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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第六話 ふさがらない傷痕。逸らした現実 後編の2(SEED運命)」

ANDY (2006-07-18 07:01/2006-07-18 07:11)
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 『世界』は一体何で出来ているのだろうか。
 この問いに果たして共通の答えと言うものは存在するのであろうか。
 『世界』は全ての者が共有できるものであり、共有することの出来ないものである。
 なぜなら、例え同じ場所に生きていようとも、その者に見えている『世界』は万人が必ず同じように見ることなどないのだから。
 それは人が思考する生き物であるからだ。
 そのため、例え目指す場所が同じであっても、そこにたどり着く方法は目指すものの数だけ存在し、そのときに持つ思いもその数だけ生まれてしまい、一つとして同様なものはないのだから。
 だからこそ、『世界』はいくつも存在し、その構成する要素は決して理解することはできない。
 だからこそ、争いは起こる。
 自分の『世界』こそが正しいと万人に認めさせるために、それぞれの『世界』同士が争うのだから。
 だが、決して忘れてはならない。
 『世界』は無限に存在するが、その大元は一つであるということを。
 すなわち、『世界』が存在することのできる台は唯一な存在なのだ、と言うことを。
 それを忘れた時、それこそが『世界』最後の日である、と言うことを。


 漆黒の宇宙に浮かぶ青く輝く水の星が見つめる先で、二体の巨神が踊っていた。
 それは、生命の音が奏でる舞踏。
 それは、必殺の意思を込めて振るわれる武闘。
 紅き巨神は舞う。絶望を断つために。
 黒き巨神は踊る。未来を狩るために。
 思いを込められ振るわれる光刃は、漆黒の宇宙に淡く輝き、幻想的な世界を作る。
 世界を生かすか、殺すか。
 その思いが込められる世界を無視するように、大きな墓標が地球へと向かっていく。
 絶望か、未来か。どちらが選ばれる運命なのか、まだ、誰も知らない。

「うおぉぉぉ!!」
 雄叫びを上げながら、シンはインパルスに鋭い剣戟を繰り出させる。
 必殺の思いで振るうそれらを、黒いストライクは、防ぎ、避け、身に当てることを是としないでいた。
 それどころか、逆に必殺の一撃を繰り出しこちらの命を奪おうとしてきていた。
 それらを、あるものは受け止め、あるものは避け、あるものは打ち払い防いでいた。
 命をかけた剣戟の合間に、シンは相手に向かって問いかけずにはいられなかった。
「何故邪魔をする!!このままではユニウス7が地球に落ちるのはわかってるだろう!!」
『わかっているよ。でも、ZAFTを攻撃しない理由にはならないだろう?』
「なに?!」
 激昂し問いかけるシンに対して、ケーラはどこかこちらを馬鹿にするような声音でそう問い返してきた。
「どういう意味だ!!」
 ストライクの振り下ろすビームサーベルをシールドで防ぐと同時に、横薙ぎの一撃を放つがストライクも同じくシールドでそれを防いだ。
 一瞬生じた膠着状態を楽しむかのように会話を続けた。
『実際、あんなゴミに大層な物を付けていたのはZAFT系列の機体だ。それがあんなに連携を取って行動をしていれば、特殊部隊か何かに思うだろう?』
「俺達はあいつらと戦っていただろうが!!」
『それ自体が予定調和じゃないという証拠がどこにある?』
「そんな揚げ足取りな理屈!!」
『世界はそうして回るんだよ』
 そう言い切ると同時に、お互いに押さえていたものを弾き二機は膠着状態から脱した。
「その理屈で一体どれだけの人間が死ぬと思ってるんだ!」
『さてね?当事者じゃないからわからないね』
 そう言うと同時にストライクは腰のレールガンを放ってきた。
 それを回避すると同時に、インパルスのシールドを縮小させ、左腰に内蔵されていたナイフを抜き取ると投げ放った。
 放たれたナイフは運よく右のレールガンの砲身の可動部分に突き刺さり、その機能を奪うことに成功した。
『なかなかの腕前!』
「お褒めの言葉ありがとよ!これは礼だ!!」
 ケーラの軽口にそう答えながら一気に加速しストライクに肉薄させる。場所は今先ほど手を封じた右側。
 そこに必殺の一撃を逆袈裟で入れる。が、それは左方向から生じた光刃に阻止された。
 いつの間にかシールドを手放した左手に持たせたサーベルがそれの発生源だった。
 その切り返しの速さに舌打ちをつくと同時にシンは離脱を図ろうとした。
 だが、離脱の姿勢を見せた瞬間に、ストライクは両の刃を縦横無尽に振るいこちらの移動範囲を制限してきたのだった。
 その軌跡はまさに結界。
 シンはケーラの掌にその命をいつでも握りつぶされる位置に固定されてしまったのだった。
「不覚!」
 シンはその事実に苛立ちを抱えながら、いつか生じるほころびに向けて思考を集中させて回避に専念するのだった。
 そんなシンの思いを知らないのか、ユニウス7は依然としてその大きさを変えずにいるのだった。


『こちらNO,4!こちらは大丈夫です!』
『こちらNO,16!ダメだ!!完全に逝かれてる!!』
『足りない!足りない!!これでは!!』
『予備のメテオブレイカーはないのかよ!!』
 通信機越しに聞こえてくる悲痛な声に、アスランは言いようの無い悔しさを感じずにはいられなかった。
 先ほどまでは全てが上手くいくと感じていた。なのに、たった一機のMSの登場で事態は急変してしまった。
 しかもそれをストライクに似たMSの攻撃でだった。
―まるで二年前の再現じゃないか―
 そんな考えが浮かんだことに、アスランは愕然としてしまった。
 今の考えは、まるで自分の親友が率先して戦っていたかのような考えではないか。
―違う。あいつは、あいつの譲れないものの、友人のためにMSに乗っていたんだ。決して、理不尽な理由ではない!―
 アスランはその浮かんだ考えを振り払うように、頭を数度強く振った。
 今考えなければならないのは、ユニウス7についてなのだから。
 だが、アスランの頭脳でも次善策は浮かんでは来なかった。
 仮にここにいるMS全機が自爆をしたところで、ユニウス7にはさほどの影響を与えることはないだろう。
 では、どうすればよいのだ?
 サブモニターに映るインパルスと黒いストライクの戦いを目の端で見ながら、母の魂が眠る墓標にどうすればよいか尋ねるも、答えは返ってこなかった。
『レイ!まだなの?!』
『今計算中だ!』
 そんなアスランの耳に、ミネルバで聞いた二人の声が届いたのは。
「なんだ?」
 先ほどまで聞こえていた声とは違う声に、アスランは首をかしげた。
 先ほど聞こえた、イザークの部下のものであろう声には絶望や諦観、恐怖などの負の色が滲んでいた。
 だが、この二人の声にはそれらが一切なく、それどころか何か熱い思いが篭っているように聞こえた。
「二人とも、何をするつもりだ?」
 気がついたらアスランは二人に通信を開いていた。
『アレックス、いや、アスラン?あ〜、もう!ややっこしい!話しかけないでください!!』
『かまうな。………よし!ルナマリア、終了した!データを送る!』
 だが、返ってきた答えは色よいものではなかった。
 それに一瞬眉をしかめるが、自分の立場が一民間人でしかないことを思い出し、この対応もいたし方がないか、と納得するしかなかった。
 そのことが、なぜか無性に歯がゆく思えて仕方がなかった。


「データ受信完了!……さすがレイ!」
 ルナマリアは送られてきたものを確認すると喝采を上げると同時に、自分の仲間の有能さに舌を巻いた。
 もし自分が彼の立場ならば、このような短時間でこの結果を導き出せなかっただろうから。
 そのデータの数値に従い、ルナマリアは自身の機体の設定を変更し始めた。
「エネルギーリミッター解除。……エネルギー収束率を70パーセントに設定」
 そう変更を入力すると、ルナマリアはM1500「オルトロス」高エネルギー長射程ビーム砲を構えさせた。
 通常より多く力が集まるのを感じ、それはまるで魔獣であるオルトロスの威嚇の唸り声のように感じられた。
 それに心強さを感じながら、ルナマリアは普段は使わない精密射撃用のスコープを引っ張り出した。
 狙いを外すことは許されないため、慎重に照準を合わせる。
 狙うはコロニーを構成している接合部分の集合点。
 もともとユニウス7は天然の衛星からなるものではなく、人の手によって生み出されたれっきとした人造物だ。
 ならば、建造するに当たり必ずそれの基点となる部分が存在するはずだ。日本家屋で言うところの大黒柱が。
 その存在に思い至ったレイが、渡されていたユニウス7のデータから計算しそのポイントを導き出したのだった。
 あとは、オルトロスのビームでその点を壊せばよいだけ。
 カタログスペックではコロニーの外壁を貫通することが可能、と書かれていたのだ。その言葉を信じてルナマリアは照準を合わせた。
「こいこいこいこい……」
 スコープの照準がロックされるのをひたすら待つルナマリアの口から、そのような言葉が静かに漏れた。
 自分の声が狭いコックピットの中で響くのを、ルナマリアはどこか他人事のように聞いていた。
 いや、そうではない。もれ出る言葉よりも大きな音が頭に響いているために聞こえていないのだ。
    ドクンドクンドクンドクン
 頭に響くその音を最初何かルナマリアは認識できなかった。
 だがすぐに自分の心臓の音だとわかった。
 まるで、自分の体全てが心臓になったかのような音の大きさに驚くと同時に、そこまで緊張している自分がおかしくなった。
「落ち着くのよ。ルナマリア・ホーク。たかが大きな岩を撃つだけなんだから。決して外れることなんてないわ。長距離狙撃はトップだったでしょ!」
 自分に言い聞かせるようにそう呟いていると、不意に声が聞こえた。

『ピンチの時こそ成長のチャンスなんだぞ。それを乗り越えた時、人はレベルアップするんだから』
『おお!な、なら、シン。俺のこの恋が破局に向かっているのも実はチャンス到来の兆し?!』
『『『『『いや、レオ。それは勘違いだから』』』』』
『はもって否定された?!』

 ほんの数ヶ月前にかわしたなんともない会話の一部を思い出し、自然とルナマリアは笑をこぼした。
 それと同時に、さっきまでうるさく聞こえていた心音が聞こえなくなったことに気がついた。
―そうだ。あの、暖かい世界を守るために。失わないために私はここにいるんだ―
 そう気持ちを固めるのを待っていたかのように、照準がセットされた。
「ザクを舐めないでよ!こんな岩っころの一つや二つ、壊すことは出来るんだからね!!」
 その啖呵と同時に引き金を引く。
 通常とは異なる射幅と、エネルギー密度で放たれたそれは無音の宇宙に咆哮を轟かせながら進んだ。その勢いは神話の時代の魔獣のようであった。
 その一撃は、ユニウス7の抵抗をものともせずにその大地に穴を穿たんと進んでいった。
 誰もがそのまま貫通すると思ったその瞬間、光線は移動を開始した。
 機体の姿勢制御ミスか、と思えたが、こまめにスラスターを吹かしながら動いているのを見ると、意図してのものであるように思えた。
 そして、エネルギーが尽きたのか、その雄々しい光はユニウス7に大きな溝を作り消えた。
 誰もが失敗した、と思ったそのとき、声が響いた。
「レイ!!」
『任せろ!!』
 ルナマリアの呼びかけにこたえるように、レイのザクファントムはスラスターを全開にしつい先ほど出来た溝に向かっていった。
 そして、その溝に手にしていた赤い筒を投げ入れていった。
 それは、ザクに標準装備されている手榴弾であった。色からそれらはルナマリアのものであることがわかる。
 赤い筒を四つ全て入れると、自機の手榴弾も入れてレイはその場を離れた。
 誰もがその行動に疑問を持った。
 そんなことに何の意味があるのか、と。
 その疑問を口にする前に、ユニウス7の大地から赤い爆炎の花が咲いてきた。
 溝に沿うように芽吹き咲き誇った花は、信じられないことを引き起こした。
 溝を中心に、ユニウス7の大地に皹が走ったかと思うと、ユニウス7は二つに割れたのだった。
『な?!』
『………奇跡、か?』
 スピーカーから漏れ聞こえる声に、ルナマリアは白けた気持ちで聞きながら、ビームマシンガンを構えなおした。
 少し考えれば誰でもわかることなのになぜわからないのだろうか、と疑問に思いながらレイに通信を繋げるのだった。
「やったわね!レイ!!」
『ああ。だが、まだ気を抜くなよ!』
「もちろん!」
 そうお互いにねぎらいの言葉を掛け合うと、赤と白のザクはつい先ほど割れたユニウス7の内部に向けて、少しでも質量を削るためにビームマシンガンを放つのだった。
 ユニウス7が何故割れたのか、と言う理由は実はそう複雑な理屈でもなく、また、奇跡などと言う不確かな要素が導いた結果でもない。
 先ほども述べたように、レイとルナマリアはコロニーの基礎となる部分を見つけ出し、そこに攻撃を仕掛けたのだ。
 この方法は、メテオブレイカーと同じ原理のものだ。メテオブレイカーは、ドリルで内部に入りそこで爆発することで破砕すると、言うものだ。
 ドリルの代わりをオルトロスの過剰砲撃が、メテオブレイカーの爆発を手榴弾が代替わりしただけの、聞かされれば単純な原理なのだ。
 ただ、追い詰められた状況でその考えにたどり着くかどうか、その資質の有無が今回の結果を導いたのだ。
 レイとルナマリア、そしてシン。この三人がアカデミー時代に経験した事件が図らずも教えてくれたのだ。諦めなければ生き残れる、と言うことを。
 だからこそ、二人は最後まで考え、足掻き、そして起こしたのだ。奇跡と呼ばれる結果を。
 基礎を破壊したためか、ユニウス7はその体を先ほどより小さくなりながら地球へと落ちていた。
 先ほどまであった大きさの約三分の二が爆発のおかげか地球へと向かう軌道から外れたが、残りの三分の一は悠々と地球へと向かっていた。
 その事に気づいた工作部隊は、慌てて生き残っていたメテオブレイカーの設置に取りかかった。
 爆発で加速がついたのか、先ほどよりもスピードが僅かに上がっているそれは段々と、重力と言う名の鎖にその身を絡め取られようとしていた。


「よっしゃー!!」
 ユニウス7が割れるのを確認したシンは、戦闘中だというのに喝采の声を上げた。
 ストライクと斬り結んでいるうちに、いつの間にか後ほんの少しの距離で引力圏と言う距離まで地球に近づいていた。
 いまだ割れた破片のいくらかは地球へと向かっているが、先ほどまであった絶望的な大きさの状況に比べれば光明が差し込んだようなものだ。
「見たか!ケーラ!!」
 振り下ろされる光刃をシールドで防ぎながらシンは目の前の相手に興奮した声で叫んだ。
「俺達はユニウス7が地球に落ちることを望んでなんかいない!この戦いには意味がないって言うことがわかっただろう!!剣を引くんだ!!」
 インパルスのビームサーベルの出力を限界ギリギリまで下げながら、シンはケーラに停戦の申し出をした。
 本来ならば完全にビームを消した方がよいのだろうが、そうした瞬間自分は死んでしまう、と言う予感めいたものを感じたシンは、出力を下げることで戦闘の意思がないことをアピールすることにしたのだった。
『…………』
「手伝え、何ていうことは言わない。ただそのまま退いてくれるだけでかまわない。ケーラ」
 シンは懇願する気持ちでそう言葉を口にする。
 それに対して、ケーラが取った答えは―
「……それが、それがあんたの答えか!!」
―ビームサーベルを構えることだった。
「この、クソ野郎が!!」
 サーベルの出力を元に戻し、シンも迎撃の構えを取ったその瞬間、もう一人の主役が乱入してきたのは。
『貴様らーーーー!!』
 怨嗟の滲んだ黒い怒声を放ちながら、ジンH2はこちらにビームを放って接近してきた。
「なに?!」
 予想していなかった攻撃に、シンは驚きビームをシールドで防いだ。
「てめぇ!!」
『貴様らさえいなければ!!我らの怒りを受けよ!!』
「なに威張りながら言ってんだ!!」
 サーベルを離し、腰のライフルを構えはなったそれは、相手のライフルを奪うことに成功した。
 そして、相手のコックピットに銃口を向けながらシンはジンH2に通信を送った。
「投降しろ!!」
『投降しろだと?ふざけるな!!勝者の余裕のつもりか!!何故撃たん!!』
「そっちこそふざけるな!!勝者の余裕?そんなもんこれっぽっちも持ってなんかいない!!あんたには義務があるんだ!!それを全うさせたいだけなんだよ!!」
『………義務、だと?』
 シンの口から出た場違いな言葉に、サトーは素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。義務さ。あんたが、あんたらが引き起こした世界がどんなものか見る、っていう義務がな」
 ライフルを向けたままシンはそう言い切った。
 シンの口から出た言葉は、まさに彼本人の気持ちであった。
 先ほど破砕作業の成功を確認したが、あまりにも地球に近づきすぎていた。
 仮に全て破砕できたとしても、砕かれた破片の多くは地球の引力圏に引かれていくだろう。そうすれば、全てが燃え尽きる、と言う保障はないのだから、破片の雨で多くの命が奪われるだろう。その運命は、もう回避不可能なのだ。
 なので、出来ることは、少しでも破片の大きさを小さく砕くことが唯一の次善策なのだ。
 つまり、サトーたちの計画は結果だけを見れば成功、と言う部類に含まれるのだろう。
 そのことがシンは無性に悔しいことだった。
 悔しいからこそ、そのようなことを引き起こそうとした犯人の一人にでもその結果生まれる世界を見せたい、と思ってしまったのは仕方がないことだった。
『……そんなことを全うする義理はない!!』
「なら力づくで見せてやる!!」
 サトーの拒絶の声に、シンは吼え応えるとライフルの引き金を引こうとした。
『マナーがなっていないね。罰を与えないと』
 艶やかな、魂を犯しそうな声が響いたと思うと同時に突如インパルスは衝撃に襲われた。
「な?!ケーラ!何をした!!」
 地球へと向け移動しているインパルスのコックピットの中で、シンはこの事態の原因を知っているであろうケーラに疑問を投げかけ、モニターを睨み付けた。その視線の先には、背中に何も背負っていないストライクが悠然と存在していた。
(何も背負っていない?まさか?!)
『種を明かしてあげる』
 シンがこの事態の原因を思いついたと同時に、ケーラの楽しそうな声が響いた。
 それと同時に、先ほどまで存在していなかったものがその姿を現した。
 インパルスの後方にはいつの間にかシャトルの機首のような形をした小型戦闘機が、そのバーニアを全開にして噴かしていた。
 それは、先ほどまでストライクの背中に存在していたはずの『ビームガンバレル・セカンド』であった。
「いつのまに?!」
 インパルスの胴体部分をワイヤーが巻きついていることに歯軋りをしながらシンは叫んだ。
 納得がいかなかった。いつの間にこのような罠にかかったというのだろうか。
「ミラージュコロイド?いや、それだったらバーニアの火に気づくはず!!」
 シンの苛立った声を無視するように、『ビームガンバレル・セカンド』は地球へ向かって進んでいた。
 疑問はつきないが、今はそれに頭を悩ませている場合ではない、と切り替え残りのサーベルでワイヤーの切除に取り掛かった。
 ワイヤーは難なく切ることができたが、インパルスは引力圏ギリギリまで来ていた。
 ここで、どのようにして『ビームガンバレル・セカンド』がインパルスを確保することが出来たか、と言うと、シンが予想したことは一部だが正解であった。『ビームガンバレル・セカンド』にはミラージュコロイドが搭載されており、短時間ながらその姿を完璧に秘匿することが可能なのである。
 だが、ミラージュコロイドは熱などを隠すことは出来ないので、レーダーに熱反応を捉えられるので対処は可能なのだ。だが、それもあるものを使うことで回避できるのだった。それは、量子コンピューターを狂わせることの出来るウィルスである。
 ガンバレルの機体にそのウィルスを内蔵させることにより、コンピューターの認識を狂わせることが可能で、今回のようなことを容易に引き起こせるのだった。
 シンはスラスターを噴かし、なんとか引力圏にとらわれないようにしていたら、すぐ横をジンH2が通り過ぎていった。
 ジンH2もガンバレルのワイヤーに絡め捕らえられているようで、そこから抜け出せずに引力圏へと向かっていた。
 それを横目に見ていると通信が送られてきた。
『そうそう。言い忘れたが、私は野郎ではないぞ』
 その言葉と共にインパルスはまた衝撃を受け、今度こそ引力の鎖に絡め捉えられるのだった。
 最後にシンが見たのは、無事な方のレールガンの砲口をこちらに向け、見下しているストライクであった。
「ケーラーーーーーーー!!!」
 シンの怒声を無視し、インパルスはその身を水の惑星へと向かって落ちていくのだった。
「くそ!!突入体勢を取らないと!!インフィ、ミネルバに文章送信!このまま単独で突入するってな!!」
『了解。送信可能域限界ギリギリだ』
 シンは何とか大気との摩擦を減らすために姿勢制御をとろうとしたそのとき、自分の目の前に赤くなっているジンを見つけた。
 ガンバレルがないことから、脱出できたのか、それとも先に摩擦でダメになったのかの答えはわからなかったが、ジンは姿勢制御もろくに取らずにいた。
 それを見た瞬間、シンはインパルスをジンに向け進め、その機体を掴むと新たに姿勢制御を行うのだった。
『シン!無茶だ!!単機でも大気圏突入は危険なのに、二機でなんて!!』
「無茶でもやるんだ!!このおっさんには見せないといけないんだよ!!自分の憎しみの果てに生まれた地獄の風景をな!!」
 そう叫びながら、インパルスの姿勢制御を行おうとするのだが、二機の重みではなかなか上手く出来ずにいた。
『シン!!後方よりデブリ接近!!回避を!!』
「なぬ?!」
 インフィの報告に従い動かすと、すぐ脇を大きな塊が通り過ぎようとしていた。
「あぶね〜。……ん?あれは……」
 今しがた脇を通り過ぎたデブリを見ると、その中にタンクが見えた。その表面には『液体窒素』というラベルがあった。
「いけるか?!」
 それを見た瞬間、シンはそのデブリに向かいインパルスを進め、デブリのタンク傍にジンを抱え込むような体制でしがみついた。
 インパルスのスラスターを噴かし、なんとかデブリの進入角度を調節すると、傍にあったシャフトの一部を握り振り上げた。
「俺の悪運が勝つか負けるか、一世一代の博打だ!!」
 そう叫ぶと同時に振り下ろすのだった。
 タンクからあふれ出る液体窒素は、二機のMSに容赦なく噴きついてきた。
 そのおかげか、機体外気温の上昇は抑えられていた。
――なんとかジンはもつか?――
 インパルスに比べれば装甲などの面で劣るジンの様子を確認するが、今のところ爆発などの様子が見られないので大丈夫なようだった。
「それにしても、これが重力の力、か。すごいな」
 何か見えざる神の手に引かれるような感触をそう評しながら、シンはモニターを眺め見た。
 周囲に平行して落ちている塊の大きさと多さに、安心するのと悔しがる、相反する気持ちを持ちながら眺めた。
「………負けた、のか」
 その呟きに応える声はなく、ただコックピット内の温度が以上であると訴えるアラームだけが響いていた。


「ユニウス7の破砕を確認!!ですが、一部の巨大な破片が地球へと降下中!!」
 その知らせを聞くと、タリアは後方に向き直りこれからすることを告げた。
「こんな状況下に申し訳ありませんが、議長方はボルテールへお移りいただけますか?ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界まで艦主砲によるユニウス7の破砕を行いたいと思います」
「はいぃぃぃ!?か、艦長、それは……」
 突如タリアの口から出た言葉に、アーサーは驚きの声を上げる。
 アーサーだけではなく、艦橋要員の全てが声こそ出さないが驚愕の表情を浮かべていた。
「黙って。どこまで出来るかはわかりませんが………でも出来るだけの力を持ってるのにやらずに見ているだけなど後味が悪いですわ」
 タリアはそう笑みを浮かべながら告げた。
「そうか。……すまないが、後は頼む。では姫も」
 その笑みを見つめ、デュランダルは一つ頷くと立ちあがりカガリを引き連れて退出しようとした。
 だが、差し出された手に、カガリは首を横に振ることで答えた。
「私はここに残る。アスランがまだ戻っていない。それに、ミネルバがそこまでしてくれるというのなら私も一緒に!!」
 その言葉を聞いた瞬間、タリアは、あなたがいても何の役にも立ちません、と言いたいのを何とか我慢した。
「代表がそうお望みでしたら。お止めはしません」
 再考を促す声をタリアが上げるよりも前に、デュランダルはそう答えた。
 タリアは議長の発言に、人知れずため息をつくのだった。
「わかりました。それとレイ達に帰還信号を出して。もう限界高度ギリギリよ」
 思考を切り替え、部下に指示を出すことに専念するのだった。
 そして、二機のザクが帰艦してくるのを確認するのを見ながら、他の機体について尋ねるのだった。
「ザクだけ?他は」
「はい。ショーンとゲイル機は自力で帰還できない状態で、ボルテールが収容したとのことです」
「そう。インパルスは?」
「……わかりま、あ!いえ、いま文章が送られてきました。読み上げます。『帰艦難し。単独突入を行う』とのことです!」
「なんですって!」
 メイリンからの報告に、タリアは驚きの声を上げるが、すぐにインパルスは単独で大気圏突入が可能であった、と言うことを思い出し席に座りなおすのだった。
「わかったわ。………では、『総員に告ぐ。本艦はモビルスーツ収容後、大気圏に突入しつつ艦主砲による破片破砕作業を行う。総員、対ショック姿勢を』」
 その言葉に応じるように、二機のザクはミネルバに収容されると同時に、艦橋はにわかに慌しくなった。
 格納庫から、機体の固定完了の連絡が来ると同時にタリアは声を張り上げた。
「タンホイザー、てぇー!!」
 艦首の砲口から陽電子の奔流が放たれ、地球へと落ちようとしていた大きな破片を削り取っていった。


 その日、地球には星の雨が世界を覆い尽くすかのように降り注いだ。


「やれやれ。なかなかの壮観さじゃない」
 モニターに映るユニウス7の落下の様子を見つめながら、一つの影はそう呟いた。
 そこは、部屋の四方を多くの書物、映像媒体、モニターに囲まれた部屋で、その中央にその影は座っていた。
「ZAFTも頑張ったようだけど、結果は負けだね。破片のいくらかは地球に降り注いでしまう、そんな天命だったんだよ」
 そう呟くと、その影は机においてあったベルを鳴らした。
   ちり〜ん
 清涼で、耳に心地よいその音に誘われたかのように、一人の男が部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか。ナギ様」
「ああ。老人倶楽部の方から連絡は?」
「今のところありません」
「そう。だったら後で連絡をするか。それと、ドクターは?」
「ドクターはあの場所で調整中だそうです。また、PAの方から指示を下さるようにと要請の連絡が」
「ふ〜ん。わかったよ」
 そう答えると、影、ナギは入ってきた男を下がらせた。
「さて。そろそろボクがプロデュースする劇を始めようかな。上手く踊ってよね。ボクの愛する役者さんたち」
 そういうと、ナギは懐から取り出した写真を眺めると、無造作にそれを机の上にばら撒いた。
 ばら撒かれた写真には、ギルバート・デュランダル、ロード・ジブリール、ジョゼフ・コープランド、そして、キラ・ヤマトとラクス・クラインの姿が写されていた。
「さてさて。誰が一番滑稽で、愛嬌のある踊りを見せてくれるのかな」
 そうナギは呟くと、今後の指示や会談などのために部屋から出て行くのだった。
 後に残されたのは、数枚の写真と、破片が地球に降り注ぐ様を写したモニターだけであった。


―後書き―
 湿度のある暑さに少しばて気味のANDYです。
 今月のGAから新連載でΔアストレイが始まりましたが、あの辺の設定は使わない方向で行きたいと思います。
 というか、彼らがいたらもっと世界は変わっていると思えるのは私だけでしょうかw
 天ミナを模型店で見ましたが、カッコイイですね〜。
 購入しようかと悩んでいるところです。
 ノワールの方は購入したのですが。
 スターゲイザーも放送始めました。まだ見ていないのですが出来はどうなのでしょうか。
 納得できるものならよいのですが。
 さて、今回でユニウス7編は一応の終わりです。
 これから地上編になります。
 物語はこれから加速度的に進んでいく、はずですw
 原作とは異なる展開になると思いますが、その辺はどうか広い心でお願いいたします。


 では、久しぶりのレス返しを

>御神様
 温かいお言葉、ありがとうございます。
 あのネタは、ガイアインパルスのイラストがあまりにもアレに似ていたので思いついたねたでした。
 楽しんでいただけた用で何よりです。
 これからも応援お願いいたします。

>飛昇様
 無事に帰ってくることが出来ました。
 ガイアインパルスの格好が武者の方に似ていたらそうしたかもしれません。
 これからも応援お願いいたします。

>戒様
 無事に帰国できました。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 久しぶりの執筆でおかしいところもあるかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。
 これからも応援お願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア様
 無事に帰国できました。
 久しぶりにギャグパートでしたね。
 本編の方はギャグがなかなか出せない空気になりそうですが、執筆予定のアカデミー編などはギャグ色を強くしたいと思います。
 旅は色々なことを教えてくれました。皆さんもいつか旅をされてみてはどうでしょうか。
 ちなみに、ケバブにはヨーグルトが合いますよ。ヨーグルトはプレーンですけどね。まろやか、と言うわけではなくさっぱりとした感じで美味しかったです。
 これからも応援お願いいたします。

>弐様
 無事に帰国できました。
 一回目の感想が消去の対象にさせてしまい大変申し訳ありませんでした。

 原作でも、変り種のシルエットは採用すべきだったんですよね。自由の出番を削ってでもw
 HGのブラストシルエットを、アウトフレームとの抱き合わせで発売してもらいたいものです。
 旅は本当に色々な事を知ることの出来るものです。皆さんもいつかしてみてください。
 これからも応援お願いいたします。

>Kuriken様
 一回目の感想が消去の対象にさせてしまい大変申し訳ありませんでした。

 今回の敵は、まあ、各自SRWの自分の好きな機体で補完して下さいw
 個人的には、ゼ・バルマリィ帝国系、かな?
 他にも夢落ちネタで、ルナマリアバージョン、ケーラバージョン(18禁に限りなく近い状態です(汗))メイリンバージョン、ミーアバージョンがあります。そのうち執筆に詰まったら投稿するかもしれませんのでお楽しみに。
 うちのシンはその衝動を運動で発散させているので、まだ間違いは起こさない、はずです。
 まあ、いつかは起こすんだろうけど………
 これからも応援お願いいたします。

>ATK51様
 一回目の感想が消去の対象にさせてしまい大変申し訳ありませんでした。

 あのネタは、シンヤのほうが思い出した結果見たものなのです。
 スーパー系の機体が欲しいな〜、と思いながら寝た結果見たんでしょうwたぶん、そうに決まっている!!w
 親分の姿は、純粋にカッコイイと思えるので憧れてもよいのでは。
 姐さんも私は好きなのでその影響かな?そんな子に育てた覚えはありませんよ〜w
 これからも応援お願いいたします。


 今月の末にはGP02が発売されます。
 これは購入したいと思っています。ついでにGP01Fbも購入して対決を再現したいですね。
 スターゲイザー登場の機体もいくらかは使用したいと思うのですが、どうしましょうか。
 これから暑くなりますが、体調にはお気をつけてください。
 では。

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