インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「これが私の生きる道!運命編10最後の剣及びヨーロッパの嵐?編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-07-18 00:23/2006-07-19 19:18)
BACK< >NEXT

(三月一日、ジブラルタル基地内の一室)

二月二十八日、午後九時三十六分に旧姓ラクス・
クラインが双子を出産する。
この出来事は、ある人達にはそれなりの事件とし
て伝わり、またある人達には、大きな出来事とし
て捉えられたようだ。
俺は、ラクスの出産に立ち会わせるために力を貸
してくれた人達に向けて、赤ん坊の写真を撮って
送ってあげた。
写真は、私服を着た俺が、双子の赤ん坊を抱いて
いるという構図である。
俺は「ガブスレイ」にブースターを付けられて、
マスドライバーで射出された不幸な過去も、子供
が生まれた嬉しさで気にならなくなっていた。
人間とは、現金な生き物である。

 「へえ、本当に双子なんだ。女の子は、ラクス
  様と同じ髪の色をしていますね」

 「男の子は、カザマ君に似ているかな?まだ、
  生まれたばかりで良くわからないが」

ジブラルタル基地内の、臨時に作られたプレハブ
の食堂で、アーサー副司令とクルーゼ総司令が、
朝食を食べながら、プリントした写真を眺めてい
た。
ジブラルタル基地が陥落してから、一週間あまり
の時が流れたが、いまだに基地の復興は終了して
おらず、再び攻め込まれる危険性がなかったわけ
でもないので、復興の優先順位は軍事施設が優先
され、各国の兵士達は、テントやプレハブ小屋や
自分の乗ってきた軍艦内で寝泊りをしていた。


 「まあ、何にせよ。無事に生まれて良かったで
  すね」

 「そうだな。彼の分の仕事もこなした甲斐が、
  あったというものだ」

 「それは、私とコーウェルとバルトス司令とバ
  ルトフェルト副総司令のセリフです・・・」

 「おお!シンではないか。カザマ君から写真が
  届いているぞ!」

アーサーの都合の悪い言葉は、クルーゼ司令の耳
に入らずに、彼は朝食を食べに来たシン達に声を
掛けていた。

 「へえ、赤ちゃんの写真ですか。見たいです」

 「ステラ、叔母さんになっちゃった・・・」

 「ああ、そう言えばそうだね」

 「私達は、まだ花の十代なのよ!気にする事な
  いって!」

 「早く見ようぜ!」
 
 「そうだな。ヴィーノの言う通りだ」

 「そうか。お祝いを考えないといけないのか」

シン、ステラ、メイリン、ルナマリア、ヴィーノ
、ヨウラン、レイの同期の仲間が、全員で一斉に
写真を覗き込んだ。

 「へえ、可愛いですね」

 「ヨシヒロ、嬉しそう」

 「わーーー。可愛い」

 「私も、あと数年後には・・・」

 「ルナは気が早いな」

 「俺もそう思うぜ」

 「あそこは金持ちだから何でも揃っている。だ
  から、余計にお祝いの品が難しい・・・」

それぞれに、感想を述べていると、更に数人の乱
入者が現れる。

 「おはよーっす。カザマに子供が生まれたんだ
  って?」

 「ヴェステンフルス司令、この写真ですよ」

 「シン!ハイネと呼べって、言っただろうが」

 「でも、司令を名前で呼び捨てってのは・・・
  」

 「シン、遠慮するなよ。ハイネでいいんだよ」

 「そうですよ。神の前では皆が平等なのです」

 「俺はそんな事を、気にした事はないぞ」

 「俺も!」

唯一の常識人であるザンギエフは置いておいて、
他の四人は、常にこんなものであった。
 
 「お前達は、少しは遠慮しろよ。それで、世間
  的には丁度良いんだよ」

 「ハイネさん、これです」

 「まあ、カザマの事もヨシヒロさんだからな。
  しょうがないか」

ハイネ達は、シンから貰った写真を覗き込んだ。

 「へえ、可愛いじゃないか」

 「本当ですね」

 「ナイフで、切り刻みたくなるくらい可愛いな
  」

 「この人って・・・」

 「怖い・・・」

ジャックは褒めているつもりなのだが、その物騒
な発言に周りの全員が引いた。
 
 「おい!ジャック、おかしな発言はやめろよ!
  」

 「えっ?おかしいか?」

ハイネが怒った理由に、ジャックは気が付いてい
ないようであった。

 「神に召された、天使のような可愛さですね」

 「縁起でもない・・・」

日頃はまともなコンガの暴言に、メイリンがツッ
コミを入れ、それに全員が頷く。

 「お前も、バカか!」

 「褒めているのですが・・・」

ハイネ隊の隊員二人の暴言で、ハイネの立場と評
判は低下しつつあった。
周りの突き刺さるような視線が、ハイネには痛い

 
 「あの二人はバカだからな。俺達に任せておけ
  よ」

 「そうそう。ジャックなんて、赤服を着た刑務
  所に入っていない犯罪者なんだから」

オトマルクとサルトンが、「代わりにまともな発
言をしてやろう」と名乗り出てくる。
 
 「うるせえ!このナルシスト兄弟が!」

 「神は、本質を見ようとしない二人に、天罰を
  下すでしょう」

 「負け犬は黙ってろよ。さて、どんな赤ん坊か
  な・・・」

ジャックとコンガを無視して、二人の兄弟は写真
を眺め始めた。

 「これは・・・」

 「どうした?オトマルク」

 「ラクス様の子供達とは思えない。髪型が乱れ
  ている。早く、美容院に連れて行ってあげな
  いと」

 「アホか!昨日、生まれた赤ん坊の髪型なんて
  、そんなものだ!」

 「そうか?」

 「そうなんだよ!」

 「俺は、生まれつきクールな髪型だった」

 「嘘つけ!」

 「これが、あのハイネ隊のメンバーか・・・」

 「この前の、病院の出来事は嘘だと思いたかっ
  た・・・」

ハイネとオトマルクの漫談のような会話を、シン
達は呆れつつ、冷ややかに見つめていた。

 「俺は、兄貴とは違う!俺のクレバーな感想を
  聞きやがれ」

 「ほう。お前はどう思ったんだ?」

 「あの(黒い死神)の子供達とは思えない貧弱
  さだ。今から、プロテインと鳥のササミを取
  って、筋トレを行わなければ、大変な事にな
  ってしまう!」

 「大変なのは、お前の頭の中身だ!兄弟揃って
  同じような事を抜かしやがって!生まれたば
  かりの赤ん坊が、プロテインや鳥のササミを
  食うか!」

 「俺は生まれつき腹筋が6つに割れていて、プ
  ロテインを母乳の代わりに育ったんだ」

 「兄弟して、嘘をつきやがって!」

本人達は本気で信じているのだが、他の全員が「
嘘に決まっている」と心の中で同時に思っていた

 「やあ、諸君。おはよう」

 「おはようございます」

 「おはよう」
 
 「おっす!」

 「おはようさん」

このバカ集団の後始末を、どうつけようかと思っ
ていた矢先に、バルトフェルト副総司令とダコス
タ副司令が、ヒルダ達を連れて現れた。

 「おや?例の写真を見ているのかい?」

 「バルトフェルト副総司令は、もうご覧になっ
  たのですか?」

 「そりゃあね。彼を宇宙に上げるのに、色々と
  骨を折ったのだから」

 「我々は、クライン派ですから」

 「そういう事さ」

シンの質問に、バルトフェルト司令達が、さも当
然だと言わんばかりに答える。

 「それで、どう思いました?」

 「うーん。可愛いけど、アイシャの生む子供に
  は勝てないさ」

ルナマリアの質問に、バルトフェルト副総司令は
、顔をデレデレさせながら答えた。

 「(砂漠の虎)ゆえに、虎柄の子供が生まれる
  さ」

 「(変態仮面)の子供は、仮面をして生まれて
  きたのかな?」

 「何を!」

 「やるか!」

最近は、特に喧嘩をしていなかった二人が対峙を
始め、「竜虎相撃つ」の状態になってしまう。 

 「まずいなー。誰かが止めないと」

 「それは、カザマ君の仕事なんだよね」

ダコスタ副司令が心配をするが、アーサー副司令
は、自分の仕事ではないと宣言する。 

 「でも、カザマ司令はいませんよ」

 「そうなんだよね。ここは、ジュール隊長に任
  せるかな?」

 「ジュール隊長なら、今日はオフでいません」

 「そう言えば、そうだった・・・」

ここのところ忙しかったイザークは、休みを取っ
ていてこの場にはいなかったのだ。

 「ダコスタ副司令、止めて下さいよ」

 「いえいえ、アーサー副司令こそ」

お互いに有能ながらも、癖のある上司を持つ二人
が、仕事を押し付けあっている。

 「大体、パイロットスーツが虎柄なんてありえ
  ない事だ。きっと、部下達も恥ずかしい思い
  をしているのだろうが、上司ゆえに言えない
  のだ!可哀想だとは思わないのか?」

 「君が、そんなまともな考えをしているとは思
  わなかった。今日は、記念すべき日だな。だ
  が、そこまで言うのなら、ちゃんと司令官の
  仕事をしたまえ!」

 「私は、適材適所で部下達に仕事を割り振って
  いる。その私の、深謀遠慮が見抜けないとは
  ・・・」

 「サボってるだけだろ・・・」

 「言うか!この虎柄が!」
 
 「何を!この仮面野郎が!」 

 「ヒルダさん、新型機はどうですか?」

 「そうだね。あれの改良機が、新型量産機とし
  て配備されるらしいからね。楽しみだなって
  思える性能さ」

 「へえ、見てみたいな」

 「時間が空いたら、見にくれば良いさ」

 「そうだな。遠慮せずに来いよ」

 「乗せてやるよ」

 「ありがとうございます。ルナとステラとレイ
  も行くだろう?」

 「新型機を見てみたいです」

 「うん」
 
 「俺も行きます」

 「俺達も行きまーす!」

 「名前は何て言うんでしたっけ?」

 「(ギラ・ドーガ)だ」

 「へえ、私も見てみたいな」  

ダコスタ副司令とアーサー副司令が、お互いに仕
事を押し付けあっている間に、二人の不毛な口喧
嘩は続いていて、ヒルダ達とシン達は、それを無
視して、会話を続けるのであった。


(同時刻、「タケミカヅチ」艦内食堂内)

 「本当に、俺が入っても良いのか?」

 「大丈夫よ。パパが許可を取ってくれたし、要
  は、艦内をうろつかなければいいのよ」

休日とはいえ、する事がなかったイザークに、フ
レイから連絡があったのは、昨日の深夜の事であ
った。
ジブラルタル基地内で、正統ユーラシア連合政府
首脳とスペイン・ポルトガル政府の秘密会談が行
われる事になっていて、そのオブザーバーとして
アルスター外務長官が到着したのであったが、そ
の付き添いとして、フレイが一日だけ滞在する事
になったのだ。

 「でも、秘密の会談に、フレイが付いてきて大
  丈夫なのか?」

 「向こうに、わざとリークしているのよ。スペ
  インとポルトガルの動向が、他国は気になっ
  てしょうがないでしょうから」

 「政治の世界は複雑だな」

 「イザークも将来は、政治家になるんでしょう
  ?」

 「ああ。母上の跡を継いでな」

 「だったら、勉強しないと」

 「そうなんだが、ヨシさんほど頭が回らなくて
  な。あの人こそ政治家向きなのに、本人にそ
  の気が全くないからな。将来は、会社を経営
  したいそうだし・・・」

 「ふーん、そうなんだ。とりあえず、真面目な
  話はここで終えて、苦労して作った朝食を召
  し上がれ」

フレイは、「タケミカヅチ」艦内の調理場を借り
てイザークのために朝食作りに勤しんでいた。
メニューは、フレンチトースト、ベーコンエッグ
、サラダ、コーヒーという普通のもので、多少、
見栄えは悪かったが、それなりの出来に仕上がっ
ていた。

 「上手くなったじゃないか」

 「実は、レイナとカナのお母さんに教わったの
  よ」

 「ヨシさんの母上にか。成果が出ているじゃな
  いか」

イザークは朝食を食べ始めるが、味はかなり良く
、教わった甲斐があったというものだ。

 「パパも、(初めて、フレイのまともな手料理
  を食べた)って言ってたわ。失礼しちゃうわ
  よね」

 「今は、上手になったから良いじゃないか」

 「レイナ達みたいに和食が作れるようになりた
  いな。あと、中華料理とかも」

 「それは、楽しみだ」

イザークは、趣味が民俗学研究ゆえに、歴史が古
い国である日本と中国に興味を持っていて、その
国の料理も大好きであったので、フレイは自分で
も作りたいと思っているようだ。

 「相変わらず、お熱いことで」

 「イザーク、元気だったか?」

 「あれ?ホー三佐は、(スサノオ)の隊長だろ
  う?」

 「アサギが、朝食を奢ってくれるそうなので参
  上した」

 「当然、恋人である俺が、メインだけどな」

 「俺は食えれば良いよ」

ハワード三佐とホー三佐との再会を果たした直後
に、今度はキラが入ってくる。

 「あれ?今日はオフなの?」

 「ああ。こんなオンボロ基地では、する事がな
  いけどな」

 「だよね。でも、僕も休みが欲しいよ。昼はク
  ルーゼ司令にしごかれ、夜はレイナのお父さ
  んに沢山の仕事を与えられ・・・。また、過
  労死を心配する日々に逆戻りだ」

 「そうか。大変だな」

イザークは、クルーゼ司令の事をシン達に押しつ
けて、自身の心の安定を図っているので、助けよ
うという気はサラサラなかった。
彼もここ数年で、色々と学んだようだ。

 「お待たせ!あれ?ジュール隊長じゃないです
  か」

 「温泉以来だな。アサギ」

 「ですよね。今年は色々あって中止ですし」

 「あとでやればいいさ」
 
 「おはよう。キラ、朝食が出来たわよ。あれ?
  イザークじゃない。どうしたの?」

 「フレイに、朝食を作って貰ったんだ」

 「フレイ、上手になったでしょう?」

 「そうだな」
 
 「まだ、私がリードしてるけど。はい。キラ、
  召し上がれ」

レイナは、ご飯、味噌汁、梅干、焼鮭、ほうれん
草のおひたし、大根おろしのしらす乗せ、温泉玉
子、焼き海苔という旅館の朝食の定番のメニュー
を出してくる。

 「やっぱり、上手よね」

 「フレイも、もう少し頑張れば、出来るように
  なるわよ」

 「二人とも凄いね。私は中華だけど」

 「えっ、朝から中華料理か?」

 「まあね」

 「大丈夫か?」

 「中華は中華でも、中華粥だから」

アサギは、中華粥とザーサイとウーロン茶のセッ
トをハワード三佐とホー三佐に差し出した。

 「美味しいな」

 「稽古のあとには、ちょうどいいな」

 「お代わりもあるわよ」

それぞれが、恋人の手料理を堪能していると、食
堂の入り口から、黒いオーラが漂わさせたアスラ
ンが入室してくる。

 「おはよう、みんな。イザークはオフか?」

 「ああ、まあな」

以前ほどではないが、ライバル関係にあるアスラ
ンなので、強気な声を出そうとしたのだが、アス
ランのあまりの暗さに、声のトーンを落としてし
まった。

 「みんなは、美味しそうな朝食でいいよな・・
  ・」

 「お前も、新婚で楽しいだろう?」

 「まあな。食事以外はな」

 「食事以外は?」

 「おーい!アスラン!今日はシチューを作った
  ぞ」

オーブ軍の将官服の上に、エプロンという奇天烈
な格好のカガリが、トレイに皿を載せて厨房から
出てくる。
 
 「そうか。それは楽しみだな・・・」

その言葉とは裏腹に、アスランは引きつった笑顔
を浮かべながら、椅子に座った。

 「カガリ、今日の出来はどうなの?」

 「今日は自信があるんだ」

レイナが心配そうに尋ねるが、カガリは自信満々
に答える。 

 「あの不思議な色のスープは何なんだ?」

 「イザーク!しぃーーー!」

フレイがイザークの口を塞ぎ、アサギ、ハワード
三佐、ホー三佐も「何も喋るな!」という表情で
イザークを睨み付ける。

 「おう、イザークか。今日は朝食にシチューを
  作ったんだよ。アスランに、食べて貰おうと
  思ってさ」

 「そうか。早く食べさせないと、冷めてしまう
  ぞ」

 「それもそうだな。ありがとうな。イザーク」

カガリは嬉々とした表情で、シチューの入った皿
をアスランの席に持っていったが、当のアスラン
自身は、「余計な事をぬかしやがって!」という
表情でイザークを睨み付けていた。

 「(ざまあみやがれ)」

日頃、アスランに勝てない事が多く、多少のコン
プレックスを感じていたイザークであったが、恋
人及び奥さんの料理の腕前で、圧倒的な勝利を収
めたので、最高に気分が良くなっていた。
自分自身の事ではないが、勝ちに変わりはない。

 「さあ、早く食べてくれ」

 「今日のシチューは、何で緑色なんだ?」

 「アスランに栄養を取って貰おうと思って、○
  ューサイの○汁をネットで取り寄せて入れた
  んだ。美味しそうだろう?」

 「ああ、そうだな・・・」

基本的に優しいうえに、カガリが怒ったり悲しん
だりすると胎教に良くないと思っているアスラン
は、何かを悟ったような目でシチューの入った皿
を見つめていた。
色は緑色で、野菜は皮も剥かずに適当に切ってあ
るので生煮えで、牛肉も塊がそのまま放り込んで
あって生煮えだった。
アスハ家の新当主ゆえに、材料はどれも最高級品
なのだが、料理人が全てを台無しにしていた。
そして、見た目ばかりでなく、匂いも○汁の影響
で青臭かった。
アスランは、どうやって切り抜けようかという考
えから、どうやって、周りで自分達を楽しそうに
観察しているイザーク達を巻き込もうかに考えが
変わっていった。

 「カガリ、まだ沢山あるのか?」
 
 「シチューだからな。沢山作ると美味しいんだ
  よ」

 「みんなに食べて貰ったらどうだ?」

 「それもそうだな」

突然、標的が自分達に変わったので、イザーク達
の表情から笑みが消え、冷や汗が背中を流れ出し
た。

 「(イザークめ!余計な事を言った罰だ!)」
 
 「(アスランめ!死なば諸共か!)」

 「あんなのを食べたら、死ぬっうぎゃばき!」

正直に気持ちを語ろうとしたホー三佐が、アサギ
の裏拳で床に沈んだが、格闘技の達人であるホー
三佐が、その程度の攻撃を食らったり、気絶する
わけがないので、狸寝入りをしているものと思わ
れた。

 「ホー三佐!ずるいわよーーー!起きてよーー
  ー!」
 
 「わざとらしいぞ!お前が、その程度で気絶す
  るものか!」

 「(アホか!あんなゲテ物を食えるわけがない
  だろうが!)」

アサギとハワード三佐が、いくら揺すっても起き
なかったホー三佐であったが、アスランが無言で
近づいてきてから口をこじ開け、持ってきたシチ
ューを口の中に流し込んだ。

 「堯@*{}<?_*+=~ーーー!」

あまりのシチューの不味さに、ホー三佐は、常人
には発音不能な声を上げながら、起き上がってし
まう。

 「相変わらず、酷い味だ・・・」

 「どんな感じだ?」

 「土手を食うと、あんな味なんだろうな・・・
  」

 「ホー三佐、土手を食べた事があるの?」

 「あくまでも、そんな感じだという事だ」

 「失礼な事を言うなーーー!」
 
 「まかたよーーー!」

アサギ、ハワード三佐、ホー三佐の会話の輪にカ
ガリが乱入してきて、ホー三佐にパンチを入れる

今度は不意の事だったようで、ホー三佐は本当に
気絶してしまった。

 「可哀想に・・・」

 「カガリ様、酷いですよ!」

 「土手はないだろうが!せめて、アドバイスを
  寄こせ!」

 「○汁なんて、入れないで下さいよ」

 「栄養を考えたんだ!」

 「栄養の前に、まともに作れるようになって下
  さい・・・」

 「もう、良い!お前達には頼まん!キラ!味の
  感想を言え!」

 「えっ!僕なの?」

まさか、自分に回って来るとは思わなかったらし
く、キラが驚きの声をあげる。

 「僕は、レイナの朝食でおなか一杯で・・・」

 「味見くらい出来るだろう?」

 「アスラン・・・。恨むよ・・・」

キラは、お腹が一杯だと言って断ろうとしたが、
親友の裏切りで、試食をする羽目になってしまっ
た。

 「いただきます・・・」

キラは、嫌々シチューを口に運ぶが、匂いからし
て最悪の味である事が予想できた。

 「うっ!」

 「どうだ?キラ」

 「ウサギのエサ?」

 「何だとーーー!」

 「だって、本当に不味いんだよ!」

 「もう少し、言いようがあるだろうが!」

キラとカガリは、不毛な口喧嘩を開始する。

 「カガリ、誰かに習った方が良いよ」

 「そうそう。不味いのは事実なんだから」

レイナとフレイが、カガリに苦言を呈する。
 
 「フレイも下手だろうが!」

 「私はちゃんと習っているわよ」

 「イザーク!」

 「何だよ・・・」

 「試食しろ!」

 「俺はお腹が一杯だ」

標的が自分に変わったイザークは、お腹が一杯だ
と言って断ろうとするが。
 
 「味見だけだよ」

 「まさか、逃げるような真似はしないよな」

 「アスラン!何だとーーー!」

 「たかが、試食でしょう?」

 「ザフト軍の指揮官ともあろう方が、逃げない
  よな」

キラとアスランが、巧みにイザークを激怒させて
試食を断れないようにする。

 「よこせ!カガリの不味いシチューくらい」

 「不味いとは何だ!」

イザークは、カガリの怒鳴り声を無視して、シチ
ューの入った皿を引き寄せてシチューを口に放り
込んだ。

 「・・・・・・・・・」

 「どうだ?」

 「子供の頃、母上とキャンプに出掛けた時に、
  俺は、緑色の水の沼に落ちてしまってな。そ
  の時の沼の水と同じ味がする・・・」

 「なるほど」

 「系統は同じか・・・」

イザークの味の評価に、ハワード三佐とキラが共
感する。

 「つまり、○汁を入れなければ良いのか?」

 「何で、そうなるんだ?」

 「カガリ、そういう問題じゃないんだよ・・・
  」

 「誰かに料理を習いなさいよ・・・」

イザーク、アスラン、レイナの感想をよそに、カ
ガリは、自分の料理が不味いのが、自分のせいだ
とは思っていないようだ。

 「うっ!腹が痛い・・・」

 「俺もだ・・・」

 「僕もだ・・・」

カガリのシチューを食べたホー三佐、イザーク、
キラが急に腹痛を訴え始める。

 「どうした?寝冷えでもしたか?」

 「恨むぞーーー!カガリ様ぁーーー!」

 「俺を巻き込むなーーー!」

 「何で!僕がーーー!」

三人は急に襲い掛かった便意に耐えられなくなっ
て、カガリに怨嗟の声をあげながらトイレに向か
って走り出した。

 「カガリ!せっかくの、久しぶりのオフをどう
  してくれるのよ!」

これから二人きりの時間を楽しもうと思っていた
フレイが、カガリに怒りの声をあげた。

 「人の渾身の作を沼の水だと!少し、○汁が入
  っているだけだろうが!」

 「そんな物、入ってなくても不味いでしょうが
  !」

 「少しくらい、料理が上手くなったからって威
  張りやがって!」

 「威張ってないわよ!私は普通なの!カガリが
  おかしいのよ!」

 「言ったなーーー!」


 
 「あーあ。始まっちゃった。ホー三佐達は、ま
  だトイレから出てこないの?」

 「連続して便意が襲ってくるそうだ」

 「キラ達も可哀想にな」

 「アスラン・・・。お前、結局食べてないだろ
  う。カガリ様のシチュー」

 「秘密の厳守をお願いします。キラは今日は仕
  事にならないから、俺がキラの分も肩代わり
  しないと・・・」

 「クルーゼ司令に、お休みの連絡を入れておく
  か・・・」

 「学校みたいね」

 「クルーゼ司令が、十六歳〜十八歳の若者を鍛
  えているんだ。学校と言えば学校だな」

 「それにかまけて、ザフト軍の総司令官の仕事
  をしていないという噂だけど・・・」

 「気にするな。ちゃんと組織として機能してい
  るし、他所の軍の事だ」

 「カザマ教官って偉大なのね」

 「今は、いないけどな」

 「赤ちゃん、可愛かったな」

今朝、カザマ技術一佐の元に写真が届き、みんな
に嬉しそうに見せていたのだ。

 「欲しいか?」

 「そうね。この戦いが終わったら欲しいかな」

 「そうだな。この戦いが終わったら、大きな指
  輪を用意して、プロポーズでもして式をあげ
  るか」

 「楽しみに待っているわよ」

キラ達が酷い目にあっている頃、アサギとハワー
ド三佐は、二人きりの世界を作り出していた。


 

 「若者っていいよな」

 「そうですね。でも、トダカ少将の奥方も若い
  じゃありませんか」

 「でも、それなりに年数が経つとな」

 「なるほど・・・」

端のテーブルでトダカ少将とハミル准将が、コッ
ソリと朝食を食べていた。
なぜ、コッソリなのかと言えば、カガリのシチュ
ーを勧められでもしたら大変だからだ。

 「しかし、不味そうなシチューでしたね。子供
  の頃に家の外の池で鯉を飼っていましてね。
  その時の池の水の色ですな」

 「家の近所の公園にある池の水の色だ。飼い切
  れなくなって捨てられたミドリガメが、沢山
  生息しているんだ」

 「まあ、そんな感じですね」

二人とも、上官にかなり酷い事を言っているが、
事実なので致し方ない部分もあった。
二人は、以前にキサカ少将と共にカガリの手料理
で、「正○丸」のお世話になる事態を経験した事
があったからだ。

 「それはおいといて、カザマ技術一佐は大丈夫
  なのか?」
 
 「初孫ですからね。今日は、仕事にならないと
  思いますよ。まあ、それを見越して、早めに
  仕事を進めていたのはさすがですけど」

二人の目の前の席で、カザマ技術一佐がデレデレ
とした顔で写真を一心不乱に眺めていた。
彼は、写真に集中していて、目の前の朝食にも手
をつけず、周りの大騒ぎも耳に入っていない様子
だ。

 「二人とも可愛いなーーー。休暇を取ってプラ
  ントにあがろうかな?仕事は、キラに任せれ
  ば良いしな」

 「凄い事を言ってますね・・・」

 「完全に、孫に会いに行く事しか考えていない
  ・・・」

 「カザマ技術一佐、今日の実験の件なんですが
  ・・・」

そろそろ、勤務時間が始まる時間になったのだが
、技術部の責任者であるカザマ技術一佐が格納庫
に現れないので、部下の技術将校が迎えにきたよ
うだ。

 「キラに任せて、指示通りやってくれ。あいつ
  が訓練から戻ってくるまでは、お前達でも大
  丈夫だろう?」

 「それは、大丈夫ですが・・・。ヤマト技術二
  佐なら、トイレから出られなくて今日のクル
  ーゼ司令との訓練もお休みするそうです」

 「トイレから出られなくなった?寝冷えか?」

 「えっ!知らなかったんですか?目の前で、大
  変な事になっていましたよ」

 「知らん。俺は写真を眺めるのに忙しい」

 「ヤマト技術二佐は、カガリ様の手料理を口に
  入れてしまいまして・・・」

 「うかつだったな。あんな産業廃棄物を・・・
  」

 「そんな事を言って大丈夫ですか?」

 「大丈夫だよ。さあ、とっと仕事にかかれや」

 「了解です」

 「頼むな。うーん。写真も良いが、映像をヨシ
  ヒロに送って貰おうかな。しかし、あいつも
  気が利かないな」

部下の技術将校は去り、カザマ技術一佐は、写真
を眺めながら手元に置かれたスープの入ったカッ
プを口に運んだが・・・・・・。

 「ぶっーーーーーー!」

 「どうした?カザマ技術一佐」

 「誰だ?艦長室の水槽の水を入れたのは!」

 「あの・・・。それ、カガリの作ったシチュー
  なんですけど・・・」

どうやら、アスランがこっそりと、中身を普通の
スープと入れ替えていたらしい。

 「酷い味だな。昔、熱帯魚を飼っていた時に、
  水を替える専用のホースが壊れて、普通のホ
  ースで水を吸い出したら、間違えて飲み込ん
  でしまった時があってな。その時と全く同じ
  味だぜ・・・」

 「うっ、そこまで言われるなんて・・・」

フレイとの喧嘩をひと段落させて、カザマ技術一
佐の感想を聞いていたカガリは、落ち込んでしま
う。
カガリは、年長者であるカザマ常務が嘘をつく訳
がないと思っていたし、激怒して彼を怒鳴りつけ
るわけにはいかなかった。
カザマ常務は、アスハ家では貴重な経済と技術面
の重要なブレーンなのだ。
自分の父であるウズミとは、個人的な友情を育ん
でいたが、自分はお願いをして助言して貰ってい
る立場なのだ。
基本的に善人で、野心も少ない彼が自分の派閥を
裏切るとは思わないが、不仲が噂になれば、大喜
びでサハク家が引き抜きにかかるであろう。
彼を失うという事は、彼に繋がる上司と部下と、
国内外を問わずに顔見知りで付き合いのある、政
治家・官僚・軍人・財界人などとのネットワーク
を失う事になるばかりか、息子繋がりで、ザフト
軍人やプラントの政財界人との繋がりも薄れてし
まうので、それは得策ではなかった。

 「そうか・・・。私の料理は不味いのか・・・
  」

 「習えば良いではありませんか。今日からはレ
  イナに、帰国したら妻に習えば良い。ヨシヒ
  ロからの便りにもそう書かれていました」

 「なるほど。そうか・・・」

 「初めから、料理が上手い人間なんていません
  よ。思えば、レイナ初めて作った料理は酷か
  った。カレーなのに、ウ○コのような味がし
  て・・・」

 「カザマ技術一佐、ウ○コを食べた事があるの
  か?」

 「あくまでも例えだよ。トダカ少将」

 「つまり、練習すれば上手くなると?」

 「そういう事です」

 「よーし!頑張るぞ!」

カガリが大喜びで気合を入れ始めたので、めでた
しだと思われたのだが、一人だけ大激怒をしてい
る人物がいた。

 「誰のカレーがウ○コ味なのよーーー!」

 「レイナも、母さんに似てきたな・・・・・・
  ・」

レイナが、渾身のラリアートをカザマ技術一佐に
食らわせたので、彼は写真を両手に持ったまま気
絶してしまう。

 「あーあ。これでは、暫く目が覚めませんよ」

 「どうせ、今日は使い物にならないから大丈夫
  だろう?」

 「ヤマト技術二佐もアレだからな・・・」

トイレから戻ってきた来た三人であったが、再び
便意が襲い掛かって来て、トイレに向かって走り
出してしまう。

 「こんなんで、我が軍は大丈夫なのかな?」

 「戦闘がありませんからね。大丈夫でしょう」

昼行灯と呼ばれる、ハミル准将の答えはこんなも
のであり、戦闘のないオーブ軍を含む各国の軍は
、束の間の平和を享受していた。


(三月三日、クライン邸内)

 「やっぱり子供って可愛いなーーー」

サクラとヨシヒサが生まれてから三日が経ち、俺
は休暇の間中、ベビーベッドにしがみ付いていた
のだが、今日は、エザリア国防委員長に呼び出さ
れていたので、仕事に出なければならなかった。
今日は、日本ではひな祭りが行われる日なので、
ベビーベッドの側に母さんが持ってきた、雛人形
が飾られていて、菱餅や雛あられや甘酒の用意が
されていた。

 「ヨシヒロ、そろそろ時間ですよ」
 
 「えーーー。仕事に行くのーーー」

 「お父さんのような事を言わないでよ。レイナ
  とカナが生まれた時は、仕事に行きたがらな
  いでね。困ったものだったわよ」

 「だって、ここにはこんなに可愛い天使がいる
  のに、何が悲しくて、エザリア国防委員長の
  ようなオバちゃんに、会いに行かなきゃいけ
  ないんだよ・・・」

 「お前は、本当にお父さんに似ているよ」

 「どうして?上司の事を、オバちゃん呼ばわり
  したの?」

 「違うわよ。うかつな点がよ。後ろをご覧なさ
  い」

母さんの指摘で後ろを見ると、子供を見に来がて
ら、俺を迎えにきたエザリア国防委員長が、顔を
引きつらせながら俺を睨んでいた。

 「あはは。おはようございます・・・」

 「ごめんなさいね。オバちゃんで」

 「今日も大変お美しく・・・」

 「お世辞はいいわよ」

 「やばいなあ。前線送りかな?」

 「それは、元々ではありませんか」

 「そう言えばそうだよね。怖いものなんてない
  んだよな。可愛いでしょう?私の子供達は」

ラクスの指摘で、俺は開き直りながらエザリア国
防委員長にサクラとヨシヒサを紹介した。

 「本当に双子なのね。どちらがお兄さん?それ
  とも、お姉さん?」

 「先に生まれたから、サクラがお姉さんですよ
  。双子の兄弟の順序は各説あるそうですけど
  、戸籍の登録はそれで行いました」
 
 「あら。髪の色がお母さんと同じなのね。でも
  、可愛いわね。イザークの子供の頃を思い出
  すわ」

エザリア国防委員長は、サクラを慣れた手つきで
抱きながら昔の事を思い出しているようだ。

 「こっちの男の子は、あなたに似ているわね。
  将来はザフト軍に入るのかしら?」

 「さあ?それは、本人次第ですから」

 「あなたらしい答えね。では、行きましょうか
  」

 「どこに行くのですか?」

 「軍事工廠よ」

俺はエザリア国防委員長の車に同乗して、軍事工
廠に向かうのであった。


 「ここも、久しぶりですね」

 「あなたはそうなのかも知れないわね」

エザリア国防委員長に連れられて、工廠の最重要
区画に案内された俺は、多数の学者や技術者の作
業を眺めながら奥に進んでいく。
どうやら、何か重要な物を見せてくれるようだ。

 「何を見せてくれるのですか?」

 「それは、アマルフィー技術委員長に聞いて頂
  戴」

 「ニコルの親父さんにですか?」

 「ええ」

一番奥の区画に着くと、そこにはアマルフィー技
術委員長と数人の技術者達が、俺達を待ち構えて
いた。

 「やあ、久しぶりだね。お子さんが生まれたそ
  うで。おめでとう。妻がお祝いを持って、今
  日行くそうだが」

 「それは、ありがとうございます。ラクスも喜
  ぶと思います」

 「いやなに、君の母上がご滞在だそうだから、
  正式に会っておきたいというのもあるらしい
  」

 「でしょうね」

 「さて、個人的な話は置いておいて、仕事の話
  をするとしようかな。おい!照明を」

アマルフィー技術委員長の指示で、奥のハンガー
の照明が灯り、三種類のモビルスーツが照らし出
された。

 「これが噂の新型量産機ですか?」

 「手前の二つは違う。一番手前のモビルスーツ
  は(ケンプファー)という名の不採用機だ。
  実は、これ一機しかないのだが、カスタマイ
  ズされて部隊に配備される事が決まったので
  、現在は最終調整中なのだ」

 「これが俺の乗機ですか?」

 「パーソナルカラーがヒントかな?」

 「ダークグレイですか。ディアッカですか?」

 「そうだ。デブリ帯を中心に活動している、エ
  ルスマン隊に配備される事が決まっている。
  あの隊には、(フライングアーマー)と(グ
  フ)も重点的に配備されて、万が一の時には
  、地球に降下して貰う事になっているらしい
  」

 「ヨーロッパの戦況次第ですか?」

 「そうだ。彼の事情は察しているが、現在のザ
  フト軍のモビルスーツパイロット不足は危機
  的状況だ。紛争や事変とは名ばかりの激闘で
  、パイロットの被害が大きいので、予備役を
  中心に再動員をかけている最中で、彼を遊ば
  せておくわけにいかないそうだ」

 「そうですか」

俺は、アマルフィー技術委員長の話を聞きながら
、「ケンプファー」を見上げていた。
この機体は、多数の火器を装備して強襲をかける
ためのモビルスーツであるが、純粋に高性能なの
で、エースクラスの指揮官に支給して戦力の強化
を図るらしい。
金を掛けて開発した手前、テストは行わなければ
ならないので、前線で使わせてデータを集めて新
型量産機開発の礎にするようだ。
随分と、金を掛けているのだなと感心してしまう
と共に、コーウェルが聞いたら、大激怒しそうな
話だとも思ってしまった。

 「マッケンジー特別軍需委員長は偉大な方だっ
  たのさ。戦時中に臨時で委員長を引き受けて
  貰った時には、こんな事はなかったのに・・
  ・。せっかく、(ジェネシス)と(メサイア
  要塞)の建造中止と(ゴンドワナ)の艤装の
  簡略化で予算を浮かせたのに、多数の新規開
  発で予算を食い尽くしてしまった。この前、
  彼に会った時に怒られてしまったよ。私には
  そこまでの権限がないとはいえ、開発の乱発
  を許してしまった罪があるからな」 

アマルフィー技術委員長にその責任を問うのは、
罪な事だと俺は思っている。
罪は、ザフト軍幹部で予算を配分している連中に
あるからだ。
アマルフィー技術委員長は、予算を配分されたら
、それを使って開発を行わなければいけない立場
なので、少ない予算で成果をあげる事には慣れて
いるようだが、多額の予算を貰って戸惑ってしま
った部分があるらしい。
技術開発を行う時に、いきなり何段階も先の新技
術の開発は不可能なので、班をいくつも作って平
行して開発を行わせ、軍事工廠全体の底上げを行
ったらしいのだが、皮肉にもそれは批判の原因に
なってしまっていたのだ。
そして、エザリア国防委員長も基本的には有能な
人なのだが、ザラ前国防委員長ほどの豪腕はない
ので、ザフト軍幹部の反感を避けるためにその行
動を苦々しく思いながらも黙認していた節があっ
た。
だが、今回の件で堪忍袋の尾が切れて、彼らを左
遷してしまったようだ。
このような話を聞いていると、政治家の大変さが
よくわかるので、俺は政治家になるのだけはゴメ
ンだと思っている。
プラントの評議会議員は、他国の政治家に比べれ
ば権限が大きい方なのだが、選挙で選ばれている
事に変わりはないので、それなりに気を使わなけ
ればいけない事が多いらしい。
彼らは王様ではないのだから・・・。 
戦前ならば、彼らが無駄な事をすると、マッケン
ジー委員長が怒鳴り込んでくるので大人くしてい
たのだが、戦後に色々と利権を得るために動いて
いたらしい。
戦後の軍縮のせいで、艦艇とモビルスーツの量産
に旨みがなくなったので、高性能モビルスーツの
開発と量産を進めるとの通達で、多額の予算が技
術部に回され、似たようなモビルスーツの開発の
乱発で予算を圧迫する事態になっているようだ。
先のジブラルタル決戦で喪失した多数のモビルス
ーツを量産しようとした時に、予算がない事に気
が付いて大騒ぎしているらしいのだ。
何とも、間抜けな話である。   

 「それで、開発してしまった機体のデータ収集
  を兼ねて前線に送る事が決まった事が一つと
  、ある方の意見で開発された新型量産機の試
  作第一号機と、その前の量産実験機が奥の二
  つなんだ」

 「あるお方?」

 「君の奥さんだよ」

 「えっ!ラクスですか?」

 「そうなんだ。まずは、奥の一つ目の機体だが
  、これは(ギラ・ドーガ)という機体で、急
  遽量産が決まったんだ。全部で三十機ほどだ
  がね。先に量産された三機がヒルダ・ハーケ
  ン以下三名の元に先に回されている」

 「へえ。(ドム)の次は、この(ギラ・ドーガ
  )ですか」

 「残りの機体のパイロットを選抜して、地球に
  降下するのがあなたの任務なのよ。カザマ司
  令」

今まで静かに機体を眺めていた、エザリア国防委
員長が、俺の新しい任務を説明する。

 「パイロットを選抜ですか?」

 「特一大隊からね」

 「えっ!あの特一からですか?」

特一とは、「ゴンドワナ」所属のモビルスーツ隊
第一大隊の事であり、隊長はあのグリアノス隊長
であった。
彼は既に、司令格で本国防衛艦隊のモビルスーツ
隊全体の指揮を執っている立場ではあるが、この
第一大隊の隊長も兼任していた。
この部隊は、俺達の教官を務めていたようなベテ
ランのエースばかりが所属していて、撃墜王倶楽
部の体を成していた。

 「私が選抜するんですか?私なんて、あそこで
  はヒヨッ子扱いですよ」

 「でも、あなたの方が偉いのよ」

 「エザリア国防委員長は、知らないかもしれま
  せんが、パイロットに階級なんて関係ないん
  ですよ。指揮官は大まかな命令は出せますが
  、戦場では、パイロットは自分の判断と腕一
  つで敵と戦うのです。その時に、いくら偉か
  ろうと腕の劣る者には従いません」

 「あなたも凄腕じゃないの」

 「確かに、腕に多少の自信はありますが、終戦
  まで(ジン)(シグー)(センプウ)を巧み
  に操り、多数の戦果をあげて生き残った彼ら
  の腕はハンパではありません。グリアノス隊
  長が、大隊長をいまだに務めているという事
  は、次の大隊長がいないからなんでしょう?
  」

 「相変わらず鋭いわね。確かに、あなたの言う
  通りよ。並の隊長では、自信をなくしてしま
  うから・・・」

特一の連中の特徴は、個人技に優れ小隊・中隊規
模の連携は超一流なのだが、指揮官の特性に欠け
る連中が多く、交代でアカデミーなどの教官を務
めながら、「ゴンドワナ」を根城にしていた。
つまり、パイロット特性のみ超一流の連中が揃っ
ていたのだ。
誰もが、クルーゼ司令やハイネやミゲル達みたい
に、パイロットも指揮官も出来るというわけでは
ないのだ。

 「荷が重いなーーー」

 「新型機もあるし、あなたなら大丈夫だから」

 「本当ですか?」

 「最後の機体を紹介していいかな?」

話を中断してしまい、アマルフィー技術委員長が
焦れてきてしまったようなので、最後の機体を紹
介して貰う事にする。
 
 「これが、噂の新型機だ」

そう言って、アマルフィー技術委員長が新型量産
機を紹介するのだが・・・。 

 「(ジン)に見えますけど・・・」

それは、多少細部が違っていたが、「ジン」その
ものであった。

 「そうです。通称(R−ジン)と呼ばれている
  機体です」

 「なぜに(ジン)なのですか?嫌いではありま
  せんが・・・」

 「ラクス様に以前、(新型モビルスーツの外見
  はなぜ、こうも違うのでしょうか?重要なの
  は中身だと思うのですが。武装やスラスター
  などで形が変わるのは理解できるのですが、
  外見をあそこまで変える事が必要なのですか
  ?)と言われた事があってね。そこで、(
  ギラ・ドーガ)を参考に外見を(ジン)に変
  えて改良したんだよ。背中のパックは(ギラ
  ・ドーガ)のものをそのまま使っているし、
  武装も共通のものが多いかな。それと、ラク
  ス様からユーラシア連合クーデター政権軍の
  新型量産機の実機を頂いたので、それの解析
  と使える部分の検証と改良を行っているとこ
  ろなんだ」

一番奥に鎮座している新型機を見ると、多少ごち
ゃごちゃと増えていたが、見た目は「ジン」その
ものだった。
色は試作機ゆえに、Vフェイズシフト装甲を装備
していて黒くなるらしいし、左肩の赤い追加パー
ツも用意してくれるらしい。
Vフェイズシフト装甲でも、片方の肩のみを赤く
するという器用な真似は出来ないからで、これは
「グフ」の頃から一緒であった。
ちなみに、量産機はフェイズシフト装甲装備機に
なる予定のようだ。

 「完成はいつごろですか?」

 「今月末だね」

 「それまでは、部隊の編成と訓練を行って貰い
  ます。三月の末にフランスを開放する作戦を
  行うので、その作戦時に精鋭部隊でパリの中
  枢部を直撃して貰います」

 「(フライングアーマー)で直接降下ですか?
  」

 「そうよ。だから、並みの部隊では不可能なの
  」

 「了解しました」

こうして、俺は新たな任務に向かって動き出す事
になった。
  
 
    
  

   


 
 「失礼します」

アマルフィー技術委員長の元を辞し、エザリア国
防委員長と別れた俺は、その足である軍事ステー
ションに向かった。
ここには、「ゴンドワナ」所属のモビルスーツパ
イロット達の待機所があり、訓練を終えた彼らが
、休憩やミーティングをしたりしていた。

 「よう!久しぶりだな。元気にしていたか?」

 「色々ありましたけど、元気ですよ」

 「子どもが生まれたばかりなのに、ご苦労な事
  だ」

待機所では、グリアノス隊長が俺を出迎えてくれ
たのだが、後ろを見ると多数のベテランパイロッ
ト達が俺を好奇的な目で見ていた。
どうやら、俺の任務内容を心得ているようだ。

 「ちょっと、俺の部屋まで来ないか?」

 「ええ。いいですよ」

 「付いて来い」

俺はグリアノス隊長に付いて、待機所をあとにし
た。

 


 「ここは、俺の司令としての執務室でな。まあ
  、日頃はほとんど使っていないが」

俺はグリアノス隊長に執務室に通されてから、コ
ーヒーを出して貰っていた。
彼の淹れるコーヒーは恐ろしいほどに濃く、一発
で目が覚めてしまいそうな味だ。
 
 「ここを使っていないんですか?確か、本国艦 
  隊のモビルスーツ隊指揮官ですよね?」

 「こんな部屋で偉そうに命令を出しても、誰も
  言う事を聞かないからな。待機所でミーティ
  ングをやっているんだ。各艦のモビルスーツ
  隊隊長に連絡事項を伝えてそれを徹底させる
  。文句のある奴は訓練でねじ伏せる。これが
  俺のやり方だ」

 「相変わらず、物凄い豪腕ですね」

 「おかげで、書類をこなす時間がないから、副
  官に事務処理に長けた奴を付けて貰って、彼
  に書類仕事をやって貰っている。その点、お
  前は腕もあり、指揮官としても優秀で、基本
  的にオールマイティーだからな。さすがは、
  将来のザフト軍最高司令官候補ってところだ
  な。俺はここいらが限界だからな」 

 「そんな事はないでしょう」

 「日本人の悪い癖だな。謙遜も時には悪だぞ。
  お前、さっきの待機所で、奴らの目を見たか
  ?」

 「見た目は好奇の視線。でも、複雑な心情を隠
  している・・・」

 「良く見ているな。連中は興味・嫉妬・羨望な
  ど様々な感情でお前を見ているんだ。ザラ前
  国防委員長やエザリア国防委員長とのパイプ
  が太くて出世が早いクルーゼと、クライン派
  の有力なシンパゆえに同じく出世が早いバル
  トフェルト。そして、イザークやディアッカ
  の様に最高評議会議員の息子や、生粋のプラ
  ント出身者の中でも優秀なハイネやミゲルと
  違い、地球出身で、単身でプラントにあがっ
  てきたよそ者の癖に、ラクス・クラインを妻
  にして、出世街道を驀進中のお前に、複雑な
  感情を抱いているってわけだ。勿論、連中も
  お前が最初は捨て駒として、各地を転戦して
  いた事実も知っているがな」

先の大戦時の開戦当初の俺の任務は、生粋のプラ
ント出身者の軍人を守るために体を張る事であっ
た。
各地の激戦地に回され、命を掛けて多数の艦船、
MA、戦車、装甲車、航空機を撃破した。
そんな俺の人生の転機は、プラントの政策に変化
が見られ、対地球連合包囲網の形成が戦略として
採用されてからだった。
地球連合構成国で迫害を受けたコーディネーター
兵士にも出世の道が開け、俺も本国に呼び出され
てアスラン達の教官を務め、彼らを率いて最精鋭
部隊の名を欲しいままにして出世を果たし、ファ
ンであったラクスに惚れられてしまって、結婚ま
でして子供も生まれた。
今では、俺と彼らの立場が逆転してしまったのだ

一方、彼らは、プラント出身者が大半であるが、
能力的には赤服を着ることが出来なかった者ばか
りだ。
部隊に配属されてから、血の滲むような努力をし
て、多数の同僚の戦死を見ながら、歴戦のベテラ
ンと呼ばれるまでになっていた。
そんな彼らも、パイロットとしての寿命が終われ
ば、軍に居られなく者が大半だ。
一部は、教官や運が良ければモビルスーツ部隊の
参謀として残れるのだろうが、大半の者は民間に
戻って再就職口を探す事になり、それは限られた
物になってしまうであろう。
多分、作業用モビルスーツを使う仕事が大半のは
ずだ。
正直、他の兵科出身者の方がつぶしが効くとも言
えた。
そして、俺は軍に残れば出世も可能だし、辞めて
もクライン家の庇護があるのだ。
パイロットゆえに、粘着質な性格をしている者は
少数なのだが、俺に対して複雑な感情を抱いてい
る事は事実であったようだ。

 「人間ってのは複雑ですね」

 「そこで、それを払拭する儀式を行う。その後
  に存分に選んでくれ。どいつも、器用に(ギ
  ラ・ドーガ)を乗りこなすさ」

 「グリアノス隊長はどうします?」

 「俺は、ここのモビルスーツ隊の指揮があるか
  らな。お前が引き抜いた連中の補充と再訓練
  を行わねばならない。本当にご苦労な事だよ
  。では、始めるか」

 「何をです?」

 「俺と模擬戦をだよ」

こうして、俺は久しぶりにグリアノス隊長と模擬
戦を行う事になった。


 「準備は良いか?」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 「しかし、(ジンハイマニューバ2型)で大丈
  夫か?」

 「(グフ)の予備機がない以上、これが一番慣
  れてます。俺は(ジン)の申し子ですから」

俺とグリアノス隊長は、訓練宙域で対峙をしてい
た。
俺の使用機は、サムライソードを「グフ」のビー
ムソードに変更した「ジンハイマニューバ2型」
で、グリアノス隊長は、「グフ」のカスタム機を
使っていた。
そして、この注目の対戦は多数のギャラリーを生
み出しているようだ。

 「格下の機体で俺と戦うか・・・」

 「では、開始です!」

審判役のパイロットが乗った「ザクウォーリア」
が、照明弾をあげたのと同時に、二機のモビルス
ーツは最大速度で、お互いに向かって突撃を開始
した。
パイロットしての特性上、グリアノス隊長は細々
した事を好まず、機体性能を最大限に生かし「グ
フ」の得意な分野である接近戦をしようとしてい
るらしい。
一方、俺は一人で戦う時は格闘戦が得意なので、
彼の挑戦を受ける事にした。
日頃は、全体を見渡し難いので、行う時が限定さ
れてしまうのだが。

 「行くぞ!」

 「素早い!」

俺はシールドを構えながら、ビームソードを抜い
て接近を開始する。
途中、「グフ」がビームガンを撃ってくるが、俺
はそれをシールドで無造作に弾きながら、ビーム
ソードで斬りかかった。  

 「やっぱりやるな!」

 「やっぱり高性能だな。(グフ)は!」

俺の斬撃をビームソードで受け止めながら、「グ
フ」はスレイヤーウィップを俺に向けて放って来
るが、俺は、それをかわしながら少し距離を置い
た。

 「ちょっと後悔だな。性能面で勝てる点がない
  ・・・。いや!待てよ!」

俺は「グフ」の多彩な攻撃をかわしながら、勝ち
の可能性を思い出した。

 「とにかく凌ぐ!」

機動性で不利なので、距離はそんなに離せなかっ
たが、近距離と中距離でビームガン、スレイヤー
ウィップ、ビームソードの攻撃をかわしながら、
時間を稼いでいった。


 「やるようになったじゃないか。まさか、負け
  てしまうとはな」

 「実戦ではありえない戦法ですよ」

 「それはそうだが、勝ちは勝ちだ」

 「今回は、譲っていただいたと思っています」

 「そんな事はねえよ。お前は強くなった。いや
  、上手くなったのかな?」

模擬戦は俺の勝ちだった。
俺は一対一である事を利用して、高性能である「
グフ」の攻撃を凌ぎ続け、「ジンハイマニューバ
2型」の唯一有利である、稼働時間の差で勝利を
得る事が出来たのだ。
グリアノス隊長は意識していなかったと思うが、
どんなベテランでもエネルギー切れが迫ると、動
きに多少の焦りが出てくるものなのだ。
勿論、俺もそうなのだが、普通に戦っていれば自
分の方が長時間動ける事を知っていたので、精神
的にラクであった事は確かだった。
多分、以前の俺では、長時間持たせる事が出来ず
に撃破されていたのであろうが、三十歳を超え最
盛期を過ぎつつあったグリアノス隊長と、二十代
前半である俺の差なのであろう。
俺ですら、十代のシン達の成長速度には目をみは
っていたのだから。
そして、この戦法は、実戦では多数の敵味方機が
乱れて戦うので、使う事の出来ない戦法であった

 「でも、これが何の役に立つのですか?」

 「帰ればわかるさ」

模擬戦を終えた俺達は、軍事ステーションに戻っ
て行った。


 「久しぶりに戦ったら負けちまったよ。(黒い
  死神)だから強いんだけどさ」

軍事ステーションのパイロット待機所に戻ってく
るなり、グリアノス隊長は、笑いながらパイロッ
ト達に負けた事を報告した。
すると、彼らの俺を見る目が少し変わったような
気がした。
つまり、グリアノス隊長は、俺の任務が行い易い
ように骨を折ってくれたようなのだ。

 「それで、カザマ司令から話があるそうだ」

グリアノス隊長の紹介を受けて、俺は簡単に任務
の説明を開始した。
 
 「まあ、簡単に言うと、この中から二十七名の
  パイロットを選抜して、(ギラ・ドーガ)隊
  を創設して訓練を開始し、新国連軍のフラン
  ス本土開放作戦において、(フライングアー
  マー)でパリの大統領府を直撃する作戦を行
  うという危険な任務を仰せつかった。明日に
  はメンバーの選抜を終えて(ギラ・ドーガ)
  の習熟訓練を開始する。選ばれて困ったら断
  っても良いぞ。俺もお前らなら、断るほど危
  険な任務だからな」

 「ここに、そんな臆病者はいませんよ」

 「楽しそうですね」

 「家族に止められても行きますよ」

さすがに、歴戦の勇士ばかりなので表面上は勇猛
そのものだった。
だが、俺は知っていた。
本当のベテランのパイロットほど、実は臆病者が
多いのだと言うことを。
実戦では、臆病でなければ生き残れない事も多い
からだ。

 「では、明日にパパっと選抜するから、今日は
  解散ね」

 「「「了解!」」」

こうして、俺は癖のある連中から、一応の信頼を
得る事ができたようであった。


 

 「へえ、可愛い子供じゃないか。俺の息子の嫁
  さんになるかい?」

勤務時間終了後、俺はお礼がてらグリアノス隊長
と家族をクライン邸に招待した。
昔、写真で見せて貰った通りに、物凄い美人の奥
さんと、奥さん似の可愛い男の子であった。
今年で三歳のなったらしいが、綺麗な顔をしてい
て将来は美男子になると思われた。
はっきり言って、彼の子供とは思えない。
完全に奥さん似だ。
 
 「相変わらず綺麗な奥さんですね。どこで誘拐
  してきたんですか?」  

グリアノス隊長の奥さんは、ヨシヒサを抱きなが
らラクスと母さんと楽しそうに話していて、俺達
はサクラの寝ているベビーベッドの横でサクラを
眺めながら話をしていた。
 
 「ようやく、お前らしくなってきたな!ちゃん
  と結婚したんだよ!」  
 
 「しぃーーー!」

サクラが寝ているので、俺はグリアノス隊長に静
かにするように促した。

 「ったく、しかし、娘ってのは可愛いものだな
  。もう一人欲しくなるな。まあ、コーディネ
  ーターだから難しいけどな」

 「娘さんですか?父親似でないことを祈ってい
  ます」

 「言うと思ったよ。実は、俺もそう思っている
  けど・・・」

 「でも、帰ってくると子供のいる生活ってのも
  良いですね」

 「そうだな。あのクルーゼですら、そう思って
  いるらしいからな」

 「俺達に隠れて、子供用のお土産とかを探して
  いますしね」

 「そうか。だから、お前も厳しくなるとは思う
  が、ちゃんと帰って来いよ。せっかく、アカ
  デミーで教えて優秀な成績で卒業しても、一
  連の事件と戦闘で帰って来ない奴が多い。前
  大戦を生き残ってもこれではな・・・」

 「みんなに言っていますが、俺は大往生を遂げ
  るんですよ」

 「まあ、お前なら大丈夫だとは思うがな・・・
  」

俺達は、その後夕食を共にして、明日への気力を
回復させるのであった。


 


(三月十日デブリ帯、「ボルテール」艦内)

イザークと任務を交代したディアッカは、新型試
作機である「ケンプファー」を支給して貰って、
訓練に励むと共に、デブリ帯での監視を強化して
いた。
今月末に予定されている、フランス強襲作戦での
降下時に、海賊達に邪魔をされては堪らないから
である。
ここ一週間ほど、訓練と平行して監視と探索の強
化を行っていたのだが、大きなトラブルもなく時
間だけが過ぎている状態であった。

 「偵察部隊の報告は入ったか?」

ディアッカは、この部隊に配属された時は不機嫌
そうな様子であったが、アヤの事を早く忘れられ
るように、一心不乱に部下の訓練と自分の任務に
まい進していた。
そして、その熱心さから部下達の評判も悪くなく
、イザークの代わりを十分に果たしているようで
あった。

 「エルスマン隊長、ハックから通信です。不審
  なモビルスーツ隊を目撃。数は(ロングダガ
  ー)が一機と(ストライクダガー)が五機だ
  そうです」

今日も平穏無事だと思われたのだが、突然、艦内
に敵発見の報告が入ってきた。
 
 「(ロングダガー)か。コーディネーター傭兵
  かな?」

 「可能性は高いです」

 「俺も出る。こんな戦いで損害を出したくない
  」

 「了解です。エルスマン隊長の(ケンプファー
  )は準備出来ているか?」

 「いつでも行けます!」

副官が格納庫の整備責任者に連絡を入れると、「
ケンプファー」の準備は終了しているとの返事が
返ってきた。
 
 「よし!行くぞ!」

パイロットスーツに着替えたディアッカは、格納
庫に移動してから、「ケンプファー」を発進させ
、偵察部隊が戦闘を行っている宙域に急行する。

 「エルスマン隊長!」

 「損害は?」

 「オークス機が小破で、あとは健在です。敵は
  二機を撃破しました」

 「上出来だ!よし、あとは任せろ!」

ディアッカが「ケンプファー」のスラスターを吹
かし、最高速度で「ストライクダガー」に接近し
てからビームショットガンを発射すると、「スト
ライクダガー」は、穴だらけになって爆散する。

 「次だ!」

敵はディアッカの「ケンプファー」の接近に気が
付いたようで、二方向から同時に襲撃を掛けるが
、「ケンプファー」の装備しているビームマシン
ガンと合わせて二丁銃で二機の「ストライクダガ
ー」を同時に仕留める。

 「あとはお前だけだな!」

 「ふざけるなーーー!」

「ロングダガー」の乗ったリーダーらしき男が、
シールドを構えながらビームサーベルを抜いて突
撃を掛けて来たので、ディアッカは「ケンプファ
ー」のビームショットガンとビームマシンガンを
両手で撃つが、ラミネート装甲完備でシールドも
装備している「ロングダガー」には効果がなかっ
た。

 「何で、海賊ごときが、ラミネート装甲完備の
  機体を?」

 「海賊を舐めるなよ!俺達に援助をしてくれる
  人達は沢山いるんだよ!」

 「ほう。誰だか聞きたいものだな」

 「素直に話すわけがないだろうが!」

 「そうだな。素直に話すわけがないよな・・・
  」

 「何だ?お前」

 「聞き出せる状況を作ればいいんだな!」

ディアッカは、「ケンプファー」の両手に装備し
ているビームマシンガンとビームショットガンを
連発して、「ロングダガー」に多数命中させると
、ラミネート装甲に少しずつだが、凹みや傷が多
数発生してくる。

 「ラミネート装甲も完璧じゃないんだよ!」

次に、ディアッカは「ケンプファー」の両手に持
っていたビーム火器を投げ捨ててから、両手にビ
ームサーベルを構えて「ロングダガー」に斬りか
かった。
まず、第一手で「ロングダガー」のビームサーベ
ルを弾き飛ばし、第二手でシールドを弾き飛ばし
てから、次々に斬撃を喰らわせてダメージを蓄積
させていく。
それは、技術もへったくれもなく、溜まった怒り
を元手に新型モビルスーツのパワーを利用した野
蛮なものであったが、効果は絶大で左手、右足、
右手、左足と攻撃を集中させて使用不能にしてい
く。
既に、「ロングダガー」はボロボロで操作不能で
あった。

 「ちくしょう!腕前でもモビルスーツの性能で
  も勝てないのか!」

 「さあ、話して貰おうか」

 「アホか!死んでも話せるか!俺だけの問題じ
  ゃねえんだよ!」

 「どうせ、ユーラシア連合政府なんだろう?そ
  れと、エミリアか?」 

 「なっ!何でそれを!」
 
 「お前を生かして損した。パイロットを殺さな
  いように倒すのは骨なんだ。それに、海賊は
  長期刑か死刑が相場だ。荷を奪うのに人を殺
  しているケースが多いからな。そうでなくて
  も、最近、海賊が多いからその場で処理が暗
  黙の了解になっているんだよ。さて、死んで
  くれよ」
 
 「待ってくれ!」

 「死ね!」

ここ数週間のディアッカは、表面上は怒りや悲し
みを忘れて任務にまい進していたが、実戦が発生
した事と、その海賊がお馴染みのエミリア達の援
助を受けている事を聞いて、心の奥底から湧き上
がってくる感情を抑えられないでいた。

 「待て!降伏する!捕虜としての待遇を要求す
  る!」

 「ふざけるな!軍人でもないお前を、捕虜にな
  んてするものか!不正規戦闘員は抹殺だ!」

 「待ってくれ!お願い助けて!」

 「ふざけるな!」

ディアッカは、「ケンプファー」のビームサーベ
ルで、「ロングダガー」のコックピットハッチに
何回も斬撃を加える。

 「待って、詳しい情報を話すから・・・」

 「五月蝿い!お前なんているから!」

 「助けてーーー!」

遂に、コックピットハッチのラミネート装甲に限
界がきて、中の海賊のリーダーはビームサーベル
の熱で蒸発してしまう。

 「はーーー。はーーー。海賊風情が・・・。ア
  ヤ、お前はなんでこんな連中と・・・」

「ボルテール」のブリッジ要員とモビルスーツ隊
のパイロット達が、驚きの表情で自分達の隊長を
見つめる中、ディアッカは一人「ケンプファー」
のコックピットで、誰にも聞こえない声で呟いて
いた。


(三月十五日、某軍事基地内の執務室)

俺が「ギラ・ドーガ」隊のメンバーを選抜してか
ら十日以上が過ぎ、次々にロールアウトする機体
で、習熟訓練と調整を毎日のように行っていた。
始めは、俺にわだかまりを抱いていた連中も、俺
自身が訓練に参加する事によって、そういう事も
なくなっていった。
やはり、パイロットは、技量で相手にわからせる
のが一番であるようだ。
ここ数日で、ベテランの連中は「ギラ・ドーガ」
の操作に習熟し、俺も「R−ジン」の完成がまだ
なので、「ギラ・ドーガ」の予備機を借りて訓練
を行っていた。
そして、今日の午後は溜まっていた書類を整理す
る事にした。

 「うーん。溜めすぎかもな。シホとかコーウェ
  ルがいれば簡単なんだけど・・・」

 「おーい!地球から報告が上がってきているぞ
  !」

 「本当ですか?」

臨時の執務室にグリアノス隊長が入室してきて、
俺に大量の書類を渡してくれた。

 「署名は、アーサー副司令、ダコスタ副司令、
  コーウェル、バルトス司令、バルトフェルト
  副総司令などの管理職のものが大半だ。、シ
  ン、ルナマリア、レイ、ステラ達などの他に
  シホのものも数枚あった。だが、相変わらず
  、クルーゼのものはなかった」

 「クルーゼ司令、手を抜いているな・・・」

 「何で、解任されないんだ?」

 「ザフト軍七不思議の一つですね。まあ、指揮
  を執ると優秀ですからね。あと、書類整理と
  作成に長けた部下が、下に就きやすいという
  幸運もあります」

 「そうか。それで、状況はどうなんだ?」

 「えーとですね・・・」

俺が宇宙にあがってからの状況を簡単に報告する
と、ジブラルタル占領から一週間で、スペインと
ポルトガルが正統ユーラシア連合に参加する事を
表明して、新国連軍の戦力を国内に受け入れ、ス
ペイン・フランスの国境沿いに展開して、連日小
競り合いを続けていた。
その主戦力は、「ミネルバ」「ヴィーナス」を始
めとする各国の特殊対応部隊で、連日のようにフ
ランス本土から飛来するモビルスーツ隊との戦闘
を繰り返していた。

 「それで、コーウェルの報告書を見ますと、敵
  のモビルスーツは、(ハイペリオン)と(ク
  ライシス)の比率が下がってきていて、(ス
  トライクダガー)とザフト軍、大西洋連邦軍
  の旧式機などがごちゃ混ぜで、パイロットの
  技量も下がっているそうです」

 「つまりは、時間稼ぎで技量不足の連中と旧式
  モビルスーツを使い潰していると?」

 「コーウェルは、それを指摘していますね」

コーウェルは、パイロット出身の上に官僚経験者
なので、この手の報告書の作成が上手で、読んで
もわかり易かった。
人間一つくらい、取り得があるものなのだと感心
してしまう。

 「そして、バルトフェルト副総司令の報告書で
  すけど、大西洋連邦軍の大西洋艦隊が、モビ
  ルスーツ隊をイギリス本土にあげて、連日ド
  ーバー付近でモビルスーツ戦を行っているそ
  うです。逆バトルオブブリテンですね」

イギリスは、正式に大西洋連邦に加盟する事を表
明していたので、アイスランドの対ユーラシア連
合基地であった、ヘブンズベース基地を後方基地
として強化して、大西洋連邦本土から戦力を増強
している状態であった。

 「しかし、そんなに消耗して大丈夫なのか?敵
  さんは」

 「今まで思わなかったんですけど、敵はフラン
  ス本土なんて、どうでも良いのかもしれませ
  んね」

 「どういう事だ?」

 「あのムラクモ・ガイが、エミリアの本拠地を
  掴んで脱出に成功したそうなんですが、南ウ
  ラル山脈に大規模な要塞を建造していて、最
  新鋭のモビルスーツ隊と凄腕のパイロット達
  を揃えていたそうです。つまり、ヨーロッパ
  本土で我々を消耗させて、ウラルに引きずり
  込んで判定勝ちを狙うと言いますか。そんな
  事を考えています」

 「うーん。それなら、納得出来るかな?」

 「でも、いくらウラル要塞が凄くても、勝ちの
  目が薄いんですよね。ロシアの一部の地域で
  、世界を敵に回すわけですから。それに、今
  更講和を受け入れる国なんて、存在しません
  よ」

 「追い詰められて、計算を誤っているのかな?
  」  

 「さあ?どうなんでしょう」

そんな話をしながら、アーサー副司令とダコスタ
副司令の報告書を見て、情報の補完を行っていた

二人は、若いながらもエリートなので、まともな
報告書を仕上げていて読み易かったからだ。

 「とにかく、作戦予定日まであと十日。シン達
  が、戦力をなるべく多く減らしてくれる事を
  祈りますか」

 「シン?ああ、あの坊主か。やるようになった
  のか?」

 「この前、負けちゃいました」

 「赤服を着て、パイロットとして一流か。将来
  の最高司令官かな?確か、報告書があったよ
  な。どんな書類を書くのかな?」

グリアノス隊長が、シンの書類を手に取って見つ
め始めると、顔が引きつり始める。

 「どうしました?」
 
 「こいつ、本当に赤服なのか?」

 「一応そうです」

 「これを見てみろよ」

俺がグリアノス隊長から渡された書類を見ると、
幼稚な文章の羅列が見える。

 「えーと。今日は(ハイペリオン)二機と(
  クライシス)一機と(ディン)を一機倒しま
  した。(ディン)が敵なのは、珍しいなと思
  いました)か。あれだけ注意をしても、この
  文章なのか・・・」

ルナマリア、ステラ、レイ、リーカさん、イザー
クの文章は、書式に則った正確で読み易いもので
あったが、シンの報告書は、小学生の日記のよう
な文章の羅列で、最後に「これだけ倒したので、
二個目のネビュラ勲章を下さい」と書かれてあっ
て、俺は気が遠くなっていく。

 「ある意味天才だな」
  
 「大恥をかかせやがって!」

 「エザリア国防委員長は、特に何も言っていな
  いみたいだが・・・」

 「任官したパイロットを、そんな下らない事で
  呼び出して怒りたくないんでしょうね」

 「だろうな」

それでも、敵モビルスーツの撃破数を計算すると
、シンが第一位という結果で、最新鋭高性能機を
見事に使いこなしているようであった。 

 「レイ、ステラ、ルナマリアも短期間で腕をあ
  げたな」

 「お前は、教官向きなんだな。スズキの野郎が
  、この戦乱が終わったら、再び教官に引き抜
  きたいそうだ」

 「それいいですね。サクラとヨシヒサに毎日の
  ように会えるし」

 「お前は教官になり、あとはイザークかディア
  ッカが部隊を継ぐのかな?」

 「でしょうね。シンはまだ早いですし」

 「あの報告書ではな・・・」

 「ちくしょう!大恥かかせやがって!コーウェ
  ルに連絡を入れて、書類の書き方を鍛えさせ
  る!」

俺は、シンに頭を使う特訓を課す事を決意するの
であった。


(翌日、スペイン・フランス国境地帯の某基地)

ザフト軍と各国の特殊対応部隊と応援のモビルス
ーツ隊は、この国境地帯で毎日のようにモビルス
ーツ戦を行っていた。
ザフト軍の主要なメンバー内に、戦死者は出てい
なかったが、約三対一の損害比を出しながらも、
毎日のように襲撃してくる敵にうんざりしている
様子であった。
敵は、連日の戦闘の損害で戦力が低下しているら
しく、もう少しで大きな損害を出さずにフランス
を開放出来るであろうとの分析であった。

 「お疲れさん」

シンが「ディスティニー」を降りて、整備兵に細
かい調整を頼んでいると、コーウェルが現れて自
分に話し掛けてきた。

 「シン、カザマから命令が出ているぞ」

 「何ですか?もしかして、モビルスーツ隊の指
  揮を執れとかですか?」

 「違うよ。ほら、これだよ」

コーウェルは今時珍しい、沢山の参考書らしきも
のをシンに手渡した。

 「何ですか?これ」

 「試験問題だよ」

 「何のですか?」

 「プラント統一資格(業務文書検定試験)の問
  題だよ。まずは、簡単な初級からね」

 「えっ、でもこんなに・・・」

 「プラント国内でしか使えない文書全般が初級
  だ。それでも、民間企業用、公務員用、軍務
  用と三種類あるからな。結構難しいんだ」

 「あの・・・。それをなぜ俺が?」

 「あの酷い文書が、カザマの目に留まったらし
  い。激怒のメールと共に俺に指示が下った。
  さあ、勉強を始めるぞ。俺は上級を持ってい
  るから、新国連向けの報告書でもお手のもの
  さ。さあ、俺を目指すんだ!」

 「えっ、俺はいいですよ。なあ?ルナ」

シンは同じく、「インパルス」を着艦させたルナ
マリアに救いを求める。

 「いい加減に、書類くらい書けないとまずいわ
  よ。素直に勉強しなさいよ」

 「ルナも一緒に勉強しようよ」

 「嫌よ。だって、この資格持っているから」

 「嘘!」

 「ヨシヒロさんが、取れって言ったじゃないの
  。まともな報告書があげられない軍人は、ア
  ホ以外の何者でもないと・・・」  

 「じゃあ、ステラは・・・」

 「ステラは中級を持っている。だから、あんな
  天然キャラでも書類は完璧じゃないの」

 「レイは?」

 「レイは上級を持っている。天才だし、あのデ
  ュランダル外交委員長の義息子なのよ」

 「何ぃーーー!アホは俺だけなのかーーー!」

 「もう、仕方がないわね。私が教えてあげるか
  ら」

 「ルナマリア、それは禁止だ」

ルナマリアが自分で教えると宣言したのだが、そ
れはコーウェルに拒否されてしまう。
 
 「どうしてですか?」

 「あのな。恋人同士で部屋に篭って勉強になる
  と思うか?悪いんだけど、レイがヨウランと
  ヴィーノの部屋に泊まった翌日に、お前がシ
  ンの部屋から出てくるところを見ているんだ
  よ。ついでに言うと、その時に申し合わせた
  ように、お前とメイリンの部屋からヴィーノ
  が出てくるな。まあ、軍艦とはいえ、個室内
  のプライベートは尊重されるから、黙認はさ
  れているがな。それと、友情に感謝ってとこ
  ろだな」

実は、自分もリーカの部屋からの帰り道での目撃
だったりするのだが、それを自分で口にするほど
バカではなかった。
 
 「みっ、見てたんですか?」

 「いや・・・。あれは、トランプを朝までやっ
  ていて・・・」

 「アホか!そんな言い訳を誰が信じると思うん
  だ?」

シンとルナマリアは、顔を真っ赤にしながら言い
訳を始めるが、コーウェルに即座に否定されてし
まった。
更に、コーウェルの話が整備兵達に漏れ、ヴィー
ノが袋叩きにされていた。

 「お前、羨まし過ぎだぞ!この!この!」

 「あの娘は、俺も狙っていたんだよ!羨ましい
  ぞ!こんちくしょう!」

 「朝帰りか?俺と代わりやがれ!」

 「先輩、スパナが痛いですよ!」

 「五月蝿い!やっかみは男の勲章だ!」

 「ヨウラン、助けて・・・」

 「俺からは、何とも・・・」

整備兵達は手加減をしているのだが、痛い事には
変わりがなく、ヨウランに助けを求めるのだが、
同じように下っ端である彼にはどうにもならなか
った。

 「どうしたんだ?早く整備に取り掛かれ」

 「エイブス班長!」
 
 「エイブス班長、助けて下さい・・・」

 「ヴィーノ、傷だらけだな」

 「実はですね・・・・・・」

エイブス班長の登場で、ヴィーノは救われると思
ったのだが、他の整備兵から事情を聞いたエイブ
ス班長の意外な発言に、奈落の底に叩き落された

 「整備兵は手足が命だからな。そこは止めとけ
  よ。それと、負傷し過ぎると、休みをやらな
  いといけないから程々にな」

 「そんなバカなーーー!」


 

 「ヴィーノ、大丈夫かな?」

 「人様の心配より、自分の事を考えろよ。ほら
  、明日までに全部やっとけよ。添削してポイ
  ントを教えるから」

 「これ全部を一日でですか?」

 「時間がない。早急に、まともな書類を書ける
  ように仕上げろとの、カザマからの命令だ」

先輩の整備兵達に袋叩きにされている、ヴィーノ
の様子を見ていたシンが、彼の心配をしていたが
、既に人の心配よりも、自分の心配をしなければ
いけない状態に追い込まれていた。

 「ヴィーノは今日で終わるけど、シンはこれか
  ら暫くは、参考書の問題を解いて貰うぞ。そ
  れと、簡単な報告書の作成を実践を行って貰
  う。提出前に俺のところに持って来いよ。俺
  の許可が出なければ提出は不可だから、駄目
  なら許可が出るまで、寝ないで仕上げて貰う
  からな」

 「そっ、そんなーーー!」

 「お前は、カザマに期待されているんだ。その
  くらい余技でこなせよ。でないと、クルーゼ
  司令みたいになっちまうぞ」

シンの絶叫は、「ミネルバ」の格納庫に響き渡り
、モビルスーツの操縦訓練以上の難儀を背負い込
む事になるのであった。 


(三月二十二日、クライン邸玄関)

 「じゃあ、行って来るよ」

 「早く帰ってきて下さいね」

 「うーん。二ヶ月以内を目標に努力します」

ここ二十日あまりの生活は、全てにおいて満ち足
りた日々であった。
子供が産まれ、定期的に顔を眺めてから仕事に出
掛けられ、新型機部隊の編成と、自分用のモビル
スーツの調整と訓練も楽しかった。
俺が満ち足りた日々を送っている間に、日々消耗
戦が行われ、敵味方を問わずに多数の若いパイロ
ット達が命を散らしていたのだが、それとこれと
は話が別であり、あまり気にしない事にした。
幸いにして、友人に死者がいなかった事もあり、
見た事もない人間の死を必要以上に悲しむのは、
薄っぺらい偽善のような気がしたからだ。
俺は神ではないので、周りの人々が元気でいてく
れればそれで良いと思っていたし、部下を率いて
いれば、彼らに戦死者が出ない事を祈り、努力す
るのみなのだ。

 「サクラ、ヨシヒサ。お父さん行ってくるから
  な」

俺は母さんとラクスに抱かれて眠る、二人の子供
達に挨拶をしてから出掛けようとするが、ラクス
の表情は不満そうであった。

 「どうしたの?ラクス」

 「ヨシヒロは、サクラとヨシヒサばかりに構う
  から・・・」

 「ははは。ごめんね」

 「ヨシヒロ、ちゃんと夫婦の別れというものを
  しなさいよ」

 「恥ずかしいからさ」

 「わかったわよ。シーゲルさん、サクラをお願
  いします」

 「ああ。それもそうだな」

母さんとお義父さんは、ヨシヒサとサクラと抱い
て家の中に入ってしまった。

 「さあ、二人きりですわ」
 
 「久しぶりのような気がする」

 「日頃は、サクラとヨシヒサがいますからね」

 「それもそうか」

俺は、ラクスの目を見つめながら言葉を続ける。

 「俺は、死神だからちゃんと帰ってくるよ。死
  神は死なないからな」 

 「はい」

 「この戦争が終わったら、再び教官に戻るよ。
  俺は、三十歳くらいまで沢山の生徒を育てて
  から、退役して会社を興す。その頃には、シ
  ン達も一人前になっていると思うし」

 「はい」

俺は将来のプランをラクスに伝えてから、彼女を
抱きしめてキスをした。
何となく、こういう事は久しぶりのような気がす
る。 

 「あの、手助けをしてくれる人をお願いしまし
  たから」

 「手助けをしてくれる人?」

 「はい。ヨシヒロの良く知っている人ですよ」
 
 「知ってる人ねえ・・・」

俺は、一つの疑問を抱えながらクライン邸をあと
にするのであった。
  
 


(三月二十五日、ザフト軍強襲部隊集合地点)

三日前にプラント本国を出発した俺達は、数隻の
ナスカ級高速戦艦に分乗して、降下予定地点に到
着を果たし、「フライングアーマー」と「ギラ・
ドーガ」の調整を行っていた。

 「カザマ司令、その新型機はどうなんです?」

 「(R−ジン)は最高だね。初めて(ジン)で
  実戦に出た時の興奮を思い出すよ」

 「性能はどうなんです?」

 「見かけは(ジン)だけど、(ギラ・ドーガ)
  より上だな。あと、意外と整備性と操作性が
  良い。(ギラ・ドーガ)は、(ギャプラン)
  や(ガブスレイ)ほどではないけど、パイロ
  ットを選ぶからな」

新型量産モビルスーツで、「ギラ・ドーガ」が落
選して「R−ジン」が選ばれた理由はそこにあっ
た。
「ギラ・ドーガ」に唯一欠けている点は、アカデ
ミーを出たばかりのヒヨッ子が乗ると、それほど
の性能が出せない事であった。
そのための、パイロットの選抜であり、既にベテ
ランに属する俺も気が付いていなかった点であっ
た。
その点、大西洋連邦軍やオーブ軍や極東連合軍の
モビルスーツ開発のコンセプトは徹底していて、
OSの改良や操作性の改良により、技量の低いパ
イロットでもそれなりの性能を発揮するように作
られていた。
「自分達はナチュラルで、コーディネーターに及
ばない」という事を良く理解していたからであり
、プラントの技術者の一部が、ようやく気が付き
始めた事実であった。
俺の乗っている「R−ジン」は、先行試作型二号
機であり、一号は軍事工廠でバラバラにされて組
み直されていた。
先にガイが強奪してきた「ディスパイア」のデー
タを反映させたらしい。
その後、二号機の部品の製造と改良と組み立てを
、二週間で行うところはさすがではあるが、それ
は試作品一機ゆえの無茶であろう。
「R−ジン」を量産機として配備するには、まだ
最低でも半年は掛かるらしい。

 「とにかく、急げよ。新国連軍の先鋒隊は、パ
  リ郊外に達しているらしい」

三月二十二日の深夜に、ドーバー、カレー、ノル
マンディー、スペイン国境から電光石火で侵攻作
戦がスタートして、エミリアに逆らって外国に亡
命していたフランス系将校や、フランス国内のレ
ジスタンス組織が、国内のユーラシア連合軍の指
揮官を説得してカウンタークーデターを実行させ
ながら、雪崩をうってパリに向かって進軍を開始
しているらしい。
やはり、「水に落ちた犬」は打たれる運命のよう
だ。
少数の若手将校が無謀な抵抗をしているらしいが
、実働戦力はここ数週間の小競り合いで消耗しつ
くしていて、わずかな戦力で戦っているのが現状
のようだ。
更に、ヨーロッパ各国のモビルスーツ隊も、フラ
ンスに強制的に集められた後に、消耗しつくして
いたので、ヨーロッパ本土は無防備に近い状態で
あった。
そして、集められた連中も捨て駒的要素が強い連
中で、肝心の精鋭部隊は、ウラル要塞に集められ
ているとの情報が入っていた。
つまり、ヨーロッパに時間を掛けている暇はなか
ったのだ。
俺達がパリを直撃する危険な作戦を行う理由は、
戦後を見越してのものであった。
パリには少数ではあるが、精鋭部隊が配備されて
いて、それを撃破して後にプラントの国旗を大統
領府に立てる。
戦後を見越して、プラントの国力を誇示し、先の
大戦で大損害を受け、対プラント感情が悪いユー
ラシア連合正統政府を助ける。
かなり政治臭のする任務ではあるが、ヨーロッパ
の市民感情を良くしておかないと、ロシア国内で
ウラル要塞攻略を行う時に、補給や移動で足を引
っ張られる可能性があるからであった。

 「最精鋭部隊でありながら、ウラル要塞行きを
  拒んでパリを死守しているらしい。ナチュラ
  ルとはいえ、一筋縄ではいかないぞ」

 「みたいですね」

俺達の陣容は、二十七機の「ギラ・ドーガ」と俺
の「R−ジン」一機の合計二十八機で編成されて
いて、全機が「フライングアーマー」で降下する
予定であった。

 「(R−ジン)は武器を自由に選べて良いです
  よね」

 「まあな。でも、お前達とそう変えていないぞ
  」

 「みたいですね」

「R−ジン」の最大の特徴は、ウエポンラックの
付いた空戦パックか宇宙用の高機動パックを選択
し、様々な武装の中から好きな物を選べると言う
ものであった。
俺は、ビームマシンガンとシールドは(ギラ・ド
ーガ)の物を流用し、シールドの裏に新型のハン
ドグレネードとシュツルムファウストを装備して
いた。
格闘用の武装は、両方の腰にビームサーベルとし
ても使用出来るビームブーメランを装備し、背中
のウェポンラックには、「ディスティニー」が装
備しているビームソードを短くして、使いやすく
した物を装備していた。
俺好みの、ドラグーンシステムなどに頼らない正
統な武装ばかりを装備して、最後の敵に望む事に
したのだ。
多分、例のアヤは、ハイドラグーンを使用した新
型機で挑んでくると思われるが、俺が同じ土俵に
立っても勝てるわけがないので、レイとクルーゼ
司令とキラに任せる事にしたのだ。
卑怯者と呼ばれようと、勝てない相手に挑むのは
バカのする事だ。
俺は、あの子達が大きくなるまで死ねないし、あ
の女のエゴに付き合うつもりもない。

 「総旗艦(アリストテレス)から入電です。新
  国連軍の先鋒部隊と、パリ防衛軍の戦闘が開
  始されました。それと、ザフト軍特殊対応部
  隊の(ミネルバ)と(ヴィーナス)の部隊が
  、敵のモビルスーツ隊と交戦を開始しました
  」

 「何が手薄だ!情報部は何をしていた!」

 「あんな水晶占い屋共、役に立ちませんよ」

 「対空火器はどうなんだ?」

 「首都なので、ほとんどないそうです」

 「よし!降りるぞ!金玉を握って気合を入れろ
  !」

 「カザマ司令!下品ですぜ!」

 「ラクス様に嫌われますよ」

 「そういう部分も含めて、俺は惚れられている
  んだ!」

 「へいへい。ご馳走様で」

 「そんな事言ってて、離婚されないで下さいよ
  」

俺のジョークに、部下達が笑いながら返しを入れ
てくる。
始めは、俺にわだかまりがあったらしいが、今で
は、大分、打ち解けてくれたようだ。

 「(フライングアーマー)の微調整とチェック
  完了!お前達!地獄に降下するぞ!」

 「「「了解です!」」」

こうして、俺達はパリ上空目指して降下を開始す
るのであった。
  


(同時刻、シン視点)

 「何でこんなにモビルスーツが!」

フランス国内に、四ヵ所から同時侵攻した新国連
軍は、大きな戦闘にも巻き込まれず、多数の部隊
がレジスタンスや非主流派将校や亡命将校の指示
に従って、正統ユーラシア連合軍の指揮下に入っ
てきたので、作戦は順調そのものであったが、パ
リ郊外で強力な抵抗を受けて、足を止められつつ
あった。

 「何で、こんなに抵抗が激しいんだよ!」

 「アーサー副司令からの報告だ。イタリアに上
  陸した、バルトフェルト副総司令とオーブ軍
  モビルスーツ隊は、全く戦闘を行わない内に
  、カウンタークーデターによって国土を奪還
  したそうだ。それと、大西洋連邦軍別働隊が
  攻略に赴いているオランダとベルギーも全く
  抵抗なしだそうだ。更に、極東連合軍が担当
  のギリシアとバルカン連合も、大きな抵抗も
  なく陥落して、トルコは秘密協定を受け入れ
  て、明日には中立国宣言を出す予定だそうだ
  。これらの出来事の意味する事がわかるかな
  ?」  

 「西ヨーロッパで、敵戦力があるのはパリだけ
  で、逃げ道もないので必死に抵抗するんです
  よね。多分」

 「そういう事だ。更に、こいつらは、数はそこ
  そこあるが、質は最低の連中だ。時間を稼げ
  て、一機でも敵を減らせれば良しと考えてい
  るのだろうな」

確かに、敵のモビルスーツ隊を良く見ると、腕は
訓練生レベルらしく、ルナマリアやステラの「イ
ンパルス」やリーカさんの「セイバー」、レイの
「レジェンド」、ハイネ隊の面々に簡単に撃破さ
れていく様子が見えた。

 「見ていて可哀想になってきますね」

 「最初の奇麗事のメッキが剥げたのだ。例のウ
  ラル要塞の準備を進めるために、使い捨てに
  しているようだな」

 「降参はしないんですかね?」

 「薬でも打たれているんだろう?」

 「酷い連中ですね」

 「人間は簡単に残酷になる。良く覚えておきた
  まえ」

クルーゼ司令は、「スーパーフリーダム」のハイ
ドラグーンを展開して、次々に敵機を撃破してま
わり、シンも「ディスティニー」で容赦なく敵を
粉砕してまわっていた。
教官の教え通りに、降伏でもしなければ手を抜く
ような事はしないからだ。

 「全滅するまで抵抗を止めませんかね?」

 「だろうな。だが、パリは本国の指示で、一番
  乗りをしなければならない」

 「無理ですよ」

一番強力な敵モビルスーツ隊の抵抗を受けている
ので、このままでは、他国の部隊に出し抜かれる
可能性があったからだ。

 「我々はこれで良いのだ。上空を見たまえ!」

 「えっ、あれは・・・。(フライングアーマー
  )!」

シンが上空を見ると、約三十機ほどの「フライン
グアーマー」が、パリの大統領府を目指して降下
していた。

 「君達の上官がお帰りだぞ!」

 「えっ!カザマ司令なんですか?」

 「作戦は秘密だったからな。今回のユーラシア
  連合クーデター政権の中心参加国であるフラ
  ンスの首都を派手に落として、プラントの宣
  伝をするのだ。一方面を一国で担当して、国
  力の面で影響力を誇示しつつある、大西洋連
  邦を出し抜く作戦というわけだな」 

 「汚い政治の話ですね」

 「汚くなどはないさ。宣伝も重要な要素の内と
  いうわけだ」 

 「そうですか・・・」

若いシンは、納得のいかないような顔をしながら
、上空の「フライングアーマー」を見上げていた


(同時刻パリ上空、カザマ視点)

 「降下は成功だな」
 
 「そうですね」

 「エッフェル塔と凱旋門が見えるぜ!」

 「生で初めて見ましたよ」

 「俺もだ」

俺達は、パリの上空に無事に降下して大統領府を
目指していた。
宇宙艦隊が壊滅していて、制宙権もない可哀想な
連中なので、容易に上空からの進入を許してしま
ったようだ。
更に、パリ市街の被害を恐れてなのか、対空火器
もあがらず敵機の姿も見えなかった。

 「郊外で全軍が奮闘中か。ラッキーだったな」

 「カザマ司令!残念ですが、三十機ほどの敵機
  が接近中です」

 「おや?本当だ」

「R−ジン」のレーダーに、敵モビルスーツ部隊
の反応が映し出される。

 「機種は・・・(ハイペリオン)か。多少の改
  良はしてあるのだな」

 「ほぼ同数だ!負けたら大恥だぞ!」

 「「「了解!」」」

俺が率いる「ギラ・ドーガ」隊と、敵の率いる「
ハイペリオン」隊がパリの上空で激突し、「フラ
イングアーマー」が三機と「ハイペリオン」が、
三機被弾して墜落して行った。
こちらの「ギラ・ドーガ」は、飛行可能なので損
害は実質ゼロである。
戦場になったパリは、住民の避難が完了している
らしく、ほぼ無人であったが、墜落した「フライ
ングアーマー」と「ハイペリオン」の爆発で、数
箇所に火柱があがっていた。

 「うーん。あまり損害を出すと宣伝にならない
  ような・・・。でも、一番乗りが命令だし・
  ・・」

俺は、多少とまどいながらも、「R−ジン」のビ
ームマシンガンで「ハイペリオン」をけん制して
から、新型のグレネードランチャーで止めを刺し
ていく。 

 「これで三機目!」

「R−ジン」はすこぶる好調であった。
敵は俺の機体を、旧式の「ジン」だと思って油断
しているらしく、それも俺の戦果に繋がっている
ようだ。
これは、思わぬ副産物である。

 「(ギラ・ドーガ)隊、戦果はどうだ?」

 「三機が落とされました。イアンとグエンとエ
  ミルの機体です」

 「さすがに、損害なしとはいかないか・・・」

 「敵の残存数は?」

 「五機ほどです」

 「鮮烈なデビューだな」

同数で戦って、スコア比が八対一。
こちらは、凄腕のベテランを集めているし、新型
機なのだが、圧倒的であると言えた。
日頃、シン達と戦っているので、損害を多めに感
じてしまうが、先の大戦初期の「ジン」とMAの
撃墜スコア比を、数年ぶりに復活させる事に成功
したのだ。
これは、大きな戦果だと言える。

 「敵の指揮官に告ぐ!」

突然、「R−ジン」の無線に、敵の指揮官からの
声が入ってくる。

 「敵モビルスーツ隊指揮官に告ぐ!俺は自由フ
  ランス空軍所属のポール・シュバリエ少佐だ
  。一騎撃ちを所望する!」

 「ザフト軍司令のカザマだ!なぜ、降伏しない
  ?クーデター政権にそこまで義理立てをする
  のか?」

 「確かに、貴官の言う事は正しい。だが、パリ
  の死守が上官の命令なのだ。軍人は、上官の
  命令に従わなければならない。貴官もそうだ
  から、降下してきたのであろう?」

 「詰まらない事を聞いたな。勝負を受けよう」

彼は堅物であるらしく、あくまでも死守命令を遵
守するらしい。
フランス各地では、軍の兵士や指揮官が雪崩をう
って降伏しているのに、珍しいタイプだと言えた
。  

 「先の大戦で、お前に殺された弟の恨みを晴ら
  す!」

 「そういう事か・・・」

いつの事かは知らないが、思い当たる節ばかりな
ので、素直に事実を受け入れる事にする。
そして、俺は「R−ジン」の背中からビームソー
ドを抜き、両手で構えた。

 「もう一度聞く。降伏はしないのか?」

 「くどい!」

周りでは、「ハイペリオン」が「ギラ・ドーガ」
隊に駆逐されていき、次々に数を減らしていった

そして、遂に彼だけになってしまう。

 「そんな・・・。俺が手塩に掛けて育てた連中
  が・・・」

 「数は同数だが、お前達は旧式の(ハイペリオ
  ン)で、こちらは、新型機でパイロットもベ
  テラン揃いだ。可哀想に。降伏していれば、
  死なずに済んだ連中だったな」

 「とにかく一騎討ちだ!弟の仇ーーー!」

シュバリエ少佐の「ハイペリオン」が、ビームサ
ーベルを抜いて俺に突撃を掛けてきたが、俺はそ
れをかわしながら、ビームソードで「ハイペリオ
ン」の上半身と下半身を切り離した。

 「バカなーーー!」

 「フラガ少佐みたいなのは、滅多にいないのか
  ・・・」

シュバリエ少佐の技量は、並みの上程度であり、
簡単に倒せてしまった。
多分、彼は指揮官としての才能を発揮するタイプ
なのだろう。
そして、情報とは違って、精鋭部隊の姿も見えな
かった。
どうやら、本当にウラル要塞に立て篭もって戦う
つもりのようだ。
その後、俺達は、「ハイペリオン」隊の最後の一
機の爆発を確認後、大統領府の上空に到着した。

 「あれ?抵抗がない・・・」

俺の予想に反し、大統領府には誰も存在せず、ペ
タン大統領とその閣僚達は、すでに逃げ出してし
まったらしい。

 「ここも、ものけの空か・・・」

 「プラントの国旗を掲揚しますよ」

 「任せるよ」

俺達は大統領府を占拠し、正面の中央広場の前に
立っているポールに国旗を掲揚した。
多分、多数の報道カメラマンが写真を撮っている
ので、プラントの国旗の横に立つジンの写真が報
道されるであろう。
プラント独立の象徴である「ジン」と同じ形の新
型機が、フランスのパリ開放でデビューしたのは
、果たして偶然だったのであろうか?
ラクスはそこまで考えていたのだろうか?
やがて、パリ郊外での戦闘も終結を迎え、大統領
府に正統ユーラシア連合軍が現れるまで、俺の長
考は続いていた。
三月二十五日午後五時二十六分。ドイツを除く西
ヨーロッパ地域が解放され、戦況が一段階進んだ
が、敵は戦力を温存している事が容易に想像出来
た。
もし、このままウラル山脈で決戦を行った場合、
どれだけの損害が出るのか?
勝ちは確実であるが、不安定な要素を抱えたまま
の勝利であった事を記しておく。


(四月一日、ジブラルタル基地)

俺の名前はムラクモ・ガイ。
世界で最高の傭兵と称される男だ。
俺はあのクソ女から達成困難な依頼を受けて、そ
れを見事にこなしたのだが、わき腹を撃たれて入
院する羽目になってしまった。
幸い、傷の処置が早くて、現在ではほとんど完治
していたが、長時間の静養で鈍った勘を取り戻す
べく、訓練を開始していた。

 「ガイ、調子はどうだ?」

 「イライジャか。大丈夫だ。もう、数日も掛け
  れば元通りかな」

気に入らないのだが、あのクソ女から貰ったピン
ク色の「クライシス」で、訓練を終えてから病院
に戻ると、イライジャが俺を待ち構えていた。
なぜ、俺達がジブラルタル基地にいるのかと言え
ば、風花が交渉して、ここに滞在できるようにし
て貰ったらしい。
基地の警備やら、訓練時の標的機など細々した仕
事が回ってきていて、療養中の俺はともかく、イ
ライジャなどは忙しいらしい。
実入りは少ないのだが、メンテの面倒を見てくれ
る点が非常にありがたいらしい。
モビルスーツとは、維持費に金が掛かるものなの
だ。
こちらは、怪我人なのでありがたいのだが、あの
女に貸しを作るとロクな事にならないような気が
するのは、俺だけなのだろうか?

 「さすがだな。ところで、お客さんだぞ」

 「誰だろうな?」

ガイが自分の病室に戻ると、そこには中国大陸で
知り合った、朱技術大尉が待っていた。

 「久しぶりだな。朱技術大尉」

 「はい。少佐に昇進しましたけど」

 「そいつはおめでとう」

 「ありがとうございます」

 「ところで、用事があるようだが・・・」

 「はい。実は、中華連邦共和国も、新国連軍に
  戦力を派遣する事になりまして。現在、空母
  を含む艦隊が、スエズ運河を通過中なのです
  」

中華連邦共和国海軍は、旧東アジア共和国海軍の
艦艇をそのまま使用していたので、戦力の派遣が
容易であるようであった。
更に、北部の三軍閥の連中も、自身の勢力圏確保
に精一杯で、他所に攻め込む余裕はないようであ
った。
 
 「へえ、そいつは凄いな」

 「まだ、内戦が終わっていませんが、中華連邦
  共和国が、国際社会に復帰した事をアピール
  したいのです。劉大統領の命令ですよ」

 「なるほどな」
 
 「そこで、ガイ大佐。いや、少将にモビルスー
  ツ隊の指揮をお願いできないかと・・・」 

 「俺は傭兵だ。任務なら引き受けよう」

 「ありがとうございます。条件は前回の二倍の
  額を用意していますし、モビルスーツの貸与
  も行われます。さすがに、(クライシス)を
  今回の戦乱で使うのはまずいでしょうから」

 「それもそうだな。それで、貸与機とは何なん
  だ?」

 「ここに送られているそうです。ラクス様から
  の援助ですね」

 「何!あのクソいや、ラクス様からか・・・」

正直、嫌な予感がしたのだが、迎えにきたザフト
軍の技術将校と朱技術少佐のあとを付いて行き、
とある格納庫に到着した。

 「これが、ラクス様から預かった貸与機です」

ザフト軍の将校が指差した方向には、一機の「グ
フ」が鎮座していた。

 「(グフ)か」

 「ええ、ヴェステンフルス隊長が使用していた
  (グフカスタム)です。彼は、別の機体に乗
  り換えましたので」

 「そうか(今回はまともそうだな)」

先ほどの不安が消え、ガイの心に安堵の気持ちが
広がっていく。
 
 「ご存知とは思いますが、この(グフカスタム
  )はVフェイスシフト装甲完備でして・・・
  」

 「えっ!何色なんだ?」

だが、十秒も経たない内に、再び心に不安が広が
ってしまう。
 
 「おい、電源を入れてさしあげろ」

技術将校の指示で「グフカスタム」に電源が入る
と、みるみるとピンク色に染まっていく。

 「ピンク・・・」

 「ガイ少将に相応しい機体ですね」

 「いや、それはどうだろうか・・・」

 「何しろ、今回の派遣戦力は、例のピンク大隊
  を師団規模にまで拡大した連中ですからね。
  彼らもガイ少将の下で働けて大喜びですよ」

 「あのさ。その師団のモビルスーツの色って・
  ・・」

 「ご安心下さい。フェイスシフト装甲完備の(
  センプウ供砲離薀ぅ札鵐浩源叉,函日本か
  らの購入機ですが、シールドや武器などを出
  来る限りピンク色にしています。我が、ピン
  ク師団は永遠に不滅ですよ」

 「そうか・・・。ちょっとトイレに行っていい
  かな?」

 「ええ、どうぞ」

ガイは、すぐにも大声で絶叫したかったのだが、
彼らが傷つくと可哀想なので、トイレの一番奥の
個室に入って鍵をかける。

 「ぬぉーーー!カザマの野郎!覚えてやがれよ
  ーーー!」

ガイの絶叫はトイレに響き渡り、彼の最後の戦い
の幕が開けるのであった。 

 


         あとがき

あと二〜三話でラストかな?


   

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze