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「これが私の生きる道!運命編9ジブラルタル無残編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-07-02 23:21/2006-07-04 22:45)
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(二月五日、パリ大統領府内)

 「敵軍の、スエズ運河通行の妨害を行わないと
  はどういう事だ!」

 「そうだ!ここで奇襲を掛けて、軍艦を沈めて
  しまえば、敵にどれだけのダメージを与えら
  れるか!」

 「もはや、奇麗事は言っておれん!地中海艦隊
  に奇襲をかけさせるのだ。艦載機の補充は、
  ジブラルタル基地に待機しているだろうが!
  」

クーデター政府を運営する、フランス系とロシア
系将校と一部の官僚と政治家達は、新国連艦隊の
スエズ運河通行を妨害しないと宣言した、ペタン
大統領に抗議の声をあげた。
ここで、艦隊の通行を阻止すれば、時間が稼げる
事が確実であったからだ。
現時点では、時間を稼ぐ事が重要なのだと、彼ら
は確信していた。

 「ですが、そんな事は敵軍もわかっています。
  大規模な作戦準備を行えば、勘付かれますし
  、少数なら、成果をあげられずに撃破されて
  しまう可能性が高い。それよりも、補給線を
  延ばしてから、艦隊決戦を行って勝利すれば
  、地中海が踏みにじられる事は二度となくな
  るでしょう」

老人で、まだらボケが始まっているペタン大統領
に代わって、オブザーバー格であるクロードが意
見を述べるが、将軍達は、「若造が何を抜かして
やがる!」という表情を崩していなかった。 
ユーラシア連合クーデター政権の特徴は、軍部が
大きな力を握っていて、担ぎ上げられたペタン大
統領はお飾りでしかなかった事だ。
国の方針は、彼らの合議制で決められて、ペタン
大統領は許可をあたえるのみとなっていた。
だが、軍人である彼らが決められる政治的な事な
どほとんどなく、ユーラシア連合内での行政は、
各地の官僚達が行っていて、人気取りのために、
ロゴス幹部の暗部を暴露して、財産を没収して、
収監するか追放するかしかしていなかった。
そして、肝心の軍事的な作戦の方も「船頭が多い
と船が山を行く」との言葉通りで、あまり効率的
に機能していなかった。
そこで、エミリア派の幹部やクロードがオブザー
バーとして出席して会議の方向性を示していたの
だが、これまでの敗戦の連続で、将軍達の信用を
失ってしまったのだ。
それならば、最初から自分達で立案すれば良いの
だが、それができるくらいなら、最初からクーデ
ターに参加するという愚かな選択肢を選んでいな
かったであろう。 

 「艦隊決戦は危険だ。賭けの要素が強い」

 「時間を稼いでも同じ事です。喜望峰を回るか
  、再び、スエズ運河を通行可能にする頃まで
  には、敵の艦隊は増援で更に増えている可能
  性があります。一方、こちらの数は、それほ
  ど増えるわけでもありません。ジブラルタル
  周辺に艦隊をおびき寄せてから、基地の守備
  モビルスーツ隊とともに、一気に討ってしま
  いましょう。それが良計です」

 「つまり、防衛拠点の島々を全て放棄して、ジ
  ブラルタル周辺に戦力を結集させてから、決
  戦を行うと?」

 「はい。小さな島に戦力を置いても、各個撃破
  されて無駄に失うだけですから。それに、ユ
  ーラシア連合亡命政権の離反工作が厳しいの
  で、まとめて監視しておきたいのも本音です
  。どうせ、負けても次の手がありますから、
  なるべく、多くの損害を与えるくらいのつも
  りで行きましょう」

 「ふーむ」

 「確かにそうだな」

 「仕方がないのか」

 「失った艦隊の建て直しは、戦争が終わってか
  らだな」

クロードの意見に将軍達は、表向きは仕方がなさ
そうに、心の中では嬉しそうに賛同する。
彼らは、フランス本土が陥落したら、ウラル要塞
に避難する予定なので、地中海艦隊の行く末がそ
れほど気になっていなかったのだ。
元々、地中海艦隊は、フランス系将校の数が少な
い事も関係しているようだ。
彼らは、エミリアに唆されて、滅亡への道を歩み
始めていた。
自分では、何一つ決められない癖に、自己保存を
第一に動いていたので、そこにつけ込まれていた
のだ。  

 「クロード君、例の部隊の残存数は何機かね?
  」

 「八十機あまりですね」

 「大丈夫か?」

 「ええ、ここで使い潰しても、問題はありませ
  ん。集めたデータは、新型機に生かされます
  し、ウラル要塞は難攻不落です。ウラル要塞
  で、多数の敵軍の屍を築けば、講和も可能で
  しょう」

 「そうだよな」

 「うん。クロードの言う通りだ」

 「(バカか。耄碌ジジイどもが!)」

つい先ほどまで、クロードを非難していた将軍達
に安堵の表情が浮かんだ。
正直、先の大戦後に左遷されて、くさっていただ
けの無能な将軍が多かったので、操るのは容易で
あったが、不利な立場に追い込まれるとクソの役
にも立たない連中ばかりであった。
優秀な連中は、前線にいるか任務を拒否している
ので仕方がないのだが。

 「とにかく、ジブラルタル周辺海域で決戦を行
  います。異論はありませんね?」

 「それでよかろう」

 「頼むぞ」

 「(何が頼むぞだ!本来は、お前達が決める事
  なんだよ!)」

クロードは心の中で悪態をつきながら、決定事項
を大統領の側近に報告してから、ジブラルタルに
向けて出発した。

 「問題は、どれほどの戦力を削れるかだな。作
  戦を練らないとな。俺は軍人じゃないけど」

クロードは、一人ジブラルタルに向かう高速輸送
機の機内で呟くのであった。


(二月二十一日、サルジニア島南西二十キロの海
 域)

 「クルーゼ司令、退屈ですね」

 「そうだな。戦闘が全くないな」

スエズ基地を出発した俺達は、地中海艦隊の妨害
を予想していたのだが、平穏無事に全艦隊が水路
を抜ける事に成功し、クレタ島、キプロス島、マ
ルタ島、シチリア島、コルシカ島と来て、サルジ
ニア島も戦闘なしで占領する事に成功していた。
これらの島々には戦力が存在しておらず、無防備
都市宣言も出されていたので、戦闘が全く発生し
なかったのだ。
どうやら、ユーラシア連合軍は戦力を引き上げて
しまったらしい。 

 「こうも、順調だと逆に怪しいですね」

 「怪しいさ。占領した島の警備と、ギリシャ、
  バルカン連合、イタリア本土からの攻撃への
  備えと、戦力は目減りするばかりだ。多分、
  ジブラルタル基地周辺で待ち構えているだろ
  う」

 「艦隊さえ撃破すれば、奪還は可能という事で
  すね。占領した島々には、食料を自給できな
  いところが多数あります。その島々への補給
  が我々の力を削り、補給をしなければ、非人
  道的と非難される。相変わらずえげつない戦
  術です」

 「山口海将も気が付いているから、決戦を急い
  でいるのであろう」

 「罠っぽいですね」

 「罠を噛み砕く戦法なのだろうな」

 「ジブラルタル基地に、大量のモビルスーツ隊
  が増援として派遣されたそうです。艦隊数は
  二対一ですが、モビルスーツ数は三対二とい
  う感じらしいです」

 「ふーむ。苦戦しそうではあるか」

 「例の部隊もいます」

 「そうか」

二人で話をしている間に時間が経ち、全艦隊の首
脳部が出席して会議を行う時間近づいてきた。

 「(あかぎ)で作戦会議が始まる三十分前です
  ね。そろそろいきましょうか?」

 「そうだな。どうせ暇だからな」

俺とクルーゼ司令は、アーサーさんとイザークに
留守を頼むと、「スーパーフリーダム」と「ガブ
スレイ」に搭乗して、「あかぎ」の飛行甲板を目
指して飛行を続けた。

 「ようやく、慣れたようだな。(ガブスレイ)
  に」

 「何で開発中止になったのか、理解できました
  よ。とんでもない欠陥品ですよ。こいつは」

 「だが、性能は良いのであろう?」

 「(ギャプラン)の方が使い易いです。まっす
  ぐ飛ばすのが、大変なモビルスーツなんてナ
  ンセンスですよ。大体、重力下で使用する事
  をそれほど考えていなかった節がありますね
  。本当に、何でも送れば良いというものでは
  ありませんよ!」

俺は、ようやく操縦に慣れてきた「ガブスレイ」
をまっすぐに飛行させながら、文句を言い続けた

俺は傷が癒えてから、イザークが持ってきた「ガ
ブスレイ」の訓練を開始したのだが、この機体は
とんでもない曲者であった。
イザークは、フライングアーマーで飛行していた
ので気が付かなかったらしいが、重力下でMA体
型にして飛ばしてみたところ、高機動性能を得る
ために多数設置したスラスターの操作が困難で、
いきなり墜落しそうになってしまったのだ。
更に、まっすぐに飛行させるには、熟練の腕を要
する細かい操作が不可欠で、普通のパイロットで
は飛ばすのが精一杯で、戦闘など不可能というの
が結論であった。
実は、あとで聞いたのだが、「ガブスレイ」の開
発チームは、宇宙空間での使用を前提としていた
のだが、テストパイロットであるジローが、プラ
ントのコロニー内で乗りこなす事に成功していた
ので、急遽、俺に送られる事になったそうだ。
非常に迷惑な話である。

 「残念だが、こんなモビルスーツを乗りこなせ
  るパイロットは少数でしかないからな。イザ
  ークでも駄目となると、君くらいしか残って
  いないのだ。君は愛機を失ったので、ちょう
  ど良いだろう?」

 「これを開発した人間の顔が見てみたいです。
  エイブス班長が、MA体型時に展開可能な補
  助主翼をつけてくれなかったら、飛ばすので
  精一杯でしたよ。ジローは、どうやって乗り
  こなしたんでしょうね?」

 「君と同じだ。彼が四苦八苦して乗りこなして
  いる場面を見て、技術部の連中は、トリッキ
  ーな機動が可能だと判断したらしい。そして
  、エイブス班長なら、現地で改修もしてくれ
  るだろうと思ったのが真相らしいな」

 「酷い話ですね」

 「軍事工廠は、新型量産モビルスーツの試作品
  の開発で手一杯らしい。とりあえず、過去に
  試作したモビルスーツは、全て戦場で使わせ
  て、データを集めているらしいな」

 「新型量産機ですか?何種類あるんです?」

 「それが、人手を集中させて一種類のみのよう
  だ」

 「珍しいですね。一種類なんて」

 「それだけ、有望な機体という事だな」

 「まあ、あまり期待せずに待っていますよ。俺
  は、ノーマルな機体が好きですから」

二人でそんな会話を続けていると、眼下に自衛隊
の機動護衛艦隊が見えてくる。
極東連合に参加している、各国の駆逐艦や護衛艦
などを従えて威風堂々としていた。 

 「極東連合は、勢力を増しましたね」

 「政治的にも国力的にも大国になったな。新国
  連が、スエズ・地中海方面の艦隊旗艦に(あ
  かぎ)を指名した事から見ても、それはあき
  らかだ。東洋の王者(極東連合)と新大陸の
  覇者(大西洋連邦)。そして、技術立国とし
  ての存在感を増すオーブと宇宙での資源と技
  術を一手に担うプラント。世界は、この四ヶ
  国の意思で動く」

 「暫くは、戦争は起こらないですね」

 「起こらないだろうな。ゆえに、各国の軍が存
  在感を示す最後のチャンスとなるわけだ。(
  世界の秩序を乱す輩は皆で討つ!でも、一番
  強いのは我が国ですよ)という主張をしなが
  らな」

「あかぎ」から着艦許可を受けたので、飛行甲板
に「スーパーフリーダム」と「ガブスレイ」を着
艦させると、コックピットから降りて、近くにい
た士官に話しかけた。

 「ザフト軍派遣艦隊のクルーゼ総司令と副総司
  令のカザマだ。作戦会議の会場まで案内して
  欲しい」

 「お待ちしておりました。こちらです」

士官の案内で、俺達は艦内の通路を移動して士官
用の食堂まで案内された。

 「食堂で会議を行うのか?」

 「自衛隊の艦艇は、余剰スペースが少ないです
  からね。ここが一番広いのでしょう」  

食堂の席には、すでに各国の指揮官達が集合して
いて、俺達が最後であったようだ。
大西洋連邦からは、バジルール大佐とフラガ少佐
とレナ少佐が、南アメリカ合衆国からは、階級が
最高位のエドワード少佐が、オーブ軍からは、ト
ダカ少将とアスランとハワード三佐が、そして、
ザフト軍からは、俺達の他にバルトフェルト司令
とヒルダさんが出席していて、その他の国からも
、数名ずつの指揮官が出席していた。
当然、マダガスカル共和国からは、例の三人が出
席していて、自衛隊の特殊対応部隊からは、長谷
川海将補と石原二佐が出席していた。

 「では、始めるとしますか。加来海将補、状況
  の確認を頼む」

 「はい。先ほど、サルジニア島の無血占領に成
  功したとの報告が入ってきています。肝心の
  敵地中海艦隊は、ジブラルタル基地との連携
  を保ちながら、アルジェ北西五十キロの海域  
  を遊弋しているとの偵察部隊からの報告です
  」

 「つまり、二つは連動しているので、討つのは
  両方同時という事かね?」

加来海将補の報告を聞いて、オーブ軍派遣艦隊司
令官代理のトダカ少将が質問をしてくる。

 「そうですね。どちらかに集中すると、もう一
  方に背中を襲われる可能性がありますから」

 「確かに、それはそうだな」

 「ここまで、敵が引いたという事は、この決戦
  に全てを賭けているという事でしょうから、
  慎重に準備を進めていると思いますが。作戦
  は立てているのですか?山口海将」

赤道連合の艦隊指揮官が、山口海将に作戦を有無
を問い正した。

 「一応、あります。君、地図を出してくれ」

 「了解です」

山口海将の命令で、副官が正面に臨時で設置され
たスクリーンに、近辺の地図を映し出した。

 「簡単な作戦です。我々の艦隊が、一斉に地中
  海艦隊と決戦を開始して、ジブラルタル基地
  が増援を出した隙に、アフリカ共同体軍とマ
  ダガスカル共和国軍とザフトアフリカ駐留軍
  主体のモビルスーツ隊が、ジブラルタル基地
  を落します」

 「どういう事だ?」

 「つまり、アフリカ大陸側からモビルスーツ隊
  をジャンプさせて、ジブラルタル基地を速攻
  で落そうというわけです。使用後に廃棄可能
  な簡易フライトパックを、作戦参加機に用意
  していますので、たかが数キロの距離ならジ
  ンでも大丈夫です」

 「だが、そんな近くで大部隊を用意しているの
  なら、敵に察知されないかね?」

バルトフェルト司令の作戦案に、大洋州連合の艦
隊司令官が懸念を口にした。

 「別にバレても問題はありません。向こうが先
  に仕掛けてきたら、数の多いこちらが迎撃す
  るので有利ですし、我々に備えて地中海艦隊
  に増援を出さなかったら、艦隊が壊滅するだ
  けです」

 「なるほど。よくわかった」

 「作戦はそんなに複雑なものではありませんが
  、決戦は、翌日の十三時を予定しています。
  準備を怠らない様にして下さい。次に・・・
  」

その後、細かな打ち合わせや、議題を解決しなが
ら、一時間ほどで会議は終了した。


 「カレーライスを大盛りで、福神漬を多めに添
  えて下さい」

 「同じく大盛りだ。らっきょうを添えてくれ」

 「僕は普通で良いよ」

 「私も普通で」

会議終了後、山口海将が「お食事をしたい方はど
うぞ。艦内食なので、大した物はありませんが」
と言ってくれたので、俺達は遠慮なくご馳走にな
る事にした。
今日のメニューはカレーライスだったので、日本
人である俺が見逃す手はなかったからだ。

 「クルーゼ司令は、付合わせはらっきょうのみ
  ですか?」

 「うちの流儀はそうだな」

 「うちの流儀ねえ」

 「ミサオは日本人だからな。良く作ってくれる
  のだよ」

 「君が結婚していて、子供がいるという事実そ
  のものが衝撃的だね。普通は、ありえないよ
  」

 「総司令官に対して失礼な男だな。あの何語を
  しゃべっても片言の女しかいない君より、数
  十倍マシだろうが」

 「まあまあ。ここは仲良くして下さいよ。ナン
  バーワンとナンバーツーの不仲が噂になった
  ら、困るじゃないですか」

 「それもそうだな。仕方がないから、総司令官
  として大人の対応をするかな」

 「そうもそうだよね。副総司令として、大人の
  対応を心がけるとしよう」

クルーゼ司令とバルトフェルト司令が、下らない
理由で口喧嘩を始めたので、俺が間に入って止め
ている間に、頼んでいたカレーライスが到着する

 「久しぶりだな。いただきま〜す」

 「うむ、辛口か。美味しいな」

 「初めて食べるけど、美味しいよね」

 「ヒルダさん、美味しいですか?」

 「えっ?食べ物なんて、食べれりゃいいだろう
  が」

 「ヒルダさん、料理します?」

 「しない。そういう事は旦那に期待する」

 「それじゃあ、結婚できませんよ。確実にレナ
  少佐コースです」

俺の言葉に、クルーゼ司令とバルトフェルト司令
が首を同時に縦に振った。

 「レナ少佐?(乱れ桜)かい?」

 「ええ、三十路で相手がいない可哀想な人です
  」

 「私はまだ二十代前半だ」

 「そんな事を言っていると、すぐに三十歳にな
  りますよ。レナ少佐も、焦りで胸が一杯だと
  思います」

俺が再び、クルーゼ司令とバルトフェルト司令を
見ると、二人が「後ろを見てみろ」というような
ゼスチャーをしていた。
まるで、「志村っ!後ろ!後ろ!」と言っている
ように感じる。

 「えっ?後ろですか?」

 「カザマ、レナ少佐とやらは、彼女の事なのか
  ?」

 「彼女?」

俺が後ろを振り向くと、話題のレナ少佐が冷たい
笑顔で俺を睨み付けていた。
「黒い死神」最大の失敗である。

 「お久しぶりですね。元気でした?」

 「ええ、一人だけど元気だったわよ」

 「あの・・・。どこから聞いてました?」

 「えーとねー。三十路で相手がいない可哀想な
  人ってところから」

どうやら、全てを聞かれていたようだ。
レナ少佐の隣にいるフラガ少佐が、「あきらめろ
」という表情をしていた。  

 「えーと・・・」

 「覚悟は良い?」

 「優しくしてね」

 「するか!この口がそんな事を言うのかーーー
  !」

 「しゅいましぇん。ぢぇも、じじちゅだきゃら
  」

 「私は、まだ二十代だーーー!」

 「じきゃんにょもんぢゃいだから」

 「まだ言うかーーー!」

 「しゅいましぇーーーん!」

俺は、レナ少佐に十分以上も口を両脇に引っ張り
続けられるのであった。


 「失礼にもほどがあるわよ!全く・・・」

俺にお仕置きをほどこしたレナ少佐は、注文した
カレーライスを食べながら、ブツブツと文句を言
っていた。

 「しかし、カザマは勇気があるよな。俺には、
  怖くて言えないぜ」

同じく、カレーライスを食べながら、フラガ少佐
が発言をする。

 「本人がいないと思ったんですよ。ここで、食
  事をするなんて思わないから」

 「甘いね。同じ艦にいると、食事が固定化され
  て飽きるから、こういう誘いは断らないもの
  なのさ」

 「確かに、このシチューは辛いけど美味しいな
  」

 「フラガ少佐、彼は?」

フラガ少佐とバジルール大佐の間で、少し日に焼
けた南米系の陽気そうな男が、カレーライスを頬
張っていた。

 「知ってるだろう?南アメリカ合衆国軍のエド
  ワード・ハレルソン少佐だよ」

 「ああ、(切り裂きエド)ね。知ってますよ、
  有名だから」

 「よろしくな。(黒い死神)さん」

 「よろしく」

 「おーい!メンバーは揃ったか?」

俺とエドワード少佐が挨拶を終了させると、食堂
の入り口から、石原二佐とアスランとハワード三
佐が入ってきた。

 「まあ、予想外の方々も混じっているけど」

 「俺達が予想外?」

 「今まで共闘した経験がないからさ。遠慮した
  のさ」

 「水臭いな。呼んでくれよ」

 「ほら、大西洋連邦軍の人には話し辛い事だか
  ら」

 「話し辛いのか?」

 「エミリアが派遣していると思われる部隊を、
  今回こそは、始末しようという作戦会議だか
  らさ」

 「何で、それで俺達に秘密にするんだ?」

 「指揮官の一人が、ササキ大尉の妹だからだ」

フラガ少佐達は、俺の言葉に衝撃を受けると思っ
たのだが、全く表情を変えなかった。

 「あれ?驚かないの?」

 「既に知っている事に驚くものかい」

 「知ってたんだ」

 「大西洋連邦情報部の力量を、舐めて貰っては
  困ります」 

 「すいませんね」

俺は、フラガ少佐とバジルール大佐に窘められて
しまう。  

 「それで、俺達が知らないような事はあります
  か?」

 「ありますよ。本名はアヤ・ササキ。ササキ大
  尉とは父親が違っていて、ハーフコーディネ
  ーターです。幼少の頃に、エミリアに密かに
  引き取られて、実娘のミリアとともに育てら
  れたようです」

 「忠誠心は最高クラスで、裏切りは期待できな
  い。ハーフコーディネーターの空間認識能力
  者で、ササキ大尉よりも腕は良い。実戦経験
  を積み重ねてきたので、素人とも言えないか
  。今までに討ち取れなかった事が、犠牲を大
  きくしてきたのか・・・」

 「それで、カザマ司令は、どうしようと考えて
  いるのですか?」

バジルール大佐の俺に対する口調は、丁寧なもの
であった。
ザフト軍に階級がない事に変わりはないが、俺は
指揮官クラスなので、彼女は、将軍クラスの扱い
をしてくれているらしい。

 「(クライシス)部隊を、特殊対応部隊で殲滅
  させます。ササキ大尉の妹には、クルーゼ司
  令、レイ、キラのハイドラグーン小隊で対応
  して貰います。次に、ミリアという女は、私
  とそうだな・・・」

 「俺とフラガ少佐が手伝うよ。近距離は俺、中
  距離はフラガ少佐、そして遠距離があんただ
  。あんたの新しいモビルスーツには、かなり
  の長竿が装備されているからな」

エドワード少佐が手をあげ、フラガ少佐がそれに
同意する。

 「バジルール大佐、二人を借りてしまって大丈
  夫ですか?」

 「ええ、指揮はレナ少佐に任せますから。それ
  と、ここにはいませんが、ジェーン・ヒュー
  ストン大尉にも指揮を執らせます」

 「へえ、(白鯨)まで所属しているんですか」

 「ええ、あなた達にとっては、モラシム司令を
  討ち取った仇でしょうが」

 「そんな事を言ったら、うちにはモーガン大佐
  を討ったシンもいますしね。それに、モラシ
  ム司令とは、ほとんど面識がないのですよ。
  終わった事をクドクドと言っても仕方がない
  のですから、止めましょうよ」

 「わかりました」

 「それよりも、エミリアの一味です。オーブで
  多数の部下を討たれてしまいました。朝鮮半
  島、中国大陸、オーブ近海、スエズ運河と負
  けはしませんでしたが、逃げられっ放しです
  。奴らが今回の騒乱の原因である以上、確実
  に仕留めようと思っています」

 「そうですね。私もその意見に賛成です。要で
  あるあの部隊を討てば、五月雨式に敵の降伏
  を誘えて、犠牲が減る可能性がありますから
  。幸い、数では有利に立っているのですから
  、他の部隊に通常のユーラシア連合軍は任せ
  て、我々で奴らを討ちましょう」

 「そうですね。ジブラルタル基地攻略は、バル
  トフェルト司令と同盟軍がいますし、ハイネ
  達やマリア少将達もいますからね。手駒は十
  分です。そうですよね?」

 「ああ、そうだね。僕も(ガイア)で出るから
  問題は無いと思うよ。半分空き巣狙いのよう
  な任務だし」

 「では、これで決まりですね」

大体の作戦が決まったので、俺達は小会議を終了
させた。

 「さて、カレーのお代わりを貰うとしますか」

 「カザマ、まだ食うのか?」

 「ええ、(ミネルバ)の飯は不味くはないので
  すが、洋食主流で慣れないんですよ。ご飯も
  置いてないし。あーあ、ラクスの作ったご飯
  が食べたいな」

 「ラクス様に飯を作らせるな!それよりも、ラ
  クス様の出産予定日は一週間後だ。我々は、
  立ち会えないな」

 「料理に身分は関係ないですよ。仕方がないで
  すね。名前は決めてありますし、あとは無事
  に生まれる事を祈るのみです。母さんもプラ
  ントに上がっているようですし。だから、ヒ
  ルダさんは一人身なんですよ」

 「それは心強いな。というか、飯など作れなく
  ても関係ない!女性に飯を作らせるのは女性
  差別だ!」

 「悪いですけど、俺も一人暮らしをしていたか
  ら作れますよ。一人の人間として、自分の食
  事くらい作れるようにしておけという事です
  。母さんなんて役に立つのかな?って思いま
  すけど」

 「出産時に、女性の人手は重要だ。いてくれる
  だけで、精神的に楽になるものだ。そうか、
  私も練習してみようかな」

俺とヒルダさんの会話には、ラクスが出産する事
と料理論が混じっていて、周りの人間が複雑そう
な表情で聞いていた。

 「カザマが父親ね。それは、おめでとうと言っ
  ておいて、マリューも料理は上手だぞ。バジ
  ルール大佐も同じくらい上手だし」

 「レナ少佐は?」

 「私もちゃんとできるわよ」

 「でもさ。あの年の女性に、手料理を食べに来
  て下さいと言われると、男は少し引くよね。
  焦りみたなものを感じてさ。ちなみに、アイ
  シャは中華料理が得意だ」

 「そうだな。結婚願望をストレートに出し過ぎ
  る女は敬遠されるかもな。ミサオには、(身
  寄りがあなたしかいない)と言われて官舎に
  押し掛けられてしまったからな。当然、家族
  用でもない独身者用の官舎に、女性は不許可
  なので追い出されて、家を買わされてローン
  を組まされてしまった。考えてみると、行き
  当たりばったりの行動を取っているな」

 「計算高い女だな」

 「うーん。そう言われると・・・」

クルーゼ司令とバルトフェルト司令の会話を聞き
ながら、レナ少佐が怒りの表情で二人を睨んでい
たが、歴戦の指揮官である二人は、涼しい表情で
それをかわしていた。

 「(何だよ。意外と仲が良いじゃないか)」

 「そうか。カザマが父親になるか。ちなみに、
  マユラは和食を母さんや姉さんや友達に習っ
  ているそうだ。俺個人としては、ご飯さえ炊
  ければ生きていけると思うんだけど」

石原二佐の言葉は、滅びつつある日本人男性特有
の意見であった。

 「否定はしないけど、貧しい食生活になりそう
  だな。ところで、アスラン、カガリちゃんは
  料理上手くなった?」

 「えっ!カガリですか?えーと、多少はマシに
  なったかも知れませんが・・・」

 「嘘つけ!あれは家畜のエサ以下だ。俺とホー
  三佐とアサギを巻き込みやがって。あの日の
  翌日は、トイレから出られなかったじゃない
  か!」

以前、相当に酷い目に会ったらしく、ハワード三
佐が、アスランに抗議の声をあげた。

 「えっ、俺はそこまで酷くは・・・」

 「お前は耐性が付いているからだ。俺達は次回
  から断れるけど、純真無垢な部下達に毒見を
  させるなよ。あいつらは、純粋に(カガリ様
  の手料理だ。光栄です)ってなるんだから」

 「確かにそうだね。イメージってのがあるから
  、知らない方が良いよね」

 「そんな。ヨシさんまで・・・」

カガリの料理の腕は相変わらずのようで、犠牲者
は拡大の一途を辿っているようだ。 

 「どうせ、お手伝いさんが作るからいいじゃな
  い」

 「ラクスがヨシさんのご飯を作っていると聞い
  て、対抗意識を燃やしたらしいですよ。口に
  は出しませんけど、俺をラクスから奪ったと
  考えているらしくて、せめて料理くらいはと
  、努力はしているのですが・・・」

 「独学で?」

 「ええ」

 「先生役を母さんに頼んでみるよ。プラントか
  ら帰ってきてからになると思うけど、秘密は
  保てるし、レイナとカナの師匠でもあるから
  」

 「あの二人は、料理が上手ですよね。キラや二
  コルに食事に招待された時に、(これが本当
  の料理なんだよな)って感じましたよ。最近
  、トダカ少将とキサカ少将を食事に誘うと、
  逃げるように家に帰ってしまうんですよ」

やはり、歴戦の勇士である二人は、危機を察知し
て逃走を図っているようだ。

 「私は料理が上手よ」

 「だが、年令の問題があるからな。一方はお転
  婆ながら十代のお姫様で、もう一方は、三十
  路が近いオバサンだからな」

 「そうだね。美人とはいえ、結婚を焦っていま
  す感がこうも表面に滲み出ていると、男性と
  しては声を掛けづらい状態だよね」

再び始まった、クルーゼ司令とバルトフェルト司
令の毒舌に、レナ少佐が体を振るわせ始めた。

 「そうでなくても、ジェーン・ヒューストン大
  尉に先を越されて焦ってるからな。あの時の
  気迫の恐ろしい事と言ったら」

 「フラガ少佐、その発言は危険です」

バジルール大佐が、レナ少佐の殺気を感じてフラ
ガ少佐に注意を促すが、フラガ少佐はそれを聞き
流してしまう。

 「やはり、対象物があると焦ってしまうらしい
  な」

 「そうらしいね。アイシャが昔に似たような事
  を言っていた記憶がある。特に、年下に先を
  越されると、焦りが倍増するそうだ」

 「そのジェーン大尉とやらの結婚式は、レナ少
  佐の正念場だな。新郎・新婦の友人や親戚の
  中から、独身者を探すのに必死になるであろ
  うから」

三人のバカ話は次第にエスカレートしていき、そ
れに比例してレナ少佐の機嫌は悪くなっていった

普通ならレナ少佐の殺気に気が付きそうなのだが
、クルーゼ司令がフラガ少佐を、フラガ少佐がク
ルーゼ司令の存在を目の前で感じ続けているので
、あの感覚が麻痺しているでのあった。
臭いトイレに長時間いると、においを感じなくな
る現象と同じ原理である。
更に、ディープな過去と関係がある二人は、俺の
心配をよそに普通に話をしていた。
ひと悶着あるかと思ったのだが、クルーゼ司令は
特に気にする様子もなく、フラガ少佐も昔戦った
しつこかった、元敵軍の司令官くらいの感覚しか
ないようだ。
後で、こっそりと事情を聞いたのだが、先の大戦
で自分の出来損ないのクローンが、兵器として使
い潰されていく様子を見て、自分はまだマシなの
だと感じたのが理由であるようだ。
「人間は環境の生き物」これが、遺伝子で苦労し
たクルーゼ司令の結論であるようだ。

 「やはり、モビルスーツに乗っていると、婚期
  が遅れるのだろうか?」

 「それは、関係ないだろう。アイシャとは、子
  供が生まれたら式を挙げる予定で・・・」

 「ジェーン大尉も、すぐに結婚する予定だから
  な。これは、個人差の問題なんだろうぜ」

 「つまり、レナ少佐はまだ結婚できないと?」

 「まだというか、一生独身の可能性もなきにし
  もあらずだ」

 「そうだな。運命ばかりは、我々にはどうにも
  ・・・」 

 「お話は、まだ続くのかしら?」 

 「既に結論は出たから、もうすぐ終わるだろう
  」

 「へえ、どんな結論?」

 「レナ少佐が、厳しい状況に立たされていると
  いう事かな?」

 「あら、フラガ少佐達も、厳しい立場に立たさ
  れているのよ」

 「それは、どうしてだい?」

 「周りを良く見てごらんなさい」

三人が周りを見渡すと、食堂は無人になっていた

コックすらおらず、全員が危機を察知して逃亡を
図ったようだ。

 「さて、カザマ君と帰るかな」

 「ヒルダと帰ろうかな」

 「バジルール大佐は・・・」

 「先に帰るから、あとはヨロシクだそうよ」

 「何だ、つれないなカザマ君は」

 「ヒルダも帰る時は一言くらい・・・」

 「バジルール大佐も・・・」

 「私が三人に用事があると言ったら、気を使っ
  て退室してくれたのよ」

 「へえ、用事って何だろうね?」

 「僕には無いと思うんだけど・・・」

 「私も記憶にないな・・・」

 「私にはあるのよ!おわかり?」

 「いや、さっきの話は一般論と言うか、部下の
  話を総合して・・・」  

 「アイシャの話を総合しただけで・・・」

 「私はミサオの話を纏めただけだ!」

 「とにかく、そこに座れ!」

 「「「はい・・・」」」


後日、レナ少佐が「砂漠の虎」と「変態仮面」と
「エンデュミオンの鷹」に説教をした話が全艦隊
に広がって、彼女を口説こうとする勇気のある男
性は、いなくなってしまったようであった。


(二月二十一日夜九時、ユーラシア連合軍地中海
 艦隊正規空母「ダンケルク」格納庫内)

 「うーん。大体整備は終わったわね。アヤはど
  う?」

 「終わったわよ。でも、役に立つのかしら?こ
  れ」

二人は、自分達に用意された正規空母の格納庫内
で、ウラル要塞から送られてきた、新型MAの整
備と最終調整を行っていたのだが、このデカブツ
が、どれほどの役に立つのかは予想不能であった

 「おいおい、世の中に絶対に無敵な兵器なんて
  存在しないんだぜ。戦術を考えて使いこなし
  てくれよ」

 「クロードお兄様!」

 「クロード様・・・」

ミリアが元気なのに対して、アヤは小さい声でク
ロードの名前を呼んだ。
アヤは、クロードが様々な情報に通じている事を
知っているので、自分のこのところの不調を、な
じられると思っていたからだ。

 「(アッザム)は、(ザムザザー)の後継機で
  、八基の小型サイクロプス投下装置を積んで
  いる。例のジョシュアに設置されていた装置
  の小型版だな。下部の四本の足から発射して
  、目ぼしい艦を包み込めば、中にいる連中は
  電子レンジの中の卵のように爆発するそうだ
  。有効範囲が直径500メートルなので、使
  い方が難しいが」

 「つまり、(アッザム)で、頭を潰せと言う事
  ?」

 「そうだ。普通にやっていたら勝てないからな
  。負けた時の事は考えているが、わずかな勝
  ちに縋るのも悪くないだろう?」

 「そうね。たまには勝利したいわね」

 「その他の武装だが、連装ビーム砲が上部に四
  基と、各種ビーム機銃が全体にくまなく配置
  されている。アヤと(クライシス)隊で防御
  して、敵艦隊の中心に突入してくれ。第一目
  標は、新国連軍派遣艦隊旗艦(あかぎ)だ」

 「任せてよ」

 「了解です・・・」

クロードの指示に、ミリアは元気良く返事をして
いたが、アヤは元気がないままであった。

 「アヤ様、少しよろしいですか?」

 「はい・・・」

 「クロードお兄様、アヤを口説くの?」

 「なぜ、そういう話になるんだよ?」

 「なんとなく」

 「アホ、仕事の話だ。では、行きましょうか?
  」

 「ええ・・・」

クロードは、アヤを連れて二人きりになれる場所
に出かけてしまう。

 「うーん。怪しいな。アヤに好きな男が登場し
  たから、焦ったのかな?お兄様は」

ミリアは、一人で無駄な想像力を羽ばたかせてい
た。


 「クロード様、お話って何ですか?」

二人は空母の上甲板に上がり、海を眺めながら話
を始める。

 「ディアッカ・エルスマンですが、司令のカザ
  マに隊長の任を解かれました。彼は今、宇宙
  にいます」

 「そうですか。でも、どうして教えてくれたん
  ですか?私は、敵のパイロットと情を通じた
  から、最悪、消されるかと・・・」

 「私の任務の性格上、そう思われても仕方がな
  いですね。でも、ミリア様の唯一の友人でい
  らっしゃるアヤ様を殺せませんよ。それに、 
  彼が戦場にいなければ、敵を討てるのでしょ
  う?特に、仇のカザマは」

 「ええ」

ディアッカと対峙した時は、カザマを討つ事が空
しくなってきたと語ったアヤではあったが、ディ
アッカがいないと聞いたその瞬間に、心に空洞が
できたようで、カザマを討つ事を再び目標に据え
ないと、生きる目的を失ってしまいそうな自分と
、彼を討つ事が本当に正しいのかと考える自分が
せめぎ合う状態になってしまっていた。

 「では、明日はミリア様のために頑張って下さ
  い。私達は外から見守るのが精一杯ですから
  」

 「えっ、それはどういう・・・」

 「我ら二十人は、エミリア様に可愛がられ、ミ
  リア様に兄のように慕われていますが、全員
  がミリア様に恋していると思います。少なく
  とも、私はそうです。これまで手を汚してき
  たのも、彼女を愛するがゆえです。歪んでい
  るとは、自分でも理解しているのですが・・
  ・」

 「えっ、でもクロード様達は・・・」

 「そうです。誰も気持ちを伝えた者はいません
  。いえ、伝えてはいけないのですね。我ら二
  十名は、ミリア様という惑星を回る衛星のよ
  うなものです。近づき過ぎると、重力に引か
  れて落下してしまいますから」

 「でも、気持ちは伝えた方が良いと思います」

 「それは正論ですけど、誰か一人が抜け駆けを
  したら、二十名の輪が崩れてしまう。いや、
  せっかく良好なこの関係を、壊したくないの 
  かも知れません。黙っていれば、兄と慕われ
  る関係を捨てて告白したら、その関係まで壊
  れてしまうのではないかと。全員、各分野で
  も一角の才能を発揮する連中ばかりだし、他
  に愛人を囲っている者も多いのに、告白一つ
  碌にできないへタレばかりなのですよ」

 「そうですか」

 「だから、敵のパイロットにとはいえ、自分の
  気持ちを伝えられたアヤ様が、羨ましいのか
  も知れませんね」

クロードは、海を眺めながらいつもの口調で話を
続けるが、その表情は少し悲しそうであった。

 「ですから、ミリア様を最後まで頼みます」

 「わかりました。私の力の及ぶ限り」

 「それで十分ですよ。さて、戻りましょうか。
  このまま長時間戻らないと、ミリア様にどん
  な想像をされてしまうか」

 「そうですね。私達が付き合っている事にされ
  てしまうかも」

そんな会話をしながら、楽しそうに二人は格納庫
に戻って行ったので、ミリアに妙な疑惑を持たれ
る事になってしまった。 


(二月二十二日午前十二時三十分、「ミネルバ」
 艦内)

予定の時刻まであと一時間となり、「ミネルバ」
以下特殊対応部隊所属の艦艇は、横一列に並び、
その後ろから艦列を整えた派遣艦隊本体が続いて
いた。
敵の地中海艦隊は、ジブラルタルとの距離を保ち
ながら、昨日からの位置を移動していなかった。
敵艦隊は、艦載モビルスーツ隊を発進させてから
、ジブラルタル基地を発進したモビルスーツ隊を
収容して再び発進させる。
そして、スペイン各地の基地に集めた他の国から
の増援モビルスーツ隊を発進させて、ジブラルタ
ル基地に向かわせ、そのモビルスーツ隊は艦隊に
向けて発進をし・・・、という作戦を行うようで
あった。
我々は、予備戦力がなくなるまで敵を叩き続け、
ジブラルタル基地を守る戦力が手薄になってから
、アフリカ大陸側からバルトフェルト司令指揮の
モビルスーツ隊を直接侵攻させる作戦を採ってい
た。
当然、向こうは別働隊に気が付いているので、我
々の艦隊を完全に撃破して、侵攻の意図を挫く腹
のようであった。 

 「さて、状況を報告して貰おうかな」

 「敵艦隊は昨日の位置を動いていません。艦数
  も変化なしです」

 「ジブラルタル基地が、臨戦態勢に移行してい
  るそうです。モビルスーツ隊の発進準備がさ
  れています」

 「予定通りという事かな?」

 「敵もこちらも予定通りのようですね」

クルーゼ司令は、メイリンとバートの報告を聞き
ながら、一人で思案にくれていた。
どうやら、何か心配事があるようである。

 「どうかしましたか?」

 「うむ。常識で考えたら、数に差があるのだか
  ら、このような戦法は仕掛けて来ないと思う
  のだが・・・」

 「そうですね。新兵器でもあるんじゃないんで
  すか?それとも、連中は始めから捨て駒だと
  か」

 「それは斬新な意見だな」

 「そうですか?」

 「新兵器はともかく、捨て駒という意見がだ。
  地中海艦隊を我々の戦力を減らす道具くらい
  しか思っていなければ、一応の辻褄が合うか
  らな」

 「どちらにしても、先の作戦の通りでお願いし
  ますよ。あの部隊を壊滅させるのが第一目的
  です」

 「了解した。三対一だから大丈夫だと思う」

 「こちらもそうですね」

そこまで話したところで、総旗艦である「あかぎ
」から命令が入ってくる。

 「敵艦隊から、モビルスーツ部隊の発進を確認
  。全艦隊モビルスーツ隊を発進させて迎撃せ
  よ」

 「ほーら、出撃命令だ。(ミネルバ)は戦闘隊
  形に移行。コンディションレッド発令。対艦
  ・対モビルスーツ戦闘準備」

 「コンディションレッド発令。対艦・対モビル
  スーツ戦闘準備。ブリッジ遮蔽します」

 「アーサーさん、任せますよ」

 「了解した」

 「コーウェル」

 「何だよ」

 「万が一の時は、(センプウ改)で出てくれ」

 「了解だ」

 「じゃあ、行きましょう。クルーゼ司令」

 「そうだな。行くとするか」

俺達は急いでパイロットスーツに着替えてから、
格納庫に降りて自分の機体に乗り込んだ。

 「イザーク、作戦は打ち合わせた通りだ。シン
  達を率いて、敵モビルスーツ隊を一機でも多
  く粉砕しろ。リーカさんと共同で、ザフト軍
  モビルスーツ隊の指揮も任せるぞ」

 「了解です」

 「(ナイトジャスティス)は大丈夫か?」

 「ディアッカよりも、上手く乗りこなして見せ
  ますよ」

 「そうか。では、頼んだぞ」

ディアッカとイザークが交代してから二週間あま
り、イザークは隊長としての職責を果たし、「ナ
イトジャスティス」の操作にも慣れてきたようだ

シン達にも熱心に指導をしているようだし、ステ
ラとは顔見知りでもある。
ディアッカの代わりは、十分に勤まっていると思
われた。

 「では、全機出撃だ。ヨシヒロ・カザマ(ガブ
  スレイ)出るぞ!」

俺が「ミネルバ」を発進すると、シン達やクルー
ゼ司令がそれに続き、「アマテラス」からは、所
属を変えられてしまったキラの「暁」と「ムラサ
メ」部隊が、「はりま」と「すおう」からは、「
ハヤテ」隊が、「アークエンジェル」と「ミカエ
ル」からは、「ウィンダム」隊と「センプウ改」
部隊が発進し、後方の艦隊からも多数のモビルス
ーツ隊が発艦していた。
更に、後方のザフト軍潜水艦部隊からは、「アッ
シュ」「アビス」「バビ」「センプウ改」「グフ
」が出撃して、飛行不能な「ザク」は、事前にバ
ルトフェルト司令の部隊に合流していた。

 「敵モビルスーツ隊が見えてきたぜ」

 「予てからの作戦通りに、目標の指揮官を討ち
  ます。フラガ少佐、エドワード少佐、行きま
  すよ」

 「了解だ」

 「お任せあれ」

クルーゼ司令とレイは、キラと合流してアヤの抹
殺を目指し、俺とフラガ少佐とエドワード少佐は
、ミリアの抹殺を目指していた。
三対一という圧倒的な戦力で、メンバーも凄腕の
連中を用意したので、ぬかりはないと思われる。
こうして、二月二十二日午後十三時二分に、両軍
のモビルスーツ隊が激突して、戦闘が開始された
のであった。 


 

 

  

  

   

  
(一時間後、ユーラシア連合地中海艦隊正規空母
 「ダンケルク」格納庫内)

敵である、地中海艦隊と交戦を開始してから、一
時間あまりが経過した。
戦況は、数に劣るユーラシア連合軍側が、防戦一
方の展開になっていたが、驚異的な粘りを見せて
、艦隊上空に敵の進入をまだ許していなかった。

 「みんな良く戦うよね。感心してしまうよ」

 「そうね。私達はクーデター政権で、海外には
  正統ユーラシア連合政府や軍があって、合流
  を勧めているのにね」

 「そこが、階級社会が根強く残るヨーロッパ社
  会の欠点なのさ。世界の情勢がわかっていて
  、正統ユーラシア連合を立ち上げた連中は旧
  貴族階級と新富裕層のご子息のエリートさん
  達で、戦っている兵士達は一般庶民の連中が
  多い。クーデター政権は、民衆を騙し搾取す
  るエリート階級やロゴスを処断して、彼らの
  愚かな指導で力を失ったユーラシア連合を再
  び世界に冠する大国に復活させます。と宣伝
  しているからね。実際は、我々が首根っこを
  押さえているから、何もできないんだけどね
  。クーデターに参加した軍人は、アホが多い
  から、事前に準備した事をするのが精一杯だ
  しね。でも、民衆は我々に期待しているので
  、正統ユーラシア連合政府の引き抜き工作は
  上手くいっていない。でも、これで負けると
  、さすがに気が付くかも知れないけど」

 「そうなったら、どうするのですか?」

 「ウラル要塞に戦力を集めて最後の一兵まで戦
  うのみさ。最初からそれが目的なんだから」

 「ヨーロッパ本土では、戦わないのですか?」

 「カウンタークーデターを起こされる危険性が
  強いからね。適当に邪魔をして本格的な戦闘
  は、連中がウラル要塞に押し寄せてからだ。
  一旦、負けが込むと、みんな強い方に鞍替え
  するから」

 「力は正義なりですか・・・」

 「そうそう。ナチスドイツがフランスを占領し
  た時に、フランス国内でレジスタンス運動を
  行っていた連中なんてわずかなものだったの
  さ。みんな生きるために、ドイツ軍に力を貸
  したってわけ。それで、連合軍が迫ってくれ
  ば、連合軍に一気に鞍替えをしたのさ。クー
  デター政権は、初期はスエズ運河の完全占領
  や、中東の数カ国の占領に成功しているから
  、その主張と相まって人気があるし、ミシェ
  ルのマスコミ対策は、見事なものだと思うか
  ら。でも、負けが込み始めたから、ウラル要
  塞に篭るしかないのさ」

ミシェルとは、二十名の中の一人で、マスコミ対
策などを一手に引き受けている男である。
彼は、一流モデルも真っ青という容姿をしていた
が、地道に裏でマスコミ情報の操作をしていた。

 「ウラル山脈は、違うのですか?」

 「あんな険しい山地に、国なんて関係ないだろ
  う。ロシア連邦の力は、構成国の大量離脱と
  先の大戦での戦力の大量喪失で大分衰えてい
  る。だから、こちらの思惑通りに動かすなん
  て簡単なのさ。負け組の連中を纏めてウラル
  要塞に集めて派手に殺しあう。精々、派手な
  花火をあげてやるさ」

格納庫内の「アッザム」のコックピット内で、ク
ロードとミリアとアヤはかなり際どい会話を続け
ていたが、他に誰も聞いているものはいないので
、特に問題はないと思われる。

 「クロード様、ジブラルタルからの第一次の増
  援が到着しました」

 「敵艦隊に向かわせろ!俺達も出るからここで
  勝負を賭ける。二次以降の増援は、次々に投
  入するんだ。修理や補給が必要な機体は急い
  で戦線に戻す事!一時間でいいから、戦力が  
  上回る状態を作って、(アッザム)の突撃を
  成功させる。(ザムザザー)が四機残ってい
  たな?出し惜しみはなしだ。出せるものは全
  部出せ!」

 「かしこまりました」

無線で報告を入れてきた「ダンケルク」の艦長に
命令を出してから、「アッザム」の発進準備を開
始する。

 「アヤ様は、(クライシス)で援護をお願いし
  ます。例の(アル・ダ・フラガ)のデッドコ
  ピーを入手しましたので、五機の(クライシ
  ス)をハイドラグーン搭載機に改良してあり
  ます。これで、(アッザム)を守って下さい
  」

 「わかりました」

 「私はこいつの操縦よね?」

 「ええ、私とクローンコーディネーター兵の三
  人で操作します」

 「クロードお兄様が出撃するの?」

 「何だよ。俺にだって砲台の操作くらいできる
  ぞ」

 「でも、お兄様の任務は・・・」

 「クロード様に万が一の事があると、大変だと
  思うのですが・・・」

 「もう、海外には出られないからな。(うなぎ
  )と呼ばれている俺でも、もう各国を暗躍で
  きないし、各地の情報網や工作員のネットワ
  ークも寸断されつつある。やはり、大国の情
  報部と戦うのは骨が折れるよ。自分でも、よ
  くここまで頑張ったと感心してしまった。だ
  から、俺ができる事なんて、もうないんだよ
  。ヨーロッパの事は、部下に任せてあるし、
  あと二〜三ヶ月でウラル要塞に閉じ込められ
  る運命でもあるからな。俺も何か戦闘に参加
  しないと。それに、裏の汚れ仕事だけでなく
  て、表の華々しいパイロットをやってみたい
  。俺はアラファスが羨ましくてな」

 「お兄様・・・」

 「一応、俺がここでは偉いんだから、命令を聞
  いてくれよ。さて、時間を食ってしまったな
  。(クライシス)隊、(アッザム)(ザムザ
  ザー)隊発進準備!」

クロードの命令で、アヤは「クライシス」に向か
い、アヤとクローン兵が発進準備を開始する。 

 「発進シーケンスに移行します。機関始動、圧
  力正常、戦術コンピューターリンク正常、識
  別装置正常に作動、発進準備完了です」 

 「さーて、敵を派手に吹き飛ばすとするか。全
  機、発進だ!」

 「(クライシス)隊発進します」

 「(ザムザザー)01〜04、発進します」

 「初陣か。ワクワクするぜ!(アッザム)発進
  だ!」

クロード達が全力出撃をした三十分後に、ジブラ
ルタル基地から第二次の増援が到着して、戦況は
佳境を迎える事になるのであった。

  


 

  


 

  


(同時刻、カザマ視点)

 「ちくしょう!あいつらがいない!情報が誤り
  だったのか?」

 「おかしいな。バジルール大佐に、あとで問い
  正さないとな」

 「仕方があるまい。現れるまでは、目前の敵を
  討つべし!」

臨時で小隊を結成した、俺とフラガ少佐とエドワ
ード少佐は、目的の「クライシス」を見つけられ
ずに、「ハイペリオン」や、「ストライクダガー
」の改良機や、ユーラシア連合クーデター軍に提
供されたと思われる、通常の「クライシス」を相
手に戦闘を繰り広げていた。

 「喰らえ!」

俺が、「ガブスレイ」の長距離ビームライフル、
通称「フェーダインライフル」を発射すると、一
機の「ストライクダガー」を貫いていった。
次に、モビルスーツ体型に変形してから、「フェ
ーダインライフル」の先端にビーム刃を展開させ
てから、二機の「ハイペリオン」を立て続けに切
り裂き、再びMA体型に戻る。

 「相変わらず見事な腕前だな」

 「(エンデュミオンの鷹)には勝てませんよ。
  ハイドラグーンも使えないですし」

 「お前には当たらないからな。なんせ、あのサ
  サキ大尉を倒しちまったんだから」 

 「仲間の仇って奴ですか?」

 「正直、裏表があり過ぎて、最後の方では嫌い  
  だったからな。特に、何も感じない。レナ少
  佐は一環して嫌いだったしな」

フラガ少佐は、そんな会話をしつつも、ハイドラ
グーンを展開させて一度に数機のモビルスーツを
落としていった。

 「効率的だね」

 「まあな」

 「ザフト軍には、二人の空間認識能力者がいる
  から良いけど、他国は大変だよな。この一機
  で約十機を足止めできるし」

 「軍縮期の救世主って奴だな。量よりも質。大
  西洋連邦軍は、フラガ少佐に給料を払っても
  、得だと感じていると思うよ」

その時、エドワード少佐が会話に加わってきた。
彼は、「センプウソードスペシャル」で既に数機
のモビルスーツを切り刻んでいたらしく、機体に
オイルがべったりと付いているのが確認できた。

 「大西洋連邦少佐って給料安いんだよね。他国  
  の軍に転職しようかな?」   

 「ザフト軍はもっと安いですよ」

 「南アメリカ合衆国軍はもっと安い。国内の平
  均賃金よりは高額だが、海外に出ると、その
  安さが実感できる。ジェーンに指輪を買って 
  あげたら、無一文になってしまった」

 「幸せだからいいじゃないの」

 「何っ!」

 「どうかしましたか?」

フラガ少佐が何かを感じたらしく、敵艦隊の方を
警戒し始める。

 「ラウ・ル・クルーゼを感じる!」

 「そりゃあ、いますから」

 「違う!こちらでは、あの金髪の坊主君からも
  同じ気配を感じるから二つだが、敵にはもっ
  と多くの反応を感じるんだ」

 「という事は・・・」

 「本命ですね」

 「ターゲットだな」

レイからクルーゼ司令と同じ気配を感じるという
言葉が引っかかったが、俺達は新たに現れるであ
ろう、敵の迎撃に向かう事にする。


 「カザマ君、ムウ・ラ・フラガの気配を感じる
  ぞ!」

 「俺はここにいるからな」

 「君ではないよ。複数の気配を、敵艦隊の方か
  ら感じるのだ」 

 「同じ事を言ってますね」

 「レイもそうだ。気配を感じているらしい」

 「レイ、そうなのか?」

 「ええ、感じますね」

 「しかし、お友達の少ない連中だよな。クロー
  ン兵士とか、薬物で強化したパイロットばか
  り出してきて」

 「みんなで、仲良く悪事を働くってのはどうだ
  ろう?」

 「まあ、それを考慮すると正統な連中なのかな 
  ?」

そんな話をしている間に、驚くほど巨大な物体と
、先の戦闘で戦った事のある「ザムザザー」とい
うMAが見え、その周りを八十機ほどの「クライ
シス」隊が防御していた。

 「本命はあれか!」

 「能力が不明だから、様子を見つつ(クライシ
  ス)から落としていけ!」 

 「お任せあれ!」

 「ササキ大尉の妹を探すぞ!」

 「俺達は、大将だ!」

 「イザーク!」

 「何ですか?」

 「(クライシス)を一機でも多く落せ!シン達
  を前に出してやらせるんだ!」 

クルーゼ司令達はササキ大尉の妹を、俺達はエミ
リアの娘を、残りの敵をイザークとリーカさんが
指揮するザフト軍モビルスーツ隊が討つべく、敵
の新手に突撃を開始するのであった。


 「向こうは、エースクラスばかりだな」

 「アヤだけで大丈夫かしら?」

 「そのための五機の護衛だ。あのデッドコピー
  達は、使い捨てが前提だからな」

「アッザム」のコックピット内で、防御火器を操
作しながら、クロードがミリアに説明をする。

 「でも、ハイドラグーンを使えるんでしょう?
  」

 「(エンデュミオンの鷹)や(黒い死神)や(
  変態仮面)クラスには歯が立たない。それは  
  、三年前にわかっている事実だ。俺達は、廃
  物をリサイクルして有効に使っているに過ぎ
  ん」

アッザムは、接近してくる「グフ」「バビ」「セ
ンプウ改」「ハヤテ」「ムラサメ」などに向けて
、ビーム機銃を乱射していた。
広範囲に大量にまかれたビーム粒子が、多数のモ
ビルスーツを傷つけ、当たり所が悪い機体を爆発
させていた。

 「凄い威力ね」

 「威力はないさ。対人地雷と同じコンセプトの
  兵器でな。損傷させて後退させるのが目的の
  兵器なんだ。損傷した敵が無茶をすると、ほ
  ら」

ビームを被弾して動きが鈍くなっていた「グフ」
が、再度攻撃を仕掛けてくるが、更に多数のビー
ム粒子を喰らって爆発してしまった。

 「お鍋に四本の足が生えているような外見の癖
  にやるわね」

 「新兵器の新規開発は手間が掛かるからな。こ
  いつは、要は飛行している電子レンジのお化
  けなのさ。おっと、(ミネルバ)達が狙って
  きているな。(ザムザザー)隊、陽電子・ビ
  ームリフレクター作動!」

クロードに指示で、「ザムザザー」が陽電子・ビ
ームリフレクターを作動させて、新国連軍がモビ
ルスーツ隊を退避させて行った、陽電子砲攻撃は
失敗に終わる。

 「ちゃんと、手は考えてあるさ。じゃないと、
  (ミネルバ)には勝てないからな」

 「クロード様、第二次の増援が到着しました」

もう一人の乗員である、クローンコーディネータ
ーの報告が入ってくる。
彼は訓練の影響で、余計な事を一切話さないので
、たまに話し掛けられると驚いてしまう事が多々
あった。

 「よし、全機突入だ!(あかぎ)を沈めるぞ!
  」

クロードの命令で、ユーラシア連合軍モビルスー
ツ隊は、全機突入を開始する。
先ほどの避難命令で、陣形に穴が開いた新国連軍
側は対応が遅れ、「ミネルバ」以下の前線の防御
陣に穴が開こうとしていた。


 「全火力開放!目標、敵巨大MA。撃てぃ!」

「ミネルバ」で指揮を執るアーサー副司令は、自
分のミスを自覚していた。
陽電子砲でMAを仕留めようとして、モビルスー
ツ隊を横に退避させたツケが、今巡ってきていた
からだ。
特殊対応部隊所属の各艦で防御腺を張っているが
、それを破られるのは時間の問題であると思われ
る。

 「とにかく、撃ちまくれ!敵を通らせるな!」

アーサー副司令の命令で多数の火器が発射される
が、陽電子砲はもう距離が近すぎて使えず、トリ
スタン・イゾルデ・パルジファルも意外な伏兵に
防がれていた。

 「あの(クライシス)は・・・」

大きいMAに隠れて目立っていなかったが、約半
数の「クライシス」に、大き目の光波シールドが
装備されていて、大型MAへの攻撃を防いでいた

たまに、攻撃を防ぎそこなって爆発する機体もあ
ったが、彼らの目的は順調に達成されているよう
だ。

 「最初から特攻が目的か・・・」

 「駄目です!(ミカエル)と(すおう)の間を
  抜かれます!」

 「何!」

アーサー副司令が横を見ると、大型MAが温存し
ていた連装ビーム砲で、「ミカエル」と「すおう
」と至近距離で撃ち合いをしながら、横をすり抜
けていく様子が見えた。 

 「(ミカエル)被弾。右舷の機関部に直撃。艦
  を着水させるそうです!」

 「(はりま)被弾、左舷機関部を直撃、機関部
  を切り離して着水するようです」

 「ええい!抜かれたか!すぐに追いかけるんだ
  !モビルスーツ隊はどうした?」

 「敵の第二派攻撃隊が到着して、交戦を開始し
  ました。あのデカブツに対応可能なのは、ザ
  フト軍モビルスーツ隊の半数のみです!」

 「ええい!軍勢を二つに分けた事がここまで祟
  るとは・・・。とにかく、クルーゼ総司令と
  カザマ司令に連絡を入れろ!最悪、(ミネル
  バ)をぶつけても敵を阻止する!」

 「えっ、そんな・・・」

 「嘘だろ・・・」

アーサー副司令の、日頃からは想像できない悲壮
な覚悟に、ブリッジのクルーは凍り付いたような
表情を浮かべる。

 「とにかく、追撃開始だ!」

アーサー副司令の命令の元、「ミネルバ」は反転
して、追撃を開始するのであった。


(同時刻、バルトフェルト副総司令視点)

 「ハイネ、ジブラルタルの様子はどうだい?」

 「そろそろ、ネタ切れらしい。今、第三派が出
  ているが、それで限界かな?」

 「僕達の事には気が付いているはずなのに、手
  薄なんだよね。どうしてかな?」

バルトフェルト司令が指揮を執る、ジブラルタル
攻略部隊のモビルスーツには、切り離しが容易な
簡易フライトパックが装着され、参加モビルスー
ツ隊は、アフリカ大陸側からジャンプしてジブラ
ルタルを目指すという、かなり原始的で奇抜なア
イデアが採用されていた。

 「バルトフェルト司令、(あかぎ)から報告だ
  」

部隊の臨時司令室が置かれているテントの中で、
バルトフェルト司令がヒルダから報告を受ける。
なぜかは知らないが、ヒルダ達三人はバルトフェ
ルト司令の参謀のような扱いを受けて、司令室に
同室する事が多くなっていた。

 「何だって?」

 「大型MAを含む、特攻部隊の攻撃を受けて苦
  戦中だってさ」

 「向こうも、奇策に出たな」

 「どうします?」

 「君はどう思う?マーズ君」

 「どうせ、援軍は出せませんから、ジブラルタ
  ル基地を落として、これ以上の援軍を断ちま
  しょう」

 「ヘルベルト君は?」

 「同じ意見ですね」

 「では、攻撃開始だ!ジブラルタル基地を落す
  !全機、出撃だ!」

 「「「了解!」」」

バルトフェルト司令の命令でアフリカ共同体軍、
マダガスカル共和国軍、ザフト軍アフリカ駐留軍
と派遣艦隊からの増援モビルスーツ隊のモビルス
ーツ群に火が入り、海岸線まで移動したあとに、
ジブラルタル基地へのジャンプを開始する。

 「全機、付いて来いよ!」

二百機以上のモビルスーツ隊が一斉に飛び立ち、
ジブラルタル基地に強行着陸しようとする光景は
迫力満点であり、敵の襲撃に恐怖したジブラルタ
ル基地の守備隊が多数のビーム砲や対空火器、ミ
サイルランチャーを発射してそれを阻止しようと
する。
中には、運悪く攻撃を喰らって撃墜されるモビル
スーツもいたが、約九割を超えるモビルスーツ隊
が着陸に成功して、守備部隊のモビルスーツ隊や
戦車、装甲車などと戦闘を開始した。

 「よーし、時間がないぞ!速攻で落せよ」

バルトフェルト司令は、「ガイア」で縦横無尽に
基地内を駆け巡り、苦戦している部隊の援護など
を行いながら、指揮を執っていた。

 「ハイネ!どこにいる?」

 「上を見てくれよ」

 「上か?」

バルトフェルト司令が上空を見ると、第二派攻撃
隊として「ヴィーナス」が攻撃を開始し、ハイネ
隊の面々が上空から攻撃を加えていた。

 「少し早くないかい?それと、高度が高いよ」

 「予定通りなんだけどな。じゃあ、注文の荷物
  を下ろしますよ」

 「ああ、そんなものもあったね」

 「忘れてるんじゃないよ!」

「ヴィーナス」から、三機のモビルスーツが射出
されて、ジブラルタル基地に無事に着陸すると、
驚異的な腕前で敵モビルスーツ隊を粉砕し始める

 「重すぎて簡易飛行パックが付けられなかった
  なんてね。ラミネート装甲機は駄目だね。し
  かも、重モビルスーツだから、余計に性質が
  悪い」

 「女性に重いなんて言うんじゃないよ!」

 「君じゃなくて、(ドム)が重いって言ったん
  だけど・・・」

 「ヒルダ、気にするなよ。最近、体重が増えた
  って言ってただろうが」 

 「そうそう」

 「余計な事を言うんじゃないよ!」

三機の「ドム」は、ギガランチャーで「ハイペリ
オン」隊を粉砕しながら、ジブラルタル基地司令
部に向けて突撃を開始する。

 「ありゃりゃ、手柄を取られてしまうかな?」

 「一番手柄は、ハイネ隊がいただきだ!」

バルトフェルト司令のボヤキに、ハイネ隊の面々
が反論をしながら、上空から敵司令部を目指し始
めた。

 「そうそう。今度の敵はどんなナイフを持って
  いるかな?」

 「神の意思の赴くままに・・・」

 「髪型が崩れるぜ!」

 「筋肉が偏るぜ!」

 「ヴェステンフルス司令、司令部の位置を転送
  します」

 「ザンギエフ!ハイネって呼べって、言っただ
  ろうが!」

 「ハイネ。性格ってのがあるんだから、しょう
  がねえよ」

 「ジャック!お前は、初対面からいきなりハイ
  ネだったろうが!」

 「そこはほら。俺は年上だから」

 「神は言いました。全てのコーディネーターは
  、平等であると・・・」 

 「そう言えば、お前もそうだったな・・・。コ
  ンガ」

 「ハイネ・ヴェステンフルスなんだから、ハイ
  ネで良いだろうが!余計な事を考えると、髪
  型が崩れる」

 「同じく。余計な事を考えると、筋肉が衰える
  」

 「・・・・・・・・・。もう良い。全機突撃だ
  !」

ハイネの命令で、ハイネ隊の全モビルスーツが、
ジブラルタル基地の司令部を落すべく攻撃を開始
する。
ザンギエフとハイネが「グフ」のビームガンで「
ハイペリオン」を粉砕し、ジャックが特別あつら
えのビームナイフで、「ストライクダガー」のコ
ックピットを一突きにして沈黙させたあと、後ろ
から攻撃を仕掛けようとした「クライシス」にビ
ームナイフを投げつけ、そのビームナイフは正確
にコックピットに突き刺さっていた。
更に、コンガとジーナス兄弟は、小隊編成を崩さ
ずに突撃して、敵のモビルスーツ隊の真ん中でビ
ームソードを振るっていた。

 「性格はアレなんだけど、腕は良いんだね・・
  ・」

 「腕の良い美少女パイロットが欲しいです」

 「ハイネ。そんな、カザマ君が好きそうなアニ
  メのような頼みをされてもね」

 「実際にいるじゃないですか!女性パイロット
  が!」

 「数が少ないからね。それに、もし実際に転属
  可能な美人パイロットがいたら、自分のとこ
  ろに回すね。僕はそれなりに偉いから。ペー
  ペー司令官の君には、無理だろうけど」

 「・・・・・・・・・」

 「ハイネ!サボってるじゃねよ!」

 「神は、ハイネの行動を全て見守っていますよ
  」

 「髪型乱すぞ!」

 「筋肉減らすぞ!」

 「ほら、可愛い部下達が呼んでいるよ」

 「こんちくしょーーー!甘酸っぱい青春なんて
  大嫌いだーーー!」

ハイネは意味不明の言葉を叫びながら、敵司令部
に突撃を開始し、邪魔をしてきた二機の「ハイペ
リオン」を瞬時にビームソードで切り裂いた。

 「やれば、できるじゃねえか」

 「神もお褒めになるでしょう」

 「使わなくなったシャンプーをやる」

 「使わなくなったプロテインをやる」

 「いやはや、僕の部下でなくて良かったな」  

こうして、バルトフェルト司令のジブラルタル攻
略作戦は順調に進み、陥落は時間の問題となるの
であった。

 


        


(同時刻、クルーゼ司令視点)

 「ええい!二対一では落せるものも!」

 「邪魔をするなら、死んで貰うよ!」

アヤの抹殺を狙っていた、クルーゼ司令指揮下の
ハイドラグーン小隊は、六機のハイドラグーン搭
載機によって二対一の劣勢に追い込まれていた。

 「ラウ!このままで落せませんよ!」

 「キラ君は?」

 「倍のハイドラグーンですからね。防戦一方で
  す」

 「まずいな。カザマ君に怒られてしまうかも知
  れない」

 「それは、大丈夫です」

 「ほう、なぜかね?」

 「向こうも、討ててませんから」

 「なるほどな」


 


 「ついに見つけた!アズラエル家の紋章の入っ
  た(クライシス)を!喰らえ!」

俺が「ガブスレイ」のフェーダインライフルを発
射すると、「クライシス」は光波シールドを展開
してビーム攻撃を防いでしまったが、動きが鈍く
なった「クライシス」に、フラガ少佐のハイドラ
グーン攻撃が命中して瞬時に爆発してしまう。

 「あれ?こんなに弱かったかな?」

 「本人が乗ってなかったとか?」

 「じゃあ、何に乗ってるの?」

 「あれじゃないの?」

エドワード少佐が指差したのは、例のデカブツM
Aであった。

 「三機であれを落すの?」

 「無理だよな」

 「そりゃあ、無理だ」

 「作戦変更、フラガ少佐はハイドラグーン機を
  落として下さい。俺とエドワード少佐は、味
  方と共同であのデカブツを落とす!」

 「適材適所って事で」

 「あんなにデカイのを、どうやって切り裂くん
  だ?」

 「とにかく、(あかぎ)との距離が縮んでいる
  ので、急いで落とします!」

 「「了解!」」

俺達が例のデカブツに攻撃を開始しようとした瞬
間、デカブツに変化が発生する。

 「何だ?何をしようと言うんだ?」

デカブツの足の部分から何かが発射されて、それ
が一隻の空母の周りに落下したが、爆発などは起
こらなかった。

 「あれは、何だ?」

俺達の疑問は、最高潮に達していた。


(同時刻、クロード視点)

 「(あかぎ)まで時間が掛かりそうだな」

 「とりあえず、試射をしましょうよ。お兄様」

 「そうだな。本命だけを狙って失敗するよりは
  ・・・」

 「正面に見え始めた空母は確か、自衛隊の(し
  ょうかく)だったよな」

 「ええ、艦形照合。自衛隊所属の(ずいかく)
  級航空護衛艦の二番艦です。第二航空護衛艦
  隊旗艦で、指揮官は柳本海将補になっていま
  す」

 「ナンバーツーか。よし、行くぞ!(アッザム
  リーダー)発射。目標は(しょうかく)」

 「目標固定。(アッザムリーダー)発射!」

ミリアが発射スイッチを押すと、「アッザムリー
ダー」が発射され、「しょうかく」の周囲の海面
に落下してから、水面に浮かんだ。

 「(アッザム)の位置を固定します。デュート
  リオンチェンバー起動。目標は海面の(アッ
  ザムリーダー)です」

 「よし、発射だ!」

 「発射!」

「アッザム」の足の部分に搭載された、デュート
リオンチェンバーからデュートリオンビームが照
射されて、それが海面に浮かんだアッザムリーダ
ーに当たると、不思議な低音が発生し始めた。

 「神をも恐れぬ、悪魔の兵器をとくとご覧あれ
  」

クロードは、誰にも聞こえない様にそっと呟くの
であった。


 


(同時刻、「しょうかく」艦内)

「しょうかく」に司令部を置く柳本海将補は、艦
の周りに発射された「アッザムリーダー」の正体
がわからずに、対応に苦慮していた。

 「あれは何なんだ?ソナーなのかな?」

 「特に何の電波も音波も探知されていません」

 「不発の新型ミサイルでしょうか?」

 「電磁チャフか何かでしょうか?」

参謀達と相談をしていると、例のデカブツからデ
ュートリオンビームが照射される。

 「何だ?ビームか?レーザー照準か?」

デュートリオンビームが「アッザムリーダー」に
照射されて、低い振動音を発生し始める。

 「何だ?この音は?」

 「大量の電磁波と赤外線を探知しました!」

 「艦内の温度が上昇中です!」

 「つまり、我々は・・・」

柳本海将補以下「しょうかく」艦内の人員は、体
内の水分が沸騰して即死し、レンジに入れた卵の
ように爆発した。
その後、艦内の可燃物が誘爆して炎上、「しょう
かく」の沈没は避けられないものになっていた。
更に付近にいた艦艇でも、機材の故障などが相次
ぎ、数隻の艦艇が戦線離脱を余儀なくされていた


 「何なんだ!あれは?」

「あかぎ」艦内で報告を受けた山口海将は、今ま
でに聞いた事のないような大声でわめき散らして
いた。

 「多分、先の大戦で使われたサイクロプスを小
  型化した物だと思います。月の(エンデュミ
  オン)クレーターで使われた物です」

 「被害は?」

 「(しょうかく)が大破炎上中ですが、生存者
  がゼロなので、ダメージコントロールができ
  ません。沈没は確定です。更に(おおい)(
  きたかみ)(すみだ)(よど)が、各種機材
  に損傷を受けて戦闘不能です」

 「そうか。柳本が逝ったか。いい奴だったのに
  」

 「そうですね。一番の親友でした」

 「だが、悲しむのはあとだ。当然、次の標的は
  俺達だろうからな。新兵器ゆえに、あと何発
  撃てるかわからないが、もう一発も撃たせて
  はならない」

 「予備機も全てあげます」

 「そうだな・・・」

 「ザフト軍カザマ副総司令より、山口派遣艦隊
  司令長官へ(コレヨリ、ギセイヲカエリミズ
  トツゲキヲカンコウス、セイコウをイノラレ
  タシ)以上です」

 「カザマ君は、賭けに出るか」

 「若者の無事を祈りましょう」

 「そうだな」

山口海将補と加来参謀長は、できる限りの対策を
指示してから、カザマ達の無事を祈るのであった


(同時刻、カザマ視点)

 「これはまさしく、悪魔の所業だな」

爆発を繰り返しながら、漂流を続けている「しょ
うかく」を眺めながら、俺は正直な感想を述べて
いた。

 「カザマ、どうするつもりだ?」

 「時間を掛け過ぎました。一気に落とします」

 「そいつは、賭けだな」

 「このペースでやっていると、もう一発撃たれ
  ますよ」

 「仕方がないか」

 「クルーゼ司令が戻ってきたら、始めましょう  
  」

戦況は、どちらが有利とも言えなかったが、「ク
ライシス」隊は半減し、「ザムザザー」もシンと
ルナマリアとステラの活躍で二機が落とされ、ハ
イドラグーン隊もクルーゼ司令とキラが一機ずつ
落としていたので、残りは四機であったのだが、
クルーゼ司令とレイが補給に戻ってしまったので
、援軍に加わったフラガ少佐とキラが、二機ずつ
を相手にしていた。

 「イザーク生きてるか?」

 「大丈夫ですよ」

 「補給は?」

 「さきほど終えました」

「ナイトジャスティス」でモビルスーツ隊の半数
の指揮を執っていたイザークが、俺の呼びかけに
元気に答えた。

 「悪いけど、命を賭けて貰う」

 「ご指名ですか?」

 「そうだ。俺とイザークとエドワード少佐とシ
  ンで行く」

 「わかりました。お付き合いします」

 「唯一の助っ人外人登場!」

 「俺もですか?」

 「そうだ!あのデカブツに突撃だ!フラガ少佐
  !」

 「何か用か?」

 「ステラとルナを付けてあげるから(ザムザザ
  ー)を落として下さい」 

 「いいよ。美少女と一緒なんて嬉しいね」

 「死んでも、恨まないで下さいね」

 「うんうん。恨まない。恨まない」

 「クルーゼ司令とレイが戻ったら、ハイドラグ
  ーン搭載機を討つように伝えて下さい」

 「そうですね。一対一なら何とか・・・」

キラが二機のハイドラグーン搭載型の「クライシ
ス」を相手にしながら返事をした。
今日は、SEEDが発動していないので、それほ
ど強くはないようだ。

 「じゃあ、行くぞ!ザフト軍モビルスーツ隊の
  諸君!(クライシス)部隊の足を止めろ!」

 「「「了解!」」」

 「我らに神のご加護があらん事を」

 「ヨシさん、キリスト教徒なんですか?」

 「いや、普通にお寺さんの檀家だよ」

 「そうですか・・・」

俺達は、四機でデカブツを討つべく、突撃を敢行
する。
途中で邪魔をする「クライシス」隊は、俺とイザ
ークが排除して、シンとエドワード少佐を後ろの
位置に付けていた。

 「(ザムザザー)は?」

 「フラガ少佐が落としています」

フラガ少佐は、ステラとルナマリアを「ザムザザ
ー」の正面に立たせて気を引かせてから、ハイド
ラグーンで後方から攻撃を仕掛けていた。
すると、「ザムザザー」はあっけなく倒されてし
まう。

 「やはり、多方面からの攻撃に弱いか」

「ザムザザー」隊の全滅で、防御力が弱くなった
デカブツに接近すると、夕立のような勢いのビー
ム機銃が乱射されるが、すでに相当数を破壊され
ているようで、最初ほどの威力を発揮していなか
った。

 「イザーク!」

 「はい!」

イザークは、「ナイトジャスティス」の「ファン
トム01」を背中から発射し、デカブツの連装ビ
ーム砲を破壊してから、内部突入させる。

 「あれ?貫通しませんね」

 「あんなにデカイんだ。無理だ」

俺はそう言いながら、「ファントム01」が飛び
込んだ穴にビームを撃ち込み、奥で止まっていた
「ファントム01」を破壊する。

 「シン、エドワード少佐!」

 「了解!」

 「任せろ!」

二人は、装備していたビームブーメランを投げつ
けてから、シンはビームソードで、エドワード少
佐は対艦刀と超振動波ランスでデカブツを切り刻
み始める。
俺とイザークは、手当たり次第にビーム機銃座を
一つずつ潰していき、「ザムザザー」を撃破した
フラガ少佐とステラとルナマリアも破壊に加わり
、更に傷が広がっていく。

 「よし!全機退避だ!」

デカブツの内部で決定的な爆発が起こり、高度の
維持が困難になって落下を開始したので、俺は全
機に退避を命じた。
今まさに、デカブツの運命が尽きる瞬間であった


  


 「クロード様!ミリア!」

アヤは、補給から戻ったクルーゼ司令との一騎討
ちを再開していたが、「アッザム」の爆発と落下
を目撃して、もはや、それどころではなくなって
いた。 

 「他人の心配より、自分の心配をするんだな」

 「クルーゼ!」

 「頭に血が昇ると!」

クルーゼ司令は補給に戻っていたので、ハイドラ
グーンの補充を行っていたが、アヤは撃ち合って
数を減らしたままだったので、圧倒的に不利であ
った。

 「悪いが、これからの犠牲を減らすために死ん
  で貰う」

 「ここまでか!」

アヤが覚悟を決めた瞬間に、一機のハイドラグー
ン装備の「クライシス」が突撃してきて、「スー
パーフリーダム」の至近距離で自爆した。

 「何!」

 「今だ!」

アヤは、クルーゼ司令の「スーパーフリーダム」
を振り切って、「アッザム」のコックピット部分
に急いで向かう。

 「待て!逃がすか!」

クルーゼ司令は、アヤを追跡しようとするが、「
クライシス」の自爆でそれなりの損傷を受けてい
て、その上目の前には、数機の「クライシス」が
行く手を阻んでいたのだ。
良く見ると、キラやレイも同じような状態で、損
傷した機体を操りながら、数倍の敵と戦う羽目に
になっていた。

 「ふん、ご主人様に忠実なんだな。自爆も辞さ
  ないか」

こうして、クルーゼ司令達は、アヤを見逃す事に
なってしまうのであった。


(同時刻、「アッザム」コックピット内)

「アッザム」という機体を簡単に説明すると、ユ
ーラシア連合がミネルバのような軍艦の建造を計
画し、先に製造されていたレーザー核融合エンジ
ンを中心に乗せて、周りを装甲で覆って砲台を付
けただけの代物であった。
あとで、足の部分に「アッザムリーダー」を八基
搭載し、プラント強硬派から入手したデュートリ
オンビーム発射装置を取り付けてみたらそれなり
の物になっただけなのだ。
当然、防御力が弱いので「ザムザザー」と「クラ
イシス」隊に役割を分担し、綿密に作戦を練って
ここまでの成功を収めたのであった。
費用効率を考えると、正規空母一隻を道連れにで
きたのだから、自分達としては、かなりのお得品
であったと思われる。
エンジンを提供した、ユーラシア連合の損得はど
うだかは知らないが。

 「クロードお兄様!」

決定的なダメージを受け、徐々に高度を下げて行
く「アッザム」のコックピット内は無残な状況に
なっていた。
三人の搭乗員の内、クローンコーディネーターの
体には、多数の破片が突き刺さり、大量の出血で
すでに絶命していた。
そして、クロードは・・・。

 「やあ、ミリアは無事かい?」

 「大丈夫、お兄様は?」

 「ちょっと、辛いな。破片が腹を抉ってね。テ
  ーピングで止めたけど、立ち上がると、腸が
  飛び出すだろうね」

 「お兄様!治療をしないと!」

 「大げさだな。怪我をしたのは俺なんだぜ。そ
  れより、脱出をしなさい。アヤ様をこちらに
  向かわせているから。それにしても幸運だっ
  たな。既に、墜落すると考えられている上に
  、レーザー核融合炉搭載なものだから爆発に
  巻き込まれる事を恐れて誰も近づかない。非
  常にラッキーだ。カザマが敵だったから気が
  付いたのかな?」

 「お兄様!一緒に脱出しましょう!」

 「だから、立つと腸が出てきちゃうんだよ。無
  理無理」

 「でも・・・」

 「ほら迎えに来たよ。早く行きなさい。俺の可
  愛い妹よ・・・」  

「アッザム」の唯一生き残っていたスクリーンに
アヤの「クライシス」が映っていたが、左腕はな
く、ハイドラグーンも全基喪失していて、やっと
飛んでいる有様だった。  

 「残存機に自爆を含む、あらゆる手を尽くして
  時間を稼げと命令しても、アヤ様はあの状態  
  だ。ここで、君達が死んでしまったら、俺の
  死が無意味になってしまうから行ってくれな
  いか?俺の最後のお願いなんだけど・・・」

 「お兄様は、私にお願いなんてした事ないじゃ
  ない!いつも、私がわがままを言って・・・
  」

 「じゃあ、最後にキスでもしてくれよ」

 「えっ!」

 「頬か額で良いぜ。どうせ、ファーストキスも
  まだなんだろう?」

 「お兄様はどうなのよ?」

 「アホ、俺は二十六歳だぞ。色々と経験はある
  んだよ」

 「教えて欲しいわね。その色々の部分を」

 「未成年の女性には話せない中身だからな」

 「もう、子供扱いして!」

 「ははは、時間をかけて良い女になれよ」

 「それは無理でしょうが」

 「そうだったな。早く行きなさい」

 「うん。さようなら、クロードお兄様」

ミリアは、クロードの額にキスをしてから、上部
のハッチを開けて外に出た。
すると、上空で待機していたアヤが、機体を巧み
に操ってミリアを回収する。 

 「ふう、やっと行ったか。ちゃんと事前に教え
  た場所に行けよ。部下がウラルに送ってくれ
  るから」

クロードは、安心したせいなのか?
痛み止めのモルヒネが効いているせいなのか?
意識が半分朦朧とし始めてきた。

 「思い残す事は何もない。ただ、気がかりなの
  はあの事か・・・」

クロードがこの陰謀に加担した理由の一つに、誰
にも語った事はないのだが、復讐というものがあ
った。
勿論、実の母のように接してくれたエミリアへの
親愛と忠誠と恩義が一番の理由であったのだが。
クロードは、二十名の中では一番の年上で、エミ
リアに引き取られた時には、それなりにこの世の
中の事情というものを理解していた。
彼は、コーディネーターの父とナチュラルの母の
間に生まれた。
コーディネーターの父にナチュラルの母が恋をし
て、家族の反対を押し切って駆け落ちをしたとい
う、良くある話であった。
父親の事は良く覚えていないが、なんとなく優し
かった記憶は残っている。
なぜ何となくなのかと言えば、自分が幼い時に事
故で亡くなってしまったからだ。
父の死後、幼いハーフコーディネーターの子供を
抱えて、世間の偏見に耐えられるほど母は強かっ
たわけでもなく、実家に泣きつき、戻りたければ
子供を施設に預けるという条件を受け入れて、自
分は捨てられたのであった。
実は、エミリアに引き取られた直後に、一度だけ
母親の実家の様子を見に行った事があるのだが、
母親はナチュラルの男性と再婚して子供も生まれ
ていた。
覚悟はしていたのだが、子供の自分には悲しい現
実で、自分はその時に復讐を誓ったのかも知れな
い。
幸いにして、自分は汚れ仕事の才能があったらし
く、訓練を重ね、修羅場をくぐって、それなりの
名声を得るようになっていた。
そんな彼の考えた復讐とは、自分が悪人として名
を残す事であった。
多分、自分はエミリア達を入れても、トップ5く
らいの悪人としてランキングされると思うので、
暫く時が経てば、情報が公開されて、自分を生ん
だ母がマスコミや世間に叩かれる事が予想できた

ハーフコーディネータの息子を捨てて、平穏な生
活を取り戻したナチュラルの母が、その息子のせ
いで、更に、肩身が狭い思いをするのだ。
想像するだけで、笑いがこみ上げてくる。

 「多分、歪んでいるんだろうな。もう、どうに
  もならないけどさ」

「アッザム」は完全に戦場を外れてしまい、海面
からギリギリの距離を飛行していた。
もう、海に落ちるのは時間の問題だろう。

 「しかし、この程度では死ねないのか。なら、
  水死するのは苦しそうだからこれで・・・。
  やはり、ミリアに愛していると言うべきだっ
  たのかな?死に行く者の特権だったのにな。
  惜しい事をしたな・・・」

数分後、「アッザム」は海面に落下し、その瞬間
に、コックピット内に銃声が轟いた。
こうして、世界を騒がせた一人のハーフコーディ
ネーターの人生が、終了したのであった。


(同時刻、カザマ視点)

 「降伏はしないというわけか・・・」

 「全滅するまでに、一隻でも多く一機でも多く
  敵を道連れにせよ。だそうだ」

 「悲しい話ですね」

俺達は簡単な修理と補給を済ませたあと、地中海
艦隊に攻撃を加えていた。
本当は、アヤとデカブツを追いたかったのだが、
山口海将に「指揮官たるものは戦略的に動くべし
」と注意されてしまったのだ。
本当は、山口海将の方が止めを刺したかったのだ
ろうが、彼が我慢しているのに、俺が我侭を言う
わけにもいかず、既に、戦力として数えられてい
なかった奴らを放置して、地中海艦隊に攻撃を集
中していたのだ。
地中海艦隊は、ザフト軍水中用モビルスーツ部隊
と潜水艦隊に攻撃を受けていたところに、俺達が
止めを刺しに現れたので、完全に不利になってし
まっていた。
頼みのジブラルタル基地も、バルトフェルト司令
指揮の部隊に攻撃を受け、陥落は時間の問題にな
ったいた。

 「はやく、降伏して欲しいけどね。こんな荒ん
  だ戦いは、戦闘ではなくて虐殺だな」

各国のモビルスーツ隊は、正統ユーラシア連合政
府と軍のお願いによって、小型の艦艇から始末を
行っていた。
大型艦艇は建造と訓練に時間が掛かるから、とい
う至極真っ当な理由ではあったが、イケ好かない
事この上なかった。

 「駆逐艦はあらかた終了かな?」

 「次は巡洋艦か・・・」

護衛のモビルスーツ隊はほぼ全滅し、損傷した艦
艇の対空火器がチョロチョロと発射されている戦
場で、俺達は虐殺を行っていたが、ふと横を見る
と、ジブラルタル基地の方角から火柱が上がって
いた。

 「どういう事だ!」

 「巨大な爆発?」

 「カザマ司令、地中海艦隊が降伏を受理しまし
  た」

 「そういう事か!」

メイリンの報告を聞きながら、俺は大体の事情を
察した。
敵はあくまでも時間稼ぎを行うらしく、地中海の
制海権を取ったとはいえ、ジブラルタル基地があ
れでは、次の作戦までに時間が掛かる事は間違い
なかった。
俺達は、後日死亡情報を聞いたあの男、「うなぎ
」に裏を欠かされ続けたのだ。
こんなに悔しい事はなかった。

 「ちくしょう!次こそは必ず討ち取る!」

俺は覚悟を決めるのであった。


(同時刻、アヤ視点)

 「クロードお兄様が死んだわ」

ミリアはこれだけを語ると、ずっと下を向いたま
まであった。
事前の約束通りの地点では、クロードの部下達が
待っていて、ミリアからクロードに死亡を聞かさ
れると、日頃はクールで感情を出さない部下達が
涙を流していた。
それだけ、彼の死は悲しい事だったのだ。
着替えを済ませ、ロシアへと向かう列車の中で、
ミリアはいきなりこう切り出してきた。

 「カザマはアヤの兄さんの仇だけど、今日から
  は私のお兄様の仇でもある。絶対に討ち取り
  ましょう。彼を討つ事がウラルで滅ぶ私たち
  の生きた証になる」

 「そうね。(ダウンフォール)の調整を完璧に
  済ませて、例の(アル・ダ・フラガコピー)
  の部隊を整えましょう。あの邪魔な連中は、
  コピーに任せて、一対一で奴を討つ!」

 「そうね。忙しくなるわね」

 「ええ(ディアッカ、私の事はもう忘れて。私
  は復讐に残りの運命を賭けるから)」

二人は、列車の中で悲壮な覚悟をするのであった


(同時刻、ハイネ視点)

 「何で爆発するんだよ!」

 「地下に仕掛けてあったらしいな!」

 「味方も巻き添えかよ!」

 「どうせ、降伏しちまうからな」

バルトフェルト司令が、司令部まであと一歩とい
うところまで到着した瞬間に、突然地面から火柱
があがり、敵味方を問わず多数のモビルスーツが
巻き込まれて爆発していった。
いくら、フェイズシフト装甲機でも、高温に長時
間されされれば、内部の機械が故障して動かなく
なり、弾薬や推進剤に誘爆したり、パイロットが
熱で焼死してしまうのだ。

 「まずい!二機一組で仲間を救助しろ!最悪、
  機体は放棄させるんだ!」

 「ハイネ、冴えてるな」

 「神もお喜びになれでしょう」

 「アホ!パイロットさえ生きていれば、モビル
  スーツの補充でなんとかなるんだよ。とっと
  と行くぞ!」

 「「「「「おーーー!」」」」」


 「うーん。これはまずいね。こう中心部だと焼
  死してしまう」

 「冷静に語っている場合じゃないだろうが!」

 「ラミネート装甲は爆発に弱いからな。冷却装
  置もオーバーヒートだし」

 「あーあ。ここで、終わりか」

 「アホ!ラクス様のお子様を見るまでは・・・
  」

 「その前に結婚したいとか言えよ。可愛げがな
  いな」

 「それを言うと負けだ・・・」

 「可愛いところあるじゃないか」

 「うるさい!」

敵の司令部に攻撃を仕掛けていた、バルトフェル
ト司令とヒルダ達は、脱出もままならないままに
、最後の時を迎えようとしていた。

 「バルトフェルト司令!何とかならないかい?
  」

 「そう言われてもね・・・」

 「アイシャが可哀想だろ!」

 「子供と強く生きて欲しいよね」

 「駄目だこりゃ」

ヒルダが呆れていると、上空から救いの手が差し
伸べられた。

 「助けに来たよ」

 「ハイネ!」

 「でも、パイロットだけね」

 「ハイネの(グフ)両手には、多数のパイロッ
  トがしがみ付いていた」

 「気に入ってたのにな。(ガイア)」

 「じゃあ、大好きな(ガイア)と運命を共にす
  るかい?」

 「そこまで、惚れてないから」

 「しっかりしてるね」

結局、ハイネ達とマリア少将達の活躍で、パイロ
ットにそれほどの死傷者は出なかったが、参加戦
力の七割を喪失してしまい、ヨーロッパ開放作戦
は大きな遅れを出す事になるのであった。


(二月二十三日、「ミネルバ」艦内)

翌日、俺はジブラルタル基地の沖に停泊して、書
類の整理を行っていた。
結局、ジブラルタル基地の占領と地中海の制海権
の奪取には成功したのだが、ジブラルタル基地は
爆発してしまって整備に時間が掛かり、艦隊とモ
ビルスーツ隊にも大損害を出していた。
特に、ザフト軍のモビスーツ隊は「クライシス」
部隊との交戦で大きな損害を出していた。
連中は、クローンながらコーディネーターなので
、一般兵士にはかなりの強敵であったからだ。
そんなわけで、俺は損害の報告と詳細な戦闘レポ
ートの作成を行い、コーウェルは細々した雑務を
行い、リーカさんとイザークは、周辺の偵察など
を行い、クルーゼ司令はシン達の訓練を熱心に行
っていた。

 「さて、こんなものかな」

 「早いな」

 「俺も官僚になれるか?」

 「性格的に向いていない。政治家になれ」

 「どっちも嫌だね」

 「じゃあ、聞くなよ」

二人で会話をしていると、アーサーさんが血相を
変えて飛び込んできた。

 「大西洋連邦軍の艦隊とユーラシア連合軍の大
  西洋艦隊が会戦を行ったそうだ」

 「それで、どうなりました?」

 「勝ちは言うまでもないんだけど、大西洋連邦
  軍艦隊は、旗艦「チェスター・ニミッツ」以
  下二隻の正規空母と三十%の艦隊を喪失して
  、司令官のゴーレムー大将が幕僚と共に戦死
  したそうだ」

 「何でですか?向こうは倍以上の戦力があるん
  ですよ。普通に戦ってそんなに損害が出るわ  
  け・・・」

 「あの(デカブツ)が二機も布陣していて、二 
  隻の空母はそれでやられたそうだ。結局、太
  平洋艦隊から助っ人できていたスプルーアン
  ス大将が指揮を立て直して勝利したらしい。
  ユーラシア連合軍艦隊は半数が沈み、四割が
  降伏し、一割が逃亡したそうだ」

 「これで、ヨーロッパ開放作戦は遅れに遅れま
  すね」

 「そういう事だ」

 「あれ?バルトフェルト司令ですか?」

 「そうだよ。君に用事があってね」

 「用事ですか?」

 「そうなんだ。君に新任務があるんだよ」

 「えっ、新任務ですか?戦力とジブラルタル基
  地の建て直しでしょう?」

 「それは、クルーゼにやらせる。奴は君がいる  
  とサボる癖があるからな」

 「それは、否定しませんね。それで、新任務と
  は?」

 「わからないかね?」

 「わかりません」

 「大切な事なんだが・・・」

 「わかりません」

 「だそうだよ。どうする?ヒルダ」

 「コラ!ラクス様の出産を忘れるな!カザマは
  夫だろうが!」

 「でも、プライベートな事ですし、覚悟はして
  いましたから」

 「この際、君の意思はどうでも良いんだよ。ク
  ライン派の僕たちとしては、跡取りの誕生と
  言う大切な出来事でもあるんだ。ラクス嬢が
  無事に出産できるように、君が精神的に支え
  るというわけだ」

 「でも、プライベートで・・・」

 「カナーバ議長とエザリア国防委員長の許可は
  得た。さあ、行くぞ!」

 「えっ!行くって」

俺の両脇にいつの間にかマーズさんとヘルベルト
さんが立っていて、俺は捕まった宇宙人のように
連行されるのであった。


 「このマスドライバーは黒こげなんですけど・
  ・・」

 「大丈夫、壊れていないそうだから」

 「マスドライバーの破壊までは決断できなかっ
  たようだね。敵さんは」

 「シャトルがありませんけど・・・」

 「あれを見たまえ!」

バルトフェルト司令の指差した方向には、巨大な
ブースターが取り付けられた「ガブスレイ」の姿
が見える。

 「えっ、あれであがるんですか?」

 「理論上は大丈夫だから」

 「親父!」

後ろから親父の声が聞こえたので、振り返るとキ
ラ、アスラン、カガリ、レイナ、ハワード三佐、
アサギなどお馴染みのメンバーが揃っていた。

 「お見送りに来ました」

 「お兄さん、ラクスも待っていると思うよ」

 「ここで行かないと一生恨まれますよ。ラクス
  って意外と根に持つタイプなんです」

 「僕がブースターを取り付けたんですよ」

 「いいじゃん。休みなんだから。羨ましいな」

ハワード三佐は、かなり無責任な事を言っていた

 「カザマ、お守りだ。安産祈願と交通安全のを
  な」

 「えっ、どういう事?」

俺の質問に、カガリはソッポを向いてしまう。

 「さあて、出発の時間だよ。カザマ君」

 「いいなーーー。孫に会えて」

 「一緒に行くか?」

 「俺はシャトルが良い」

 「こら!自分が乗れない物に人を乗せるな!」

 「Gが半端じゃないから、コーディネーターじ
  ゃないと無理なんだよ」

その後、俺は無理やり「ガブスレイ」のコックピ
ットに座らされる。

 「カザマ、俺が管制を行うから」

 「ハイネ、経験あるの?」

「ガブスレイ」の無線に管制室からの連絡が入っ
たのだが、その声の主は、なんと、ハイネであっ
た。
 
 「ないけど、人手不足でさ。マニュアルを見な
  がらやるさ」

 「ふざけんな!」

 「発進一分前。面倒くさいから二十秒前」

 「ハイネ、これ貨物用のマニュアルだぜ」

 「カザマ司令に神のご加護を」

 「待てぃ!何か、後ろがおかしな事を言ってい
  るぞ!」

 「気のせい!気のせい!十秒前」

 「新しい整髪料を頼みます」

 「俺は新発売のプロテインを」

 「五秒前」

 「早いぞ!」

 「面倒だから」

 「三・二・一・0.発射!」

 「ハイネぇーーー!覚えてろよーーー!」

俺は物凄いGに体を押し付けられながら宇宙に射
出されたのであった。
ラクスは無事に出産をする事ができるのか?
戦況はどうなって行くのか?
それは、まだ誰にもわからなかった。


         あとがき


次は、ラクス出産編です。
外伝です。


  


 


 
   

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