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▽レス始

「これが私の生きる道!運命編9.5ラクス出産編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-07-09 00:38/2006-07-18 18:59)
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地中海とジブラルタル基地周辺での死闘の翌日、
俺は、バルトフェルト司令やヒルダさんにわけも
わからぬままに、巨大なブースター付きの「ガブ
スレイ」に搭乗させられた上に、宇宙に射出され
てしまった。
ジブラルタル基地のマスドライバーは、昨日の爆
発で沢山の黒煙を浴びてしまっていたのだが、そ
れほどの損傷を受けておらず、特に問題もなく発
射されたのだが、俺はその恐ろしいGと懸命に戦
っていた。

 「ちくしょう!体がGで重いーーー!俺を殺す
  気かぁーーー!」

宇宙に上がるまでは、自動操縦と言われても、墜
落でもされたら大変なので、俺は「ガブスレイ」
の操縦桿を握りながら、シートに押し付けられて
いた。
強力なGが体に掛かり、今にも全身の骨が砕けそ
うな感覚であった。

 「(いくら、シャトルが無いとはいえ、これは
  酷いよな!絶対に訴えてやる!)」

そんな事を考えつつも、永遠に続くと思われた地
獄の時間は終了して、俺は宇宙に上がる事に成功
していた。

 「やっぱり、地球は青いんだな・・・。綺麗だ
  ・・・」

俺はブースターを切り離してから、暫く、無重力
状態に身を任せていたが、酸素が無くなってしま
うと困るので、事前に位置を聞いていたミゲルの
艦隊との合流してを目指して、デブリ帯に進入す
る。

 「岩の破片と兵器の残骸のみか・・・。つまら
  ん光景だな。うん?あれは・・・」

MA隊形に変形させた「ガブスレイ」を飛行させ
ていると、前方に発光信号が見え、数機のモビル
スーツの反応が確認される。

 「ミゲル達か?熱紋照合・・・。(ジンハイマ
  ニューバ2型)が三機で、(シグーディープ
  アームズ)が二機だと!ミゲルの部隊では使
  われていないぞ!」

俺が叫んだ瞬間に、五機のモビルスーツ隊からビ
ームライフルが発射されて、俺はデブリの影に逃
げ込んで回避をする。
始めは、何に使うのであろうかと考えていた、対
ビームコーティングが施された足の爪は、デブリ
の岩石を掴んでいて、身を隠すのに役に立ってい
た。

 「俺がここに来る事を知っていた?情報が漏れ
  ていたのか?」

 「何だぁ?テメエは自意識過剰なんだよ!俺達
  は、金になりそうな新型が見えたから、ここ
  まで慎重に追尾していただけだ!とっとと、
  その機体を寄こしやがれ!」

 「何だ。ただの海賊か・・・」

 「そうよ!俺達は、誇り高き海賊様だ!」

 「弱い者いじめのハンパ者だろう?お前達は、
  映画の見過ぎだ!海賊なんて犯罪者なんだよ
  !ゴミはゴミらしく、大人しくしていろ!」

 「俺達はユーラシア連合政府から、私略船とし
  ての許可を受けているんだよ!つまり、俺達
  は、ロイヤルネービーのご先祖様と同じと言
  うわけだ」

 「古臭い話をするなよ。お前、軍に籍はあるの
  か?」

 「ねえよ」

 「軍服は、ちゃんと着ているか?」

 「そんなもの着るかよ!」

 「そうか。軍に所属もせず、軍服も着用せずに
  階級もなしか・・・」

 「だったら、何なんだよ!」

 「子供が生まれるのでね。悪いが、捕虜は取ら
  ないぞ・・・。死んでくれ・・・」

俺は、数年ぶりに「黒い死神」の真の素顔を表面
に出した・・・。


(同時刻、ミゲル視点)

 「何なんだよ!ここ数日、海賊なんて影も現れ
  なかったのに」

プラント最高評議会の命を受け、ジブラルタルか
ら射出された「ガブスレイ」とカザマ司令の回収
に向かったミゲルは、途中で海賊と思われる集団
に襲われて、足止めを食っていた。

 「アイマン隊長、変ですよ。俺達が本格的に攻
  撃を開始したら、一目散に逃げ出してしまい
  ました」

 「敵の意図は足止めらしいな。なぜ、こんな事
  を・・・。そうか!カザマが目的か!」

当初は、エミリア達の支援を受けて、各地で大暴
れをしていた海賊達であったが、ミゲルを初めと
する各国のモビルスーツ部隊に撃退されていき、
現時点では、種切れになって活動を停止している
か、全滅させられてしまったか、状況が変わるま
で静かに待つ事を決めた連中しか残っていなかっ
た。
そんなわけで、ここ数週間あまりは暇な時間を過
ごしていたのに、急に、十数機のモビルスーツ隊
の攻撃を受けてしまったのだ。

 「とにかく!集合場所へ急げ!カザマがやばい
  ぞ!」

Vフェイズシフト装甲を唯一装備し、オレンジ色
をした「ゲルググ」に搭乗しているミゲルが、同
じく、「ゲルググ遠距離戦闘タイプ」(右肩にビ
ームキャノンを装備)二機に搭乗している部下に
命令を出す。

 「とにかく、急ぎましょう。おい!ロナルド!
  カザマ司令の反応は入っているか?」

「ゲルググ」のパイロットが、「マーキュリー」
索敵手のロナルド・マッケランに状況を尋ねる。

 「探知限界距離ギリギリに(ガブスレイ)の反
  応と(ジンハイマニューバ2型)と(シグデ
  ィープアームズ)が合計三機と(ストライク
  ダガー)が三機です。ちなみに、(ジンハイ
  マニューバ2型)は二機の反応が消失しまし
  た」

 「大丈夫だったか。だが、万が一の事がある。
  急げよ!」

 「万が一なんですか?アイマン司令」

 「あいつを追い詰めるなんて、バカな連中だ」

 「アカデミーの実技では、アイマン司令やヴェ
  ステンフルス司令の方が、上だったと伺って
  いますが」

 「そんなものは関係ない。確かに、模擬戦を行
  えば、今でも俺が勝てるかも知れない。だが
  、一緒に戦っていた部下が、半分になるほど
  の激戦を何度もかいくぐり、生き残ってきた
  奴の真の実力は、ハンパじゃない。俺は絶対
  に敵に回したいと思わない」

 「そうなんですか?」

 「ああ、(黒い死神)の名前は伊達じゃないん
  だ」

ミゲル達が、目的地に向かっている間に、更に、
二機の「ストライクダガー」の反応が消失した。

 「せめて、倍は揃えないと勝てないだろうな」

 「えっ!(シグーディープアームズ)の反応消
  失!速いですね・・・」 

 「戦死させないように、気を使わなければいけ
  ないヒヨっ子もいないし、指揮する部下もい
  ない。開戦時は、同じように凄腕だったスズ
  キ教育部長やスズキ試作モビルスーツ部隊隊
  長を引き連れて、地球連合軍の艦船やMAを
  多数撃破していたんだ。その時の光景を思い
  出すぜ。あの二人が列機だった時は、気を使
  う必要がなかったからな」

ミゲルが現場に到着すると「ガブスレイ」が、一
機の「ストライクダガー」を、ビームサーベルで
切り裂いているところであった。 

 「遅いぞ!ミゲル」

 「悪いな」

 「それが新型の(ゲルググ)か?あとで見せろ
  よ!」

 「新型は、嫌いなんじゃないのか?」

 「そうでもないさ。試作機が嫌いなだけだから
  な。しかも、俺が乗るんじゃなくて、他人が
  乗っている機体を見せて貰うのは大好きだ」

 「嫌な奴だな・・・」

 「野次馬根性が強いんだ」

俺とミゲルが会話をしている間に、残った敵モビ
ルスーツ隊はミゲルの部下達に掃討されていく。

 「普通だけど、腕は良いな」

 「普通で悪いか!ハイネの部下達がおかしいん
  だよ!」

 「少し、感覚が麻痺したかな?」

 「あきらかに麻痺している。リハビリしろよ」

 「プラント本国でやるよ」

俺とミゲルは、下らない会話を続けていたが、瞬
時に、敵の動きを察知して、「ガブスレイ」のフ
ェーダインライフルと「ゲルググ」のビームライ
フルを発射した。
すると、残った最後の二機の「ジンハイマニュー
バ2型」と「ストライクダガー」が爆発する。

 「それで、隠れていたつもりかっての!」

 「反応は、バッチリあるからな」

辺りには、撃破された多数のモビルスーツの部品
が漂い、敵の生存者もいないようであった。

 「二つ名通りに、容赦がないな」

 「海賊に情けは無用だ。降伏もしなかったしな
  。しかも、ユーラシア連合政府のお墨付きを
  名乗っていたからな。あんな誰も支持してい
  ない国の、更に、私略船なんて古臭い名称を
  名乗られればね・・・」

 「という事は、連中はエミリアの命令を受けて
  、お前を殺そうとしていたのか?」

 「始めは、新型モビルスーツを寄こせなんて言
  っていたが、ちょっと誘導してやったら、背
  後関係を話しやがった。ユーラシア連合クー
  デター政権の援助を受けているイコール、エ
  ミリア達の支援を受けているだからな」

 「エミリアも、お前が邪魔になったのかね?」

 「まさか、俺はそこまで大物じゃないさ」

その後、俺は「マーキュリー」に着艦して、プラ
ント本国に向かうのであった。


(同時刻、ウラル要塞内部、エミリアの私室)

 「そう。失敗したのね。まあ、成功するとは思
  っていなかったけど」

 「準備不足、駒不足が響きました。あんな、海
  賊共では・・・」

 「私はやっても良いと許可を与えただけ。クロ
  ードの部下達も無念だったのでしょう。でも
  、これで我侭は終わりよ。あとは、最終計画
  に向けて準備を進めるように命令しておいて
  」

 「かしこまりました」

戦死したクロードに代わって、情報面と暗部の仕
事に関わる事になったミシェルがエミリアの命令
に頷く。
クロードが、二年を掛けて世界各国と宇宙に構築
した情報網と工作員ネットワークは、各国の情報
機関や特殊工作組織に反撃を受けて、ズタボロに
されつつあり、ミシェルの仕事は、その残ったネ
ットワークの維持と、ヨーロッパ本土での仕事の
みになっていたが、以前の宣伝工作の仕事と合わ
せて、彼はエミリアチルドレンの中で最も忙しい
男になっていた。
更に、外の連中が「新しい四天王への就任おめで
とうございます」などと口走っていたが、あと数
ヶ月で滅びる身としては、どうでも良い事であっ
た。

 「それで、何かあるかしら?」

 「アラファスから、スパイの可能性を指摘され
  た男がいるのですが、証拠もありませんし、
  使える男なのでどうしたものかと・・・」

 「誰なの?」

 「(ピンクの死神)こと、ムラクモ・ガイ大佐
  です。情報を流している可能性があると。更
  に、先ほどのカザマ司令やラクス・クライン
  とも懇意にしているとかで・・・」

 「でも、証拠はないのでしょう?」

 「監視は強化していますが、一切のボロを出し
  ていません」

 「うーん、全くボロを出さないというのが、逆
  に怪しいわね・・・」

 「いかがいたしますか?」

 「あなたが責任者でしょう?ミシェルはどう思
  うの?」

 「下手につついて、逃走でも図られたら大変で
  す。かと言って、アラファスにそこまで疑わ
  れたら連携が崩れる恐れがあります。監禁す
  るか殺してしまうのがベストかと」

 「そうね。腕が良いと言っても、所詮は傭兵。
  殺してしまっても構わないでしょう。それに
  、今更悪業が一つ増えても、地獄行きには変
  わりはないし」

 「ですね。早速、拘束して拷問にでもかけてみ
  ます」

こうして、ミシェルとエミリアは安全策を取って
ガイを殺す決断をしたのだが、その会話を聞いて
いる人間がいるとは思っていなかったようだ。
エミリアの部屋の通気口では、一人の男が聞き耳
を立てていたからだ。

 「最新鋭の要塞の癖に、意外と古典的な手が有
  効なんだな。しかも、まだ罪が確定していな
  いのに、俺を殺すのか。困ったものだ」

ガイは、最新鋭の侵入者発見センサー妨害装置を
作動させながら、自分の危うさを実感した。
この装置の優れた点は、各種センサーの働きを遮
断するのではなく、正常時の情報を上書きして流
し続け、普通にモニターを監視していても、誰に
も気が付かれない点にあった。
現在、ガイの私室でもこの装置が作動していて、
監視モニターではガイは机に向かって本を読んで
いる映像が流れていた。
まさか、ここでエミリア達の会話に聞き耳を立て
ているとは思わないであろう。
  
 「そろそろ潮時かな。さて、脱出するか」

ガイは、特殊な周波数を流す発信機のスイッチを
入れてから、モビルスーツ格納庫に向けて移動を
開始した。


 「緊急訓練だ。(ディスパイア)を出す」

 「えっ、聞いていませんよ!上に確認を取りま
  すから待っていて下さい」

格納庫に到着した俺は、整備兵に緊急発進を告げ
るが、そんな事をされたら拘束命令が出ている事
に気が付かれてしまうので、無理やりに搭乗しよ
うとしたのだが・・・。

 「待て!そいつを拘束しろ!アラファス様から
  の命令だ!」

 「ちっ!スマン」

 「えっ?」

俺の拘束命令を受けた、数名の警備兵が格納庫内
に入ってきたので、隣にいた整備兵を突き飛ばし
てから、ワイヤークレーンで(ディスパイア)の
コックピットに上がって搭乗を試みる。

 「逃がすくらいなら射殺しろ!」

十数名に増えた警備兵の隊長の命令で、「ディス
パイア」の周辺に銃弾が飛び散り、その内の一発
が俺のわき腹を貫通した。

 「うっ!喰らったか!」

俺は、「ディスパイア」のコックピットハッチを
閉じてから、備え付けのテーピングで腹を巻き、
全ての手順を省略して緊急発進を開始する。

 「どかないと死ぬぞ!」

俺は、山脈をくり貫いて建造されている、格納庫
の扉をビームライフルの連射で撃ち抜いてから、
追撃をかけてきそうなモビルスーツや可燃物にも
射撃を加えて緊急発進をした。

 「Gで出血が増えたかな?」

無事に発進したのだが、「ディスパイア」の高機
動で発生するGが、わき腹の銃創に気の遠くなる
ような激痛と大量の出血を発生させる。
どうやら、先ほど巻いたテーピングは、気休め程
度の効果しかないようだ。
更に、後方から十数機のモビルスーツ隊の接近が
警告音とともに俺に知らされた。

 「全機が(ディスパイア)か。俺がこの状態で
  は、どうにもならないな。伝説の傭兵ムラク
  モ・ガイは、ここで壮絶な戦死を遂げるか・
  ・・」

覚悟を決めた俺が、モビルスーツ部隊に戦いを挑
もうとした時、下の森林地帯から多数のビーム砲
が発射され、数機の「ディスパイア」が爆発する

 「何者だ?」

大量の出血で意識が朦朧としてくる中、二十機ほ
どの「ハイペリオン」の部隊が、半数の「ディス
パイア」隊と戦いを始めていて、戦況は互角に近
い状態になっていた。

 「おい!生きているか?」

 「お前は・・・」

一機の「ハイペリオン」が接近してきて、俺の安
否を尋ねる。

 「俺は、草としてロシアに潜入していた。ザフ
  ト軍の人間だ。情報収集の任務ご苦労様との
  ラクス様からのお言葉だ」

 「それはいいから、治療をして欲しい。出血が
  激しくて・・・」

俺は、それだけを伝えると意識を失ってしまった


 「あれ?ここは・・・」

意識を回復させると、俺はベッドに寝かされてい
て、更に輸血が行われているらしく、上に輸血用
のパックが確認できた。

 「目を覚ましたか?」

 「何とかな」

 「正直、生きて出てくるとは思わなかった。俺
  の部下達は、全員消息不明だから」

 「不審者の処刑は毎日行われていた。俺は大丈
  夫だと思ったんだが・・・」

 「ある国の裁判では、(疑わしきは罰せず)だ
  が、連中は、疑わしきは処分するだからな。
  おかげで、ウラル要塞の内部の情報がわから
  なくてな。例のチップを見させてもらったぞ
  。おっと、怒るなよ。俺も、ラクス様の指示
  でお前の救出を行ったんだから。例の周波数
  発生装置がなければ、更に、ここに当たりを
  付けていなかったら、あんたは死んでいたん
  だぜ」

ガイは、ウラル要塞の内部の見取り図や、戦力の
配置図、指揮官の経歴やその配置位置、エミリア
達の様子など、集められるだけの情報を集めて小
型のチップに入れて持ち歩いていたのだ。  

 「別に怒らん。俺の任務は、無事に終了したん
  だろう?」

 「ああ、そうだ。あとは、治療をしてロシア国
  内から脱出して貰えば」

 「ところで、ここはどこだ?」

 「ウラル要塞から少し離れた、ロシア連邦軍の
  基地だ」

 「大丈夫なのか?」

 「エミリア達の支持率が、100%だったら危
  ないが、奴らを支持していない軍人も多いか
  らな。俺が容易にロシア国内に潜入している
  のも、あの(ハイペリオン)隊が戦ったのも
  、そのおかげってわけだ」

男の話を総合すると、ロシア連邦共和国はエミリ
アに従ってそのおこぼれを頂戴しようと考えてい
る一派と、新国連や正統ユーラシア連合の考えに
賛同して、エミリア達の排除を狙っている一派の
二つの派閥に分類されているらしい。
今日、自分を救ってくれた「ハイペリオン」隊は
、後者の派閥に属する者達であったようだ。

 「傷も塞いであるし、輸血もそろそろ終わるか
  ら、そのまま寝ててくれれば、国外に移送し
  てやる。例の(ディスパイア)だっけか?あ
  れもバラして一緒にな」

 「そうか。任務は終了したか」

 「新型機を持ち出す事に成功するとはな。さす
  がは、(ピンクの死神)というところか。ラ
  クス様もこれで、お喜びになると思う」

 「ふん。仕事だからな。ところで、あんたの名
  前は?」

 「ヨップ・フォン・アラファスだ。こんな任務
  が専門の男だ」

 「そうか・・・」

俺は、「ピンクの死神」は止めてくれと言いたか
ったのだが、恐ろしい眠気に襲われて、再び深い
眠りについてしまった。
こうして、俺があのクソ女に命じられた任務は無
事終了したのであった。


 「あれ?ここは・・・」

俺が再び目を覚ますと、そこはまた白い天井で、
ベッドに横になっていた。
そして、上を見ると点滴のパックが見える。

 「ガイ、目を覚ましたか?」

 「イライジャ!リード!そして、ロレッタと風
  花もか!」

 「デカイ声で叫ぶと、傷が開くぜ」

 「その通りよ。それと、風花が話があるってさ
  」

俺がロレッタの横を見ると、目に涙を溜めた風花
が、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめていた

 「どうしたんだ?風花」

 「私、ガイなら無事に帰って来ると勝手に思い
  込んでいた・・・。私・・・」

 「ちょっと予定外の事があっただけだ」

 「ごめんなさい・・・」

 「気にするな」

 「ごめんなさーい。えーーーん」

風花は、俺にしがみつきながら泣き出してしまっ
た。
本当は、わき腹の傷にヒットして痛いのだが、そ
れを言い出せる雰囲気ではなかった。

 「ガイが怪我をしたって聞いたら、自分のせい
  だって泣き出してしまってね。結構、可愛い
  ところあるでしょう?この娘」

 「それが、母親のセリフか?」

 「まあ、何にせよ。大事はなかったし、実入り
  の良い仕事で良かったわ」

 「そんなに儲かったのか?」

 「あの新型を高額で買い取ってくれたからね。
  あれだけの高性能機を新規で開発したら、手
  間がかかるからね。風花が、ラクス様と交渉
  して、高額で買い取って貰ったみたいよ。つ
  いでに、新型のモビルスーツも貰って、昔の
  機体も下取りをして貰ったみたい。我が娘な
  がら、大したものでしょう?」

 「血筋だろう」

 「俺もそう思います」

 「リード!イライジャ!あとで覚えておきな!
  」

 「風花、お手柄だったな」

 「うん・・・」

俺が、しがみついていた風花の頭を優しく撫でて
あげると、風花は泣き止んで大人しくなった。

 「うーん。義息子は、若い方が良いんだけど・
  ・・」

 「なぜ、話が飛躍する?」

 「女の予感のようなものね」

 「大丈夫だ。風花が大人になるまでには、俺も
  結婚しているさ」

 「それは、微妙な話だな」

 「ありえない」

 「リード、イライジャ・・・。お前ら・・・」

 「あと、八年か。風花が十六歳で、ガイが三十
  六歳ね」

 「それなら、俺は二十五歳で、そう歳も離れて
  いないぞ」

 「イライジャは嫌!」

今まで大人しくしていた風花が、瞬時にイライジ
ャとの結婚を否定した。

 「あくまでも、もしもなのに・・・。結構傷つ
  いた」

 「ところで、ここはどこなんだ?」

 「(ジブラルタル)基地だよ。お前は五日も意
  識を失っていたんだ」

 「そうか」

 「ジブラルタル基地は、先の戦闘で大きく傷つ
  き、モビルスーツを多数失ったんだ。そこで
  、イライジャが警備隊の一員として雇われた
  というわけだ」

 「なるほどな」

 「そして、今日になってプラント本国から、多
  数の補充モビルスーツが届いたので、それを
  、報酬として貰ったというわけだ」

 「俺も新型機なのか?」

 「イライジャは、(グフイグナイテッド)をラ
  クス様から貰ったし、お前の新型機も窓の外
  に立ててあるぜ」

 「本当か!」

俺が、期待に胸を膨らませながら窓の外を見上げ
ると、例のエミリア達が使用している「クライシ
ス」が建物の外に立っていた。

 「これは・・・」

 「研究用に多数鹵獲された中から、良好な状態
  のものを選び、同じく、良好な状態の部品を
  選んで組み上げたようだから、調子は良いぜ
  」

 「そういう事ではなく・・・」

 「装甲は、Vフェイズシフト装甲に換装して
  あるそうだ」

 「それは、わかっている・・・」

 「なぜか、ガイ好みの設定に変えたらこの色
  になってな」

 「あの女!わざとやっているのか!痛っ!」

 「ガイ、無理に動くと傷に障るぜ」

 「またあの色かよーーー!」

 「宿命なんだから諦めろよ」

イライジャが他人事のように言い。

 「(ピンクの死神)でって、名指しの指名も
  多いんだからあきらめろよ」

リードが、その色の有用性を語り。

 「ピンクだからって、差別は良くないわよ」

ロレッタが、的外れな意見を述べている横で、
風花がラクスから送られてきた小切手を眺めて
いた。

 「(任務成功に伴う成功報酬が三百万アース
  ダラーで、新型モビルスーツの買取金額が
  二千五百万アースダラーで、旧式機の下取
  り金額が二百万アースダラーで合計三千万
  アースダラーか。再び一財産築いてしまい
  ましたね。これで、ガイには傭兵から足を
  洗って貰いましょう。ラクス様に相談して
  、堅気の仕事を紹介して貰わないと)」

風花は、年令に似合わないしっかりとした考え
で、次の手を考えているようであった。

 「ピンク嫌ーーー!」

そして隣では、ガイがベットの上で、外に立っ
ているピンク色の「クライシス」を見ながら絶
叫していたのであった。


 
(数日前、ウラル要塞エミリアの個室内)

 「申し訳ありません。大失態をしでかしてし
  まいました」

 「そうね。新型モビルスーツを奪われ、格納
  庫を一つ使用不能にされ、死者二十八名、
  負傷者五十六名は手痛い損害ね」

 「申し訳ありません。どのような処罰もお受
  けします」

 「あなたを罰しても、次の人材がいないのよ
  。やはり、クロードは早まった真似をした
  わね。あなたも頑張ってはいるのだけど、
  専門外の事だから・・・」

 「ですが、罰がないと言うのは・・・」

 「大丈夫よ。背後関係はわかったのでしょう
  ?」

 「裏で、ラクス・クラインが糸を引いていた
  と思われます」

 「今は、ラクス・カザマが本名らしいわね。
  でも、夫婦して祟ってくれるわね」

 「それで、なぜ大丈夫なのですか?」

 「ラクス・クラインがプラントのために動い
  ているからよ」

 「どういう事ですか?」

 「つまり、ムラクモ・ガイを潜入させて新型
  モビルスーツを奪った件を他所の国に教え
  るはずがないからよ」

 「ですが・・・。ああ!そうか!我々は負け
  る事が決まっている組織だから」

 「そうよ。普通に数で押せば勝てるこの状態
  で、他所の国に新型機の事を教えて自分達
  の将来の優位を低くするはずがないわ。い
  くら高性能の(ディスパイア)の現物を手
  に入れても、量産には時間がかかるし、私
  達が滅べば各国に鹵獲もされるでしょうか
  ら、そんな無駄な事はしない。次期新型モ
  ビルスーツ開発の参考と、自軍のモビルス
  ーツ部隊への、戦術マニュアルの改良に留
  まると思うわ」

 「そうですね。各国にクロードが張り巡らし
た情報網の分断が完全に成功しないのも、
  大西洋連邦の情報部と、プラント・オーブ
  の情報部との不仲が原因ですしね」

ここ数週間で、クロードの張り巡らせた情報網
と、工作員ネットワークへの攻撃が激化してい
たが、大西洋連邦情報部とプラント・オーブ情
報部との仲の悪さが原因で連携が取れず、摘発
に失敗する例が後を絶たなかった。
キラ・ヤマトの件で協定を結んだ事があるので
、比較的友好的に仕事ができるプラントとオー
ブの情報機関と、その件で血を洗う抗争を繰り
広げ、その他の件でも激烈な戦いを繰り広げて
きた大西洋連邦情報部との仲は最悪であった。
「今は講和中だが、それは政府と軍部と民間の
連中だけだ!俺達、情報機関の者は今でも交戦
中なんだ!」これが、大西洋連邦情報部のある
課長の発言である。
そのような理由で、劣勢であるエミリア達の情
報網は最低限の規模が保たれ、各国の情報が何
とか入ってくる状態にあった。

 「二年前まで、戦っていたのよ。そんなに急
  に連携なんて取れないわよ。一部の部隊同
  士は仲が良いらしいけど、大西洋連邦は大
  西洋側から、プラント・極東連合・オーブ
  はスエズ運河からというのも。単に効率の
  問題だけではないわ」

 「敵軍のウラル要塞攻撃開始予想日時は、四
  月の末です。問題は、どれだけヨーロッパ
  本土とロシア連邦領土内で足を引っ張れる
  かですね」

 「その準備は抜かりなくて?」

 「正直、出来るところと出来ないところがあ
  ります。お膝元のロシア連邦の部隊があの
  様ですから」

 「討伐部隊は差し向けたのでしょう?」

 「ええ、詳しい報告はそろそろ・・・」

 「失礼します」

ちょうどその時、一人の若い男が入室してきた

彼もエミリアチルドレンの一人で、アラファス
の補佐に付いている人物である。

 「裏切り者の、ウランフ中将の討伐に成功し
  ました」

 「そう。ご苦労様」

 「オレンブルク基地の全員を、見せしめに皆
  殺しにしました。モスクワは、肝を冷やし
  ている事でしょう」

 「半数の(ディスパイア)で、倍の数の(ハ
  イペリオン)と互角に戦えるし、パイロッ
  トの練度もこちらが圧倒的に上なのよ。反
  抗運動は強圧的に鎮圧しなさい。今更、善
  人ぶっても始まらないわ。ヨーロッパとロ
  シアの資金・資源・人員を最大限に収奪し
  て体制を整えるのよ。「ディスパイア」の
  後継機の準備も進めなさい。一ヶ月で量産
  体制に移行して、訓練を開始すればギリギ
  リ間に合うわ!そのために、必要な科学者
  や技術者は強制連行をして構いません。ハ
  ウン一人では、大変でしょうから」

この瞬間から、ヨーロッパ本土とロシア領全域
に恐怖政治が始まり、殺戮と粛清の嵐が吹き始
めた。
戦後、世界の歴史家が首を捻る、エミリアの豹
変の開始であった。


(二月二十六日、ジブラルタル基地)

先の戦闘で大量のモビルスーツを失った、バル
トフェルト司令指揮下のザフト軍アフリカ駐屯
軍と、マダガスカル共和国軍と、アフリカ共同
体軍に、待ちかねていた補充モビルスーツが到
着していた。

 「何だ、僕が気に入りそうな機体はないんだ
  ね」

 「今後、カスタム機や試作機は最小限の数に
  するとの通知がありました。あきらめて下
  さい」

 「君はモビルスーツに乗らないからって、つ
  れないな。ダコスタ君」

 「ヴェステンフルス司令は、搭乗機を(マラ
  サイ)から(グフ)に戻したじゃありませ
  んか」

 「あれは、部品不足で(グフ)の部品をわざ
  わざ加工していたらしいよ。そんな機体は
  使いにくいさ」

 「結局、アフリカで数回と、スエズでの活躍
  のみでしたね。(マラサイ)は」

 「補充の(グフ)をザンギエフ君に与えて、
  自分は以前の(グフ)をカスタム化して貰
  ったらしいよ。僕も(ガイア)が残ってい
  れば、そうしたんだけど・・・」

結局、バルトフェルト司令の「ガイア」と、ヒ
ルダ達の「ドム」は黒焦げで使い物にならない
状態になっていた。
当然、その場に残っていたら、自分も黒焦げな
ので仕方がなかったのだが。

 「ヒルダさん達は、開発が中止になった試作
  機の中から搭乗機を選んでいましたね」

 「それはズルくないかい?」

 「ラクス様から、お礼を兼ねてとの事ですが
  」

 「僕も色々と貢献しているじゃないか」

 「だから、副総司令だと思いますが・・・。
  年輩の先輩を数十人もゴボウ抜きしての就
  任ですから」

 「クルーゼはどうなんだ?」

 「彼は、エザリア国防委員長とザラ前国防委
  員長の派閥に属してしますし、順位的には
  ユウキ司令の次にいる人ですから」  

 「あーあ。新型モビルスーツに乗りたいな。
  ヒルダ達はどんな機体を選んだんだい?」

 「えーとですね。ZGMF−9999うわっ
  、開発ナンバーも進んだものだな。(ギラ
  ・ドーガ)という汎用性に優れた機体です
  ね。(ザク)の後継機に当たります。背中
  のパックを宇宙用の高機動パックと地上用
  の空戦パックに付け替える事が可能で、水
  中用のパックも開発されていたそうです。
  武装は、光波シールドも張れる対ビームコ
  ーティング処理を施したシールドと、ビー
  ムマシンガンとサーベル・アックス・ピッ
  クに兼用できるビームソードアックスを装
  備しています。更に、シールドの裏にはハ
  ンドグレネードとシュツルムファウストを
  各四基ずつ装備しているそうです」

ダコスタは、資料に書かれた「ギラ・ドーガ」
のスペックを説明する。

 「ハンドグレネードとシュツルムファウスト
  がフェイズシフト装甲に効くのか?」

 「新型らしいですよ。例の(パンドラの箱)
  の原理というか仕組みを利用したそうで」

 「あの、使いにくい巻き込み兵器のかい?」

「パンドラの箱」は、先の最終決戦で両軍によ
って使用されたが、一定数の味方を巻き込むと
いう苦情が訓練時から殺到していて、味方を巻
き込まないように使用すると、効果範囲が狭ま
ってしまって費用効率が落ちるとの理由で、生
産と配備が中止されていた。
現在では、通常のパイロットにも使える量子通
信装置を利用したドラグーンシステムの開発が
主になっていたはずだ。

 「命中と共に、ビーム粒子を前面に放出する
  そうです。ビームによるホロジャージ効果
  を狙うと書かれています」

 「何か危険そうな兵器だね。持っていたら、
  突然爆発するとかはないのかな?」

 「さあ、どうなんでしょう?安定性の実現に
  苦労をしたと書かれています」

 「でも、武器はともかくとして、機体そのも
  のは良さそうじゃないか。何で採用されな
  いんだ?」

 「これを踏み台にして、噂の新型量産機が開
  発されているそうです。更にですね・・・
  」

ダコスタが、小声でバルトフェルト司令に耳打
ちを始めた。

 「ラクス様の指示で敵の本拠地に潜入してい
  たムラクモ・ガイが、敵の新型量産機の奪
  取に成功したそうなので、それの技術も参
  考にするそうです」

 「なるほどね」

 「カザマ司令が、その先行試作機で戻ってく
  るそうです」

 「なるほどね。旦那様は愛されているよね」

 「それは仕方がありませんよ。ところで、(
  ギラ・ドーガ)に乗りますか?」

 「それは、ヒルダ達に譲るとしよう。僕はこ
  れを使う」

バルトフェルト司令がダコスタから取り上げた
資料には、ZGMF−9199「バイアラン」
と書かれていた。


(同時刻、プラント最高評議会場会議室内)

 「そのような理由で、ジブラルタル基地の整
  備とモビルスーツ部隊の補充が終わらなけ
  れば、ヨーロッパ上陸作戦は不可能です。
  まずは、私見ではありますが、スペイン・
  ポルトガルの引き抜きと防衛の共同化を図
  って、フランス侵攻作戦に備えるべきだと
  私は思います」

ミゲルと合流した俺は、「マーキュリー」でプ
ラント本国に向かい、到着と同時に最高評議会
で報告を行っていた。
「ミネルバ」の初陣である、「観艦式」から現
在までの事細かな状況の説明と、使用した新型
モビルスーツの評価やこれから打った方が良い
策などを報告したのだ。

 「なるほど、参考になりました。ところで、
  一つ聞きたい事があるのですが」

 「何でしょうか?」

 「クルーゼ総司令が、地球に下りてから一月
  以上が経ちましたが、本人からの報告が、
  一切あがってきません。どうしたのですか
  ?」

 「えーと、それは・・・」

俺は、あの人の性格をすっかり忘れていた。
彼は優秀なのだが、周りで仕事をやってくれる
人がいると、自分の好きな事しかやらなくなる
のだ。
俺が負傷した時は仕事をしていたらしいが、現
在では、バルトフェルト副総司令とバルトス司
令、イザーク、コーウェル、アーサーさんの分
業体制になっていたはずだ。
普通は、誰かの報告書に名前だけでも記載する
ものなのだが、それすら行っていなかったらし
い。

 「特別な任務を行っておりまして・・・」

 「先にネビュラ勲章を貰った、シン・アスカ
  達の訓練がですか?」

 「(しまった!知られている)あの新型機の
  二個小隊の前線突破力は、この戦いの勝敗
  を左右するものですから・・・」

 「まあ、それなりに上手く行っているようで
  すから何も言いませんが・・・」

カナーバ議長の苦言に、俺は冷や汗を流してい
た。

 「あの・・・。デュランダル外交委員長は、
  地球ですか?」

 「それなりに、状況が落ち着いてきたので、
  一昨日から休暇を取っています。今までが
  働き詰めでしたからね」

 「なるほど、そうだったんですか」

 「なので、今から報告に行ってきて下さい。
  (明日からは仕事ですよ)と伝えてきて欲
  しいのです」

 「あの・・・。どうして、そんな事を私が?
  」

 「先ほど、連絡を取ったのですが、彼の秘書
  官がひきつけを起こして倒れたそうです。
  そこで、歴戦のカザマ司令にお願いする事
  にしました」

 「へっ?」

 「とにかく、行けばわかります」

 「了解しました」

こうして、最高評議会の定例報告会は終了し、
俺はデュランダル外交委員長の邸宅に向かう事
になった。


 「カザマ司令!」

俺が議会場を出ようとすると、エルスマン議員
に声を掛けられた。

 「カザマ司令、バカ息子が迷惑を掛けたそう
  で、申し訳ない」

 「いえ、私こそ、彼の経歴に傷を付けてしま
  って・・・」

 「いや、ディアッカ一人の命の問題ではない
  からな。君の選択は正しかったと思うよ」

 「でも、本人は辛いと思います」

 「ようやく浮いた話が出てくればこれか・・
  ・。人種や出身国や家柄は気にしないよう
  にしたいが、相手がテロリストではな・・
  ・」

 「そうですね」

 「この件は表ざたになってはいないが、状況
  が落ち着いたら議員を辞めないといけない
  な」

 「必要ないと思いますよ」

 「なぜかね?」

 「子の責任は親に及ばないからです。既に、
  大人になったディアッカが、責任を取って
  他所に飛ばされたのですから、気にしない
  方が良いと思います」 

実際のところ、ディアッカのアヤの関係は、最
高評議会議員と軍の上層部にしか知られていな
いので、イーザクと交代という穏便な処置に済
ませているが、その話が漏れてしまうと、彼に
更なる処分を下さなければいけない状況なのだ

なので、彼が責任を取る以上、エルスマン議員
が責任を負う必要はない。
彼が未成年ならそうはいかないのだが、プラン
トでは、十九歳のディアッカは、もう成年の扱
いなのだ。

 「そうかな?」

 「ええ、責任はディアッカ一人が負えば良い
  のです。あなたが議員を辞めてしまったら
  、あいつは、更に責任を感じてしまいます
  よ」

 「息子の事を気に掛けてくれて、ありがとう
  」

 「可愛い生徒であり、部下であり、戦友であ
  り、弟ですから。今は、嫌われているかも
  知れませんが・・・」

 「そんな事はない。あいつも状況はちゃんと
  理解しているはずだ」

 「そうですね・・・」

俺達は、評議会上のロビーでエルスマン議員と
小声で会話を続けていた。


 「そう言えば、デュランダル外交委員長の自
  宅に訪問するのは、初めてだな」

エルスマン議員と別れた俺は、デュランダル外
交委員長の邸宅を訪れていた。
二人がクライン邸に訪れる事は多かったのだが
、逆は初めての事だったのだ。 

 「こんにちは。カザマです」

俺が呼び鈴を鳴らしながら挨拶をすると、中か
らタリアさんが出てくる。

 「あら、久し振りね。元気だった?」

 「俺がここにいる事を、不思議に思わないの
  ですか?」

 「思わないわよ。ラクス様の指示なんでしょ
  う?」

 「らしいですね」

 「相変わらず、彼女が絡むと主体性が薄れる
  わね」

 「夫として、暖かく見守っているんですよ」

 「そういう事にしておいてあげる。ギルバー
  トの件でしょう?カナーバ議長から連絡は
  受けているわ。早く正常に戻して頂戴」

 「意味がよくわかりませんね」

 「見ればわかるわよ」

俺がタリアさんの案内で、ある部屋の前に案内
される。

 「ここは?」

 「レミの部屋なのよ。とにかく、会って頂戴
  」

俺が部屋のドアを開けると、中に熊の着ぐるみ
を着たデュランダル外交委員長が、必死にレミ
ちゃんをあやしている姿が見えた。
どうして、着ぐるみを着ているのが、彼だとわ
かったのかと言えば、顔の部分がくり貫かれて
いて、素顔が見えていたからだ。

 「おや?カザマ君ではないでちゅか。元気で
  ちたか?」

 「ぷぷっ!」

俺は、部屋の隅でひきつけを起こしながら笑い
を押し殺す。
確かに、秘書官にしても、ひきつけを起こすよ
うな出来事だったのであろう。

 「いきなり失礼だと思いまちゅよ。ねえ、レ
  ミちゃん」

 「デュランダル外交委員長、その着ぐるみと
  言葉で秘書官と会話したんですか?」

俺は笑いを堪えながら、デュランダル外交委員
長に質問をした。

 「休みの日に、何をしていようと勝手だと思
  いまちゅが」

 「その言葉をちゃんと直して下さいよ」

 「家では標準語でちゅ。君も、あと数日でそ
  うなりまちゅ」

俺も、子供が生まれればそうなると予言をされ
てしまったが、否定したい気持ちで一杯なので
、無視して次の質問に移る事にする。

 「それで、その着ぐるみは?」

 「レミは、ラウの家の(クマクマ)君がお気
  に入りなのでちゅが、私の家にはくれなか
  ったのでちゅ。アスラン・ザラとキラ・ヤ
  マトはケチだと思う、今日このごろでちゅ
  ね」

 「その言葉を戻して下さいよ・・・」

 「家では、これで通してまちゅ」

 「もしかして、戻せなくなったとか?」

 「・・・・・・・・・。マンマを食べて行き
  まちゅか?」

 「誤魔化さないで下さいよ・・・」

翌日、仕事に復帰したデュランダル外交委員長
であったが、時折、おかしな赤ちゃん語が出て
、周りを混乱させようであった。


プラント本国に到着してから、各種の仕事をこ
なし、(一部疑問を感じる物もあったが)クラ
イン邸に到着したのは夜になってからであった

 「ただいまーーー」

俺が玄関のドアを開けると、今にも子供が生ま
れそうなラクスが、俺に駆け寄って来ようとし
たので、急いで駆け寄って彼女をそっと抱きし
めた。

 「駄目だよ。走っては」 

 「お久しぶりです。会いたかったですわ」

 「俺も、会いたかった。予定日はそろそろな
  んでしょう?」

 「二日後なのですが、陣痛が始まらなくて」

 「あくまでも予定日だからでしょう?気長に
  待とうよ」

 「はい」

俺とラクスが抱き合って話をしていると、鋭い
視線が突き刺さってきた。  

 「お義父さん、お久しぶりです」

 「負傷したと聞いた時は心配したが、大した
  事がなくて良かった」

 「ご心配をかけてすいません」

 「ラクスが、それほど心配していなかったか
  ら、大丈夫だとは思ったのだがな」

 「そうですか」

 「私は無視?」

 「母さん!」

鋭い視線の正体は、お義父さんではなくて俺の
母さんであった。 


再会の儀式もほどほどにして、俺は食堂で夕食
を取る事にした。

 「私が作ったから」

 「ありがとうね。母さん」

今日の夕食は、クライン家の料理人でなくて、
母さんが作ってくれたようだ。

 「ここ数日は作っていないけどね。私が作る
  と、屋敷の料理人の仕事を奪ってしまうか
  ら」

 「だろうね」

 「だから、味は保障できなわよ」

 「大丈夫。昔のままだ」

 「そうかい。ところで、お父さんは元気なの
  かい?」  

 「レイナが妊娠したとかで、スパークしてた
  。キラは顔も良いし、稼ぐし、優しいし何
  が不満なんだろうね?」

俺はレイナから聞いていた話を、全て母さんに
聞かせてあげた。

 「父親ってのは、あんなものなのよ。式の準
  備をしないとね。キラ君のご両親にも連絡
  を取らないと」

 「そうだな。私も、ラクスが結婚すると聞い
  た時には、少し寂しかったからな。婿殿が
  クライン邸に住むとは聞いてはいたが、そ
  の気持ちは変わらなかった」

 「そんなものですかね?」

 「婿殿も、生まれてくる女の子が結婚すれば
  わかるさ」

 「随分、先の話ですね。まだ生まれてもいな
  いし」

 「あの、お話の途中すいませんが、陣痛が始
  まりました」

俺の到着早々、ラクスの陣痛が始まり、大変な
事になってしまったようだ。


 「大変だ!医者を呼べ!」

 「煩い!黙れ!」

俺が大騒ぎを始めると、母さんに怒鳴られてし
まう。

 「まだ、陣痛が始まったばかりで、生まれる
  には時間が掛かるんだよ!急がなくても、
  大丈夫だから落ち着きなさい。本当に親子
  して同じ反応をして」

 「親父もそうだったのか・・・」

 「いくら注意をしても、レイナとカナの時に
  も無駄に大騒ぎをしてね」

 「そうか・・・」

その後、母さんの指示でラクスはベッドに横に
なり、クライン家の主治医が、看護士を四人も
引き連れて登場した。

 「へえ、お金持ちの家は一味違うね」

 「ヨシヒロも、その一族なんだけど・・・」

 「最近、病気になった事がないから。戦場で
  負傷すれば、軍医が見てくれるし」

 「なるほどね」

それから、一日が過ぎ、ラクスの陣痛の間隔が
狭くなってきたとの主治医の話で、俺は外に追
い出されてしまった。
遂に、出産を開始するらしい。

 「まあ、半日は掛かるからさ。落ち着きなさ
  いよ」

母さんとお義父さんと俺で、食堂で紅茶を飲ん
でいた。 

 「俺は落ち着いているさ」

 「お前が紅茶に入れたのは塩なんだけど」

 「確かに塩辛い・・・」

 「落ち着きなさいよ」

 「やっぱり、付き添いを・・・」

 「それは駄目!」

 「何でだよ!」

 「あんたは、下らないドラマや映画の見過ぎ
  。出産に男が立ち会ってもいい事ないから
  、大人しく待っていなさい」

 「どうしてなんだよ!」

 「あの娘は、まだ二十歳になっていないのよ
  。あんたに出産時の様子なんて見せたくな
  いの。子供が生まれても、女として見て欲
  しいわけ。だから、外で待ってなさい」

 「わかった・・・」

母さんの諭されて、俺は食堂で子供が生まれる
のを待っていたのだが、何もしない事に耐えら
れず、母さんは食事の準備を始め、お義父さん
も気を紛らわすために、庭の木の剪定を始めた
のだが・・・。

 「お義父さん。木に葉っぱが残っていません
  よ」

 「しまった!これでは枯れてしまう!ところ
  で、婿殿は何をしているのかね?」

 「煙草を吸う習慣がないので、飴を食べてい
  ます」

 「そんなに食べると、糖尿病になるぞ。それ
  に、貧乏ゆすりをする癖なんてあったのか
  ね?」

俺は買い込んできた飴をバリバリと噛み砕いて
食べ、更に、道路工事のような勢いで貧乏ゆす
りをしていた。 

 「二人とも、落ち着きなさいよ。はい、昼食
  の準備が出来ましたよ」

唯一、落ち着いた母さんの指示で昼食を食べた
のだが、味が良くわからなかった。


更に時間が進み、夜になったところで、もう少
しで子供が生まれるとの連絡が入ったので、俺
達は部屋の前で待機する事にする。

 「うーん。まだかな」

 「ヨシヒロ、無意味に歩き回るのは止めて、
  椅子に座りなさいよ」

 「そうだぞ、婿殿。男は、それも父親は落ち
  着くべきだ」

 「シーゲルさんもです」

 「えっ、私もか?」

俺とお義父さんは、無意味に部屋の前を歩き回
っていて、母さんに注意されてしまう。


そして、数時間後に一人目の赤ん坊の産声があ
がった。

 「ほぎゃーーー!ほぎゃーーー!」

 「よし!生まれた!」

 「急げ!」

俺とお義父さんが、競うようにドアを開けよう
とすると、母さんに制されてしまう。

 「双子なんだから!もう一人が生まれるまで
  待つ!」

 「「はい!」」

更に、二人目の産声が上がったので、ようやく
部屋に入る事が許され、部屋に入るとラクスが
二人の赤ん坊に授乳をしていた。

 「本当に双子だ・・・」

 「男の子と女の子か」

 「へえ、可愛いわね」

二人の子供を見ると、男の子は俺と同じ黒髪で
猿のような顔をしていたが、俺に似ているよう
な気がした。
そして、女の子はラクスにそっくりの猿で、何
とピンク色の髪をしていた。

 「ラクス、お疲れ様。まだ、猿みたいだけど
  可愛いや」

 「男の子は、ヨシヒロにそっくりですよ」

 「女の子は、ラクスにそっくりだ」

初授乳が終わり、渡して貰った赤ん坊を抱きな
がら、俺とラクスで話をしていると、母さんが
俺に質問をしてきた。

 「何か、気合を入れて、名前を半紙に書いて
  送ってきたみたいだけど」

 「そうそう。名前を考えておいたんだよ。早
  速、披露するか」

俺は母さんから受け取った封筒を封を開けて、
中の二枚の半紙を広げる。

 「男の子は、俺から一文字とってヨシヒサ(
  義久)だ」

 「へえ、その系統でいくのね」

 「私は日本人ではないが、良いのではないか
  」

 「ステキな名前だと思いますわ」

 「ラクスの賛同が得られればそれで良し。次
  は女の子だけど、名前はサクラ(咲良)に
  します。髪がピンク色だったから丁度良か
  った」」

 「あんたにしては、シャレてるかね?」

 「サクラの木から音を取ったのか。綺麗で良
  いと思う」

 「では、決まりですね」

この数ヶ月、沢山の敵を討って人を殺し、多数
の仲間を失ってきた俺であったが、久しぶりに
心が晴れるような出来事であった。
この二人の子供が平和に暮らせるように、戦争
に巻き込まれないで済むように、それだけを願
って再び戦場に戻る決意をするのであった。


      あとがき

次回は、新型モビルスーツで戦場に戻るカザマ
の話になると思います。

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