ!!」

 茶化すキルアに対し、アスカはヘッドロックをかける。それを見て笑っているゴンを見て、クラピカはフッと笑った。

「(極限の精神状態で2択を迫られて尚、それをぶち壊す事が出来る。そこがお前の凄い所だ)」

 そして、あの分厚い壁を粉砕して穴を空けてしまうアスカの剛力にも恐れ入った。

<タイムアップ〜!>

 そこで試験終了の合図が響いた。

 第3次試験の通過人数は32名だった。

 受験生達が塔を出ると、3次試験官のリッポーがいた。

「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は4次試験と最終試験のみ」

 試験が後2つだけと聞いて、受験生達の目の色が変わる。

「4次試験はゼビル島にて行われる」

 そう彼が言うと、海の向こうに小さな島が見えた。恐らく、アレがゼビル島なのだろう。

「では早速だが……」

 パチン、と指を鳴らすとアシスタントが小さな箱を持って来た。

「これからクジを引いて貰う」

「クジ?」

「これで一体、何を決めるんだ?」

 受験生達の質問に、リッポーはニヤッと笑う。

「狩る者と狩られる者」


 〜レス返し〜

 希望様
 今日も投稿します。次のなるべく早くするよう心がけます。


 もこもこ様
 やっぱ強引でしたかね? とりあえず感想ありがとうございます。これからもお願いします。


 髑髏の甲冑様
 やっちゃいました、アスカとレイの痴話喧嘩。強化系と操作系は離れてるから相性悪かったりして。とりあえず胸鷲掴みやファーストキスネタ出しました。満足して頂けましたか? カヲルも確かに漫画じゃあブチュ〜っとやってましたが、カヲルは別ルートだったので絡ませる事が出来ませんでした。
 アスカ達は現在、15,6歳です。今まで眠っていましたが、目覚めたのはつい最近です。その間、世界の情報は頭に流れて来ていました。ちなみに信じは現在、25歳です。でも少年の姿のままなのは、ビスケと同じです。


 ショッカーの手下様
 まず、あの試練官は武器を持っていたので、囚人ではないでしょう。で、ヒソカは昨年のハンター試験で試験官を半殺しにして失格になったそうなので、彼がもしその試験官なら、プロハンターである筈。なら当然、念は使えるでしょう。操作系か放出系っぽい。でも念を使ってる描写は無いので、その辺はスルーすべきだと思います。私も本読んだ時、同じ疑問を持ちましたから。

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