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▽レス始

「霊能生徒 忠お!〜二学期〜(課外授業1)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-07-23 23:57/2006-07-27 22:01)
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 油断していた。横島は己のうかつを呪っていた。
 寸鉄一つ帯びぬその体一つ。横島はにじり寄る捕食者からそろりそろりと離れようとする。だがその四人の捕食者達は炯炯と輝く眼を携え、逃げる獲物を追い詰める。

「うわぁ!横島さんの胸ってやっぱり大きいv」
「ほんまや。ぷかぷか浮かんどる…」
「ウェスト、細いよねっ!何センチだっけ?」
「髪もさらさら…ねえ、触ってもいい?」
(触るな!っていうか近づくんじゃねぇ!でないと理性が、理性がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)

 そこは、桃色の地獄だった。


 霊能生徒 忠お!〜二学期〜 課外授業1 〜マイ・フェア・レディー?(上)〜


「ふぃ〜〜…久しぶりの風呂やぁぁぁ」

 日曜の朝の大浴場『涼風』に、気の抜けた横島の声が響く。しかし、それを聞くものはいなかった。誤解のないように言っておくが、横島は毎日、ネギたちの部屋のシャワーを浴びている。だが、すんでいたボロアパートに風呂がないため、銭湯通いをしている横島にしてみれば

「やっぱ手足を伸ばせねぇのは、風呂とは呼べんわな…」

 というわけだ。

「さってと、今日はどうするかなぁ…」

 横島は湯船に浮かぶようにたゆたいながら、今日の予定を考える。

 実のところ、ここ数日は忙しくてのんびりしている暇もなかった。
 理由は美神から押し付けられた除霊の仕事の山である。


「アンタが一週間で復活する予定で調整しておいた仕事なのよ!
 は?麻帆良の外に出ると戻るのが遅れる?
ヒャクメが解呪用のアミュレットを持ってきて、それから一週間に、さらに修学旅行って、二週間先でしょうが!?そんなに待たせたら違約金がいくらになると思ってんのよ!?私は絶対にそんなの払わないわよ!…もしもの時は、香港マフィアでも通してアンタを売るから、そのつもりでいなさい!」


 と美神から電話で言われてしまい、その声に本気を感じた横島には、もはや逃げる道はなかった。
 幸いなことに、北海道など遠くでの依頼は4件、他は都内の霊障。しかも殆どが原因は分かるが文珠でもないと手が出せない、だが文珠なら割と簡単に何とかなる依頼だった。

「ま、文珠が必要じゃない仕事なら美神さんがやってるよな」

 とにかく横島は、朝は学生(とはいっても寝てるだけ)、そして夜はGSという昼夜逆転の二重生活を始めたのだった。

「残るは10件、か…」

 時間のかかる面倒なものや、遠出しなくてはならない除霊は終了した。
 後は都内のだけ。それも必要な下調べは終わっている。後は依頼人の立会いの前で、除霊をするだけなのだが…

「今日の昼間、時間が空いちまうんだよなぁ…」

 昼間に済ませる除霊は土曜に全て済ましてしまった。残ったのは純然たる除霊――つまり悪霊しばきであり、霊がよりはっきり実体化できる夜中にやりたい。もちろん文珠やタロットを使って強引に実体化させて、というのも手の一つだが

「文珠はもったいないし、タロットは修繕に出しちまったしなぁ…」

 タロットは霊的な強化によって、かなりの強度がある。だが、それでも霊的、物理的なダメージは避けれない。だから定期的にメンテナンスに出しているのだ。そして、今日はその日だ。
 さて、そうすると横島には、ぽっかりと暇な時間ができてしまった。
最初は夕方まで寝て過ごそうかとも思ったが、睡眠はそれなりに足りているので寝る、というのも何かもったいない気がした。そこで、アスナたちが話していた女子寮の大浴場に入ってみようと思ったのだ。
 普段は自分の健全な女好きとしてのデットライン――中学生以下には欲情しないというのを守るために近づけなかったが、今は日曜のしかも朝。誰かが入ってくることなどまずはないだろ―――

「いっちばん風呂〜〜〜〜〜っ!って、あれ?誰かいる」

 ぴきっ

 扉が開いたと響き渡った声に、お湯に浸かっていたはずの横島は、一瞬で凍りついた。
 しかも、それだけではない。

「横島じゃん」
「ほんまや、めずらしやんか」
「おはよう、横島さんも朝風呂?」

 つづく三人分の声と、濡れたタイルを裸足で歩くぺたぺたという音。

(ま、まさか…そんな、馬鹿な…っ!)

 予想外の事態に、思考が停止仕掛けた横島は、ゆっくりと後ろを振り向き…

「おっはよv横島さん!」
「よ、よう。運動部四人組じゃないか…」

 引きつった笑いを浮かべた横島は、もう自分の顔が赤いのか青いのかすら分からなかった。


 というわけで数分後。


「恥ずかしがらなくていいじゃん、女の子同士なんだしv」
「いや、そこは、まあ、いわゆる、つまりだな!」

 しどろもどろな横島は、湯船の中で壁際に追い詰められていた。気を抜けばまき絵たちの裸体を凝視しそうになる自分の視線を、なけなしの理性で明後日の方向に向けながら自己暗示を続ける。
落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺…!相手は中学生!ロウティーン!お前の煩悩はそんなガキの裸体で燃え上がるような変態的なブツじゃねぇはずだ。
 つまり俺は四人を見てもなんら問題はない!いや、むしろ見ないと怪しまれる!そう、俺は見るべきなんだ!むしろ見たい!
 アキラは水泳部の癖に水の抵抗を受けそうなけしからんボディライン。裕奈も背が低いにかかわらず80オーバー。亜子ちゃんの胸はサイズに欠けるが身長比からすれば決して悪くない。まき絵ちゃんはサイズに欠けるが新体操してるだけあってシルエットは悪くない。いやむしろその未発達な肢体が青い果実のように……

(って、俺は今、何を考えていたぁぁぁぁぁぁっ!)

 危うく道を踏み外しかけた横島は、あわてて正道に立ち戻る。
 その自己の内部で繰り広げられた激戦だったが、運動部四人組にしてみれば、横島が突然動きを止めただけにしか見えない。

「でさ、横島さん。その美容を保つために何か特別なことをやってたりする?」
「あ、それウチも気になる」
「と、特に何も…」

 横島は言いながら少しでも距離をとろうとする。しかし進行方向には、裕奈とアキラが回り込む。

「けちけちしないで教えてよ」
「私も興味があるわ……あれ?」

 間近まで近づいてきたアキラが眉間にしわを寄せ、続いて横島の額に顔を寄せる。
 そして当然、横島の目の前には、その見事なバストが突きつけられ、

(ぐふっ!)

横島の精神防壁に大きな亀裂が入る。

「ん?どうしたのアキラ?」
「うん…ちょっと…」

横島のいっぱいいっぱいの心理状態など気付かないアキラは、さらに近づいて横島の前髪をかきあげる。
 するとそこに、金属色の光沢があらわになる。それは金属の輪だった。梵字が刻まれた金色の輪が、頭を一周している。

「横島さん、これ何?」
「うわぁ…ひょっとしてこれ、金?」
「なんでお風呂の中でまでつけとるんや?」

 アキラに引き続き他の三人も、横島の額を覗き込む。しかしそれはつまり、無防備な膨らみを横島の目の前に差し出すということ。それぞれサイズの違う、決め細やかな肌に包まれた脂肪の塊が揺れる度に、横島の理性はハンマーで殴られたような衝撃を受けて、端から瓦礫と化していく。

(いかん!このままでは…だめだ!俺はロリコンじゃない!)
(本当にそうか?)
(だ、誰だ!?)
(俺は俺さ。お前の中の本当に正直な部分だ。…己を偽るな)
(…!?てめぇ、何を…)
(フッフッフッ…分かってるんだぜ。やせ我慢は体に良くない。見ろよ、アキラの乳を!まき絵の太ももを!)
(馬鹿な!相手は中学生だぞ!?)
(関係ないさ。年齢なんて関係ない。目の前にあるそれが事実だ。今、お前が感じている心拍が―――湧き起こる煩悩が真実だっ!)
(嘘だ!違うんだ!俺はドキドキなんかしてない!中学生相手に煩悩なんぞ湧いてないんだ!)
(違わない!認めろ!目覚めろ!悟りを開きロリコンへと解脱せよ!そしてそのまま一気にペドの境地へ…!)
(嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!)
「これ以上俺を追い詰めないでくれぇぇぇぇぇぇっ!」
「きゃっ!」

 あわや分裂気味になった横島の絶叫に、まき絵たちが怯む。

(好機!)

 横島はその隙を突いて包囲網を離脱。湯船から脱出する。

「そ、それじゃあ俺!体洗ったらもう上がるから!」

 言い残すと、横島は洗い場の蛇口のところへと行き、冷水のシャワーを頭から浴び始める。

俺はドキドキなんかしてない
俺はドキドキなんかしてない
俺はドキドキなんかしてない
俺はドキドキなんかしてない
俺はドキドキなんかしてない!
「あ〜あ、逃げられちゃった…」
「何がそんなに恥ずかしいんだろ?あんなパーフェクトボディなのに」

 必死に雑念を払う横島を見ながら、まき絵と裕奈は首をかしげる。

「けど、本当にどうやってあのスタイルを保ってるのかな?」
「肌もつるつるだし髪も信じられないくらい綺麗だもんねぇ。ネギくんが夢中になるのもわかるよv」
「けど、食生活とかはあんまり気にしてへん見たいやで。前に柿崎が、横島さんの主食はカップラーメンらしいって言うてたし」
「え゛っ、マジ!?それでどうやってあの容姿を…!?」
「ひょっとしたら、やっぱり何か特別な石鹸とか化粧水とかを使ってるとか…」

 アキラの予想に他の三人も沈黙し、そっと横島の方を向く。横島はどうにか精神の平衡を取り戻したらしく、シャワーを水からお湯に変えたところだった。
あの容姿、特にあの髪や肌の艶の秘密は、ひょっとしたら何か特別なシャンプーや石鹸を使ってるんじゃ…!

『ゴクッ…』

 四人は固唾を呑んで横島の一挙手一投足に注目する。

(な、なんだ!この強烈な気迫は…っ!)

その視線を背中に受けて、横島は軽い悪寒を感じて振り向く。

「え、あっ、な、何でもないよ、横島さん!」
「そ、そう!気にせずいつも通りにやっちゃってよ!」

 まき絵と裕奈はあわてて言いつくろい、亜子とアキラは明後日の方向を向いてごまかす。
 不審を覚えた横島だったが、首を少し傾げただけで再び前を向く。そして、すぐにその背中に突き刺さる4対の視線。

(ま、気にしても仕方ないわな)

 横島は気を取り直すと、適当に結んで短くしていた髪を解く。それから大浴場備え付けの石鹸に手を伸ばす。そしてそれに少しお湯をかけてから、その長く艶やかな黒髪に…

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 黒髪に石鹸が触れる直前、横島の手を何者かがつかんだ。振り向いてみれば、いつの間に移動したのか、鬼のような形相のまき絵がいた。そしてその後ろには裕奈たちが、こわばった表情で立っていた。

「横島さん!一体何するつもりなの!?」
「な、何って…髪を洗おうかと…」
「シャンプーは!?リンスはっ!?」
「使わないけど。つかいつもこれで…」
「そんな…」

 愕然とした表情で、まき絵は横島の腕から手を放す。

(な、なんなんだ、一体?)

 横島は至近距離から突き刺さる視線にびくつきながらも、改めて手にした石鹸を髪の毛にこすりつける。

「ああっ!」
「なんて惨い…」

 背後から裕奈とアキラの声が聞こえたがとりあえず無視。わしゃわしゃと髪を洗い、それが終わるとシャワーを出し、お湯の温度が安定したのを確認してから、髪についた泡を流す。
 しばらくして、泡は完全に流れ去り、髪は水気を含みしっとりと重くなった。横島はその髪を束ねてまとめると

「よいしょ」

 こともあろうか最高級の絹のような御髪を、雑巾か何かのように絞り上げる。
 その無残な扱いを見たまき絵たちは、イスラム教徒に壁画を壊されていくのを目の当たりにした歴史学者のような絶望的な表情をする。
 しかし横島の暴挙はまだ終わらなかった。
 横島は石鹸を手に取りタオルで泡立て、全身を等しく洗い始める。
『デリケートな部分は直接手かスポンジで…』とか『顔は洗顔用の…』とか言う気遣いは一切ない。まるで垢すりマッサージでもするかのような力のこめ方で、ガシガシと体をこすっていく。豪快、というには生ぬるい
やがて全身が泡に包まれてから、横島はシャワーで体を流し、タオルを洗う。
 その様子を、まき絵達は真っ白に石化しながら眺めていた。

 なんということだ。もはや美容とかそういうレベルじゃない。この人は、もう女の子としていろいろ間違ってる!

「えっと…それじゃあ俺はもう上がるから、お前達ものぼせないようにな…」

 タオルを洗い終えた横島は逃げるように、風呂場から出て行こうとして


がしっ!


今度は四人同時に横島の手をつかんだ。さすがに面倒になってきた横島は少し強い口調で言おうとして

「はぁ…ったく、だから何なん「横島さん!」は、はいっ!」

 しかし、まき絵のあまりに切羽詰った声に、思わず素直に返事をしてしまう。
 まき絵はいつもの『麻帆良のアホウドリ』と呼ばれているほわほわとした様子からは想像もつかない、真剣な表情でこう言った。

「今日、買い物に付き合って!」


「…本当にこれしか服がないの?」
「あ、ああ。そんな長く麻帆良にいる予定でもなかったし…」

 一時間後、若者の文化の中心地、渋谷に運動部四人組と、それに引きずられるようにやってきた横島の姿があった。

「せやかて、もっと選びようがなかったんか?」
「選びようって…大体普段からこんな感じだし」

 言いながら横島は、自分の服を見下ろした。
 今の横島の服装は、いつものバンダナにジーパンとジージャン。ジージャンの下には無地のポロシャツ。つまり原作の標準スタイルだった。
 現在の横島のルックスがかなりのハイレベルなのもあって、そういうファッションだといわれれば頷けるかもしれないが、それでも野暮ったい感がする。周囲にまき絵たちのような高レベルの、しかもセンスのいい服装の少女達がいればなおさらだ。

「普段からって、スカートとか履かないの?」
「スカートなんて持ってるわけないだろ?似合わないし」

 男なんだし、とこぼしかけた言葉を飲み込む横島。
 その発言を聞き、裕奈は頭をかきむしる。

「似合わないわけあるか!とにかく!女の子なんだからもっとおしゃれしなくちゃ!
 っていうか、中3にもなって化粧水どころか色つきリップの一つも持ってないってありえないって!」

 裕奈の主張に他の三人も頷いた。


 風呂から上がった後、四人は横島と一緒に横島が寝泊りしているというテントに、押しかけ同然に案内させた。
 横島が本当にテント暮らしをしていたということは確かに驚きの事実だったが、しかしそれをはるかに上回る驚きが、テントの中で四人を待ち受けていた。

 化粧用品が、一切なかったのだ。

 一切ないとは文字通り、ファンデーションはおろかブラシの一本すらなかったのだ。
 しかもそれだけではない。下着は僅か数枚、それも百均で売っているようなノーブランドの品ばかり。服は制服のほかには今来ているジーパンとジージャン、そしてシャツが数枚。
 同い年の女性として、それはもはや看過できるレベルではなかった。


「というわけで!第一回横島忠緒改造大作戦を始めようと思いまーす!」
『イェーイ!』

 まき絵の音頭に三人も応える。白昼堂々、往来の真ん中でやってよくも恥ずかしくないなぁ、これが若さか、と横島は少し距離をとりながら四人を眺める。

「ねぇねぇ?どこ行こっか?」
「そりゃやっぱり、109やないか?」
「駄目駄目!横島はもっと根本的に改造していかないと!」

 嬉々とした表情でああでもないこうでもないと話し合う四人。その様子を見ていた横島は、今日は着せ替え人形にされ続けるのだろうな、とため息混じりに思った。

「―――ということは…やっぱりアソコ?」
「そ、アソコ」
「アソコかぁ…うんv久しぶりに行ってみよっか?」
「よし、決定!つーわけで、行こっ、横島さん!」
「ウイッス、了解」

 ドナドナされる子牛の気分で、横島は四人についていったのだった。


「じゃ〜ん!ここが私達のお奨め!
 服や小物からコスメ、理髪に至るまで全てがそろった、総合ファッションセンター!
 その名も『美装術(Bi.So-Justu)』
 …って、どうしてそこで転ぶの、横島さん」
「いや、ちょっとその名前にデジャブがな…」

 よろよろと起き上がりながら横島は、目の前にそびえる、建築されてまだあまり時間がたっていないと思われる綺麗なビルを見上げた。それにはでかでかと『美装術(Bi.So-Justu)』というレタリングが自己主張していた。いくら目をこすっても、文字が消えたり最初の『美』の文字が『魔』に変わったりもしない。

「…もう一度聞くけど…何なんだこのビルは?新手のGS道場か?」
「だぁから!総合ファッションセンター『美装術(Bi.So-Justu)』だって。
 一昨年にできたんだけど、美容院から化粧品、小物、洋服までいろいろそろってる便利なところ」
「品揃えやセンスもピカ一で、オリジナルブランドとかも開発して、今じゃ中高生の間では有名なんや。しかも化粧とかの指導教室まであって、3Aでもここでお化粧の基本を教えてもらった人も多いんやで」

 裕奈の説明に亜子が解説を加える。
 その解説に、横島も少々落ち着きを取り戻す。
 そうだ、よく考えてみれば魔装術と関係があるはずないではないか。少なくともあの戦闘民族は自分と同じくらいファッションなどには疎いはず。
 それに良く考えれば、美装術だってありえない名前でもない。美しく装う術、だ。うん、結構いい名前ではないか。

「さ、早く入ろう!」
「おう」

 理論武装で平静を取り戻した横島は、まき絵達に連れられて『美装術(Bi.So-Justu)』と書かれたゲートを抜けて回転ドアを通る。
 すると広くなっているエントランスで、店員と思しき人物が待っていた。
 上背のある引き締まった体躯に派手な色の開襟シャツを着込んだその男は、オネエ言葉で話しかけてきた。

「あらぁ、可愛い子達ね、いらっしゃいv総合ファッションセンター『美装術(Bi.So-Justu)』にようこ「少しツラ貸せ!」

 言い終わるまもなく、横島はそのオカマ店員の首根っこを捕まえると、有無も言わさず物陰に引っ張り込む。

「ちょ、い、いきなり何するのよ!?」
「そりゃこっちの台詞だ!テメェこそ魔族になったくせにこんなところで何やってんだ!」
「ま、魔族ってどうしてそのこと……あっ!あんたその霊波!もしかして横島忠夫!?」

 壁に押し付けられたオカマ店員――鎌田勘九郎は横島の正体に気付き驚きの声を上げたのだった。


 コスモプロセッサで復活し、直後強さのインフレという壁にぶち当たり玉砕した勘九郎は、自分の道を見失った。人を捨て、魔族にまでなって手に入れた力をあっさり乗り越えられ、力というものに対して虚しくなったのだ。
 そんな時に彼を救ったのは、彼が白竜寺の門を叩く前に世話になっていたバーのママだった。そこで世話になりながら、勘九郎は自分と向き合い、そして最初に魔装術を手に入れようと思った時の感情―――美しくなりたいという美への情熱を思い出した。


「――それからファッション関係のお仕事を始めたってわけ」
「…なんつーか、人生いろいろだな」
「ええ。あたしもあんたが同業者になって私の目の前に現れるなんて思ってなかったわ」
「同業じゃねぇっ!」
「ふふっ、冗談よ。で、どうするつもり?」

 不意に、勘九郎が真面目な表情を作る。言われて横島もはっとなった。
勘九郎の話を信じるならば(こういう表現は微妙だが)彼は裏から足を洗った魔族だ。だがしかもかつて敵対しあった間柄。

「一つ聞かせろ。最近メドーサ達、アシュタロスに使えていた連中を中心に魔族が集まってるって話だが、テメェもそれにかかわってるか?」
「……聞いたことはないわね。あたしはこの仕事を始めてから、他の魔族とは会ったこともないわよ」
「そうか……」

 横島は勘九郎の言葉を吟味するように少し沈黙してから、彼の襟から手を離した。

「あら?見逃してくれるのかしら?」
「やり合っても得るものはないし、そっちに敵対する意思はないみたいだからな」
「信じるの?甘いわねぇ」
「言ってろ」

 横島は会話を終わらせて霊圧を下げる。

「横島さん?何やってるの?」

 まき絵達がやって来たのは、ちょうどその時だった。

「どうしたの、横島さん。いきなり店員さんをつれてっちゃったりして。知り合いなの?」
「知り合いっていうかなんていうか…」

 まさか前に殺し合いを演じた相手ですとは言うわけにはいかず、横島は言葉を詰まらせるが、変わりに勘九郎が歩み出る。

「ふふっ、ごめんなさいね。この子とは前にちょっと縁があったから、それでね。
 あたしは鎌田勘九郎よ」
「鎌田勘九郎……って、ひょっとしてあの勘九郎さんなんか!?」
「ん、この人知ってるの、亜子?」
「知ってるも何も、この『美装術(Bi.So-Justu)』のオーナーやないか!?」
『ええっ!?』

 横島を含め、亜子以外の四人は驚きの声を上げた。

「って、なんであんたまで驚くのよ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないって」
「聞いてなくてもここの名前を見れは一発で判りそうなもんじゃない。
で、横島。この子達はアンタのお友達?」
「はい!私達は横島さんの通う麻帆良女子中のクラスメートです!」
「女子中?」

 横島の変わりにまき絵が答え、その答えに勘九郎は眉根をひそめて横島を見る。
 横島は額に脂汗を浮かべて

「いろいろあったんだよ」

 まさか宴会芸のせいでとは言えず、見栄を張ってみる。明らかに嘘っぽい反応だったが、そこを問い詰めるほど勘九郎も野暮ではなかった。

「ふぅん、そ。で、今日は何の御用かしら?」
「あ、そうだ!実は今日は横島さんに女の子の嗜みを教えようかと思ってきたんですよ!」
「女の子の嗜み?」

 裕奈の言葉を聴いた勘九郎は、改めて横島を見る。
 化粧っ気のない肌と唇に、いかにも安物です、という感じの野暮ったい服装。

「ああ、なるほどねぇ。確かにもったいないわ」
「でしょ!ですからここは一つ、女子中高生が誰しも憧れるスタイリストの勘九郎さんにご指導を、と!」
「ふうん……判ったわ」

 言われた勘九郎は少し考えるそぶりを見せてから、唇をゆがめて笑顔で答えた。
 横島が何らかのリアクションを見せるより早く、勘九郎は横島のジーパンに手をやると、一気に肩に担ぎ上げる。

「わっ、ちょっと、コラ、何を…!」
「だって、こうでもしないと逃げるでしょ?」
「当たり前だ!つーかお前と二人っきりなんて、俺の尻が危険すぎだろ!」
「あらやだ。あたしは男の子のお尻にしか興味はないわよ?」
「なおさらイヤぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「がんばれ横島さ〜ん」
「応援しとらんで助けてぇぇぇぇぇっ!」

 もちろんのこと、運動部四人組は助けの手など差し伸べず、興味津々とその後を突いていくだけなのだった。


「うわぁ…v」
「おお…流石…」
「きれいやなぁ」
「可愛い」
「…はっ…もう失うものは何もない!」

 上から順に、まき絵、裕奈、亜子、アキラ。そして最後が横島の、着替えを終えての感想だった。

「失うものは、ってとてもよく似合ってるわよ」
「騙されんぞ!どうせこっけいな姿の俺を見て、みんな遊んでるんや!」

 後ろから横島の背中を押す勘九郎の言葉を、しかし横島は一刀の元に切り捨てる。
 美少女化しているはずなのに、自分に自信をもてない横島。自己否定もここまでくれば大したものである。

「えー。そんなことないよぉv」
「ほら、ここに立って!」

 まき絵と裕奈に引きずられ、横島は鏡の前に立つ。
 横島も観念してその鏡を見て…

「こ、これは…!」

 美しい少女がそこにいた。
 服は『Bi.So-Justu』のロゴが入ったベアトップの上に、薄い水色のワイシャツ。下半身はデニムのスカート。
 丹念に櫛を入れられた髪はいっそう輝きを増し、薄く唇に乗せられたグロスと僅かなマスカラが、白皙の美貌を引き立てている。
 誰だこれは、というのは愚問である。今見ているのが鏡である以上、この少女の招待は明らかに自分自身。その証拠に額には、風呂場でアキラが指摘した金環が存在感をアピールしている。

「あれ、横島さん、その輪っか、外さなかったの…って、横島さん?」

 まき絵が声をかけたが、横島は鏡を凝視したまま無反応。
 もう一度声をかけようとして、しかし瞬間、横島は膝から崩れ落ち両手を床に着いた。

「こんな良い女…俺でなければ放っておかないのに……っ!」

 それから搾り出すような声で、横島は呟いたのだった。


「ねぇ、何で元の服にきがえちゃったの、横島さん」
「なんか、ああいう服で歩くのが恥ずかしいって言うか…」
「ええー、そんなことないよ」

 横島は崩れ落ちてからしばらくして、『美装術(Bi.So-Justu)』のビルを出て通りを歩いていた。横島の服は、着てきたジーパン、ジージャン姿に戻っていた。それでも化粧はそのままだったので、それだけで見栄えがだいぶ違っていた。
 服や化粧品は、紙袋に入れて手から下げている。

「さてっと、これからどうする?もう帰るか?」
「う〜ん。もう少し回りたいけど…その前にお昼ご飯にしない?」

 まき絵は言いながら腕時計を確認する。現在時刻は11時30分。少々早いが今日は日曜。込み合うことも考えて早めに昼食を済ましておくのも良いかもしれない。

「お昼ご飯か…。やっぱりマック?」
「え〜。せっかく新宿まで出てきたんだから、もっと別のとこで食べようよ」
「そやなぁ…。横島さん、何かしらへん?」
「俺か?そうだな、お勧めどこなら一つあるけど…ちょっと待って」

 そう言うと、横島は新調した携帯を取り出して、電話帳から番号を呼び出す。
 呼び出し音がちょうど3コール目で、向こう側が受話器を取った。

『―――はい、魔法料理魔鈴です』


「ねぇ、横島さん。魔法料理ってどんなの?まさかカエルとか…」
「違うって。西洋版の薬膳って感じだな」

 不安と期待が半分ずつといった感じのまき絵に、横島は笑いながら答える。

「けど横島って顔が広いよねぇ。あの魔法料理の魔鈴めぐみとも知り合いだったなんて」
「ん?知ってるのか?」
「もちろん!グルメ番組とかでもよく放送されてるじゃん!
 私も前から行きたいって思ってたけど、いつも満員でさ」

 今までの連戦連敗の記憶を思い出し、裕奈はため息をつく。その一方、横島は電話をしたときの記憶を思い出す。
 駄目元で電話をしたところ、魔鈴は快く応じてくれた。何でも今日も昼から予約でいっぱいのはずだったのだが、なぜか当日になって原因不明のキャンセルが続出したらしい。

(なんか、やな予感が…)

 経験則からくる警鐘に、横島は額に脂汗が浮かぶのを感じた。
 だがそうしているうちに、魔鈴のレストランの近くまでたどり着いた。

「ホラ!あの角を曲がったところにあるのが魔法料理『魔鈴』だよ!」

 裕奈がそう言って指を指し

「キャァァァァァァァァッ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

それと同時に、指を指した方向から一組の男女の悲鳴が聞こえた。
 ややあってから、曲がり角から悲鳴の主と思われる男女が駆け出してきた。二人は妙に青臭い粘液にまみれたひどい格好をしながら横島たちの隣を駆け抜けていった。
 その二人が過ぎ去ってから数秒後

「もう二度とこんな店来るか!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 男の方が吐いたと思われる捨て台詞を残し、二人の姿は街角に消えていった。
 裕奈は指を指したままのポーズで硬直し、横島は額に手を当てため息をつき、残りの三人はこわばった表情で抱き合いながら、カップルが走り去った方を見ていた。ぬるぬる嫌いのまき絵など、泣くというリアクションを飛び越え、すでに半分気絶している。

「……えっと…とりあえず俺が先頭を歩くから、お前らは後ろから付いて来いよ」

 横島の言葉に、四人は何度も頷いたのだった。


「ビ、ビオ●ンテ?」
「とりあえず若い奴には判らんネタだと思うぞ、裕奈」

 魔鈴のレストランの前で、裕奈のもらしたコメントに横島が突っ込んだ。
 魔鈴のレストランは、いつもと同じく落ち着いた佇まいを見せていた。レンガ造りをイメージした建物に、いくつかの観葉植物。
 ただ問題は…

「これは観葉植物としてはアグレッシブすぎるだろう…」

 横島がそういった評価を与えたのは、入り口の近くに置かれた、一対の鉢に植えられた、まだ蕾の花だった。もっとも茎は大人の足ほどの太さ、それに座布団のような厚みのある大きな葉が付き、茎の先端に人間が一人入っていそうなほどの大きな蕾が付いた植物を、花と主張できるのならば、であるが。
 しかも目の錯覚か、茎も葉もグニャグニャザワザワと蠢いている様に見える。
 その不気味な動きに、まき絵の腰は完全に引けていた。

「……ゆ、裕奈?前に来たときにもこんなのあったの?」
「な、なかったと思ったけど…。これってひょっとして、ライバル店の営業妨害とか?」
「いや、これはおそらく魔鈴さんの趣味だな。何つったって死肉を漁るスカベリンジャーを、小鳥さんとか呼んで愛でるような人だし…」
「ま、マジなの?」

 裕奈の中で、雑誌やテレビから得ていた魔鈴への幻想に、音を立ててひびが入った。

「と、とにかく、こんな所で立ってても埒が明かないし、中に入るぞ」
「だ、大丈夫なんか?」

 亜子がまき絵と抱き合いながら、怪植物に目を向ける。横島は精一杯の強がった笑みを浮かべる。

「ま、魔鈴さんだってそんな危険な植物を入り口に置いたりはしないって…多分

 最後に小さく付け加えた言葉は、誰の耳にも届くことなく空気に溶けた。

「じゃ、行くぞ」
『りょ、了解!』

 横島の後に従って、四人はそっと付いてゆく。

 やがてあの観葉植物(?)のところまで横島は到達する。しかし、植物はなんら反応を示さない。
だが、油断はならない。横島は何か動き出す兆候はないかと左右に目を配る。すると扉のところに、一枚の張り紙があった。


『この子達を、入る前になでてあげてください。魔鈴めぐみ』


「?」

どういうことだと考える横島。だがその意図がわからず、無視することにした。下手に刺激したくはない。
 そのまま横島は、怪植物の間を通り抜ける。

「な、何も起こらないね?」
「思い過ごしだったんじゃない?」

 横島が無事に通り抜けたのを見て、まき絵と裕奈も半ば安堵しかける。


 『花』が咲いたのは、その時だった。


ぐぱぁ…ぁぁ…っ
ごぽぁぁ……ぁっ


 およそ花が開く時の効果音としては似つかわしくない湿った音。次いでべちゃりべちゃりと、粘液質な何かが地面に落ちる。
 恐怖に促されるように、五人はゆっくり上を向く。
 その頭上から、左右二つの観葉植物の『花』がこちらを睥睨するかのように咲き誇っていた。
 いや、それは果たして花なのだろうか。むしろ、それは『花』というより、むしろ動物性のある器官を連想させた。

 口、だ。

 肉色の花弁に囲まれた穴の奥は深く、そこから粘液にまみれた触手が何本も這い出し蠢いている。

「……ぁ」
「……ぇ」

 そのグロテスクな動きに、まき絵と裕奈――少女二人の思考は完全に停止する。
 口は、その姿をまるであざ笑ったかのようにぐにゃりと歪み―――二人を飲み込もうとに迫る。

『――――――っ!?』

 悲鳴も上げれず、ただ覆いかぶさってくる口を見上げるまき絵と裕奈。だが口に飲み込まれる直前、二人はその場から突き飛ばされた。

 ばちん!

 突き飛ばされた二人が次に聞いたのは、火花が散ったような音だった。

「横島さん!」

 亜子の声を聞きいて、二人は今まで自分が立っていた場所に、横島がいることに気付く。
 横島は、両手に光でできた盾を作り、二つの口を受け止めていた。
 圧倒的な重量があるはずの二つの口を受け止めて、しかし横島は押されている様子を見せていない。

「……この煩悩魔人のこの俺が我慢しているというのに…」

 横島は少し膝を曲げ―――

「植物の分際でぇ…っ」

 前に跳躍。同時に手にした盾を傾けて、盾の上に乗りかかってきていた『花』を滑らせる。目標を見失った『花』は地面に激突。しかしダメージがないのか、すぐさま横島のほうを向き―――しかし全ては遅かった。『花』が振り向いた時には、横島は体を半周させていた。その両手には輝く二本の小刀。

「ラ●トセ●バー!?」

 裕奈がそれを見て不穏当な発言を零し、しかし横島は取り合わず跳躍し、

「中学生を食おうとはいい度胸だぁぁぁぁぁっ!」

 さらに裕奈のそれを上回るほど不穏当な発言をしながら、小太刀を振る。
 二つの剣閃は、花弁のすぐ下を断ち切った。

 ぴぃぎゅりゅっ!

 断末魔のような奇怪な音を上げて、二輪の『花』は地面に落ちた。
 それに少し遅れて横島が着地。次の瞬間、その戦いを見ていた四人は喝采を上げる。

「やったぁっ!」
「横島、やるじゃん!」
「か、かっこええ…」
「すごい…」
「ふっ…ざっとこんなもんよ」

 横島は言うと、両手の霊波刀を消し…

ぐぱぁ…っ
がぱぉぁっ!
ごぽぉぉ……ぁっ

 ついさっき聞いたばかりの、音が横島の背後から聞こえてきた。
 目の前の四人も、歓声を上げたときの表情のまま硬直している。

「……」

 横島は、半泣き状態で後ろを振り向き、その音の正体を確認した。

「あ゛」

 音の正体は、葉が『開く』音だった。肉厚の葉が二枚に避け、まるでハエ取り草のような形となる。しかも茎と葉をつなぐ部分も伸び、より自由に動けるように変質している。

「だ、第二形態だ…」

 裕奈が思わず零したコメントに反応したように

 ギェジャリフりゅクィハワへぃッ!

 およそ地球上の生物とは思えないような鳴き声を上げて、『花』の仇討ちとばかりに、葉が横島に殺到した。


カランカラン♪

 台所で仕込みをしていた魔鈴は、ドアベルが鳴った音を聞いた。

「あら、横島さんかしら?」

 魔鈴はお玉を置くと出入り口のほうへと歩いて行き、

「いらっしゃいませぇっ!?」

 語尾の変化は、扉を開けた客のせいだった。
 客の正体は、魔鈴が想像したとおり、確かに横島だった。だがその格好は、予想していたものと明らかにかけ離れていた。
 もちろん、それは少女化しているということを指すのではない。

 ぬめぬめなのだ。

 荒い息を付きながら半眼で立ち尽くす横島。頭から爪先まで、植物の絞り汁をかけたかのような匂いがする粘液でコーディネートされたその様は、悲惨の一言。
 さらに魔鈴を驚かせたのは、横島自身ではなくむしろその背後、入り口に散乱した植物の切れ端だ。その植物の切れ端たちは、消え去らんとする生命のともし火を象徴するかのごとく、ピクピクと蠢いている。…もちろん、普通の植物はずたずたにされてもぴくぴく動くなどということはしない。つまりこの植物は…

「そんな…横島さん!」

 魔鈴は信じられないといった様子で横島に近づき…

「あんな健気なお花さんにこんな酷い事をするなんて…最低です!」
『最低なのはアンタのセンスだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


 横島と、そして最初のときと同じ位置のまま座り込んでいた運動部四人は、そろって叫んだのだった。


「あの植物は魔界で品種改良されたもので、実はすごく寂しがり屋なんです。
 ですから、何もせずに素通りしようとすると、思わず花や葉で人を捕まえてしまうんですよ」
「つ、つまり、あれはスキンシップってことなんですか?」

 数分後、魔鈴の説明にまき絵達は顔を引きつらせていた。
 ちなみにアキラは先ほどからしゃべる黒猫に夢中であり

「お、お客様!困りますにゃ!ここはおさわり禁止でこういうお店じゃありませんにゃははははははそこ敏感!」

 と、黒猫の喉やら腹やらを擽って楽しんでいる。
 ちなみに横島は、あの寂しがり屋の植物(魔鈴談)の返り血ならぬ返り液を洗い流すため、魔鈴のシャワー室を借りている。
 魔鈴はずたずたに引き裂かれた哀れなお花さんの残骸を、魔法の箒が片付けるのを見ながら、ため息を漏らす。

「ええ。ですから玄関先に張り紙をしていたじゃないですか。
『この子達を、入る前になでてあげてください』って。
 あの子達はそうすれば、何もしないで通してくれるんですよ」
「ああ、あれってそういう意味だったのね…」

 あの怪獣を『この子』呼ばわりする魔鈴のセンスに頭を痛めながら、まき絵と裕奈は突っ伏した。それと時を同じくして、スタッフルームの扉が開き、横島が顔を出す。

「ふぅ…さっぱりした」
「あら、横島さん。お似合いですよ」
「…どうも」

 他意のない魔鈴の評価に、横島は複雑な心境で言葉を返す。横島の今の格好は、勘九郎の店で買った服だった。これが今の自分に似合うのは、確かに横島本人も認めるところではあるが、男に戻りたいと願う横島にしてみれば、そう言われるのは抵抗がある。

「それじゃあ、お料理をお出ししますね」
「あ、すみません。不可抗力とはいえ観葉植物を駄目にしちまったのに」
「いいえ。元はといえば、私の注意書きも悪かったみたいですし。現に今日はまだあなた達で二組目ですから」

 そう言うと、魔鈴は厨房へと消えていく。魔鈴が残していった言葉を聴いて、横島は感嘆の声を上げる。

「二組目、ねぇ…。ってことは、あの観葉植物召鮴り抜けてきた奴らが一組はいたってことだよな」
「すごい人もいるもんだね」
『お待たせしました』

 裕奈が頷いたのと同時に、空中から声が聞こえ、間髪入れずテーブルの上で多量の煙を伴った小さな爆発が起こる。そしてその煙が晴れると、そこには料理が並んでいた。

「うわっ!」
「すごぉい!」
「ま、魔法や!」

 まき絵達は驚きの声を上げるが、見慣れた横島は驚かなかった。だがその代わりの様に、別の感情が意識の敷居の上に頭をもたげてきた。

(これは、霊能力だよな…けど、人は魔法って言う。それに陰陽術は霊力を使って俺はするが…関西呪術協会の連中も自分達を陰陽師って呼んでるし…どういうことなんだろうな)
「横島さん?食べへんのか?」
「え、あ、ああ!頂きます!」

 亜子に声をかけられ、横島は頭に浮かんだ疑問を追いやると、目の前の料理に集中したのだった。


「ふぅ…ごちそうさま」
「私ももうおなかいっぱいや」

 一番量を多く食べた横島と、量は少なめだが食べるのが遅かった亜子が、ほとんど同時にフォークを置いた。その瞬間、二人の前の食器が出てきたときと同じような唐突さで消滅した。
 一息ついたところで、魔鈴が魔法ではなく自らお茶を持ってきてくれた。

「お口に会いましたか?」
「ええ、もう最高です。こんなおいしい料理、今まで食べたことないです」
「うん。いつも予約でいっぱいな理由がわかるよねぇ」
「ふふ、ありがとうございます」

 亜子と裕奈の感想に、魔鈴は微笑んで礼をいう。

「あ、そう言えば、魔鈴さん。私達の前に来たもう一組の人たちってどんな人なんですか?」

 紅茶を飲みながら、まき絵が思い出したように魔鈴に尋ねる。
 すると魔鈴は、まるで子供が悪戯をする時のような微笑を浮かべる。

「ふふっ…皆さんも知っている人だと思いますよ?」
「ええっ!私達も知っている?」
「芸能人とかかな?」
「やっぱりあの怪獣を超えてきた人だからスポーツ選手と違う?」

 まき絵達は、自分の知っている有名人を次々と上げていくが、しかし魔鈴は首を横に振るばかり。
 その様子を見ながら、横島はある一人の少年のことが思い当たった。
 横島は、まき絵達がネタ切れになった頃を見計らって、こう呟いた。

「ひょっとして…ネギっすか?」
「正解です」
「えっ!ネ、ネギ君!?」
「ま、魔鈴さん、ネギ君と知り合いなんですか?」
「ええ。以前、イギリスにいた頃に、ちょっと」
「なんで横島さん、解かったんや?」
「俺が麻帆良に行くことになったのは魔鈴さんの紹介があったからなんだ。で、魔鈴さんはイギリスにいたことがあったし、ネギもイギリス出身だからもしかして、って思ってな」
(しかも、魔法使い同士だし)

 最後の一言だけは胸中で呟いて、横島は紅茶に口を突け…

「ええ。ネギ君とはイギリスのウェールズで知り合ったんです。
 あの頃はまだ小さかったのに、今じゃすっかり大きくなっちゃって、今日は女の子とデートしてましたよ」


ピシッ!


 横島の持っていたカップの取っ手に、罅が入った。

(ふっふっふ…今日やることが増えちまったな)

 まき絵達の『えっ!ネギ君がデート!一体誰と?』とかいう言葉を聴きながら、横島は胸の奥で嫉妬と怨念の炎が燃え盛るのを感じていた。


つづく


あとがき
 レスが伸びたり縮んだりでびっくりした詞連です。つーか運動部四人組が上手くかけない(泣)。
 導入部分の風呂のシーンが異様に長くなって困りました。これは一話にまとめる予定だったんですが…いやぁ、難しいものです。
アスナの誕生日イベント。これは本編の流れとあまり関係ないので外伝である課外授業という形を取りました。
 この上下編では、前回散々突っ込まれた除霊の話と、魔法と霊能力の話について解説しようとするつもりです。とりあえず、魔法と霊能力に関しては下で解説の機会を設けるつもりです。

 ではレス返しを


>D,氏
>流石人外キラー横島!!
…あれ、つまりネギも人外ってことですか(違っ)


>黒炎氏
ご心配なさらず、エヴァはナギとの狭間で揺れている上、美神さん並のツンなのでそう簡単にはいきません。魔法設定に関しては次回。


>雪龍氏
 一応原作だと武装解除はパンツまで言っていたはずですが…。

>coco_23氏
 はい、がんばります。

>YEP氏

 一応、霊能と魔法の基本原則は女教師のエヴァちゃんが解説してくれた通りです。詳しい話は次回できると思います。
 あ、それから菅原道真は生きている間は陰陽師じゃなくてただの文官です。

>暇学生氏

 とりあえず、三人のうち二人は勘九郎と魔鈴さんでした。勘九郎は今後も外伝などで、ちょくちょく顔を出させる予定です。

>鉄拳28号氏
 誤字指摘は毎回感謝してもし足りません。ありがとうございます。
 陰陽寮と関西呪術協会のあたりを誉めていただいて光栄です。
 なお美神さんの価値観は『横島の性別<目先のお金』です。

>ナガツキリ氏
 はじめまして。
 蓑虫上に縛られた主人公…ラブひなでは景太郎が日常的にやられてましたので、ここはネギ君にもやってもらいました。これからもがんばります。

>六彦氏
 ネギまとGSは意外と相性が良いんですよね。絵柄は似てませんが。ギャグとシリアスが混在する作風は似てますし。
 横島らしさを残せてよかったと思います。
 修学旅行での影響は…まあ、それは後でということで。

>fool氏
 神話関係の指摘、ありがとうございます。間違えてました。
 武装解除は横島にとって攻守一体の究極の魔法ですが、どうにもやった後、即座に敵味方双方の女性陣からげちょげちょにされる図しか思い浮かばないような…。
 これからもがんばります。

>スケベビッチ・オンナスキー氏
 毎度誤字指摘本当にごめんなさい。
 エヴァちゃんも恋する乙女、その心中は複雑なのです。
 たしかに横島とアスナはお似合いですよね。けどなぁ…メインヒロインだから扱いが難しいんですよねぇ…。

>仙敷氏
>無理にGS世界とネギま世界を融合させているように思えたのです。
はっはっは、何をおっしゃるかと思えば前からすでに無理やりですよ?……orzマジでごめんなさい。
 とりあえず、魔法と霊能に関してはその違いを次回何とかするつもりです。
 矛盾が出ないように誠心誠意がんばります。

>津込氏
 霊能と魔法、それらの間のオーバーラップの問題は、次回解説ということで。
>TA phoenix氏
>なんだかネギが横島君のポジションに納まってますねw
というより、ラブひなの景太郎化といった方が正しいかも。

>わーくん氏
誤字指摘ありがとうございます。
 たしかにネギは今までの赤松作品の主人公とは毛色は違いますけど、本質的には共通項が結構ありますよね。
 お互いレポートがんばりましょう。

>突っ込み役人氏
 こんな感じで横島は仕事をこなしています。どんなもんでしょ?
 あと、美智恵さんは原作でも実は結構冷たいですよ(ファイヤースターターの時とか)。

>晃久氏
 初めまして。
 美神さんにとって、横島の性別<<<<<目先のお金ですので。まあ、いざそれで横島が戻ってこない時間が長くなると、いくらお金が入ってきてもやっぱり不機嫌になるんですが(笑)
 禍福はあざなえる縄の如し。ネギ君が幸か不幸かはまだわかりません。

>wis氏
 指摘ありがとうございます。

>鳴民氏
 横島の男化は伸びますとも。
 クウネルはおいしいキャラなので、だせるだけ出したいですね。…けどどうして図書館島の底にいるかわからないからうかつに動かせないんですよねぇ…。
 フラグは立てまくれるようにがんばりますが、基本的に原作のフラグを保存する主義なので、あまりコイバナがきていないキャラは立てにくいです。まあ、原作しだいということで。
次回もがんばります

>舞ーエンジェル氏
 勘九郎はここで出ました。
 刹那フラグ他立てたいですね。小太郎フラグ…ううん。これは本人がどこに転ぶかわかりずらいので扱いが面倒かも…。
 とりあえず、何を使うかはまだ秘密です。ただ会えて言うなら、実はあなたが挙げた以外のキャラが出てきます。具体的には秘密ですが。
 ではまた来週。

>神[SIN]氏
 ナギと横島どちらが強いか、少なくとも修学旅行が終わるまでは秘密です。
 あと人界最強の道化師と呼ばれるようになったエピソードはもっと先です。ただあえていうなれば結構ダーク&バイオレンス指定が必要なお話です。

>なんていうかこの作品は原作GSの横島のマヌケさを残しつつも、原作よりもシリアス
>に仕立ててあるので、興味深いです。
>さらにそれを『ネギま』の世界に放り込むことにより、原作ネギまの甘さを残しつつも、
>それに横槍をいれ、原作には存在しなかったネギやヒロインキャラクター達の反応が見
>られるのでとても面白いのです。
 その評価は、二次創作作家冥利に尽きます。
 今後も精進を続けていこうと思います。


フウ、レス返し終了。
なにやら今回は、私の説明不足ゆえ、レスに論議を巻き起こし管理人氏をはじめ、みなまに多大なご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。
 今後も容赦ない突込みを入れてください。それこそが、作家の成長源ですから。
 では…

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