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▽レス始

「双魔伝02(火魅子伝)」

時守 暦 (2006-07-18 22:37)
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 今、ここに一人の男がピンチを迎えている。
 彼の名は志都呂。
 変換しにくい名前の彼は、実は人間の限界を突破できる程の情熱の持ち主だったりする。
 現に、街で見かけた2人を興行団に加えるため、馬より早く走って山を1つ半越えてしまった。
 おかげで、他の興行団員達とは離れ離れである。
 まぁ、来た道を真っ直ぐ辿ればすぐに会えるだろうが。

 で、その志都呂君だが…キャトられていた。
 いや、流石に宇宙人なんか出ないし冗談だが…状況的には、あまり変わりない。
 周囲には怪しい背格好をした、約20人の人影。
 よーく見ると、爪が長かったり何気に羽が生えていたり、明らかに普通の人間ではない。


(ああ、いいなぁ…。
 魔人のような人間。
 もしあの翼が羽ばたいて飛べるのなら、興行にももっと幅が出るのに)


 この状態で考えるのがソレか。
 単なる現実逃避か、それとも本気で興行に賭ける情熱が生命の危機を超えているのか。
 何れにせよ、このままでは彼は確実にお陀仏だ。
 他の団員達はまだ1つ目の山も越えてないだろうし、例え超えてきたとしても、魔人の群なんかに太刀打ちできる筈がない。


(っつーかさ、なんでこんなに一杯魔人が居るんだよ?
 普通は魔人って、一体一体で行動するんじゃないのか?
 魔人が人間界に居るのは、まぁ解からないでもないけど)


 先だっての戦争で、魔人が多く使われたと言う話しは、志都呂も聞いた事がある。
 恐らく、何らかの理由で魔界に送り返される事がなかったのだろう。
 …そこまで推測した志都呂だが。

 この状況になった原因が分かったって、一緒に打開策まで出てくるとは限らない。
 これは年貢の納め時か、と思う。
 …この時代に、年貢なんてあるのか?
 租庸調もまだだったと思うが、まぁこの辺は気にしないで。


(ああ、興行生活云十年…まさかこんな所で死を迎えるとは…。
 俺が死ぬ時は舞台の上で…死人が出たら評判が落ちるから、舞台の下で死ぬと決めていたのに…。
 いやいや、しかし人生の最後にいいモノを聞けたな…。
 あれ程の演奏を聴けるとは…これでもう…)


 ジリジリと魔人達は距離を詰める。
 志都呂は諦めたように、全く動かない。
 それを分かっているのかいないのか、魔人達は志都呂を嬲る算段らしい。


(これでもう…!)


 志都呂がゆっくりと、拳を握って天に向ける。
 そして開眼!


「我が人生、山ほど悔い在り!」


 絶叫、そしてバック走で駆け出した。
 突然の奇行に、一瞬呆気に取られる魔人達。
 …ところで君達、悪食魔王から逃げなくていいのかね?


「まだまだこんな所で死ねるかー!
 やりたい事が山ほどあるんじゃー!
 あっちこっち回って興行やって、あの演奏をもう一度聴いて、でもって美人の嫁さん見つけて退廃的な老後と健康的な隠居生活を送ってやるぁー!」


 叫びながら走る志都呂。
 うむ、バック走で世界新を狙えるな。


 走って走って走って走って走って橋渡って走って走ってコケて勢い余って飛んで、志都呂は山を一つ越えた。
 もうすぐ興行団とカチ合ってもおかしくない。
 そうなったら、すぐに逃げるように言わないと。


(一人で先走って、その挙句に魔人を呼び込む。
 みんな本気で怒るだろぉなぁ)


 流石に体力も限界に来たのか、志都呂は舌を出しながら走る。
 大分スピードダウンしているが、近くに魔人が居る事を知らせねばならない。
 自分が囮になって別方向に逃げると言う手もあったが、今の彼にそこまでの判断能力は無い。
 何故ならランナーズハイ一歩手前だからだ。

 走り続けていると、森の木々の中に灯りを発見した。
 焚き火の炎である。
 興行団は志都呂に追い付くのは不可能と見て、一日野宿する事にしたようだ。
 賢明な判断と言えるだろう。
 ただでさえ大きな荷物を持って移動するのに、足元もロクに見えない森の中で走ってどうする。
 コケたら荷物に押し潰されるのがオチだ。
 そもそも方向が解からない。


 最後の力を振り絞って、志都呂は団員達の元に駆け込んだ。


「お、座長「全員逃げろ!」…?
 な、なんだよ「魔人が居るぞ!」!?」


 志都呂の言葉を理解できず、一瞬の静寂。
 一拍置いて、いきなり騒がしくなった。


「ちょ、魔人って座長!?」

「いいから逃げるぞ!
 火を消せ、荷物は…くそ、置いて行くしかない!
 もう近くまで来てるんだ!」


 志都呂の剣幕に押され、右往左往して転びながらもそれぞれ逃げる準備にかかる。
 火を土をかけて消し、それぞれ走るのに邪魔にならないだけの荷物を懐に入れる。
 天幕やら相撲台やらは置いていくしかない。
 貧乏興行としては命を自分で捨てるような行為でしかないが、それも命在ってのモノダネだ。
 この場で殺されては元も子もない。
 ついでに馬はその場に放していく。
 可哀想だが、囮になってもらう。
 この辺のシビアさは、時代が時代だから必須だろう。
 まぁ、一緒に連れて行っても森の中だからお互いスピードは出せないし、ひょっとしたら見向きもされない可能性だってある。
 運がよければ、自分で勝手に逃げられるだろう。

 魔人が近くに居るという冗談のような状況に戸惑いつつも、団員達は走り出そうとする。
 志都呂は団員一の織笠(一児の父。嫁さんは不明)に背負われ、夜道をガタガタ揺れながら進む。


「座長、魔人ってどれくらい…」

「両手で数えられない、程度には、居た…」

「ウソだろ…」


 織笠の顔が青ざめた。
 一体だけでも、魔人は一軍に匹敵する。
 追い付かれたら、もう生き延びる術は無い。
 最悪、誰かが襲われても残りは振り返らずに走る、という選択肢もある。
 この場合、それが最も現実的で、生存者を作れる方法だった。
 だが、20体以上?
 どうにもならないではないか。

 織笠は、隣で夜道を必死で走っている愛娘を見る。
 彼女は織部。
 織笠が興行団に入る時に連れていた、彼の娘である。
 歳の割にはしっかりしていて、こんな状況でも泣き叫ぶより先に生き延びようとする。
 この時代でも、そうそう居ない。

 この娘も殺されてしまうのか?
 そう思うと、織笠はどうにもならない怒りが沸いてくる。
 相手が人間なら、まだ勝ち目はある。
 織笠は素人だが、ちょっと訓練されただけの兵士を4人まであしらえる程度の力量と自信がある。
 だが、彼でも時間稼ぎすら出来ない。


(どうにかならねぇのかよ…!?)


 その時、背負っている志都呂が押し殺した悲鳴を挙げる。


「来た…!」

「ええぃ、本当に居たのかよ!」


 魔獣の方がまだマシだ。
 いや、どっちも大して変わりはない。
 織部が走りながら後ろを振り返る。


「オヤジ、もう、すぐ、そこに、居る…!」


 歯の根が合ってない。
 気丈な織部も、恐怖に負けかけているようだ。
 前を走る団員達も、生存本能のため普段以上の運動力を出しているが既に限界のようだ。
 視界の空けない夜の森、足元の不確かさ、そして背後から迫る恐ろしいプレッシャー。
 もう限界だった。


 と、やっと森を抜けた。
 街まで21世紀風に表して、あと2キロ程度だろうか。
 2キロ程度なら、彼らにとっては近所の内だ。
 街の中に入っても安全なのではないが、それでも希望を見た。


「もうちょいだ、みんな走れ……!!」


 古株の茂一爺さんが叫ぶ。
 爺さんは今にもくたばりそうな程に激しく息をしているが、滲み出る生への執着は凄まじい。
 この執念で、彼は今まで何度も修羅場を乗り切ってきたのだ。
 オンナ絡みの修羅場も2割。

 尊敬を集めている爺さんの叫びで、ラストスパートを始めようとする。
 だが。


「お、追い付かれたぁ!」


「「「「「「!!!!」」」」」」


 絶望を秘めた叫び。
 恐る恐る志都呂が首を回すと、異形の人影が何匹も立っていた。
 いや、後ろだけではない。
 森の暗闇から、同じような人影が飛び出して興行団を囲むように立ち塞がる。


「ま、魔人…本当に…」


 織笠の掠れた声。
 正直、志都呂の冗談か見間違いだろう、と何処かでタカを括っていた。
 これは単なる夢なんだ、と何処かから声がした。
 だが厳然として、死の化身はそこにある。


 ゲッ、ゲッ、ゲゲゲッ、ゲ、と妙なリズムで響く笑い声。
 魔人達が笑っているのだ。
 獲物を大量に捕まえた、と。


(畜生め、織部だけでも…!)


 敵わぬまでも、娘を逃がし、せめて一矢報いて。
 織笠はそう決意するが、体が震えている。
 他の団員達など、怯えているか腰を抜かしているかである。
 織笠も、このままヘタリ込みそうだ。


「お、オヤジ…座長…このまま、俺たち…」


「…織部、オメェだけは何とか逃がしてみせる…」


「…心配しないで、織部…。
 俺達だって、結構強いんだ…ぞ…」


 虚勢を張る志都呂と織笠。
 既に腹は括った…まだ体が震えるが。
 こういう日が来るのは、分かっていた。
 相手が魔人だというのは予想外だが、このご時世だ。
 狗根国の連中に目を付けられて殺されるかと思っていたが、それに比べれば幾らかマシと思う事にしよう。
 奴らの横暴に叩き潰され、利用される事を考えるとスッパリ死んだ方がまだ救いがある。
 …そう思う事で、戦う意思を護ろうとした。

 しかし。


「…座長?
 あの、魔人達…様子が…」

「なんだって?」


 指摘されてよく見てみれば、急に魔人達が慌てだしている。
 なんだろう?
 空を見上げて、何かが降ってくる、月が落ちてくるとでも言わんばかりの慌てようだ。
 そう、まるで…。

志都呂に影がさした。

 まるで、彼らの天敵でも降臨するかのように。

空を見上げれば足の裏。

 メキョ


 …天敵が降臨したのかは知らないが、取り敢えず志都呂の顔面に何かが降臨したらしい。
 意識が跳びそうになる志都呂だが、強引に持ち直す。

 目を開けば、団員達を庇うように立ち塞がる…血塗れのイキモノ。
 1人の子供が、そこに立っていた。


 吸血鬼を倒した…というか食った九峪と日魅子は、夜の森を走る。
 木々を避けて走るのが面倒臭くなり、足に力を篭めて大跳躍。
 月をバックに、2人は夜の空を駆けた。

 走って飛んで、丘の上に出る。
 月が綺麗だ。
 日魅子は月を見上げると、手に持っていた腸(半分くらいに短くなっている)を捨て、九峪の方を叩く。


「■■?」


 まだ狂戦士状態だ。
 構わず日魅子は月を指差した。

 九峪は少し考えると、口の中に残っているナニカをゴクンと飲み込んだ。
 そして。

 二人そろって、ポーズ。
 何故か踊りだした。
 月を見上げて、二人揃って謎の踊りを踊る。
 どこからとも無く太鼓の音が聞こえてきそうだ。
 腕を突き出し片足で飛び跳ね、口を開いて限界まで舌を伸ばして空を仰ぐ。
 ピッタリ同じ動作で踊る。
 どー見ても、サバトか呪いの光景だ。
 さもなければ、未開人の祈祷。

 どーやら、月の神に祈りを捧げているらしい。
 こんな祈りを捧げられたら、お月様も胃潰瘍になるってモノだ。

「「##−!」」

 2人の指が同時に、近くの木の枝を指差す。
 指差された枝に、ポンッと花が咲いた。
 意外にも、毒々しい花ではなく見目麗しい花だ。
 …棘が無いとは限らないが。

「「##−!」」

 また指を差す。
 また一つ花が咲いた。
 何の花かは不明だが、季節外れでもないだろう。
 今は夏だし。


「「##−!」」
「「##−!」」
「「##−!」」
「「##−!」」

 …十分後、周囲の木は色とりどりの花を咲かせていたと言う。
 だが人が来ない山奥だったため、誰にも知られずに散ったとか。
 …いや、知っているのが一名。


『鳥ではない、我輩は、ネェコォである』


 …何故ここに居る?


 謎の祈祷を終えた2人は、何故か正気を取り戻していた。
 体中の返り血を不思議そうに拭っているのを見ると、どうやら記憶は無いらしい。

 が、鍋を台無しにされた怒りは収まってない。


「日魅子、どーもあっちに逃げたみたいだぜ。
 追ってゲチョゲチョに殴り倒そう」


「当然!
 …あれ?
 ねぇ、人が居るみたいだよ」


 再び跳躍して森を飛び越える九峪と日魅子。
 あと一跳びすれば、完全に山を越えられるだろう。
 そこで魔人達を捕獲して、きっちり拷問…もとい気晴らし…いやいや贖罪をさせてやるつもりだったのだ。
 が。
 人が居るとなれば話は別だ。
 何故ここに居るかは不明だが、同族を助けないのは幾らなんでも気分が悪い。

 急遽予定を変更し、魔人達を追い払う事にした。
 一際高く飛んで、山の向こうを確認する。
 森を抜けた辺りで、約20名ほどが魔人に囲まれているのが見えた。


「九峪、先に行くよ!」


 ナップザックを九峪に放り投げ、日魅子は空中を蹴って二段ジャンプ。
 加速しながら、囲まれている人間達の下に向かった。
 適度に減速を繰り返し、華麗に着地…の、筈だったのに。


「あ、メンゴ」

 メキョ


 スピード加減を間違えて、一人の男の顔面に着地してしまいましたとさ。
 悪びれもせず、顔を軽く蹴って地面に降り立つ。
 魔人から助けてやるのだから、これくらいは笑って許してくれてもいいだろう。

 人間達は、日魅子の突然の登場に驚いているようだ。
 ただでさえ魔人に襲われて一杯一杯だったのに、空から突然人が降ってきて仲間の一人を踏みつけにして、頭が飽和状態になっているのだろう。

 日魅子は余計な疑問を挟む余裕を与えない。
 説明するのは面倒臭い。
 すぐに魔人達に向き直り…包囲されているので、一方には背を向ける事になったが…目を鋭くする。
 それだけで、魔人達は恐れ慄いて一歩下がった。

 その恐怖を見逃さず、技とらしく手の骨をゴキゴキ鳴らす。


 ヤケになったのか、日魅子の背の方に居る魔人が人間達の一人に襲いかかろうとする。
 が、これまた悲鳴が上がる前に。


「両方滝沢キーック!」

 メキョ


 志都呂が足蹴にされて出したのと同じ、だがもっと重い音がする。
 ナップザックを二つ抱えて飛んできた九峪が、駆けつけ三杯と言わんばかりに魔人の頭を蹴り抜いたのである。
 そのまま頭を、足と地面でサンドイッチ。
 辛うじて中身は漏れてない。
 九峪はヒョイと大柄な魔人の体を持ち上げ、他の魔人に向かって適当に放り投げる。
 そして、日魅子と口調を揃えて一言。


「「失せろ」」


 特別大きくも無い声。
 だが、それだけで20体近い魔人達は震え上がった。
 蜘蛛の子を散らすように、粟を食って逃げ惑う。

 三十秒も立たずに、魔人達の気配は無くなってしまった。


 子供心に、もう自分はここで終わりなのだと、そう思った。
 親である織笠を見上げて、死ぬなら親と一緒に死にたい、とそう思った。
 最後の意地で、せめて目を開けていよう…。

 そんな時だ。
 座長の顔面に足跡を付けながら、あの女が現れたのは。
 月から飛び降りてきたんじゃないかって、本気で思った。

 呆気に取られている俺を尻目に 自分とあまり変わらない年齢だと言うのに、魔人を相手に超然と立つ。
 それだけで、魔人達が怯むのが分かった。
 月の光に照らされて、くっきりとした陰影を刻むその姿を、俺はきっと忘れられないだろう。

 後から聞いた話だと、俺の後ろでもう一人…九峪が跳んできていたらしいけど、全く覚えてない。
 …と正直に言ったら、九峪が拗ねて何だか危険な行為(日魅子が“てろ”と言っていた)に走ろうとしていたんだが、これはまぁ一週間ほど後の話。

 気がつけば、魔人は全員何処かへ消えてしまっていた。
 誰が信じてくれるだろう?
 恐怖の的である魔人が、たった二人の子供に怯えて消えていったなんて。
 でも、俺は信じられる。
 今、この光景を見た俺達は。


「……や。
 怪我とかしてない?」

「え…あ、あぁ、ありがとう…」

「おにーさん達、逃げ足早いねぇ。
 さてはエルヴンブーツとか付けてるな?
 それともピンクハロ?」


 くるっと振り返って、ニコニコ笑う日魅子。(この時はまだ名前を知らなかった)
 この時は誰も気付かなかったけど、物凄い格好だったものだ。
 ただでさえヘンな服を着て、しかも髪から服から爪先まで、余す所なく血塗れ。
 しかもまだ乾いてない。
 乱暴に拭った後はあったけど、どっちかと言うと血化粧のようにしか見えなかった。
 …後で「レイィィ! お前の血で血化粧がしたいぃぃ!」とか叫んでたが、れいって誰だ?
 幽霊か?


「え、えるぶ…ぶうつ?
 ぴんくはろ?
 何だいそれ?」

「「がーん!」」


 二人の顔がゴツくなった。
 顔の陰影も、不必要なくらいに強調されて見える。
 …後で「画像効果」という演出だと聞いたが、どういう理屈だろう?

 茂一爺さんと親父は立ち直るのが早い。
 しかし、その二人でも日魅子の言う事はサッパリ理解できなかった。
 実際、後々になっても俺は日魅子と九峪の言動の一部がサッパリ理解できない。

 えるぶぶうつについて聞き返したら、日魅子と九峪は真剣な表情で顔を見合わせた。


「しくしく、ネタが通じないよぅスティーブ。
 いくらメジャーじゃない装備品だからって、ナーンの反応もないのは哀しいよう。
 ピンクのハロをハロと認めないのはどーでもいいけど」


「泣かないでよジェニファー。
 考えてみたら、この世界ってガンダムもリーフもスパロボもガンパレも無いんだよなぁ。
 …ああっ、ネタを振ってもツッコミすら返ってこないなんて…。
 この世界はぢごくだ!」


「革命だよ革命!
 こうなったらキョウちゃんの言う通り国興しして、ゼ○ギアスとガンダムシリーズを神話として布教するんだよ!
 当然ガ○ガイガーはデフォね。
 いざとなったら、ナップザックの中から実物大で取り出して!」


「EVAはどうだ?
 少年よ神話になれって事で」


「アレはダメ。
 EOEの後、2人しか残ってない人間がどーやってここまで繁栄したのか説明できないもの。
 ちなみにLCLから帰ってくるのは認めません、個人的に
 グチャグチャに溶け合った心から再生するなんて、普通の人間じゃできないモン」


「そこをどうにかするのが作家の手並みでしょ。
 俺はそーゆーのも嫌いじゃないけど。
 いっそ、儒教が入ってくる前に、エロい文化を植えつけよう!
 きっと後の世の人達がビックリ…しないか。
 歴史の一部でしかないし、そういう風習が残ってても誰も不思議に思わないもんな」


 結局この連中が何を言ってるのかサッパリ分からなかったが、何となく危険な予感がしていた。
 それを止めたのは、目にヘンな炎が燃え盛っている座長だった。
 …この時ばかりは、本気でこの人を尊敬したね。


「あ、あー、ちょっと失礼。
 俺、この興行団の座長をしている志都呂ってもんだ。
 何はともあれ、お蔭で魔人達に食われずに済んだ。
 まずは礼を言わせてもらう。
 この通り、ありがとう」


「あ、いえいえお構いなく。 ワタクシ、日魅子と申します。
 あ、日魅子のヒはお日様の日で。
 元々私達が原因と言えなくもないしね」


「困った時はお互い様です。
 九峪ともーします。
 この恩は、俺が借金する時に保証人になる事で返してくれればイイです。
 余計な事は言わぬが華だよね」


「? よく分からないけど、金なら多少は融通するよ?」


「「いえいえお構いなく」」


 恩をお金程度で返してもらう気もないから、と聞こえたような気がするが…気のせいだったと思いたい。
 まぁ、それはともかく…。
 俺もすっかり忘れていたが、元々この二人を追いかけていたんだった。
 俺は座長の裾を引く。


「座長、どうする?
 この二人…」


「分かってる、絶対逃がさん…。
 あの演奏技術に、魔人を追い払う力…。
 一石二鳥ではないか」


 座長の目に溶岩が滾っている。
 有体に言って、暑苦しい。

 茂一爺さんが、横から口を挟んだ。


「お二人さんや、こんな所で何をしているのかは知らんが…一晩、ワシらと一緒に居ってくれんかの?
 さっきの魔人がまた寄ってこないとも限らんし、助けられた礼に宴会くらいは…」


「「宴会!?」」


 二人の目が輝いた。
 脈、大いにアリ。
 隣の親父が、「茂一さんいい仕事してるね」と呟いたのが耳に入った。
 俺としても、日魅子には興味があったし、話が出来るのは大歓迎だ。
 そもそも、この興行団では俺より年下の子供が一人も居ない。
 妹と弟が出来るみたいで、ドキドキしたのを覚えている。

 キラキラ目を光らせて、日魅子と九峪は座長に目をやる。
 勿論、座長がこんな好機を見逃すはずがない。
 嬉しそうに頷いて、2人を招待したんだ。

 この後、森から離れて改めて野宿する事になったんだが…思えば、この辺が運命の分かれ道。
 あの2人が興行団に入った事で、俺達は数奇な人生を辿る事になる。
 まぁ、その辺は時守が何か思いついたら書くそうなので……?
 時守って誰だ? 書くって何を?

 首を傾げる俺。
 と、目の前に男の子の顔が間近。


「う、うわっ!? なんだよ!?」


 慌てて離れ、反射的に荒っぽい言葉を放つ俺。
 オヤジが俺を睨んだ。
 不興を買って逃がしたらどうする、と言う意味だろう。

 でも、男の子…九峪は全く気にせず、俺に向かって話しかけた。


「ええと、おねぇさん、今…」


「あ、織部だ。 織部」


「俺、九峪。 あっちが日魅子。
 で、織部、さっき意味不明な事を考えたでしょ?」


「? あ、ああ…よく分かったな」


 実際、この時はちょっと驚いた。
 初めて会った人に、いきなり自分の頭の中を見透かされたみたいで。
 九峪は難しい顔をして、志都呂と何やら話している日魅子に近付いた。


「ちょっと、日魅子…」

「ごめん志都呂さん、ちょっと…。 どうかした?」

「織部が電波受けてた。 ひょっとして、この世界と俺達って混ざりかけてないか?」

「…そう言えば、魔王が別の世界に入る時にはちゃんとした準備をしないと、微妙に世界観が混ざり合うって…」

「と、言う事は…いずれはネタが通じるようになるって事じゃないの?」

「……いずれは、じゃ遅いのよぅ!
 今からちょっとずつ布教していくのよぅ!」

「分かってるって。
 でも、あっちから電波を受けて返事するようになれば…」

「! あっという間に広がるのね!? よっしゃー、いい事聞いたー!
 それじゃ特に対策は無し、むしろほっとけー、或いはもっとやれ?」

「だね。
 あ、お取り込み中もーしわけありませんでしたー」

「いや、仲がよくって何よりだよ」


 座長は笑って二人を見ていた。
 人を楽しませたりするのが好きな座長にとって、この2人は誰よりも興味深いんだろう。
 今まで見た事もなかった性格だし、見ていて面白い。
 新しい興行に繋がるんじゃないか、とも思ってるんじゃないかな。

 さて、そろそろ野宿の準備も済んだ。
 みんなは酒を出したり自分の楽器を取り出したりして、歓迎会(もう入団させているかのよーだ)の準備はバッチリである。
 あわよくば、日魅子にも演奏してもらいたいんだろうけど。

 俺には酒はちょっとだけ早いって言われてるし…。
 同じ子供同士、精々2人とジャレさせてもらおう。
 ……この時は、九峪と日魅子が興行団全員を合わせたよりもずっと腕白だって、想像もしていなかったのだ…。


 皆さん酒がいい塩梅に入って、盛り上がっていらっしゃる。
 九峪と日魅子は、注がれたよく解からない飲み物で乾杯し、大いに盛り上がっていた。
 コップとコップをぶつけ合う動作を眺めて首を傾げた団員達だったが、宴の前ではそんな細かい事はどうでもいい。
 真似して中身を溢しかけたのが数人居たが、派手に盛り上がっている。
 酒の肴は、街で買った干し肉がメイン。
 ちょっと寂しいが、こーゆー宴では質より量だ。
 織部も育ち盛りの旺盛な食欲を全開放している。

 志都呂が酔っ払って、日魅子に絡んだ。
 酒の匂いに顔を顰めたりせず、むしろ志都呂の手から酒を掠め取ろうとする日魅子。


「なぁなぁ日魅子ちゃんよぅ、昼間みたいに演奏してくれやぁ」

「おお、そりゃ聞きたいなぁ」

「ありゃー凄かったぜよ」


 志都呂の頼みに、数人が便乗する。
 日魅子はちょっと首を傾げた。

 九峪が小声で織部に話しかける。


(なぁ織部、ひょっとして昼に日魅子が街でハーモニカを吹いたの…)

(はもにか、って言うのかアレ?
 アレを聞いて座長が惚れこんじまってなぁ)

(それで追いかけてきて、魔人にとっ捕まったと)

(その通り…。
 なぁ、九峪も何か演奏できるのか?)

(んー、日魅子と同じくらいには…。
 条件付で、出来る事は出来るけど)


「おーい、九峪も日魅子みたいに演奏できるんだってよー」


「あっ、オイ!」


 居るんだ、こういうヤツが。
 止めようとした九峪だが、周囲から期待の視線が突き刺さる。
 ここで断ったら、宴の熱が醒めてしまう。
 こんなに楽しい宴なのに、それは切ない。

 九峪と日魅子は顔を見合わせ、溜息をついた。


「一応言っておくけど、昼みたいな演奏は出来ないよ?
 期待外れになるかもね」

「ああ、いいっていいって。
 珍しい音色を聞かせてくれるだけでも有難いさ」

「じゃ、上手く行ったらお捻りちょーだい。
 お酒でいいから」

「あ、私も飲みたい」

「おう、二日酔いにならない程度ならナンボでも呑めやぁ」


 年甲斐もなく呑みまくって、顔が赤い茂一爺さん。
 織部はこのまま倒れるんじゃないかと、ちょっと心配になった。

 それよりも、と九峪と日魅子に視線を移す。
 2人は持っていたヘンな袋…ナップザックに手を突っ込み、なにやらガサゴソ探っている。
 “はもにか”を探しているのだろう。


「あ、あった!」

「んー、これこれ」


 “はもにか”を探し当てたらしき2人は、袋から手を抜こうとする。
 が、何やら手間取っていた。


「どうした?
 手伝おうか?」

「うん。
 織部、この袋を持ってて」

「おう」


 中で何かに引っ掛かっているのだろうか?
 2人はそれぞれ袋の中から、体全体を使って何かを取り出そうとしている。
 袋を伝わってくる手応えから見ても、かなり大きい物体らしい。
 少なくとも、“はもにか”ではない。


「なぁ、2人とも一体何を」


「「でてきたー!!」」


 織部が問いかけるよりも早く、ズボッと“それら”の先端が出てくる。
 “はもにか”なんかよりずっと大きくて、何だか銀色にキラキラしている硬そうなの。
 …これは何だ?
 楽器なのだろうか?
 何だかフクザツな形をしてるけど。


「「白銀のトランペット〜!」」(←怒羅江門風に)


「と…とらんぺと?」


 発音しにくい。
 何故ガラガラ声。
 それより、この楽器の材料って何だろう?
 どんな音が出るのか?
 どうやって音を出すのか?
 見た事もない楽器だ。
 …楽器じゃなくても、あれだけキラキラしてると高く売れそうだなぁ…。

 興味深げに見守る中で、2人は何を演奏する話し合っている。
 暫くすると、ニシシシと危険な笑い。
 止めろと本能が叫んだが、ああ好奇心の愚かさよ。
 好奇心はヒトも殺すらしい。
 …いや、死んでないけど。


「それじゃ、『悪魔の旋律』をいきまーす!」

「SO2の音楽でーす。
 これやってる人は、多分何度も吹いてまーす」


 曲名からして物騒だった。
 ちなみに吹き終わったらイセリア・クイーンが出てくるヤツだ。
 …本当に出たら大問題だっつーの。

「「「「「
   おお〜〜〜〜!!!
          」」」」」


 織部は首を傾げる。
 てか、“えすおつ”?
 “いせりあ”?
 よく解からないけど、作曲したヒトの名前だろうか。

 2人は揃って息を吸い込むと、とらぺんとの細い部分に口を当てた。
 またしても、聞いた事が無い音がする。
 空気を奮わせるようなその音は、徐々に強くなっていき、最終的には腹に響くような旋律を奏でだした。

 やんややんやと囃し立てながら、音楽に合わせて踊る団員達。
 だが、一人だけ素面だった織部はちょっと拍子抜けしていた。
 初めてこの音色を聞く織部にも、2人の演奏技術が非常に高い事は分かる。
 だが、昼間に聞いたような一体感や恍惚感が、あまり無いのだ。
 確かに聞いていて楽しいが、どことなく…そう、魂が入ってないような気がするのだ。
 大人達は、酔いに任せて盛り上がっているが…一度あの演奏を聴いた織部としては、物足りないのも事実である。

 でもまぁ、最初に本人が言っていたし…。


(まぁ、上手い事は事実だし、やっぱり楽しい事は楽しいもんな)


 織部は干し肉に手を伸ばした。
 が、目の前にあった筈の肉が無い。
 あれ、誰か取ったのか?と思って横を見ると…。


「…誰?」

「ご、ご飯…人参…」


 ウサギの耳を頭に生やした2人のおねーさんと同い年くらいの子供が、飢え死にしそうな顔で倒れていました。
 どうやら、干し肉を横取りしたのは彼女達らしい。

 よく解からないが、大人達は酔っ払いばかりで頼りになりそうにない。
 宴会の後片付けは、いつもシラフの織部がちょっとだけやっていた。
 風邪でもひかれたら困るからだ。
 だから織部は、まぁ、細かい事は気にしないでおこう、と思ってウサギのおねーさん達の口の中に、干し肉を幾つか放り込んだのでした。


 …イセリア・クイーンの代わりに、妙なモノが出てきてしまったようである。
 彼女達と興行団の運命は、Dochi!?




時守です。
むぅ、早くも展開に詰まって行き当たりバッタリとなりつつあります。
まぁ、こっちは幻想砕きと違って完全にプロット無しで書き進めているので、当然と言えば当然ですが。
20KBほど書いたらすぐ投稿するので、練り直しとかも全然やってません。
だからとんでもない矛盾が出てきても勘弁してツカーサイ。

それでは、レス返しです。


1.皇 翠輝様
仰る通り、ノンビリと書かせていただきます。
最近幻想砕きがシリアス続きなので、何時ぞやのマスク・ド・ムーンのようにはっちゃける場がないと…。

ハーレムかどうかは…やっぱり指が動くままですね。


2.カミヤ様
志都呂は追いついてなかったようです。
挙句に魔人と遭遇…よく生きてたモンですな。

…この2人、最終的にはどうしようかなぁ…。


3.スケベビッチ・オンナスキー様
参考になるレスをありがとうございます<m(__)m>
うーむ、実在してないかもしれない人物か…まぁ、その辺はパラレルワールドって事でどうとでもなりますが…。
実際、そういう架空の人物は誰が考えたんでしょうね?
佐々木小次郎とか、どこからどう沸いてきたのやら…。
まぁ、本当に居たかもしれないわけですが。

いずれにせよ、火魅子伝の時代には伝わってなかったんですね。


4.HAPPYEND至上主義者様
この2人、腹が減ったら鍋と調味料を持って野山を駆け巡るタイプですw
うーむ、どういう順番で合わせていこう…。
今は耶麻台国滅亡から3年程度しか経ってないから…精々6歳前後?

時守的には、「不老とは自分の年齢を自分で決められる」という意味だと思っています。
田中芳樹の小説にあった一文が、妙に心に残っているもので。

さて、今度はどんな壊れ方にしようかな…。


5.読石様
大丈夫、あの2人の腹は福富しんべエ並みに頑丈です。
魔界の黒き泉なんぞ、コーヒーと大差ありません。
ゴキのように黒く放置したカップメンのようにヌルく青汁のようにマズい。
多分そんな感想を出すだけです。
…マズそうだなぁ。

どっちかと言うと、演奏は電波ですね。


6.竜神帝様
魔人を食って…とは言いますが、体に毒があるのでもないでしょうしね。
いや、あるヤツも居ると思いますけど。
原理的には、牛やブタの生肉を処置せずに食べているのと大差ないかと…この連中の場合はね。
さて、次はどういう流れかな…。


7.まひろ様
ご期待に沿えられたでしょうか?

儒教による風紀がどーのという概念は、その頃に伝わったんでしょうか。
昔の日本の性の文化は、かなりおおらかだったそうですし…。
しかし、ヤる事ヤって子供が出来たら大変だったでしょうね。
貧しいのに食い扶持が増えると来ては…。
まぁ、この時代にはそこまでの貧富の差が無かったのかもしれませんけど。
…いや、そうでもないか…。


8.カシス・ユウ・シンクレア様
喰ったのは単なる恨みと勢いでしょう。
言うなれば、400%初号機。
…でも形式的には、赤い2号機に群がる羽の生えたウナギもどき?

ここは座長さんに驚くべきでしょう。
彼は何の変哲もない一般市民です。
それがあそこまでスピードを出せるのですから…。


9.黄色の13様
いえ、今回の九峪と日魅子は純粋に一桁年齢です。
魔王候補になったのは、単に魔王になるのに必須の力を偶々手に入れてしまっただけで。
ネットワークの存在を知ったのも、精々一年前。
別の世界の事も、あまり多くは知りません。
ただしゲーマーですw

2人の能力の正体は、幻想砕きの終盤でバラす予定なのです。
だからそれまでは秘密か、さもなくば更新無しと…極力前者にしますが。


10.なまけもの様
精々振り回されてもらいましょうw
ま、本人達も楽しんでもらう予定ですけどね。

ハーレムはどうしようかなぁ…。
外見に関しては、当分このままですかね。
…この姿のまま、か…。
…………ちょっと捻って…使えるかも?

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